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特開2023-177815非水系電解液、該非水系電解液を含む非水系電解液電池、及び化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177815
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】非水系電解液、該非水系電解液を含む非水系電解液電池、及び化合物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231207BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231207BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231207BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231207BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20231207BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231207BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
C07F7/12 L
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090697
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井(宇佐美) 花穂
【テーマコード(参考)】
4H049
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ10
4H049VR23
4H049VR31
4H049VS09
4H049VV13
5H029AJ03
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA08
5H050AA10
5H050AA12
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制できる非水系電解液電池を提供する。
【解決手段】電解質、非水系溶媒、及び一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水系電解液。

(一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Xはアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基を示し、Yは芳香族環を有する炭化水素基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質、非水系溶媒、及び一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】

(式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Xはアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基を示し、Yは芳香族環を有する炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記R、R及びRが水素原子であり、Xがアルキル基であり、Yがアリール基である、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
更に、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物を含む、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記カーボネート化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、請求項4に記載の非水系電解液。
【請求項6】
金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液が請求項1又は2に記載の非水系電解液である、非水系電解液電池。
【請求項7】
前記正極が正極活物質を有し、該正極活物質が下記組成式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物である、請求項6に記載の非水系電解液電池。
Li1+y (1)
(組成式(1)中、yは-0.1以上0.5以下であり、Mは、少なくともNi元素を含み、Mに含まれる全元素の含有量に対するNi元素の含有量のモル比(Ni/M)は、0.30以上1.0以下である。)
【請求項8】
前記正極活物質が下記組成式(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項7に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1 c1・・・(2)
(組成式(2)中、a1、b1及びc1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.30≦b1<1.00、0.00<c1≦0.70を満たす数値であり、b1+c1=1を満たす。MはCo、Mn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【請求項9】
下記式で表される化合物(A-1)。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液、該非水系電解液を含む非水系電解液電池、及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の小型機器用の電源や、電気自動車用等の駆動用車載電源等の広範な用途において、リチウムイオン二次電池等の非水系電解液電池が実用化されている。
非水系電解液電池の電池特性を改善する手段として、正極や負極の活物質、非水系電解液の添加剤分野において数多くの検討がなされている。
【0003】
特許文献1には、特定のビニレンカーボネート化合物と、特定のアリールシラン化合物と、リチウム塩と、溶媒及び/又は分散媒と、を含有してなる組成物を非水電解質として用いることにより、非水電解液二次電池のサイクル試験後の容量低下を改善する検討が開示されている。
特許文献2には、(I)非水有機溶媒、(II)イオン性塩である、溶質、(III)特定のシラン化合物、(IV)フルオロスルホン酸リチウム、特定のO=S-F結合を有する化合物、特定のO=P-F結合を有する化合物、特定のP(=O)F結合を有する化合物、及び特定の環状スルホン構造を有する化合物又は環状スルホン酸エステル構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、サイクル試験後の容量維持率等を改善する検討が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-220415号公報
【特許文献2】国際公開第2019/117101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気自動車の車載用電源や、スマートフォン等の携帯電話用電源等用に用いられる非水系電解液を用いるリチウムイオン二次電池は、充電状態で保管される使用方法が想定されるが、満充電状態では加速度的に電池の劣化が進行するため、高温充電保存時におけるガス発生や容量低下が大きいことは致命的な欠点となる。
特許文献1及び2に記載されるように、非水系電解液二次電池の電池特性を改善する手段として、非水系電解液にアリールシラン化合物や不飽和結合を有するシラン化合物を含有することで、サイクル試験後の容量維持率等を改善する検討がなされている。しかしながら、特許文献1及び2に記載される非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池は、高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗及び容量等の特性に、依然として改善の余地があった。
【0006】
本発明は、非水系電解液二次電池に用いることで高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制できる非水系電解液、該非水系電解液を用いた非水系電解液電池、並びに該非水系電解液に含有させる化合物を提供することを課題とする。ここで、「ガス発生量」とは、電極上で電解液成分である溶媒や添加剤が分解することによって生成するガスの量を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、非水系電解液に特定のビニル基を有するフルオロシラン化合物を含有することにより、非水系電解液電池に用いることで非水系電解液電池の高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に関する。
[1] 電解質、非水系溶媒、及び一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】

(式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Xはアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基を示し、Yは芳香族環を有する炭化水素基を示す。)
[2] 前記R、R及びRが水素原子であり、Xがアルキル基であり、Yがアリール基である、[1]に記載の非水系電解液。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
[4] 更に、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の非水系電解液。
[5] 前記カーボネート化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、[4]に記載の非水系電解液。
[6] 金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液が[1]~[5]のいずれか1つに記載の非水系電解液である、非水系電解液電池。
[7] 前記正極が正極活物質を有し、該正極活物質が下記組成式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物である、[6]に記載の非水系電解液電池。
Li1+y (1)
(組成式(1)中、yは-0.1以上0.5以下であり、Mは、少なくともNi元素を含み、Mに含まれる全元素の含有量に対するNi元素の含有量のモル比(Ni/M)は、0.30以上1.0以下である。)
[8] 前記正極活物質が下記組成式(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物である、[7]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1 c1・・・(2)
(組成式(2)中、a1、b1及びc1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.30≦b1<1.00、0.00<c1≦0.70を満たす数値であり、b1+c1=1を満たす。MはCo、Mn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[9]
下記式で表される化合物(A-1)。
【化2】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水系電解液電池に用いることで非水系電解液電池の高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制できる非水系電解液、非水系電解液電池、及び化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。本明細書において、「α~β」は、α以上、β以下の数値範囲を意味する。
【0011】
<1.非水系電解液>
本発明に係る非水系電解液は、電解質、非水系溶媒、及び一般式(1)で表される化合物を含有する。以下、各成分について説明する。
【0012】
[1-1.一般式(1)で表される化合物]
【0013】
【化3】
【0014】
一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Xはアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基を示し、Yは芳香族環を有する炭化水素基を示す。
【0015】
一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を示す。一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に好適に濃縮される観点から、R、R及びRのうち、少なくとも一つは水素原子であることが好ましく、二つ以上が水素原子であることがより好ましく、R、R及びRの全てが水素原子であることが最も好ましい。R、R及びRのうち一つがアルキル基である態様の場合、R及びRのいずれかがアルキル基であることが好ましく、Rがアルキル基であることがより好ましい。
、R及びRのうち、少なくとも一つがアルキル基である場合、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に好適に濃縮される観点から、アルキル基の炭素数は1~10であることが好ましく、1~6であることが好ましく、1~4であることが更に好ましい。
【0016】
炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、炭素数1~10の鎖状アルキル基、炭素数3~10の環状構造を有するアルキル基が挙げられる。
【0017】
炭素数1~10の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、i-プロピル基、メチルプロピル基、t-ブチル基、メチルブチル基、メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルヘプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基等が挙げられる。尚、上記において分岐の位置は問わない。
【0018】
炭素数3~10の環状構造を有するアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0019】
前記アルキル基の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子及び塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されたアルキル基としては、例えば、3-フルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0020】
上述の炭素数1~10のアルキル基の中でも、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に濃縮されやすくなる観点から、ハロゲン原子非置換の炭素数1~10の鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~6の鎖状アルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、メチルプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4の鎖状アルキル基が更に好ましく、エチル基及びメチル基がより更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0021】
Xはアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基を示す。これらの中でも、一般式(1)で表される化合物の電極活物質表面上での副反応が抑制される観点から、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アルキル基であることが更に好ましい。
上記アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、一般式(1)で表される化合物のSi原子に結合した二重結合回りの立体障害が小さくなり、一般式(1)で表される化合物の反応活性が好適に制御される観点から、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましく、1~2であることがより更に好ましく、1であることが特に好ましい。
上記アリール基の炭素数は、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に好適に濃縮される観点から、6~12であることが好ましく、6~8であることがより好ましく、6であることが特に好ましい。
【0022】
前記Xである炭素数1~10のアルキル基の具体例としては、前記R、R及びRで示す基と同様である。
【0023】
上述の炭素数1~10のアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、メチルプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4の鎖状アルキル基、3-フルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピル基、4-フルオロブチル基等の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換された炭素数1~4の鎖状アルキル基が好ましく、無置換の炭素数1~4の鎖状アルキル基がより好ましく、エチル基及びメチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0024】
前記Xであるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基等の炭素数6~12のアリール基が挙げられる。前記炭素数6~12のアリール基の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子及び塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されたアリール基としては、例えば、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0025】
上述の炭素数6~12のアリール基の中でも、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面上に好適に濃縮される観点から、フェニル基、トリル基、キシリル基等のハロゲン非置換の炭素数6~8のアリール基、及びフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基等のフッ素置換の炭素数6~8のアリール基が好ましく、フェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数6のアリール基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0026】
前記Xである炭素数1~10のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のアルキルオキシ基;アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;プロパルギルオキシ基等のアルキニルオキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロエトキシ基等の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換されたアルキルオキシ基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1~4のアルキルオキシ基又は水素原子の一部又は全てがハロゲン原子で置換された炭素数1~4のアルキルオキシ基が更に好ましく、メトキシ基、エトキシ基、及びトリフルオロエトキシ基がより更に好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0027】
上述のXの中でも、一般式(1)で表される化合物の電極活物質表面上での副反応が抑制される観点から、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。その中でも、一般式(1)で表される化合物のSi原子に結合した二重結合回りの立体障害が小さくなり、一般式(1)で表される化合物の反応活性が好適に制御される観点から、ハロゲン原子非置換の炭素数1~6のアルキル基が更に好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより更に好ましく、炭素数1~4の鎖状アルキル基がより更に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0028】
Yは、芳香族環を有する炭化水素基を示す。芳香族環を有する炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。その中でも、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害により、一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が好適に制御される観点から、アリール基であることが好ましい。
【0029】
前記芳香族環を有する炭化水素基の炭素数は、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害により、一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が好適に制御される観点から、6~12であることが好ましく、6~8であることがより好ましく、6であることが最も好ましい。
【0030】
前記Yである炭素数6~12のアリール基の具体例は、前記Xで示すものと同様である。
【0031】
前記Yである炭素数6~12のアラルキル基としては、フェニルメチル基(ベンジル基)、フェニルエチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルイソプロピル基等の炭素数7~12のアラルキル基が挙げられる。これらの中でも、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害により、一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が好適に制御される観点から、ベンジル基又はフェネチル基等の炭素数7~8のアラルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0032】
上述のYの中でも、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害により、一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が好適に制御される観点から、フェニル基、トリル基、キシリル基等のハロゲン非置換の炭素数6~8のアリール基、及びフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基等のフッ素置換の炭素数6~8のアリール基が好ましく、フェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の炭素数6のアリール基がより好ましく、フェニル基が最も好ましい。
【0033】
、R、R、X及びYの組み合わせは、
~Rが水素原子、Xがアルキル基、Yがアリール基;
~Rが水素原子、Xがアリール基、Yがアリール基;
~Rが水素原子、Xがアルコキシ基、Yがアリール基;
~Rの少なくとも一つがアルキル基、Xがアルキル基、Yがアリール基;
の組み合わせであることが好ましい。
【0034】
上記組み合せの中でも、
~Rが水素原子、Xがアルキル基、Yがアリール基;
~Rが水素原子、Xがアリール基、Yがアリール基;
~Rが水素原子、Xがアルコキシ基、Yがアリール基;
の組み合わせであることがより好ましく、
~Rが水素原子、Xがアルキル基、Yがアリール基;
~Rが水素原子、Xがアリール基、Yがアリール基;
の組み合わせであることが更に好ましく、
~Rが水素原子、Xがアルキル基、Yがアリール基;
の組み合わせであることが特に好ましい。
【0035】
一般式(1)で表される化合物として、R~Rが水素原子であり、Xがアルキル基であり、Yがアリール基である化合物(A-1)~化合物(A-24)、R~Rが水素原子であり、Xがアルコキシ基であり、Yがアリール基である化合物(B-1)~化合物(B-10)、R~Rが水素原子であり、Xがアリール基であり、Yがアリール基である化合物(C-1)~化合物(C-5)、並びに、R~Rの少なくとも一つがアルキル基であり、Xがアルキル基であり、Yがアリール基である化合物(D-1)~化合物(D-40)を以下に例示する。化合物(D-1)~化合物(D-40)中の波線は、アルキル基がR又はRのいずれか一方に結合することを示す。なお、一般式(1)で表される化合物は、以下の例示に特に制限されない。
【0036】
【化4】
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】
【0041】
上記の化合物の中でも、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に好適に濃縮される観点から、R~Rが水素原子であり、Xがアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基であり、Yがアリール基である化合物(A-1)~化合物(A-24)、化合物(B-1)~化合物(B-10)、及び、化合物(C-1)~化合物(C-5)がより好ましい。
その中でも、一般式(1)で表される化合物の電極活物質表面上での副反応が抑制される観点から、R~Rが水素原子であり、Xがアルキル基又はアリール基であり、Yがアリール基である化合物(A-1)~化合物(A-24)、及び化合物(C-1)~化合物(C-5)が更に好ましく、化合物(A-1)~化合物(A-24)が特に好ましい。
【0042】
その中でも、一般式(1)で表される化合物のSi原子に結合した二重結合回りの立体障害が小さく一般式(1)で表される化合物の反応活性が好適に制御され、かつ、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害から一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が好適に制御される観点から、R~Rが水素原子であり、Xがメチル基であり、Yがアリール基である化合物(A-1)~化合物(A-16)が最も好ましい。
【0043】
本発明の非水系電解液が、高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は高温保存後の容量低下を抑制することができるメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。
一般式(1)で表される化合物は、二重結合、及びフッ素原子がSi原子に結合した構造を分子内に有する。フッ素原子の電子求引効果により、Si原子に結合した二重結合由来の空軌道準位が低下し、一般式(1)で表される化合物の反応活性が高まる。これにより、電気化学的な分解や、電解液の分解物との反応が容易に進行し、電極表面に一般式(1)で表される化合物を含む被膜を形成する。この被膜により、高温保存中に電解液の分解によるガス発生量や、電池容量の低下が抑えられると考えられる。
【0044】
一般式(1)で表される化合物の中でも、R、R及びRが水素原子である化合物であると、一般式(1)で表される化合物が電極活物質表面に好適に濃縮されるため、一般式(1)で表される化合物を含む被膜が形成されやすくなる。R、R及びRが水素原子である化合物の中でも、Xがアルキル基であり、Yが芳香族環を有する炭化水素基である化合物であると、Si原子に結合した二重結合回りの立体障害が比較的小さく、その中でも、Xがメチル基であり、Yが芳香族環を有する炭化水素基である化合物であると、Si原子に結合した二重結合回りの立体障害が特に小さいことから、一般式(1)で表される化合物の反応活性が高まり、電極活物質表面に被膜を形成することでガス発生量の抑制に寄与すると考えられる。
、R及びRが水素原子である一般式(1)で表される化合物の中でも、Xがメチル基であり、Yが炭素数6~12のアリール基である化合物であると、一般式(1)で表される化合物の適度な立体障害から一般式(1)で表される化合物を含む被膜の密度が特に好適に制御される。
、R及びRが水素原子である一般式(1)で表される化合物の中でも、Xがメチル基であり、Yがフェニル基であるとき、一般式(1)で表される化合物が適度な反応活性を有し、かつ、形成される被膜の密度が好適に制御されるため、充電保存後のガス発生量の抑制、内部抵抗増加の抑制、又は容量低下の抑制に寄与すると考えられる。
【0045】
非水系電解液中の一般式(1)で表される化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。
非水系電解液全量に対する一般式(1)で表される化合物の含有量が、上記範囲であれば、活物質への一般式(1)で表される化合物の電極活物質表面への濃縮が好適に進行し、高温保存時のガス発生量が少ない電池の作製が可能となる。
【0046】
上記の一般式(1)で表される化合物は、公知の方法により製造することができる。
例えば、クロロシラン化合物又はアルコキシシラン化合物に、アルキルグリニャール試薬(アルキルマグネシウムハライド)、ビニルグリニャール試薬(ビニルマグネシウムハライド)、アリールグリニャール試薬(アリールマグネシウムハライド)、及びアラルキルグリニャール試薬(アラルキルマグネシウムハライド)から選ばれるいずれか1つ以上を作用させることにより、Si原子上に対応するアルキル基、ビニル基、アリール基、及び/又はアラルキル基を導入することができる。また、例えば、白金等の触媒存在下、ヒドロシラン化合物に三重結合を有する化合物を作用させることにより、Si原子の隣に二重結合を有する化合物を合成することができる。また、例えば、クロロシラン化合物又はアルコキシシラン化合物を、無水フッ化水素、フッ化水素酸水溶液、金属フッ化物、三フッ化ホウ素、又は三フッ化ホウ素錯体等で処理することで、フルオロシラン化合物を合成することができる。また、例えば、クロロシラン化合物にアルコールを作用させることにより、Si原子上に対応するアルコキシ基を導入することができる。これら反応を組み合わせることで、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。
~Rが水素原子、Xがアルキル基、Yがアリール基である一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、アルキルジクロロビニルシラン又はアルキルジアルコキシビニルシランに、1当量のアリールグリニャール試薬を作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;アルキルアリールジクロロシラン又はアルキルアリールジメトキシシランに、1当量のビニルグリニャール試薬を作用させて得られる化合物を、フッ素化する方法;等が挙げられる。
~Rが水素原子、Xがアリール基、Yがアリール基である一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、アリールジクロロビニルシラン又はアリールジアルコキシビニルシランに、1当量のアリールグリニャール試薬を作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;ジアリールジクロロシラン又はジアリールジメトキシシランに、1当量のビニルグリニャール試薬を作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;等が挙げられる。
~Rが水素原子、Xがアルコキシ基、Yがアリール基である一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、アリールジクロロビニルシランに、1当量のアルコールを作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;等が挙げられる。
~Rの少なくとも一つがアルキル基、Xがアルキル基、Yがアリール基である一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、アルキルアリールジクロロシランに1当量のアルキル基が置換したビニルグリニャール試薬を作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;アルキルアリールクロロシラン、又はアルキルアリールアルコキシシランに、白金等の触媒存在下、炭素-炭素三重結合を有する化合物を作用させて得られる化合物をフッ素化する方法;等が挙げられる。
【0047】
なお、一般式(1)で表される化合物のうち、以下の化合物(A-1)は新規化合物であり、本発明の別の実施形態である。化合物(A-1)は、非水系電解液に添加することにより、非水系電解液電池の高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制することができる。化合物(A-1)の製造方法としては特に限定されないが、例えば、実施例に記載の製造方法が挙げられる。
【0048】
【化9】
【0049】
[1-2.電解質]
非水系電解液の電解質としては、リチウム塩が好ましく挙げられる。リチウム塩としては特に制限がないが、例えば、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類、リチウムオキサラート塩類、及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる観点から、フルオロホウ酸リチウム塩としてLiBF;フルオロリン酸リチウム塩としてLiPF、LiPOF、LiPO;スルホン酸リチウム塩としてLiFSO、CHSOLi;リチウムイミド塩としてLiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩として、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO;リチウムオキサラート塩として、リチウムジフルオロオキサラートボレート、リチウムビス(オキサラート)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラートホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラート)ホスフェート等が好ましく、LiPF、LiN(FSO、リチウムビス(オキサラート)ボレート及びLiFSOから選ばれる1種以上がより好ましく、LiPFが特に好ましい。
【0051】
上記電解質は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
2種類以上の電解質の組み合わせとして特に制限はなく、LiPF及びLiN(FSOの組み合わせ、LiPF及びLiBFの組み合わせ、LiPF及びLiN(CFSOの組み合わせ、LiBF及びLiN(FSOの組み合わせ、LiBF、LiPF及びLiN(FSOの組み合わせ等が挙げられる。これらの中でも、LiPF及びLiN(FSOの組み合わせ、LiPF及びLiBFの組み合わせ、並びにLiBF、LiPF及びLiN(FSOの組み合わせが好ましい。
【0052】
電解質の総濃度は、特に制限はないが、電気伝導率が電池動作を適正にし、十分な出力特性を発揮させる観点から、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。ただし、[1-4.助剤]に該当する電解質化合物が非水系電解液に含まれる場合、助剤に該当するリチウム塩以外の電解質を必ず含有する。また、該電解質化合物の含有量が5.0質量%以下の場合、本明細書においては「助剤」に分類する。したがって、本実施形態の非水系電解液の構成成分として、「助剤に該当する化合物」が「電解質」に該当する場合であっても、「電解質」の量には、該「助剤に該当する化合物」の量は含まれない。
電解質の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0053】
[1-3.非水系溶媒]
本発明に係る非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。非水系溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネート等の飽和環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸ブチル等のカルボン酸エステル;ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、及び1,4-ジオキサン等のエーテル系化合物;2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、及びモノフルオロメチルメチルスルホン等のスルホン系化合物;等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及びカルボン酸エステルであり、より好ましくは飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネートである。
これら非水系溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
[1-4.助剤]
本発明に係る非水系電解液には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアネート基を有する化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、シアノ基を有する有機化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、環状エーテル化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸アニオン含有化合物、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、オキサラート錯体アニオン含有化合物等が例示できる。例えば、国際公開第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
これらの中でも、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物、及びオキサラート錯体アニオン含有化合物から選ばれる少なくとも1種のアニオン含有化合物(以下、「特定のアニオン含有化合物」ともいう)、及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物(以下、「特定のカーボネート化合物」ともいう)が好ましく、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素含有環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物が好ましい。
【0055】
非水系電解液が助剤を含有する場合、助剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。
【0056】
環状エーテル化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、[1-3.非水系溶媒]の欄で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。
環状エーテル化合物を助剤として用いる場合は、非水系電解液全量に対して、4質量%未満の量で用いることが好ましい。ホウ酸アニオン含有化合物、オキサラート錯体アニオン含有化合物、モノフルオロリン酸アニオン含有化合物、及びジフルオロリン酸アニオン含有化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、[1-2.電解質]の欄で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、非水系電解液全量に対して、3質量%未満で用いることが好ましい。
【0057】
[1-4-1.特定のアニオン含有化合物]
前記特定のアニオン含有化合物は、通常、酸又は塩である。前記特定のアニオン含有化合物は、塩であることが好ましく、カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンが好ましく、リチウムカチオンがより好ましい。
【0058】
P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物、S=O結合を有するアニオン含有化合物及びオキサラート錯体アニオン含有化合物から選ばれる少なくとも1種のアニオン含有化合物は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、高温保存後のガス発生量を抑制する観点から、P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物が好ましい。
【0059】
[1-4-1-1.P-F結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物]
F-P結合及びP=O結合を有するリン酸アニオン含有化合物としては、例えば、PO2-等のモノフルオロリン酸アニオン、PO 等のジフルオロリン酸アニオンを含有する化合物が挙げられる。
これらの中では、電池の出力特性と電極界面保護のバランスの観点から、ジフルオロリン酸アニオンを含有する化合物が好ましい。
【0060】
[1-4-1-2.S=O結合を有するアニオン含有化合物]
S=O結合を有するアニオン含有化合物としては、例えば、FSO 、等のフルオロスルホン酸アニオン;(FSO、(FSO)(CFSO)N、等のフルオロスルホニルイミドアニオン;(FSO等のフルオロスルホニルメチドアニオンを含有する化合物;CHSO 等のアルキル硫酸アニオン等を含有する化合物が挙げられる。
これらの中では、電池の出力特性と電極界面保護のバランスの観点から、フルオロスルホン酸アニオン又はフルオロスルホニルイミドアニオンを含有する化合物が好ましく、フルオロスルホン酸アニオンを含有する化合物がより好ましい。
【0061】
[1-4-1-3.オキサラート錯体アニオン含有化合物]
オキサラート錯体アニオン含有化合物は、分子内にオキサラート錯体を有するアニオンを含有する化合物であれば特に制限されない。オキサラート錯体アニオン含有化合物とは、中心原子にシュウ酸が配位又は結合することにより錯体を形成している酸のアニオンを含有する化合物であり、例えば、ホウ素原子にシュウ酸が配位又は結合したホウ素オキサラート錯体アニオン、リン原子にシュウ酸が配位又は結合したリンオキサラート錯体アニオンを含有する化合物が挙げられる。
ホウ素オキサラート錯体アニオンとしては、ビス(オキサラート)ボレートアニオン、ジフルオロオキサラートボレートアニオン等が挙げられ、リンオキサラート錯体アニオンとしては、テトラフルオロオキサラートホスフェートアニオン、ジフルオロビス(オキサラート)ホスフェートアニオン、トリス(オキサラート)ホスフェートアニオン等が挙げられる。
これらの中では、電極の表面に安定な複合被膜を形成させる観点から、ホウ素オキサラート錯体アニオンを含有する化合物が好ましく、ビス(オキサラート)ボレートアニオンを含有する化合物がより好ましい。
【0062】
(特定のアニオン含有化合物の含有量)
非水系電解液が、特定のアニオン含有化合物を含有する場合、非水系電解液全量中の、特定のアニオン含有化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
特定のアニオン含有化合物の含有量が上記範囲内であれば、電池特性、特に高温保存後のDCR維持率を著しく向上し、高温保存後のガス発生量を著しく抑制することができる。この理由は定かではないが、特定のアニオン含有化合物の含有量が上記質量比の範囲内で、電極表面上での非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
特定のアニオン含有化合物の同定及び含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0063】
(一般式(1)で表される化合物に対する特定のアニオン含有化合物の質量比)
非水系電解液が特定のアニオン含有化合物を含有する場合において、一般式(1)で表される化合物の含有量に対する特定のアニオン含有化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量との質量比(特定のアニオン含有化合物[g]/一般式(1)で表される化合物[g])は、通常0.01以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.3以上であり、また、通常100以下であり、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。
前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に高温保存後のDCR維持率を著しく向上し、高温保存後のガス発生量を著しく抑制することができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、一般式(1)で表される化合物及び特定のアニオン含有化合物を含有することで、電極表面上での非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0064】
(電解質に対する特定のアニオン含有化合物の質量比)
非水系電解液が特定のアニオン含有化合物を含有する場合において、電解質の含有量に対する特定のアニオン含有化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量の質量比(特定のアニオン含有化合物[g]/電解質[g])は、通常0.00005以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.025以上であり、また、通常0.5以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.35以下である。
前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に高温保存後のDCR維持率を著しく向上し、高温保存後のガス発生量を著しく抑制することができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、特定のアニオン含有化合物及び電解質を含有することで、電池系内での電解質の副反応が最小限に抑えられるためと考えられる。
【0065】
[1-4-2.特定のカーボネート化合物]
非水系電解液は、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素原子を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のカーボネート化合物を含むことが好ましい。これらの中でも、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートを含むことが好ましく、ビニレンカーボネートを含むことがより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができ、不飽和環状カーボネート及びフッ素化環状カーボネートを組み合わせることが好ましく、ビニレンカーボネート及びフッ素化環状カーボネートを組み合わせること並びに不飽和環状カーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネートを組み合わせることがより好ましく、ビニレンカーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネートを組み合わせることが更に好ましい。
【0066】
(特定のカーボネート化合物の含有量)
非水系電解液が特定のカーボネート化合物を含有する場合、非水系電解液全量中の、特定のカーボネート化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
特定のカーボネート化合物の含有量が上記範囲内であれば、電池特性、特に耐久性を向上させることができる。この理由は定かではないが、この比率でカーボネート化合物を含有することで、電極上で被膜を形成し、非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
特定のカーボネート化合物の同定及び含有量測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0067】
(一般式(1)で表される化合物に対する特定のカーボネート化合物の質量比)
非水系電解液が特定のカーボネート化合物を含有する場合において、一般式(1)で表される化合物の含有量に対する特定のカーボネート化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量との質量比(特定のカーボネート化合物[g]/一般式(1)で表される化合物[g])は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、また、通常100以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは5以下である。前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に耐久性を向上させることができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、特定のカーボネート化合物を含有することで、電極上で被膜を形成し、非水系電解液の成分の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0068】
(電解質に対する特定のカーボネート化合物の質量比)
非水系電解液が特定のカーボネート化合物を含有する場合において、電解質の含有量に対する特定のカーボネート化合物(2種以上の場合は合計量)の含有量の質量比(特定のカーボネート化合物[g]/電解質[g])は、通常0.00005以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.025以上であり、また、通常0.5以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.35以下である。前記質量比が上記範囲内であれば、電池特性、特に耐久性を向上させることができる。この理由は定かではないが、上記質量比の範囲内で、カーボネート化合物及び電解質を含有することで、電極上に被膜を形成し、電池系内での電解質の副反応が最小限に抑えられるためと考えられる。
【0069】
[1-4-2-1.炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート]
炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」ともいう)としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はない。芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0070】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。これらの中でもビニレンカーボネート類、芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類が好ましい。
【0071】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、4-フェニル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートは更に安定な複合被膜を電極上に形成するので好ましく、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートから選ばれる1種以上がより好ましく、ビニレンカーボネートが更に好ましい。
不飽和環状カーボネートは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0072】
[1-4-2-2.フッ素原子を有する環状カーボネート]
フッ素原子を有する環状カーボネートは、環状のカーボネート構造を有し、かつフッ素原子を含有するものであれば特に制限されない。
フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、炭素数2以上6以下のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物(フルオロエチレンカーボネート)及びその誘導体、並びに含フッ素基を有するエチレンカーボネートが挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、アルキル基(例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子数1以上8以下のフルオロエチレンカーボネート、及びその誘導体が好ましい。
【0073】
フッ素原子数1以上8以下のフルオロエチレンカーボネート及びその誘導体、並びに含フッ素基を有するエチレンカーボネートとしては、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、電解液に高イオン伝導性を与え、かつ安定な界面保護被膜を形成し易くする観点から、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートから選ばれる1種以上が好ましく、モノフルオロエチレンカーボネートがより好ましい。
フッ素原子を有する環状カーボネートは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0074】
<2.非水系電解液電池>
本発明の非水系電解液電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極並びに負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、非水系電解液二次電池であることが好ましい。上記の非水系電解液を除く構成について、リチウムイオン二次電池を例に以下に説明する。
【0075】
[2-1.正極]
正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を、集電体表面の少なくとも一部に有する。正極活物質はリチウム遷移金属系化合物を含む。
[2-1-1.正極活物質]
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属酸化物)について述べる。
【0076】
[2-1-1-1.リチウム遷移金属酸化物]
リチウム遷移金属酸化物は、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、下記組成式(1)で表される。
Li1+y (1)
組成式(1)中、yは-0.1以上0.5以下であり、Mは、少なくともNi元素を含み、Mに含まれる全元素の含有量に対するNi元素の含有量のモル比(Ni/M)は、0.30以上であり、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.5以上であり、また、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.90以下である。モル比(Ni/M)がこの範囲であれば、一般式(1)で表される化合物が正極上で被膜を形成しやすくなり、正極と非水系電解液の副反応を抑制することで、非水系電解液電池の高温保存後のガス発生量を抑制することができる。
【0077】
組成式(1)で表されるリチウム遷移金属酸化物の具体例としては、LiNiO、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.3Co0.3Mn0.3、Li1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.91Co0.06Mn0.03、LiNi0.91Co0.06Al0.03、LiNi0.90Co0.03Al0.07、Li1.00Ni0.61Co0.20Mn0.19等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、電池容量を向上させる観点から、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
Lia1Nib1 c1 (2)
組成式(2)中、Mは、Co、Mn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a1、b1及びc1は、それぞれ0.90≦a1≦1.10、0.30≦b11<1.00、0.00<c1≦0.70であり、b1+c1=1である。
組成式(2)中、b1は0.40以上1.00未満が好ましく、0.45以上1.00未満がより好ましく、0.50以上1.00未満が更に好ましい。
【0079】
特に、リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性の観点から、下記組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2 d2 (3)
組成式(3)中、Mは、Mn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a2、b2、c2及びd2は、それぞれ0.90≦a2≦1.10、0.30≦b2≦0.98、0.01≦c2≦0.70、及び0.01≦d2≦0.60であり、b2+c2+d2=1である。
上記組成式(3)中、b2は0.40以上が好ましく、0.45以上がより好ましく、0.50以上が更に好ましい。また、d2は0.01以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。
上記組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の好適例としては、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.3Co0.3Mn0.3、Li1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.91Co0.06Mn0.03、LiNi0.91Co0.06Al0.03、LiNi0.90Co0.03Al0.07、Li1.00Ni0.61Co0.20Mn0.19等が挙げられる。
上記組成式(1)又は(2)中、リチウム遷移金属酸化物の構造安定性を高め、繰り返し充放電した際の構造劣化を抑制する観点から、M又はMは、Mn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましい。
上記組成式(3)中、リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性を高め、繰り返し充放電した際の構造劣化を抑制する観点から、Mは、Mn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましい。
正極活物質の同定及び含有量測定は、試料を湿式分解した後、ICP発光分光法により行う。
【0080】
[2-1-1-2.異元素導入]
リチウム遷移金属酸化物は、上記組成式(1)~(3)のいずれかに含まれる元素以外の元素(異元素)を含有していてもよい。
【0081】
[2-1-1-3.表面被覆]
正極としては、上記正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。
表面付着物質としては、酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量は、前記正極活物質に対して、1μmol/g以上が好ましく、10μmol/g以上がより好ましく、また、通常1mmol/g以下が好ましい。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0082】
[2-1-1-4.ブレンド]
正極活物質は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0083】
[2-1-2.正極の構成と製造方法]
前記正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0084】
[2-1-2-1.正極活物質の含有量]
正極活物質層中の正極活物質の含有量は、通常80質量%以上99.5質量%以下である。
【0085】
[2-1-2-2.電極密度]
結着剤、導電材等を塗布、乾燥することにより得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。集電体上に存在している正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm以上4.5g/cm以下である。
【0086】
[2-1-2-3.結着剤]
結着剤としては、塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されない。例えば、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー等が好ましい。
また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体等も使用できる。なお、結着剤は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を損なわない限り任意であり、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の含有量は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0087】
[2-1-2-4.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。その具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素系材料;等が挙げられる。導電材は、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0088】
[2-1-2-5.集電体]
正極集電体の材質は特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられ、アルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらの中では、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上1mm以下である。
【0089】
[2-1-2-6.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上500μm以下である。
【0090】
[2-1-2-7.正極板の表面被覆]
上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0091】
[2-2.負極]
負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
[2-2-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、(i)炭素系材料、(ii)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料、(iii)リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、サイクル特性及び安全性が良好で更に連続充電特性も優れている点で、(i)炭素系材料、(ii)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料、及び(iv)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛との混合物を使用するのが好ましい。
これらは1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0092】
[2-2-1-1.炭素系材料]
(i)炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、天然黒鉛が好ましい。炭素系材料は1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状又は楕円体状の黒鉛粒子が好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上100μm以下である。
【0093】
[2-2-1-2.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことがより好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素系材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素系材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上1.5以下である。
また、炭素系材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素系材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g-1以上100m・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素系材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
性質の異なる炭素系材料を2種以上含有する例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有していること、及びX線回折パラメータが異なること等の例が挙げられる。
【0094】
[2-2-1-3.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料]
(ii)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる金属又は半金属であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が金属を2種類以上含有する場合、当該材料は、これらの金属の合金からなる合金材料であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料としては、金属及び/又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。該材料は、Liと合金化可能な金属を2種以上含有していてもよい。これらの中でも、Si元素を含む材料が好ましく、金属Si(以下、「Si」ともいう)又はSi含有無機化合物が高容量化の点でより好ましい。本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称して「Si化合物」という。
負極活物質の全質量に対する、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料の含有量が、0.1~25質量%であることが好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよく、該材料としては、Si化合物が高容量化の点で好ましい。
【0095】
Si化合物としては、SiO(0≦x≦2)等が挙げられる。
Liと合金化された金属化合物としては、LiSi(0<y≦4.4)、Li2zSiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。Si化合物としては、Si酸化物(SiOx1、0<x1≦2)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、また、非晶質Si又はナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が粒子状である場合、該粒子の平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上10μm以下である。
【0096】
[2-2-1-4.リチウム含有金属複合酸化物材料]
(iii)リチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されない。具体的には、高電流密度充放電特性の観点から、チタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」ともいう)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので更に好ましい。
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3、LiTi及びLi4/5Ti11/5が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3も好ましい。
【0097】
[2-2-1-5.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛との混合物]
(iv)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛との混合物は、前記の(ii)Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料と黒鉛の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含む材料の含有割合は、通常1質量%以上99質量%以下である。
負極活物質の同定及び含有量測定は、試料をアルカリ融解した後、ICP発光分光法により行う。
【0098】
[2-2-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0099】
[2-2-2-1.負極活物質の含有量]
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、通常80質量%以上99.5質量%以下である。
【0100】
[2-2-2-2.電極密度]
結着剤、増粘剤等を塗布、乾燥することにより得られた負極活物質層は、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g/cm以上2.2g/cm以下である。
【0101】
[2-2-2-3.結着剤]
結着剤としては、非水系電解液や電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であればよく、特に制限されない。
その具体例としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
負極活物質に対する結着剤の含有量は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の含有量は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する結着剤の含有量は、通常1質量%以上15質量%以下である。
【0102】
[2-2-2-4.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース及びその塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の含有量は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0103】
[2-2-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
負極の集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらの中では、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上1mm以下である。
【0104】
[2-2-2-6.負極板の厚さ]
負極(負極板)の厚さは、用いられる正極(正極板)に合わせて設計され、特に制限されないが、負極材の厚さから集電体厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは、通常15μm以上300μm以下である。
【0105】
[2-2-2-7.負極板の表面被覆]
負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0106】
[2-3.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0107】
[2-4.電池設計]
[2-4-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める比率(電極群占有率)は、通常40%以上90%以下である。
【0108】
[2-4-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減する構造も好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0109】
[2-4-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0110】
[2-4-4.外装体]
非水系電解液電池は、通常、本発明に係る非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限はなく、本発明の効果を損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であればよく、特に限定されないが、軽量化及びコストの観点から、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金の金属又はラミネートフィルムが好適に用いられる。特に、電流遮断弁を作動させるための耐圧性の観点から、鉄が好ましい。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0111】
[2-4-5.形状]
非水系電解液電池の外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0112】
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
本実施例及び比較例に使用した化合物を以下に示す。
化合物1:フルオロ-メチル-フェニル-ビニルシラン〔化合物(A-1)〕
化合物2:トリメチルフェニルシラン〔比較化合物〕
化合物3:ジメチルフェニルビニルシラン〔比較化合物〕
なお、化合物1は、下記の合成例1によって得られたものを使用した。化合物2及び化合物3は東京化成工業株式会社製試薬を使用した。
【0113】
<合成例>
以下の合成例における各種分析方法は以下のとおりである。
【0114】
[核磁気共鳴(NMR)分析]
H、19F-NMRは、Bruker社製、商品名:400 Ultrashieldを用いて、それぞれ400、376MHzにて測定した。サンプルを重クロロホルム(CDCl)に溶解させ、測定した。
【0115】
[ガスクロマトグラフィ(GC)分析]
サンプル100μLを1mLのジエチルエーテルに溶解させた。得られた溶液をGC分析装置(株式会社島津製作所製、商品名:GC-2010)を用いて、以下の条件で分析した。
・カラム: DB-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー社製)
・検出器:FID
・温度:40℃→280℃、10℃/minで昇温した。
・純度は、ピークの面積%から求めた。
【0116】
合成例1〔化合物1(フルオロ-メチル-フェニル-ビニルシラン)の合成〕
反応器に、フッ化カリウム(3.82g,65.7mmol)、アセトニトリル(20ml)を仕込み、氷冷下攪拌しながら、クロロ-メチル-フェニル-ビニルシラン(5.83mL,32.8mmol)を滴下し、2.5時間加熱還流した。18-crown-6(0.608g,2.30mmol)を加え、更に2時間加熱還流した。溶媒留去後、蒸留精製することで、フルオロ-メチル-フェニル-ビニルシラン(2.66g,16.0mmol)を取得した。GC分析により算出した純度は99%であった。H-NMR、19F-NMRの分析結果は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=7.62-7.59(m,2H),7.47-7.38(m,3H),6.34-6.18(m,2H),5.98-5.92(m,1H),0.58-0.54(m,3H)
19F-NMR(376MHz,CDCl):δ=-166.2
【0117】
<実施例1-1>
[正極の作製]
正極活物質としてリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(Li1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3)90質量部と、導電材としてアセチレンブラック7質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0118】
[負極の作製]
天然黒鉛98質量部に、増粘剤及び結着剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布して乾燥した後、プレスして負極とした。
【0119】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比EC:DMC:EMC=3:4:3)に、電解質として十分に乾燥させたLiPFを1.0mol/L(12.2質量%;非水系電解液中の濃度として)溶解させることで、基準電解液を調製した。基準電解液に、下記表1に記載の含有量で化合物1を、及び助剤としてのビニレンカーボネート(VC)を含有量が2質量部となるように加えて非水系電解液を調製した。なお、化合物1及びVCの含有量は、基準電解液を100質量部に対する含有量である。
【0120】
[非水系電解液電池の製造]
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子が突設するように挿入した後、上記調製後の非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、ラミネート型の非水系電解液電池を作製した。
【0121】
<非水系電解液電池の評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、上記の方法で作製した非水系電解液電池を、0.025C(1Cとは、充電又は放電に1時間かかる電流値のことを示す。以下同様。)に相当する電流で3.60Vまで定電流充電した後、0.17Cで4.20Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC-CV充電と記載)を行った後、0.17Cで2.50Vまで放電した。続いて0.17Cで4.10VまでCC-CV充電を行った。その後、60℃に24時間保持しエージングを実施した。その後、非水系電解液電池を十分に冷却した後、0.17Cで2.50Vまで放電し、さらに0.17Cで4.20VまでCC-CV充電を行った後、0.17Cで2.50Vまで放電し、0.17Cで3.72Vまで充電し、非水系電解液電池を安定化されることで、初期コンディショニングを完了した。初期コンディショニング前と初期コンディショニング後においてエタノール浴中に非水系電解液電池を浸して体積を測定し、体積変化から発生ガス量を求め、これを「初期ガス量」とした。
【0122】
[充電保存試験]
初期コンディショニング後の非水系電解液電池を、0.17Cで4.30VまでCC-CV充電を行った後、60℃、2週間の条件で高温保存を行った。その後、非水系電解液電池を十分に冷却させた後、0.17Cで2.50Vまで放電した。さらに0.17Cで4.20VまでCC-CV充電を行った後、0.17Cで2.50Vまで放電し、0.17Cで3.72Vまで充電することで非水系電解液電池を安定化させた。初期コンディショニング前と保存試験後においてエタノール浴中に非水系電解液電池を浸して体積を測定し体積変化から発生ガス量を求め、これを「保存後ガス量」とした。
下記表1に、比較例1-1の初期ガス量及び保存後ガス量をそれぞれ100とした際の、初期ガス量及び保存後ガス量の相対値を示す。
【0123】
<比較例1-1~1-3>
実施例1-1において、基準電解液に化合物1を加えない、又は化合物1に代えて化合物2若しくは3を加えた他は同様にして、非水系電解液電池を作製し、実施例1-1と同様にして非水系電解液電池の評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、一般式(1)で表される化合物を含有する実施例1-1は、一般式(1)で表される化合物を含有しない比較例1-1、1-2、1-3と比較して、初期ガス量を抑制し、高温充電保存後のガス発生量を抑制することがわかる。
【0126】
<実施例2-1>
[正極の作製]
実施例1-1と同様に正極を作成した。
【0127】
[負極の作製]
実施例1-1と同様に正極を作成した。
【0128】
[非水系電解液の調製]
実施例1-1と同様に調製した基準電解液に、下記表2に記載の含有量で化合物1を、助剤としてのビニレンカーボネート(VC)及びモノフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含有量がそれぞれ2質量部となるように加えて非水系電解液を調製した。なお、化合物1、VC、及びFECの含有量は、基準電解液を100質量部に対する含有量である。
【0129】
[非水系電解液電池の製造]
上記の正極、負極、及び非水系電解液を用いて、実施例1-1と同様にラミネート型の非水系電解液電池を作製した。
【0130】
<非水系電解液電池の評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、上記の方法で作製した非水系電解液電池を、0.025Cに相当する電流で3.60Vまで定電流充電した後、0.17Cで4.20VまでCC-CV充電を行った後、0.17Cで2.50Vまで放電した。続いて0.17Cで4.10VまでCC-CV充電を行った。その後、60℃に24時間保持しエージングを実施した。その後、非水系電解液電池を十分に冷却した後、0.17Cで2.50Vまで放電し、さらに0.17Cで4.20VまでCC-CV充電を行った後、0.17Cで2.50Vまで放電した。さらに、0.17Cで3.72Vまで充電することで電池を安定化させることで初期コンディショニングを完了した。25℃において各々0.3C、0.6C、0.9C、1.2C、1.5Cで2秒間放電させた。得られた0.3C、0.6C、0.9C、1.2C、1.5Cにおける電流-電圧直線の傾きの平均値を電池内部抵抗とし、「初期内部抵抗」とした。初期コンディショニング前と初期コンディショニング後においてエタノール浴中に非水系電解液電池を浸して体積を測定し、体積変化から発生ガス量を求め、これを「初期ガス量」とした。
【0131】
[充電保存試験]
初期コンディショニング後の非水系電解液電池を、0.17Cで4.30VまでCC-CV充電を行った後、60℃、2週間の条件で高温保存を行った。その後、非水系電解液電池を十分に冷却させた後、0.17Cで2.50Vまで放電した際の放電容量を「保存後残存容量」とした。更に、0.17Cで4.20VまでCC-CV充電を行い、0.17Cで2.50Vまで放電した。0.17Cで3.72Vまで充電することで非水系電解液電池を安定化させた後、初期コンディショニングと同様にして電池内部抵抗を求め、「保存後内部抵抗」とした。保存後内部抵抗と初期内部抵抗の比率から、「保存後抵抗増加率」を算出した。上記安定化させた非水電解液電池をエタノール浴中に浸して体積を測定し、初期コンディショニング前と保存試験後の体積変化から発生ガス量を求め、これを「保存後ガス量」とした。
下記表2に、比較例2-1の初期ガス量、保存後ガス量、保存後抵抗増加率、及び保存後残存容量をそれぞれ100とした際の初期ガス量、保存後ガス量、保存後抵抗増加率、及び保存後残存容量の相対値を示す。
【0132】
<比較例2-1~2-3>
実施例2-1において、基準電解液に化合物1を加えない、又は化合物1に代えて化合物2若しくは3を加えた他は同様にして、非水系電解液電池を作製し、実施例2-1と同様にして非水系電解液電池の評価を行った。結果を表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2より、一般式(1)で表される化合物を含有する実施例2-1は、一般式(1)で表される化合物を含有しない比較例2-1~2-3と比較して、初期ガス量を抑制し、高温充電保存後のガス発生量、内部抵抗増加率、及び容量低下を抑制し、総合的な特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の非水系電解液は、電解液調製時及び保管時に非水系電解液の品質を一定に保つことができ、非水系電解液電池に用いることで、非水系電解液電池の高温充電保存時のガス発生量、内部抵抗増加、又は容量低下を抑制できる。従って、本発明の非水系電解液電池は、従来、非水系電解液電池が用いられている電子機器等のあらゆる分野において好適に利用できる。
また、本発明の非水系電解液電池は、公知の各種用途に用いることが可能である。用途の具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、携帯オーディオプレーヤー、小型ビデオカメラ、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。