(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177708
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】許容せん断耐力算出方法及び構造躯体の構築方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/24 20060101AFI20231207BHJP
E04B 5/12 20060101ALI20231207BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G01N3/24
E04B5/12 ESW
E04B5/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090529
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】牛米 歩
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA11
2G061AB03
2G061BA04
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA01
2G061EA02
2G061EC02
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】必要な労力を低減することが可能となる許容せん断耐力算出方法を提供する。
【解決手段】許容せん断耐力算出方法は、木製部材3とデッキプレート4との接合部5を模した試験体6の試験結果と、木製部材3とデッキプレート4との接合部5を要素とした解析モデルと、に基づいて、接合部5の許容せん断耐力を算出する算出工程S310を備える。算出工程S310は、第1許容せん断耐力
jq
0と第2許容せん断耐力
jq
90と接合部5の回転量θの絶対値とに基づいて、接合部5の主応力を木製部材3の繊維方向に補正した許容せん断耐力補正値
jq
θを算出する。算出工程S310は、第1許容せん断耐力
jq
0と許容せん断耐力補正値
jq
θとに基づいて、第1アスペクト比H/Lに応じた耐力補正係数αを算出する。算出工程S310は、第1許容せん断耐力
jq
0と耐力補正係数αとに基づいて、接合部5の許容せん断耐力
jqを算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製部材で構成される骨組み構造とデッキプレートとにより構成される水平構面を備えた構造躯体の許容せん断耐力を算出する許容せん断耐力算出方法であって、
木製部材とデッキプレートとの接合部を模した試験体の試験結果と、木製部材とデッキプレートとの接合部を要素とした解析モデルと、に基づいて、前記接合部の許容せん断耐力を算出する算出工程を備えること
を特徴とする許容せん断耐力算出方法。
【請求項2】
前記算出工程は、
前記試験結果を前記解析モデルに反映することで、前記接合部の前記許容せん断耐力を算出すること
を特徴とする請求項1記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項3】
前記試験結果は、
前記試験体の木製部材の繊維方向の第1せん断特性と、
前記試験体の木製部材の繊維直交方向の第2せん断特性と、を含み、
前記算出工程は、前記第1せん断特性と前記第2せん断特性と前記解析モデルとに基づいて、前記接合部の前記許容せん断耐力を算出すること
を特徴とする請求項1記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項4】
前記算出工程は、水平構面のアスペクト比に基づいて、前記接合部の前記許容せん断耐力を算出すること
を特徴とする請求項3記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項5】
前記アスペクト比は、0.33以上3.0以下であること
を特徴とする請求項4記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項6】
前記算出工程の前に、前記試験体にせん断試験を行って前記試験結果を取得するせん断試験工程を更に備えること
を特徴とする請求項1記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項7】
前記試験結果は、
前記試験体の木製部材の繊維方向のせん断試験により得られる前記試験体の第1許容せん断耐力と第1せん断剛性とを含む第1せん断特性と、
前記試験体の木製部材の繊維直交方向のせん断試験により得られる前記試験体の第2許容せん断耐力と第2せん断剛性とを含む第2せん断特性と、を含み、
前記算出工程は、
前記第1せん断特性と前記第2せん断特性と水平構面の第1アスペクト比とに基づいて、木製部材の繊維方向に対する前記接合部の主応力方向の回転量を前記解析モデルを用いて算出し、
前記第1許容せん断耐力と前記第2許容せん断耐力と前記回転量の絶対値とに基づいて、前記接合部の主応力を前記木製部材の繊維方向に補正した許容せん断耐力補正値を算出し、
前記第1許容せん断耐力と前記許容せん断耐力補正値とに基づいて、前記第1アスペクト比に応じた耐力補正係数を算出し、
前記第1許容せん断耐力と前記耐力補正係数とに基づいて、前記接合部の前記許容せん断耐力を算出すること
を特徴とする請求項1記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項8】
前記算出工程は、
複数の前記第1アスペクト比と前記第1アスペクト比に応じた前記耐力補正係数との関係を評価し、
評価した前記関係と任意の第2アスペクト比とに基づいて、前記第2アスペクト比に応じた前記耐力補正係数を算出すること
を特徴とする請求項7記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項9】
前記第1許容せん断耐力は、前記試験体の木製部材の繊維方向の降伏耐力に以下の数式(7)のばらつき係数βを乗じた値と、最大耐力の2/3に前記ばらつき係数βを乗じた値と、の何れか小さい方であり、
前記第2許容せん断耐力は、前記試験体の木製部材の繊維直交方向の降伏耐力に前記ばらつき係数βを乗じた値と、最大耐力の2/3に前記ばらつき係数βを乗じた値と、の何れか小さい方であること
を特徴とする請求項7又は8記載の許容せん断耐力算出方法。
【数11】
(ここで、βは、ばらつき係数であり、変動係数CVは、標準偏差/平均値であり、k
50%は、信頼水準75%における50%下側許容限界値を求めるための係数である。)
【請求項10】
前記算出工程は、前記接合部の許容せん断耐力と、前記木製部材上の前記接合部の数とに基づいて、前記水平構面の許容せん断耐力を算出すること
を特徴とする請求項7又は8記載の許容せん断耐力算出方法。
【請求項11】
木製部材で構成される骨組み構造とデッキプレートとにより構成される水平構面を備えた構造躯体の構築方法であって、
木製部材とデッキプレートとの接合部を模した試験体の試験結果と、木製部材とデッキプレートとの接合部を要素とした解析モデルと、に基づいて、前記接合部の許容せん断耐力を算出し、
算出した前記接合部の許容せん断耐力と、前記木製部材上の前記接合部の数とに基づいて、前記水平構面の許容せん断耐力を算出する算出工程と、
算出した前記水平構面の前記許容せん断耐力が、前記水平構面に必要とされるせん断力を上回るか否かを判定する判定工程と、
前記水平構面の前記許容せん断耐力が前記せん断力を上回る場合、前記構造躯体を構築する際の構築条件を設定する設定工程と、
前記設定工程において設定した前記構築条件を満たす前記構造躯体を構築する構築工程と、を備え、
前記設定工程は、前記せん断力を上回る前記水平構面の前記許容せん断耐力と、前記接合部の前記許容せん断耐力とに基づいて、前記構築条件として前記接合部の数を設定し、
前記構築工程は、前記設定工程において設定した前記接合部の数を満たす前記構造躯体を構築すること
を特徴とする構造躯体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製部材で構成される骨組み構造とデッキプレートとにより構成される水平構面を備えた構造躯体の許容せん断耐力を算出する許容せん断耐力算出方法及び構造躯体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、戦後に造林された森林資源が本格的な利用期を迎えたことから、公共建築物をはじめとする建築物の木造化を推進する動きが盛んであり、林野庁が主体となり木材の利用促進に関する法律が整理されている。木造建築物の推進・大規模化が進む中で、新たな構法が確立されていくことが想定される。
【0003】
一方、木質材料は鋼材等の工業製品ではなく自然材料であることから、建築構造力学の観点のみならず強度等のばらつきを考慮して統計的な観点からの評価も必要となり、他構造と比較して古典的な手法が用いられることが多々ある。
【0004】
構造躯体を構築するにあたり、構造躯体の許容せん断耐力を算出する必要がある。従来、木梁で構成される骨組み構造と面材とが接合された構造躯体の水平構面の許容せん断耐力を算出方法として、非特許文献1が開示されている。構造躯体においては、接合部のせん断挙動が木梁の変形と面材の剛体回転による接合部の相対変位により生じ、各接合部のせん断挙動が異なる。このため、各接合部のせん断耐力を算定することが困難である。
【0005】
したがって、非特許文献1の許容せん断耐力の算出方法では、実物大の試験体を作製し、各接合部の一面せん断特性を算出する実大試験を行う。実大試験の接合部配列をもとに非特許文献1に従い接合部の配列諸定数を算出する。そして、算出した一面せん断特性と、接合部の配列諸定数に基づいて接合部1箇所あたりの許容せん断耐力を算出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.182~197、291~317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の許容せん断耐力の算出方法は、実物大の試験体を作製し、実大試験を行う。このため、材料調達や人員確保、試験施設の使用状況や設計・施工等の多大なコストと実施期間等の労力を要する。また、実物大の試験体を用いて試験を行うため、接合部の数、水平構面の縦横比(以下、アスペクト比という。)等の構造躯体の構築条件を変更する場合には、構築条件に応じた実物大の試験体を新たに作製し、許容せん断耐力を算出する必要がある。しかしながら、構築条件毎に実物大の試験体を作製するのは多大な労力を要する。
【0008】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、必要な労力を低減することが可能となる許容せん断耐力算出方法及び構造躯体の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、木製部材とデッキプレートとの接合部を模した試験体の試験結果と木製部材とデッキプレートとの接合部を要素とする有限要素解析モデルとを用いて、接合部の許容せん断耐力を算出する方法を新たに見出した。これにより、条件毎に実物大の構造躯体を作製する手間を低減させることができる。このため、構造躯体の許容せん断耐力を容易に算出することが可能となる。
【0010】
本発明に係る許容せん断耐力算出方法は、木製部材で構成される骨組み構造とデッキプレートとにより構成される水平構面を備えた構造躯体の許容せん断耐力を算出する許容せん断耐力算出方法であって、木製部材とデッキプレートとの接合部を模した試験体の試験結果と、木製部材とデッキプレートとの接合部を要素とした有限要素解析モデルと、に基づいて、前記接合部の許容せん断耐力を算出する算出工程を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る構造躯体の構築方法は、木製部材で構成される骨組み構造とデッキプレートとにより構成される水平構面を備えた構造躯体の構築方法であって、木製部材とデッキプレートとの接合部を模した試験体の試験結果と、木製部材とデッキプレートとの接合部を要素とした解析モデルと、に基づいて、前記接合部の許容せん断耐力を算出し、算出した前記接合部の許容せん断耐力と、前記木製部材上の前記接合部の数とに基づいて、前記水平構面の許容せん断耐力を算出する算出工程と、算出した前記水平構面の前記許容せん断耐力が、前記水平構面に必要とされるせん断力を上回るか否かを判定する判定工程と、
前記水平構面の前記許容せん断耐力が前記せん断力を上回る場合、前記構造躯体を構築する際の構築条件を設定する設定工程と、前記設定工程において設定した前記構築条件を満たす前記構造躯体を構築する構築工程と、を備え、前記設定工程は、前記せん断力を上回る前記水平構面の前記許容せん断耐力と、前記接合部の前記許容せん断耐力とに基づいて、前記構築条件として前記接合部の数を設定し、前記構築工程は、前記設定工程において設定した前記接合部の数を満たす前記構造躯体を構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、必要な労力を低減することが可能となる許容せん断耐力算出方法及び構造躯体の構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、構造躯体の一例を模式的に示す斜視図ある。
【
図2】
図2は、構造躯体に外力が作用した場合において、本発明における接合部の許容せん断耐力の概念を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態における許容せん断耐力算出方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4(a)は、第1試験体の一例を示す図であり、
図4(b)は、第2試験体の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、荷重と相対変位の関係に基づいて、試験体の許容せん断耐力とせん断剛性とを算出する方法を説明するための図である。
【
図6】
図6(a)は、有限要素解析モデルの一例を示す図であり、
図6(b)は、
図6(a)のa部拡大図である。
【
図7】
図7(a)は、上辺側の木製部材の接合部の位置と回転量の絶対値の関係を表す図であり、
図7(b)は、下辺側の木製部材の接合部の位置と回転量の絶対値の関係を表す図である。
【
図8】
図8(a)は、左辺側の木製部材の接合部の位置と回転量の絶対値の関係を表す図であり、
図8(b)は、右辺側の木製部材の接合部の位置と回転量の絶対値の関係を表す図である。
【
図9】
図9は、接合部5の許容せん断耐力補正値の概念の一例を示す。
【
図10】
図10(a)及び
図10(b)は、アスペクト比と耐力補正係数の関係を示す図である。
【
図12】
図12は、構造躯体に外力が作用した場合において、従来の接合部の応力の概念を示す図である。
【
図13】
図13(a)は、算出装置の構成の一例を示す模式図であり、
図13(b)は、算出装置の機能の一例を示す模式図である。
【
図14】
図14は、実施形態における構造躯体の構築方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した許容せん断耐力算出方法及び構造躯体の構築方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、高さ方向Zとし、高さ方向Zに交わる方向を第1方向Xとし、高さ方向Zと第1方向Xに交わる方向を第2方向Yとする。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る許容せん断耐力算出方法は、木製部材3で構成される骨組み構造2とデッキプレート4とにより構成される水平構面を備えた構造躯体1の許容せん断耐力を算出する。
【0016】
構造躯体1は、木製部材3により構成される骨組み構造2と、複数のデッキプレート4と、により構成される水平構面を備える。構造躯体1は、例えば木製部材3とデッキプレート4とを備える床構造である。構造躯体1は、例えば木製部材3とデッキプレート4とを備える屋根構造であってもよい。骨組み構造2は、木製部材3が平面視矩形状に組み合わされて形成される。デッキプレート4の敷設方向を基準に、デッキプレート4の幅方向を第1方向Xとし、デッキプレート4のスパン方向を第2方向Yとする。デッキプレート4は、第1方向Xに複数敷設される。複数のデッキプレート4は、互いにドリリングタッピングねじ、釘等の公知の接合具により接合される。デッキプレート4の板厚は、例えば1.0mm~1.6mm程度のものが用いられる。デッキプレート4のせいは、例えば50~120mmのものが用いられる。
【0017】
木製部材3は、第1方向Xを長手方向とする一対の木製部材31と、第2方向Yを長手方向とする一対の木製部材32と、を有する。一対の木製部材31のうち、一方を上辺側の木製部材31ともいい、他方を下辺側の木製部材31ともいう。一対の木製部材32のうち、一方を左辺側の木製部材32ともいい、他方を右辺側の木製部材32ともいう。
【0018】
木製部材3は、繊維方向を長手方向として配置され、繊維直交方向を短手方向として配置される。すなわち、第1方向Xを長手方向とする木製部材31の繊維方向は、第1方向Xに沿い、当該木製部材31の繊維直交方向は、第2方向Yに沿う。また、第2方向Yを長手方向とする木製部材32の繊維方向は、第2方向Yに沿い、当該木製部材32の繊維直交方向は、第1方向Xに沿う。
【0019】
水平構面は、第1方向Xの長さLに対する、第2方向Yの長さHの比をアスペクト比として、水平構面のアスペクト比は、H/Lとなる。
【0020】
構造躯体1は、木製部材3とデッキプレート4とが接合具により接合された接合部5を複数備える。接合具は、ドリリングタッピングねじ、釘等の公知の接合具である。
【0021】
図12は、構造躯体1に外力Pが作用した場合において、従来の接合部5の応力の概念を示す図である。
図12において、接合部5における矢印は、主応力を示す。
図12に示すように、構造躯体1に作用する外力Pに伴う接合部5のせん断挙動は、木製部材3の変形とデッキプレート4の剛体回転による接合部5の相対変位により生じる。このため、各接合部5のせん断挙動は、主応力方向がそれぞれ異なる。接合部5の主応力方向は、木製部材3の材軸方向の中央付近では、繊維方向に略一致するものの、端部に近づくにつれて繊維直交方向に傾くことが知られている。木製部材3は、繊維方向と繊維直交方向とで強度が異なる直交異方性材料であるため、主応力方向が繊維方向に対して一定の回転量(0°以上90°以下)が生じるほど、接合部5の強度は低下する。
【0022】
従来、水平構面の許容せん断耐力を算出する際には、上記したように、各接合部5で主応力方向が異なることから、接合部のせん断性能を一律で評価することが困難である。このため、一般的には実物大の構造躯体の試験体を作製して試験する実大試験から、接合部の特性値を取得し、接合部の配列諸定数(非特許文献1(木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.182~197参照)に基づいて算定する方法に限られていた。
【0023】
図2は、構造躯体1に外力Pが作用した場合において、本発明における接合部5の許容せん断耐力
jqの概念を示す図である。
図2において、接合部5における矢印は、接合部5の許容せん断耐力
jqを示す。そこで、本発明では、
図2に示すように、接合部5の主応力方向を木製部材3の繊維方向に一致すると仮定した力学モデルを定義する。力学モデルにおける接合部5の許容せん断耐力
jqを算出するために、接合部5に繊維方向の第1せん特性と、繊維直交方向に第2せん断特性を備える有限要素解析モデルMを設定する。そして、該モデルと、接合部5を模した試験体6の試験結果と、に基づいて接合部5のせん断挙動を簡易的に評価することで、構造躯体1の許容せん断耐力を算出するものである。ここで、構造躯体1の許容せん断耐力は、水平構面の許容せん断耐力
gQと、接合部5の許容せん断耐力
jqを含む。また、「許容せん断耐力」は、主として「短期許容せん断耐力」のことをいう。
【0024】
本発明における許容せん断耐力算出方法は、オペレータにより入力された情報を用いたコンピュータとしての算出装置100による算出により実行される。
【0025】
図13(a)は、算出装置100の構成の一例を示す模式図である。算出装置100として、例えばパーソナルコンピュータ(PC)等のような公知の電子機器が用いられる。算出装置100は、例えば筐体10と、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、保存部104と、I/F105~108とを備える。各構成101~107は、内部バス110により接続される。
【0026】
CPU101は、算出装置100全体を制御する。ROM102は、CPU101の動作コードを格納する。RAM103は、CPU101の動作時に使用される作業領域である。保存部104は、文字列データベース等の各種情報が保存される。保存部104として、例えばSDメモリーカードのほか、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のような公知のデータ保存媒体が用いられる。
【0027】
I/F105は、入力装置111との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。入力装置111として、例えばキーボード等の公知の入力装置が用いられてもよい。オペレータ等は、入力装置111を介して、各種情報や、算出装置100の制御コマンド等を入力又は選択できる。入力装置111は、省略されてもよい。
【0028】
I/F106は、表示装置113との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。表示装置113は、各種情報を表示する。表示装置113として、例えばディスプレイ等が用いられる。
【0029】
I/F107は、公衆通信網を介して各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。I/F107は、例えば複数設けられ、インターネット等の通信網を介した各種情報の送受信を行うために用いられてもよい。
【0030】
なお、I/F105~I/F107として、例えば同一のものが用いられてもよく、各I/F105~I/F107として、例えばそれぞれ複数のものが用いられてもよい。
【0031】
図13(b)は、算出装置100の機能の一例を示す模式図である。コンピュータは、例えば取得部11と、算出部12と、記憶部13と、表示部14と、を備える。取得部11は、試験体6の試験結果等の各種情報を取得、入力する。算出部12は、各種情報に基づく演算処理が可能であり、例えば取得部11により取得した情報や記憶部13に記憶された情報に基づき、許容せん断耐力を算出する。また、算出部12は、有限要素解析モデルMを作成し、作成した有限要素解析モデルMを用いた有限要素解析を実行することができる。記憶部13は、各種情報を記憶する。表示部14は、各種情報を表示する。なお、
図13(b)に示した各機能は、CPU101が、RAM103を作業領域として、保存部104等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0032】
本発明では、水平構面の許容せん断耐力gQを、接合部5の許容せん断耐力jqを用いて、以下の数式(1)~数式(3)により表すことができる。
【0033】
【数1】
gQ:水平構面の許容せん断耐力
jhQ:水平構面の木製部材31とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力
jvQ:水平構面の木製部材32とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力
jhn:木製部材31における接合部5の数
jvn:木製部材32における接合部5の数
jq:接合部5の許容せん断耐力
L/H:水平構面のアスペクト比の逆数
【0034】
接合部5の許容せん断耐力jqは、試験体6の試験結果における第1許容せん断耐力jq0と、耐力補正係数αとに基づき、以下の数式(4)により算出される。
【0035】
【数2】
jq:接合部5の許容せん断耐力
jq
0:第1せん断耐力
α:耐力補正係数
【0036】
上記数式(1)によれば、水平構面の許容せん断耐力gQは、許容せん断耐力jhQと、許容せん断耐力jvQと、の何れか小さい方で算出できる。これにより、より安全側で水平構面の許容せん断耐力を算出できる。
【0037】
上記数式(2)、数式(3)によれば、許容せん断耐力jhQと許容せん断耐力jvQとは、接合部5の数jnと接合部5の許容せん断耐力jqとの積に基づいて算出できる。これにより、許容せん断耐力jhQと許容せん断耐力jvQとを簡潔に表現できる。
【0038】
以下、本発明における許容せん断耐力算出方法の一例について、詳細に説明する。
【0039】
図3は、本発明における許容せん断耐力算出方法の一例を示すフローチャートである。許容せん断耐力算出方法は、木製部材3とデッキプレート4との接合部5を模した試験体6の試験結果と、木製部材3とデッキプレート4との接合部5を要素とした有限要素解析モデルMと、に基づいて、構造躯体1の接合部5の許容せん断耐力
jqをコンピュータにより算出する算出工程S310を備える。
【0040】
許容せん断耐力算出方法は、算出工程S310よりも前に行われる、せん断試験工程S110と、モデル作成工程S210と、を更に備えてもよい。
【0041】
<せん断試験工程S110>
せん断試験工程S110は、木製部材3とデッキプレート4との接合部5を模した試験体6にせん断試験を行い、せん断試験による試験体6の試験結果を取得する。せん断試験工程S110では、実際に試験体6を作製し、作製した試験体6にせん断試験を行う。なお、予め試験体6の試験結果が取得されている場合には、せん断試験工程S110を省略することもできる。
【0042】
図4に示すように、試験体6は、木製部材3を模した木片63と、デッキプレート4を模した鋼板64と、とが接合具65により接合されて構成される。試験体6は、木片63を挟んで
図4中の紙面手前側と奥側とに鋼板64を一対配置し、接合具65により接合されて構成される。木片63として、無等級のスギ製材を用いた。鋼板64として、厚さ1.2mmの鋼板を用いた。鋼板64は、降伏強度が333(N/mm
2)、引張強度が473(N/mm
2)、伸びが33.0%の鋼板を用いた。接合具65として、φ6mm、首下長さ50mmのドリリングタッピングねじを用いた。
【0043】
試験体6は、木片63の繊維方向に平行に加力する第1試験体61と、木片63の繊維直交方向に平行に加力する第2試験体62と、の2種類の試験体が用いられる。第1試験体61では、加力方向に沿って接合具65を3箇所設けた。第2試験体62では、加力方向に直交する方向に沿って接合具65を2箇所設けた。第1試験体61と第2試験体62とは、それぞれ6体ずつ作製し、第1試験体61と第2試験体62とのそれぞれに対してせん断試験を行う。
【0044】
せん断試験は、非特許文献1(木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.305~313参照)の継手・仕口接合部の試験方法に準じた一方向繰り返し載荷とした。木片63と鋼板64との相対変位δを計測し、降伏変位δyの固定数列方式(δyの1/2倍、1倍、2倍、4倍、6倍、・・・)で各1回の一方向変位を与え、最大荷重の80%に低下するまで載荷した。せん断試験により1つの接合具65当たりの相対変位δと荷重との関係を取得することができる。
【0045】
試験結果は、試験体6のせん断特性(試験体6の許容せん断耐力と試験体6のせん断剛性)を含む。試験結果は、第1試験体61の木片63(木製部材)の繊維方向の第1せん断特性と、第2試験体62の木片63(木製部材)の繊維直交方向の第2せん断特性と、を含む。第1せん断特性は、第1許容せん断耐力jq0と、第1せん断剛性jk0と、を含む。第2せん断特性は、第2許容せん断耐力jq90と第2せん断剛性jk90と、を含む。試験結果は、せん断試験により得られる相対変位δと荷重との関係を含んでもよい。試験結果は、試験体6の降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxとを含んでもよい。
【0046】
試験体6のせん断特性(許容せん断耐力とせん断剛性)は、非特許文献1(木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.305~313参照)の評価方法に準じて評価できる。
【0047】
試験体6のせん断特性は、せん断試験により得られる相対変位δと荷重との関係に基づき、評価される。詳細には、
図5に示すように、先ずせん断試験により得られる相対変位δと荷重との関係における包絡線Eにおいて、(1)包絡線E上の0.1×最大耐力P
maxと、0.4×最大耐力P
maxを結ぶ第1直線L1を引く。(2)包絡線E上の0.4×最大耐力P
maxと、0.9×最大耐力P
maxを結ぶ第2直線L2を引く。(3)包絡線Eに接するまで第2直線L2を平行移動し、これを第3直線L3とする。(4)第1直線L1と第3直線L3との交点の荷重を試験体6の降伏耐力P
yとする。(5)降伏耐力P
yを横軸に平行に伸ばした第4直線L4と、包絡線Eとの交点における相対変位δを試験体6の降伏変位δ
yとする。(6)相対変位δと荷重との関係の原点(0、0)と、(δ
y、P
y)とを結ぶ第5直線L5とし、その勾配を試験体6のせん断剛性kとする。
【0048】
第1試験体61と第2試験体62のそれぞれについて、せん断試験により得られる相対変位δと荷重との関係に基づき、せん断剛性と降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxと評価する。
【0049】
表1に、せん断試験により取得されるせん断剛性と降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxと変動係数CVと、を示す。表1に示すせん断剛性と降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxとは、6体の試験体の平均値である。
【0050】
【0051】
第1許容せん断耐力jq0は、第1試験体61の降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxとばらつき係数βとに基づいて、以下の数式(5)により算出する。数式(5)では、第1試験体61の降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxは、6体の第1試験体61の平均値を用いることができる。第2許容せん断耐力jq90は、第1試験体61の降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxとばらつき係数βとに基づいて、以下の数式(6)により算出する。数式(6)では、第2試験体62の降伏耐力Pyと最大耐力Pmaxは、6体の第2試験体62の平均値を用いることができる。
【0052】
試験体6の許容せん断耐力(第1許容せん断耐力jq0と第2許容せん断耐力jq90)は、例えば試験体6の降伏耐力Pyにばらつき係数βを乗じた値と、試験体6の最大耐力Pmax×2/3にばらつき係数βを乗じた値、の何れか小さい方とする。これらの何れか小さい方を用いることにより、試験体6の許容せん断耐力を安全側で評価することが可能となる。
【0053】
【数3】
jq
0:第1せん断耐力
P
y:第1試験体の降伏耐力
P
max:第1試験体の最大耐力
β:ばらつき係数
【0054】
【数4】
jq
90:第2せん断耐力
P
y:第2試験体の降伏耐力
P
max:第2試験体の最大耐力
β:ばらつき係数
【0055】
ばらつき係数βは、母集団の分布形を正規分布とみなし、統計処理に基づく信頼水準75%における50%下側許容限界値に基づき、例えば以下の数式(7)により表される。
【0056】
【数5】
(ここで、変動係数CVは、標準偏差/平均値であり、k
50%は、信頼水準75%における50%下側許容限界値を求めるための係数である。試験体員数が6の場合、k
50%=0.297である。)
【0057】
ここで、一般的に継手・仕口部等の接合部試験では信頼水準75%における95%下側許容限界値を用いることが、実物大の構造躯体を用いた実大試験では信頼水準75%における50%下側許容限界値を用いることが、慣例である。この点、本発明では実大試験の評価を2つの過程に分割しているため、実大試験の評価に準じることが妥当と判断される。したがって、本実施形態では信頼水準75%における50%下側許容限界値を用いることとした。これにより、より実大試験に近い形で、試験体6の許容せん断耐力を評価することが可能となる。
【0058】
表1、数式(5)~数式(7)に基づいて、せん断試験の試験結果として、第1許容せん断耐力jq0と、第1せん断剛性jk0と、第2許容せん断耐力jq90と、第2せん断剛性jk90と、を表2に示す。せん断試験の試験結果は、後述する接合部5の許容せん断耐力jqを算出する算出工程S310で用いる。
【0059】
【0060】
<モデル作成工程S210>
モデル作成工程S210では、算出部12により有限要素解析モデルMを作成する。有限要素解析モデルMは、後述する算出工程S310において、木製部材3の繊維方向に対する接合部5の主応力の回転量を算出するために用いられる。なお、予め有限要素解析モデルMが作成されている場合には、モデル作成工程S210を省略することもできる。
【0061】
有限要素解析モデルMは、公知の有限要素解析ソフトを用いて作成することができる。本実施形態では、非線形有限要素解析ソフトウェアであるMSCSoftware製Marcを用いて、有限要素解析を行う。
図6に示すように、有限要素解析モデルMは、構造躯体1の水平構面をモデル化したものであり、木製部材3とデッキプレート4との接合部5をバネ要素とする。また、有限要素解析モデルMは、木製部材3を梁要素とし、デッキプレート4をシェル要素とし、デッキプレート4相互の接合部をバネ要素とする。バネ要素の配置は、デッキプレート4の幅方向については各谷部に2箇所(平均値換算で150mm間隔)、デッキプレート4の長手方向に150mm間隔とする。デッキプレート4相互の接合部についても同様に、150mm間隔とする。有限要素解析モデルMの接合部5のバネ要素の第1方向Xにおける数を
jhnとし、第2方向Yにおける数を
jvnとする。
【0062】
なお、上記の有限要素解析モデルMでは、木製部材3とデッキプレート4との接合部5のバネ要素の配置を150mm間隔としたが、例えば50mm~600mmの範囲で設定することもできる。また、上記の有限要素解析モデルMでは、デッキプレート4相互の接合部のバネ要素の配置を150mm間隔としたが、例えば50mm~600mmの範囲で設定することもできる。
【0063】
境界条件は、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、一方の木製部材31に第1方向Xに強制変位を与える単調載荷とし、他方の木製部材31は、固定した。木製部材3の仕口部は、ピン接合とし、高さ方向Zへの面外変位を拘束した。
【0064】
解析変数は、水平構面のアスペクト比H/Lとし、H/L=0.33、1.0、3.0の3仕様(モデルM-1~モデルM-3)とした。水平構面の第1方向Xの長さL=3,000mmで統一し、水平構面の第2方向Yの長さH=1,000mm、3,000mm、9,000mm、とした。表3に、本実施形態における有限要素解析モデルMの一覧を示す。
【0065】
【0066】
<算出工程S310>
算出工程S310は、試験体6の試験結果を有限要素解析モデルMに反映することで、接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。算出工程S310は、モデル作成工程S210において作成した有限要素解析モデルMが記憶されたコンピュータ(算出装置100)に、せん断試験工程S110において取得した試験体6の試験結果等の各種情報をオペレータが入力する。算出工程S310は、取得部11によりコンピュータに試験体6の試験結果等の各種情報を取得し、算出部12により接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。算出工程S310は、試験体6の試験結果等の各種情報を有限要素解析モデルMに反映することで、算出部12により接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。
【0067】
算出工程S310は、第1工程S311と、第2工程S312と、第3工程S313と、第4工程S314と、第5工程S315と、を有する。
【0068】
<<第1工程S311>>
第1工程S311は、第1せん断特性と第2せん断特性と水平構面の第1アスペクト比H/Lとに基づいて、木製部材3の繊維方向に対する接合部5の主応力方向の回転量Δθを有限要素解析により算出する。回転量Δθは、後述する接合部5の許容せん断耐力補正値jqθを算出する第2工程S312で用いる。有限要素解析を行うアスペクト比を第1アスペクト比H/Lともいう。
【0069】
先ず、第1工程S311は、有限要素解析モデルMが記憶されたコンピュータが試験体6の試験結果を取得する。接合部5のバネ要素のせん断剛性は、せん断試験工程S110により取得された試験結果における、試験体6の第1せん断剛性jk0と、第2せん断剛性jk90と、を用いる。
【0070】
有限要素解析モデルMの接合部5のバネ要素については、木製部材3の繊維方向と繊維軸直交方向とについて復元力を有する2方向バネでモデル化されている。ここで、木製部材3の材軸方向は繊維方向に沿い、木製部材3の材軸直交方向は繊維直交方向に沿うことを前提としている。このため、第1工程S311は、取得した第1せん断剛性jk0を接合部5のバネ要素の木製部材3の材軸方向(繊維方向)のせん断剛性として設定する。また、第1工程S311は、取得した第2せん断剛性jk90を接合部5のバネ要素の木製部材3の材軸直交方向(繊維直交方向)のせん断剛性として設定する。
【0071】
また、デッキプレート4相互の接合部のバネ要素については、外力によってデッキプレート4がずれる方向にあたる第2方向Yに復元力を有する1方向バネでモデル化されている。デッキプレート4相互の接合部のバネ要素のせん断剛性は、木製部材3とデッキプレート4との接合部5の変形が支配的となるように、接合部5のバネ要素のせん断剛性よりも大きくなるように設定する。表4に、バネ要素のせん断剛性の一覧を示す。
【0072】
【0073】
次に、第1工程S311は、第1せん断特性と第2せん断特性と水平構面の第1アスペクト比H/Lとに基づいて、木製部材3の繊維方向に対する接合部5の主応力方向の回転量Δθを、有限要素解析モデルMを用いた有限要素解析により算出する。第1工程S311は、モデルM-1~モデルM-3の各々の接合部5について、回転量Δθを算出する。
【0074】
図7(a)は、上辺側の木製部材31の接合部5の位置と回転量Δθの絶対値の関係を表す図であり、
図7(b)は、下辺側の木製部材31の接合部5の位置と回転量Δθの絶対値の関係を表す図である。
図8(a)は、左辺側の木製部材32の接合部5の位置と回転量Δθの絶対値の関係を表す図であり、
図8(b)は、右辺側の木製部材32の接合部5の位置と回転量Δθの絶対値の関係を表す図である。
【0075】
図7及び
図8に示すように、各辺において、中央付近では回転量Δθの絶対値が概ね0°付近に分布し、木製部材3の繊維方向(木製部材3の材軸方向)とせん断力方向が一致することが確認できる。端部に近づくにつれて回転量Δθの絶対値が増加し、せん断力方向が木製部材3の繊維方向に対して一定の角度を生じることが確認できる。また、端部付近の回転量Δθの絶対値はアスペクト比H/Lの短辺方向ほど大きいことが確認できる。
【0076】
<<第2工程S312>>
第2工程S312は、第1許容せん断耐力
jq
0と第2許容せん断耐力
jq
90と回転量Δθの絶対値とに基づいて、接合部5の主応力を繊維方向に補正した許容せん断耐力補正値
jq
θを算出する。
図9に、接合部5の許容せん断耐力補正値
jq
θの概念の一例を示す。
図9に示すように、接合部5の主応力を木製部材3の繊維方向に補正した許容せん断耐力補正値
jq
θとして評価する。
【0077】
許容せん断耐力補正値jqθは、「木質構造設計規準・同解説-許容応力度・許容耐力設計法-」日本建築学会、2006年12月発行、p.217~218に記載に基づき、第1許容せん断耐力jq0と第2許容せん断耐力jq90と回転量Δθの絶対値とに基づいて、以下の数式(8)により算出される。許容せん断耐力補正値jqθは、各々の接合部5について算出する。
【0078】
【数6】
jq
θ:許容せん断耐力補正値
jq
0:第1許容せん断耐力
jq
90:第2許容せん断耐力
n:階乗の指数(n=2)
Δθ:接合部5の回転量
【0079】
<<第3工程S313>>
第3工程S313は、許容せん断耐力補正値jqθと第1許容せん断耐力jq0と接合部数jnとに基づき、第1アスペクト比に応じた耐力補正係数αを、以下の数式(9)により算出する。以下の数式(9)では、各々の接合部5の許容せん断耐力補正値jqθを接合部5の数で平均して和算した値を、第1許容せん断耐力jq0で除した値を耐力補正係数αとする。数式(9)における接合部5の数jnは、有限要素解析モデルMの接合部5のバネ要素の数である。
【0080】
【数7】
α:耐力補正係数
jn:木製部材3における接合部5の数(
jhn、又は、
jvn)
【0081】
表5に、モデルM-1における接合部5の数jnと、Σ許容せん断耐力補正値jqθ/jnと、耐力補正係数αと、を示す。表6に、モデルM-2における接合部5の数jnと、Σ許容せん断耐力補正値jqθ/jnと、耐力補正係数αと、を示す。表7に、モデルM-3における接合部5の数jnと、Σ許容せん断耐力補正値jqθ/jnと、耐力補正係数αと、を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
図10(a)は、水平構面の第1アスペクト比と、木製部材31における接合部5の耐力補正係数αとの関係を示す。
図10(b)は、水平構面の第1アスペクト比と、木製部材32における接合部5の耐力補正係数αとの関係を示す。第3工程S313は、水平構面の第1アスペクト比と、耐力補正係数αとの関係を例えば回帰式として評価し、評価した回帰式と任意のアスペクト比とに基づいて、当該任意のアスペクト比に応じた耐力補正係数αを算出してもよい。例えば、上記のモデルM-1~モデルM-3により、
回帰式(上下辺側):耐力補正係数α=0.8894×(アスペクト比H/L)
-0.042
回帰式(左右辺側):耐力補正係数α=0.0279×ln{(アスペクト比H/L)}+0.9708
が得られる。なお、回帰式は、曲線でもよいし、直線でもよい。
【0086】
表8に、回帰式に基づいてアスペクト比に応じた耐力補正係数αを示す。
【0087】
【0088】
表8に示すように、評価した回帰式と任意のアスペクト比とに基づいて、当該任意のアスペクト比に応じた耐力補正係数αを算出できる。すなわち、有限要素解析を行った第1アスペクト比H/L(0.33、1.0、3.0)以外の任意のアスペクト比H/Lであっても、アスペクト比に応じた耐力補正係数αを算出できる。
【0089】
第3工程S313は、所定のアスペクト比H/L(例えばアスペクト比H/L=1.0)については、数式(9)により算出した耐力補正係数αと、回帰式に基づいて算出した耐力補正係数αと、を取得できる。この場合、上記数式(9)により算出した耐力補正係数αと、回帰式に基づいて算出した耐力補正係数αと、の何れか小さい方を用いることが好ましい。これにより、後述する接合部5の許容せん断耐力jqを安全側で算出することが可能となる。
【0090】
<<第4工程S314>>
第4工程S314は、第1許容せん断耐力jq0と耐力補正係数αとに基づいて、接合部5の許容せん断耐力jqを、以下の数式(4)により算出する。
【0091】
【0092】
<<第5工程S315>>
第5工程S315は、接合部5の許容せん断耐力jqと、木製部材3上における接合部5の数とに基づいて、水平構面の許容せん断耐力gQを、以下の数式(1)~(3)により算出する。
【0093】
詳細には、第5工程S315は、接合部5の許容せん断耐力jqと、木製部材31上における接合部5の数jhnとに基づいて、水平構面の木製部材31とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力jhQを、以下の数式(2)により算出する。また、第5工程S315は、接合部5の許容せん断耐力jqと、木製部材32上における接合部5の数jvnと、アスペクト比H/Lと、に基づいて、水平構面の木製部材32とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力jvQを、以下の数式(3)により算出する。そして、第5工程S315は、数式(2)により算出した許容せん断耐力jhQと、数式(3)により算出した許容せん断耐力jvQと、の何れか小さい方を、水平構面の許容せん断耐力gQとして以下の数式(1)により算出する。数式(2)における接合部5の数jhnと、数式(3)における接合部5の数jvnとは、実際に構築するべき構造躯体1における接合部5の数である。
【0094】
【数9】
gQ:水平構面の許容せん断耐力
jhQ:水平構面の木製部材31とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力
jvQ:水平構面の木製部材32とデッキプレート4との接合部5の水平変形による許容せん断耐力
jhn:木製部材31における接合部5の数
jvn:木製部材32における接合部5の数
jq:接合部5の許容せん断耐力
L/H:水平構面のアスペクト比の逆数
【0095】
以上により、許容せん断耐力算出方法の一例が完了する。
【0096】
次に、本発明に係る許容せん断耐力算出方法による許容せん断耐力の妥当性を、実大試験による許容せん断耐力と比較し、説明する。
【0097】
図11に実大試験体8の概要を示す。実大試験用の実大試験体8は、L=3000mm×H=3072.5mmとし、アスペクト比H/L=1.0とした。面材にデッキプレート(板厚1.2mm、せい50mm)、支持部材に木製部材としてのスギ製材(無等級、105mm×150mm)を用いる。デッキプレートの機械的性質として、降伏強度が345(N/mm
2)、引張強度が464(N/mm
2)、伸びが36.4%であった。デッキプレートと支持部材はドリリングタッピンねじ(φ6-50mm)を用いて200mm間隔で接合した。デッキプレート幅方向(第1方向X)の支持部材とデッキプレートとの接合部の数
jhn=15とし、デッキプレートスパン方向(第2方向Y)の支持部材とデッキプレートとの接合部の数
jvn=14とした。デッキプレート相互はドリリングタッピンねじ(φ6-19mm)を用いて200mm間隔で接合した。仕口部は短ほぞN90くぎ2本打ち、ホールダウン金物締めとし、仕口部が先行破壊しないようにした。
【0098】
実大試験の試験方法は、非特許文献1(木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.298~299参照)の試験方法に準じて行った。実大試験の試験方法は、鉛直構面及び水平構面の剛性と許容せん断耐力を算定するための試験に準じた正負交番繰返し載荷とした。支持部材下部を固定し、支持部材上部に強制変位を与えて載荷した。見かけのせん断変形角γ(rad)が1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50を各3回行い、最大荷重の80%に低下するまで載荷した。変位測定は、一方の支持部材(強制変位を与えた支持部材)の水平変位δ1と、他方の支持部材の水平変位δ2と、他方の支持部材の鉛直変位δ3、δ4を計測した。以下の数式(10)~(12)式で示すせん断変形角を算出した。なお、δ1、δ2は2つの計測点の平均値とする。
【0099】
【数10】
δ1:一方の支持部材の水平変位
δ2:他方の支持部材の水平変位
H:デッキプレートスパン方向の水平構面の長さ
δ3:他方の支持部材の一端側の鉛直変位
δ4:他方の支持部材の他端側の鉛直変位
L:デッキプレート幅方向の水平構面の長さ
γ:見かけのせん断変形角
θ:脚部のせん断変形角
γ
0:真のせん断変形角
【0100】
本実大試験では、実大試験体8についての包絡線を作成し、水平構面の許容せん断耐力(比較例による許容せん断耐力と表記する)を算出した。比較例による許容せん断耐力は、正負交番載荷において最終破壊させた側の荷重-変形角曲線より、非特許文献1(木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」公益財団法人日本住宅木材技術センター出版、2017年3月発行、p.300~301参照)の手法にて算出した。本実大試験による降伏耐力Pyを、比較例による許容せん断耐力とした。
【0101】
比較例では、真のせん断変形角γ0が1/100radを超えた後に荷重低下が生じ、載荷を終了した。その結果、比較例による許容せん断耐力=33.3(kN)となった。
【0102】
一方、本発明例による水平構面の許容せん断耐力gQを算出する際には、アスペクト比H/L=1.0であるモデルM-2を用いた。表6を参照し、木製部材31上の接合部5については、耐力補正係数α=0.898とし、木製部材32上の接合部5については、耐力補正係数α=0.971とした。表2を参照し、第1許容せん断耐力jq0=2.56(kN)とした。
【0103】
上記数式(4)を参照し、木製部材31上の接合部5の許容せん断耐力jq=2.56(kN)×0.898=2.30(kN)となる。上記数式(4)を参照し、木製部材32上の接合部5の許容せん断耐力jq=2.56(kN)×0.971=2.49(kN)となる。このように、有限要素解析モデルMを用いて、該モデル上における接合部5の1箇所当たりの許容せん断耐力jqを算出する。
【0104】
本発明例による水平構面の許容せん断耐力gQを、上記数式(1)~(3)により、算出する。上記したように、比較例としての実大試験体8においては、デッキプレート幅方向(第1方向X)の支持部材とデッキプレートとの接合部の数jhn=15である。このため、数式(2)を参照し、jhQ=2.30(kN)×15=34.5(kN)となる。同様に、比較例としての実大試験体8においては、デッキプレートスパン方向(第2方向Y)の支持部材とデッキプレートとの接合部の数jn=14である。このため、数式(3)を参照し、jvQ=2.49(kN)×14×1.0=34.9(kN)となる。本発明では、算出した許容せん断耐力jqを、実際の構造躯体1の接合部5の1箇所当たりの許容せん断耐力と仮定している。したがって、算出した接合部5の許容せん断耐力jqと、実際に算出すべき構造躯体1(上記の例では実大試験体8)の接合部5の数jnと、を乗算することにより、水平構面の許容せん断耐力jhQと許容せん断耐力jvQとをそれぞれ算出する。
【0105】
数式(1)を参照し、本発明例による水平構面の許容せん断耐力gQ=34.5(kN)となる。
【0106】
表9に、本発明例による許容せん断耐力gQと、比較例による許容せん断耐力と、を示す。
【0107】
【0108】
表9より、比較例による許容せん断耐力は、33.3(kN)であり、本発明例による許容せん断耐力gQは、34.5(kN)であり、比較例による許容せん断耐力は、本発明例による許容せん断耐力gQに対して0.97倍であった。以上より、本発明によれば、水平構面の許容せん断耐力gQを、実大試験により精度良く評価できることが確認された。
【0109】
本実施形態によれば、算出工程S310は、試験体の試験結果と、有限要素解析モデルMとに基づいて、接合部5の許容せん断耐力jqをコンピュータにより算出する。これにより、実大試験を行う手間を低減し、接合部5の許容せん断耐力jqを算出できる。このため、必要な労力を低減することが可能となる。
【0110】
本実施形態によれば、算出工程S310は、試験体6の試験結果を有限要素解析モデルMに反映することで、接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。これにより、接合部5の許容せん断耐力jqを精度よく算出できる。このため、構造躯体1の許容せん断耐力を高い精度で算出することが可能となる。
【0111】
本実施形態によれば、試験体6の試験結果は、試験体6の木製部材の繊維方向の第1せん断特性と、試験体6の木製部材の繊維直交方向の第2せん断特性と、を含み、算出工程S310は、第1せん断特性と第2せん断特性と有限要素解析モデルMとに基づいて、接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。これにより、木製部材3の異方性を考慮した接合部5の許容せん断耐力jqを算出できる。このため、構造躯体1の許容せん断耐力をより高い精度で算出することが可能となる。
【0112】
本実施形態によれば、算出工程S310は、水平構面のアスペクト比H/Lに基づいて、接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。これにより、水平構面のアスペクト比H/Lを考慮した接合部5の許容せん断耐力jqを算出できる。このため、アスペクト比に応じた実大試験を行う労力を低減できる。このため、必要な労力を更に低減することが可能となる。
【0113】
本実施形態によれば、アスペクト比H/Lは、0.33以上3.0以下である。これにより、水平構面として汎用的に用いられるアスペクト比H/Lを考慮した接合部5の許容せん断耐力jqを算出できる。このため、必要な労力を更に低減することが可能となる。
【0114】
本実施形態によれば、算出工程S310の前に、試験体6にせん断試験を行うせん断試験工程S110を更に備える。これにより、せん断試験の試験結果に基づいて接合部5の許容せん断耐力jqを算出できる。このため、構造躯体1の許容せん断耐力をより高い精度で算出することが可能となる。
【0115】
本実施形態によれば、第1許容せん断耐力jq0と耐力補正係数αとに基づいて、接合部5の許容せん断耐力jqを算出する。これにより、有限要素解析に基づく接合部5の許容せん断耐力jqを、実大試験により算出される許容せん断耐力に対して精度良く算出できる。このため、構造躯体1の許容せん断耐力を適切に算出することが可能となる。
【0116】
本実施形態によれば、算出工程S310は、複数の第1アスペクト比H/Lと第1アスペクト比H/Lに応じた耐力補正係数αとの関係を評価し、評価した関係と任意の第2アスペクト比H/Lとに基づいて、第2アスペクト比H/Lに応じた耐力補正係数αを算出する。これにより、有限要素解析を行わない任意の第2アスペクト比についても、許容せん断耐力を算出できる。このため、必要な労力を更に低減することが可能となる。
【0117】
本実施形態によれば、試験体6の木製部材の繊維方向の降伏耐力にばらつき係数βを乗じた値と、最大耐力の2/3にばらつき係数βを乗じた値と、の何れか小さい方であり、第2許容せん断耐力は、試験体6の木製部材の繊維直交方向の降伏耐力にばらつき係数βを乗じた値と、最大耐力の2/3にばらつき係数βを乗じた値と、の何れか小さい方である。これにより、より実大試験に近い形で、試験体6の許容せん断耐力を評価することができる。このため、構造躯体1の許容せん断耐力をより高い精度で算出することが可能となる。
【0118】
本実施形態によれば、接合部5の許容せん断耐力jqと、木製部材3上における接合5部の数jnとに基づいて、水平構面の許容せん断耐力gQを算出する。これにより、従来は実大試験結果から算出していた水平構面の許容せん断耐力を数式表現が可能となり、水平構面の許容せん断耐力gQを数値計算で算出することが可能となる。このため、必要な労力を更に低減することが可能となる。
【0119】
また、本実施形態によれば、接合部5の許容せん断耐力jqと、木製部材3上における接合5部の数jnとに基づいて、水平構面の許容せん断耐力gQを算出する。接合部5の1箇所当たりの許容せん断耐力jqが算出されていることから、接合部5の数を変更する場合であっても、接合部5の数に応じて容易に水平構面の許容せん断耐力gQを算出できる。
【0120】
次に構造躯体の構築方法の一例について説明する。
図14は、構造躯体の構築方法のフローチャートの一例を示す。
【0121】
構造躯体の構築方法は、木製部材3で構成される骨組み構造2とデッキプレート4とにより構成される水平構面を備えた構造躯体1を構築する方法である。
【0122】
構造躯体の構築方法は、算出工程S310と、判定工程S410と、設定工程S510と、構築工程S610と、を備える。構造躯体の構築方法は、例えばせん断試験工程S110と、モデル作成工程S210を更に備えてもよい。なお、せん断試験工程S110と、モデル作成工程S210と、算出工程S310については、上述した許容せん断耐力算出方法と同様の内容に関しては、適宜説明を省略する。
【0123】
<判定工程S410>
判定工程S410は、算出工程S310において算出した水平構面の許容せん断耐力gQが、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回るか否かを判定する。判定工程S410では、水平構面の許容せん断耐力gQが水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る場合、次の設定工程S510を行う。判定工程S410では、水平構面の許容せん断耐力gQが水平構面に必要とされるせん断力Qを上回らない場合、構築条件としての接合部5の数jnとアスペクト比H/Lの少なくとも何れかを変更して、再度算出工程S310を行って水平構面の許容せん断耐力gQを算出する。水平構面の許容せん断耐力gQが水平構面に必要とされるせん断力Qを上回らない場合、適宜条件を変更してせん断試験工程S110、モデル作成工程S210を再度行った上で、算出工程S310を行って水平構面の許容せん断耐力gQを算出してもよい。このように、判定工程S410では、構造躯体1の保有性能としての水平構面の許容せん断耐力gQが、構造躯体1の要求性能としての水平構面のせん断力Qを上回るか否かを判定する。水平構面に必要とされるせん断力Qは、例えば構造躯体1に作用する地震力等の外力に基づいて、適宜設定される。
【0124】
<設定工程S510>
設定工程S510は、水平構面の許容せん断耐力gQが水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る場合、構造躯体1を構築する際の構築条件を設定する。構築条件は、例えば接合部5の数jnと、アスペクト比H/Lを含む。
【0125】
設定工程S510は、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る水平構面の許容せん断耐力gQと、算出工程S310において算出した接合部5の許容せん断jqと、に基づいて、構築条件として接合部5の数jn(jhn、jvn)を設定する。設定工程S510は、例えば接合部5の数jn≧gQ/jqに基づき、構築条件として接合部5の数jnを設定する。設定工程S510では、jn≧gQ/jqを満たす接合部5の数jnの自然数の最小値よりも大きな値を設定することにより、例えば構造躯体1の設計において安全率を見込んでおくことが可能となる。設定工程S510は、例えばgQ/jq=13.5であった場合、構築条件として接合部5の数jn≧14とすればよい。この場合、設定工程S510は、例えば接合部5の数jhn=15、接合部5の数jvn=14を構築条件として設定する。
【0126】
設定工程S510は、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る水平構面の許容せん断耐力gQに紐づくアスペクト比H/Lを構築条件として設定する。設定工程S510は、例えばアスペクト比H/L=1.0としたときの耐力補正係数αに基づいて接合部5の許容せん断耐力jqを算出し、算出した接合部5の許容せん断耐力jqに基づいて水平構面の許容せん断耐力gQ(jhQ、jvQ)を算出した場合、水平構面の許容せん断耐力gQに紐づくアスペクト比H/Lとしてアスペクト比H/L=1.0を構築条件として設定する。
【0127】
<構築工程S610>
構築工程S610は、設定工程S510において設定した構築条件に基づき、構造躯体1を構築する。
【0128】
構築工程S610は、設定工程S510において設定した接合部の数jnを満たす構造躯体1を構築する。構築工程S610は、例えば設定工程S510において接合部5の数jhn=15、接合部5の数jvn=14を構築条件として設定した場合、接合部5の数jhn=15、接合部5の数jvn=14を満たす構造躯体1を構築する。
【0129】
構築工程S610は、設定工程S510において設定したアスペクト比H/Lを満たす構造躯体1を構築する。構築工程S610は、設定工程S510においてアスペクト比H/L=1.0を構築条件として設定した場合、アスペクト比H/L=1.0を満たす構造躯体1を構築する。
【0130】
特に、本実施形態によれば、判定工程S410は、算出した水平構面の許容せん断耐力gQが、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回るか否かを判定し、設定工程S510は、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る水平構面の許容せん断耐力gQと、接合部5の許容せん断耐力jqとに基づいて、構造躯体1を構築する際の構築条件として接合部5の数jn(jhn、jvn)を設定し、構築工程S610は、設定工程S510において設定した接合部の数jnを満たす構造躯体1を構築する。これにより、接合部5の数jnを変更する場合であっても、実大試験を行う手間を低減でき、算出した水平構面の許容せん断耐力gQが、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回るか否かを迅速に判定できる。このため、必要な労力を低減することが可能となる。また、要求される性能を満たす構造躯体1を構築することが可能となる。
【0131】
特に、本実施形態によれば、判定工程S410は、算出した水平構面の許容せん断耐力gQが、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回るか否かを判定し、設定工程S510は、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回る水平構面の許容せん断耐力gQに紐づくアスペクト比H/Lを構築条件として設定し、構築工程S610は、設定工程S510において設定したアスペクト比H/Lを満たす構造躯体1を構築する。これにより、アスペクト比H/Lを変更する場合であっても、実大試験を行う手間を低減でき、算出した水平構面の許容せん断耐力gQが、水平構面に必要とされるせん断力Qを上回るか否かを迅速に判定できる。このため、必要な労力を低減することが可能となる。また、要求される性能を満たす構造躯体1を構築することが可能となる。
【0132】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、この発明は、上記の実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記の実施形態は、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0133】
1 :構造躯体
2 :骨組み構造
3 :木製部材
31 :木製部材
32 :木製部材
4 :デッキプレート
5 :接合部
6 :試験体
61 :第1試験体
62 :第2試験体
63 :木片
64 :鋼板
65 :接合具
8 :実大試験体
M :有限要素解析モデル
S110 :せん断試験工程
S210 :モデル作成工程
S310 :算出工程
S311 :第1工程
S312 :第2工程
S313 :第3工程
S314 :第4工程
S315 :第5工程
S410 :判定工程
S510 :設定工程
S610 :構築工程
X :第1方向
Y :第2方向
Z :高さ方向