(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177790
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】多層積層フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20231207BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20231207BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
B32B27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090652
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄二
(72)【発明者】
【氏名】宇都 孝行
(72)【発明者】
【氏名】増田 嘉丈
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 健
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148FA04
2H148GA05
2H148GA14
2H148GA33
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA08
4F100EA02
4F100EH20
4F100EJ38
4F100EJ55
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JA05A
4F100JA05B
4F100JA11A
4F100JA12B
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JN01
4F100JN06
4F100JN18A
4F100JN18B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明は、設計通りの高い積層精度をフィルムの幅方向において広い範囲にわたって達成し、フィルムの幅方向において広い範囲にわたって均一な反射率スペクトルを持つ多層積層フィルム及びその多層積層フィルムを用いた成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】 異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、前記多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、前記層群Laが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことを特徴とする、多層積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、
前記多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、
前記層群Laが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことを特徴とする、多層積層フィルム。
【請求項2】
前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の75%~85%の範囲に位置する層群を層群Lbとしたときに、前記層群Lbが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、上位10%の厚みとなる層の70%以上を含む、請求項1に記載の多層積層フィルム。
【請求項3】
前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の30%~75%の範囲に位置する層群を層群Lcとしたときに、前記層群Lcを構成する層の厚みが傾斜構造を有する、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項4】
前記表面1から前記層群Laの始点迄の区間に位置する層群を層群Ld、前記層群Lbの終点から前記表面2迄の区間に位置する層群を層群Leとしたときに、
前記層群Ld及び前記層群Leを構成する層の厚みが、共に傾斜構造を有し、
前記層群Ldの平均層厚み及び前記層群Leの平均層厚みが、共に前記層群Laの平均層厚みを超え前記層群Lbの平均層厚み未満であり、
かつ、前記層群Ldにおける最大層厚みが前記層群Leにおける最小層厚み×0.7以上である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項5】
第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が交互に積層された構成を有し、前記第一の熱可塑性樹脂が結晶性ポリエステルを主成分とし、前記層Bが非晶性ポリエステルまたは前記層Aを構成する熱可塑性樹脂よりも5℃~100℃低い融点を有する結晶性ポリエステルを主成分とする、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項6】
波長240nm~2600nmの範囲において、連続して5nm以上にわたって反射率が30%以上100%以下である反射ピークを有する、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項7】
波長400nm~800nmの範囲における平均反射率が20%以上100%以下である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項8】
多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が80%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上100%以下である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項9】
多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が0以上20以下である、請求項1または2に記載の多層積層フィルム。
【請求項10】
前記Rp60の方位角ばらつきが0.1%以上10%以下である、請求項8に記載の多層積層フィルム。
【請求項11】
請求項1または2に記載の多層積層フィルムをコアに巻き取ってなる、多層積層フィルムロール。
【請求項12】
多層積層フィルムの幅が1m以上であり、長さが100m以上である、請求項11に記載の多層積層フィルムロール。
【請求項13】
請求項1または2に記載の多層積層フィルムを用いた、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅方向の光学特性の変化が軽減された多層積層フィルム、多層積層フィルムロール、およびこれらを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融製膜法によって異なる複数の熱可塑性樹脂層を交互に積層した多層積層フィルムは、積層する熱可塑性樹脂層の屈折率と層厚みを制御することで様々な波長の光を反射することができる。しかしながら、溶融製膜法による多層積層フィルムは、無機材料の蒸着法によって製膜された従来の多層膜と比べて異なる熱可塑性樹脂層間の屈折率差が低い。そのため、多層積層フィルムにおいては、多くの層数を必要とするばかりでなく、積層方法の違いから光学設計通りの高い積層精度での多層膜構造の実現が必要であった。このような課題に対し、高い積層精度での多層積層フィルムを得る方法として、フィードブロックによって多層膜を積層した多層積層フィルムが提案されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された多層積層フィルムは、幅方向の中央部については設計通りの高い積層精度を達成している。しかしながら、当該多層積層フィルムにおいては、幅方向の中央部から端部に向かうにつれて積層精度が設計から離れる。そのため、幅方向の端部付近では目的の反射率スペクトルを実現することができず、製品幅収率が低くなる課題がある。すなわち、本発明は幅方向の端部付近においても積層精度が高く、製品幅収率に優れた多層積層フィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の構成よりなる。すなわち、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、前記多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、前記層群Laが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことを特徴とする、多層積層フィルムである。
【0006】
なお、本発明の多層積層フィルムは以下の態様とすることや、多層積層フィルムロールや成形体とすることができる。
(1) 異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、前記多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、前記層群Laが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことを特徴とする、多層積層フィルム。
(2) 前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の75%~85%の範囲に位置する層群を層群Lbとしたときに、前記層群Lbが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、上位10%の厚みとなる層の70%以上を含む、(1)に記載の多層積層フィルム。
(3) 前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の30%~75%の範囲に位置する層群を層群Lcとしたときに、前記層群Lcを構成する層の厚みが傾斜構造を有する、(1)または(2)に記載の多層積層フィルム。
(4) 前記表面1から前記層群Laの始点迄の区間に位置する層群を層群Ld、前記層群Lbの終点から前記表面2迄の区間に位置する層群を層群Leとしたときに、前記層群Ld及び前記層群Leを構成する層の厚みが、共に傾斜構造を有し、前記層群Ldの平均層厚み及び前記層群Leの平均層厚みが、共に前記層群Laの平均層厚みを超え前記層群Lbの平均層厚み未満であり、かつ、前記層群Ldにおける最大層厚みが前記層群Leにおける最小層厚み×0.7以上である、(1)~(3)の何れかに記載の多層積層フィルム。
(5) 第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が交互に積層された構成を有し、前記第一の熱可塑性樹脂が結晶性ポリエステルを主成分とし、前記層Bが非晶性ポリエステルまたは前記層Aを構成する熱可塑性樹脂よりも5℃~100℃低い融点を有する結晶性ポリエステルを主成分とする、(1)~(4)の何れかに記載の多層積層フィルム。
(6) 波長240nm~2600nmの範囲において、連続して5nm以上にわたって反射率が30%以上100%以下である反射ピークを有する、(1)~(5)の何れかに記載の多層積層フィルム。
(7) 波長400nm~800nmの範囲における平均反射率が20%以上100%以下である、(1)~(6)の何れかに記載の多層積層フィルム。
(8) 多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が80%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつ前記Rp60が10%以上100%以下である、(1)~(7)の何れかに記載の多層積層フィルム。
(9) 多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が0以上20以下である、(1)~(8)に記載の多層積層フィルム。
(10) 前記Rp60の方位角ばらつきが0.1%以上10%以下である、(8)または(9)に記載の多層積層フィルム。
(11) (1)~(10)の何れかに記載の多層積層フィルムをコアに巻き取ってなる、多層積層フィルムロール。
(12) 多層積層フィルムの幅が1m以上であり、長さが100m以上である、(11)に記載の多層積層フィルムロール。
(13) (1)~(10)の何れかに記載の多層積層フィルム又は(11)又は(12)に記載の多層積層フィルムロールを用いた、成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、設計通りの高い積層精度を幅方向の広い範囲にわたって確保できるため、幅方向の広い範囲にわたってより均一な反射率スペクトルを持つ多層積層フィルムを得ることができる。また、上記多層積層フィルムより、多層積層フィルムロールや成形体を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来技術による多層積層フィルムの一例における、幅方向の位置による層厚み分布及び反射率スペクトルの差異を説明する図である。
【
図2】層群La、Lb、Lc、Ld、Leの層厚みの定義を説明するための模式図である。
【
図3】本発明の一実施態様に係る多層積層フィルムにおける層厚み分布、及び反射率スペクトルを説明する図である。
【
図4】本発明の一実施態様に係る多層積層フィルムにおける層厚み分布、及び反射率スペクトルを説明する図である。
【
図5】本発明の多層積層フィルムにおいて、P波の反射光の彩度を20以下とするための層Aと層Bの層厚み分布を説明する模式図である。
【
図6】本発明の多層積層フィルムの方位角を説明する模式図である。
【
図7】実施例1~5の多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を示す図である。
【
図8】実施例6~10の多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を示す図である。
【
図9】実施例11~16、実施例19の多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を示す図である。
【
図10】実施例17、18の多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を示す図である。
【
図11】比較例1~5の多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多層積層フィルムは、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した多層積層フィルムであって、前記多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、前記表面1から前記表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、前記層群Laが、前記多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことを特徴とする。
【0010】
なお、本発明の多層積層フィルムは、積層数を除く上記要件をフィルム全体の一部で満たしていればよいが、幅方向の広い範囲にわたってより均一な反射率スペクトルを持つ観点から、幅方向の中央位置と少なくとも一方の幅方向の端部位置の両方で満たすことが好ましい。この点は、以下に述べる本発明の多層積層フィルムが備えることのできる他の特性(但し、層構成や各層の組成、各層の成分により定まる特性を除く。)についても同様である。なお、幅方向の端部位置とは、幅方向の中央位置から、何れかの幅方向の端部方向側に0.5mシフトした位置をいう。以上の点は後述する多層積層フィルムロールにおいても同様とする。
【0011】
以下に本発明の実施形態について述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。また、説明を簡略化する目的で一部の説明は、本発明の好ましい態様の一つである、異なる2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を有する多層積層フィルムを例にとり説明するが、3種以上の熱可塑性樹脂を用いた場合においても、同様に理解されるべきものである。
【0012】
本発明の多層積層フィルムは、異なる複数の熱可塑性樹脂層が交互に51層以上積層した構成を有することが必要である。本発明の多層積層フィルムにおいては、組成の異なる熱可塑性樹脂層が複数種存在し、かつこれらの熱可塑性樹脂層の屈折率がフィルムの面内で任意に選択される直交する2方向および該面に垂直な方向の何れかにおいて、0.01以上異なる場合に「異なる複数の熱可塑性樹脂層が存在する。」とみなすことができる。また、交互に積層したとは、異なる熱可塑性樹脂からなる層が厚み方向に規則的な配列で積層されていることをいう。
【0013】
このような態様の具体例としては、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)からなる場合であれば、A(BA)n、B(AB)n(nは繰り返し単位を表す自然数、以下同じ。)のように順に積層されたものが挙げられる。また、多層積層フィルムが第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)、第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)、及び第三の熱可塑性樹脂からなる層(層C)からなる場合であれば、その配列は特に限定されるものではないが、例えば、C(BA)nCやC(ABC)n、C(ACBC)n等のように各層が一定の規則性をもって順に積層されたものが挙げられる。このように屈折率等の光学的性質の異なる複数の熱可塑性樹脂層を交互に積層することにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より所望の波長帯域の光を選択的に反射させる干渉反射を発現させることが可能となる。
【0014】
また、多層積層フィルムの層数が50層以下の場合には、所望する波長帯域において高い反射率を得られない。前述の干渉反射は、層数が増えるほどより広い波長帯域の光に対して高い反射率を達成できるようになり、所望する波長帯域の光を反射する多層積層フィルムが得られるようになる。上記観点から、多層積層フィルムの層数は好ましくは201層以上であり、より好ましくは401層以上であり、さらに好ましくは801層以上である。また、層数に上限はないものの、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルムが厚くなることでのハンドリング性の悪化が生じるために、現実的には10001層程度が実用範囲となる。
【0015】
本発明の多層積層フィルムの51層以上の積層構造は、次のような方法で作製することができる。まず、層Aに対応する押出機Aと層Bに対応する押出機Bの2台から第一の熱可塑性樹脂及び第二の熱可塑性樹脂を溶融した状態で供給する。それぞれの流路から供給された溶融熱可塑性樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサー、もしくはコームタイプのフィードブロックのみにより交互に51層以上積層する。次いで、その溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出し、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得る。層Aと層Bの積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている積層方法が好ましい。このような積層方法によってフィルムの幅方向の中央部については設計通りの高い積層精度を達成することができる。なお、ここで幅方向とは、製造工程中においてフィルムが走行する方向(長手方向)に、フィルム面内で直交する方向をいう。
【0016】
上記の積層方法で積層した直後は、幅方向の中央位置と端部位置の何れにおいても、各層は設計通りの層厚みに積層されている。しかしながら、溶融状態の異なる熱可塑性樹脂を交互に積層しているため、積層装置から口金で吐出されるまでの間に、熱可塑性樹脂のレオロジー特性の違いによって幅方向の中央位置と端部位置で流動特性に違いが生じる。この流動特性の違いにより、幅方向の中央位置と端部位置との間に層厚みの差異が生じるため、フィルムの幅方向において中央位置から端部方向に向かうにつれて積層精度に設計からのずれが生じる。そして、このような設計からのずれが生じた状態で多層積層フィルムの製膜を行うと、幅方向の端部付近では目的の反射率スペクトルを得ることができず、最終的に製品として得られる多層積層フィルムが幅方向の中央位置に近い部分に限られ、製品幅収率が低くなる。
【0017】
以下、従来技術の課題について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
図1は、従来技術による多層積層フィルムの一例における層厚み分布、及び幅方向の位置による反射率スペクトルの差異を説明する図である。
図1における多層積層フィルムは、波長850nmから1150nmまでの帯域の光を反射し、波長400nmから800nmまでの帯域の光を透過するように設計された、異なる2種類の樹脂(層A:面内屈折率1.66のポリエチレンテレフタレート、層B:面内屈折率1.55の共重合ポリエチレンテレフタレート)が交互に401層積層された多層積層フィルムである。なお、ここでいう屈折率はアッベ屈折率計により測定した、ナトリウムD線(波長589nm)照射時の値である。
【0018】
図1のAは、多層積層フィルムの表面1から表面2に至るまでの区間について、表面1からの層の厚み位置(%)における隣接する層Aと層Bの平均層厚み(nm)を示したものである。以下「隣接する層Aと層Bの平均層厚み」を「層対平均厚み」ということがある。
図1のBは、
図1のAに示す層対平均厚みを示す多層積層フィルムの反射率スペクトルを示す。ここで表面1とは、多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面をいい、層数が少なくなる方の表面が表面2である。なお、層対平均厚みを求める際の層対は、交互積層ユニットを形成する層のうち最も表面1に近い層とその隣(表面2側)の層を最初の層対とし、以後、順に表面2側に向かって順に層対を定めることにより決定する。このとき、交互積層ユニットを形成する層の総数が奇数である場合に生じる余りの層は、層対を形成できないため存在しないものとして扱う。
【0019】
図1のAに示す通り、幅方向の中央位置における層対平均厚み(符号1)は、表面1側(0%)から表面2側(100%)に向かって、130nmから180nmまでの範囲で直線的に増加している。その結果、幅方向の中央位置における反射率スペクトル(符号3)が示すように、幅方向の中央位置において多層積層フィルムは、波長850nmから1150nmまでの帯域の光をシャープに、かつほぼ同程度に反射できている。一方で、幅方向の端部位置における層対平均厚み(符号2)は、層対平均厚みが幅方向の中央位置のものから変化している。その結果、幅方向の端部位置における反射率スペクトル(符号4)では、中央位置のものに比べて反射帯域の低波長端波長と長波長端波長が共に長波長側へシフトしており、さらに波長1100nm前後での反射率が低下している。ここで、反射帯域とは反射率が30%以上である波長帯域をいう。低波長端波長とは、反射帯域における最大反射率の半分の反射率(半値)を示す波長であって、最も低波長側の波長をいう。高波長端波長とは、当該半値を示す波長であって、最も高波長側の波長をいう。
【0020】
このように従来技術では、幅方向端部付近では目的の反射率スペクトルを備える多層積層フィルムを得ることが困難であり、結果的に製品幅収率が低くなる課題がある。この課題を解決するために、本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2、表面1から表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群Laとしたときに、層群Laが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことが必要である。なお、層構成や各層の厚みは、フィルム面と垂直な方向の断面を切り出したサンプルを、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察や、その測長機能による測定、画像処理により同定、測定することができる。詳細は実施例で後述する。
【0021】
ここで層群La及び以降の層群Lb、層群Lc、層群Ld、層群Leに関して、層群Laに関して下位10%の厚みとなる層の算出時の層厚みの定義、層群Lbに関して上位10%の厚みとなる層の算出時の層厚みの定義、層群Lcを構成する層の厚みの傾斜構造算出時の層厚みの定義、層群Ldと層群Leに関して平均層厚みと最大・最小層厚み算出時の層厚みの定義について
図2を用いて説明する。
図2は層群La、Lb、Lc、Ld、Leの層厚みの定義を説明するための模式図である。
図2において、符号5~7は順に、多層積層フィルムの表面1側の1層目から8層目までの断面、層A、層Bを表し、図中の上側の最表面が表面1となる。
【0022】
符号5の積層構成を示す多層積層フィルムは、表面1側の最表層が層Aであり、これに隣接して層Bが位置し、以降層A、層Bが交互に繰り返された構成を有している。表面1から数えてn番目の層A、層Bの厚みをそれぞれHan、Hbnとし(すなわち符号5で示される各層の層厚みは表面1側の層から順に、Ha1、Hb1、Ha2、Hb2、Ha3、Hb3、Ha4、Hb4となる。)、「n」が等しい層Aと層Bを隣接する層として一組の層対とみなして各層対の平均厚みをHnとする(すなわち、符号5で示される構成においてはHa1とHb1の平均値がH1となり、以下同様にH2、H3、H4が定まる。)。多層積層フィルムの反射波長は下記の(A)式によって定まることから、隣接する層Aと層Bの平均層厚みの調整が反射波長の制御において重要である。そのため、本発明において各層群に含まれる各層の厚みは、層対を形成する層Aと層Bの平均層厚みをそれぞれ層Aと層Bの層厚みとみなす(すなわち、符号5で示される構成においては、表面1側の層から順に厚みがH1、H1、H2、H2、H3、H3、H4、H4であるとみなす。n番目まで層があるとすれば、最後の層対を形成する層Aと層Bの厚みは共にHnとみなすこととなる。)。
【0023】
【0024】
ここでλは反射波長、nAは層Aの屈折率、dAは層Aの厚み、nBは層Bの屈折率、dBは層Bの厚みである。
【0025】
本発明の多層積層フィルムにおいては、表面1から表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群を層群La、同区間の75%~85%の範囲に位置する層群を層群Lb、同区間の30%~75%の範囲に位置する層群を層群Lc、表面1から層群Laの始点迄の区間に位置する層群を層群Ld、層群Lbの終点から表面2迄の区間に位置する層群を層群Leとする。また、上記に従って定めた多層積層フィルムの表面1から表面2に至るまでに含まれる層Aと層Bの層厚みを用いて、層群Laが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むか否か、及び他の層群がそれぞれ規定される要件(後述)を満たすか否かを判断することができる。なお、層対が層群の境目をまたいで存在する場合は、当該層対は表面1に近い方の層群側に属するものとする。
【0026】
以下、本発明の多層積層フィルムの一実施態様について、
図3を用いて説明する。
図3は本発明の一実施態様に係る多層積層フィルムにおける層厚み分布、及び反射率スペクトルを説明する図である。
図3に層厚み分布と反射率スペクトルを示す多層積層フィルムは、波長850nmから1150nmまでを反射し、波長400nmから800nmまでを透過するように設計された異なる2種類の熱可塑性樹脂層(層A:面内屈折率1.66のポリエチレンテレフタレート層、層B:面内屈折率1.55の共重合ポリエチレンテレフタレート層)が交互に401層積層された多層積層フィルムである。なお、ここでいう屈折率はアッベ屈折率計により測定した、ナトリウムD線(波長589nm)照射時の値である。
図3のAに示す層厚み分布より、層群La(表面1から表面2に至る迄の区間の15%~30%の範囲に位置する層群)が、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含んでいることが読み取れる。
【0027】
前述のとおり、多層積層フィルムの反射波長は(A)式によって定まる。そして、一般的に多層積層フィルム中の層Aと層Bの屈折率は、交互に積層した各層において大きな差は生じないことから、多層積層フィルムの反射波長は各層の層厚みによる影響を大きく受ける。また、干渉反射の原理から低波長側の反射は相対的に薄い層によって、逆に高波長側の反射は相対的に厚い層によってもたらされることも考慮すると、反射率スペクトルの低波長端は多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、主に下位10%の厚みとなる層によって定まる。そのため、このような層厚み構成として、幅方向の端部位置における薄い層の厚みの変化を抑えることにより、反射率スペクトルの低波長端は多層積層フィルムの幅方向の端部位置においても中央位置に近い値となる。その結果、従来技術に比べて幅方向の端部位置においても、反射率スペクトルの低波長端のずれを軽減することができる。
【0028】
上記観点から本発明の多層積層フィルムは、層群Laが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の80%以上を含む構成であることがより好ましい。層群La中に含まれる下位10%の厚みとなる層の割合が多くなるほど、幅方向の中央位置と端部位置において低波長端の波長の変化が小さくなることから、上限に制限はなく実質100%が上限となる。また、多層積層フィルムの反射特性を調整するには、2つの熱可塑性樹脂層の屈折率差、積層数、層厚み分布、製膜条件(例えば延伸倍率、延伸速度、延伸温度、熱処理温度、熱処理時間)の調整等も効果的である。
【0029】
本発明の多層積層フィルムは、表面1から表面2に至る迄の区間の75%~85%の範囲に位置する層群を層群Lbとしたときに、層群Lbが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、上位10%の厚みとなる層の70%以上を含むことが好ましい。以下、上記態様の詳細について
図4を用いて説明する。
【0030】
図4は、本発明の一実施態様に係る多層積層フィルムにおける層厚み分布、及び反射率スペクトルを説明する図である。
図4に層厚み分布と反射率スペクトルを示す多層積層フィルムは、波長850nmから1150nmまでの波長帯域の光を反射し、波長400nmから800nmまでの帯域の光を透過するように設計された、異なる2種類の樹脂(層A:面内屈折率1.66のポリエチレンテレフタレート、層B:面内屈折率1.55の共重合ポリエチレンテレフタレート)が交互に401層積層された多層積層フィルムである。なお、ここでいう屈折率はアッベ屈折率計により測定した、ナトリウムD線(波長589nm)照射時の値である。
【0031】
図4に示す層厚み分布より、層群Lb(表面1から表面2に至る迄の区間の75%~85%の範囲に位置する層群)が、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、上位10%の厚みとなる層の70%以上を含んでいることが読み取れる。前述のとおり干渉反射の原理によれば、高波長側の反射は相対的に厚い層によってもたらされる。そのため、
図4のAに示すように層群Lbが相対的に厚みの大きい層を多く含む構成として、幅方向の端部位置における層厚みの大きい層の厚み変化を抑えることにより、幅方向の端部位置における反射率スペクトルの長波長端の変化を軽減することができる。
【0032】
本発明の多層積層フィルムは、表面1から表面2に至る迄の区間の30%~75%の範囲に位置する層群を層群Lcとしたときに、層群Lcを構成する層の厚みが傾斜構造を有することが好ましい。ここで傾斜構造とは多層積層フィルムの表面1からの層の厚み位置(%)における隣接する層Aと層Bの平均層厚み(nm)について、巨視的にみて傾斜構造を有することを意味する。ここで巨視的にみて傾斜構造を有するとは、横軸に表面1からの層の厚み位置(%)を縦軸に隣接する層Aと層Bの平均層厚み(nm)を取り、その1次近似式の傾きXLcが0.1以上であることをいう(後述する他の層群の傾斜構造についても同様とする。)。層群Lcを構成する層の厚みが傾斜構造を有することによって低波長端波長と長波長端波長の間の波長における反射率を効率良く高めることができ、低波長端波長から長波長端波長にわたる反射率の均一性を高めることができる。
【0033】
1次近似式の傾きXLcの好ましい値は、XLab=(層群Laの平均層厚み-層群Lbの平均層厚み)(nm)/(75-30)(%)とした際に、-XLab<XLc≦-XLab×0.7又は、XLab×0.7≦XLc<XLabであることが好ましい。XLcが上述した範囲内を取ることによって、主に低波長端付近の波長の光を反射する層群Laと主に長波長端付近の波長の光を反射する層群Lbの間の層厚みを均一に埋めることができ、低波長端波長から長波長端波長にわたる反射率の均一性を高めることができる。
【0034】
本発明の多層積層フィルムは、表面1から層群Laの始点迄の区間に位置する層群を層群Ld、層群Lbの終点から表面2迄の区間に位置する層群を層群Leとしたときに、層群Ld及び前記層群Leを構成する層の厚みが、共に傾斜構造を有し、層群Ldの平均層厚み及び層群Leの平均層厚みが、共に層群Laの平均層厚みを超え層群Lbの平均層厚み未満であり、かつ、層群Ldにおける最大層厚みが前記層群Leにおける最小層厚み×0.7以上であることが好ましい。
【0035】
層群Ld、Leを構成する層厚みが傾斜構造を有し、層群Ldにおける最大層厚みを層群Leにおける最小層厚み×0.7以上とすることで、主に低波長端付近の波長の光を反射する層群Laと主に長波長端付近の波長の光を反射する層群Lbの間の層厚みを均一に埋めることが出来る。そのため、低波長端波長と長波長端波長の間の波長における反射率を効率良く高めることができ、低波長端波長から長波長端波長にわたる反射率の均一性を高めることができる。
【0036】
層群Lc、Ld、Leの傾斜構造としては、その層厚み分布の変化の仕方として、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものが好ましい。
【0037】
層群La~Leをこれまでに説明した態様とする方法としては、特に制限されないが、例えば特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されているフィードブロック方式で2種類の樹脂からなる層Aと層Bを積層し、所望の層群構成に応じて積層装置のスリット幅、スリット間隙、スリット長さを調整する方法を用いることができる。
【0038】
多層積層フィルムの両表層には、保護層として厚みが多層積層フィルム自体の厚みの1%以上である層を好ましく設けることができる。表面1側の保護層の厚みは、好ましくは多層積層フィルムの厚み全体に対して4%以上である。一方で保護層の厚みが厚くなり過ぎて、表面1側の保護層の厚みが保護層のみで表面1から表面2に至る迄の区間の15%を超えると、層群Laが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含むことが難しくなる。そのため、保護層の厚みは多層積層フィルムの厚み全体に対して15%未満であることが好ましい。
【0039】
同様に、表面2側の保護層の層厚みが保護層のみで表面1から表面に至るまでの区間の85%を下回る(逆に、表面2を0%としたときに15%を超える)と、層群Lbが、多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、上位10%の厚みとなる層の70%以上を含むことが難しくなるため、保護層の厚みは多層積層フィルムの厚み全体に対して15%未満であることが好ましい。保護層の厚みが厚くなることで、製膜時のフローマークの抑制や設計に対する実際の各層の層厚みの精度向上、他のフィルムや成形体とのラミネート工程及びラミネート工程後における多層積層フィルム中の薄膜層の変形抑制、耐押圧性向上などに繋がる。
【0040】
本発明の多層積層フィルムの厚みは、特に限られるものではないが、例えば20μm~300μmであることが好ましい。厚みが20μm以上であると、多層積層フィルムの腰が強くなりハンドリング性が確保できる。また、厚みが300μm以下であると、多層積層フィルムの腰が過度に強くならず、成形性が向上する。
【0041】
また、多層積層フィルムの少なくとも一方の表面にプライマー層、ハードコート層、耐磨耗性層、傷防止層、反射防止層、色補正層、紫外線吸収層、光安定化層、熱線吸収層、印刷層、ガスバリア層、粘着層などの機能性層を形成してもよい。これらの層は単層構成でも多層構成でもよく、また、1つの層に複数の機能を持たせてもよい。また、多層積層フィルム中に、紫外線吸収剤、光安定化剤(HALS)、熱線吸収剤、結晶核剤、可塑剤などの添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの成分は、本発明の効果を損なわない範囲で組み合わせて用いることも可能であり、任意の層に用いることができる。
【0042】
本発明の多層積層フィルムは、第一の熱可塑性樹脂からなる層(層A)と第二の熱可塑性樹脂からなる層(層B)が交互に積層された構成を有し、第一の熱可塑性樹脂が結晶性ポリエステルを主成分とし、層Bが非晶性ポリエステルまたは層Aを構成する熱可塑性樹脂よりも5℃~100℃低い融点を有する結晶性ポリエステルを主成分とすることが好ましい。このような態様とすることにより、層Aと層Bの面内屈折率差を大きくすることができ、その結果、多層積層フィルムの反射率を高くすることができる。なお、各層の面内屈折率の測定方法は実施例に示す。
【0043】
本発明の多層積層フィルムに用いることができる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体,付加重合体,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。この中でも、強度、耐熱性、透明性、および汎用性の観点から、特にポリエステルを用いることがより好ましい。これらは、共重合体であっても、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0044】
ポリエステルとは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繋がった分子構造を有する樹脂をいう。ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体からの重合により得られるポリエステルが好ましい。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0045】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0046】
本発明の多層積層フィルムの各層の主成分となる熱可塑性樹脂としては、例えば、上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体などから選択することが好ましい。
【0047】
本発明の多層積層フィルムの各層(第一の熱可塑性樹脂、第二の熱可塑性樹脂)の主成分となる熱可塑性樹脂の好ましい組み合わせとしては、同一の基本骨格を供えた組み合わせとすることである。ここでいう基本骨格とは、熱可塑性樹脂を構成する繰り返し単位であって最も多く含まれるものことであり、具体例を挙げると、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであれば、その基本骨格はエチレンテレフタレート骨格となる。
【0048】
例えば、一方の熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いる場合は、高精度な積層構造が実現しやすい観点から、他方の熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートと同一の基本骨格であるエチレンテレフタレート骨格を含むことが好ましい。異なる光学的性質を有する熱可塑性樹脂が同一の基本骨格を含む樹脂であると、積層精度が高くなり、さらに積層界面での層間剥離も生じにくくなる。ここでSP値の測定方法としては、樹脂溶液に貧溶媒を添加していき白濁する点を滴定する濁度滴定法を用いることができる。
【0049】
また、熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤などを、その特性を悪化させない程度に単独で又は複数成分を組み合わせて添加させることができる。なお、上記成分は本発明の効果を損なわない限り、第一の熱可塑性樹脂、第二の熱可塑性樹脂の何れに加えてもよく、また、両方に加えてもよい。
【0050】
本発明の多層積層フィルムは、波長240nm~2600nmの範囲において、連続して5nm以上にわたって反射率が30%以上100%以下である反射ピークを有することが好ましい。なお、本発明の多層積層フィルムにおいては、このような反射ピークが一つでも存在すれば上記要件を満たすものとする。ここで反射ピークの個数は、反射率が連続して30%以上100%以下となっている帯域の数によって決定する。
【0051】
一般的に多層積層フィルムの反射波長が前述の(A)式によって定まることから、多層積層フィルムの反射ピークの帯域や幅(反射帯域)は、(A)式を元に隣接する層Aと層Bの層厚み設計をすることにより調整することができる。また、反射ピークにおける反射率については、層Aと層Bの面内屈折率差が大きいほど、積層数が多くなるほど高くなる。そのため、反射ピークにおける反射率は、望む反射率となるように層Aと層Bの面内屈折率差と積層数を設計することで調整することができる。
【0052】
このような反射特性を持つ多層積層フィルムとしては、波長850nm~1150nmを反射する近赤外線反射フィルムや、赤色(600nm~700nm)、緑色(500nm~570nm)、青色(430nm~480nm)それぞれの色を反射するダイクロイックフィルムや、波長300nm~400nmを反射する紫外線反射フィルムなどが挙げられる。このような反射特性を持つ本発明の多層積層フィルムとすることにより、更に幅方向の中央位置から端部位置の広い範囲にわたって反射特性がより均一となるため、製品幅収率や品質の均一性を高めることができる。
【0053】
本発明の多層積層フィルムは、波長400nm~800nmの範囲における平均反射率が20%以上100%以下であることが好ましい。このような反射特性を持つ多層積層フィルムとしては、ハーフミラーやミラー等の、波長400nm~800nmの光を半透過又は100%反射する金属調フィルムなどを挙げることができる。このような反射特性を持つ本発明の多層積層フィルムとすることにより、更に幅方向の中央位置から端部位置の広い範囲にわたって反射特性がより均一となるため、製品幅収率や品質の均一性を高めることができる。多層積層フィルムの反射波長は前述の(A)式によって定まることから、(A)式を元に波長400nm~800nmの範囲を反射するように隣接する層Aと層Bの層厚みを設計することで、上記平均反射率を達成することができる。
【0054】
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が50%以上100%以下であり、前記多層積層フィルム面の法線に対して20°、40°、60°の角度で可視光が入射したときのそれぞれのP波の反射率(%)をRp20、Rp40、Rp60とした場合に、Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつRp60が10%以上100%以下であることが好ましい。このような光学特性を持つことによって、フィルム面の正面方向からの光は透過、斜め方向からの光は反射することとなる。そのため、このような多層積層フィルムは、拡張現実装置やヘッドアップディスプレイなど、斜め方向から映像を投射する機器の投影部材として用いることができる。
【0055】
ここで「多層積層フィルム面に垂直に入射する可視光の透過率が80%以上100%以下である」とは、具体的には、多層積層フィルム面に垂直に入射した波長400~700nmの光の平均透過率が80%以上100%以下であることを示す。このように波長400~700nmという可視光領域の大部分の帯域をカバーする光の透過率が高いことにより、透明ガラスや透明樹脂フィルムのような透明性を持ち、多層積層フィルム面に垂直な方向から多層積層フィルムを通して背景を観察した際に、背景の良好な視認性を得ることができる。当該透過率が80%以上であれば、利用者は多層積層フィルムの存在を感じることなく背景を視認することができる。なお、当該透過率の上限は実現容易性の観点から99%であることが好ましい。
【0056】
多層積層フィルム面に垂直に入射する光の透過率は、分光光度計で入射角度θ=0°における波長400~700nmの光の透過率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することにより測定することができる(詳細な測定条件は後述)。このような多層積層フィルムは、交互に積層された2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に平行な方向の屈折率差(面内屈折率差、測定方法の詳細は後述する。)を小さくすることで得ることができる。フィルム面に平行な方向の屈折率差が0.02以下であれば当該透過率を80%以上とすることが容易となる。なお、「フィルム面に平行な方向の屈折率差」とは、2種類の熱可塑性樹脂層間の面内屈折率の差(2種類の層を層A、層Bとした場合は、層Aと層Bの面内屈折率の差)の絶対値をいう。
【0057】
Rp20、Rp40、Rp60は、波長400~700nmの範囲におけるP波の平均反射率とする。このP波の反射率(%)は、分光光度計で入射角度θ=20°、40°、60°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を算出することで測定することができる(詳細な測定条件は後述)。なお、P波及びS波は以下のように定義することができる。電磁波(光)が物体の表側の面に対し斜め方向から入射した際において、P波とは電界成分が入射面に平行な電磁波(入射面に平行に振動する直線偏光)、S波とは電界成分が入射面に垂直な電磁波(入射面に垂直に振動する直線偏光)を表す。
【0058】
Rp20≦Rp40<Rp60の関係を満足し、かつRp60が10%以上である多層積層フィルムを得るためには、2つの熱可塑性樹脂層の間のフィルム面に垂直な方向の屈折率差と層数を調整する方法を用いることができる。このときフィルム面に垂直な方向の屈折率差を大きくするほど、そして層数を増やすほど、Rp60を大きくすることができる。例えば、層数が401層に達する場合、フィルム面に垂直な方向の屈折率差が0.08以上であれば当該反射率を20%以上に、屈折率差が0.12以上であれば当該反射率を35%以上にすることが容易となる。また、屈折率差が上記水準に達していなくとも、層数をさらに増やすことで当該反射率を高めて上記水準に到達させることもできる。
【0059】
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度が0以上20以下であることが好ましく、より好ましくは0以上8以下であり、さらに好ましくは0以上5以下である。以下、「多層積層フィルム面の法線とのなす角が60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度」を「P波の反射光の彩度」ということがある。P波の反射光の彩度が20以下であることは、可視光の波長域全般にわたって均一な反射を実現できていることを意味しており、このような態様とすることで反射光に起因する色づきを抑制することができる。よって、多層積層フィルムを拡張現実装置やヘッドアップディスプレイなどの投影部材として用いた場合において、投影映像をP波で投影した場合に表示される投影映像の色が、ディスプレイから照射された映像とほぼ同じ色として再現される。
【0060】
P波の反射光の彩度を20以下とする方法の一例を、
図5を用いて説明する。前出の(A)式に従って、
図5に示すように波長400nm~700nmの範囲を反射する層Aの厚みと層Bの厚みを均一に配置することにより、当該波長帯域における反射率の標準偏差を10%以下とすることができる。ここで、
図5は層数401層の多層積層フィルムで層Aの面直屈折率(nA)を1.5、層Bの面直屈折率(nB)を1.6とし、フィルム表面の層の位置を1とし反対側のフィルム表面の層の位置401までの層Aと層Bの理想的な層厚み分布の一例を示したものである。実際には装置の設計精度やフィルム製膜装置の稼働安定性などが影響して
図5のような理想的な層厚みからの誤差が発生するが、層の位置1から層の位置401までのそれぞれの層の位置での誤差を層1から層401まで平均した誤差が±10%程度以内であれば、多層積層フィルムの法線に対して60°の角度で入射したときのP波の反射光の彩度を20以下にすることができる。
【0061】
ここで厚みの誤差を抑える方法として、2種の熱可塑性樹脂層が交互に積層された構成を例に説明する。2種の熱可塑性樹脂それぞれを溶融させ、積層装置を用いて交互に積層し、その溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出することで多層積層構造を得ることができるが、この溶融積層体の層の乱れを抑制することが厚みの誤差の抑制に繋がる。その方法としては、溶融積層体の最表層に厚い層を設けることが挙げられる。その最表層の厚さは溶融積層体全体の厚みに対して、1%以上であることが好ましく、より好ましくは4%以上である。また、片方の最表層のみでなく両方の最表層の厚みを厚くする方がより好ましい。
【0062】
本発明の多層積層フィルムは、前記Rp60の方位角ばらつきが0.1%以上10%以下であることが好ましい。ここで方位角とは、
図6に示すように本発明の積層体を構成する多層積層フィルム3の主配向軸方向の方位角を0°としたときの各方位角(0°、45°、90°、135°、180°)をいい、主配向軸方向とはフィルム面内で最も配向度の大きい方向をいう。なお、配向度は公知の分子配向計により測定することができ、分子配向計としては、例えば王子計測機器(株)の分子配向計MOA-7015等を用いることができる。方位角ばらつきとは上記方位角(0°、45°、90°、135°、180°)において測定したRp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)の値の最大値と最小値の差をいう。
【0063】
Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)は、分光光度計で入射角度θ=60°における波長400~700nmのP波の反射率を1nm刻みで測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。ここで傾斜方向である方位角は多層積層フィルムの主配向軸方向の方位角を0°として、これを基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5つを採用する。Rp60の方位角ばらつきが10%以下、好ましくは5%以下であることで、何れの方位から映像を投影してもその情報の明るさ等の表示性を同じレベルに保つことができる。
【0064】
Rp60の方位角ばらつきを小さくするためには、例えば本発明の積層フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくすることが挙げられ、フィルムの面内方向の屈折率ムラを小さくするにはフィルムの二軸延伸時にフィルム長手方向と幅方向の配向状態の差を小さくするように延伸することが挙げられる。長手方向と幅方向の配向状態の差を小さくする延伸条件は使用する熱可塑性樹脂やその組み合わせによって異なるが、ポリエステル樹脂を用いる場合は、例えば長手方向よりも幅方向の延伸倍率を僅かに高くした条件が好ましい例として挙げられる。この効果は本発明の多層積層フィルムの特徴の一つであり、公知の偏光反射フィルムでは達成できない効果である。
【0065】
本発明の多層積層フィルムは、多層積層フィルムをコアに巻き取ってなる、多層積層フィルムロールの様態を取ることができる。本発明の多層積層フィルムロールは、スマートフォン、タブレットなど外装の成形品の生産性向上や窓部材への適用の観点から、多層積層フィルムの幅が1m以上であり、長さが100m以上であることが好ましい。ここで幅とは幅方向の長さ、長さとは長手方向の長さをいう。
【0066】
以下、本発明の多層積層フィルムを用いた成形体について説明する。本発明の多層積層フィルムを用いた成形体は、本発明の多層積層フィルムまたは本発明の多層積層フィルムロールを用いたものである。より具体的な態様としては、例えば、多層積層フィルムと少なくともその一方の面に支持体が積層された構成を持つ成形体である。支持体としてはガラスや樹脂が挙げられ、樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などが好ましい。また、多層積層フィルムと支持体の積層方法としては、粘着剤や接着剤などを用いて接着層を形成することによる貼り合わせ等が挙げられ、粘着剤や接着剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0067】
また、これらの粘着剤や接着剤には、粘着性調整剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、架橋剤等を添加してもよい。これら接着剤の加工前の形態としては液状、ゲル状、塊状、粉末状、フィルム状などが挙げられる。接着層の固化方法としては、溶剤揮散、湿気硬化、加熱硬化、硬化剤混合、嫌気硬化、紫外線硬化、熱溶融冷却、感圧などが挙げられる。積層方法としてはラミネート成形やインジェクション成形などが挙げられ加熱、加圧、上述した接着層の固化方法を用いること成形体が作製される。支持体は透明でも着色されていてもよいが、本発明の成形体を拡張現実などの投影部材として用いる場合は透明であることが好ましい。本発明の成形体を用いた用途としては加飾用途、ディスプレイ用途、遮熱用途、拡張現実装置用途などが挙げられる。
【0068】
次いで、本発明の成形体を用いた拡張現実装置について説明する。拡張現実装置は、本発明の成形体を具備し、その表示面に対して光を照射する映像投影装置を備える拡張現実装置である。その利用形態としては頭部に装着することや交通機関の窓などに映像を投影する形態(ヘッドアップディスプレイ)が挙げられ、頭部に装着する形態では具体的には眼鏡型の形態などが挙げられる。
【0069】
以下、本発明の多層積層フィルムの製造方法について、一例を挙げて具体的に説明するが、本発明の多層積層フィルムはこれに限定されない。
【0070】
本発明の多層積層フィルムが前述の多層積層フィルム構成をとる場合、51層以上の積層構造は、次のような方法で作製することができる。まず、層Aに対応する押出機Aと層Bに対応する押出機Bの2台から第一の熱可塑性樹脂及び第二の熱可塑性樹脂を溶融した状態で供給し、それぞれの流路からの溶融熱可塑性樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックもしくはコームタイプのフィードブロックにより、第一の熱可塑性樹脂が両側の再表層となるように51層以上に積層する。次いで、その溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出し、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得る。層Aと層Bの積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている方法が好ましい。このとき、所望の層群構成に応じて積層装置のスリット幅、スリット間隙、スリット長さを調整することができる。また、必要であれば、層Aに用いる第一の熱可塑性樹脂と層Bに用いる第一の熱可塑性樹脂を乾燥することも好ましい。
【0071】
続いて、この未延伸多層積層フィルムに延伸及び熱処理を施す。延伸方法としては、公知の逐次二軸延伸法、もしくは同時二軸延伸法が好ましい。延伸温度は未延伸積層フィルムのガラス転移点温度以上~ガラス転移点温度+80℃以下の範囲とすることが好ましい。延伸倍率は、長手方向、幅方向それぞれ2倍~8倍の範囲が好ましく、より好ましくは3~6倍の範囲であり、長手方向と幅方向の延伸倍率差を小さくするか長手方向よりも幅方向の延伸倍率を僅かに高くした条件が好ましい。長手方向の延伸は、縦延伸機のロール間の周速差を利用して行うことが好ましい。また、その後の幅方向の延伸は、公知のテンター法を利用することが好ましい。すなわち、一軸延伸多層積層フィルムの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、対向するクリップの間隔を幅方向に広げることで幅方向に延伸することができる。
【0072】
また、テンターで同時二軸延伸を行うことも好ましい。同時二軸延伸を行う場合について説明する。キャスティングドラム上にキャストされた未延伸積層フィルムを、同時二軸テンターへ導き、その幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。長手方向の延伸は、同一サイドのクリップ間の距離を広げることで、また、幅方向の延伸はクリップが走行するレールの間隔を広げて対向するクリップの間隔を広げることで達成される。本発明における延伸・熱処理を施すテンタークリップは、リニアモータ方式で駆動することが好ましい。その他、パンタグラフ方式、スクリュー方式などがあるが、中でもリニアモータ方式は、個々のクリップの自由度が高いため延伸倍率を自由に変更できる点で優れている。なお、好ましい延伸温度、倍率は逐次二軸延伸の場合と同じである。
【0073】
さらに延伸後に熱処理を行うことも好ましい。熱処理温度は、幅方向の延伸温度以上~層Aの熱可塑性樹脂の融点以下の範囲にて行うことが好ましく、熱処理後に熱処理温度-30℃以下の温度にて冷却工程を経ることも好ましい。また、多層積層フィルムの熱収縮率を小さくするために、熱処理工程中又は冷却工程中にフィルムを幅方向および/または、長手方向に縮める(リラックス)ことも好ましい。リラックスの割合としては1%~10%の範囲が好ましく、より好ましくは1~5%の範囲である。最後に巻取り機にてフィルムを巻き取ることによって、本発明の多層積層フィルム、多層積層フィルムロールが製造される。
【実施例0074】
以下、本発明の多層積層フィルムについて実施例を用いてより具体的に説明する。但し、本発明の多層積層フィルムはこれに限定されない。
【0075】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。なお、以下に説明する評価項目のうち、ここで(2)項~(7)項、(9)項に記載の項目は、フィルム幅1.1mのフィルムサンプルについて、幅方向における中央位置と端部位置(中央から0.5m端部方向の位置)について測定した。なお、端部位置での測定は片側(フィルムの走行方向から見て左側)の端部位置でのみ行った。
【0076】
(1)多層積層フィルムの積層数と表層の厚み
ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより、多層積層フィルムの積層数と表層の厚みを確認した。なお断面写真の撮影は、透過型電子顕微鏡H-7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件で行った。なお、表層の厚みは顕微鏡の測長機能により測定した。
【0077】
(2)層群La、Lb、Lc、Ld、Leの層厚み、傾斜構造
(1)項で得たTEM画像を、画像処理ソフトImage-Pro Plus ver.4を用いて、このファイルを開き、画像解析を行った。画像解析処理は、垂直シックプロファイルモードで、厚み方向位置と幅方向の2本のライン間で挟まれた領域の平均明るさとの関係を、数値データとして読み取った。表計算ソフト“Excel”(登録商標)(Microsoft社 Office365)を用いて、位置(nm)と明るさのデータに対して、5点移動平均の数値処理を施した。さらに、この得られた周期的に明るさが変化するデータを微分し、VBA(ビジュアル・ベーシック・フォー・アプリケーションズ)プログラムにより、その微分曲線の極大値と極小値を読み込み、隣り合うこれらの間隔を1層の層厚みとして層厚みを算出した。この操作を画像毎に行い、全ての層の層厚みを算出した。算出した層厚みについて、多層積層フィルムを厚みが等しくなるように二分した際に層数が多くなる方の表面を表面1、層数が少なくなる方の表面を表面2とした。前記表面1から前記表面2に至る迄の区間について層群La、Lb、Lc、Ld、Leについて以下のように定義した。ここで、区間は表面1からの層の厚み位置(%)を示す。
層群La:15%~30%の範囲に位置する層群
層群Lb:75%~85%の範囲に位置する層群
層群Lc:30%~75%の範囲に位置する層群
層群Ld:表面1から層群Laの始点迄の区間に位置する層群
層群Le:層群Lbの終点から表面2迄の区間に位置する層群
上記層群について、以下に示す項目を測定あるいは算出した。このとき各層の層厚みは
図2に示した方法で、隣接する層Aと層Bについて表面1側の層Aと層Bの平均層厚みを算出し、この平均層厚みを層A、層Bの層厚みとした。
層群La:下位10%の層厚みとなる層数の割合(表2には層群La割合と記載)
層群Lb:上位10%の層厚みとなる層数の割合(表2には層群Lb割合と記載)
層群Lc:横軸に表面1からの層の厚み位置(%)を縦軸に隣接する層Aと層Bの平均層厚み(nm)を取り、その1次近似式の傾きをXLcとし、(層群Laの平均層厚み-層群Lbの平均層厚み)(nm)/(75-30)(%)をXLabとした。
層群Ld:傾斜構造の有無、最大層厚み。
層群Le:傾斜構造の有無、最小層厚み。
【0078】
(3)30%以上100%以下である反射ピークの反射率とその波長区間
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)の標準構成(固体測定システム)にて、入射角度θ=12°における波長240~2600nmの反射率を1nm刻みで測定した。測定条件:スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)とし、ゲインは2と設定し、走査速度を600nm/分とした。得られた反射率データから、反射率30%以上100%以下である反射ピークの反射率とその波長区間を求めた。
【0079】
(4)波長400nm~800nmの範囲における平均反射率
(3)項と同様の方法で反射率を測定し、得られた反射率データから、波長400nm~800nmの範囲における平均反射率を求めた。
【0080】
(5)多層積層フィルムの可視光の透過率
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)の標準構成(固体測定システム)にて、入射角度θ=0°における波長400~700nmの透過率を1nm刻みで測定し、その平均透過率を求め、得られた値を多層積層フィルムの可視光の透過率とした。測定条件:スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)とし、ゲインは2と設定し、走査速度を600nm/分とした。
【0081】
(6)多層積層フィルムの反射率(Rp20、Rp40、Rp60)、60°で入射したP波の反射光の彩度
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、入射角度θ=20°、40°、60°における波長240~2600nmの範囲のP波の反射率をそれぞれ1nm刻みで測定した。得られた反射率から入射角度20°、40°、60°における波長400nm~700nmの範囲におけるP波の平均反射率としてRp20、Rp40、Rp60を求めた。各入射角度の傾斜方向はフィルムの主配向軸に沿う方向とした。60°で入射したP波の反射光の彩度は、JIS-Z-8781-4(2013)に基づき、CIE1976色空間L*a*b*のうちa*、b*についてθ=60°のP波の反射スペクトルとC光源の分光分布とXYZ系の等色関数を用いてC光源下でのXYZ値、およびXYZ値を用いて算出し、彩度C*値としてa*とb*の二乗和の平方根をもって算出した。
【0082】
(7)Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)、方位角ばらつき
日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の角度可変反射ユニットとグランテーラ偏光子を取り付け、フィルム面の主配向軸方向の方位角0°を基準に右回りに0°、45°、90°、135°、180°の5点それぞれの方位角方向に対して、入射角度θ=60°における波長400~700nmの範囲のP波の反射率を1nm刻みで測定した。得られた反射率から各方位角方向における入射角度60°における波長400nm~700nmの範囲のP波の平均反射率として、Rp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)を求めた。さらに、求めたRp60(0°)、Rp60(45°)、Rp60(90°)、Rp60(135°)、Rp60(180°)の最大値と最小値の差を方位角ばらつきとした。
【0083】
(8)主配向軸方向
サンプルサイズを10cm×10cmとし、幅方向中央において、サンプルを切り出した。王子計測機器(株)製の分子配向計MOA-7015を用いて配向度を測定し、最も配向度の大きい方向を主配向軸方向とした。
【0084】
(9)幅方向の中央位置と端部位置の波長端波長、反射帯域幅における反射率の偏差
(3)項又は(4)項で求めた反射率又は、(6)項で求めた入射角度60°におけるP波の反射率について、反射率が30%以上である反射帯域において、その反射帯域における最大反射率の半分の反射率(半値)について、最も低波長の波長で半値を持つ波長を低波長端波長とし、最も長波長の波長で半値を持つ波長を長波長端波長とした。更に反射帯域幅(低波長端波長~長波長端波長)における反射率の偏差を求めた。
【0085】
(10)樹脂のガラス転移点温度、融点
多層積層フィルム又は樹脂ペレットを電子天秤で5mg計量し、アルミニウムパンで挟み込みセイコーインスツルメント社(株)製ロボットDSC-RDC220示差走査熱量計を用いて、JIS-K-7122(2012年)に従い、25℃から300℃まで20℃/分で昇温して測定を行った。データ解析は同社製ディスクセッションSSC/5200を用いた。得られたDSCデータからガラス転移点温度(Tg)、融点(Tm)を求めた。
【0086】
(11)樹脂の屈折率
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計を用いて樹脂ペレットの屈折率を測定した。樹脂ペレットの屈折率の測定は、70℃48時間、真空乾燥した樹脂ペレットを280℃で溶融後、プレス機を用いてプレスし、その後急冷することで、厚み200μmのシートを作製し、そのシートの屈折率を測定した。
【0087】
(12)IV(固有粘度)の測定方法
溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、温度100℃で20分溶解した後、温度25℃でオストワルド粘度計を用いて測定した溶液粘度から算出した。
【0088】
(13)多層積層フィルムの層Aの屈折率
サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて多層積層フィルム最表層の屈折率測定を行った。測定に用いたレーザーの波長は633nmであり、面内屈折率は主配向軸方向、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの方向において両方の最表層で求めた値の平均値を求め、面直屈折率は主配向軸方向側から測定した値と主配向軸方向に垂直な方向側から測定した値の平均値それぞれにおいて、両方の最表層で求めた値の平均値を求めた。
【0089】
(14)多層積層フィルムの層Bの屈折率
層Bは多層積層フィルム内部の層であるため多層積層フィルムではなく、多層積層フィルムと同じ延伸条件・熱処理条件で作製した層B樹脂単体のフィルムについて、サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-400を用いて屈折率測定を行った。測定に用いたレーザーの波長は633nmであり、面内屈折率は主配向軸方向、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの方向においてフィルムの両方の面で求めた値の平均値を求め、面直屈折率は主配向軸方向側から測定した値と主配向軸方向に垂直な方向側から測定した値の平均値それぞれにおいて、フィルムの両方の面で求めた値の平均値を求めた。
【0090】
(15)多層積層フィルムのB層の屈折率の検証
(2)項で求めた多層積層フィルムの層厚みと(13)項で求めた多層積層フィルムの層Aの屈折率と(14)項で求めた層Bの屈折率を用いて反射率の光学シミュレーションを行い、その光学シミュレーション結果と(6)項で測定した反射率の比較を行い、両者の差が±3%以下の場合(14)項で求めた層Bの屈折率は多層積層フィルムの層Bの屈折率であるとみなした。光学シミュレーションは光学薄膜の特性マトリクス法(小檜山光信(2006).光学薄膜フィルターデザイン 株式会社オプトロニクス社)を用いてVBAプログラムにて計算を行った。
【0091】
[フィルムに用いた熱可塑性樹脂]
各実施例及び各比較例に用いたフィルムの製造には以下の樹脂を用いた。なお、これらは全て熱可塑性樹脂であり、樹脂A、樹脂C、樹脂E、樹脂Fが結晶性樹脂であり、樹脂B、樹脂Dが非晶性樹脂である。
樹脂A:IV=0.65のポリエチレンテレフタレート、屈折率=1.58、Tg=78℃、Tm=254℃。
樹脂B:IV=0.72のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して20mol%、スピログリコール成分をジオール成分全体に対して20mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.55、Tg76=℃、Tmは観測されなかった。
樹脂C:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(分子量400のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して4mol%共重合したポリエチレンナフタレート)、屈折率=1.64、Tg=103℃、Tm=258℃
樹脂D:IV=0.73のポリエチレンテレフタレートの共重合体(シクロヘキサンジメタノール成分をジオール成分全体に対して33mol%共重合したポリエチレンテレフタレート)、屈折率=1.57、Tg=80℃、Tmは観測されなかった。
樹脂E:IV=0.64のポリエチレンナフタレートの共重合体(テレフタル酸成分を酸成分全体に対して20mol%、分子量400のポリエチレングリコールをジオール成分全体に対して5mol%共重合したポリエチレンナフタレート)屈折率=1.63、Tg=85℃、Tm=215℃。
樹脂F:IV=0.67のポリエチレンテレフタレートの共重合体(ナフタレンジカルボン酸成分を酸成分全体に対して20mol%共重合したポリエチレンナフタレート)屈折率=1.59、Tg=89℃、Tm=210℃。
【0092】
以下、各実施例、各比較例の通りに多層積層フィルムを作製し、その条件と評価結果を表1~4に示す。また、各実施例、各比較例で作製した多層積層フィルムの幅方向の中央位置における層厚みの設計を
図7~
図11に示す。
図7~
図11に示す層厚みは多層積層フィルムの表面1から表面2に至るまでの区間について、表面1からの層の厚み位置(%)における隣接する層Aと層Bの平均層厚み(nm)を示したものである。
【0093】
(実施例1)
層Aを構成する熱可塑性樹脂(第一の熱可塑性樹脂)として樹脂Aを、層Bを構成する熱可塑性樹脂(第二の熱可塑性樹脂)として樹脂Bを用いた。樹脂Aおよび樹脂Bを、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂B=1.2になるように計量しながら、
図7-Aに示す設計層厚みになるように設計した201層フィードブロック(層Aが101層、層Bが100層)にて、両表層が樹脂Aとなるように交互に合流させた。次いで、得られた溶融熱可塑性樹脂の積層体をTダイに供給してシート状に成形し、Tダイのスリットより吐出した。その後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上で溶融シート状物を急冷固化し、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸多層積層フィルムを、温度90℃、延伸倍率3.3倍で縦延伸し、その両面に空気中でコロナ放電処理を施した後、その両面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/平均粒径100nmのシリカ粒子からなる易接着層形成膜塗液を塗布した。こうして得られた一軸延伸多層積層フィルムを、その幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、温度100℃、延伸倍率4.0倍で横延伸した後、230℃で熱処理及び5%の幅方向リラックスを実施し100℃で冷却した。その後、クリップ把持部分を含む形でフィルムの両端部をスリットして取り除き、フィルム幅1.1mのロール状に巻き取り、厚み20μm(両表層の厚み1.1μm)の多層積層フィルムを得た。なお、フィードブロックによる合流は、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載のスリット板1枚を用いて行った。具体的には、合流後はフィードブロック下流に接続した矩形単管中を合流体(層Aと層Bが201層交互に積層された溶融積層流)がTダイに向かって流れ、その矩形単管の下流に接続したTダイにて合流体が幅方向に拡幅されてキャスティングドラムに吐出された。得られた多層積層フィルムの評価結果を表2~4に示す。
【0094】
(実施例2~19、比較例1~5)
各層の樹脂、幅方向の中央位置における層厚みの設計、層数、表層の厚み、全体厚み、積層比、製膜条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの評価結果を表1~4に示す。なお、層構成は何れも層Aと層Bの交互積層であり、かつ両側の最表層が層Aである態様とした。また、層数の調整は積層装置のスリット数により、層構成の調整は、積層装置のスリット幅、スリット間隙、スリット長さにより調整した。
【0095】
比較例3(
図11-C)、比較例4(
図11-D)の設計層厚みは、実施例2(
図7-B)の設計層厚みに似たプロファイルを持つが、比較例3、4は層群Laが多層積層フィルムを構成する厚み1nm以上1000nm以下の層のうち、下位10%の厚みとなる層の50%以上を含まないため、実施例2と比べて幅方向中央位置の低波長端と幅方向端部位置の低波長端の変化が大きく、光学特性均一性が乏しくなっている。
【0096】
(比較例6)
各層の樹脂、幅方向の中央位置における層厚みの設計、層数、表層の厚み、全体厚み、積層比、製膜条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして多層積層フィルムを得た。幅方向の中央位置における層厚みの設計は2層目から9層目の層厚みが100nm、両表層の層厚みが5μmとなるように設計した。得られた多層積層フィルムからは反射ピークは発生しなかった。当該比較例のフィルムは反射ピークが発生していないため、表2~4に評価結果を示さない。
【0097】
表1に記載の幅方向の中央位置の設計層厚み(
図7~
図11)においては、表面1側と表面2側の最表層の厚さがフィルム全体厚みに対して約5%であり、1000nmを超えている。そのため、
図7~11において両側の最外層は図示しない。実施例5、10、15、19において(15)項の多層積層フィルムのB層の屈折率の検証を行った結果、両者の差は何れも±3%以下であったため、(14)項で求めた層Bの屈折率は多層積層フィルムの層Bの屈折率と見なした。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
本発明は、設計通りの高い積層精度をフィルムの幅方向において広い範囲にわたって達成できるため、フィルムの幅方向において広い範囲にわたって均一な反射率スペクトルを持つことが可能な多層積層フィルムである。本発明の多層積層フィルムは成形体などに好適に用いることができる。