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特開2023-177686土壌散布用組成物および作物の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177686
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】土壌散布用組成物および作物の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
A01G13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090484
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(71)【出願人】
【識別番号】597089196
【氏名又は名称】三ヶ日町農業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田和 貴純
(72)【発明者】
【氏名】林 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】難波 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 茂和
(72)【発明者】
【氏名】平井 実季
(72)【発明者】
【氏名】石川 功
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024DB10
2B024DC10
(57)【要約】
【課題】農業用分野等に用いられる新規な土壌散布用組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る土壌散布用組成物は、20℃で固体の生分解性物質と、セルロース繊維を、水中に分散した状態で含む。生分解性物質としては、例えば、融点30℃以上100℃以下の固体油や、生分解性樹脂が挙げられる。固体油としては、例えば、炭化水素油、ワックスエステル、脂肪などが挙げられる。実施形態に係る作物の生産方法は、該土壌散布用組成物を作物周辺の土壌表面に散布する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で固体である生分解性物質と、セルロース繊維を、水中に分散した状態で含む、土壌散布用組成物。
【請求項2】
前記生分解性物質が、融点30℃以上100℃以下の固体油、および、生分解性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の土壌散布用組成物。
【請求項3】
前記固体油が、炭化水素油、ワックスエステルおよび脂肪からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の土壌散布用組成物。
【請求項4】
前記セルロース繊維が、数平均繊維径が100nm以下でありかつアニオン性基を有するセルロースナノファイバーである、請求項1に記載の土壌散布用組成物。
【請求項5】
前記セルロース繊維の含有量が前記生分解性物質100質量部に対して0.1~10質量部である、請求項1に記載の土壌散布用組成物。
【請求項6】
作物周辺の土壌表面に散布して用いられる、請求項1に記載の土壌散布用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の土壌散布用組成物を作物周辺の土壌表面に散布する工程を含む、作物の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌散布用組成物、および、それを用いた作物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば農業分野において雨水等の土壌への浸透を抑制するために、土壌の表面をマルチシートで覆うことがある。マルチシート等の農業用シートに関する技術として、特許文献1には、パルプを主体とする紙基材と、該紙基材に積層した塗工層とを備え、該塗工層としてセルロースナノファイバーを含む層とポリビニルアルコールを含む層を設けた農業用シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-000016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、土壌表面をマルチシートで覆う作業は重労働であることから、広く普及していないのが実情である。そこで、本発明者らは、作業負荷を軽減して普及率を向上するために、マルチシート等の農業用シートの代替技術として、液状の組成物を土壌表面に散布することを考えた。
【0005】
本発明の実施形態は、農業分野等に用いられる新規な土壌散布用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 20℃で固体である生分解性物質と、セルロース繊維を、水中に分散した状態で含む、土壌散布用組成物。
[2] 前記生分解性物質が、融点30℃以上100℃以下の固体油、および、生分解性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の土壌散布用組成物。
[3] 前記固体油が、炭化水素油、ワックスエステルおよび脂肪からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[2]に記載の土壌散布用組成物。
[4] 前記セルロース繊維が、数平均繊維径が100nm以下でありかつアニオン性基を有するセルロースナノファイバーである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の土壌散布用組成物。
[5] 前記セルロース繊維の含有量が前記生分解性物質100質量部に対して0.1~10質量部である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の土壌散布用組成物。
[6] 作物周辺の土壌表面に散布して用いられる、[1]~[5]のいずれか1項に記載の土壌散布用組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の土壌散布用組成物を作物周辺の土壌表面に散布する工程を含む、作物の生産方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態に係る土壌散布用組成物であると、例えば農業用シートの代替技術として使用可能であり、土壌表面を農業用シートで覆う場合に比べて作業負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る土壌散布用組成物は、20℃で固体の生分解性物質(A)およびセルロース繊維(B)を、水中に分散した状態で含む。
【0009】
[生分解性物質(A)]
生分解性物質(A)は、水中に分散した状態で含まれるものであり、疎水性物質である。ここで、疎水性物質とは、水に溶けない物質をいう。疎水性物質であるため、土壌に散布された後、セルロース繊維(B)とともに土壌表面に固体として保持され、マルチシート等の農業用シートの代替として、例えば雨水等の土壌への浸透抑制効果を発揮する。
【0010】
生分解性物質(A)は、微生物によって分解される物質である。ここで、セルロース繊維(B)は生分解性物質(A)には含まれない。本実施形態に係る土壌散布用組成物は、生分解性物質(A)を含むことにより、土壌に散布され、その目的を達した後に土壌中の微生物により分解されるので、除去作業を不要とすることができ、農業用シートを用いる場合に比べて作業負荷を軽減することができる。
【0011】
生分解性物質(A)は、20℃で固体である。このように常温で固体のものを用いることにより、土壌への散布後に固体として土壌表面に保持されやすい。生分解性物質(A)は、より好ましくは30℃で固体のものであり、さらに好ましくは50℃で固体のものである。ここで、固体には後述するワセリンのような半固体も含まれる。
【0012】
生分解性物質(A)としては、一実施形態として、固体油(A1)および/または生分解性樹脂(A2)を用いることが好ましい。
【0013】
固体油(A1)としては、融点が30℃以上100℃以下の固体油(A1)を用いることが好ましい。融点が30℃以上であることにより、散布後に固体として維持されやすい。また、融点が100℃以下であることにより、土壌散布用組成物の調製時に固体油(A1)を液体にして水中に分散させやすい。固体油(A1)の融点は、50℃以上であることが好ましく、また、90℃以下であることが好ましい。ここで、固体油(A1)の融点は、JIS K0064:1992に準拠して測定される。
【0014】
固体油(A1)としては、例えば、炭化水素油、ワックスエステル、脂肪などが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0015】
固体油(A1)としての炭化水素油は、炭化水素を主成分とする固形状の油であり、例えば、ワセリン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油系ワックスが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0016】
ワックスエステル(蝋)は、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル(脂肪酸エステル)を主成分とするものであり、エステル系ワックスとも称される。脂肪酸エステルとしては、炭素数10以上の長鎖脂肪酸と炭素数8以上の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。ワックスエステルの具体例としては、カルナウバロウ、カンデリラロウ、ミツロウ、コメヌカロウ、セラックロウなどが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0017】
脂肪は、脂肪酸とグリセリンとのエステルである油脂のうち、常温で固体のものである。脂肪としては、牛脂、豚脂などの動物性脂肪、パーム油、カカオ脂などの植物性脂肪が挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0018】
生分解性樹脂(A2)としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジピン酸(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)などが挙げられ、これらのエマルションを用いることが好ましい。これらの生分解性樹脂はいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。生分解性樹脂(A2)の融点は、特に限定されず、例えば100℃以上でもよく、150℃以上でもよく、また300℃以下でもよい。ここで、生分解性樹脂(A2)の融点は、DSCで測定される。DSCでの測定は、試料量2.5mg、昇温速度2℃/minにて行い、ベースラインと融解ピークの最大傾斜線の外挿交差点を融点として求める。
【0019】
[セルロース繊維(B)]
セルロース繊維(B)としては、数平均繊維径が500nm以上であるμmオーダーのセルロース繊維を用いてもよいが、好ましくは数平均繊維径が500nm以下であるセルロースナノファイバーを用いることである。
【0020】
セルロース繊維(B)として、より好ましくは、数平均繊維径が100nm以下であるセルロースナノファイバー(CNF)が用いられる。かかる微細繊維状のセルロース繊維(B)を添加することにより、土壌散布用組成物にチクソトロピー性を付与することができる。すなわち、散布前は当該組成物を高粘度の状態として、生分解性物質(A)の分散状態を安定化させつつ、散布時には噴霧器でのせん断力によって低粘度化して細かな噴霧を実現し、土壌表面に均一に分散させやすいと考えられる。また、散布後には高粘度化して当該組成物が土壌中に浸透しにくく、生分解性物質(A)を土壌表面に保持しやすいと考えられる。
【0021】
セルロース繊維(B)の数平均繊維径は、50nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以下であり、更に好ましくは10nm以下である。数平均繊維径の下限は特に限定されないが、セルロース繊維の基本単位であるセルロースシングルナノファイバーの繊維径が2nm程度であるため、セルロース繊維(B)の数平均繊維径は2nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上である。
【0022】
セルロース繊維(B)の数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。固形分率で0.05~0.1質量%のセルロース繊維の水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
【0023】
セルロース繊維(B)として、好ましくはアニオン性基を有するアニオン変性セルロースナノファイバーが用いられる。アニオン性基を有することにより、チクソトロピー性を増大させることができる。
【0024】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらのアニオン性基は、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとアニオン性基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。アニオン性基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。
【0025】
上記アニオン性基としてのカルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0026】
セルロース繊維(B)がアニオン性基を有する場合、アニオン性基の量は、特に限定されず、例えば、セルロース繊維(B)の乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gでもよく、1.0~2.5mmol/gでもよい。アニオン性基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製したセルロース繊維含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン性基についても公知の方法で測定すればよい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
アニオン性基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース繊維質量(g)〕
【0027】
一実施形態において、セルロース繊維(B)としては、アニオン性基としてカルボキシ基を有することが好ましい。カルボキシ基を含有するセルロース繊維としては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0028】
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化され微細化されたセルロース繊維は、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0029】
セルロース繊維(B)を解繊処理して得る場合、解繊処理は、アニオン性基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、セルロースナノファイバーの水分散液を得ることができる。
【0030】
セルロース繊維(B)は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、セルロース繊維(B)は水不溶性を持ち、水中において繊維形態を保持することができる。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0031】
セルロース繊維(B)の平均アスペクト比は、特に限定されず、例えば30以上でもよく、50以上でもよく、100以上でもよい。平均アスペクト比は、また、700以下でもよく、500以下でもよい。平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像からセルロース繊維(B)の数平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。なお、枝分かれしている繊維については、その繊維の最も長い部分の長さを繊維長とする。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、数平均繊維長とする。これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
【0032】
[土壌散布用組成物]
本実施形態に係る土壌散布用組成物は、上記の生分解性物質(A)とセルロース繊維(B)を水中に分散した状態で含む水分散液であり、従って、生分解性物質(A)、セルロース繊維(B)、および水(C)を含む。
【0033】
生分解性物質(A)とセルロース繊維(B)との含有割合は特に限定されないが、生分解性物質(A)100質量部に対するセルロース繊維(B)の含有量が0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0034】
土壌散布用組成物における生分解性物質(A)の含有量は、特に限定されず、土壌への散布時の濃度で1~50質量%でもよく、2~30質量%でもよく、5~20質量%でもよい。土壌散布用組成物は、ユーザーにおいて水で希釈して使用に供される原液タイプであってもよく、その場合の土壌散布用組成物における生分解性物質(A)の含有量は、特に限定されず、例えば5~50質量%でもよく、7~40質量%でもよく、10~35質量%でもよい。
【0035】
土壌散布用組成物におけるセルロース繊維(B)の含有量は、特に限定されず、土壌への散布時の濃度で0.01~3質量%でもよく、0.05~2質量%でもよく、0.1~1質量%でもよい。また、原液タイプの場合、土壌散布用組成物におけるセルロース繊維(B)の含有量は、例えば0.05~10質量%でもよく、0.1~5質量%でもよく、0.2~2質量%でもよい。
【0036】
土壌散布用組成物における水(C)の含有量は、特に限定されず、土壌への散布時の濃度で45~98.99質量%でもよく、65~97.95質量%でもよく、75~94.9質量%でもよい。また、原液タイプの場合、土壌散布用組成物におけるセルロース繊維(B)の含有量は、例えば45~94.95質量%でもよく、55~92.9質量%でもよく、60~89.8質量%でもよい。
【0037】
土壌散布用組成物において、生分解性物質(A)は水中に分散した状態で含まれており、生分解性物質(A)を乳化分散させるために、土壌散布用組成物は乳化剤(D)を含有してもよい。
【0038】
乳化剤(D)としては、生分解性物質(A)を水中に分散させることができれば特に限定されず、例えば、次のような乳化剤が挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
・グリセリン脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリンなど)、
・ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸ポリグリセリル-2(モノオレイン酸ジグリセリル)、オレイン酸ポリグリセリル-4(モノオレイン酸テトラグリセリル)、トリオレイン酸デカグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル、ペンタステアリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ジグリセリルなど)、
・ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、ソルビタンセスキオレイン酸エステル、トリオレイン酸ソルビタンなど)、
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなど)、
・ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、モノオレイン酸ポリエチレングリコールなど)、
・プロピレングリコール脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコールなど)、
・ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル(例えば、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットなど)、
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10など)、
・ショ糖脂肪酸エステル(例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステルなど)。
【0039】
乳化剤(D)の含有量は、特に限定されず、例えば、生分解性物質(A)100質量部に対して0.05~40質量部でもよく、1~35質量部でもよく、10~30質量部でもよい。
【0040】
土壌散布用組成物には、生分解性物質(A)、セルロース繊維(B)、水(C)、および任意成分である乳化剤(D)の他に、他の成分が配合されてもよい。他の成分としては、例えば、石灰質資材(例えば、生石灰、消石灰、炭酸カルシウムなど)、シリカなどが挙げられる。
【0041】
土壌散布用組成物は、土壌に散布して用いられるものであり、作物周辺の土壌表面に散布して用いられることが好ましい。好ましくは、農業用として農地(果樹園を含む)における作物周辺の土壌表面に散布することである。散布された土壌散布用組成物は土壌表面にとどまり、水(C)が蒸発して、セルロース繊維(B)とともに生分解性物質(A)が土壌表面に保持される。これにより、マルチシート等の農業用シートの代替技術として、例えば雨水等の水の土壌への浸透を抑制することができる。
【0042】
なお、散布後の土壌表面において、生分解性物質(A)およびセルロース繊維(B)は、土壌表面の全体を覆う膜状に形成されてもよいが、必ずしも膜状に形成されていなくてもよい。例えば、土壌表面に点状に分散した生分解性物質(A)の疎水性(撥水性)により、土壌中への水の浸透を抑制してもよく、土壌表面の傾斜等によって外部に排水することができる。
【0043】
また、土壌散布用組成物に含まれる生分解性物質(A)およびセルロース繊維(B)は、自然界において分解されるため、必要な時期だけ雨水等の土壌浸透を抑制し、その後は自然に分解することができる。そのため、散布した土壌散布用組成物を除去する作業が不要となる。
【0044】
また、土壌散布用組成物を散布することにより雨水等の土壌浸透を抑制することができるので、マルチシートを土壌表面に敷設する場合に比べて、作業負荷を軽減することができる。
【0045】
一実施形態に係る作物の生産方法は、上記土壌散布用組成物を作物周辺の土壌表面に散布する工程を含む。
【0046】
土壌散布用組成物の散布方法としては、特に限定されないが、水分散液である土壌散布用組成物を霧状にして吹き付けることができる噴霧器(スプレー)を用いることが好ましい。作物の株元を含む周辺全体に土壌散布用組成物を散布することにより、作物に対して効果的に水分ストレスを与えることができる。
【0047】
土壌散布用組成物の散布量としては、特に限定されず、例えば、土壌表面1mあたりに付与する生分解性物質(A)の質量として、10~3000g/mでもよく、50~2000g/mでもよく、100~1500g/mでもよい。
【0048】
生産する作物としては、例えばマルチ栽培を行っている野菜や果物などの各種作物が挙げられ、特に限定されない。好ましくは、降雨による土壌浸透や土壌浸食等を抑制することを目的してマルチ栽培が行われている作物が挙げられる。より好ましくは、雨水等の土壌浸透を抑制すること(水分ストレス)で品質向上等の効果が得られる種々の作物が挙げられる。例えば、ミカン(ウンシュウミカン)、オレンジ、中晩生カンキツなどの柑橘類等が挙げられる。
【0049】
散布時期は、作物の種類により異なる。例えば、柑橘類では、果実が肥大する時期に水分ストレス(土壌乾燥)を与えるために、果実が肥大する時期の直前に散布することが好ましい。より詳細には、ミカン栽培では、果実が肥大する夏期に散布することが好ましく、水分ストレスを与えることで果実の糖度が上昇して、高品質化が図られる。
【0050】
なお、土壌散布用組成物の散布以外の工程については、通常の作物の生産方法を適用することができ、特に限定されない。
【実施例0051】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[生分解性物質]
・ワセリン:ナカライテスク株式会社製「ワセリン」(融点:55℃)
・カルナウバロウ:株式会社自然化粧品研究所製「精製カルナバワックス」(融点:82℃)
・ポリ乳酸エマルション:ミヨシ油脂株式会社製「ランディPL-3000」(融点:150℃、固形分:40質量%)
【0053】
[セルロース繊維1]
針葉樹クラフトパルプ2.0gに水150mL、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)0.025gを加え、十分撹拌した後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が6.5mmol/gとなるように加え、反応を開始した。さらに反応中のpHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、120分間反応させた。反応後、0.1N塩酸を加えてpH=2.0とし、吸引濾過により固液分離をした後、固形分に純水を加え、固形分濃度1質量%のスラリーを調製した。その後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液によりpHを10に調整し、水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和し、ろ過と水洗を繰り返して精製した。得られた精製物に純水を加え、固形分濃度2質量%のスラリーを調製した後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイダイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、2質量%のセルロース繊維1の水分散液を得た。
【0054】
得られたセルロース繊維1は、数平均繊維径が3nm、平均アスペクト比が250、カルボキシ基量が1.83mmol/gであり、広角X線回折像測定によりセルロースI型結晶構造を有することを確認した。
【0055】
[セルロース繊維2]
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)100gを水4900gに分散させ、パルプ濃度2質量%の分散液を調製した。この分散液をセレンディピターMKCA6-3(増幸産業社製)で30回処理し、2質量%のセルロース繊維2の水分散液を得た。
【0056】
得られたセルロース繊維2は、数平均繊維径が250nm、平均アスペクト比が56、カルボキシ基量が0.1mmol/g以下であり、広角X線回折像測定によりセルロースI型結晶構造を有することを確認した。
【0057】
[実施例1]
70℃にてワセリンを溶解し、土壌散布用組成物の全体に対して2質量%に相当する量の乳化剤(太陽化学株式会社製「サンソフトNo.61NN」)を添加してディスパーで撹拌した。撹拌しながら、ここに70℃に加温した純水を滴下し、水を全量添加した。十分に撹拌した後、室温まで冷却した。これと2質量%のセルロース繊維1の水分散液とをホモジナイザーで混合することによりワセリンを15質量%およびセルロース繊維1を0.4質量%含有する土壌散布用組成物の原液を作製し、当該原液を実施例1の土壌散布用組成物とした。
【0058】
[比較例1]
70℃にてワセリンを溶解し、土壌散布用組成物の全体に対して2質量%に相当する量の乳化剤(太陽化学株式会社製「サンソフトNo.61NN」)を添加してディスパーで撹拌した。撹拌しながら、ここに70℃に加温した純水を滴下し、水を全量添加した。十分に撹拌した後、室温まで冷却することによりワセリンを15質量%含む比較例1の土壌散布用組成物を調製した。
【0059】
[比較例2]
上記の2質量%のセルロース繊維1の水分散液を水で希釈することにより、0.4質量%のセルロース繊維1を含む比較例2の土壌散布用組成物を調製した。
【0060】
実施例1および比較例1,2の土壌散布用組成物について、低せん断時における粘度と高せん断時における粘度を測定してTI値を求めるとともに、土壌への浸透抑制効果試験を行った。なお、浸透抑制効果試験では、コントロール(比較例3)として、土壌散布用組成物を散布していないものについても行った。これらの測定・試験方法は以下のとおりである。
【0061】
[TI値]
試料を純水で2倍に希釈し、ホモジナイザーで混合した。混合液を100mLスクリュー管に移し、試料調製から24時間後に、BM型粘度計を用いて0.6rpm及び60rpmにて3分間測定して粘度を測定した。(0.6rpmにおける粘度)/(60rpmにおける粘度)、によって算出した数値をTI値とする。
【0062】
[浸透抑制効果試験]
1/5000aのワグネルポットに土壌(赤黄色土、粒径2mm以下)をすり切り一杯に充填した。充填した土壌の表面全体に、加圧式ハンドスプレーを用いて土壌散布用組成物を、均一に散布した。土壌散布用組成物の散布量は1ポットあたり80g(4kg/m)とした。散布後1週間乾燥させた後、ワグネルポットに約10%の傾斜をつけ、土壌表面に降雨を見立てた灌水(時間あたりのかん水量600mL、降雨量30mm相当)を20回(総雨量600mm相当)行った。その際、土壌表面で撥水し、ワグネルポットの側面を伝って外側にこぼれ落ちる水を、表面流去水としてプラスチック製トレーで回収した。また、土壌表面から土壌中に浸透した水を、土壌浸透水としてワグネルポット底部から回収した。そして、灌水に用いた水の量全体に対する表面流去水の量の割合を浸透抑制効果(%)として算出した。
【0063】
結果は下記表1に示すとおりである。ワセリンとともにセルロース繊維1を含む実施例1の土壌散布用組成物であると、セルロース繊維1を含まない比較例1に対してTI値が高く、チクソトロピー性に優れていた。
【0064】
また、浸透抑制効果試験において、ワセリンとともにセルロース繊維1を含む実施例1では、コントロールである比較例3およびセルロース繊維1のみを含む比較例2に対してはもちろんのこと、ワセリンを含むもののセルロース繊維1を含んでいない比較例1に対しても顕著に高い浸透抑制効果が認められた。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例2]
実施例1における土壌散布用組成物の原液を水で25質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ワセリンを3.75質量%およびセルロース繊維1を0.1質量%含む実施例2の土壌散布用組成物を調製した。実施例2の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は1ポットあたり23g(1.1kg/m、ワセリンとしての散布量41g/m)とした。その結果、浸透抑制効果は88%であった。
【0067】
[実施例3]
実施例1における土壌散布用組成物の原液を水で50質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ワセリンを7.5質量%およびセルロース繊維1を0.2質量%含む実施例3の土壌散布用組成物を調製した。実施例3の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり30g(1.5kg/m、ワセリンとしての散布量113g/m)と50g(2.5kg/m、ワセリンとしての散布量188g/m)の2水準とした。結果は、下記表2に示すとおりであった。
【0068】
【表2】
【0069】
[実施例4]
実施例1における土壌散布用組成物の原液を水で75質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ワセリンを11.25質量%およびセルロース繊維1を0.3質量%含む実施例4の土壌散布用組成物を調製した。実施例4の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり45g(2.3kg/m、ワセリンとしての散布量259g/m)と68g(3.4kg/m、ワセリンとしての散布量383g/m)の2水準とした。結果は、下記表3に示すとおりであった。
【0070】
【表3】
【0071】
[実施例5]
実施例1における土壌散布用組成物の原液、すなわちワセリンを15質量%およびセルロース繊維1を0.4質量%含有する水分散液をそのまま実施例5の土壌散布用組成物として用いた。実施例5の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり30g(1.5kg/m、ワセリンとしての散布量225g/m)と60g(3.0kg/m、ワセリンとしての散布量450g/m)と90g(4.5kg/m、ワセリンとしての散布量675g/m)の3水準とした。結果は、下記表4に示すとおりであった。
【0072】
【表4】
【0073】
[実施例6]
ポリ乳酸エマルション(ランディPL-3000)を撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7に調整し、2質量%のセルロース繊維1の水分散液とホモジナイザーで混合することによりポリ乳酸を30質量%およびセルロース繊維1を0.4質量%含有する土壌散布用組成物の原液を作製した。
【0074】
[比較例4]
ポリ乳酸エマルション(ランディPL-3000)と純水とをホモジナイザーで混合することによりポリ乳酸を30質量%含む比較例4の土壌散布用組成物を調製した。
【0075】
実施例6および比較例4の土壌散布用組成物について、低せん断時における粘度と高せん断時における粘度を測定してTI値を求めるとともに、土壌への浸透抑制効果試験を行った。これらの測定・試験方法は上記のとおりである。なお、浸透抑制効果試験では、コントロール(比較例5)として、土壌散布用組成物を散布していないものについても行った。
【0076】
結果は下記表5に示すとおりである。ポリ乳酸とともにセルロース繊維1を含む実施例6の土壌散布用組成物であると、セルロース繊維1を含まない比較例4に対してTI値が高く、チクソトロピー性に優れていた。また、浸透抑制効果試験において、ポリ乳酸とともにセルロース繊維1を含む実施例6では、コントロールである比較例5に対してはもちろんのこと、ポリ乳酸を含むもののセルロース繊維1を含んでいない比較例4に対しても顕著に高い浸透抑制効果が認められた。
【0077】
【表5】
【0078】
[実施例7]
実施例6における土壌散布用組成物の原液を水で25質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ポリ乳酸を7.5質量%およびセルロース繊維1を0.1質量%含む実施例7の土壌散布用組成物を調製した。実施例7の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は1ポットあたり26g(1.3kg/m、ポリ乳酸としての散布量98g/m)とした。その結果、浸透抑制効果は65%であった。
【0079】
[実施例8]
実施例6における土壌散布用組成物の原液を水で50質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ポリ乳酸を15質量%およびセルロース繊維1を0.2質量%含む実施例8の土壌散布用組成物を調製した。実施例8の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり30g(1.5kg/m、ポリ乳酸としての散布量225g/m)と45g(2.3kg/m、ポリ乳酸としての散布量345g/m)の2水準とした。結果は、下記表6に示すとおりであった。
【0080】
【表6】
【0081】
[実施例9]
実施例6における土壌散布用組成物の原液を水で75質量%に希釈し、ホモジナイザーを用いて均一化して、ポリ乳酸を22.5質量%およびセルロース繊維1を0.3質量%含む実施例9の土壌散布用組成物を調製した。実施例9の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり44g(2.2kg/m、ポリ乳酸としての散布量495g/m)と50g(2.5kg/m、ポリ乳酸としての散布量563g/m)と66g(3.3kg/m、ポリ乳酸としての散布量743g/m)の3水準とした。結果は、下記表7に示すとおりであった。
【0082】
【表7】
【0083】
[実施例10]
実施例6における土壌散布用組成物の原液、すなわちポリ乳酸を30質量%およびセルロース繊維1を0.4質量%含有する水分散液をそのまま実施例10の土壌散布用組成物として用いた。実施例10の土壌散布用組成物について浸透抑制効果試験を実施した。浸透抑制効果試験の方法は上記のとおりである。但し、土壌散布用組成物の散布量は、1ポットあたり31g(1.6kg/m、ポリ乳酸としての散布量480g/m)と59g(3.0kg/m、ポリ乳酸としての散布量900g/m)と91g(4.5kg/m、ポリ乳酸としての散布量1350g/m)の3水準とした。結果は、下記表8に示すとおりであった。
【0084】
【表8】
【0085】
上記の通り、ワセリンとともにセルロース繊維1を含む土壌散布用組成物や、ポリ乳酸とともにセルロース繊維1を含む土壌散布用組成物であると、浸透抑制効果試験における効果が高かった。さらに、ワセリンまたはポリ乳酸としての各散布量における浸透抑制効果をみると、ワセリンとともにセルロース繊維1を含む土壌散布用組成物の方が、少量の散布で高い浸透抑制効果が得られた。
【0086】
[実施例11]
ポリ乳酸エマルション(ランディPL-3000)を撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7に調整し、2質量%のセルロース繊維2の水分散液とホモジナイザーで混合することによりポリ乳酸を30質量%およびセルロース繊維2を0.4質量%含有する土壌散布用組成物を作製した。
【0087】
実施例11の土壌散布用組成物、および上記比較例4の土壌散布用組成物について、低せん断時における粘度と高せん断時における粘度を測定してTI値を求めるとともに、土壌への浸透抑制効果試験を行った。これらの測定・試験方法は上記のとおりである。なお、浸透抑制効果試験では、コントロールとして、上記の比較例5の土壌散布用組成物を散布していないものについても行った。
【0088】
結果は下記表9に示すとおりである。ポリ乳酸とともにセルロース繊維2を含む実施例11の土壌散布用組成物であると、セルロース繊維2を含まない比較例4に対してTI値が高く、チクソトロピー性に優れていた。また、浸透抑制効果試験において、ポリ乳酸とともにセルロース繊維2を含む実施例11では、コントロールである比較例5に対してはもちろんのこと、ポリ乳酸を含むもののセルロース繊維2を含んでいない比較例4に対しても顕著に高い浸透抑制効果が認められた。
【0089】
【表9】
【0090】
[実施例12]
95℃にてカルナウバロウを溶解し、土壌散布用組成物全体に対して3質量%に相当する量の乳化剤(第一工業製薬株式会社製「DKS NL-180」)を添加してディスパーで撹拌した。撹拌しながら、ここに95℃に加温した純水を滴下し、水を全量添加した。十分に撹拌した後、室温まで冷却した。これと2質量%のセルロース繊維1の水分散液とをホモジナイザーで混合することによりカルナウバロウを16質量%およびセルロース繊維1を0.4質量%含有する実施例12の土壌散布用組成物を調製した。
【0091】
[比較例6]
95℃にてカルナウバロウを溶解し、土壌散布用組成物全体に対して3質量%に相当する量の乳化剤(第一工業製薬株式会社製「DKS NL-180」)を添加してディスパーで撹拌した。撹拌しながら、ここに95℃に加温した純水を滴下し、水を全量添加した。十分に撹拌した後、室温まで冷却することによりカルナウバロウを16質量%含む比較例6の土壌散布用組成物を調製した。
【0092】
実施例12および比較例6の土壌散布用組成物について、低せん断時における粘度と高せん断時における粘度を測定してTI値を求めるとともに、ろ紙による浸透抑制効果試験を行った。その試験方法は以下の通りである。
【0093】
直径185mmのろ紙に10gの土壌散布用組成物を塗り、乾燥させた。土壌散布用組成物を塗ったろ紙を漏斗に取り付け、30gの純水を入れ、1時間後に漏斗から落ちた水の量を測定した。そして、30gに対する漏斗内に残った水の量の割合を浸透抑制効果(%)として評価した。
【0094】
結果は下記表10に示すとおりである。カルナウバロウとともにセルロース繊維1を含む実施例12の土壌散布用組成物であると、セルロース繊維1を含まない比較例6に対してTI値が高く、チクソトロピー性に優れていた。また、浸透抑制効果試験において、ポリ乳酸とともにセルロース繊維1を含む実施例12では、コントロールである比較例7に対してはもちろんのこと、カルナウバロウを含むもののセルロース繊維1を含んでいない比較例6に対しても顕著に高い浸透抑制効果が認められた。
【0095】
【表10】
【0096】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0097】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。