(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177615
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】蓄電池の寿命推定装置及び蓄電池の寿命推定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20231207BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231207BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20231207BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231207BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/387
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090368
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA22
2G216BA29
2G216BA30
2G216BA64
2G216BA67
2G216CB52
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503EA08
5H030AA10
5H030AS01
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】寿命推定精度の向上が十分に期待できる蓄電池の寿命推定装置及び蓄電池の寿命推定方法を提供する。
【解決手段】蓄電池の運用期間中の充放電サイクルに係るサイクル時間t
cyc と、保存経過に係る保存時間t
st とを分けて算出が行われる。次いで、蓄電池の電池状態値の実測値、サイクル時間t
cyc 、及び保存時間t
st に基づいて、最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得が行われる。そして、取得した近似式に基づいて、蓄電池の所望寿命までの寿命情報(蓄電池の推定サイクル寿命t
cyc_end 、推定寿命t
sum_end 、残存合計時間t
sum_rem 等)の算出が行われる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の電池状態値の実測値から得る近似式に基づいて前記蓄電池の寿命推定を行う蓄電池の寿命推定装置であって、
前記蓄電池の運用期間において充放電動作が行われた充放電サイクルに係るサイクル時間、及び前記充放電動作が行われていない保存経過に係る保存時間を算出する期間算出部と、
前記蓄電池の電池状態値の実測値、前記サイクル時間、及び前記保存時間に基づいた最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得とともに、前記近似式に基づいて前記蓄電池の所望寿命までの寿命情報を算出する寿命推定部と、を備えてなる、
蓄電池の寿命推定装置。
【請求項2】
前記蓄電池の電池状態値の実測値の個数が、前記蓄電池の寿命推定に十分な個数かを判定する判定値以上あるかを判定し、前記判定値以上との判定に基づいて前記寿命推定部を含む前記蓄電池の寿命推定処理を許容する推定可否判定部を備えてなる、
請求項1に記載の蓄電池の寿命推定装置。
【請求項3】
前記寿命推定部は、前記近似式に基づき前記蓄電池の電池状態値の推定値を得るものであり、
前記蓄電池の電池状態値の推定値が、前記蓄電池の電池状態値の実測値との相関係数が判定値以上の近似態様にあるかを判定し、前記判定値以上との判定に基づいて前記寿命推定部を含む前記蓄電池の寿命推定処理を許容する推定精度判定部を備えてなる、
請求項1に記載の蓄電池の寿命推定装置。
【請求項4】
前記寿命推定部は、前記近似式に基づき前記蓄電池の電池状態値の推定値を得るものであり、
前記蓄電池の電池状態値における最新の実測値とこれに対応する前記推定値との一致を条件に含み前記近似式の取得を行うように構成されている、
請求項1に記載の蓄電池の寿命推定装置。
【請求項5】
前記寿命推定部は、前記蓄電池の電池状態値における運用初期の実測値を除いて前記近似式の取得を行うように構成されている、
請求項1に記載の蓄電池の寿命推定装置。
【請求項6】
蓄電池の電池状態値の実測値から得る近似式に基づいて前記蓄電池の寿命推定を行う蓄電池の寿命推定方法であって、
前記蓄電池の運用期間において充放電動作が行われた充放電サイクルに係るサイクル時間、及び前記充放電動作が行われていない保存経過に係る保存時間を算出し、
前記蓄電池の電池状態値の実測値、前記サイクル時間、及び前記保存時間に基づいた最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得とともに、前記近似式に基づいて前記蓄電池の所望寿命までの寿命情報を算出する、
蓄電池の寿命推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電池の寿命推定装置及び蓄電池の寿命推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの有効利用や災害時の電力供給等を目的とした定置用蓄電池の導入が拡大しつつある。蓄電池は次第に性能が低下していくため、蓄電池の寿命を把握することはシステムを健全に運用していく上で非常に重要である。そのため、蓄電池の寿命を推定することが行われている。
【0003】
蓄電池の寿命推定技術の一例としては、蓄電池の運用時間の平方根が蓄電池容量と比例関係にあることを利用する所謂ルート則を用いるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の蓄電池の寿命推定技術は、蓄電池の正極及び負極のそれぞれの性能低下状況に基づき、特に寿命末期の電池性能低下をより精度良く把握できることを狙ったものである。こうした例のように、蓄電池の寿命推定精度を向上させることが要求の一つとしてある。本発明者は、上記向上策とは異なる寿命推定手法を模索していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記課題を解決する蓄電池の寿命推定装置は、蓄電池の電池状態値の実測値から得る近似式に基づいて前記蓄電池の寿命推定を行う蓄電池の寿命推定装置であって、前記蓄電池の運用期間において充放電動作が行われた充放電サイクルに係るサイクル時間、及び前記充放電動作が行われていない保存経過に係る保存時間を算出する期間算出部と、前記蓄電池の電池状態値の実測値、前記サイクル時間、及び前記保存時間に基づいた最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得とともに、前記近似式に基づいて前記蓄電池の所望寿命までの寿命情報を算出する寿命推定部と、を備えてなる。
【0007】
上記構成によれば、蓄電池の運用期間中の充放電サイクルに係るサイクル時間と、保存経過に係る保存時間とを分けて算出が行われる。次いで、蓄電池の電池状態値の実測値、サイクル時間、及び保存時間に基づいて、最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得が行われる。そして、取得した近似式に基づいて、蓄電池の所望寿命までの寿命情報の算出が行われる。つまり、充放電サイクルと単なる保存経過とでは蓄電池の性能が大きく異なることに着目し、個別に算出を進めることは寿命推定精度の向上が十分に期待できる。また、近似式をべき乗則とすることで、蓄電池の寿命推定で一般的に用いられるルート則のみならず、状況に応じてルート則以外の近似も行うことが可能である。このことでも、寿命推定精度の向上が期待できる。
【0008】
[2]上記[1]に記載の蓄電池の寿命推定装置において、前記蓄電池の電池状態値の実測値の個数が、前記蓄電池の寿命推定に十分な個数かを判定する判定値以上あるかを判定し、前記判定値以上との判定に基づいて前記寿命推定部を含む前記蓄電池の寿命推定処理を許容する推定可否判定部を備えてなる。
【0009】
上記構成によれば、蓄電池の電池状態値の実測値が判定値以上の十分な個数がある場合に、蓄電池の寿命推定が行われる。このことでも、寿命推定精度の一層の向上が期待できる。
【0010】
[3]上記[1]又は[2]に記載の蓄電池の寿命推定装置において、前記寿命推定部は、前記近似式に基づき前記蓄電池の電池状態値の推定値を得るものであり、前記蓄電池の電池状態値の推定値が、前記蓄電池の電池状態値の実測値との相関係数が判定値以上の近似態様にあるかを判定し、前記判定値以上との判定に基づいて前記寿命推定部を含む前記蓄電池の寿命推定処理を許容する推定精度判定部を備えてなる。
【0011】
上記構成によれば、蓄電池の電池状態値の推定値の実測値との相関係数が判定値以上の近似態様にある場合に、蓄電池の寿命推定が行われる。このことでも、寿命推定精度の一層の向上が期待できる。
【0012】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つに記載の蓄電池の寿命推定装置において、前記寿命推定部は、前記近似式に基づき前記蓄電池の電池状態値の推定値を得るものであり、前記蓄電池の電池状態値における最新の実測値とこれに対応する前記推定値との一致を条件に含み前記近似式の取得を行うように構成されている。
【0013】
上記構成によれば、蓄電池の電池状態値の最新の実測値とこれに対応する推定値との一致を条件に含んで近似式の取得が行われ、蓄電池の寿命推定が行われる。最新の実測値と推定値とを一致させることは、寿命推定精度の向上に繋がる。
【0014】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つに記載の蓄電池の寿命推定装置において、前記寿命推定部は、前記蓄電池の電池状態値における運用初期の実測値を除いて前記近似式の取得を行うように構成されている。
【0015】
上記構成によれば、蓄電池の電池状態値の運用初期の実測値が除かれて近似式の取得が行われ、蓄電池の寿命推定が行われる。運用初期の古い実測値を除くことは、寿命推定精度の向上に繋がる。
【0016】
[6]上記課題を解決する蓄電池の寿命推定方法は、蓄電池の電池状態値の実測値から得る近似式に基づいて前記蓄電池の寿命推定を行う蓄電池の寿命推定方法であって、前記蓄電池の運用期間において充放電動作が行われた充放電サイクルに係るサイクル時間、及び前記充放電動作が行われていない保存経過に係る保存時間を算出し、前記蓄電池の電池状態値の実測値、前記サイクル時間、及び前記保存時間に基づいた最小二乗近似によるべき乗則の近似式の取得とともに、前記近似式に基づいて前記蓄電池の所望寿命までの寿命情報を算出する。
【0017】
上記構成によれば、上記した蓄電池の寿命推定装置と同様に、寿命推定精度の向上が十分に期待できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示の蓄電池の寿命推定装置及び蓄電池の寿命推定方法によれば、寿命推定精度の向上を十分に期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態における蓄電池及び寿命推定装置の構成図である。
【
図2】同実施形態における蓄電池の寿命推定に係るフロー図である。
【
図3】同実施形態における蓄電池の寿命推定に係る説明図である。
【
図4】同実施形態における蓄電池の寿命推定に係る説明図である。
【
図5】変更例における蓄電池の寿命推定に係る説明図である。
【
図6】比較例における蓄電池の寿命推定に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、蓄電池の寿命推定装置及び蓄電池の寿命推定方法の一実施形態について図面を用いて説明する。
(蓄電池10の寿命推定を行う寿命推定装置20の全体構成)
図1には、本実施形態の蓄電池10及び寿命推定装置20を含む全体構成が示されている。蓄電池10は、例えば定置用リチウムイオン蓄電池である。蓄電池10は、太陽光発電等の再生可能エネルギーの有効利用や災害時の電力供給等を目的として設置されるものである。蓄電池10は、寿命推定装置20と電気的に接続されている。本実施形態の蓄電池10は、寿命推定装置20により電池状態の診断がなされ、寿命の推定が行われる。
【0021】
寿命推定装置20は、蓄電池10に係る電池状態診断部30、推定可否判定部40、期間算出部50、寿命推定部60、推定精度算出部70、推定精度判定部80、及び記憶部90を備えている。また、記憶部90は、電池状態データ91、期間データ92、関係式データ93、寿命推定データ94、及び判定データ95をそれぞれ入出力可能に記憶する。なお、
図1に示す矢印はデータの流れの主たるものであり、省略しているものもある。
【0022】
(電池状態診断部30)
図1及び
図4等に示すように、電池状態診断部30は、運用中の蓄電池10の現時点の電池状態値として蓄電池容量Qを測定する。蓄電池容量Qの測定は、所定タイミング毎に定期的に行われる。本実施形態の定期的な測定は、例えば1週間に1度決められた時刻に設定されている。蓄電池容量Qは、実測定値そのもの、若しくは実測定値の全容量に対する比率(本実施形態では容量維持率という)を含む。
図4等では、蓄電池容量Qが容量維持率として示してある。また本実施形態では、蓄電池10の電池状態値を測るものとして蓄電池容量Qが用いられるが、蓄電池10の内部抵抗等、蓄電池10の電池状態値と相関のある他のパラメータを用いることもできる。電池状態診断部30にて定期的に測定される蓄電池容量Qの実測値Q
x は、記憶部90に電池状態データ91として時刻情報と関連付けて順次格納され蓄積されていく。
【0023】
(推定可否判定部40)
図1、
図3及び
図4等に示すように、推定可否判定部40は、蓄電池10の寿命推定を行うか判断する。すなわち、推定可否判定部40は、蓄電池10の寿命推定に用いる十分な実測値Q
x のデータがあるかを判定すべく、記憶部90に格納された蓄電池容量Qのデータの個数が判定値N
a 以上あるかを判定する。蓄電池容量Qのデータの個数は、蓄電池10の寿命推定開始の時刻T
0 、本実施形態では蓄電池10の運用開始時点の時刻から現時点の時刻T
now までの所定期間中の数である。本実施形態の判定値N
a は、例えば5[点]に設定されている。蓄電池10の寿命推定の十分な精度を担保するためには、最低でも5[点]の蓄電池容量Qのデータが必要と考えている。判定値N
a は、記憶部90に判定データ95として格納されている。
【0024】
(期間算出部50)
期間算出部50は、運用期間中の蓄電池10に係る合計時間tsum 、サイクル時間tcyc 、保存時間tst 、及び時間比率Aを算出する。合計時間tsum は、上記した時刻T0 から時刻Tnow まで全時間である。サイクル時間tcyc は、蓄電池10の充放電動作が行われた充放電サイクルに係る時間である。保存時間tst は、蓄電池10の充放電動作が行われていない単なる保存経過に係る時間である。合計時間tsum は、サイクル時間tcyc と保存時間tst とを加算した時間でもあり、tsum =tcyc +tst で表せる。時間比率Aは、サイクル時間tcyc と保存時間tst との比率であり、A=tst /tcyc で表せる。
【0025】
期間算出部50は、運用中の蓄電池10の入出力電流Iが判定値±I
a (
図3参照)以上の変化であるときは充放電サイクルに係るサイクル時間t
cyc として計時する。本実施形態の判定値±I
a は、例えば±1[A]に設定されている。一方で、蓄電池10の入出力電流Iが判定値±I
a 未満の変化であるときは単なる保存経過に係る保存時間t
st として計時する。その時々で生じるサイクル時間t
cyc 及び保存時間t
st はそれぞれにおいて積算される。ちなみに、合計時間t
sum 、サイクル時間t
cyc 、及び保存時間t
st はそれぞれ計時してもよいが、いずれか2つを計時し残り1つを算出することでもよい。合計時間t
sum 、サイクル時間t
cyc 、保存時間t
st 、及び時間比率Aは、記憶部90に期間データ92としてそれぞれ格納される。
【0026】
(寿命推定部60)
寿命推定部60は、上記した時刻T0 から現時点の時刻Tnow までの時間範囲における蓄電池容量Q、サイクル時間tcyc 、及び保存時間tst のデータに基づいて、最小二乗近似による次式[数1]のべき乗則の近似式を得る。つまり、近似式の係数Q0 ,k1 ,k2 ,α1 ,α2 が算出される。また、係数Q0 ,k1 ,k2 ,α1 ,α2 の算出とともに、蓄電池容量Qの推定値Qa も算出される。
【0027】
【数1】
上記式[数1]はすなわち、[蓄電池容量Qの推定値Q
a ]=[係数Q
0 (蓄電池容量Qの初期値)]-[係数k
1 ,α
1 を有するサイクル時間t
cyc のべき乗値]-[係数k
2 ,α
2 を有する保存時間t
st のべき乗値]である。上記式[数1]は、記憶部90に関係式データ93として格納されている。後述の式[数2]から式[数5]等の寿命推定に係る各種式においても、記憶部90に関係式データ93として格納されている。
【0028】
本実施形態の蓄電池10の寿命推定に用いる上記式[数1]は、蓄電池10の充放電サイクルに係るサイクル時間tcyc の項と、単なる保存経過に係る保存時間tst の項とに分けた式の構成となっている。本発明者は、充放電サイクルに係る蓄電池10の性能低下と、単なる保存経過に係る性能低下とが異なると考えているためである。また、蓄電池10の運用時間(時間そのもの、若しくはサイクル数を含む)の平方根が蓄電池容量と比例関係にあることを利用する所謂ルート則、すなわち係数α1 ,α2 が「1/2」のみならず、係数α1 ,α2 がその他の実数も含む「べき乗則」の式の構成としている。蓄電池10の状況によってはルート則よりも近似させることができると考えているためである。こうして、算出された蓄電池容量Qの推定値Qa についても、記憶部90に寿命推定データ94として順次格納される。
【0029】
(推定精度算出部70)
推定精度算出部70は、蓄電池容量Qの推定値Qa と実測値Qx との相関係数rを算出する。
【0030】
(推定精度判定部80)
推定精度判定部80は、相関係数rが判定値ra 以上か、すなわち所望以上に推定値Qa が実測値Qx に近似しているかを判定する。本実施形態の判定値ra は、例えば「0.95」に設定されている。本実施形態の判定値ra は、記憶部90に判定データ95として格納されている。相関係数rが判定値ra 未満の場合、推定精度判定部80は、上記寿命推定部60にて算出した蓄電池容量Qの推定値Qa の実測値Qx との近似が所望未満であるとし、推定精度が不良と判定する。一方で、相関係数rが判定値ra 以上となると、推定精度判定部80は、上記寿命推定部60にて算出した蓄電池容量Qの推定値Qa の実測値Qx との近似が所望以上であるとし、推定精度が良好と判定する。
【0031】
推定精度が不良と判定された場合、上記の寿命推定部60は、時刻T0 から次のデータのある時刻T0
’に時間範囲を変更し、変更した時刻T0
’から時刻Tnow までの時間範囲にて、蓄電池容量Qの推定値Qa と実測値Qx との相関係数rを算出し直す。つまり、最も古いデータが除かれる。そして、相関係数rが判定値ra 以上となること、すなわち推定精度が良好と判定されることを目指して、上記した判定及び算出動作が繰り返し行われる。これが繰り返されることで、古いデータが順次除かれていく。もちろん、蓄電池容量Qのデータの個数は、判定値Na 以上となる範囲内で行われるものである。
【0032】
(寿命推定部60の各種算出処理)
ここで、寿命推定部60で用いた上記式[数1]に、時間比率A=tst /tcyc 、すなわちtst =A・tcyc を代入すると、次式[数2]となる。
【0033】
【数2】
蓄電池10の推定サイクル寿命t
cyc_end を算出するにあたり、上記式[数2]は次式[数3]のようになる。
【0034】
【数3】
蓄電池10の寿命判定容量Q
end を例えば容量維持率で60[%]と設定した場合、寿命推定に係る係数Q
0 ,k
1 ,k
2 ,α
1 ,α
2 は上記式[数1]から得られることから、蓄電池10の推定サイクル寿命t
cyc_end を上記式[数3]から得ることが可能である。すなわち、寿命推定部60は、上記式[数3]を用いて推定サイクル寿命t
cyc_end を算出する。
【0035】
合計時間tsum はtsum =tcyc +tst であることから、時刻T0 (場合によっては時刻T0
’)から寿命判定容量Qend に到達する時刻Tend までの推定寿命tsum_end は次式[数4]のようになる。
【0036】
【数4】
さらに、上記式[数4]を時間比率A=t
st /t
cyc 、すなわちt
st =A・t
cyc を用いて変形し、上記式[数3]から得られた推定サイクル寿命t
cyc_end を代入することで、推定寿命t
sum_end を得ることが可能である。すなわち、寿命推定部60は、上記式[数4]を用いて推定寿命t
sum_end を算出する。
【0037】
上記式[4]から得られた推定寿命tsum_end は、時刻T0 から現時点の時刻Tnow までの運用時間tsum_now を減算する次式[数5]を用い、蓄電池10の残存合計時間tsum_rem を得ることが可能である。
【0038】
【数5】
寿命推定部60は、上記式[数5]を用いて蓄電池10の残存合計時間t
sum_rem を算出する。そして、寿命推定装置20は、蓄電池10の残存合計時間t
sum_rem 等の算出結果を図示略の表示装置による表示、若しくは関係機器に対して結果を出力し、寿命推定処理を終了する。
【0039】
(蓄電池10の寿命推定に係る処理手順)
本実施形態の蓄電池10の寿命推定処理は、
図2に示すフローに沿って行われる。
ステップS1では、蓄電池10の現時点の電池状態値として蓄電池容量Qの測定が行われる。蓄電池容量Qの測定は定期的に行われる。都度測定された蓄電池容量Qは、蓄電池10の寿命推定に用いられるものであり、測定時の時刻情報と関連付けられて記憶部90に蓄積される。
【0040】
ステップS2では、記憶部90に格納された蓄電池容量Qのデータの個数が判定値Na 以上あるかが判定される。蓄電池10の寿命推定精度を担保できる十分なデータがあるかが判定される。本処理は、蓄電池容量Qのデータの個数が判定値Na 以上ある場合に限りステップS3に進む。
【0041】
ステップS3では、蓄電池10の充放電サイクルに係るサイクル時間tcyc 、単なる保存経過に係る保存時間tst 、蓄電池10の運用に係る合計時間tsum 、及び時間比率Aがそれぞれ算出される。
【0042】
ステップS4では、上記式[数1]を用いた最小二乗近似にて、蓄電池10の現時点の寿命推定に係る上記式[数1]の係数Q0 ,k1 ,k2 ,α1 ,α2 、及び蓄電池容量Qの推定値Qa が算出される。
【0043】
ステップS5では、蓄電池容量Qの推定値Qa と実測値Qx との相関係数rが算出される。
ステップS6では、相関係数rが判定値ra 以上か、すなわち所望以上に推定値Qa が実測値Qx に近似しているかが判定される。相関係数rが判定値ra 未満、すなわち蓄電池容量Qの推定値Qa の実測値Qx との近似が所望未満となった場合、推定精度が不良と判定される。本処理はステップS7に進む。
【0044】
ステップS7では、時刻T0 から次のデータのある時刻T0
’に時間範囲が変更され、さらに上記ステップS2からステップS6が繰り返される。つまり、最も古いデータを除きながら蓄電池容量Qの推定値Qa と実測値Qx との相関係数rが算出し直されて、相関係数rが判定値ra 以上、すなわち推定精度が良好と判定されることを目指す処理が繰り返される。なおこの繰り返し処理にステップS2が含まれることで、判定値Na 以上の蓄電池容量Qのデータの個数が担保される。
【0045】
上記ステップS6において、相関係数rが判定値ra 以上、すなわち蓄電池容量Qの推定値Qa の実測値Qx との近似が所望以上となると、推定精度が良好と判定される。本処理は、ステップS8に進む。
【0046】
ステップS8では、上記式[数3]を用い、蓄電池10の推定サイクル寿命tcyc_end が算出される。蓄電池10が寿命判定容量Qend に到達するまでの充放電サイクルに係る時間が算出される。
【0047】
ステップS9では、上記式[数4]を用い、蓄電池10の推定寿命tsum_end が算出される。蓄電池10が寿命判定容量Qend に到達するまでの合計時間が算出される。
ステップS10では、上記式[数5]を用い、推定寿命tsum_end から運用時間tsum_now の減算による蓄電池10の残存合計時間tsum_rem が算出される。つまり、蓄電池10が寿命判定容量Qend に到達するまでの残存合計時間tsum_rem が把握でき、蓄電池10のメンテナンス、交換等の検討に活かすことが可能となる。
【0048】
(本実施形態の作用)
本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の蓄電池10の寿命推定では、上記式[数1]にて表される最小二乗近似を含む算出手法が用いられることで、残存合計時間tsum_rem の精度向上が十分に期待できる。本実施形態で用いる式[数1]は、蓄電池10の充放電サイクルに係るサイクル時間tcyc の項と、保存経過に係る保存時間tst の項とが分けられている。充放電サイクルと単なる保存経過とでは蓄電池10の性能が大きく異なるため、個別に算出を進めることは寿命推定精度の向上に十分に寄与するものと考えている。また、式[数1]は、蓄電池10の寿命推定で一般的に用いられるルート則のみならず、ルート則以外の近似も行えるようにしている。このことでも、寿命推定精度の向上に寄与できるものと考えている。
【0049】
本実施形態の寿命推定手法を用いると、
図4に示すように、蓄電池10の蓄電池容量Qの推定値Q
a と実測値Q
x とは、運用初期から寿命末期までの全時間において十分に近似する。特に蓄電池10が寿命判定容量Q
end に到達する寿命末期では推定値Q
a と実測値Q
x とが乖離し易いものの、本実施形態では互いの誤差時間t
a は十分小さく抑えられる。
【0050】
これに対し、蓄電池10の運用時間を分けない一般的なルート則を用いる比較例の寿命推定手法では、
図6に示すように、蓄電池10の蓄電池容量Qの推定値Q
a と実測値Q
x とは運用中期で近似しているものの、それでも本実施形態の方が優れている。また、運用初期に推定値Q
a と実測値Q
x との間で若干の乖離が見られる。特に寿命判定容量Q
end に到達する寿命末期に至っては推定値Q
a と実測値Q
x との乖離は非常に大きく、互いの誤差時間t
x は非常に大きい。
【0051】
このように比較例と比べても、本実施形態の蓄電池10の寿命推定手法を用いることで、特に精度悪化に繋がる寿命末期も含めて、寿命推定精度の向上が十分に図れるものと言える。
【0052】
(本実施形態の効果)
本実施形態の効果について説明する。
(1)蓄電池10の運用期間中の充放電サイクルに係るサイクル時間tcyc と、保存経過に係る保存時間tst とを分けて算出が行われる。次いで、蓄電池10の電池状態値として用いる蓄電池容量Qの実測値Qx 、サイクル時間tcyc 、及び保存時間tst に基づいて、最小二乗近似によるべき乗則の近似式(上記[数1]に示す近似式)の取得が行われる。そして、取得した近似式に基づいて、蓄電池10の所望寿命である寿命判定容量Qend までの寿命情報(本実施形態では蓄電池10の推定サイクル寿命tcyc_end 、推定寿命tsum_end 、及び残存合計時間tsum_rem )の算出が行われる。つまり、充放電サイクルと単なる保存経過とでは蓄電池10の性能が大きく異なることに着目し、個別に算出を進めることは寿命推定精度の向上を十分に期待することができる。また、近似式をべき乗則とすることで、蓄電池10の寿命推定で一般的に用いられるルート則のみならず、状況に応じてルート則以外の近似も行うことが可能である。このことでも、寿命推定精度の向上を期待することができる。
【0053】
(2)蓄電池10の電池状態値として用いる蓄電池容量Qの実測値Q
x が判定値N
a 以上の十分な個数がある場合に
図2のステップS2からステップS3以降に処理が進み、蓄電池10の寿命推定が行われる。このことでも、寿命推定精度の一層の向上が期待できる。
【0054】
(3)蓄電池10の電池状態値として用いる蓄電池容量Qの推定値Q
a の実測値Q
x との相関係数rが判定値r
a 以上の近似態様にある場合に
図2のステップS6からステップS7以降に処理が進み、蓄電池10の寿命推定が行われる。本実施形態では、蓄電池10の運用初期の時刻T
0 から順に古いデータが除かれつつ寿命推定が行われる。このことでも、寿命推定精度の一層の向上が期待できる。
【0055】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0056】
・上記した数値及び数式は一例であり、適宜変更してもよい。
・蓄電池10の運用時間は時間そのもの、若しくはサイクル数を含むものである。
・蓄電池10の運用中の合計時間tsum 、サイクル時間tcyc 、及び保存時間tst はそれぞれ個別の計時にて算出してもよく、いずれか2つを計時し残り1つを算出してもよい。
【0057】
・寿命推定の算出に用いる蓄電池10の電池状態値として蓄電池容量Qを用いたが、蓄電池10の内部抵抗等、蓄電池10の電池状態値と相関のある他のパラメータを用いてもよい。
【0058】
・寿命推定の算出において、上記実施形態では特に言及していなかったが、
図5に示すように、時刻T
now の実測値Q
x 、すなわち最新の実測値Q
x と推定値Q
a とを一致させるのを条件としてもよい。このように最新の実測値Q
x と推定値Q
a とを一致させることで、寿命推定精度の向上を図ることができる。
【0059】
・寿命推定を時刻T
0 から現時点の時刻T
now までの間で取得したデータに基づいて行う態様であったが、
図5に示すように、蓄電池10の運用初期の時刻T
0 から例えば時刻T
a までの古いデータを除いて蓄電池10の寿命推定を行ってもよい。時刻T
a は蓄電池10の運用開始時点から一定間隔を空けて設定される時刻であってもよく、また現時点の時刻T
now と合わせて変動する時刻であってもよい。蓄電池10の寿命末期と比較的大きく変化態様の異なる運用初期の古いデータを除くことで、特に寿命末期での推定値Q
a と実測値Q
x との誤差時間t
b をより小さく抑えることに繋がる。このようにすれば、寿命推定精度の向上を図ることができる。
【0060】
・所望寿命までの寿命情報として、蓄電池10の推定サイクル寿命tcyc_end 、推定寿命tsum_end 、残存合計時間tsum_rem の全部の算出及び表示等を行ってもよく、少なくとも1つの算出及び表示等を行ってもよい。また、寿命情報として時間以外で表現可能としてもよい。
【0061】
・蓄電池10は、定置用リチウムイオン蓄電池以外の構成のものであってもよい。
・蓄電池10は、太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電設備に併用されるものであってもよい。
【0062】
(付記)
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)べき乗則の近似式は、
[蓄電池の電池状態値の推定値]=[蓄電池の電池状態値の初期値]-[蓄電池のサイクル時間のべき乗値]-[蓄電池の保存時間のべき乗値]である、
蓄電池の寿命推定装置。
【0063】
(ロ)べき乗則の近似式は、
[蓄電池の電池状態値の推定値]=[蓄電池の電池状態値の初期値]-[蓄電池のサイクル時間のべき乗値]-[蓄電池の保存時間のべき乗値]である、
蓄電池の寿命推定方法。
【符号の説明】
【0064】
10…蓄電池
20…寿命推定装置
30…電池状態診断部
40…推定可否判定部
50…期間算出部
60…寿命推定部
70…推定精度算出部
80…推定精度判定部
90…記憶部
91…電池状態データ
92…期間データ
93…関係式データ
94…寿命推定データ
95…判定データ
Q…蓄電池容量(電池状態値)
Qx …実測値
Qa …推定値
tcyc …サイクル時間
tst …保存時間
tcyc_end …推定サイクル寿命(寿命情報)
tsum_end …推定寿命(寿命情報)
tsum_rem …残存合計時間(寿命情報)
r…相関係数
ra …判定値
Na …判定値