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  • 特開-移動体の動力源設定方法 図1
  • 特開-移動体の動力源設定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177807
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】移動体の動力源設定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20231207BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20231207BHJP
   B60L 58/40 20190101ALI20231207BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231207BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20231207BHJP
   H01M 8/04007 20160101ALI20231207BHJP
   B64G 1/42 20060101ALI20231207BHJP
   B64G 1/50 20060101ALI20231207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231207BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
B60L50/75
B60L58/40
H01M8/00 Z
H01M8/00 A
H01M8/04313
H01M8/04007
B64G1/42 130
B64G1/50 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090680
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】田野 裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔幸
【テーマコード(参考)】
5H125
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC07
5H125AC12
5H125BC00
5H125EE32
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BB02
5H127CC06
5H127DB42
(57)【要約】
【課題】真空環境において、放熱量と質量のバランスを取ることができる移動体の動力源設定方法を提供する。
【解決手段】真空環境で移動する移動体の動力源設定方法であって、ミッションで必要となるエネルギー量を決定する工程と、燃料電池からの許容排熱量を算出する工程と、を備え、前記許容排熱量に応じた前記燃料電池からの出力エネルギーに基づいて、二次電池の搭載量を決定する動力源設定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空環境で移動する移動体の動力源設定方法であって、
ミッションで必要となるエネルギー量を決定する工程と、
燃料電池からの許容排熱量を算出する工程と、を備え、
前記許容排熱量に応じた前記燃料電池からの出力エネルギーに基づいて、二次電池の搭載量を決定する動力源設定方法。
【請求項2】
前記移動体は、宇宙機、又は、真空環境で走行可能な車両である、請求項1に記載の動力源設定方法。
【請求項3】
前記燃料電池からの許容排熱量は、各機器からの排熱を全て放熱したときの放熱余力から算出する、請求項1に記載の動力源設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の動力源設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した移動体について様々な研究がなされている。
例えば特許文献1では、燃料電池と二次電池とを使い分けて駆動する移動体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-279124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
宇宙空間等の真空環境の場合、地球上と比べて排熱が非常に制限される。燃料電池は排熱量が大きく、二次電池は排熱量が小さいため、真空環境での移動体動力源としては二次電池が適しているが、全ての動力源を二次電池としてしまうと、全体質量が過大となってしまう。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、真空環境において、放熱量と質量のバランスを取ることができる移動体の動力源設定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、真空環境で移動する移動体の動力源設定方法であって、
ミッションで必要となるエネルギー量を決定する工程と、
燃料電池からの許容排熱量を算出する工程と、を備え、
前記許容排熱量に応じた前記燃料電池からの出力エネルギーに基づいて、二次電池の搭載量を決定する動力源設定方法を提供する。
【0007】
本開示においては、前記移動体は、宇宙機、又は、真空環境で走行可能な車両であってもよい。
【0008】
本開示においては、前記燃料電池からの許容排熱量は、各機器からの排熱を全て放熱したときの放熱余力から算出してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、真空環境において、放熱量と質量のバランスを取ることができる移動体の動力源設定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の動力源を含む移動体のシステムの一例を示す構成図である。
図2図2は、電池比率と電源系質量との関係の一例を示すグラフである。
図3図3は、FCの出力を決定するための制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない移動体及び移動体の動力源の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0012】
本開示においては、真空環境で移動する移動体の動力源設定方法であって、
ミッションで必要となるエネルギー量を決定する工程と、
燃料電池からの許容排熱量を算出する工程と、を備え、
前記許容排熱量に応じた前記燃料電池からの出力エネルギーに基づいて、二次電池の搭載量を決定する動力源設定方法を提供する。
【0013】
本開示において、移動体は、真空環境で移動する移動体であればよく、宇宙機、月面等の真空環境で走行可能な車両等であってもよい。
本開示において、動力源(以下電源と称する場合がある)は、例えばいわゆる二次電池(Li-ionバッテリーなど、以下単に電池と称する場合がある)、及び、燃料電池(FC)等が挙げられ、本開示で言う電源システム(電源系)を構成する動力源は、この電池とFCであるとする。
【0014】
宇宙・月面では輻射放熱しか利用できないため排熱が非常に制限される。地上車(地球上で走行する普通の市販車)はラジエーターから例えば70kWの放熱が可能である。これは大気がラジエーターに触れることで大きな熱伝達が可能となるためである。
一方、真空中で作動する宇宙機は、ラジエーターから大気への熱伝達が無く、輻射による放熱のみが可能で、その熱移動量は大変小さく、例えば(地上車よりも相当大きなラジエーターを搭載したとしても)7kWしか放熱能力を持たない。
ラジエーターの放熱能力が小さいため、宇宙機内の各部からの排熱も当然それ以下に制約しないと、いずれは部品が過熱し機能損失等に至ってしまう。このように、宇宙機は排熱が非常に制限されるという点が、システム構成上の大きな制約となる。
【0015】
上記の熱制約がある前提で、電源システムの構成を考える。ここで言う電源システムとは、宇宙機がその役割を果たすために必要な電力を供給する電源(動力源)のことである。例えば月面を走行可能な車両(以降LCと略す(LC:Lunar Cruiser))が、ある目的地まで走行するための走行用電力や、その他の走行には直接関わらないが電力を消費する機器等に対し、電力を供給するものである。
【0016】
宇宙機は一般的に、質量が最小となるように構成したいという背景がある。質量が大きいと、ロケットで打ち上げる際のコストが膨大になること、そもそも打ち上げ能力を超えてしまい打ち上げできないこと等、という事態を避ける必要がある。
【0017】
従来技術では、宇宙・月面等の真空環境で使用する電源系で、排熱に制約がある場合に、質量を小さくする方法が不明である。宇宙・月面では輻射放熱しか利用できないため排熱が非常に制限される。一方で充放電時に排熱の少ない電池(Li-ion電池など)のみで電源系を構成すると質量が大きくなる。
本開示においては、宇宙・月面等の真空環境で使用する電源系の質量を最小にできるシステム構成、および動力源設定方法を提供する。
制御方法としては、各種機器からの排熱の放熱を行った上で、残りの放熱能力の全てを利用するようにFC発電を逐次調整する。
【0018】
図1は、本開示の動力源を含む移動体のシステムの一例を示す構成図である。
図1では液液熱交換器を使用する(各排熱機器から直接放熱器に冷却配管をつながない)例を示しているが、本開示はこの構成に限るものではなく、直接接続する(各排熱機器から直接放熱器に冷却配管をつなぐ)方式でも良い。
温度センサや冷却水ポンプの設置場所や数はこの図の通りでなくても良い。
本図において、FCシステム、電池、インバーター、負荷、空調機器が排熱機器である。(厳密には、制御系、冷却水ポンプ、温度センサも排熱する)
FCシステムには、各単セルのアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給系と、各単セルのカソードに酸化ガスを供給する酸化ガス供給系とが設けられており(いずれも図示略)、制御系からの制御信号に応じて、燃料ガス及び酸化ガスが燃料電池の各単セルに供給されるようになっている。ここで、燃料ガスとは、水素を含む水素ガスを意味する。また、酸化ガスとは、酸素や空気を代表とする酸化剤を含有するガスを意味する。供給された燃料ガス及び酸化ガスの電気化学反応により、燃料電池は電力を発生する。
燃料電池は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を有している。各単セルは、膜・電極接合体(以下、「MEA」ともいう)およびMEAを両側から挟みこむように配置された一対のセパレータを有している。各MEAは、詳細には、高分子電解質膜と、この高分子電解質膜を両面から挟みこむように配置された一対の触媒層とで構成される。一対の触媒層は、アノード及びカソードとして機能し、触媒層と高分子電解質膜との界面において電極反応が行われる。
制御系は、移動体のシステム内の各種機器の動作を制御する。制御系は、物理的には、例えば、CPUと、このCPUで処理される制御プログラムや制御データを記憶するROMと、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAMと、入出力インターフェースとを有する。これらの要素は、互いにバスを介して接続されている。
【0019】
図2は、電池比率と電源系質量との関係の一例を示すグラフである。
図2は、宇宙機が必要とするエネルギー(単位:kWh)を、電池とFCで分担して保持する際に、その電池とFCのエネルギーの保持の割合を変化させた際に、電源系の質量がどう変化するかを示したものである。電池は質量エネルギー密度が低く、逆にFCは質量エネルギー密度が高いため、FCの割合を大きくした方が、電源系の質量を小さく構成することができる。
【0020】
上記より、質量の観点では、FCのみで電源系を構成するのが最適であるように見える。一方で、電源系をFCのみで構成すると、上述した排熱の制約によって、ミッションが完遂できない事態になってしまう。理由は、FCは電池に比べると低効率であり、いわゆるネット効率は概略50%である。すなわちネット出力として例えば3kWを得ようとすると、FCシステムから3kWの排熱が出ることになる。宇宙機のラジエーターの放熱能力を例えば7kWとした場合、その全てをFC排熱の処理に充てたとしても、FCのネット出力は高々7kWまでしか許容されないことになる。更に実際は、宇宙機全体で排熱のある機器は当然FCシステムだけではなく、LCで言えば例えば走行用モーターや、その他搭乗クルーの生命維持を目的とした空調設備等々の機器からの排熱も存在する。よって実際はFC以外の排熱を放熱処理した上で、残った放熱能力をFC排熱枠として割り当てるのがFC出力(単位:kW)を最大にできる手段となる。そうして得られるFC出力が、時々刻々の車両全体の消費電力を供給できなければ、例えば走行用電力が不足し、必要なモータートルクが得られず、車速が低下したりするといった制約が生じ、結果的にミッションを完遂できないという事態につながることになる。そこで上記FC出力では電力として不足する分を、電池出力で補う必要が生じる。電池は効率がFCより高く、概略90%以上であるため、例えば電池出力3kWの際に、排熱は0.3kW以下で済むという特性がある。そのため、FCの代わりに電池からの出力で電力を供給すれば、熱の成立性の観点では有利となる。
【0021】
本開示は、上記の電源系の熱と質量の二律背反の関係を最適に調整して成立させるための手段である。上記で記載した通り、FCは排熱枠が許す範囲(FC以外の機器の排熱をラジエーターで放熱した際に、残った放熱能力)を使い切るような発電(及び排熱)を時々刻々と行うことによって、車両全体の熱を成立させることができ(例えば冷却水温度を過熱させず適切な範囲に収めることができ)、かつFCから得られるエネルギーを最大にできるため、電池出力エネルギーを最小化でき、結果的に電池の搭載量を減らすことが可能となる。これによって図2に示す通り、電池比率を極力小さく構成することで電源系質量を最小化することができる。
【0022】
図3は、FCの出力を決定するための制御方法の一例を示すフローチャートである。
まず、各機器からの排熱を全て放熱する。
その後、放熱余力をFC排熱で全て使用する様にFC出力(燃料電池からの電力出力(許容排熱量))を決定する。
すなわち、前記燃料電池からの電力出力(許容排熱量)は、各機器からの排熱を全て放熱したときの放熱余力から算出する。
【0023】
上記制御を実施する前提で、下記手順によって電池搭載量を決定することにより、電池質量、ひいては電源系質量を最小化することが可能である。
すなわち電池のエネルギー容量(電池の搭載量)は、下記工程手順により最小化して決定する。
1. ミッションで必要となるエネルギー量を決定する工程
2. 上記制御方法にてFCでまかなえるエネルギー(許容排熱量)を計算する工程
3. 前記許容排熱量に応じた前記燃料電池からの出力エネルギー(発電量)に基づいて、二次電池の搭載量を決定する(「1.の値-2.の値」を電池エネルギーとし、それが供給できる電池を搭載する)工程
【0024】
ここでミッションとは、宇宙機がその探査等の役割を果たすひとまとまりの工程のことを意味する。LCで言えば、例えば出発地点から目的地まで走行し、搭乗クルーが船外活動を行い、さらに元の出発地点まで走行して戻ってくる、等の工程を意図している。エネルギー観点では、ミッションの前(走行開始する前)の日照期間に、太陽電池パネルや水電解装置等を用いて、電池を満充電にしたり、FCの燃料(水素と酸素)を生成しガスタンクを満充填にしたりする等ができることを想定している。ミッション後には、再度同様にエネルギー補充ができると想定している。つまり本開示で意味するところのミッションで必要なエネルギーとは、上記のように、ある時のエネルギー補充から次の補充までに必要となるエネルギーのことである。このエネルギーは、事前にミッションの企画段階で、設計対象となる宇宙機について見積もることができ、それが上記の1.の工程である。また2.の工程についても、宇宙機の電力消費やそれに伴う排熱についてシミュレーション等を行うことで計算することができる。よって3.の工程によって電池の搭載量を決めることが可能となる。
すなわち、前記二次電池の搭載量は、前記ミッションで必要となるエネルギー量から前記燃料電池からの出力エネルギーを引いた値を前記二次電池からの必要エネルギーとし、当該二次電池からの必要エネルギーを満たすように決定する。
なお本開示の活用対象は、主に宇宙機、あるいはその電源系システム等である。
【0025】
上記では、FC出力を決定する方法として、時々刻々で放熱能力の残り(単位:kW)を使うとしていたが、他の実施例として、冷却水温度やその他部品の温度を参照して決定してもよい。例えば冷却水温度やその他部品の温度が閾値以下である間はFC出力を最大にし、閾値を超えたらFC出力をゼロにする等、あるいは、冷却水温度やその他部品の温度を参照してFC出力を連続的に変更するようなマップを定義して使用してもよい。
図1
図2
図3