(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177794
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】眼鏡用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
G02C7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090663
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄二
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】屈折矯正のための所定の屈折力が付加された光学中心領域等と、屈折矯正に寄与しない屈折異常の進行を抑制するための光学領域との、2種類の異なる焦点距離となる領域を備えた屈折異常の進行を抑制するための眼鏡用レンズであって、視野の中の垂直線や水平線が歪みにくい屈折矯正のための眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】眼鏡用レンズ31において、光学中心領域33の屈折力とは異なる方形パターンが三重となった第1~第3の光学領域32A~32Cを記光学中心領域33の周囲に間隔を空けて有するようにする。第1~第3の光学領域32A~32Cはその周囲の領域と鉛直方向及び水平方向における境界線を有するようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学中心領域の屈折力とは異なる屈折力の光学領域を前記光学中心領域の周囲に有し、前記光学領域はそれ以外の領域との境界が装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向であるように配置されることを特徴とする眼鏡用レンズ。
【請求項2】
前記光学領域は前記光学中心領域を矩形状に取り囲むことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記光学領域は前記光学中心領域を眼鏡装用時の視界における上側水平方向を除いて配置されることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項4】
前記光学領域は0.2~2.0mmの等幅の帯状に形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項5】
前記光学領域の一辺の長さは3.0mm以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項6】
前記光学領域は、長手方向に連続した凸状部であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項7】
前記凸状部は、前記光学中心領域の屈折力に対して相対的にプラスの屈折力を有することを特徴とする請求項6に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項8】
前記光学領域は、長手方向に連続した凹状部であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項9】
前記凹状部は、前記光学中心領域の屈折力に対して相対的にマイナスの屈折力を有することを特徴とする請求項8に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項10】
前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に、光学中心の屈折力とは異なる屈折力を持つことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項11】
前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に光学中心の屈折力に対してプラスの屈折力を持つことを特徴とする請求項10に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項12】
前記光学領域は、等価球面屈折力において、光学中心の屈折力に対して+1.0D以上のプラスの屈折力を持つことを特徴とする請求項11に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項13】
前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に、光学中心の屈折力に対してマイナスの屈折力を持つことを特徴とする請求項10に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項14】
前記光学領域は、等価球面屈折力において、光学中心の屈折力に対して-1.0D以上のマイナスの屈折力を持つことを特徴とする請求項13に記載の眼鏡用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折矯正のための所定の屈折力が付加された光学中心領域等と、屈折矯正に寄与しない屈折異常の進行を抑制するための光学領域との、2種類の異なる焦点距離となる領域を備えた屈折異常の進行を抑制するための眼鏡用レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
装用者の屈折異常の進行を抑制するための眼鏡レンズであって、網膜上に合焦させない機能を有する光学要素(光学領域)を、光学中心を取り囲む同心円領域に配置するという発明が従来から提案されている。このような眼鏡レンズの一例として特許文献1を示す。特許文献1ではその
図12に示すように同心円上にマイクロレンズを連結したリング体14を配置したり、
図14のように同心円上に断面半円形のうね状のリング体14を配置して同心円領域構成するようにしている。これらリング体14の部分はそれ以外の部分に対して屈折力が大きく異なる領域となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、屈折力が大きく異なる領域が、中心領域を同心円状に取り囲む場合には、装用者がこのような眼鏡レンズを装用した場合に視野周辺領域において円形上の歪みが発生してしまうこととなる。そうするとその歪みの知覚において、視野の中の垂直線や水平線(床や机のライン、壁のライン)が変形することにより、大きな歪みを感じることが分かった。視野の中の垂直線や水平線が歪むと視野に違和感を感ずるばかりではなくそのような歪みを知覚した状態では歩行しにくくなってしまうという問題も生じる。そのため、視野の中の垂直線や水平線が歪みにくい屈折矯正のための眼鏡レンズが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、手段1では、光学中心領域の屈折力とは異なる屈折力の光学領域を前記光学中心領域の周囲に有し、前記光学領域はそれ以外の領域との境界が装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向であるように配置されるようにした。
このような眼鏡用レンズであれば、垂直線あるいは水平線の少なくとも一方の歪みが生じにくくなり、装用者に垂直線や水平線に対する歪みの知覚を感じることを軽減あるいは解消させることができる。
【0006】
「光学領域」は光学中心領域の周囲に配置され、屈折矯正のための光学中心領域は確保される。光学領域はある幅をもって光学中心領域を眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向となる四方から包囲することがよいが、例えば水平方向だけの歪みを緩和するのであれば上下方向にだけ配置するようにしてもよい。光学領域は連続的な凸又は凹となる畝状の領域として存在してもよく、ごく小径の球冠状の凸又は凹となるレンズが近接、接触あるいは重複することでまっすぐなチェーン状に連続して形成されてもよい。光学領域は光学中心あるいは光学中心を通る直線を基準に鏡像対象となるように配置されることがよい。光学領域は光学中心からレンズ外周方向にかけて間隔を空けて複数の光学領域は配置されてもよい。
「それ以外の領域」は光学中心領域と、光学領域ではなく光学中心領域でもない領域を含む。光学中心領域と光学領域ではなく光学中心領域でもない領域の屈折力は同じであることがよい。
光学領域が、それ以外の領域との境界(境界線)が装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向であるように配置される一例を
図1(a)~(f)に列挙する。
図1(a)~(f)はそれぞれ眼鏡用レンズ(丸レンズ)の平面視における光学領域のパターンである。
図1(a)は正方形で等幅の大きさの異なる方形パターン11が間隔を空けて三重に配置された例である。方形パターン11は三重でなくn重(nは自然数)であればよい。もっとも内側の光学中心領域を包囲する方形パターン11の外方の方形パターン11と接する領域も光学中心領域と同じ屈折力であることがよい。
図1(b)は
図1(a)の方形パターン11においてコーナーを有さない棒状パターン12である。棒状パターン12の離間した領域は光学中心領域と同じ屈折力の領域とされる。方形パターン11と棒状パターン12を組み合わせてもよい。例えば真ん中の方形パターン11を棒状パターン12とするごとくである。
図1(c)は同じ長さの棒状パターン13を光学中心を基準として眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向となる四方に90度の回転対称となるように配置された例である。各方向の棒状パターン13は間隔を空けて三重に配置されている。棒状パターン13は複数、つまりn重(nは自然数)であればよい。
図1(d)は
図1(a)と同様に正方形の大きさの異なる方形パターン14が間隔を空けて三重に配置された例である。但し、
図1(d)では球冠状のレンズが縁で接触することで各辺がまっすぐなチェーン状に連続して形成された方形パターン14である。
図1(e)は長さの異なる2つの棒状パターン15A,15Bを組み合わせて光学中心領域を包囲した例である。上記の例とは異なり水平方向の棒状パターン15A,15Bのみからなる。相対的に長い棒状パターン15Aは光学中心領域の上方と下方にそれぞれ2つが平行に配置されている。相対的に短い棒状パターン15Aは光学中心領域の左右それぞれ2つが平行に配置されている。2つの棒状パターン15A,15Bを組み合わせてなる全体の形状の外郭は長方形とされている。
図1(e)を光学中心を基準として90度回転させ垂直方向の棒状パターン15A,15Bのみとしてもよい。3つ以上の長さの異なる2つの棒状パターンを組み合わせて光学中心領域を包囲するようにしてもよい。
図1(f)は
図1(a)の三重の方形パターン11において上方の水平方向の光学領域を有さないコ字状パターン16である。
図1(f)は上方が開口された例であるが、これとは上下反転させたり、光学中心を基準として横方向に90度回転させたようなパターンでもよい。方形パターン16は三重でなくn重(nは自然数)であればよい。
【0007】
「光学領域」も「それ以外の領域」も球面形状でも非球面形状でもよい。但し、光学中心領域と段差なく接続させるためには光学領域は非球面形状がよりよい。
「光学領域」は非点収差によって焦点深度が「光学領域以外の領域」よりも延長されている領域である。
図2に基づいて焦点深度の概要について説明する。
図2は本発明に属する眼鏡用レンズ21と、これを装用する装用者の眼球22との間での眼鏡用レンズ21を通過した光線の光路を眼球22の光軸を通る断面において展開したシミュレーション図である。眼鏡用レンズ21は、屈折矯正のための所定の屈折力が付加された光学中心領域(及びそれ以外の領域)23と同じ屈折力の領域では網膜上に焦点を結ぶことができる。一方、光学領域24は光学中心領域とは異なる屈折力が与えられるため、光学領域24を通過して網膜方向に向かう光線は非点収差による焦点深度が発生する。
図2では光学領域24は一例として光学中心領域(及びそれ以外の領域)23に対して相対的にプラスの屈折力を与えた状態であるためこの領域を通過する光線は網膜よりも内側に焦点深度が延長された状態である。光線に直行する像平面における点像分布範囲が、ある一定範囲より小さい焦点範囲を、ここでは焦点深度という。ここでは相対的にプラスの屈折力を与えたため内側に焦点が結ばれ網膜より内側に焦点深度が延長されているが、光学領域24の屈折力が網膜よりも外に焦点が結ばれるような場合では網膜より外側に焦点深度が延長される場合もある。
このように光学中心領域(及びそれ以外の領域)23に対して光学中心領域(及びそれ以外の領域)23との境界線が装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向であるように配置される光学領域24を、網膜より内側に焦点深度が延長するように配置することで近視の進行を抑制する効果が期待できる。また、図示しないが光学中心領域(それ以外の領域)23に対して光学領域24に相対的にマイナスの屈折力を与えれば網膜よりも外側に焦点深度が延長することとなる。その場合でも光学中心領域(それ以外の領域)23に対して光学中心領域(それ以外の領域)23との境界線が装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向の少なくとも一方の方向であるように配置することで遠視の進行を抑制する効果が期待できる。
【0008】
本発明の眼鏡用レンズは例えば、NC装置のような加工装置を使用し、加工データを入力してプログラムによってコンピュータを制御することで前駆体レンズとしてのセミフィニッシュトブランクを切削加工してもよく、また例えば、眼鏡用レンズのレンズ型を使用して型取りし樹脂成形して作製してもよい。また、セミフィニッシュトブランク自体が型取りで作製されるため、セミフィニッシュトブランクと切削加工を組み合わせてもよい。例えば表裏いずれかの面に型取りで光学領域を形成し、他方の面を装用者のレンズ度数に応じた切削加工を施すようなケースである。例えばレンズ表面に型取りで光学領域を形成した場合にはレンズ裏面に装用者のレンズ度数に応じた加工をすることがよい。
【0009】
また、手段2では、前記光学領域は前記光学中心領域を矩形状に取り囲むようにした。
この構成は具体的には例えば上記
図1(a)~(e)のような場合である。このように取り囲めば鉛直方向及び水平方向について歪みの知覚を感じることを軽減あるいは解消させることができる。
また、手段3では、前記光学領域は前記光学中心領域を眼鏡装用時の視界における上側水平方向を除いて配置されるようにした。
この構成は具体的には上記
図1(f)のようなパターンのケースである。特にこのようなパターンであれば遠距離~中距離のための目視領域が大きく確保され、歩く際の近距離を目視することの多い下方領域で水平方向の歪みが出にくい設計であるためよい
また、手段4では、前記光学領域は0.2~2.0mmの等幅の帯状に形成されているようにした。
光学領域が0.2mmより細いと人の目では焦点深度が延長されていることが認識できない可能性があり、一方で、2.0mm以下でないと、縮瞳したときに光学中心領域と同じ屈折力の領域の屈折矯正を阻害する可能性があるからである。
また、手段5では、前記光学領域の一辺の長さは3.0mm以上であるようにした。
【0010】
また、手段6では、前記光学領域は、長手方向に連続した凸状部であるようにした。
この構成は具体的には例えば上記
図1(a)~(f)のような場合に光学中心領域が形成されるベースとなる面に凸となる例えば畝状に、例えば球冠状の凸となるレンズがチェーン状に連続しているように形成される場合である。
また、手段7では、前記凸状部は、前記光学中心領域の屈折力に対して相対的にプラスの屈折力を有するようにした。
つまり、光学中心領域が形成されるベースとなる面よりも大きな屈折力となるように凸状部が構成されることである。これによって凸状部の焦点深度が延長することとなる。
また、手段8では、前記光学領域は、長手方向に連続した凹状部であるようにした。
この構成は具体的には例えば上記
図1(a)~(f)のような場合に光学中心領域が形成されるベースとなる面に凹となる凸となる例えば畝状に、例えば球冠状の凹となるレンズがチェーン状に連続しているように形成される場合である。
また、手段9では、前記凹状部は、前記光学中心領域の屈折力に対して相対的にマイナスの屈折力を有するようにした。
つまり、光学中心領域が形成されるベースとなる面よりも大きな屈折力となるように凹状部が構成されることである。これによって凹状部の焦点深度が延長することとなる。
【0011】
また、手段10では、前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に、光学中心の屈折力とは異なる屈折力を持つようにした。
これは、例えば、上記
図1(a)~(c)、
図1(e)、
図1(f)のように、等幅の方形パターン11、棒状パターン12、棒状パターン15A,15B、コ字状パターン16が相当する形状である。これらは凸又は凹状の畝形状であるため、長手方向については光学中心と同じ屈折力を持つ。一方、長手方向に対して垂直な方向は湾曲しているため光学中心とは異なる屈折力を持つこととなる。このため、光学領域の焦点深度が延長することとなる。
また、手段11では、前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に光学中心の屈折力に対してプラスの屈折力を持つようにした。
また、手段12では、前記光学領域は、等価球面屈折力において、光学中心の屈折力に対して+1.0D以上のプラスの屈折力を持つようにした。
また、手段13では、前記光学領域は、長手方向に対して垂直な方向に、光学中心の屈折力に対してマイナスの屈折力を持つようにした。
また、手段14では、前記光学領域は、等価球面屈折力において、光学中心の屈折力に対して-1.0D以上のマイナスの屈折力を持つようにした。
【0012】
上述の各手段に示した発明は、任意に組み合わせることができる。例えば、手段1に示した発明の全てまたは一部の構成に手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加える構成としてもよい。特に、手段1に示した発明に、手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加えた発明とするとよい。また、手段1から手段14に示した発明から任意の構成を抽出し、抽出された構成を組み合わせてもよい。本願の出願人は、これらの構成を含む発明について権利を取得する意思を有する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の眼鏡用レンズであれば、垂直線あるいは水平線の少なくとも一方の歪みが生じにくくなり、装用者に垂直線や水平線に対する歪みの知覚を感じることを軽減あるいは解消させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)から(f)は本発明の眼鏡用レンズにおける光学領域のパターンの一例を説明する説明図。
【
図2】本発明の眼鏡用レンズにおける焦点深度の概要をシミュレーションして説明する説明図。
【
図3】実施の形態において眼鏡用レンズと眼球の配置関係を説明する説明図。
【
図4】実施の形態において光学領域部分のパターンの説明する説明図。
【
図5】(a)は
図4におけるA-A線の、(b)は
図4におけるB-B線の一部破断断面図。
【
図6】(a)及び(b)は実施の形態においてベース面に光学領域を合成する手法を説明する説明図。
【
図7】実施の形態において光学領域部分のカーブ方向を説明する説明図。
【
図8】実施の形態においてベース面と光学領域のカーブの曲率半径を説明する説明図。
【
図9】実施例1において眼鏡用レンズにおける屈折度数の光学特性を説明するグラフ。
【
図10】実施例2において眼鏡用レンズにおける屈折度数の光学特性を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、眼鏡用レンズの具体的な実施の形態について図面に従って説明をする。
図1(a)のパターンを例とした眼鏡用レンズ31について説明する。
図3及び
図4に示すように、
図1(a)のパターンの眼鏡用レンズ31は、フレーム入れ加工をする前のいわゆる丸レンズと称される円形の外形のメニスカスレンズ形状であるSV(単焦点)レンズである。眼鏡用レンズ21はメーカーあるいは眼鏡店でユーザーの要望に応じたフレーム形状(玉型形状)にカットされる。
眼鏡用レンズ31は正方形で等幅の大きさの異なる方形パターンが三重となった例である。方形パターンは光学中心領域の屈折力とは異なる屈折力の光学領域であり、内側から順に第1~第3の光学領域32A~32Cとする。第1の光学領域32Aに包囲された内側を光学中心領域33とし、第1の光学領域32Aと第2の光学領域32Bに包囲された領域を第1の中間領域34Aとし、第2の光学領域32Bと第3の光学領域32Cに包囲された領域を第2の中間領域34Bとする。第3の光学領域32Cの外側を外領域35とする。光学中心領域33に第1の中間領域34A、第2の中間領域34B及び外領域35を加えた領域が、その他の領域に相当する。これら光学中心領域33、第1の中間領域34A、第2の中間領域34B及び外領域35は同じ屈折力の領域であり眼鏡用レンズ31のベース面Bとなる。第1~第3の光学領域32A~32Cと光学中心領域33、第1の中間領域34A、第2の中間領域34B及び外領域35との境界は装用者の眼鏡装用時の視界における鉛直方向及び水平方向となる。
【0016】
図4及び
図5に示すように、第1~第3の光学領域32A~32Cは方形パターンの長手方向に沿って均一な高さとされ、長手方向と直交する方向に湾曲した形状の眼鏡用レンズ31の凸となるレンズである。そのため、第1~第3の光学領域32A~32Cはベース面Bに対して畝状に盛り上がった領域となる。
図7に示すように、第1~第3の光学領域32A~32Cの方形パターンの各辺に対して矢印方向がレンズ度数が発現するためのカーブ方向となり、コーナーで徐々に向きを変えて隣接する辺でも長手方向と直交する方向がレンズ度数が発現するためのカーブ方向となる。
第1~第3の光学領域32A~32Cがレンズ表面に形成された眼鏡用レンズ31の設計及び作製は次のように行われる。
図6に示すように、第1~第3の光学領域32A~32Cはベース面Bのカーブの位置データ(三次元データ)に対して第1~第3の光学領域32A~32Cの位置データ(三次元データ)を合成し、合成した位置におけるサグ量を計算する。
そのように計算された設計値に基づいてまずレンズ型を作製する。このレンズ型を用いて型内にモノマー(熱硬化樹脂)を充填してレンズ表面側に第1~第3の光学領域32A~32Cが形成されたセミフィニッシュトブランクを得る。このレンズ表面側の面形状は装用者固有のレンズ度数に関わらず共通となる。次いで、得られたセミフィニッシュトブランクのレンズ裏面側をNC装置によって切削加工しS度数、プリズム等の装用者固有のレンズ度数が与えられた眼鏡用レンズ31を作製する。以上は切削加工面がレンズ裏面である場合であるが、切削加工面がレンズ表面である場合にはレンズ裏面側が第1~第3の光学領域32A~32Cが形成される面となる。複雑な形状となる第1~第3の光学領域32A~32Cは型取りの方が加工しやすいからである。
このような実施の形態の眼鏡用レンズ31であれば、屈折異常の進行を抑制することができ、そのような使用において、垂直線及び水平線の歪みが生じにくくなり、装用者に垂直線や水平線に対する歪みの知覚を感じることを軽減、あるいは解消させることができることとなる。
【0017】
(実施例1)
実施例1は上記の実施の形態に対応した実施例である。
図3に示すように、視野角40度で眼鏡用レンズ31を作製し、これを目視するシミュレーションを実行した。
作製した眼鏡用レンズ31のベース面Bにおける(光学中心領域33、第1の中間領域34A、第2の中間領域34)屈折力は-2.00Dである。ベース面Bと交互配置された第1~第3の光学領域32A~32Cではベース面Bに対して相対的に+2.5D正の等価屈折力を持つ。
ベース面Bの曲率半径=163.44mm
第1~第3の光学領域32A~32Cの曲率半径=63.78mm
レンズ裏面の曲率半径=105.56mm
図8に示すように、レンズ面に平行な面をXY平面とし、XY平面に直行する方向にZ軸をとるとき、R1カーブ(ベース面Bのカーブ)上のR2(第1~第3の光学領域32A~32Cのカーブ)が存在する部分の法線に直行する方向にベース面Bの曲率中心と第1~第3の光学領域32A~32Cの曲率中心が存在する。
第1~第3の光学領域32A~32Cの幅 =2.0mm
第1の光学領域32Aの一辺の長さ(外縁間)=13.6mm
第2の光学領域32Bの一辺の長さ(外縁間)=21.6mm
第3の光学領域32Cの一辺の長さ(外縁間)=29.6mm
この眼鏡用レンズ11をシミュレーションした結果を
図9に示す。
図9は縦軸が水平方向から40度まで俯仰した角度であり、横軸が屈折度数となる回旋点基準で変位(眼球36を回転)させたグラフである。
図9の3種類のカーブについてグラフ上に表したものであり、Aは円周方向の屈折力、Bは放射線方向の屈折力、Cは等価球面度数(=0.5*(A+B))をそれぞれ示すグラフである。カーブは基本的にベース面Bの特性を示し、途中で途切れて側方にずれている部分が第1~第3の光学領域32A~32Cの特性を示している。
図9のグラフから第1~第3の光学領域32A~32Cにおいては角度の変化に伴って屈折度数が緩やかに変化しており、このゾーンでの急激な屈折力の変化がないため、装用感がよいことがわかる。
この眼鏡用レンズ31を被験者に装用させる一方、
図9のグラフと同様の光学特性の同心円状の光学領域を備えた眼鏡用レンズを装用させ、実施例1の眼鏡用レンズ31と装用感を比較したところ、実施例1の眼鏡用レンズ31では机や柱のような水平方向と垂直方向の線を有する物体が歪まず、装用感が更に向上することがわかった。
【0018】
(実施例2)
実施例2は上記の実施の形態のバリエーションとして、
図1(d)のパターンの眼鏡用レンズ31を使用した実施例である。
実施例2も実施例1と同様に
図3に示すように、視野角40度で眼鏡用レンズ31を作製し、実施例と同様にこれを目視するシミュレーションを実行した。作製した眼鏡用レンズ11の各種数値条件は実施例1と同じである。
図10のグラフに実施例2のシミュレーション結果を示す。これらの結果から実施例2は実施例よりも装用感は悪いレンズである。
この眼鏡用レンズ31を被験者に装用させる一方、
図10のグラフと同様の光学特性の同心円状の光学領域を備えた眼鏡用レンズを装用させ、実施例2の眼鏡用レンズ31と装用感を比較したところ、実施例2の眼鏡用レンズ31では机や柱のような水平方向と垂直方向の線を有する物体が歪まず装用感が更に向上することがわかった。
【0019】
上記実施の形態は本発明の原理及びその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態における第1~第3の光学領域32A~32Cの数や幅等については一例であり、他の形態で実施してもよい。また、実施の形態のパターンは一例でありパターンは様々に変更可能である。実施例も同様であり、数値も適宜変更可能である。
・実施の形態について焦点深度がプラス側に入っている場合で説明したが、焦点深度がマイナス側に入っている場合についても同様の設計思想で設計することができる。また、上記では矯正した屈折力はマイナスレンズであったが、プラスレンズであってもよい。
【0020】
本願発明は上記の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素、又は発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材とてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0021】
31…眼鏡用レンズ、33…光学中心領域、32A~32C…光学領域。