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特開2023-177860パラメータ関数化装置及びパラメータ関数化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177860
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】パラメータ関数化装置及びパラメータ関数化方法
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20231207BHJP
【FI】
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090802
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯨井 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】濱本 真生
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049DD02
(57)【要約】
【課題】シミュレータが定数パラメータを使用することで予測値が実測値と乖離していたため、定数パラメータを関数化する装置を提供する。
【解決手段】パラメータ関数化装置30は、プラントに存在する特定物質の物質量の実測値と、プラントに存在する関連物質ごとに定数パラメータを持つ理論モデルを用いて物理シミュレータ10が予測する関連物質の物質量の予測値との誤差を算出する誤差算出部31と、誤差の要因を分析した誤差要因分析結果を出力する誤差要因分析部32と、誤差要因分析結果に基づいて、定数パラメータの一部を関数化対象として選択する関数化対象選択部33と、選択された定数パラメータの関数パラメータを選択する関数パラメータ選択部34と、選択された関数パラメータにより定数パラメータを関数化した関数化パラメータをシミュレータに出力する関数化処理部35と、を備える
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに存在する特定物質の物質量の実測値と、前記プラントに存在する関連物質ごとに定数パラメータを持つ理論モデルを用いてシミュレータが予測する前記関連物質の物質量の予測値との誤差を算出する誤差算出部と、
前記誤差の要因を分析した誤差要因分析結果を出力する誤差要因分析部と、
前記誤差要因分析結果に基づいて、前記定数パラメータの一部を関数化対象として選択する関数化対象選択部と、
選択された前記定数パラメータの関数パラメータを選択する関数パラメータ選択部と、
選択された前記関数パラメータにより前記定数パラメータを関数化した関数化パラメータを前記シミュレータに出力する関数化処理部と、を備える
パラメータ関数化装置。
【請求項2】
前記誤差要因分析部は、前記プラントの内部状態を入力として前記誤差を予測する予測モデルを作成し、前記予測モデルの処理を説明可能な説明モデルを用いて、前記プラントに存在し、前記誤差の発生に寄与する関連物質の分析値を前記誤差要因分析結果として出力する
請求項1に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項3】
前記関数化対象選択部は、前記誤差への影響度が高い所定数の関連物質の前記定数パラメータ、又は前記影響度が影響度閾値以上である関連物質の前記定数パラメータを選択する
請求項2に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項4】
前記誤差要因分析部は、前記特定物質の物質量を変化させる度に、前記関連物質の物質量を変えて前記誤差に対する前記関連物質の影響値を算出し、
前記関数パラメータ選択部は、前記影響値の変化量が交互作用閾値よりも大きくなる前記関連物質の物質量が前記特定物質の物質量と交互作用があると判定した前記関連物質の前記定数パラメータから前記関数パラメータを選択する
請求項3に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項5】
前記関数パラメータ選択部は、前記特定物質の物質量を変化させる度に、前記関連物質の物質量を変えて前記誤差に対する前記関連物質の影響値を算出し、前記関数パラメータ選択部は、前記影響値の変化量が交互作用閾値よりも大きくなる前記関連物質の物質量が前記特定物質の物質量と交互作用があると判定した前記関連物質の前記定数パラメータから前記関数パラメータを選択する
請求項3に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項6】
前記関数パラメータの数に応じた関数形を持つ関数テンプレートを備え、
前記関数化処理部は、前記関数パラメータ選択部により選択された前記関数パラメータの数に応じた前記関数形を前記関数テンプレートから取得し、前記関数形に前記関数パラメータを適用して、前記定数パラメータを前記関数化パラメータに関数化する
請求項4に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項7】
前記関数化処理部は、前記実測値を用いて、前記関数パラメータを適用した前記関数形ごとに評価を行い、評価結果が高い前記関数形に前記関数パラメータを適用して、前記関数化パラメータを求める
請求項6に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項8】
前記シミュレータは、前記特定物質の物質量を予測するシミュレーション処理で用いる既存の前記パラメータを前記関数化パラメータに置き換えて、前記物質量を予測する
請求項7に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項9】
前記プラントは、原子力発電所における原子炉であり、
前記物質量は、前記原子炉に存在する放射性物質の濃度、又は前記放射性物質の質量である
請求項7に記載のパラメータ関数化装置。
【請求項10】
プラントに存在する特定物質の物質量の実測値と、前記プラントに存在する関連物質ごとに定数パラメータを持つ理論モデルを用いてシミュレータが予測する前記関連物質の物質量の予測値との誤差を算出する処理と、
前記誤差の要因を分析した誤差要因分析結果を出力する処理と、
前記誤差要因分析結果に基づいて、前記定数パラメータの一部を関数化対象として選択する処理と、
選択された前記定数パラメータの関数パラメータを選択する処理と、
選択された前記関数パラメータにより前記定数パラメータを関数化した関数化パラメータを前記シミュレータに出力する処理と、を含む
パラメータ関数化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ関数化装置及びパラメータ関数化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子炉内の各種物質の量の時間変化を予測する物理シミュレーションが行われていた。このような物理シミュレーションには、予測結果を実測値に近づけるために調整可能な各種のパラメータが複数存在する。
【0003】
各パラメータは、各種物質の時間当たりの増減を記載した微分方程式の各項が、物質の量の増減に与える影響の大きさを表現するものである。予測対象である物質に対する他の物質の量などが微分方程式の各項に含まれる。各パラメータの値は、実験環境での実験値、物理的な知識、実環境での実測値などを用いて、物理シミュレーションを行う物理シミュレータの予測値と、実測値との誤差(以下、エラーとも呼ぶ)が小さくなるように設定されている。
【0004】
このような物理シミュレーションを行うための技術として、特許文献1に開示された技術が知られている。この特許文献1には、「対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて推定した結果に基づき、シミュレーション結果を補正するシミュレーション結果補正装置」について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-65213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
物理シミュレータは、物質ごとに定義された理論モデルを用いて、ある一つの物質の物質量の時間あたりの増減を予測している。この理論モデルでは、物質量の予測対象である物質に対して、多数のパラメータが決定されている。各パラメータは、物理シミュレータの内部で時々刻々と計算されている各種物質の予測量とは独立した定数として定義されている。しかし、予測対象である物質の増減は、他の物質の増減によって影響を受けることが多い。理論モデルには、本来、他の物質の増減の関数として表現すべきパラメータであっても定数で存在していた。例えば、原子炉で溶出する物質の溶出速度は、既に溶出した物質の量によって変化することが予想される。しかし、原子炉で溶出する物質の溶出速度を時間経過によらず定数として計算する処理が行われていた。
【0007】
図1は、時間経過と共に物質Cjの実測値に対する予測値の誤差が生じる様子を示す図である。図1の横軸は時間(t)をとり、縦軸は物質Cjの濃度をとる。図1において、実線が実際に計測された値(実測値)を表し、破線が物理シミュレータによる予測値を表す。以下の説明で、物質量の予測対象である物質を物質Cjと呼ぶ。以下の説明で、物質Cと書いた場合、その物質の濃度を表すが、「物質Cの濃度」のように記載することもある。
【0008】
図1の左側に示すように、予測開始のt=t0の時点では、予測値と実測値はほぼ同じ変化が表れているが、時間が経過すると、徐々に予測値と実測値が乖離し、t=t1の時点では大きな誤差が生じている。さらに時間が経過したt=t2の時点では、予測値と実測値の大きさが逆転することもある。このように従来の手法では、物質Cjの濃度を求める際に定数のパラメータしか用いなかったので、物理シミュレータは実測値に対して正確に予測値を求められなかった。予測値が不正確になっていた要因として、物理シミュレータは、上述した物質量の関数として表現すべきパラメータを考慮した計算を行えなかったことが考えられる。
【0009】
特許文献1に記載された、原子炉の挙動をコンピュータ上でシミュレーションするための技術では、ある物質の量を求めるためのパラメータが定数のまま演算されていた。このため、物質量の予測値と実測値とに誤差が生じることがあった。このように物質量の予測値に誤差が生じると、予測値を使って策定される原子炉の点検計画において、人員手配や計画変更などの手間がかかり、点検コストが上がる可能性があった。しかし、存在する物質の種類は主要なものでも十数種類、パラメータは数百に及ぶため、すべてのパラメータを関数として表現することは難しいと考えられていた。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、物理シミュレータが特定物質の物質量を正確に予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るパラメータ関数化装置は、プラントに存在する特定物質の物質量の実測値と、プラントに存在する関連物質ごとに定数パラメータを持つ理論モデルを用いてシミュレータが予測する関連物質の物質量の予測値との誤差を算出する誤差算出部と、誤差の要因を分析した誤差要因分析結果を出力する誤差要因分析部と、誤差要因分析結果に基づいて、定数パラメータの一部を関数化対象として選択する関数化対象選択部と、選択された定数パラメータの関数パラメータを選択する関数パラメータ選択部と、選択された関数パラメータにより定数パラメータを関数化した関数化パラメータをシミュレータに出力する関数化処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、理論モデルの定数パラメータが関数化されるので、物理シミュレータは関数化パラメータを用いて特定物質の物質量を正確に予測できるようになる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】時間経過と共に物質Cjの実測値に対する予測値の誤差が生じる様子を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る物質量予測システムの全体構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る物質量予測システムで行われる各処理の概要を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る計算機のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係るパラメータ関数化装置で行われる第1の処理の例を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る誤差算出の処理からパラメータ等の選択処理までの内容を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る物質Ciと物質Cjの交互作用の例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る物質ごとに誤差への影響度を表した棒グラフである。
図9】本発明の一実施形態に係る関数テンプレートの構成例を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る関数形の予測性能を調べる処理の例を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係るパラメータ関数化装置で行われる第2の処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0015】
[一実施形態]
図2は、本発明の一実施形態に係る物質量予測システム1の全体構成例を示すブロック図である。
物質量予測システム1は、例えば、原子炉内で発生する各種物質の物質量を予測するシステムである。この物質量予測システム1は、物理シミュレータ10、計測装置20、パラメータ関数化装置30を備える。
【0016】
物理シミュレータ10は、定数パラメータ12を用いてプラント(例えば、原子力発電所内の原子炉)内に存在する各種物質の物質量を予測する。例えば、物理シミュレータ10は、原子炉に存在する放射性物質の濃度、又は放射性物質の質量の変化を予測する。以下の説明では、物理シミュレータ10が原子炉内に存在する物質の物質量として、放射性物質の濃度を予測するものとする。ただし、物理シミュレータ10が予測対象とするものには、液体中に拡散した物質の濃度、空気中で凝固した物質もある。そこで、全体として、物理シミュレータ10は、各種物質の質量を予測対象としている。
【0017】
物理シミュレータ10は、シミュレーションプログラムを動かし、定数パラメータ12又は関数化パラメータ13を読み込んで、原子炉の挙動、原子炉内で発生する物質、濃度等を予測し、予測データ11を作成する。予測データ11には、各種物質の濃度の時間変化が予測値として保存されている。
【0018】
物理シミュレータ10の稼働初期には関数化パラメータ13が存在しない。このため、物理シミュレータ10が動かすシミュレーションプログラムは、定数パラメータ12だけを読み込んで、濃度の予測処理を行う。その後、パラメータ関数化装置30の処理が行われると、特定の物質について処理された関数化パラメータ13が徐々に蓄積される。このため、物理シミュレータ10は、パラメータ関数化装置30から出力された関数化パラメータ13を取り込む。
【0019】
そして、物理シミュレータ10のシミュレーションプログラムは、ある物質について関数化パラメータ13を読み込み、他の物質について定数パラメータ12を読み込んで、定数パラメータ12と関数化パラメータ13を併用して濃度の予測処理を行うようになる。物理シミュレータ10とパラメータ関数化装置30の処理が繰り返し行われることで、物理シミュレータ10のシミュレーションプログラムで読み込まれる関数化パラメータ13の比率は、定数パラメータ12よりも高くなっていく。
【0020】
計測装置20は、実際の原子炉に存在する各種物質の濃度を計測する装置である。計測装置20が計測した各種物質の濃度は、実測データ21として計測装置20に保存される。実測データ21には、各種物質の濃度が時系列の実測値として保存されている。
【0021】
パラメータ関数化装置30は、パラメータを関数化した関数化パラメータを算出する装置である。関数化されるパラメータは、原子炉に存在する各種物質の濃度を予測するための式で用いられる定数パラメータ12等である。このパラメータ関数化装置30は、誤差算出部31、誤差要因分析部32、関数化対象選択部33、関数パラメータ選択部34、関数化処理部35、及び関数テンプレート36を備える。
【0022】
ここで、パラメータ関数化装置30が備える各機能部で行われる処理の概要について、図3に示す処理の概要図を参照しながら説明する。
図3は、物質量予測システム1で行われる各処理の概要を示す図である。
【0023】
誤差算出部31は、プラント60(後述する図6を参照。例えば、原子炉)に存在する特定物質の濃度の実測値と、プラント60に存在する関連物質ごとに定数パラメータ12を持つ理論モデルを用いて物理シミュレータ10が予測する関連物質の濃度の予測値との誤差を算出する。以下の説明で、濃度の予測対象である特定物質を「物質Cj」とも呼ぶ。また、特定物質の濃度に影響を与える可能性のある関連物質を「物質Ci」とも呼ぶ。以下の説明及び図面では、「物質Cj」の符号「j」、「物質Ci」の符号「i」を下付き符号で表すことがある。誤差算出部31は、ある特定の物質Cjの濃度の予測値を予測データ11から読み出し、同じ物質Cjの濃度の実測値を実測データ21から読み出す。そして、誤差算出部31は、物質Cjの濃度の実測値に対する予測値の誤差を、計測時間毎に算出する。
【0024】
図3の(1)では、誤差算出部31により、実測値に対する理論モデル15の予測値の誤差が算出される。実測データ21には、図3の左上に示すある物質Cjの物質量(例えば、濃度)の時系列データが格納されている。濃度の時系列データは、過去に運転されたプラント60から計測装置20が一定時間毎に計測した実測値を含む。
【0025】
一方、予測値は、時間tの微分方程式として、物質Cjの濃度の時間微分であるモデルの値で表される。例えば、図3の左上に予測値として表される式は、物質Cjの濃度を予測するための理論モデル15の一例である。この式の左辺には、物質Cjの濃度が時間微分されることが示される。また、予測値として表される式の右辺には、パラメータpと、物質Ciとの積を加算する式が示される。
【0026】
理論モデル15の左辺に含まれる物質Cjに付加される符号jは、特定の物質を識別するために用いられる。理論モデル15の式の右辺に含まれるパラメータpに付加される符号jについても特定の物質を識別するために用いられており、物質Cjに関係するパラメータであることを示している。また、パラメータpに付加される下付き数値は、式中の各項のうち、n番目の項の物質の濃度に対応付けられている。例えば、パラメータp,は、物質Cjに影響を与える1番目の物質C1の濃度に対応するパラメータであり、パラメータp,は、物質Cjに影響を与える2番目の物質C2の濃度に対応するパラメータである。予測値の欄の下部には、物質Cjを、物質Cj1、物質Cj2、…物質Cj4、…とした場合に適用される物質ごとの理論モデルの例が示される。
【0027】
従来は、物質Cjの理論モデル15で表される多項式の各項に規定される物質Ciのパラメータが定数であった。しかし、本実施の形態に係る物質量予測システム1では、初期段階では物理シミュレータ10が理論モデル15に定数パラメータ12を用いて物質Cjの濃度を予測するが、物理シミュレータ10とパラメータ関数化装置30の処理が繰り返し行われるにつれて、物理シミュレータ10に関数化パラメータ13が蓄積される。そして、物理シミュレータ10は、定数パラメータ12を関数化パラメータ13に置き換えた理論モデル15を用いて、物質Cjの濃度を予測するようになる。
【0028】
誤差要因分析部32は、誤差の要因を分析した誤差要因分析結果を出力する。例えば、誤差要因分析部32は、誤差算出部31が所定時間毎に理論モデル15から算出した予測値と、実測値とから算出された誤差の要因を分析する。この時、誤差要因分析部32は、理論モデル15に含まれる右辺の式の各パラメータpが誤差に寄与している程度を分析する。このため、誤差要因分析部32は、理論モデル15の誤差を予測するAI(Artificial Intelligence)モデル(例えば、機械学習モデル)を構築する。このAIモデルは、例えば、理論モデル15におけるパラメータpと、物質Cjの濃度とを説明変数として構築される。このAIモデルは、各物質の濃度や原子炉内の温度、燃料の種類などの状況をXとし、物質Cjの濃度の予測値の誤差をY1とした時に、Xを入力として誤差Y1を出力することができる。
【0029】
図3の(2)では、誤差要因分析部32によって、既存のXAI(Explainable AI)技術を用いたAIモデルの分析が行われる。通常、AIモデルの構成はブラックボックス化されており、外部からAIモデルの処理内容を把握することは難しい。そこで、AIモデルが予測値を予測した根拠を説明可能なXAI技術を用いる。誤差要因分析部32は、XAIを用いることで、どのような状況であれば、どのような誤差が発生しやすいかを分析する。例えば、誤差に最も寄与するのは、物質Xに含まれる物質X3であるといった誤差要因の分析結果が関数化対象選択部33に出力される。
【0030】
なお、誤差要因分析部32は、誤差要因の分析処理にあたって、AIモデルの特徴分析に用いられるImportanceや、Sharpley値の交互作用を計算する。これらのImportanceや、Sharpley値等の影響値は、後述する図8を参照して説明する関数化対象選択部33の処理で用いられる。
【0031】
関数化対象選択部33は、誤差要因分析結果に基づいて、定数パラメータ12の一部を関数化対象として選択する。例えば、関数化対象選択部33は、ある状況で誤差に影響を与えるパラメータpを関数化対象として選択する。この時、選択されるパラメータpは定数であり、定数パラメータ12の一部である。
【0032】
図3の(3)では、関数化対象選択部33によって、図3の左上に示した理論モデル15の多項式から関数化対象の定数パラメータ12(パラメータp)が選択される。パラメータ関数化装置30が読み込み、濃度を予測する物質Cjの理論モデル15には、数百のパラメータpが存在する。そこで、関数化対象選択部33は、多数のパラメータpを含む理論モデル15の多項式から、物質Cjの濃度の予測に影響度の高いパラメータpを含む項からパラメータpを選択する。例えば、関数化対象選択部33は、後述する図8に示す、誤差への影響度が大きい上位N個(N種類)の物質Ci、又は影響度が影響度閾値以上である物質Ciに乗じられるパラメータpを選択する。図3では、誤差に影響の強いパラメータpとして、理論モデル15に破線の丸印で表すp4,1,p2,3が選択されたとする。ここで、p4,1は、物質C1の濃度に乗じられ、p2,3は、物質C3の濃度に乗じられる。
【0033】
図3の(4)では、関数パラメータ選択部34によって選択された定数パラメータ12の説明変数である関数パラメータが選択される。関数パラメータ選択部34は、後述する図7に示す処理により、Shapley値の変化量が交互作用閾値よりも大きくなる物質Ciの濃度が物質Cjの濃度と交互作用があると判定した物質Ciの定数パラメータ12から関数パラメータを選択する。
【0034】
関数パラメータとして用いられる説明変数は、後に図3の(5)で決定される関数化するパラメータpに作用する。上述したようにパラメータp4,1は、理論モデル15を用いて物質C4の濃度を算出する際に、物質C1の濃度に乗じられる。そして、物質C1との交互作用が大きい物質が物質C2,C5であることが分かると、物質C2,C5が、パラメータp4,1を関数化する時の説明変数として選択される。この場合、パラメータp4,1は、パラメータp4,1(C,C)のように表される。説明変数として選択された物質C2,C5は、パラメータp4,1(C,C)の引数とも呼ぶ。パラメータp4,1の例では、引数が2つある。
【0035】
図3の(5)では、関数化処理部35によって関数形と関数パラメータ値が決定される。関数化処理部35は、選択された関数パラメータにより定数パラメータ12を関数化した関数化パラメータ13を物理シミュレータ10に出力する。関数テンプレート36は、パラメータpの関数パラメータの数に応じた関数形を持つ。
【0036】
そこで、関数化処理部35は、関数パラメータ選択部34により選択された関数パラメータの数に応じた関数形を関数テンプレート36から取得し、関数形に関数パラメータを適用して、定数パラメータ12を関数化パラメータ13に関数化する。例えば、関数化処理部35は、関数パラメータ選択部34によって選択されたパラメータpの関数パラメータを、関数テンプレート36から読み出した関数形に当てはめ、パラメータpを関数化する処理を行う。この時、関数化処理部35は、実測値を用いて、関数パラメータを適用した関数形ごとに評価を行い、評価結果が高い関数形に関数パラメータを適用して、関数化パラメータ13を求める。
【0037】
パラメータ値は、定数パラメータ12を関数化した関数化パラメータ13として構成される。例えば、関数化処理部35は、実測データ21から物質C2,C5の実測値を取得し、さらに、関数テンプレート36から関数形を選択する。この結果、図3の(4)で選択された説明変数(物質C2,物質C5)を含むパラメータp4,1(C,C)の関数形として、物質C2,C5の2つの項を含む式(0.45C-0.33C+1.5)が決定される。関数化処理が行われた定数パラメータ12は、関数化パラメータ13としてパラメータ関数化装置30の外部にあるデータベースに保存される。また、関数化パラメータ13は、物理シミュレータ10に取り込まれる。
【0038】
物理シミュレータ10は、物質Cjの濃度を予測するシミュレーション処理で用いる既存のパラメータを関数化パラメータ13に置き換えて、濃度を予測する。例えば、物理シミュレータ10によって行われる当初のシミュレーションでは、パラメータp4,1が定数パラメータ12で表現されていた。しかし、パラメータ関数化装置30の処理が行われた後は、関数化されたパラメータp4,1が物理シミュレータ10のシミュレーションに用いられる。
【0039】
次に、物質量予測システム1の各装置を構成する計算機50のハードウェア構成を説明する。
図4は、計算機50のハードウェア構成例を示すブロック図である。計算機50は、本実施形態に係るパラメータ関数化装置30として動作可能なコンピュータとして用いられるハードウェアの一例である。本実施形態に係るパラメータ関数化装置30は、計算機50(コンピュータ)がプログラムを実行することにより、図2に示したパラメータ関数化装置30の各機能部が連携して行うパラメータ関数化方法を実現する。
【0040】
計算機50は、バス54にそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52、及びRAM(Random Access Memory)53を備える。さらに、計算機50は、表示装置55、入力装置56、不揮発性ストレージ57及びネットワークインターフェイス58を備える。
【0041】
CPU51は、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM52から読み出してRAM53にロードし、実行する。RAM53には、CPU51の演算処理の途中で発生した変数やパラメータp等が一時的に書き込まれ、これらの変数やパラメータp等がCPU51によって適宜読み出される。ただし、CPU51に代えてMPU(Micro Processing Unit)を用いてもよい。CPU51により、パラメータ関数化装置30の各機能部の処理が実現される。
【0042】
表示装置55は、例えば、液晶ディスプレイモニターであり、計算機50で行われる処理の結果等を、パラメータ関数化装置30を管理するオペレーターに表示する。入力装置56には、例えば、キーボード、マウス等が用いられ、オペレーターが所定の操作入力、指示を行うことが可能である。表示装置55には、例えば、誤差算出部31による誤差の算出結果、XAIを用いた誤差要因分析結果、関数化処理部35により関数化されたパラメータである関数化パラメータ13等が表示されてもよい。
【0043】
不揮発性ストレージ57としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ又は不揮発性のメモリ等が用いられる。この不揮発性ストレージ57には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、計算機50を機能させるためのプログラムが記録されている。ROM52及び不揮発性ストレージ57は、CPU51が動作するために必要なプログラムやデータ等を記録しており、計算機50によって実行されるプログラムを格納したコンピュータ読取可能な非一過性の記憶媒体の一例として用いられる。不揮発性ストレージ57には、例えば、物理シミュレータ10から取得した予測値及び定数パラメータ12、計測装置20から取得した実測値等が保存される。
【0044】
ネットワークインターフェイス58には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、NICの端子に接続されたLAN(Local Area Network)、専用線等を介して各種のデータを装置間で送受信することが可能である。パラメータ関数化装置30は、ネットワークインターフェイス58を介して、物理シミュレータ10及び計測装置20と各種のデータを送受信することが可能である。
【0045】
<パラメータ関数化装置で行われる第1の処理の例>
次に、図2図3を参照して説明したパラメータ関数化装置30の各処理部で行われる処理の詳細な内容について、図5図10を参照して説明する。
図5は、パラメータ関数化装置30で行われる第1の処理の例を示すフローチャートである。
図6は、誤差算出の処理からパラメータpの選択処理までの内容を示す図である。
【0046】
始めに、図2に示した誤差算出部31は、物理シミュレータ10の予測値と、実測値との誤差をエラーとして計算する(S1)。図6に示すように、プラント60で実測された実測値X,Yは、実測データ21に蓄積される。プラント60は、例えば、原子力発電所における原子炉である。また、図2に示した物理シミュレータ10には、プラント60の挙動をシミュレートするためのシミュレーションプログラムで用いられる理論モデル15(図3を参照)が格納されている。そして、物理シミュレータ10が理論モデル15を用いて算出した予測値Yが予測データ11に蓄積される。
【0047】
誤差算出部31は、実測データ21から読み出した実測値X,Yと、予測データ11から読み出した予測値Yとの差をとって、誤差31aを出力する。誤差31aには、エラー値X,Yが含まれる。
【0048】
再び図5に戻って説明を続ける。
ステップS1の後、誤差要因分析部32は、物理シミュレータ10の内部状態(物質の量など)を説明変数として、誤差31aを予測するAIモデル32aを構築する(S2)。図6に示すAIモデル32aは、プラント60の内部状態を入力として誤差を予測する予測モデルの一例である。AIモデル32aは、人工知能技術(AI)を用いて作成されるモデルである。AIモデル32aとして、例えば、教師なし機械学習モデルが用いられるが、教師あり機械学習モデルであってもよい。誤差要因分析部32がAIモデル32aを用いることで、例えば、物理シミュレータ10がシミュレーションを行っている原子炉の状況におけるエラーX,Yを予測することが可能である。
【0049】
そして、AIモデル32aの処理を説明可能なXAI33a(説明モデルの一例)を用いて、プラント60に存在し、誤差の発生に寄与する物質Ciの分析値を誤差要因分析結果として出力する。このため、誤差要因分析部32は、AIモデル32aをXAI33aで多角的に分析し、Importanceを計算し、Shapley値の交互作用を計算する(S3)。Importanceは、後述する図8にて、関数化対象選択部33が、どの物質Ciを選択するかを判断するために用いられる。また、Shapley値は、物質Cjの濃度の予測値に対する物質Ciの濃度の影響度を表す指標である。このShapley値は、Importanceと同様に、後述する図8にて、関数化対象選択部33が、どの物質Ciを選択するかを判断するために用いられてもよい。
【0050】
ステップS3の処理は、誤差要因分析部32が、誤差31aを増減させる重要なパラメータpを見つけ、さらにAIモデル32aの説明変数間の交互作用を求めるために行われる。図6に示すXAI33aは、AIモデル32aの構築時に使用された学習データを用いて、AIモデル32aから出力される出力データ(例えば、誤差31a)が算出された要因を特定することが可能である。
【0051】
上述したように、誤差要因分析部32は、XAI33aを用いて、Importanceを計算する。Importanceは、物質Cjの濃度を求める際に理論モデル15の多項式にパラメータpとして含まれる複数種類の物質Ciのうち、どの物質Ciが重要であるかを求めるための値である。上述したように物質Ciとして数百種類あるが、式の複雑化を避けるため、誤差31aに寄与する物質Ciは数種類程度あればよい。そこで、重要度の高い物質Ciを選択可能とするための指標として、ImportanceとShapley値が計算される。
【0052】
また、誤差要因分析部32は、物質Cjの濃度を変化させる度に、物質Ciの濃度を変えて誤差に対する物質CiのShapley値(影響値の一例)を算出する。Importanceと、説明変数(Shapley値)の交互作用の結果は、後の処理で関数化対象選択部33が関数化するパラメータpを関数化対象として選択するために用いられる。
【0053】
再び図5に戻って説明を続ける。
ステップS3の後、関数化対象選択部33は、誤差への影響度が高い所定数の物質Ciの定数パラメータ12、又は影響度が影響度閾値以上である物質Ciの定数パラメータ12を選択する。例えば、関数化対象選択部33は、Importanceと説明変数(Shapley値)の交互作用の結果に基づいて、影響度の高い説明変数を含む項(物質Ci)を関数化の対象として選ぶ(S4)。関数化対象選択部33が関数化の対象として項を選ぶ処理について、図7図8を参照して説明する。
【0054】
図7は、物質Ciと物質Cjの交互作用の例を示す図である。物質Ciと物質Cjは、いずれも原子炉の中に存在する物質である。図7に示すグラフは、横軸に物質Ciの濃度をとり、縦軸に誤差31aに対する物質CiのShapley値をとる。図7では、物質Cjの濃度が異なる場合に、図中のグラフがどのように変化するかが示されている。物質Ciの濃度変化によらずShapley値が0である場合、この物質Ciは誤差31aの要因にならないことを表す。しかし、物質Ciの濃度変化に伴って、Shapley値が正の値又は負の値に大きく変化すると、この物質Ciは誤差31aの要因になることを表す。なお、Shapley値が正の値に変化することは、物理シミュレータ10が予測値を高く見積もりがちになることを表す。逆に、Shapley値が負の値に変化することは、物理シミュレータ10が予測値を低く見積もりがちになることを表す。
【0055】
ここでは、ある物質Cjの濃度変化に対して、別の物質Ciの濃度を変えた時に、物質CiのShapley値がどのように変化するかが観測される。図7では、物質Cjの濃度変化に対応付けて、凡例に7種類の線種でグラフの描画線を規定した。物質Cjの濃度が最も高いのが、凡例に(1)で示す線種であり、物質Cjの濃度が低くなるにつれて、凡例の(2)、(3)…の順で線種が変わる。最も物質Cjの濃度が低いのが、凡例に(7)で示す線種である。
【0056】
関数化対象選択部33が選択した項により、パラメータpj,2に対して、ある関数fが想定される。関数fは、物質Ciごとの濃度を引数とする関数であり、関数fの変化がパラメータpの関数化を表す。ただし、現時点では、関数fの式が、関数化対象選択部33が選択した項を含むことしか分からない。ここで、パラメータpj,2の関数fを仮に次式(1)で表す。
j,2=f(物質Ci,…)…(1)
【0057】
関数化対象選択部33は、式(1)を踏まえて、どのような物質が関数fの項に該当するかを選択する。そこで、関数化対象選択部33は、図7のグラフに示すように、挙動を求めたい物質Cjに対して物質Ciを入れ替えて、物質Ciの濃度を変化させ、物質Cjに対する交互作用が大きい物質Ciを探索する。この際、関数化対象選択部33は、物質Cjの濃度も変化させる。
【0058】
図7の凡例に(5)~(7)で示す線種のグラフは、物質Ciの濃度変化につれて、ほぼ同じように変化することが示される。一方、凡例に(1)~(4)の線種で示すグラフは、それぞれ物質Ciの濃度変化に対するShapley値の変化が異なる。例えば、物質Cjの濃度が最も高い(1)で示す線種のグラフでできた山に比べて、物質Cjの濃度が低い(4)で示す線種のグラフでできた山の方が高くなっている。なお、凡例に(1)~(4)の線種で示すグラフは、いずれも物質Ciの濃度が低い時に山のピークがあり、物質Ciの濃度が高くなると急激に低くなる。このため、凡例に(1)~(4)の線種で示すグラフは、Shapley値が正及び負の値をとる。
【0059】
図7に示すShapley値が0であることは、その物質Ciが誤差31aの要因にならないという意味である。凡例に(5)~(7)で示す線種のグラフに示すように、物質Ciの濃度が低いうちは、Shapley値がほぼ0であるので、物質Ciが、物質Cjの濃度の誤差31aの要因になっていない。しかし、物質Ciの濃度が高くなると、Shapley値が負の値をとるため、物理シミュレータ10が物質Cjの予測値を実測値より低く見積もりがちである。
【0060】
また、凡例に(1)~(4)の線種で示すそれぞれのグラフの形状が異なっているのは、物質Cjの濃度の誤差31aへの影響が、他の物質Ciの濃度によって左右されることを表している。図7に示す例では、物質Cjの濃度が高くなるほど、物質Ciの濃度が低い領域で、物理シミュレータ10が物質Cjの予測値を実測値より高く見積もりがちな傾向が示されている。つまり、物質Cjの濃度が変わることで、各線種のグラフの形状が異なることは、物質CiのShapley値が大きく変化していることを表しており、物質Ciと物質Cjとで交互作用があると言える。
【0061】
以上のことを踏まえると、図7のグラフで示した物質Ciは、物質Cjに対する交互変化が大きいと言えるので、物質Ciの濃度変化が関数化対象となりうる。なお、関数化対象選択部33は、ある物質Ci(例えば、物質1)の濃度変化を確認した後、別の物質Ci(例えば、物質2)についても濃度変化と、グラフの形状とを確認する。この時、関数化対象選択部33は、物質Cjの濃度を変化させながら、物質C1の濃度を変化させ、物質C1が物質Cjと交互作用があると判定した場合、この物質C1をパラメータpj,2の関数fの引数に追加する。同様に、関数化対象選択部33は、物質Cjの濃度を変化させながら、物質C2の濃度を変化させ、物質C2が物質Cjと交互作用があると判定した場合、この物質C2をパラメータpj,2の関数fの引数に追加する。
【0062】
この結果、パラメータpj,2の関数fが次式(2)のように表される。この式により、物質Ciの濃度を変えると、物質Cjの濃度に対する交互変化が大きかった物質Ciとして、例えば、物質C1、物質C2が関数fにおける関数化対象として選択されたことが分かる。
j,2=f(物質C1,物質C2)…(2)
【0063】
なお、関数化対象選択部33は、交互作用が無いと判定した物質を、パラメータpj,2の関数fの引数に追加しない。また、物質Cjの濃度を変える度に得られる物質CiのShapley値の各グラフの形状がいずれも変わらなければ、物質Ciは物質Cjと交互作用がない。このため、関数化対象選択部33は、この物質Ciを関数化対象としては選択しない。
【0064】
また、関数化対象選択部33が、単に物質Cjと交互作用がある物質Ciを関数化対象として選択する場合、多数種類の物質Ciが選択される可能性がある。多数種類の物質Ciを項として含むパラメータpを関数化すると、関数化パラメータが複雑化してしまう。そこで、関数化対象選択部33は、図8に示す第1又は第2の方法で交互作用の大きい順に物質Ciを並べ、誤差への影響度が上位N個、又は影響度閾値以上である、数種類の物質Ciを選択する。
【0065】
図8は、物質ごとに誤差31aへの影響度を表した棒グラフである。図8の横軸は、誤差31aへの影響度を表し、縦軸は、影響度の高い順にソートした物質を表す。横軸に示す誤差31aへの影響度は、誤差要因分析部32により算出されたImportance又はSharpley値が用いられる。また、図8では、各物質の物質名を物質1、物質2、…物質Mのように表す。物質1、物質2、…物質Mは、物理シミュレータ10によって濃度が予測される物質Cjの理論モデル15に含まれる物質が想定される。また、図8に示す物質1、物質2は、上述した物質C1、物質C2と必ずしも対応しない。
【0066】
関数化対象選択部33が誤差31aへの影響度が大きい物質を選ぶため、例えば、影響度の大きい上位のN個の物質を選択する第1の方法が用いられる。第1の方法では、N=3とした場合、誤差31aへの影響度が大きい物質1、物質2、物質3が選択される。例えば、図8の上側に示す棒グラフでは、物質1の影響度が最も大きかったとする。このことは、物質1の濃度がわずかに変わるだけで、誤差が大きく変化することを表す。そこで、関数化対象選択部33は、物質1に乗じられたパラメータpj,3を関数化するため、図8の下側に示す多項式の3項目に破線の楕円で囲ったパラメータpj,3を選択する。図示しないが、図8の下側に示す多項式には、物質2、物質3に乗じられたパラメータpを含む項も存在する。このため、関数化対象選択部33は、図8の下側に示す多項式から物質2、物質3に乗じられたパラメータpを含む項も選択する。
【0067】
なお、関数化対象選択部33が誤差31aへの影響度が大きい物質を選ぶ方法として、影響度が影響度閾値以上である物質を選択する第2の方法が用いられてもよい。第2の方法では、物質1、物質2、物質3、物質4の4個の物質が選択される。この場合、4個の物質に乗じられたパラメータpを含む項が多項式から選択される。
【0068】
再び図5に戻って説明を続ける。
ステップS4の後、関数パラメータ選択部34と関数化処理部35は、ステップS4で関数化対象として選択された各項に対して、以下のステップS6~S8の処理を繰り返し行う(S5)。
【0069】
まず、関数パラメータ選択部34は、関数化対象選択部33により関数化対象として選択された項に含まれる各内部状態(温度、物質の量など)のいずれかとの交互作用が交互作用閾値以上となる内部状態を説明変数pjとして選択する。そして、関数パラメータ選択部34は、説明変数pjそのもののセット、及び説明変数pjの部分集合となる全てのセットを、RAM53(図4を参照)に設けた一時領域に保存する(S6)。
【0070】
内部状態とは、例えば、物質Cjとして表す物質の濃度量である。また、交互作用とは、物質Ciの濃度変化が物質Cjの濃度変化に影響を与えることであり、図7に示したグラフのShapley値が0から外れる場合に、交互作用があると判定される。ここで、関数パラメータ選択部34は、ある物質Ciの濃度が一定である場合に、物質Cjの濃度が変化した時の、各グラフ間の距離と交互作用閾値とを比較することで、交互作用の大きさを判断する。
【0071】
例えば、図7の凡例の(5)に示す線種のグラフを起点として縦に両矢印で示す交互作用閾値より長い、凡例の(1)~(4)に示す線種のグラフは、交互作用が交互作用閾値以上であると言える。なお、図7では、物質Ciのある濃度における交互作用閾値をグラフの正のShapley値と比較した例を示したが、グラフの負のShapley値と比較してもよい。また、Shapley値が「0」を起点とした交互作用閾値と、各グラフの正又は負のShapley値の長さとを比較してもよい。
【0072】
パラメータPjが再掲する式(1)の関数で表される場合に、再掲する式(2)を「説明変数pjそのもののセット」と呼ぶ。
j,2=f(物質Ci,…)…(1)
j,2=f(物質1,物質2)…(2)
【0073】
なお、パラメータPjが次式(3)、(4)の関数で表されることがある。この場合、物質1に関する式(3)、物質2に関する式(4)をそれぞれ「説明変数pjの部分集合」と呼び、式(3)、式(4)を「部分集合となる全てのセット」と呼ぶ。
j,2=f(物質1)…(3)
j,2=f(物質2)…(4)
【0074】
図4に示したRAM53等に形成される一時領域には、式(2)で表される説明変数pjそのもののセット、及び説明変数pjの部分集合となる全てのセットが保存される。そして、一時領域に保存された式(2)で表される説明変数pjそのもののセット、及び説明変数pjの部分集合となる全てのセットに対して、関数パラメータ選択部34が、後述する図9に示す関数テンプレート36からパラメータ数が同じ関数形を選択する処理を行う。
【0075】
なお、過度に複雑な関数形は望ましくないため、関数パラメータ選択部34が選択する説明変数pjの数の最大値を予め決めておくとよい。例えば、説明変数pjの数の最大値を「3」としておく。ここでは、説明変数pjのセットとして、物質1、物質2、物質3に対して、それぞれ内部状態(温度、物質の量など)が一時領域に保存されているものとする。
【0076】
図5に示したステップS6の後、関数化処理部35は、一時領域から説明変数pjのセットを取り出す。一時領域に説明変数pjのセットが無い場合、関数形候補となっているものを出力し、ステップS7,S8のループ処理を終了する(S7)。このように、ステップS7は、ステップS5に含まれる一連の処理の終了条件を表しており、これまでの処理で最も評価結果が高い、すなわち、物理シミュレータ10によるシミュレーションの予測精度が高くなる関数形候補を出力する処理が行われる。
【0077】
次に、関数化処理部35は、一時領域から取り出したセット中の説明変数pjの数と、説明変数の数が適合する関数を、関数テンプレート36から選択し、実測データ21を用いて推定精度が最も高くなる関数形とそのパラメータpを求める。そして、関数化処理部35は、求めた関数形とパラメータpを、関数形候補として一時領域に記録し、ステップS7へ戻る(S8)。関数化処理部35は、関数テンプレート36から引数が一致する関数形候補を全て取り出し、関数形ごとに順次評価を行う。そして、関数化処理部35は、現在一時領域に記録されている関数形候補より評価結果が良ければ、この関数形候補を、これまで一時領域に記録されていた関数形候補を、評価結果の良い関数形候補に置き換える。
【0078】
ここで、関数パラメータ選択部34が関数テンプレート36から関数形を選択し、関数パラメータを求める処理について、図9図10を参照して説明する。
図9は、関数テンプレート36の構成例を示す図である。
【0079】
関数テンプレート36には、様々な種類の関数形がテンプレートとして格納されている。この関数テンプレート36は、関数のパラメータ数(引数の数)、関数形、学習用データから決定が必要なパラメータ数の項目を持つ。なお、関数テンプレート36の左側にあるNo.項目は、説明のために付したものであり、実際の関数テンプレート36には不要である。
【0080】
No.1とNo.2のレコードには、関数のパラメータ数(引数の数)が「1」である時の関数形の例が示される。
No.1には「ax+b」の関数形が示される。この関数形では、a,bの2つのパラメータを決定する必要があるため、学習用データから決定が必要なパラメータ数は「2(a,b)」のように表される。
No.2には「a(x<c)、かつb(x≧c)」の関数形が示される。この関数形では、a,b,cの3つのパラメータを決定する必要があるため、学習用データから決定が必要なパラメータ数は「3(a,b,c)」のように表される。
【0081】
No.3~No.5のレコードには、関数のパラメータ数(引数の数)が「2」である時の関数形の例が示される。
No.3には「ax+by+c」の関数形が示される。この関数形では、a,b,cの3つのパラメータを決定する必要があるため、学習用データから決定が必要なパラメータ数は「3(a,b,c)」のように表される。
No.4には「ax+by+c」の関数形が示される。この関数形では、a,b,cの3つのパラメータを決定する必要があるため、学習用データから決定が必要なパラメータ数は「3(a,b,c)」のように表される。
No.5には「a(x<e & y<f)、b(x≧e & y<f)、c(x<e & y≧f)、d(x≧e & y≧f)」が示される。この関数形では、a,b,c,d,e,fの6つのパラメータを決定する必要がある。そこで、学習用データから決定が必要なパラメータ数は「6(a,b,c,d,e,f)」のように表される。
【0082】
関数パラメータ選択部34は、関数のパラメータ数(引数の数)が同じ関数形を全て選ぶ。その後、関数化処理部35は、関数パラメータ選択部34により選択された関数形のうち、どの関数形の予測性能が高いかを調べる。例えば、上式(2)に示したように、2つの物質C1、C2が関数fの引数として求められた場合、No.3~5の3つの関数形を順番に選択し、最小二乗法を用いて、実測値と予測値との差が最も少なくなる関数形を選択する。
【0083】
ここで、関数化処理部35が関数形の予測性能を調べる処理について、図10を参照して説明する。
図10は、関数化処理部35が関数形の予測性能を調べる処理の例を示すフローチャートである。関数パラメータ選択部34が選択した全ての関数形に対して、図10に示す関数形の予測性能を調べる処理が順番に行われる。
【0084】
始めに、関数化処理部35は、実測データ21をAIモデルの学習用データと評価用データに分ける(S11)。次に、関数化処理部35は、学習用データから決定が必要なパラメータ(a,bなど)の値を、最小二乗法などを用いて決定する(S12)。
【0085】
そして、関数化処理部35は、評価用データを、決定したパラメータの値で作成した関数形の式に適用し、関数パラメータが反映された式の精度を評価する(S13)。関数化処理部35は、パラメータ数が同じ全ての関数形に対して、図10に示す処理を繰り返し行い、最も評価が高い関数形のパラメータを関数化パラメータ13(図1を参照)として出力する。
【0086】
なお、パラメータPjを表す関数の項が少なくても、複数の項を含む関数と比べて予測性能が低くならないのであれば、他の物質CjにもパラメータPjを表す関数を適用可能とし、汎化性能を高めるためにも、項数が少ない関数でパラメータPjが表現されるとよい。例えば、上述した式(3)、(4)には、1つの項を含む関数fでパラメータPjが表現されている。そこで、式(3)、(4)に示す1つの項を含む関数fに対しても、関数化処理部35が関数テンプレート36から関数のパラメータ数(引数の数)が「1」である時の関数形を選択する。そして、関数化処理部35は、選択された関数形に式(3)、(4)に示す物質1、物質2を適用することで、ステップS5~S8に示す処理を行う。
【0087】
<パラメータ関数化装置で行われる第2の処理の例>
図5に示したパラメータ関数化装置30で行われる第1の処理の例では、関数化対象としない物質CiについてもShapley値を計算していた。しかし、関数化対象とする物質CiだけShapley値を計算すれば処理の無駄がない。そこで、関数化対象とする物質CiだけShapley値を計算する第2の処理の例について、図11を参照して説明する。
図11は、パラメータ関数化装置30で行われる第2の処理の例を示すフローチャートである。図11では、Shapley値の交互作用を計算する処理ステップをステップS3からステップS6Aに変更している。
【0088】
ステップS1の処理は誤差算出部31で行われ、ステップS2の処理は誤差要因分析部32で行われる。ステップS2の後、誤差要因分析部32は、AIモデル32aをXAI33aで多角的に分析し、Importanceを計算する(S3A)。このようにステップS3の処理では、第1の処理の例(図5を参照)とは異なり、誤差要因分析部32がShapley値の交互作用を計算しない。
【0089】
ステップS3の後、関数化対象選択部33は、Importanceのみに基づいて、影響度の高い説明変数を含む項を関数化の対象として選ぶ(S4)。そして、関数パラメータ選択部34と関数化処理部35は、ステップS4で関数化対象として選択された各項に対して、以下のステップS6A~S8の処理を繰り返し行う(S5)。
【0090】
次に、関数パラメータ選択部34は、物質Cjの濃度を変化させる度に、物質Ciの濃度を変えて誤差に対する物質CiのShapley値(影響値の一例)を算出する。そして、関数パラメータ選択部34は、Shapley値の変化量が交互作用閾値よりも大きくなる物質Ciの濃度が物質Cjの濃度と交互作用があると判定した物質Ciの定数パラメータ12から関数パラメータを選択する。
【0091】
このため、関数パラメータ選択部34は、関数化対象選択部33によって関数化対象として選択された項に含まれる各内部状態(温度、物質の量など)のそれぞれに対して、関数パラメータ選択部34がShapley値の交互作用を計算する。また、関数パラメータ選択部34は、Shapley値の交互作用が交互作用閾値以上となる内部状態を説明変数pjとして選択する。そして、関数パラメータ選択部34は、説明変数pjそのもののセット、及び説明変数pjの部分集合となる全てのセットを、RAM53(図4を参照)に設けた一時領域に保存する(S6A)。以降のステップS7,S8の処理は、第1の処理の例と同じである。
【0092】
以上説明した一実施形態に係る物質量予測システム1では、パラメータ関数化装置30が定数パラメータ12を関数化した関数化パラメータ13を用いることで、物理シミュレータ10による物理シミュレーションの精度を向上させることができる。物理シミュレータ10は、関数化パラメータ13を用いて原子炉内の物質の濃度を予測するため、従来の物理シミュレーションでは表現されていなかった原子炉内の様々な物質の濃度変化を求めることができる。このため、物理シミュレータ10に接続される不図示の人員管理システムは、物理シミュレータ10から出力されるシミュレーション結果に基づいて、原子力発電プラントでの人員配置、作業計画等を適切に行うことができる。
【0093】
また、パラメータ関数化装置30は、数百以上あるパラメータの全てを関数化するのでなく、物理シミュレータ10が物理シミュレーションを行う物質の増減に大きく影響を与える一部のパラメータを選択して、この関数形(説明変数の選択を含む)を自動的に決定する。このため、物理シミュレータ10における関数化パラメータ13を用いた処理では、関数化されたパラメータの数は多くないため、物理シミュレータ10に過度な処理負荷が低弦されるにも関わらず、実測値に近い予測値を求めることができる。
【0094】
また、定数パラメータ12は、実験室での実験結果や理論値で予め求めた値であるが、関数化パラメータ13は、実際に稼働している原子炉から実測された実測値に基づいて定数パラメータ12を最適化したものである。このため、関数化パラメータ13を用いた物理シミュレーションの予測値の精度が高くなる。
【0095】
また、パラメータの数に応じて様々な関数形が関数テンプレート36に用意されている。そして、関数化処理部35は、関数テンプレート36から選択した関数形を、濃度の予測対象である物質に対して、物質ごとに求めることで、実測値に対する予測値の誤差を低減することが可能となる。
【0096】
なお、関数パラメータ選択部34が選択するパラメータの数は多くて3つ、大抵は1つか2つと想定される。そこで、関数パラメータ選択部34によって複数のパラメータが選択された場合であっても、関数化処理部35は、パラメータの数を減らした関数f(上式(3)、式(4))についても予測精度を調べてもよい。
【0097】
また、関数パラメータ選択部34は、関数fのパラメータが2つ選択された時に、パラメータが1つの関数形についても試してよい。この場合、関数テンプレート36からNo.1~5の5つの関数形が選択され、各関数形について評価されることとなる。
【0098】
また、定数パラメータ12を関数化パラメータ13に置き換えて長期間のシミュレーションを続ける場合、再び予測値が実測値に対して誤差が生じることがある。この場合、再び、パラメータ関数化装置30が本実施の形態に係る処理を行って、新たに関数化パラメータ13を算出し、物理シミュレータ10は、以前の関数化パラメータ13を、新たに算出された関数化パラメータ13に置き換えてシミュレーションを行ってもよい。
【0099】
また、上述した実施形態では、プラント60の一例として、原子炉を用いたが、その他の化学プラント等にも物質量予測システム1を適用可能である。
【0100】
本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにシステム及び装置の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1…物質量予測システム、10…物理シミュレータ、11…予測データ、12…定数パラメータ、13…関数化パラメータ、15…理論モデル、20…計測装置、21…実測データ、30…パラメータ関数化装置、31…誤差算出部、31a…誤差、32…誤差要因分析部、32a…AIモデル、33…関数化対象選択部、33a…XAI、34…関数パラメータ選択部、35…関数化処理部、36…関数テンプレート
図1
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