(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177692
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマー組成物、成形体および燃料ホース
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20231207BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090491
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 智士
(72)【発明者】
【氏名】川崎 一良
(72)【発明者】
【氏名】竹村 光平
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002DA026
4J002EJ027
4J002EJ037
4J002EK007
4J002EN017
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD147
4J002FD150
4J002FD160
4J002FD340
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】従来の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体と同程度の硬度を有する場合であっても、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができる含フッ素エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】含フッ素エラストマーおよび鱗片状黒鉛を含有する含フッ素エラストマー組成物であって、前記含フッ素エラストマーのフッ素含有率が、61~73質量%であり、前記鱗片状黒鉛の含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して、3~50質量部である含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エラストマーおよび鱗片状黒鉛を含有する含フッ素エラストマー組成物であって、
前記含フッ素エラストマーのフッ素含有率が、61~73質量%であり、
前記鱗片状黒鉛の含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して、3~50質量部である含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
前記鱗片状黒鉛の平均粒子径が、3~50μmである請求項1に記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
前記鱗片状黒鉛のアスペクト比が、10~100である請求項1または2に記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
さらに、架橋剤を含有する請求項1または2に記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の含フッ素エラストマー組成物から得られる燃料ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素エラストマー組成物、成形体および燃料ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリマー、及び、鱗片状又は板状フィラーを含み、鱗片状又は板状フィラーは、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上であることを特徴とするポリマー組成物が記載されている。
【0003】
特許文献2には、フッ素ゴムおよび充填材を含有するフッ素ゴム組成物であって、前記フッ素ゴムのフッ素含有率が、65~73質量%であり、前記充填材が、膨張化黒鉛、板状アルミナおよび板状窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記充填材の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、3~30質量部であるフッ素ゴム組成物が記載されている。
【0004】
特許文献3には、エラストマーからなる基材と、該基材中に配向して含有されている複合粒子と、を有し、該複合粒子は、熱伝導に異方性を有する熱伝導異方性粒子と、該熱伝導異方性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を含み、該複合粒子の充填率は、エラストマー成形体の体積を100体積%とした時の30体積%以上であり、該複合粒子の次式(1)により定義される配向分散度Sは、-0.47~-0.5であることを特徴とするエラストマー成形体が記載されている。
S=<3cos2θ-1>/2・・・(1)
[θは、エラストマー成形体の熱伝導方向に対する複合粒子の面垂直方向の法線の角度である。<>は、空間平均値を表す。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-209275号公報
【特許文献2】特開2020-45397号公報
【特許文献3】特開2015-105282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示では、従来の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体と同程度の硬度を有する場合であっても、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができる含フッ素エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、含フッ素エラストマーおよび鱗片状黒鉛を含有する含フッ素エラストマー組成物であって、前記含フッ素エラストマーのフッ素含有率が、61~73質量%であり、前記鱗片状黒鉛の含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して、3~50質量部である含フッ素エラストマー組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、従来の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体と同程度の硬度を有する場合であっても、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができる含フッ素エラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマー、および、充填材として鱗片状黒鉛を含有する。
【0011】
含フッ素エラストマーは各種シール材、ガスケット、ホース、チューブ用途に利用されている。たとえば、自動四輪車、自動二輪車などのエンジン、燃料系統、それらの周辺部材には、近年の環境規制の強化から、燃料低透過性(燃料バリア性)が求められている。その中で含フッ素エラストマーは燃料低透過性の材料として利用されているが、さらなる燃料低透過性の改善が要求されている。
【0012】
特許文献1には、粒径が小さいフィラーを選択すると同時に、特定の粒度分布を持つフィラーを選択すると、含フッ素エラストマーなどのポリマーが本来有する物性を損なうことなく、高度な低透過性が実現できることが記載されている。特許文献1においては、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上である鱗片状又は板状フィラーを用いることが提案されている。鱗片状又は板状フィラーは、たとえば、セリサイト(絹雲母)である。
【0013】
しかしながら、本発明者らの検討によって、充填材として、セリサイト(絹雲母)などの雲母を用いると、ポリマー組成物を燃料ホースに成形する際に割れてしまい、割れて小さくなった充填材が燃料ホースの使用中に燃料ホースから脱落して、燃料中に混入するなどの不具合が生じる可能性があることから、燃料ホースの用途には必ずしも好ましくないことが明らかになった。この理由は、セリサイトなどの雲母が、へき開性の層状構造を有しており、物理的なせん断力によって、へき開面に沿って容易に割れやすいからであると推測される。
【0014】
特許文献2には、燃料低透過性に優れる成形体を得ることができるフッ素ゴム組成物において、膨張化黒鉛、板状アルミナおよび板状窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも1種の充填材を用いることが提案されている。さらに、充填材として、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、板状の膨張化黒鉛が好ましいとされている。
【0015】
これらの従来技術に対して、本開示の含フッ素エラストマー組成物においては、充填材として鱗片状黒鉛を用いる。充填材として鱗片状黒鉛を用いることによって、含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体から、充填材が脱落して、燃料中に混入するなどの不具合が生じる可能性が低減できる。
【0016】
さらには、充填材として鱗片状黒鉛を用いることによって、充填材として膨張化黒鉛を用いる場合と対比して、得られる成形体と同程度の硬度を示す場合であっても、燃料低透過性に優れる成形体が得られる。
【0017】
含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体の硬度は、含フッ素エラストマー組成物中の含フッ素エラストマーの含有量に対する充填材の含有量の割合によって変化する。充填材の含有割合を増加させると、燃料低透過性が改善することがあるが、得られる成形体の硬度も高くなる傾向がある。成形体の硬度が高すぎると、成形体を燃料ホースなどに用いる場合に、燃料ホースの柔軟性および可撓性が損なわれる可能性がある。本開示の含フッ素エラストマー組成物は、充填材として鱗片状黒鉛を含有することから、従来の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体と同程度の硬度を示すように充填材の含有割合を調整した場合であっても、得られる成形体は、従来の成形体よりも燃料低透過性に優れる。
【0018】
以下、本開示の含フッ素エラストマー組成物の構成について、詳細に説明する。
【0019】
(鱗片状黒鉛)
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、充填材として、鱗片状黒鉛を含有する。本開示において、「鱗片状黒鉛」とは、外観が葉片状の結晶の黒鉛である。「鱗片状黒鉛」は、天然黒鉛のなかでも、最も黒鉛化が進んだ天然黒鉛である。
【0020】
天然黒鉛には、「鱗片状黒鉛」の外、「土状黒鉛」「鱗状黒鉛」が含まれる。「土状黒鉛」は、外観が土状または土塊状の非晶質の黒鉛である。「鱗状黒鉛」は、脈状で産出する黒鉛であり、形状が塊状である。
【0021】
また、黒鉛として、「膨張黒鉛」および「膨張化黒鉛」も知られている。「膨張黒鉛」は、鱗片状黒鉛に硫酸を含有させた黒鉛である。「膨張化黒鉛」は、膨張黒鉛を膨張させたものをシート化し、粉砕した黒鉛である。「鱗片状黒鉛」は、膨張させられていない点で、「膨張黒鉛」および「膨張化黒鉛」とは異なる。
【0022】
鱗片状黒鉛の平均粒子径は、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは3~50μmであり、より好ましくは4μm以上であり、特に好ましくは5μm以上であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下であり、特に好ましくは30μm以下である。
【0023】
本開示において、鱗片状黒鉛(充填材)の平均粒子径は、個数基準の累積粒度分布の累積値50%の粒子径であり、累積粒度分布は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の円相当径から求める。
【0024】
鱗片状黒鉛のアスペクト比は、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは10~100であり、より好ましくは15以上であり、より好ましくは70以下であり、さらに好ましくは40以下である。
【0025】
本開示において、鱗片状黒鉛(充填材)のアスペクト比は、充填材の厚さに対する面の長辺の比(面の長辺/厚さ)である。アスペクト比の測定方法は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子から求める。
【0026】
鱗片状黒鉛の含有量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、3~50質量部である。鱗片状黒鉛の含有量が少なすぎると、十分な燃料低透過性を得ることができず、鱗片状黒鉛の含有量が多すぎると、ゴム硬度が上昇して、加工性が悪化する。鱗片状黒鉛の含有量としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、好ましくは6質量部以上であり、より好ましくは9質量部以上であり、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下である。
【0027】
(含フッ素エラストマー)
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマーを含有する。含フッ素エラストマーは、非晶質フルオロポリマーである。「非晶質」とは、フルオロポリマーの示差走査熱量測定〔DSC〕(昇温温度10℃/分)あるいは示差熱分析〔DTA〕(昇温速度10℃/分)において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさが4.5J/g以下であることをいう。含フッ素エラストマーは、架橋することにより、エラストマー特性を示す。エラストマー特性とは、ポリマーを延伸することができ、ポリマーを延伸するのに必要とされる力がもはや適用されなくなったときに、その元の長さを保持できる特性を意味する。
【0028】
含フッ素エラストマーのフッ素含有率は、燃料低透過性およびコストの観点から、好ましくは61~73質量%であり、より好ましくは63質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、尚さらに好ましくは67質量%以上であり、特に好ましくは69質量%以上であり、より好ましくは71質量%以下である。含フッ素エラストマーのフッ素含有率は、19F-NMRにて測定された含フッ素エラストマーの組成から計算によって求めることができる。
【0029】
含フッ素エラストマーとしては、部分フッ素化エラストマーが好ましい。本開示において、部分フッ素化エラストマーとは、フルオロモノマー単位を含み、全重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%未満のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーである。
【0030】
含フッ素エラストマーとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体、および、VdF/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。中でも、VdF単位を含む共重合体からなる含フッ素エラストマーがさらに好ましい。
【0031】
上記ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなる含フッ素エラストマー(以下、「VdF系含フッ素エラストマー」ともいう。)について説明する。VdF系含フッ素エラストマーは、少なくともVdFに由来する重合単位を含む含フッ素エラストマーである。
【0032】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位および含フッ素エチレン性単量体由来の重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の重合単位を含むことも好ましい。
【0033】
VdF単位を含む共重合体としては、30~85モル%のVdF単位および70~15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の重合単位を含むことが好ましく、30~80モル%のVdF単位および70~20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の重合単位を含むことがより好ましい。VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の重合単位の合計量に対して、0~10モル%であることが好ましい。
【0034】
含フッ素エチレン性単量体としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式:CHX1=CX2Rf1(式中、X1およびX2は、一方がHであり、他方がFであり、Rf1は炭素数1~12の直鎖または分岐したフルオロアルキル基である。)で表されるフルオロモノマー、一般式:CH2=CH-(CF2)n-X3(式中、X3はHまたはFであり、nは3~10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋部位を与えるモノマーなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP、PAVE、CTFEおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFPおよびPAVEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0035】
上記PAVEとしては、一般式:
CF2=CFO(CF2CFX4O)p-(CF2CF2CF2O)q-Rf2
(式中、X4はFまたはCF3を表し、Rf2は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)、および、一般式:
CFX=CXOCF2OR1
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCF3を表し、R1は、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0036】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)がより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)が更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0037】
VdFおよび含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素化モノマーがあげられる。
【0038】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体などの1種または2種以上が好ましい。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、非粘着性、柔軟性の点から、VdF/HFP共重合体、および、VdF/HFP/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がとくに好ましい。
【0039】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0040】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40~80/10~35/10~35のものが好ましい。
【0041】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65~90/10~35のものが好ましい。
【0042】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40~80/3~40/15~35のものが好ましい。
【0043】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65~90/3~25/3~25のものが好ましい。
【0044】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40~90/0~25/0~40/3~35のものが好ましく、より好ましくは40~80/3~25/3~40/3~25である。
【0045】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体としては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0046】
上記含フッ素エラストマーは、架橋部位を与えるモノマー由来の重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5-63482号公報、特開平7-316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6-ジヒドロ-6-ヨード-3-オキサ-1-ヘキセン)やパーフルオロ(5-ヨード-3-オキサ-1-ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4-505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特表平4-505345号公報、特表平5-500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0047】
上記含フッ素エラストマーは、重合時に連鎖移動剤を使用して得られたものであってもよい。上記連鎖移動剤として、臭素化合物またはヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物またはヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
R2IxBry
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R2は炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素または臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0048】
上記含フッ素エラストマーとしては、たとえば、パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリアミン架橋可能な含フッ素エラストマー等を挙げることができる。上記含フッ素エラストマーとしては、パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマーが好ましい。
【0049】
上記パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマーとしては特に限定されず、パーオキサイド架橋可能な部位を有する含フッ素エラストマーであればよい。上記パーオキサイド架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、ヨウ素原子、臭素原子等を挙げることができる。上記含フッ素エラストマーがヨウ素原子を含有する場合のヨウ素含有率としては、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0050】
上記ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマーとしては特に限定されず、ポリオール架橋可能な部位を有する含フッ素エラストマーであればよい。上記ポリオール架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。上記架橋部位を導入する方法としては、含フッ素エラストマーの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0051】
(架橋剤)
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、さらに、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤の種類は特に限定されるものではなく、含フッ素エラストマーの種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0052】
架橋剤は、含フッ素エラストマーに架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または得られる成形体などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としてはポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系のいずれも採用できる。
【0053】
架橋剤としては、燃料低透過性に一層優れる成形体を得ることができることから、ポリアミン架橋剤、ポリオール架橋剤およびパーオキサイド架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリオール架橋剤およびパーオキサイド架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0054】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0055】
ポリオール架橋剤としては、従来、含フッ素エラストマーの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0056】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシスチルベン、2,6-ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’-テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’-テトラブロモビスフェノールA、ジアミノビスフェノールAFなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0057】
これらの中でも、得られる成形体などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0058】
パーオキサイド架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0059】
架橋剤の添加量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、さらに好ましくは0.3~7質量部であり、特に好ましくは1~5質量部である。架橋剤が少なすぎると、架橋度が不足するため、成形体の耐熱性および耐油性等の性能が損なわれる傾向があり、架橋剤が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎるため架橋時間が長くなる傾向があることに加え、経済的にも好ましくないものであり、また、得られる含フッ素エラストマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0060】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール架橋剤と併用して、通常、架橋助剤を用いる。架橋助剤を用いると、含フッ素エラストマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0061】
ポリオール架橋系の架橋助剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0062】
具体的には、たとえば、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウム塩;8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムアイオダイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムメチルスルフェート、8-エチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-プロピル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-エイコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-テトラコシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド(以下、DBU-Bとする)、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-フェネチル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、8-(3-フェニルプロピル)-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムクロリド、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデク-7-エンなどの環状アミン;ベンジルメチルアミン、ベンジルエタノールアミンなどの一官能性アミン;テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル-2-メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどの第4級ホスホニウム塩などがあげられる。
【0063】
これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU-B、BTPPCが好ましい。
【0064】
また、架橋助剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11-147891号公報に開示されている塩素フリー架橋助剤を用いることもできる。
【0065】
有機過酸化物の架橋助剤としては、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0066】
ポリオール架橋系の架橋助剤の添加量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部であり、より好ましくは0.1~3質量部であり、さらに好ましくは0.2~2質量部であり、特に好ましくは0.3~0.7質量部である。架橋助剤が少なすぎると、架橋時間が実用に耐えないほど長くなり、かつ得られる成形体の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、架橋助剤が多すぎると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形体の圧縮永久歪も低下し、かつ、得られる含フッ素エラストマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0067】
有機過酸化物の架橋助剤の添加量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部であり、さらに好ましくは0.3~10質量部であり、特に好ましくは0.5~5質量部である。架橋助剤が少なすぎると、架橋時間が実用に耐えないほど長くなり、かつ得られる成形体の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、架橋助剤が多すぎると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形体の圧縮永久歪も低下し、かつ、得られる含フッ素エラストマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0068】
(その他の成分)
本開示の含フッ素エラストマー組成物には、必要に応じて含フッ素エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填材(カーボンブラック、瀝青炭、硫酸バリウム、珪藻土、焼成クレー、タルク等)、加工助剤(ワックス等)、可塑剤、着色剤、安定剤、粘着性付与剤(クマロン樹脂、クマロン・インデン樹脂等)、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤、発泡剤、国際公開第2012/023485号に記載の酸化防止剤などの各種添加剤を配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤、架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0069】
充填材(ただし鱗片状黒鉛を除く)としては、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩;硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化銅などの金属硫化物;珪藻土、アスベスト、リトポン(硫化亜鉛/硫化バリウム)、グラファイト、フッ化カーボン、フッ化カルシウム、コークス、石英微粉末、タルク、雲母粉末、ワラストナイト、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカー、ガラス繊維、有機補強剤、有機充填材、ポリテトラフルオロエチレン、含フッ素熱可塑性樹脂、マイカ、シリカ、セライト、クレー等が挙げられる。
【0070】
カーボンブラックなどの充填材の含有量は、特に限定されるものではないが、含フッ素エラストマー100質量部に対して0~300質量部であることが好ましく、1~150質量部であることがより好ましく、2~100質量部であることが更に好ましく、2~75質量部であることが特に好ましい。
【0071】
ワックス等の加工助剤の含有量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して0~10質量部であることが好ましく、0~5質量部であることが更に好ましい。加工助剤、可塑剤や離型剤を使用すると、得られる成形体の機械物性やシール性が下がる傾向があるので、目的とする得られる成形体の特性が許容される範囲でこれらの含有量を調整する必要がある。
【0072】
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、ジアルキルスルホン化合物を含有してもよい。ジアルキルスルホン化合物としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジブチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン等が挙げられる。ジアルキルスルホン化合物の含有量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して0~10質量部であることが好ましく、0~5質量部であることがさらに好ましく、0~3質量部であることが特に好ましい。本開示の含フッ素エラストマー組成物がジアルキルスルホン化合物を含有する場合には、ジアルキルスルホン化合物の含有量の下限値は、たとえば、含フッ素エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上であってよい。
【0073】
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマーおよび鱗片状黒鉛、ならびに、その他の所望の材料を、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて混合することにより製造することができる。このほか、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。所望により架橋剤、添加剤等を混合してもよい。
【0074】
本開示の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素樹脂をさらに含有してもよい。この場合、含フッ素樹脂中に含フッ素エラストマーおよび充填材を均一に分散させられる点から、含フッ素樹脂の溶融状態で、含フッ素エラストマーを動的に架橋させて、その少なくとも一部が架橋された架橋含フッ素エラストマーとすることが好ましい。
【0075】
ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、含フッ素エラストマーを溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0076】
また、溶融状態とは、含フッ素樹脂が溶融する温度下での状態を意味する。溶融する温度は、含フッ素樹脂のガラス転移温度および/または融点により異なるが、120~330℃であることが好ましく、130~320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、含フッ素樹脂と含フッ素エラストマーの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、含フッ素エラストマーが熱劣化する傾向がある。
【0077】
得られた含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造、または含フッ素樹脂と架橋含フッ素エラストマーが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0078】
含フッ素エラストマーが、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、含フッ素エラストマーが架橋含フッ素エラストマーに変化すると、架橋含フッ素エラストマーの方が未架橋の含フッ素エラストマーよりも溶融粘度が高いので、架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成するか、含フッ素樹脂および架橋含フッ素エラストマーが共連続構造を形成することになる。
【0079】
このような構造を形成すると、本開示の含フッ素エラストマー組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、低透過性と良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋含フッ素エラストマーの平均分散粒子径は、0.01~30μmであることが好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、得られる成形体の強度が低下する傾向がある。
【0080】
また、本開示の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造の一部に、含フッ素樹脂と架橋含フッ素エラストマーとの共連続構造を含んでいても良い。
【0081】
含フッ素樹脂/架橋含フッ素エラストマーの重量比は、好ましくは98/2~30/70であり、より好ましくは95/5~40/60であり、さらに好ましくは90/10~50/50である。含フッ素樹脂が多すぎると、充分な柔軟性が付与できない傾向があり、含フッ素樹脂が少なすぎると、架橋含フッ素エラストマーが均一に分散せず一部共連続となり組成物自体の機械強度が著しく低下したり、流動性が著しく低下したりする傾向がある。
【0082】
(成形体)
本開示の含フッ素エラストマー組成物を、成形することによって各種の成形体を得ることができる。本開示の含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体も本開示の1つである。本開示の成形体は、上記含フッ素エラストマー組成物を架橋することにより得られるものであることが好ましい。
【0083】
成形は従来公知の方法により行うことができ、例えば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形等があげられ、溶剤に溶かしてディップ成形、コーティング等により成形してもよい。
【0084】
本開示の含フッ素エラストマー組成物から各種成形体を得るにあたり、架橋する工程を経てもよい。架橋条件は、成形方法や成形体の形状により異なるが、おおむね、100~200℃で数秒~180分の範囲である。また、架橋物の物性を安定化させるために二次架橋を行ってもよい。二次架橋条件としては、150~300℃で30分~30時間程度である。
【0085】
本開示の含フッ素エラストマー組成物から形成される層と他の材料を含む少なくとも1つの層とを含む積層体とすることもできる。当該「他の材料」は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴムなどの架橋ゴム、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0086】
本開示の含フッ素エラストマー組成物から形成される層と他の材料とを含む層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本開示の含フッ素エラストマー組成物を含む層と他の材料を含む基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6-ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4-トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4-トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物;等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0087】
また、本開示の含フッ素エラストマー組成物から形成される層と他の材料から形成される層を有する積層体を作製する場合、必要に応じて本開示の含フッ素エラストマー組成物から形成される層に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理されていない含フッ素エラストマー組成物から形成される層の表面をプライマー処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施した含フッ素エラストマー組成物から形成される層の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0088】
本開示の含フッ素エラストマー組成物から形成される成形体は、例えば、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野;自動車分野;航空機分野;ロケット分野;船舶分野;プラント等の化学品分野;医薬品等の薬品分野;現像機等の写真分野;印刷機械等の印刷分野;塗装設備等の塗装分野;分析・理化学機分野;食品プラント機器分野;原子力プラント機器分野;鉄板加工設備等の鉄鋼分野;一般工業分野;電気分野;燃料電池分野などの分野で好適に用いることができるが、これらのなかでも自動車分野でより好適に用いることができる。
【0089】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO-リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【0090】
本開示の含フッ素エラストマー組成物および成形体は、特に燃料低透過性が求められる用途に好適であり、例えば、燃料ホースとして利用できる。燃料ホースとしては、自動車用燃料ホース、船舶用燃料ホース、産業用燃料ホース、発電機用燃料ホースなどを挙げることができる。
【0091】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0092】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
含フッ素エラストマーおよび鱗片状黒鉛を含有する含フッ素エラストマー組成物であって、前記含フッ素エラストマーのフッ素含有率が、61~73質量%であり、前記鱗片状黒鉛の含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して、3~50質量部である含フッ素エラストマー組成物が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
前記鱗片状黒鉛の平均粒子径が、3~50μmである第1の観点による含フッ素エラストマー組成物が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
前記鱗片状黒鉛のアスペクト比が、10~100である第1または第2の観点による含フッ素エラストマー組成物が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
さらに、架橋剤を含有する第1から第3のいずれかの観点による記載の含フッ素エラストマー組成物が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
第1から第4のいずれかの観点による含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
第1から第4のいずれかの観点による含フッ素エラストマー組成物から得られる燃料ホースが提供される。
【実施例0093】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0095】
<フッ素含有率>
19F-NMRにて測定された含フッ素エラストマーの組成から計算によって求めた。
【0096】
<ムーニー粘度>
JIS K 6300-1に準拠して測定した。
【0097】
<平均粒子径>
充填材の平均粒子径は、個数基準の累積粒度分布の累積値50%の粒子径であり、累積粒度分布は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子の円相当径から求めた。
【0098】
<アスペクト比>
アスペクト比は、充填材の厚さに対する面の長辺の比(面の長辺/厚さ)である。アスペクト比の測定方法は、走査型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子から求めた。
【0099】
<硬度>
実施例および比較例で得られた2mm厚みの成形体を3枚重ねたものを用いて、タイプAデュロメーターを使用して、JIS K6253-3:2012に準拠して、硬度(Peak値)を測定した。
【0100】
<常態物性>
実施例および比較例で得られた2mm厚みの成形体を用いて、引張試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG-1310)を使用して、JIS K6251-1:2015に準じて、500mm/分の条件下、ダンベル6号にて、23℃における引張強度(Tb)、破断伸び(Eb)を測定した。
【0101】
<燃料透過係数>
70mLの容積を有するSUS製容器(開口部面積1.26×10-3m2)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を50mL入れて、実施例および比較例で得られた0.5mm厚みのシート状の成形体を容器にセットして密閉することで、試験体とした。該試験体をシートが下側で模擬燃料が接液する向きで恒温装置(40℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求めた。
【0102】
【0103】
実施例および比較例では、次の材料を使用した。
含フッ素エラストマー:
VdF/HFP/TFE 3元ポリオール架橋系含フッ素エラストマー(フッ素含有率:69質量%、ムーニー粘度:ML1+10(100℃)=45)、架橋剤(ビスフェノールAF)および架橋促進剤(DBU-B)の混合物、架橋剤の含有量が含フッ素エラストマー100質量部に対して2.0質量部
【0104】
鱗片状黒鉛A:
富士黒鉛工業社製 MF-10E
平均粒子径:10μm
平均アスペクト比:19
【0105】
鱗片状黒鉛B:
富士黒鉛工業社製 MF-20E
平均粒子径:20μm
平均アスペクト比:17
【0106】
膨張化黒鉛A:
富士黒鉛工業社製 FS-5
平均粒子径:7μm
【0107】
膨張化黒鉛B:
富士黒鉛工業社製 AED-50
平均粒子径:50μm
【0108】
N774カーボン:
東海カーボン社製 シーストS
【0109】
酸化マグネシウム:
協和化学工業社製 キョーワマグ150
【0110】
水酸化カルシウム:
井上石灰工業社製 NICC5000
【0111】
実施例1
100質量部の含フッ素エラストマーに対して、3質量部の酸化マグネシウム、6質量部の水酸化カルシウムを混合し、さらに、10質量部の鱗片状黒鉛Aを混合した後、常法によりロールにて混練して含フッ素エラストマー組成物を調製した。
【0112】
得られた含フッ素エラストマー組成物を、表1に記載の成形条件でプレスすることにより、架橋させて、厚さ0.5mmのシート状の成形体を得て、得られたシート状の成形体について、燃料透過係数を測定した。同様にして厚さ2mmのシート状の成形体を得て、得られたシート状の成形体について、硬度および常態物性を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
実施例2~6、比較例1~7
充填材の種類および量を表1~表3に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、含フッ素エラストマー組成物を調製し、成形体を得た。結果を表1~表3に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表1に記載の結果が示すとおり、鱗片状黒鉛Aおよび鱗片状黒鉛Bを含有する含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体(実施例1~2)は、膨張化黒鉛Aおよび膨張化黒鉛Bを含有する含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体(比較例1~2)と比べて、同程度の硬度を有しているが、小さい燃料透過係数を示していることが分かる。
表2および表3に記載の結果が示すとおり、実施例3~4と比較例3~5とを対比した場合でも、また、実施例5~6と比較例6~7とを対比した場合でも、鱗片状黒鉛Aおよび鱗片状黒鉛Bを含有する含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体は、膨張化黒鉛Aおよび膨張化黒鉛Bを含有する含フッ素エラストマー組成物から得られる成形体と比べて、同程度の硬度を有しているが、小さい燃料透過係数を示していることが分かる。