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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177553
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】人工肺
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/18 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090285
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 護
(72)【発明者】
【氏名】木原 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】柏原 進
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077BB06
4C077CC06
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077JJ03
4C077JJ16
4C077KK15
4C077LL05
4C077PP14
4C077PP15
4C077PP16
4C077PP18
(57)【要約】
【課題】線速度の上昇を抑制する。
【解決手段】人工肺130は、複数の中空糸からなる中空糸層Lが複数積層されて構成されており、ガス交換機能を有する中空糸集束体133Bと、中空糸集束体133Bを収容するハウジング131とを備え、中空糸集束体133Bは、外径が大きい太径中空糸3aを含む外側部OPと、外径が小さい細径中空糸3bを含む内側部IPとを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸からなる中空糸層が複数積層されて構成されており、ガス交換機能を有する中空糸集束体と、
前記中空糸集束体を収容するハウジングとを備え、
前記中空糸集束体は、外径が大きい太径中空糸を含む外側部と、外径が小さい細径中空糸を含む内側部とを有する、人工肺。
【請求項2】
複数の前記中空糸が巻き付けられているコアをさらに備え、
前記内側部は、前記外側部よりも前記コアに近い領域に位置している、請求項1に記載の人工肺。
【請求項3】
前記内側部の前記中空糸層の円周方向においては、複数の前記細径中空糸が並んで配置されており、
前記外側部の前記中空糸層の円周方向においては、複数の前記太径中空糸が並んで配置されている、請求項1又は2に記載の人工肺。
【請求項4】
前記人工肺の半径方向において、前記内側部の半径は、前記中空糸集束体の半径の二分の一以下から三分の一以上の範囲に設定されている、請求項1又は2に記載の人工肺。
【請求項5】
前記内側部の前記細径中空糸の充填率は、前記外側部の前記太径中空糸の充填率以下である、請求項1又は2に記載の人工肺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス交換機能を有する中空糸集束体を備える人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、気泡除去部と酸素加部とを同一のハウジング内に備える中空糸膜型人工肺が記載されている。この気泡除去部は、血液中の気泡を除去する。また、酸素加部は、中空糸膜を介して酸素あるいは酸素を主体とするガスにより血液のガス交換を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-111837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような人工肺においては、酸素加部が多数の中空糸を含んでいる。そして、多数の中空糸は、その外径が同一となるように形成されている。また、血液は、酸素加部の中空糸同士の間の隙間を流れる。ここで、配列される中空糸の数である配糸数を増やすと、隣合う中空糸同士の隙間が狭まるために線速度(又は血流速度)が上昇してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様に係る人工肺は、複数の中空糸からなる中空糸層が複数積層されて構成されており、ガス交換機能を有する中空糸集束体と、前記中空糸集束体を収容するハウジングとを備え、前記中空糸集束体は、外径が大きい太径中空糸を含む外側部と、外径が小さい細径中空糸を含む内側部とを有する。
【発明の効果】
【0006】
これにより、線速度の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】体外循環システムの概略図である。
図2】人工肺の概略断面図である。
図3】中空糸集束体の概略断面図である。
図4】中空糸層における中空糸の配置の一例の説明図である。
図5】中空糸層における中空糸の配置の他の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置又は方法の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。
【0009】
[体外循環システム]
図1に示す体外循環システム100は、患者Pの血液の循環動作と、ガス交換としての血液に対する酸素の付加及び二酸化炭素の除去とを行う。一例として、体外循環システム100は、脱血回路の一例である脱血ライン112と、血液を移送する送血回路の一例である送血ライン113とを備えている。また、体外循環システム100は、脱血した血液を貯留する貯血槽であるリザーバ120を備えている。そして、脱血ライン112は、脱血した血液をリザーバ120に移送する。また、体外循環システム100は、送血ライン113を介して送血側血液を患者Pの体内へ送血する送血ポンプ114を備えている。さらに、体外循環システム100は、血液中の二酸化炭素を除去して血液に酸素を付加する人工肺130を備えている。
【0010】
脱血ライン112においては、不図示の脱血カニューレ等を介して患者Pから脱血した血液が、リザーバ120に向かって流れる。一例として、血液は、患者Pの上大静脈及び下大静脈から脱血される。そして、リザーバ120は、脱血された血液を一時的に貯留する。このリザーバ120は、ハードシェル型の貯血槽であり、血液ライン116によって人工肺130と接続されている。また、リザーバ120内の血液は、送血ポンプ114によって人工肺130に送られ、送血ライン113を介して患者Pに循環される。すなわち、送血ポンプ114によって送血される血液は、送血ライン113を通り、不図示の送血カニューレ等を介して患者Pの大動脈に向かって流れる。
【0011】
脱血ライン112、送血ライン113及び血液ライン116は、一例として、ポリ塩化ビニルにより形成されたチューブを有している。また、脱血ライン112には、脱血流量を検知するセンサ、血液濃度を検知するセンサ、及び酸素濃度を検知するセンサが接続されてもよい。また、送血ライン113には、送血流量を検知するセンサ、血液濃度を検知するセンサ、及び酸素濃度を検知するセンサが設けられていてもよい。
【0012】
患者Pの体外に脱血又は誘導された酸素加前の静脈血は、リザーバ120に貯血された後に人工肺130へ送血される。代替的に、リザーバ120は、静脈血に代えて動脈血を貯留してもよい。この場合、脱血された血液は、脱血ライン112から人工肺130へと流れる。そして、人工肺130は、血液中の二酸化炭素を排出して血液に酸素を付加する。その後、動脈血は、人工肺130からリザーバ120へと流れて、リザーバ120において一時的に貯留される。
【0013】
送血ポンプ114は、モータによりインペラ羽根を回転させて、人工肺130に送血する遠心ポンプである。この送血ポンプ114によって、リザーバ120に貯留された血液が、血液ライン116を介して吸引され且つ人工肺130に移送される。また、送血ポンプ114のモータは、不図示の制御装置から出力される制御信号によって回転数が制御される。そして、送血ポンプ114は、増減される回転数に応じた流量の血液を送血する。代替的に、送血ポンプ114は、回転ローラがチューブを押し潰しながら回転移動することによりチューブ内の血液を吸引及び押し出すローラポンプであってもよい。
【0014】
[人工肺]
図2を参照して、人工肺130について説明する。なお、図2は、人工肺130の概略断面図であるが、説明の便宜上、人工肺130を構成する一部の構成要素の図示が省略されている。
【0015】
人工肺130は、気体透過性に優れた中空糸(以下、中空糸膜ともいう)を有するガス交換部の一例としてガス交換エレメント133Bを備えている。また、人工肺130は、ガス供給部(不図示)に接続されており、酸素加用の気体はガス供給部から人工肺130に供給される。例えば、この気体は、酸素、又は酸素及び空気からなる混合ガスであり、必要に応じて二酸化炭素がさらに加えられる。そして、人工肺130は、リザーバ120から送血された静脈血(以下、血液ともいう)から二酸化炭素を除去して酸素を付加する。すなわち、人工肺130は、ガス交換エレメント133Bを介して静脈血を動脈血化する。また、人工肺130は、血液の温度を調整するための熱交換部(不図示)を有している。
【0016】
また、人工肺130は、センターコア132を有する略円筒状のハウジング131を備えている。このセンターコア132は、ハウジング131の内部中央に配置されている。また、人工肺130は、気泡分離部の一例である気泡分離フィルタ133Aを備えている。気泡分離フィルタ133Aは、不図示の熱交換部の外周に配置されている気液分離フィルタであり、静脈血から気泡を分離する。さらに、人工肺130は、ガス交換部の一例であるガス交換エレメント133Bを備えている。ガス交換エレメント133Bは、センターコア132の周りに配置されている中空糸の集束体である。
【0017】
気泡分離フィルタ133A及びガス交換エレメント133Bは、ガス交換エレメント133Bがセンターコア132側に配置されるように、一体となって筒状に集束されている。そして、ハウジング131は、ガス交換エレメント133Bとしての中空糸集束体を収容している。
【0018】
ガス交換エレメント133Bとしての中空糸集束体は、多数の中空糸からなる中空糸層L(図4)が複数積層されて構成されている。そして、ガス交換エレメント133Bは、中空糸の内側を通るガスと血液中のガスを交換するガス交換機能を有する。また、中空糸集束体の両端部は、例えばウレタン樹脂からなるポッティング材である支持体134によって固定される。これにより、中空糸集束体の両端部は、支持体134によってハウジング131の内壁面に気密にシールされている。
【0019】
中空糸集束体の両端部は、中空糸の内部の中空部を開口状態に保ったまま、ハウジング131の内部において固定されている。そして、中空糸の外側の空間は、中空糸の内部に連通する空間とは液密に隔てられている。また、センターコア132は、例えばポリプロピレン等の樹脂製であり、中空糸集束体の中央に配置されている。そして、中空糸集束体の端部は、支持体134によって固定及び保持されている。
【0020】
ガス交換エレメント133Bの一端部は、ガスが流入する空間に開口している。具体的に、ガス交換エレメント133Bの図2中の上側の端部は、酸素加用の気体入口の一例であるガス入口135と連通する空間に開口している。そして、酸素加用の気体であるガスは、ガス入口135から当該空間へ流入する。また、ガス交換エレメント133Bの図2中の下側の端部は、酸素加用の気体出口の一例であるガス出口136と連通する空間に開口している。
【0021】
センターコア132の図2中の上方には、動脈血(以下、血液ともいう)が流出する血液出口137が、支持体134を貫通して設けられている。そして、血液出口137は、センターコア132の周囲の空間に連通している。また、略円筒状のハウジング131の側壁の図2中の下部には、静脈血が流入する血液入口138が設けられている。さらに、センターコア132の外径は、血液出口137に向かって連続的に大きくなっている。
【0022】
センターコア132の外周面には、センターコア132の軸方向に沿って延在する複数のリブが、配置されている。これらのリブは、放射状に等間隔に配置されており、例えば、リブの数は八本である。そして、各リブの高さは、センターコア132の血液出口137側の部分が低く、その反対側の部分が高くなるように、徐々に高くなっている。また、リブの先端である頂点を結ぶ仮想的な外周円の径は、センターコア132の全長に渡って同一である。そして、リブ同士の間には溝部が形成され、この溝部が血液の流路139Aとして機能する。
【0023】
また、センターコア132には、ガス交換エレメント133Bが巻き付けられている。そして、リブによって、ガス交換エレメント133Bとセンターコア132との間に隙間が形成される。これにより、ガス交換エレメント133Bとセンターコア132の表面との間には、流路139Aが形成される。この流路139Aの幅は、血液出口137に近づくにつれて広くなる。また、ガス交換エレメント133Bの外側には、気泡分離フィルタ133Aが巻き付けられている。そして、気泡分離フィルタ133Aの外周部とハウジング131の内壁面との間には、血液の流路139Bが形成されている。また、気泡分離フィルタ133Aは、血液から気泡を分離して除去する機能を有する。
【0024】
ガス交換エレメント133Bに用いられる中空糸膜は、気体に対する透過性を有するとともに、液体に対する不透過性を有する。そのため、血液等の液体は、中空糸膜を透過できない。一例として、中空糸膜は多孔質膜又は均質膜であり、ポリオレフィン、ポリスルホン、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂等から形成される。多孔質膜である中空糸膜は、血液に接する側の面をフッ素樹脂又はシリコーン樹脂等からなる疎水性被膜によってコーティングしてもよい。これにより、長時間に渡って中空糸膜を使用でき、特にシリコーンコートされた多孔質膜は長時間に渡って使用できる。
【0025】
図2において破線の矢印で示す酸素加用の気体は、ガス入口135から流入し、ガス交換エレメント133Bの開口部を通って中空である中空糸の内部に流入する。そして、中空糸の外側を血液が流れ、中空糸の内部を酸素加用の気体が流れる。このとき、中空糸の外部と内部との酸素の分圧差により、中空糸の内部の酸素加用の気体は、中空糸の表面を透過して外部に移動する。そして、外部に移動した酸素加用の気体は血液の中に拡散する。同時に、中空糸の外部と内部との二酸化炭素の分圧差により、血液中の二酸化炭素は、中空糸の表面を透過して中空糸の内部に移動する。そして、内部に移動した二酸化炭素は、中空糸の内部を流れるガスの中に拡散する。このようにしてガス交換が行われ、中空糸の内部を通過したガスは、ガス出口136からハウジング131の外部に排出される。
【0026】
患者Pの体外に脱血又は誘導された酸素付加前の静脈血は、リザーバ120から人工肺130へ送血される。そして、図2において実線の矢印で示す血液は、血液入口138から流入して流路139Bを通過する。さらに、血液は、流路139Bから気泡分離フィルタ133Aを通って、ハウジング131の内側に向かって流れる。そして、血液中の気泡は、ハウジング131の上部に設けられているパージポート(不図示)からハウジング131の外部へ排出される。その後、熱交換部(不図示)によって、静脈血が温調される。
【0027】
さらに、気泡が除去された血液は、ガス交換エレメント133Bの中空糸同士の間の隙間を通って、ハウジング131の内側に向かって流れる。そして、血液は、この隙間を通る間に中空糸の表面に接触し、血液と酸素加用の気体との間でガス交換が行われる。また、ガス交換エレメント133Bの中空糸は、交差して巻き付けられている。そのため、血液は、中空糸の表面に確実に接触して効率的にガス交換が行われる。
【0028】
ガス交換エレメント133Bを通過してガス交換された動脈血からは、ガス交換エレメント133Bの内側に配置された凝固塊分離部の一例である凝固塊分離フィルタ(不図示)によって凝固塊が分離される。その後、動脈血は、流路139Aを通り、血液出口137から人工肺130の外部に流出する。そして、動脈血は、送血ライン113を通って患者Pへと送血され、患者Pの体内へ戻される。なお、体外循環システム100には、体外循環される血液中の気泡、異物及び白血球を除去するためのラインフィルタが設けられていてもよい。
【0029】
[中空糸集束体の製造方法]
中空糸集束体は、多数の中空糸をセンターコア132の外周に巻き付けることによって製造できる。一例として、中空糸は、中空糸巻き取り装置の取付軸にセンターコア132を取り付け、取付軸を一定の回転速度で所定の回数だけ回転させることによって、センターコア132の外周に巻き付けられる。このとき、取付軸の回転に同期させて、取付軸の外方に設けてある糸ガイドを、取付軸の軸線方向に沿って移動させる。これにより、糸ガイドの穴から繰り出される中空糸が、センターコア132の外周に巻き付く。また、中空糸は、複数の中空糸を一組として巻き付けられ、例えば六本の中空糸が一組として巻き付けられる。なお、中空糸を交差状に巻き付けることに代えて、他の態様によって中空糸を巻き付けてもよい。
【0030】
糸ガイドは、例えばセンターコア132の一端部から他端部へ一定の速さで移動する。そして、他端部まで移動した糸ガイドは、移動方向を逆に変え、再び一定の速さで他端部から一端部へ移動する。所定の回数往復した後、糸ガイドは、異なる移動サイクルに従って移動する。このようにして、センターコア132の回りに多数の中空糸を交差状に巻き付けた中空糸集束体を得ることができる。その後、中空糸集束体をハウジング131内に挿入し、ハウジング131の端部にポッティング材を供給しながら、ハウジング131の長手方向と直交する軸線を中心にハウジング131を回転させる。そして、ポッティング材が硬化した後に、中空糸集束体の端部をポッティング材とともに切断する。なお、中空糸集束体における中空糸同士の間隔の長さは、一例として、糸ガイドに形成され且つ中空糸が通過する複数の穴同士の間隔によって調整される。
【0031】
[中空糸集束体]
図2から図4を参照して、中空糸集束体について説明する。なお、図3は中空糸集束体を流れる血液の説明図であり、図4は、中空糸集束体の一部の概略的な断面を示している。
【0032】
図3に示すように、中空糸集束体は、外径が大きい太径中空糸3aを含む外側部OPと、外径が小さい細径中空糸3bを含む内側部IPとを有する。また、内側部IPは、複数の中空糸が巻き付けられているコアの一例であるセンターコア132に近い領域に位置している。すなわち、内側部IPは、外側部OPよりもセンターコア132に近い内側の領域に位置している。言い換えると、太径中空糸3aからなる外側部OPは、細径中空糸3bからなる内側部IPの外側に巻き付けられている。そして、太径中空糸3aの周囲及び細径中空糸3bの周囲には、図3において実線の矢印によって示す血液が通る糸間流路が形成される。なお、図3においては、一本の矢印のみによって糸間流路を示している。ただし、実際には、他の太径中空糸3aの周囲及び他の細径中空糸3bの周囲にも糸間流路が形成される。
【0033】
また、図2に示すように、ガス交換エレメント133Bが、内側部IP及び外側部OPを含んでいる。さらに、外側部OPの少なくとも一部に細径中空糸3bが含まれてもよく、内側部IPの少なくとも一部に太径中空糸3aが含まれてもよい。この場合、中空糸層Lにおいて、太径中空糸3aと細径中空糸3bとが交互に並んで配置されていてもよい。ただし、内側部IPが細径中空糸3bのみから構成されていることによって、線速度の上昇をより抑制できる。
【0034】
また、センターコア132の中心線CLに直交する半径方向(又は積層方向LD)において、内側部IPの半径の長さは、センターコア132の半径の長さよりも短い。一例として、人工肺130の半径方向において、センターコア132の半径は15mmである。そして、半径方向における内側部IPの長さは10mmである。すなわち、内側部IPは、センターコア132の周囲において、中心線CLから15mm離れた位置から25mm離れた位置まで設けられている。なお、半径方向における内側部IPの長さは、2.5mm以上から10mm以下の範囲であってもよい。
【0035】
また、一例として、半径方向における外側部OPの長さは10mmである。すなわち、外側部OPは、内側部IPの周囲において、中心線CLから25mm離れた位置から35mm離れた位置まで設けられている。なお、半径方向における外側部OPの長さは、17.5mm以下から10mm以上の範囲であってもよい。また、半径方向における内側部IPの長さは、中心線CLとセンターコア132のリブの頂点を通る直線上において測定した長さである。一例として、内側部IPは、半径方向において、ガス交換エレメント133Bの二分の一以下から三分の一以上の範囲に設定される。例えば、ガス交換エレメント133Bの半径が30mmであるとすると、内側部IPの半径は、15mm以下から10mm以上の範囲に設定される。
【0036】
人工肺130においては、隣り合う中空糸同士の隙間が狭いと、血液が人工肺130の断面を通過する速度である線速度が上昇してしまう。線速度が上昇してしまうと、血液成分の活性化が生じて血液成分の凝固が生じてしまう可能性がある。ここで、内側部IPは、円周の長さが外側部OPよりも短い。そのため、内側部IPにおいては、中空糸同士の隙間の合計値、すなわち合計した隙間の広さが外側部OPよりも狭くなってしまう。そこで、図3に示すように、本実施形態の人工肺130においては、内側部IPが複数の細径中空糸3bを含んでいる。具体的には、図4に示すように、内側部IPの中空糸層Lの円周方向CD(図3)においては、複数の細径中空糸3bが互いに隣り合うように等間隔に並んで配置されている。そして、外側部OPの中空糸層Lの円周方向CDにおいては、複数の太径中空糸3aが互いに隣り合うように等間隔に並んで配置されている。
【0037】
これにより、内側部IPにおいては、太径中空糸3aと細径中空糸3bとの外径の差に対応する分だけ中空糸同士の隙間を広げることができる。例えば、図4に示す例では、太径中空糸3aの外径が0.3mmであり、細径中空糸3bの外径が0.2mmである。そして、内側部IPにおいては、外側部OPよりも隣り合う中空糸同士の隙間を広げることができる。具体的には、外側部OPにおける太径中空糸3a同士の隙間、すなわち隣り合う太径中空糸3aの外面間の最短部分の長さは、0.15mmであり、1.2mmの円周の範囲における隙間の合計値は0.3mmである。一方、内側部IPにおける細径中空糸3bの外面間の最短部分の長さは、0.13mmであり、1.2mmの円周の範囲における隙間の合計値は0.39mmである。このように、内側部IPにおいては、外側部OPよりも隣り合う中空糸同士の隙間の合計値が広い。図4の例では、内側部IPにおける隙間を、外側部OPの1.3倍に設定できる。
【0038】
なお、上記最短部分の長さは、中空糸の平均間隔と言い換えることができる。この平均間隔は、中空糸同士の間の隙間の平均的な長さであり、中空糸の中心軸と直交する直線に沿った長さである。そして、中空糸がセンターコア132の中心軸に対して斜めに巻かれている場合、平均間隔は、斜めに延びる中空糸の延在方向に沿った中心軸と直交する直線に沿った長さである。言い換えると、当該長さは、斜めに平行に巻き付けられている中空糸同士の間の距離である。一例として、細径中空糸3bの外径は、0.15mm以上から0.25mm以下の範囲に含まれる。また、公差を除けば、複数の細径中空糸3bの外径は、同一に設定されている。同様に、公差を除けば、複数の太径中空糸3aの外径は、同一に設定されている。
【0039】
内側部IPが細径中空糸3bを含むことにより、内側部IPにおける中空糸の配糸数を増加させても、人工肺130における線速度の上昇を抑制できる。さらに、内側部IPにおける中空糸の隙間の合計値を広くできる。すなわち、内側部IPにおける隙間の合計値と、外側部OPにおける隙間の合計値との差を小さくできる。なお、中空糸の配糸数は、隣り合う中空糸の中心軸方向における、隣り合う中空糸の中心軸間の長さを調整することによって増加させることができる。この中心軸間の長さは、中空糸の平均ピッチと言い換えることができる。図4の例では、外側部OPにおける平均ピッチが0.4mmであり、内側部IPにおける平均ピッチが0.33mmである。このように、平均ピッチを狭めることによって、配糸数を増加させることができる。
【0040】
一例として、平均ピッチ及び平均間隔は、中空糸集束体における、支持体134によって封止されている端部において測定及び算出できる。なお、中空糸集束体は、複数の中空糸からなる中空糸層Lが多数積層されて構成されている。この中空糸層Lは、積層方向LDと交差する配列方向に並んだ複数の中空糸から構成されている。そして、積層方向LDにおいては、中空糸同士が接触している。そのため、平均ピッチ及び平均間隔は、積層方向LDに直交する方向において測定及び算出される。この積層方向LDは、中空糸集束体の外面からセンターコア132に向かう方向である。
【0041】
さらに、内側部IPが細径中空糸3bを含むことにより、内側部IPにおける血液と中空糸の接触面積を増加させることができる。図4の例で説明すると、外側部OPにおいては、図中の紙面方向(すなわち奥行方向)にも太径中空糸3aが並んでいる。そのため、図中の上下方向の長さが0.6mmであり、図中の左右方向の長さが1.2mmであり、図中の紙面方向の長さが1.2mmである直方体によって外側部OPの仮想的な空間を画定すると、当該空間には六本の太径中空糸3aが含まれる。
【0042】
同様に、内側部IPにおいては、図中の紙面方向にも細径中空糸3bが並んでいる。そのため、図中の上下方向の長さが0.6mmであり、図中の左右方向の長さが1.2mmであり、図中の紙面方向の長さが1.2mmである直方体によって内側部IPの仮想的な空間を画定すると、当該空間には十二本の細径中空糸3bが含まれる。
【0043】
そして、上記仮想的な空間における太径中空糸3aと血液との接触面積、すなわち略円筒状である太径中空糸3aの外表面の面積は、太径中空糸3aの円周の長さ(0.942mm)を用いて算出できる。つまり、直方体内に配列されている太径中空糸3aの接触面積は、合計で6.78mm=6×(0.942mm×1.2)となる。また、上記仮想的な空間における細径中空糸3bと血液との接触面積、すなわち略円筒状である細径中空糸3bの外表面の面積は、細径中空糸3bの円周の長さ(0.628mm)を用いて算出できる。すなわち、直方体内に配列されている細径中空糸3bの接触面積は、合計で9.04mm=12×(0.628mm×1.2)となる。このように、図4の例では、内側部IPにおける接触面積を、外側部OPの約1.3倍に設定できる。これにより、血液と中空糸との接触面積及び接触時間を確保することができる。
【0044】
さらに、内側部IPの細径中空糸3bの充填率は、外側部OPの太径中空糸3aの充填率以下である。ここで、充填率とは、単位面積当たりの中空糸が占める面積の割合のことである。また、充填率は、中空糸集束体における、支持体134によって封止されている端部において測定及び算出できる。図4の例では、外側部OPの太径中空糸3aの充填率は、断面積が0.07mmであるため、0.51=0.07÷(0.3×(0.3+0.15))となる。そして、内側部IPの細径中空糸3bの単位面積1mm当たりの充填率は、断面積が0.03mmであるため、0.45=0.03÷(0.2×(0.2+0.13))となり、外側部OPよりも低い。これにより、糸間流路が狭まっても充填率を下げて抵抗の上昇を抑制できる。
【0045】
以上説明した本実施形態に係る人工肺130によれば、配糸数を増やしても線速度の上昇を抑制できるとともに、血液との接触面積及び接触時間を確保することができる。さらに、内側部IPの中空糸層Lにおける平均間隔を広げることができる。これにより、糸間流路が拡張される結果、圧力損失を減少させることができる。すなわち、送血ポンプ114によって血液を送血する際に、糸間流路が狭いと抵抗が大きくなる。その結果、より高い圧力で血液を送血する必要が生じる。高圧で血液を送血するためには、血液ライン116の耐圧性能を高める必要が生じてしまう。また、糸間流路が狭いと血液が流れ難くなってしまい、血液のよどみが生じる結果、血液が凝固して糸間流路が狭まり、血液がより流れ難くなってしまう。さらに、高圧で血液を流すと、せん断応力によって赤血球が破壊される可能性が生じてしまう。一方、本実施形態によれば、糸間流路が広いために抵抗が小さく、圧力損失を減少させることができる。その結果、より低圧で血液を送血できるとともに、血液が流れやすくなる。
【0046】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態、並びに各実施形態又は各変形形態に含まれる技術的手段は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0047】
例えば、図5に示すように、内側部IPの中空糸層Lにおける平均間隔と、外側部OPの中空糸層Lにおける平均間隔とが同一であってもよい。具体的に、図5の例では、内側部IPと外側部OPの中空糸層Lにおける平均間隔は、いずれも0.14mmである。そして、太径中空糸3aの外径が0.3mmであり、細径中空糸3bの外径が0.2mmである。そのため、外側部OPの中空糸層Lにおける平均ピッチは、0.44mmである。また、内側部IPの中空糸層Lにおける平均ピッチは、0.34mmである。
【0048】
図5において、7.48mmの長さの円周に渡って配列される中空糸を数えると、外側部OPの中空糸層Lにおける太径中空糸3aの数は十七本となる。そして、内側部IPの中空糸層Lにおける細径中空糸3bの数は二十二本となる。このように、内側部IPが細径中空糸3bを含むことによって、平均間隔を確保しながら、配糸数を増やすことができる。
【0049】
他の例として、内側部IPの中空糸層Lにおける平均間隔は、外側部OPの中空糸層Lにおける平均間隔よりも狭くともよい。また、内側部IPの中空糸層Lの一部分における平均間隔が、内側部IPの中空糸層Lの他の部分における平均間隔と異なっていてもよい。この場合には、内側部IPにおいて、細径中空糸3bが等間隔に並んでいない部分が生じる。さらに、外側部OPの中空糸層Lの一部分における平均間隔が、外側部OPの中空糸層Lの他の部分における平均間隔と異なっていてもよい。この場合には、外側部OPにおいて、太径中空糸3aが等間隔に並んでいない部分が生じる。
【0050】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0051】
(付記1)
複数の中空糸からなる中空糸層が複数積層されて構成されており、ガス交換機能を有する中空糸集束体と、
前記中空糸集束体を収容するハウジングとを備え、
前記中空糸集束体は、外径が大きい太径中空糸を含む外側部と、外径が小さい細径中空糸を含む内側部とを有する、人工肺。
【0052】
(付記2)
複数の前記中空糸が巻き付けられているコアをさらに備え、
前記内側部は、前記外側部よりも前記コアに近い領域に位置している、付記1に記載の人工肺。
【0053】
(付記3)
前記内側部の前記中空糸層の円周方向においては、複数の前記細径中空糸が並んで配置されており、
前記外側部の前記中空糸層の円周方向においては、複数の前記太径中空糸が並んで配置されている、付記1又は2に記載の人工肺。
【0054】
(付記4)
前記人工肺の半径方向において、前記内側部の半径は、前記中空糸集束体の半径の二分の一以下から三分の一以上の範囲に設定されている、付記1から3のいずれか一項に記載の人工肺。
【0055】
(付記5)
前記内側部の前記細径中空糸の充填率は、前記外側部の前記太径中空糸の充填率以下である、付記1から4のいずれか一項に記載の人工肺。
【符号の説明】
【0056】
3a :太径中空糸
3b :細径中空糸
131 :ハウジング
133B:ガス交換エレメント(中空糸集束体)
L :中空糸層
IP :内側部
OP :外側部
図1
図2
図3
図4
図5