(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177837
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】溶接焼け除去装置
(51)【国際特許分類】
C25F 7/00 20060101AFI20231207BHJP
C25F 1/00 20060101ALI20231207BHJP
B23H 3/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C25F7/00 K
C25F1/00 B
B23H3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090741
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502046836
【氏名又は名称】タイメック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 武宏
(72)【発明者】
【氏名】花房 聡人
(72)【発明者】
【氏名】喜多 智大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 與志
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一博
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA02
(57)【要約】
【課題】電解処理による溶接焼けの除去作業を複雑な制御なしに自動化する。
【解決手段】溶接焼け除去装置は、電解エンドエフェクタのサポートが取り付けられる可動体と、前記可動体を移動させる少なくとも1つのアクチュエータと、を含む移動装置と、前記アクチュエータを制御する処理回路と、を備える。前記処理回路は、ポンプを制御して電解液フィーダに電解液を境界に供給させながら、前記アクチュエータを制御して短絡防止カバーを介して電極を溶接加工品の溶接焼け部に摺動させる電解処理を実行するように構成される。前記電解エンドエフェクタの前記サポートは、前記移動装置の前記可動体に取り付けられたベースと、前記ベースに対して前記電極を角変位可能に接続するカプラと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、前記電極を支持するサポートと、前記電極を覆い且つ複数の穴を有する非導電性の短絡防止カバーと、を含む電解エンドエフェクタと、
溶接加工品の表面の溶接焼け部と前記短絡防止カバーとの間の境界に電解液を供給する供給路と、前記供給路に前記電解液を流すポンプと、を含む電解液フィーダと、
前記電解エンドエフェクタの前記サポートが取り付けられる可動体と、前記可動体を移動させる少なくとも1つのアクチュエータと、を含む移動装置と、
前記アクチュエータを制御する処理回路と、を備え、
前記処理回路は、前記ポンプを制御して前記電解液フィーダに前記電解液を前記境界に供給させながら、前記アクチュエータを制御して前記短絡防止カバーを介して前記電極を前記溶接加工品の前記溶接焼け部に摺動させる電解処理を実行するように構成され、
前記電解エンドエフェクタの前記サポートは、前記移動装置の前記可動体に取り付けられたベースと、前記ベースに対して前記電極を角変位可能に接続するカプラと、を有する、溶接焼け除去装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記アクチュエータを制御し、前記溶接加工品の前記表面に交差する第1方向において前記電極を前記表面に押圧させながら、前記電極を第2方向に進行させるように構成されている、請求項1に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項3】
前記電極は、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に延びて且つ前記溶接加工品の前記表面に対向する電極面を有する、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項4】
前記カプラは、前記第2方向に延びたピボット軸を有する、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項5】
前記電極は、前記溶接加工品の前記表面に対向する電極面を有し、
前記電極面は、平面を有し、
前記カプラは、前記平面が前記第1方向に直交した状態の中立姿勢に向けて前記電極を付勢する弾性体を更に有する、請求項4に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項6】
前記カプラは、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向周りに前記電極が角変位するのを阻止するように前記電極を前記ベースに接続している、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項7】
前記処理回路は、前記アクチュエータを制御し、前記第2方向における前記電極の進行中に、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に前記電極を往復動させるように構成されている、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項8】
前記溶接加工品が設置される治具を更に備え、
前記溶接加工品は、板状構造体であり、
前記治具は、前記溶接加工品が縦置きされた状態で前記溶接加工品を支持し、
前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向は、上下方向である、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項9】
前記溶接加工品が設置される治具を更に備え、
前記溶接加工品は、屈曲形状を有する板状構造体であり、
前記治具は、水平方向において前記溶接加工品を支持する部分であって前記溶接加工品の屈曲形状に沿う形状を有する部分を含む、請求項2に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項10】
前記供給路における前記電解液の流れを検出可能な電解液センサを更に備え、
前記処理回路は、前記電解液センサの検出信号に基づいて前記供給路における前記電解液の流れが停止したと判定すると、前記電解処理を停止するように構成されている、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項11】
前記溶接加工品が設置される治具と、
前記治具に設置された前記溶接加工品の種別を識別する識別センサと、を更に備え、
前記処理回路は、
前記アクチュエータの複数の制御パターンを記憶することと、
前記識別センサの検出信号に基づいて、前記治具に設置された前記溶接加工品の種別を判定することと、
前記判定された種別に対応する制御パターンを前記複数の制御パターンから選択し、前記選択された制御パターンを実行することと、
を行うように構成されている、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の溶接焼け除去装置。
【請求項12】
前記溶接加工品が設置される治具と、
前記治具に設置される前記溶接加工品の下方に配置される廃液受と、を更に備える、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の溶接焼け除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接焼け除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステンレス鋼などの金属の溶接焼けを電気化学作用により電解除去する装置が開示されている。前記装置は、グリップと、前記グリップの先端に設けた電極と、前記電極を覆った布又は多孔セラミックの短絡防止材と、を備える。作業員は、前記グリップを把持し、前記短絡防止材と前記溶接加工品との間の境界に電解液が供給された状態で、溶接加工品の溶接焼け部に前記短絡防止材を介して前記電極を摺動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、溶接加工品が大きくて溶接焼け部が広範囲に存在する場合には、作業員の作業負担が大きい。また、溶接焼けの除去作業を自動化しようとしても、溶接加工品の表面は歪で変形している場合があり、制御が複雑になり得る。
【0005】
そこで本開示の一態様は、電解処理による溶接焼けの除去作業を複雑な制御なしに自動化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る溶接焼け除去装置は、電極と、前記電極を支持するサポートと、前記電極を覆い且つ複数の穴を有する非導電性の短絡防止カバーと、を含む電解エンドエフェクタと、溶接加工品の表面の溶接焼け部と前記短絡防止カバーとの間の境界に電解液を供給する供給路と、前記供給路に前記電解液を流すポンプと、を含む電解液フィーダと、前記電解エンドエフェクタの前記サポートが取り付けられる可動体と、前記可動体を移動させる少なくとも1つのアクチュエータと、を含む移動装置と、前記アクチュエータを制御する処理回路と、を備える。前記処理回路は、前記ポンプを制御して前記電解液フィーダに前記電解液を前記境界に供給させながら、前記アクチュエータを制御して前記短絡防止カバーを介して前記電極を前記溶接加工品の前記溶接焼け部に摺動させる電解処理を実行するように構成されている。前記電解エンドエフェクタの前記サポートは、前記移動装置の前記可動体に取り付けられたベースと、前記ベースに対して前記電極を角変位可能に接続するカプラと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、移動装置が電解エンドエフェクタの電極を溶接加工品の表面に摺動させる際に、電極がベースに対して角変位できることにより、歪で変形した溶接加工品の表面に電極が滑らかに追従できる。よって、電解処理による溶接焼けの除去作業を複雑な制御なしに自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る溶接焼け除去装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の溶接焼け除去装置の別角度から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5の電解エンドエフェクタの要部断面図である。
【
図7】
図7は、
図1の溶接焼け除去装置のコントローラのブロック図である。
【
図8】
図8は、側構体の溶接焼け部の拡大斜視図である。
【
図9】
図9は、
図1の溶接焼け除去装置による電解処理を説明する要部断面図である。
【
図10】
図10Aは、溶接焼け部に対する電極の摺動パターンの第1例を説明する図面である。
図10Bは、溶接焼け部に対する電極の摺動パターンの第2例を説明する図面である。
図10Cは、溶接焼け部に対する電極の摺動パターンの第3例を説明する図面である。
図10Dは、溶接焼け部に対する電極の摺動パターンの第4例を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明において、X方向(第2方向)は水平方向を意味し、Y方向(第3方向)は上下方向を意味し、Z方向(第1方向)はX方向及びY方向に直交する方向を意味する。
【0010】
図1は、実施形態に係る溶接焼け除去装置1の斜視図である。
図2は、
図1の溶接焼け除去装置1の別角度から見た斜視図である。
図1及び2に示すように、溶接焼け除去装置1は、電解処理により溶接加工品の表面の溶接焼け部を除去するための装置である。前記溶接加工品は、例えば、鉄道車両の側構体90である。側構体90は、複数の部材がZ方向に互いに溶接されてなる板状構造体である。
【0011】
具体的には、側構体90は、外板91と、外板91の裏面に溶接された複数の骨部材92と、を備える。複数の骨部材92は、上下方向に延びる縦骨部材と、水平方向に延びる横骨部材と、を含む。外板91は、窓開口H1及び補助開口H2を有する。側構体90は、水平方向に延びる屈曲部90aを有する。即ち、側構体90において、屈曲部90aの下側の第1部分90bと、屈曲部90aの上側の第2部分90cとは、互いに異なる角度に延びている。なお、外板91の屈曲形状、骨部材92の形状及び配置、及び、開口H1,H2の形状及び配置等は、側構体90の種別ごとに異なり得る。
【0012】
溶接焼け除去装置1は、側構体90が設置される治具2を備える。治具2は、側構体90が縦置きされた状態で側構体90を支持する。具体的には、治具2は、地面に設置される第1フレーム11と、第1フレーム11から上方に突出した第2フレーム12と、を有する。第2フレーム12は、下支持フレーム13及び側支持フレーム14を含む。下支持フレーム13は、側構体90の下端を下方から支持する。側支持フレーム14は、下支持フレーム13の上方に配置され、側構体90の内面すなわち骨部材92が存在する面を側方から支持する。
【0013】
溶接焼け除去装置1は、電解エンドエフェクタ4を移動させるための移動装置3を備える。移動装置3は、地面に設置されてX方向に延びるX軸ガイド21と、X軸ガイド21に沿ってX方向に移動可能な可動ユニット22と、を有する。X軸ガイド21は、例えばリニアガイドであり、可動ユニット22は、X軸ガイド21によってX方向にスライド自在に支持されている。可動ユニット22は、X軸ガイド21に支持される基部31と、基部31から上方に突出した柱部32と、を含む。
【0014】
移動装置3は、1つのX軸アクチュエータ23、2つのY軸アクチュエータ24、及び、2つのZ軸アクチュエータ25を有する。Y軸アクチュエータ24及びZ軸アクチュエータ25の各々の数は、電解エンドエフェクタ4の数と同じである。本実施形態では、電解エンドエフェクタ4の数を2つとしたが、1つでも3つ以上としてもよい。
【0015】
X軸アクチュエータ23は、例えば、ラックアンドピニオン電動駆動装置である。X軸アクチュエータ23は、X軸モータ33と、ラック34と、図示しないピニオンと、を含む。X軸モータ33は、可動ユニット22の基部31に設置され、前記ピニオンを回転駆動する。ラック34は、X軸ガイド21に平行に延びている。ラック34に噛み合った前記ピニオンがX軸モータ33により回転することで、可動ユニット22はX軸ガイド21に沿ってX方向に移動する。それにより、可動ユニット22に支持された電解エンドエフェクタ4がX方向に移動する。
【0016】
Y軸アクチュエータ24は、例えば、電動リニアアクチュエータである。Y軸アクチュエータ24は、Y軸モータ35と、Y方向に延び且つY軸モータ35により駆動されるボールネジ機構36と、を含む。ボールネジ機構36には、Y軸可動体37が接続されている。Y軸モータ35が駆動してボールネジ機構36が作動すると、ボールネジ機構36に連動してY軸可動体37がY方向に移動する。それにより、Y軸可動体37に支持された電解エンドエフェクタ4がY方向に移動する。Y方向は、上下に向いていれば完全な鉛直方向でなくてよい。なお、Z軸アクチュエータ25については、
図5を参照して後述する。
【0017】
図3は、
図1の溶接焼け除去装置1の正面図である。
図3に示すように、治具2の下支持フレーム13は、複数の位置決め部13aを有する。位置決め部13aは、例えば、上方に突出した突起である。側構体90の骨部材92(
図2参照)は、下方に開口した内部空間を有し、当該内部空間に位置決め部13aが下方から差し込まれる。
【0018】
溶接焼け除去装置1は、下支持フレーム13の真下に配置された廃液受6を備える。即ち、廃液受6は、治具2に設置された側構体90の真下に配置されることになる。廃液受6は、X方向に延びて且つ上方に開口した容器である。廃液受6の底面は、水平方向に対して傾斜している。廃液受6の底面の最下部には、ドレンチューブ7が接続されている。側構体90をつたって落下した電解液すなわち廃液は廃液受6に受け止められ、廃液受6に溜まった廃液はドレンチューブ7を通じて所定の場所に導かれる。
【0019】
図4は、
図1の溶接焼け除去装置1の側面図である。
図4に示すように、側構体90は、X方向から見て、屈曲部90aにおいて屈曲した屈曲形状を有する。治具2の側支持フレーム14は、側構体90における屈曲部90aの下側の第1部分90bを支持する第1支持部14aと、側構体90における屈曲部90aの上側の第2部分90cを支持する第2支持部14bと、を含む。第1支持部14a及び第2支持部14bは、側構体90のうち骨部材92に対向し、側構体90を側方から支持する。
【0020】
側支持フレーム14における第1支持部14aと第2支持部14bとがなす角度は、調節可能に構成されている。第1支持部14aと第2支持部14bとがなす角度は、側構体90における第1部分90bと第2部分90cとがなす角度と同じに設定される。即ち、第1支持部14a及び第2支持部14bは、治具2のうち側構体90の屈曲形状に沿う形状を有する部分である。側構体90は、下支持フレーム13上に縦置きされた状態で鉛直方向に対して傾斜して側支持フレーム14に凭れ掛かっている。
【0021】
側支持フレーム14には、治具2に設置された側構体90の種別を識別する識別センサ5が設けられている。側構体90は、種別によって形状が異なる。識別センサ5は、側構体90の種別を識別するために、治具2に設置された側構体90の形状を検出する。例えば、識別センサ5は、近接センサである。側構体90は、種別によって骨部材92の配置が異なる。識別センサ5は、治具2に設置された側構体90の骨部材92を検出する。
【0022】
図5は、
図1の電解エンドエフェクタ4の斜視図である。
図5に示すように、電解エンドエフェクタ4には、Z軸アクチュエータ25が接続されている。Z軸アクチュエータ25は、例えば、電動リニアアクチュエータである。Z軸アクチュエータ25は、Z軸モータ38と、Z方向に延び且つZ軸モータ38により駆動されるボールネジ機構39と、を含む。ボールネジ機構39には、Z軸可動体40が接続されている。Z軸モータ38が駆動してボールネジ機構39が作動すると、ボールネジ機構39に連動してZ軸可動体40がZ方向に移動する。それにより、Z軸可動体40に支持された電解エンドエフェクタ4がZ方向に移動する。
【0023】
電解エンドエフェクタ4は、電極41と、電極41を支持するサポート42と、電極41を覆う短絡防止カバー43と、を備える。電極41は、金属からなる。電極41は、Z方向に向いて側構体90の外板91の表面91a(
図1参照)に対向する電極面41aを有する。電極面41aは、平面を有する。電極41は、Y方向に延びた矩形形状を有する。短絡防止カバー43は、電極41を覆っている。短絡防止カバー43は、非導電性材料からなり、複数の穴を有する。短絡防止カバー43は、布などの繊維材料、又は、多孔セラミック材料により形成され得る。
【0024】
サポート42は、Z軸可動体40に接続され、電極41を支持している。サポート42は、Z軸可動体40に取り付けられたベース51と、ベース51に対して電極41を角変位可能に接続するカプラ52と、を有する。カプラ52は、ピボット軸53及びブラケット54を有する。ピボット軸53は、X方向に延び、ベース51に支持されている。ブラケット54は、ピボット軸53を回動自在に支持し、電極41に接続されている。電極41は、ピボット軸53周りに角変位可能となっている。
【0025】
ベース51には、変位センサ67が取り付けられている。変位センサ67は、電極41と側構体90との間のZ方向の距離を検出する。ブラケット54には、給電回路65に接続された電線68が接続されている。電極41には、ブラケット54及び電線68を介して給電回路65から給電される。
【0026】
短絡防止カバー43(又は電極41)には、電解フィーダ8が接続されている。電解フィーダ8は、供給チューブ61及びポンプ62を有する。供給チューブ61は、電解液タンク9を短絡防止カバー43に接続している。供給チューブ61は、電解液タンク9から短絡防止カバー43に電解液を供給する供給路61aを有する。電解液タンク9は、電解液を貯留している。電解液タンク9は、例えば、可動ユニット22(
図1参照)に設置され得る。
【0027】
ポンプ62は、電解液タンク9に貯留された電解液を、供給路61aを通じて短絡防止カバー43に向けて流す。電解フィーダ8には、供給路61aにおける電解液の流れを検出可能な電解液センサ63が設けられている。電解液センサ63は、例えば、供給チューブ61に設けられた流量センサとし得る。
【0028】
図6は、
図5の電解エンドエフェクタ4の要部断面図である。
図6に示すように、電極41は、ピボット軸53周りに回動自在である。カプラ52は、ピボット軸53以外にはピボット軸を有していない。即ち、カプラ52は、Y方向周りに電極41が角変位するのを阻止するように電極41をベース51に接続している。
【0029】
電解エンドエフェクタ4のカプラ52は、一対のピン55A,55Bと、一対の弾性体56A,56Bと、を含む。弾性体56Aは、ブラケット54がピボット軸53周りの一方向に回転する向きにピン55Aを介してブラケット54を押圧する。弾性体56Bは、ブラケット54がピボット軸53周りの他方向に回転する向きにピン55Bを介してブラケット54を押圧する。弾性体56A,56Bは、電極41がピボット軸53周りに回転したときに電極面41aがZ方向に直交した状態の中立姿勢に電極41が戻るように、ピン55A,55B及びブラケット54を介して電極41を付勢している。
【0030】
図7は、
図1の溶接焼け除去装置1のコントローラ10のブロック図である。なお、
図1では、コントローラ10の図示は省略している。
図10に示すように、コントローラ10の入力側には、識別センサ5、ユーザインターフェース66、電解液センサ63、及び、変位センサ67が接続されている。コントローラ10の出力側には、X軸モータ33、Y軸モータ35、Z軸モータ38、ポンプ62、及び、給電回路65が接続されている。
【0031】
コントローラ10は、プロセッサ及びメモリを含む。具体的には、コントローラ10は、プロセッサ71、システムメモリ72、ストレージメモリ73等を含む。プロセッサ71は、例えば、中央演算処理装置である。システムメモリ72は、例えば、RAMである。ストレージメモリ73は、コンピュータ可読媒体の例であり、非一時的で有形な媒体である。ストレージメモリ73は、ROMを含み得る。ストレージメモリ73は、プログラムを記憶している。システムメモリ72に読み出された当該プログラムをプロセッサ71が実行する構成は、処理回路の一例である。
【0032】
電解エンドエフェクタ4の移動パターンは、X軸モータ33、Y軸モータ35及びZ軸モータ38の制御パターンにより決まる。ストレージメモリ73は、各モータ33,35,38の制御パターンとして、互いに異なる複数の制御パターンを記憶している。これら制御パターンは、側構体90の種別に対応付けて記憶されている。これら制御パターンは、側構体90の形状に応じて、側構体90の開口H1,H2を避けるように電解エンドエフェクタ4の移動経路を特定している。
【0033】
作業者がユーザインターフェース66を介して開始指令を入力すると、コントローラ10は、識別センサ5の検出信号に基づいて、治具2に設置された側構体90の種別を判定する。コントローラ10は、前記判定された種別に対応する制御パターンをストレージメモリ73に記憶された複数の制御パターンから選択し、その選択された制御パターンに従って電解処理を開始する。
【0034】
前記電解処理では、コントローラ10は、前記選択された制御パターンに従って各モータ33,35,38を制御する。コントローラ10は、Z軸モータ38の制御時には、変位センサ67の検出信号に基づいてZ軸モータ38の動作量を調節する。前記電解処理では、コントローラ10は、電極41(
図9参照)に給電するように給電回路65を制御するとともに、ポンプ62を駆動する。コントローラ10は、電解液センサ63によって供給路61a(
図6参照)に電解液が流れていないことが検出されると、前記電解処理を中止し、報知を出力する。
【0035】
図8は、側構体90の溶接焼け部Waの拡大斜視図である。
図8に示すように、側構体90では、外板91に対する骨部材92のスポット溶接により、外板91の表面91aにはスポット状の溶接部Wが存在している。溶接部Wは、外板91の表面91aにおいて隆起しており、溶接部Wの周囲に溶接焼け部Waが発生する。
【0036】
図9は、
図1の溶接焼け除去装置1による電解処理を説明する要部断面図である。
図9に示すように、前記電解処理では、コントローラ10(
図7参照)は、ポンプ62を制御して供給チューブ61を介して側構体90と電極41との間の境界Bに電解液を供給させながら、各モータ33,35,38を制御して短絡防止カバー43を介して電極41を側構体90の溶接焼け部Waに摺動させる。
【0037】
この際、コントローラ10(
図7参照)は、Z軸モータ38(
図5参照)を制御してZ方向において側構体90の表面91aに電極41を押圧させながら、X軸モータ33(
図1参照)を制御して電極41をX方向に進行させる。これにより、側構体90の表面91aに広範囲に存在する溶接焼け部Waが電解処理で効率よく除去される。コントローラ10は、電極41が側構体90の表面91aを一定荷重で押圧するようにZ軸モータ38をトルク制御するが、電解エンドエフェクタ4に荷重センサを設けて、電極41から表面91aに掛かる荷重を検出して当該荷重を一定に制御してもよい。
【0038】
外板91の表面91aが歪で変形していても、ベース51に対して電極41がピボット軸53周りに弾性的に角変位することにより、電極41は側構体90の表面91aに滑らかに追従する。電極41は、Y方向に延びた形状を有するため、同時に複数の溶接部Waに対して摺動する。これにより、側構体90の表面91aが広範囲に電解処理され、溶接焼け除去に掛かる時間が短縮される。また、側構体90の全体に亘って電極面41aを摺動させれば、溶接焼けの除去のみならず、側構体90の表面仕上げとしても有効である。
【0039】
図10Aは、溶接焼け部Waに対する電極41の摺動パターンの第1例を説明する図面である。
図10Aに示すように、第1例では、コントローラ10(
図7参照)は、Y軸モータ35(
図1参照)を駆動せずにX軸モータ33(
図1参照)を駆動して電極41をX方向に直線的に移動させる。この摺動パターンによれば、前記電解処理により溶接焼けが比較的除去されやすい場合には、短時間で溶接焼け除去作業を完了させることができる。
【0040】
図10Bは、溶接焼け部Waに対する電極41の摺動パターンの第2例を説明する図面である。
図10Cは、溶接焼け部Waに対する電極41の摺動パターンの第3例を説明する図面である。
図10B及び10Cに示すように、第2例及び第3例では、コントローラ10(
図7参照)は、Y軸モータ35(
図1参照)を駆動して電極41をY方向に往復動させながら、X軸モータ33(
図1参照)を駆動して電極41をX方向に移動させる。この摺動パターンによれば、溶接焼け部Waに対して短絡防止カバー43(
図9参照)を介して電極41が多角的にアクセスするため、溶接焼けを万遍なく除去できる。
【0041】
図10Dは、溶接焼け部Waに対する電極41の摺動パターンの第4例を説明する図面である。
図10Dに示すように、第4例では、コントローラ10(
図7参照)は、Y軸モータ35(
図1参照)を駆動して電極41をY方向に往復動させながら、X軸モータ33(
図1参照)を駆動して電極41をX方向に前進及び後進を繰り返しながらX方向に移動させる。この摺動パターンによれば、溶接焼け部Waに対して短絡防止カバー43(
図9参照)を介して電極41が多角的に繰り返しアクセスするため、溶接焼けを万遍なく除去できる。
【0042】
なお、本開示の技術は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、溶接加工品は、鉄道車両の側構体90に限られず、溶接焼けが発生するものであれば他のものでもよい。側構体90の溶接方式はスポット溶接に限られず、他の溶接方式(例えば、レーザー溶接)であってもよい。移動装置3は、電解エンドエフェクタ4を保持する多関節ロボットであってもよい。電解液センサ63は、電解液タンク9の残量を検出するセンサであってもよい。ピン55A,55B及び弾性体56A,56Bの代わりに、ピボット軸53周りに配置されるトーションバネが用いられてもよい。識別センサ5は、二次元コードリーダでもよいし、画像処理により形状から種別判定を行うために画像を撮影するカメラでもよい。
【0043】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0044】
本明細書で開示する制御に関する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット若しくは手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、又は、列挙された機能を実行するようにプログラム若しくは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段若しくはユニットは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0045】
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0046】
[項目1]
電極と、前記電極を支持するサポートと、前記電極を覆い且つ複数の穴を有する非導電性の短絡防止カバーと、を含む電解エンドエフェクタと、
溶接加工品の表面の溶接焼け部と前記短絡防止カバーとの間の境界に電解液を供給する供給路と、前記供給路に前記電解液を流すポンプと、を含む電解液フィーダと、
前記電解エンドエフェクタの前記サポートが取り付けられる可動体と、前記可動体を移動させる少なくとも1つのアクチュエータと、を含む移動装置と、
前記アクチュエータを制御する処理回路と、を備え、
前記処理回路は、前記ポンプを制御して前記電解液フィーダに前記電解液を前記境界に供給させながら、前記アクチュエータを制御して前記短絡防止カバーを介して前記電極を前記溶接加工品の前記溶接焼け部に摺動させる電解処理を実行するように構成され、
前記電解エンドエフェクタの前記サポートは、前記移動装置の前記可動体に取り付けられたベースと、前記ベースに対して前記電極を角変位可能に接続するカプラと、を有する、溶接焼け除去装置。
【0047】
この構成によれば、移動装置が電解エンドエフェクタの電極を溶接加工品の表面に摺動させる際に、電極がベースに対して角変位できることにより、電極が歪で変形した溶接加工品の表面に滑らかに追従できる。よって、電解処理による溶接焼けの除去作業を複雑な制御なしに自動化できる。
【0048】
[項目2]
前記処理回路は、前記アクチュエータを制御し、前記溶接加工品の前記表面に交差する第1方向において前記電極を前記表面に押圧させながら、前記電極を第2方向に進行させるように構成されている、項目1に記載の溶接焼け除去装置。
【0049】
この構成によれば、溶接加工品の表面に広範囲に存在する溶接焼けを効率よく除去できる。
【0050】
[項目3]
前記電極は、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に延びて且つ前記溶接加工品の前記表面に対向する電極面を有する、項目1又は2に記載の溶接焼け除去装置。
【0051】
この構成によれば、電極が第2方向に進行する際に、第1方向及び第2方向に直交する第3方向において溶接加工品の表面を幅広く電解処理できる。よって、溶接焼け除去に掛かる時間を短縮できる。
【0052】
[項目4]
前記カプラは、前記第2方向に延びたピボット軸を有する、項目2又は3に記載の溶接焼け除去装置。
【0053】
この構成によれば、電極の進行方向である第2方向に延びたピボット軸周りに電極が角変位できる。そのため、第1方向及び第2方向に直交する第3方向に電極が揺動でき、溶接加工品の表面における第3方向の曲がりに電極が滑らかに追従できる。よって、溶接加工品に歪があっても溶接焼けを均一に除去できる。
【0054】
[項目5]
前記電極面は、平面を有し、
前記カプラは、前記平面が前記第1方向に直交した状態の中立姿勢に向けて前記電極を付勢する弾性体を更に有する、項目4に記載の溶接焼け除去装置。
【0055】
この構成によれば、溶接加工品の表面の曲がりに従って電極が角変位しても、電極面が溶接加工品の表面をバランスよく押圧することになる。よって、溶接加工品に歪があっても溶接焼けを均一に除去できる。
【0056】
[項目6]
前記カプラは、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向周りに前記電極が角変位するのを阻止するように前記電極を前記ベースに接続している、項目2乃至5のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0057】
この構成によれば、電極の進行方向に電極が揺動しないため、電極の摺動中に溶接加工品の表面に対して電極を安定的に押圧できる。よって、ベースに対して電極を角変位可能にしても、溶接焼けを均一に除去できる。
【0058】
[項目7]
前記処理回路は、前記アクチュエータを制御し、前記第2方向における前記電極の進行中に、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に前記電極を往復動させるように構成されている、項目2乃至6のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0059】
この構成によれば、溶接加工品の溶接焼け部に対して短絡防止カバーを介して電極が多角的にアクセスするため、溶接焼けを万遍なく除去できる。
【0060】
[項目8]
前記溶接加工品が設置される治具を更に備え、
前記溶接加工品は、板状構造体であり、
前記治具は、前記溶接加工品が縦置きされた状態で前記溶接加工品を支持し、
前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向は、上下方向である、項目2乃至7のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0061】
この構成によれば、省スペース化のために縦置き保管された板状の溶接加工品をその姿勢のまま治具に設置できる。溶接加工品をひっくり返さずに治具に設置できるため、作業性が向上するとともに溶接加工品に傷が付く可能性も減らすことができる。また、板状の溶接加工品が縦置きされることで、電解液が溶接加工品の上に溜まることもなく、溶接加工品を品質良く仕上げることができる。
【0062】
[項目9]
前記溶接加工品が設置される治具を更に備え、
前記溶接加工品は、屈曲形状を有する板状構造体であり、
前記治具は、水平方向において前記溶接加工品を支持する部分であって前記溶接加工品の屈曲形状に沿う形状を有する部分を含む、項目2乃至8のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0063】
この構成によれば、溶接加工品が屈曲形状を有するものであっても電極が溶接加工品に適切な角度で押圧でき、溶接焼けをムラなく除去できる。
【0064】
[項目10]
前記供給路における前記電解液の流れを検出可能な電解液センサを更に備え、
前記処理回路は、前記電解液センサの検出信号に基づいて前記供給路における前記電解液の流れが停止したと判定すると、前記電解処理を停止するように構成されている、項目1乃至9のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0065】
この構成によれば、電解液が供給されない状態で電解エンドエフェクタが溶接加工品に摺動することを自動的に防止できる。よって、自動化された電解処理の品質を向上できる。
【0066】
[項目11]
前記溶接加工品が設置される治具と、
前記治具に設置された前記溶接加工品の種別を識別する識別センサと、を更に備え、
前記処理回路は、
前記アクチュエータの複数の制御パターンを記憶することと、
前記識別センサの検出信号に基づいて、前記治具に設置された前記溶接加工品の種別を判定することと、
前記判定された種別に対応する制御パターンを前記複数の制御パターンから選択し、前記選択された制御パターンを実行することと、
を行うように構成されている、項目1乃至10のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0067】
この構成によれば、異なる種別の溶接加工品に対して溶接焼け除去作業を行う場合にも、治具に設置された溶接加工品の種別ごとに適切な制御パターンが選択される。よって、溶接加工品の種別が変わっても溶接焼けの除去作業を適切に実施できる。
【0068】
[項目12]
前記溶接加工品が設置される治具と、
前記治具に設置される前記溶接加工品の下方に配置される廃液受と、を更に備える、項目1乃至11のいずれかに記載の溶接焼け除去装置。
【0069】
この構成によれば、電解処理に使用された後に溶接加工品をつたって落下する電解液が廃液受に受け止められるため、使用済み電解液が作業環境を汚すことを防止できる。
【符号の説明】
【0070】
1 溶接焼け除去装置
2 治具
3 移動装置
4 電解エンドエフェクタ
5 識別センサ
6 廃液受
8 電解フィーダ
10 コントローラ
23 X軸アクチュエータ
24 Y軸アクチュエータ
25 Z軸アクチュエータ
41 電極
41a 電極面
42 サポート
43 短絡防止カバー
51 ベース
52 カプラ
53 ピボット軸
56A,56B 弾性体
61a 供給路
62 ポンプ
63 電解液センサ
90 側構体(溶接加工品)
91a 表面
B 境界
Wa 溶接焼け部