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特開2023-177636ガスバリア用塗材およびガスバリア性積層体
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  • 特開-ガスバリア用塗材およびガスバリア性積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177636
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ガスバリア用塗材およびガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/08 20060101AFI20231207BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20231207BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231207BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231207BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231207BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20231207BHJP
   C08J 7/048 20200101ALI20231207BHJP
【FI】
C09D201/08
B32B27/32 101
C09D7/63
C09D7/65
C09D7/61
C09D175/04
C08J7/048 CER
C08J7/048 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090410
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信悟
(72)【発明者】
【氏名】袴田 智宣
(72)【発明者】
【氏名】小田川 健二
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB24
4F006AB38
4F006AB74
4F006BA05
4F006CA07
4F100AA01C
4F100AA19C
4F100AA20C
4F100AB10C
4F100AB18A
4F100AH03A
4F100AK07B
4F100AK24A
4F100AK25A
4F100AK31A
4F100AK42B
4F100AK48B
4F100AK53A
4F100AK80A
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CC00A
4F100EH66C
4F100GB41
4F100JD02A
4F100JD03
4F100JD04
4F100JJ03
4F100JK06
4F100YY00A
4J038CB142
4J038CG031
4J038DG191
4J038DG261
4J038DJ012
4J038HA426
4J038JC32
4J038MA08
4J038NA08
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】バリア性およびポットライフのバランスが向上したガスバリア用塗材を提供する。
【解決手段】ポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、Zn化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩と、を含む、ガスバリア用塗材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、Zn化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩と、を含む、ガスバリア用塗材。
【請求項2】
請求項1に記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.005以上0.20以下である、ガスバリア用塗材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.40以上0.70以下である、ガスバリア用塗材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.40以上0.70以下である、ガスバリア用塗材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびアクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
前記ポリアミン化合物が、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリ(トリメチレンイミン)からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
さらに架橋剤を含む、ガスバリア用塗材。
【請求項8】
請求項7に記載のガスバリア用塗材であって、
前記架橋剤がエポキシシラン化合物、カルボジイミド化合物およびイソシアネート化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材の硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1.0atomic%以上10.0atomic%以下である、ガスバリア用塗材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材の硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Pの組成比が0.05atomic%以上1.5atomic%以下である、ガスバリア用塗材。
【請求項11】
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、を備え、
前記ガスバリア性層が、請求項1~10のいずれかに記載のガスバリア用塗材の硬化物を含む、ガスバリア性積層体。
【請求項12】
請求項11に記載のガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性層の厚みが0.05μm以上10μm以下である、ガスバリア性積層体。
【請求項13】
請求項11または12に記載のガスバリア性積層体であって、
前記基材層と前記ガスバリア性層との間に無機物層をさらに備える、ガスバリア性積層体。
【請求項14】
請求項13に記載のガスバリア性積層体であって、
前記無機物層が、前記基材層上に、あるいは、前記基材層と前記無機物層との間に介在層を有する場合には前記介在層上に設けられた蒸着膜であって、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物により構成される、ガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア用塗材およびガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性材料として、基材層上にガスバリア性層である無機物層を設けた積層体が用いられている。
しかしながら、この無機物層は摩擦等に対して弱く、このようなガスバリア性積層体は、後加工の印刷時、ラミネート時または内容物の充填時に、擦れや伸びにより無機物層にクラックが入りガスバリア性が低下することがある。
そのため、ガスバリア性材料として、ガスバリア性層として有機物層を用いた積層体も用いられている。
【0003】
ガスバリア性層として有機物層を用いたガスバリア性材料として、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物により形成されたガスバリア性層を備える積層体が知られており、このようなガスバリア性積層体に関する技術として、たとえば、特許文献1および2に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1(特開2005-225940号公報)には、ポリカルボン酸と、ポリアミンおよび/またはポリオールから製膜されたガスバリア性層を有し、ポリカルボン酸の架橋度が40%以上であるガスバリア性フィルムが開示されている。同文献には、このようなガスバリア性フィルムは高湿度条件下においても低湿度条件下と同様の優れたガスバリア性を有すると記載されている。
【0005】
特許文献2(特開2013-10857号公報)には、プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、ポリアミンとポリカルボン酸を重量比でポリアミン/ポリカルボン酸=12.5/87.5~27.5/72.5となるように混合してなる混合物が塗布されたフィルムが開示されている。同文献には、このようなガスバリア性フィルムはボイル処理後もガスバリア性、特に酸素遮断性に優れ、かつ可撓性、透明性、耐湿性、耐薬品性等に優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-225940号公報
【特許文献2】特開2013-10857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガスバリア性材料の各種特性について要求される技術水準は、ますます高くなっている。本発明者らは、特許文献1および2に記載されているような従来のガスバリア性材料に関して検討した。
その結果、特許文献1および2に記載されているようなガスバリア性材料は、ポリカルボン酸とポリアミンとを架橋させるために、高温で長時間の加熱が必要になるため、生産性が低下する場合があることが明らかになった。
また、このようなガスバリア性材料において、酸素バリア性を向上させるために亜鉛(Zn)の含有量を増加させ、かつ、水蒸気バリア性を向上させるためにリン酸化合物の含有量を増加させた場合、各バリア性は向上するものの、ガスバリア性材料を形成するための塗工液中でZnとリン酸化合物が反応して析出してしまい、塗工液のポットライフが短縮されてしまう場合があることが明らかになった。
これらのことから、本発明者らは、従来のガスバリア性材料には、バリア性および塗工液のポットライフをバランスよく向上するという観点において、改善の余地があることを見出した。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、バリア性およびポットライフのバランスが向上したガスバリア用塗材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示すガスバリア用塗材およびガスバリア性積層体が提供される。
【0010】
[1]
ポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、Zn化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩と、を含む、ガスバリア用塗材。
[2]
上記[1]に記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.005以上0.20以下である、ガスバリア用塗材。
[3]
上記[1]または[2]に記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.40以上0.70以下である、ガスバリア用塗材。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)が、0.40以上0.70以下である、ガスバリア用塗材。
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
上記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびアクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
[6]
上記[1]~[5]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
上記ポリアミン化合物が、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリ(トリメチレンイミン)からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
[7]
上記[1]~[6]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
さらに架橋剤を含む、ガスバリア用塗材。
[8]
上記[7]に記載のガスバリア用塗材であって、
上記架橋剤がエポキシシラン化合物、カルボジイミド化合物およびイソシアネート化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む、ガスバリア用塗材。
[9]
上記[1]~[8]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材の硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1.0atomic%以上10.0atomic%以下である、ガスバリア用塗材。
[10]
上記[1]~[9]のいずれかに記載のガスバリア用塗材であって、
当該ガスバリア用塗材の硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Pの組成比が0.05atomic%以上1.5atomic%以下である、ガスバリア用塗材。
[11]
基材層と、上記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、を備え、
上記ガスバリア性層が、上記[1]~[10]のいずれかに記載のガスバリア用塗材の硬化物を含む、ガスバリア性積層体。
[12]
上記[11]に記載のガスバリア性積層体であって、
上記ガスバリア性層の厚みが0.05μm以上10μm以下である、ガスバリア性積層体。
[13]
上記[11]または[12]に記載のガスバリア性積層体であって、
上記基材層と上記ガスバリア性層との間に無機物層をさらに備える、ガスバリア性積層体。
[14]
上記[13]に記載のガスバリア性積層体であって、
上記無機物層が、上記基材層上に、あるいは、上記基材層と上記無機物層との間に介在層を有する場合には上記介在層上に設けられた蒸着膜であって、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物により構成される、ガスバリア性積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バリア性およびポットライフのバランスが向上したガスバリア用塗材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態におけるガスバリア性積層体の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
本明細書において、文中の数字の間にある「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の値を含む。
本明細書において、(メタ)アクリルとはアクリルおよびメタクリルの少なくとも1つである。
本実施形態において、組成物は、各成分をいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0014】
本実施形態のガスバリア用塗材は、ポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、Zn化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩と、を含む。
【0015】
本実施形態のガスバリア用塗材は、ポリカルボン酸と、ポリアミン化合物と、Zn化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩と、を含むことにより、レトルト処理前後において、酸素バリア性および水蒸気バリア性などのバリア性が向上したガスバリア性材料を提供することができる。特に、ポリカルボン酸、ポリアミン化合物およびZn化合物に加えて、ポリリン酸化合物またはその塩を用いることによって、バリア性を向上させつつ、ガスバリア用塗材のポットライフを向上させることができる。
【0016】
本実施形態のガスバリア用塗材に含まれる成分について、詳細に説明する。
【0017】
(ポリカルボン酸)
本実施形態のガスバリア用塗材は、ポリカルボン酸を含む。本実施形態のガスバリア用塗材に含まれるポリカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸、3-ヘキセン酸、3-ヘキセン二酸等のα,β-不飽和カルボン酸の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。また、上記α,β-不飽和カルボン酸と、エチルエステル等のエステル類、エチレン等のオレフィン類等との共重合体であってもよい。
【0018】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸の単独重合体またはこれらの共重合体が好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体であることが好ましく、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選択される少なくとも一種の重合体であることがより好ましく、アクリル酸の単独重合体およびメタクリル酸の単独重合体から選択される少なくとも1つの重合体であることがさらに好ましい。
【0019】
ここで、本実施形態において、ポリアクリル酸とは、アクリル酸の単独重合体、アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリアクリル酸は、重合体100質量%中に、アクリル酸由来の構成単位を、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
また、本実施形態において、ポリメタクリル酸とは、メタクリル酸の単独重合体、メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリメタクリル酸は、重合体100質量%中に、メタクリル酸由来の構成単位を、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
【0020】
ポリカルボン酸はカルボン酸モノマーが重合した重合体である。ポリカルボン酸の分子量は、ガスバリア性および取扱い性のバランスに優れる観点から、500~2,500,000が好ましく、5,000~2,000,000がより好ましく、10,000~1,500,000がより好ましく、100,000~1,200,000がさらに好ましく、300,000~1,100,000がさらに好ましく、500,000~1,000,000がさらに好ましく、600,000~900,000がさらに好ましい。
ここで、本実施形態において、ポリカルボン酸の分子量はポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0021】
ポリカルボン酸は、揮発性塩基により少なくとも一部が中和されていてもよい。揮発性塩基でポリカルボン酸を中和することにより、Zn化合物やポリアミン化合物とポリカルボン酸とを混合する際に、ゲル化が起こることを抑制することができる。したがって、ポリカルボン酸において、ゲル化防止の観点から揮発性塩基によってカルボキシ基の部分中和物または完全中和物とすることが好ましい。中和物は、ポリカルボン酸のカルボキシ基を揮発性塩基で部分的にまたは完全に中和する、すなわち、ポリカルボン酸のカルボキシ基を部分的または完全にカルボン酸塩とすることにより得ることができる。このことにより、ポリアミン化合物やZn化合物を添加する際、ゲル化を防止できる。
部分中和物は、ポリカルボン酸重合体の水溶液に揮発性塩基を添加することにより調製できるが、ポリカルボン酸と揮発性塩基の量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。本実施形態においてはポリカルボン酸の揮発性塩基による中和度は、ポリアミン化合物のアミノ基との中和反応に起因するゲル化を十分に抑制する観点から、70~300当量%が好ましく、90~250当量%がより好ましく、100~200当量%がさらに好ましい。
【0022】
揮発性塩基としては、任意の水溶性塩基を用いることができる。
揮発性塩基としては、たとえば、アンモニア、モルホリン、アルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモノホリン、エチレンジアミン、トリエチルアミン等の三級アミンまたはこれらの水溶液、あるいはこれらの混合物が挙げられる。良好なガスバリア性を得る観点から、アンモニア水溶液が好ましい。
【0023】
(ポリアミン化合物)
本実施形態のガスバリア用塗材は、ポリアミン化合物を含む。ポリアミン化合物を含むことによって、得られるガスバリア性材料のバリア性を向上できる。
ポリアミン化合物は、主鎖あるいは側鎖あるいは末端にアミノ基を2つ以上有する化合物であり、好ましくはポリマーである。具体的には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリ(トリメチレンイミン)等の脂肪族ポリアミン類;ポリリジン、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類;等が挙げられる。また、アミノ基の一部を変性したポリアミンでもよい。
良好なガスバリア性を得る観点から、ポリアミン化合物は好ましくはポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリ(トリメチレンイミン)からなる群から選択される1または2以上の化合物を含み、より好ましくはポリエチレンイミンを含み、さらに好ましくはポリエチレンイミンである。
【0024】
ポリアミン化合物の数平均分子量は、ガスバリア性および取り扱い性のバランスに優れる観点から、50~2,000,000が好ましく、100~1,000,000がより好ましく、1,500~500,000がさらに好ましく、1,500~100,000がさらに好ましく、1,500~50,000がさらに好ましく、3,500~20,000がさらに好ましく、5,000~15,000がさらに好ましく、7,000~12,000がさらに好ましい。
ここで、本実施形態において、ポリアミン化合物の分子量は沸点上昇法や粘度法を用いて測定することができる。
【0025】
本実施形態のガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上する観点から、好ましくは0.40以上であり、より好ましくは0.43以上、さらに好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.53以上である。
同様の観点から、(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、好ましくは0.70以下であり、より好ましくは0.65以下、さらに好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.58以下である。
かかる理由の詳細は、明らかではないが、ポリアミン化合物を構成するアミノ基によるアミド架橋と、ポリカルボン酸とZnとの塩を構成するZnによる金属架橋がバランスよく緻密な構造を形成することにより、レトルト処理後のガスバリア性能に優れたガスバリア性層103およびこれを有するガスバリア性積層体を得ることができると考えられる。
【0026】
(Zn化合物)
本実施形態のガスバリア用塗材は、Zn化合物を含む。Zn化合物は、具体的には亜鉛(Zn)の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硫酸塩若しくは亜硫酸塩等が挙げられる。耐水性や不純物等の観点から、好ましくは酸化亜鉛および水酸化亜鉛の少なくとも1つであり、より好ましくは酸化亜鉛である。
【0027】
本実施形態のガスバリア用塗材中における(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上させる観点から、好ましくは0.40以上であり、好ましくは0.41以上、より好ましくは0.42以上である。
同様の観点から、(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、好ましくは0.70以下であり、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下である。
【0028】
本実施形態において、(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)は、レトルト処理後のガスバリア性能をより一層向上する観点から、好ましくは0.50以上であり、より好ましくは0.60以上、さらに好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.75以上である。
同様の観点から、(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)は、好ましくは1.00以下であり、より好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下である。
【0029】
(ポリリン酸化合物またはその塩)
本実施形態のガスバリア用塗材は、ポリリン酸化合物またはその塩を含む。これにより、ガスバリア性を向上させつつ、ガスバリア用塗材のポットライフを向上させることができる。
ポリリン酸化合物は、具体的には、分子構造中に2以上のリン酸の縮合構造を有し、たとえば、二リン酸(ピロリン酸)、三リン酸(トリポリリン酸)、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸化合物などが挙げられる。
【0030】
ポリリン酸化合物の塩における塩の具体例として、ナトリウム、カリウム等の1価の金属の塩;アンモニウム塩が挙げられる。バリア性の観点から、ポリリン酸化合物の塩は好ましくはアンモニウム塩である。
ポリリン酸化合物またはその塩の具体例としては、好ましくは、低重合ポリリン酸、低重合ポリリン酸アンモニウム、低重合ポリリン酸ナトリウム、低重合ポリリン酸カリウムなどの低重合ポリリン酸またはその塩;ピロリン酸、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムなどのピロリン酸またはその塩;トリポリリン酸、トリポリリン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウムなどのトリポリリン酸またはその塩;およびテトラポリリン酸、テトラポリリン酸アンモニウム、テトラポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸カリウムなどのテトラポリリン酸またはその塩等からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア用塗材のバリア性およびポットライフのバランスをより向上させる観点から、好ましくは低重合ポリリン酸またはその塩であり、より好ましくは低重合ポリリン酸アンモニウムである。ここで、本明細書において、「低重合ポリリン酸」とは、例えば重合度が5以上100以下のポリリン酸をいう。
【0031】
本実施形態において、(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、バリア性向上の観点から、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.007以上、さらに好ましくは0.010以上である。化学式中にP原子が複数個含まれるポリリン酸化合物においては、ポリリン酸化合物のモル数に化合式中に含まれるP原子の個数をかけたものがP原子のモル数となる。
また、バリア性およびポットライフの観点から、(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.12以下、さらに好ましくは0.10以下である。
【0032】
本実施形態のガスバリア用塗材は、上述の成分以外の成分を含んでもよい。
たとえば、本実施形態のガスバリア用塗材は炭酸系アンモニウム塩をさらに含むことが好ましい。炭酸系アンモニウム塩は、Zn化合物を、炭酸亜鉛アンモニウム錯体の状態にして、Zn化合物の溶解性を向上させ、Zn化合物を含む均一な溶液を調製するために添加するものである。ガスバリア用塗材が炭酸系アンモニウム塩を含むことにより、Zn化合物の溶解量を増やすことができ、その結果、Zn化合物が配合されたガスバリア用塗材をさらに均質なものとすることができる。
炭酸系アンモニウム塩として、たとえば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられ、揮発しやすく、得られるガスバリア性層に残存し難い点から、炭酸アンモニウムが好ましい。
(ガスバリア用塗材中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)は、Zn化合物の溶解性をより一層向上する観点から、0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましく、0.50以上がさらに好ましく、0.75以上がさらに好ましい。
また、ガスバリア用塗材としての塗工性をより一層向上する観点から、(ガスバリア用塗材中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(ガスバリア用塗材中のZn化合物のモル数)は、10.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.5以下がさらに好ましい。
【0033】
(界面活性剤)
また、本実施形態のガスバリア用塗材は、上記のバリア性およびポットライフの向上に加え、ガスバリア用塗材として塗布する際にはじきが発生するのを抑制する観点から、好ましくは界面活性剤をさらに含む。
界面活性剤の含有量は、ガスバリア用塗材の固形分全体(硬化物としたときに固形物として残存する成分の総量)を100質量%としたとき、0.01~3質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。本明細書において、ガスバリア用塗材の固形分とは、ガスバリア用塗材を硬化したときに固形分として残存する成分をいう。
【0034】
界面活性剤としては、たとえば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、良好な塗工性を得る観点から、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類がより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類がさらに好ましい。
【0035】
非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、シリコーン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0036】
ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等を挙げることができる。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類を挙げることができる。
ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル等を挙げることができる。
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、たとえば、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等を挙げることができる。
シリコーン系界面活性剤としては、たとえば、ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。
アセチレンアルコール系界面活性剤としては、たとえば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール等を挙げることができる。
含フッ素系界面活性剤としては、たとえば、フッ素アルキルエステル等を挙げることができる。
【0037】
(架橋剤)
本実施形態のガスバリア用塗材は、上記のバリア性およびポットライフの向上に加え、アルカリ性の液(例えば、アルカリ洗剤等)に対する耐アルカリ性を向上させる観点から、さらに架橋剤を含むことが好ましい。
【0038】
このような架橋剤としては、公知の架橋剤を用いることができるが、好ましくはエポキシシラン化合物、カルボジイミド化合物およびイソシアネート化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物を含み、より好ましくはエポキシシラン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む。
【0039】
本実施形態のガスバリア用塗材において、架橋剤の含有量は、ガスバリア用塗材の固形分全体を100質量%としたとき、0.010質量%以上が好ましく、0.015質量%以上がより好ましい。架橋剤の含有量が上記下限値以上であることにより、本実施形態のガスバリア用塗材により形成したガスバリア性層の耐アルカリ性がより好適になる。
また、架橋剤の含有量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がさらに好ましい。架橋剤の含有量が上記上限値以下であることにより、本実施形態のガスバリア用塗材の生産性及びバリア性がより好適になる。
【0040】
本実施形態のガスバリア用塗材は、上述の成分以外の添加剤を含んでもよい。たとえば、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の各種添加剤を添加してよい。
【0041】
また、本実施形態のガスバリア用塗材の固形分濃度は、ガスバリア用塗材として塗工する際の塗工性を向上する観点から、0.5~15質量%とすることが好ましく、1~10質量%とすることがより好ましく、1~5質量%とすることがさらに好ましく、1~3質量%とすることがさらに好ましい。
【0042】
(物性)
本実施形態のガスバリア用塗材においては、ガスバリア用塗材を硬化させた硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が好ましくは1.0atomic%以上であり、より好ましくは2.0atomic%以上であり、さらに好ましくは3.0atomic%以上、さらに好ましくは3.5atomic%以上、さらに好ましくは3.7atomic%以上である。Znの組成比が上記下限値以上であることにより、バリア性をより向上させることができる。
また、Znの組成比は、好ましくは10.0atomic%以下であり、より好ましくは9.0atomic%以下であり、さらに好ましくは8.0atomic%以下であり、さらに好ましくは7.0atomic%以下であり、さらに好ましくは6.0atomic%以下である。
Znの組成比が上記上限値以下であることにより、ガスバリア用塗材中におけるZnの析出を抑制し、ガスバリア用塗材のポットライフをより向上させることができる。
【0043】
本実施形態のガスバリア用塗材においては、ガスバリア用塗材を硬化させた硬化物について、X線源:単色化Al-Kα、X線源出力:15kV、10mAの条件でX線光電子分光分析することにより測定される、Pの組成比が好ましくは0.05atomic%以上であり、より好ましくは0.10atomic%以上であり、さらに好ましくは0.20atomic%以上である。Pの組成比が上記下限値以上であることにより、バリア性をより向上させることができる。
また、Pの組成比は、好ましくは1.5atomic%以下であり、より好ましくは1.3atomic%以下であり、さらに好ましくは1.0atomic%以下、さらに好ましくは0.8atomic%以下である。
Pの組成比が上記上限値以下であることにより、ガスバリア用塗材中におけるZnとの反応を抑制し、ガスバリア用塗材のポットライフをより向上させることができる。
ここで、ガスバリア用塗材の硬化物は、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥後の塗工量が0.3μmになるようにガスバリア用塗材を塗布し、次いで、130℃で60秒間熱処理することにより得ることができる。
【0044】
上記X線光電子分光分析の具体的な条件の一例を示す。
分析装置:KRATOS社製AXIS-NOVA
X線源:単色化Al-Kα
X線源出力:15kV、10mA
分析領域:300×700μm
分析時に帯電補正用の中和電子銃使用
【0045】
ガスバリア用塗材の硬化物の内部を分析するため、分析前に、ガスバリア用塗材の硬化物の表層をスパッタエッチングすることが望ましい。但し、エッチングによるガスバリア用塗材の硬化物へのダメージを軽減するため、Ar-ガスクラスターイオンビーム源によるエッチングが望ましい。
ワイドスキャンにより、検出元素を特定し、個々の元素についてナロースキャンでスペクトルを取得する。そして、得られたスペクトルから、Shirley法で求めたバックグラウンドを除き、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて、検出元素の原子組成比率(atomic%)を算出する。
【0046】
(ガスバリア性積層体)
図1は、実施形態におけるガスバリア性積層体の構成の一例を模式的に示す断面図である。本実施形態のガスバリア性積層体は、基材層101と、上記基材層101の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層103と、を備え、上記ガスバリア性層103が、上記ガスバリア用塗材の硬化物を含む。
以下、本実施形態のガスバリア性積層体における各層の具体的構成について詳細に説明する。
【0047】
(ガスバリア性層)
ガスバリア性層103は、具体的には、ガスバリア用塗材を塗工し、硬化することにより製造できる。このようにすることで、本実施形態におけるガスバリア性層103をガスバリア用塗材の硬化物を含むものとすることができる。
本実施形態のガスバリア用塗材は、以下のようにして得ることができる。
まず、ポリカルボン酸に、適宜揮発性塩基を加えることによりポリカルボン酸のカルボキシ基を完全にまたは部分的に中和する。さらにZn化合物および適宜炭酸系アンモニウム塩を混合して、揮発性塩基と中和した上記ポリカルボン酸のカルボキシ基の全部または一部、および揮発性塩基と中和しなかったポリカルボン酸のカルボキシ基において金属塩を形成する。
その後、さらにポリアミン化合物を添加することによって、本実施形態のガスバリア用塗材が得られる。このような手順でポリカルボン酸、Zn化合物、適宜炭酸系アンモニウム塩およびポリアミン化合物を混合することにより、凝集物の生成を抑制でき、より均一なガスバリア用塗材を得ることができる。これにより、ポリカルボン酸に含まれる-COO-基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応をより効果的に進めることが可能となる。
【0048】
より詳細には、以下の通りである。以下では、揮発性塩基および炭酸系アンモニウム塩をガスバリア用塗材中に配合する場合を例に説明する。
まず、ポリカルボン酸を構成するカルボキシ基の完全または部分中和溶液を調製する。
ポリカルボン酸に、揮発性塩基を添加して、ポリカルボン酸のカルボキシ基が完全中和または部分中和する。当該ポリカルボン酸のカルボキシ基を中和することにより、Zn化合物やポリアミン化合物の添加時にポリカルボン酸を構成するカルボキシ基と、Zn化合物やポリアミン化合物を構成するアミノ基とが反応することによって発生するゲル化を効果的に防止し、より均一なガスバリア用塗材を得ることができる。
次いで、Zn化合物および炭酸系アンモニウム塩を添加、溶解させ、生成されたZnイオンによりポリカルボン酸を構成する-COO-基とのZn塩を形成する。このときZnイオンと塩を形成する-COO-基は上記塩基と中和しなかったカルボキシ基および塩基によって中和された-COO-基の双方をいう。塩基と中和した-COO-基の場合は上記Zn化合物に含まれるZnイオンが入れ替わって配位して-COO-基のZn塩を形成する。そして、Zn塩を形成した後、さらにポリアミン化合物と、ポリリン酸化合物またはその塩を添加することによって、ガスバリア用塗材を得ることができる。
【0049】
このように製造されたガスバリア用塗材を基材層101、無機物層102または無機物層102上に形成されたガスバリア性層103との介在層上に塗布し、乾燥、硬化させることにより、ガスバリア性層103を形成する。このとき、ポリカルボン酸を構成する-COO-基とZn塩のZnが金属架橋を形成し、ポリアミンを構成するアミノ基によりアミド架橋を形成して、優れたガスバリア性を有するガスバリア性層103が得られる。ガスバリア性層103のより詳細な製造方法については後述する。
【0050】
乾燥、硬化後のガスバリア性層103の厚みは、バリア性向上の観点から、好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは0.07μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上である。
また、ガスバリア性積層体全体の薄型化の観点から、乾燥、硬化後のガスバリア性層103の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0051】
(基材層)
基材層101は、単層であっても、2種以上の層であってもよい。基材層101の形状は、限定されないが、たとえば、シートまたはフィルム形状、トレー、カップ、中空体等の形状が挙げられる。
【0052】
基材層101の材料としては、基材層101上に無機物層102を安定的に形成でき、また、無機物層102の上部にガスバリア用塗材の溶液を塗工できるものであれば、限定されず、用いることができる。基材層101の材料として、たとえば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂や紙等の有機質材料;ガラス、陶、セラミック、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、セメント、アルミニウム、酸化アルミニウム、鉄、銅、ステンレス等の金属等の無機質材料;有機質材料同士または有機質材料と無機質材料との組み合せからなる多層構造の基材層等が挙げられる。これらの中でも、たとえば、包装材料やパネル等の各種フィルム用途の場合、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を用いたプラスチックフィルム、または、紙等の有機質材料が好ましい。
【0053】
熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
【0054】
熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。たとえば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、フッ素樹脂あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、透明性を良好にする観点では、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂が好ましい。
また、耐ピンホール性、耐破れ性および耐熱性等に優れる観点では、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂が好ましい。同様の観点から、基材層101は、好ましくはポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の樹脂を含む層であり、より好ましくはこれら1または2以上の樹脂の層である。
【0056】
また、基材層101にポリアミド等の吸湿性のある材料を用いた場合、ガスバリア性積層体において、基材層101が水分を吸収して膨潤し、高湿度下のガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能、酸性の内容物を充填した際のガスバリア性能等が低下しやすいが、本実施形態においては、基材層101として、吸湿性のある材料を用いた場合でも、ガスバリア性積層体の高湿度下でのガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能の低下を好適に抑制することができる。
【0057】
また、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂により形成されたフィルムを少なくとも一方向、好ましくは二軸方向に延伸して基材層101としてもよい。
透明性、剛性および耐熱性に優れる観点から、基材層101は、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムであり、より好ましくはポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1または2以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムである。
【0058】
また、基材層101の表面に、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニアルコール共重合体、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等がコーティングされていてもよい。
さらに、基材層101はガスバリア性層103との接着性を改良するために、表面処理が施されたものであってもよい。具体的には、基材層101のガスバリア性層103との対向面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理をおこなってもよい。
【0059】
基材層101の厚さは、良好なフィルム特性を得る観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。
【0060】
(無機物層)
本実施形態のガスバリア性積層体は、好ましくは、基材層101とガスバリア性層103との間に設けられた無機物層102と、をさらに備える。このようにすることにより、本実施形態のガスバリア性積層体のガスバリア性をさらに向上させることができる。
無機物層102を構成する無機物は、たとえば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物、金属窒化物、金属弗化物、金属酸窒化物等が挙げられる。
無機物層102を構成する無機物としては、たとえば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素;チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル等の周期表遷移元素;亜鉛等の周期表2B族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表3A族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表4A族元素;セレン、テルル等の周期表6A族元素;等の単体、酸化物、窒化物、弗化物、または酸窒化物等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
なお、本実施形態では、無機物層102についての周期表の族名は旧CAS式で示している。
【0061】
さらに、上記無機物の中でも、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
なお、酸化ケイ素には、二酸化ケイ素の他、一酸化ケイ素、亜酸化ケイ素が含有されていてもよい。
【0062】
無機物層102は上記無機物により形成されている。無機物層102は、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、好ましくは酸化アルミニウムにより構成された酸化アルミニウム層を含む。
無機物層102は単層の無機物層から構成されていてもよいし、複数の無機物層から構成されていてもよい。また、無機物層102が複数の無機物層から構成されている場合には同一種類の無機物層から構成されていてもよいし、異なった種類の無機物層から構成されていてもよい。
【0063】
無機物層102の厚さは、バリア性向上および取り扱い性向上のバランスの観点から、例えば1nm以上であり、好ましくは4nm以上であり、また、例えば1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、さらに好ましくは15nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
ここで、無機物層102の厚さは、たとえば透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察画像により求めることができる。
【0064】
無機物層102の形成方法は限定されず、たとえば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成長法、物理気相蒸着法、化学気相蒸着法(CVD法)、プラズマCVD法、ゾルゲル法等により基材層101の片面または両面に無機物層102を形成することができる。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法(CVD)、物理気相蒸着法(PVD)、プラズマCVD法等の減圧下での製膜が望ましい。これにより、窒化珪素や酸化窒化珪素等の珪素を含有する化学的に活性な分子種が速やかに反応することにより、無機物層102の表面の平滑性が改良され、孔を少なくすることができるものと予想される。これらの結合反応を迅速におこなうには、その無機原子や化合物が化学的に活性な分子種もしくは原子種であることが望ましい。
また、ガスバリア性積層体のバリア性と生産性とのバランスを向上する観点から、無機物層102は好ましくは蒸着膜である。
【0065】
無機物層102は、ガスバリア性積層体のバリア性とポットライフとのバランスを向上する観点から、基材層101上に、あるいは、基材層101と無機物層102との間に介在層を有する場合にはかかる介在層上に設けられた蒸着膜であって、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の無機物により構成され、好ましくは酸化アルミニウムにより構成される。
【0066】
(アンダーコート層)
基材層101と無機物層102との間にはアンダーコート層が設けられてもよいが、本実施形態におけるガスバリア用塗材はアンダーコート層を設けずとも十分なバリア性を有すること、およびアンダーコート層を設ける工程の省略による生産性の向上という観点から、アンダーコート層を設けないことが好ましい。
【0067】
アンダーコート層を設ける場合、基材層101と無機物層102との接着性向上の観点から、アンダーコート層の材料としては、たとえば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オキサゾリン樹脂、(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0068】
ポリウレタン樹脂としては、各種ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリ尿素樹脂およびそれらのプレポリマー等が例示できる。このようなウレタン樹脂の具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート等のジイソシアネート成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエチレングリコール等のジオール成分との反応物;末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、アミノ化合物、アミノスルホン酸塩、ポリヒドロキシカルボン酸、重亜硫酸等との反応物;等を挙げることができる。
【0069】
アンダーコート層に用いられるポリエステル樹脂としては、各種ポリエステル樹脂およびそれらの変性物が例示できる。このようなポリエステル樹脂の具体例としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、2-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデカン二酸等の多価カルボン酸成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール等のジオール成分との反応物が挙げられ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等による変性物も含まれる。
【0070】
アンダーコート層にオキサゾリン樹脂を使用する場合、アンダーコート層は、オキサゾリン基含有水性ポリマー、水性(メタ)アクリル樹脂および水性ポリエステル樹脂を含むオキサゾリン系樹脂組成物により構成されていることが好ましい。
【0071】
アンダーコート層の厚さは、良好な接着性を得る観点から、好ましくは0.001μm以上であり、より好ましくは0.005μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、さらにまた好ましくは0.2μm以上である。
また、経済的であるという観点からアンダーコート層の厚さは、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.6μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下であり、また、たとえば0.4μm以下、またはたとえば0.3μm以下であってもよい。
【0072】
(接着剤層)
ガスバリア性積層体には、接着剤層がさらに設けられてもよい。
接着剤層は、たとえば、ガスバリア性層103とガスバリア性層103の上層との間に設けられる。また、上記上層が複数の層から形成されるとき、複数の層の間に接着剤層が設けられていてもよい。ここで、ガスバリア性層103の上層とは、ガスバリア性層103の無機物層102と対向面との反対側の面に積層される層をいう。
接着剤層は、公知の接着剤を含むものであればよい。接着剤としては、有機チタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性シリコーン樹脂およびアルキルチタネート、ポリエステルポリブタジエン等から組成されているラミネート接着剤、または一液型、二液型のポリオールと多価イソシアネート、水系ウレタン、アイオノマー等が挙げられる。または、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を主原料とした水性接着剤を用いてもよい。
また、ガスバリア性積層体100の用途に応じて、接着剤に硬化剤、シランカップリング剤等の他の添加物を添加してもよい。ガスバリア性積層体の用途が、レトルト等の熱水処理に用いられるものである場合、耐熱性や耐水性の観点から、ポリウレタン接着剤に代表されるドライラミネート用接着剤が好ましく、溶剤系の二液硬化タイプのポリウレタン接着剤がより好ましい。
【0073】
(ガスバリア性積層体の製造方法)
本実施形態において、ガスバリア性積層体100の製造方法は、たとえば、基材層101を準備する工程と、基材層101上に無機物層102を形成する工程と、無機物層102が形成された基材層101の上部にガスバリア性層103を形成する工程と、を含む。
【0074】
基材層101上に無機物層102を形成する工程には、たとえば前述の無機物層102の形成方法を用いることができる。
【0075】
ガスバリア性層103を形成する工程は、たとえば、ガスバリア用塗材を無機物層102に塗工し、次いで、乾燥することにより塗工層を得る工程と、上記塗工層を加熱し、ポリカルボン酸に含まれるカルボキシ基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基とを脱水縮合反応させることにより、アミド結合を有するガスバリア性層103を形成する工程と、を含む。
【0076】
ガスバリア用塗材を無機物層102に塗布する方法は、限定されず、通常の方法を用いることができる。たとえば、メイヤーバーコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等、公知の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0077】
乾燥および熱処理は、乾燥後、熱処理をおこなってもよいし、乾燥と熱処理を同時におこなってもよい。
乾燥、加熱処理する方法は、本発明の効果が得られるものであれば限定されず、ガスバリア用塗材を硬化させられるもの、硬化したガスバリア用塗材を加熱できる方法であればよい。たとえば、オーブン、ドライヤー等の対流伝熱によるもの、加熱ロール等の伝導伝熱によるもの、赤外線、遠赤外線・近赤外線のヒーター等の電磁波を用いる輻射伝熱によるもの、マイクロ波等内部発熱によるものが挙げられる。乾燥、加熱処理に使用する装置としては製造効率の観点から乾燥と加熱処理の双方をおこなえる装置が好ましい。その中でも具体的には乾燥、加熱、アニーリング等の種々の用途に利用できるという観点から熱風オーブンを用いることが好ましく、また、フィルムへの熱伝導効率に優れているという観点から加熱ロールを用いることが好ましい。また、乾燥、加熱処理に使用する方法を適宜組み合わせてもよい。具体的には、熱風オーブンと加熱ロールを併用してもよく、たとえば、熱風オーブンでガスバリア用塗材を乾燥後、加熱ロールで加熱処理をおこなえば、加熱処理工程が短時間となり製造効率の観点から好ましい。また、熱風オーブンのみで乾燥と加熱処理をおこなうことが好ましい。
【0078】
加熱処理条件については、たとえば、加熱処理温度が80~180℃、加熱処理時間が1秒~5分であり、好ましくは、加熱処理温度が90~160℃、加熱処理時間が10秒~3分、より好ましくは、加熱処理温度が100℃~150℃、加熱処理時間が15秒~2分、さらに好ましくは、加熱処理温度が110℃~140℃、加熱処理時間が30秒~90秒である。さらに、上述したように加熱ロールを併用することで短時間での加熱処理が可能となる。
なお、ポリカルボン酸に含まれる-COO-基とポリアミン化合物に含まれるアミノ基との脱水縮合反応を効果的に進める観点から、加熱処理温度および加熱処理時間はガスバリア用塗材の塗工量に応じて調整することが重要である。
【0079】
ガスバリア用塗材が乾燥、熱処理されることにより、ポリカルボン酸のカルボキシ基がポリアミンやZn化合物と反応し、共有結合およびイオン架橋されることにより、レトルト処理後においても良好なガスバリア性を有するガスバリア性層103が形成される。
【0080】
本実施形態において、ガスバリア性積層体は、ガスバリア性能に優れており、たとえば、包装材料、中でも高いガスバリア性が要求される内容物の食品包装材料を始め、医療用途、工業用途、日常雑貨用途等さまざまな包装材料として好適に使用し得る。
【0081】
また、本実施形態におけるガスバリア性積層体は、たとえば、高いバリア性能が要求される、真空断熱用フィルム;エレクトロルミネセンス素子、太陽電池等を封止するための封止用フィルム;等として好適に使用することができる。
【0082】
本実施形態において、ガスバリア性積層体を含んで構成される積層構造の具体例を以下に示す。
(積層構造例1)基材層101(PET基材)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリオレフィン層
(積層構造例2)基材層101(PET基材)/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリオレフィン層
(積層構造例3)基材層101(PET基材)/無機物層102(アルミナ蒸着層)/ガスバリア性層103/接着剤層/ポリアミド層/接着剤層/ポリオレフィン層
ここで、積層構造中に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィンにより構成されるポリオレフィン層を含むことにより、ガスバリア性積層体において、耐ピンホール性、耐破れ性および耐熱性等を良好にしながら、高湿度下のガスバリア性能やレトルト処理後のガスバリア性能の低下をより一層抑制することができる。
【0083】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0084】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
(1)ガスバリア用塗材の作製
ポリアクリル酸(東亜合成社製、製品名:AC-10H、重量平均分子量:800,000)のカルボキシ基に対してアンモニアが250当量%になるように、ポリアクリル酸、10質量%アンモニア水(和光純薬工業社製)、精製水を混合して濃度が7.29質量%のポリアクリル酸アンモニウム水溶液を得た。
次いで、得られたポリアクリル酸アンモニウム水溶液に、酸化亜鉛(関東化学社製)および炭酸アンモニウムを添加して混合、撹拌して混合液(A)を作製した。ここで、酸化亜鉛の添加量は、(ガスバリア用塗材中の酸化亜鉛のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)(以下、「ZnO/PAA」とも呼称する。)が表1に示す値になる量とした。また、炭酸アンモニウムは、(ガスバリア用塗材中の炭酸系アンモニウム塩のモル数)/(ガスバリア用塗材中の酸化亜鉛のモル数)が1.5になる量とした。
次いで、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、製品名:SP-200、数平均分子量:10,000)を精製水に添加して10%溶液にしたポリエチレンイミン水溶液を得た。
低重合ポリリン酸アンモニウム(雨田社製、品番:水溶性ポリリン酸アンモニウム難燃剤NNA20、P含有量59%)に精製水を添加して、25質量%の低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を調製した。
次に、上記混合液(A)、上記ポリエチレンイミン水溶液およびリンの導入源として上記低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を、(ガスバリア用塗材中のポリエチレンイミンに含まれるアミノ基のモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)(以下、「PEI/PAA」とも呼称する。)が表1に示す値、および、(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)(以下、「P/PAA」とも呼称する。)が表1に示す値になる割合で混合して混合液(B)を調製した。
さらに、上記混合液(B)の固形分濃度が1.5質量%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌したのちに、界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製、商品名:エマルゲン120)を混合液(B)の固形分に対して0.3質量%となるように混合し、ガスバリア用塗材を調製した。
【0086】
(比較例1、2)
ZnO/PAAが表1に示す値になるように酸化亜鉛の含有量を変更し、上記低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を添加しなかった以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
このとき、ZnO/PAAが0であるということは、酸化亜鉛および炭酸アンモニウムを添加しなかったことを意味する。
【0087】
(比較例3)
25質量%の低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を、リン酸水素二アンモニウム(関東化学社製(NHHPO)を精製水に添加して調製した10質量%のリン酸水素二アンモニウム溶液に変更した以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
このとき、リン酸水素二アンモニウムはポリリン酸化合物またはその塩ではないが、混合量の計算は、リン酸水素二アンモニウムをポリリン酸化合物またはその塩とみなして、(ガスバリア用塗材中のポリリン酸化合物またはその塩に含まれるPのモル数)/(ガスバリア用塗材中のポリアクリル酸に含まれる-COO-基のモル数)に従って計算した。具体的な混合量は表1において「P/PAA」として示した。
【0088】
(実施例2)
25質量%の低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を、ピロリン酸ナトリウム(太平化学産業社製、Na)を精製水に添加して調製した10質量%のピロリン酸ナトリウム溶液に変更した以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0089】
(実施例3)
25質量%の低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を、トリポリリン酸ナトリウム(米山化学工業社製、Na10)を精製水に添加して調製した7質量%のトリポリリン酸ナトリウム溶液に変更した以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0090】
(実施例4)
25質量%の低重合ポリリン酸アンモニウム溶液を、テトラポリリン酸ナトリウム(米山化学工業社製、Na13)を精製水に添加して調製した10質量%のテトラポリリン酸ナトリウム溶液に変更した以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0091】
(実施例5)
ZnO/PAAおよびP/PAAが表1に示す値になるように酸化亜鉛の添加量を変更したほか、上記混合液(B)に、架橋剤としてエポキシシラン化合物(信越シリコーン社製、品番:KBM-403)を混合液(B)の固形分に対して0.020質量%となるように混合した以外は、実施例1に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0092】
(実施例6)
架橋剤として、エポキシシラン化合物の代わりにカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製、品番:カルボジライトSV-02)を使用した以外は、実施例5に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0093】
(実施例7)
架橋剤として、エポキシシラン化合物の代わりにイソシアネート化合物(三井化学社製、品番:タケネート(登録商標)WD726)を使用した以外は、実施例5に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0094】
(実施例8)
P/PAAが表1に示す値になるように低重合ポリリン酸アンモニウム溶液の添加量を変更したほか、架橋剤の添加量を0.015質量%に変更した以外は、実施例5に準じてガスバリア用塗材を調製した。
【0095】
[ガスバリア性積層体の作製]
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、PET12)を基材とし、そのコロナ処理された面に、高周波誘導加熱方式により、アルミニウムを加熱蒸発させ、酸素を導入しながら蒸着することで、厚さ7nmの酸化アルミニウム膜を形成させた。これにより酸化アルミニウム蒸着PETフィルムを得た。この酸化アルミニウム蒸着PETフィルムの水蒸気透過度は1.5g/(m・24h)であった。
次に、蒸着層の上に、各実施例および各比較例のガスバリア用塗材を、メイヤバーにて乾燥後の塗工厚が0.3μmになるように塗布し、熱風ドライヤー;130℃、時間;60秒の熱処理をして、ガスバリア性積層体を得た。
【0096】
[試験用フィルムの作製]
(試験用フィルム1の作製)
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、商品名:RXC-22)の一面に、エステル系接着剤(ポリウレタン系接着剤(三井化学社製、商品名:タケラックA525S):9質量部、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製、商品名:タケネートA50):1質量部および酢酸エチル:7.5質量部)を塗布した。次いで、無延伸ポリプロピレンフィルムの接着剤を塗布した面に、各実施例および各比較例で得られたガスバリア性積層体のバリア面(ガスバリア用塗材を塗布した面)を貼り合わせ、レトルト処理前の試験用フィルム1を得た。
【0097】
(試験用フィルム2の作製)
厚さ15μmのナイロンフィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレムONBC)の両面に、エステル系接着剤(ポリウレタン系接着剤(三井化学社製、商品名:タケラックA525S):9質量部、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製、商品名:タケネートA50):1質量部および酢酸エチル:7.5質量部)を塗布した。次いで、接着剤を付与したナイロンフィルムの両面に、各実施例および各比較例で得られたガスバリア性積層体のバリア面(ガスバリア用塗材を塗布した面)と、厚さ60μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、商品名:RXC-22)とをそれぞれ貼り合わせ、レトルト処理前の試験用フィルム2を得た。
【0098】
[評価方法]
(ガスバリア用塗材外観・ガスバリア性層外観)
各実施例および各比較例にて得られたガスバリア用塗材、およびガスバリア用塗材を用いて作製したガスバリア性積層体中のガスバリア性層について、以下の方法にて評価した。
各実施例および各比較例にて得られたガスバリア用塗材を、作製当日(作製後1時間以内)および作製から1日後(24時間後)に以下の基準にて目視で評価した。
A:沈殿物の析出なし
B:沈殿物の析出あり
【0099】
さらに、各実施例および各比較例にて得られたガスバリア用塗材を作製当日(作製後1時間以内)に使用して、上述の(ガスバリア性積層体の作製)に従って作製したガスバリア性積層体中のガスバリア性層と、各実施例および各比較例にて得られたガスバリア用塗材を作製から1日後(24時間後)に使用して同様に作製したガスバリア性積層体中のガスバリア性層について、以下の基準にて目視で評価した。
A:ガスバリア性層に沈殿物の塊が混入していない
B:ガスバリア性層に沈殿物の塊が混入している
【0100】
(XPS分析)
各実施例および各比較例にて得られたガスバリア性積層体を1×1cmに切断したサンプルを用いてコート膜表面を分析した。
各実施例および各比較例にて得られたガスバリア性積層体を1×1cmに切断したサンプルにおけるガスバリア性層の面(ガスバリア用塗材が塗工された面)に、Ar-ガスクラスターイオンビーム源によるスパッタエッチングを行った。その後、以下の測定条件でワイドスキャンにより検出元素を特定し、個々の元素についてナロースキャンでスペクトルを取得した。最後に、得られたスペクトルから、Shirley法で求めたバックグラウンドを除き、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて、検出元素の原子組成比率(atomic%)を算出した。
測定条件を以下に示す。
分析装置:KRATOS社製AXIS-NOVA
X線源:単色化Al-Kα
X線源出力:15kV、10mA
分析領域:300×700μm
分析時に帯電補正用の中和電子銃使用
【0101】
(レトルト処理(水充填))
上記[試験用フィルムの作製]にて得られたレトルト処理前の試験用フィルム1および2を無延伸ポリプロピレンフィルムが内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として水を70mL入れ、もう1方をヒートシールにより袋を作製した。これを高温高圧レトルト殺菌装置で130℃、30分間の条件でレトルト処理をおこなった。レトルト処理後、内容物の水を抜き、レトルト処理後(水充填)の試験用フィルム1および2を得た。
【0102】
(酸素透過度[mL/(m・day・MPa)])
上述の方法で得られたレトルト処理前の試験用フィルム1およびレトルト処理後(水充填)の試験用フィルム1および2の酸素透過度を、モコン社製OX-TRAN2/21を用いて、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度90%RHの条件でそれぞれ測定した。結果を表1に示す。なお、表中では、酸素透過度[mL/(m・day・MPa)]はOTRと呼ぶ。
【0103】
(水蒸気透過度[g/(m・day)])
上述の方法で得られたレトルト処理前の試験用フィルム1およびレトルト処理後(水充填)の試験用フィルム1および2を無延伸ポリプロピレンフィルムが内面になるように重ねてガスバリア性積層フィルムを折り返し、3方をヒートシールし、袋状にした後、内容物として塩化カルシウムを入れ、もう1方をヒートシールにより、表面積が0.01mになるように袋を作製し、40℃、90%RHの条件で300時間放置し、その重量差で水蒸気透過度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。なお、表中では水蒸気透過度[g/(m・day)]はWVTRと呼ぶ。
【0104】
(ラミネートフィルム浸漬試験)
上記[試験用フィルムの作製]にて得られた試験用フィルム2を無延伸ポリプロピレンフィルムが内面になるように折り返し、ヒートシールして袋状にした。袋状にした試験用フィルムを水道水で10倍に希釈したアルカリ性洗剤JOY(登録商標)(P&G製)に浸漬させた。1週間後に試験用フィルムを目視確認してデラミネーション(デラミ)発生有無を評価した。結果を表1に示す。
A:デラミ発生なし
B:デラミ発生あり
【0105】
【表1】
【0106】
表1より、各実施例においては、各比較例よりも、高いバリア性を有しつつもポットライフが向上していることが理解できる。
さらに、ガスバリア用塗材に架橋剤を加えることにより、ラミネートフィルムの耐アルカリ性を向上させることができることが理解できる。
【符号の説明】
【0107】
100 ガスバリア性積層体
101 基材層
102 無機物層
103 ガスバリア性層
図1