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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177574
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】風雑音判定方法、騒音測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090313
(22)【出願日】2022-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔掲載日〕 令和4年1月18日 〔掲載アドレス〕 https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjsme/advpub/0/advpub_21-00291/_pdf/-char/ja
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】中島 康貴
(72)【発明者】
【氏名】中山 紬
(72)【発明者】
【氏名】土肥 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩永 景一郎
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】風雑音の影響を受けているか否かを判定する技術の提供。
【解決手段】ウィンドスクリーン10の内部の風速差が生じる位置にマイクロホン21,22が配置されている。演算部41は、測定用マイクロホンの出力信号に基づいて測定値を算出し(S1)、各マイクロホンの出力信号から所定の周波数成分を抽出して各音圧レベルを算出し(S2)、2つのマイクロホンの音圧レベル差Ldを算出して(S3)、音圧レベル差Ldが予め定められた閾値Ltを超えていれば(S4:Yes)、算出された測定値が風雑音の影響を受けていると判定してマークを付ける(S5)。このような構成により、音圧レベル差Ldと閾値Ltとを比較するだけで風雑音の影響を受けているか否かを客観的かつ容易に判定することができ、統計処理の際には、マークが付された測定値を除外するだけで風雑音を含んでいる可能性の高い測定値を除外できるため、手間を大幅に削減できる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体とみなせるウィンドスクリーンの内部の異なる位置に配置された複数のマイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の前記特定の周波数成分に関する特定評価値を算出する第1算出工程と、
前記複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、前記特定評価値の差分又は比を算出する第2算出工程と、
いずれかの前記組み合わせについて算出された前記差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する判定工程と
を含む風雑音判定方法。
【請求項2】
大きさ、形状、材料、密度、単位体積当りの空洞の数を含む要素のうち少なくとも1要素が異なるウィンドスクリーンを含む、近接した複数のウィンドスクリーンの各内部に少なくとも1つずつ配置された複数のマイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の前記特定の周波数成分に関する特定評価値を算出する第1算出工程と、
前記複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、前記特定評価値の差分又は比を算出する第2算出工程と、
いずれかの前記組み合わせについて算出された前記差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する判定工程と
を含む風雑音判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の風雑音判定方法において、
前記第1算出工程では、
前記複数のマイクロホンの出力信号を複数の周波数帯域に分割して、周波数帯域毎に各マイクロホンに入力した音の当該周波数帯域に関する帯域評価値を算出し、
前記第2算出工程では、
前記組み合わせについて、前記周波数帯域毎に前記帯域評価値の差分又は比を算出し、
前記判定工程では、
風雑音の影響を受けているか否かの判定を前記周波数帯域毎に実行し、いずれかの前記組み合わせについて算出された或る周波数帯域での前記帯域評価値の差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記或る周波数帯域に関する前記帯域評価値が風雑音の影響を受けていると判定することを特徴とする風雑音判定方法。
【請求項4】
一体とみなせるウィンドスクリーンと、
前記ウィンドスクリーンの内部の異なる位置に配置された複数のマイクロホンと、
各マイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の前記特定の周波数成分に関する特定評価値を算出する第1算出部と、
前記複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、前記特定評価値の差分又は比を算出する第2算出部と、
いずれかの前記組み合わせについて算出された前記差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する判定部と
を備えた騒音測定システム。
【請求項5】
大きさ、形状、材料、密度、単位体積当りの空洞の数を含む要素のうち少なくとも1要素が異なるウィンドスクリーンを含む、近接して設置された複数のウィンドスクリーンと、
前記複数のウィンドスクリーンの各内部に少なくとも1つずつ配置された複数のマイクロホンと、
各マイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の前記特定の周波数成分に関する特定評価値を算出する第1算出部と、
前記複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、前記特定評価値の差分又は比を算出する第2算出部と、
いずれかの前記組み合わせについて算出された前記差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する判定部と
を備えた騒音測定システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の騒音測定システムにおいて、
前記第1算出部は、
前記複数のマイクロホンの出力信号を複数の周波数帯域に分割して、周波数帯域毎に各マイクロホンに入力した音の当該周波数帯域に関する帯域評価値を算出し、
前記第2算出部は、
前記組み合わせについて、前記周波数帯域毎に前記帯域評価値の差分又は比を算出し、
前記判定部は、
風雑音の影響を受けているか否かの判定を前記周波数帯域毎に実行し、いずれかの前記組み合わせについて算出された或る周波数帯域での前記帯域評価値の差分又は前記比が所定の閾値を超える場合に、前記或る周波数帯域に関する前記帯域評価値が風雑音の影響を受けていると判定することを特徴とする騒音測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音の測定において風雑音の影響を受けているか否かを判定する方法、及び、その方法を適用した騒音測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
音を測定する際には、マイクロホンの振動膜を保護するために、ウィンドスクリーンと称されるスポンジ状の覆いをマイクロホンに装着するのが一般的である。ウィンドスクリーンの存在により、その内部に流入する風が弱くなることから、マイクロホンに風が当たって発生する風雑音の影響を低減することができる。屋外での測定においては、大型のウィンドスクリーンや二重構造のウィンドスクリーン等が使用されている。
【0003】
ところで、航空機騒音や道路交通騒音のような環境騒音の測定においては、大きな風雑音が発生すると、本来測定すべき対象の騒音測定値に影響を与え、場合によっては測定対象の騒音を覆い隠してしまうこともある。このような場合には、風雑音そのものや風雑音を含んだ音を測定することとなるため、対象の騒音を正確に測定することができず、測定結果に誤りを生む要因となる。したがって、測定値が測定対象音によるものであるか風雑音を含むものであるかの判別は極めて重要である。
【0004】
このような課題に対し、従来は、作業者が風速計の指示値を参考にしながら判断したり、或いは、騒音レベルの観測とともに実音を収録しておき、怪しいと思われるものについては実音を聞いて確認したりしていた。また、特許文献1~4には、測定対象音の測定に先立ち、測定対象音が存在しない環境にて様々な風速の下で測定用のマイクロホンで風雑音のエネルギーを周波数帯域毎に測定しておき、この値を測定値から差し引いて補正を行うことにより、風雑音の影響を受けない測定対象音のエネルギーを算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-24604号公報
【特許文献2】特開2015-155923号公報
【特許文献3】特開2017-223708号公報
【特許文献4】特開2019-197074号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】環境省,「騒音に係る環境基準の評価マニュアル 一般地域編」,平成27年10月,p.16-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、測定対象となる騒音はその周波数が広範囲にわたっていることが多く、作業者が収録された実音を聴いて風雑音の影響を判断することは非常に困難である。特に自動車や航空機のエンジン音では、風雑音との区別がつかない場合が多い。また、上記の特許文献1~4に開示された方法では、事前に測定された風雑音のエネルギーで補正を行っているが、風向や風速は時々刻々と変化するものであるため、正確に補正がなされている訳ではない。
【0008】
さらに、環境省発行のマニュアル等(例えば、非特許文献1)においては、騒音の測定において測定値に対象外の要因が影響していると考えられる場合には、補正を行うのではなく、測定値を評価の対象から除外するよう要請されている。したがって、測定値が風雑音の影響を受けているか否かを客観的に判別するための手法が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、風雑音の影響を受けているか否かを判定する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の風雑音判定方法及びその方法を適用した騒音測定システムを採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
すなわち、本発明の風雑音判定方法及び騒音測定システムでは、一体とみなせるウィンドスクリーンの内部の異なる位置に配置された複数のマイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の特定の周波数成分に関する特定評価値を算出し、複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、特定評価値の差分又は比を算出し、いずれかの組み合わせについて算出された差分又は比が所定の閾値を超える場合に、出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する。
【0012】
或いは、本発明の風雑音判定方法及び騒音測定システムでは、大きさ、形状、材料、密度、単位体積当りの空洞の数を含む要素のうち少なくとも1要素が異なるウィンドスクリーンを含む、近接した複数のウィンドスクリーンの各内部に少なくとも1つずつ配置された複数のマイクロホンの出力信号から特定の周波数成分を抽出し、各マイクロホンに入力した音の特定の周波数成分に関する特定評価値を算出し、複数のマイクロホンから2つを取り出した組み合わせについて、特定評価値の差分又は比を算出し、いずれかの組み合わせについて算出された差分又は比が所定の閾値を超える場合に、出力信号に基づいて算出される評価値が風雑音の影響を受けていると判定する。
【0013】
一体とみなせるウィンドスクリーンの内部では、位置により風速差が生じるため、位置が異なれば風雑音の大きさも異なる。また、大きさ、形状、材料、密度、単位体積当りの空洞の数等の要素のうち少なくとも1要素が異なる複数のウィンドスクリーンに同じ風速の風が当たっても、ウィンドスクリーンに関する要素が異なれば生じる風雑音の大きさも異なる。上述した態様の風雑音判定方法及び騒音測定システムでは、この点を利用し、2つのマイクロホンを用いて測定した結果に基づいて、2つのマイクロホンについての特定評価値(例えば、各マイクロホンに入力した音の特定の周波数成分に関する音圧レベル)の差分又は比の許容値を閾値として予め定めている。
【0014】
具体的には、一体とみなせるウィンドスクリーンの内部の異なる位置に配置された複数のマイクロホン、又は、上記のいずれかの要素が異なるウィンドスクリーンを含む複数のウィンドスクリーンの各内部に少なくとも1つずつ配置された複数のマイクロホンについて算出される特定評価値は、風が弱い時には差がほとんど生じないため、2つのマイクロホンについての特定評価値の差分や比は閾値を超えない。これに対し、風が強い時、すなわち風雑音の影響が大きい場合には、2つのマイクロホンについての特定評価値の差分や比が閾値を超える。
【0015】
このように、上述した態様の風雑音判定方法及び騒音測定システムによれば、測定値が風雑音の影響を受けているか否か(所望の音源を測定できているか)を、2つのマイクロホンについての特定評価値の差分や比を予め定めた閾値と比較するだけで客観的かつ容易に判定することができるため、風雑音に関連して生じていた人手を要する作業を自動化することができ、作業の手間を大幅に削減することができる。また、風雑音の影響を受けていると判定された測定値を一定周期毎に実行する統計処理から除外することで、騒音測定に関する統計データの信頼性を高めることができる。
【0016】
より好ましくは、上述した態様の風雑音判定方法及び騒音測定システムにおいて、複数のマイクロホンの出力信号を複数の周波数帯域に分割して、周波数帯域毎に各マイクロホンに入力した音の周波数帯域に関する帯域評価値を算出し、複数のマイクロホンから2つを取り出した上記の組み合わせについて、周波数帯域毎に帯域評価値の差分又は比を算出し、判定に際しては、風雑音の影響を受けているか否かの判定を周波数帯域毎に実行し、いずれかの組み合わせについて算出された或る周波数帯域での帯域評価値の差分又は比が所定の閾値を超える場合に、或る周波数帯域に関する帯域評価値が風雑音の影響を受けていると判定する。
【0017】
この態様の風雑音判定方法及び騒音測定システムによれば、各工程での処理が分割された周波数帯域毎に実行されるため、周波数帯域毎の測定値が要求されるケースに対応することができ、周波数帯域毎の測定値が風雑音の影響を受けているか否かを、閾値を用いた判定により周波数帯域毎に客観的かつ容易に判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、風雑音の影響を受けているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態の騒音測定システム100を示す構成図である。
図2】閾値を定めるために行った風雑音のレベルの測定について説明する図である。
図3】風速と音圧レベルとの関係を示す図である。
図4】風速を1m/s毎に区分した場合の音圧レベル差の平均値を示す図である。
図5】測定値の算出に伴って実行される処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態の騒音測定システム200を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0021】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態の騒音測定システム100を示す構成図である。
騒音測定システム100は、ウィンドスクリーン10と、ウィンドスクリーン10の内部の異なる位置に配置された複数のマイクロホン20と、各マイクロホン20の出力信号を処理する処理装置40とで構成されている。
【0022】
図示の例においては、ウィンドスクリーン10は、発泡ウレタン等の多孔質材で形成され、直径が異なる2つの円柱が上下に略同軸上に連結された形状をなしており、マイクロホン20は、そのようなウィンドスクリーン10の内部に2つ配置されている。具体的には、ウィンドスクリーン10は、上側に第1円柱部11を有し、下側に第1円柱部11より直径が大きい第2円柱部12を有しており、第1円柱部11の底部略中央に第1マイクロホン21が配置され、第2円柱部12の底部略中央に第2マイクロホン22が配置されている。第1マイクロホン21及び第2マイクロホン22は処理装置40に接続されており、各マイクロホンの出力信号は処理装置40に入力する。
【0023】
なお、各マイクロホンには、必要に応じて、インピーダンス変換を行うためのプリアンプを接続してもよい。その場合には、プリアンプの出力信号が処理装置40に入力することとなる。
【0024】
処理装置40は、例えば、演算部41、フィルタ42、記憶部43等を備えている。演算部41は、マイクロホン21,22の出力信号に基づいて、規格や法律で定められた騒音に関する各種の評価値(以下、「測定値」と称する。)の算出やそれらの統計処理等を行う。評価値としては、例えば、騒音レベル、等価騒音レベル、騒音レベルの最大値や瞬時値等、より正確には、JIS C 1509に定められた音圧レベル、サウンドレベル(周波数重み付き音圧レベル)、時間重み付きサウンドレベル、時間重み付きサウンドレベルの最大値、ピークサウンドレベル、等価サウンドレベル、音響暴露レベル等を算出する。フィルタ42は、演算部41がマイクロホン21,22の出力信号に対して時々刻々と周波数分析を行う際に用いるフィルタであり、例えば、1/3オクターブバンドフィルタがこれに該当する。記憶部43は、演算部41が処理の過程で用いる所定の閾値等の定義データを予め記憶している他、算出された測定値に関するデータ等を記憶する。
【0025】
処理装置40としては、CPUやRAM、HDD、各種I/F等を備えた汎用コンピュータを用いてもよいし、騒音測定システム100専用に設計された装置を用いてもよい。いずれの場合においても、騒音測定システム100の処理に必要なプログラムや設定データ等が処理装置40に実装されることにより、処理装置40において処理を実行可能となる。処理装置40において実行される処理の具体的な内容については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0026】
なお、ウィンドスクリーン10を構成する2つの円柱部11,12は一体的に形成されていてもよいし、別体として形成された2つの円柱部11,12が略同軸上に重ねて配置されることで一体的に用いられてもよい。また、上述したウィンドスクリーン10の形状やマイクロホン20の個数は、あくまで一例であり、これに限定されない。ウィンドスクリーン10はどのような形状であってもよく、一体(1つ)とみなすことができるウィンドスクリーン10の内部の異なる位置(風速差が生じる位置)に複数のマイクロホン20が配置されていればよい。複数のマイクロホン20は略同一の仕様を有しており、周波数特性はフラットで、無風条件下での指示値は同一である。
【0027】
ところで、ウィンドスクリーンの存在により、測定値に対する風の影響を低減できるものの、一部の風はウィンドスクリーンの内部を通過する。そして、通過する風の向きや強さ、ウィンドスクリーンと風との相互作用により生じる(ウィンドスクリーンが風を受けることで発する)風雑音の大きさは、ウィンドスクリーン内の位置によって異なる。
【0028】
これらの違いに着目して、第1実施形態においては、ウィンドスクリーン10内の風速差が生じる位置に2つのマイクロホン21,22を配置している。そして、異なる位置に配置されたマイクロホン21,22の音圧レベル差の許容値を閾値として予め定めておき、測定値の算出に際しては、マイクロホン21,22の音圧レベル差が閾値を超える場合に、その測定値が風雑音の影響を受けている(測定された音に風雑音が含まれている)と判定する。判定については後述するが、この閾値は、上記と同じ態様で配置されたウィンドスクリーン10及びマイクロホン21,22を用いて風雑音の大きさを測定した結果に基づいて予め定められている。
【0029】
図2は、閾値を定めるために行った風雑音のレベルの測定について説明する図である。このうち、(A)は、測定現場を示す平面図であり、(B)は、(A)中のB-B切断線に沿う断面図である。なお、図2においては、処理装置40の図示を省略している。
【0030】
図2においては、ウィンドスクリーン10の形状及びウィンドスクリーン10内部に配置された2つのマイクロホン21,22の位置が、より正確に示されている。ウィンドスクリーン10の上部をなす第1円柱部11は、直径、高さとも0.3mであり、下部をなす第2円柱部12は、直径1.0m、高さ0.3mである。
【0031】
この測定においては、マイクロホン21,22を所定の位置に配置したウィンドスクリーン10の中心から所定距離(例えば、1.5m)離れた位置にスピーカSPを設置するとともに、ウィンドスクリーン10の近くに風速計のセンサを設置し(図示されていない)、スピーカSPから5Hzの純音を放射し続けて、自然風が強い時及び弱い時に、風速に対する音圧レベル、すなわち、ウィンドスクリーン10が風速に対して発する風雑音を含んだ音圧レベルをマイクロホン21,22で測定し、これらの音圧レベルの差を求めた。具体的には、マイクロホン21,22の各出力信号にフィルタ42を適用して、風の影響が顕著に出てくる周波数成分(中心周波数5Hzの1/3オクターブバンドの成分)を抽出して音圧レベルを算出し(以下、第1マイクロホン21の出力信号に基づく音圧レベルを「L1」、第2マイクロホン22の出力信号に基づく音圧レベルを「L2」と称する。)、これらの音圧レベルの差分の絶対値(以下、「音圧レベル差」と略称する場合がある。)|L1-L2|を求めた。なお、上記の測定においては自然風を用いたが、風洞等から様々な風速の風を与えて測定を行ってもよい。
【0032】
図3は、上記の測定結果が描画されたグラフであり、風速と音圧レベルとの関係を示している。
このうち、(A)のグラフは、風速と音圧レベルL1との関係を示している。このグラフから、風が強いほど音圧レベルL1が大きい傾向がみられる。(B)のグラフは、風速と音圧レベルL2との関係を示している。このグラフから、風が速いほど音圧レベルL2が大きい傾向がみられる。また、(A)のグラフと(B)のグラフを比較すると、風速1m/s以上における音圧レベルL2は音圧レベルL1より小さい傾向がみられる。そして、(C)のグラフは、風速と音圧レベル差|L1-L2|との関係を示している。このグラフから、風が速いほど音圧レベル差|L1-L2|が大きい傾向が見られる。
【0033】
このように、図3に示した各グラフから、ウィンドスクリーン10の発する風雑音を含んだ音圧レベルが風速に対して線形性を有していることが分かる。
【0034】
図4は、図3中(C)に示した測定結果に基づいて作成された、風速vを1m/s毎に区分した場合における音圧レベル差|L1-L2|の平均値を示す対応表である。
図4に示されるように、風速vが1m/s未満の場合における音圧レベル差(0.2dB)は1dB以下であるのに対し、風速vが1m/s以上の場合における音圧レベル差は1dBを超えている。このような対応表に基づいて、閾値Lt、すなわち音圧レベル差の許容値(例えば、1dB)が定められる。そして、騒音測定(測定値の算出)に際しては、この閾値Ltを用いて風雑音の影響を受けているか否かの判定がなされる。具体的な説明は省略するが、発明者らは風雑音の判別性能を検証しており、その結果から、閾値Ltを用いた判定により風雑音の影響を非常に高い割合で正しく判別できることを確認済みである。
【0035】
図5は、処理装置40において測定値の算出に伴って実行される処理の手順例を示すフローチャートである。測定値の算出に際し、いずれか1つのマイクロホンが、測定値を得るためのマイクロホン(以下、「測定用マイクロホン」と称する。)として定められる。以下、手順例に沿って説明する。
【0036】
ステップS1:演算部41が、測定用マイクロホン(例えば、第1マイクロホン21)の出力信号に基づいて、測定値(音圧レベル、騒音レベル等の評価値)を算出し、記憶部43に記憶させる。
【0037】
〔レベル算出工程〕
ステップS2:演算部41が、マイクロホン21,22の各出力信号にフィルタ42、すなわち閾値を定めるための測定において適用されたフィルタと同じフィルタを適用して、各マイクロホン21,22の出力信号から風の影響が顕著に出てくる周波数成分(例えば、10Hz以下の成分)を抽出し、それぞれの音圧レベルL1,L2(特定評価値)を算出する。なお、特定評価値としては、フィルタを適用して抽出される周波数成分についての音圧レベルを算出するのに代えて、例えば、サウンドレベル(周波数重み付き音圧レベル)、時間重み付きサウンドレベル、時間重み付きサウンドレベルの最大値、ピークサウンドレベル、等価サウンドレベル、音響暴露レベル等を算出してもよい。
【0038】
〔差分算出工程〕
ステップS3:演算部41が、ステップS2で算出された2つのマイクロホン21,22での音圧レベルL1,L2から、音圧レベル差Ld(=|L1-L2|)を算出する。
【0039】
〔判定工程〕
ステップS4,S5:演算部41が、ステップS3で算出された音圧レベル差Ldが予め定められた閾値Ltを超えているか否かを確認する(ステップS4)。音圧レベル差Ldが閾値Ltを超えている場合には(ステップS4:Yes)、演算部41は、ステップS1で算出された測定値が風雑音の影響を受けている、すなわち、所望の音源を測定できていないとみなして、この測定値にマークを付ける。一方、音圧レベル差Ldが閾値Ltを超えていない場合には(ステップS4:No)、演算部41は、ステップS1で算出された測定値が風雑音の影響を受けていない、すなわち、所望の音源を測定できているとみなして、この測定値にはマークを付けない。
【0040】
以上の一連の手順が、処理装置40に入力するマイクロホン21,22の各出力信号に対して実行され、風雑音の影響を受けていると判定された測定値にはマークが付される。そして、所定の周期(例えば、1日)毎に統計処理を行う(報告データをまとめる)際には、マークが付された測定値を除外して統計処理がなされる。
【0041】
なお、上記の手順例は、ウィンドスクリーン10の内部に2つのマイクロホン21,22が配置される場合のものであるが、マイクロホンが3つ以上配置される場合には、複数のマイクロホンから2つのマイクロホンを取り出す全ての組み合わせについてステップS3~S5を実行する。具体的には、2つのマイクロホンの音圧レベル差Ldを1組ずつ算出していき、音圧レベル差Ldが閾値Ltを超える組み合わせが1組でも存在する場合には、測定値にマークを付け、音圧レベル差Ldが閾値Ltを超える組み合わせが存在しない場合には、測定値にマークを付けない。
【0042】
また、音の測定においては、例えばオクターブや1/3オクターブバンドのように周波数を分割し、分割された周波数帯域毎の測定値を要求される場合がある。そのような場合には、上述した一連の手順を分割された周波数帯域毎に実行すればよい。また、風雑音の影響の検出、判定には周波数帯域を限定した方がよい場合もある。具体的には、ステップS2において適用するフィルタを複数の異なる周波数帯域を持つフィルタの組にし、ステップS1において各フィルタの周波数帯域毎に測定値(帯域評価値)を算出し、ステップS3において各フィルタの周波数帯域毎に音圧レベル差Ld(帯域評価値の差分)を算出して、ステップS4において周波数帯域毎に2個のマイクロホンの音圧レベル差Ldを閾値Ltと比較し、閾値Ltを超えていれば、その周波数帯域に対する測定値が風雑音の影響を受けているものとみなして、ステップS5においてその測定値にマークを付けることができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
図6は、第2実施形態の騒音測定システム200を示す構成図である。
騒音測定システム200は、上述した第1実施形態の騒音測定システム100を変形させたものであり、複数のウィンドスクリーン110が近接して設けられ、マイクロホン120が各ウィンドスクリーン110の内部に1つずつ配置される点において、騒音測定システム100と異なっている。
【0044】
複数のウィンドスクリーンに対して同じ強さの風が当たっても、各ウィンドスクリーンの内部で生じる風雑音の大きさは、各ウィンドスクリーンの大きさや形状(例えば、球体、楕円体、立方体等)、材料やその密度(例えば、発泡ウレタン等における空洞の大きさや単位体積当りの空洞の数)等によって異なる。この点に着目し、第2実施形態においては、これらの要素(大きさ、形状、材料、密度等)のうち少なくとも1つの要素が異なるウィンドスクリーンを含む複数のウィンドスクリーンのそれぞれにマイクロホンを組み込み、これらのウィンドスクリーンを近接して配置している。
【0045】
図示の例においては、マイクスタンドの中心ポールの上部に略楕円体をなす最も大きい第1ウィンドスクリーン111が設けられ、その内部に第1マイクロホン121が配置されており、マイクスタンドの手前及び左右に延びた3つの腕部の先端部にそれぞれ略球体をなす第2ウィンドスクリーン112、第3ウィンドスクリーン113、第4ウィンドスクリーン114が設けられ、それらの内部にそれぞれ第2マイクロホン122、第3マイクロホン123、第4マイクロホン124が配置されており、弧状に延びた腕部の先端部に略球体をなす最も小さい第5ウィンドスクリーン115が設けられ、その内部に第5マイクロホン125が配置されている。
【0046】
なお、騒音測定システム200におけるその他の構成、すなわち、閾値Ltの設定方法や、測定値が風雑音の影響を受けているか否かの判定方法等については、騒音測定システム100と同様である。また、図6に示した例においては、マイクロホン120が各ウィンドスクリーン110の内部に1つずつ配置されているが、各ウィンドスクリーン110の内部に複数のマイクロホン120を配置してもよい。
【0047】
以上に説明したように、上述した各実施形態の騒音測定システム100,200によれば、以下の効果が得られる。
【0048】
(1)騒音測定システム100によれば、一体(1つ)とみなすことができるウィンドスクリーン10の内部の風速差が生じる位置に複数のマイクロホン20が配置されており、風の影響が顕著に出てくる周波数帯域での任意の2つのマイクロホンの音圧レベル差Ldの許容値が閾値Ltとして予め定められているため、測定値が風雑音の影響を受けているか否かを、音圧レベル差Ldと閾値Ltとを比較するだけで客観的かつ容易に判定することができる。
【0049】
(2)騒音測定システム200によれば、大きさ、形状、材料、密度等の要素のうち少なくとも1つの要素が異なるウィンドスクリーンを含む複数のウィンドスクリーン110が、それぞれの内部にマイクロホン120が組み込まれた状態で近接して配置されており、風の影響が顕著に出てくる周波数帯域での任意の2つのマイクロホンの音圧レベル差Ldの許容値が閾値Ltとして予め定められているため、測定値が風雑音の影響を受けているか否かを、音圧レベル差Ldと閾値Ltとを比較するだけで客観的かつ容易に判定することができる。
【0050】
(3)騒音測定システム100,200によれば、風雑音の影響を受けていると判定された測定値がマークされ、マークされた測定値が統計処理の対象から除外されるため、除外すべき音が発生した時のデータを除いて統計処理せよとの要請に応えることができ、騒音測定に関する統計データの信頼性を高めることができる。
【0051】
(4)騒音測定システム100,200によれば、予め定められた閾値を用いて測定値が風雑音の影響を受けているか否かが客観的に判定され、風雑音の影響を受けていると判定された測定値は統計処理の除外対象としてマークされるため、風雑音に関連して従来人手を介して行っていた作業を自動化することができ、人手を要する作業の手間を大幅に削減することができる。特に、無人測定地点における騒音測定の効率を格段に向上することができる。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0053】
上述した実施形態においては、2つのマイクロホン(マイクロホンが3つ以上配置される場合には、複数のマイクロホンから2つのマイクロホンを取り出す全ての組み合わせ)について、2つのマイクロホンの音圧レベルの差Ldを算出し、音圧レベル差Ldが閾値Ltを超える場合に、測定値が風雑音の影響を受けていると判定して測定値にマークを付けているが、これに代えて、2つのマイクロホンの音圧レベルの比Lrを算出し、音圧レベル比Lrがこれに関する所定の閾値Lt2を超える場合に、測定値が風雑音の影響を受けていると判定して測定値にマークを付けてもよい。
【0054】
上述した実施形態においては、予め定められた閾値を用いて測定値が風雑音の影響を受けているか否かを判定しているが、これに代えて、図4に示したような対応表(風速と音圧レベル差の平均値との対応をまとめた表)に測定用マイクロホンの風速に対する風雑音のレベルを示す列を加えた拡張対応表を予め作成しておき、この拡張対応表を用いて測定値が風雑音の影響を受けているか否かを判定してもよい。対応表を作成するために行う風速に対する風雑音のレベルの測定は、無響室や静かな環境で実施することが望ましい。
【0055】
拡張対応表やこれを用いた判定手順についての図示は省略するが、具体的には、測定用マイクロホンの出力信号に基づいて測定値を算出し(ステップS11)、同時刻に得られたマイクロホン21,22の各出力信号にフィルタを適用してそれぞれの音圧レベルを算出し(ステップS12)、これらの音圧レベル差を求め(ステップS13)、予め作成した拡張対応表を参照して、音圧レベル差から測定用マイクロホンの風雑音のレベルを割り出し(ステップS14)、割り出された風雑音のレベルが所定のレベルを超えるか否かを確認し(ステップS15)、風雑音が所定のレベルを超えている場合には、ステップS11で算出した測定値が風雑音の影響を受けているものとみなしてマークする(ステップS16)。このような方法によっても、測定値が風雑音の影響を受けているか否かを簡易に判定することができ、風雑音の影響を受けているとみられる測定値を除外して統計処理を行うことが可能となる。
【0056】
上述した実施形態においては、複数のマイクロホンとして略同一の仕様を有したものを採用しているが、異なる仕様を有したマイクロホンを採用することも可能である。その場合には、図4に示したような対応表を、N個のマイクロホンから2個のマイクロホンを取り出す全ての組み合わせについて予め作成し、マイクロホンの組み合わせ毎に異なる閾値を定めておき、任意の2個のマイクロホンの出力信号に基づく音圧レベル差が閾値を超えているか否かを確認する際には、そのマイクロホンの組み合わせに対する閾値を用いればよい。
【0057】
その他、騒音測定システム100,200に関する説明の過程で挙げた構成や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
10 ウィンドスクリーン
11 第1円柱部
12 第2円柱部
20 マイクロホン
21 第1マイクロホン
22 第2マイクロホン
40 処理装置
41 演算部(第1算出部、第2算出部、判定部)
100 騒音測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6