(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177711
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】印字ドット乾燥装置、印字ドット乾燥方法、および印刷システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090537
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】坪内 繁貴
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EA04
2C056EB13
2C056EB30
2C056EC13
2C056EC29
2C056HA47
(57)【要約】
【課題】 熱による商品の変性等の劣化を抑制しつつ印字ドットの蒸発を敏速に行うことが可能な装置、方法、およびシステムを提供することである。
【解決手段】 物品上に形成された印字ドットを乾燥させる乾燥装置を有する印字ドット乾燥装置は100、前記印字ドットに対し空気を吹き付ける送風装置50と、物品(商品)の温度を検出する温度センサ12と、送風装置が送風する空気の温度を制御する制御装置70とを備えている。そして、制御装置70は、その物品を保管する保管温度以下になるように、送風装置の空気温度を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に形成された印字ドットを乾燥させる乾燥装置を有する印字ドット乾燥装置であって、
前記乾燥装置は、
前記物品に対し空気を送風する送風装置と、
前記物品あるいはその近傍の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサが検出した前記温度を入力し、前記空気の温度が前記物品の保管温度以下になるように前記送風装置を制御する制御装置と、
を備えている印字ドット乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記乾燥装置は、前記送風装置とは別に、前記印字ドットを加熱する加熱装置を備えていることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項3】
請求項2に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記加熱装置は、前記印字ドットに対し光を照射して加熱する光加熱装置であることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項4】
請求項2に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記加熱装置は、電磁波誘導加熱を利用したものであることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項5】
請求項2に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記加熱装置は、マイクロ波を照射して加熱するものであることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項6】
請求項1に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記乾燥装置は、前記印字ドットあるいはその近傍を減圧する減圧機構を有することを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項7】
請求項3に記載された印字ドット乾燥装置において、
前記光は赤外光であり、波長が2780~3130nmまたは5500~6250nmであることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項8】
請求項1に記載された印字ドット乾燥装置において、
印字ドットを形成するインクの溶剤は、ケトン系溶剤またはアルコール溶剤であることを特徴とする印字ドット乾燥装置。
【請求項9】
インクジェット記録装置と印字ドット乾燥装置とを備えたインクジェットプリンタにおいて、
前記印字ドット乾燥装置は、請求項1に記載の印字ドット乾燥装置であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項10】
インクジェットプリンタにより溶剤を含むインクで物品に印字された印字ドットを乾燥させる印字ドット乾燥方法であって、
前記物品あるいはその近傍における温度を検出し、
前記温度を用いて、前記物品の保管温度以下となる温度に調整された空気を前記物品に吹き付けるようにした、印字ドット乾燥方法。
【請求項11】
請求項10に記載された印字ドット乾燥方法において、さらに、加熱装置により前記印字ドットを加熱することを特徴とする印字ドット乾燥方法。
【請求項12】
請求項10に記載された印字ドット乾燥方法において、
前記加熱は、光を前記印字ドットに照射する光加熱であることを特徴とする印字ドット乾燥方法。
【請求項13】
請求項12に記載された印字ドット乾燥方法において、
前記光は、赤外線であることを特徴とする印字ドット乾燥方法。
【請求項14】
物品にドット状のインクを飛翔させ印刷を行うプリンタと、前記物品に印字された印字ドットを乾燥させる乾燥装置と、を含む印刷システムであって、
前記乾燥装置は、
前記物品に対し空気を送風する送風装置と、
前記物品あるいはその近傍における温度を検出する温度センサと、
前記温度センサが検出した前記温度を入力し、前記空気の温度を前記物品の保管温度以下の温度になるように前記送風装置を制御する制御装置と、
を備えている印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字ドット乾燥装置、印字ドット乾燥方法、および印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドット状のインク(インク粒子)を被印字物(物品)の表面に飛翔着弾させて印刷を行うインクドットプリンタは、生産ラインにおける物品への商品名、製造日等の印刷など、産業用に広く採用されている。このような産業用のインクジェットプリンタには、帯電制御方式のインクジェットプリンタ(連続式インクジェットプリンタ)、或いはドットオンデマンド(DOD)方式のインクジェットプリンタが多用されている。このようなインクジェットプリンタにおいて、印刷に使用するインクは、液体であり、溶剤が含まれているのが一般的である。
【0003】
帯電制御方式のインクジェットプリンタに使用されるインクの溶剤は、2-ブタノン、アセトン、3-メチル-2-ブタノン等の「ケトン系溶剤」、或いはエタノール、メタノール、2-プロパノール等の「アルコール溶剤」が多く用いられている。これらは水に比べると蒸発しやすいが、印字ドット表面から溶剤が蒸発すると、印字ドット表面にインクの固形分からなる皮膜が形成され、これが溶剤の蒸発を妨げるため完全に蒸発させるにはかなりの長時間を要する。一方、DOD方式のインクジェットプリンタに使用されるインクの溶剤は、水やセロソルブ系の高沸点溶剤が多く使われている。
【0004】
物品に印刷された文字等を形成するドットは、印字(印刷)後に印字ドットに含まれる溶剤が蒸発することにより固化され安定した状態になる(定着する)。ここで、本明細書では、情報(文字、記号等)を形成する物品上に印刷されたドット状のインクの粒のことを、「印字ドット」と称する。印字ドットは、印刷直後はインクが液状であり、その後時間の経過とともにインクに含まれる溶剤が蒸発(揮発)して定着する。この溶剤の蒸発にはある程度の時間を必要とするので、所定時間が経過するまでは、印字部に触らないなどの慎重な対応が必要となる。例えば、物品の箱詰などの作業を行うには、印刷してから一定時間経過後でないと物品に印刷された情報の品質が劣化する。
【0005】
特に、印刷する物品が樹脂フィルム、樹脂板、金属、ガラス等の基材の場合、完全に揮発させるにはかなりの長時間を要する。例えば、チルド食品、冷凍食品などを収納している包装袋や容器などの物品の基材は、主に樹脂製のフィルムである。物品における基材の最表面はポリプロピレン(PP)製、或いはポリエチレン(PE)製であり、その下は主にポリエチレンテレフタレート(PET)製であり、これに商品の品名や写真等が印刷されている。最下層がPP製、或いはPE製というのが一般的である。近年は、太陽光、室内光、保管庫内の照明等の光による品質低下を防ぐためPET層と最下層のPP、或いはPE層の間にアルミニウムの薄膜が蒸着等により形成されたものも多い。
【0006】
これら基材表面にインク粒子が着弾し印字ドットが形成されると、印字ドットの表面から溶剤が蒸発(揮発)し、次第に固化していく。一定時間経過後には、印字ドットの表面、及びその近傍の溶剤が蒸発して表面が乾燥し、手で触っても手にインクが付着することはなくなるが、印字ドット内部には乾燥せず液状のままのインクが残っており、含まれている溶剤が長時間をかけて印字ドット表面からゆっくり蒸発する。そのため、上から重量物が置かれたりすると、印字ドットがつぶされ、印字ドット内部の未乾燥で高粘性のインクが飛び出し、重量物に付着する恐れがある。また、ほかの基材や人の手・指などで擦られると、印字ドット表面の十分に乾燥していない部分が剥離して印字品質が低下するだけでなく、印字ドット内部の未乾燥で高粘性のインクが擦った基材や手・指などに付着する恐れがある。
【0007】
溶剤の蒸発が早くなれば、生産ラインの稼働率が向上するため、印字ドットに含まれる溶剤をできるだけ早く蒸発させることが好ましい。そのため、従来から、印字ドットにおけるインクの乾燥(溶剤の蒸発)を促進させるために、乾燥装置を備えたインクジェットプリンタが提案されてきている。
【0008】
例えば、特開2020-114658号公報(特許文献1)には、印字ドットを乾燥するための乾燥ユニット(印字ドット乾燥装置)を備えたインクジェットプリンタが開示されている。乾燥ユニットにおける乾燥は、ヒータを使用して物品を加熱乾燥すること、温風を使用して空気乾燥すること、あるいはそれらを組み合わせることなどが紹介されている。また、物体に超音波振動を与えながらヒータで加熱乾燥を行うことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の特許文献1に記載されたような乾燥装置を用いれば、印字ドットの乾燥を促進することができるので乾燥時間を短縮することができる。
【0011】
しかし、印刷する物体(被印字物)が、チルド食品などの商品の場合には、乾燥を加速する(促進する)ために、ヒータによる過度の加熱や高温の温風による加熱を行うと、商品(収納されている食品)の品質が熱により変性したり、その後の保管時の腐敗等の劣化を引き起こす恐れがある。つまり、乾燥を促進するために、安易に商品を加熱することは食品等の商品では問題となる場合がある。
【0012】
そこで、本発明では、印刷された商品の熱による変性等の劣化を抑制しつつ印字ドット中の溶剤を敏速に蒸発させることが可能な印字ドット乾燥装置、印字ドット乾燥方法、および印刷システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、その一例を挙げると、物品に形成された印字ドットを乾燥させる乾燥装置を有する印字ドット乾燥装置であって、前記乾燥装置は、前記物品に対し空気を送風する送風装置と、前記物品あるいはその近傍の温度を検出する温度センサと、前記温度センサが検出した前記温度を入力し、前記空気の温度が前記物品の保管温度以下になるように前記送風装置を制御する制御装置と、を備えている印字ドット乾燥装置である。
【0014】
また、本発明の他の例を挙げると、インクジェットプリンタにより溶剤を含むインクで物品上に印字された印字ドットを乾燥させる印字ドット乾燥方法であって、前記印字ドットあるいはその近傍における温度を検出し、前記温度を用いて、前記物品の保管温度以下となる空気に調整された空気を前記印字ドットに吹き付けるようにした、印字ドット乾燥方法である。
【0015】
さらに、本発明の他の例を挙げると、搬送中の物品にドット状のインクを飛翔させ印刷を行うプリンタと、前記物品に印字された印字ドットを乾燥させる乾燥装置と、を含む印刷システムであって、前記乾燥装置は、前記物品に対し空気を送風する送風装置と、前記物品あるいはその近傍における温度を検出する温度センサと、前記温度センサが検出した前記温度を入力し、前記空気の温度を前記物品の保管温度以下の温度になるように前記送風装置を制御する制御装置と、を備えている印刷システムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、印字された商品を極力加熱せずに印字ドット中の溶剤を蒸発させることが可能な、印字ドット乾燥装置、印字ドット乾燥方法、および印刷システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】印字ドット中の残留溶剤の割合を示した図である。
【
図2】本発明の実施例1におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
【
図3】実施例1のペルチェ素子とフィンの構造を示す図である。
【
図4】印字ドットの溶剤揮発過程を説明するための図である。
【
図5】2-ブタノンの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。
【
図6】エタノールの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。
【
図8】半導体レーザーを用いた印字ドットへの光照射機構を示す図である。
【
図9】印字ドットとそれに対応して発光している半導体レーザーを示す図である。
【
図10】LED、或いはランプを用いて印字に光照射する際の光照射範囲を示す図である。
【
図11】本発明の実施例2におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
【
図12】本発明の実施例3におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
【
図13】アルミニウム蒸着層を有する食品袋の断面構造を示す図である。
【
図14】本発明の実施例4におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
【
図15】減圧による印字ドット乾燥装置を示す図である。
【
図16】本発明の実施例5におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施例」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
まず、具体的な実施例を説明する前に、印字(印刷)された情報を形成する印字ドットに含まれる溶剤の蒸発(揮発)を促進させる場合に留意すべき事項に関して説明する。
【0020】
チルド食品、冷凍食品等の商品では、熱による変性を防ぐため、製造後に賞味期限等を印字したら、速やかに所望の保管温度の環境に投入される。印字後およそ数秒から十数秒で保管環境に投入されるのが好ましい。
【0021】
ここで、印字ドットに含まれる溶剤が時間経過とともにどのように揮発するかについて示したのが
図1である。
図1におけるaは、溶剤が2‐ブタノンであるインクの場合を示す。また、
図1におけるbは、溶剤がエタノールであるインクの場合を示す。
【0022】
図1に示すように、印字ドット中の溶剤は溶剤によっても異なるものの、20℃中で溶剤が2-ブタノンの場合は印字後10秒を経ても40%程度残存している。この状態で5℃のチルド食品の保管環境に投入すると1週間後でも25%程度の溶剤が残存している。冷凍食品の保管環境に投入すると1か月後でも約25%程度の溶剤が残存していることがわかる。低温環境に移さず20℃中に保管した場合、印字後1分で溶剤は約25%に減少する。更に10分後には約20%まで減少する。この状態において人が指で擦ると、印字ドットが擦った方向に延び、一部は物体から剥離してしまう。1日放置するとようやく溶剤は約10%まで減少し、指等で擦っても印字ドットがほとんど破壊されなくなる。溶剤がエタノールの場合は溶剤の残存率はさらに高くなるので、印字ドットの物理的強度の向上にはさらに時間がかかる。
【0023】
なお、
図1に示すデータを得るために、印字には、(株)日立産機システムが製造・販売しているインクジェットプリンタPX-Rを用いた。また、インクも同社製のものを利用し、溶剤が2-ブタノンの場合は名称がJP-K72であるインク、溶剤がエタノールの場合は名称がJP-K112であるインクを使用した。
【0024】
すでに述べたように、チルド食品や冷凍食品は、通常は印字後数秒から十数秒後には所望の保管温度の環境に投入されるのが好ましい。このため、商品の包装部に印刷された印字ドットを乾燥するために、これら食品を20℃中に1日放置することは、これら食品の腐敗、変性を引き起こすことになるので現実的ではない。このように印字ドット中に溶剤が残っていると、印字ドットの物理的強度が不十分であり、極力不滅性を求められる賞味期限等の印字においては問題である。
【0025】
そこで、以下に説明する本発明の実施例では、印字された物体の劣化を抑制しつつ、印字(印刷)された情報を形成する印字ドットに含まれる溶剤の蒸発(揮発)を促進させることが可能な装置や方法を説明する。
【0026】
なお、本発明は、以下に説明する実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下に説明する実施例の構成において、同一機器、同様の動作や機能を有する部分には同一の符号を用いている。それにより、重複する説明を省略することがある。また、図面に示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは本発明の理解を容易にするために簡略化して示しており、実際の各構成の位置、大きさ、形状、範囲などを表しているわけではない。
【0027】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1の構成について、
図2および
図3により詳細に説明する。
図2は、実施例1におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
図3は、ペルチェ素子とフィンの構造を示す図である。
【0028】
図2において、この例における被印字物体である商品2は、X方向に移動する搬送ベルト等の搬送装置4上に乗せられて搬送される。搬送装置4の途中には、商品2に所定の情報を印刷するためのインクジェット記録装置80と、そのX方向の下流側に印刷された商品2の印字ドット1を乾燥させるための乾燥装置100とが図示のように設けられている。なお、
図2では、インクジェット記録装置80と乾燥装置100とは別体としているが、これらを一つの筐体に収納した一体型の構成としても良い。
【0029】
インクジェット記録装置80は、インクを送給するための本体81と、送給ケーブル82と、本体側から送給されたインクを使用してインクジェットによる印刷を実行する印字ヘッド83とを備えている。インクジェット記録装置80としては、帯電方式のインクジェットプリンタ、あるいはDOD方式のインクジェットプリンタが使用される。この例では、帯電方式のインクジェットプリンタを使用する。なお、帯電方式のインクジェット記録装置80の構成や動作はよく知られており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0030】
乾燥装置100は、商品2の印字部分(印字ドットおよびその近傍)を加熱するための加熱装置60と、加熱装置の搬送方向(X方向)の両側に温度制御された空気(冷風)を商品2に吹き付けるための送風装置50とを設けている。さらに、この実施例1において、乾燥装置100は、商品の温度を非接触で検出する温度センサ12を2個備えている。なお、温度センサ12は、1個でも良い。
【0031】
また、乾燥装置100は、温度センサ12の検出温度を入力して、送風装置50が送風する空気(物品に吹き付ける空気)の温度を、前記温度センサが検出した前記温度を用いて、商品2の保管温度以下になるように制御する制御装置70を設けている。
【0032】
制御装置70は、通常のコンピュータを使用することができる。すなわち、制御装置70は、構成の図示は省略しているが、本実施例を実行するための制御プログラムを格納するROM(リードオンリーメモリ)、制御に必要な情報やデータ(温度センサの検出温度、温度設定値、など)を格納するRAM(ランダムアクセスメモリ)を備えている。また、制御装置70は、ROMに格納した制御プログラムに従い送風装置50が送風する空気の温度および強さなどを適切に制御するための制御信号を演算する演算処理部(MPU:マイクロプロセッシングユニットなど)を備えている。さらに、制御装置70は、演算処理などに使用するデータや情報などを入力すること、および演算処理部で演算した制御信号を送風装置50などに出力するための入出力部、制御装置70を構成する各機器間におけるデータや情報のやり取りを行うためのバス通信路などを備えている。
【0033】
なお、信号ケーブル14は、図示しない外部装置(例えば、インクジェット記録装置80や、生産管理システムなど)と乾燥装置100(制御装置70)との間で、種々の情報(データ等)を相互通信するための通信ケーブルである。後述する光加熱装置ではLED素子9の発光強度、発光時間等を制御する。照射位置を制御するため、制御装置70には印字ドットを形成したインクジェット記録装置80からの「どういった印字したのか」、即ち「どういった位置にドットを着弾させたか」の印字情報、及び搬送装置4を駆動している装置からの「どの程度の速度で搬送しているか」の情報を入手して、この情報により光照射の位置も制御する。
【0034】
この実施例において、乾燥装置100は、商品2に冷風を当てて空気乾燥を行うために、上流側の送風装置50と下流側の送風装置50とを備えており、これら2組の送風装置50の間に印字部分(印字ドット及びその周辺)を加熱する加熱装置60を配置して印字ドットの乾燥を促進する構成としている。送風装置50は商品2の全体に温度調節された空気を吹き付けて空気乾燥を行っているが、加熱装置60は、商品2全体ではなく、印字部分の印字ドットを集中的に加熱して加熱乾燥を行う。そのため、加熱装置60による加熱領域は限定的であり、さらに商品2の加熱された印字部分を送風装置50の空気により冷却する構成としているので、加熱を行っても商品2の品質などへの影響は非常に小さなもの、あるいは全く影響を与えない程度に抑制することができる。その結果、送風による乾燥と印字部分の加熱による乾燥とが効果的に実行されることになり、商品へのダメージを抑制しつつ、インクの速やかな乾燥を実現することができる。
【0035】
次に、この実施例における送風装置50の具体的な構成について説明する。
図1における送風装置50は、空気を送風するためのファン8と、送風された空気を冷却して商品2に送風する冷却機構を備える。この例における冷却機構は、ペルチェ素子7と、ペルチェ素子7の冷却エネルギーを受けて通過する空気を冷却するフィン6とで構成している。フィン6は、熱伝導性が高いアルミニウムを用いている。ペルチェ素子7とフィン6の部分の構成を
図3に示す。
図3の上側の図が側面から見た断面図であり、下側の図が上面から見た上面図である。
図3からわかるように、ペルチェ素子7に、複数のフィン6が接続される構成であり、ペルチェ素子7で冷却されたフィン6の間を風が通過することにより、風が冷却され冷風として商品2に到達する。
【0036】
このような構成により、ファン8で発生した風がペルチェ素子7で冷却されたフィン6の隙間を通る際、風(空気)が冷却される。冷却された風(冷風)はフィン6から出ると、商品2に到達し印刷された印字ドットに達する。この冷風(温度制御された空気)によって商品の温度の上昇を抑制しながら印字ドットが乾燥される。この実施例では、送風装置50を加熱装置60の両側に設けている。そのため、冷却は、加熱装置60による加熱前と、加熱後に行われる。なお、加熱装置による加熱前の空気の温度と、加熱後の空気の温度を異なる温度に制御しても良い。印字部の加熱により若干商品の温度が高くなるので、下流側の送風装置50の送風温度を制御し、加熱後の空気の温度を加熱前よりも低くなるように制御することも効果的である。このような空気温度制御により、商品2の印字ドット周辺温度が異常に上昇することを確実に防ぐことができる。
【0037】
なお、商品2に対して冷風を当てる場合の冷風の向きは、商品2に対して垂直、或いはほぼ垂直にすると良い。斜めに当てると商品2が風により搬送装置4上で動かされ、場合によっては搬送装置4から落下する危険性があるからである。また、ペルチェ素子7とフィン6は搬送装置4に対して垂直、或いはほぼ垂直に配置して、商品2になるべく垂直に冷風が当たるようにする。
【0038】
但し、ファン8はフィン6に対して垂直より若干角度を変えて送風するように配置する。垂直にしてしまうと風がペルチェ素子7により冷却されたフィン6の面に当たらず、室温のまま商品に当たってしまう割合が大きくなってしまうためである。そこで、フィン6に対して垂直より若干角度を変えることによりファン8で起こされた風はフィン6の冷却された面にぶつかり、十分冷却される。そのため、十分冷却された風が商品に当たることになり効率が良い。なお、
図1ではファン、ペルチェ素子およびフィンにより送風装置50を実現しているが、このような構成に限るものではない。商品に対して送風する空気の温度を調節可能な送風装置であれば、どのようなものでも良い。
【0039】
次に、温度センサ12について説明する。この実施例では、温度センサ12として、印字ドット、及びその近傍から放出される赤外線のエネルギー量を測定し、商品2、特に、印字ドット、及びその近傍の温度を計測するものとする。赤外線のエネルギーは測定部を有する温度測定素子(温度センサ12)で得る。なお、温度センサ12は、赤外線利用の温度センサに限らず、商品2の印字部(印字ドット)に接触せずに温度を検出可能なものであれば問題ない。
【0040】
この実施例において、温度センサ12は2個設けており、商品の印字部の加熱前、及び加熱後に温度を測定するように配置している。これらの検出温度を制御装置70に出力する(制御装置70が検出温度を入力する)ことにより、制御装置70は、印字ドット、及びその近傍の温度が異常に加熱されないように、かつ商品の温度が商品の保管温度以下になるように、送風装置50を最適に制御することが可能となる。
【0041】
次に、この実施例における加熱装置60の具体的な構成について説明する。
図1の実施例における加熱装置60は、光を利用して加熱する「光加熱装置」を用いたものとして、以下説明する。光加熱に使用する光としては、可視光のみでなく赤外線領域の波長をも利用する。後述するように、好ましい実施例では赤外線により加熱する。そのため、本明細書において、「光」は、可視光領域だけでなく、それよりも波長が長い不可視光をも含むものである。
【0042】
この実施例における加熱装置60(以下、光加熱装置)は、光加熱のための光を発生させるLED素子9、発生した光を印字ドットに向けて集光し照射する集光素子10、LED素子9に適切な電圧の電流を送るための電源11からなる。なお、ここでは光源としてLED素子を用いたが、適切な出力で適切な波長の光を照射できれば半導体レーザーでも構わないし、適切な波長の光を透過するフィルターを併用する水銀ランプやキセノンランプであっても構わない。
【0043】
光加熱装置(加熱装置60)は、LED素子9の発光強度、発光時間等を制御する。制御装置70は、照射位置を制御するため、印字ドットを形成したインクジェット記録装置80からの印字情報を信号ケーブル14を介して入手する。また、搬送装置4を駆動している装置から搬送速度の情報も入手する。これらの情報により光照射の位置が制御可能となる。なお、ここでは、加熱装置60による加熱を行うことを前提として説明するが、熱に非常に弱い商品の場合には、加熱装置による加熱を行わず、保管温度以下に制御された空気冷風のみにより乾燥することも可能である。
【0044】
この実施例1では、乾燥装置100はインクジェット記録装置80に隣接して設けており、商品2への印字が行われた直後に、乾燥装置100による乾燥を行うことが可能な配置としている。これは、次の理由による。すなわち、印字後商品を保管庫に入れる前に溶剤を揮発させるためには、印字後なるべく速やかに光照射した方が溶剤は蒸発させやすいためである。このことを
図4により説明する。
【0045】
図4は、印字ドット1の溶剤揮発過程を模式的に示す図である。
図4の(a)は印字直後の状態である。印字後、まず印字ドットの空気と接している部分から溶剤が揮発し、(b)は表面に皮膜17が形成され始めた状態である。溶剤が揮発するにつれて、(c)に示すようにこの皮膜17の厚みが次第に厚くなり、最終的に印字ドット1の乾燥が完了する。その際、この皮膜が内部の溶剤の揮発を妨げるバリアになるため、これが厚くならないうちに溶剤を揮発させることが望ましい。溶剤分子の吸収が高い波長の光を照射することにより皮膜の形成に先んじて内部側の溶剤を揮発させることができる。またその際、皮膜の一部に溶剤分子が接触することにより溶解し、皮膜が薄くなることで、溶剤の揮発が敏速に進む。いずれにしてもこの皮膜が薄いうちに、つまり印字後なるべく早く光照射することが望ましい。
図1のa に示した2-ブタノン使用のインクの場合では、溶剤(2-ブタノン)が少なくとも30%以上残っている時間内である印字後約30秒以内に照射することが望ましい。
【0046】
次に、光加熱装置で使用する光の波長について説明する。インクに用いる溶剤は、それぞれ特有の吸収特性を有しているので、その吸収波長に合致する波長の光を照射することにより溶剤だけを加熱し、早期に揮発させることが可能となる。光源で考えると、LEDでは紫外光や可視光を発する素子に比べて安価な赤外光を照射するLEDを用いた方がコストを低減する上で好ましい。また、赤外光は紫外光、可視光に比べて空気の構成成分に対する吸収率が低いので、高効率で印字ドットに到達する点でも好適である。そのため、照射光は赤外光が望ましい。
【0047】
次に、光加熱装置において照射する赤外光の波長について説明する。インクに使われている主な溶剤の赤外領域での吸収スペクトルを
図5、6、7に示す。
図6は、2-ブタノンの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。インクは溶剤、樹脂、染料等の有機化合物が含まれており、これら化合物のほとんどは波数がおよそ3100~2700cm
-1(カイザー)付近の炭化水素のCH伸縮振動由来の吸収を有している。
【0048】
ここで示す波数を波長で示すと、
図5のA1で示したように、波長が3200~3700nmとなる。印字する多くの商品も有機物で構成されているので、CH伸縮振動由来の吸収を有している。ここの波長の光、つまり3200~3700nmの光を照射すると、多くの有機物がその光を吸収し、光エネルギーが熱エネルギーに変わることにより発熱する。本発明では商品の発熱を極力抑制したいので、この領域の光は照射しないことが望ましい。
【0049】
また、2-ブタノンは、
図5のA2に示したように、1800~1600カイザー付近、波長で言えば5500~6250nmの領域にカルボニル基のCO伸縮振動由来の吸収がある。この吸収は2-ブタノン以外にアセトン、3-メチル-2-ブタノン等のケトン系溶剤に特有の吸収である。この吸収を有している樹脂等の有機物もあるが、吸収の強度は先に記したCH伸縮振動由来の吸収に比べると小さいものがほとんどである。そこで、赤外線を使用した光加熱装置の場合、この波長の赤外光を照射することにより、印字ドット中の主にケトン系溶剤を加熱することが可能となる。言い換えると、2-ブタノンを使用したインクでは、波長が5500~6250nmの領域の光(赤外線)を使用すると、商品への影響が少なくなるので好ましい。
【0050】
次に、
図6はエタノールの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。エタノールは3600~3200カイザー付近、
図6のB1に示すように、波長で言えば2780~3130nmの領域に水酸基のOH伸縮振動由来の吸収がある。この吸収はエタノール以外にメタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶剤に特有の吸収である。この吸収を有している樹脂等の有機物もあるが、吸収の強度は先に記したCH伸縮振動由来の吸収に比べると小さいものがほとんどである。ただ、OH伸縮由来の吸収の端部は3000カイザー付近まで延びていてその領域はCH伸縮と吸収域が重なるので、CH伸縮とはほとんど重ならない3600~3200カイザー付近、波長で言えば2780~3130nmの光を照射することにより、印字ドット中の主にアルコール系溶剤を加熱することが可能となる。言い換えると、エタノールを含むインクの場合、波長が2780~3130nmの光(赤外線)を照射すると、商品への影響が少なくなるので好ましい。なお、この波長の光は水のOH伸縮振動も吸収するので、溶剤成分中に水が含まれているインクの場合も有用である。
【0051】
次に、
図7は、セロソルブ系の有機溶剤の一つであるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの赤外領域での吸収スペクトルを示す図である。この溶剤も、
図7のC1に示すように、ケトン系の溶剤同様1800~1600カイザー付近、波長で言えば5500~6250nmの領域にカルボニル基のCO伸縮振動由来の吸収がある。よってケトン系の溶剤同様この波長の赤外光を照射することにより、印字ドット中の主にセロソルブ系溶剤を加熱することが可能となる。言い換えると、波長が5500~6250nmの光(赤外線)を使用すると、商品への影響が少なくなるので好ましい。
【0052】
次に、赤外光の照射方法について説明する。賞味期限や製造番号等の印字では商品に形成される印字ドットのサイズは概ね350~450μmである。光源として半導体レーザーを用いる場合、適切な形状、及び印字ドットとの距離に調整した光学レンズを通すことで最小スポット径は波長の2倍程度となる。
【0053】
溶剤が2-ブタノンであるインクを用いた場合、照射する赤外光の波長は5500~6250nmとすると、スポット径は約11~12.5μmとなる。商品搬送の際、包装が袋の商品の場合は取扱いによって形状が若干変形するため半導体レーザーと商品上の印字ドットとの距離が若干変化する。そのため、スポット径は多少大きくなるが、概ね数十μmに収まる。印字ドット径と比較すると数分の一から数十分の一のサイズである。よってレーザーのスポット径を印字ドットのサイズ以下にして印字ドットからはみ出さないように位置合わせして照射することで、印字ドットにのみ熱を与えることが可能になるので、商品への熱ダメージを極めて小さくすることが可能となる。照射時間はレーザーパワーにより変わってくるが、印字ドットからはみ出さないよう短時間照射することにより印字ドットにのみ光照射が可能となる。
【0054】
光源に半導体レーザーを用いた光照射機構を
図8に示す。
図8の(A)は光照射機構を横から見た図、(B)は下側から見た図である。
図8では、光放出素子と光学レンズからなり半導体小さなスポット径の光を発するレーザーダイオード18が電源基板19に接合されている。この光源は文字の印字の縦×横が7×5ドット、文字数が10字の印字に対応している。印字のドット数に対応して、レーザーダイオードは縦が7個、横が5個接合され、これを1ユニットとすると、全部で10ユニット電源基板に接合されている。
【0055】
印字ドット1により形成された印字文字が、
図9の(A)に示す「■1234■1234」の場合、
図9の(B)に示すように、発光するレーザーダイオード20は「■1234■1234」を表す印字ドット上に光を照射する。発光するレーザーダイオード20、及び発光しないレーザーダイオード21の制御は、
図1における制御装置70により制御する。また半導体レーザーが
図2の乾燥装置100に装着される場合、LED素子9と集光素子10と電源11が半導体レーザー使用の場合は、レーザーダイオード18と電源基板19に置き換わる。
【0056】
ここで、光の照射量について説明する。賞味期限等を印字する場合、(株)日立産機システムのインクジェットプリンタを使用し、ノズル口径65μm、吐出するインク滴個数が68900個/秒と設定した場合、印字ドットは直径約400μm、乾燥後の平均厚さが約1μmである。1ドットを形成するインク滴1個あたりの溶剤分が約4×10-7gである。ほとんどインクの溶剤が沸点が80℃、比熱が2.1J/g・℃、蒸発潜熱が444J/gの2-ブタノンである。印字時の環境温度が20℃と仮定すると、1滴のインク中の2-ブタノンが揮発する熱量は、
4×10-7×{2.1×(80‐20)+444}≒5×10-5J
となり、約5×10-5Jの熱量が必要となる。
【0057】
商品の搬送速度が1m/秒、印字ドットの直径が400μmとすると、印字ドットの端部から端部まではみ出さずレーザー光を照射するには、照射できる時間は4×10-4秒となる。
【0058】
レーザーの出力が1mWの場合、5×10-5秒照射すれば印字ドットに必要なエネルギーを与えられるので、印字ドットとレーザー照射位置を合わせられれば、印字ドットのみに照射可能となる。
【0059】
光照射時にLED素子、或いは水銀ランプ、キセノンランプ等の光照射範囲が大きい光源を用いる場合、なるべく印字ドットとその近傍にのみ光が照射されるようレンジやミラー等の光学系を使って制御することが望ましい。具体的には、近傍とは、光学系での簡便な制御ができるレベルということで考えると印字サイズの上下左右の10mm以内が該当し、具体的には
図10に示すように、照射エリア23であることが望ましい。なお、熱に非常に弱い商品に印刷された印字ドットを乾燥する場合は、加熱装置による光照射は行わず、冷風のみで乾燥するようにすれば良い。
【0060】
以上説明した本発明の実施例1によれば、印字された商品を極力加熱せずに印字ドット中の溶剤を揮発することが可能となる。すなわち、実施例1によれば、印字後の商品に対し、当該商品の保管温度以下に制御された(調整された)空気を吹き付けて冷却しながら印字ドットの空気乾燥を行うとともに、印字ドットを加熱乾燥する加熱装置を行う構成にしたので、商品の熱による変性等の劣化を抑制しつつ印字ドット中の溶剤を敏速に蒸発させることが可能になる。さらに、この実施例では、加熱装置を挟み搬送方向の上流側と下流側に送風装置を配置しており、商品の過度の加熱を確実に防止することを実現している。
【0061】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2について、
図11を用いて説明する。
図11は、実施例2におけるプリンタのシステム構成を示す図である。
まず、この実施例2は、上述した実施例1(
図2)とほとんど同様のシステム構成であり、また同様の動作を行うものであるため、すでに説明した構成及び動作の説明は省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。また、実施例2の説明では、上記した
図3~
図10に関する説明も省略する。
【0062】
図11において、乾燥装置100は、除湿部15と、除湿された空気をファン8側に供給する導入路16とを備えている。その他の構成は、
図2の場合と同じ構成を採用している。
図11に示す実施例2では、送風装置50のファン8の入力側に供給する空気を乾燥する機能を付加した構成を有している。その構成を追加した構成が実施例1(
図2)の場合と異なる。
【0063】
例えば、インクの溶剤がエタノール等の親水性溶剤の場合は冷風中の水分が混入するため、印字ドット内に水分が入り込み、印字ドットの乾燥を妨げる恐れがある。そこで、除湿部15により乾燥した空気を導入路16を介してファン8に導入することにより乾燥した冷風を商品の印字ドットに吹き付けることを可能にしている。冷風の相対湿度がおおよそ50%程度以下になると、水分の印字ドットへの混入がほとんどなくなる傾向があるので、なるべくそのレベルまで除湿すべく自除湿機構を働かせる。
【0064】
このような本発明の実施例2によれば、実施例1と同様の効果を有するとともに、より乾燥した空気を商品に吹き付けることができるので、乾燥速度をより一層早めることが可能になる。
【0065】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3について、
図12を用いて説明する。
図12は、実施例3におけるプリンタのシステム構成を示す図である。この実施例3は、基本構成において、すでに説明した実施例1、実施例2と同様の構成である。そのため、実施例3においても、すでに実施例1および2で説明した事項に関する説明を省略し、実施例1および実施例2と相違する内容を中心に説明する。
【0066】
図12において、乾燥装置100の加熱装置60は、電磁波誘導加熱を利用したものとしている。その他の内容は、実施例1、実施例2の構成と同様の構成である。すなわち、
図12における加熱装置60は、加熱コイル24と、加熱コイルに電流を供給する電源ユニットを備えている。
【0067】
加熱コイル24に電源ユニット25によって交流電流を流すことにより商品を加熱する。商品2を構成する食品袋等の容器の内側にアルミニウムなどの金属を蒸着しているような場合に、この加熱装置60を使用することができる。
【0068】
例えば、内側にアルミニウムを蒸着している食品袋等の容器は、一般的には
図13に示すような断面構造になっている。
図13において、外気と接する面26の方から順にポリプロピレン層27、その内側にポリエチレンテレフタレート層28があり、その内側にアルミニウム層29が形成されている。更に内側にはポリプロピレン層30があり、この層の表面が内容物と接する面31になっている。商品の名前、成分など顧客に示す情報はポリエチレンテレフタレート層28のアルミニウム層とは反対側の面に印刷されている。
【0069】
このような食品袋の印字部分が搬送装置4により、加熱コイル24の直下近傍に到達したとき、電源ユニット25によって加熱コイル24に交流電流を流すと、食品袋のアルミニウム層に電流を誘起する磁界が形成される。すると、アルミニウム層には渦電流が発生し金属の電気抵抗に応じたジュール熱が発生し、アルミニウム層は発熱する。この発熱がポリエチレンテレフタレート層28、ポリプロピレン層27を加熱し、その上にある印字ドットを加熱することにより内部の溶剤を揮発させる。印字ドットは印字後速やかに空気層側の表面皮皮膜が形成され、これが溶剤の揮発を妨げる。印字ドットの基材側界面は印字ドットの中でも溶剤の残存率が高い領域であり、ここをアルミニウム層で生じた熱により加熱すると、残存している溶剤が気化し、印字ドット表面の皮膜を若干溶解しながら揮発する。こうなると皮膜による溶剤揮発の妨げが低減し、敏速に溶剤揮発が進む。
【0070】
本発明の実施例3によれば、商品を包装する部材に金属層を用いている場合に、上述した実施例1および実施例2と同様の効果を有する。
【0071】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4について、
図14を用いて説明する。
図14は、実施例4におけるプリンタのシステム構成を示す図である。この実施例4の場合も、基本構成は、すでに説明した実施例1~実施例3と同様である。そのため、実施例4においても、すでに実施例~3で説明した事項に関する説明を省略し、それらの実施例と相違する内容を中心に説明する。
【0072】
図14において、乾燥装置100の加熱装置60は、マイクロ波を用いた加熱方法を利用している。その他の構成は、他の実施例と同様である。
図14における加熱装置60は、高電圧を発生する高圧トランス32と、高電圧の電流によりマイクロ波を発信するマグネトロン33と、マイクロ波の出力部34と、マイクロ波を道波する導波管35とで構成される。
【0073】
印字終了後の商品2が加熱装置60の位置に到達すると、高圧トランス32から出力される高電圧の電流がマグネトロン33に供給され、マイクロ波の出力部34からマイクロ波が発信される。発信されたマイクロ波は導波管35を通って商品2の上にある印字ドット1に照射される。実施例3の場合と同様に、加熱できるのは内側にアルミニウムを蒸着している食品袋等の容器である。
【0074】
マイクロ波は
図13に示すポリプロピレン層27、ポリエチレンテレフタレート層28を透過した後、アルミニウム層29で反射し、その下のポリプロピレン層30にはたどり着かない。そのため容器内の食品等の中身にマイクロ波が届かず、中身を加熱することを防ぐことが可能となる。照射されるマイクロ波の波長は電波管理法上使用が可能の2.45GHzの波長のものを使う。また、マイクロ波は周囲の電子機器の通信に障害を与える可能性があるので、搬送装置4の周囲に金属製の衝立等を設ける対策でマイクロ波を遮蔽することが望ましい。
【0075】
[実施例5]
次に、本発明の実施例5について、
図15を用いて説明する。
図15は、印字ドットを含む印字部分を減圧する機構の概略説明図である。
【0076】
上述した本発明の実施例は送風装置50と加熱装置60とを備えた構成であったが、この実施例5では加熱装置の代わりに送風装置と減圧機構を使用する点で異なる。すなわち、この実施例5では、印字ドットを減圧し、溶剤の沸点を下げて印字ドット中の溶剤を揮発させる方法を採用する。
【0077】
その他の構成は、すでに説明した本発明の実施例と同様の構成である。したがって、すでに説明した構成の説明は省略する。
【0078】
この実施例5では、具体的には
図15に示すように、商品の印字ドット周辺にゴム製のカップ36を押し当て、カップの内部を減圧する。カップ36に付いているホース37の先には図示していないが減圧用のポンプがあり、カップの内部を減圧にする。これにより、溶剤の沸点が低下し、溶剤が揮発しやすくなる。
【0079】
この本発明の実施例5では、印刷された商品の熱による変性等の劣化を抑制しつつ印字ドット中の溶剤を敏速に揮発させることが可能である。特に、この実施例5によれば、上述した実施例1~4と異なり、加熱プロセスは一切行っていないので、商品の熱による劣化、変性を確実に防ぐことが可能となる。
【0080】
[実施例6]
次に、本発明の実施例6について、
図16を用いて説明する。
図16は、本発明の実施例6におけるシステム構成図を示す。
図16に示す実施例も、すでに説明した実施例1と同様のシステム構成となっているが、インクジェット記録装置80と乾燥装置100とを統合的に制御する統合制御装置90を設けている点が異なる。乾燥装置100は、インクジェット記録装置80で印字後、速やかに稼働し、しかも印字位置に正確に赤外光などを照射する必要がある。そのため、乾燥装置100とインクジェット記録装置80とを個別に制御するのではなく、それらを統合して制御する統合制御装置90を設けている。
【0081】
図16において、乾燥装置100、及びインクジェット記録装置80および搬送装置4の制御部は、夫々統合制御装置90につながっており、インクジェット記録装置80の印字ヘッド83から商品に印字がなされると、印字が行われたことを伝える信号が統合制御装置90に伝わる。また商品の搬送速度の情報も統合制御装置90に伝わっている。統合制御装置90は、これらの情報より、印字ドットがどの時点で送風装置および加熱装置の設置位置近傍に到達するかを推定し、乾燥装置100にその情報信号を送る。乾燥装置100では、商品2(印字ドット1)の通過に合わせて、送風装置や加熱装置を稼働させる。これにより、印刷された商品の熱による変性等の劣化を抑制しつつ印字ドット中の溶剤を敏速に揮発させることができる。
【0082】
[実験例]
次に、上述した本発明の実施例を適用した場合の実験例について説明する。この実験に使用したインクジェットプリンタは、(株)日立産機システム製のインクジェットプリンタPX-Rである。商品は、ポリプロピレン製の袋で包装されている食品のサンプルAに印字した場合である。印字に用いるインクは日立産機システム社製のインク4136K である。
【0083】
印字後、1秒以内に
図11に示した実施例2に示すような乾燥装置を用いて、印字ドットに波長5500nm、出力1mWのレーザー光を5×10
-5秒照射した。その後、印字の上に同じ種類の食品サンプルを置き、荷重500gで1回擦る。印字後3秒以内に-20℃の冷凍食品保管庫に投入した。
【0084】
一方、別の食品サンプルBでは、本発明の実施例を使用せず、印字の上に同じ種類の食品サンプルを置き、荷重500gで1回擦る。印字後3秒以内に-20℃の冷凍食品保管庫に保管(収納)した。
【0085】
この実験後、サンプルA、及びサンプルBを冷凍庫から取り出し、印字の状態を観察した。その結果、本発明の実施例2を適用したサンプルAは、印字の状態にほとんど変化なかった。一方、サンプルBは印字ドットが原型を留めないほど無くなっており印字が全く読み取れない状態であった。
【0086】
また、上記と同様の実験を、インクを4136Kから4146Kに代えて同様に行った。その結果、本発明の実施例2を使用したサンプルCは、印字ドットがほとんど変化していなかった。一方、本発明を実施しないで収納したサンプルDは4136Kの場合よりは若干印字ドットが残ったものの、印字内容は読み取れない状態であった。
【0087】
このように、本発明の実施例における乾燥装置を用いることにより、短時間で物理的強度の高い印字ドットを得ることが確認できた。
【0088】
[その他の実施例]
以上いくつかの実施形態(実施例)について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…印字ドット、2…商品、4…搬送装置、6…フィン、7…ペルチェ素子、8…ファン、9…LED素子、10…集光素子、11…電源、12…温度センサ、14…通信ケーブル、15…除湿部、16…導入路、17…皮膜、18…レーザーダイオード、19…電源基板、22…印字内容、23…照射エリア、24…加熱コイル、25…電源ユニット、26…外気と接する面、27…ポリプロピレン層、28…ポリエチレンテレフタレート層、29…アルミニウム層、30…ポリプロピレン層、31…内容物と接する面、32…高圧トランス、33…マグネトロン、34…マイクロ波の出力部、35…導波管、36…カップ、37…ホース、50…送風装置、60…加熱装置、70…制御装置、80…インクジェットプリンタ、81…本体、82…ケーブル、83…印字ヘッド、90…統合制御装置、100…印字ドット乾燥装置、200…光照射機構