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特開2023-177606フィルム延伸装置、及びフィルムの製造方法
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  • 特開-フィルム延伸装置、及びフィルムの製造方法 図1
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  • 特開-フィルム延伸装置、及びフィルムの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177606
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】フィルム延伸装置、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/06 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B29C55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090355
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】増田 友昭
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AC03
4F210AG01
4F210AJ08
4F210AK04
4F210AK07
4F210AR06
4F210AR07
4F210AR12
4F210AR13
4F210AR20
4F210QA03
4F210QA10
4F210QC02
4F210QD34
4F210QD36
4F210QD50
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM01
4F210QM02
4F210QM03
4F210QM04
4F210QM11
4F210QM15
4F210QM20
(57)【要約】
【課題】コンパクトな構成で、フィルムに皺等の外観不良が生じることが低減したフィルム延伸装置を提供する。
【解決手段】フィルム延伸装置(100)は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルム(F)の搬送方向に離間して配置され、それぞれフィルム(F)の幅方向に延在する一対のガイドローラ(1、2)と、一対のガイドローラ(1、2)間のフィルム(F)を熱放射により加熱する加熱部(3)と、搬送方向における下流側のガイドローラ(2)上に位置し、フィルム(F)の両端部それぞれをガイドローラ(2)との間に挟む一対のニップローラ(4)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、
前記一対のガイドローラ間の前記フィルムを熱放射により加熱する加熱部と、
前記搬送方向における下流側のガイドローラ上に位置し、前記フィルムの両端部それぞれを前記ガイドローラとの間に挟む一対のニップローラと、
を備える、フィルム延伸装置。
【請求項2】
前記一対のニップローラは、前記フィルムの全幅の1.0%~15%に当接するように配置されている、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記ニップローラは、回転軸が前記下流側のガイドローラの回転軸に対し、それぞれ0°より大きく60°以下の角度をなすように配置されている、請求項1又は2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
前記ニップローラは、ローラ芯に、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム、ハイパロンゴム、及びフッ素ゴムからなる群から選択される1種以上のゴムを被覆してなるゴムローラである、請求項1又は2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項5】
前記下流側のガイドローラの表面粗さは、最大高さが1.6S以下であり、
前記ガイドローラの直径は、10mm以上である、請求項1又は2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項6】
前記一対のガイドローラの速度比率により1軸延伸を行う、請求項1又は2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項7】
前記加熱部は赤外線ヒータを有する、請求項1又は2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項8】
請求項1又は2のフィルム延伸装置を用いたフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルムのガラス転移温度は、80℃~250℃である、請求項8に記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルムは、厚み50μmにおける全光線透過率が80%以上である透明ポリイミドである、請求項8に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置、及びフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム等のフィルムの製造に際し、フィルム自体を加熱し、フィルムの搬送方向に張力を付加して、フィルムを延伸する技術が知られている。フィルムの熱膨張等により、フィルムに皺が生じることある。皺の発生を低減する技術として、特許文献1には、フィルムの幅方向への張力をクロスガイダにより発生させることが開示されている。特許文献2には、フィルムの幅方向の端部を表裏から挟むクロスガイダを配置し、フィルムに歪を付与することが開示されている。特許文献3は、フィルムの端を把持するニップローラを有し、フィルムに幅方向の引張り力を与えることが開示されている。特許文献4には、走行するフィルムの幅方向の両側の位置にそれぞれ、回転可能な円板から成る一対のディスクをフィルムに拡開力を与えるように設けることが開示されている。特許文献5には、搬送するフィルムの幅方向の両端部の近傍に、クロスガイダを配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-037290号公報
【特許文献2】特開2009-203055号公報
【特許文献3】特開昭62-263023号公報
【特許文献4】特開昭60-076318号公報
【特許文献5】特開2007-261773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原反として熱可塑性フィルムを用い、フィルムを加熱して、搬送方向に延伸するフィルム延伸装置において、コンパクトな構成で、フィルムに皺等の外観不良が生じることを低減させることが求められている。
【0005】
本発明の一態様は、フィルムの搬送方向に延伸するフィルム延伸装置において、コンパクトな構成でフィルムの延伸を可能としつつ、フィルムに皺等の外観不良が生じることを低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラ間の前記フィルムを熱放射により加熱する加熱部と、前記搬送方向における下流側のガイドローラ上に位置し、前記フィルムの両端部それぞれを前記ガイドローラとの間に挟む一対のニップローラと、を備える、フィルム延伸装置。
〔2〕前記一対のニップローラは、前記フィルムの全幅の1.0%~15%に当接するように配置されている、〔1〕に記載のフィルム延伸装置。
〔3〕前記ニップローラは、回転軸が前記下流側のガイドローラの回転軸に対し、それぞれ0°より大きく60°以下の角度をなすように配置されている、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔4〕前記ニップローラは、ローラ芯に、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム、ハイパロンゴム、フッ素ゴムからなる群から選択される1種以上のゴムを被覆してなるゴムローラである、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔5〕前記下流側のガイドローラの表面粗さは、最大高さが1.6S以下であり、前記ガイドローラの直径は、10mm以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔6〕前記一対のガイドローラの速度比率により1軸延伸を行う、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔7〕前記加熱部は赤外線ヒータを有する、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔8〕〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置を用いたフィルムの製造方法。
〔9〕前記フィルムのガラス転移温度は、80℃~250℃である、〔8〕に記載のフィルムの製造方法。
〔10〕前記フィルムは、厚み50μmにおける全光線透過率が80%以上である透明ポリイミドである、〔8〕に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、コンパクトな構成で、フィルムに皺等の外観不良が生じることを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る第2ガイドローラの内部構造を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る第2ガイドローラの回転軸に対するニップローラの配置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔本発明の実施形態の技術的思想〕
従来のフィルム延伸装置においては、フィルム自体を昇温するためにオーブンを使用していた。そのため予熱~本加熱に至るまでに長時間を要し、生産効率を上げるために、フィルムの搬送方向に沿って非常に長いオーブンを使用していた。これにより、生産設備にかかる固定費が増大し、問題となっていた。加熱時間が長いことで、フィルムの特性の低下が生じる品種もあり、本出願人は、短時間でフィルムの温度を昇温させることができる赤外線ヒータ、特に遠赤外線ヒータを用いたフィルム延伸装置を採用するに至った。この方式のフィルム延伸装置においては、省スペースで延伸が達成できる反面、処理中にフィルムに皺等の外観不良を誘発することも見出されたため、コンパクトな構成を維持しつつ、その対策を行うことが求められた。
【0010】
本発明者は、フィルム延伸装置の、ヒータによるフィルムの加熱領域の下流側のローラ上に、フィルムの両端部をニップするニップローラを設けることにより、コンパクトな構成で、フィルムが拡幅され、フィルムに皺等が生じることを低減できること見出し、本発明を完成した。
【0011】
以下、図面に基づいて具体的に説明する。
【0012】
〔実施形態〕
(フィルム延伸装置100の概要)
図1は、本発明の一の実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す斜視図である。図1におけるX軸方向を左右方向とし、Y軸方向を前後方向とし、Z軸方向を上下方向とする。Y軸方向は搬送されるフィルムFの幅方向でもある。
【0013】
フィルム延伸装置100は、第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2と、ヒータ(加熱部)3と、ニップローラ4と、を備える。フィルムFは、第1ガイドローラ1から第2ガイドローラ2へ、左右方向(X軸方向)に搬送される。フィルム延伸装置100は、さらに第1ガイドローラ1よりも上流側、及び第2ガイドローラ2よりも下流側にそれぞれ搬送のための駆動力をフィルムFに与える駆動ローラ(図示省略)を備える。フィルムFの搬送に伴い、フィルムFと摩擦接触する第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2もそれぞれ回転する。フィルム延伸装置100は、離間された駆動ローラの周速差(速度比率)、即ち、第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2の速度比率によりフィルムFを搬送方向に1軸延伸する装置であることが好ましい。言い換えると、フィルムFにかかる張力と、ヒータ3による加熱とにより延伸が行われることが好ましい。この場合、張力をモニターして駆動ローラの速度をフィードバックし、搬送方向の厚みムラを低減し、延伸倍率の精度を上げることができる。
【0014】
(フィルム)
フィルムFは、例えば熱可塑性フィルムである。フィルムFが熱可塑性フィルムである場合、ガラス転移温度(Tg)は80℃以上250℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度とは、フィルムFの動的粘弾性を測定し、フィルムFの貯蔵弾性率と測定温度との相関関係をプロットしたときの変曲点の温度を意味する。フィルムFの動的粘弾性測定は、例えばセイコー電子工業(株)製DMS-200を用い、測定治具間隔20mm、周波数5Hzの条件で測定する。ガラス転移温度が80℃以上250℃以下である場合、フィルムFは、ニップローラ4により良好に拡幅されることが確認されている。フィルムFの幅は、例えば約300mmである。
【0015】
フィルムFの材質としては、例えばポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ハロゲン化ポリエチレン等のポリオレフィン類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の芳香族ポリエーテル類、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリイミドが好ましい。ポリイミドの中では、厚み50μmにおける全光線透過率が80%以上である透明ポリイミドが好ましい。全光線透過率は、JIS規格のK7361-1:1997に準拠して測定する。
【0016】
(第1ガイドローラ及び第2ガイドローラ)
第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2は、搬送方向に張力を加えた状態で搬送されるフィルムFをガイドするように搬送方向に離間して配置され、それぞれフィルムFの幅方向(Y軸方向)に延在する一対のガイドローラである。即ち、第2ガイドローラ2の回転軸K、及び第1ガイドローラ1の回転軸は、Y軸方向に平行である。フィルムFは、第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2によりX軸の正方向に搬送される。フィルムFに加えられる張力は例えば188N/mである。
【0017】
第1ガイドローラ1は、搬送方向の上流側のガイドローラである。第2ガイドローラ2は、搬送方向の下流側のガイドローラである。第1ガイドローラ1及び第2ガイドローラ2はそれぞれ、上述したように異なる回転数にて回転してもよく、フィルムFの搬送に合わせて回転してもよい。
【0018】
第2ガイドローラ2の後述するローラ表層部21の表面粗さは、最大高さが1.6S以下であることが好ましい。表面粗さの最大高さは、JIS規格のB 0601:1994に準拠して測定する。第2ガイドローラ2の表面粗さの最大高さが1.6Sを超える場合、フィルムFに対するグリップ力が大きくなり、ニップローラ4でフィルムFを外向きに引っ張ることができず、良好にフィルムFを拡幅できなくなる。
【0019】
第2ガイドローラ2の直径は、10mm以上であることが好ましい。第2ガイドローラ2の直径は、30mm以上であってもよく、40mm以上であってもよく、100mm以上であってもよい。第2ガイドローラ2を後述するように冷却ローラとして用いる場合、直径は100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがより好ましい。第2ガイドローラ2の全長は、直径に応じて選択でき、例えば300mm、500mm、1500mmの場合が挙げられる。
【0020】
(ガイドローラの内部構造)
図2は、第2ガイドローラ2の内部構造を示す斜視図である。第2ガイドローラ2はヒータ3に近接しているので、ヒータ3の熱放射に晒されてしまう可能性がある。そのため、第2ガイドローラ2の表面温度に分布ができてしまい、フィルムFが均一に延伸されなくなる虞がある。そのため、第2ガイドローラ2のフィルムFとの接触面の表面温度を均一にするため、第2ガイドローラ2は、冷却ローラとして、以下のような内部構造を有してもよい。
【0021】
第2ガイドローラ2は、ローラ表層部21及びローラ軸部22を備える。第2ガイドローラ2の内部には軸方向に延びた冷媒用空間23が形成されている。第2ガイドローラ2のローラ軸部22の両端部には、それぞれ冷媒(または熱媒)の導入管25及び排出管26が接続されている。また、冷媒用空間23には、回転軸Kに沿ったらせん状の経路を規定する仕切り部材24が設けられている。これにより、導入管25から流入される冷媒(または熱媒)は、(図2の矢印で示すように)冷媒用空間23を軸周りに旋回して仕切り部材24内を通流し、排出管26から排出される。冷媒用空間23に冷媒を通すことにより、第2ガイドローラ2の表面温度を均一に保つことができる。従って、第2ガイドローラ2がヒータ3の熱放射に晒されてしまう場合であっても、上述のジャケット構造により第2ガイドローラ2のフィルムFとの接触面の表面温度を均一に保つことで、フィルムFを均一に延伸することができる。
【0022】
なお、冷媒(または熱媒)としては例えば冷却水又は油等が挙げられるが、これに限定されない。冷媒は、少なくとも第2ガイドローラ2の表面温度を、ガラス転移温度より低く制御できればよい。また、図2では、冷媒をワンパスで流す構造を示しているが、これに限定されない。そして、第2ガイドローラ2は上述の冷却構造を有しないものであってもよい。
【0023】
(ガイドローラの回転速度)
第2ガイドローラ2の外周における回転した長さは、フィルムFが延伸して伸びた長さ分だけ、第1ガイドローラ1の外周における回転した長さより長くなる。即ち、第2ガイドローラ2の回転速度は、第1ガイドローラ1の回転速度よりも早くなる。例えば、第2ガイドローラ2の回転速度は、第1ガイドローラ1の回転速度に対して0.1%以上200%以下速い回転速度であってもよい。
【0024】
(ヒータ)
ヒータ3は、第1ガイドローラ1と第2ガイドローラ2との間のフィルムFの表面の表面温度がフィルムFのガラス転移温度付近から軟化温度付近までの範囲にあるように、フィルムFを熱放射により加熱する。ヒータ3は、例えば遠赤外線ヒータである。ヒータ3は、ヒータ3側のフィルム面(表面)から略40mmの距離に設けることが好ましい。
【0025】
ヒータ3の熱放射によって第1ガイドローラ1と第2ガイドローラ2との間のフィルムFは加熱され、フィルムFの表面温度をガラス転移温度より高い温度(例えば、約255~275℃)まで加熱する。フィルムFは図1に示す軟化ゾーンAで軟化し、第1ガイドローラ1と第2ガイドローラ2との間の張力により搬送方向に延伸可能となる。
【0026】
ヒータ3は、フィルムFの幅方向に対して、複数配置してもよい。これは、遠赤外線ヒータ一つでは、フィルムFの幅方向全域を加熱することができないためである。また、フィルムFの幅方向における遠赤外性ヒータの温度設定に勾配をつけること(例えば、フィルムFの中央の温度設定を低めにする等)によって、延伸ムラを低減することができる。図1においては、ヒータ3をフィルムFの幅方向に複数配置した状態を示している。
【0027】
図1においては、ヒータ3をフィルムFの幅方向に一列配置した状態を示しているが、ヒータ3は、搬送方向に、複数列配置してもよい。複数列で加熱を行うことで、搬送速度を上げた場合の熱量不足を補うことができる。この場合、上流側の列のヒータ3と下流側の列のヒータ3との放射面の温度は異なっていてもよい。この場合、下流側のヒータ3の放射面の温度が上流側の放射面の温度よりも10℃以上20℃以下高いことが好ましい。これにより、延伸ムラを低減することができる。フィルムFによっては、急激な温度低下が加わると延伸ムラが発生することがある。このような場合、上流側のヒータ3の温度よりも下流側のヒータ3の温度を低く設定する(例えば、下流側のヒータ3の放射面の温度が上流側のヒータ3の放射面の温度よりも10℃以上20℃以下低くする)ことで、急激な温度低下を抑制し、延伸ムラを低減することができる。
【0028】
(ニップローラ)
フィルム延伸装置100は、一対のニップローラ4を備える。一対のニップローラ4は、第2ガイドローラ2上において、フィルムFの両端部をニップするように配置されている。即ち、一対のニップローラ4は、フィルムの両端部それぞれを第2ガイドローラ2との間に挟む。ニップローラ4は、フィルムFを幅方向の外向きに引っ張る拡幅機能を有する。ニップローラ4の回転軸Lは水平面に平行である。ニップローラ4は、第2ガイドローラ2とフィルムFとが接触している図1に示す領域Bにおいて、フィルムFに当接することが好ましい。ニップローラ4は、自体が駆動する駆動ローラではなく、フィルムFの搬送に追従して回転する。即ち、図1に示すように、第2ガイドローラ2が回転軸Kの周りを回転方向Mで回転するのに従って、ニップローラ4は回転軸Lの周りを回転方向Nで回転する。
【0029】
ニップローラ4は、フィルムFの全幅の1.0%~15%をニップするように配置されていることが好ましい。これにより、熱収縮したフィルムFを拡幅することができ、皺の発生が低減される。フィルムFを拡幅させる機能と、フィルムFに対するグリップ力とのバランスから、ニップローラ4は、フィルムFの全幅の5.0%~15%をニップするように配置されていることがより好ましい。
【0030】
図3は、第2ガイドローラ2の回転軸Kに対するニップローラ4の配置を示す説明図である。ニップローラ4は、図3に示すように、第2ガイドローラ2の回転軸Kに対し、0°より大きく60°以下の角度θをなすように配置されていることが好ましい。角度θが60°を超えるとグリップ力が大きくなり、フィルムFが折れ曲がる虞がある。角度θは5°以上であることがより好ましい。角度θは40°以下であることがより好ましく、30°以下であることがさらに好ましい。
【0031】
ニップローラ4はゴムローラであることが好ましい。ゴムローラとは、例えば炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材料を用いたローラ芯にゴム等の弾性物質を被覆したローラをいう。弾性物質としては、例えばニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPT)、シリコーンゴム(Q)、ブチルゴム(IIR)、スチレンゴム(SBR)、ウレタンゴム(U)、ハイパロンゴム(CSM)、フッ素ゴム等からなる群から選択される1種以上が挙げられる。中でも、良好にフィルムFに対するグリップ力が得られるという観点から、NBRが好ましい。ゴムローラは、摩擦係数が高く、滑りにくく、変形しても急速に原形に戻るという特徴を有する。ニップローラ4をゴムローラにより構成することにより、ニップローラ4を、回転軸Lが第2ガイドローラ2の回転軸Kに対し上述の角度をなすように配置しても、潰れにより、点接触ではなく、面接触によりフィルムFに当接することができる。これによりニップする範囲を広くすることができ、即ち、上述したようにフィルムFの全幅の1.0%~15%をニップすることができ、フィルムFを拡幅して皺の発生を低減することができる。
【0032】
ニップローラ4の直径は、第2ガイドローラ2より小さくてもよく、大きくてもよい。よりコンパクトに構成できるという観点から、ニップローラ4の直径は、第2ガイドローラ2より小さいことが好ましい。例えば、第2ガイドローラ2の直径が150mm、全長が1500mmである場合、ニップローラ4の直径を40mm、全長が100mmにすることができる。
【0033】
図1においては、ニップローラ4を第2ガイドローラ2の両端部に一対設ける場合を示しているが、この場合に限定されない。第2ガイドローラ2のさらに下流側の両端部に、さらに一対のニップローラ4を設けてもよい。
【0034】
(反射板)
フィルム延伸装置100は、さらにフィルムFを挟んで、ヒータ3に対して反対側に反射板(図示省略)を備えていてもよい。反射板は、フィルムFが透過したヒータ3による熱放射を反射し、ヒータ3側のフィルム面(表面)に加え、ヒータ3の反対側のフィルム面(裏面)を加熱するための反射板である。反射板はアルミの平板であってもよく、フィルムの裏面から20mmの距離に設けることが好ましい。
【0035】
(フィルムの製造方法)
実施形態のフィルム延伸装置100を用いてフィルムFを製造する場合、所定の速度比率で2つの駆動ローラを駆動させ、フィルムFを搬送させる。第1ガイドローラ1と第2ガイドローラ2との間でヒータ3によりフィルムFが加熱され、速度比率により生じる張力と加熱とによりフィルムFは延伸される。フィルムFは、加熱直後に幅方向の両端側で接触するニップローラ4により、拡幅される。張力をモニターして、駆動ローラの速度比率はフィードバック制御される。
【0036】
(熱可塑性樹脂フィルムの用途)
本発明の実施形態に係るフィルムは、特に制限されるものではないが、例えば、自動車内外装、携帯電話の部材、AV機器の部材、パソコン機器の部材、家具製品、各種ディスプレイ、レンズ、窓ガラス、小物、雑貨等の外観意匠性の必要となる各種用途等に用いることができる。
【0037】
(効果)
以上のように、実施形態に係るフィルム延伸装置100は、下流側の第2ガイドローラ2上に、フィルムFの両端部をニップするニップローラ4を有するので、フィルムFを幅方向(第2ガイドローラ2の回転軸Kの方向)に拡幅することができる。従って、遠赤外線ヒータ等のヒータ3を用いて省スペースで延伸を達成しつつ、フィルムFに皺等の外観不良が生じることが低減している。ニップローラ4は、第2ガイドローラ2上に位置するので、図1における第2ガイドローラ2の左右方向に、設置スペースを要しない。ニップローラ4として、第2ガイドローラ2に対し小型のローラを用いた場合、図1における第2ガイドローラ2の上方向に、大きな設置スペースを要しない。従って、コンパクトな構造で、フィルムFに皺等が生じることを低減できる。
【0038】
〔まとめ〕
本発明の実施形態は、以下の構成であってもよい。
〔1〕搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラ間の前記フィルムを熱放射により加熱する加熱部と、前記搬送方向における下流側のガイドローラ上に位置し、前記フィルムの両端部それぞれを前記ガイドローラとの間に挟む一対のニップローラと、を備える、フィルム延伸装置。
〔2〕前記一対のニップローラは、前記フィルムの全幅の1.0%~15%に当接するように配置されている、〔1〕に記載のフィルム延伸装置。
〔3〕前記ニップローラは、回転軸が前記下流側のガイドローラの回転軸に対し、それぞれ0°より大きく60°以下の角度をなすように配置されている、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム延伸装置。
〔4〕前記ニップローラは、ローラ芯に、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム、ハイパロンゴム、フッ素ゴムからなる群から選択される1種以上のゴムを被覆してなるゴムローラである、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載のフィルム延伸装置。
〔5〕前記下流側のガイドローラの表面粗さは、最大高さが1.6S以下であり、前記ガイドローラの直径は、10mm以上である、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載のフィルム延伸装置。
〔6〕前記一対のガイドローラの速度比率により1軸延伸を行う、〔1〕~〔5〕の何れか1つに記載のフィルム延伸装置。
〔7〕前記加熱部は赤外線ヒータを有する、〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載のフィルム延伸装置。
〔8〕〔1〕~〔7〕の何れか1つに記載のフィルム延伸装置を用いたフィルムの製造方法。
〔9〕前記フィルムのガラス転移温度は、80℃~250℃である、〔8〕に記載のフィルムの製造方法。
〔10〕前記フィルムは、厚み50μmにおける全光線透過率が80%以上である透明ポリイミドである、〔8〕又は〔9〕に記載のフィルムの製造方法。
【0039】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 第1ガイドローラ
2 第2ガイドローラ
21 ローラ表層部
22 ローラ軸部
23 冷媒用空間
24 仕切り部材
25 導入管
26 排出管
3 ヒータ(加熱部)
4 ニップローラ
100 フィルム延伸装置
F フィルム
図1
図2
図3