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特開2023-177838プロピレン系ブロック共重合体及び重合体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177838
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】プロピレン系ブロック共重合体及び重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/02 20060101AFI20231207BHJP
   C08L 55/00 20060101ALI20231207BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20231207BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08G81/02
C08L55/00
B32B27/32 Z
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090744
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
4J031
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AB02
3E086AC06
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB01
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3E086BB41
3E086BB51
3E086BB52
3E086BB55
3E086BB74
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA28
3E086DA08
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AT00B
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4F100BA07
4F100EH36
4F100EJ94
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4F100JK09
4F100JL06
4J002AA011
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4J002BA011
4J002BB011
4J002BB031
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4J002BC041
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4J031AC13
4J031AD01
4J031AE03
4J031AE15
4J031AF03
4J031AF23
(57)【要約】
【課題】表面特性である防汚性や低摩擦性に優れた成形体を可能とするプロピレン系ブロック共重合体及びそれを含む重合体組成物、成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】プロピレン単位を主体とするブロックと、シロキサン単位を主体とするブロックとがSi-C結合された構造単位を有するプロピレン系ブロック共重合体。例えば、プロピレン単位1000単位当たりのシロキサン単位の数が50以上、300以下であるプロピレン系ブロック共重合体を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン単位を主体とするブロックと、シロキサン単位を主体とするブロックとがSi-C結合された構造単位を有するプロピレン系ブロック共重合体。
【請求項2】
プロピレン単位1000単位当たりのシロキサン単位の数が50以上、300以下である請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプロピレン系ブロック共重合体と熱可塑性樹脂とを含む重合体組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系重合体である請求項3に記載の重合体組成物。
【請求項5】
重合体組成物100質量%中のプロピレン系ブロック共重合体の含有率が1質量%以上50質量%以下である、請求項3に記載の重合体組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の重合体組成物からなるフィルム。
【請求項7】
請求項3に記載の重合体組成物からなるシート。
【請求項8】
請求項3に記載の重合体組成物からなる射出成形体。
【請求項9】
請求項3に記載の重合体組成物からなる医療成形体。
【請求項10】
プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、及び注射器シリンジから選ばれる一種である請求項9に記載の医療成形体。
【請求項11】
請求項6に記載のフィルムからなる包装体。
【請求項12】
請求項6に記載のフィルムからなる食品包装体。
【請求項13】
ポリプロピレン系樹脂を含む基材層、及び請求項3に記載の重合体組成物からなる層を有する医療用積層体。
【請求項14】
請求項13に記載された医療用積層体を用いた医療用包装袋。
【請求項15】
請求項14に記載された医療用包装袋を用いた輸液バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロピレン系ブロック共重合体及び重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスチックと呼ばれる熱可塑性樹脂、特にポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンは、優れた機械強度を有しながら加工性、耐薬品性、電気的性質にも優れ、また軽量かつ安価であるため、生活部材や工業部材等の用途に幅広く用いられている。ポリオレフィンに対して改善が望まれている特性として、特に撥水性、撥油性、防汚性、非接着性、低吸着性、ガス透過性等の表面特性がある。これらの性能については、トイレタリーや食品などの生活産業材料分野において、また、防汚性や低吸着性などが要求される医療用衛生材料分野において、特にその改良が期待されている。
【0003】
これら熱可塑性樹脂、とりわけポリオレフィンの表面特性を改質する目的で、ポリオレフィンにオルガノポリシロキサン(a)を共重合させることが知られている。このような共重合体の例として、特許文献1~3に示されているような、所定のポリオレフィンとシロキサンコポリマーの重合体があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-59810号公報
【特許文献2】特開2019-163449号公報
【特許文献3】特開2010-37555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のシロキサン鎖にプロピレン鎖がグラフトされているプロピレングラフト共重合体は、シロキサンが成形体表面に偏析しにくく、表面特性が発現しにくいという課題があった。
【0006】
また、特許文献2には、直鎖状のジブロック構造あるいはトリブロック構造を有するブロックポリマーが開示されているが、これらは実質的にポリプロピレンとポリシロキサンをエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合を介して結合させており、熱安定性や経済性、反応制御の観点で課題が多い。
【0007】
特許文献3には、シリル化ポリオレフィンの製造方法について開示されており、末端にヒドリド基を有するシロキサンポリマーとポリオレフィンを反応させてなる直鎖状ブロックコポリマーについても開示されているものの、実質的にポリオレフィンとして末端ビニル基含有ポリエチレンのみが開示されているのみである。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、表面特性、特に防汚性や低摩擦性に優れた成形体を可能とするプロピレン系ブロック共重合体及びそれを含む重合体組成物、成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するオルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン、具体的には、少なくとも一つの末端に反応基を有するオルガノポリシロキサン(a)と、少なくとも一つの反応基を有するポリプロピレンとを反応させたシリル化ポリプロピレンを提供する事を目的とする。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
[1]プロピレン単位を主体とするブロックと、シロキサン単位を主体とするブロックとがSi-C結合された構造単位を有するプロピレン系ブロック共重合体。
[2]プロピレン単位1000単位当たりのシロキサン単位の数が50以上、300以下である[1]に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
[3][1]又は[2]に記載のプロピレン系ブロック共重合体と熱可塑性樹脂とを含む重合体組成物。
[4]前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系重合体である[3]に記載の重合体組成物。
[5]重合体組成物100質量%中のプロピレン系ブロック共重合体の含有率が1質量%以上50質量%以下である、[3]又は[4]に記載の重合体組成物。
[6][3]~[5]のうちのいずれか1つに記載の重合体組成物からなるフィルム。
[7][3]~[5]のうちのいずれか1つに記載の重合体組成物からなるシート。
[8][3]~[5]のうちのいずれか1つに記載の重合体組成物からなる射出成形体。
【0011】
[9][3]~[5]のうちのいずれか1つに記載の重合体組成物からなる医療成形体。
[10]プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、及び注射器シリンジから選ばれる一種である[9]に記載の医療成形体。
[11][6]に記載のフィルムからなる包装体。
[12][6]に記載のフィルムからなる食品包装体。
[13]ポリプロピレン系樹脂を含む基材層、及び[3]~[5]のうちのいずれか1つに記載の重合体組成物からなる層を有する医療用積層体。
[14][13]に記載された医療用積層体を用いた医療用包装袋。
[15][14]に記載された医療用包装袋を用いた輸液バッグ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面特性、特に防汚性や低摩擦性に優れた成形体を可能とするプロピレン系ブロック共重合体及びそれを含む重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0014】
[プロピレン系ブロック共重合体]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、プロピレン単位を主体とするブロックと、シロキサン単位を主体とするブロックとがSi-C結合された構造単位を有することを特徴とする。
ここで、プロピレン単位を主体とするブロックとは、当該ブロックを構成する全ての単量体を100質量%とした場合に、プロピレン単位の含有率(質量%基準)が最も多いことを意味し、50質量%以上であることが好ましい。
また、シロキサン単位を主体とするブロックとは、当該ブロックを構成する全ての単量体を100質量%とした場合に、シロキサン単位の含有率(質量%基準)が最も多いことを意味し、50質量%以上であることが好ましい。
【0015】
プロピレン単位を主体とするブロックと、シロキサン単位を主体とするブロックとをSi-C結合した構造単位を有することにより、安定した構造が得られ、熱や光、電気、水(加水分解)、有機溶剤等による分子鎖切断や、それに伴う樹脂の劣化を抑制することができる。
【0016】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、少なくとも一つの末端に反応基を有するオルガノポリシロキサン(a)と、少なくとも一つの反応基を有するポリプロピレン(b)を反応させて得られる。特にその反応様式や構造は限定されないが、両末端にヒドリド基を有するオルガノポリシロキサンと末端にビニリデン結合を有するポリプロピレンを反応させて得られるトリブロックコポリマー((b)-(a)-(b))、あるいは、片末端にヒドリド基を有するオルガノポリシロキサンと末端にビニリデン結合を有するポリプロピレンを反応させて得られるジブロックコポリマー((a)-(b))のいずれかあるいは両方である事が好ましい。このような直鎖状の構造を有する事で、熱可塑性樹脂、特にポリプロピレンのようなポリオレフィンと混合した場合に、プロピレン系ブロック共重合体のプロピレン単位を主体とするブロックがポリプロピレン中に分散する一方、シロキサン単位を主体とするブロックが混合相手のポリプロピレンやプロピレン単位を主体とするブロックから排斥される形で成形体表面に偏在し、成形体の表面特性を著しく向上させる事ができる。
また、オルガノポリシロキサンとポリプロピレンが末端のみに反応基を有する場合、反応点が限られるため、反応制御が容易で、安定して本発明のシリル化ポリプロピレンを製造する事ができるため好ましい。
【0017】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体はオルガノポリシロキサン鎖が比較的自由なため、表面にオルガノポリシロキサン鎖が偏析しやすく、表面特性を向上させる事ができる。一方、オルガノポリシロキサンの側鎖のみにヒドリド基等の反応基を有する場合、反応点が多く、架橋等の副反応が生じる事で安定した品質のシリル化ポリプロピレンが得られにくい上、得られたシロキサン鎖にプロピレン鎖がグラフトされているプロピレングラフト共重合体はオルガノポリシロキサン鎖がポリプロピレン鎖付近に拘束され、表面に偏析しにくいため、表面特性を発現しにくい。
【0018】
前記プロピレン系ブロック共重合体中の、プロピレン構造(-CH-CH(CH)-)の単位(以下、「プロピレン構造単位」又は「プロピレン単位」と称することがある。)1000個あたりのジメチルシリル基(-Si(CH-)(以下、「シロキサン単位」と称することがある。)の数は、50~300が好ましく、70~200がより好ましい。前記プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基(シロキサン単位)の数が前記下限以上であれば、オルガノポリシロキサン特有の表面特性を発現しやすい傾向にあり、前記上限以下てあれば、ポリオレフィン樹脂との相溶しやすい傾向にあり、成形体としたときに強度や外観に優れる傾向にある。
【0019】
ここで、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基(シロキサン単位)の数は、プロピレン系ブロック共重合体のH-NMRにおいて、下記の式(1)を用いて求めることができる。
・プロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基の数=1000×(0.1~0.3ppm領域のジメチルシリルシグナルの積分値/6)/(0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値/6) …(1)
【0020】
前記プロピレン系ブロック共重合体のプロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基(Si-H)の数は、特に規定はないが、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、1以下が特に好ましい。オルガノポリシロキサン(a)のヒドロシリル基とポリプロピレン(b)の二重結合とは反応するので、残存のヒドロシリル基は、未反応部分を意味する。
ここで、前記プロピレン系ブロック共重合体のプロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基の数はプロピレン系ブロック共重合体のH-NMRにおいて、下記の式(2)を用いて求めることができる。
・プロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基の数=1000×(4.8~5.0ppm領域のヒドロシリルシグナルの積分値)/((0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(2)
【0021】
[オルガノポリシロキサン(a)]
本発明のオルガノポリシロキサン(a)は、少なくとも一つの末端に反応基を有しており、下記構造式(I)又は(II)で表される。
【0022】
【化1】
【0023】
【化2】
【0024】
式(I)及び(II)中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基又はフェニル基を表す。このR~Rは、それぞれ好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、特にメチル基であることが好ましい。R~Rを構造単位に含む事で、シリル化で期待される撥水性、撥油性、防汚性、接着性、吸着性、ガス透過性などの優れた性質を示す事ができる。
また、式(I)及び(II)中、A~A、A~A、A~Aのそれぞれのグループのうち、それぞれ少なくとも1つの基が、それぞれ独立に、反応基を表す。この反応基は、ポリプロピレン(b)との反応に必要である。また、A~Aのうち、前記反応基が配される基以外の基は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基又はフェニル基が配される。この前記反応基が配される基以外の基は、それぞれ好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、特にメチル基であることが好ましい。
【0025】
前記反応基の種類としては特に限定されず、例えばヒドリド基、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基などが挙げられるが、ポリプロピレン(b)と速やかに反応し、かつ反応後に得られる結合様式が共有結合であり熱的、化学的に安定である事から、ヒドリド基が特に好ましい。A~Aのうち反応基が配される基は、ポリプロピレン(b)との反応に必要な量が含まれていればよく、多すぎない方が好ましい。A~Aのうち反応基が配される基が多くなり過ぎる場合、オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)との反応中に副反応を併発する場合が多くなり、選択性の観点で好ましくない。一方で、R~Rや、A~Aのうち反応基以外の基は、シリル化で期待される性質を高めるためには、多い方が好ましい。
【0026】
本発明のオルガノポリシロキサン(a)は、好ましくは下記(III)又は(IV)のいずれかの構造を有する。すなわち、主鎖末端の片方、もしくは両方に一つずつヒドリド基を有する。前記オルガノポリシロキサン(a)がかかる構造を有する事により、ポリプロピレン(b)の末端不飽和結合とヒドロシリル化反応を介して反応し、本発明のプロピレン系ブロック共重合体に優れた表面特性を発現する事ができる。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
本発明で用いるオルガノポリシロキサン(a)は、好ましくは、末端反応基(A~A、A~A、A~Aのうち、反応基が配された少なくとも1つづつ)のオルガノポリシロキサン(a)に対する濃度、特にヒドリド基のオルガノポリシロキサン(a)に対する濃度が0.01~1mmol/gの範囲である事が好ましく、0.03~0.9mmol/gである事がより好ましく、0.05~0.8mmol/gである事が更に好ましく、0.1~0.7mmol/gである事が特に好ましく、0.12~0.5mmol/gである事がとりわけ好ましい。前記範囲では、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との親和性とシリル化による効果を、バランスよく得やすい傾向がある。
【0030】
なお、オルガノポリシロキサン(a)の末端反応基の個数については、式(I)の場合は1~3個、式(II)の場合は1~6個であるため、オルガノポリシロキサン(a)の数平均分子量(g/mol)の逆数にそれぞれの反応基の個数をかけ合わせる事で、オルガノポリシロキサン(a)の末端反応基濃度(mmol/g)を算出する事ができる。
【0031】
オルガノポリシロキサン(a)の数平均分子量(Mn)については、それぞれのオルガノポリシロキサン(a)の25℃における動粘度(cSt)ηを用い、下記のBarryの式(J.Appl.Physics,1946,17,1020)を用いて計算することができる。
・logη=1.00+0.0123×Mn0.5
ここでηは25℃における動粘度(cSt)、Mnは数平均分子量である。
【0032】
本発明で用いるオルガノポリシロキサン(a)の25℃における動粘度ηは、通常1cSt以上であり、好ましくは5cSt以上であり、より好ましくは10cSt以上であり、特に好ましくは50cSt以上である。動粘度が前記下限以上であると、オルガノポリシロキサン(a)の分子量が十分に大きく、その分R~Rを多く保有することになり、表面特性により優れる。一方、上限としては通常1000cSt以下であり、好ましくは500cSt以下であり、より好ましくは300cSt以下であり、特に好ましくは200cSt以下である。動粘度が前記上限以下であると、末端反応基含有ポリプロピレンとの反応時に分子の運動性が十分であり、反応性に優れる。
【0033】
本発明で用いるオルガノポリシロキサン(a)の数平均分子量(Mn)の範囲は、通常500以上であり、好ましくは1000以上である。動粘度と同様の理由で、オルガノポリシロキサン(a)分子量が大きいほど表面特性に優れるが、オルガノポリシロキサン(a)の数平均分子量(Mn)の上限は通常20000以下である。
【0034】
本発明に好適なオルガノポリシロキサン(a)の市販品としては、後掲の実施例において使用したGelest社製「DMS-H21」「MCR-H21」の他、Nusil Technology社製、製品名「XL1-7501」、モメンティブ社製「XF40-C2195」などが好適に使用できる。
【0035】
[ポリプロピレン(b)]
本発明において、少なくとも一つの反応基を有するポリプロピレン(b)は、ポリプロピレン構造の少なくとも1つの末端に不飽和結合基を有することが好ましい。この不飽和結合基としては、ビニリデン基、ビニル基、ビニレン基等が挙げられるが、反応性の観点から、ビニリデン基(CH=C<)が好ましい。
このビニリデン基を有するポリプロピレンの例としては、下記の一般式(V)や(VI)等で表すことができる。
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
なお、一般式(V)及び(VI)の「PP」はポリプロピレン構造を表す。
ところで、この不飽和結合基を有するポリプロピレンは、本発明の効果が損なわれない範囲で、主鎖中にプロピレン以外のコモノマーに由来するセグメントを含んでいてもよい。
【0039】
(不飽和結合基数)
前記の不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基数は、当該1つの不飽和結合基に含まれる不飽和結合数をxとしたとき、H-NMR測定結果より以下の式(3)を用いて求めることができる。
・(不飽和結合基数×x)/プロピレン構造単位1,000個=1000×(不飽和結合基由来のシグナルの積分値/不飽和結合基の水素の数)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値/プロピレン構造単位(-CH-CH(CH)-)の水素の数) …(3)
【0040】
例えば、不飽和結合基がビニル基、ビニリデン基、ビニレン基の場合、下記のH-NMR測定結果より、それぞれ以下の式(3-1)~(3-3)を用いて求めることができる。
・ビニル基数/プロピレン構造単位1,000個=1000×((4.9-5.1,5.7-5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値)/3)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-1)
・ビニリデン基数/プロピレン構造単位1,000個=1000×((4.69,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値)/2)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-2)
・ビニレン基数/プロピレン構造単位1,000個=1000×((5.3-5.5ppm領域のビニレンシグナルの積分値)/2)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-3)
【0041】
本発明中で用いられる不飽和結合基を有するポリプロピレンのプロピレン構造単位(プロピレン単位)1,000個あたりの不飽和結合基数は、1.0以上であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上である。また、通常10.0以下であり、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは6.0以下である。前記不飽和結合基数が前記下限以上とすることにより、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の表面特性を十分に発現することができる。また、前記不飽和結合基数が前記上限以下とすることにより、本発明のプロピレン系ブロック共重合体と熱可塑性樹脂、特にポリプロピレンとの相溶性を十分に発現することができる。
【0042】
(不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量)
本発明に用いられる不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量(Mn)は、製造されるプロピレン系ブロック共重合体及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、通常8,000以上、好ましくは9,000以上、より好ましくは10,000以上である。またその数平均分子量は、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。前記上限値以下だと、機械物性とプロピレン系ブロック共重合体の物性を両立し易い。数平均分子量はGPC測定により求められる。
【0043】
(不飽和結合基を有するポリプロピレンの製造方法)
本発明で用いられる不飽和結合基を有するポリプロピレンを製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の不飽和結合基を有するポリプロピレンの製造方法を適宜用いることができ、熱分解やラジカル分解によって分子鎖の切断によってポリプロピレン分子の片末端、乃至両末端に不飽和結合基を導入する製造方法が好ましい。例えば、不飽和結合基がビリニデン基の場合、管状反応器を用い、高分子量ポリプロピレンを、不活性ガス中、通常300~450℃で0.5~10時間熱減成して、連続的に製造する方法などが挙げられる。
また、本発明で用いられる不飽和結合基を有するポリプロピレンは、市販の該当品を用いることも可能である。具体的には、不飽和結合基がビリニデン基の場合、下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品の具体例としては、三洋化成工業社のビスコール(登録商標)、三井化学社のハイワックス(登録商標)がある。
【0044】
[少なくとも一つの末端に反応基を有するオルガノポリシロキサン(a)と、少なくとも一つの反応基を有するポリプロピレン(b)との反応]
少なくとも一つの末端に反応基を有するオルガノポリシロキサン(a)による少なくとも一つの反応基を有するポリプロピレン(b)のヒドロシリル化反応においては、その一つの態様において、遷移金属錯体の触媒を使用する。この触媒としては、周期律表第8~10族の遷移金属錯体が好ましく、例えば、白金錯体、ロジウム錯体、コバルト錯体、パラジウム錯体及びニッケル錯体が挙げられる。本発明においては、これらのうち白金触媒を用いることが好ましく、中でも塩化白金酸及び白金オレフィン錯体などの白金錯体を用いることが好ましい。触媒の使用割合は、不飽和結合基を有するポリプロピレン(b)に対して、金属換算で通常0.1~1000質量ppm程度、好ましくは1~500質量ppm、特に好ましくは5~100質量ppmである。
【0045】
オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)の仕込み比率((b)/(a))(モル比)は、ポリプロピレン(b)の不飽和結合基としてビニリデン基を用いた場合において、通常1:0.1~30、好ましくは1:0.5~10である。オルガノポリシロキサン(a)のヒドリド基とポリプロピレン(b)の不飽和結合基とのヒドロシリル化反応を効果的に行うためには、ポリプロピレン(b)よりもオルガノポリシロキサン(a)を過剰に仕込む必要がある。
なお、ポリプロピレン(b)の不飽和結合基としてビニリデン基以外の不飽和結合基を用いる場合は、その1つの不飽和結合基に含まれる不飽和結合数をxとしたとき、オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)の仕込み比率(モル比)について、((b)×x)/(a))が前記した範囲を満たせばよい。
前記ヒドロシリル化反応は、溶融状態で行ってもよく、溶液状態で行ってもよい(以下、それぞれ「溶融反応」及び「溶液反応」と称することがある。)。溶融反応の場合、反応温度は、ポリプロピレン(b)の溶融温度以上とすることを要し、通常100~250℃程度、好ましくは150~200℃である。溶液反応の場合、反応温度は、通常-30~150℃程度、好ましくは30~140℃である。反応時間は、1分~20時間程度である。ヒドロシリル化反応は、通常、常圧において行うが、加圧下で行ってもよい。
【0046】
前記溶融反応には、典型的な加工処理装置(例えば押出機、バッチミキサー及びホットプレスなど)を用いることができる。反応は回分式で行っても連続式で行ってもよい。この溶融反応は、ポリプロピレン(b)の溶融相で行う。この場合、オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)と触媒である遷移金属錯体は、反応前に混合してもよく、反応器に逐次的に添加してもよい。
【0047】
前記溶液反応においては、反応装置に特に制限はないが、例えば、回分式又は連続式の攪拌装置を有する槽型反応基などを使用することができる。溶液反応において用いる反応溶媒としては、炭化水素溶媒か、エーテル系溶媒などが挙げられる。炭化水素溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。中でも、炭化水素溶媒が好ましく、より好ましくは飽和脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素である。
【0048】
前記溶媒の使用量は、オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)が溶解している状態となる量であればよく、特に制限ないが、通常、オルガノポリシロキサン(a)とポリプロピレン(b)の合計の濃度を5~50質量%とする量であり、好ましくは10~40質量%とする量である。
【0049】
前記プロピレン系ブロック共重合体の数平均分子量は、8000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。また、100000以下が好ましく、75000以下がより好ましく、50000以下が更に好ましい。プロピレン系ブロック共重合体の数平均分子量が前記下限以上であれば、強度に優れる傾向にあり、前記上限以下であれば、成形性に優れる傾向にある。
【0050】
前記プロピレン系ブロック共重合体の融点(Tm)は、耐熱性の観点から、高い方が好ましく、通常120℃以上、好ましくは130℃以上である。通常165℃以下である。プロピレン系ブロック共重合体の融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0051】
[重合体組成物]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、熱可塑性樹脂と混合し、重合体組成物として使用する事で、プロピレン系ブロック共重合体特有の表面特性を維持したまま、耐熱性や機械特性などを向上する事ができる。
この熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。また、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマー等のエラストマー成分も使用する事ができる。中でも、本発明のプロピレン系ブロック共重合体との相溶性が高く、耐熱性や機械特性を損なわずにプロピレン系ブロック共重合体特有の表面特性を高い水準で発現できるという観点から、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂を使用する事が好ましく、ポリプロピレン樹脂である事が特に好ましい。
【0052】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は特に制限はなく、従来公知のポリプロピレン系樹脂を使用することができる。本発明のポリプロピレン系樹脂としては、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%以上のポリオレフィン樹脂がよい。本発明の成形体において、前記ポリプロピレン系樹脂は強度や成形性に寄与する。
【0053】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体のいずれも使用することができる。ポリプロピレン系樹脂がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられる。
【0054】
前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレンブロック共重合体である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
前記ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が前記下限値以上であれば耐熱性及び剛性が良好となる。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有率の上限は、通常100質量%である。尚、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0055】
前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.05g/10分以上であり、流動性の観点から、より好ましくは0.1g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上である。また、好ましくは100g/10分以下であり、成形性の観点から、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R3133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定することができる。
【0056】
前記ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、オレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法が挙げられる。この多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明のポリプロピレン系樹脂としては、市販品を用いることができる。具体的には、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP」、プライムポリマー社製「Prim Polypro(登録商標)」、住友化学社製「住友ノーブレン(登録商標)」、サンアロマー社製「ポリプロピレンブロックコポリマー」、LyondellBasell社製「Moplen(登録商標)」、ExxonMobil社製「ExxonMobil PP」、Formosa Plastics社製「Formolene(登録商標)」、Borealis社製「Borealis PP」、LG Chemical社製「SEETEC PP」、A.Schulman社製「ASI POLYPROPYLENE」、INEOS Olefins&Polymers社製「INEOS PP」、Braskem社製「Braskem PP」、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社製「Sumsung Total」、Sabic社製「Sabic(登録商標)PP」、TOTAL PETROCHEMICALS社製「TOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene」、SK社製「YUPLENE(登録商標)」が挙げられる。
【0058】
前記重合体組成物は、[プロピレン系ブロック共重合体の質量]/[熱可塑性樹脂の質量]で表される質量比が、1/99~50/50であることが好ましく、3/97~40/60であることがより好ましく、5/95~30/70であることが更に好ましい。前記範囲内であれば、表面特性、強度が良好となる。
【0059】
前記重合体組成物に含まれるプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数が2.5~210が好ましく、4~150がより好ましい。
前記重合体組成物中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数が前記下限以上であれば、表面特性を発現しやすい傾向にあり、前記上限以下てあれば、ポリオレフィン樹脂と相溶しやすい傾向にあり、成形体としたときに強度や外観に優れる傾向にある。
なお、この「重合体組成物に含まれるプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数」とは、重合体組成物に含まれるプロピレン構造を基準としたものである。すなわち、プロピレン系ブロック共重合体を構成するプロピレン構造の他、前記ポリプロピレン系樹脂(b)等のプロピレン構造を含むプロピレン構造を基準としたものである。
【0060】
ところで、前記の「プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基の数」とは、重合体組成物中のプロピレン系ブロック共重合体に共有結合しているジメチルシリル基の数であり、プロピレン系ブロック共重合体に共有結合していない未反応のオルガノポリシロキサンやその他成分のオルガノポリシロキサンオイル等のSi成分は含まれない。
一方、「重合体組成物に含まれるプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数」のジメチルシリル基数は、重合体組成物に含まれる全てのジメチルシリル基数をいう。
【0061】
次に、「プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基の数」は、下記の方法で測定することができる。
まず、重合体組成物に含まれるプロピレン系ブロック共重合体に共有結合していない未反応のオルガノポリシロキサンやその他成分のオルガノポリシロキサンオイル等を除去する。本発明のプロピレン系ブロック共重合体に共有結合していない未反応のオルガノポリシロキサンやその他成分のオルガノポリシロキサンオイル等を除去する方法の例として、トルエンやキシレン等の溶媒に重合体組成物を加え、加熱溶解後、イソプロピルアルコール等の貧溶媒を添加、再沈・ろ過し、その後、ヘプタンやアセトン洗浄する方法等がある。
前記方法で、未反応のオルガノポリシロキサンやその他成分のオルガノポリシロキサンオイル等を除去したものを、前記の通り、H-NMRの試料とし、測定を実施する。得られたH-NMRスペクトルより、前記と同様の方法で重合体組成物中のプロピレン系ブロック共重合体由来のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数とヒドロシリル基数を算出する。
【0062】
また、「重合体組成物に含まれるプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数」は、重合体組成物をH-NMRの試料とし、測定を実施する。得られたH-NMRスペクトルを用いて、「プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基の数」と同様の方法で算出することができる。
【0063】
<その他の成分>
本発明の重合体組成物には、その他の成分として、重合体組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、造核剤、可塑剤、衝撃改良剤、相溶化剤、消泡剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、無機結晶核剤等が挙げられる。
【0064】
前記の熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0065】
前記充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0066】
前記造核剤としては、ソルビトール化合物及びその金属塩;安息香酸及びその金属塩;燐酸エステル金属塩;エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスアクリル酸アミド、エチレンビスアクリル酸アミド、ヘキサメチレンビス-9,10-ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p-キシリレンビス-9,10-ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジアニリド、N,N’,N’’-トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t-ブチルアミド)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’-ジベンゾイル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、N,N’-ジシクロヘキサンカルボニル-1,5-ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-エチレンビス(12-ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド等のアミド化合物などが挙げられる。
また、前記無機結晶核剤としては、タルク、カオリン、シリカ等が挙げられる。
【0067】
これらの内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。
酸化防止剤は、前記重合体組成物100質量部に対して0.01~2.0質量部含有させることが好ましく、0.01~1.0質量部含有させることがより好ましく、0.01~0.5質量部含有させることが更に好ましく、0.01~0.2質量部含有させることが特に好ましい。
【0068】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にてプロピレン系ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂に添加してもよいし、プロピレン系ブロック共重合体と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、重合体組成物全体を100質量%としたときに、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0069】
<重合体組成物の製造方法>
本発明の重合体組成物は、前記プロピレン系ブロック共重合体、前記熱可塑性樹脂、及び必要に応じて前記のその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の医療用熱可塑性重合体組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常170~300℃、好ましくは190~230℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0070】
<成形体及びその製造方法>
本発明の重合体組成物を成形することにより、各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、例えば射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法、インジェクションブロー成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形体に加工することができる。
いずれの成形においても、成形温度は180~300℃であり、好ましくは200~240℃である。射出成形の場合、射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。金型温度は0~100℃であり、好ましくは20~95℃である。更に好ましくは30~90℃である。Tダイ成形の場合、冷却ロール温度は10~95℃であり、好ましくは20~90℃である。
前記成形体としては、フィルム、シート、各種射出成形体等をあげることができる。
【0071】
<成形体の用途>
本発明のプロピレン系ブロック共重合体及び重合体組成物、その成形体は、食品包装用フィルム等の食品包装体、産業用離型フィルム等の産業用包装体、液晶保護フィルム等の保護材、医療用包装材等の各種包装体、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等の医療成形体、加飾フィルム等に好適に使用できる。
【0072】
<フィルム>
本発明の重合体組成物をフィルムとして用いる場合、単層フィルムでもよいし、多層フィルムとして用いてもよい。機械特性と表面特性の両立が図れる事から、多層フィルムの方が好ましい。多層フィルムは、プロピレン系ブロック共重合体を含む離型層と基材層の少なくとも2層からなる。この内、表面特性を発現するために離型層はいずれかの最外層に配する事が好ましい。離型層には、プロピレン系ブロック共重合体とポリオレフィン樹脂、特にポリプロピレン樹脂を含む事が好ましい。離型層にプロピレン系ブロック共重合体とポリオレフィン樹脂を含むことで、表面特性とヒートシール性、機械特性、透明性等の物性を両立することができる。また、基材層を構成する樹脂成分に特に制限は無く、前期熱可塑性樹脂に好適に使用される樹脂成分と同じ成分であれば良いが、中でもポリプロピレン樹脂であれば、本発明のプロピレン系ブロック共重合体や重合体組成物との層間密着性に優れ、かつ透明性、機械特性等のバランスにも優れるため好ましい。
【0073】
多層フィルムは離型層と基材層をそれぞれ最外層に配していればよく、例えば、離型層を(a)、基材層を(b)とした場合に(a)/(b)の二層構成、その他の層(C)を含む(a)/(C)/(b)の三層構成、その他の層(C)及び(D)を含む(a)/(C)/(D)/(b)の四層構成、(a)/(C)/(D)/(C)/(b)の五層構成、その他の層(C)、(D)及び(E)を含む(a)/(C)/(D)/(E)/(b)の五層構成が挙げられる。また、基材層(b)は(B1)/(B2)等の2層構成あるいはそれ以上の層構成であってもよい。その他の層としては、例えば、耐熱層、導電層、帯電防止層、保護層、支持層、耐候層、遮熱層、調光層、着色層、接着層、イージーピール層が挙げられる。
【0074】
フィルムの厚さの下限値は10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、25μm以上が特に好ましく、30μm以上が最も好ましい。多層フィルムの厚さが上記下限値以上であれば、ハンドリング性や機械特性に優れる。
【0075】
一方、フィルムの厚さの上限値は500μm以下が好ましく、450μm以下がより好ましく、400μm以下が更に好ましく、350μm以下が特に好ましく、300μm以下が最も好ましい。フィルムの厚さが上記上限値以下であれば、透明性に優れる。
【0076】
本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の各種添加剤を含んでもよい。
【0077】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、一般の成形法、例えば、押出成形、圧空成形、プレス成形、インフレーション成形、Tダイフィルム成形、カレンダー成形等の成形方法によって製造することができる。それぞれの成形方法において、装置及び加工条件は特に限定されるものではない。
【0078】
前記フィルムは、フィルムの構成材料を、無延伸又は延伸して得ることができる。この場合、例えば、各構成材料を溶融混練した後、押出成形し、冷却することにより製造できる。溶融混練には、単軸又は二軸押出機等の公知の混練機を用いることができる。溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、生産性等の観点から、160℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また、樹脂の分解を防ぐという観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、220℃以下が更に好ましい。
【0079】
多層フィルムの場合、その製造には、各層の重合体組成物を積層して積層する共押出法、各層をフィルム状に形成し、これをラミネートする押出ラミネート法、各層をフィルム状に形成し、これらを熱圧着する熱圧着法のいずれを用いて成形してもよいが、生産性の観点から、共押出法で成形することが好ましい。共押出法には、口金で各層の重合体組成物が合流するマルチマニホールド法、フィードブロックで合流するフィードブロック法等があり、どちらを採用してもよいが、厚さ精度に優れるマルチマニホールド法を用いることが好ましい。
【0080】
Tダイフィルム成形法を用いる場合、キャストロールの温度は、キャストロールに密着する樹脂によって適宜調整する必要があるものの、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。キャストロールの温度が上記下限値以上であれば、フィルムとキャストロールとの密着性が良好であり、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。一方、上限値としては100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。キャストロールの温度が上記上限値以下であれば、キャストロールへのフィルムの貼り付きを抑制でき、外観や厚さ精度が良好なフィルムが得られる。
【0081】
インフレーション成形の場合、ブロー比は通常1.1~10倍の範囲であり、物性の観点から1.3~5倍の範囲が好ましく、1.5~4倍の範囲がより好ましい。また、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法のどちらでもよく、ブローの方向は上向き、下向きのどちらでもよい。一般的に、空冷インフレーション法は生産性に優れる。一方、水冷インフレーション法は、フィルムを急冷できるため透明性や厚み精度に優れる。目的に応じて必要な設備を選択することができる。
【0082】
カレンダー成形の場合、ロール設定温度は重合体組成物の流動特性やロール剥離性、製膜速度等によって適宣調整されるが、好ましくは160~250℃、より好ましくは180~220℃である。カレンダー成形時のロール設定温度がかかる範囲であれば、樹脂の分解を抑制しつつ成形性を十分に確保することができる。
【0083】
<フィルムの用途>
このフィルムは、前記成形体の用途、例えば、食品包装体、産業用包装体、液晶等の保護材、医療用包装材等の包装体等に好適に使用できる。
【0084】
<医療用積層体>
本発明の重合体組成物は、ポリオレフィン系樹脂を含む基材層に積層することにより、積層体を製造することができる。本発明の重合体組成物からなる層は、低吸着層を構成するので、得られる積層体は、各種医療用積層体として用いることができる。
前記基材層は、耐熱性と成形性の観点からポリプロピレン系樹脂が好ましい。
前記積層体は、本発明の低吸着層と前記基材層の間に中間層を介さず、本発明の低吸着層と前記基材層とが直接隣接して接触させ、積層されていることが好ましい。前記低吸着層は、ヒートシール性能を有し、前記基材層と直接、積層させることができる。
【0085】
本発明の医療用積層体の製造法としては、前記の各層を積層一体化できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、ドライラミネーション、押出ラミネーション、共押出ラミネーション(Tダイ法、水冷インフレーション法、空冷インフレーション法)、ヒートラミネーション等、あるいはこれらの方法を組み合わせたラミネーション法を例示できる。これらの中でも積層体全体の透明性を得る観点、内層の密閉性を得る観点から、特に好ましいのは水冷インフレーション法である。
【0086】
本発明の医療用積層体において、各層の厚みは使用目的に応じて適宜選択可能であるが、本発明の低吸着層の厚みは、5~100μmであることが好ましく、特に10~50μmであることが好ましい。低吸着層の厚みが前記下限値範囲内であると低吸着特性、ヒートシール強度の観点で好ましい。
【0087】
また、本発明の医療用積層体において、本発明の基材層の厚みは100μm以上、例えば140~330μmが好ましく、特に150~250μmであることが好ましい。本発明の基材層の厚みが、前記下限値範囲内であると機械的強度や透明性が優れる。
特に、本発明の積層体は、各層の厚み比が、低吸着層:基材層=1:30~1:3であることが好ましい。
【0088】
<医療用積層体の用途>
本発明の医療用積層体は、低吸着性に優れることから、医療用包装袋等の医療用容器として好適に用いることができ、その医療用包装袋の中でも輸液バッグとして用いることが好適である。
医療用容器は、前記積層体を用いて、真空成形、圧空成形等のシート成形法(熱成形法)、多層共押出ブロー成形等のブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着(強溶着)又は接着剤で接着して袋状物を作製する方法等を用いて製造することができる。特にタンパク質構造を有するバイオ医薬品を扱う用途に好適である。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0090】
[評価方法]
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量Mnの測定>
試料約20mgをポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL-SP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1(質量%)になるように調製した。ポリマーを前記高温GPC用前処理装置PL-SP260VSで135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、このGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。
次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ社製V2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:524.5μl、カラム温度:135℃、溶媒:o-ジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
分子量の算出は、以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料及びポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。
なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38×104、α=0.70を使用し、ポリプロピレンに対しては、K=1.03×104、α=0.78を使用した。
【0091】
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基数の測定>
試料200~300mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定に供した。NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン社のNMR装置AVANCEIII400を用いた。
H-NMRの測定は試料の温度80℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回とした。
不飽和結合基を有するポリプロピレンのプロピレン構造単位1000個あたりの不飽和結合基数は、H-NMR測定結果より以下のとおり算出し、その合計値とした。
・ビニル基数/プロピレン構造単位1,000個=2000×(4.9-5.1,5.7-5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
・ビニリデン基数/プロピレン構造単位1,000個=3000×(4.69,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
・ビニレン基数/プロピレン構造単位1、000個=3000×(5.3-5.5ppm領域のビニレンシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
13C-NMRの測定は、試料の温度80℃、パルス角90°、パルス間隔51.5秒、積算回数1024回とし、逆ゲートデカップリング法で測定した。
【0092】
<ジメチルシリル基及びヒドロシリル基の数の測定>
前記の方法でH-NMRの測定用試料を調製し、前記の方法でH-NMRの測定に供した。
プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数、及びヒドリシリル基数は、H-NMR測定結果より以下のとおり算出した。
・ジメチルシリル基数/プロピレン構造単位1000個=1000×(0.1~0.3ppm領域のジメチルシリルシグナルの積分値/6)/(0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値/6)
・ヒドロシリル基数/プロピレン構造単位1000個=1000×(4.8~5.0ppm領域のヒドロシリルシグナルの積分値)/((0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6)
【0093】
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの融点(Tm)の測定>
Perkin Elmer社製PYRIS Diamond DSC示差走査熱量測定装置を使用して、試料(約5mg)を210℃で5分間融解後、10℃/分の速度で-20℃まで降温し、-20℃で5分保持した後に、10℃/分の速度で210℃まで昇温することにより融解曲線を得た。降温段階における主発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tcとした。また、融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとした。
【0094】
<防汚性>
サインペンとして、ぺんてる社製ENN50-A(黒)を用いて実施例及び比較例で作製したフィルムサンプルの表面に線を描き、その際のサインペンの線の弾き具合を下記の基準で評価した。なお、防汚性は表面自由エネルギーの指標であり、サインペンの弾き具合が高いほど表面自由エネルギーが低く、試料表面に水性/油性汚れが付着しにくいという特徴がある。
5…書けない
4…非常によく弾く
3…弾く
2…僅かに弾く
1…全く弾かない
【0095】
<低摩擦性>
新東科学社製、摩擦摩耗試験機「HEIDON TYPE:38」を用いて実施例及び比較例で作製したフィルムサンプルの静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。具体的には、アタッチメントに63mm角にカットしたフィルムサンプルを巻き付けて固定し、架台に固定した同じフィルムサンプルに対して荷重200g、100mm/minの速度で走査した際の静摩擦係数及び動摩擦係数の値を算出した。なお、低摩擦性に優れるほどフィルム表面の滑り性が高いという事を意味し、フィルム製造時の製品外観向上に繋がる。具体的には、一般に製造されたフィルム製品はロール状に巻き取られるが、フィルム表面が滑らないとフィルム同士が擦れて傷がつき、製品外観が悪化する事がある。これを防ぐためにフィルム表面に脂肪酸アミド等の有機系滑剤等を添加する事があるが、これが製品表面にブリードして製品本来の特性に影響を与える恐れがある。また、無機系滑剤としてシリカやタルク、マイカ等の無機フィラーを添加する事もあるが、用途によっては表面の凹凸形状が悪影響を及ぼす事もある。本発明のプロピレン系ブロック共重合体及び重合体組成物は、十分な低摩擦性を有し、製品表面の滑り性が良好なため、例えばフィルム製品として使用した際に、製品本来の特性を損なうことなく、良好な製品外観に繋がる。
【0096】
[原料]
<成分(a)オルガノポリシロキサン>
a-1…Gelest社製、製品名「DMS-H21」
・両末端ヒドリド変性オルガノポリシロキサン
・数平均分子量(Mn):4,230
・動粘度(25℃):100cSt
・Si-H反応基置換比率:0.47mmol/g
【0097】
a-2…Gelest社製、製品名「MCR-H21」
・片末端ヒドリド変性オルガノポリシロキサン
・数平均分子量(Mn):6,500
・動粘度(25℃):100cSt
・Si-H反応基置換比率:0.15mmol/g
【0098】
<成分(b)不飽和結合基を有するポリプロピレン>
b-1…三洋化成工業社製:ビスコール(商標登録)330-PSK
・数平均分子量(Mn):12000
・不飽和結合基:ビニリデン基
・プロピレン構造単位1000個あたりの不飽和結合基数:3.3
・融点(Tm):155℃
【0099】
[プロピレン系ブロック共重合体A-1の製造]
メカニカルスターラー付き500mLセパラブルフラスコに、a-1(16.7g、3.9mmol)とb-1(50g、4.2mmol)とトルエン350mLを加え、15分間窒素バブリングした。その後、100℃まで昇温し、均一に撹拌した後に、Gelest社製 白金触媒SIP6831.2(白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液、白金含有率:2.1~2.4質量%、5μL)を投入し、100℃で2.5時間撹拌した。その後、攪拌しながら85℃まで降温し、更にイソプロパノールを540mL加え室温まで冷却し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーは濾過により回収し、イソプロパノール(100mL×2回)で洗浄した。得られたポリマーを70℃で減圧乾燥し、プロピレン系ブロック共重合体A-1を得た。
得られたプロピレン系ブロック共重合体A-1の物性は下記の通りである。
【0100】
<プロピレン系ブロック共重合体A-1>
・プロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数:81
・プロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基数:0.1
【0101】
[プロピレン系ブロック共重合体A-2の製造]
a-1をa-2に変更した以外は、プロピレン系ブロック共重合体A-1の製造方法と同様の方法でプロピレン系ブロック共重合体A-2の製造を行った。
得られたプロピレン系ブロック共重合体A-2の物性は下記の通りである。
【0102】
<プロピレン系ブロック共重合体A-2>
・プロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数:115
・プロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基数:0.1
【0103】
[プロピレン系ブロック共重合体N-1の製造]
下記に示す側鎖ヒドリド変性オルガノポリシロキサンn-1(14.5g、3.3mmol)をa-1の代わりに使用した以外は、プロピレン系ブロック共重合体A-1の製造方法と同様の方法でプロピレン系ブロック共重合体N-1の製造を行った。
n-1…Gelest社製、製品名「HMS-082」
・側鎖ヒドリド変性オルガノポリシロキサン
・数平均分子量(Mn):4,380
・動粘度(25℃):130cSt
・Si-H反応基置換比率:1.18mmol/g
得られたプロピレン系ブロック共重合体N-1の物性は下記の通りである。
【0104】
<プロピレン系ブロック共重合体N-1>
・プロピレン構造単位1000個あたりのジメチルシリル基数:95
・プロピレン構造単位1000個あたりのヒドロシリル基数:1.9
【0105】
<熱可塑性樹脂>
B-1:ポリプロピレン樹脂、日本ポリプロ社製、製品名ノバテックFW4B
・プロピレン-エチレンランダム重合体
・MFR(230℃、荷重2.16kg)7g/10分
・密度0.90g/cm
・融点140℃
【0106】
<実施例1>
(A-1)を10質量部、(B-1)を90質量部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168及びイルガノックス1010をそれぞれ0.05部ずつ加え、フィルム用ダイスを取り付けた同方向2軸押出機(テクノベル社製:KZW15-45MG、Φ15、L/D=45)にて200℃で溶融混練及びフィルム成形を行ない、重合体組成物の単層フィルム(厚み約100μm)を得た。
得られたフィルムを用いて防汚性及び低摩擦性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
<実施例2、比較例1>
表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして溶融成形を行い、得られたフィルムの表面特性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
<比較例2~4>
本発明のプロピレン系ブロック共重合体との比較として、シリル化ポリエチレン(三井化学社製、イクスフォーラPP2000、シリル化ポリエチレン/ポリプロピレン=30/70質量%の混合物、シリル化ポリエチレン中のエチレン繰り返し単位1000単位当たりのジメチルシリル基の個数=162)を用い、表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして溶融成形を行い、得られたフィルムの表面特性を評価した。結果を表1に示す。
【0109】
<比較例5>
本発明のプロピレン系ブロック共重合体との比較として、ポリプロピレン樹脂単体についても実施例1と同様にして溶融成形を行い、得られたフィルムの表面特性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1より、本発明に該当するプロピレン系ブロック共重合体とポリプロピレン樹脂からなる実施例1及び2は表面特性に優れる事が分かった。
これに対して、プロピレン系ブロック共重合体の原料として側鎖にヒドリド基を有するタイプのオルガノポリシロキサンを使用した比較例1、及び、プロピレン系ブロック共重合体の代わりにエチレン系ブロック共重合体を使用した比較例2~4については、防汚性、低摩擦性共に十分ではない事が分かった。
また、プロピレン系ブロック共重合体を含まず、ポリプロピレン樹脂単体からなる比較例5についても、防汚性や低摩擦性等の表面特性に乏しい事が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体及びこれを含む重合体組成物、成形体及びフィルムは、食品包装用フィルム、産業用離型フィルム、液晶保護フィルム、医療用包装材、医療成形体、加飾フィルムとして非常に有用である。