(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177523
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】半導体レーザダイオードバー、波長ビーム結合システム、半導体基板の製造方法、半導体レーザダイオードバーの製造方法、及び、半導体基板製造装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20231207BHJP
H01S 5/14 20060101ALI20231207BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01S5/22 610
H01S5/14
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090249
(22)【出願日】2022-06-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、環境省、革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 隆司
(72)【発明者】
【氏名】上田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
【テーマコード(参考)】
5F045
5F173
【Fターム(参考)】
5F045AA04
5F045AB14
5F045AB17
5F045AC08
5F045AC09
5F045AC12
5F045AC15
5F045AC19
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AE29
5F045AF04
5F045AF13
5F045BB16
5F045CA10
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5F045DP15
5F045DP27
5F045DP28
5F045DQ10
5F045EF15
5F045EK07
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5F173AA08
5F173AB46
5F173AD06
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5F173AP05
5F173AP06
5F173AP24
5F173AQ12
5F173AR07
5F173AR14
5F173MF02
5F173MF13
5F173MF28
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】波長ビーム結合システムの発振性能を向上させる半導体レーザダイオードバー、波長ビーム結合システム、半導体基板の製造方法、半導体レーザダイオードバーの製造方法、及び、半導体基板製造装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザダイオードバーは、基板面にオフ角分布を有する窒化物半導体基板と、前記基板面に積層された第1導電型クラッド層、活性層、および、第2導電型クラッド層を含む積層構造体と、前記積層構造体にストライプ状に形成され、導波路方向と直交する配列方向に並べて配置された複数のエミッタと、を備え、前記複数のエミッタから出射されるレーザ光の波長分布は、前記複数のエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光の波長分布と異なる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面にオフ角分布を有する窒化物半導体基板と、
前記基板面に積層された第1導電型クラッド層、活性層、および、第2導電型クラッド層を含む積層構造体と、
前記積層構造体にストライプ状に形成され、導波路方向と直交する配列方向に並べて配置された複数のエミッタと、を備え、
前記複数のエミッタから出射されるレーザ光の波長分布は、前記複数のエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光の波長分布と異なる、
半導体レーザダイオードバー。
【請求項2】
前記複数のエミッタのうち前記配列方向の両端に位置する2つのエミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長差は、前記2つのエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光のゲインピーク波長差よりも小さい、
請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項3】
前記複数のエミッタのうち、前記配列方向の両端に位置する2つのエミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長差は、前記2つのエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光のゲインピーク波長差よりも大きい、
請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項4】
前記2つのエミッタの1つである第1端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長は、前記2つのエミッタの他の1つである第2端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長よりも小さく、
前記オフ角分布に起因して前記第1端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長は、前記オフ角分布に起因して前記第2端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長よりも小さい、
請求項2または3に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項5】
前記2つのエミッタの1つである第1端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長は、前記2つのエミッタの他の1つである第2端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長よりも大きく、
前記オフ角分布に起因して前記第1端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長は、前記オフ角分布に起因して前記第2端エミッタから出射されるレーザ光のゲインピーク波長よりも小さい、
請求項2または3に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項6】
前記複数のエミッタのうち前記配列方向の両端に位置する2つのエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光のゲインピーク波長は、互いに等しい、
請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項7】
前記基板面の各位置において、オフ角は略等しい、
請求項6に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項8】
前記複数のエミッタのうち前記配列方向の両端に位置する2つのエミッタの間の距離をLtとし、前記2つのエミッタから出射されるレーザ光のロック波長差をΔλEC_barとしたとき、下記式を満たす、請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
(ΔλEC_bar+3.2)/Lt≦0.52×10-6
【請求項9】
前記複数のエミッタのうち前記配列方向の両端に位置する2つのエミッタの間の距離をLtとし、前記2つのエミッタから出射されるレーザ光のロック波長差をΔλEC_barとしたとき、下記式を満たす、請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
(ΔλEC_bar+1.2)/Lt≦0.32×10-6
【請求項10】
前記配列方向は、前記窒化物半導体基板のa軸方向と平行である、
請求項1に記載の半導体レーザダイオードバー。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体レーザダイオードバーと、
前記複数のエミッタから出射されたレーザ光を回折する回折格子と、
前記回折格子によって回折されたレーザ光の一部を反射する外部共振ミラーと、を備える
波長ビーム結合システム。
【請求項12】
基板面にオフ角分布を有する窒化物半導体基板上に第1導電型クラッド層を積層し、
前記基板面の一部である第1領域の温度を、前記基板面の他の一部である第2領域の温度よりも高くした状態で、前記第1導電型クラッド層に活性層を積層し、
前記活性層に第2導電型クラッド層を積層する、
ことを含む、半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記第1導電型クラッド層に前記活性層を積層するとき、第1ヒータで前記第1領域を加熱し、第2ヒータで前記第2領域を加熱する、
請求項12に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記窒化物半導体基板上に前記第1導電型クラッド層を積層するとき、前記窒化物半導体基板を自転させ、
前記第1導電型クラッド層に前記活性層を積層するとき、前記窒化物半導体基板の自転を停止させる、
請求項13に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記窒化物半導体基板の裏面の縁部を支持し、かつ、前記裏面に対向し前記裏面との距離が変化する単一のまたは複数の傾斜面を有するトレイに、前記窒化物半導体基板を載置すること、をさらに含み、
前記第1導電型クラッド層に前記活性層を積層するとき、前記傾斜面の前記裏面に近い部分からの輻射熱で前記第1領域を加熱し、前記傾斜面の前記裏面から遠い部分からの輻射熱で前記第2領域を加熱する、
請求項12に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された半導体基板に、ストライプ状に形成され、前記第1領域から前記第2領域に向かう方向に並べて配置された複数のエミッタを形成し、
前記半導体基板から、前記複数のエミッタを有する半導体レーザダイオードバーを切り出す、
ことを含む、半導体レーザダイオードバーの製造方法。
【請求項17】
少なくとも1つの窒化物半導体基板を支持するサセプターと、
前記サセプターを介して前記窒化物半導体基板を加熱する第1ヒータおよび第2ヒータと、
前記サセプターに支持されている前記窒化物半導体基板を自転させる第1回転機構と、
前記窒化物半導体基板の基板面に原料ガスを供給する原料供給装置と、を備える、
半導体基板製造装置。
【請求項18】
前記サセプターは、複数の前記窒化物半導体基板を支持するように構成されており、
前記サセプターに支持されている複数の前記窒化物半導体基板を公転させる第2回転機構をさらに備え、
前記第1ヒータと前記第2ヒータは同心円状に配置されている、
請求項17に記載の半導体基板製造装置。
【請求項19】
前記第1回転機構は、前記原料供給装置によって活性層を形成するための原料が供給されるとき、前記窒化物半導体基板の自転を停止させて、前記窒化物半導体基板の第1領域が前記第1ヒータによって加熱され、前記窒化物半導体基板の第2領域が前記第2ヒータによって加熱されるように、前記窒化物半導体基板を位置決めする、
請求項17又は18に記載の半導体基板製造装置。
【請求項20】
窒化物半導体基板の裏面の縁部を支持し、かつ、前記裏面に対向し前記裏面との距離が変化する単一のまたは複数の傾斜面を有するトレイと、
前記トレイが載置されるサセプターと、
前記サセプターおよび前記トレイを介して前記窒化物半導体基板を加熱するヒータと、
前記トレイに支持されている前記窒化物半導体基板を自転させる第1回転機構と、
前記窒化物半導体基板の基板面に原料ガスを供給する原料供給装置と、を備える、
半導体基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザダイオードバー、波長ビーム結合システム、半導体基板の製造方法、半導体レーザダイオードバーの製造方法、及び、半導体基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、波長が異なる複数のレーザ光を結合することで、高出力のレーザ光を出力する波長ビーム結合(WBC:Wavelength Beam Combining)システムが開示されている。
【0003】
一般に、WBCシステムは、半導体レーザダイオード(LD:Laser diode)バー、回折格子、及び外部共振ミラーを有する。LDバーは、複数のエミッタを有し、各エミッタからレーザ光が出射される。複数のレーザ光は、回折格子において、レーザ光毎に異なる回折角で回折され、外部共振ミラーに向けて出射される。外部共振ミラーに入射したレーザ光の一部は、垂直反射され、回折格子を介してLDバーの各エミッタに戻る。その結果、各エミッタと外部共振ミラーとの間で外部共振(すなわち、レーザ発振)が生じる。一方、外部共振ミラーに入射されたレーザ光の他の一部は、外部共振ミラーを透過し、出力される。
【0004】
このように、WBCシステムは、各エミッタから出射されるレーザ光を、回折格子及び外部共振ミラーにより合成して出力するので、高出力のレーザ光を出力できる。
【0005】
エミッタ毎に異なるロック波長のレーザ光が外部共振ミラーからエミッタに戻る。ロック波長は、エミッタと回折格子との位置関係によって一意に決まる。すなわち、外部共振ミラーとエミッタとの間において、当該エミッタの位置に応じたロック波長でレーザ発振が生じる。
【0006】
エミッタから出射されるレーザ光は、所定の波長分布を有する。所定の波長分布のうちの発光強度のピークを示す波長(いわゆる、ゲインピーク波長)が、ロック波長と大きく相違する場合、レーザ発振が生じなくなる虞がある。WBCシステムから高出力のレーザ光を得るためには、できるだけ多くのエミッタと外部共振ミラーとの間でレーザ発振を生じさせて発振性能を向上させる必要がある。
【0007】
特許文献2には、LDバーの製造時に使用される窒化物半導体基板のオフ角の大きさに応じて、各エミッタにおけるゲインピーク波長が変化することを利用した製造方法が開示されている。特許文献2の製造方法では、複数のエミッタが、窒化物半導体基板のオフ角の主軸方向に沿って配列するように形成することで、各エミッタのゲインピーク波長を、ロック波長に近づけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-106707号公報
【特許文献2】特開2021-177528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
窒化物半導体基板のオフ角分布は、窒化物半導体基板によって様々であり、窒化物半導体基板のオフ角の主軸方向とエミッタの配列方向とを調整するだけでは、各エミッタのゲインピーク波長がロック波長に近づけることができない場合もある。
【0010】
本開示は、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させる半導体レーザダイオードバー、波長ビーム結合システム、半導体基板の製造方法、半導体レーザダイオードバーの製造方法、及び、半導体基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る半導体レーザダイオードバーは、基板面にオフ角分布を有する窒化物半導体基板と、前記基板面に積層された第1導電型クラッド層、活性層、および、第2導電型クラッド層を含む積層構造体と、前記積層構造体にストライプ状に形成され、導波路方向と直交する配列方向に並べて配置された複数のエミッタと、を備え、前記複数のエミッタから出射されるレーザ光の波長分布は、前記複数のエミッタから前記オフ角分布に起因して出射されるレーザ光の波長分布と異なる。
【0012】
本開示の一態様に係る波長ビーム結合システムは、上述の半導体レーザダイオードバーと、前記複数のエミッタから出射されたレーザ光を回折する回折格子と、前記回折格子によって回折されたレーザ光の一部を反射する外部共振ミラーと、を備える。
【0013】
本開示の一態様に係る半導体基板の製造方法は、基板面にオフ角分布を有する窒化物半導体基板上に第1導電型クラッド層を積層し、前記基板面の一部である第1領域の温度を、前記基板面の他の一部である第2領域の温度よりも高くした状態で、前記第1導電型クラッド層に活性層を積層し、前記活性層に第2導電型クラッド層を積層する、ことを含む。
【0014】
本開示の一態様に係る半導体レーザダイオードバーの製造方法は、上述の製造方法によって製造された半導体基板に、ストライプ状に形成され、前記第1領域から前記第2領域に向かう方向に並べて配置された複数のエミッタを形成し、前記半導体基板から、前記複数のエミッタを有する半導体レーザダイオードバーを切り出す、ことを含む。
【0015】
本開示の一態様に係る半導体基板製造装置は、少なくとも1つの窒化物半導体基板を支持するサセプターと、前記サセプターを介して前記窒化物半導体基板を加熱する第1ヒータおよび第2ヒータと、前記サセプターに支持されている前記窒化物半導体基板を自転させる第1回転機構と、前記窒化物半導体基板の基板面に原料ガスを供給する原料供給装置と、を備える。
【0016】
本開示の一態様に係る半導体基板製造装置は、窒化物半導体基板の裏面の縁部を支持し、かつ、前記裏面に対向し前記裏面との距離が変化する単一のまたは複数の傾斜面を有するトレイと、前記トレイが載置されるサセプターと、前記サセプターおよび前記トレイを介して前記窒化物半導体基板を加熱するヒータと、前記トレイに支持されている前記窒化物半導体基板を自転させる第1回転機構と、前記窒化物半導体基板の基板面に原料ガスを供給する原料供給装置と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させる半導体レーザダイオードバー、波長ビーム結合システム、半導体基板の製造方法、半導体レーザダイオードバーの製造方法、及び、半導体基板製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る波長ビーム結合システムの概略図。
【
図2】レーザ光の電流注入発光スペクトルの一例を示す図。
【
図3】ロック波長とゲインピーク波長との関係を示す図。
【
図4】波長ビーム結合システムに搭載される半導体レーザダイオードバーの構成及びゲインピーク波長について説明する図。
【
図5】第1実施形態に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図6】半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図7】半導体レーザダイオードバーの切り出し例を説明する図。
【
図8】実施例に係る半導体基板のゲインピーク波長分布を示す図である。
【
図9】実施例に係る半導体基板のゲインピーク波長分布を示す図である。
【
図10】実施例に係る半導体基板のゲインピーク波長分布を示す図である。
【
図11】実施例に係る半導体基板のゲインピーク波長分布を示す図である。
【
図12】実施例に係る半導体基板のa軸方向の各位置におけるゲインピーク波長を示すグラフ。
【
図13】実施例に係る半導体基板のa軸方向の各位置における波長差に関するパラメータを示すグラフ。
【
図14】第1ウェハの基板面が有するオフ角分布の一例を説明する図。
【
図15】第1ウェハに対する第1加熱制御による効果を説明する図。
【
図16】第1ウェハに対する第2加熱制御による効果を説明する図。
【
図17】第2ウェハの基板面が有するオフ角分布の一例を説明する図。
【
図18】第2ウェハに対する第3加熱制御による効果を説明する図。
【
図19】第2ウェハに対する第4加熱制御による効果を説明する図。
【
図20】第3ウェハの基板面が有するオフ角分布の一例を説明する図。
【
図21】第3ウェハに対する第5加熱制御による効果を説明する図。
【
図22】第3ウェハに対する第6加熱制御による効果を説明する図。
【
図23】第4ウェハの基板面が有するオフ角分布の一例を説明する図。
【
図24】第4ウェハに対する第7加熱制御による効果を説明する図。
【
図25】第4ウェハに対する第8加熱制御による効果を説明する図。
【
図26】第2実施形態に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図27】第2実施形態に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図28】第3実施形態に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図29】第3実施形態に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図30】第4実施形態に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図31】第4実施形態に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図32】変形例1に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図33】変形例1に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図34】変形例2に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図35】変形例2に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図36】変形例3に係る半導体基板製造装置の概略図。
【
図37】変形例3に係る半導体基板製造装置のサセプター近傍を示す平面図。
【
図38】第5実施形態に係る半導体基板製造装置が備えるトレイを示す図。
【
図39】変形例4に係る半導体基板製造装置が備えるトレイを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[第1実施形態]
(WBCシステム)
図1は、第1実施形態に係るWBCシステム1の概略図である。
【0021】
WBCシステム1は、LDバー100、回折格子200、及び、外部共振ミラー300を備えている。WBCシステム1は、LDバー100を複数個備えていてもよい。なお、LDバー100と回折格子との間には、ビームツイスターユニット(BTU:Beam Twister Lens Unit)等の光学レンズ400が設けられてもよい。
【0022】
LDバー100は、レーザーダイオードバーアレイであり、LDバー100には、エミッタ101がストライプ状に複数形成されている。エミッタ101は、導波路方向に延在している。また、複数のエミッタ101は、導波路方向と直交する方向に並べて配置されている。以下、エミッタ101が並ぶ方向を「配列方向」と称す。また、LDバー100における配列方向の両端に位置する2つのエミッタ101のうちの一方端のエミッタ101を「第1端エミッタ」と称し、他方端のエミッタ101を「第2端エミッタ」と称す。
【0023】
電源供給部(不図示)から複数のエミッタ101に電圧が供給されることで、各エミッタ101のレーザ光出射端面からレーザ光が出射される。
【0024】
回折格子200は、複数のエミッタ101から出射されたレーザ光をエミッタ101の位置に応じた所定の回折角でそれぞれ回折し、外部共振ミラー300に向けて出射する。回折格子200は、例えば、
図1に示されているように、反射型回折格子である。なお、回折格子200は、透過型回折格子であってもよい。
【0025】
外部共振ミラー300は、回折格子200によって回折されたレーザ光の一部を反射する。その反射光は、回折格子200を介してLDバー100の各エミッタ101に戻り、LDバー100のレーザ光非出射端面で反射される。このようにして、LDバー100の各エミッタ101と外部共振ミラー300との間で外部共振が生じる。一方、外部共振ミラー300に入射したレーザ光の他の一部は、外部共振ミラーを透過し、出力される。
【0026】
<ロック波長>
LDバー100のエミッタ101から出射されるレーザ光のうち、回折格子200の回折条件を満たし、かつ、外部共振ミラー300によって垂直反射されるレーザ光が、出射元のエミッタ101に戻る。
【0027】
回折格子200の回折条件は、回折格子200の回折溝の周期をd、回折格子200に対するレーザ光の入射角をα、回折格子200に対するレーザ光の出射角をβ、レーザ光の波長をλ、次数をm(mは整数)とすると、下記式(1)で表される。なお、一般には、式(1)において、mが1となるように回折格子200が配置される。
d(sinα+sinβ)=mλ ・・・・・・(1)
【0028】
この回折条件を満たす波長をロック波長と呼ぶ。LDバー100の複数のエミッタ101は、回折格子200との位置関係がそれぞれ異なるので、回折格子200に対して、エミッタ101から出射されるレーザ光が入射する角度(入射角α)はそれぞれ異なる。よって、式(1)に示されているように、ロック波長は、LDバー100のエミッタ101と回折格子200との位置関係によって一意に決まる。
【0029】
エミッタ101に戻ったレーザ光は、LDバー100のレーザ光非出射端面で反射され、対応するエミッタ101から回折格子200に向けて出射される。このようにして、各エミッタ101のレーザ光非出射端面と外部共振ミラー300との間で、各エミッタ101に対応したロック波長でレーザ発振が生じる。
【0030】
<ロック波長差>
次に、LDバー100の配列方向両端に位置するエミッタ101同士のロック波長差(以下、単に「ロック波長差」と称することもある。)ΔλEC_barについて、下記条件(a)-(e)が満たされる場合を例に説明する。
(a)回折格子200に、1mm当たり溝が3000本形成されている。すなわち、回折格子の溝周期dは0.333μm。
(b)各エミッタ101から出射されるレーザ光のピーク波長は、400nm以上、500nm以下の範囲内。
(c)複数のエミッタ101のうち、配列方向における中央部に位置するエミッタ101から出射されるレーザ光の入射角が45°となるように、LDバー100が配置される。
(d)LDバー100の配列方向における両端に位置するエミッタ101間距離は10mm。
(e)LDバー100と回折格子200との間の距離は2.6m。
【0031】
条件(a)-(e)が満たされる場合、配列方向両端に位置するエミッタ101同士のロック波長差ΔλEC_barは、約1.0nmと計算される。
【0032】
また、条件(e)に代えて、LDバー100と回折格子200との間の距離が、1.3mであるという条件が満たされ、かつ、条件(a)-(d)が満たされる場合、ロック波長差ΔλEC_barは、約2.0nmと計算される。
【0033】
つまり、LDバー100の構成が同じであれば、LDバー100と回折格子200との間の距離に応じて、ロック波長差ΔλEC_barは変化する。
【0034】
<レーザ発振可能な波長域>
次に、レーザ発振可能な波長について説明する。
【0035】
エミッタ101から出射される光のうち、レーザ発振することができる光は、レーザ光の自然放射増幅光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)の発光強度が所定強度以上となる波長の光である。この所定強度以上の発光強度となる波長の範囲は、レーザ発振前における電流注入発光(EL:Electro-luminescence)スペクトルをASEスペクトルとみなせば、ELスペクトルに基づいて見積もることができる。
【0036】
図2は、LDバー100の一つのエミッタ101から出射されたレーザ光のELスペクトルの一例を示す図である。
図2において、横軸は波長であり、縦軸は発光強度である。
【0037】
ELスペクトルは、概ね正規分布に近い形状を有し、発光強度が最大となるピーク波長に対して概ね左右対称な形状を有している。なお、ASEスペクトルにおけるピーク強度を示す波長がゲインピーク波長であるので、ELスペクトルのピーク波長は、ゲインピーク波長に対応する。
【0038】
発光強度がピーク強度の約80%以上となる波長は、レーザ発振可能な波長である。例えば、LDバー100が、GaN系半導体発光素子であり、かつ、バンド端発光によりレーザ光を発光する場合、ELスペクトルにおいて、ピーク強度の80%以上の発光強度となる波長幅は3.2nmである。言い換えると、発振可能な波長域は、ゲインピーク波長の±1.6nmの範囲である。
【0039】
なお、同じ条件で、ピーク強度の90%以上の発光強度となる波長幅は1.2nmである。この波長幅で規定される波長範囲、すなわち、ゲインピーク波長の±0.6nmの範囲では、レーザ発振が可能なだけでなく、レーザ発振により、より高強度のレーザ光が得られる。
【0040】
<ロック波長とゲインピーク波長との関係>
図3は、ロック波長とゲインピーク波長との関係を示す図である。縦軸は波長であり、横軸は、エミッタ101の配列方向に平行な軸上の位置(当該軸上の所定の一点からの距離)である。横軸に示される1および38の数字は、一方端から数えたときのエミッタ101の並び順を示す番号である。つまり、第1端エミッタが1番目のエミッタ101であり、第2端エミッタが38番目のエミッタ101である。また、Ltは、複数のエミッタ101のうち配列方向両端に位置するエミッタ101間の距離、つまり、1番目のエミッタ101と38番目のエミッタ101の間の距離である。R80は、ASEスペクトルにおいて、ゲインピーク波長の発光強度の80%以上の強度を示す波長範囲であり、R90は、ASEスペクトルにおいて、ゲインピーク波長の発光強度の90%以上の強度を示す波長範囲である。
【0041】
配列方向における各位置において、ゲインピーク波長とロック波長との差を小さくすることで、LDバー100の複数のエミッタ101の中で、レーザ発振可能なエミッタ101の数を増やすことができる。
【0042】
ロック波長を示すロック波長直線が、全範囲にわたり、波長範囲R80に収まる場合、LDバー100のすべてのエミッタ101においてレーザ発振が生じる。また、波長範囲R90は、波長範囲R80よりも発光強度が強い範囲であるので、ロック波長直線が波長範囲R90に収まることで、好ましい条件下でレーザ発振され、より高強度のレーザ光が得られる。
【0043】
配列方向における各位置において、ゲインピーク波長とロック波長との差を無くす、すなわち、ゲインピーク波長を示すゲインピーク波長直線と、ロック波長直線とを一致させることがさらに好ましい。
【0044】
<レーザ発振可能な波長差>
次に、レーザ発振可能な波長差Δλ_o及びWBCシステム1に対するLDバー100の配置条件について説明する。なお、レーザ発振可能な波長差とは、1つのLDバー100が有する全てのエミッタ101からレーザ光が発振される場合における最大波長と最小波長との差である。換言すれば、波長範囲R80または波長範囲R90における、最大波長と最小波長との差である。
【0045】
レーザ発振可能な波長差Δλ_oは、下記式(2.1)で表すことができる。
Δλ_o=ΔλEC_bar+3.2 ・・・・・・(2.1)
【0046】
よって、ロック波長差ΔλEC_barが2.0nm以下である場合、下記式(2.2)、すなわち下記式(2.3)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、すべてのエミッタ101において、レーザ発振が生じる。
Δλ_o=ΔλEC_bar+3.2≦2.0+3.2 ・・・・・・(2.2)
Δλ_o=ΔλEC_bar+3.2≦5.2 ・・・・・・(2.3)
【0047】
配列方向における単位長さ(1mm(=1×106nm))当たりのレーザ発振可能な波長差Δλ_o/Ltは、下記(3.1)式を満たす。
Δλ_o/Lt=5.2/Lt ・・・・・・(3.1)
【0048】
よって、LDバー100の配列方向両端に位置するエミッタ101間距離Ltが10mmすなわち10×106nmである場合、下記式(3.2)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、各エミッタ101において、レーザ発振が生じる。
Δλ_o/Lt≦0.52×10-6 ・・・・・・(3.2)
【0049】
以上、まとめると、下記式(4)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、各エミッタ101において、レーザ発振が生じる。
(ΔλEC_bar+3.2)/Lt≦0.52×10-6 ・・・・・・(4)
【0050】
次に、ロック波長が波長範囲R90に収まる場合における、レーザ発振可能な波長差Δλ_ob及びWBCシステム1に対するLDバー100の配置条件を説明する。
【0051】
ロック波長が波長範囲R90に収まる場合における、レーザ発振可能な波長差Δλ_obは、下記式(5.1)で表すことができる。
Δλ_ob=ΔλEC_bar+1.2 ・・・・・・(5.1)
【0052】
よって、ロック波長差ΔλEC_barが2.0nm以下である場合、下記式(5.2)、すなわち下記式(5.3)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、すべてのエミッタ101において、ロック波長が波長範囲R90に収まるようにレーザ発振が生じる。
Δλ_ob=ΔλEC_bar+1.2≦2.0+1.2 ・・・・・・(5.2)
Δλ_ob=ΔλEC_bar+1.2≦3.2 ・・・・・・(5.3)
【0053】
配列方向における単位長さ当たり(1mm(=1×106nm))のレーザ発振可能な波長差Δλ_ob/Ltは、下記(6.1)式を満たす。
Δλ_ob/Lt=3.2/Lt ・・・・・・(6.1)
【0054】
よって、LDバー100の配列方向両端に位置するエミッタ101間距離Ltが10mmすなわち10×106nmである場合、下記式(6.2)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、各エミッタ101において、ロック波長が波長範囲R90に収まるようにレーザ発振が生じる。
Δλ_ob/Lt≦0.32×10-6 ・・・・・・(6.2)
【0055】
以上、まとめると、下記式(7)を満たすように、LDバー100を、WBCシステム1に配置することで、各エミッタ101において、ロック波長が波長範囲R90に収まるように、つまり、より高強度でレーザ発振が生じる。
(ΔλEC_bar+1.2)/Lt≦0.32×10-6 ・・・・・・(7)
【0056】
(LDバー)
図4は、WBCシステム1に搭載されるLDバー100の構成及びゲインピーク波長について説明する図である。
図4の下部には、LDバー100の断面図が示されており、上部には、配列方向における位置毎のゲインピーク波長が示されている。
【0057】
LDバー100は、基板部10、n側半導体層20、発光層30、p側半導体層40、p側電極50、誘電体層60、パッド電極70、及び、n側電極80を備えている。
【0058】
基板部10は、例えば、n型のGaN基板である。より具体的には、基板部10は、(0001)面を主面とするn型六方晶GaN基板である。
【0059】
n側半導体層20は、基板部10上に積層されている第1導電型クラッド層である。n側半導体層20は、例えば、SiがドープされたAlGaNで形成されているn型のクラッド層である。
【0060】
発光層30は、n側光ガイド層31、活性層32、及び、p側光ガイド層33がこの順に積層されて構成された積層構造を有する。
【0061】
n側光ガイド層31は、例えば、n型GaNで形成されている。n型GaNは、例えば、GaNにSiがドープされて形成されている。
【0062】
活性層32は、量子井戸層と障壁層とを有し、量子井戸層が障壁層で挟まれて形成されている。なお、活性層32は、量子井戸層を1つのみ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0063】
量子井戸層及び障壁層は、InGaNで形成されている。量子井戸層は、例えば、In0.06Ga0.94Nで形成され、障壁層は、例えば、In0.02Ga0.98Nで形成されている。
【0064】
p側光ガイド層33は、例えば、p型GaNで形成されている。p型GaNは、例えば、GaNにMgがドープされて形成されている。
【0065】
p側半導体層40は、P型電子障壁層41、p側クラッド層42、及び、p側コンタクト層43が積層された構造を有している。
【0066】
P型電子障壁層41は、例えば、p型Al0.35Ga0.65Nで形成されている。p型Al0.35Ga0.65Nは、例えば、Al0.35Ga0.65NにMgがドープされて形成されている。
【0067】
p側クラッド層42は、第2導電型クラッド層であり、例えば、p型AlGaN層とp型GaN層との組を所定周期繰り返し積層して形成された歪超格子で構成されている。なお、p側クラッド層42は、AlGaNにMgがドープされたAlGaN層で構成されていてもよい。以下の説明では、p側クラッド層42が、AlGaNにMgがドープされたAlGaN層で構成されているとして説明する。
【0068】
p側クラッド層42には、ストライプ状に複数のリッジ部が形成されている。リッジ部は、p側電極50に向かって突出するとともに共振器長方向(
図4における奥行き方向)に延在している。リッジ部の直下の部分が、エミッタ101を構成する。
【0069】
p側クラッド層42には、例えば、38本のリッジ部が形成されており、配列方向における両端に位置するリッジ部間の距離は、10mmである。リッジ部の共振器長(長手方向寸法)は、例えば、1300μmである。
【0070】
p側コンタクト層43は、例えば、MgがドープされたGaN層で形成されている。
【0071】
p側電極50は、例えば、ITO、In2O3、又は、ZnOなど、p側コンタクト層43とオーミック接触する透明導電酸化物材料もしくはパラジウム(Pd)、白金(Pt)もしくはPd/Ptの積層構造で形成されている。
【0072】
誘電体層60は、p側半導体層40を覆う絶縁層である。誘電体層60は、低屈折率材料は、例えば、SiO2で形成されている。
【0073】
パッド電極70は、p側電極50及び誘電体層60を覆っている。パッド電極70は、例えば、Ti、Ni、Pt、または、Auなどの金属材料で形成されている。
【0074】
n側電極80は、基板部10の裏面に配置され、基板部10とオーミック接触するオーミック電極である。n側電極80は、例えば、Ti層、Pt層およびAu層で構成された積層構造を有する。
【0075】
活性層32と基板部10との間に積層される層によって、第1導電型クラッド層が構成される。また活性層32を挟んで第1導電型クラッド層とは逆側に積層される層によって、第2導電型クラッド層が構成される。第1導電型クラッド層は、例えば、n側半導体層20およびn側光ガイド層31を含んでもよい。また、第2導電型クラッド層は、例えば、p側光ガイド層33、P型電子障壁層41およびp側クラッド層42を含んでもよい。第1導電型クラッド層、活性層32、および、第2導電型クラッド層は、積層構造体を構成する。
【0076】
LDバー100の各エミッタ101におけるゲインピーク波長は、
図4の上部に例示されているように、配列方向の一端から他端にかけて徐々に大きく又は小さくなることが望ましい。なお、本実施形態のLDバー100において、第1端エミッタと第2端エミッタとの間のゲインピーク波長差(以下、単に「ゲインピーク波長差」と称することもある。)は、5.2nm以下であり、望ましくは3.2nm以下である。ゲインピーク波長差が5.2nm以下であることで、WBCシステム1に搭載したとき、LDバー100のすべてのエミッタ101において、レーザ発振可能となる。ゲインピーク波長差が3.2nm以下であることで、WBCシステム1に搭載したとき、LDバー100のすべてのエミッタ101において、より高強度でレーザ発振可能となる。
【0077】
(半導体基板製造装置)
まず、本実施形態に係る半導体基板製造装置500の概略を説明する。なお、本明細書では、右手系直交座標を使用して説明する。X軸及びY軸は水平に延在する。Z軸は鉛直方向上向きを正として、鉛直に延在する。
【0078】
図5は、本実施形態に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図6は、半導体基板製造装置500のサセプター503(後述)近傍を示す平面図である。
【0079】
半導体基板製造装置500は、窒化物半導体基板(以下、単に「ウェハ」と称す。)Wの基板面Ws上に層を形成することで、LDバー100の製造に用いられる半導体基板を製造する装置である。半導体基板製造装置500は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、ウェハWの基板面Wsに層をエピタキシャル成長させる。
【0080】
半導体基板製造装置500は、原料供給装置501、フローチャネル502、サセプター503、ヒータ504、505、及び、制御部(不図示)を備えている。
【0081】
原料供給装置501は、制御部による制御の下、フローチャネル502内のウェハWの基板面Wsに向けて、半導体基板の製造に必要なガスを供給する。例えば、原料供給装置501は、フローチャネル502内の下段流路、中段流路、及び、上段流路を介して、それぞれ、第1原料含有ガスG1、第2原料含有ガスG2及び押えガスG3を供給する。また、フローチャネル502からは排気ガスG4が排出される。フローチャネル502は例えば石英で形成されている。
【0082】
第1原料含有ガスG1には、N(窒素)の原料となるNH3(アンモニア)ガスが含まれている。
【0083】
第2原料含有ガスG2には、有機金属ガスが含まれる。有機金属ガスは、製造工程に応じて異なり、例えば、Ga(ガリウム)の原料となるガス、In(インジウム)の原料となるガス、及び、Al(アルミニウム)の原料となるガスである。
【0084】
Ga(ガリウム)の原料となるガスは、例えば、TMG(トリメチルガリウム)ガスまたはTEG(トリエチルガリウム)ガスである。In(インジウム)の原料となるガスは、例えば、TMI(トリメチルインジウム)ガスである。Al(アルミニウム)の原料となるガスは、TMA(トリメチルアルミニウム)ガスである。
【0085】
第2原料ガスには、必要に応じて不純物の原料を含有する不純物ガスが含まれてもよい。不純物ガスは、例えば、n型不純物であるSi(シリコン)の原料となるガス、または、p型不純物であるMgの原料であるガスである。
【0086】
Si(シリコン)の原料となるガスは、例えば、SiH4(モノシラン)ガスである。Mgの原料となるガスは、例えば、Cp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)ガスである。
【0087】
原料供給装置501は、第1原料含有ガスG1及び第2原料含有ガスG2とともに、輸送ガスを、下段流路及び中段流路を介して供給する。輸送ガスは、第1原料含有ガスG1及び第2原料含有ガスG2を、ウェハWに向けて円滑に輸送するためのガスである。本実施形態では、形成する層に応じて、輸送ガスとして、H2(水素)、N2(窒素)、及び、H2(水素)とN2(窒素)との混合ガスのいずれかが用いられる。
【0088】
押えガスG3は、例えば、NH3(アンモニア)ガス、及び、N2(窒素)の混合ガスである。原料含有ガスG1及びG2は、基板面Ws付近の熱対流を受けて基板面Wsから遠ざけられてしまう。押えガスG3がフローチャネル502内の上段流路を介して供給されることで、原料含有ガスG1及びG2を基板面Ws近傍に留めることができる。
【0089】
サセプター503は、例えば、SiCコートが施されたグラファイトで形成されている。サセプター503は、ウェハWが載置される載置台であり、載置されたウェハWを裏面側から支持する。サセプター503は、第1回転機構を備えている。
【0090】
第1回転機構は、例えば、サーボモーターであり、制御部による制御の下、ウェハWの自転及び自転の停止を行う。また、第1回転機構は、ウェハWの自転を停止する際、ヒータ504、505に対してウェハWが所定の向きとなるように、位置決めする。半導体基板製造装置500は、さらに、ウェハWの向きを検出する回転停止位置センサを有していてもよい。これにより、第1回転機構は、サセプター503に載置されるウェハWが交換されても、常に同じ向きにウェハWを位置決めすることができる。
【0091】
ヒータ504、505は、それぞれ、サセプター503のX軸方向の後端側領域の直下、及び、X軸方向の前端側領域の直下に配置されている。よって、ヒータ504、505は、それぞれ、サセプター503のX軸方向の後端側領域、及び、前端側領域を介して、ウェハWの基板面Wsを加熱する。ヒータ504、505は、制御部によって個別に出力が制御される。
【0092】
制御部は、半導体基板製造装置500の全体制御を行う。
【0093】
(半導体基板の製造方法)
本実施形態に係る半導体基板の製造方法について説明する。
【0094】
まず、ウェハWを準備する。例えば、このウェハWは、下記条件(f)-(h)を満たす。
(f)直径約50mm(2インチφ)
(g)オリエンテーション・フラットがa軸方向に沿って形成されている。
(h)基板面Wsにおけるオフ角の主軸方向は、a軸方向と反対向きである。
なお、(g)のオリエンテーション・フラットがm軸方向に沿って形成されている場合は、(h)の基板面Wsにおけるオフ角の主軸方向は、m軸方向と反対向きとする。
【0095】
なお、オフ角の主軸方向とは、基板面Wsにおいて、オフ角が小さい領域から大きい領域に向かう方向のことである。
【0096】
なお、ウェハWとして、例えば、約76mm(3インチφ)、または、約102mm(4インチφ)のウェハ等、直径が50mmよりも大きいウェハが使用されてもよい。
【0097】
なお、基板面Wsに対して、第1領域R1及び第2領域R2が設定されている。例えば、a軸方向に沿って第2領域及び第1領域がこの順に配列されるように設定される(
図6参照)。この場合、第1領域R1におけるオフ角は、第2領域R2におけるオフ角よりも小さい。
【0098】
次に、ウェハWを、サセプター503に載置する。そして、第1回転機構は、サセプター503をZ軸周りに回転させることで、ウェハWを自転させる。また、ヒータ504、505は、互いに異なる出力で、サセプター503を介してウェハWを加熱する。例えば、ヒータ504は、ヒータ505の出力よりも高い。なお、ウェハWは自転しているので、基板面Wsはほぼ均一に加熱される。以下、ヒータ505の出力に対するヒータ504の出力を「ヒータ出力比」と称す。
【0099】
次いで、原料供給装置501は、基板面Wsに、第1原料含有ガスG1、第2原料含有ガスG2、及び、押えガスG3を供給し、積層構造体を形成する。
【0100】
加熱されている基板面Wsに、第1原料含有ガスG1、第2原料含有ガスG2、及び、押えガスG3が供給されると、第1原料含有ガスG1及び第2原料含有ガスG2に含まれる気体化合物が分解される。そして、基板面Ws上に分解された元素からなるガスG5が滞留する。そして、ガスG5に含まれる元素が、基板面Wsまたは基板面Wsに積層された層に吸着され、層が形成される。
【0101】
まず、原料供給装置501は、基板面Wsに、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMAガス(Al源)、TMGガス(Ga源)、及び、SiH4ガス(Si源)とを含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、例えば、H2及びN2の混合ガスが用いられる。これにより、基板面Ws上にn側半導体層20が形成される。
【0102】
次に、原料供給装置501は、サセプター503に、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMGガス(Ga源)、及び、SiH4ガス(Si源)を含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、H2及びN2の混合ガスが用いられる。これにより、n側半導体層20上にn側光ガイド層31が形成される。
【0103】
次に、第1回転機構は、サセプター503の回転を停止させ、ウェハWの自転を停止させる。ここで、第1回転機構は、ウェハWが所定の方向を向くように、位置決めする。例えば、第1回転機構は、第1領域R1のサセプター503に対する正射影が平面視でヒータ504の加熱面に収まり、かつ、第2領域R2のサセプター503に対する正射影が平面視でヒータ505の加熱面に収まるように、位置決めする。ここで、第1回転機構は、例えば、回転停止位置センサの検出結果に基づいて、位置決めしてもよい。
【0104】
これにより、第1領域R1が、ヒータ504で加熱され、第2領域R2が、ヒータ505で加熱されるようになる。このため、第1領域R1の温度が第2領域R2の温度よりも高くなる。
【0105】
なお、制御部は、活性層32を形成するときに、ヒータ504の出力をヒータ505の出力よりも高くし、積層構造体のうち活性層32以外の層を形成するときには、ヒータ504及びヒータ505の出力を互いに等しくしてもよい。
【0106】
そして、原料供給装置501は、第1領域R1及び第2領域R2に温度差が生じた状態で、サセプター503に、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMIガス(In源)及びTEGガス(Ga源)を含む第2原料含有ガスG2とを供給する。ここで、輸送ガスとしてN2ガスが用いられる。これにより、n側光ガイド層31上に活性層32が積層される。
【0107】
なお、輸送ガスとして、N2ガスを用いることで、In元素がより効率的に層に取り込まれやすくなる。
【0108】
活性層32が形成された後、第1回転機構は、サセプター503を回転させ、ウェハWを再度自転させる。
【0109】
次に、原料供給装置501は、サセプター503に、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMGガス(Ga源)、及び、Cp2Mgガス(Mg源)を含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、H2及びN2の混合ガスが用いられる。これにより、活性層32上にp側光ガイド層33を積層する。
【0110】
次いで、原料供給装置501は、基板面Wsに、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMAガス(Al源)、TMGガス(Ga源)、及び、Cp2Mgガス(Mg源)を含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、例えば、H2及びN2の混合ガスが用いられる。これにより、p側光ガイド層33上にP型電子障壁層41が形成される。
【0111】
次に、原料供給装置501は、サセプター503に、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMAガス(Al源)、TMGガス(Ga源)、及び、Cp2Mgガス(Mg源)とを含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、例えば、H2及びN2の混合ガスを用いる。これにより、P型電子障壁層41上にp側クラッド層42が形成される。
【0112】
次に、原料供給装置501は、サセプター503に、NH3ガス(N源)を含む第1原料含有ガスG1と、TMGガス(Ga源)、及び、Cp2Mgガス(Mg源)を含む第2原料含有ガスG2を供給する。ここで、輸送ガスとして、H2及びN2の混合ガスが用いられる。これにより、p側クラッド層42上にp側コンタクト層43が形成される。
【0113】
なお、ヒータ504、505は、n側半導体層20、n側光ガイド層31、p側光ガイド層33及びp側半導体層40の形成時、基板面Wsの温度が約1000℃以上、1100℃以下の範囲となるようにサセプター503を加熱する。また、活性層32の形成時、ヒータ504、505により、基板面Wsの第1領域及び第2領域の温度が、いずれも約800℃付近となるようにサセプター503を加熱する。なお、基板面Wsの温度は、層の成長温度に相当する。
【0114】
n側半導体層20、n側光ガイド層31、p側光ガイド層33及びp側半導体層40の形成時にウェハWが自転することで、半導体基板のこれらの層において元素の組成を均一にすることができる。
【0115】
以上の工程により、積層構造体を含む半導体基板が製造される。
【0116】
(LDバーの製造方法)
次に、本実施形態に係るLDバー100の製造方法について説明する。
【0117】
まず、半導体基板における積層構造体のp側半導体層40をエッチングすることで、配a軸方向に並ぶように、複数のエミッタ101をストライプ状に形成する。これにより、積層構造体に、第1領域R1から第2領域R2に向かう方向に並ぶ複数のエミッタ101が形成される。また、積層構造体において、エミッタ101の配列方向がa軸方向に平行となる。
【0118】
次いで、エミッタ101が形成された積層構造体上に、p側電極50、誘電体層60、パッド電極70を順に形成し、ウェハWの裏面に、n側電極80を形成する。
【0119】
以下、半導体基板に、p側電極50、誘電体層60、パッド電極70、及び、n側電極80が形成されたものを、「LD基板」と称す。
【0120】
次に、LD基板からLDバー100を切り出す。
【0121】
図7は、LD基板800からのLDバー100の切り出し例を説明する図である。
図7に示されているLD基板800において、右側領域が第1領域R1であり、左側領域が第2領域R2である。
図7の100Rは、単位領域である。単位領域100Rあたり、LDバー100が多数(例えば、100本)切り出し可能である。
【0122】
LDバー100の両端に位置するエミッタ101間距離Ltが10mmであるので、LD基板800(直径約50mm)に対して、m軸方向中央部においてa軸方向に4つの単位領域100Rをレイアウトできる。
【0123】
このレイアウトに従って、切り出しを行うことで、LD基板800(直径約50mm)から、a軸方向において、最大で4本のLDバー100を切り出すことができる。
【0124】
以上の工程により、LDバー100が製造される。
【0125】
そして、LDバー100、回折格子200、及び、外部共振ミラー300等を準備し、例えば、上述の条件(a)、(c)及び(e)が満たされるように配置することで、WBCシステム1が形成される。以下、WBCシステム1は、上述の条件(a)-(e)が満たされているとして説明する。
【0126】
<ゲインピーク波長分布が変化する要因>
LDバー100におけるゲインピーク波長分布は、下記要因(1)及び(2)の影響を受けて変化する。
【0127】
要因(1)
活性層32(InGaN層)が形成される際の成長温度が高くなるほど、活性層32におけるIn組成比率が減少する。活性層32におけるIn組成比率が低い部位の上に形成されるエミッタ101のゲインピーク波長は短くなる。
【0128】
要因(2)
半導体基板におけるゲインピーク波長分布は、ウェハWの基板面Wsのオフ角分布に応じて変化する。例えば、ウェハWの主面であるC面((0001)面)に対してオフ角が大きくなるほど、その位置の上には、活性層32を形成する工程において、Inが堆積しにくくなる。よって、基板面Wsにおけるオフ角が大きい位置において、活性層32のIn組成比率が減少する。活性層32におけるIn組成比率が低い部位の上に形成されるエミッタ101のゲインピーク波長が短くなる。よって、基板面Wsにおける位置によってオフ角が異なる場合、活性層32の成長温度が基板面Ws全域において均一であったとしても、位置毎にゲインピーク波長が異なる。
【0129】
<ゲインピーク波長差の上限>
LD基板800のa軸方向両端に形成された2つのエミッタ101におけるゲインピーク波長差Δλsubについて説明する。
【0130】
LD基板800の切出対象領域におけるa軸方向の最大寸法をLsubとすると、LD基板800からa軸方向において、最大で、Lsub/Lt本、LDバー100が切り出し可能である。なお、Ltは、LDバー100の両端に位置するエミッタ101間距離であるが、配列方向におけるLDバー100の寸法とみなすことができる。
【0131】
LDバー100の両端に位置するエミッタ101間のゲインピーク波長差Δλ_gは、下記式(8)で表すことができる。
Δλ_g=Δλsub/(Lsub/Lt) ・・・・・・(8)
【0132】
エミッタ101がレーザ発振可能となる波長差Δλ_oは、式(2.1)で表すことができるので、下記式(9)を満たすことで、LDバー100のすべてのエミッタ101においてレーザ発振可能となる。
Δλ_g≦ΔλEC_bar+3.2 ・・・・・・(9)
【0133】
なお、下記式(10)を満たすことで、LDバー100のすべてのエミッタ101において、ロック波長が波長範囲R90に収まるようにレーザ発振可能となる。
Δλ_g≦ΔλEC_bar+1.2 ・・・・・・(10)
【0134】
本実施形態では、活性層32を形成する際に、ヒータ504、ヒータ505の出力に差を設け、基板面Wsの第1領域と第2領域とにおいて成長温度に差を設けている。よって、LDバー100を、WBCシステム1に搭載したとき、要因(1)により、ゲインピーク波長分布をロック波長分布に近づけることができる。すなわち、上述の式(9)、より望ましくは式(10)を満たすことができる。
【0135】
(実施例)
発明者らは、基板面Wsの第1領域及び第2領域で成長温度に差をつけることの効果について調べた。以下、その結果について
図8から
図13を参照しつつ説明する。
【0136】
発明者らは、半導体基板710及び半導体基板720をそれぞれ下記条件(i)及び(j)の下で製造し、半導体基板730、及び、半導体基板740を下記条件(k)の下で製造した。
(i)ヒータ出力比が1(100%)。すなわち、活性層32の形成時、基板面Wsの第1領域R1及び第2領域R2を同じヒータ出力で加熱。
(j)ヒータ出力比が1.1(110%)。すなわち、活性層32の形成時、基板面Wsの第1領域を、第2領域に対するヒータ出力の1.1倍のヒータ出力で加熱。
(k)ヒータ出力比が1.06(106%)。すなわち、活性層32の形成時、基板面Wsの第1領域R1を、第2領域R2に対するヒータ出力の1.06倍のヒータ出力で加熱。
【0137】
なお、半導体基板710~740の製造時、下記条件(l)及び(m)を満たすウェハWを使用し、基板面Wsの第1領域R1及び第2領域R2をヒータ504、505でそれぞれ加熱した。
(l)直径約50mm(2インチφ)
(m)基板面Wsにおけるオフ角の主軸方向が第1領域R1から第2領域R2に向かう。
【0138】
図8~
図11は、それぞれ半導体基板710~740のゲインピーク波長分布を示す図である。
図8~
図11において、半導体基板710~740の右側領域が第1領域R1に対応し、左側領域が第2領域R2に対応する。
【0139】
図8には、右側領域から左側領域に向けて次第にゲインピーク波長が小さくなっていることが示されている。このゲインピーク波長分布は、基板面Wsのオフ角分布に起因している。
【0140】
図9には、右側領域から左側領域に向けて次第にゲインピーク波長が大きくなっていることが示されている。このゲインピーク波長分布は、活性層32の形成時に、成長温度が第1領域R1で高く、第2領域R2で低かったことに起因する。
【0141】
図9の結果により、ヒータ出力比を変更することで、基板面Wsにおけるゲインピーク波長分布が自在に変更できることが分かった。
【0142】
図10及び
図11には、ウェハWの基板面Wsの全領域においてほぼ一様のゲインピーク波長分布となっていることが示されている。ヒータ出力比を1.06とすることで、基板面Wsのオフ角分布に起因するゲインピーク波長分布を均し、一様のゲインピーク波長分布に変更できることが分かった。
【0143】
<ゲインピーク波長差の検討>
次に、半導体基板710~740におけるゲインピーク波長差Δλ_gについて説明する。
【0144】
例えば、WBCシステム1において、LDバー100の配列方向両端に位置するエミッタ101同士のロック波長差ΔλEC_barは、約1.0nmである。
【0145】
上述の式(9)を踏まえると、半導体基板から製造されたLDバー100をWBCシステム1に搭載したときに、すべてのエミッタ101においてレーザ発振を生じさせるためには、Δλ_gは、4.2nm(=1.0nm+3.2nm)以下でなければならない。
【0146】
また、LDバー100をWBCシステム1に搭載したときに、すべてのエミッタ101において、ロック波長が波長範囲R90に収まるようにレーザ発振を生じさせるためには、式(10)より、Δλ_gは、2.2nm(=1.0nm+1.2nm)以下でなければならない。
【0147】
図12は、半導体基板710~740のa軸方向の各位置におけるゲインピーク波長を示すグラフである。
図13は、半導体基板710~740のa軸方向の各位置における波長差パラメータを示すグラフである。波長差パラメータは、最も長いゲインピーク波長を基準値としたときの基準値とゲインピーク波長との差の絶対値である。
【0148】
図12及び
図13の「100%」、「110%」、「106%-1」、及び、「106%-2」のグラフは、それぞれ、半導体基板710~740のゲインピーク波長分布を示す。
【0149】
図12には、
図8~
図11の結果が直接反映されている。例えば、「100%」のグラフは、a軸方向に沿って進む程、ゲインピーク波長が大きくなる傾向を示し、「110%」のグラフは、a軸方向に沿って進む程、ゲインピーク波長が小さくなる傾向を示している。また、「106%-1」、及び、「106%-2」のグラフは、a軸方向においてゲインピーク波長が略一様であることを示す。
【0150】
図13には、半導体基板710(「100%」)の基板面Wsのa軸方向において、ゲインピーク波長差が、最大で約19nmであることが示されている。半導体基板710に対して、a軸方向に並ぶようにエミッタ101を形成し、かつ、a軸方向においてLDバー100を4本切り出す場合、ゲインピーク波長差Δλ_gは、約4.8nm(=19nm÷4)になる。すなわち、ゲインピーク波長差Δλ_gは、4.2nmよりも大きくなる。
【0151】
よって、半導体基板710から製造されたLDバー100が、WBCシステム1に搭載した場合、レーザ発振が生じないエミッタ101が存在することになる。
【0152】
図13には、半導体基板720(「110%」)の基板面Wsのa軸方向において、ゲインピーク波長差が、最大で約12nmであることが示されている。半導体基板720に対して、a軸方向に並ぶようにエミッタ101を形成し、かつ、a軸方向においてLDバー100を4本切り出す場合、ゲインピーク波長差Δλ_gは、約3.0nm(=12nm÷4)である。すなわち、半導体基板720から製造されたLDバー100におけるΔλ_gは、4.2nm以下であるものの、2.2nmよりは大きい。
【0153】
よって、半導体基板720から製造されたLDバー100が、WBCシステム1に搭載された場合、すべてのエミッタ101でレーザ発振が生じる。ただし、一部のエミッタ101から出射される光は、波長範囲R90に収まらずにレーザ発振する。つまり、より高強度でのレーザ発振はされないことになる。
【0154】
図13には、半導体基板730の基板面Wsのa軸方向において、ゲインピーク波長差が、最大で約7nmであることが示されている。半導体基板730に対して、a軸方向に並ぶようにエミッタ101を形成し、かつ、a軸方向においてLDバー100を4本切り出す場合、ゲインピーク波長差Δλ_gは、約1.8nm(=7nm÷4)である。すなわち、半導体基板730から製造されたLDバー100におけるΔλ_gは、2.2nm以下である。
【0155】
図13には、半導体基板740の基板面Wsのa軸方向において、ゲインピーク波長差が、最大で約4nmであることが示されている。半導体基板740に対して、a軸方向に並ぶようにエミッタ101を形成し、かつ、a軸方向においてLDバー100を4本切り出す場合、ゲインピーク波長差Δλ_gは、約1.0nm(=4nm÷4)である。すなわち、半導体基板740から製造されたLDバー100におけるΔλ_gは、2.2nm以下である。
【0156】
よって、半導体基板730または740から製造されたLDバー100が、WBCシステム1に搭載された場合、すべてのエミッタ101でロック波長が波長範囲R90に収まるようにレーザ発振が生じる。
【0157】
したがって、ヒータ504、505のヒータ出力比を適度に設定することで、製造されるLDバー100のゲインピーク波長分布をWBCシステム1のロック波長分布に近づけることができ、発振特性を向上させることができる。
【0158】
本開示の発明者らは、半導体基板710、730、740におけるゲインピーク波長のオフ角依存性を示す波長・オフ角パラメータを算出した。波長・オフ角パラメータは、半導体基板のa軸方向におけるゲインピーク波長勾配を、a軸方向におけるオフ角勾配(単位は、「nm/°」)で除算することで算出される。波長・オフ角パラメータは、絶対値が大きいほど、基板面Wsのオフ角分布の影響が大きいことを意味する。半導体基板710、730、740における波長・オフ角パラメータのその算出結果が、下記表1に示されている。
【0159】
【0160】
半導体基板710の波長・オフ角パラメータの絶対値が大きいのに対して、半導体基板730、740の波長・オフ角パラメータの絶対値は微小である。つまり、ヒータ504、505のヒータ出力比を適度な値にすることで、基板面Wsのオフ角分布の影響を打ち消して、半導体基板に望ましいゲインピーク波長分布を形成することができる。
【0161】
また、発明者らは、半導体基板710、720、730、740からLDバー100を製造したときの歩留まり率Y80、Y90を調べた。
【0162】
歩留まり率Y80は、半導体基板から製造されたすべてのLDバー100のうちのゲインピーク波長差Δλ_gが4.2nm以内であるLDバー100の割合である。LDバー100においてゲインピーク波長差Δλ_gが4.2nm以内であるとき、すべてのエミッタ101においてレーザ発振可能である。
【0163】
歩留まり率Y90は、半導体基板から製造されたすべてのLDバー100のうちのゲインピーク波長差Δλ_gが2.2nm以内であるLDバー100の割合である。LDバー100においてゲインピーク波長差Δλ_gが2.2nm以内であるとき、すべてのエミッタ101において、より高強度でレーザ発振可能である。
【0164】
【0165】
半導体基板710の歩留まり率Y80は、38.3%であるのに対して、半導体基板730及び740の歩留まり率Y80は、それぞれ83.3%、及び、91.7%であった。
【0166】
また、半導体基板710の歩留まり率Y90は、25.0%であるのに対して、半導体基板730及び740の歩留まり率Y90は、それぞれ63.3%、及び、68.3%であった。
【0167】
このように、ヒータ出力比を100%から106%に変更することで、歩留まり率Y80、Y90のいずれも、2倍以上になった。よって、ヒータ出力比を適切に制御することで、WBCシステム1に搭載するLDバー100として適したゲインピーク波長分布を有するLDバー100を効率的に製造することができる。
【0168】
(加熱制御例)
以下、ヒータ504、505による第1領域R1及び第2領域R2に対する加熱制御について、4種類のウェハに対する加熱を例に挙げて説明する。以下の説明において、4種類のウェハを、それぞれ、第1ウェハW1、第2ウェハW2、第3ウェハW3、及び、第4ウェハW4とする。
【0169】
<第1ウェハに対する加熱制御>
図14~16を参照しつつ、第1ウェハW1に対する加熱制御について説明する。
図14は、第1ウェハW1の基板面Wsが有するオフ角分布を説明する図である。
図15及び
図16は、第1ウェハW1に対する第1加熱制御及び第2加熱制御による効果を説明する図である。
【0170】
第1ウェハW1の基板面Wsは、a軸方向における前端側領域(
図14の右側領域)よりも後端側領域(
図14の左側領域)においてオフ角が大きくなるオフ角分布を有している。また、a軸方向前端から後端にかけてオフ角の変化量が比較的大きい。
【0171】
活性層32の形成時に第1ウェハW1の基板面Wsの全域を均一に加熱して半導体基板を製造し、その半導体基板からLDバー100を製造した場合、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなる波長特性を有する(
図15及び
図16の破線)。これは、LDバー100におけるa軸方向後端のエミッタ101(すなわち、第1端エミッタ)のゲインピーク波長は、a軸方向前のエミッタ101(すなわち、第2端エミッタ)のゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。この波長特性は、第1ウェハW1のオフ角分布に起因する。この波長特性の傾きDth1は、ゲインピーク波長差Δλ_gが式(9)を満たさない程度に大きい。
【0172】
<<第1加熱制御>>
そこで、制御部は、基板面Wsのa軸方向の前端側領域を第1領域R1、及び、a軸方向の後端側領域を第2領域R2に設定する。そして、制御部は、第1領域R1が基準成長温度よりも所定温度高くなるようにヒータ504の出力を設定し、第2領域R2が基準成長温度となるように、ヒータ505の出力を設定する。このとき、ヒータ出力比は、例えば、106%である。また、基準成長温度は、例えば、800℃である。
【0173】
このように加熱制御することで、基板面Wsの第1領域R1(前端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が減少する。よって、第1ウェハW1から製造されるLDバー100において、a軸方向前端側のエミッタ101(第2端エミッタ)のゲインピーク波長が短くなる。
【0174】
その結果、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなり、かつ、傾きDth1よりも小さい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図15の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。
【0175】
<<第2加熱制御>>
制御部は、第1加熱制御とは別の加熱制御を行ってもよい。制御部は、第1加熱制御と同様に、第1領域R1、及び、第2領域R2を設定する。そして、制御部は、第1領域R1が基準成長温度よりも所定温度高くなるようにヒータ504の出力を設定し、かつ、第2領域R2が基準成長温度よりも低くなるように、ヒータ505の出力を設定する。
【0176】
このように加熱制御することで、基板面Wsの第1領域R1(前端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が減少するとともに、第2領域R2(後端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が増加する。よって、第1ウェハW1から製造されるLDバー100において、a軸方向前端側のエミッタ101(第2端エミッタ)のゲインピーク波長は短くなり、a軸方向後端側のエミッタ101(第1端エミッタ)のゲインピーク波長が長くなる。
【0177】
その結果、LDバー100の波長特性は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が小さくなり、かつ、傾きDth1よりも絶対値が小さい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図16の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも大きいことを意味する。
【0178】
いずれの加熱制御を経た場合も、LDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、第1ウェハW1の基板面Wsのオフ角分布に起因するゲインピーク波長差よりも小さい。すなわち、上述の第1加熱制御または第2加熱制御に従って、第1ウェハW1の基板面Wsを加熱することで、ゲインピーク波長差Δλ_gが、式(9)を満たす、より望ましくは、式(10)を満たすLDバー100が得られる。
【0179】
<第2ウェハに対する加熱制御>
図17~19を参照しつつ、第2ウェハW2に対する加熱制御について説明する。
図17は、第2ウェハW2の基板面Wsが有するオフ角分布を説明する図である。
図18及び
図19は、第2ウェハW2に対する第3加熱制御及び第4加熱制御による効果を説明する図である。
【0180】
第2ウェハW2の基板面Wsは、a軸方向における前端側領域よりも後端側領域においてオフ角が大きくなるオフ角分布を有している。一方、第2ウェハW2の基板面Wsにおけるa軸方向前端から後端にわたるオフ角の変化量が、第1ウェハW1よりも大きい。
【0181】
もし、活性層32の形成時に第2ウェハW2の基板面Wsの全域を均一に加熱して半導体基板を製造し、その半導体基板からLDバー100を製造した場合、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなる波長特性を有する(
図18及び
図19の破線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。しかし、この波長特性の傾きDth2に基づくゲインピーク波長差Δλ_gは、LDバー100をWBCシステム1に搭載したときのロック波長差Δλ
EC_barに基づくロック波長直線(
図3参照)の傾きよりも小さくなる。
【0182】
<<第3加熱制御>>
そこで、制御部は、基板面Wsの前端側領域を第2領域R2、及び、後端側領域を第1領域R1に設定する。そして、制御部は、第1領域R1が基準成長温度となるようにヒータ504の出力を設定し、第2領域R2が基準成長温度よりも所定温度低くなるように、ヒータ505の出力を設定する。このとき、ヒータ出力比は、例えば、106%である。
【0183】
このように加熱制御することで、基板面Wsの第2領域R2(前端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が増加する。よって、第2ウェハW2から製造されるLDバー100において、a軸方向前端側のエミッタ101(第2端エミッタ)のゲインピーク波長が長くなる。
【0184】
その結果、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなり、かつ、傾きDth2よりも大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図18の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。
【0185】
<<第4加熱制御>>
制御部は、第4加熱制御を行ってもよい。第4加熱制御は、領域設定及び出力設定が上述の第2加熱制御と同じである。すなわち、制御部は、基板面Wsの前端側領域を第1領域R1、及び、a軸方向の後端側領域を第2領域R2に設定する。そして、制御部は、第1領域R1が基準成長温度よりも所定温度高くなるようにヒータ504の出力を設定し、第2領域R2が基準成長温度となるように、ヒータ505の出力を設定する。
【0186】
このように加熱制御することで、第2ウェハW2から製造されるLDバー100において、第2端エミッタのゲインピーク波長は短くなり、第1端エミッタのゲインピーク波長が長くなる。
【0187】
その結果、LDバー100の波長特性は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が小さくなり、かつ、傾きDth2よりも絶対値が大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図19の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも大きいことを意味する。
【0188】
第3加熱制御または第4加熱制御を経て製造されたLDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、第2ウェハW2の基板面Wsのオフ角分布に起因するゲインピーク波長差よりも大きい。また、LDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、式(9)を満たし、より望ましくは、式(10)を満たす。
【0189】
すなわち、上述の第3加熱制御または第4加熱制御に従って、第2ウェハW2の基板面Wsを加熱することで、ゲインピーク波長分布をロック波長分布に近づけることができる。よって、第3加熱制御または第4加熱制御を経て製造されたLDバー100をWBCシステム1に搭載したとき、より強い発光強度を示す波長がロック波長として選択されるので、レーザ発振性能がより一層向上する。
【0190】
<第3ウェハに対する加熱制御>
図20~22を参照しつつ、第3ウェハW3に対する加熱制御について説明する。
図20は、第3ウェハW3の基板面Wsが有するオフ角分布を説明する図である。
図21及び
図22は、第3ウェハW3に対する第5加熱制御及び第6加熱制御による効果を説明する図である。
【0191】
第3ウェハW3において、基板面Wsのオフ角の主軸方向とa軸方向とがほぼ直交している。よって、a軸方向の前端側領域と後端側領域とにおいてオフ角はほぼ同じである。
【0192】
もし、活性層32の形成時に第3ウェハW3の基板面Wsの全域を均一に加熱して半導体基板を製造し、その半導体基板からLDバー100を製造した場合、LDバー100は、a軸方向においてゲインピーク波長がほぼ一定値となる波長特性を有する(
図21及び
図22の破線)。すなわち、第1端エミッタのゲインピーク波長と第2端エミッタのゲインピーク波長は、互いに略等しい。この波長特性の傾きDth3は微小であり、LDバー100をWBCシステム1に搭載したときのロック波長差Δλ
EC_barに基づくロック波長直線(
図3参照)の傾きよりもはるかに小さくなる。
【0193】
<<第5加熱制御>>
そこで、制御部は、基板面Wsの前端側領域を第2領域R2、及び、後端側領域を第1領域R1に設定する。そして、制御部は、第1領域R1が基準成長温度よりも所定温度高くなるようにヒータ504の出力を設定し、第2領域R2が基準成長温度よりも低くなるように、ヒータ505の出力を設定する。このとき、ヒータ出力比は、例えば、106%である。
【0194】
このように加熱制御することで、基板面Wsの第1領域R1(後端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が減少するとともに、第2領域R2(前端側領域)上の活性層32におけるIn組成比率が増加する。よって、第3ウェハW3にから製造されるLDバー100において、第2端エミッタのゲインピーク波長が長くなるともに、第1端エミッタのゲインピーク波長が短くなる。
【0195】
その結果、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなり、かつ、傾きDth3よりも大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図21の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。
【0196】
<<第6加熱制御>>
制御部は、第6加熱制御を行ってもよい。第6加熱制御は、領域設定及び出力設定が上述の第2加熱制御と同じである。
【0197】
このように加熱制御することで、第3ウェハW3から製造されるLDバー100において、第2端エミッタのゲインピーク波長は短くなり、第1端エミッタのゲインピーク波長が長くなる。
【0198】
その結果、LDバー100の波長特性は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が小さくなり、かつ、傾きDth3よりも絶対値が大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図22の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも大きいことを意味する。
【0199】
第5加熱制御または第6加熱制御を経て製造されるLDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、a軸方向において、第3ウェハW3の基板面Wsのオフ角分布に起因するゲインピーク波長差よりも大きい。また、LDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、式(9)を満たし、より望ましくは、式(10)を満たす。
【0200】
すなわち、上述の第5加熱制御または第6加熱制御に従って、第3ウェハW3の基板面Wsを加熱することで、配列方向におけるゲインピーク波長分布をロック波長分布に近づけることができる。よって、LDバー100をWBCシステム1に搭載したとき、より強い発光強度を示す波長がロック波長として選択されるので、レーザ発振性能がより一層向上する。
【0201】
<第4ウェハに対する加熱制御>
図23~25を参照しつつ、第4ウェハW4に対する加熱制御について説明する。
図23は、第4ウェハW4の基板面Wsが有するオフ角分布を説明する図である。
図24及び
図25は、第4ウェハW4に対する第7加熱制御及び第8加熱制御による効果を説明する図である。
【0202】
第4ウェハW4の基板面Wsの全域においてオフ角は均一である。すなわち、第4ウェハW4の基板面Wsの各位置においてオフ角が略等しい。
【0203】
もし、活性層32の形成時に第4ウェハW4の基板面Wsの全域を均一に加熱して半導体基板を製造し、その半導体基板からLDバー100を製造した場合、LDバー100は、a軸方向においてゲインピーク波長が一定値を示す波長特性を有する(
図24及び
図25の破線)。すなわち、第1端エミッタのゲインピーク波長と第2端エミッタのゲインピーク波長は、互いに略等しい。なお、この波長特性の傾きDth4は、ほぼ0である。
【0204】
<<第7加熱制御>>
そこで、制御部は、第7加熱制御を行う。第7加熱制御は、領域設定及び出力設定が上述の第5加熱制御と同じである。
【0205】
このように加熱制御することで、よって、第4ウェハW4から製造されるLDバー100において、第2端エミッタのゲインピーク波長が長くなるともに、第1端エミッタのゲインピーク波長が短くなる。
【0206】
その結果、LDバー100は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が大きくなり、かつ、傾きDth4よりも大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図24の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも小さいことを意味する。
【0207】
<<第8加熱制御>>
また、制御部は、第8加熱制御を行ってもよい。第8加熱制御は、領域設定及び出力設定が上述の第2加熱制御と同じである。
【0208】
このように加熱制御することで、第4ウェハW4から製造されるLDバー100において、第2端エミッタのゲインピーク波長は短くなり、第1端エミッタのゲインピーク波長が長くなる。
【0209】
その結果、LDバー100の波長特性は、a軸方向前端に向かうにつれてゲインピーク波長が小さくなり、かつ、傾きDth4よりも絶対値が大きい傾きを有する波長特性を有するようになる(
図25の実線)。これは、LDバー100における第1端エミッタのゲインピーク波長は、第2端エミッタのゲインピーク波長よりも大きいことを意味する。
【0210】
第7加熱制御または第8加熱制御を経て製造されたLDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、第4ウェハW4の基板面Wsのオフ角分布に起因するゲインピーク波長差よりも大きい。また、LDバー100におけるゲインピーク波長差Δλ_gは、式(9)を満たし、より望ましくは、式(10)を満たす。
【0211】
すなわち、上述の第7加熱制御または第8加熱制御に従って、第4ウェハW4の基板面Wsを加熱することで、配列方向におけるゲインピーク波長分布をロック波長分布に近づけることができる。よって、LDバー100をWBCシステム1に搭載したとき、より強い発光強度を示す波長がロック波長として選択されるので、レーザ発振性能がより一層向上する。
【0212】
(まとめ)
実施形態によれば、実施形態に係るLDバー100を製造することができる。LDバー100は、基板面Wsにオフ角分布を有するウェハWと、基板面Wsに積層された第1導電型クラッド層、活性層32、および、第2導電型クラッド層を含む積層構造体と、積層構造体にストライプ状に形成され、導波路方向と直交する配列方向に並べて配置された複数のエミッタ101と、を備える。LDバー100において、複数のエミッタ101から出射されるレーザ光の波長分布は、複数のエミッタ101からオフ角分布に起因して出射されるレーザ光の波長分布と異なる。
【0213】
すなわち、ウェハWのオフ角分布に関わらず、LDバー100における配列方向におけるゲインピーク波長分布を、LDバー100をWBCシステム1に搭載したときのロック波長分布に近づけることができる。したがって、各エミッタ101において、ゲインピーク波長に近い波長でレーザ発振することになるので、WBCシステム1の発振性能を向上させることができる。
【0214】
具体的には、式(9)が満たされるとき、LDバー100のすべてのエミッタ101においてレーザ発振するようになる。式(10)が満たされるとき、LDバー100のすべてのエミッタ101において、レーザ光のピーク強度の90%以上を示す波長において、レーザ発振するようになる。
【0215】
LDバー100を、式(4)が満たされるように、WBCシステム1に搭載することで、LDバー100のすべてのエミッタ101においてレーザ発振させることができる。
【0216】
LDバー100を、式(9)が満たされるように、WBCシステム1に搭載することで、LDバー100のすべてのエミッタ101において、レーザ光のピーク強度の90%以上を示す波長において、レーザ発振するようになる。
【0217】
また、上述のLDバー100が搭載されることで、発振性能が高いWBCシステム1が実現する。
【0218】
実施形態によれば、第1導電型クラッド層に、基板面Wsの第1領域R1の温度を、第2領域R2の温度よりも高くした状態で、活性層32を積層し、活性層32上に、第2導電型クラッド層を積層する。
【0219】
これにより、LDバー100における配列方向におけるゲインピーク波長分布を、基板面Wsのオフ角分布に起因して出射される光のゲインピーク波長分布と異なるものとし、LDバー100をWBCシステム1に搭載したときのロック波長分布に近づけることができる。
【0220】
本実施形態では、第1導電型クラッド層に活性層32を積層するとき、ヒータ504で、第1領域R1を加熱し、ヒータ505で第2領域R2を加熱している。また、本実施形態では、ウェハW上に第1導電型クラッド層を積層するとき、ウェハWを自転させており、第1導電型クラッド層に活性層32を積層するとき、ウェハの自転を停止させる。
【0221】
よって、ヒータ504、505に対して、第1領域R1と第2領域R2の位置をそれぞれ合わせることで、活性層32の形成時に、第1領域R1と第2領域R2を異なる温度で加熱できる。また、積層構造体の活性層32以外の層を形成するときには、ウェハWを自転させることで、それらの層において、元素の組成及び層の厚さを均一にすることができる。
【0222】
実施形態に係る半導体基板製造装置500は、少なくとも1つのウェハWを支持するサセプター503と、サセプター503を介してウェハWを加熱するヒータ504およびヒータ505と、サセプター503に支持されているウェハWを自転させる第1回転機構と、ウェハWの基板面Wsに原料ガスを供給する原料供給装置501とを備える。
【0223】
よって、上述のLDバー100の製造に用いられる半導体基板を製造できる。
【0224】
第1回転機構は、原料供給装置501によって活性層32を形成するための原料が供給されるとき、ウェハWの自転を停止させて、ウェハWの第1領域R1がヒータ504によって加熱され、ウェハWの第2領域R2がヒータ505によって加熱されるように、ウェハWを位置決めする。
【0225】
よって、第1領域R1の温度が、第2領域R2の温度よりも高い状態で、活性層32を形成することができる。
【0226】
実施形態によれば、上述の半導体基板に対して、ストライプ状に形成され、第1領域R1から第2領域R2に向かう方向に並べて配置された複数のエミッタ101を形成し、LDバーを切り出すことで、上述のLDバー100を製造できる。
【0227】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0228】
(半導体基板製造装置)
図26は、第2実施形態に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図27は、第2実施形態に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0229】
第1実施形態に係る半導体基板製造装置500は、2つのヒータ504、505を備えているのに対して、第2実施形態に係る半導体基板製造装置500は、3つのヒータ504~506を備えている。例えば、ヒータ504~506は、X軸方向に沿ってヒータ504、506、505の順に並ぶように配置されている。
【0230】
(半導体基板の製造方法)
制御部は、少なくとも活性層32を形成するときには、ヒータ504の出力を最も高くし、ヒータ505の出力を最も低くする。
【0231】
また、制御部は、ウェハWの基板面Wsを3つの領域に分け、基板面Wsのオフ角分布に応じて、3つの領域に対して、第1領域R1、第2領域R2、及び、第3領域R3を設定する。3つの領域は、基板面Wsのa軸方向の前端側領域、後端側領域、及び、それらの間に位置する中央領域である。
【0232】
図27には、オフ角の主軸方向がa軸方向とは反対向きであるウェハWが例示されている。また、
図27には、そのウェハWに対して、a軸方向前端領域が第1領域R1、後端側領域が第2領域R2、及び、中央領域が第3領域R3に設定されていることが例示されている。
【0233】
第1回転機構は、活性層32の形成に際して、第1領域R1、第2領域R2、及び、第3領域R3が、ヒータ504、ヒータ505、及び、ヒータ506でそれぞれ加熱されるように位置決めし、ウェハWの自転を停止させる。これにより、a軸方向に沿って、成長温度の勾配を設けることができる。
【0234】
このように温度勾配が設けられた状態で、半導体基板製造装置500は、活性層32を形成する。
【0235】
(LDバーの製造方法)
第2実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板からLD基板800を形成し、LD基板800からLDバー100を切り出す。
【0236】
以上説明した通り、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、第1実施形態と比べて、活性層32の形成時に、ウェハWの基板面Wsの成長温度勾配をより精密に制御できる。
【0237】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0238】
(半導体基板製造装置)
図28は、第3実施形態に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図29は、第3実施形態に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0239】
第3実施形態では、サセプター503は、複数のウェハWを支持するように構成されている。例えば、サセプター503には、最大3つのウェハWが載置可能である。
【0240】
第3実施形態では、第1回転機構は、複数のウェハWを個別に自転させる。
【0241】
また、サセプター503は、第1回転機構に加えて、第2回転機構を備えている。第2回転機構は、複数のウェハWを鉛直軸(Z軸)周りに公転させる。
【0242】
第1実施形態では、ヒータ504、ヒータ505がX軸方向に並ぶように配置されていたが、第3実施形態では、ヒータ504、ヒータ505が、同心円状に配置されている。例えば、ヒータ504は、円形の加熱面を有し、ヒータ505は、ヒータ504の加熱面の周囲を囲む環状の加熱面を有する(
図29参照)。
【0243】
(半導体基板の製造方法)
ウェハWがサセプター503に載置されると、第1回転機構は、複数のウェハWをそれぞれ自転させるとともに、第2回転機構は、複数のウェハWをZ軸周りに公転させる。そして、ウェハWが自転及び公転した状態で、n側半導体層20及びn側光ガイド層31を順に形成する。
【0244】
n側光ガイド層31が形成された後、第1回転機構は、第1領域R1、及び、第2領域R2が、ヒータ504、及び、ヒータ505でそれぞれ加熱されるように位置決めし、ウェハWの自転を停止させる。a軸方向に沿って、第1領域R1、及び、第2領域R2が並ぶように、ウェハWの基板面Wsに対して領域設定を行っておくことで、a軸方向に沿って、成長温度の勾配を設けることができる。
【0245】
このように温度勾配が設けられた状態で、半導体基板製造装置500は、活性層32を形成する。なお、活性層32が形成されている間、第2回転機構は、ウェハWの公転を継続する。
【0246】
(LDバーの製造方法)
第3実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板からLD基板800を形成し、LD基板800からLDバー100を切り出す。
【0247】
以上説明した通り、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0248】
第3実施形態によれば、サセプター503は、複数のウェハWを支持するように構成されており、サセプター503に支持されている複数のウェハWを公転させる第2回転機構を備えている。さらに、ヒータ504とヒータ504は同心円状に配置されている。
【0249】
これにより、複数のウェハW上に同時に積層構造体を形成する際、元素組成及び厚さが均一になるように各層を形成することができる。
【0250】
よって、第3実施形態によれば、第1実施形態と比べて、短時間で高品質な半導体基板を数多く製造できる。
【0251】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0252】
(半導体基板製造装置)
図30は、第4実施形態に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図31は、第4実施形態に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0253】
第4実施形態では、サセプター503は、多数のウェハWを支持するように構成されている。例えば、サセプター503は、環状の載置面を有し、載置面には12個のウェハWが載置可能である(
図31参照)。
【0254】
第4実施形態では、第3実施形態と同様、第1回転機構は、複数のウェハWを個別に自転させる。また、サセプター503は、複数のウェハWを鉛直軸(Z軸)周りに公転させる第2回転機構を備えている。
【0255】
また、第4実施形態に係る半導体基板製造装置500は、3つのヒータ504、505、506を備えており、それらは、同心円状に配置されている。例えば、ヒータ504、505、506は、環状の加熱面を有しており、ヒータ504が最も内側、ヒータ505が最も外側に配置されている。
【0256】
第4実施形態では、フローチャネル502は、第1原料含有ガスG1、第2原料含有ガスG2、及び、押えガスG3を、サセプター503の中心部から外側に向けて放射状に流すように構成されている。このように構成されることで、原料ガスを多数のウェハWの基板面Wsに対して均一に供給することができる。
【0257】
(半導体基板の製造方法)
制御部は、第2実施形態と同様、少なくとも活性層32を形成するときには、ヒータ504の出力を最も高くし、ヒータ505の出力を最も低くする。また、制御部は、第2実施形態と同様に、ウェハWの基板面Wsに対して領域設定を行う。また、第1回転機構による自転制御、及び、第2回転機構による公転制御は、第3実施形態と同様である。
【0258】
これにより、ウェハWの基板面Wsにおいて、a軸方向に沿って、成長温度の勾配を設けることができる。このように温度勾配が設けられた状態で、半導体基板製造装置500は、活性層32を形成する。
【0259】
(LDバーの製造方法)
第4実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板からLD基板800を形成し、LD基板800からLDバー100を切り出す。
【0260】
以上説明した通り、第4実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0261】
第4実施形態によれば、サセプター503は、第3実施形態よりも多くのウェハWを支持することができるので、短時間で高品質な半導体基板をさらに数多く製造することができる。
【0262】
[変形例1]
以下、変形例1について、主に第2実施形態と異なる点を説明する。
【0263】
(半導体基板製造装置)
図32は、変形例1に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図33は、変形例1に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0264】
変形例1に係る半導体基板製造装置500は、シャワー方式の装置である。
【0265】
フローチャネル502は、第1原料含有ガスG1、及び、第2原料含有ガスG2を、基板面Wsの上側からウェハWに供給するように構成されている。なお、変形例1では、原料供給装置501は、押えガスG3を供給しなくてもよい。
【0266】
また、フローチャネル502は、排気ガスG4を、サセプター503の下方(Z軸方向負側)に向けて排気するように構成されている。
【0267】
変形例1によれば、第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0268】
[変形例2]
以下、変形例2について、主に第3実施形態と異なる点を説明する。
【0269】
(半導体基板製造装置)
図34は、変形例2に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図35は、変形例2に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0270】
変形例2に係る半導体基板製造装置500は、変形例1と同様、シャワー方式の装置である。
【0271】
フローチャネル502は、第1原料含有ガスG1、及び、第2原料含有ガスG2を、基板面Wsの上側からサセプター503上の複数のウェハWに供給するように構成されている。なお、変形例2では、変形例1と同様、原料供給装置501は、押えガスG3を供給しなくてもよい。
【0272】
また、フローチャネル502は、排気ガスG4を、サセプター503の下方(Z軸方向負側)に向けて排気するように構成されている。
【0273】
変形例2によれば、第3実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0274】
[変形例3]
以下、変形例3について、主に第4実施形態と異なる点を説明する。
【0275】
(半導体基板製造装置)
図36は、変形例3に係る半導体基板製造装置500の概略図である。
図37は、変形例3に係る半導体基板製造装置500のサセプター503近傍を示す平面図である。
【0276】
変形例3に係る半導体基板製造装置500は、変形例1と同様、シャワー方式の装置である。
【0277】
フローチャネル502は、第1原料含有ガスG1、及び、第2原料含有ガスG2を、基板面Wsの上側から、サセプター503上に円状に配列された多数のウェハWに供給するように構成されている。なお、変形例3では、変形例1と同様、原料供給装置501は、押えガスG3を供給しなくてもよい。
【0278】
また、フローチャネル502は、排気ガスG4を、サセプター503の下方(Z軸方向負側)に向けて排気するように構成されている。
【0279】
変形例3によれば、第3実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0280】
なお、変形例3において、サセプター503は、円状の載置面を有していてもよい。また、多数のウェハWは、
図37中に破線で示されるウェハWを含んでもよい。つまり、多数のウェハWは、サセプター503の載置面に円環状に配列されるのではなく、円形の領域内に敷き詰められるように配置されてもよい。
【0281】
この場合、半導体基板製造装置500は、活性層32を形成する際に、各ウェハWの基板面Wsに対して、a軸方向に沿って成長温度の勾配を設けることができるように配置された複数のヒータを有するとともに、それらのヒータの温度制御を行う。さらに、第1回転機構は、活性層32を形成する際に、その複数のヒータによって、各ウェハWの基板面Wsに対して、a軸方向に沿って成長温度の勾配が設けられるように位置決めする。
【0282】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態について、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0283】
(半導体基板製造装置)
第5実施形態に係る半導体基板製造装置500は、
図5に示される半導体基板製造装置500と同様の構成を備えている。すなわち、第5実施形態に係る半導体基板製造装置500は、原料供給装置501、フローチャネル502、サセプター503、ヒータ504、505、及び、制御部を備えている。第5実施形態に係る半導体基板製造装置500は、さらに、ウェハWが載置される部品であるトレイ507を備えている。
図38は、トレイ507の側面図およびトレイ507に載置されたウェハWの平面図である。
【0284】
サセプター503には、トレイ507が載置される。第1回転機構は、トレイ507に支持されているウェハWを自転させる。
【0285】
第5実施形態では、複数のヒータ504、505は、同一の出力となるように制御される。ただし、第5実施形態にかかる半導体基板製造装置500は、ヒータを1つだけ備えていてもよく、例えば、ヒータ504のみを備えてもよい。この場合、ヒータ504は、サセプター503の載置面全体を均等に加熱することができる発熱面を有する。いずれの場合も、ヒータは、トレイ507を介してウェハWを加熱する。
【0286】
トレイ507は、2段ザグリ構造を有しており、支持部508を備えている。
【0287】
支持部508は、ウェハWの裏面とトレイ507との間に隙間が生じるように、ウェハWの裏面の縁部を支持する。これにより、加熱されたトレイ507からの輻射熱によりウェハWが加熱される。
【0288】
なお、ウェハWをサセプター503の載置面に直接載置して積層構造体を形成する場合、ウェハWにn側半導体層20が形成された後、ウェハW(GaN層)とn側半導体層20(AlGaN層)との格子定数の差に起因して、ウェハWが反ってしまう。よって、ウェハWの中心部のみがサセプター503と接触し、ウェハWの縁部がサセプター503に接触しなくなる。例えば、単一のヒータを用いてサセプター503を均一に加熱する場合、ウェハWにおいて、中心部から縁部に向かうほど成長温度が低下する同心円状の温度分布が生じる。しかしながら、トレイ507を使用することで、半導体基板の製造中にウェハWに反りが生じたとしても、同心円状の温度分布の発生を防ぐことができる。
【0289】
本実施形態では、トレイ507は、傾斜面509を備えている。傾斜面509は、支持部508の内側に位置しており、ウェハWが支持部508に支持された状態において、ウェハWの裏面との距離が変化するように形成されている。例えば、傾斜面509は、X軸方向後端からX軸方向前端にむけて、深くなるように形成されている。
【0290】
例えば、a軸方向がX軸方向と平行になるように、トレイ507にウェハWを載置し、そのトレイ507をサセプター503に載置された場合、ウェハWのうち、傾斜面509と対向する部位が傾斜面509からの輻射熱により加熱される。ただし、ウェハWにおいてa軸方向後端に向かうほど、傾斜面509との距離が短くなる。よって、ウェハWにおいて、a軸方向後端に向かうほど成長温度が高くなるように温度勾配が設けられる。
【0291】
ウェハWの裏面と傾斜面509との距離が、10μm大きくなると、成長温度が約1℃低下する。なお、活性層32の形成時、成長温度が1℃変化すると、その活性層32の上方に形成されるエミッタ101のゲインピーク波長は、約2nm変化する。例えば、この割合(2nm/℃)に基づいて、傾斜面509の角度が設定されてもよい。
【0292】
第5実施形態に係る半導体基板製造装置500は、ウェハWの裏面の縁部を支持し、かつ、ウェハWの裏面に対向し裏面との距離が変化する傾斜面509を有するトレイ507と、トレイ507が載置されるサセプター503と、サセプター503およびトレイ507を介してウェハWを加熱するヒータ504と、トレイ507に支持されているウェハWを自転させる第1回転機構と、ウェハWの基板面Wsに原料ガスを供給する原料供給装置501と、を備える。
【0293】
よって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、1つのヒータを用いるだけで、ウェハWに対して成長温度の勾配を設けることができる。
【0294】
また、ウェハWがサセプター503に直接配置されないので、サセプター503の載置面が損傷されにくい。また、半導体基板が完成した場合、トレイごと半導体基板製造装置500から取り出すことができるので、作業効率が高まる。
【0295】
[変形例4]
以下、変形例4について、主に第5実施形態と異なる点を説明する。
【0296】
(半導体基板製造装置)
図39は、変形例4に係る半導体基板製造装置500が備えるトレイ507を示す図である。
【0297】
変形例4のトレイ507は、傾斜面510を複数個有する。具体的には、支持部508の内側において、複数の所定領域が規定され、各所定領域において、X軸方向後端から前端に向かうほど深くなるように、傾斜面510が形成されている。
【0298】
例えば、a軸方向がX軸方向と平行になるように、ウェハWをトレイ507に載置し、そのトレイ507をサセプター503に載置した場合、ウェハWの各傾斜面510と対向する領域(以下、「傾斜対向領域」と称す。)は、各傾斜面510からの輻射熱により加熱される。ここで、各傾斜対向領域において、a軸方向後端に向かうほど成長温度が高くなるように温度勾配が設けられる。
【0299】
トレイ507を用いて半導体基板を製造し、半導体基板にa軸方向に並ぶようにエミッタ101を形成する。さらに、p側電極50、誘電体層60、パッド電極70、及び、n側電極80を形成することで、LD基板800を形成する。その後、LD基板800に対して、傾斜対向領域に対応するように単位領域100R(
図7参照)を設定し、切り出しを行う。これにより、エミッタ101の配列方向において、適度にゲインピーク波長差が生じているLDバー100が得られる。
【0300】
変形例4によれば、第5実施形態と同様の作用効果が得られる。また、トレイ507は、複数の傾斜面510を備えているので、所定領域単位で温度勾配が生じるように、ウェハWを加熱することができる。よって、LDバー100単位で精密にゲインピーク波長分布を調整することができる。
【0301】
[その他の変形例]
第1~第4実施形態、及び、変形例1~3に係る半導体基板製造装置500は、フェースアップ方式の装置であり、基板面WsがZ軸正方向を向くようにウェハWがサセプター503に配置されていた。しかしながら、本開示は、基板面WsがZ軸負方向を向くようにウェハWが配置されるフェースダウン方式の半導体基板製造装置にも適用可能である。
【0302】
第5実施形態及び変形例4のトレイ507は、第2~第4実施形態、及び、変形例1~3にも適用可能である。すなわち、第2~第4実施形態、及び、変形例1~3に係る半導体基板製造装置500は、第5実施形態または変形例4のトレイ507を備えていてもよい。
【0303】
なお、ウェハWのオリエンテーション・フラットは、必ずしも、a軸方向に沿って形成されていなくてもよい。
【0304】
上記各実施形態及び各変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0305】
本開示は、高出力かつ高品質のレーザ光の出射が求められる半導体レーザ素子に好適である。
【符号の説明】
【0306】
1 波長ビーム結合(WBC)システム
10 基板部
20 n側半導体層
30 発光層
31 n側光ガイド層
32 活性層
33 p側光ガイド層
40 p側半導体層
41 P型電子障壁層
42 p側クラッド層
43 p側コンタクト層
50 p側電極
60 誘電体層
70 パッド電極
80 n側電極
100 半導体レーザバー
101 エミッタ
200 回折格子
300 外部共振ミラー
400 光学レンズ
500 半導体基板製造装置
501 原料供給装置
502 フローチャネル
503 サセプター
504、505、506 ヒータ
507 トレイ
508 支持部
509、510 傾斜面
G1 第1原料含有ガス
G2 第2原料含有ガス
G3 押えガス
G4 排気ガス
G5 ガス
W ウェハ
Ws 基板面