(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177508
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】昆虫飼育構造体およびその部材、昆虫飼育装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090228
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】316017608
【氏名又は名称】株式会社ENERGY MEET
(71)【出願人】
【識別番号】515333064
【氏名又は名称】太陽グリーンエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 暢人
(72)【発明者】
【氏名】大西 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】荒神 文彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛菜
(57)【要約】
【課題】昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくい飼育が可能な昆虫飼育構造体およびその部材、昆虫飼育装置を提供する。
【解決手段】切頂八面体の辺によって囲まれた複数個の構成単位11が並べて設けられた昆虫飼育構造体1である。構成単位11は、切頂八面体の辺12から切頂八面体の中心側に向けて延びて形成された6個の四角錐台13の台形側面および8個の六角錐台14の台形側面を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切頂八面体の辺によって囲まれた構成単位が複数個並べて設けられた昆虫飼育構造体であって、
前記構成単位は、前記切頂八面体の辺から前記切頂八面体の中心側に向けて延びて形成された6個の四角錐台の台形側面および8個の六角錐台の台形側面を有することを特徴とする昆虫飼育構造体。
【請求項2】
前記構成単位の四角錐台の下底が他の構成単位の四角錐台の下底と対向して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の昆虫飼育構造体。
【請求項3】
前記四角錐台または前記六角錐台における前記上底と前記下底との長さの比が、1:1.3~2.3であることを特徴とする請求項1または2に記載の昆虫飼育構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の昆虫飼育構造体を構成するために用いられる部材であって、
前記昆虫飼育構造体の任意の位置で分割された構造であることを特徴とする部材。
【請求項5】
請求項4に記載の部材を複数組みあわせて構成されていることを特徴とする昆虫飼育構造体。
【請求項6】
請求項1に記載の昆虫飼育構造体、または、請求項5に記載の昆虫飼育構造体を備えることを特徴とする昆虫飼育装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫飼育構造体およびその部材、昆虫飼育構造体を用いた昆虫飼育装置に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な開発目標が重要視されている近年において、世界人口の増加により懸念される食料問題、飢餓問題に対して昆虫食が注目されている。世界人口の動物性タンパク質摂取量の多数を担う既存の畜産業は、膨大なインフラ設備と広大な土地利用に依存していることから将来への増産は不安視されており、また、可食部位が例えば牛の場合は40%程度と高くなく、飼料変換効率も0.04%程度である。昆虫食は、日本においてもイナゴや蜂の子のように従来から行われており、世界的にもバッタやコオロギ、カイコ、ゲンゴロウなどが食されている。昆虫を食料としてみると可食部位は平均80%であり、飼料交換効率は50%と高いため、昆虫は現在または将来の食料問題、飢餓問題を解決し得る有望な食材として期待されている。
【0003】
昆虫食のために昆虫を大量かつ安定的に入手するには、野生の昆虫を捕獲するのでは効率が悪く、昆虫を飼育することが求められる。昆虫のなかでもコオロギは、不完全変態であるため孵化、脱皮のみで成長し管理が容易であり、閉鎖環境、単一環境で飼育できるので、設備を簡便にすることができ、飼育する昆虫として好ましい。昆虫の飼育方法、飼育装置に関して、再生紙で作成された卵トレイを縦方向に敷き詰めた直方体のケース内でコオロギを飼育することが行われている。また近年、大量生産化、飼育効率の高度化を目指して、コオロギの垂直高密度飼育のための飼育装置に関して、切頂八面体のグリッドを充填したフレーム構造の昆虫飼育構造体が本発明者らのうちの一人により提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】オオニシ タクヤ著「動物性タンパク資源である昆虫食のエネルギー的可食性:その量産を目指すデザイン手法」、Keio SFC journal、2017年発行、第17巻、第1号、p.186~207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した切頂八面体のグリッドを充填したフレーム構造の昆虫飼育構造体は、コオロギの行動方向の選択肢を増やし、縄張り争いやストレスの軽減などの回避に役立つことが期待されていた。しかしながら、昆虫の居住数が多いと、縄張り争いのような小競り合いが多く観測され、飼育効率が低下してしまうことが明らかとなった。そこで本発明は昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくい飼育が可能な昆虫飼育構造体およびその部材、昆虫飼育装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくい飼育を実現するため鋭意研究を重ねた結果、本発明の昆虫飼育構造体を完成するに至った。
【0007】
本発明の昆虫飼育構造体は、切頂八面体の辺によって囲まれた構成単位が複数個並べて設けられた昆虫飼育構造体であって、前記構成単位は、前記切頂八面体の辺から前記切頂八面体の中心側に向けて延びて形成された6個の四角錐台の台形側面および8個の六角錐台の台形側面を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の昆虫飼育構造体においては、前記構成単位の四角錐台の下底が他の構成単位の四角錐台の下底と対向して接続されていることが好ましい。また、前記四角錐台または前記六角錐台における前記上底と前記下底との長さの比が、1:1.3~2.3であることが好ましい。
【0009】
本発明の部材は、昆虫飼育構造体を構成するために用いられる部材であって、昆虫飼育構造体の任意の位置で分割された構造であることを特徴とする。ここで、本発明の昆虫飼育構造体は、前記部材を複数組みあわせて構成されている昆虫飼育構造体であってもよい。
本発明の昆虫飼育装置は、本発明の昆虫飼育構造体を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくい飼育が可能な昆虫飼育構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の昆虫飼育構造体の斜視図である。
【
図5】
図1の昆虫飼育構造体の部分拡大断面図である。
【
図6】本発明の別の実施形態の昆虫飼育装置の斜視図である。
【
図7】本発明の昆虫飼育構造体の変形例の平面図である。
【
図13】昆虫飼育構造体を用いた昆虫飼育装置の模式図である。
【
図14】昆虫飼育装置の別の例の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔本発明の実施形態〕
本実施形態の昆虫飼育構造体は、昆虫飼育装置の飼育容器内に収容されて、立体的な飼育空間を提供するものである。本実施形態の昆虫飼育構造体を用いた立体的な飼育空間により、単位空間当たりの昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくい飼育を可能にする。昆虫の居住数が多くても縄張り争いが生じにくいことに加え、食用としての適性の観点から、昆虫としてはコオロギが好適であるが、特に限定されない。
【0013】
以下に、本発明の昆虫飼育構造体の実施形態を、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の昆虫飼育構造体1の斜視図である。
図2は、
図1の昆虫飼育構造体1の正面図である。
図1および
図2に示した昆虫飼育構造体1は、複数個の構成単位11が並べて配置されて3次元の網状の構造となっている。
図1の昆虫飼育構造体1は、構成単位11がX方向、Y方向およびZ方向にそれぞれ3個ずつ配置された合計27個の構成単位11を有している。
図1では、図面の煩雑さを避けるために紙面手前側に位置する構成単位11の内部空間を通して見えるところの奥行側に位置する構成単位11の一部分の記載を省略している。昆虫飼育構造体1の27個の構成単位11を個別に、正面の上段からX方向に11A~11C、次に中段の11D~F、次に下段の11G~11I、次に奥行方向に移って上段からX方向に11J~11L、次に中段の11M~11O、次に下段の11P~11R、更に奥行方向に移って上段からX方向に11S~11U、次に中段の11V~11X、次に下段の11Y、11Z、11αのようにして11A~11αと命名する。
【0014】
図3に構成単位11の斜視図を示す。
図3に示したように、各構成単位11は、切頂八面体の外形を有しており、当該切頂八面体の辺12によって囲まれた部分である。構成単位11は、表面に6個の正方形と8個の正六角形とを有し、単独で空間充填が可能な立体形状である。構成単位11は、6個の四角錐台13および8個の六角錐台14を有しており、
図1、2に示したように、一つの構成単位11と、その構成単位11と隣接する構成単位11とは各々の四角錐台13の下底が対向して互いの辺12と辺12とが接するように接続されている。
【0015】
図3に示したように、構成単位11は、切頂八面体の一つの頂点Pとこれに隣り合う頂点P’とを結ぶ辺12を有しており、この辺12から切頂八面体の中心に向けて延びて形成された四角錐台13の台形側面および六角錐台14の台形側面を有している。
【0016】
構成単位11は、例えば、切頂八面体における一つの正方形の各辺12A、12B、12C、および12Dから、それぞれ切頂八面体の中心方向に延びて形成された四角錐台13Aの台形側面131、132、133、134を有している。四角錐台13Aに限られず、構成単位11は、6個の四角錐台13についてそれぞれ4つの台形側面を有している。なお、
図3に、6つの四角錐台13のうち四角錐台13Aのみを取り出して表している。
【0017】
また、構成単位11は、例えば、切頂八面体における一つの正六角形の各辺12A、12E、12F、12G、12H、および12Iから、それぞれ切頂八面体の中心方向に延びて形成された六角錐台14Aの台形側面141、142、143、144、145、146を有している。六角錐台14Aに限られず、構成単位11は、8個の六角錐台14についてそれぞれ6つの台形側面を有している。なお、
図3に、8つの六角錐台14のうち六角錐台14Aのみを取り出して表している。
【0018】
辺12Aのように切頂八面体における一つの正方形の辺と一つの正六角形の辺とを共有するものは、一つの四角錐台13の一部を構成するとともに、一つの六角錐台14の一部を構成している。例えば、辺12Aを共有する四角錐台13Aの台形側面131と、六角錐台14Aの台形側面141とは、一方の面と他方の面との関係、すなわち、表裏の関係にある。
【0019】
同様に、辺12のうち、切頂八面体における一つの正六角形の辺と別の正六角形の辺とを共有するものは、一つの六角錐台14の一部を構成するとともに、別の六角錐台14の一部を構成している。例えば、辺12Eを共有する一つの六角錐台14Aの台形側面142と、別の六角錐台14の台形側面とは、一方の面と他方の面との関係、すなわち、表裏の関係にある。
【0020】
図3に示したように、構成単位11は、切頂八面体の内部空間として第1空間S1を有している。この第1空間S1は、上述した6個の四角錐台13の上底と、8個の六角錐台14の上底とによって画定された空間である。本実施形態の内部空間S1は、構成単位11の切頂八面体と相似形である。
【0021】
図1、2に示した昆虫飼育構造体1は、一つの構成単位11と、その構成単位11と隣接する構成単位11とが、各々の四角錐台13の下底を対向させて接続されたユニットを備えている。このユニットUの斜視図を
図4に示す。
図4における構成単位11の符号は、
図1に示した昆虫飼育構造体1における各構成単位11の命名法に従っている。このユニットUは、合計8つの構成単位11により構成されており、構成単位11M、11N、11P、11Qと、これら構成単位のY方向側に接続された構成単位11D、11E、11G、11Hとを備えている。
【0022】
なお、ユニットUにおける構成単位11は、一つの昆虫飼育構造体において特定の構成単位11を指すものではなく、複数の構成単位11がそれぞれユニットUを構成することができる。
【0023】
ユニットUは構成単位11内の第1空間S1の他に、対向した2つの四角錐台13で囲まれた第2空間S2と、8個の構成単位11間に形成された空間および六角錐台14の台形側面で囲まれた空間にて構成された第3空間S3とをさらに備えている。以下、これら第2空間S2と第3空間S3について具体的に説明する。まず、
図5に、
図1における昆虫飼育構造体1の構成単位11M、11N、11Pおよび11Qについて、これらの構成単位11よりも紙面手前側に位置する構成単位11D、11E、11Gおよび11Hとの接続部分である四角錐台13の下底で切断した部分拡大断面図を示す。一つの構成単位11Mの四角錐台13Mと、隣り合う構成単位11Nの四角錐台13Nで囲まれた部分には、内部空間として第2空間S2が形成されている。
図5では四角錐台13Mと13Nを一部破断して第2空間S2が図示されている。構成単位11Mの四角錐台13Mと構成単位11Nの四角錐台13Nとの内部ばかりでなく、一つの構成単位11と、これに隣り合う構成単位11とが接続されている2つの四角錐台13の内部にも第2空間S2が形成されている。
【0024】
また、
図5に示したように、昆虫飼育構造体1は、3次元に並べられた構成単位11間に形成された空間および六角錐台14の台形側面で囲まれた空間にて第3空間S3が形成されている。例えば、
図1,5に示したように、構成単位11M、11N、11P、11Qと、これら構成単位の手前側に位置する4つの構成単位11D、11E、11G、11Hとの間で囲まれた空間、および、これら構成単位11の六角錐台14(14M、14N、14P、14Q等)の台形側面で囲まれた空間を合わせた空間として第3空間S3が形成されている。
図5で示した第3空間S3だけでなく、4個の構成単位11が最小の正方形の配置となっている部分と、これらの構成単位11に隣り合う4個の構成単位11との間で囲まれた空間にも第3空間が形成されている。例えば、
図1に示した昆虫飼育構造体1においては、第3空間が8つ形成されている。
【0025】
本実施形態の昆虫飼育構造体1の四角錐台13の台形側面および六角錐台14の台形側面の形状は、四角錐台12の上底の一辺の長さと下底の一辺の長さとの比率、および六角錐台13の上底の一辺の長さと下底の一辺の長さとの比率に基づいて規定することができる。代表的に六角錐台12についての比率で定めると、好ましい割合の範囲は、
図3に示されるように六角錐台12の上底の一辺の長さをL1とし、下底の一辺の長さをL2とすると、L1:L2の比率が1:1.3~2.3である。1.3以上であると、台形側面を十分な大きさの台形壁面にすることができ、昆虫のスムーズな移動が可能になる。一方で2.3以下であると、十分な台形壁面積が確保できるため、昆虫が隠れやすくなり、居住性に優れる。より好ましいL1:L2の比率は1:1.7~2.0である。四角錐台12の上底の一辺の長さと下底の一辺の長さとの比率は、構成単位11の切頂八面体の辺から中心に向かう方向の台形側面131,132,133,134の長さによって決めることができる。また、昆虫の体長(頭部の先端から腹部の先端までの長さ)を仮に20mmのコオロギと想定した場合、上底の一辺の長さL1は、6~11mmであることが好ましく、6~8mmであることがより好ましい。
【0026】
辺12の長さは、一つの構成単位11で一つの長さに統一する必要はなく、構成単位11ごとに、または辺12ごとに適宜調整することができる。一つの辺12の太さ、すなわち、辺12における表面の台形側面と裏面の台形側面との間の厚さは、昆虫飼育構造体として必要な強度などを考慮して適宜な厚さにすることができる。
【0027】
図1~5を用いて説明した本実施形態の昆虫飼育構造体1は、基本的に切頂八面体の規則的な配置により構成されていることから、立体化し易く、昆虫の居住数を高め易い構造を有している。しかも、構成単位11の切頂八面体の中心に向けて延びている四角錐台13の台形側面および六角錐台14の台形側面を有している。これら台形側面の表裏に昆虫が同時に張り付くことができ、また、昆虫同士の可視性を遮断するため、昆虫のストレスを低減することができる。このため、単位空間あたりの昆虫の住居数が多くても縄張り争いを生じにくい飼育が可能となる。
【0028】
また、本実施形態の昆虫飼育構造体1は、第1空間S1、第2空間S2および第3空間S3という、大きさと形状が異なる3種類の空間を有している。これら第1空間S1、第2空間S2および第3空間S3は、飼育する昆虫の習性を利用して、昆虫の飼育に適合した空間として活用することができる。昆虫は、隠れ場所となる空間を好み、広い空間よりも狭い空間を好み、明るい場所よりも暗い場所を好む傾向にある。また、飼育の過程で脱皮したばかりの昆虫は、体が柔らかく、他の昆虫から捕食されやすいので、他の昆虫との接触を避けることが好ましい。特にコオロギの場合は、そのような傾向が強い。
本実施形態の昆虫飼育構造体1は、上述のように大きさの異なる3種類の空間が形成されていることにより、第1空間S1および第2空間S2に比べて広い第3空間S3は、主に移動空間として複数の昆虫のすれ違いなどを可能にする空間を提供して、昆虫の自由な移動を容易にすることができる。また、第1空間S1は、第3空間S3との間に台形側面が介在し、出荷に近い十分な大きさの昆虫が好む相対的に狭い空間を提供して主に休憩、居住空間として昆虫を安定的に飼育することができる。さらに第2空間S2は、出荷に近い十分な大きさの昆虫が出入りし難い、狭い空間を提供して小さい昆虫や脱皮したばかりの昆虫の避難、居住区間にすることで共食いによる収率低下を抑制することができる。
【0029】
比較例として直方体や切頂八面体といった空間充填が可能な多面体の辺のみからなる昆虫飼育構造体では、四角錐台の台形側面や六角錐台の台形側面を有さないため、昆虫同士の可視性が高く、お互いの存在が近くなりやすく、縄張り争いのような小競り合いが多く観察される。これでは、昆虫のストレスも高くなると予想される。よって、昆虫を大量に生産することが困難である。
【0030】
図1に示した昆虫飼育構造体1は、構成単位11をX方向に3個、Y方向に3個、Z方向に3個の合計27個を含む例を示している。もっとも、本発明の昆虫飼育構造体の構成単位の個数は、X方向、Y方向、Z方向において異なっていてもよい。例えば、構成単位11の四角錐台12の下底と別の構成単位11の四角錐台12の下底とを、高さ方向(Z方向)に接続して昆虫飼育構造体1を任意のサイズすることができる。また、
図6に示すように、構成単位11が高さ方向(Z方向)に接続しておらず、X方向とY方向のみに接続された構造の昆虫飼育構造体2でもよい。またその昆虫飼育構造体2の四角錐台が同じく上面に配置されることを条件として、それを縦にして使ってもよい。さらに、昆虫飼育構造体1のサイズを大きくすることにより、昆虫飼育構造体1で飼育可能な昆虫の居住数をさらに増加させることができ、昆虫の生産量を拡大することができる。
【0031】
昆虫飼育構造体1は、例えば、3Dプリンティングにより作製することができる。昆虫飼育構造体1の材質は、3Dプリンティングに用いることができる任意のプラスチックスまたは複合材料を例示することができるが、特定の条件下であれば、金属、木材、紙、ゴム、樹脂、繊維樹脂などでもよい。なお、昆虫飼育構造体1は、3Dプリンティングに限らず、金型成形により作製してもよい。
【0032】
図1に示した昆虫飼育構造体1は、構成単位11があまねく規則的に配置されている例を示しているが、構成単位11の形状を有していない部分を含むものであってもよい。例えば、図示していない棒状の餌や、棒状の水分供給手段を通すための空孔が形成されてる部分を含む形状のものでもよい。また、
図1に示した昆虫飼育構造体1は一つの構成単位11が他の構成単位11と辺12を共有している例をしているが、構成単位の1個または複数個を欠き、一つの構成単位11が他の構成単位11と辺12を共有していない部分を含む例であってもよい。
【0033】
図7に、昆虫飼育構造体の変形例を平面図で示す。
図7における昆虫飼育構造体1Aの構成単位11の符号は、
図1に示した昆虫飼育構造体1における各構成単位11の命名法に従っている。
図7の昆虫飼育構造体1Aは、構成単位11A~11αの合計27個の構成単位を有する点は、
図1に示した昆虫飼育構造体1と共通していて、上方に位置している構成単位11A、11B、11C、11J、11K、11L、11S、11T、11Uが表れている。
図7の昆虫飼育構造体1Aは、平面視で円形の外形を有する、円柱形状を有している。昆虫飼育構造体1Aが円柱形状であるのは、円筒形状の飼育容器に収容されることを想定しているためである。つまり、飼育容器の内部空間に適した形状としている。このように昆虫飼育構造体は、飼育容器に適合した任意の形状とすることができる。
【0034】
図8に、
図7の昆虫飼育構造体1Aを、構成単位11Nの中心を含み、切頂八面体の正方形の頂面と平行な平面で分割した断面図を示す。
図8に示した構成単位の符号は、
図7同様に
図1に示した昆虫飼育構造体1における各構成単位11の命名法に従っている。なお、
図7の昆虫飼育構造体1Aは、
図8の切断面を中心に上下対称の形状である。
【0035】
図8には、各構成単位11における、切頂八面体の中心から底部にかけての下半分の形状が示されている。構成単位11Nは、第1空間S1の奥側に、辺12により形成された四角錐台13を有する。また、一つの構成単位11、例えば構成単位11Mの四角錐台13と別の構成単位、例えば構成単位11Nの四角錐台13とが接続されていて、これらの四角錐台13の内側で第2空間S2が形成されている。
【0036】
次に、昆虫飼育構造体を構成するための部材について説明する。
図1、
図2に示した昆虫飼育構造体1や、
図7に示した昆虫飼育構造体1Aは、昆虫飼育構造体1、1Aが任意の位置で分割された構造を有する複数の部材から構成されるものとすることができる。例えば、
図6に示した複数の構成単位11が平面上に一個の高さでそれぞれ接続されたものを、切頂八面体の正方形の頂面および底面に平行で高さ方向に上下二分割した個々を二つの部材とすることができる。
【0037】
図7に平面図で示した昆虫飼育構造体1A用の部材21、22を、
図9および
図10に斜視図で示す。
図9および
図10の部材21、22は、上述したように、複数の構成単位11が平面上に一個の高さでそれぞれ接続されたものを、切頂八面体の正方形の頂面および底面に平行で切頂八面体の中心を通るように高さ方向に上下二分割してなるものである。
図9の部材21は、平面視では
図7の昆虫飼育構造体1Aの平面図と同じ形状を有している。また、
図10の部材22は、平面視では
図8に示した断面図の切断面が頂面になること以外は同じ形状を有している。
【0038】
部材21と部材22とは、構成単位11の切頂八面体の中心を含む分割面を中心に対称な形状を有している。したがって、部材21と部材22とは互いに反転させただけの同一の形状である。すなわち、昆虫飼育構造体は一種類の部材の複数個を製造し、一つを部材21とし、もう一つを部材22として用いて作製することができる。
部材21と部材22とからなる昆虫飼育構造体1Aは、部材21と部材22とを分離することにより第1空間S1、第2空間S2、第3空間S3を開放させることができるので、昆虫の飼育を終えたときは、分離した部材21と部材22とをそれぞれ振動させることで昆虫を容易に振り落として収穫することができる。また、部材21と部材22の未使用時や保管時には、部材21と部材22とを対向させ、部材21の凸部を、部材22に形成されている凹部に収容するように重ね合わせることで、嵩高を低くして保管することができる。また、昆虫飼育構造体は、一個の部材21と一個の部材22との組み合わせを一対として2対以上の部材21、22を高さ方向に積み上げることにより、所期した高さの昆虫飼育構造体を作製することができる。
【0039】
図11に、部材21を上側に配置し、部材22を下側に配置した一対の部材23の正面図を示す。また
図12に、部材21を下側に配置し、部材22を上側に配置した一対の部材24の正面図を示す。
図11および
図12では、理解を容易にするために部材21、部材22の間に隙間があるが、両者を密着させて隙間がないようにすることができる。また部材21、部材22の寸法精度の如何により部材21と部材22との間に隙間が生じることは許容し得る。
図11では、部材21と部材22とが接したときに形成される第1空間S1及び第2空間S2が示されている。
図11の部材23を2層以上積層することによりユニットUを含む昆虫飼育構造体を構成することができる。また、
図12では、部材21と部材22とが接したときに形成される第3空間S3が示されている。
【0040】
次に、昆虫飼育装置について説明する。本発明の昆虫飼育構造体は、昆虫飼育装置に用いられる。
図13に、昆虫飼育装置の一例として昆虫飼育装置31の模式図を示す。昆虫飼育装置31は、複数の部材21と複数の部材22とが交互に積み重ねられてなる昆虫飼育構造体1Bと、飼育容器32と、飼育容器32に付随する器具とを備える。飼育容器32は、昆虫飼育構造体を収容する筒体33と、筒体33の一方の端部を覆う上蓋34と、筒体33内の他方の端部を覆う底蓋35とを備えている。図示した飼育容器32は、筒体33の長手方向をほぼ鉛直方向である状態で使用する飼育容器の例である。もっとも、飼育容器32を、筒体33の長手方向が水平方向、さらには任意の方向にある状態で使用しても構わない。
【0041】
上蓋34と底蓋35とにより筒体33の両端を、通気口を除いて実質的に塞ぐことで飼育中の昆虫が逃げ出さないようにしている。上蓋34に通気口34aが形成されているとともに、底蓋35に通気口35aが形成されていて、筒体33内の湿度をほぼ一定に保つようにしている。底蓋35には飼育中の昆虫から落下する糞を受け止める受皿35bが設けられ、随時に糞を捨てることができるようにしている。
【0042】
筒体33は図示した例では円筒形状である。筒体33の外形は円筒形状に限られず、筒体33の軸線方向に直交する断面で輪郭が正方形や正六角形であるような角筒形状であってもよい。筒体33は、昆虫飼育構造体1Bを筒体33内に取り付けまたは筒体33内から取り出すのを容易にするために、中心軸線を含む切断面で二分割した構造とすることもできる。筒体33は、飼育中の昆虫の状態を観察できるように透明な材質、例えばガラスやPET等のプラスチックスであることが好ましい。また飼育環境の制御が技術的に安定した場合は、断熱効果を考慮して透明素材に拘る必要は無い。
【0043】
飼育容器32に付随する器具は、給餌器具や給水器具などが挙げられる。給餌器具は、粉末状の餌を筒体33内に供給する器具や、筒体33内に挿入可能に成形された棒状の餌、ゼリー状の餌などがあり、給水器具は、筒体33内に挿入可能な大きさの穴あきホースや、筒体33内に挿入可能に成形された棒状のスポンジなどがある。
【0044】
昆虫飼育装置31の使用方法について説明する。昆虫飼育装置31の飼育容器32内に昆虫飼育構造体1Bを取り付け、適宜に給餌器具や給水器具を取り付け、飼育する昆虫の幼虫を導入して適切な温度、湿度で飼育を行う。随時に糞を処理する。なお、飼育する昆虫の卵を孵卵し所定の大きさの幼虫まで成長させる過程で用いられる飼育装置は、別途に用意する。
昆虫が成虫になるまで飼育したら、飼育容器32から昆虫飼育構造体1Bを取り出し、昆虫飼育構造体1Bから部材21および22に分割し、各部材21,22を振ることで昆虫を振り落として収穫することができる。
【0045】
昆虫飼育装置の別の例を
図14に要部の斜視図で示す。
図14の昆虫飼育装置41は、概略円柱の形状を有する昆虫飼育構造体3と、昆虫飼育構造体3の一方の端部に設けられる機能箱4と、昆虫飼育構造体3の他方の端部に設けられるスペーサ5とを備えている。昆虫飼育構造体3の胴部の周囲には、昆虫飼育構造体を収容する筒体が設けられる。この筒体は、
図13の筒体33と同様の構成とすることができるので重複する説明を省略するとともに、
図14では昆虫飼育構造体3の理解を容易にするために筒体の図示を省略している。筒体の一方の端部に機能箱4が配置され、筒体の他方の端部にスペーサ5が配置される。
昆虫飼育構造体3は、
図3に示した構成単位11の複数個が、各構成単位11の四角錐台の下底が他の構成単位の四角錐台の下底と対向して接続されて全体として円柱形状に構成されたものである。機能箱4は、筒体内の昆虫飼育構造体3に空気を流通させるためのファン、筒体内の温度を調整するヒーター、温度センサ、湿度センサ等のセンサ、撮像装置、給餌装置、給水装置などのうちの少なくとも一種の機能器具を収容し、固定することができる箱である。機能箱4は、蓋4aと容器4bとを備え、容器4bの上面の開口に蓋4aが着脱可能に覆われるようにしている。スペーサ5は、昆虫飼育構造体3と対向する部分に突起5aを有し、この突起5aと昆虫飼育構造体3の一端部とが接することでスペーサ5と昆虫飼育構造体3との間に空隙を形成して空気の流通を良好にしている。
図14は、スペーサ5の上に昆虫飼育構造体3を載置し、昆虫飼育構造体3の上方に機能箱4が配置された使用形態、言い換えれば円柱状の昆虫飼育構造体3の軸線方向が垂直方向である使用形態を示しているが、円柱状の昆虫飼育構造体3の軸線方向が水平方向であるような向きの使用形態であってもよい。
【実施例0046】
図1に示した本発明の昆虫飼育構造体を用いて複数のコオロギを飼育したところ、昆虫飼育構造体の錐台の台形側面の表裏に複数のコオロギが同時に張り付くことが可能となった。よって、単位空間あたりのコオロギ居住数が、台形側面を有さない切頂八面体からなる昆虫飼育構造体を用いた場合と比べて、およそ1.5倍見込めることが明らかとなった。また、錐台の台形側面はコオロギの可視性を遮断するため、入居密度が高くても縄張り争いが生じにくいことが観察され、コオロギの飼育に好適であることが確認された。
それに比べ、台形側面を有さない従来の切頂八面体のフレーム構造からなる昆虫飼育構造体では、コオロギ同士の可視性が高いため、お互いの存在が近くなりやすい。ここでは縄張り争いのような小競り合いが多く観察されるため、コオロギのストレスも高いと予想され、コオロギの居住数を増やすことが困難であった。
以上、昆虫飼育構造体、その部材、昆虫飼育装置を図面に基づいて具体的に説明したが、本発明の昆虫飼育構造体、その部材、昆虫飼育装置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り幾多の変形が可能である。
本発明により昆虫を効率よく飼育することができ、将来的な食料不足に対する解決策の一つとして有望視されている昆虫食のための昆虫の飼育を、産業として実現するために有望な技術である。