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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177634
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】飛行体用安全装置および飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64D 17/72 20060101AFI20231207BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20231207BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B64D17/72
B64C27/08
B64C39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090408
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 陽祐
(57)【要約】
【課題】被展開体を確実に展開可能な飛行体用安全装置を提供する。
【解決手段】飛行体用安全装置1は、推進機構を含む飛行体に取付けが可能であり、収容空間10aが設けられたハウジングと、被展開体60と、第1連結部材と、射出装置30と、第2連結部材とを備える。ハウジングは、筒状部13が設けられた天板部11を含む上側ハウジング10と、底板部21を含む下側ハウジング20とを有する。第1連結部材は、上側ハウジング10と被展開体60とに接続される。第2連結部材は、射出装置30、下側ハウジング20および飛行体のいずれかと、被展開体60とに接続される。射出装置30が筒状部13の内側に位置する内側収容空間10a2に収容されることにより、射出装置30による上側ハウジング10の射出方向は、筒状部13によって規定される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進機構を備えた飛行体に取付けが可能な飛行体用安全装置であって、
天板部を少なくとも含む上側ハウジング、および、底板部を少なくとも含む下側ハウジングを有し、内部に収容空間が設けられたハウジングと、
前記収容空間に収容された被展開体と、
前記被展開体に一端が接続され、前記上側ハウジングに他端が接続された第1連結部材と、
前記底板部に組付けられ、前記上側ハウジングおよび前記被展開体を前記底板部から遠ざける方向に向けて射出する射出装置と、
前記射出装置、前記下側ハウジングおよび飛行体のうちの少なくともいずれかに一端が接続され、前記被展開体に他端が接続された第2連結部材とを備え、
前記天板部は、当該天板部から見て前記底板部側に向けて突出する筒状部を含み、
前記被展開体は、前記収容空間のうちの前記筒状部の外側に位置する外側収容空間に収容され、
前記射出装置の少なくとも一部が前記収容空間のうちの前記筒状部の内側に位置する内側収容空間に収容されることにより、前記射出装置による前記上側ハウジングの射出方向が、前記筒状部によって規定される、飛行体用安全装置。
【請求項2】
前記上側ハウジングが、前記天板部の周縁から立設された筒状の周壁部をさらに有し、
前記周壁部が、前記外側収容空間を規定している、請求項1に記載の飛行体用安全装置。
【請求項3】
前記射出装置が、
軸方向の一端が前記底板部側に位置しかつ軸方向の他端が前記筒状部の内部に少なくとも位置するように、前記筒状部に内挿されたシリンダと、
前記シリンダの軸方向に沿って摺動可能となるように少なくともその一部が前記シリンダの内部に配置されたピストンと、
前記シリンダの前記一端側の位置に設けられることにより、作動時において前記ピストンを前記天板部側に向けて移動させ、これにより前記天板部を前記底板部から遠ざける方向に向けて押し上げることで前記上側ハウジングを射出させる点火器とを有している、請求項1に記載の飛行体用安全装置。
【請求項4】
前記第1連結部材の前記他端が、前記筒状部に接続されている、請求項1に記載の飛行体用安全装置。
【請求項5】
機体と、
前記機体に設けられるとともに前記機体を推進させる推進機構と、
前記機体に取付けられた請求項1から4のいずれかに記載の飛行体用安全装置とを備えた、飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体に取付けられる飛行体用安全装置、および、これが取付けられた飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飛行体として、旅客機等の有人航空機や、ドローン等の無人航空機が知られている。特に近年、自律制御技術や飛行制御技術の発展に伴い、ドローン等の無人航空機の産業上の利用が加速しつつある。
【0003】
ドローンは、複数の回転翼を備えており、これら複数の回転翼を同時にバランスよく回転させることによって飛行する。その際、上昇および下降は、複数の回転翼の回転数を一律に増減させることによって行なわれ、前進および後退や右旋回および左旋回は、複数の回転翼の各々の回転数を個別に増減させることで機体を傾けることによって行なわれる。このような無人航空機の利用は、今後世界的に拡大することが見込まれている。
【0004】
しかしながら、無人航空機は、落下事故のリスクが比較的高く、これが無人航空機の普及の妨げとなっている。そのため、落下事故のリスクを低減すべく、無人航空機等に取付けが可能な飛行体用安全装置の開発が進められている。このような飛行体用安全装置は、無人航空機等が落下する際に、パラシュートを展開させることで無人航空機等の落下速度を低減させることにより、無人航空機等の着地時における衝撃を緩和するものである。
【0005】
上述した機能を備えた飛行体用安全装置として、たとえば特開2021-138355号公報(特許文献1)には、ガス発生器が作動することで発生したガスの圧力によってピストン部材が上方に推進され、当該ピストン部材に接続された押し上げ部材によって被展開体である射出物としてのパラシュートが上方に射出されるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-138355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、飛行体用安全装置は、射出された被展開体を確実に展開させるため、被展開体の射出方向が高度に制御されたものであることが望まれている。
【0008】
したがって、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、被展開体を確実に展開可能な飛行体用安全装置、および、これが取付けられた飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に基づく飛行体用安全装置は、推進機構を備えた飛行体に取付けが可能なものであって、ハウジングと、被展開体と、第1連結部材と、射出装置と、第2連結部材とを備えている。上記ハウジングは、天板部を少なくとも含む上側ハウジング、および、底板部を少なくとも含む下側ハウジングを有しており、内部に収容空間が設けられている。上記被展開体は、上記収容空間に収容されている。上記第1連結部材は、上記被展開体に一端が接続されており、上記上側ハウジングに他端が接続されている。上記射出装置は、上記底板部に組付けられており、上記上側ハウジングおよび上記被展開体を上記底板部から遠ざける方向に向けて射出するものである。上記第2連結部材は、上記射出装置、上記下側ハウジングおよび飛行体のうちの少なくともいずれかに一端が接続されており、上記被展開体に他端が接続されている。上記天板部は、当該天板部から見て上記底板部側に向けて突出する筒状部を含んでいる。上記被展開体は、上記収容空間のうちの上記筒状部の外側に位置する外側収容空間に収容される。上記射出装置の少なくとも一部が上記収容空間のうちの上記筒状部の内側に位置する内側収容空間に収容されることにより、上記射出装置による上記上側ハウジングの射出方向は、上記筒状部によって規定される。
【0010】
本発明に基づく飛行体は、機体と、上記機体に設けられるとともに上記機体を推進させる推進機構と、上記機体に取付けられた、上述した本発明に基づく飛行体用安全装置とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被展開体を確実に展開可能な飛行体用安全装置、および、これが取付けられた飛行体を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る飛行体およびこれに具備された飛行体用安全装置の概略図である。
図2図1に示す飛行体用安全装置を正面右上方から見た斜視図である。
図3図1に示す飛行体用安全装置を正面右下方から見た斜視図である。
図4図2に示す飛行体用安全装置の模式断面図である。
図5図4に示す第2部材の近傍を拡大した模式断面図である。
図6図2に示す上側ハウジングを正面右下方から見た斜視図である。
図7図2に示す下側ハウジングおよび第2部材を正面右上方から見た斜視図である。
図8図2に示す上側ハウジングおよび下側ハウジングの嵌合部の拡大斜視図である。
図9図1に示す飛行体用安全装置の動作を説明するための模式図である。
図10図1に示す飛行体用安全装置の動作を説明するための模式図である。
図11図1に示す飛行体用安全装置の動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、飛行体としてのドローンおよびこれに取付けられる飛行体用安全装置に本発明を適用した場合を例示するものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
(実施の形態)
<A.飛行体の構成>
図1は、実施の形態に係る飛行体およびこれに具備された飛行体用安全装置の概略図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態に係る飛行体100の構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、飛行体100は、機体111と、機体111を推進させる4つの推進機構112と、機体111の下部に設けられた2つの脚部113と、飛行体100の異常を検知する異常検知装置(不図示)と、機体111の上部に取付けられた飛行体用安全装置1とを備えている。4つの推進機構112は、たとえばプロペラであり、図1においては、このうちの2つの推進機構112が現われている。これら4つの推進機構112は、飛行体100を平面視した場合に互いに距離を隔てるように配置されている。異常検知装置は、機体111に設けられている。なお、推進機構112および脚部113の数や配置は、適宜変更が可能である。
【0016】
飛行体用安全装置1は、ハウジングとしての上側ハウジング10および下側ハウジング20と、下側ハウジング20に設けられた取付部40とを有しており、当該取付部40を介して機体111に取付けられている。ここで、飛行体用安全装置1は、これが具備する後述するパラシュート等の被展開体60(図4等参照)が射出される際において、その射出が阻害されることがないように、上述した4つの推進機構から干渉を受けない位置に設けられていることが好ましい。
【0017】
<B.飛行体用安全装置の概略的な構成および動作>
図2および図3は、それぞれ図1に示す飛行体用安全装置を正面右上方および正面右下方から見た斜視図であり、図4は、図2中に示すIV-IV線に沿った模式断面図である。次に、これら図2ないし図4を参照して、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1の概略的な構成および動作について説明する。なお、図4においては、後述する第1連結部材70および第2連結部材80の図示が省略されている。
【0018】
図2ないし図4に示すように、飛行体用安全装置1は、上述したように、上側ハウジング10および下側ハウジング20からなる箱状のハウジングを有しており、ハウジングの内部には、収容空間10aが設けられている。図4に示すように、この収容空間10aには、後において詳述する射出装置30の一部と、被展開体60とが主として収容されている。
【0019】
飛行体100に設けられた異常検知装置が飛行体100の飛行中に何らかの異常を検知した際には、まず、射出装置30が作動することにより、上側ハウジング10が空中に射出される(図10参照)。射出された上側ハウジング10は、第1連結部材70を介して被展開体60を外部に引き出す。これにより、被展開体60が展開される(図11参照)。
【0020】
展開された被展開体60は、揚力および浮力の少なくともいずれかを発生させることになり、これらの力が、第2連結部材80等を介して機体111に印加される。その結果、機体111の落下速度が低減されることになるため、機体111の着地時における衝撃を緩和することが可能になる。
【0021】
<C.飛行体用安全装置の詳細な構成>
図5は、図4に示す第2部材の近傍を拡大した模式断面図である。図6は、図2に示す上側ハウジングを正面右下方から見た斜視図であり、図7は、図2に示す下側ハウジングおよび第2部材を正面右上方から見た斜視図である。図8は、図2に示す上側ハウジングおよび下側ハウジングの嵌合部の拡大斜視図である。次に、これら図5ないし図8および前述の図2ないし図4を参照して、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1の詳細な構成について説明する。なお、図5においては、被展開体60の図示が省略されている。
【0022】
<C-1.ハウジング>
図2ないし図5に示すように、飛行体用安全装置1のハウジングは、上述した上側ハウジング10の射出方向を軸方向とした場合に、当該軸方向の一端および他端が閉塞された短尺略円柱状の外形を有している。ハウジングの内部に設けられた収容空間10aには、上述したように射出装置30の一部と被展開体60とが収容されており、ハウジングの底面には、取付部40が設けられている。
【0023】
上側ハウジング10および下側ハウジング20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口部同士が向き合った状態で上側ハウジング10および下側ハウジング20が相対的に近づく方向に向けて移動させられることでこれらが相互に組付けられることにより、ハウジングが構成されることになる。ここで、上側ハウジング10および下側ハウジング20の各々は、軽量な部材にて構成されることが好ましく、たとえば樹脂部材等によって構成される。
【0024】
図2図4および図6に示すように、上側ハウジング10は、天板部11と、当該天板部11の周縁から立設された筒状の周壁部12とを含んでいる。天板部11は、当該天板部11から見て底板部21側に向けて突出する筒状部13を含んでいる。筒状部13は、天板部11の略中央部に設けられている。筒状部13の内径は、特にこれが制限されるものではないが、たとえば28.5mm以上43.5mm以下とされることが好ましい。
【0025】
収容空間10aは、筒状部13により、筒状部13の外側に位置する外側収容空間10a1と、筒状部13の内側に位置する内側収容空間10a2とに仕切られている。これにより、外側収容空間10a1は、天板部11、周壁部12、底板部21および筒状部13によって規定されることになり、内側収容空間10a2は、天板部11および筒状部13によって規定されることになる。
【0026】
図6に示すように、周壁部12の内周面のうちの、天板部11側とは反対側の端部には、上側ハウジング10および下側ハウジング20を嵌合固定するための固定部の一部としての4つの爪部12aが設けられている。図6においては、このうちの3つの爪部12aが現われている。また、周壁部12の内周面には、上側ハウジング10と下側ハウジング20とを組付ける方向である組付方向と交差する方向(すなわち、周壁部12の周方向)において、上述した4つの爪部12aの各々を挟み込む4組の一対のガイド部12bが設けられている。図6においては、このうちの3組の一対のガイド部12bが現われている。
【0027】
このように1つの爪部12aに対応して一対のガイド部12bが設けられていることにより、飛行体用安全装置1の組立て作業の容易化が図られることになるが、その詳細については後述することとする。なお、爪部12aの数は、特にこれが4つに限定されるものではなく、適宜変更可能であり、これに応じて一対のガイド部12bの数も適宜変更が可能である。
【0028】
筒状部13には、貫通孔からなる2つの接続部13aが設けられている。接続部13aは、第1連結部材70の一端を筒状部13に接続するための部位である。接続部13aは、筒状部13のいずれの位置に設けられてもよいが、筒状部13の軸方向における天板部11側とは反対側の端部に設けられることが好ましい。このように構成すれば、後述する組立て作業の容易化が図られることになる。
【0029】
図3ないし図5および図7に示すように、下側ハウジング20は、底板部21と、当該底板部21の周縁から上方に向けて立設された環状壁部22とを含んでいる。環状壁部22には、上側ハウジング10および下側ハウジング20を嵌合固定するための固定部の一部としての4つの突出部22aが設けられている。これら4つの突出部22aは、いずれも上側ハウジング10側に向けて突出しており、その各々には、上述した爪部12aを係止可能な孔部22a1が設けられている。なお、突出部22aの数は、特にこれが4つに限定されるものではなく、爪部12aの数に対応するように適宜変更可能である。
【0030】
底板部21の略中央部には、開口部21aが設けられている。図4および図5に示すように、底板部21には、開口部21aを閉塞するように射出装置30が組付けられている。当該開口部21aは、上述した筒状部13に対応した位置に設けられている。
【0031】
<C-2.射出装置の構成>
図4および図5に示すように、射出装置30は、点火器組立体31と、点火器組立体31に組付けられたシリンダ32と、シリンダ32の内部に配置されたピストン33とを有している。射出装置30は、上側ハウジング10および後述する被展開体60を底板部21から遠ざける方向に向けて射出するためのものである。
【0032】
より具体的には、射出装置30は、点火器組立体31が具備する点火器31bが作動することによって発生するガスの圧力により、シリンダ32の内部に配置されたピストン33を上側ハウジング10側に向けて移動させ、これにより上側ハウジング10を押し上げて空中に射出するとともに、第1連結部材70を介して上側ハウジング10に接続された被展開体60を、この射出した上側ハウジング10によって引き出して空中に射出するものである。
【0033】
図5に示すように、点火器組立体31は、挿入部としてのベース部31aと、上述した点火器31bと、シール部材31cとを主として含んでいる。ベース部31aは、点火器組立体31のベースを構成するものであり、当該ベース部31aに点火器31bおよびシール部材31cが組付けられることにより、点火器組立体31が一体の部品として構成されている。
【0034】
天板部11側に位置するベース部31aの上面には、上側凹部31a1が設けられており、底板部21側に位置するベース部31aの下面には、下側凹部31a2が設けられている。また、上側凹部31a1の底部ならびに下側凹部31a2の底部を構成する部分のベース部31aには、これら上側凹部31a1および下側凹部31a2に達するように貫通孔が設けられている。
【0035】
下側凹部31a2が設けられた側のベース部31aの端部には、底板部21の外面に宛がわれたフランジ形状の第1宛がい部31a3が設けられている。第1宛がい部31a3は、底板部21と取付部40との間に位置している。
【0036】
ベース部31aの上面には、上側凹部31a1を取り囲むようにかしめ部31a4が設けられている。かしめ部31a4は、点火器31bをベース部31aにかしめ固定するための部位である。
【0037】
ここで、ベース部31aは、底板部21よりも高い強度を有する部材にて構成されていることが好ましく、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金等の金属製の部材にて構成される。
【0038】
点火器31bは、火炎を発生させるためのものであり、基部31b1と、点火部31b2と、一対の端子ピン31b3とを有している。基部31b1は、点火器31bおよび一対の端子ピン31b3を保持する部位であり、またベース部31aに対して固定される部位でもある。点火部31b2は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体(ブリッジワイヤ)とを含んでいる。一対の端子ピン31b3は、点火薬を着火させるために点火部31b2に接続されている。
【0039】
より具体的には、点火部31b2は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン31b3が挿通されてこれを保持する塞栓とを含んでおり、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン31b3の先端を連結するように上述した抵抗体が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
【0040】
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび塞栓は、一般に金属製またはプラスチック製である。また、必要な発生ガスの量に応じて、点火部31b2は、さらに伝火薬やガス発生剤等を含んでいてもよい。
【0041】
飛行体100に設けられた異常検知装置が飛行体100の飛行中に異常を検知した際には、端子ピン31b3を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器31bが作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合に一般に2ミリ秒以下である。
【0042】
点火器31bは、ベース部31aの貫通孔に一対の端子ピン31b3が上方から挿入されるとともにベース部31aの上側凹部31a1に基部31b1が収容されて当て留めされた状態において、上述したかしめ部31a4が折り曲げられることにより、ベース部31aに固定されている。
【0043】
ここで、ベース部31aと点火器31bとの間には、Oリング等からなるシール部材31cが介装されており、これによってベース部31aと点火器31bとの間の隙間が閉塞されることで当該部分における気密性が確保されている。なお、点火器31bの固定方法は、上述したかしめ部31a4を用いた固定方法に限られず、他の固定方法を利用してもよい。
【0044】
ベース部31aの下側凹部31a2には、点火器31bの一対の端子ピン31b3が露出して位置している。これにより、当該下側凹部31a2および一対の端子ピン31b3によって雌型コネクタ部が構成されることになる。
【0045】
当該雌型コネクタ部は、点火器31bと上述した異常検知装置とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(不図示)を受け入れるための部位である。雌型コネクタ部は、ハウジングの外部に向けて露出しており、当該雌型コネクタ部に上述した雄型コネクタが挿し込まれることにより、ハーネスの芯線と端子ピン31b3との電気的導通が実現されることになる。
【0046】
シリンダ32は、略円筒状の形状を有しており、その底板部21側の開口が点火器組立体31によって閉塞されることとなるように、当該点火器組立体31に組付けられている。
【0047】
底板部21側に位置するシリンダ32の下面には、下側凹部32aが設けられている。下側凹部32aは、その先端に、ベース部31aの上側凹部31a1を取り囲むように設けられたかしめ部32a1を有している。かしめ部32a1は、点火器組立体31をシリンダ32にかしめ固定するための部位である。
【0048】
ピストン33は、軸方向に沿って延びる中空部が設けられた略円柱状の外形を有しており、シリンダ32の軸方向に沿って摺動可能となるように少なくともその一部がシリンダ32の内部に配置されている。ピストン33は、これを平面視した場合の天板部11側の端部の外形がシリンダ32の天板部11側の開口の外形よりもわずかに小さくなるように形成されている。シリンダ32の天板部11側の開口は、ピストン33の先端側の部分によって閉塞されている。
【0049】
<C-3.射出装置のハウジングへの組付け>
ベース部31aは、シリンダ32の下側凹部32aに当該ベース部31aの上側凹部31a1が収容されて当て留めされた状態において、上述したシリンダ32のかしめ部32a1が折り曲げられることにより、シリンダ32に固定される。これにより、ベース部31aに予め点火器31bが組付けられることで一体化された点火器組立体31と、これにさらに組付けられたシリンダ32およびピストン33とからなる射出装置30が組立てられることとなる。
【0050】
さらに、射出装置30を構成するシリンダ32とピストン33とが、底板部21の開口部21aに下方から挿入される。これにより、シリンダ32の大部分およびピストン33は、上側ハウジング10の筒状部13に内挿され、結果としてハウジングの内側収容空間10a2に収容されることになる。
【0051】
このとき、点火器組立体31のベース部31aもまた、シリンダ32とピストン33と共に開口部21aに下方から挿入されることになる。これにより、ベース部31aが、底板部21からハウジングの収容空間10aに向けて突出して位置することになるとともに、上述したフランジ形状の第1宛がい部31a3が、底板部21に対して当て留めされた状態となる。この状態において第1宛がい部31a3が底板部21に締結されることにより、点火器組立体31は、底板部21に固定されることになる。
【0052】
<C-4.取付部の構成>
以上のように構成された射出装置30および底板部21の外面には、図3ないし図5に示すように、底板部21と並行するように配置された平面視略矩形状の形状を有する曲成されたプレート状の取付部40が取付けられている。取付部40は、飛行体用安全装置1を機体111に取付けるためのものである。
【0053】
取付部40は、その中央に位置する主板部41において、ベース部31aの第1宛がい部31a3に当接している。後述する第2部材50と共に底板部21に締結される第1部材は、取付部40と、第1宛がい部31a3を含むベース部31aとによって構成される。
【0054】
図3に示すように、主板部41および第1宛がい部31a3は、複数のボルトによって互いに締結されている。また、取付部40の長手方向における主板部41の外側には、取付部40の底板部21への取付けを確実ならしめるために、ボルトによって底板部21に締結された部位が複数設けられている。
【0055】
取付部40の長手方向における両端には、一対のスリット孔42が設けられている。飛行体用安全装置1の機体111への取付けは、たとえば一対のスリット孔42にバンドを通し、このバンドを機体111に結びつけるかあるいは巻き付けること等によって行なうことができる。
【0056】
取付部40は、底板部21よりも高い強度を有する部材にて構成されていることが好ましく、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品にて構成される。なお、取付部40の平面視した場合の形状は、特にこれが略矩形状に限定されるものではなく、たとえば略円形状、略楕円形状、多角形状等であってもよい。
【0057】
<C-5.第2部材の構成>
図4図5および図7に示すように、底板部21の内面には、底板部21と並行するように配置された平面視略矩形状の形状を有する曲成されたプレート状の部材からなる第2部材50が取付けられている。
【0058】
第2部材50は、当該第2部材50の略中央部に位置するとともに底板部21の内面に宛がわれた第2宛がい部51と、第2部材50の周縁部に位置するとともに貫通孔52aが設けられた4つの接続部52とを含んでいる。
【0059】
第2宛がい部51の所定位置には、開口部51aが設けられている。当該開口部51aには、これを閉塞するように上述した射出装置30が挿通されている。
【0060】
4つの接続部52は、第2連結部材80を第2部材50に接続するための部位であり、被展開体60の射出方向に沿って見た場合における第2部材50の周縁部のうちの互いに距離を隔てた部分に位置している。第2連結部材80は、その一端が貫通孔52aに通されて結びつけられること等により、4つの接続部52に接続されている。なお、接続部52の数は、複数であることが好ましいが、単数であってもよい。また、接続部52が複数ある場合には、その数は、特にこれが4つに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0061】
第2部材50は、底板部21よりも高い強度を有する部材にて構成されていることが好ましく、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品にて構成される。なお、第2部材50の平面視した場合の形状は、特にこれが略矩形状に限定されるものではなく、たとえば略円形状、略楕円形状、多角形状等であってもよい。
【0062】
上述した取付部40およびベース部31aからなる第1部材と、第2部材50とは、これらが共に底板部21の内面に宛がわれて締結されることにより、機体111への取付けに耐え得るような飛行体用安全装置1の強度を担保するものである。
【0063】
図4および図5に示すように、底板部21と、取付部40およびベース部31aからなる第1部材と、第2部材50とは、締結部材としての2つのボルト90によって相互に固定されている。より具体的には、第1部材の第1宛がい部31a3と第2部材50の第2宛がい部51とによって底板部21が挟み込まれた状態でこれら第1宛がい部31a3と第2宛がい部51とがボルト90によって締結されることにより、底板部21、第1部材および第2部材50が相互に固定されている。
【0064】
ここで、底板部21と、当該底板部21よりも高い強度を有する第1部材および第2部材50とは、相互に締結されて一体化されている。これにより、飛行体用安全装置1のうちの機体111に取付けられる部分の剛性を飛躍的に高めることができる。
【0065】
<C-6.被展開体、第1連結部材および第2連結部材の構成>
図4に示すように、ハウジングの収容空間10aのうちの、筒状部13の外側に位置する外側収容空間10a1には、被展開体60が収容されている。被展開体60は、外側収容空間10a1に収容された非展開状態において、巻き取られまたは畳まれており、射出装置30によって射出された後の展開状態において、揚力および浮力の少なくともいずれかを発生させることができるものである。
【0066】
被展開体60としては、たとえば、ポリアミド合成樹脂、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂等のフィルム状部材や帆布等からなるパラシュートが用いられる。なお、被展開体60は、特にこれがパラシュートに限定されるものではなく、飛行体100の落下方向を操作するために、たとえばパラグライダー等が用いられてもよい。
【0067】
被展開体60には、第1連結部材70および第2連結部材80が接続されている(後述する図11等参照)。第1連結部材70および第2連結部材80は、軽量かつ高強度の部材からなることが好ましく、たとえば金属や合金、あるいは繊維強化プラスチック等の複合強化部材によって構成される。
【0068】
第1連結部材70は、被展開体60に一端が接続されており、上側ハウジング10に他端が接続されている。より具体的には、第1連結部材70は、各々が上記他端を有する2つのラインを含んでおり、これら2つのラインの各々の上記他端が、筒状部13に設けられた2つの接続部13aに結びつけられるか、あるいはボルト等によって共締めされることでこれら2つの接続部13aに接続されている。
【0069】
なお、第1連結部材70が含むラインの数は、特にこれが2つに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0070】
第2連結部材80は、第2部材50に一端が接続されており、被展開体60に他端が接続されている。より具体的には、第2連結部材80は、各々が上記一端を有する4つのラインを含んでおり、本実施の形態においては、これら4つのラインの各々の上記一端が、第2部材50の4つの接続部52に設けられた貫通孔52aにそれぞれ結びつけられるか、あるいはボルト等によって共締めされることでこれら4つの接続部52に接続されている(図5参照)。
【0071】
なお、第2連結部材80の上記一端は、必ずしも第2部材50に接続されている必要はなく、下側ハウジング20、射出装置30、第2部材50および機体111のうちの少なくともいずれかに接続されていればよい。また、第2連結部材80が含むラインの数は、特にこれが4つに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0072】
<D.飛行体用安全装置の組立て>
以上のように構成された飛行体用安全装置1を組立てるに際しては、まず、上側ハウジング10およびこれに収容された被展開体60と、下側ハウジング20と、射出装置30と、取付部40と、第2部材50とを準備する。ここで、被展開体60は、上側ハウジング10の天板部11と周壁部12と筒状部13とによって規定される略円環状の空間に収容される。
【0073】
次に、被展開体60に一端が接続された第1連結部材70の他端を、上側ハウジング10に接続させる。より具体的には、第1連結部材70の上記他端は、天板部11から突出して設けられた筒状部13の接続部13aに接続される。
【0074】
このように構成することにより、第1連結部材70の上記他端を接続部13a以外の部分の上側ハウジング10に接続する場合に比べ、被展開体60と上側ハウジング10の連結を容易に行なえることになり、結果として、飛行体用安全装置1の組立て作業の容易化が図られることになる。
【0075】
特に、本実施の形態においては、接続部13aが筒状部13の軸方向における天板部11側とは反対側の端部に設けられていることにより、当該接続部13aが上側ハウジング10の開口面側に位置しているため、上述した効果が顕著に得られることになる。
【0076】
次に、第2部材50を、当該第2部材50の第2宛がい部51に設けられた開口部51aが底板部21の開口部21aに一致するように底板部21に宛がい、これら開口部21aおよび開口部51aに射出装置30を挿通させる。
【0077】
次に、ベース部31aの第1宛がい部31a3および第2宛がい部51によって底板部21が挟み込まれた状態において、第1宛がい部31a3および第2宛がい部51をボルト90によって締結する。
【0078】
次に、被展開体60に一端が接続された第2連結部材80の他端を、第2部材50の接続部52に接続させる。
【0079】
次に、被展開体60が収容された上側ハウジング10を、射出装置30等が締結された下側ハウジング20に組付ける。より具体的には、上側ハウジング10および下側ハウジング20を、これらの開口面同士が向き合うように相対的に近づける方向である組付方向に向けてこれらを移動させる。
【0080】
その際、上側ハウジング10の周壁部12に設けられた爪部12aを、下側ハウジング20の環状壁部22に設けられた突出部22aに位置合わせしながら上側ハウジング10および下側ハウジング20を移動させる。これにより、図8に示すように、爪部12aが突出部22aの孔部22a1に係止され、その結果、上側ハウジング10と下側ハウジング20とが組付けられることになる。
【0081】
ここで、飛行体用安全装置1にあっては、上述したように、周壁部12の内周面に、爪部12aを挟み込む一対のガイド部12bが設けられている。このように構成した場合には、上側ハウジング10および下側ハウジング20を組付けるに際して、突出部22aが一対のガイド部12bによって受け入れられて案内されることになる。これにより、爪部12aおよび孔部22a1の位置合わせを容易に行なえることになり、結果として、飛行体用安全装置1の組立て作業の容易化が図られることになる。
【0082】
また、飛行体用安全装置1にあっては、被展開体60が収容される空間と射出装置30が収容される空間とが筒状部13によって仕切られていることにより、上記組立て作業の容易化が図られている。
【0083】
すなわち、上側ハウジング10に筒状部13が設けられてない場合には、射出装置30と被展開体60とが1つの収容空間に収容されることになる。そのため、被展開体60と射出装置30とが重なって収容されないように上記組付けを行なう必要が生じ、これが組立て作業を煩雑にさせる要因となる。この点、飛行体用安全装置1においては、このような事態が生じにくいため、上記組付けの組立て作業の容易化が図られることになる。
【0084】
次に、取付部40を、射出装置30および底板部21に締結する。より具体的には、取付部40の主板部41を、射出装置30の第1宛がい部31a3にボルト(不図示)で締結するとともに、取付部40の長手方向における外側の部分を底板部21にボルトで締結する。これにより、飛行体用安全装置1の組立が完了する。
【0085】
なお、上述した飛行体用安全装置1の組立方法は、あくまでも一例に過ぎず、その順序等は適宜変更可能である。
【0086】
さらに、この飛行体用安全装置1は、取付部40を介して機体111に取付けられることになる。
【0087】
<E.飛行体用安全装置の動作>
図9ないし図11は、図1に示す飛行体用安全装置の動作を説明するための模式図である。次に、これら図9ないし図11を参照して、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1の動作について説明する。
【0088】
飛行体100の飛行中に、異常姿勢や推進機構112の動作不良等の何らかの異常が発生した場合には、飛行体100に別途設けられた異常検知手段によって異常が検知され、当該異常検知手段からの通電を受けて点火器31bが作動する。
【0089】
点火器31bが作動した際には、まず、点火器31bの点火部31b2に充填された点火薬が抵抗体によって加熱されることで着火され、当該点火薬が燃焼する。
【0090】
点火薬が燃焼することにより、点火部31b2の内部において多量のガスが発生し、点火部31b2の温度および圧力が上昇することで脆弱な部材からなる点火部31b2が破裂または溶融する。この点火部31b2の破裂または溶融に伴い、上述した多量のガスがシリンダ32の内部の圧力を上昇させる。
【0091】
このシリンダ32の内部の圧力上昇に起因して、図9に示すように、ピストン33が、シリンダ32の軸方向における天板部11側に向けて移動される。これにより、ピストン33は、その上方に位置する天板部11に当接し、上側ハウジング10を底板部21から遠ざける方向に向けて(すなわち、図中矢印AR1方向に向けて)押し上げることでこれを射出させる。
【0092】
次に、図10に示すように、第1連結部材70の長さに対応する距離だけ上側ハウジング10が射出方向に向けて射出されることにより、第1連結部材70が弛緩した状態から緊張した状態になる。これにより、射出された上側ハウジング10の推進力が第1連結部材70を介して被展開体60に印加され、上記射出方向に向けた被展開体60の引き出しが開始される。
【0093】
ここで、上述したように、パラシュート等の被展開体は、フィルム状部材からなる軟体である。そのため、上側ハウジングを伴うことなく被展開体のみが射出装置によって射出された場合には、被展開体が受ける空気抵抗が、射出方向に向けた被展開体の移動を妨げることになり、結果として射出装置の駆動力を有効に利用できない事態が生じ得る。
【0094】
この点、飛行体用安全装置1においては、樹脂部材等からなる剛体である上側ハウジング10が射出装置30によって射出され、当該上側ハウジング10によって被展開体60が引き出される。これにより、上述した空気抵抗による被展開体60の移動の妨害を最小限に抑制できることになるため、射出装置30の駆動力を高効率に利用可能になる。
【0095】
また、飛行体用安全装置1にあっては、射出装置30の駆動力を高効率に利用可能であるため、ピストン33のストロークを従来に比して短くすることができる(すなわち、射出装置30の出力を従来に比して小さくすることができる)。これにより、飛行体用安全装置1を小型軽量化できるだけでなく、ハウジングの外形を平坦化できることにもなる。そのため、飛行体用安全装置1が機体111に取付けられた状態における飛行体100の重心位置を低くできることで飛行の安定化が図られるとともに、飛行時の空気抵抗を低減することも可能になる。
【0096】
なお、上側ハウジング10が射出されてから被展開体60の引き出しが開始されるまでに要する時間は、第1連結部材70の長さを調整したり、射出装置30の出力を調整したりすることで適宜変更可能である。
【0097】
次に、図11に示すように、上側ハウジング10によって被展開体60の全部分が引き出されることにより、被展開体60が展開される。これにより、被展開体60は、揚力および浮力の少なくともいずれかを発生させることになり、これらの力が第2連結部材80や下側ハウジング20、取付部40等を介して機体111に印加される。その結果、機体111の落下速度が低減されることになるため、機体111の着地時における衝撃を緩和することが可能になる。
【0098】
なお、被展開体60が展開された際、一端が当該被展開体60に接続された第2連結部材80の他端に接続される部材には大きな衝撃荷重が印加されるところ、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、高い強度を有する第2部材50が上記他端に接続されている。そのため、上述した大きな衝撃荷重が印加された場合においても、高い強度を有する第2部材50は、それ自体に破損等を生じさせることなく、確実に機体111に上記揚力等を伝達することができる。
【0099】
<F.小括>
ここで、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上述したように、点火器31bが作動する前の状態において、シリンダ32およびピストン33が、筒状部13の内側に位置する内側収容空間10a2に収容されている。このように構成することにより、被展開体60を確実に展開することができる。
【0100】
すなわち、点火器31bが作動することでピストン33が上側ハウジング10を押し上げてこれを射出する際、その射出方向を制御することは、ピストン33と天板部11との当接面の大きさを十分に確保できないこと等に起因して、相当程度の困難性を伴う。これに対して何らの対策も行なっていない場合には、上側ハウジング10が想定しない方向に射出されてしまい、被展開体60の展開が迅速に行なわれないことが懸念される。
【0101】
また、上記射出方向を制御するために、ピストン33と天板部11との当接面を大きくした場合には、射出装置30が大型化してしまい、飛行体用安全装置の小型軽量化を図ることが難しくなる。
【0102】
この点、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上述したように、シリンダ32およびピストン33が、内側収容空間10a2に収容されている。このように構成することにより、上側ハウジング10が射出された際に当該上側ハウジング10の軌道がピストン33の押し出し方向と交差する方向(すなわち、筒状部13の径方向)にぶれた場合にも、筒状部13の内周面がシリンダ32およびピストン33の外周面にガイドされることで上記軌道の修正が行なわれることになる。
【0103】
したがって、このように構成することにより、射出装置30による上側ハウジング10の射出方向を筒状部13によって規定することができるため、被展開体を確実に展開可能な飛行体用安全装置、および、これが取付けられた飛行体とすることができる。
【0104】
また、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上述したように、シリンダ32の大部分が内側収容空間10a2に収容されている。このように構成することにより、被展開体60がシリンダ32と筒状部13との間の空間に入り込むことを防止できるため、上側ハウジング10が射出される際に、当該空間に入り込んだ被展開体60によって上側ハウジング10の円滑な射出が妨げられるという事態を回避することができる。
【0105】
さらに、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1のように、被展開体60の展開時に生じる大きな衝撃荷重を第2部材50によって受け止める構成とすることにより、飛行体用安全装置1の軽量化および組立工程の簡素化を図ることができる。
【0106】
すなわち、上記衝撃荷重に耐えうる強度を飛行体用安全装置1に付加するための対策としては、下側ハウジング20、射出装置30および機体111等のいずれかに高い強度を有する部品を取付けることが考えられる。しかしながら、このような対策を行なった場合には、飛行体用安全装置1の部品点数が増加し、これに伴って装置が高重量化したり、組立工程が煩雑化したりしてしまう。
【0107】
この点、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上述したように、第2連結部材80が、機体111への取付けに耐えうる強度を担保するために底板部21に取付けられる部材である第2部材50に接続されている。このように、飛行体用安全装置1を機体111に取付けるための部材である第2部材50に上記衝撃荷重を受け止めさせることにより、飛行体用安全装置1の部品点数を増加させることなく、飛行体用安全装置1の強度を確保することができる。
【0108】
また、上述したように、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1とすることにより、部品点数を増加させる必要がなくなるため、装置の軽量化および組立て工程の簡素化を図ることもできる。
【0109】
さらに、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上記衝撃荷重を受け止める第2部材50と、取付部40およびベース部31aによって規定される第1部材とが一体化されており、このように一体化された部分は、その剛性が飛躍的に高められている。第2連結部材80は、当該一体化された部分の一部に接続されることになるため、飛行体用安全装置1の強度を大幅に向上することが可能になる。
【0110】
また、本実施の形態に係る飛行体用安全装置1においては、上述したように、第2連結部材80が、第2部材50に設けられた複数の接続部52に接続されている。このように構成することにより、第2部材50には、上記衝撃荷重が分散されて印加されることになるため、第2部材50にかかる負荷を低減することができる。
【0111】
特に、本実施の形態においては、複数の接続部52が、被展開体60の射出方向に沿って見た場合における第2部材50の周縁部のうちの互いに距離を隔てた部分に位置しているため、上述した効果が顕著に得られることになる。
【0112】
なお、上述した本実施の形態においては、上側ハウジングの周壁部に設けられた爪部と、下側ハウジングの突条部に設けられた突出部とが嵌合固定されることで上側ハウジングおよび下側ハウジングの組付けが行なわれる飛行体用安全装置について説明したが、上側ハウジングおよび下側ハウジングを嵌合固定する固定部の構成は、上述したものに限定されない。たとえば、上側ハウジングの周壁部に設けられた突出部と、下側ハウジングの突条部に設けられた爪部とが嵌合固定されることで上記組付けが行なわれてもよい。
【0113】
すなわち、上側ハウジングおよび下側ハウジングには、これらを相対的に近づける方向である組付方向に向けて移動させることでこれらを嵌合固定する固定部が設けられ、当該固定部は、上側ハウジングおよび下側ハウジングのうちの一方に設けられた爪部と、上側ハウジングおよび下側ハウジングのうちの他方に設けられ、爪部を係止可能な孔部が設けられた突出部とを含んでいることが好ましい。
【0114】
このように構成した場合には、上側ハウジングおよび下側ハウジングのうちの一方に、組付方向と交差する方向において爪部を挟み込む一対のガイド部が設けられることにより、上側ハウジングおよび下側ハウジングを組付けるに際して、突出部が一対のガイド部によって受け入れられて案内されることにより、爪部が孔部に位置合わせされて係止されることになる。
【0115】
したがって、爪部および孔部の位置合わせを容易に行なえることになり、結果として、飛行体用安全装置の組立て作業の容易化が図られることになる。
【0116】
また、上述した本実施の形態においては、シリンダの大部分が内側収容空間に収容されている飛行体用安全装置について説明したが、シリンダは、必ずしもその大部分が内側収容空間に収容されている必要はない。すなわち、シリンダは、上述したように当該シリンダが筒状部をガイドできる程度に、当該シリンダの少なくとも一部が内側収容空間に収容されていればよい。
【0117】
<G.付記>
上述した実施の形態において開示した飛行体用安全装置および飛行体の特徴的な構成を要約すると、以下のとおりとなる。
【0118】
[付記1]
推進機構を備えた飛行体に取付けが可能な飛行体用安全装置であって、
天板部を少なくとも含む上側ハウジング、および、底板部を少なくとも含む下側ハウジングを有し、内部に収容空間が設けられたハウジングと、
上記収容空間に収容された被展開体と、
上記被展開体に一端が接続され、上記上側ハウジングに他端が接続された第1連結部材と、
上記底板部に組付けられ、上記上側ハウジングおよび上記被展開体を上記底板部から遠ざける方向に向けて射出する射出装置と、
上記射出装置、上記下側ハウジングおよび飛行体のうちの少なくともいずれかに一端が接続され、上記被展開体に他端が接続された第2連結部材とを備え、
上記天板部は、当該天板部から見て上記底板部側に向けて突出する筒状部を含み、
上記被展開体は、上記収容空間のうちの上記筒状部の外側に位置する外側収容空間に収容され、
上記射出装置の少なくとも一部が上記収容空間のうちの上記筒状部の内側に位置する内側収容空間に収容されることにより、上記射出装置による上記上側ハウジングの射出方向が、上記筒状部によって規定される、飛行体用安全装置。
【0119】
[付記2]
上記上側ハウジングが、上記天板部の周縁から立設された筒状の周壁部をさらに有し、
上記周壁部が、上記外側収容空間を規定している、付記1に記載の飛行体用安全装置。
【0120】
[付記3]
上記射出装置が、
軸方向の一端が上記底板部側に位置しかつ軸方向の他端が上記筒状部の内部に少なくとも位置するように、上記筒状部に内挿されたシリンダと、
上記シリンダの軸方向に沿って摺動可能となるように少なくともその一部が上記シリンダの内部に配置されたピストンと、
上記シリンダの上記一端側の位置に設けられることにより、作動時において上記ピストンを上記天板部側に向けて移動させ、これにより上記天板部を上記底板部から遠ざける方向に向けて押し上げることで上記上側ハウジングを射出させる点火器とを有している、付記1または2に記載の飛行体用安全装置。
【0121】
[付記4]
上記第1連結部材の上記他端が、上記筒状部に接続されている、付記1から3のいずれかに記載の飛行体用安全装置。
【0122】
[付記5]
機体と、
上記機体に設けられるとともに上記機体を推進させる推進機構と、
上記機体に取付けられた付記1から4のいずれかに記載の飛行体用安全装置とを備えた、飛行体。
【0123】
<H.その他の形態等>
上述した本発明の実施の形態においては、ピストンを移動させる動力源として、点火器が用いられる場合を例示したが、上記動力源は、これが点火器に限定されるものではなく、たとえば、バネ等の弾性体が備える弾性力を利用したものや、ボンベに封入されたガスの圧力を利用したもの等であってもよい。
【0124】
また、上述した本発明の実施の形態において示した各部の形状や構成、大きさ、数、材質等は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々変更が可能である。
【0125】
さらに、上述した本発明の実施の形態において示した特徴的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当然に相互に組み合わせることができる。
【0126】
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0127】
1 飛行体用安全装置、10 上側ハウジング、10a 収容空間、10a1 外側収容空間、10a2 内側収容空間、11 天板部、12 周壁部、12a 爪部、12b ガイド部、13 筒状部、13a 接続部、20 下側ハウジング、21 底板部、21a 開口部、22 環状壁部、22a 突出部、22a1 孔部、30 射出装置、31 点火器組立体、31a ベース部、31a1 上側凹部、31a2 下側凹部、31a3 第1宛がい部、31a4 かしめ部、31b 点火器、31b1 基部、31b2 点火部、31b3 端子ピン、31c シール部材、32 シリンダ、32a 下側凹部、32a1 かしめ部、33 ピストン、40 取付部、41 主板部、42 スリット孔、50 第2部材、51 第2宛がい部、51a 開口部、52 接続部、52a 貫通孔、60 被展開体、70 第1連結部材、80 第2連結部材、90 ボルト、100 飛行体、111 機体、112 推進機構、113 脚部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11