(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177831
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
F16K7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090734
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩幸
(57)【要約】
【課題】優れた耐久性を発揮するダイヤフラムバルブを提供すること。
【解決手段】一方の側の面に薬液が接触せしめられる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における薬液が接触しない他方の側に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層とを少なくとも有する積層構造体からなるダイヤフラム部材が、その周縁部において、バルブ本体に形成された被装着部に装着せしめられており、バルブ本体のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、ダイヤフラム部材における第一の層及び第二の層からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、下記式(1)を満たすよう、ダイヤフラムバルブを構成した。
[HR-1]-[HR-2]≧90.0 ・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ本体と、かかるバルブ本体の弁座に対して、圧接又は離間作動せしめられることにより、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラム部材とを備えるダイヤフラムバルブであって、
前記バルブ本体に形成された被装着部に、前記ダイヤフラム部材の周縁部が装着せしめられて構成されており、
前記バルブ本体は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物の射出成形品からなり、
前記ダイヤフラム部材は、一方の側の面に薬液が接触せしめられる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における前記薬液が接触しない他方の側に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層とを少なくとも有する積層構造体にて構成されており、
前記バルブ本体のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、前記ダイヤフラム部材における前記第一の層及び第二の層からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、下記式(1)を満たす、
ことを特徴とするダイヤフラムバルブ。
[HR-1]-[HR-2]≧90.0 ・・・(1)
【請求項2】
前記バルブ本体の被装着部が非湾曲部位aを有する一方、前記ダイヤフラム部材の周縁部が非湾曲部位bを有し、それら非湾曲部位a、bが相対した状態において、前記ダイヤフラム部材が前記バルブ本体に対して装着せしめられており、
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1が、前記バルブ本体の被装着部を構成する非湾曲部位aについて測定されるものであり、
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-2が、前記ダイヤフラム部材の周縁部を構成する非湾曲部位bにおける、前記第一の層及び第二の層からなる積層部について測定されるものである、
ことを特徴とする請求項1に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項3】
前記バルブ本体を構成する射出成形品が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とし、結晶核剤としてのフラバントロンを質量基準にて200~4000ppmの割合で含有する樹脂組成物の射出成形品である請求項1又は請求項2に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項4】
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1が110.0以上である請求項3に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項5】
前記ダイヤフラム部材における第一の層を構成するパーフルオロカーボン系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1又は請求項2に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項6】
前記ダイヤフラム部材が、前記第二の層における前記第一の層とは反対側に、ゴム弾性体からなる第三の層が更に配置されてなる積層構造体にて構成されている請求項1又は請求項2に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項7】
前記第三の層を与えるゴム弾性体が、エチレン-プロピレン系ゴムである請求項6に記載のダイヤフラムバルブ。
【請求項8】
前記薬液が、腐食性ガスを発生する液体である請求項1又は請求項2に記載のダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムバルブに係り、特に、塩水、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の腐食性液体の輸送配管ライン等において有利に使用されるダイヤフラムバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流路を流れる液体の流通の遮断又は許容を行なわしめるバルブの一種として、可撓性を有するダイヤフラム(隔膜)を、弁本体の弁座に対して圧接又は離間作動せしめて液体の流通を制御するダイヤフラムバルブが、広く知られている。そのようなダイヤフラムバルブの中でも、特に、塩水、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の腐食性液体の輸送配管ライン等に使用されるダイヤフラムバルブにおいては、ダイヤフラムに高い耐久性が要求されるため、従来より様々な態様のものが提案され、使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2020-153519号公報)においては、そこに開示のダイヤフラムバルブに装着される隔膜(ダイヤフラム)として、流路側に配置され、フッ素系樹脂を含む第1層と、かかる第1層の流路とは反対側に配置され、弾性樹脂を含む第2層とを有し、第1層における所定の部位の厚み:aと第2層の厚み:bとが、0.15≦a/b≦0.375を満たすものが、提案されている。また、特許文献2(特開2020-153393号公報)においては、ダイヤフラムバルブに用いられる隔膜ユニットの隔膜として、フッ素系樹脂を含む第1層が、弾性樹脂を含む第2層に接着されてなるものが、提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の各々に開示の隔膜について、本発明者が詳細に検討したところ、それら隔膜は或る程度の耐久性を発揮するものの、種々の問題を内在するものであることが判明した。具体的には、特許文献1又は特許文献2の開示の隔膜を備えたダイヤフラムバルブを、腐食性液体の輸送配管ラインにおいて使用した場合、特許文献1に開示の隔膜にあっては、長期間の使用によって隔膜から腐食性液体の漏出が認められるようになった際に、これが、腐食性液体による第1層の浸食に起因するのか、腐食性液体より発生する腐食性ガスによって第2層が劣化したことに起因するのか等、その原因を特定することが非常に困難であることが認められた。また、特許文献2に開示の隔膜を備えたダイヤフラムバルブにおいては、バルブの弁座に対する隔膜の圧接又は離間作動の繰返しによって、第1層と第2層との接着部が剥離し、その結果、長期止水性能を享受することが出来ない恐れがあることが、認められたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-153519号公報
【特許文献2】特開2020-153393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況の下、本発明者は、ダイヤフラム及びそれが装着されてなるバルブ本体について、耐久性の更なる向上を図るべく鋭意、研究を進めたところ、ダイヤフラム及びバルブ本体のロックウェル硬さが所定の関係を満たすダイヤフラムバルブにあっては、非常に優れた耐久性を発揮するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、このような事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、薬液に対する良好な耐薬品性を確保しつつ、かかる薬液から生じる腐食性ガスの透過を効果的に抑制乃至は阻止して、そのような腐食性ガスに基づく腐食を回避すると共に、長期間の繰返し作動に起因する、ダイヤフラム部材における摩耗の発生も効果的に抑制乃至は阻止し、以て、優れた耐久性を発揮する、ダイヤフラムバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、かくの如き課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書の記載から把握され得る発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0008】
(1) バルブ本体と、かかるバルブ本体の弁座に対して、圧接又は離間作動せしめられることにより、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラム部材とを備えるダイヤフラムバルブであって、
前記バルブ本体に形成された被装着部に、前記ダイヤフラム部材の周縁部が装着せしめられて構成されており、
前記バルブ本体は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物の射出成形品からなり、
前記ダイヤフラム部材は、一方の側の面に薬液が接触せしめられる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における前記薬液が接触しない他方の側に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層とを少なくとも有する積層構造体にて構成されており、
前記バルブ本体のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、前記ダイヤフラム部材における前記第一の層及び第二の層からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、下記式(1)を満たす、
ことを特徴とするダイヤフラムバルブ。
[HR-1]-[HR-2]≧90.0 ・・・(1)
(2) 前記バルブ本体の被装着部が非湾曲部位aを有する一方、前記ダイヤフラム部材の周縁部が非湾曲部位bを有し、それら非湾曲部位a、bが相対した状態において、前記ダイヤフラム部材が前記バルブ本体に対して装着せしめられており、
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1が、前記バルブ本体の被装着部を構成する非湾曲部位aについて測定されるものであり、
前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-2が、前記ダイヤフラム部材の周縁部を構成する非湾曲部位bにおける、前記第一の層及び第二の層からなる積層部について測定されるものである、
ことを特徴とする前記態様(1)に記載のダイヤフラムバルブ。
(3) 前記バルブ本体を構成する射出成形品が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とし、結晶核剤としてのフラバントロンを質量基準にて200~4000ppmの割合で含有する樹脂組成物の射出成形品である前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のダイヤフラムバルブ。
(4) 前記ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1が110.0以上である前記態様(3)に記載のダイヤフラムバルブ。
(5) 前記ダイヤフラム部材における第一の層を構成するパーフルオロカーボン系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンである前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のダイヤフラムバルブ。
(6) 前記ダイヤフラム部材が、前記第二の層における前記第一の層とは反対側に、ゴム弾性体からなる第三の層が更に配置されてなる積層構造体にて構成されている前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のダイヤフラムバルブ。
(7) 前記第三の層を与えるゴム弾性体が、エチレン-プロピレン系ゴムである前記態様(6)に記載のダイヤフラムバルブ。
(8) 前記薬液が、腐食性ガスを発生する液体である前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のダイヤフラムバルブ。なお、そのような腐食性ガスを発生する液体としては、好適に、電解工程において配管内を流通せしめられる塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等が、その対象とされる。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明に従うダイヤフラムバルブにあっては、バルブ本体の被装着部に、所定のダイヤフラム部材(具体的には、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における薬液が接触しない側の面に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層とを少なくとも有する積層構造体)が装着せしめられ、かかるバルブ本体のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、ダイヤフラム部材における第一の層及び第二の層からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、所定の関係を満たすように構成されている。このような構成により、1)ダイヤフラム部材における第一の層により良好な耐食性を発揮すると共に、2)同部材における第二の層によって、腐食性ガスの透過が効果的に遮断せしめられ得て、そのような腐食性ガスに起因する他の部材等(例えば、ゴム弾性体からなる第三の層や、ダイヤフラム部材周囲の金属部品等)の劣化が有利に阻止され得ることとなり、更には、3)上記HR-1及びHR-2が所定の関係を満たしていることにより、長期間の繰返し作動に起因する、ダイヤフラム部材における摩耗の発生も効果的に抑制乃至は阻止され得て、以て、本発明のダイヤフラムバルブは、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に従うダイヤフラムバルブの一例を示す縦断面説明図である。
【
図2】
図1のダイヤフラムバルブを構成するダイヤフラムを取り出して示す説明図であって、(a)は、ダイヤフラムバルブの閉状態におけるダイヤフラムの無変形の形態を示す断面説明図であり、(b)は、ダイヤフラムバルブの開状態における、ダイヤフラムが変形作用を受けた状態を示す断面説明図である。
【
図3】
図1に示されるダイヤフラムバルブを部分的に拡大して示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0012】
先ず、
図1には、本発明を適用したダイヤフラムバルブの一例が、示されている。そこにおいて、ダイヤフラムバルブ10は、入口流路14と出口流路16とを備え、また、それら流路14、16の中間に位置し、且つ流路を湾曲させる仕切壁18を備えると共に、かかる仕切壁18の先端面(上面)が弁座20とされてなるバルブ本体12を有している。また、かかるバルブ本体12の仕切壁18の上方に形成された開口部を覆蓋するように、ボンネット22が取り付けられて、このボンネット22に支承されたスピンドル24が、ハンドル26の回転操作によって、上下方向(軸方向)に移動可能とされている。加えて、スピンドル24の下端部に固定されたコンプレッサ28に対して、中心部が取り付けられて、上下方向に変形移動可能とされた、円形又は略矩形の平面形態を呈するダイヤフラム40が、その周縁部において、バルブ本体12の開口周縁部に形成された被装着部30とボンネット22の下端部との間に狭持せしめられることによって、バルブ本体12の開口部が閉塞せしめられるようになっている。そして、このような構成に係るダイヤフラムバルブ10は、スピンドル24の上下動、ひいてはコンプレッサ28の上下動によって、ダイヤフラム40の中心部が弁座20に圧接又は離隔せしめられ、以て、流路14、16を流れる液体の流れを遮断し、又は通過(流通)させ得るようになっているのである。
【0013】
また、そのような構成のダイヤフラムバルブ10において、入口流路14と出口流路16との間を遮断又は連通させるダイヤフラム40は、
図2に示されている如き態様を呈するものである。具体的に、ダイヤフラム40は、1)一方の側の面(図においては、下面)に、流路(14、16)内を流通せしめられる薬液が接触させられることとなる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層42と、2)第一の層42の上記薬液が接触しない他方の側(図においては、上側)に配置され、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層44と、3)第二の層44における第一の層42とは反対側に配置された、所定のゴム弾性体からなる第三の層46との積層構造体にて、構成されている。また、第一の層42にあっては、厚肉とされた中央部と、かかる中央部(厚肉部)の周縁を覆うように位置する、中央部(厚肉部)より厚さが薄い薄肉部とから、構成されている。このような第一の層42の厚肉部に、コンプレッサ28に連結するための連結金具48の基部が埋設されていると共に、かかる連結金具48は、第二の層44の中央開口部を通じて、第三の層46の中心部を貫通してなる形態において、上方に突出せしめられている。更に、ダイヤフラム40においては、第一の層42の接液側の面となる下面の周縁部に沿って、感情の周縁突条50が形成されていると共に、第一の層42の中心部を通って直径方向に延びる線状突条52が一体的に設けられている。周縁突条50は、ダイヤフラム40がバルブ本体12の被装着部30とボンネット22の下端部との間に狭持されたときに、バルブ本体12の開口周縁部との間のシール性を高めるためのものであり、また、線状突条52は、コンプレッサ28の下降作動によって、ダイヤフラム40が下方に変形移動せしめられて、バルブ本体12の弁座20に圧接せしめられたときに、弁座20との間の流体遮断性を向上せしめるためのものである。
【0014】
なお、本実施形態においては、第一の層42、第二の層44及び第三の層46は、それぞれ、所定の形状に成形されてなる形態において積層され、その積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されており、スピンドル24により引き上げられていない状況下においては、
図2(a)に示される如き形態を呈するようになっている。即ち、
図2(a)に示されるダイヤフラム40は、その成形形態において組み付けられた状態を示すものであって、通常、そのような形態において、ダイヤフラムバルブ10に組み付けられて、かかるダイヤフラム40の中心部がコンプレッサ28にて押圧されることにより、弁座20に圧接せしめられ、以て、入口流路14と出口流路16との間の液体の流通が、効果的に遮断され得るようになっているのである。また、コンプレッサ28が、スピンドル24の軸方向への移動によって上方に移動せしめられると、ダイヤフラム40は、
図2(b)に示されるように、上方に引き上げられてなる、上方への湾曲(突出)形態において変形せしめられることとなる。そして、そのような形態においては、ダイヤフラム40は、
図1に示される如く、弁座20に圧接されることはなく、所定の間隔を隔てて、離隔せしめられることとなるところから、入口流路14と出口流路16との間に、所定の液体が流通され得るようになるのである。
【0015】
そして、本発明に従うダイヤフラムバルブ10にあっては、バルブ本体12のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、ダイヤフラム40における第一の層42及び第二の層44からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、下記式(1)を満たすように構成されているところに、本発明の大きな技術的特徴が存しているのである。このように、ダイヤフラムバルブ10は、各々のロックウェル硬さ(HR-1、HR-2)が下記式(1)の関係を満たすようなバルブ本体12及びダイヤフラム40にて構成されているところから、長時間の繰返し作動に起因するダイヤフラム40の摩耗、より具体的には、バルブ本体12の弁座20に対するダイヤフラム40の圧接及び離隔の繰返しによって生ずる、バルブ本体12の被装着部30に相対するダイヤフラム40の周縁部における摩耗の発生が、より効果的に抑制乃至は阻止され得、更には、ダイヤフラム40の特徴的な構成と相俟って、以て、本発明のダイヤフラムバルブ10は、従来のものと比較して、非常に優れた耐久性を発揮するものとなっているのである。下記式(1)を満たさない場合、具体的には、HR-1からHR-2を減じて得られる値が90未満の場合には、ダイヤフラム部材(ダイヤフラム40)が十分な耐摩耗性を発揮せず、その結果、ダイヤフラムバルブとしても十分な耐久性を発揮し得ない恐れがある。
[HR-1]-[HR-2]≧90.0 ・・・(1)
【0016】
ここで、本発明におけるバルブ本体(12)のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1、並びに、ダイヤフラム部材(ダイヤフラム40)における第一の層(42)及び第二の層(44)からなる積層部のロックウェル硬さ(HR15y):HR-2は、何れも、硬さスケールとしてHR15yを用いて、JIS-K-7202-2:2001「プラスチック-硬さの求め方-第2部:ロックウェル硬さ」に規定される手法に従って測定されるものである。
【0017】
また、上記した二種のロックウェル硬さ(HR15y)[HR-1、HR-2]の測定について、バルブ本体又はダイヤフラム部材において測定可能な部位であれば、測定部位は限定されるものではない。例えば、
図3は、
図1に示されるダイヤフラムバルブ10の一部を拡大して示す断面説明図であるところ、バルブ本体12の被装着部30は、ダイヤフラムバルブ10の高さ方向(
図1及び
図3の上下方向)における厚さが略均一で、表面が湾曲していない部位(非湾曲部位)にて構成されており、また、ダイヤフラム40の周縁部も、ダイヤフラムバルブ10の高さ方向における厚さが略均一で、表面が湾曲していない部位(非湾曲部位)にて構成されている。このようなバルブ本体12及びダイヤフラム40を備えたダイヤフラムバルブ10において、1)HR-1は、バルブ本体12の被装着部30を構成する非湾曲部位について測定され、2)HR-2は、ダイヤフラム40の周縁部を構成する非湾曲部位における、第一の層42及び第二の層44からなる積層部について、第一の層42の接液側の面(図における下面)を測定面として測定されることが、好ましい。
【0018】
なお、HR-1及びHR-2は、厚さ等によって測定結果が変化する恐れがあることから、硬さスケール(圧子)を押し込む位置を変えて複数回、測定し、その結果の平均値をHR-1、HR-2とすることが好ましい。また、ダイヤフラム40の周縁部には、前述したように周縁突条50が形成されているが、HR-2は、かかる周縁突条50を避けて測定されることとなる。さらに、本実施形態に係るダイヤフラム40の如く、第一の層42、第二の層44のみならず、第三の層46の積層構造体にてダイヤフラムが構成されている場合、HR-2は、第三の層46を形成する前の二つの層(第一の層42、第二の層44)からなる積層部について測定されるものであっても良く、また、積層構造体から公知の手法に従って第三の層46を除去した後、第一の層42の接液側の面(図における下面)を測定面として測定されるものであっても良い。
【0019】
ところで、バルブ本体12は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて得られる射出成形品であるところ、バルブ本体12を製造する際に使用されるポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、上述した二種のロックウェル硬さ(HR-1、HR-2)が所定の関係を満たす成形品を、成形条件(成形温度、成形圧力)を適宜に選択した射出成形法に従い、製造することが可能なものであれば、従来より公知のポリフッ化ビニリデン系樹脂の何れも使用することが可能である。なお、本発明におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーは勿論のこと、構造単位としてフッ化ビニリデン単位を含有するコポリマーをも含むものである。
【0020】
本発明のダイヤフラムバルブ10を構成するバルブ本体12の製造に際しては、上述したポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物が用いられるが、かかる樹脂組成物には、有利には、結晶核剤としてのフラバントロン(Flavanthrone)が添加される。フラバントロンを含む樹脂組成物を用いて得られる射出成形品にあっては、結晶粒子が一様に細かくなり、ブリスター(突起物)の発生を抑制することが出来るという本発明の効果を、より有利に享受することが可能である。また、フラバントロンの添加によって、射出成形品における結晶粒子が一様に細かくなることから、フラバントロンの添加は、長期間に亘る使用後の製品寸法変化の低減にも寄与すると考えられる。なお、フラバントロンとは、従来より黄色の建染め染料として知られている化合物であり、下記式(I)で表されるように、互変異性体が存在するものである。
【化1】
【0021】
また、バルブ本体12を製造するに際して、上述したフラバントロンを使用する場合、フラバントロンは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物中の含有割合が、質量基準にて、200~4000ppmとなるような量において、好ましくは500~2000ppmとなるような量において、使用されることが好ましい。樹脂組成物におけるフラバントロンの含有割合が200ppm未満では、フラバントロンの配合効果を有利に享受することが出来ない恐れがあり、その一方、含有割合が4000ppmを超える量のフラバントロンを使用しても、使用量に応じた大きな向上が認められず、射出成形品の黄色度が増加するだけに過ぎないところから、費用対効果の観点より、含有割合が4000ppmを超える量のフラバントロンを使用することは得策ではない。
【0022】
なお、バルブ本体12を製造する際に用いられる樹脂組成物には、上述したフラバントロン以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、充填剤や補強剤等の、従来より公知の各種の添加剤を適宜、含有せしめることも可能である。
【0023】
上述した、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いて、射出成形法に従ってバルブ本体12を製造するに際しては、従来と同様の手法に従い、樹脂組成物(成形材料)が調製される。例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と共にフラバントロンを使用する場合には、それらポリフッ化ビニリデン系樹脂等を、1)V型レンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する手法、2)押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて溶融混練する手法、3)前述した混合機と混練機とを組み合わせて混合、混練する手法や、或いは、4)ポリフッ化ビニリデン系樹脂とフラバントロンとを、前述した混練機を用いて溶融混練して、マスターバッチを作製し、このマスターバッチとポリフッ化ビニリデン系樹脂とを混合する手法等に従い、成形材料たる樹脂組成物が調製されることとなる。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみを用いてバルブ本体12を製造する場合には、上述した樹脂組成物(成形材料)の調製工程を必ずしも採用する必要はない。
【0024】
そして、調製された樹脂組成物(成形材料)を用いて、従来より公知の射出成形法に従って射出成形を実施することにより、本発明に従うダイヤフラムバルブ10を構成するバルブ本体12が得られるのである。かかる射出成形を実施する際の種々の成形条件、例えば、成形温度(シリンダー温度)や成形圧力(射出圧力)等については、得られる射出成形品について測定されるロックウェル硬さ(HR15y):HR-1と、ダイヤフラム部材40におけるロックウェル硬さ(HR15y):HR-2とが、本発明の関係(上記式(1)の関係)を満たすように、使用されるポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類や、目的とする射出成形品(樹脂製品)の形状、大きさ等に応じて適宜に決定されることとなる。例えば、成形温度(シリンダー温度)としては、170~230℃の範囲内にある温度が、好ましくは200~230℃の範囲内にある温度が採用される。また、成形圧力(射出圧力)としては、35~65MPaの範囲内にある圧力が設定されることが好ましい。65MPaを超える成形圧力(射出圧力)では結晶化が均一になり難く、また残留応力等によって成形品の強度が低下する恐れがあり、その一方、35MPa未満の成形圧力(射出圧力)では、成形型内にて成形材料の充填不足が発生する恐れや、成形品表面にフローマークが発生する等の成形不良が発生し易くなる等の問題がある。
【0025】
ところで、ダイヤフラム40における薬液に接触することとなる第一の層42について、その薄肉部は、一般に0.80~4.50mm程度の厚さとなるように形成される。かかる第一の層32を構成する材料としては、薬液に対する耐食性を確保するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂の如き、従来より公知の各種のパーフルオロカーボン系樹脂の中から適宜に選択されることとなるが、本発明においては、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が有利に用いられることとなる。
【0026】
また、そのような第一の層42を裏打ちする第三の層46は、コンプレッサ28の動作を第一の層42に有効に伝達させるためのものであって、一般に、2~15mm程度の厚さにおいて形成される。その材質としては、特に制限されるものではなく、公知のゴム弾性を有する材質が適宜に採用されるのであり、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等のエチレン・プロピレン系ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を挙げることが出来るが、それらの中でも、エチレン・プロピレン系ゴム、特にEPDMが、好適に用いられることとなる。
【0027】
さらに、それら第一の層42と第三の層46との間に介在せしめられる第二の層44は、第一の層42の薄肉部を透過する腐食性ガスを遮断して、第三の層46の劣化等を回避するためのものであり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にて構成されている。本発明においては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(ホモポリマー)が有利に用いられるところであるが、フッ化ビニリデンにヘキサフルオロプロピレンやテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化コモノマーを共重合させてなる、公知のフッ化ビニリデン系共重合体を用いることも可能である。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、1000MPa以下の引張弾性率を有しているものを用いることにより、第二の層44にマイクロクラックが惹起されるのを効果的に阻止して、その低ガス透過性を長く維持することが可能ならしめられる。なお、そのような引張弾性率の下限は、一般に650MPa程度である。また、かかる引張弾性率は、JIS-K-7161:2014に従って求められるものである。
【0028】
また、かかる第二の層44を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、好ましくは130~170℃、より好ましくは140~160℃の融点を有していることが望ましく、これによって、第二の層44が、中間シート層としての特徴を有利に発揮させることが可能となる。なお、このポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点が、130℃よりも低くなるとガスの透過率が高くなり、更に140℃よりも低くなると、流動性が高くなり、第二の層44の形成に際して、製品寸法がばらつく等の問題を惹起し易くなり、また、かかる融点が160℃を超えるようになると、第二の層44にマイクロクラックが発生し易くなり、更には170℃を超えると弾性率が高くなり、バルブの操作トルクが重くなる等の問題が、惹起されるようになる。
【0029】
なお、上述した物性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、市場において入手可能であり、例えば、株式会社クレハやソルベイジャパン株式会社等から市販されているものが、適宜に採用されるところである。本発明において、第二の層44の厚さは、有利には0.50~1.00mmに設定される。0.50mm未満の場合には、第一の層42の薄肉部を透過する腐食性ガスを十分に遮断することができない恐れがあり、その一方、1.00mmを超える厚さとしても、その厚さに応じて腐食性ガスの遮断性能は向上しないため、いたずらに製造コストを上昇させるだけとなり、得策ではない。また、例示のダイヤフラム30において、第二の層44は、第一の層42の中心部の厚肉部上には存在しないように、中心部に開口部が設けられてなる形態において、形成されている。そのような開口部を第二の層44に設けても、そこには、厚肉の第一の層32が存在し、また、その厚肉部位には、連結金具48の下部フランジ部が存在することによって、腐食性ガスの透過は充分に抑制乃至は阻止され得ることとなるからである。但し、腐食性ガスの濃度によっては、スピンドル等の金属部品を保護するために、第二の層44は、厚肉部の上部まで覆うような形状でもよい。
【0030】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0031】
例えば、ダイヤフラムバルブ10におけるダイヤフラム40を構成する第一の層42、第二の層44及び第三の層46は、別個に成形された後、積層されて、3層構造の積層体として用いられているのであるが、それら第一の層42と、第二の層44と、第三の層46とを相互に固着一体化してなる形態の積層構造において、用いることも可能である。
【0032】
また、第一の層42、第二の層44及び第三の層46のうちの少なくも何れか一層を、所定の製品形状に成形することなく、平坦なシート状形態のままにおいて、用いることも可能である。
【0033】
さらに、第三の層46は、ゴム弾性体のみにて構成される他、ゴム弾性体内に補強繊維を混在させたり、補強繊維層を介在させて、構成することも可能である。
【0034】
加えて、例示のダイヤフラムバルブ10におけるコンプレッサ28の駆動形式にあっても、例示の如きハンドル26の手動による回動操作に代えて、空気圧による空圧駆動方式やモータ等による電気駆動方式も採用可能であり、その駆動形式には、公知のものが適宜に採用されることとなる。
【実施例0035】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきところである。
【0036】
-樹脂組成物の調製-
先ず、所定量のポリフッ化ビニリデン系樹脂(株式会社クレハ製、商品名:クレハKFポリマー #1000、融点:173℃)と、かかるポリフッ化ビニリデン系樹脂との合計量において、質量基準にて5000ppmの割合となるような量のフラバントロンと、を準備した。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びフラバントロンを混合した後、押出機を用いて、230℃にて溶融混練して押し出し、フラバントロン含有樹脂ペレット(径:約2mm×長さ:3mm)を作製した。一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみについて、押出機を用いて溶融し、押し出し、樹脂ペレット(径:約2mm×長さ:3mm)を作製した。
【0037】
そして、80質量部の樹脂ペレットに対して、フラバントロン含有樹脂ペレットの20質量部に添加し、混合することにより、成形材料としての樹脂組成物aを調製した。なお、かかる樹脂組成物において、フラバントロンの含有割合は、質量基準にて1000ppmである。一方、上記樹脂ペレットのみからなるものを樹脂組成物bとした。
【0038】
-ダイヤフラムバルブ用バルブ本体の製造-
上記の如く調製した樹脂組成物aを用いて、成形温度(シリンダー温度):220℃、成形圧力(射出圧力):48MPaの条件にて射出成形法を実施することにより、
図1に示される如き構造を呈するダイヤフラムバルブ用バルブ本体として、口径が100mmのもの(バルブ本体I)と、口径が65mmのもの(バルブ本体II)とを製造した。また、樹脂組成物bを用いて、成形温度(シリンダー温度):220℃、成形圧力(射出圧力):48MPaの条件にて射出成形法を実施することにより、
図1に示される如き構造を呈するダイヤフラムバルブ用バルブ本体として、口径が65mmのもの(バルブ本体III )を製造した。
【0039】
-ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1の測定-
製造したバルブ本体における、ダイヤフラムの被装着部を構成する非湾曲部位の外表面を測定面として(
図3を参照)、JIS-K-7202-2:2001「プラスチック-硬さの求め方-第2部:ロックウェル硬さ」に規定される手法に従い、ロックウェル硬さ(HR15y):HR-1を測定した。なお、かかる測定は、上記非湾曲部位における任意の5箇所において実施し、各測定により得られた結果の平均値を算出し、この平均値を「バルブ本体のロックウェル硬さ(HR15y):HR-1」とした。得られたHR-1を、下記表1に示す。
【0040】
-ダイヤフラムの作製-
図1及び
図2に示される外形を呈する、第一の層及び第三の層の2層からなるダイヤフラム(実施例1、実施例2、比較例3)と、第一の層、第二の層及び第三の層の3層からなるダイヤフラム)とを作製した。かかる作製に際して、第一の層を形成する材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、第二の層を形成する材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF、引張弾性率:800MPa、融点:150℃)を、第三の層を形成する材料としてはEPDMを、それぞれ使用した。また、作製したダイヤフラムにおける各層の平均厚さは、1)口径が100mmのバルブ本体に用いられるダイヤフラム(実施例1)にあっては、第一の層が約3.5mm、第二の層が約0.7mm、第三の層が約10.8mmであり、2)口径が65mmのバルブ本体に用いられるダイヤフラム(実施例2、比較例1~比較例3)にあっては、第一の層が約1.2mm、第二の層が約0.7mm(但し、比較例2及び比較例3に係るダイヤフラムは、第二の層を有していない。)、第三の層が約7.1mmであった。
【0041】
-ロックウェル硬さ(HR15y):HR-2の測定-
上記した各ダイヤフラムの作製に際して、実施例1、実施例2及び比較例3に係るダイヤフラムにあっては第一の層及び第二の層からなる積層体を形成後、比較例1及び比較例2に係るダイヤフラムにあっては第一の層を形成後、各ダイヤフラムの被装着部を構成する非湾曲部位における第一の層の外表面を測定面として(
図3を参照)、JIS-K-7202-2:2001「プラスチック-硬さの求め方-第2部:ロックウェル硬さ」に規定される手法に従い、ロックウェル硬さ(HR15y):HR-2を測定した。かかる測定は、上記非湾曲部位における、周縁突条が形成された部位を除く任意の5箇所において実施し、各測定により得られた結果の平均値を算出し、この平均値を「ダイヤフラムのロックウェル硬さ(HR15y):HR-2」とした。得られたHR-2を、下記表1に示す。
【0042】
以上の如くして得られたバルブ本体及びダイヤフラムを下記表1に示すように組み合わせて、
図1に示されるダイヤフラムバルブを作製し、かかるダイヤフラムバルブについて、以下の試験を行なった。
【0043】
-シール性評価試験-
先ず、35%塩酸に、ダイヤフラムにおける第一の層が露出している側の面のみを接触させた状態で、50℃の環境の下で28日間、静置した(耐薬品性試験)。次いで、かかる耐薬品性試験に供された各ダイヤフラムを、下記表1に示すバルブ本体の各々に装着してダイヤフラムバルブとし、このダイヤフラムバルブを、水中に浸漬せしめ、ダイヤフラムを開状態(流体の流通が可能な状態)とした上で入口流路側からエアーを導入し、ダイヤフラムからのエアー漏れの有無(気泡の有無)を目視で確認した。エアー漏れ(気泡)が認められなかった場合は○(合格)と、認められた場合は×(不合格)と、それぞれ評価した。各評価結果を、下記表1の「シール性評価試験」欄に示す。
【0044】
-開閉トルク試験-
各ダイヤフラムバルブについて、バルブ開閉試験を行なった。なお、かかるバルブ開閉試験は、開閉サイクル操作圧:0.4MPa、1分間の開作動、1分間の閉作動の条件下において、繰返し実施した。10000回の開閉操作後にバルブを分解して、ダイヤフラムにおける第二の層(ポリフッ化ビニリデンからなる層)の状態(第二の層を有さないダイヤフラムについては、第三の層の状態)を目視で確認した。破損が認められない場合は○と、破損が認められた場合は×と、それぞれ評価した。各評価結果を、下記表1の「開閉トルク試験」欄に示す。
【0045】
【0046】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従うダイヤフラムバルブにあっては、PTFEからなる第一の層によって良好な耐食性を発揮すると共に、PVDFからなる第二の層により、腐食性ガスの透過が効果的に遮断せしめられ得、更には、HR-1とHR-2とが所定の関係(HR-1からHR-2を減じた値が90.0以上であること)を満たすように構成されていることによって、長期間の繰返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止され得て、以て、ダイヤフラムバルブとして、非常に優れた耐久性を発揮することが、認められるのである。