(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177590
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】構造体の設計支援方法及び設計支援システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20231207BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20231207BHJP
G06F 111/04 20200101ALN20231207BHJP
G06F 111/06 20200101ALN20231207BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20231207BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/15
G06F111:04
G06F111:06
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090330
(22)【出願日】2022-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月14日に、第31回設計工学・システム部門講演会予稿集にて発表(講演No.2203)。 〔刊行物等〕 令和3年9月16日に、第31回設計工学・システム部門講演会にて発表(講演No.2203)。 〔刊行物等〕 令和3年9月14日に、第31回設計工学・システム部門講演会予稿集にて発表(講演No.2202)。 〔刊行物等〕 令和3年9月16日に、第31回設計工学・システム部門講演会にて発表(講演No.2202)。
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釼持 寛正
(72)【発明者】
【氏名】小平 剛央
(72)【発明者】
【氏名】岡本 定良
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊樹
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DC04
5B146DC05
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】構造体の性能及び部品について優先順位を明確化した上で、効果的に対策を講じることにより開発効率を向上できる構造体の設計支援方法及びシステムを提供する。
【解決手段】複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有する構造体の設計支援方法である。当該方法は、1種以上の最適化目的に関する目標を設定する目標設定工程S1と、MDOを用いた解析を行うことにより、ボトルネックを抽出するボトルネック抽出工程S2と、ボトルネックが発生するメカニズムを解析するメカニズム解析工程S3と、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、構造体の1つ以上の設計変更案を検討する構造検討工程S4と、前記1つ以上の設計変更案に基づいて、対策構造案を導出する対策構造案導出工程S5と、対策構造案を検証して構造を決定する検証工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有する構造体の設計支援方法であって、
1種以上の最適化目的に関する目標を設定する目標設定工程と、
前記1種以上の最適化目的を目的関数、前記複数の部品の仕様を設計変数、前記複数の性能の少なくとも1つにおける前記要件を制約条件とする複合領域最適化(MDO)を用いた解析を行うことにより、前記目標の達成を阻害する1つ以上の性能及び1つ以上の部品の少なくとも一方をボトルネックとして抽出するボトルネック抽出工程と、
抽出された前記ボトルネックの情報に基づいて、該ボトルネックが発生するメカニズムを解析するメカニズム解析工程と、
解析の結果得られた前記メカニズムに基づいて、前記ボトルネックにおける前記目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、前記構造体の1つ以上の設計変更案を検討する構造検討工程と、
前記1つ以上の設計変更案に基づいて、対策構造案を導出する対策構造案導出工程と、
前記対策構造案を検証し、該対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成すると判断されたときに、前記対策構造案を前記構造体の構造として決定する検証工程と、を備えた
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記解析は、前記各部品の前記仕様の変更が前記各性能に与える影響の度合いを感度として算出する感度解析を含む
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ボトルネック抽出工程は、
前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行う第1工程と、
前記複数の性能の全てについて複数性能制約下で前記MDOを用いた解析を行う第2工程と、
前記第1工程の解析で得られた前記感度と前記第2工程の解析で得られた前記感度とがいずれも所定値以上である部品を、前記ボトルネックとして抽出する第3工程と、を含む
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記ボトルネック抽出工程で、前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行い、該解析で得られた前記感度の符号が逆である前記性能を有する前記部品を前記ボトルネックとして抽出する
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項5】
請求項2において、
前記ボトルネック抽出工程は、
前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行い、該解析後における前記仕様に関連する値又は該解析前後における前記仕様の差に関連する値を、前記性能毎に、前記目標の達成を阻害する阻害度として算出する工程と、
前記阻害度が所定値以上である前記性能についての前記感度が所定値以上である前記部品をボトルネックとして抽出する工程と、を含む
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項6】
請求項2において、
前記ボトルネック抽出工程で、前記感度を前記部品の面積で除すことにより、単位面積あたりの感度に換算し、該単位面積あたりの感度が所定値以上である部品を前記ボトルネックとして抽出する
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項7】
請求項2において、
前記最適化目的は、質量最小化である
ことを特徴とする構造体の設計支援方法。
【請求項8】
複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有する構造体の設計を支援するためのCAEシステムであって、
1種以上の最適化目的に関する目標を設定する目標設定部と、
前記1種以上の最適化目的を目的関数、前記複数の部品の仕様を設計変数、前記複数の性能の少なくとも1つにおける前記要件を制約条件とする複合領域最適化(MDO)を用いた解析を行うことにより、前記目標の達成を阻害する1つ以上の性能及び1つ以上の部品の少なくとも一方をボトルネックとして抽出するボトルネック抽出部と、
抽出された前記ボトルネックの情報に基づいて、該ボトルネックが発生するメカニズムを解析するメカニズム解析部と、
解析の結果得られた前記メカニズムに基づいて、前記ボトルネックにおける前記目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、前記構造体の1つ以上の設計変更案を検討する構造検討部と、
前記1つ以上の設計変更案に基づいて、対策構造案を導出する対策構造案導出部と、
前記対策構造案を検証して、該対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成するか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成すると判定されたときに、前記対策構造案を前記構造体の構造として決定する構造決定部と、を備えた
ことを特徴とする構造体の設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造体の設計支援方法及び設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造体の設計を行う際に、コンピュータシミュレーション(CAE、Computer Aided Engineering)を利用することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、相互に関連する部品についての最適解を求める際に、重要度に従った優先順位の高い部品を優先して最適解を繰返し演算により求める設計方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、部品の優先順位を決定する方法として、ユーザが任意に設定する方法が例示されているものの、それ以外の方法については具体的に記載されていない。例えば、相互に関連する部品の点数が多い場合や、満足すべき性能の数が多い場合には、そもそも部品の優先順位を決定することは困難である。
【0006】
そこで本開示では、構造体の性能及び部品について優先順位を明確化した上で、効果的に対策を講じることにより開発効率を向上できる構造体の設計支援方法及びシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、ここに開示する構造体の設計支援方法の一態様は、複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有する構造体の設計支援方法であって、1種以上の最適化目的に関する目標を設定する目標設定工程と、前記1種以上の最適化目的を目的関数、前記複数の部品の仕様を設計変数、前記複数の性能の少なくとも1つにおける前記要件を制約条件とする複合領域最適化(MDO)を用いた解析を行うことにより、前記目標の達成を阻害する1つ以上の性能及び1つ以上の部品の少なくとも一方をボトルネックとして抽出するボトルネック抽出工程と、抽出された前記ボトルネックの情報に基づいて、該ボトルネックが発生するメカニズムを解析するメカニズム解析工程と、解析の結果得られた前記メカニズムに基づいて、前記ボトルネックにおける前記目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、前記構造体の1つ以上の設計変更案を検討する構造検討工程と、前記1つ以上の設計変更案に基づいて、対策構造案を導出する対策構造案導出工程と、前記対策構造案を検証し、該対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成すると判断されたときに、前記対策構造案を前記構造体の構造として決定する検証工程と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
図9は、従来の構造体の設計プロセスの一例を示している。従来の設計プロセスは、例えば、最適化目的に関する目標を設定する工程S101と、目標を達成するべく、複数の性能間の関係を考慮しながら、種々の設計変更案を検討する工程S102と、トレードオフ関係にある性能間のすり合わせを行う工程S103と、性能間のすり合わせ結果を踏まえて、種々の設計変更案の中から対策構造案を導出する工程S104と、対策構造案の性能を評価する工程S105と、対策構造案が目標を達成しているか否か判定する工程S106と、を備える。そして、工程S106で、対策構造案が目標を達成していると判定された場合に、当該対策構造案を構造体の構造と決定し(工程S107)、設計プロセスは終了する。
【0009】
従来、MDOは、工程S104、工程S105及び工程S106等の設計プロセスの下流において、対策構造案の検証及び評価目的で使用されてきた。このような設計プロセス下流におけるMDOの活用は、開発の効率化という点で一定の成果を生んできた。しかしながら、環境問題に起因する社会的要請や多様化する顧客ニーズへの対応、商品力の差別化のため、構造体の構造や制御・安全システムは複雑化の一途を辿っており、依然として開発費用や期間の増大化は大きな問題となっている。特に、部品点数や満足すべき性能の数が多い構造体では、そのトレードオフ関係のある性能間のすり合わせや、最適化目的と各性能との両立を達成する対策構造案の導出に時間を要し、開発期間の長期化に繋がっている。
【0010】
本構成では、設計プロセスの上流において構造体の具体的な構造検討を行う前にMDOを用いた解析によるボトルネックの抽出を行う。すなわち、最適化目的に関する目標を達成する上で、エンジニアリング的弱点となるボトルネックを、構造検討に先駆けて予め発見しておく。そして、重点的に対策すべき部品及び性能の優先順位を明確にした上で、優先順位の高い部品及び性能から優先してメカニズム解析、構造検討及び対策構造案の導出を行う。これにより、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いを効果的に低減することができ、延いては開発の効率化を図ることができる。
【0011】
前記解析は、前記各部品の前記仕様の変更が前記各性能に与える影響の度合いを感度として算出する感度解析を含むことが好ましい。
【0012】
本構成によれば、最適化目的に対してトレードオフの関係にある性能と当該性能に影響を与える度合いが大きい部品の絞り込みができるから、ボトルネックを効率的に抽出できる。なお、感度解析は、MDO後に行ってもよいし、MDO前に行ってもよい。
【0013】
前記ボトルネック抽出工程は、前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行う第1工程と、前記複数の性能の全てについて複数性能制約下で前記MDOを用いた解析を行う第2工程と、前記第1工程の解析で得られた前記感度と前記第2工程の解析で得られた前記感度とがいずれも所定値以上である部品を、前記ボトルネックとして抽出する第3工程と、を含むことが好ましい。
【0014】
ある部品について、第1工程の解析前後における感度が所定値以上の性能は、ボトルネック性能と判断できる。そのような性能の感度と、第2工程の解析で得られた感度とを比較して、両者がいずれも所定値以上である部品は、仕様の変更がボトルネック性能及び全性能に与える影響が大きく、特に重点的に対策を講じるべきボトルネック部品であると言える。従って、本構成によれば、ボトルネックを効率的に抽出できる。
【0015】
前記ボトルネック抽出工程で、前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行い、該解析で得られた前記感度の符号が逆である前記性能を有する前記部品を前記ボトルネックとして抽出することが好ましい。
【0016】
感度の符号が逆の性能は、トレードオフの関係にある性能である。トレードオフの関係にある性能を有する部品では、複数の性能が複雑な関係で機能配分されていると考えられる。従って、トレードオフ関係にある性能を有する部品をボトルネックとして抽出できる。
【0017】
前記ボトルネック抽出工程は、前記複数の性能の各々について単性能制約下で前記MDOを用いた解析を行い、該解析後における前記仕様に関連する値又は該解析前後における前記仕様の差に関連する値を、前記性能毎に、前記目標の達成を阻害する阻害度として算出する工程と、前記阻害度が所定値以上である前記性能についての前記感度が所定値以上である前記部品をボトルネックとして抽出する工程と、を含むことが好ましい。
【0018】
阻害度が所定値以上である性能は、目標の達成を阻害する度合いが大きいことを意味するから、ボトルネック性能に該当する。ボトルネック性能における感度が所定値以上である部品は、ボトルネック性能に与える影響が大きいから、ボトルネック部品として効率的に抽出できる。
【0019】
前記ボトルネック抽出工程で、前記感度を前記部品の面積で除すことにより、単位面積あたりの感度に換算し、該単位面積あたりの感度が所定値以上である部品を前記ボトルネックとして抽出することが好ましい。
【0020】
感度を単位面積あたりの感度に換算することにより、部品の面積によらず、部品の仕様が性能に与える影響を評価できるから、ボトルネック部品をより効果的に抽出できる。
【0021】
前記最適化目的は、質量最小化であることが好ましい。
【0022】
本構成によれば、より軽量化された構造体の構造を提案できる。
【0023】
また、ここに開示する構造体の設計支援システムの一態様は、複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有する構造体の設計を支援するためのCAEシステムであって、1種以上の最適化目的に関する目標を設定する目標設定部と、前記1種以上の最適化目的を目的関数、前記複数の部品の仕様を設計変数、前記複数の性能の少なくとも1つにおける前記要件を制約条件とする複合領域最適化(MDO)を用いた解析を行うことにより、前記目標の達成を阻害する1つ以上の性能及び1つ以上の部品の少なくとも一方をボトルネックとして抽出するボトルネック抽出部と、抽出された前記ボトルネックの情報に基づいて、該ボトルネックが発生するメカニズムを解析するメカニズム解析部と、解析の結果得られた前記メカニズムに基づいて、前記ボトルネックにおける前記目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、前記構造体の1つ以上の設計変更案を検討する構造検討部と、前記1つ以上の設計変更案に基づいて、対策構造案を導出する対策構造案導出部と、前記対策構造案を検証して、該対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成するか否かを判定する判定部と、前記判定部により前記対策構造案における前記複数の性能が前記要件を満足し且つ前記対策構造案が前記目標を達成すると判定されたときに、前記対策構造案を前記構造体の構造として決定する構造決定部と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
本構成では、最適化目的に関する目標を達成する上で、エンジニアリング的弱点となるボトルネックを、構造検討に先駆けて予め発見しておく。そして、重点的に対策すべき部品及び性能の優先順位を明確にした上で、優先順位の高い部品及び性能から優先してメカニズム解析、構造検討及び対策構造案の導出を行う。これにより、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いを効果的に低減することができ、延いては開発の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本開示によると、構造体の設計支援方法及びシステムにおいて、構造体の性能及び部品について優先順位を明確化した上で、効果的に対策を講じることにより開発効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】構造体の設計支援システムのハードウェア構成を示す図。
【
図2】構造体の設計支援システムのソフトウェア構成を示す図。
【
図3】構造体の設計支援方法の手順を示すフローチャート。
【
図4】構造体の設計支援方法の手順を示すフローチャート。
【
図5】実験例で解析対象とした車体の一部を模式的に示す図。
【
図7】実験例で算出した阻害度の一部を示すグラフ。
【
図8】実験例の対策構造案の一部及び荷重伝達解析の結果の一部を示す図。
【
図9】従来の構造体の設計支援方法の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0028】
<構造体>
本開示において、設計対象である構造体は、複数の部品を備え且つ複数の性能について満足すべき要件を有していれば、特に限定されない。構造体としては、具体的には例えば、自動車、バイク、トラック、トラクター、重機、航空機等の各種車体、船舶の船体、建築物の全体又は一部等の各種構造体が挙げられる。
【0029】
部品の数及び種類並びに性能の数及び種類は、構造体の種類、世代等に応じて異なり、特に限定されない。
【0030】
構造体が自動車の車体である場合を例に挙げると、自動車の車体は、例えば50点以上の部品を備えている。部品は、具体的には例えばフロントフレーム、サイドフレーム、リアサイドフレーム、ルーフレール、トンネルレイン、クロスメンバ、フロアパネル、フロントパネル、リアパネル、エンジンカバー、ボンネット、リヤフェンダ、ルーフ、ドア、リフトゲート、リアエンドパネル、リアホイールハウスアウター、リアエンドメンバー、リアピラーアウター、リアピラーインナー、リアピラーレインホースメント、アッパーレインホースメント、リアルーフレール等の車体構成部材である。
【0031】
また、自動車の車体は、複数の性能、具体的には例えば50項目以上の性能を備えており、各性能は、満足すべき要件を有している。要件は、許容範囲及び/又は許容値であってもよいし、改善目標とする好適範囲及び/又は好適値であってもよい。具体的な性能としては、例えば、衝突性能(衝突時の変形のし難さを示す性能指標であり、具体的には前方衝突性能、側方衝突性能及び後方衝突性能等)、騒音遮音性能(以下、「NVH」と称することがある。)、車体剛性(変形のし難さを示す性能指標)、車体骨格共振(操縦安定性に関し、低周波固有値で表される性能指標)、信頼性等がある。
【0032】
<設計支援システム>
図1は、本開示に係る構造体の設計支援システム(厳密には、そのシステムを実現するコンピュータシステム201)のハードウェア構成の一例を模式的に示す。なお、コンピュータシステム201(以下、コンピュータ201という)は、本開示に係る構造体の設計支援システムの一例に過ぎず、設計支援システムの構成は本例に限定されるものではない。
【0033】
コンピュータ201は、CAE(Computer Aided Engineering)システムである。コンピュータ201は、システム全体の制御を司るCPU203と、ブートプログラム等を記憶しているROM205と、メインメモリとして機能するRAM207と、2次記憶装置としてのハードディスク209(以下、HDD209という)とを備えている。コンピュータ201は、表示装置としてのディスプレイ211と、ディスプレイ211に表示する画像データを蓄積するメモリとして機能するVRAM213とを備えている。また、コンピュータ201は、入力装置としてのキーボード215及びマウス217とを備えている。尚、このコンピュータ201は、インターフェース221を介して外部機器と通信を行うことが可能に構成されている。
【0034】
HDD209には、
図2に示すように、そのプログラムメモリに、オペレーティングシステム(OS)219、MDO解析プログラム229、感度解析プログラム239、アプリケーションプログラム249等の各種プログラムが格納されている。一方、HDD209には、そのデータメモリにモデルデータ259等の各種データが格納されている。このモデルデータ259には、構造体を模型化して示す情報や、構造体の各部品の仕様、各性能について満足すべき要件に関する情報、近似モデル等が含まれている。モデルデータ259に格納される情報は、ユーザが任意に変更及び追加することが可能である。また、HDD209のデータメモリには、各種プログラム等の実行によって作成される各種計算結果も記憶される。
【0035】
上記構成において、各種プログラムは、キーボード215やマウス217からの入力される特定指令に応じて起動される。その際、各種プログラムが、HDD209からRAM207にロードされ、CPU203によって実行されることによって、このコンピュータ201が設計支援システムとして機能することになる。本実施形態では、CPU203が、本開示でいう演算部(目標設定部、ボトルネック抽出部、メカニズム解析部、構造検討部、対策構造案導出部、判定部、構造決定部)に相当する。
【0036】
<設計支援方法>
図3に示すように、本開示に係る構造体の設計支援方法の一例は、目標設定工程S1と、ボトルネック抽出工程S2と、メカニズム解析工程S3と、構造検討工程S4と、対策構造案導出工程S5と、性能評価工程S6(検証工程)と、判定工程S7(検証工程)と、構造決定工程S8(検証工程)と、を備える。
【0037】
[目標設定工程]
目標設定工程S1は、最適化目的に関する目標を設定する工程である。
【0038】
最適化目的とは、MDOにおいて目的関数に設定される事象であり、最小化又は最大化される目的である。最適化目的としては、具体的には例えば、質量最小化(「軽量化」ともいう。)、コスト最小化、走行時CO2最小化、製造時CO2最小化、共通部品最大化等が挙げられる。なお、最適化目的は、1種以上、すなわち1種でもよいし、2種以上でもよい。最適化目的は、より軽量化された構造体の構造を提案する観点から、質量最小化を含むことが好ましい。
【0039】
最適化目的に関する目標は、例えば数値目標等であり、最適化目的の種類により異なる。最適化目的が質量最小化の場合、目標としては例えば下記式(1)で表される構造体の質量の軽量効率η[%]等で与えられる。
【0040】
η=(W0-W1)/W0×100 ・・・(1)
但し、式(1)中、W0は車体の初期質量[kg]、W1は車体の設計後の質量[kg]である。
【0041】
ηが正の値の場合は、車体の質量が低下して、軽量化が達成できており、負の値の場合は、車体の質量が増加して、軽量化が達成できていないことを示す。本開示に係る設計支援方法では、最適化目的を軽量化とした場合、最終的に提案された対策構造案において、複数の性能が要件を満たしつつ、所定の軽量効率ηを満たしていればよい。所定の軽量効率ηは、軽量化の目標に応じて適宜変更され得る。
【0042】
[ボトルネック抽出工程]
ボトルネック抽出工程S2は、複合領域最適化(MDO)を用いた解析を行うことにより、目標の達成を阻害する1つ以上の性能及び1つ以上の部品の少なくとも一方をボトルネックとして抽出する工程である。
【0043】
MDOは、複数の性能評価項目に対して効率よく最適化を行う解析技術のことである。MDOは、1種以上の最適化目的を目的関数、複数の部品の仕様を設計変数、複数の性能の少なくとも1つにおける要件を制約条件とする最適化計算である。当該最適化計算の具体例としては、「小平剛央,天野浩平,“複合領域最適化とトレードオフ分析による車体構造の軽量化に向けた設計知見の抽出”,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),Vol.134 No.9 (2014), pp.1348-1354.」(以下、「小平他2014」と称することがある。)に記載された方法等が挙げられる。MDOの基盤ツールとしては、限定されるものではなく、市販のツールを使用することができ、具体的には例えば、汎用自動統合化最適化ソフトIsight、modeFRONTIER等を使用できる。
【0044】
上記小平他2014によれば、MDOは、例えば次式(2.1)~(2.4)で定式化される。なお、式(2.1)~(2.4)中、Dは設計変数の数、Tは行列の転置、Nconは制約条件(性能評価項目)の数、xi
L、xi
U(i=1,2,...,D)は設計変数の下限上限値である。
【0045】
【0046】
式(2.1)~(2.4)に基づいて、実験計画法、近似モデルを組み合わせた計算プロセスとしてMDOを実施することができる。
【0047】
実験計画法は、設計変数の変動が性能指標や質量に及ぼす影響を効率よく解析するためのデータサンプリング手法である。実験計画法の具体例としては、要因計画、部分要因計画、最適ラテン超方格法等が挙げられ、特に最適ラテン超方格法を用いることが好ましい。最適ラテン超方格法は、設計変数として、連続値(実数)と離散値(整数)の両方を取り扱うことができ、且つ多水準で設計空間内に均一に分布したサンプリングデータを生成することができる。
【0048】
次に、生成されたサンプリングデータを元に、応答曲面法等を用いて、各部品の仕様と各性能指標との関係を、近似式でモデル化する。
【0049】
応答曲面法は、離散的なサンプリングデータを連続的な曲面へ近似する方法であり、目的関数の特性を可視化することができるとともに、目的関数への影響の度合いが大きい重要な設計変数を見極める等の分析が可能となる。応答曲面法は、具体的には、最小二乗法による重回帰分析を用いた多項式近似、補間によるRBF(Radial Basis Function)、Kriging手法等が挙げられる。
【0050】
近似モデルを作成したら、最適化計算を行う。最適解の予測精度が許容範囲となるまで、近似モデルの作成及び最適化計算を繰り返し、最終的な最適解を得る。
【0051】
解析は、MDOに先駆けて、及び/又は、MDOの結果に基づいて、各部品の仕様の変更が各性能に与える影響の度合いを感度として算出する感度解析を含むことが好ましい。当該感度解析の具体例としては、上記小平他2014、「釼持寛正,小平剛央,“自動車車体構造の設計支援技術の開発”,マツダ技報,No.36 (2019), pp.272-276」、特開2020-071725、「近藤俊樹,小平剛央,釼持寛正,“自動車車体における構造知見の効率的発見のための設計支援技術の開発(1)進化的因子抽出と因子選択確率を利用した非線形スパースモデリングの提案”,日本機械学会,第31 回設計工学・システム部門講演会予稿集,2021」(以下、「近藤他2021」と称することがある。)等に記載された方法等が挙げられる。
【0052】
具体的には例えば、上記小平他2014によれば、性能近似関数を、応答曲面法の多項式回帰モデル(PRM)における線形項のみを用いて、例えば下記式(3)で表すことができる。但し、式(3)中、β0、βjは、回帰係数である。
【0053】
【0054】
各部品の仕様を変更、すなわち設計変数xjを変化させたときに、該仕様の変更が性能指標に与える影響の度合いを、各性能指標に対する各部品の仕様の感度として求める。
【0055】
具体的には、下記式(4)に示すように、上記式(3)の多項式近似式の応答値yを設計変数xjで偏微分することにより感度βjが得られる。言い換えると、感度βjは、式(3)の偏回帰係数である。
【0056】
【0057】
このように、感度として、多項式近似式の偏回帰係数を採用することにより、設計者にとって直感的、経験的に理解しやすい設計支援方法を提供することができる。
【0058】
また、感度解析を用いることにより、最適化目的に対してトレードオフの関係にある性能と当該性能に影響を与える度合いが大きい部品の絞り込みができるから、ボトルネックを効率的に抽出できる。
【0059】
図4は、ボトルネック抽出工程S2の一例を示している。
図4に示すように、ボトルネック抽出工程は、複数の性能の各々について単性能制約下でMDOを行う工程S91(第1工程)と、複数の性能のうちの少なくとも2つ以上、好ましくは全てについて複数性能制約下でMDOを行う工程S92(第2工程)と、工程S91及び工程S92の結果に基づいて、感度解析を行う工程S93(第1工程及び第2工程)と、を備える。
【0060】
そして、工程S95(第3工程)において、工程S91及び工程S93の解析で得られた感度と工程S92及び工程S93の解析で得られた感度とがいずれも所定値以上である部品を、ボトルネックとして抽出することができる。
【0061】
ある部品について、工程S91及び工程S93の解析で得られた感度が所定値以上の性能は、ボトルネック性能と判断できる。そのような性能の感度と、工程S92及び工程S93の解析で得られた感度とを比較して、両者がいずれも所定値以上である部品は、仕様の変更がボトルネック性能及び全性能に与える影響が大きく、特に重点的に対策を講じるべきボトルネック部品であると言える。従って、本構成によれば、ボトルネックを効率的に抽出できる。
【0062】
なお、感度の所定値は、構造体の種類、部品、性能、最適化目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0063】
全部品及び全性能について検討し、ボトルネックの特定が完了したら(工程S96)、次のメカニズム解析工程S3へ進むことができる。
【0064】
ボトルネック抽出工程S2は、阻害度を算出する工程S94を備えてもよい。阻害度は、目標の達成を阻害する度合いである。阻害度は、複数の性能の各々について単性能制約下でMDOを用いた解析を行い、解析後における仕様に関連する値、又は、解析前後における仕様の差に関連する値を、性能毎に整理することにより得られる。なお、最適化目的が軽量化の場合には、解析後における仕様に関する値は、例えば解析後の板厚、部品の重量等で与えられ、解析前後における仕様の差に関連する値は、例えば板厚の増加分、部品又は車体の重量の増加分(「重量差」ともいう。)、部品又は車体の重量差の逆数、部品又は車体の単位面積あたりの重量差、部品又は車体の単位面積あたりの重量差の逆数等で与えられる。また、感度解析を行う場合には、解析前後における仕様の差に関連する値は、感度であってもよい。
【0065】
そして、工程S95では、上記阻害度が所定値以上である性能についての感度が所定値以上である部品をボトルネックとして抽出する。
【0066】
阻害度が所定値以上である性能は、目標の達成を阻害する度合いが大きいことを意味するから、ボトルネック性能に該当する。ボトルネック性能における感度が所定値以上である部品は、ボトルネック性能に与える影響が大きいから、ボトルネック部品として効率的に抽出できる。
【0067】
なお、阻害度の所定値は、構造体の種類、部品、性能、最適化目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0068】
ボトルネック抽出工程S2で、複数の性能の各々について単性能制約下でMDOを用いた解析を行い、該解析で得られた感度の符号が逆である性能を有する部品をボトルネックとして抽出してもよい。
【0069】
感度の符号が逆の性能は、トレードオフの関係にある性能である。トレードオフの関係にある性能を有する部品では、複数の性能が複雑な関係で機能配分されていると考えられる。従って、トレードオフ関係にある性能を有する部品をボトルネックとして抽出できる。
【0070】
ボトルネック抽出工程S2で、感度を部品の面積で除すことにより、単位面積あたりの感度に換算し、該単位面積あたりの感度が所定値以上である部品をボトルネックとして抽出してもよい。
【0071】
感度を単位面積あたりの感度に換算することにより、部品の面積によらず、部品の仕様が性能に与える影響を評価できるから、ボトルネック部品をより効果的に抽出できる。
【0072】
[メカニズム解析工程]
メカニズム解析工程S3は、抽出されたボトルネックの情報に基づいて、該ボトルネックが発生するメカニズムを解析する工程である。
【0073】
メカニズムの解析手法は、ボトルネックである性能及び部品の種類に応じて、適宜方法を選択できる。
【0074】
メカニズムの解析手法の一例としては、例えば有限要素法を用いた解析手法である荷重伝達経路解析(「釼持寛正,小平剛央,岡本定良,“自動車車体における構造知見の効率的発見のための設計支援技術の開発 (2)荷重伝達指標(U*)を基にした動的可視化分析手法の提案”,日本機械学会,第31 回設計工学・システム部門講演会予稿集,2021」(以下、「釼持他2021」と称することがある。)、特開2020-013354)等が挙げられる。構造体全体において力学的エネルギーの流れが均一となるように、荷重が伝達されることが望ましい。すなわち、ボトルネック部品及びその周辺では荷重の伝達経路が十分に確保されていないために、目標の達成を阻害する度合いが大きくなっている可能性がある。
【0075】
[構造検討工程及び対策構造案導出工程]
構造検討工程S4は、解析の結果得られたメカニズムに基づいて、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いが低減されるように、構造体の1つ以上、好ましくは複数の設計変更案を検討する工程である。
【0076】
具体的には例えば、上述の荷重伝達経路解析の結果、ボトルネック部品及びその周辺における力学的エネルギーの流れが不均一であり、荷重の伝達経路が十分に確保されていないことが明らかとなる場合がある。この場合には、例えば、ボトルネック部品及びその周辺の接続部の接合態様を変更したり、別体成形された複数部品を一体成形部品に変更したり、部品の形状自体を変更したり、種々の設計変更案を検討する。
【0077】
そして、対策構造案導出工程S5では、検討した種々の設計変更案の中から、例えばMDO等の手法を用いて、より効果的に性能向上が見込め且つ、質量等の目的関数への悪影響が極力少ない対策構造案を導出する。
【0078】
構造検討工程S4で検討する設計変更案は、1つでもよいが、複数であることが好ましい。また、ボトルネックが複数種類ある場合、すなわちボトルネック性能が複数存在する場合及びボトルネック部品が複数存在する場合の少なくとも一方では、複数種類のボトルネックの各々に関し、複数の設計変更案を検討することが好ましい。構造検討工程S4で複数の設計変更案を検討し、次の対策構造案導出工程S5でこれらを比較することにより、性能向上及び目標達成により有利な対策構造案を導出することができる。
【0079】
なお、構造検討工程S4で検討した設計変更案が1つの場合は、対策構造案導出工程S5において当該設計変更案を対策構造案とすればよい。
【0080】
[性能評価工程、判定工程及び構造決定工程]
性能評価工程S6では、対策構造案を検証し、対策構造案が各性能の要件を満足するかどうか評価する。
【0081】
具体的には例えば、対策構造案について、上記メカニズム解析工程S3で行ったメカニズム解析を再度行い、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いが低減されているかどうかを確認する。また、対策構造案について、上記ボトルネック抽出工程S2で行ったMDO等を行い、対策構造案が目標を達成しているかどうか確認する。また、感度解析を行い、対策構造案の各部品及び各性能の感度と、ベースの各部品及び各性能の感度との比較から、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いが低減されていること等を確認してもよい。
【0082】
性能評価工程S6で得られた結果に基づいて、対策構造案における複数の性能が要件を満足するか否か、及び、対策構造案が目標を達成するか否かを判定する(判定工程S7)。
【0083】
そして、対策構造案における各性能が要件を満足し且つ対策構造案が目標を達成すると判定されたときに、対策構造案を構造体の構造として決定する(構造決定工程S8)。
【0084】
構造が決定すれば、構造の図面を3DCADデータ等として出力するようにしてもよい。製造部門は、当該図面データに基づき、構造体の製造を行う。
【0085】
なお、判定工程S7で、対策構造案における各性能が要件を満足しない又は対策構造案が目標を達成しないと判定されたときには、例えば、メカニズム解析工程S3(場合によっては目標設定工程S1又はボトルネック抽出工程S2)に戻り、各工程の手順を繰り返せばよい。
【0086】
<作用効果>
本構成では、
図9に示す従来の設計プロセスと異なり、設計プロセスの上流、すなわち構造体の具体的な構造検討を行う前にMDOを用いた解析によるボトルネックの抽出を行う点に特徴がある。すなわち、最適化目的に関する目標を達成する上で、エンジニアリング的弱点となるボトルネックを、構造検討に先駆けて予め発見しておく。そして、重点的に対策すべき部品及び性能の優先順位を明確にした上で、優先順位の高い部品及び性能から優先してメカニズム解析及び構造検討を行う。これにより、ボトルネックにおける目標の達成を阻害する度合いを効果的に低減することができ、延いては開発の効率化を図ることができる。
【0087】
<実験例>
図5に示す現行量産車の車体100について、以下に示す条件でMDO及び感度解析を行い、感度β
jを算出した。
【0088】
目的関数:質量最小化
設計変数:部品の板厚最大48変数(部品は、フロントフレーム、サイドフレーム、リアサイドフレーム、ルーフレールなど車体骨格部品を主として含む407部品)
制約条件:性能指標71項目(衝突性能、操縦安定性、NVHなど)について単性能制約下及び全性能制約下
実験計画法:最適ラテン超方格法
サンプル数:95~110個
応答曲面法:多項式近似、RBF
変数選択:GA+p値の平均値
初期世代個体数:200個体
進化世代数:200世代
図6は、一部の部品について、得られた感度β
jの値を棒グラフで示したものである。
図6において、棒の長さが長いほど感度β
jの値の絶対値が大きいことを示している。
図6中、感度β
jの値の符号が正のもの(粗いハッチングの棒で示している)は、板厚低減で性能が悪化することを意味する。また、当該符号が負のもの(細かいハッチングの棒で示している)は、板厚低減で性能が悪化しないことを意味する。なお、
図6中の部品名のうち「OUT」及び「IN」は、それぞれアウタ及びインナを表す。
【0089】
また、単性能制約下MDO及び感度解析の結果に基づいて、主な性能毎に軽量化の阻害度(設計変数として設定している部品全体の総重量におけるMDO前後の重量差の逆数)を算出した結果を
図7に示す。
【0090】
図7に示すように、側突性能が最も阻害度が大きく、軽量化が困難な性能であることが判った。すなわち、側突性能はボトルネック性能であるということができる。
【0091】
図7の結果を考慮し、
図6において、側突性能について感度の符号が正の部品は、Aピラーアウタ4、Bピラーアウタ5、サイドシルインナ6、サイドフレームアウタ9、#4.5クロス16、Fドアアウタ18、Fドアインナ19であることが判った。これらの部品の板厚を低減させると側突性能が悪化するから、ボトルネック部品であるということができる。特に、Aピラーアウタ4、Bピラーアウタ5、サイドシルインナ6、サイドフレームアウタ9、Fドアインナ19は、他の部品と比べて、感度の値が大きく、板厚低下で側突性能が悪化する度合いが大きいことを示しており、優先順位の高いボトルネック部品と判断できる。なお、参考のため、Aピラーアウタ4、Bピラーアウタ5、サイドシルインナ6の3部品について、
図5中ハッチングを施して示している。
【0092】
また、
図6において、Bピラーアウタ5及びサイドシルインナ6の各々は、単性能制約下MDO及び全性能制約下MDOから得られた感度が非常に大きく且つ同一の値となっている。このことは、Bピラーアウタ5及びサイドシルインナ6の板厚低下で側突性能だけでなく全性能が悪化する度合いが大きいことを示している。言い換えると、Bピラーアウタ5及びサイドシルインナ6の板厚低下はボトルネック性能である側突性能及び全性能に対する影響が大きく、特に重点的に対策を講じるべきボトルネック部品であることが判った。
【0093】
また、上述のごとく、感度の符号が逆の性能は、トレードオフの関係にある。
図6において、例えばAピラーアウタ4、Bピラーアウタ5、サイドシルインナ6、サイドフレームアウタ9、Rサスハウジングインナ13、Rサスハウジングアウタ14、#4クロスUP15、Fドアアウタ18、Fドアインナ19、Rドアアウタ20等からなるキャブサイド領域の部品は、そのようなトレードオフの関係にある性能を多く有しており、複数の性能が複雑な関係で機能配分されていることが判る。このことから、キャブサイド領域は、ボトルネックであると言える。
【0094】
さらに、
図6には、部品を、板厚を考慮しない曲面と仮定したときの、当該曲面の面積を、部品の面積として記載している。なお、
図6の項目「面積」の列において、面積を棒グラフで示しており、棒が長いほど面積が大きいことを意味している。感度の値を部品の面積で除すことにより、単位面積あたりの感度に換算し、この単位面積あたりの感度に基づいてボトルネック抽出を行ってもよい。例えば、感度がほぼ同等のBピラーアウタ5とサイドシルインナ6とを比較すると、側突性能における単位面積あたりの感度は、前者が後者に対して約2倍で、前者の方が側突性能に与える影響が大きいことが判る。すなわち、Bピラーアウタ5は、サイドシルインナ6よりも面積の小さい部品ではあるが、側突性能に与える影響が大きいため、より優先順位の高いボトルネック部品として抽出してもよい。
【0095】
このようにして、全部品及び全性能について検討を行い、ボトルネック部品及びボトルネック製品を抽出した。
【0096】
次に、ボトルネックにおいて、当該ボトルネックが発生するメカニズムの解明に取り組んだ。具体例として、上述の釼持他2021に記載の荷重伝達経路解析を用いて、キャブサイド領域の力学的エネルギーの流れについて検討した。
【0097】
その結果、ベースの構造では、例えば、
図5及び
図8(a)に示すサイドシルインナ6の後端とリアホイールアーチ21の接続部101において、力学的エネルギーの流れが不均一になることが判った(
図8(b))。
【0098】
そこで、接続部101に強度用充填剤を付与して稜線補強31を行う対策構造案を検討した。対策構造案について荷重伝達経路解析を行ったところ、接続部101においては、上記稜線補強を行うことにより、サイドフレームアウタ9を介してインナ部品に荷重が伝達される経路が形成され、接続部101における力学的エネルギーの流れが均一化されることが判った(
図8(c))。稜線補強がインナ部品とアウタ部品とを結合するような働きをすることで荷重伝達を促し、性能向上させている可能性があると考えられる。
【0099】
その他のボトルネックについても、種々の対策を講じて得られた対策構造案について、上述のMDOを行い、検証を行ったところ、性能の要件及び目標(車体軽量化効率3%)を達成することが判った。具体的には、MDO前後で、ベース重量と対策構造案の重量を比較すると9kgの軽量化を達成できることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示は、構造体の設計支援方法及びシステムにおいて、構造体の性能及び部品について優先順位を明確化した上で、効果的に対策を講じることにより開発効率を向上できるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0101】
1 カウルサイドUP(部品)
2 カウル(部品)
3 ダッシュロア(部品)
4 Aピラーアウタ(部品)
5 Bピラーアウタ(部品)
6 サイドシルインナ(部品)
7 Fフロアパネル(部品)
8 Fフレームリア(部品)
9 サイドフレームアウタ(部品)
10#3クロスUP(部品)
11 Rヘッダー(部品)
12 Rコーナーインナ(部品)
13 Rサスハウジングインナ(部品)
14 Rサスハウジングアウタ(部品)
15 #4クロスUP(部品)
16 #4.5クロス(部品)
17 Rエンドパネル(部品)
18 Fドアアウタ(部品)
19 Fドアインナ(部品)
20 Rドアアウタ(部品)
21 リアホイールアーチ(部品)
31 稜線補強
100 車体(構造体)
101 接続部
201 コンピュータシステム(構造体の設計支援システム)
203 CPU(目標設定部、ボトルネック抽出部、メカニズム解析部、構造検討部、対策構造案導出部、判定部、構造決定部)