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特開2023-177660ルテニウム錯体の製造方法、並びにルテニウム錯体及びこれを用いたジアミンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177660
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ルテニウム錯体の製造方法、並びにルテニウム錯体及びこれを用いたジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20231207BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20231207BHJP
   C07F 9/6596 20060101ALI20231207BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C07F15/00 A
C07F19/00
C07F9/6596
B01J31/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090448
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 健太
(72)【発明者】
【氏名】浦山 鉄平
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE26A
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE37A
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE42A
4G169BE42B
4G169BE46A
4G169BE46B
4G169BE48A
4G169BE48B
4G169CB25
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB40
4H050BB11
4H050WA01
4H050WA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抽出分離による分離回収が容易なルテニウム錯体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸性条件下における芳香族求電子置換反応により式(2)で表される化合物から式(3)で表される化合物を得る工程と、求核置換反応により式(3)で表される化合物から式(4)で表される化合物を得る工程と、式(4)で表される化合物から式(1)で表されるルテニウム錯体を得る工程と、を含む、ルテニウム錯体の製造方法。

(Rは主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよいC1~18の炭化水素;R及びRは各々独立に、置換/非置換のC1~4のアルキル基又は置換/非置換のC3~8のシクロアルキル基;Xは各々独立に、F、Cl、Br、I、トリフラート基、又はトシル基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性条件下における芳香族求電子置換反応により一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る工程と、
求核置換反応により一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物を得る工程と、
一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む、一般式(1)で表されるルテニウム錯体の製造方法。
【化1】
(一般式(1)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【化2】
(一般式(2)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかである。)
【化3】
(一般式(3)中、Xはそれぞれ独立に、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、アクリジン骨格に結合したXは、a、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換されている。)
【化4】
(一般式(4)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物を得る工程が、
配位子交換反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(5)で表される化合物を得る工程と、
3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(5)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。
【化5】
(一般式(5)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物を得る工程が、
3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(6)で表される化合物を得る工程と、
配位子交換反応により一般式(6)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む請求項1に記載のルテニウム錯体の製造方法。
【化6】
(一般式(6)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【請求項4】
グリフィン法によるHLB値が12.335以下である、一般式(1)で表されるルテニウム錯体。
【化7】
(一般式(1)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【請求項5】
グリフィン法によるHLB値が9.473以下である、請求項4に記載のルテニウム錯体。
【請求項6】
グリフィン法によるHLB値が8.715以下である、請求項4に記載のルテニウム錯体。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のルテニウム錯体の存在下でジオールとアンモニアとを反応させる工程を含む、ジアミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム錯体の製造方法、並びにルテニウム錯体及びこれを用いたジアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内に2つのアミノ基を有するジアミンは化学産業における基幹物質のひとつである。特に、ヘキサメチレンジアミンは、ナイロン原料として非常に有用なモノマーであり、主要な製造方法のひとつとして1,6-ヘキサンジオールのアミノ化反応が挙げられる。効率よくヘキサメチレンジアミンを製造するため、これまでにかかるアミノ化反応を促進する触媒が開発されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1及び2では、1,6-ヘキサンジオールのアミノ化反応を選択的に促進するルテニウム-PNP-ピンサー型触媒の化学構造と製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8889865号明細書
【特許文献2】特開2016-27052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、均一系触媒は、触媒そのものが反応基質や溶媒に溶解するため、反応終了後、反応液からの触媒回収が困難である。特許文献1及び2で開示されているルテニウム錯体は、溶媒存在条件下、高い収率でヘキサメチレンジアミンを生産する触媒であることが知られているが、特許文献1及び2では分離回収については言及されていない。また、触媒の分離方法として、蒸留と比較してエネルギー効率の高い抽出操作により触媒を回収できることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は抽出分離による分離回収が容易なルテニウム錯体及びその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定のルテニウム錯体が容易に抽出分離により分離回収できること、及び所定の方法によりそのようなルテニウム錯体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
酸性条件下における芳香族求電子置換反応により一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る工程と、
求核置換反応により一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物を得る工程と、
一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む、一般式(1)で表されるルテニウム錯体の製造方法。
【化1】
(一般式(1)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
【化2】
(一般式(2)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかである。)
【化3】
(一般式(3)中、Xはそれぞれ独立に、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、アクリジン骨格に結合したXは、a、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換されている。)
【化4】
(一般式(4)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
[2]
前記一般式(1)で表される化合物を得る工程が、
配位子交換反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(5)で表される化合物を得る工程と、
3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(5)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む[1]に記載のルテニウム錯体の製造方法。
【化5】
(一般式(5)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかであり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
[3]
前記一般式(1)で表される化合物を得る工程が、
3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(6)で表される化合物を得る工程と、
配位子交換反応により一般式(6)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、
を含む[1]に記載のルテニウム錯体の製造方法。
【化6】
(一般式(6)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
[4]
グリフィン法によるHLB値が12.335以下である、一般式(1)で表されるルテニウム錯体。
【化7】
(一般式(1)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素であり、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1から4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数3から8のシクロアルキル基である。)
[5]
グリフィン法によるHLB値が9.473以下である、[4]に記載のルテニウム錯体。
[6]
グリフィン法によるHLB値が8.715以下である、[4]に記載のルテニウム錯体。
[7]
[4]~[6]のいずれか1つに記載のルテニウム錯体の存在下でジオールとアンモニアとを反応させる工程を含む、ジアミンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抽出分離による分離回収が容易なルテニウム錯体及びその製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態(本実施形態)に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本明細書及び特許請求の範囲に記載された化学式の立体配置は特に言及しない場合には相対配置を表す。
【0011】
[1]ルテニウム錯体
本実施形態のルテニウム錯体は一般式(1)で示される構造を有する。ルテニウム錯体のHLB値(グリフィン法)は、親水性溶液からの抽出分離による分離回収の容易さが向上する観点から、12.335以下であることが好ましく、9.473以下であることがより好ましく、8.715以下であることがさらに好ましく、7.343以下であることがさらにより好ましい。HLB値が上記範囲にあることにより、ルテニウム錯体は、親水性溶液からの分離性能に優れる傾向にある。なお、本明細書におけるHLB値(グリフィン法)は、以下の式により計算するものとする。
HLB値=20×(ヘテロ原子(金属原素も含む)の総和の原子量÷分子量(ホスフィンと結合した置換基の分子量は除く))とする。
【0012】
【化8】
【0013】
一般式(1)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素である。抽出分離による分離回収の容易さが向上する観点から、Rにおける炭素数は、3から18であると好ましく、8から18であるとより好ましく、11から18であるとさらに好ましい。Rに含まれ得るヘテロ原子は炭化水素の主鎖に含まれる。R中に含まれ得るヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、及びリン原子が挙げられる。これらヘテロ原子は、それぞれ第3級アミン、エーテル結合、チオエーテル結合、及び第3級ホスフィンとして存在してよい。Rがヘテロ原子を有する場合、主鎖に含むことにより、ルテニウム錯体の親水性溶液からの抽出分離による分離回収の容易さが向上する。Rに含まれるヘテロ原子の個数は、好ましくは0から3であり、より好ましくは0又は1であり、さらに好ましくは0である。
抽出分離による分離回収の容易さが向上する観点から、Rは、炭素数3から18のアルキル基が好ましく、炭素数8から18のアルキル基がより好ましく、炭素数11から18のアルキル基がさらに好ましい。なお、本明細書において、アクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位とは、それぞれ下記式においてa、b、c、d、e、f、及びgとして示される部位を意味する。Rの結合部位は、例えばd部位であってよい。
【0014】
【化9】
【0015】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数3から8のシクロアルキル基であり、イソプロピル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択されることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。R及びRは置換基を有してもよいが、好ましくは置換基を有しない。R及びRが有していてよい置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、シアノ基、及びアミノ基が挙げられ、好ましくはクロロ基又はブロモ基である。
【0016】
[2]ルテニウム錯体の製造方法
本実施形態のルテニウム錯体の製造方法は、酸性条件下における芳香族求電子置換反応により一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る工程と、求核置換反応により一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物を得る工程と、一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程と、を含む、一般式(1)で表されるルテニウム錯体の製造方法である。上記の製造方法は、必要に応じて、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程は、上記の各工程の間、一般式(3)で表される化合物を得る工程の前、又は一般式(1)で表される化合物を得る工程の後に実施されてよい。上記の各工程は1ステップの工程であってよく、複数のステップからなる工程であってよい。本実施形態の製造方法の反応スキームを式(7)に示す。
【化10】
【0017】
[一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る工程]
本実施形態のルテニウム錯体の製造方法は、酸性条件下における芳香族求電子置換反応により一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る、式(8)で示される反応を実施する工程を含む。
【化11】
【0018】
一般式(2)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基(OTf)、及びトシル基のいずれかである。Xは、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基が好ましく、ブロモ基、ヨード基、及びトリフラート基がより好ましく、ヨード基、及びブロモ基がさらに好ましい。Xの結合部位は、例えばd部位であってよい。
【0019】
一般式(3)中、Xはそれぞれ独立に、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基(OTf)、及びトシル基のいずれかであり、アクリジン骨格に結合したXは、a、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換されている。Xは、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基が好ましく、ブロモ基、ヨード基、及びトリフラート基がより好ましく、ヨード基、及びブロモ基がさらに好ましい。一般式(3)中の3つのXは同一であることが好ましい。また、一般式(2)中のXと、一般式(3)中のXとは、同一であることが好ましい。アクリジン骨格に結合したXは、例えばd部位に結合していてよい。
【0020】
式(8)で示される反応は種々の反応条件で実施することができる。例えば、前記一般式(2)で表される化合物の水素原子をメチルハロゲン基に変換する反応として、酸性条件下におけるハロゲン化メチルアルキルエーテル(例えばブロモメチルメチルエーテル)を用いたフリーデル・クラフツ反応が挙げられる。本工程において溶媒の使用の有無や、使用する場合の溶媒の種類は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応速度に優れる観点から、無溶媒条件が好ましい。また、温度及び時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
式(8)で示される反応は、酸性条件下で実施される。使用される酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、及び酢酸等が使用でき、好ましくは強酸(例えば硫酸、塩酸、硝酸)であり、より好ましくは硫酸である。本工程で使用されるメチルハロゲン基の前駆体となる化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン化メチルアルキルエーテルが挙げられ、好ましくはブロモメチルメチルエーテル、クロロメチルメチルエーテル、及びヨードメチルメチルエーテルから選択される。
【0022】
[一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物を得る工程]
本実施形態のルテニウム錯体の製造方法は、求核置換反応により一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物を得る、式(9)で示される反応を実施する工程を含む。本工程は、式(8)で示される上記の反応の後、適当な処理をしてからそのまま実施してもよいし、一般式(3)で表される化合物を精製・単離してから実施してもよい。
【化12】
【0023】
一般式(4)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基(OTf)、及びトシル基のいずれかである。Xは、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基が好ましく、ブロモ基、ヨード基、及びトリフラート基がより好ましく、ヨード基、及びブロモ基がさらに好ましい。一般式(4)中のXと、一般式(3)中のXとは、同一であることが好ましい。Xの結合部位は、例えばd部位であってよい。
【0024】
一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数3から8のシクロアルキル基であり、イソプロピル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択されることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。R及びRは置換基を有してもよいが、好ましくは置換基を有しない。R及びRが有していてよい置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、シアノ基、及びアミノ基が挙げられ、好ましくはクロロ基又はブロモ基である。
【0025】
式(9)で示される反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜反応条件や試薬を選択することができる。かかる反応として、例えば、前記一般式(3)で表される化合物のハロゲン基をリンドナー配位子に変換する反応が挙げられる。このような反応としては、例えば、ジアルキルホスフィン(例えばジシクロヘキシルホスフィン、ジイソプロピルホスフィン)等のホスフィン試薬を用いた求核置換反応等が挙げられる。当該反応に使用される溶媒としては、特に制限はなく、例えば、メタノール等が挙げられる。当該反応後、塩基処理を行ってもよい。使用される塩基としては、特に制限はなく、例えば、トリエチルアミン、炭酸カリウム、及び炭酸セシウム等が挙げられる。
【0026】
[一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程]
本実施形態のルテニウム錯体の製造方法は、一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程を含む。本工程は種々の方法で実施することができるが、アクリジン骨格に結合している-Xを-Rに変換する工程と、アクリジン骨格にルテニウムを配位させる工程とを含んでいることが好ましい。上記一般式(1)で表される化合物を得る工程は、より好ましくは、式(10)で示される反応を実施する工程及び式(11)で示される反応を実施する工程を含むか、又は式(12)で示される反応を実施する工程及び式(13)で示される反応を実施する工程を含み、さらに好ましくは、式(10)で示される反応を実施する工程及び式(11)で示される反応を実施する工程を含む。本工程は、式(9)で示される上記の反応の後、適当な処理をしてからそのまま実施してもよいし、一般式(4)で表される化合物を精製・単離してから実施してもよい。
【0027】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0028】
式(10)で示される反応を実施する工程は、一般式(4)で表される化合物から一般式(5)で表される化合物を得る工程であり、式(11)で示される反応を実施する工程は、一般式(5)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程であり、式(12)で示される反応を実施する工程は、一般式(4)で表される化合物から一般式(6)で表される化合物を得る工程であり、式(13)で示される反応を実施する工程は、一般式(6)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程である。
【0029】
(一般式(4)で表される化合物から一般式(5)で表される化合物を得る工程)
上記一般式(1)で表される化合物を得る工程は、配位子交換反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(5)で表される化合物を得る、式(10)で示される反応を実施する工程を含んでいてよい。
【化17】
【0030】
一般式(5)中、Xはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基のいずれかである。Xは、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、トリフラート基、及びトシル基が好ましく、ブロモ基、ヨード基、及びトリフラート基がより好ましく、ヨード基、及びブロモ基がさらに好ましい。一般式(4)中のXと、一般式(5)中のXとは、同一であることが好ましい。Xの結合部位は、例えばd部位であってよい。
【0031】
一般式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数3から8のシクロアルキル基であり、イソプロピル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択されることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。R及びRは置換基を有してもよいが、好ましくは置換基を有しない。R及びRが有していてよい置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、シアノ基、及びアミノ基が挙げられ、好ましくはクロロ基又はブロモ基である。一般式(4)中のR及びRと、一般式(5)中のR及びRとは、それぞれが同一であることが好ましい。
【0032】
式(10)で示される反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜反応条件や試薬を選択することができる。かかる反応としては、例えば、前記一般式(4)で表される化合物にルテニウム中心金属を配位させる反応が挙げられる。このような反応としては、例えば、カルボニルクロロヒドリドルテニウム(II)錯体(例えばカルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)塩化物)を用いた配位子交換反応等が挙げられる。ルテニウム中心金属を配位させる反応において使用される溶媒としては、特に制限はなく、例えば、トルエン等が挙げられる。ルテニウム中心金属を配位させる反応処理の温度及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
(一般式(5)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程)
上記一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程は、3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(5)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る、式(11)で示される反応を実施する工程を含んでいてよい。本工程は、式(10)で示される上記の反応の後、適当な処理をしてからそのまま実施してもよいし、一般式(5)で表される化合物を精製・単離してから実施してもよい。
【化18】
【0034】
式(11)で示される反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜反応条件や試剤を選択することができる。かかる反応としては、例えば、前記一般式(5)で表される化合物のハロゲン基を、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基へと変換する反応が挙げられる。このような反応としては、例えば、鈴木・宮浦カップリングや、右田・小杉・スティルカップリング、熊田・玉尾・コリューカップリング等の3~11族の遷移金属触媒から選ばれる触媒を用いたクロスカップリング反応が挙げられる。当該反応において使用される溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。当該反応に使用される触媒としては特に制限はなく、例えば、カップリング反応で使用される固体触媒や均一系触媒(例えばパラジウム等の3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒)等が挙げられる。
【0035】
当該反応に使用される、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基等の前駆体としては特に制限はなく、例えば、アルケン、シクロアルケン、及びヘテロシクレン、並びにボラン基を有するアルキル化合物、シクロアルキル化合物、及びヘテロシクリル化合物等が挙げられる。
【0036】
(一般式(4)で表される化合物から一般式(6)で表される化合物を得る工程)
上記一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程は、3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応により一般式(4)で表される化合物から一般式(6)で表される化合物を得る、式(12)で示される反応を実施する工程を含んでいてよい。
【化19】
【0037】
一般式(6)中、Rはアクリジニル基のa、b、c、d、e、f、及びg部位の内、少なくとも1つに単置換された、主鎖にヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1から18の炭化水素である。抽出分離による分離回収の容易さが向上する観点から、Rにおける炭素数は、3から18であると好ましく、8から18であるとより好ましく、11から18であるとさらに好ましい。Rに含まれ得るヘテロ原子は炭化水素の主鎖に含まれる。R中に含まれ得るヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、及びリン原子が挙げられる。これらヘテロ原子は、それぞれ第3級アミン、エーテル結合、チオエーテル結合、及び第3級ホスフィンとして存在してよい。Rがヘテロ原子を有する場合、主鎖に含むことにより、製造されるルテニウム錯体の親水性溶液からの抽出分離による分離回収の容易さが向上する。Rに含まれるヘテロ原子の個数は、好ましくは0から3であり、より好ましくは0又は1であり、さらに好ましくは0である。
Rは、炭素数3から18のアルキル基が好ましく、炭素数8から18のアルキル基がより好ましく、炭素数11から18のアルキル基がさらに好ましい。Rの結合部位は、例えばd部位であってよい。
【0038】
一般式(6)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基又は炭素数3から8のシクロアルキル基であり、イソプロピル基及びシクロヘキシル基からなる群より選択されることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。R及びRは置換基を有してもよいが、好ましくは置換基を有しない。R及びRが有していてよい置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、シアノ基、及びアミノ基が挙げられ、好ましくはクロロ基又はブロモ基である。一般式(4)中のR及びRと、一般式(6)中のR及びRとは、それぞれが同一であることが好ましい。
【0039】
式(12)で示される反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜反応条件や試薬を選択することができる。かかる反応としては、例えば、前記一般式(4)で表される化合物のハロゲン基を、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基へと変換する反応が挙げられる。このような反応としては、例えば、鈴木・宮浦カップリングや、右田・小杉・スティルカップリング、熊田・玉尾・コリューカップリング等の3~11族の遷移金属触媒から選ばれる触媒を用いたクロスカップリング反応が挙げられる。該当反応において使用される溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。該当反応に使用される触媒としては特に制限はなく、例えば、カップリング反応で使用される不均一系触媒や均一系触媒(例えばパラジウム等の3~11族の遷移金属を少なくとも1種含む遷移金属触媒)等が挙げられる。
【0040】
該当反応に使用される、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基等の前駆体としては特に制限はなく、例えば、アルケンや、シクロアルケン、及びヘテロシクレン、並びにボラン基を有するアルキル化合物、シクロアルキル化合物、及びヘテロシクリル化合物等が挙げられる。
【0041】
(一般式(6)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程)
上記一般式(4)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る工程は、配位子交換反応により一般式(6)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物を得る、式(13)で示される反応を実施する工程を含んでいてよい。本工程は、式(12)で示される上記の反応の後、適当な処理をしてからそのまま実施してもよいし、一般式(6)で表される化合物を精製・単離してから実施してもよい。
【化20】
【0042】
式(13)で示される反応としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜反応条件や試薬を選択することができる。かかる反応としては、例えば、前記一般式(6)で表される化合物にルテニウム中心金属を配位させる反応が挙げられる。このような反応としては、例えば、カルボニルクロロヒドリドルテニウム(II)錯体(例えばカルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)塩化物)を用いた配位子交換反応等が挙げられる。該当反応において使用される溶媒としては、特に制限はなく、例えば、トルエン等が挙げられる。該当反応の温度及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
[3]ジアミンの製造方法
本実施形態の一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、ジオールからジアミンを製造するジアミン製造触媒として有用であり、ジオールとアンモニアとの反応を触媒することができる。すなわち、本実施形態は、本実施形態のルテニウム錯体の存在下でジオールとアンモニアとを反応させる工程を含む、ジアミンの製造方法をも含む。このようなジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられるが、得られるジアミンの有用性に優れる観点から、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。本実施形態におけるジオールとアンモニアとを反応させる工程は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下の他、水素等の活性ガス存在下で実施してもよい。かかる反応工程は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。
【0044】
本実施形態のジアミンの製造方法は、反応後のアミノ化反応液から本実施形態のルテニウム錯体を回収する分離工程を含んでもよい。分離工程における方法としては、例えば、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の分離方法や、これらを組み合わせた分離方法が用いられるが、エネルギー効率に優れる観点から、抽出分離による分離回収が好ましい。本実施形態のルテニウム錯体は、抽出分離による分離回収が容易であるため、抽出分離による分離回収を用いて効率よく回収することができる。
【0045】
[4]ルテニウム錯体の抽出
本実施形態のルテニウム錯体は、抽出により親水性溶液から収率良く分離・回収することが可能である。本明細書において、親水性とは、水に溶解しやすいか、あるいは水と混ざりやすい性質を指す。このような親水性溶液としては、ジオールのアミノ化によるジアミン製造の反応液、例えばジオールとアンモニアとの反応によりジアミンを生成した後の反応混合液が挙げられる。
【0046】
ルテニウム錯体の抽出は、ルテニウム錯体を含む親水性溶液に抽出溶媒を混合し、相分離させた後、抽出溶媒を回収することで実施される。抽出溶媒は極性化合物(例えば、ジアミンやジオール)の溶け込みが少ない非極性溶媒が好ましい。
【0047】
抽出の効率は分配係数(=[抽出溶媒中の錯体濃度wt/wt%]/[被抽出溶液中の錯体濃度wt/wt%])で表される。本実施形態のルテニウム錯体を抽出する場合、適宜抽出溶媒を選ぶことができるが、分配係数が1.35以上となる抽出溶媒を使用することがエネルギー効率に優れる観点から好ましい。抽出溶媒としては、親水性混合液との分離性能に優れる観点から、誘電率が5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。このような溶媒としては、特に制限されないが、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ドデカン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンが挙げられる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に何ら限定されるものではない。以下の各例における反応は、特記しない限り無水溶媒を用い、窒素雰囲気下で行った。
【0049】
実施例中、「Et」は「エチル基」を、「MOMBr」は「ブロモメチルメチルエーテル」を、「Me」は「メチル基」を、「THF」は「テトラヒドロフラン」を、「9-BBN」は「9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン」をそれぞれ表す。
【0050】
以下の実施例において、各種測定は、以下の条件で行った。
核磁気共鳴(NMR,1H NMRは、400MHz、13C NMRは、100MHz)スペクトルは、ブルカー製のAVANCE400を用いて測定した。化学シフト値(δ値)は、溶媒ピーク(CHClに関し、1H NMRは、δ=7.24ppm、13C NMRは、δ=77.0ppm)をリファレンスとしてppm単位で記載した。
カラムクロマトグラフィーには、関東化学株式会社製のシリカゲル(230-400 mesh)を使用した。
【0051】
実施例1及び2における反応スキームを以下に示す。
【化21】
【0052】
[実施例1]
<工程1:9-ブロモ-4,5-ビス(ブロモメチル)アクリジン(15)の合成>
9-ブロモ-アクリジン(5.0g,19.5mmol,シグマアルドリッチ社製)を硫酸(10g)に懸濁し攪拌した。ここに、ブロモメチルメチルエーテル(12.2g,97.3mmol,東京化成工業株式会社製)を加え、均一な溶液とした後、50度で7日間攪拌した。得られた反応溶液に水(50ml)を加え、黄色結晶を析出させた。結晶を含む反応懸濁液を濾過すると、式(15)により表される化合物が黄色針状結晶として1.7g(3.9mmol,収率20%)得られた。得られた黄色針状結晶を1H-NMRにより観察したところ不純物が認められなかったので、これ以上の精製操作を行うことなく、得られた黄色針状結晶を次の工程に使用した。なお、メチレンブロミドに由来する特徴的なピークの出現(1H-NMR 化学シフトδ=5.35ppm)により、式(15)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(16)に示す。
【0053】
【化22】
【化23】
【0054】
<工程2:9-ブロモ-4,5-ビス((ジシクロヘキシルホスファニル)メチル)アクリジン(17)の合成>
グローブボックス中、工程1で製造した9-ブロモ-4,5-ビス(ブロモメチル)アクリジン(15)(10g,22.7mmol)をメタノール(30g)に溶解させ、室温下で攪拌した。得られた溶液にジシクロヘキシルホスフィン(9.0g,45.4mmol,関東化学株式会社製)を加え、50度で2日間攪拌した。その後、室温まで空冷し、トリエチルアミン(4.6g,45.4mmol,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を加え、2時間攪拌した。得られた反応後液に対して、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧濃縮を行うと、式(17)により表される化合物が無色アモルファスとして10.8g(15.9mmol,収率70%)得られた。得られた無色アモルファスを1H-NMRにより観察したところ不純物が認められなかったので、これ以上の精製操作を行うことなく、得られた無色アモルファスを次の工程に使用した。なお、メチレンブロミドに由来する特徴的なピークの消失(1H-NMR 化学シフトδ=5.35ppm)により、式(17)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(18)に示す。
【0055】
【化24】
【化25】
【0056】
<工程3:ルテニウム錯体(19)の合成>
グローブボックス中、工程2で製造した9-ブロモ-4,5-ビス((ジシクロヘキシルホスファニル)メチル)アクリジン(17)(10g,14.8mmol)をトルエン(70g)に溶解し、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)塩化物(14.1g,14.8mmol,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を添加した後、70度で2時間攪拌した。空冷後、ヘキサン(100g,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を反応液に添加し、析出した結晶を濾過することで式(19)により表される化合物を褐色粉末として13.4g(14.7mmol,収率99%)得た。なお、ルテニウム-ヒドリドに由来する特徴的なピークの出現(1H-NMR 化学シフトδ=-0.5ppm)により、式(19)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(20)に示す。
【0057】
【化26】
【化27】
【0058】
<工程4:ルテニウム錯体(21)の合成>
グローブボックス中、1-オクテン(0.66g,5.9mmol,東京化成工業株式会社製)をTHF(20g)に混合し、室温で0.5mol/Lの9-BBN(12ml,5.9mmol,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を添加した。得られた混合液を50度で1時間攪拌した。得られた反応液に工程3で得られたルテニウム錯体(19)(5g,5.9mmol)、ジクロロ(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(43mg,0.06mmol,東京化成工業株式会社製)を順番に添加し、70度で24時間攪拌した。得られた反応液に対して、ロータリーエバポレーター(ビュッヒ社製)を用いて、減圧濃縮を行った後、ヘキサン(30g,和光純薬品工業株式会社製)を添加し、ヘキサン溶解物と不溶物の濾別を行った。ヘキサン溶解液を再びロータリーエバポレーター(ビュッヒ社製)を用いて減圧濃縮すると、式(21)により表される化合物が褐色油状物として1.6g(1.8mmol,収率31%)得られた。なお、オクチル基に由来する特徴的なピークの出現(1H-NMR 化学シフトδ=3.70ppm)により、式(21)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(22)に示す。
なお、式(21)により表される化合物のHLB値は、9.473((228.81871÷483.09029)×20)である。
【0059】
【化28】
【化29】
【0060】
次に、工程4で得られたルテニウム錯体を触媒としてジオール及びアンモニアからジアミンの製造を行った。
<ルテニウム錯体(21)を用いたヘキサメチレンジアミンの製造>
1,6-ヘキサンジオール 15.0gに対して4.62当量のアンモニアと、ルテニウム-PNP-ピンサー型錯体(21)50mgを耐圧反応器に加え、窒素を室温で1.0MPa充填した後、180℃で2時間反応を行った。その結果、89mol%の原料成分が消費され、ヘキサメチレンジアミンが38mol%、アミノヘキサノールが38mol%、ヘキサメチレンイミンが2.60mol%、ヘキサメチレンジアミンの2量体が3.3mol%で得られた。続いて、得られた反応後液に、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相の誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(21)は44mgであった。この時、分配係数は1.563であり、錯体(21)の回収率は88%であった。以上のことから、ルテニウム錯体(21)はジオールとアンモニアとの反応に対する触媒活性を有しており、当該反応後の反応混合液からの抽出分離が容易であることがわかった。
【0061】
<ルテニウム錯体(21)を用いたペンタメチレンジアミンの製造>
1,5-ペンタンジオール 15.0gに対して4.50当量のアンモニアと、ルテニウム-PNP-ピンサー型錯体(21)50mgを耐圧反応器に加え、窒素を室温で1.0MPa充填した後、180℃で2時間反応を行った。本実施例では、95mol%の原料成分が消費され、ペンタメチレンジアミンが収率55mol%で得られた。続いて、得られた反応後液に、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相のICP-AES測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(21)は44mgであった。この時、分配係数は1.563であり、錯体(21)の回収率は88%であった。
【0062】
次に、ジアミン水溶液からの有機溶媒を用いたルテニウム錯体(21)の抽出分離実験を行った。
<ルテニウム錯体(21)が溶解したヘキサメチレンジアミン水溶液からのルテニウム錯体(21)の抽出分離>
200ml試験管に水(1.55g)、ヘキサメチレンジアミン(5g)、ルテニウム錯体(21)(10mg,HLB値9.473)を添加し、30分間攪拌した。その後、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相のICP-AES測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(21)は8.4mgであった。この時の分配係数は1.375であり、ルテニウム錯体(21)の回収率は84%であった。
【0063】
<ルテニウム錯体(21)が溶解したオクタメチレンジアミン水溶液からのルテニウム錯体(21)の抽出分離>
200ml試験管に水(1.55g)、オクタメチレンジアミン(5g)、ルテニウム錯体(21)(10mg,HLB値9.473)を添加し、30分間攪拌した。その後、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相のICP-AES測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(21)は8.5mgであった。この時、分配係数は1.484であり、ルテニウム錯体(21)の回収率は85%であった。
【0064】
[実施例2]
<工程1:4,5-ビス((ジシクロヘキシルホスファニル)メチル)-9オクチルアクリジン(23)の合成>
グローブボックス中、1-オクテン(0.83g,7.4mmol,東京化成工業株式会社製)をTHF(20g)に溶解し、室温で0.5mol/Lの9-BBN(15ml,7.4mmol,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を添加した。その後、室温から50度に昇温し、1時間攪拌した。得られた反応液に、実施例1の工程2により得られた9-ブロモ-4,5-ビス((ジシクロヘキシルホスファニル)メチル)アクリジン(17)(5g,7.4mmol)、ジクロロ(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(51mg,0.07mmol,東京化成工業株式会社製)を順番に添加して70度で24時間攪拌した。得られた反応液に対して、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧濃縮を行った後、ヘキサン(30g,和光純薬品工業株式会社製)を添加した。ヘキサン溶解物と不溶物との濾別を行った。ヘキサン溶解液を再びロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮を行うと、式(23)により表される化合物が無色油状物として2.6g(3.7mmol,収率50%)得られた。なお、アクリジン骨格に隣接するオクチル基のメチレン(CH)に由来する特徴的なピークの出現(1H-NMR 化学シフトδ=3.63ppm)により、式(23)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(24)に示す。
【化30】
【化31】
【0065】
<工程2:ルテニウム錯体(25)の合成>
グローブボックス中、4,5-ビス((ジシクロヘキシルホスファニル)メチル)-9オクチルアクリジン(2.6g,3.7mmol)(23)をトルエン(20g)に溶解させ、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)塩化物(3.5g,3.7mmol,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を添加した後、70度で2時間攪拌した。得られた反応液に対して、ヘキサン(30g,富士フイルム和光純薬品株式会社製)を添加した。ヘキサン溶解物と不溶物の濾別を行い、ロータリーエバポレーターを用いてヘキサン溶解液の減圧濃縮を行うと、式(25)により表される化合物が褐色油状物として2.6g(3.0mmol,収率80%)得られた。なお、ルテニウム-ヒドリドに由来する特徴的なピークの出現(1H-NMR 化学シフトδ=-0.5ppm)により、式(25)により表される目的の化合物を合成できたことを確認した。本工程の反応を式(26)に示す。
なお、式(25)により表される化合物のHLB値は、9.473((228.81871÷483.09029)×20)である。
【0066】
【化32】
【化33】
【0067】
[実施例3]
<ルテニウム錯体(27)の合成>
実施例1の工程4において、1-オクテンを1-オクタデセンに変えたこと以外は実施例1と同様にして合成を行い、式(27)により表されるルテニウム錯体を3.0g得た。ルテニウム錯体(27)が合成できたことは1H-NMRで確認した。本工程の反応を式(28)に示す。
なお、式(27)により表される化合物のHLB値は7.343((228.81871÷623.24679)×20)である。
【0068】
【化34】
【化35】
【0069】
次に、ジアミン水溶液からの有機溶媒を用いた得られたルテニウム錯体(27)の抽出分離実験を行った。
<ルテニウム錯体(27)が溶解したヘキサメチレンジアミン水溶液からのルテニウム錯体(27)の抽出分離>
200ml試験管に水(1.55g)、ヘキサメチレンジアミン(5g)、ルテニウム錯体(27)(10mg,HLB値7.343)を添加し、30分間攪拌した。その後、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相のICP-AES測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(27)は9.9mgであった。この時、分配係数は25.923であり、ルテニウム錯体(27)の回収率は99%であった。実施例1及び3の結果より、ルテニウム錯体(21)及び(27)のようなHLB値が12.335以下の錯体は、非極性溶媒による抽出で親水性混合液から効率的に分離できることがわかった。
【0070】
[比較例1]
<ルテニウム錯体(29)が溶解したヘキサメチレンジアミン水溶液からのルテニウム錯体(29)の抽出分離>
特許文献1(米国特許第8889865号明細書)の方法で、式(29)により表されるルテニウム錯体を合成した。
200ml試験管に水(1.55g)、ヘキサメチレンジアミン(5g)、ルテニウム錯体(29)(10mg,HLB値12.336)を添加し、30分間攪拌した。その後、シクロヘキサン(25g)を加え、50度で1時間攪拌した。シクロヘキサン相及び水相のICP-AES測定を行った結果、シクロヘキサン相に溶解しているルテニウム錯体(29)は、3.8mgであった。この時、分配係数は0.1607であり、ルテニウム錯体(29)の回収率は38%であった。以上のことから、特許文献1(米国特許第8889865号明細書)に開示のルテニウム錯体(29)は親水性溶液からの抽出による分離が困難であることがわかった。
【0071】
【化36】