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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177824
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】伸縮性繊維シート
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4391 20120101AFI20231207BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231207BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20231207BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20231207BHJP
   D04H 1/555 20120101ALI20231207BHJP
【FI】
D04H1/4391
A61K9/70
A61L15/22 100
D04H1/541
D04H1/555
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090718
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花岡 博克
(72)【発明者】
【氏名】小路 喜朗
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4L047
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA77
4C076BB31
4C076EE24A
4C081AA02
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA161
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB02
4L047AB09
4L047BA08
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】伸縮性を有すると共に剛性に優れることで、様々な産業用途へ使用し易い、伸縮性繊維シートの提供を課題とする。
【解決手段】捲縮繊維を含む繊維層11を備えた伸縮性繊維シート100であって、前記繊維層は主面上に繊維固定部分12を複数備えている伸縮性繊維シートにおいて、
・伸縮性繊維シートを構成する繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の繊維固定部分と交点を有する、
・前記主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下である、
という両構成を満足する伸縮性繊維シートである。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲縮繊維を含む繊維層を備えた、伸縮性繊維シートであって、
前記繊維層は主面上に繊維固定部分を複数備えており、
前記主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の前記繊維固定部分と交点を有するものであり、
前記主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下である、
伸縮性繊維シート。
【請求項2】
前記の各繊維固定部分の形状が同一である、請求項1に記載の伸縮性繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、身体への追従性を向上させる目的で伸縮性を有する繊維シート(以降、伸縮性繊維シート)が活用されている。例えば、おむつのウエスト周りや足の付根周り、サポーターや包帯、貼付薬用基材やプラスター基材、フェイシャルマスクといったメディカル用品や衛生用品などの様々な産業用途に、伸縮性繊維シートが使用されている。
【0003】
このような伸縮性繊維シートとして、例えば、特開2021-094072(特許文献1)には、図1に図示するように、一方向(A)と垂直を成す方向(B)に前記繊維層を通過し連続的に存在する、繊維固定部分(2)を複数備えた伸縮性繊維シート(10)が開示されている。なお、特許文献1にかかる発明は、隣り合う前記繊維固定部分(2)間の最短距離の長さ(C)を、前記捲縮繊維のみかけ繊維長以下としたことで、前記一方向(A)の引張強さに優れた伸縮性繊維シート(10)を提供したことを特徴としている。
【0004】
また、特開昭59-137552(特許文献2)には、構成繊維に捲縮繊維を含んだ繊維混合体からなるウェブを、エンボスロールで加熱圧着してなる強力が高い不織布が開示されている。そして、特許文献2には、エンボスロールにより捲縮繊維を含むウェブの構成繊維が加熱圧着されるパターンとして、図2に図示するエンボスパターンを採用したことが開示されている。なお、特許文献2は、エンボス同士の間隔について検討した発明ではなく、当該エンボス間の長さ(距離)について開示または示唆は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-094072
【特許文献2】特開昭59-137552
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願出願人が検討を続けた結果、特許文献1や特許文献2などに開示されているような従来技術にかかる伸縮性繊維シートは、例えばMD方向やCD方向の引っ張り強さ、20%伸張時強さが低い、50%伸張時強さが低いなど、なおも剛性に劣ることがあり、様々な産業用途へ使用し難いことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「(請求項1)捲縮繊維を含む繊維層を備えた、伸縮性繊維シートであって、
前記繊維層は主面上に繊維固定部分を複数備えており、
前記主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の前記繊維固定部分と交点を有するものであり、
前記主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下である、
伸縮性繊維シート。
(請求項2)前記の各繊維固定部分の形状が同一である、請求項1に記載の伸縮性繊維シート。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人が検討を続けた結果、「捲縮繊維を含む繊維層を備えた、伸縮性繊維シートであって、前記繊維層は主面上に繊維固定部分を複数備えて」いる伸縮性繊維シートにおいて、
・伸縮性繊維シートを構成する繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の繊維固定部分と交点を有する、
・前記主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下である、
という両構成を満足する伸縮性繊維シートは、剛性に優れていることを見出した。
【0009】
この理由は完全に明らかにできていないが、以下の理由が考えられる。
1.伸縮性繊維シートを構成する繊維層の主面上において、繊維固定部分の存在していない部分は構成繊維同士が一体化している繊維固定部分と異なり、伸縮性繊維シートが伸張された際(張力を受けた際)に構成繊維同士の絡み合いが解かれ易く、剛性に劣る部分である。
そのため、主面上に繊維固定部分と交点を有することなく前記主面上を通過する直線を引ける伸縮性繊維シートは、前記主面上を通過し直線状に構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有すると考えられる。
【0010】
具体的には、特許文献1に開示されている伸縮性繊維シートでは、前述した一方向と垂直を成す方向に、主面上を通過する直線を作図した際に、複数の繊維固定部分と交点を有していない直線を作図できるものである。そのため、特許文献1に開示されている伸縮性繊維シートは、前記直線状に構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有すると考えられる。
【0011】
2.主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、繊維層に含まれている捲縮繊維のみかけ繊維長よりも長い部分には、理論上、隣り合う前記繊維固定部分同士をつなぐ捲縮繊維が存在しない。
そのため、主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長よりも長い伸縮性繊維シートは、隣り合う前記繊維固定部分間に、構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有すると考えられる。
【0012】
具体的には、特許文献2にかかる発明は、ウェブの主面上に存在する隣り合うエンボス間の長さ(距離)を検討したものではない。そのため、当該長さ(距離)がウェブを構成する捲縮繊維のみかけ繊維長よりも長い場合には、隣り合うエンボス間に、構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有すると考えられる。
【0013】
以上から、前述した1.および2.の構成を有する伸縮性繊維シートは、前記主面上を通過し直線状に構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有するため、MD方向やCD方向の剛性に劣る伸縮性繊維シートであると考えられる。
【0014】
それに対し、本発明にかかる構成を有する伸縮性繊維シートは、
3.伸縮性繊維シートを構成する繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は前記複数の繊維固定部分と交点を有する。そのため、前記主面上を通過し直線状に構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有するものではない。
また、
4.前記主面上に存在する隣り合う前記繊維固定部分間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下であるため、理論上、隣り合う前記繊維固定部分同士をつなぐ捲縮繊維が存在する。そのため、隣り合う前記繊維固定部分間は、構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分となるのが防止されている。
【0015】
以上から、前述した3.および4.の構成を有する本願発明にかかる伸縮性繊維シートは、MD方向やCD方向の剛性に優れていると考えられる。
【0016】
更に、本願発明にかかる伸縮性繊維シートにおいて、複数の繊維固定部分の形状が同一である場合には、伸縮性繊維シートの物性が全体的に均一化する。
【0017】
そのため、本願発明にかかる伸縮性繊維シートは、更に剛性に優れていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】特許文献1が開示する伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
図2】特許文献2が開示する伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
図3】比較例1で調製した伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
図4】比較例2で調製した伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
図5】比較例3で調製した伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
図6】実施例1で調製した伸縮性繊維シートを主面側からみた、模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。また、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、前記値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
【0020】
そして、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
本発明の伸縮性繊維シートについて、主として図6を用いて説明する。
【0021】
本発明の伸縮性繊維シート(100)は、捲縮繊維を含む繊維層(11)と、前記繊維層(11)の主面上に、構成繊維同士を固定している繊維固定部分(12)を複数備えている。
前記繊維層(11)は主として、伸縮性繊維シート(100)の形状を保つ役割ならびに伸縮性繊維シート(100)に伸縮性を与える役割を担う。
【0022】
繊維層(11)は構成繊維として捲縮繊維を含んでいる。ここでいう捲縮繊維とは、例えば、クリンプを有する繊維や潜在捲縮繊維の捲縮が発現してなる繊維(例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの複合繊維などの捲縮が発現してなる繊維)であり、繊維層(11)は捲縮繊維を含んでいることによって伸縮性に富むものである。繊維層(11)の構成繊維の質量に占める捲縮繊維の質量の百分率は適宜調整するものであるが、より伸縮性に富む伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、30質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのが好ましく、繊維層(11)の構成繊維が捲縮繊維のみであるのがより好ましい。
【0023】
繊維層(11)は上述した捲縮繊維以外にも、単繊維や接着繊維(全溶融型の接着繊維や、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの一部溶融型の接着繊維)など、他の繊維を含有していても良い。これらの捲縮繊維以外の繊維は、捲縮繊維と同様の樹脂で構成でき、繊維長や繊度も捲縮繊維と同様の構成とすることができる。
【0024】
繊維層(11)の構成繊維をなすポリマーは適宜選択でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポ捲縮繊維を構成する繊維を構成するポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知のポリマーを採用できる。
【0025】
なお、これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。更には、複数のポリマーを備えていても良く、複数のポリマーを混ぜ合わせた混合ポリマーを備えていてもよい。
【0026】
詳細は後述するが、これら例示したポリマーのうち、繊維層(11)の構成繊維同士が熱融着してなる繊維固定部分(12)を容易に形成できるように、繊維層(11)の構成繊維はポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂で構成されているのが好ましい。加えて、薬剤を吸着し難いという特徴を有していることからポリプロピレン系樹脂あるいはポリエステル系樹脂のみ(より好ましくはポリエステル系樹脂のみ)で構成された繊維を構成繊維としてなる繊維層(11)を備えた伸縮性繊維シート(100)であるのがより好ましい。
【0027】
繊維層(11)の構成繊維は、略円形や楕円形状の断面形状を有している以外にも、異形断面を有していてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を例示できる。
【0028】
繊維層(11)の構成繊維の繊維長は適宜選択でき、特定長にカットされた短繊維や長繊維、連続繊維(直接紡糸法を用いて調製された特定長にカットされていない繊維など)であることができるが、伸縮性に優れた伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、特定長にカットされた繊維であるのが好ましい。繊維長は5~150mmであることができ、10~100mmであることができ、30~90mmであることができ、40~80mmであることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c 直接法(C法)に則って測定された繊維長をいう。
【0029】
繊維層(11)の構成繊維の繊度も適宜選択でき、伸縮性に優れた伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、例えば0.01~100dtexであることができ、0.1~50dtexであることができ、0.5~30dtexであることができ、1~10dtexであることができる。
【0030】
繊維層(11)は、繊維ウェブや不織布などの布帛由来の層であることができる。繊維層(11)を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0031】
前記布帛が不織布である場合、不織布を製造可能な繊維ウェブの調製方法として、例えば、乾式法、湿式法などを用いることができる。そして、繊維ウエブを構成する繊維同士を絡合および/または一体化して不織布にする方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維同士をバインダで一体化する方法、あるいは、繊維ウエブが熱可塑性樹脂を含んでいる場合には、繊維ウエブを加熱処理することで前記熱可塑性樹脂を溶融して、繊維同士を一体化する方法を挙げることができる。繊維同士を一体化するバインダとして、上述したポリマーなどから選択し採用できる。繊維ウエブを加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。
【0032】
繊維層(11)は構成繊維同士を接着一体化する、および/または、構成繊維に後述する機能性成分を担持するため、バインダを備えていてもよい。しかし、薬剤と意図しない反応が発生するのを防止できることや、肌への刺激を低減できること、より伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供できることから、構成繊維以外にバインダが存在していないのが好ましく、その観点から繊維層(11)は、構成繊維同士がニードルや水流によって絡合して一体化した不織布であるのが好ましい。
【0033】
なお、繊維層(11)は機能性成分を含んでいてもよい。機能性成分の種類は求められる機能によって適宜選択できるため、限定されるものではないが、例えば、抗菌剤や殺菌剤、抗ウイルス剤、抗カビ剤、触媒(例えば、酸化チタンや二酸化マンガンあるいは白金担持アルミナなど)、調湿剤(例えば、シリカゲルやシリカマイクロカプセルなど)、活性炭やカーボンブラックなどの脱臭剤、顔料、芳香剤、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂、美容成分などを挙げることができる。
【0034】
そして、機能性成分は繊維層(11)の構成繊維の表面及び/又は内部に粒子状、あるいは、繊維層(11)の表面の一部または全部を被覆するように皮膜状で存在していることができる。繊維層(11)に機能性成分を担持する方法は適宜選択できるが、例えば、機能性成分の分散液、あるいはバインダを含んだ機能性成分の分散液を、繊維層(11)の一方の主面あるいは両主面へ、噴霧あるいは既知のコーティング方法(例えば、グラビアロールを用いたキスコーティング法、ダイコーティング法など)を用いて担持した後、溶媒を除去する方法や、繊維層(11)を上述の分散液に浸漬し引き上げた後、溶媒を除去する方法などを採用できる。
【0035】
繊維層(11)の目付や厚さなどの諸構成や諸物性は適宜調整できるものであるが、目付は5~1000g/mであることができ、10~500g/mであることができ、20~200g/mであることができ、30~100g/mであることができる。そして、厚さは0.05~5mmであることができ、0.1~3mmであることができ、0.5~2mmであることができる。なお、本発明でいう「目付」とは主面における面積1mあたりの質量をいい、主面とは面積が最も広い面をいう。また、本発明でいう「厚さ」は、高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ社製ライトマチック(登録商標))により計測した値であり、具体的には測定対象物の主面に対して5cmの荷重領域に100gfの荷重をかけた際の前記領域における厚さの値をいう。
【0036】
本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)は、繊維層(11)の主面上に繊維固定部分(12)を複数備えている。
【0037】
繊維固定部分(12)は、捲縮繊維を含む繊維層(11)の構成繊維同士が一体化している部分であり、例えば、バインダにより繊維層(11)の構成繊維が接着一体化された部分、あるいは、繊維層(11)の構成繊維が熱融着されて溶融一体化された部分、構成繊維同士を融解させることなく軟化させた状態で圧力をかけ圧着一体化した部分などであることができる。
【0038】
なお、繊維層(11)の主面上に存在する各繊維固定部分(12)は互いに連結していない。つまり、繊維層(11)の主面上における各繊維固定部分(12)間には、上述した、捲縮繊維を含む繊維層(11)の構成繊維同士が一体化している部分は存在していない。
【0039】
そのため、各繊維固定部分(12)が互いに連結していないため、繊維層(11)の伸縮性が阻害され難いことで、伸度に富む伸縮性繊維シート(100)である。
【0040】
繊維層(11)の構成繊維同士がより一体化しているよう、繊維固定部分(12)においては、繊維層(11)の主面のみならず繊維層(11)の厚さ方向にも構成繊維同士が一体化している部分が存在しているのが好ましく、繊維層(11)の一方の主面からもう一方の主面に向かう繊維層(11)の厚さ方向全体に構成繊維同士が一体化している部分が存在しているのがより好ましい。
【0041】
1つあたりの繊維固定部分(12)の形状は、本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう適宜調整する。例えば、一つあたりの繊維固定部分(12)の形状は、皮シボ状、ドット状、不定形状、直線や曲線など線状、線分状、破線状、多角形状、動物やキャラクタなどのイラスト、アルファベットや記号状など、あるいは、これらの形状を組み合わせた形状であることができる。
【0042】
繊維固定部分(12)の大きさは適宜調整できる。また、直線や曲線など線状、線分状、破線状の繊維固定部分(12)である場合、その線の太さも適宜調整できる。伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、前記線の太さは細いのが好ましく、3mm以下であるのが好ましく、2mm以下であるのが好ましく、1mm以下であるのが好ましい。一方、下限値は0.05mm以上であるのが現実的である。
【0043】
特に、伸縮性繊維シート(100)の物性が全体的に均一化することで、伸縮性や剛性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、繊維層(11)の主面上に存在する各繊維固定部分(12、一つあたりの形状全体が途切れることなく確認できる各繊維固定部分(12))は、いずれも形状が同一(いずれの繊維固定部分(12)も大きさが同一で、平行移動して一致する態様である)のものであるのが好ましい。
【0044】
例えば、図2に図示した特許文献2に開示されている不織布へ付与されたエンボスパターンは、少なくとも配置方向が異なる2種類のエンボスを備えている。そのため、このような態様で複数の繊維固定部分を備える伸縮性繊維シートは、繊維層の主面上に存在する各繊維固定部分は、いずれも形状が同一のものではない。
【0045】
また、繊維層(11)の主面上に存在する各繊維固定部分(12)の分布態様は、本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう適宜調整する。特に、伸縮性繊維シート(100)の物性が全体的に均一化することで、伸縮性や剛性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供できるよう、繊維層(11)の主面上に存在する各繊維固定部分(12)は、いずれも等間隔を有し分布しているのが好ましい。このような配置としては、斜め格子あるいは格子の交点上に各繊維固定部分(12)が分布し存在している態様を例示できる。
【0046】
上述した態様の繊維固定部分(12)を有する伸縮性繊維シート(100)として、実施例1で調製した伸縮性繊維シート(100)を挙げることができる。
【0047】
本願発明では、伸縮性繊維シート(100)を構成する繊維層(11)の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の繊維固定部分(12)と交点を有する。
本構成を満足する伸縮性繊維シート(100)であるか否かは、以下の方法で判断できる。
【0048】
1.伸縮性繊維シート(100)から、主面上に繊維固定部分(12)を有する繊維層(11)を取得し、取得した繊維層(11)から、一辺15cmの正方形形状の試料を採取する。このとき、主面上に複数の繊維固定部分(12)が存在するようにして試料を採取する。
2.試料における繊維固定部分(12)を有する側の主面全体が写る顕微鏡写真を撮影する。なお、複数の顕微鏡写真を組み合わせることで、前記主面全体が写る顕微鏡写真を作成しても良い。
3.顕微鏡写真上に、繊維層(11)の主面上を通過する直線を複数作図する。なお、各直線は、試料を主面側から見た際に平行を成し存在する試料の二辺を通過するようにして作図する。
4.作図したいずれの直線も複数の繊維固定部分(12)と交点を有していた場合、試料を採取した伸縮性繊維シート(100)は、「主面上に前記主面上を通過する直線を作図した際に、前記直線は複数の前記繊維固定部分(12)と交点を有する」構成を満足する繊維層(11)を備えていると判断する。
一方、作図したいずれかの直線が複数の繊維固定部分(12)と交点を有していなかった場合(交点を有していい直線が存在していた場合、あるいは、一つの交点のみ有する直線が存在していた場合)、試料を採取した伸縮性繊維シート(100)は、上述した構成を満足していないと判断する。
【0049】
本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)は上述の構成を満足する繊維層(11)を備えているため、繊維層(11)の主面上を通過し直線状に、構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分を有するものではなく、剛性に優れている。
【0050】
本願発明では、繊維層(11)の主面上に存在する隣り合う繊維固定部分(12)間の最短距離の長さが、捲縮繊維のみかけ繊維長以下である。なお、ここでいう「捲縮繊維のみかけ繊維長」とは、次に説明する(捲縮繊維のみかけ繊維長の測定方法)により測定される長さ(距離)を指す。また、捲縮繊維のみかけ繊維長は、捲縮繊維の繊維長以下の長さである。
【0051】
(捲縮繊維のみかけ繊維長の測定方法)
1.捲縮繊維の全体が写る、伸縮性繊維シート(10)あるいは伸縮性繊維シート(10)を構成する繊維層(11)の顕微鏡写真を撮影する。
2.顕微鏡写真から顕微鏡写真に写る捲縮繊維を1本選出し、前記顕微鏡写真上に当該捲縮繊維と2以上の交点を有する直線を引き、当該直線上に前記交点を両端部とする最も長い線分を引く。なお、捲縮繊維が繊維固定部分(2)と接している場合には、前記捲縮繊維と繊維固定部分(2)の接点を引かれる線分の端部とする。
3.上述した1~2の方法を30本以上の捲縮繊維に対し行い、同様にして各々線分を引く。
4.引かれた30本の前記線分の長さのうち、最も長い値を「捲縮繊維のみかけ繊維長」と判断する。
【0052】
捲縮繊維のみかけ繊維長は適宜選択できるものであるが、前記長さが長いほど伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供し易い。そのため、捲縮繊維のみかけ繊維長は、5mm以上であるのが好ましく、10mm以上であるのが好ましく、20mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのが好ましい。一方、上限値も適宜選択できるものであるが、100mm以下であるのが現実的である。
【0053】
繊維層(11)の主面上に存在する隣り合う繊維固定部分(12)間の最短距離の長さは、次に説明する(最短距離の長さの測定方法)により測定される長さを指す。
【0054】
(最短距離の長さの測定方法)
1.伸縮性繊維シート(100)から、主面上に繊維固定部分(12)を有する繊維層(11)を取得し、取得した繊維層(11)から、一辺15cmの正方形形状の試料を採取する。このとき、主面上に複数の繊維固定部分(12)が存在するようにして試料を採取する。
2.試料における繊維固定部分(12)を有する側の主面全体が写る顕微鏡写真を撮影する。なお、複数の顕微鏡写真を組み合わせることで、前記主面全体が写る顕微鏡写真を作成しても良い。
3.顕微鏡写真上に、互いに隣り合い存在する繊維固定部分(12)間を最短で結ぶ線分を、各隣り合う繊維固定部分(12)間の組み合わせごとに作図する。
4.作図した各線分のうち最も短い線分の長さを、繊維層(11)の主面上に存在する隣り合う繊維固定部分(12)間の最短距離の長さと判断する。
【0055】
繊維層(11)の主面上に存在する隣り合う繊維固定部分(12)間の最短距離の長さは適宜選択できるものであるが、前記長さが長いほど伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)を提供し易い。そのため、前記最短距離の長さは、1mm以上であるのが好ましく、3mm以上であるのが好ましく、5mm以上であるのが好ましく、10mm以上であるのが好ましく、20mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのが好ましい。一方、上限値も適宜選択できるものであるが、100mm以下であるのが現実的である。
【0056】
本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)は上述の構成を満足する繊維層(11)を備えているため、繊維層(11)を構成する捲縮繊維の両端が隣り合う繊維固定部分(12)により固定された状態となり得る。そのため、本発明にかかる態様の伸縮性繊維シート(100)では、理論上、隣り合う前記繊維固定部分(12)同士をつなぐ捲縮繊維が存在する。そのため、隣り合う前記繊維固定部分(12)間の剛性が捲縮繊維(隣り合う繊維固定部分(12)同士をつなぎ留めている捲縮繊維))自体の強度によっても維持される。その結果、伸縮性繊維シート(100)が伸張された際(張力を受けた際)であっても、隣り合う前記繊維固定部分(12)間は、構成繊維同士の絡み合いが解かれ易い部分となるのが防止されている。
【0057】
本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)は繊維層(11)のみで構成されていても良いが、布帛あるいはフィルム(無孔フィルムや多孔フィルム)や発泡体(無孔発泡体や多孔発泡体)などの他の部材を繊維層(11)に積層してなる構造であってもよい。繊維層(11)と他の部材との積層方法は適宜選択できるが、ただ積層しただけの態様であっても、パウダーバインダ、スプレーバインダ、ホットメルトウェブなどのバインダにより接着して積層一体化した態様であっても、接着繊維など構成成分の溶融により接着して積層一体化した態様であってもよい。
【0058】
なお、他の部材の素材、目付や厚さなどの諸構成は、伸縮性繊維シート(100)に求められる態様に合わせ適宜調整あるいは選択できる。
【0059】
一方向へ伸張させた際に破断を発生し難いよう、伸縮性繊維シート(100)の引張強さは0.4N/20mmより大きいのが好ましく、0.5N/20mm以上であるのが好ましく、0.6N/20mm以上であるのが好ましく、1N/20mm以上であるのが好ましく、3N/20mm以上であるのが好ましく、5N/20mm以上であるのが好ましい。なお、引張強さは以下の測定方法で求めることができる。
【0060】
(引張り強さ(単位:N/20mm)の測定方法)
測定対象から短辺20mm、長辺80mmの試料片を採取する。このとき、測定対象の生産方向(MD方向)と長辺方向が平行を成すように試料片を採取する。
そして、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):50mm、引張速度:100mm/分)を用い、試料片を長辺方向へ引張り、試料片が破断するまでの最大荷重を測定する。なお、試料片が繊維固定部分を2以上有している場合、チャック間に隣り合う繊維固定部分が共に存在するようにして、試料片をチャックに固定する。
この最大荷重の測定を3枚の試料片について行い、これら最大荷重を算術平均しMD方向の「引張り強さ」とする。なお、「引張り強さ」が高いほど、伸張時に破断を発生し難く剛性に優れることを意味する。
【0061】
また、測定対象の生産方向と垂直を成す方向(CD方向)と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、CD方向の「引張り強さ」を求めることができる。
【0062】
更に、測定対象におけるMD方向ならびにCD方向と平行をなす辺で構成された正方形を想定した際の、当該正方形の一対角線が伸びる方向と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、斜め方向の「引張り強さ」を求めることができる。
【0063】
伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)であるよう、伸縮性繊維シート(100)の伸び率は10%以上であるのが好ましく、50%以上であるのが好ましく、100%以上であるのが好ましい。一方、伸び率が高過ぎると、伸縮性繊維シート(100)の使用感が劣る恐れがあることから、500%以下であるのが現実的である。なお、伸び率は以下の測定方法で求めることができる。
【0064】
(伸び率(Sr、単位:%)の測定方法)
前述の引張り強さの測定を行った時の、最大荷重時の試料片の伸び(Smax、単位:mm)[=(最大荷重時の長さ、単位:mm)-(つかみ間隔=50mm)]のつかみ間隔(50mm)に対する百分率をいう。つまり、次の式から得られる値である。この測定を3回行い、前記百分率の算術平均値を「伸び率」とする。
Sr=(Smax/50)×100
なお、「伸び率」が高いほど、伸長性に優れることを意味する。
【0065】
おむつのギャザー部に使われた際の優れたはき心地、サージカルテープ用基材に使われた際の適度な締め付け感、貼付薬用基材に使われた際の優れた貼付感などに富む伸縮性繊維シート(100)であるよう、伸縮性繊維シート(100)の各種伸長時強さは調整する。なお、伸長時強さは以下の測定方法で求めることができる。
【0066】
(20%伸長時強さ、および、50%伸長時強さ(単位:N/20mm)の測定方法)
測定対象から短辺20mm、長辺80mmの試料片を採取する。このとき、測定対象の生産方向(MD方向)と長辺方向が平行を成すように試料片を採取する。
そして、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン)を用い、試料片を両チャック間(チャック間の距離(つかみ間隔):50mm)に固定する。なお、試料片が繊維固定部分を2以上有している場合、チャック間に隣り合う繊維固定部分が共に存在するようにして、試料片をチャックに固定する。その後、引張速度100mm/分の条件で両チャックを離してゆき、試料片を10mm(=20%)伸長するまでに測定された試料片が示す最大応力、25mm(=50%)伸長するまでに測定された試料片が示す最大応力を各々測定する。
この測定を3枚の試料片について行い、これら最大応力を算術平均し、MD方向の「20%伸長時強さ」ならびに「50%伸長時強さ」とする。なお、各値が高いほど、剛性に富むことを意味する。
【0067】
また、測定対象の生産方向と垂直を成す方向(CD方向)と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、CD方向の「20%伸長時強さ」ならびに「50%伸長時強さ」を求めることができる。
【0068】
更に、測定対象におけるMD方向ならびにCD方向と平行をなす辺で構成された正方形を想定した際の、当該正方形の一対角線が伸びる方向と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、斜め方向の「20%伸長時強さ」ならびに「50%伸長時強さ」を求めることができる。
【0069】
伸縮性に優れる伸縮性繊維シート(100)であるよう、伸縮性繊維シート(100)の各種伸長時の回復率は調整する。なお、伸長時の回復率は以下の測定方法で求めることができる。
【0070】
(20%伸長時の回復率(単位:%)の測定方法)
測定対象から短辺20mm、長辺80mmの試料片を採取する。このとき、測定対象の生産方向(MD方向)と長辺方向が平行を成すように試料片を採取する。
そして、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン)を用い、試料片を両チャック間(チャック間の距離(つかみ間隔):50mm)に固定する。なお、試料片が繊維固定部分を2以上有している場合、チャック間に隣り合う繊維固定部分が共に存在するようにして、試料片をチャックに固定する。
このつかみ間隔50mmの位置を始点とし、始点から10mmの位置、即ち20%伸長位置(L20=10mm)まで速度100mm/分で引張った後、同速度で始点まで戻す。この引張時に試料片の引張応力が0.05Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(50mm)を引いた長さ(Lf)、及び、戻す時に試料片の引張応力が0.05Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(50mm)を引いた長さ(Lb)を測定する。
この測定を3枚の試料片について行い、前記長さをそれぞれ算術平均することで、つかみ間隔の長さ(Lf)の平均値(Lf1)及びつかみ間隔の長さ(Lb)の平均値(Lb1)を求め、次の式から算出される数値を、MD方向の「20%伸長時の回復率」とする。
20%伸長時の回復率(%)=〔[(L20-Lf1)―(Lb1-Lf1)]/(L20-Lf1)〕×100
【0071】
また、測定対象の生産方向と垂直を成す方向(CD方向)と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、CD方向の「20%伸長時の回復率」を求めることができる。
【0072】
(50%伸長時の回復率(単位:%)の測定方法)
測定対象から短辺20mm、長辺80mmの試料片を採取する。このとき、測定対象の生産方向(MD方向)と長辺方向が平行を成すように試料片を採取する。
そして、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン)を用い、試料片を両チャック間(チャック間の距離(つかみ間隔):50mm)に固定する。なお、試料片が繊維固定部分を2以上有している場合、チャック間に隣り合う繊維固定部分が共に存在するようにして、試料片をチャックに固定する。
このつかみ間隔50mmの位置を始点とし、始点から25mmの位置、即ち50%伸長位置(L50=25mm)まで速度100mm/分で引張った後、同速度で始点まで戻す。この引張時に試料片の引張応力が0.05Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(50mm)を引いた長さ(Lf)、及び、戻す時に試料片の引張応力が0.05Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(50mm)を引いた長さ(Lb)を測定する。
この測定を3枚の試料片について行い、前記長さをそれぞれ算術平均することで、つかみ間隔の長さ(Lf)の平均値(Lf1)及びつかみ間隔の長さ(Lb)の平均値(Lb1)を求め、次の式から算出される数値をMD方向の「50%伸長時の回復率」とする。
50%伸長時の回復率(%)=〔[(L50-Lf1)―(Lb1-Lf1)]/(L50-Lf1)〕×100
【0073】
また、測定対象の生産方向と垂直を成す方向(CD方向)と長辺方向が平行を成すように採取した試料片を上述の測定へ供することで、CD方向の「50%伸長時の回復率」を求めることができる。
【0074】
本発明の伸縮性繊維シート(100)の製造方法について、一例を挙げ説明する。本発明の伸縮性繊維シート(100)の調製方法は適宜選択できるが、例えば、以下の工程を経て調製できる。
(1)潜在捲縮繊維を含んだ繊維ウェブを用意する工程。
(2)繊維ウェブの一方の主面上に、超音波シールを施すことで、繊維ウェブの構成繊維(前記潜在捲縮繊維を含む)同士が溶融一体化した部分を複数形成する工程。
(3)超音波シールを施した繊維ウェブを加熱処理へ供し、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる工程。
【0075】
次いで、各工程について、具体的に説明する。
【0076】
まず(1)の工程において、潜在捲縮繊維を含んだ繊維ウェブの調製方法は適宜選択できる。具体例として、乾式法や湿式法あるいは直接紡糸法で得たクロスレイウェブやパラレルレイウェブまたはクリスクロスウェブあるいはランダムウェブであることができる。また、伸縮性に優れた伸縮性繊維シート(100)を調製できるよう、繊維ウェブの構成繊維は潜在捲縮繊維のみであるのが好ましい。
【0077】
次いで(2)の工程において、超音波シールにより形成される潜在捲縮繊維を含む各構成繊維同士が溶融一体化した部分の態様は適宜調整できるが、伸縮性に優れた伸縮性繊維シート(100)を調製できるよう、前記溶融一体化した部分は形状が同一で互いに等間隔を有し分布している態様であるのが好ましい。
【0078】
なお、繊維ウェブに形成する隣り合う溶融一体化した部分同士の間隔は、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長以下とする。ここでいう潜在捲縮繊維のみかけ繊維長とは、上述した(捲縮繊維のみかけ繊維長の測定方法)で説明した測定方法において、「伸縮性繊維シート」あるいは「繊維層」の言葉の代わりに「繊維ウェブ」を測定対象とし読み替え、そして、「捲縮繊維」の言葉の代わりに「潜在捲縮繊維」を測定対象とし読み替えた測定方法によって、測定された値を指す。なお、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長は、潜在捲縮繊維の繊維長以下の長さである。このような態様であることによって、潜在捲縮繊維の両端部分を、隣り合う溶融一体化した部分で固定し得る。
【0079】
また、繊維ウェブに形成される隣り合う溶融一体化した部分同士の間隔は、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長の半分未満であるのがより好ましい。このような態様であることによって、隣り合う溶融一体化した部分でより多くの潜在捲縮繊維の両端同士の間を固定でき、繊維固定部分(12)によって固定される捲縮繊維の割合を多くすることができる。繊維ウェブに形成される隣り合う溶融一体化した部分同士の間隔は適宜調整できるが、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長の半分未満であることが好ましく、40%未満であるのが好ましく、30%未満であるのが好ましく、20%未満であるのが好ましい。隣り合う溶融一体化した部分同士の間隔が、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長の半分未満である繊維ウェブを、後述する加熱処理により潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる次の工程へ供することによって、更に剛性に優れる伸縮性繊維シート(100)を製造できる。
【0080】
このようにして調製された繊維ウェブを、加熱処理により潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる次の工程へ供することによって、隣り合う繊維固定部分(12)間の最短距離の長さが捲縮繊維のみかけ繊維長以下である繊維層(11)を備えた、伸縮性繊維シート(100)を製造できる。
【0081】
そして、最後に(3)の工程によって、超音波シールを施した繊維ウェブを加熱処理へ供し、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる。
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0082】
また、繊維ウェブを加熱する温度は、潜在捲縮繊維を使用する場合、潜在捲縮繊維の捲縮が発現する温度であると共に、繊維ウェブの構成成分(構成繊維、バインダ、機能性成分など)に意図しない変性が生じることのない温度に調整するのが好ましい。なお、本工程においてバインダを溶融させる、および/または、接着繊維による繊維接着機能を発揮させることで、繊維ウェブの構成繊維同士を接着一体化してもよい。
【0083】
以上の工程を経て、本発明にかかる伸縮性繊維シート(100)を製造できる。
【0084】
本発明の伸縮性繊維シート(100)は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの部材を備えていてもよい。更に、本発明の伸縮性繊維シート(100)をリライアントプレス処理などの、表面を平滑とするために加圧処理する工程へ供してもよい。また、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜いた後に加熱成形する工程や、機能性成分を担持する工程、薬剤との親和性を向上するための親水化処理工程など、各種二次加工工程へ供してもよい。
【実施例0085】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
(繊維層の調製方法)
サイドバイサイド型に構成されたポリエステル系樹脂の潜在捲縮繊維(繊維の断面形状:円形、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、160℃の加熱条件下では溶融せず、120℃以上で捲縮発現が発現する)のみをカード機へ供し、目付が20g/mと目付が40g/mのパラレルウエブを調製した。
また、調製した目付が20g/mのパラレルウエブを重ね、目付が40g/mのクロスレイウェブを調製した。
【0087】
(比較例1)
目付が40g/mのパラレルウエブの一方の主面上に、図3に図示する態様でヒートシールを施し、潜在捲縮繊維が溶融一体化した繊維固定部分を複数形成した。なお、隣り合う繊維固定部分間の最短距離の長さは、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長以下であった。
最後に、ヒートシールを施したパラレルウエブを熱風ドライヤー(加熱温度:160℃)へ供して、繊維ウェブに含まれている潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、伸縮性繊維シートを調製した。
このようにして調製した伸縮性繊維シートは、繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、作図した直線の中には、複数の繊維固定部分と交点を有していない直線が存在していた。
そして、隣り合う繊維固定部分(ヒートシールを施した部分由来)間の最短距離の長さが15mmであり、潜在捲縮繊維が捲縮を発現してなる捲縮繊維のみかけ繊維長(16mm)よりも短いものであった。
なお、形成されている各繊維固定部分(一つあたりの形状全体が途切れることなく確認できる各繊維固定部分)は、いずれも形状が同一で互いに等間隔を有し分布して主面上に存在しているものであった。
【0088】
(比較例2)
クロスレイウェブの一方の主面上に、図4に図示する態様で超音波シールを施し、潜在捲縮繊維が溶融一体化した繊維固定部分を複数形成した。なお、隣り合う繊維固定部分間の最短距離の長さは、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長以下であった。
最後に、超音波シールを施したパラレルウエブを熱風ドライヤー(加熱温度:160℃)へ供して、繊維ウェブに含まれている潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、伸縮性繊維シートを調製した。
このようにして調製した伸縮性繊維シートは、繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、作図した直線の中には、複数の繊維固定部分と交点を有していない直線が存在していた。
そして、隣り合う繊維固定部分(超音波シールを施した部分由来)間の最短距離の長さは10mmであり、潜在捲縮繊維が捲縮を発現してなる捲縮繊維のみかけ繊維長(16mm)よりも短いものであった。
なお、形成されている各繊維固定部分(一つあたりの形状全体が途切れることなく確認できる各繊維固定部分)は、いずれも形状が同一で互いに等間隔を有し分布して主面上に存在しているものであった。
【0089】
(比較例3)
クロスレイウェブの一方の主面上に、図5に図示する態様で超音波シールを施し、潜在捲縮繊維が溶融一体化した繊維固定部分を複数形成した。なお、隣り合う繊維固定部分間の最短距離の長さは、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長以下であった。
最後に、超音波シールを施したパラレルウエブを熱風ドライヤー(加熱温度:160℃)へ供して、繊維ウェブに含まれている潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、伸縮性繊維シートを調製した。
このようにして調製した伸縮性繊維シートは、繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、作図した直線の中には、複数の繊維固定部分と交点を有していない直線が存在していた。
そして、隣り合う繊維固定部分(超音波シールを施した部分由来)間の最短距離の長さが10mmであり、潜在捲縮繊維が捲縮を発現してなる捲縮繊維のみかけ繊維長(16mm)よりも短いものであった。
なお、形成されている各繊維固定部分(一つあたりの形状全体が途切れることなく確認できる各繊維固定部分)は、いずれも形状が同一で互いに等間隔を有し分布して主面上に存在しているものであった。
【0090】
(実施例1)
クロスレイウェブの一方の主面上に、図6に図示する態様で超音波シールを施し、潜在捲縮繊維が溶融一体化した繊維固定部分を複数形成した。なお、隣り合う繊維固定部分間の最短距離の長さは、潜在捲縮繊維のみかけ繊維長以下であった。
最後に、超音波シールを施したパラレルウエブを熱風ドライヤー(加熱温度:160℃)へ供して、繊維ウェブに含まれている潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、伸縮性繊維シートを調製した。
このようにして調製した伸縮性繊維シートは、繊維層の主面上に、前記主面上を通過する直線を作図した際に、作図したすべての直線は複数の繊維固定部分と交点を有するものであった。
そして、隣り合う繊維固定部分(超音波シールを施した部分由来)間の最短距離の長さが10mmであり、潜在捲縮繊維が捲縮を発現してなる捲縮繊維のみかけ繊維長(16mm)よりも短いものであった。
なお、形成されている各繊維固定部分(一つあたりの形状全体が途切れることなく確認できる各繊維固定部分)は、いずれも形状が同一で互いに等間隔を有し分布して主面上に存在しているものであった。
【0091】
上述のようにして調製した、比較例および実施例の伸縮性繊維シートの諸物性を表1にまとめた。なお、測定していない項目については、表中に「-」を記載した。
【0092】
【表1】
【0093】
比較例1~3および実施例1で調製した伸縮性繊維シートは、いずれも十分な伸縮性を有するものであった。しかし、本発明の構成を満足しない比較例1~3の伸縮性繊維シートは実施例1よりも、MD方向およびCD方向の引っ張り強さが低いと共に、MD方向の20%ならびに50%伸張時強さが低く、剛性に劣るものであった。
【0094】
一方、本願発明の構成を満足する伸縮性繊維シートは十分な伸縮性を有すると共に、MD方向およびCD方向の引っ張り強さが高いと共に、MD方向の20%ならびに50%伸張時強さが高く、剛性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の伸縮性繊維シートは、おむつのウエスト周りや足の付根周り、サポーターや包帯、貼付薬用基材やプラスター基材、フェイシャルマスクといったメディカル用品や衛生用品などとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0096】
A:一方向
B:一方向と垂直を成す方向
10、100:伸縮性繊維シート
11:繊維層
2、12:繊維固定部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6