(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177789
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】プロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20231207BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231207BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231207BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L21/00
C08K3/013
C08K3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090648
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】料所 祐二
(72)【発明者】
【氏名】片桐 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】南部 功二
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01Y
4J002BB05Y
4J002BB15W
4J002BB15X
4J002BB15Y
4J002BP01Y
4J002BP02W
4J002BP02X
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DE066
4J002DE076
4J002DE146
4J002DE236
4J002DE266
4J002DG026
4J002DG046
4J002DG056
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA046
4J002FA086
4J002FA106
4J002FD016
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD090
(57)【要約】
【課題】成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れるとともに、高い表面平滑性が得られるプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】特定の条件を満足するポリプロピレン系樹脂(A)30~90重量%と、熱可塑性エラストマー(B)5~30重量%と、無機充填物(C)5~40重量%とを含有することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物(ただし、ポリプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)および無機充填物(C)の合計量は100重量%である)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性(A1-1)を満足するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)5~95重量%と、
下記特性(A2-1)を満足するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)5~95重量%
(前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)とプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)との合計は100重量%である)とを含有し、
下記特性(A-1)を満足するポリプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマー(B)と、
無機充填物(C)とを含有し、
下記条件(ア)を満足することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
特性(A1-1)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)は、
プロピレン重合体部分(a11)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)とを含有し、
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)の135℃、デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が1.5~4.5dl/gである。
特性(A2-1)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)は、プロピレン重合体部分(a21)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)とを含有し、
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)の135℃、デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が5.0~9.5dl/gである。
特性(A-1)
ポリプロピレン系樹脂(A)は、全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が10~200g/10分である。
条件(ア)
プロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(A)30~90重量%と、熱可塑性エラストマー(B)5~30重量%と、無機充填物(C)5~40重量%とを含む(ただし、ポリプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)および無機充填物(C)の合計量は100重量%である)。
【請求項2】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)が、下記特性(A1-2)~(A1-5)を更に満足する請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
特性(A1-2)
プロピレン重合体部分(a11)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分以上である。
特性(A1-3)
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体に対する割合が10~30重量%である。
特性(A1-4)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20~150g/10分である。
特性(A1-5)
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のエチレン含量が、30~50重量%である。
【請求項3】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)が、下記特性(A2-2)~(A2-5)を更に満足する請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
特性(A2-2)
プロピレン重合体部分(a21)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が250g/10分以上である。
特性(A2-3)
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体に対する割合が、5~25重量%である。
特性(A2-4)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が、20~120g/10分である。
特性(A2-5)
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のエチレン含量が30~50重量%である。
【請求項4】
無機充填物(C)が、平均粒子径が8.5μmを超え、アスペクト比が10を超えるタルクである請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物及びそれを用いた成形体に関し、さらに詳しくは、成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れるとともに、高い表面平滑性が得られるプロピレン系樹脂組成物及び成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂組成物は、工業部品分野における各種成形体、例えば、ドアトリム、インストルメントパネル、バンパー、サイドモール、バックドア、フェンダー等の自動車部品、テレビ等の家電機器製品の部品等として、その優れた成形性、機械的強度、環境適応性や経済性の特徴を活かし、多く実用に供されてきている。その一方でポリプロピレンは高い結晶性を有することから、温度に対する寸法変化(線膨張係数)が大きいことが知られており、この性質によりプロピレン系樹脂組成物を用いた自動車部品等においては部品の合わせ目に隙間が生じたり、部品組みつけ時の建てつけ性が悪化するなど問題があった。
特に、自動車外装部材等の成形体は、大型化、デザインの複雑化が益々進みつつあり、それに伴いプロピレン系樹脂組成物およびその成形体には、高い物性バランス(高い剛性、衝撃強度)の発現に加え、高度な寸法安定性と、高度な成形性(高流動性)、製品価値を一層高める表面平滑性の向上を同時に満たすことが求められている。
【0003】
成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)の向上に加えて、良好な塗装外観品質の自動車外装部材用ポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車外装部材を得ることを目的として、特定のプロピレン系重合体、特定のエチレン-α-オレフィン共重合体及び、特定のタルクを、それぞれ特定量含有するポリプロピレン系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、該樹脂組成物は、製品表面の平滑性については十分とはいえなかった。
【0004】
また、寸法安定性(低線膨張係数)、成形性(高流動性)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)の向上に加え、フローマーク及びウエルド外観の向上を目的として、特定のプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、特定のエチレン・ブテン共重合体及び特定形状のタルクを、それぞれ特定量含有する自動車外装部材用ポリプロピレン系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、該特許文献は、製品表面の平滑性についての記載はなく、該樹脂組成物の寸法安定性(低線膨張係数)も十分とはいえなかった。
【0005】
また、寸法安定性(低線膨張係数)、機械物性バランス(高剛性、高衝撃強度)の向上に加え、突き合せウェルドの隆起の低減を目的として、特定のプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、特定のエチレン・ブテン共重合体及び特定形状のタルクを、それぞれ特定量含有する低線膨張性ポリプロピレン系樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、当該特許文献の実施例は突き合わせウェルド部位での外観性能(ウェルド隆起)に着目した評価事例であり、成型体全体の表面平滑性を満足するには十分とは言えなかった。
【0006】
こうした状況の下、従来のプロピレン系樹脂組成物の問題点を解消し、バンパー、サイドモール、バックドア、フェンダー等の自動車外装部品を得る際に必要な性能である、高い成形性(高流動性)、寸法安定性(低い線膨張係数)と高度な物性バランス(高剛性、高衝撃強度)とともに、製品表面の平滑性にも優れるプロピレン系樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】第5827143号特許公報
【特許文献2】第6006058号特許公報
【特許文献3】第6560612号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れるとともに、高い表面平滑性が得られるプロピレン系樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のポリプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)及び無機充填物(C)を、それぞれ特定量含有するプロピレン系樹脂組成物が、成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れるとともに、高い表面平滑性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記特性(A1-1)を満足するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)5~95重量%と、
下記特性(A2-1)を満足するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)5~95重量%
(前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)とプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)との合計は100重量%である)とを含有し、
下記特性(A-1)を満足するポリプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマー(B)と、
無機充填物(C)とを含有し、
下記条件(ア)を満足することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
特性(A1-1):
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)は、
プロピレン重合体部分(a11)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)とを含有し、
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)の135℃、デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が1.5~4.5dl/gである。
特性(A2-1):
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)は、プロピレン重合体部分(a21)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)とを含有し、
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)の135℃、デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が5.0~9.5dl/gである。
特性(A-1):
ポリプロピレン系樹脂(A)は、全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が10~200g/10分である。
条件(ア):
プロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂(A)30~90重量%と、熱可塑性エラストマー(B)5~30重量%と、無機充填物(C)5~40重量%とを含む(ただし、ポリプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)および無機充填物(C)の合計量は100重量%である)。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)が、下記特性(A1-2)~(A1-5)を更に満足することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
特性(A1-2):
プロピレン重合体部分(a11)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分以上である。
特性(A1-3):
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体に対する割合が10~30重量%である。
特性(A1-4):
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20~150g/10分である。
特性(A1-5):
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のエチレン含量が30~50重量%である。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)が、下記特性(A2-2)~(A2-5)を更に満足することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
特性(A2-2):
プロピレン重合体部分(a21)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が250g/10分以上である。
特性(A2-3):
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体に対する割合が5~25重量%である。
特性(A2-4):
プロピレン系共重合体(A2)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20~120g/10分である。
特性(A2-5):
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のエチレン含量が30~50重量%である。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、無機充填剤(C)が、平均粒子径が8.5μmを超え、アスペクト比が10を超えるタルクであることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1~4のいずれかの発明のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バンパー、サイドモール、バックドア、フェンダー等の自動車部品を得る際に必要な性能である、高い成形性(高流動性)、寸法安定性(低い線膨張係数)と物性バランス(高剛性、高衝撃強度)とともに、製品表面の平滑性にも優れるプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、特定のポリプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)及び無機充填物(C)を、それぞれ特定量含有するプロピレン系樹脂組成物およびそれを用いてなる成形体である。
以下、プロピレン系樹脂組成物の構成成分、該樹脂組成物、その製造や成形、部材等の各項目について詳細に説明する。
【0017】
[I]プロピレン系樹脂組成物の構成成分
1.ポリプロピレン系樹脂(A)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる、ポリプロピレン系樹脂(A)(以下、単に成分Aともいう。)は、全体のメルトフローレート(以下、MFRとも記す。)(230℃、2.16kg荷重)が10~200g/10分であり、好ましくは20~150g/10分、より好ましくは30~120g/10分の範囲にあるのが望ましい。
【0018】
成分Aは、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、流動性(成形性)及び剛性・衝撃強度などの物性バランスなどを維持、向上することに寄与する特徴を有する。
成分A全体のMFRが10g/10分以上であると、本発明の樹脂組成物やそれからなる成形体(以下、単に成形体ともいう。)の流動性(成形性)を向上させることができる。一方、成分A全体のMFRが200g/10分以下であると、物性バランス(衝撃強度)を向上させることができる。
該MFR値は、JIS K7210に準拠し、測定温度:230℃、荷重:2.16kgで測定する値である。
【0019】
成分Aは、極限粘度[η]が1.5~4.5dl/gであるエチレン・プロピレンランダム共重合体部分を含有するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)(以下、単に成分A1ともいう。)5~95質量%および極限粘度[η]が5.0~9.5dl/gであるエチレン・プロピレンランダム共重合体部分を含有するプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)(以下、単に成分A2ともいう。)5~95質量%(前記成分A1と成分A2との合計は100質量%である)を含有する。ここで、極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用いて、デカリンを溶媒として温度135℃で測定して得られる値である。
【0020】
成分A中の成分A1と成分A2の割合(前記成分A1と成分A2との合計は100質量%である)は、成分A1:5~95重量%、成分A2:5~95重量%の割合であり、好ましくは成分A1:10~85重量%、成分A2:15~90重量%の割合であり、より好ましくは成分A1:20~80重量%、成分A2:20~80重量%の割合であり、さらに好ましくは成分A1:35~65重量%、成分A2:35~65重量%の割合である。成分A1の含量が5重量%以上である(すなわち、成分A2の含量が95重量%以下である)と、本発明の樹脂組成物やそれからなる成形体の寸法安定性(低線膨張係数)を向上させることができる。一方、成分A1の含量が95重量%以下である(すなわち、成分A2の含量が5重量%以上である)と、表面平滑性を向上させることができる。
【0021】
2.プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)(成分A1)は、下記特性(A1-1)を満足する。
特性(A1-1):
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)は、プロピレン重合体部分(a11)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)とを含有し、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)の極限粘度[η](135℃、デカリン溶液中で測定)が1.5~4.5dl/gであり、好ましくは2.0~4.0dl/g、より好ましくは2.5~3.6dl/gの範囲にあるのが望ましい。極限粘度[η]が1.5dl/g以上であると表面平滑性が向上し、一方、極限粘度[η]が4.5dl/g以下であると、流動性(成形性)および寸法安定性(低線膨張係数)が向上する。なお、成分A1は、2種以上併用してもよく、その場合の極限粘度[η]は、当然ながら併用した後の成分A1全体の値である。
【0022】
成分A1は、本発明の効果をより高めるなどのため、下記特性(A1-2)~(A1-5)を更に満たすことが望ましい。
特性(A1-2):プロピレン重合体部分(a11)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分以上である。
特性(A1-3):エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体に対する割合が10~30重量%である。
特性(A1-4):プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20~150g/10分である。
特性(A1-5):エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のエチレン含量が30~50重量%である。
【0023】
2-1.成分A1の特性
(1)特性(A1-2):
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる成分A1中のプロピレン重合体部分(a11)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、100g/10分以上であり、好ましくは120~400g/10分、より好ましくは130~300g/10分である。MFRが100g/10分以上であると、樹脂組成物および成形体のフローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、流動性(成形性)を向上させることができる。該MFRは、プロピレン重合体部分の重合を終えた時のMFRであり、該重合(プロピレン重合体部分)を多段重合にて行う場合には、最終の重合槽から取り出されるプロピレン重合体部分のMFRである。
【0024】
(2)特性(A1-3):
成分A1中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)全体に対する割合が10~30重量%であり、好ましくは12~28重量%であり、より好ましくは14~26重量%である。
すなわち、プロピレン重合体部分(a11)の成分A1全体に対する割合は、70~90重量%、好ましくは72~88重量%、より好ましくは74~86重量%である。エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)が10重量%以上である(すなわち、プロピレン重合体部分(a11)が90重量%以下である)と、本発明の樹脂組成物及び成形体の物性バランス(衝撃強度)を向上させることができる。一方、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)の割合が30重量%以下である(すなわち、プロピレン重合体部分(a11)が70重量%以上である)と、フローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、物性バランス(剛性)を向上させることができる。
【0025】
(3)特性(A1-4):
成分A1全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、20~150g/10分であり、好ましくは25~130g/10分であり、より好ましくは30~110g/10分である。MFRが20g/10分以上であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体のフローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、流動性(成形性)や物性バランスを向上させることができる。一方、MFRが150g/10分以下であると、物性バランス(衝撃強度)を向上させることができる。
【0026】
(4)特性(A1-5):
成分A1中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a12)のエチレン含量は、30~50重量%であり、好ましくは35~45重量%である。該エチレン含量が前記範囲内であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体の耐傷付性及び物性バランスを向上させることができる。
【0027】
3.プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)(成分A2)は、下記特性(A2-1)を満足する。
特性(A2-1):
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)は、プロピレン重合体部分(a21)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)とを含有し、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)の極限粘度[η](135℃、デカリン溶液中で測定)が5.0~9.5dl/gであり、好ましくは6.0~9.0dl/g、より好ましくは7.0~8.5dl/gの範囲にあるのが望ましい。極限粘度[η]が5.0dl/g以上であると表面平滑性が向上し、一方、極限粘度[η]が9.5dl/g以下であると、ゲルと呼ばれる凝集物が発生することによる表面外観の不良を抑制し、寸法安定性(低線膨張係数)を向上させることができる。なお、成分A2は、2種以上併用してもよく、その場合の極限粘度[η]は、当然ながら併用した後の成分A2全体の値である。
【0028】
成分A2は、本発明の効果をより高めるなどのため、下記特性(A2-2)~(A2-5)を更に満たすことが望ましい。
特性(A2-2):プロピレン重合体部分(a21)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が250g/10分以上である。
特性(A2-3):エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体に対する割合が5~25重量%である。
特性(A2-4):プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20~120g/10分である。
特性(A2-5):エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のエチレン含量が30~50重量%である。
【0029】
3-1.成分A2の特性
(1)特性(A2-2):
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる成分A2中のプロピレン重合体部分(a21)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、250g/10分以上であり、好ましくは300~500g/10分、より好ましくは350~450g/10分である。MFRが250g/10分以上であると、プロピレン系樹脂組成物および成形体のフローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、流動性(成形性)を向上させることができる。該MFRは、プロピレン重合体部分の重合を終えた時のMFRであり、該重合(プロピレン重合体部分)を多段重合にて行う場合には、最終の重合槽から取り出されるプロピレン重合体部分のMFRである。
【0030】
(2)特性(A2-3):
成分A2中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)全体に対する割合が5~25重量%であり、好ましくは7~23重量%であり、より好ましくは9~20重量%である。
すなわち、プロピレン重合体部分(a21)の成分A2全体に対する割合は、75~95重量%、好ましくは77~93重量%、より好ましくは80~91重量%である。エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)が5重量%以上である(すなわち、プロピレン重合体部分(a21)が95重量%以下である)と、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体の物性バランス(衝撃強度)を向上させることができる。一方、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)の割合が25重量%以下である(すなわち、プロピレン重合体部分(a21)が75重量%以上である)と、フローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、物性バランス(剛性)を向上させることができる。
【0031】
(3)特性(A2-4):
成分A2全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、20~120g/10分であり、好ましくは25~110g/10分であり、より好ましくは30~100g/10分である。MFRが20g/10分以上であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体のフローマークの発生(成形外観の低下)を抑制すると共に、流動性(成形性)や物性バランスを向上させることができる。一方、MFRが120g/10分以下であると、物性バランス(衝撃強度)を向上させることができる。
【0032】
(4)特性(A2-5):
成分A2中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分(a22)のエチレン含量は、30~50重量%であり、好ましくは35~45重量%である。該エチレン含量が前記範囲内であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体の耐傷付性及び物性バランスを向上させることができる。
【0033】
プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造
プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法、条件の中から適宜に選択される。プロピレンの重合触媒としては、通常、高立体規則性触媒が用いられる。例えば、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、さらに各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルを組み合わせた触媒(例えば、特開昭56-100806号、特開昭56-120712号、特開昭58-104907号の各公報参照。)、及び、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させた担持型触媒(例えば、特開昭57-63310号、同63-43915号、同63-83116号の各公報参照。)など各公報に記載されたものを例示することができる。
【0034】
前記触媒の存在下、気相重合法、液相塊状重合法、スラリー重合法などの製造プロセスを適用して、プロピレンを重合し、続いてプロピレンとエチレンをランダム重合することにより得られる。前記した極限粘度[η]などを有するプロピレン・エチレンブロック共重合体を得るためには、スラリー法、気相流動床法にて、多段重合することが好ましい。
プロピレン重合体部分の重合は、プロピレンの一段重合であっても、多段重合であってもかまわないが、前記の特性を発現するためには、多段重合により得ることがより好ましい。
プロピレン重合体部分の多段重合法としては、以下に示す工程(1)と工程(2)による二段重合法を、例示することができる。
工程(1):プロピレンを、分子量調節剤としての水素の存在下で重合する。分子量が大き過ぎる重合体の生成を抑制するためである。水素濃度としては、全モノマー量に対して通常0.1モル%~40モル%の範囲から選択される。
また、重合温度は、通常40℃~90℃、圧力は、通常大気圧に対する相対圧力で0.1MPa~5MPaの範囲から選択される。
この工程(1)で得られる重合体の量は、通常全重合量の70~95重量%となるように調整される。工程(1)で製造される重合体の量が70重量%以上であると、工程(2)で製造される高分子量のプロピレン重合体が多くなり過ぎることを抑え、流動性(成形性)を向上させることができる。
【0035】
プロピレン重合体部分は、本発明の樹脂組成物の物性バランス(剛性)を高めるために、プロピレンの単独重合体であることが好ましいが、流動性(成形性)及び物性バランスなどをさらに改良する目的で、結晶性を著しく損なわない範囲で、少量のコモノマーとの共重合体とすることもできる。
具体的には、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル1-ペンテンなどのプロピレン以外のα-オレフィン、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナンなどのビニル化合物などからなる群から選ばれる1以上のコモノマーに相応するコモノマー単位を、好ましくは5重量%以下の含量で含むことができる。これらのコモノマーは、二種以上共重合されていてもよい。コモノマーは、エチレン及び/または1-ブテンであるのが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。ここで、コモノマー単位の含量は、赤外分光分析法(IR)にて求めた値である。
【0036】
工程(2):工程(1)で生成したプロピレン重合体部分と比べ、高分子量のプロピレン重合体を重合するために、なるべく低濃度の水素雰囲気下もしくは、実質上水素の存在しない状態で重合することが好ましい。重合は、工程(1)で生成したプロピレン重合体及び触媒の存在下、引き続いて行われる。
重合温度は、通常40℃~90℃、圧力は、通常大気圧に対する相対圧力で0.1MPa~5MPaの範囲から選択される。
この工程(2)で得られる重合体の量は、通常、全重合量の5~30重量%となるように、調整される。
さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。具体的には、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5~3.0モル比の条件で行う。また、このアルコール類の添加量でプロピレン・エチレンブロック共重合体中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の割合も、コントロールすることができる。
工程(1)及び工程(2)を結合して、結果として得られる重合体全体の物性値を前記した範囲に調整できれば、いかなる組み合わせを採用してもよい。
【0037】
プロピレン・エチレンブロック共重合体のMFRは、MFR計にて、また、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の含量及びエチレン含量、さらにQ値は、クロス分別装置、フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する。また、極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用いて測定する。主な項目の測定条件などは、実施例において記述する。
【0038】
4.熱可塑性エラストマー(B)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる熱可塑性エラストマーの成分B(以下、単に成分Bともいう。)は、オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーなどであり、本発明の樹脂組成物及び成形体において、物性バランス(衝撃強度など)や寸法安定性などの向上に寄与する特徴を有する。
【0039】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(B)は、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーであり、ゴム的な性質を有する重合体(エラストマー)である。本発明に於いては、成分B中のエチレンを好ましくは50重量%を超え、より好ましくは60重量%~90重量%であり、かつ成分Bのメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が、好ましくは0.1g/10分~100g/10分、より好ましくは0.5g/10分~60g/10分、とりわけ好ましくは1.0g/10分~30g/10分である。MFRをこの様な範囲とすることにより、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、良好な物性バランス(衝撃強度など)や寸法安定性の発現が可能となる。即ち、熱可塑性エラストマー(B)のメルトフローレートが0.1g/10分以上であると、寸法安定性、及び塗装密着性を向上できる。100g/10分以下であると、フローマークの発生(成形外観の低下)を抑えると共に、衝撃性能を向上させることができる。
【0040】
4-1.種類
成分Bは、オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)などのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどを挙げることができる。
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン-イソプレン-スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体エラストマーなどが挙げられる。
さらに、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなども挙げることができる。
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/またはエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、本発明の樹脂組成物及び成形体において、物性バランス(衝撃強度など)、流動性(成形性)や寸法安定性などの性能がより優れ、経済性にも優れる傾向にあるなどの点から好ましい。なお、この成分Bは、2種以上を併用してもよい。
【0041】
4-2.製造
成分Bは、例えば、オレフィン系エラストマーのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマーや、エチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどは、各モノマーを触媒の存在下、重合することにより製造される。
触媒としては、例えば、ハロゲン化チタンの様なチタン化合物、アルキルアルミニウム-マグネシウム錯体の様な有機アルミニウム-マグネシウム錯体、アルキルアルミニウム、またはアルキルアルミニウムクロリドなどのいわゆるチーグラー型触媒、WO91/04257号パンフレットなどに記載のメタロセン化合物触媒などを使用することができる。
重合法としては、気相流動床法、溶液法、スラリー法などの製造プロセスを適用して重合することができる。
また、スチレン系エラストマーは、通常のアニオン重合法及びそのポリマー水添技術などにより製造することができる。
【0042】
4-3.配合量比
成分Bの配合割合は、前記成分Aと、該成分Bと、無機充填物(C)との合計量100質量部において、5~30質量部、好ましくは10~27質量部、より好ましくは15~25質量部である。成分Bの配合量が30質量部以下であると、フローマークの発生(成形外観の低下)を抑えると共に、物性バランス(剛性)及び流動性(成形性)を向上させることができる。一方、成分Bの配合量が5質量部以上である場合には、衝撃強度などの機械物性バランスを向上させることができる。
【0043】
5.無機充填物(C)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられる、無機充填物(C)(以下、単に成分Cともいう。)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物及び成形体の物性バランス(剛性など)、寸法安定性(線膨張係数の低減など)、環境適応性の各向上などに寄与する特徴を有する。
【0044】
5-1.種類、形状など
成分Cの具体例として、例えば、無機フィラーとして、シリカ、ケイ藻土、バリウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、軽石バルンなどの酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩または亜硫酸塩、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイト、ベントナイトなどのケイ酸塩、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素中空球などの炭素類や、硫化モリブデン、ボロン繊維、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、マグネシウムオキシサルフェイト、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、各種金属繊維などを挙げることができる。なお、該成分Cは、2種以上併用してもよい。
【0045】
成分Cの形状については、特に制限はなく、粒状、板状、繊維状、棒状、ウィスカー状など、いずれの形状のものも、使用することができる。
中でも板状、繊維状、ウィスカー状のものは、物性バランスや寸法安定性などに優れた本発明の樹脂組成物及び成形体が得られやすい点で、好ましい。また、ポリマー用フィラーとして市販されているものは、いずれも使用できる。
これらは、一般的な粉末状の外に、取り扱いの利便性などを高めた、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状、チョップドストランド状などの形態で製造されることが多いが、いずれも使用することができる。中でも粉末状、圧縮魂状、顆粒状が好ましい。
【0046】
前記成分Cの内、タルク、ウィスカー及びガラス繊維から選ばれた少なくとも一種のものは、耐傷付性、物性バランス及び経済性などに優れた本発明の樹脂組成物及び成形体が得られ易い点で好ましい。
また、ここでいうウィスカーとは、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、極細炭素繊維などの極細(概ね2μmφ以下、とりわけ1μmφ以下)繊維状のものである。
【0047】
中でも、成分Cとしては、タルクが好ましく、特に平均粒子径が8.5μmを超え、好ましくは9~15μm、とりわけ好ましくは9.5~12μmのタルクは、耐傷付性、物性バランス、及び経済性が特に優れた本発明の樹脂組成物及び成形体が得られ易いなどの点で、好ましい。
この平均粒子径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計などを用いて測定した値であり、測定装置としては、例えば、堀場製作所製LA-920型が挙げられる。また、タルクは、アスペクト比が10を超え、特に12以上、とりわけ好ましくは15以上のものがより好ましい。タルクのアスペクト比の測定は、顕微鏡などにより測定された値より求められる。
【0048】
これらの成分Cは、有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面などを処理したものを用いてもよく、また、二種以上併用して表面などを処理してもよい。
【0049】
5-2.製造
成分Cの製造方法は、特に限定されたものではなく、公知の各種製造方法などにて製造される。例えば、タルクの場合、天然に産出されたものを機械的に微粉砕化することにより得られたものを、さらに精密に1回又は複数回分級することによって得られる。
粉砕機としては、例えば、ジョークラシャ-、ハンマークラシャ-、ロールクラシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル、振動ミルなどを用いることができる。
これらの粉砕されたタルクは、本発明で示される平均粒径に調節するために、例えば、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、サイクロンエアセパレーター、シャープカットセパレター、などの装置で1回または繰り返し湿式または乾式分級する。特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレターにて、分級操作を行うことが好ましい。
【0050】
5-3.配合量比
成分Cの配合割合は、前記成分Aと、前記成分Bと、前記成分Cとの合計量100質量部において、5~40質量部、好ましくは10~38質量部、より好ましくは15~34質量部、さらに好ましくは20~30質量部である。成分Cの配合量が5質量部以上であると、本発明の樹脂組成物及び成形体の物性バランス(剛性、耐熱性など)を向上させることができる。また、成分Cの配合量が40質量部以下であると、フローマークの発生(成形外観の低下)を抑えると共に、耐傷付性及び流動性(成形性)を向上させることができる。
【0051】
6.任意添加成分
本発明においては、前記成分A~成分C以外に、さらに必要に応じ、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、例えば、発明効果を一層向上させたり、他の効果を付与するなどのため、任意添加成分を配合することができる。
【0052】
具体的には、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、着色成分、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、非イオン系などの帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤や、前記成分Aに該当しないポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、前記成分Bに該当しないエラストマー(ゴム成分)などを挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよく、組成物に添加してもよいし、前記成分A~成分Cの各成分に添加されていてもよく、夫々の成分においても2種以上併用することもできる。
【0053】
着色成分として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、本発明の樹脂組成物及び成形体の、耐傷付性、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物などが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ;可溶性アゾレーキ;不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー;フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン;ペリノン;ペリレンなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。
【0054】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、本発明の樹脂組成物及び成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール;2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート;2,4-ジ-t-ブチルフェニル3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性などの向上効果が大きく、好ましい。
【0055】
[II]プロピレン系樹脂組成物の製造方法、成形体の製造方法及び用途
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、前記成分A~成分C(必要に応じ、任意添加成分)を、前記配合割合で、従来公知の方法で配合・混合・溶融混練することにより、製造することができる。
混合は、通常、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダーなどの混合機器を用いて行い、溶融混練は、通常、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーなどの混練機器を用いて溶融混練し、造粒する。
また、溶融混練・造粒して製造する際には、前記各成分の配合物を同時に混練してもよく、さらに、性能向上をはかるべく各成分を分割して混練する、すなわち、例えば、先ず成分Aと、前記成分Bとを(必要に応じ、任意添加成分)、混練し、その後に残りの成分Cを混練・造粒するといった方法を採用することもできる。
【0056】
本発明の成形体は、本発明のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体である。本発明の成形体は、前記方法で製造されたポリプロピレン系樹脂組成物を、例えば、射出成形(ガス射出成形、二色射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、シート成形及び中空成形などの周知の成形方法にて、成形することにより得ることができる。このうち、射出成形または射出圧縮成形にて得ることが好ましい。
【0057】
本発明の成形体は、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランスに優れ、表面平滑性にも優れる。
そのため、これらの性能をバランスよく、より高度に必要とされる用途、例えば自動車部品、テレビ・掃除機などの電気電子機器の各種部品、便座などの住宅設備機器部品などの工業分野の各種部品や建材部品などの用途、とりわけインストルメントパネル、グローブボックス、トリム類、ハウジング類、ピラー、バンパー、フェンダー、バックドアーなどの自動車内外装部品の用途に好適に用いることができる。これらの点などから、該ポリプロピレン系樹脂組成物及びそれからなる成形体の工業的価値は大きい。
【実施例0058】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
1.物性測定、評価方法、分析方法
(1)MFR:JIS K 7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で行った。
(2)曲げ弾性率(単位:MPa):ISO527に準拠し、試験温度23℃、試験速度2mm/分で測定した。なお、試験片は、東芝機械社製IS80G射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃でダンベル形引張試験片(タイプA)を成形し使用した。得られた測定値をそれぞれ無機充填剤(C)が同一で基準とする実施例1、実施例4および実施例8と比較して下記の判定を行った。
○ 基準材との比較で、その物性値が-10%より小さい。
△ 基準材との比較で、その物性値が-10%~-20%である。
× 基準材との比較で、その物性値が-20%を超える。
(3)シャルピー(Charpy)衝撃強度(単位:kJ/m2):ISO179(ノッチ付)に準拠し、試験温度23℃で測定した。試験片は、東芝機械社製IS80G射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃でノッチ付き(ノッチ半径0.25mm)、厚さ4.0mm、幅10.0mm、長さ80.0mmの試験片を成形し使用した。得られた測定値をそれぞれ無機充填剤(C)が同一で基準とする実施例1、実施例4および実施例8と比較して下記の判定を行った。
○ 基準材との比較で、その物性値が-10%より小さい。
△ 基準材との比較で、その物性値が-10%~-20%である。
× 基準材との比較で、その物性値が-20%を超える。
(4)線膨張係数:下記の条件で射出成形により平板を作製し、試験片を切り出すことにより線膨張係数に用いた。
(4-1)平板成形条件
射出成形機:日精樹脂工業製「NEX220」
金型:長尺平板(L350mm×w100mm×t3mm、サイドゲート1点仕様)
成形温度:220℃
金型温度:40℃
射出圧力:80MPa
保圧力 :55MPa
射出速度:30mm/sec
充填時間:3秒
冷却時間:20秒
次いで、その試験片の中央から10mm×10mm×3mmの試験片を切り出し、成形加工時のひずみの除去、脱水及び脱気を行うために100℃にて1時間アニール処理した。(4-2)測定条件
各々樹脂の流れ方向とその直角方向の線膨張係数を、JIS K-7197に従って、線膨張係数測定装置(株式会社島津製作所製「TMA-60」)を用いて、圧縮モードにて測定した。測定は、16℃~85℃の温度範囲について2℃/分の昇温速度で行った内の25~80℃までの平均線膨張係数を測定し、2方向の測定値の平均値を線膨張係数とした。ここで、線膨張係数が小さいほど、寸法安定性が優れていると言える。得られた測定値をそれぞれ無機充填剤(C)が同一で基準とする実施例1、実施例4および実施例8と比較して下記の判定を行った。
○ 基準材との比較で、その物性値が+10%より小さい。
△ 基準材との比較で、その物性値が+10%~+20%である。
× 基準材との比較で、その物性値が+20%を超える。
(5)表面平滑性 平板表面粗さRa(単位:μm):下記の条件で射出成形により平板を作製し、平板表面粗さを測定した。ここで、平板表面粗さRaが小さいほど、表面平滑性が優れていると言える。
(5-1)平板成形条件
射出成形機:日精樹脂工業製「NEX220」
金型:長尺平板(L350mm×w100mm×t3mm、サイドゲート1点仕様)
成形温度:220℃
金型温度:40℃
射出圧力:80MPa
保圧力 :55MPa
射出速度:30mm/sec
充填時間:3秒
冷却時間:20秒
(5-2)測定条件
測定器 :(株)ミツトヨ製 サーフテストSJ-210
スタイラス先端形状:テーパ角度(60度)、先端R(2μm)
測定力 :0.75mN
測定方法:前記で作製した試験片の表面をMD方向(樹脂の流れ方向)で測定した。得られた測定値をそれぞれ無機充填剤(C)が同一で基準とする実施例1、実施例4および実施例8と比較して下記の判定を行った。
○ 基準材との比較で、その物性値が+10%より小さい。
△ 基準材との比較で、その物性値が+10%~+20%である。
× 基準材との比較で、その物性値が+20%を超える。
【0059】
プロピレン・エチレンブロック共重合体のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分量(比率)、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含量は、以下のような方法によって定量することができる。
(a)使用する分析装置
(a-1)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T-100(CFCと略す)
(a-2)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT-IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT-IRを接続し、このFT-IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT-IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT-IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(a-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0060】
(b)CFCの測定条件
(b-1)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(b-2)サンプル濃度:4mg/ml
(b-3)注入量:0.4ml
(b-4)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(b-5)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40~100℃で溶出する成分(フラクション2)、100~140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位:重量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT-IR分析装置へ自動輸送される。
(b-6)溶出時溶媒流速:1ml/分
【0061】
(c)FT-IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT-IR測定を行い、上述した各フラクション1~3について、GPC-IRデータを採取する。
(c-1)検出器:MCT
(c-2)分解能:8cm-1
(c-3)測定間隔:0.2分(12秒)
(c-4)一測定当たりの積算回数:15回
【0062】
(d)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT-IRによって得られる2945cm-1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。各々が0.5mg/mlとなるようにODCB(0.5mg/mlのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4ml注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(d-1)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(d-2)成分(A)プロピレン・エチレンブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT-IRによって得られる2956cm-1の吸光度と2927cm-1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C-NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン-プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(重量%)に換算して求める。
【0063】
(e)エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100…(I)
式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:重量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:重量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるエチレン・プロピレン共重合体部分のエチレン含有量(単位:重量%)である。
A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0064】
式(I)の意味は以下の通りである。すなわち、式(I)右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がエチレン・プロピレンランダム共重合体部分のみを含み、プロピレン重合体を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはエチレン・プロピレンランダム共重合体由来の成分のほかに少量のプロピレン重合体由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、エチレ・プロピレンランダム共重合体由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30重量%であり、フラクション1に含まれるエチレン・プロピレンランダム共重合体のエチレン含有量(B40)が40重量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75重量%)はエチレン・プロピレンランダム共重合体由来、1/4はプロピレン重合体由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の重量%(W40)からエチレン・プロピレンランダム共重合体の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、エチレン・プロピレンランダム共重合体の寄与を算出して加え合わせたものがエチレン・プロピレンランダム共重合体部分含有量となる。
【0065】
(e-1)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1~2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも重量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
【0066】
(e-2)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は重量%である)。フラクション2については、ゴム部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるエチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン重合体とエチレン・プロピレンランダム共重合体を完全に分離・分取する手段がないからである。
種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるエチレン・プロピレンランダム共重合体の量がフラクション1に含まれるエチレン・プロピレンランダム共重合体の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0067】
(e-3)上記の理由からエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式(II)に従い、求める。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100…(II)
つまり、式(II)右辺の第一項であるW40×A40/B40は結晶性を持たないエチレン・プロピレンランダム共重合体含有量(重量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は結晶性を持つエチレン・プロピレンランダム共重合体部分含有量(重量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイント毎の重量割合と各データポイント毎のエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0068】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。本発明のCFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体の大部分、もしくはプロピレン重合体部分の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えばエチレン・プロピレンランダム共重合体中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性の低いプロピレン重合体)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えば、プロピレン重合体中特に結晶性の高い成分、およびエチレン・プロピレンランダム共重合体中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用するプロピレン・エチレンブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはエチレン・プロピレンランダム共重合体成分は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからエチレン・プロピレンランダム共重合体の比率やエチレン・プロピレンランダム共重合体のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0069】
(f)エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量
本発明における成分(A1)および成分(A2)のプロピレン・エチレンブロック共重合体のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式からそれぞれ求められる。
エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(重量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の比率(重量%)である。
【0070】
なお、本発明における成分(A1)および成分(A2)のプロピレン・エチレンブロック共重合体におけるエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyは、それぞれ次のように求められる。
まず、結晶性プロピレン重合体部分の重合終了後、一部を重合槽よりサンプリングし、該部分の極限粘度[η]homoを測定する。次に、結晶性プロピレン重合体部分を重合した後、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分を重合して得られた最終重合物(F)の極限粘度[η]Fを測定する。この測定は、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で行う。[η]copolyは、以下の関係から求める。
[η]F=(100-Wc)/100×[η]homo+Wc/100×[η]copoly
【0071】
2.材料
実施例、比較例において原材料として以下のものを使用した。
(1)成分(A1)および成分(A2):プロピレン・エチレンブロック共重合体
(A-1):日本ポリプロ社製、「ノバテック」から、次の特性を有するプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
・プロピレン重合体部分とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分とを含有する。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):120g/10分
・プロピレン重合体部分の含量:85重量%
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の含量:15重量%
・プロピレン重合体部分のメルトフローレート:230g/10分
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量:40重量%
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]c:2.5dl/g
(A-2):日本ポリプロ社製、「ノバテック」から、次の特性を有するプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
・プロピレン重合体部分とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分とを含有する。
・全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):120g/10分
・プロピレン重合体部分の含量:90重量%
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の含量:10重量%
・プロピレン重合体部分のメルトフローレート:350g/10分
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分のエチレン含有量:45重量%
・エチレン・プロピレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]c:7.0dl/g
【0072】
(2)成分(B):熱可塑性エラストマー
(B)-1:デュポン・ダウ社製、エチレン・オクテン共重合体「エンゲージ 8100」(商品名) メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重):2g/10分
【0073】
(3)成分(C):無機充填物
(C)-1:Imerys社製「Luzenac HAR T84」(商品名) 平均粒子径:9.7μm、アスペクト比:18
(C)-2:日本タルク株式会社製「ミクロエース C-31」(商品名) 平均粒子径:6.2μm、アスペクト比:7.5
なお、平均粒子径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計等によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径であり、測定装置として、堀場製作所LA-920型を使用した。
(4)任意添加成分
・フェノール系酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ社製、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、「イルガノックス1010」(商品名)
・リン系安定剤:チバスペシャリティケミカルズ社製、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、「イルガホス168」(商品名)
・分散剤:日東化成工業社製、ステアリン酸カルシウム、「カルシウム・ステアレート」(商品名)
【0074】
3.実施例及び比較例
上記原材料(A)~(C)を、タンブラーミキサーを用いて表1~3に示す割合で各々配合した。さらに原材料の合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.1重量部、リン系安定剤0.1重量部、分散剤0.05重量部を充分に混合した。得られた混合物を2軸押出機(日本製鋼所製:TEX30α)、樹脂温度210℃の条件下にて混練造粒し、ペレット状のプロピレン系樹脂組成物を得た。上記樹脂組成物を用いて射出成形により各評価用試験片を得た。各材料の配合及び評価結果を表1、表2及び表3にそれぞれ示した。実施例1、実施例4、実施例8との相対比について評価した各項目の判定において、×が1つの以上のものを「××(とても悪い)」とし、△が2つのものを「×(悪い)」とし、△が1つのみのものを「△(許容できる範囲)」とし、×及び△がないものを「〇(良好)」として総合判定した。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
4.評価
表1、表2および表3に示されるように、本発明の必須構成要件における各規定を満たす、実施例1~実施例8に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物及びそれを射出成形して得られた部材は、何れも良好な成形性(高流動性)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)、寸法安定性(低い線膨張係数)及び優れた製品表面の外観品質のすべてを有し、工業部品部材、好ましくは自動車部品、例えばドアトリム、インストルメントパネル、ピラー、バンパー、サイドモール、ドアプロテクター、サイドプロテクター、バックドア、フェンダー、リアゲート、フェンダー付帯部品などのフェンダー周り用各種部品等の自動車部品、とりわけ好ましくはバンパー、バックドア、フェンダー、リアゲート、フェンダー付帯部品などの自動車外装部品等に適する性能を明らかに有していることが確認された。
【0079】
一方、比較例1~7に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物及びそれを射出成形して得られた部材は、これらの性能バランスが不良で見劣りしている。
例えば比較例1において、プロピレン系樹脂組成物の、流動性および平滑性(平板表面粗さRa)は、実施例2と同等であるにもかかわらず、衝撃強度や寸法安定性(線膨張係数)に差異が生じた。これは、成分A1による、寸法安定性(線膨張係数)の向上が著しく、成分A1が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例2において、プロピレン系樹脂組成物の、寸法安定性(線膨張係数)は、実施例1と同等であるにもかかわらず、物性バランス(剛性、衝撃強度)及び製品表面の平滑性(平板表面粗さRa)に差異が生じた。これは、成分A2による、平滑性(平板表面粗さRa)の向上が著しく、成分A2が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例3において、プロピレン系樹脂組成物の、平滑性(平板表面粗さRa)は、実施例4と同等であるにもかかわらず、流動性や寸法安定性(線膨張係数)に差異が生じた。これは、成分A1による、寸法安定性(線膨張係数)の向上が著しく、成分A1が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例4において、プロピレン系樹脂組成物の、流動性、剛性および寸法安定性(線膨張係数)は、実施例4と同等であるにもかかわらず、衝撃強度及び製品表面の平滑性(平板表面粗さRa)に差異が生じた。これは、成分A2による、平滑性(平板表面粗さRa)の向上が著しく、成分A2が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例5において、プロピレン系樹脂組成物の、流動性および剛性は、実施例4よりも良好であるにもかかわらず、衝撃強度、寸法安定性(線膨張係数)及び製品表面の平滑性(平板表面粗さRa)が不良であった。これは、各性能バランスを満たすためには成分Bが本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例6において、プロピレン系樹脂組成物の、流動性及び剛性は、実施例8と同等であるにもかかわらず、寸法安定性(線膨張係数)や平滑性(平板表面粗さRa)に差異が生じた。これは、成分A2による、寸法安定性(線膨張係数)及び平滑性(平板表面粗さRa)のバランス向上が著しく、成分A2が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
また、比較例7において、プロピレン系樹脂組成物の、剛性および衝撃性は、実施例8と同等であるにもかかわらず、寸法安定性(線膨張係数)に差異が生じた。これは、成分A1による、寸法安定性(線膨張係数)の向上が著しく、成分A1が本発明の範囲を満たすことが必須であることを示している。
【0080】
以上における、各実施例と各比較例の結果からして、本発明の構成と各要件の合理性と有意性が実証され、さらに本発明の従来技術に対する優位性も明らかである。
本発明のプロピレン系樹脂組成物及びそれを用いた成形体は、成形性(高流動性)、寸法安定性(低線膨張係数)、物性バランス(高剛性、高衝撃強度)に優れるとともに、良好な製品表面の外観品質を有し、工業部品部材、好ましくは自動車部品、例えばドアトリム、インストルメントパネル、ピラー、バンパー、サイドモール、ドアプロテクター、サイドプロテクター、バックドア、フェンダー、リアゲート、フェンダー付帯部品などのフェンダー周り用各種部品等の自動車部品、とりわけ好ましくはバンパー、バックドア、フェンダー、リアゲート、フェンダー付帯部品などの自動車外装部品に適する性能を有している。