(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177791
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】超純水製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20231207BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20231207BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20231207BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20231207BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20231207BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C02F1/44 J
B01D61/02 500
B01D69/02
C02F1/42 B
B01D61/12
B01D61/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090654
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】峰原宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中宏明
(72)【発明者】
【氏名】圓尾有矢
【テーマコード(参考)】
4D006
4D025
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA17
4D006HA47
4D006JA30A
4D006KA31
4D006KA52
4D006KA53
4D006KA54
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA57
4D006KA71
4D006KB04
4D006KB11
4D006KE07R
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA12
4D006MB02
4D006MB06
4D006MC48
4D006MC56X
4D006MC62
4D006NA41
4D006NA54
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB04
4D006PB05
4D006PB08
4D006PB23
4D006PC02
4D025AA04
4D025AB05
4D025BA08
4D025BA13
4D025BB01
4D025DA05
(57)【要約】
【課題】酸化剤に接してもシリカ除去性を維持できるRO膜の選択基準およびそれを利用する超純水製造方法を提供する。
【解決手段】0.75MPaの操作圧力で、25℃、pH7の500mg/L塩化ナトリウム、40mg/Lメタケイ酸ナトリウム、3mg/Lホウ酸を溶解した水溶液を透過させた時のシリカ除去率及びホウ酸除去率が下式(1)及び(2)及び(3)を同時に満足する逆浸透膜で、シリカ含有水溶液からシリカを除去する逆浸透処理工程
を含む超純水製造方法。
シリカ除去率≧99.70%・・・(1)
ホウ酸除去率≧60%・・・(2)
透水性≧0.90m
3/m
2/日・・・(3)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.75MPaの操作圧力で、25℃、pH7の500mg/L塩化ナトリウム、40mg/Lメタケイ酸ナトリウム、3mg/Lホウ酸を溶解した水溶液を透過させた時のシリカ除去率及びホウ酸除去率が下式(1)及び(2)及び(3)を同時に満足する逆浸透膜で、シリカ含有水溶液からシリカを除去する逆浸透処理工程
を含む超純水製造方法。
シリカ除去率≧99.70%・・・(1)
ホウ酸除去率≧60%・・・(2)
透水性≧0.90m3/m2/日・・・(3)
【請求項2】
前記逆浸透膜の塩化ナトリウムの除去率が99.70%以上である
請求項1に記載の超純水製造方法。
【請求項3】
前記逆浸透膜が下記式(4)および(5)を満たす
請求項1または2に記載の超純水製造方法。
(塩化ナトリウム除去率)<99.90%・・・(4)
(塩化ナトリウム除去率)―(ケイ酸ナトリウム除去率)≦0.20%・・・(5)
【請求項4】
前記逆浸透工程における前記シリカ含有水溶液の圧力を0.10MPa以上12MPa以下の範囲とする、
請求項1~3のいずれかに記載の超純水製造方法。
【請求項5】
前記逆浸透処理工程の前に、前記シリカ含有水溶液中の懸濁物質を除去する前処理工程をさらに含む、
請求項1~4のいずれかに記載の超純水製造方法。
【請求項6】
前記逆浸透工程で処理された水溶液からイオン交換樹脂を用いて溶質塩を除去する工程をさらに備える
請求項1~5のいずれかに記載の超純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがある。近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。
【0003】
半導体製造工程における基板洗浄や溶液製造に用いられる超純水は、超純水製造システムによって製造される。超純水製造システムは、一般に、原水中の懸濁成分等を除去する前処理工程、溶解塩、シリカ、ホウ酸、全有機炭素成分(TOC)を逆浸透膜によって除去する1次純水システム、および1次純水システムで処理した水をさらにイオン交換膜等で処理する2次純水システムからなる。超純水製造の原水は、設置される場所やその用途に応じて、海水、市水、地下水、工業用水や、廃水の再利用水等が用いられる。
【0004】
1次純水システムに用いられる逆浸透膜としては、酢酸セルロース製膜およびポリアミド製逆浸透膜が挙げられる。ポリアミド製逆浸透膜は、酢酸セルロース製膜よりも高い除去性と透水性を有するので、より広く用いられている。
【0005】
現在市販されているポリアミド製逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は、複合半透膜であり、微多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜(特許文献1)は、除去性および透水性のバランスに優れた分離膜として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2001-79372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前処理工程で用いられる洗浄や原水の殺菌処理のためには、次亜塩素酸などの酸化剤が用いられる。酸化剤が1次純水システムのポリアミド製複合半透膜に接触すると、複合半透膜の除去性能が著しく劣化する。除去性能が低下すると、透過水中のシリカ濃度が上昇する問題がある。そのため、例えば原水の殺菌に用いる酸化剤濃度は、0.1mg/L未満に限定される場合がある、
ポリアミド製複合半透膜のうち、海水淡水化用RO膜は、かん水淡水化用RO膜に比べて高除去性であるため、酸化剤に接触することで除去性が低下しても、かん水淡水化用RO膜よりも高い除去性を示すことができる。しかし、海水淡水化用RO膜は透水性が低いために、かん水淡水化用RO膜に比べて運転圧力が高いので、造水コストが増大するというデメリットがある。
【0008】
本発明は、酸化剤に接してもシリカ除去性を維持できるRO膜の選択基準およびそれを利用する超純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下[1]~[6]の発明が提供される。
【0010】
[1] 0.75MPaの操作圧力で、25℃、pH7の500mg/L塩化ナトリウム、40mg/Lメタケイ酸ナトリウム、3mg/Lホウ酸を溶解した水溶液を透過させた時のシリカ除去率及びホウ酸除去率が下式(1)及び(2)及び(3)を同時に満足する逆浸透膜で、シリカ含有水溶液からシリカを除去する逆浸透工程
を含む超純水製造方法。
【0011】
シリカ除去率≧99.70%・・・(1)
ホウ酸除去率≧60%・・・(2)
透水性≧0.90m3/m2/日・・・(3)
[2] 前記逆浸透膜の塩化ナトリウムの除去率が99.70%以上である
上記[1]に記載の超純水製造方法。
【0012】
[3]前記逆浸透膜が下記式(4)および(5)を満たす
上記[1]または[2]に記載の超純水製造方法。
(塩化ナトリウム除去率)<99.90%・・・(4)
(塩化ナトリウム除去率)―(ケイ酸ナトリウム除去率)≦0.20%・・・(5)
[4]前記逆浸透工程における前記シリカ含有水溶液の圧力を0.10MPa以上12MPa以下の範囲とする、
上記[1]~[3]のいずれかに記載の超純水製造方法。
【0013】
[5]前記逆浸透処理工程の前に、前記シリカ含有水溶液中の懸濁物質を除去する前処理工程をさらに含む、
上記[1]~[4]のいずれかに記載の超純水製造方法。
【0014】
[6]前記逆浸透工程で処理された水溶液からイオン交換樹脂を用いて溶質塩を除去する工程をさらに備える
上記[1]~[5]のいずれかに記載の超純水製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、酸化剤と逆浸透膜とが接触しても、シリカが除去された超純水を安定的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の一形態である超純水製造方法の工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.超純水製造方法
以下に説明する超純水の製造方法は、
図1に示すように、
・原水から懸濁物質を除去する前処理工程と、
・前記前処理工程後の水溶液から、シリカを除去する逆浸透膜を含む1次処理工程(逆浸透工程)と、
・前記逆浸透膜を含む工程を経た水溶液から、イオン性分を除去する2次処理工程を含む。
【0018】
2.前処理工程
2-1.原水
本発明で対象とする供給水(原水)は、シリカを含み、例えば河川水、地下水、排水回収水、冷却水ブロー水などが挙げられる。シリカは、ケイ酸塩として存在することが多く、原水のpHの変動に応じて帯電状態は変わるが、中性の領域(pH6~8)においては、荷電を持ちにくい。ホウ酸もまた、原水のpHの変動に応じて帯電状態は変わるが、中性の領域(pH6~8)においては、荷電を持ちにくい。
【0019】
2-2.前処理方法
前記原水中に含まれる懸濁物質は、後段の1次処理工程のRO膜表面に付着すると目詰まり(ファウリング)を起こすため、原水の一部もしくは全てを、MF膜又はUF膜に通水して濾過処理(前処理)した後、1次処理工程に供給することが好ましい。
【0020】
3.1次処理工程
3-1.逆浸透膜(RO膜)
前処理工程で処理された水溶液は、1次処理工程の逆浸透膜を用いてシリカを分離除去する。この分離除去には、特に下記式(1)、(2)、(3)を満たすシリカ除去率とホウ酸除去率を示す分離膜が用いられる。
【0021】
シリカ除去率≧99.70%・・・(1)
ホウ酸除去率≧60%・・・(2)
透水性≧0.90m3/m2/日・・・(3)
シリカ除去率およびホウ酸除去率は、0.75MPaの操作圧力で25℃、pH7の500mg/L塩化ナトリウム、40mg/Lメタケイ酸ナトリウム、3mg/Lホウ酸を溶解した水溶液を透過させる条件で測定される。
【0022】
驚くべきことに、上記式(1)、(2)および(3)を満たす分離膜を用いると、前処理工程のUF膜の洗浄や配管の汚れを洗浄する薬品として用いられる、次亜塩素酸水溶液等の酸化剤に接触しても、シリカ除去率が低下しにくく、高耐高い選択分離性を有することが分かった。その理由の詳細は不明であるが、次亜塩素酸ナトリウムによって、逆浸透膜の孔構造の中で、ホウ酸除去に寄与する微細な孔のサイズが拡大し、水の透過性を高める一方、ホウ酸よりもサイズが大きいシリカよりは小さい孔サイズを維持することにより、水とシリカの透過性の比が維持されることで、シリカの除去率の低下を抑制し、透過水中におけるシリカ濃度を低くする効果があると考えられる。
【0023】
さらに、透水量が、0.90m3/m2/日以上であることが好ましい。この条件が満たされることで、運転圧力を高めることなく、高回収率運転として濃縮水量(捨て水)を少なくでき、高効率なプロセスが実現できる。
【0024】
さらに、塩化ナトリウム除去率が99.70%以上であることが好ましい。この条件が満たされることで、後段の2次処理工程への負荷を低減でき、高効率なプロセスが実現できる。このとき、逆浸透膜の塩化ナトリウム除去率が99.90%以下であって、かつ塩化ナトリウム除去率からケイ酸ナトリウム除去率を減じた値が0.20%以下であるとき、膜面のシリカスケールの発生が抑制されることが分かった。詳細は不明であるが、以下のメカニズムが考えられる。シリカとその他イオン類を含む水溶液の濾過を行うと逆浸透膜表面で除去された成分は膜表面において濃縮され、高濃度化する。シリカは、通常25°Cでの水への溶解度が120mg/Lであり、これを超えると析出しスケールとして、逆浸透膜の表面を覆い、濾過抵抗となって透水性の低下を引き起こすが、このシリカの溶解度は、周囲のイオン濃度が高まると低下する。そのため、塩化ナトリウム除去率が高いと、膜面に濃縮される塩化ナトリウムなどのイオン類の総濃度が局所的に高くなり、同様に膜面に濃縮されるシリカが溶解度を超えて析出し、スケールとなって逆浸透膜の表面を覆い、透水性を低下させる。
【0025】
一方、逆浸透膜の塩化ナトリウム除去率が99.90%以上であるときには、膜面の塩濃度の濃縮度合いが大きくなり、シリカの溶解度が局所的に低下しやすいため、シリカスケールが発生しやすい。また塩化ナトリウム除去率からケイ酸ナトリウム除去率を減じた値が0.20%より大きいとき、詳細の全ては明らかでは無いが、除去性に影響する膜構造にムラが大きいために、除去性の高い部分と低い部分が混在し、除去性の高い部分で膜面の塩化ナトリウム濃度が高くなり、シリカの溶解度が低下することにより、シリカスケールが発生し、濾過抵抗を生じ、透水性が低下しやすいことに繋がると考えられる。
【0026】
逆浸透膜としては、不織布である基材と、基材上に設けられたポリスルホンの支持体と、支持体上に設けられたポリアミドの機能層を有する膜や、ポリスルホンの支持対と、支持対上に設けられたポリアミドの分離機能層を有する膜が好ましい。ポリアミドは、支持体上で、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応により形成される。
【0027】
分離機能層は、架橋ポリアミドを主成分とする薄膜を含有する。主成分とは分離機能層の成分のうち、50重量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋ポリアミドを50重量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層における架橋ポリアミドの含有率は80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0028】
分離機能層を構成する架橋ポリアミドは、例えば、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合反応により形成することができる。ここで、多官能性アミンまたは多官能性酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0029】
ここで、多官能性アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいう。多官能性アミンとしては、例えば、2個のアミノ基がオルト位またはメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4-アミノピペリジン、4-アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。
【0030】
なかでも、膜の選択分離性および透過性、耐熱性を考慮すると、多官能性アミンは、一分子中に2~4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する多官能芳香族アミンであることが好ましい。このような多官能芳香族アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン等が好適に用いられる。なかでも、入手の容易性または取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAと記す)を用いることがより好ましい。
【0031】
これらの多官能性アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと、一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3-ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0032】
多官能性酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロリド、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4-シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができる。
【0033】
2官能酸ハロゲン化物としては、例えば、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0034】
多官能性アミンとの反応性を考慮すると、多官能性酸ハロゲン化物は多官能性酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能性芳香族酸塩化物であることがより好ましい。なかでも、入手の容易性または取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとさらに好ましい。これらの多官能性酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0035】
界面重縮合により形成される架橋ポリアミドを主成分とする分離機能層は、末端官能基としてアミノ基、およびカルボキシ基を有し、特にアミノ基密度が高い領域においては、分離機能層は疎な構造となり、透水抵抗は低いため透水性は高まるが、溶質の除去性能は不十分である。一方、アミノ基密度が低い領域においては、分離機能層は密な構造となり、透水抵抗は高いため透水性は低いが、溶質の除去性能が高まる。
以下に、逆浸透膜の製造方法について示す。
【0036】
(1-1)多孔性支持層の形成工程
多孔性支持層の形成工程は、基材に高分子溶液を塗布する工程及び溶液を塗布した前記基材を凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させる工程を含む。
【0037】
基材に高分子溶液を塗布する工程において、高分子溶液は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して調製する。
【0038】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、高分子としてポリスルホンを用いる場合、10℃以上60℃以下であることが好ましい。高分子溶液の温度がこの範囲内であれば、高分子が析出することがなく、高分子溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層が基材に強固に接合し、良好な支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0039】
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、0.1秒以上5秒以下であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0040】
凝固浴としては、一般的には水が使われるが、多孔性支持層の成分である高分子を溶解しないものであればよく、特に限定されない。凝固浴の組成によって得られる支持膜の膜形態が変化し、それによって得られる複合半透膜も変化する。凝固浴の温度は、-20℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは10℃以上50℃以下である。凝固浴の温度がこの範囲以内であれば、熱運動による凝固浴面の振動が激しくならず、膜形成後の膜表面の平滑性が保たれる。また温度がこの範囲内であれば凝固速度が適当で、製膜性が良好である。
【0041】
次に、このようにして得られた支持膜を、膜中に残存する溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は40℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上95℃以下である。この範囲内であれば、支持膜の収縮度が大きくならず、透過水量が良好である。また、温度がこの範囲内であれば洗浄効果が十分である。
【0042】
(1-2)分離機能層の形成工程
次に、複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程を説明する。分離機能層の形成工程は、多孔性支持層上で、多官能性アミン溶液と多官能性酸ハロゲン化物溶液とを接触させることで、界面重縮合反応によりポリアミドの層を形成するものであり、前記多官能性アミン溶液は化合物Xを含み、前記多官能性酸ハロゲン化物溶液は化合物Yを含み、XとYのオクタノール/水分配係数が以下式(1)~(3)を満たす。
X < 0 (1)
Y < 0 (2)
X/Y < 0.5 (3)
多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物の好ましい態様は上述と同様である。以下、多官能性アミンとして多官能芳香族アミンを用い、多官能性酸ハロゲン化物として多官能芳香族酸クロリドを用いる場合を例として工程を説明する。
【0043】
多官能芳香族酸クロリドを溶解する有機溶媒としては、水と非混和性のものであって、支持膜を破壊しないものであり、かつ、架橋芳香族ポリアミドの生成反応を阻害しないものであればいずれであってもよい。代表例としては、液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられる。オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性を考慮すると、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1-オクテン、1-デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
多官能芳香族アミンを含有する水溶液、および多官能芳香族酸クロリドを溶解する有機溶媒はそれぞれオクタノール/水分配係数が0未満の化合物X、Yを含み、XとYのオクタノール/水分配係数の比はX/Yが0.5未満である。XとYがこの範囲となることで、重合中の界面においてXとYが適度に混じりあうことで重合反応を促進する中間層が安定的に生じるため、分離性能の高いポリアミド分離機能層が形成される。
【0044】
一方、XとYのオクタノール/水分配係数の比X/Yが0.5以上となる場合、X、Yいずれかの移層が起こりにくくなるため、結果重合反応を促進する中間層が形成されにくくなり、分離性能の高いポリアミド分離機能層を形成するのが困難になる。
【0045】
ここでXとYの種類としては、例えば、ポリオキシアルキレン構造、脂肪酸構造、アミド構造、エーテル構造、スルホ基、水酸基を有する化合物などが挙げられ、ポリオキシアルキレン構造としては、例えば、-(CH2CH2O)n-、-(CH2CH2(CH3)O)n-、-(CH2CH2CH2O)n-、-(CH2CH2CH2CH2O)n-などを挙げることができる。脂肪酸構造としては、長鎖脂肪族基を有する脂肪酸が挙げられる。長鎖脂肪族基としては、直鎖状、分岐状いずれでもよいが、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸の塩などが挙げられる。スルホ基を有する化合物としては、1-ヘキサンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ドデカンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸の塩などが挙げられる。水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、ショ糖等が挙げられる。アミド化合物としては例えば、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N,-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、γ-ブチロラクタム、ε-カプロラクタムが挙げられる。エーテル構造を有する化合物としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールジベンゾアート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールビス(p-トルエンスルホン酸)、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0046】
界面重縮合を多孔性支持層上で行うために、まず、多官能芳香族アミン水溶液で多孔性支持層表面を被覆する。ここで、多官能芳香族アミンを含有する水溶液の濃度は、0.1重量%以上20重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下である。
また化合物Xの濃度は、0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以上5重量%以下である。
【0047】
多官能芳香族アミン水溶液で多孔性支持層表面を被覆する方法としては、多孔性支持層の表面がこの水溶液によって均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、例えば、水溶液を多孔性支持層表面にコーティングする方法、多孔性支持層を水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。多孔性支持層と多官能芳香族アミン水溶液との接触時間は、5秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、10秒以上3分以下の範囲内であるとさらに好ましい。次いで、過剰に塗布された水溶液を液切り工程により除去することが好ましい。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。
【0048】
その後、多官能芳香族アミン水溶液で被覆した多孔性支持層に、前述の多官能芳香族酸クロリド溶液を塗布し、界面重縮合により架橋芳香族ポリアミドを形成させる。
ここで、多官能芳香族酸クロリド溶液の層において、多孔性支持層に近いほどより多い水分量を含む勾配が形成されることが好ましい。多官能芳香族アミン水溶液と多官能芳香族酸クロリド溶液層を接触させた直後(概ね5秒以内)にこの勾配が形成されることで、多官能芳香族酸クロリド溶液層内部に表面張力差が生じ、溶液層内に流れが生じる。この流れによって、分離機能層のひだ構造において、突起の根元が細く、胴が膨らんだ形状の突起が形成され、透水性を向上させることができる。このとき、多官能性酸ハロゲン化物溶液に化合物(I)存在下、分離機能層の突起の形成時間が充分に稼ぎつつ、多官能酸ハロゲン化物溶液層すなわち有機溶媒層内に流れを形成することで、より突起の構造形成が進みやすく、突起表面積、厚さともにより大きくなる。
【0049】
このような勾配は、例えば、含水量の異なる多官能芳香族酸クロリド溶液層を複数回多孔性支持層に塗布することで、形成することができる。塗布回数は2回であることが好ましい。最初に塗布する多官能芳香族酸クロリド溶液に含まれる水分量は10~500ppmであることが好ましく、10~200ppmであることがより好ましい。二回目に塗布される多官能芳香族酸クロリド溶液中に含まれる水分量は1~300ppmが好ましく、1~150ppmであることがより好ましい。
【0050】
本発明者らは鋭意検討の結果、前記多孔性支持層の表面積に対し多官能芳香族酸クロリド溶液の塗布量が200 mL/m2以上400 mL/m2以下の場合、特に優れた膜性能を発現することを見出した。塗布量が200 mL/m2未満の場合、水層、有機層に対する前記中間層の割合が高くなり、過剰に界面重合が促進され、塗布量が400 mL/m2より大きい場合、逆に水層、有機層に対する前記中間層の割合が小さくなり、十分に分離機能層が形成されないためと考えられる。
【0051】
界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。
【0052】
多官能芳香族酸クロリド含有溶液における多官能芳香族酸クロリドの濃度は、特に限定されないが、低すぎると分離機能層形成が不十分となり欠点になる可能性があり、高すぎるとコスト面から不利になるため、例えば0.01重量%以上1.0重量%以下程度が好ましい。
また化合物Yの濃度は、0.01重量%以上1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.02重量%以上0.5重量%以下である。濃度が低すぎると、中間層形成が十分に達成できなく、濃度が高すぎると逆に中間層が乱れ、分離機能層を安定的に形成することが困難となる。
【0053】
次に、反応後に残留する有機溶媒は、液切り工程により除去することが好ましい。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1分以上5分以下であることが好ましく、1分以上3分以下であるとより好ましい。把持する時間が1分以上であることで目的の機能を有する架橋芳香族ポリアミドを得やすく、3分以下であることで有機溶媒の過乾燥による欠点の発生を抑制できるので、性能低下を抑制することができる。
【0054】
(a)後処理
複合半透膜の製造方法は、上記(1-2)の工程の後、複合半透膜を、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物(I)(以下、ジアゾニウム塩化化合物と略記する)に接触させることでジアゾニウム塩を形成させる工程を含む。
【0055】
接触させるジアゾニウム塩化化合物(I)としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO2)を生成するが、水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸または硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0056】
前記ジアゾニウム塩化化合物(I)を含む液中の亜硝酸や亜硝酸塩の濃度の合計は、好ましくは0.01~1重量%の範囲である。この範囲であると十分なジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する効果が得られ、溶液の取扱いも容易である。
【0057】
該化合物の温度は15℃~45℃が好ましい。この範囲だと反応に時間がかかり過ぎることもなく、亜硝酸の分解が早過ぎず取り扱いが容易である。
【0058】
該化合物との接触時間は、ジアゾニウム塩および/またはその誘導体が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが、低濃度であると長時間必要である。そのため、上記濃度の溶液では10分間以内であることが好ましく、3分間以内であることがより好ましい。また、接触させる方法は特に限定されず、該化合物の溶液を塗布(コーティング)しても、該化合物の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該化合物を溶かす溶媒は該化合物が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、第一級アミノ基と試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や酸性化合物、アルカリ性化合物などが含まれていてもよい。
【0059】
分離膜エレメントの製造方法としては、日本国特公昭44-14216号公報、日本国特公平4-11928号公報、又は、日本国特開平11-226366号公報等に開示された方法を用いることができる。
【0060】
3-3.運転方法
逆浸透膜による濾過は、前記前処理後の水溶液を、圧力0.10MPa以上12MPa以下の範囲で逆浸透膜に供給することが好ましい。圧力が0.10MPaより低ければ水の膜等加速度が低下し、12MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるおそれがある。また、圧力が0.25MPa以上6MPa以下で供給すれば、膜透過流束が高いことから、水溶液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、0.25MPa以上1MPa以下で供給することが特に好ましい。逆浸透膜の造水性が0.90m3/m2/日以上あると、1MPa以下のような低圧運転においても十分な透水量を得ることが出来、造水量当りのエネルギー消費量、造水コストを低くできる他、小規模のポンプによる装置設計が可能となり、省スペース化が可能となる。
【0061】
1次処理工程は、多段処理であってもよく、すなわち前記前処理後の水溶液を第一の逆浸透膜で濾過し、得られる透過水を再度第二の逆浸透膜で処理しても良い。また、捨て水を減らし、回収率を高めるために第一の逆浸透膜で濾過して得られる濃縮水を第二の逆浸透膜で処理しても良い。
【0062】
4.2次処理工程
本工程では、1次処理工程で得られた透過水である水溶液から、さらにイオン成分を除去し、超純水とする。2次処理工程は、イオン交換樹脂(イオン交換体)を用いることが好ましい。イオン交換樹脂を用いる方法としては、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含むイオン交換装置を用いることや、電気再生式脱イオン(EDI)を用いても良い。EDIでは、イオン交換膜にて区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、脱塩室にて脱塩されたイオンを濃縮する濃縮室と、電流を通電するための陽極と陰極を有する装置であり、電流を通電して運転することで、イオン交換体による被処理水の脱イオン化(脱塩)処理と、イオン交換体の再生処理とを同時に行う装置である。EDIに通水された被処理水は、脱塩室に充填されたイオン交換体によって脱塩され、EDI処理水としてEDI外部に排出される。同様に、イオン類が濃縮された濃縮水は、EDI濃縮水として外部に排出される。さらに、2次処理工程としては、UV処理を含んでも良い。1次処理工程から供給される水溶液のシリカ濃度が高い場合、2次処理工程のイオン交換樹脂表面にシリカが析出し、2次処理工程の処理効率の低下や劣化を引き起こす。
【実施例0063】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例および比較例における測定は次のとおり行った。
【0064】
(原水の調製)
各種溶質を含む水溶液を以下の条件で調製した。
【0065】
原水として、純水30L中に塩化ナトリウム15g、メタケイ酸ナトリウム・九水和物2.8g、ホウ酸90mgの割合でそれぞれ加え、硫酸を用いてpH7に調整し、25℃にて30分攪拌し、溶解した。
【0066】
(各種溶質の除去率)
分離膜に、温度25℃、pH7に調整した上記水溶液からなる原水を操作圧力0.75MPaで供給したときの透過水と供給水の各種溶質(塩化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ホウ酸)の濃度を比較することにより評価した。すなわち、
塩化ナトリウム除去率(%)=100×(1-(透過水中の塩化ナトリウム濃度/供給水中の塩化ナトリウム濃度))で算出した。なお、供給水及び透過水の塩化ナトリウム濃度は、電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で測定した。供給水及び透過水のメタケイ酸ナトリウム濃度、ホウ酸濃度はそれぞれICP発光分析装置(Agilent製5110VDV)で測定し、次の式からシリカ除去率、ホウ素除去率をそれぞれ求めた。
シリカ除去率(%)=100×{1-(透過水中のメタケイ酸ナトリウム濃度/供給水中のメタケイ酸ナトリウム濃度)}
ホウ素除去率(%)=100×{1-(透過水中のホウ酸濃度/供給水中のホウ酸濃度)}
また、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(m3)から膜透過流束(m3/m2/日)を求めた。
【0067】
(100L/m2透水後の水透過量比)
供給水として、前記かん水を使用して、操作圧力2.0MPaで供給し始めて30分後の透水量(m3)および、総透水量が100L/m2に達した時点での透水量(m3)から、それぞれ30分後の膜透過流速(m3/m2/日)、および100L/m2透水後の膜透過流速(m3/m2/日)を求め、次の式から、100L/m2透水後の水透過量比を求めた。
(100L/m2透水後の水透過量比)=(100L/m2透水後の膜透過流速)/(30分後の膜透過流速)
(無機スケール付着量)
総透過水量100L/m2に達した分離膜について、逆浸透膜表面の付着物を1重量%の硝酸水溶液で抽出し、日立株式会社製のP-4010型ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置を用いて、無機成分(シリカ)の合計吸着量(g)を測定し、分離膜エレメントの膜面積から無機スケール付着量(mg/m2)を算出した。
【0068】
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液接触)
次亜塩素酸ナトリウムを10mg/L、pH7となるように調整した水溶液5Lに、逆浸透膜(10cm×10cm)を浸漬し、96時間、25℃で保持した。
【0069】
(微多孔性支持膜の作製)
ポリエステル繊維からなる不織布(通気度0.5~1cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を180μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる微多孔性支持膜(厚さ150~160μm)を作製した。
【0070】
(逆浸透膜Aの作製)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気度2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持層の厚みが40μmである支持膜を作製した。次に、この支持膜を2.0重量%のm-PDA水溶液に浸漬した後、余分な水溶液を除去し、さらに濃度が0.10重量%となるようにTMCを溶解したn-デカン溶液を多孔性支持層の表面が完全に濡れるように300 mL/m2塗布した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行って、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた後、40℃の純水で洗浄し、得られた膜を、硫酸によりpH3に調整した4,200mg/Lの亜硝酸ナトリウム水溶液(35℃)と40sec間接触させた。その後、精製水で過剰の試薬を洗浄し、亜硫酸ナトリウム水溶液(1,000mg/L)中に2min間浸漬し、複合半透膜を得た。
【0071】
(逆浸透膜Bの作製)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気度2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持層の厚みが40μmである支持膜を作製した。次に、この支持膜を2.0重量%のm-PDA、および化合物Xとしてジプロピレングリコール(DPG:オクタノール/水分配係数 -1.17)1.5重量%水溶液に浸漬した後、余分な水溶液を除去し、さらに濃度が0.10重量%TMC、化合物Yとしてジメチルアセトアミド(DMAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)0.1重量%を溶解したn-デカン溶液を多孔性支持層の表面が完全に濡れるように300 mL/m2塗布した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行って、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた後、40℃の純水で洗浄し、得られた膜を、硫酸によりpH3に調整した4,200mg/Lの亜硝酸ナトリウム水溶液(35℃)と40sec間接触させた。その後、精製水で過剰の試薬を洗浄し、亜硫酸ナトリウム水溶液(1,000mg/L)中に2min間浸漬し、逆浸透膜を得た。
【0072】
(逆浸透膜Cの作製)
化合物Xを1.0重量%のエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME:オクタノール/水分配係数 -0.21)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0073】
(逆浸透膜Dの作製)
化合物Xを1.5重量%のジメチルアセトアミド(DMAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)に、化合物Yを0.1重量%のエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME:オクタノール/水分配係数 -0.21)変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0074】
(逆浸透膜Eの作製)
化合物Xを1.0重量%のエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME:オクタノール/水分配係数 -0.21)に、化合物Yを0.1重量%のジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME:オクタノール/水分配係数 -0.36)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0075】
(逆浸透膜Fの作製)
化合物Xを1.2重量%のジエチルアセトアミド(DEAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)に、化合物Yを0.1重量%のジエチレングリコールエチルエーテルアセタート(DEGEEAc:オクタノール/水分配係数 0.74)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0076】
(逆浸透膜Gの作製)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気度2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持層の厚みが40μmである支持膜を作製した。次に、この支持膜を2.0重量%のm-PDA、および化合物Xとしてジプロピレングリコール(DPG:オクタノール/水分配係数 -1.17)1.5重量%水溶液に浸漬した後、余分な水溶液を除去し、さらに濃度が0.10重量%のTMCを溶解したn-デカン溶液を多孔性支持層の表面が完全に濡れるように300 mL/m2塗布した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行って、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた後、40℃の純水で洗浄し、得られた膜を、硫酸によりpH3に調整した4,200mg/Lの亜硝酸ナトリウム水溶液(35℃)と40sec間接触させた。その後、精製水で過剰の試薬を洗浄し、亜硫酸ナトリウム水溶液(1,000mg/L)中に2min間浸漬し、逆浸透膜を得た。
【0077】
(逆浸透膜Hの作製)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気度2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔性支持層の厚みが40μmである支持膜を作製した。次に、この支持膜を2.0重量%のm-PDA水溶液に浸漬した後、余分な水溶液を除去し、さらに濃度が0.10重量%TMC、化合物Yとしてジメチルアセトアミド(DMAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)0.1重量%を溶解したn-デカン溶液を多孔性支持層の表面が完全に濡れるように300 mL/m2塗布した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を垂直にして液切りを行って、送風機を使い25℃の空気を吹き付けて乾燥させた後、40℃の純水で洗浄し、得られた膜を、硫酸によりpH3に調整した4,200mg/Lの亜硝酸ナトリウム水溶液(35℃)と40sec間接触させた。その後、精製水で過剰の試薬を洗浄し、亜硫酸ナトリウム水溶液(1,000mg/L)中に2min間浸漬し、逆浸透膜を得た。
【0078】
(逆浸透膜Iの作製)
化合物Yを0.1重量%のエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME:オクタノール/水分配係数 -0.21)に、ジエチレングリコールエチルエーテルアセタート(DEGEEAc:オクタノール/水分配係数 0.74)に変えた以外は逆浸透膜Hの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0079】
(逆浸透膜Jの作製)
m-PDAの濃度を3重量%、TMCのデカン溶液濃度を0.165重量%に変えた以外は、逆浸透膜Gの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0080】
(逆浸透膜Kの作製)
化合物Xを1.2重量%のジメチルアセトアミド(DMAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)に、化合物Yを0.1重量%のジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME:オクタノール/水分配係数 -0.36)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0081】
(逆浸透膜Lの作製)
化合物Xを1.0重量%のエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME:オクタノール/水分配係数 -0.21)に、化合物Yを0.03重量%のγ-ブチロラクタム(Dオクタノール/水分配係数 -0.58)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0082】
(逆浸透膜Mの作製)
化合物Xを1.4重量%のε-カプロラクタム(オクタノール/水分配係数 -0.19)に、化合物Yを0.02重量%のN-メチルホルムアミド(NMF:オクタノール/水分配係数 -0.97)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0083】
(逆浸透膜Nの作製)
化合物Xを1.2重量%のジメチルアセトアミド(DMAc:オクタノール/水分配係数 -0.15)に、化合物Yを0.1重量%のジエチレングリコールジアセタート(DEGAc:オクタノール/水分配係数 -0.49)に変えた以外は逆浸透膜Bの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0084】
(逆浸透膜Oの作製)
n-デカン溶液の塗布量を180 mL/m2に変えた以外は逆浸透膜Mの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0085】
(逆浸透膜Pの作製)
n-デカン溶液の塗布量を420 mL/m2に変えた以外は逆浸透膜Mの作製方法と同様にして逆浸透膜を得た。
【0086】
(比較例1)
逆浸透膜として、逆浸透膜Aを用い、上記で調整した原水を用いて、塩化ナトリウム除去率、シリカ除去率、ホウ酸除去率、膜透過流速、100L/m2透水後の水透過量比、100L/m2透水後のシリカスケール付着量を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
逆浸透膜として、逆浸透膜Bを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例3)
逆浸透膜として、逆浸透膜Cを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例4)
逆浸透膜として、逆浸透膜Dを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例5)
逆浸透膜として、逆浸透膜Eを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例6)
逆浸透膜として、逆浸透膜Fを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例7)
逆浸透膜として、逆浸透膜Gを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例8)
逆浸透膜として、逆浸透膜Hを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例9)
逆浸透膜として、逆浸透膜Iを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例10)
逆浸透膜として、逆浸透膜Jを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例1)
逆浸透膜として、逆浸透膜Kを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例2)
逆浸透膜として、逆浸透膜Lを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例3)
逆浸透膜として、逆浸透膜Mを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例4)
逆浸透膜として、逆浸透膜Nを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例5)
逆浸透膜として、逆浸透膜Oを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例6)
逆浸透膜として、逆浸透膜Pを用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0102】
表1の結果の通り、次亜塩素酸ナトリウム接触後にシリカ除去性能を高く維持するためにはホウ酸除去率が60%以上であることが必要であり、さらにシリカを含む溶液の濾過時のスケール発生の抑制をするためには、塩化ナトリウム除去率とシリカ除去率の差は0.2%以下であることが必要であることが明らかとなった。
【0103】