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特開2023-177859圧延機の異常判定システム及び圧延機の異常判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177859
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】圧延機の異常判定システム及び圧延機の異常判定方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/46 20060101AFI20231207BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20231207BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B21B37/46 112
B21B38/00 G
B21C51/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090800
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】木佐 賢人
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木谷 壮志
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124EE02
(57)【要約】
【課題】圧延機の異常として、特に圧下装置に生じる異常を早期に検知することが可能な圧延機の異常判定システムを提供する。
【解決手段】圧延機の異常判定システムは、互いに対向して配置された一対のワークロールを有する圧延部及び、前記一対のワークロールの間隔を調整する圧下装置を有する圧延機と、鋼帯の溶接点の前記位置情報に応じて、前記圧延機の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える制御モード切替部と、を備える。圧延機の異常判定システムは、前記圧延機における検出荷重を検出する荷重検出器と、前記制御モードが切り替わる目標荷重変更期間において前記圧延機の圧延荷重を遷移目標荷重として設定する荷重設定部と、前記目標荷重変更期間を含む評価期間における前記検出荷重及び、前記遷移目標荷重に基づいて生成された操業時偏差データに基づいて前記圧延機の異常を判定する判定部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された一対のワークロールを有する圧延部及び、前記一対のワークロールの間隔を調整する圧下装置を有する圧延機と、
前記圧延部による鋼帯の圧延荷重を検出荷重として検出する荷重検出器と、
前記鋼帯の溶接点の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記溶接点の前記位置情報に応じて、前記圧延機の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える制御モード切替部と、を備える、圧延機の異常判定システムであって、
前記第1の制御モード及び前記第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに変更されるまでの期間である目標荷重変更期間及び、前記目標荷重変更期間を含み、かつ前記圧延部の前記圧延荷重が評価される期間である評価期間を取得する期間情報取得部と、
前記第1の制御モードにおいて設定される第1の圧延荷重、前記第2の制御モードにおいて設定され、かつ前記第1の圧延荷重とは異なる第2の圧延荷重及び、前記目標荷重変更期間において設定され、かつ前記第1の圧延荷重及び前記第2の圧延荷重のうちいずれか一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの遷移目標荷重を前記圧延機に設定する荷重設定部と、
前記評価期間において、前記検出荷重が前記遷移目標荷重に近づくように前記圧下装置を制御する圧下制御部と、
前記評価期間において、前記遷移目標荷重及び、前記遷移目標荷重に対応する前記検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する偏差データ生成部と、
前記操業時偏差データに基づいて前記圧延機の異常を判定する判定部と、を含む、圧延機の異常判定システム。
【請求項2】
前記偏差データ生成部は、前記圧延機が正常に動作した際の前記操業時偏差データを正常時偏差データとして生成し、
前記判定部は、前記正常時偏差データを基準とし、前記正常時偏差データとは異なる他の前記操業時偏差データの前記基準からの逸脱度が予め設定した閾値より大きい場合に、前記圧延機に異常があると判定する、請求項1に記載の圧延機の異常判定システム。
【請求項3】
前記評価期間は、前記目標荷重変更期間及び、前記制御モードの切り替えが開始されてから当該前記制御モードの切り替えに応じた前記検出荷重が検出されるまでの期間に相当する付加期間を含む、請求項1又は2に記載の圧延機の異常判定システム。
【請求項4】
互いに対向して配置された一対のワークロールを有する圧延部及び、前記一対のワークロールの間隔を調整する圧下装置を有する圧延機に対して、鋼帯の溶接点の位置情報に応じて、前記圧延機の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える、制御モードの切替えが行われる圧延機の異常判定方法であって、
前記第1の制御モード及び前記第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに変更されるまでの期間である目標荷重変更期間及び、前記目標荷重変更期間を含み、かつ前記圧延部の圧延荷重が評価される期間である評価期間を取得する期間情報取得ステップと、
前記第1の制御モードにおいて設定される第1の圧延荷重、前記第2の制御モードにおいて設定され、かつ前記第1の圧延荷重とは異なる第2の圧延荷重及び、前記目標荷重変更期間において設定され、かつ前記第1の圧延荷重及び前記第2の圧延荷重のうちいずれか一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの遷移目標荷重を前記圧延機に設定する荷重設定ステップと、
前記圧延部の前記圧延荷重を検出荷重とし、前記評価期間において前記検出荷重が前記遷移目標荷重に近づくように前記圧下装置を制御する圧下制御ステップと、
前記検出荷重を検出する荷重検出ステップと、
前記評価期間において、前記遷移目標荷重及び、前記遷移目標荷重に対応する前記検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する偏差データ生成ステップと、
前記操業時偏差データに基づいて前記圧延機の異常を判定する判定ステップと、を含む、圧延機の異常判定方法。
【請求項5】
前記偏差データ生成ステップにおいて、前記圧延機が正常に動作した際の前記操業時偏差データを正常時偏差データとして生成し、
前記判定ステップにおいて、前記正常時偏差データを基準とし、前記正常時偏差データとは異なる他の前記操業時偏差データの前記基準からの逸脱度が予め設定した閾値より大きい場合に、前記圧延機に異常があると判定する、請求項4に記載の圧延機の異常判定方法。
【請求項6】
前記評価期間は、前記目標荷重変更期間及び、前記制御モードの切り替えが開始されてから当該前記制御モードの切り替えに応じた前記検出荷重が検出されるまでの期間に相当する付加期間を含む、請求項4又は5に記載の圧延機の異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機の異常判定システム及び圧延機の異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板の製造工程では、一対のロールを有する圧延機を用いて、鋼帯に荷重を付与することが行われている。具体的には、当該一対のロールの配置間隔を、鋼帯の厚さよりも狭くなるように配置し、その一対のロールの間に鋼帯を通すことにより、薄鋼板の寸法精度を確保すると共に、適正な圧下を付与して薄鋼板の材質を調整することが行われている。
【0003】
圧延機の圧下装置は、一対のロールの配置間隔、すなわちロールギャップが鋼帯の圧延中において適正な値になるように制御している。例えば、圧下装置は、鋼帯に付与される伸長率又は、圧下率が所定の値になるように、また、鋼帯に付与される圧延荷重が所定の値になるように、ロールギャップを制御している。
【0004】
したがって、圧延機の圧下装置を正常な状態を維持することは、鋼帯の適正な圧延状態を維持するために重要である。圧延機の異常状態を検出するものとして、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、油圧式の圧下装置を備える圧延機において、荷重検出器の異常状態を判定する方法が開示されている。具体的には、油圧シリンダーに設けられた圧力計に基づいて算出された荷重算出値及び、荷重検出器によって測定された荷重測定値を経時的に比較することにより、荷重検出器の異常状態を判定することが行われている。
【0005】
また、特許文献2には、電動機で駆動される設備を監視対象とし、当該設備の異常を判定する異常判定システムが開示されている。特許文献2において、電動機で駆動される設備としては、例えば、電動式の圧下装置を用いる圧延機が含まれる。特許文献2においては、正常動作時の電動機のトルク電流実績等のデータに基づく変数の相関関係を正常時平均的挙動とし、操業時において取得される当該変数の相関関係について、正常時平均的挙動からの外れ度に基づいて設備の異常を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-177203号公報
【特許文献2】特許第5991042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の荷重検出器の異常状態を判定する方法によれば、荷重検出器(ロードセル)の異常を判定することができる。しかしながら、荷重検出器が正常であれば、例えば、圧下装置の異常等の他の異常を検出することができない問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された異常判定システムを圧延機の圧下装置に適用する場合、圧下装置を駆動する電動機のトルク電流、圧下装置により変位するバックアップロールの移動速度及び移動量に関する時系列データを取得する必要がある。
【0009】
しかしながら、電動機のトルク電流が生じない油圧式の圧下装置には、当該異常判定システムを直接的に適用できない問題がある。また、電動機のトルク電流を測定する機器など、通常の圧延機が備えていない機器を設置する必要が生じ、設備コストが増加する点で改善余地がある。
【0010】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、圧延機の異常として、特に圧下装置に生じる異常を早期に検知することができ、かつ圧下装置の圧下機構の種別によらず異常を検知することが可能な圧延機の異常判定システム及び異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]
互いに対向して配置された一対のワークロールを有する圧延部及び、前記一対のワークロールの間隔を調整する圧下装置を有する圧延機と、
前記圧延部による鋼帯の圧延荷重を検出荷重として検出する荷重検出器と、
前記鋼帯の溶接点の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記溶接点の前記位置情報に応じて、前記圧延機の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える制御モード切替部と、を備える、圧延機の異常判定システムであって、
前記第1の制御モード及び前記第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに変更されるまでの期間である目標荷重変更期間及び、前記目標荷重変更期間を含み、かつ前記圧延部の前記圧延荷重が評価される期間である評価期間を取得する期間情報取得部と、
前記第1の制御モードにおいて設定される第1の圧延荷重、前記第2の制御モードにおいて設定され、かつ前記第1の圧延荷重とは異なる第2の圧延荷重及び、前記目標荷重変更期間において設定され、かつ前記第1の圧延荷重及び前記第2の圧延荷重のうちいずれか一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの遷移目標荷重を前記圧延機に設定する荷重設定部と、
前記評価期間において、前記検出荷重が前記遷移目標荷重に近づくように前記圧下装置を制御する圧下制御部と、
前記評価期間において、前記遷移目標荷重及び、前記遷移目標荷重に対応する前記検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する偏差データ生成部と、
前記操業時偏差データに基づいて前記圧延機の異常を判定する判定部と、を含む、圧延機の異常判定システム。
[2]
前記偏差データ生成部は、前記圧延機が正常に動作した際の前記操業時偏差データを正常時偏差データとして生成し、
前記判定部は、前記正常時偏差データを基準とし、前記正常時偏差データとは異なる他の前記操業時偏差データの前記基準からの逸脱度が予め設定した閾値より大きい場合に、前記圧延機に異常があると判定する、[1]に記載の圧延機の異常判定システム。
[3]
前記評価期間は、前記目標荷重変更期間及び、前記制御モードの切り替えが開始されてから当該前記制御モードの切り替えに応じた前記検出荷重が検出されるまでの期間に相当する付加期間を含む、[1]又は[2]に記載の圧延機の異常判定システム。
[4]
互いに対向して配置された一対のワークロールを有する圧延部及び、前記一対のワークロールの間隔を調整する圧下装置を有する圧延機に対して、鋼帯の溶接点の位置情報に応じて、前記圧延機の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える、制御モードの切替えが行われる圧延機の異常判定方法であって、
前記第1の制御モード及び前記第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに変更されるまでの期間である目標荷重変更期間及び、前記目標荷重変更期間を含み、かつ前記圧延部の圧延荷重が評価される期間である評価期間を取得する期間情報取得ステップと、
前記第1の制御モードにおいて設定される第1の圧延荷重、前記第2の制御モードにおいて設定され、かつ前記第1の圧延荷重とは異なる第2の圧延荷重及び、前記目標荷重変更期間において設定され、かつ前記第1の圧延荷重及び前記第2の圧延荷重のうちいずれか一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの遷移目標荷重を前記圧延機に設定する荷重設定ステップと、
前記圧延部の前記圧延荷重を検出荷重とし、前記評価期間において前記検出荷重が前記遷移目標荷重に近づくように前記圧下装置を制御する圧下制御ステップと、
前記検出荷重を検出する荷重検出ステップと、
前記評価期間において、前記遷移目標荷重及び、前記遷移目標荷重に対応する前記検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する偏差データ生成ステップと、
前記操業時偏差データに基づいて前記圧延機の異常を判定する判定ステップと、を含む、圧延機の異常判定方法。
[5]
前記偏差データ生成ステップにおいて、前記圧延機が正常に動作した際の前記操業時偏差データを正常時偏差データとして生成し、
前記判定ステップにおいて、前記正常時偏差データを基準とし、前記正常時偏差データとは異なる他の前記操業時偏差データの前記基準からの逸脱度が予め設定した閾値より大きい場合に、前記圧延機に異常があると判定する、[4]に記載の圧延機の異常判定方法。
[6]
前記評価期間は、前記目標荷重変更期間及び、前記制御モードの切り替えが開始されてから当該前記制御モードの切り替えに応じた前記検出荷重が検出されるまでの期間に相当する付加期間を含む、[4]又は[5]に記載の圧延機の異常判定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の圧延機の異常判定システム及び圧延機の異常判定方法によれば、圧延機の異常として、特に圧下装置に生じる異常を早期に検知できる。このため、薄鋼板の歩留まりの向上を図ることが可能となる。また、本発明の圧延機の異常判定システム及び圧延機の異常判定方法は、圧下装置の圧下機構の種別によらず適用することができるため、汎用性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】圧延機の異常判定システムの構成を示す概念図である。
図2図1の圧延機の正面を示す正面図である。
図3図1の圧延機の側面図である。
図4】圧延機の異常判定システムの機能ブロックを示すブロック図である。
図5】圧延機の異常判定のフロー図である。
図6】第1の圧延荷重及び第2の圧延荷重の設定が切り替わる態様を示す説明図である。
図7】第1の圧延荷重及び第2の圧延荷重の設定が切り替わる場合における検出荷重の態様を示す説明図である。
図8】第1の圧延荷重及び第2の圧延荷重の設定が切り替わる場合における検出荷重と偏差荷重の態様を示す説明図である。
図9】荷重設定値の変化量に対する偏差荷重の積分値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、圧延機10の異常を判定する異常判定システム100の構成を示している。圧延機10は、例えば、鋼帯の製造ライン、より具体的には連続焼鈍ラインの下流側に配置される。
【0015】
連続焼鈍ラインは、例えば、加熱帯、均熱帯及び、冷却帯を含む炉体部(図示せず)を有する。鋼帯は、連続焼鈍ラインの入側において、鋼帯の先端部及び後端部が他の鋼帯と溶接等により接続され、当該炉体部において連続的な熱処理が行われる。
【0016】
連続焼鈍ラインは、炉体部で熱処理が行われた鋼帯に対して、連続的な調質圧延を行う設備を有する。圧延機10は、連続的な調質圧延を行う設備に配されている。したがって、炉体部で熱処理が行われた鋼帯は、その下流に配置される圧延機10によって連続的な圧延が行われる。
【0017】
図1に示すように、圧延機10の上流側(入側)には、入側ブライドルロールBR1及び、入側張力計TM1が配置される。圧延機10の下流側(出側)には、出側張力計TM2及び、出側ブライドルロールBR2が配置される。
【0018】
入側ブライドルロールBR1及び、出側ブライドルロールBR2は、鋼帯SSに適切な張力を付与するためのロールである。
【0019】
張力計TM1は、圧延機10と入側ブライドルロールBR1の間に設けられている。張力計TM1は、圧延機10の入側の鋼帯SSの張力を測定する。
【0020】
張力計TM2は、圧延機10と出側ブライドルロールBR2の間に設けられている。張力計TM2は、圧延機10の出側の鋼帯SSの張力を測定する。
【0021】
圧延機10は、鋼帯SSを圧延する圧延部11と、圧延部11の圧延条件の一部を調整する圧下装置12を有する。
【0022】
圧延部11は、互いに対向するように設けられている一対のワークロール11a,11bを有する。一対のワークロール11a,11bは、一対のバックアップロール11c、11dによって支持されている。一対のワークロール11a,11bは、上下方向に間隔を有して設けられている。
【0023】
したがって、一対のワークロール11a,11bは、その間に被圧延材である鋼帯SSを通すことにより、鋼帯SSと接触して圧下を加える。また、バックアップロール11c、11dは、一対のワークロール11a,11bを上下から支持し、当該ワークロール11a,11bのたわみを抑制する。
【0024】
尚、圧延機10は、図1に示される4段式の圧延機に限定されず、6段式の圧延機であってもよい。
【0025】
圧下装置12は、鋼帯SSに付与される圧延荷重が所定の値になるように、一対のワークロール11a,11bの配置間隔、すなわちロールギャップを調整する。したがって、鋼帯SSは、一対のワークロール11a,11bの間を通ることにより、圧下装置12によって調整された所定の圧下が付与される。
【0026】
荷重検出器20(ロードセル)は、圧延機10の鋼帯SSに付与される荷重を検出する。
【0027】
図2は、圧延機10の正面を示す。図3は、圧延機10の側面を示す。図2及び3に示すように、圧延機10は、略矩形枠状の一体フレームにより構成される一対のハウジング13を有する。尚、一対のハウジング13は、柱状の部材により構成される枠状の構造体によって構成されてもよい。
【0028】
一対のハウジング13は、互いに対向して配置されている。ハウジング13の対向面には、その高さ方向に亘って開口した開口部13aを有する。開口部13aは、一対のハウジング13の対向方向において貫通して形成されている。
【0029】
各々のハウジング13の開口部13aの上部には、バックアップロール11cを支持する軸受箱14a(バックアップロールチョック)が収容されている。本実施形態において軸受箱14aは、ハウジング13内を上下方向にスライド可能にハウジング13に設けられている。バックアップロール11cは、その軸回りに回動自在に軸受箱14aによってハウジング13に軸支されている。
【0030】
各々のハウジング13の軸受箱14aの下方には、上方側のワークロール11aを支持する支持部15aが設けられている。また、支持部15aの下方には、下方側のワークロール11bを支持する支持部15bが設けられている。ワークロール11a,11bは、その軸回りに回動自在に支持部15a,15bによってハウジング13に軸支されている。
【0031】
各々のハウジング13の開口部の底部には、バックアップロール11dを支持する軸受箱14b(バックアップロールチョック)が設けられている。バックアップロール11dは、その軸回りに回動自在に軸受箱14bによってハウジング13に軸支されている。
【0032】
各々のワークロール11a、11bは、その端部が支持部15a,15bを介してカプリングや減速機(図示せず)及び、駆動用電動機(図示せず)に接続されている。したがって、駆動用電動機が稼働すると、ワークロール11a、11bは、その軸回りに回転する。
【0033】
尚、ワークロール11a、11bを回転させる駆動用電動機は、一対のワークロール11a、11bのいずれかを回転駆動するように構成してもよい。また、ワークロール11a、11bではなくバックアップロール11c、11dを回転駆動するようにしてもよい。調質圧延機のように鋼帯SSを圧延するために必要なトルクが比較的小さい場合には、大きなトルクを必要としないからである。
【0034】
各々のハウジング13の上部には、圧下装置12が設けられている。圧下装置12には、電動式及び、油圧式の圧下機構のうち、いずれの圧下機構を用いてもよい。圧下装置12は、バックアップロール11cの軸受箱14aに接続することで、ワークロール11a,11bの配置間隔であるロールギャップを調整する。
【0035】
例えば、圧下機構が油圧式の圧下装置12を用いる場合、油圧シリンダーをバックアップロール11cの軸受箱14aに接続するとよい。圧下装置12は、油圧シリンダーの油圧を制御することにより、バックアップロールの軸受箱14aをハウジング13の上下方向に移動させることができる。
【0036】
また、圧下機構が電動式の圧下装置12を用いる場合、電動機の駆動に応じて軸回りに回動する圧下ネジをバックアップロール11cの軸受箱14aに接続するとよい。したがって、圧下装置12は、電動機の駆動を制御することにより、バックアップロールの軸受箱14aをハウジング13の上下方向に変位させることができる。
【0037】
尚、圧下装置12は、一対のワークロール11a,11bの配置間隔、すなわちロールギャップを調整することができればよい。圧下装置12は、バックアップロール11c、11dのうち、少なくとも一方をハウジング13の上下方向に移動させることが可能であればよい。したがって、圧下装置12は、例えば、ハウジング13の下部からバックアップロール11dを上下方向に変位させてもよいし、バックアップロール11c及び、バックアップロール11dの両方を上下方向に変位させてもよい。
【0038】
各々の圧下装置12は、例えば、一対の軸受箱14aのハウジング13の上下方向の位置(変位量)が同程度になるように調整する。尚、各々の圧下装置12は、一対の軸受箱14aのハウジングの上下方向の位置が互いに異なるように、いわゆるレベリングと呼ばれる調整をしてもよい。
【0039】
また、ハウジング13の軸受箱14bの下方には、荷重検出器20が設けられている。したがって、鋼帯SSがワークロール11a,11bによって圧延されると、荷重検出器20は、軸受箱14bによって押下されることにより、鋼帯SSに付与される荷重(圧延荷重)の実測値を検出する。
【0040】
荷重検出器20は、鋼帯SSの圧延荷重を検出することができればよく、ハウジング13の下部において軸受箱14bの下方に配置される態様に限定されない。荷重検出器20は、例えば、ハウジング13の上部において、圧下装置12と軸受箱14aとの間に配置されてもよい。
【0041】
また、ハウジング13の上部又は下部に、ハウジング13の上下方向において圧下装置12と同じ側に配置されるようにしてもよい。さらに、荷重検出器20は、左右のハウジング13のそれぞれに配置されてもよい。左右のハウジング13のそれぞれに荷重検出器20を配置した場合、圧延荷重の検出値(検出荷重)は、左右の荷重検出器20からの検出される値の和を用いてもよい。
【0042】
図4は、圧延機の異常判定システム100の機能ブロックを示している。圧延機の異常判定システム100は、鋼帯SSを圧延する圧延機10と、圧延機10の荷重を検出する荷重検出器20と、鋼帯SSの溶接点の位置を測定する位置測定部30と、圧延機10の稼働を制御する制御部40を有する。
【0043】
圧延機10、荷重検出器20及び、位置測定部30は、制御部40と通信可能に接続されている。
【0044】
荷重検出器20(ロードセル)は、力を電気信号に変換するセンサーである。荷重検出器20としては、磁歪式、静電容量型、ひずみゲージ式などの検出器を適用できる。荷重検出器20(ロードセル)は、力を検出すると、その力に応じた電気信号を制御部40に送信する。
【0045】
位置測定部30は、光学的手段、マーク検知手段、荷重変動検知手段などの公知の手段により、鋼帯SSの溶接点の位置を検知する。位置測定部30は、これらの位置検知手段によって検知した検知情報を制御部40に送信する。
【0046】
制御部40は、図示しないCPU,ROM,RAMを有するパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の装置によって構成されている。ROMは、本発明の実施形態に係る板厚制御方法を実行する制御プログラムと、異常判定システム100全体の動作を制御する処理プログラムや処理データを記憶している。CPUは、ROM内に記憶されている制御プログラム及び処理プログラムに従って異常判定システム100全体の動作を制御する。RAMは、CPUが実行する処理に関する処理プログラムや処理データを一時的に記憶し、CPUのワーキングエリアとして機能する。
【0047】
尚、ROMは、ラインの速度情報をはじめとする、各種設定情報が格納されている。また、ROMは、第1の制御モード及び第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに変更されるまでの期間である目標荷重変更期間を格納している。さらに、ROMは、目標荷重変更期間を含み、かつ圧延部11の圧延荷重が評価される期間である評価期間を格納している。さらにまた、ROMは、荷重検出器20から送信された検出荷重データを時系列データとして格納している。
【0048】
位置情報取得部41は、位置測定部30から送信された検知情報をラインの速度などに基づいて、溶接点をトラッキングする。位置情報取得部41によってトラッキングされたトラッキング情報は、ROMに格納される。
【0049】
溶接点のトラッキングは、例えば、溶接点の位置情報及び、鋼帯SSを搬送するライン速度に基づいて行われている。溶接点の位置情報は、溶接点の位置を検知する上述の位置検知手段を製造ラインの上流側に設けることにより取得される。
【0050】
制御モード切替部42は、溶接点の位置情報に応じて、圧延機10の制御モードを第1の制御モード及び、第2の制御モードのうちのいずれかに切り替える。より具体的には、制御モード切替部42は、トラッキング情報に基づいて、溶接点以外の鋼帯SS(以下、定常部とも称する)を圧延する際には第1の制御モードとし、溶接点の近傍の鋼帯SSを圧延する際には第2の制御モードに設定する。
【0051】
第1の制御モードでは、例えば、圧延機10を用いて鋼帯SSの調質圧延を行う場合には、焼鈍工程後の鋼帯SSを所定の伸長率で圧延する伸長率制御が行われる。本実施形態においては、第1の制御モードの一例として鋼帯SSの伸長率を一定に保つ伸長率制御を採用した場合について説明する。
【0052】
ここで、伸長率は、鋼帯SSの圧延前後の伸び率である。伸長率は、例えば、調質圧延工程の前の鋼帯SSの長さに対する調質圧延工程の後の鋼帯SSの長さ、すなわち増加率で定義される。伸長率は、例えば、入側ブライドルロールBR1と、出側ブライドルロールBR2の周速差によって計測することができる。
【0053】
尚、伸長率が小さい条件においては、板厚の変化率である圧下率と伸長率は概ね同じ値となる傾向がある。このため、伸長率制御においては、伸長率に代えて圧下率を用いて制御を行ってもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、第2の制御モードの一例として鋼帯SSに付与される圧延荷重を一定に保つ溶接点通過制御を採用した場合について説明する。
【0055】
溶接点通過制御は、圧延機10に溶接点が到達するタイミングに応じて、伸長率制御から切り替えて実行される。言い換えれば、制御モード切替部42は、トラッキング情報に基づいて、伸長率制御と溶接点通過制御を切り替える。
【0056】
荷重設定部43は、伸長率制御、溶接点通過制御及び、目標荷重変更期間に応じた圧延荷重を圧延機10に設定する。具体的には、荷重設定部43は、第1の制御モードである伸長率制御においては、第1の圧延荷重を圧延機10に設定する。
【0057】
上述の通り、伸長率制御においては、鋼帯SSの伸長率が一定に保持されるように制御が行われる。また、鋼帯SSの伸長率は、鋼帯SSの組成、サイズ等に応じて異なる。このため、第1の圧延荷重は、鋼帯SSの組成、サイズ等に応じて変動しうる値である。
【0058】
荷重設定部43は、第2の制御モードである溶接点通過制御においては、第1の圧延荷重とは異なる第2の圧延荷重を圧延機10に設定する。本実施形態においては、第2の圧延荷重は、第1の圧延荷重よりも低く設定される。具体的には、製造ラインの入側において、先行材と後行材とがシーム溶接等の重ね溶接により接合されて鋼帯SSとなる。鋼帯SSの溶接点では、先行材及び後行材が互いに重なり合う。したがって、鋼帯SSの溶接点は、先行材及び後行材よりも板厚が厚くなる。
【0059】
したがって、伸長率制御で設定されている第1の圧延荷重で溶接点に圧延荷重が付与されると、ワークロール11a,11bの表面に疵が発生するおそれがある。ワークロール11a,11bの表面に疵がある状態で圧延が行われると、鋼帯SSの表面に当該疵が転写され、鋼板製品の表面欠陥となる。
【0060】
溶接点通過制御では、このような表面欠陥の発生を防止するために、先行材の溶接点が圧延機10に到達する前に圧延荷重を一旦低下させ、当該軽荷重で溶接点を通過させる。したがって、第2の圧延荷重は、必然的に第1の圧延荷重よりも低く設定される。
【0061】
荷重設定部43は、目標荷重変更期間においては、第1の圧延荷重及び第2の圧延荷重のうちいずれか一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの遷移目標荷重を圧延機10に設定する。
【0062】
遷移目標荷重は、例えば、目標荷重変更期間に対して比例関係を有するように設定するとよい。すなわち、一方の圧延荷重から他方の圧延荷重に変更されるまでの間、一定の割合で減少又は、増加するように遷移目標荷重を設定するとよい。このように、遷移目標荷重を設定することにより、後述する圧延機10の異常であるかの判定の精度を高めることができる。
【0063】
圧下制御部44は、第1の圧延荷重、第2の圧延荷重及び、遷移目標荷重に応じた一対のワークロール11a,11bの間隔で圧下装置12を制御する。
【0064】
具体的には、圧下制御部44は、各々の圧下装置12を制御することにより、一対の軸受箱14aのハウジング13の上下方向の位置を調整する。圧下制御部44は、例えば、ハウジング13の上下方向の任意の位置を基準点とし、当該基準点からの相対位置を軸受箱14aの圧下量としてロールギャップを調整する。
【0065】
尚、圧下制御部44は、例えば、不図示の変位計をハウジング13に設けることにより、バックアップロールの上下方向の位置を取得することができる。また、圧下制御部44は、例えば、一対の軸受箱14aの相対位置の平均値を圧下量としてロールギャップを調整してもよい。
【0066】
圧下制御部44は、伸長率制御においては、計測される伸長率が予め定めた伸長率に近づくように圧延機10の圧下装置12の稼働を制御する。
【0067】
ここで、鋼帯SSの伸長率は、被圧延材である鋼帯SSの板厚、板幅、変形抵抗などよって、同一のロールギャップであっても異なる。圧下制御部44は、例えば、先行材と後行材のサイズや鋼種が異なる場合、先行材の定常部と後行材の定常部とでは異なるロールギャップを設定する。圧下制御部44は、このようにロールギャップを設定することにより、先行材の定常部と後行材の定常部とでは圧延荷重が異なるが、両者の伸長率は一定とすることができる。
【0068】
また、圧下制御部44は、溶接点通過制御においては、検出荷重が第2の圧延荷重に近づくように圧延機10の圧下装置12の稼働を制御する。
【0069】
圧下制御部44は、溶接点通過制御においては、溶接点が圧延機10を通過するタイミングに合わせて、ロールギャップを伸長率制御のそれよりも大きくすることにより、圧延荷重を低下させて溶接点を通過させている。
【0070】
さらに、圧下制御部44は、目標荷重変更期間においては、検出荷重が遷移目標荷重に近づくように圧延機10の圧下装置12の稼働を制御する。
【0071】
期間情報取得部45は、目標荷重変更期間及び、評価期間を取得する。具体的には、期間情報取得部45は、ROMから目標荷重変更期間及び、評価期間を読み出して取得する。尚、目標荷重変更期間及び、評価期間は、後述する偏差データ生成部46によって設定され、予めROMに格納されている。
【0072】
尚、期間情報取得部45は、例えば、トラッキング情報に基づいて目標荷重変更期間及び、評価期間を設定し、当該設定した目標荷重変更期間及び、評価期間を取得してもよい。
【0073】
偏差データ生成部46は、評価期間において、遷移目標荷重及び、遷移目標荷重に対応する検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する。
【0074】
判定部47は、操業時偏差データに基づいて圧延機10の異常を判定する。判定部47は、圧延機10の異常であるか否かの判定の結果を報知手段(図示せず)に出力する。報知手段としては、例えば、ディスプレイによる画面表示、スピーカーによる音声やブザー音の報知が挙げられる。報知手段は、これらのうちの1であってもよいし、2以上を組み合わせてもよい。
【0075】
以上で説明した圧延機10の異常を判定する異常判定システム100を用いて圧延機10の異常を判定する方法を説明する。
【0076】
図5は、異常判定システム100による圧延機10の異常を判定するフローを示している。図5に示すように、圧延機10の異常を判定する処理は、例えば、圧延機10の制御モードを変更する切り替え制御の実行をトリガーとして処理が開始される。
【0077】
具体的には、位置情報取得部41は、製造ラインにおいて溶接点トラッキングを行い、溶接点の位置に関する情報(トラッキング情報)を生成する。制御モード切替部42は、トラッキング情報に基づいて、第1の制御モード及び第2の制御モードのうちの一方の制御モードから他方の制御モードへの切り替えに応じた切り替え制御を実行する。
【0078】
制御モード切替部42は、トラッキング情報を参照して、圧延機10の上流側の予め設定された位置(例えば、圧延機10の上流側3~5m)に溶接点が到達する際に、伸長率制御から溶接点通過制御に切り替える。制御部40は、この制御モードの切り替えを検知して、圧延機10の異常を判定する処理を実行する。
【0079】
期間情報取得部45は、ROMから目標荷重変更期間及び、評価期間を読み出すことにより期間情報を取得する(ステップS01)。
【0080】
荷重設定部43は、第1の制御モード及び第2の制御モードのうちの一方の制御モードから他方の制御モードへの切り替えに応じた遷移目標荷重を設定する(ステップS02)。
【0081】
具体的には、荷重設定部43は、制御モード切替部42による制御モードの切り替え制御が実行されることにより、他方の制御モードを認定し、当該他方の制御モードへの切り替えに応じた遷移目標荷重を設定する。
【0082】
圧下制御部44は、圧下装置12の遷移目標荷重が設定されると、検出荷重があらかじめ定められた当該遷移目標荷重に近づくように圧下装置12のロールギャップを制御する(ステップS03)。具体的には、圧下制御部44は、検出荷重を逐次取得することによってモニタリングしかつ、当該検出荷重が時々刻々の遷移目標荷重に追従するようにロールギャップを制御する。
【0083】
荷重検出器20は、評価期間における圧延機10の圧延荷重を検出する(ステップS04)。制御部40は、評価期間において検出した検出荷重データを時系列データとしてROMに格納する。
【0084】
偏差データ生成部46は、評価期間において、遷移目標荷重及び、遷移目標荷重に対応する検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する(ステップS05)。
【0085】
判定部47は、操業時偏差データに基づいて圧延機10の異常を判定する(ステップS06)。判定部47は、圧延機10の異常であるか否かの判定の結果を報知手段(図示せず)に出力する。
【0086】
図6は、伸長率制御から溶接点通過制御に制御モードを切り替える態様を示している。図6に示すように、荷重設定部43は、伸長率制御から溶接点通過制御に切り替える制御モードの切り替えが実行されると、圧延機10に設定する圧延荷重を第2の圧延荷重に設定する。
【0087】
具体的には、荷重設定部43は、伸長率制御において付与される先行材の圧延荷重(第1の圧延荷重)から、溶接点通過制御における圧延荷重(第2の圧延荷重)に圧延荷重を設定する。荷重設定部43は、その際に、目標荷重変更期間における遷移目標荷重を設定する。
【0088】
図6の左側には、第1の圧延荷重から第2の圧延荷重に切り替わるまでの間において、目標荷重変更期間における遷移目標荷重が示されている。この場合、遷移目標荷重は、単位時間あたりの圧延荷重を低減させる割合である低減速度(荷重低減率)として表記することができる。
【0089】
第2の圧延荷重は、例えば500~1500kNで設定される。荷重低減率は、例えば-1500kN/sで設定されるとよい。
【0090】
図6の中央においては、溶接点通過制御が実行され、第2の圧延荷重が維持されている。溶接点通過制御において第2の圧延荷重が維持される保持時間は、圧延機10に設定される圧延荷重が第2の圧延荷重に達してから制御モードの切り替えが実行されるまでの時間である。
【0091】
保持時間は、例えば、制御モードの切り替えが実行された溶接点の位置、溶接点のラインの流れ方向の長さ及びラインの速度に応じて定めることができる。保持時間はこのような態様に限られず、例えば、溶接点が圧延機10を通過に要する時間によって特定されてもよい。保持時間は、ライン速度に応じて適宜設定することができるが、例えば、3~5sで設定されることが好ましい。
【0092】
図6の右側において、第2の圧延荷重から第1の圧延荷重に切り替わるまでの間において、目標荷重変更期間における遷移目標荷重が示されている。この場合、遷移目標荷重は、単位時間あたりの圧延荷重を増加させる割合である増加速度(荷重増加率)として表記することができる。荷重増加率は、例えば1500kN/sで設定される。
【0093】
尚、低減速度(荷重低減率)、増加速度(荷重増加率)及び、保持時間は、予め設定し、ROMに格納しておくとよい。すなわち、荷重設定部43は、このようにして設定された遷移目標荷重を時系列データとしてROMに格納する。
【0094】
尚、図6に示されているように、目標荷重変更期間は、伸長率制御から溶接点通過制御に制御モードの切り替えが実行されてから、圧延機10に設定される圧延荷重が第2の圧延荷重に至るまでの期間及び、溶接点通過制御から伸長率制御に制御モードの切り替えが実行されてから、圧延機10に設定される圧延荷重が後行材に対応する第1の圧延荷重に至るまでの期間を含む。
【0095】
図7は、伸長率制御から溶接点通過制御に制御モードを切り替える際の遷移目標荷重の時系列データ、検出荷重の時系列データの例を示している。
【0096】
圧下制御部44は、伸長率制御から溶接点通過制御に切り替える制御モードの切り替えが実行されると、荷重検出器20が検出する検出荷重が遷移目標荷重に近づくように圧下装置12に圧下指令を与える。
【0097】
図7の左側に示されるように、圧下制御部44によりこのような制御が行われると、遷移目標荷重に追随するように検出荷重も低下する。
【0098】
圧下制御部44は、溶接点通過制御から伸長率制御に切り替える制御モードの切り替えが実行されると、荷重検出器20が検出する検出荷重が遷移目標荷重に近づくように圧下装置12に圧下指令を与える。
【0099】
図7の右側に示されるように、圧下制御部44によりこのような制御が行われると、遷移目標荷重に追随するように検出荷重も増加する。
【0100】
目標荷重変更期間及び評価期間は、例えば、遷移目標荷重と検出荷重の時系列データに基づいて設定される。具体的には、偏差データ生成部46は、取得した遷移目標荷重と検出荷重の時系列データから目標荷重変更区間を設定し、ROMに格納する。
【0101】
例えば、目標荷重変更期間を第1の圧延荷重から第2の圧延荷重に切り替わる期間とした場合、偏差データ生成部46は、図7において示される圧延機10に設定される荷重の切り替えが開始する時点Aから、当該設定の切り替えが完了する時点Bまでの期間を目標荷重変更期間として設定する。
【0102】
また、目標荷重変更期間を第2の圧延荷重から第1の圧延荷重に切り替わる期間とした場合、偏差データ生成部46は、図7において示される圧延機10に設定される荷重の切り替えが開始する時点A’から、当該設定の切り替えが完了する時点B’までの期間を目標荷重変更期間として設定する。
【0103】
尚、偏差データ生成部46による目標荷重変更期間の設定は、このような態様に限られず、例えば、荷重設定部43から伸長率制御(第1の圧延荷重)と溶接点通過制御(第2の圧延荷重)との間の切替え信号を取得し、当該信号に基づいて行われてもよい。
【0104】
図8は、伸長率制御から溶接点通過制御に制御モードを切り替える際の評価期間における偏差荷重の例を示している。偏差データ生成部46は、目標荷重変更期間に基づいて評価期間を設定し、当該評価期間をROMに格納する。図8に示されているように、評価期間は、目標荷重変更期間を含み、遷移目標荷重に対する検出荷重の時間遅れに対応して、目標荷重変更期間の終点を延長するように設定される。
【0105】
具体的には、評価期間は、目標荷重変更期間(時点A~B及び時点A’~B’)及び、制御モードの切り替えが開始されてから制御モードの切り替えに応じた検出荷重が検出されるまでの期間に相当する付加期間(時点B~C及び時点B’~C’)を含む。これにより、遷移目標荷重に対する検出荷重のズレに関する挙動を特定でき、圧下装置12の異常を判定しやすくすることができる。
【0106】
尚、圧下装置12は、その圧下機構に応じて、応答速度が異なる。具体的には、電動圧下式の圧下装置12は、圧下制御部44による圧下指令に対する応答速度が油圧式の圧下装置12よりも遅い。このため、電動圧下式の圧下装置12は、遷移目標荷重と検出荷重とのズレが油圧式の圧下装置12よりも大きくなる傾向にある。
【0107】
偏差データ生成部46は、このような圧下装置12の圧下機構を考慮したうえで評価期間を設定するとよい。評価期間は、圧下装置12の圧下機構が油圧式の場合には、例えば、100~400msとすることが好ましく、電動式の場合には、200~1000msとすることが好ましい。
【0108】
偏差データ生成部46は、以上のようにして特定される評価期間において、遷移目標荷重と検出荷重の偏差の積分値である操業時偏差データを生成する。評価期間における時系列データの積分演算における時間区分は、検出荷重のサンプリング時間よりも長い時間で任意に設定してもよい。検出荷重のサンプリング時間とは、制御部40が荷重検出器(ロードセル)20から検出荷重データを取得するデータ取得周期をいう。検出荷重のサンプリング時間は、例えば10~200msに設定される。
【0109】
ただし、積分演算における時間区分は、評価期間内で少なくとも10点以上となるように設定することが好ましい。すなわち、積分演算は、検出荷重データと時間区分との積を、評価期間内の総和をとることにより行う。このため、評価期間内で10点未満の時間区分の場合、遷移目標荷重に対する検出荷重のズレに関する挙動を特定することが難しくなるためである。
【0110】
判定部47は、生成された操業時偏差データに基づいて圧延機10の異常を判定する。以下、偏差データ生成部46との機能について説明する。
【0111】
判定部47は、偏差データ生成部46が生成した操業時偏差データに基づいて圧延機10の異常を判定する。
判定部47は、操業時偏差データの大きさ(絶対値)が、正常な状態に比べて大きくなった場合に、圧延機10の圧下装置12に異常が生じていると判定する。
【0112】
例えば、圧延機10の圧下装置12に異常が生じている場合、圧下制御部44からの圧下指令に対して圧下装置12の動作が遅れることにより、操業時偏差データの大きさ(絶対値)が正常時よりも大きくなる。
【0113】
また、圧下装置12の動作が停止するような異常が生じている場合、遷移目標荷重の変化に比べて検出荷重の変化が小さくなる。このため、操業時偏差データの大きさ(絶対値)は、正常時よりも大きくなる。
【0114】
したがって、判定部47は、操業時偏差データの大きさ(絶対値)が正常時よりも閾値を越えている場合に圧延機10の圧下装置12に異常が生じていると判定する。
【0115】
ここで、判定部47が、評価期間において生成される操業時偏差データの大きさ(絶対値)を用いる理由は以下のとおりである。すなわち、先行材又は後行材の定常部の圧延が行われる第1の制御モードでは、鋼帯SSの伸長率や圧下率が所定の値に制御される。
【0116】
しかし、第1の制御モードで行われる伸長率制御や圧下率制御では、鋼帯SSに付与される伸長率、圧下率が一定となるように、圧下装置12が動作する。このため、第1の制御モードにおいては、圧延荷重は常時変化する可能性がある。したがって、第1の制御モードにおいては、そのような検出荷重の変動が正常か、異常であるかを判別するのは困難である。このため、荷重検出器20が検出する検出荷重をモニタリングしても圧下装置12の異常を判定することが困難である。
【0117】
これに対して、第1の制御モード及び第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに切り替わる場合には、荷重設定部43によって遷移目標荷重が設定される。このため、設定された遷移目標荷重と検出荷重とのズレを観測することにより、圧下装置12の異常を判定しやすくすることが可能となる。
【0118】
例えば、荷重検出器20に測定誤差が生じた場合、第2の制御モードである溶接点通過制御においては、誤差が生じている荷重検出器20の検出荷重が目標荷重に近づくように制御される。したがって、荷重検出器20に異常がなければ、操業時偏差データは正常時と大きく変化しない。
【0119】
つまり、特許文献1の方法では、圧下装置12の稼働を伴った荷重を検出していないため、圧下装置12の異常を判定することは困難である。
これに対して、本発明の圧延機の異常判定システム100は、第1の制御モード及び第2の制御モードのうちいずれか一方の制御モードから他方の制御モードに切り替わる際の検出荷重に基づいて圧延機10の異常を判定する。すなわち、評価期間では、第1の圧延荷重から第2の圧延荷重に設定される遷移目標荷重が刻々と変動する。遷移目標荷重の変化に応じて圧下装置12によってロールギャップが制御される。したがって、圧下装置12が正常に動作している場合、遷移目標荷重の変化に追従して検出荷重も変動する。本発明の圧延機の異常判定システム100は、圧下装置12によってロールギャップが制御される際の検出荷重を圧延機10の異常の判定に用いることによって、圧下装置12の異常を判定することが可能となる。
【0120】
具体的には、伸長率制御において鋼帯SSに付与される圧延荷重は3000~5000kN程度であるのに対し、第2の圧延荷重は500~1500kN程度である。
【0121】
そのため、目標荷重変更期間においては、同一の鋼帯SSに対して伸長率制御が実行されている間の検出荷重の変化に比べて、より大きな検出荷重の変化が観測される。これに伴い、当該期間における圧下装置12による圧下量の変化も大きくなる。これにより、圧下装置12に異常があった場合の目標荷重と検出荷重とのズレも大きくなることから、圧下装置12の異常を判定しやすくすることができる。
【0122】
例えば、圧下装置12に異常がある場合、第1の制御モードから第2の制御モードに切り替えると、遷移目標荷重は減少するが、ロールギャップが適切に制御されないため、第1の制御モードの検出荷重が維持される。
【0123】
判定部47は、当該制御モードの切り替えに伴う、検出荷重の追従性を検出することができないため、すなわち、操業時偏差データに正常時とは異なる特異なデータが検出されるため、圧下装置12に異常が発生したことを検出することが可能となる。
【0124】
判定部47は、圧延機10が正常に動作した場合において取得される、評価期間における目標荷重と検出荷重の偏差の積分値である正常時偏差データを基準として当該判定を行うことが好ましい。
【0125】
具体的には、判定部47は、正常時偏差データを基準とし、正常時偏差データとは異なる他の操業時偏差データの基準からの逸脱度が予め設定した閾値より大きい場合に、圧延機10に異常があると判定するとよい。
【0126】
正常時偏差データの生成方法は、操業時偏差データの生成方法と同一の方法で生成することができる。圧延機10が正常に動作している状態とは、圧延機10の圧下装置12に異常が発生していない状態をいう。
【0127】
具体的には、圧延機10によって圧延された鋼帯SSの伸長率や圧下率が所定の範囲に制御されている状態であって、鋼板製品としての寸法品質や材質に異常がない場合を正常と判断することができる。また、圧延機10の圧下装置12に対する保守点検を行った後であって、少なくとも1日程度の操業期間は、圧下装置12に異常が発生していない状態とみなしてよい。圧下装置12の異常は、保守点検の後、数日程度経過した後に生じることが経験的に知られているからである。
【0128】
すなわち、このような圧下装置12が正常な状態において取得された操業時偏差データを正常時偏差データとすることができる。具体的には、正常時に取得される、評価期間での遷移目標荷重と検出荷重の偏差の積分値を正常時偏差データとして用いることができる。
【0129】
図9は、遷移目標荷重の荷重設定値の変化量と正常時偏差データの偏差荷重の積分値の関係をプロットした図である。具体的には、図9においては、第1の制御モードから第2の制御モードに切り替わる期間を目標荷重変更期間とし、検出荷重及び正常時偏差データを取得した。
【0130】
図9に示されているように、荷重偏差の積分値は、正常時データ群においては、遷移目標荷重の変化量に応じて増加する傾向があり、またその数値が一定の範囲が収まっている。
【0131】
これに対して、圧下装置12に異常が発生した場合に取得された操業時偏差データをプロットすると、正常時偏差データの分布範囲から外れた状態になっている。
【0132】
このようにして、判定部47は、正常時偏差データに基づいて、操業時偏差データが逸脱する挙動を特定することで圧下装置12の異常を判定することが容易となる。
【0133】
基準からの逸脱度は、正常時偏差データの主成分分析により正常時の変数間の相関関係を特定しておき、Q統計量を用いて、正常時偏差データからの逸脱度を算出することができる。
【0134】
主成分分析とは、相関のある多数の変数から相関のない少数で全体のばらつきを最もよく表す主成分と呼ばれる変数を合成する解析であり、予め設定された主成分ベクトルにより構成される空間に対して、観測データの射影を算出する演算を含む。
【0135】
具体的には、N個(N≧2)の正常時偏差データを取得しておき、主成分分析により取得される正常時偏差データのk個の主成分を用いて、操業時偏差データについての主成分空間上での逸脱度を算出するようにしてよい。
【0136】
この場合、k個の主成分は、累積寄与率が予め設定される値(例えば0.8)以上となる主要な主成分として決定すればよい。これにより、操業時偏差データについて、k個の主成分及びこのk個の主成分より下位の主成分である外れ成分が算出される。
【0137】
このようにして算出される残渣からQ統計量を求めることができるので、Q統計量を逸脱度として、予め設定した閾値より大きい場合に、圧延機に異常があると判定する。
【0138】
尚、逸脱度の閾値は、例えば、正常時偏差データのQ統計量を算出し、正常時偏差データのQ統計量の3~10倍程度として設定することができる。
【0139】
また、判定部47は、圧延機10の圧下装置12に異常があると判定した回数をカウントし、所定の期間でのカウント回数を所定の閾値で閾値処理することによって圧下装置12の補修の要否を判定するように構成してもよい。
【0140】
圧下装置12の可動部が徐々に摩耗等により異常が生じるような場合には、徐々に逸脱度が大きくなって、閾値を超える回数が多くなることもあるからである。
【0141】
操業時偏差データの正常時偏差データからの逸脱度は、k近傍法(K-Nearest Neighbor Algorithm)を用いて算出してもよい。k近傍法は、特徴空間における最も近い訓練例に基づいた分類の手法である。具体的には、複数の正常時偏差データを取得して、モデル空間(ベクトル空間)にプロットしておき、操業時に取得される操業時偏差データとのモデル空間における距離(ユークリッド距離)を計算する。そして、距離が近いデータk個(k≧1)を取得して、操業時偏差データとの距離(ユークリッド距離)を計し、それらの平均距離を算出する。算出した平均距離が予め設定した閾値よりも大きい場合に圧延機10に異常があると判定する手法である。
図1
図2
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図5
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図9