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  • 特開-電気めっき前処理用水溶液 図1
  • 特開-電気めっき前処理用水溶液 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177544
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】電気めっき前処理用水溶液
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/34 20060101AFI20231207BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C25D5/34
H05K3/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090275
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 通
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久始
【テーマコード(参考)】
4K024
5E343
【Fターム(参考)】
4K024AA09
4K024AB17
4K024BA09
4K024BA12
4K024BB11
4K024DA02
4K024DA03
4K024DA10
5E343AA07
5E343BB24
5E343DD33
5E343DD43
5E343DD44
5E343DD48
5E343GG01
5E343GG06
(57)【要約】
【課題】化学銅下地と電気銅めっき層との接続性を良好にする電気めっき前処理用水溶液および電気めっき前処理方法を提供することである。
【解決手段】
電気めっき前処理用水溶液が、次工程の電気めっき液中のハロゲンイオンおよび/または非イオン性界面活性剤からなる平滑化処理成分と同一の前処理成分を含み、
前記前処理成分の濃度は、次工程の電気めっき液中の前記平滑化処理成分の濃度より2倍以上高いものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次工程の電気めっき液中のハロゲンイオンおよび/または非イオン性界面活性剤からなる平滑化処理成分と同一の前処理成分を含む電気めっき前処理用水溶液であって、
前記前処理成分の濃度は、次工程の電気めっき液中の前記平滑化処理成分の濃度より2倍以上高いものである。
【請求項2】
請求項1記載の電気めっき前処理用水溶液であって、
前記ハロゲンイオンは塩素イオンである。
【請求項3】
請求項1記載の電気めっき前処理用水溶液であって、
前記非イオン性界面活性剤はポリエチレングリコールである。
【請求項4】
請求項1記載の電気めっき前処理用水溶液であって、
前記前処理成分の非イオン性界面活性剤は前記平滑化処理成分の非イオン性界面活性剤より分子量が小さいものである。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか1項記載の電気めっき前処理用水溶液を用いた電気めっき前処理方法であって、
前記電気めっき前処理用水溶液への被処理金属の浸漬中、前記被処理金属が酸化溶解に至らないように脱気するものである。
【請求項6】
請求項1から4までの何れか1項記載の電気めっき前処理用水溶液を用いた電気めっき前処理方法であって、
前記電気めっき前処理用水溶液を電解質とし、その電気めっき前処理用水溶液と被処理金属とに被処理金属が溶解しない電位を印加するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上の無電解めっき下地上に電気めっき層を設ける際の前処理に用いられる電気めっき前処理用水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上でバイアホール底やバンプ等を形成する電気銅めっき層上に無電解めっきで化学銅皮膜の下地を設け、その化学銅下地上に電気めっきでバイアホール導体や電極導体となる電気銅めっき層を設ける場合がある。
【0003】
この場合に、電気めっき液中に平滑化処理成分として塩化物や界面活性剤を添加することで電気銅めっき層の表面の平滑化を行う方法が、例えば特許文献1や特許文献2に先行技術として記載されて知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-256484号公報
【特許文献2】特開2002-363790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記の方法では、化学銅下地上に電気めっきを施して電気銅めっき層を接続すると、電気銅めっきの結晶の成長方向が揃わないため化学銅下地との間で結晶の連続性が得られず、化学銅下地に対する電気銅めっき層の接続性が良好でなく電気銅めっき層が化学銅下地から剥がれ易いという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、化学銅下地と電気銅めっき層との接続性を良好にする電気めっき前処理用水溶液および電気めっき前処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気めっき前処理用水溶液は、次工程の電気めっき液中のハロゲンイオンおよび/または非イオン性界面活性剤からなる平滑化処理成分と同一の前処理成分を含み、
前記前処理成分の濃度は、次工程の電気めっき液中の前記平滑化処理成分の濃度より2倍以上高いものである。
【0008】
なお、前記ハロゲンイオンは塩素イオンであると好ましい。また、前記非イオン性界面活性剤はポリエチレングリコールであると好ましい。さらに、前処理成分の非イオン性界面活性剤は前記平滑化処理成分の非イオン性界面活性剤より分子量が小さいものであると好ましい。
【0009】
そして、前記電気めっき前処理用水溶液を用いた本発明の電気めっき前処理方法は、
前記電気めっき前処理用水溶液への被処理金属の浸漬中、前記被処理金属が酸化溶解に至らないように脱気する、および/または、
前記電気めっき前処理用水溶液を電解質とし、その電気めっき前処理用水溶液と被処理金属とに被処理金属が溶解しない電位を印加するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の電気めっき前処理用水溶液を用いた、本発明の一実施形態の電気めっき前処理方法による前処理の初期状態を模式的に示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態の電気めっき前処理用水溶液を用いた、本発明の一実施形態の電気めっき前処理方法による前処理の最終状態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態の電気めっき前処理用水溶液を用いた、本発明の一実施形態の電気めっき前処理方法が図面に基づいて説明される。図1は、その電気めっき前処理方法による前処理の初期状態を模式的に示す説明図であり、図2は、その電気めっき前処理方法による前処理の最終状態を模式的に示す説明図である。
【0012】
図1および図2に示す実施形態の電気めっき前処理方法は、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上でバイアホール底やバンプ等を形成する電気銅めっき層上に無電解めっきで化学銅皮膜の下地を設け、その化学銅下地上に電気めっきでバイアホール導体や電極導体となる電気銅めっき層を設ける際に、その電気めっきを行う前の前処理に適用されるものであり、この実施形態の前処理方法では、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上でバイアホール底やバンプ等を形成する図示しない電気銅めっき層上に無電解めっきで化学銅皮膜の下地1を設けた後、その下地1を設けたプリント配線板を前処理液2に浸漬して下地1の表面を前処理する。
【0013】
この前処理液2は、次工程の電気めっき液中に含まれるめっき表面の平滑化処理成分であるハロゲンイオンの一種である塩化物イオンとしての例えば塩素イオンClと同一である塩素イオンClを前処理成分として含み、この塩素イオンClの濃度は、次工程の電気めっき液中の平滑化処理成分としての塩素イオンClの濃度より2倍以上高いものとされる。すなわち、電気めっき液中の塩素イオン濃度が30ppmであれば、前処理液2中の塩素イオン濃度は60ppm以上とされる。
【0014】
前処理液2とする水溶液には、例えば硫酸HSO等の電解質のものを用いることができ、この水溶液と被処理金属としての下地1とに、下地1を陽極として、下地1が溶解しない程度の例えば0.5Vの低電位の電圧を印加することで、図1に示すように前処理液2中に浮遊する塩素イオンCl(図ではAで示す)を、図2に示すように下地1の表面に吸着させ、これにより、下地1の表面を塩素イオンClで覆って下地1の表面のテラスを広げ、下地1の表面の原子レベルでの平滑化を促進するとともに、下地1の表面に事前に付着していた有機物等の汚染物を除去する。なお、この電位は、水の電気分解がおこらず、かつ陰イオンを引き付けることが可能な電位である。
【0015】
なお、この前処理の際には、前処理液2中の溶存酸素で下地1の金属としての化学銅が酸化溶解に至らないように、前処理液2中の溶存酸素の脱気が行われることが望ましい。脱気の方法としては、前処理液2の液面に接する空気を減圧してその空気中の酸素分圧を下げる等、種々の方法を用いることができる。
【0016】
このようにして前処理を行った後、下地1を設けたプリント配線板の表面を水洗してから、次工程で、その下地1を設けたプリント配線板を図示しない次槽の電気めっき液中に浸漬し、化学銅からなる下地1の表面上に通常の方法で電気めっきを施して電気銅めっき層を接続する。このような塩素イオンCl等のハロゲンイオンは、下地1を設けたプリント配線板に付着して次槽に持ち出されることがない。従って、前処理液2での高濃度溶液設定が可能である。
【0017】
この実施形態の前処理液2を用いたこの実施形態の前処理方法での前処理の後に行う電気めっきで形成した電気銅めっき層は、原子レベルにおいて下地1の化学銅の表面に対し高い連続性を得ることができる。
【0018】
従って、この実施形態の前処理液2を用いたこの実施形態の前処理方法によれば、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上でバイアホール底やバンプ等を形成する電気銅めっき層上に無電解めっきで化学銅皮膜の下地1を設け、その下地1の表面上に電気めっきでバイアホール導体や電極導体となる電気銅めっき層を設ける場合に、下地1に対するバイアホール導体や電極導体の電気銅めっき層の接続性を向上させてそれらの電気銅めっき層を下地1に対し剥がれにくくすることができるとともに、下地1とその上のバイアホール導体や電極導体との界面におけるボイドの発生を大幅に低下させて下地1とその上のバイアホール導体や電極導体との間の電気抵抗を低減させることができる。
【0019】
この発明の他の一実施形態の電気めっき前処理液は、先の実施形態の電気めっき前処理液におけるハロゲンイオンとしての塩素イオンClに代えて、もしくは加えて、非イオン性界面活性剤としての例えばポリエチレングリコール(PEG)を前処理成分として含み、このPEGの濃度は、次工程の電気めっき液中の平滑化処理成分としてのPEGの濃度より2倍以上高いものとされており、他の点は先の実施形態と同様とされている。電気めっき液中のPEG濃度が1g/Lの場合は、前処理液中のPEG濃度は2g/L以上とされる。
【0020】
また、この実施形態の電気めっき前処理液における前処理成分としてのPEGは、電気めっき液中のPEGよりも分子量が小さいものとされる。すなわち、電気めっき液中の界面活性剤がPEG2000の場合は、前処理液中のPEGの分子量は200~1600、好ましくは400とされる。
【0021】
この実施形態の電気めっき前処理液を用い、先の実施形態の前処理方法と同様にして電圧印加および脱気を行いつつ、下地を設けたプリント配線板の前処理を行った後、そのプリント配線板の表面を水洗してから、次工程で、そのプリント配線板を図示しない次槽の電気めっき液中に浸漬し、化学銅からなるその下地の表面上に通常の方法で電気めっきを施して電気銅めっき層を接続する。このようなPEG等の非イオン性界面活性剤も、下地を設けたプリント配線板に付着して次槽に持ち出されることがない。従って、前処理液での高濃度溶液設定が可能である。
【0022】
この実施形態の前処理液を用いたこの実施形態の前処理方法での前処理でも、PEGが銅イオンを包接して下地表面に吸着され、銅原子の表面拡散を推進して下地表面の平滑化を促すので、その後に行う電気めっきで形成した電気銅めっき層も、原子レベルにおいて下地の化学銅の表面に対し高い連続性を得ることができる。
【0023】
従って、この実施形態の前処理液を用いたこの実施形態の前処理方法によっても、プリント配線板の絶縁基板上や絶縁層上でバイアホール底やバンプ等を形成する電気銅めっき層上に無電解めっきで化学銅皮膜の下地を設け、その下地の表面上に電気めっきでバイアホール導体や電極導体となる電気銅めっき層を設ける場合に、下地に対するバイアホール導体や電極導体の電気銅めっき層の接続性を向上させてそれらの電気銅めっき層を下地に対し剥がれにくくすることができるとともに、下地とその上のバイアホール導体や電極導体との界面におけるボイドの発生を大幅に低下させて下地とその上のバイアホール導体や電極導体との間の電気抵抗を低減させることができる。
【0024】
以上、実施形態に基づき説明したが、この発明は上記実施形態に限定されず、例えばハロゲンイオンとして塩素イオンの代りにヨウ素イオンや臭素イオン等を用いても良く、また非イオン性界面活性剤としてPEGの代りにPPG(ポリプロピレングリコール)等を用いても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 下地
2 前処理液
図1
図2