(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177682
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】プラーク形成抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20231207BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20231207BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/41
A61K8/49
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090479
(22)【出願日】2022-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2022年3月30日 ウェブサイトのアドレス https://web.apollon.nta.co.jp/jsps65/index.html https://web.apollon.nta.co.jp/jsps65/shoroku.html (その2) 頒布日 2022年4月15日 刊行物 第65回春季日本歯周病学会学術大会 抄録集
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 順也
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳祐
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC661
4C083AC691
4C083AC851
4C083CC41
4C083EE32
(57)【要約】
【課題】歯表面におけるプラークの形成やプラークの成熟化を抑制すること。
【解決手段】塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含む、プラーク形性抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含む、プラーク形性抑制用組成物。
【請求項2】
塩化セチルピリジニウムの含有量が、0.01~0.5質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩の含有量が、0.005~0.5質量%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラーク(歯垢)形成抑制用組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
プラーク(歯垢)は、口腔内微生物が凝集したバイオフィルムであり、う蝕や歯周病の原因となり得ると考えられている。このため、プラークコントロール、特にプラーク形成の抑制は重要である。
【0003】
大まかに言えば、次のようにしてプラークは形成される。すなわち、まず歯の表面に「ペリクル」という唾液や生理的歯肉溝浸出液由来のタンパクの薄い膜が形成され、当該ペリクルを介して連鎖球菌などの通性嫌気性菌(初期付着菌)が歯面に付着する。この初期付着菌にさまざまな口腔細菌と共凝集するフゾバクテリウム等の媒介細菌が付着し、さらに当該媒介細菌を介して嫌気性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスやトレポネーマ・デンティコーラ等の後期付着菌が付着・凝集し、プラークは成熟する。特に、後期付着菌は歯周病の原因となり、歯周組織の破壊に直接的、間接的に関係することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Dent Res 90(11):1271-1278, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のことから、歯表面におけるプラークの形成を抑制すること、特に後期付着菌が付着・凝集しプラークが成熟化するのを抑制することは、歯周病を予防する上で重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、媒介細菌であるフゾバクテリウムに着目して、検討を行った。様々な細菌と共凝集が可能な媒介細菌であるフゾバクテリウムの働きを抑制することができれば、後期付着菌が歯表面に付着・凝集することを抑制でき、ひいてはプラーク形成の成熟化を抑制することが可能となると考えられるからである。
【0007】
そこで、フゾバクテリウムを殺菌する手法について検討を進めた。しかし、通常口腔用組成物に用いられる各種殺菌剤を検討してみても、フゾバクテリウムを効率よく殺菌できる殺菌剤を見いだすことができなかった。
【0008】
本発明者らはさらに検討を進め、塩化セチルピリジニウムとN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩とを組み合わせることによって、フゾバクテリウムに対して優れた殺菌効果を示す可能性を見いだし、さらに改良を重ねた。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含む、プラーク形性抑制用組成物。
項2.
塩化セチルピリジニウムの含有量が、0.01~0.5質量%である、項1に記載の組成物。
項3.
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩の含有量が、0.005~0.5質量%である、項1又は2に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
効率よく、プラーク形成における媒介細菌であるフゾバクテリウムを殺菌する手法が提供される。これにより、プラーク形成を効率よく抑制することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】塩化セチルピリジニウム(CPC)及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩(CAE)のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図2】CPC及びCAEを含有する組成物のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【
図3】CPC及びCAEを含有する組成物のフゾバクテリウム殺菌効果検討結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、プラーク形成抑制用組成物等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0013】
本開示に包含される組成物は、塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含有する。本明細書において、当該組成物を、「本開示の組成物」と表記することがある。本開示の組成物は、プラーク形成抑制用として好適である。
【0014】
本開示の組成物における、塩化セチルピリジニウムの含有量としては、効果が奏される範囲であれば特に制限はされないが、例えば、0.01~0.5質量%程度が挙げられる。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、又は0.49質量%であってもよい。例えば、当該範囲は0.02~0.3質量%程度、又は0.03~0.1質量%程度であってもよい。
【0015】
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩は、ヤシ油脂肪酸とL-アルギニンとのエチルエステルと、ピロリドンカルボン酸との塩であり、アミノ酸系カチオン界面活性剤である。N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩は、ココイルアルギニンエチルPCAとも称される。N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩としては、例えば、味の素ヘルシーサプライ株式会社製「CAE」等を使用することができる。
【0016】
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を構成するヤシ油脂肪酸に含まれる脂肪酸としては、例えば、炭素数8の脂肪酸(より具体的には、カプリル酸)、炭素数10の脂肪酸(より具体的には、カプリン酸)、炭素数12の脂肪酸(より具体的には、ラウリン酸)、炭素数14の脂肪酸(より具体的には、ミリスチン酸)、炭素数16の脂肪酸(より具体的には、パルミチン酸)等が挙げられる。これらは、1種単独または2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。中でも、炭素数12の脂肪酸(より具体的には、ラウリン酸)及び炭素数14の脂肪酸(より具体的には、ミリスチン酸)を含むことが好ましく、炭素数12の脂肪酸(より具体的には、ラウリン酸)を含むことがより好ましい。
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を構成するヤシ油脂肪酸に含まれる脂肪酸あたり、炭素数12の脂肪酸(より具体的には、ラウリン酸)の含有量は、例えば、40~70質量%程度であってもよい。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば、45、50、55、60、又は65質量%であってもよい。例えば、当該範囲は45~65質量%程度であってもよい。
N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を構成するヤシ油脂肪酸に含まれる脂肪酸あたり、炭素数14の脂肪酸(より具体的には、ミリスチン酸)の含有量は、例えば、15~35質量%程度であってもよい。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば、20、25、又は30質量%であってもよい。例えば、当該範囲は20~30質量%程度であってもよい。
【0017】
本開示の組成物における、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩の含有量としては、効果が奏される範囲であれば特に制限はされないが、例えば、0.005~0.5質量%程度が挙げられる。なお、当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.3、0.31、32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、又は0.49質量%であってもよい。例えば、当該範囲は0.01~0.3質量%程度、又は0.02~0.1質量%程度であってもよい。
【0018】
本開示の組成物における、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩と塩化セチルピリジニウムとの含有比としては、例えば、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩10質量部に対して、塩化セチルピリジニウム1~100質量部程度が好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99質量部であってもよい。例えば、当該範囲は2~90質量部程度、又は5~50質量部程度であってもよい。
【0019】
本開示の組成物は、塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含有することにより、優れたフゾバクテリウム殺菌効果を示すことができる。これにより、優れたプラーク形成抑制効果を奏することができる。
【0020】
また、本開示の組成物は、塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を含有することにより、歯表面に対して優れた滞留性を示すことから、優れたフゾバクテリウム殺菌効果、及び/又は優れたプラーク形成抑制効果を奏することが期待される。
【0021】
このため、本開示の組成物は、フゾバクテリウム殺菌用組成物としても好ましく用いることができる。
【0022】
なお、ここでのフゾバクテリウムとしては、プラーク形成において初期付着菌と後期付着菌との媒介細菌であるフゾバクテリウム属の菌であれば特に限定はされないが、Fusobacterium nucleatum(フゾバクテリウム ヌクレアタム)が好ましく例示される。
【0023】
本開示の組成物は、口腔用組成物として特に好適に用いることができる。また、当該口腔用組成物は、フゾバクテリウム殺菌用として有用なことから、フゾバクテリウム殺菌用としても好ましく用いることができる。すなわち、本開示の組成物は、プラーク形成抑制用、又はフゾバクテリウム殺菌用の口腔用組成物として、好ましく用いることができる。なお、本開示の組成物を口腔用組成物として用いる場合、当該組成物を、「本開示の口腔用組成物」ということがある。
【0024】
本開示の口腔用組成物は、例えば、固形組成物、液体組成物でありえる。当該口腔用組成物は、例えば、医薬品、医薬部外品等として用いることができる。また、本開示の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って、例えば、軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0025】
本開示の口腔用組成物は、効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0026】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8~10、アルキル基の炭素数が13~15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10~18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N-ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して例えば、0.1~5質量%程度とすることができる。
【0027】
香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、組成物全量に対して例えば、0.001~1.5質量%程度とすることができる。
【0028】
甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、組成物全量に対して例えば0.01~1質量%程度とすることができる。
【0029】
湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0030】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0031】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。これらは、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0032】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2重量%程度であってよい。
【0033】
本開示の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0034】
基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。これらは、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0035】
また、本開示の口腔用組成物は、公知の方法または公知の方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩、並びに必要に応じてその他の成分等を適宜混合することによって調製することができる。
【0036】
本開示の口腔用組成物を適用する対象は、特に限定はされず、ヒト及び非ヒト哺乳類が好ましく挙げられる。非ヒト哺乳類としては、家畜やペットなどが好ましく、より具体的には例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル等が挙げられる。また、本開示の口腔用組成物は、上記の通り、塩化セチルピリジニウム及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩を組み合わせて含有するために媒介細菌たるフゾバクテリウムを効率よく殺菌できることから、プラークが形成されていないか、若しくは形成途中(後期付着菌が付着していない)の対象の口腔に適用するために、特に適しているということができる。
【0037】
なお、上述した本開示の口腔用組成物に関する記載は、口腔用組成物として用いられない本開示の組成物(例えば義歯洗浄用として使用される場合が挙げられる)についても、そのまま当てはまり得る。
【0038】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0039】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0040】
本開示の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。また、各表に記載される各成分の配合量値も特に断らない限り「質量%」を示す。
【0041】
実験例1:各種殺菌剤液のフゾバクテリウムに対する殺菌効果の検討
塩化セチルピリジニウム(CPC)及びN-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩(CAE)を、各成分が各濃度になるよう水に溶解させ、殺菌剤液として用いた。なお、CAEとしては、炭素数12の脂肪酸を55%程度、及び炭素数が14の脂肪酸を25%程度含むCAEを用いた。
なお、当該殺菌剤液の塩化アルキルピリジニウム濃度(%)はw/v%であるが、溶媒が水であること、及び濃度が比較的低いことから、質量%(w/w%)とほとんど数値としては変わらず、近似することができる。
【0042】
供試菌としては、Fusobacterium nucleatum ssp. nucleatum ATCC23726を用いた。
【0043】
供試菌をGAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)10mlにそれぞれ植菌し、37℃で2日間嫌気培養した。当該培養液を供試菌液(約1×109CFU/ml、及び1×108CFU/mlに調整)として用いた。
【0044】
殺菌剤液200μlに供試菌液200μlを混合した。混合から30秒、又は60秒後に当該混合液100μlを採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に大豆レシチン、Tween80をそれぞれ終濃度0.07%、0.5%になるように添加した薬剤不活化PBS900μlを加え(混合液を10倍希釈)、殺菌剤の殺菌作用を不活化した。また、薬剤不活化PBSにより混合液を段階希釈し、前記混合液を101~107倍まで希釈した(段階混合液希釈液)。
【0045】
CDC嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に、調製した段階混合液希釈液をそれぞれ100μlずつ塗抹し、37℃で3日間嫌気培養し、生菌数をカウントした。
【0046】
結果を
図1に示す。なお、
図1は、Log(生菌数)CFU/mlを縦軸としたグラフであるが、当該値は2が検出限界である。また
図1中、各棒グラフは、各殺菌剤液について、それぞれ左から、1×10
9CFU/mlの供試菌体を殺菌剤液と混合し60秒後に採取したもの、1×10
8CFU/mlの供試菌体を殺菌剤液と混合し30秒後に採取したもの、1×10
8CFU/mlの供試菌体を殺菌剤液と混合し60秒後に採取したものの結果を示す。また、
図1におけるCPC、及びCAEの濃度は、殺菌剤液として調製した当該成分の濃度を示す。
【0047】
図1に示すとおり、CPCとCAEを組み合わせることによって、より殺菌効果が高まることが確認された。
【0048】
実験例2:各種リンス製剤のフゾバクテリウムに対する殺菌効果の検討
0.05%CPC、及び0.01%又は0.02%CAEを含み、さらに、水、溶剤(グリセリン)に香料、防腐剤、及び可溶化剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)等を混合して、リンス製剤を調製した。なお、CAEとしては、炭素数12の脂肪酸を55%程度、及び炭素数が14の脂肪酸を25%程度含むCAEを用いた。また、有効成分としてCPC0.07%を含む市販品、及び有効成分として精油成分(ユーカリプトール、チモール、サリチル酸メチル、メントール等)を含む市販品についても同様に試験を行った。
【0049】
供試菌としては、Fusobacterium nucleatum ssp. nucleatum ATCC23726(菌株1)及びFusobacterium nucleatum ssp. nucleatum ATCC25586(菌株2)を用いた。
【0050】
供試菌をGAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)10mlにそれぞれ植菌し、37℃で2日間嫌気培養した。当該培養液を供試菌液(約1×109CFU/mlに調整)として用いた。
【0051】
リンス製剤200μlに供試菌液200μlを混合した。混合から30秒後に当該混合液100μlを採取し、薬剤不活化PBS900μlを加え(混合液を10倍希釈)、リンス製剤の殺菌作用を不活化した。また、薬剤不活化PBSにより混合液を段階希釈し、前記混合液を101~107倍まで希釈した(段階混合液希釈液)。
【0052】
CDC嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地に、調製した段階混合液希釈液をそれぞれ100μlずつ塗抹し、37℃で3日間嫌気培養し、生菌数をカウントした。
【0053】
結果を
図2に示す。なお、
図2は、Log(生菌数)CFU/mlを縦軸としたグラフであるが、当該値は2が検出限界である。また、
図2におけるCPC、及びCAEの濃度は、リンス製剤として調製した当該成分の濃度を示す。
【0054】
図2に示すとおり、有効成分としてCPC0.07%を含む市販品では、殺菌効果が確認されなかったのに対して、CPCとCAEを組み合わせることによって、優れた殺菌効果が奏されることが確認された。
【0055】
実験例3:各種リンス製剤の歯への滞留性とフゾバクテリウムに対する殺菌効果の検討
歯モデルとして、ハイドロキシアパタイト(HA)粉末(Bio-Gel HTP Hydroxyaptite, cat♯130-0420)50mgを1.5ml容エッペンチューブに秤量し、オートクレーブにて滅菌した。滅菌後、ヒト滅菌安静時唾液を0.5ml添加し、マイクロチューブローテーターに固定後、室温、30分撹拌振とうした(ペリクル形成)。遠心(15,000rpm、室温、5min)し、上清を除去した。得られたHAペレットに各種リンス製剤をそれぞれ1ml添加し、同ローテーターに固定後、室温、5分撹拌振とうした。遠心(同条件)し、上清を除去し、水1mlを添加し、ボルテックスミキサーで30秒間混合した。遠心(同条件)し、上清を除去し、あらかじめ前培養したF. nucleatum菌液(GAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)、2日間、嫌気培養、約1×109CFU/ml)を0.5ml入れて、同ローテーターに固定後、室温、5分撹拌振とうした(好気条件)。5分後、すみやかに100μLを抜き取り、薬剤不活化PBS900μlを加え、10倍希釈の段階希釈系列を作製した。
【0056】
CDC嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地に希釈液を100μLずつ塗抹し、3日間以上、37℃にて嫌気培養し、生菌数をカウントした。
【0057】
なお、リンス製剤としては、以下の4種を用いた。
0.05%CPC、及び0.04%CAE含有リンス製剤(実施例2と同様の方法により調製)
精油含有市販品(実験例2で用いたものと同じ)
イソプロピルメチルフェノール(IPMP)含有市販品
水(対照)
【0058】
結果を
図3に示す。なお、
図3は、Log(生菌数)CFU/mlを縦軸としたグラフであるが、当該値は2が検出限界である。また、
図3におけるCPC、及びCAEの濃度は、リンス製剤として調製した当該成分の濃度を示す。
【0059】
図3に示すとおり、CPCとCAEを組み合わせることによって、優れた殺菌効果が奏されることが確認された。一方、精油含有市販品、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)含有市販品については、殺菌効果が確認されず、歯表面への滞留性が乏しいことが分かった。