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  • 特開-防刃および防突き刺し積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177863
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】防刃および防突き刺し積層体
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20231207BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20231207BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20231207BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20231207BHJP
   A41D 31/24 20190101ALI20231207BHJP
【FI】
A41D13/00 102
B32B5/26
B32B5/02 B
B32B5/02 C
A41D31/02 A
A41D31/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090806
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】518409634
【氏名又は名称】株式会社TASKMATE
(71)【出願人】
【識別番号】522222803
【氏名又は名称】北陸ウェブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104581
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 伊章
(72)【発明者】
【氏名】今井啓詞
(72)【発明者】
【氏名】飴谷嘉治蔵
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
4F100
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AB04
3B011AC04
3B211AB01
3B211AB04
3B211AC04
4F100AB01A
4F100AG00
4F100AK01B
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK41
4F100AK48
4F100AK48A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG12
4F100DG12A
4F100DG13
4F100DG13B
4F100GB90
4F100JK01
4F100JK01A
4F100JK01B
4F100JK05
4F100JK05A
4F100JK05B
4F100JK10
4F100JK10A
4F100JK10B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】包丁やナイフなどの鋭利な刃物、特にアイスピックや千枚通しに対し防護特性を有する防刃および防突き刺し積層体を提供する。
【解決手段】防刃および防突き刺し積層体であって、少なくとも耐切創糸を含む生地A(2a,2b)と割繊糸を含む生地B(1a,1b)を積層し、耐切創糸は、高分子ポリエチレン糸、アラミド繊維糸、ポリアリレート糸、金属糸、または少なくともそれらを1つ以上含む混合糸であり、割繊糸は、1本の繊維の中に異なる2種類のポリマーを使用した混繊糸であり、フィラメント数が100本以上であり、鋭利物体の衝撃時、生地Bの繊維が、鋭利物体の表面に密着する事になり、次の生地への移動にブレーキがかかる、防刃および防突き刺し積層体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防刃および防突き刺し積層体であって、少なくとも耐切創糸を含む生地Aと割繊糸を含む生地Bを積層し、
上記耐切創糸は、高分子ポリエチレン糸、アラミド繊維糸、ポリアリレート糸、金属糸、または少なくともそれらを1つ以上含む混合糸であり、
上記割繊糸は、1本の繊維の中に異なる2種類のポリマーを使用した混繊糸であり、フィラメント数が100本以上であり、
鋭利物体の衝撃時、前記生地Bの繊維が、鋭利物体の表面に密着する事になり、次の生地への移動にブレーキがかかることを
特徴とする防刃および防突き刺し積層体。
【請求項2】
上記生地Aは、耐切創糸の比率が45~100質量%であり、
上記生地Bは、割繊糸の比率が50~100質量%である、
請求項1記載の防刃および防突き刺し積層体。
【請求項3】
上記積層体において、
上記生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)の合計が1000g/m2以上であり、
かつ
上記生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が260g/m2以上である、
請求項2記載の防刃および防突き刺し積層体。
【請求項4】
上記割繊糸の生地Bが、表面側に出現するように積層されている請求項2記載の防刃および防突き刺し積層体。
【請求項5】
上記積層体においてさらに上記生地AとB以外である生地Cが積層されており、
上記生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)の合計が500g/m2以上であり、
かつ
上記生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が100g/m2以上であり、
かつ
上記生地Cは複数枚の生地であり、その各生地の目付の合計が600g/m2以上であり、
上記生地Cより表面側に、上記生地Aおよび上記生地Bが積層されている請求項2記載の防刃および防突き刺し積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の防刃および防突き刺し積層体を用いた防刃具および耐貫通装備品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包丁やナイフなどの鋭利な刃物、特にアイスピックや千枚通しに対し防護特性を有する防刃および防突き刺し積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、包丁やナイフなどの鋭利な刃物、特にアイスピックや千枚通しに対し防護特性を有する保護材として、鋼板などの金属製エレメントからなるもの(特許文献1)、金属平板を織布基材に接着固定したもの(特許文献2)、あるいは高強度繊維強化プラスチック層とアルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス層を積層したもの(特許文献3)などのように、金属板やセラミックス層を用いたものがある。
【0003】
しかし、金属板やセラミックス層を用いたものは、重量が重く、扱い難いという欠点がある。そこで、軽量な保護材として、高強度繊維強化プラスチックを積層したもの(特許文献4)やポリアミド繊維などの高強力織物を積層したもの(特許文献5)、スーパー繊維を含む防刃積層体(特許文献6)が提供されているが、 高価な材料を使用しているのでコスト高であること、アイスピックや千枚通しに対して、十分な防護特性を備えているとは言えないものであった。
【0004】
上記従来技術によると、金属を使用若しくは併用するものは重量が増加してしまい、身体に装着する場合は動きにくく疲労しやすいといった問題があった。
また、高強度繊維強化プラスチック及び高強力織物を使用した樹脂製のものは、軽さや柔軟性があるが、包丁、ナイフなどの鋭利な刃物に対しては防護性能があっても、アイスピックや千枚通しに対しては、防護性能が十分でなく、また樹脂コーティングすることにより、コストが高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-249257号公報
【特許文献2】特開2013-095131号公報
【特許文献3】特開2009-028944号公報
【特許文献4】特許第4844908号公報
【特許文献5】特許第4333217号公報
【特許文献6】特許第6806652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、包丁やナイフなどの鋭利な刃物、特にアイスピックや千枚通しに対し、優れた防護特性を有するとともに、高価な材料を使用せず繊維材料のみで、軽量でかつ柔軟な防刃および防突き刺し積層体を提供する点にある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて、提案されたものである。
即ち、防刃および防突き刺し性を有するにも関わらず、高価な材料を使用せず繊維材料のみで、軽量でかつ柔軟な防刃および防突き刺し積層体である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、耐切創糸からなる生地に着目して種々検討した結果、これと、割繊糸からなる生地を合わせれば意外にも防突き刺し性が強固になり、これらを含む積層体が防刃および防突き刺し積層体として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、防刃および防突き刺し積層体であって、少なくとも耐切創糸を含む生地Aと割繊糸を含む生地Bを積層し、上記耐切創糸は、高分子ポリエチレン糸、アラミド繊維糸、ポリアリレート糸、金属糸、または少なくともそれらを1つ以上含む混合糸であり、上記割繊糸は、1本の繊維の中に異なる2種類のポリマーを使用した混繊糸であり、フィラメント数が100本以上であり、鋭利物体の衝撃時、前記生地Bの繊維が、鋭利物体の表面に密着する事になり、次の生地への移動にブレーキがかかることを特徴とする防刃および防突き刺し積層体である。
【0010】
上記生地Aは、耐切創糸の比率が45~100質量%であり、上記生地Bは、割繊糸の比率が50~100質量%である、防刃および防突き刺し積層体であり、さらに、上記積層体において、上記生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)の合計が1000g/m2以上であり、かつ上記生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が260g/m2以上である、防刃および防突き刺し積層体である。
【発明の効果】
【0011】
本願は、耐切創糸を含む生地に、割繊糸を含む生地を組合わせることにより、より防突き刺し性が強固になる防刃および防突き刺し積層体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
防刃および防突き刺し積層体であって、耐切創糸が45~100質量%の生地Aと割繊糸が50~100質量%の生地Bを含む。また、その他の生地Cを含んでもよい。生地Cは、例えば、高密度織物などが含まれる。
【0013】
本発明における耐切創糸とは、耐切創能力に優れた糸であり、高分子ポリエチレン糸、アラミド繊維糸、ポリアリレート糸、金属糸、または少なくともそれらを1つ以上含む混合糸である。金属糸については、例えばステンレスやタングステンなどの金属糸などを含む。
混合糸としては、例えばCYGUS/サイグス(Composite Yarn Guarding Slash)( 株式会社TASKMATE製) がある。
CYGUSは防刃能力の高い耐切創糸で、重さは481デニールとなり、特徴としては、従来耐切創糸として使用されていたアラミド系繊維や高分子ポリエチレン系繊維と比べ、ASTM耐切創試験上で、2倍~2.5倍もの耐切創能力を発揮できる。しかし、それに限られるものではない。
【0014】
本発明における割繊糸とは、1本の繊維の中に異なる2種類のポリマーを使用した混繊糸であり、フィラメント数が100本以上のものである。異なる2種類のポリマーは、例えば、ナイロンやポリエステルなどである。
【0015】
割繊糸の異なる2つの繊維は、繊維の収縮差を利用したり、溶ける繊維を使用するなどして、1つの糸を加工で割る(開繊)ことで、マルチファイバー化する糸であり、ドレープ感があって上品な光沢感と肌に吸い付くようなしっとりと柔らかい風合いが特徴である。
もともと割繊糸はシワになりにくい、ピーチタッチ・スエードタッチ、ビンテージ感などの利点があるが、弱点として、引き裂きに弱いということで、防刃に利用されるものではなかった。
【0016】
しかし本発明者は、耐切創糸を使用した生地と、割繊糸を使用した生地を合わせれば、意外にも、アイスピックなどの突き刺し時、防突き刺し性が強固になり、これらを含む積層体が、防刃および防突き刺し積層体として有用であることを見出した。
【0017】
割繊糸は、「海島割繊糸」と「分割型割繊糸」に分けられるが、どちらを使用してもよい。
「海島割繊糸」は、海に部類する繊維と島に部類する繊維の2種類のポリマーから成る。
海に部類される繊維は、溶解される繊維で、アルカリ割繊処方をすることで、この繊維が溶けて、島に部類する溶けない繊維のみが残る。
元々1つの糸が、海成分が溶けることにより、中にある細かい繊維が残り、マルチファイバーやハイフィラメント状態になる。加工前は海成分が覆っているため1本のフィラメントだったものが、開繊後には、海成分の枠がなくなりマルチファイバー化することで、1本の糸の状態よりしなやかで柔らかい風合いに変わる。また、割繊糸は,裂けやすい性質がある。
【0018】
「分割型割繊糸」は、異なる2種類のポリマーの収縮差を利用して、くっついていたポリマーを開繊する。そうすることで、初めは一つの糸だったものが、開繊後にマルチファイバー化して細かい繊維の集合を作る。
分割型割繊糸は、例えば、ポリエステル/ナイロンの分割型複合フィラメントで、割繊後はナイロン1本ポリエステル4本に5分割されたマイクロファイバーとなるものがある。
【0019】
本願の割繊糸を含む生地Bは、割繊糸織物、割繊糸高密度編み物、割繊糸不織布などが含まれる。
【0020】
以下図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態の防刃および防突き刺し積層体の模式的断面図である。
図1の積層体は、上から、第1層は、割繊糸生地(1a-1b)であり、第2層は耐切創糸生地(2a-2b)である。
図は例示であり、割繊糸生地と耐切創糸生地は、何枚重ねてもよいが、表面の第1層は割繊糸生地とするのが好ましい。すなわち、上記積層体は割繊糸生地が表面側に出現するように積層されているのが好ましい。
表面の第1層を割繊糸生地とした方がよい理由は、割繊糸生地の繊維が、鋭利物体の表面に密着する事になり、次の生地への移動にブレーキがかかるからである。
【0021】
図2の積層体は、上から、第1層を耐切創糸生地(2a-2b)、第2層は割繊糸生地(1a-1b)、第3層はその他の生地(3a-3b)である。
図は例示であり、割繊糸生地と耐切創糸生地とその他の生地は、何枚重ねてもよい。
図1の場合と違い、第3層にその他の生地が存在する場合は、表面の第1層は割繊糸生地でなく、第1層が耐切創糸生地であっても一定の効果がある。
第3層のその他の生地で、止めることができるからである。その他の生地は、高密度織物が好ましいが、それに限られるものではない。
【0022】
上記のように、本願積層体は、表面の第1層を割繊糸生地とするのが最も好ましいが、表面の第1層が割繊糸生地でなく、耐切創糸生地であっても、第3層にその他の生地があれば効果は出る。しかし、耐切創糸生地、割繊糸生地いずれかを無くすと効果は無くなる。
【0023】
したがって、耐切創糸生地、割繊糸生地は両方とも使う必要があり、結果として、耐切創糸生地と割繊維生地の組み合わせが最も重要である。
【0024】
図3は割繊糸生地を、上方向からアイスピックで突いた場合の写真である。
記号Aから記号Bにかけて生地が押し下げられている。この記号Aと記号Bの部分では生地がアイスピック表面に密着する事になり、この生地部分が次の生地に一緒に入ろうとする。次の生地が広がりにくい引っ張り強度の強い生地の場合、そこで側面からアイスピックを挟む力が発生し、ブレーキがかかる事になる。複数枚の割繊糸生地を重ねる事で、この作用が繰り返され突き刺しの防御を向上させる事になる。包丁でも同じ原理が発生する。
【0025】
割繊糸生地と組み合わせる生地が例えば耐切創糸生地でなく、ポリエステルの場合、アイスピックには効果があるが、包丁では生地が簡単に切れてしまいブレーキ効果が機能しない。耐切創糸を使った生地との組み合わせが、包丁、アイスピック両方を止めやすくなる。
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
なお、本発明は下記の実施例に限定されるのではない。
刃物とアイスピックを使用して下記の各積層体に対し、入射角度0度で突き刺し、貫通試験をし、評価した。包丁は岐阜県関市の柳刃包丁を使い、アイスピックは新潟県三条市のものを使用した。また土台は、沈んで力が逃げるのを防ぐ為柔らかいものではなく、硬いものを使用した。
以下、結果を下記のように、〇△×で表す。
〇: 包丁とアイスピック両方を止める事ができた
△: 包丁または、アイスピックのいずれかは止められるが、もう片方は止まらない。
または、両方ともある程度効果はある(貫通レベルの低減はある)が、完全に止められない。
×: いずれも完全に貫通した。
【0027】
表1の下記の各積層体は、耐切創糸生地Aと割繊糸生地Bを複数枚組み合わせたものである。
いずれも、表面の上から、第1層は割繊糸生地で、第2層は耐切創糸生地とした。
(実施例1および2)
実施例1および2の耐切創糸生地Aは、高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡糸CYGUS/サイグス(Composite Yarn Guarding Slash)( 株式会社TASKMATE製) の織物を使用した。
割繊糸生地Bは、割繊糸織物と、割繊糸高密度編み物とした。
耐切創糸生地Aは、高分子ポリエチレン糸(耐切創糸)が、42質量%である生地であった。
前記割繊糸生地Bの割繊糸は、「分割型割繊糸」であり、ポリエステル/ナイロンの分割型複合フィラメントのものを使用した。また割繊糸が55質量%である生地であった。
耐切創糸生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付の×(耐切創糸の比率)が合計で質量924.0g/mであった。
割繊糸生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付の×(割繊糸の比率)が合計で268.6g/mであった。
(実施例3―8)
実施例3―8の耐切創糸生地Aは、高分子ポリエチレン織物、アラミド繊維織物、またはポリアリレート繊維織物を使用した。耐切創糸は、いずれも100質量%である生地であった。
割繊糸生地Bは、割繊糸織物と、割繊糸高密度編み物とした。前記割繊糸生地Bの割繊糸は、「分割型割繊糸」であり、ポリエステル/ナイロンの分割型複合フィラメントのものを使用した。また割繊糸が55質量%である生地であった。
耐切創糸生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)が合計で質量924.0g/mであった。
割繊糸生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)が合計で268.6g/mであった。
【0028】
【表1】
上記の結果より、生地Aが、高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡糸織物もしくは、高分子ポリエチレン織物、アラミド繊維織物、ポリアリレート繊維織物であって、生地Bが、割繊糸織物、割繊糸高密度編み物の時に、柳刃包丁とアイスピック突き刺しを止めることができた。
【0029】
(実施例9および10)
実施例9および10の積層体は、複数枚の耐切創糸生地Aと複数枚の割繊糸生地Bと、さらにその他の生地Cを数枚組み合わせたものである。
耐切創糸生地Aは、実施例1および2と同じであり、高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡糸CYGUS/サイグス(Composite Yarn Guarding Slash)( 株式会社TASKMATE製) の織物を使用した。
耐切創糸生地は、高分子ポリエチレン(耐切創糸)が、42質量%である生地であった。
前記割繊糸生地Bの割繊糸は、「分割型割繊糸」であり、ポリエステル/ナイロンの分割型複合フィラメントのものを使用した。また割繊糸が55質量%である生地であった。
割繊糸生地Bは、割繊糸織物と、割繊糸高密度編み物とした。
生地Cは、1780dtexの糸で、縦56.5本/inch、横17本/inchの織物であった。
耐切創糸生地Aは複数枚あり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)比率の合計が500.0g/m2であった。割繊糸生地Bは複数枚あり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が100.0g/m2であった。その他の生地Cは複数枚あり、その各生地の目付の合計が600.0g/m2であった。実施例1-8と同様に貫通試験を行ったところ、包丁とアイスピック両方を止める事ができた(〇)。
上記の結果より、生地Aが耐切創糸生地、生地Bが割繊糸生地、その他の生地Cを組み合わせた時に、柳刃包丁とアイスピックの突き刺しを止めることができた。
【0030】
【表2】
【0031】
(比較例1-4)
下記は、耐切創糸生地A単体で、割繊糸生地Bと組み合わせていないものである。
比較例1は生地Aが実施例1と同じ条件の高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡糸織物である。比較例2は生地Aが実施例3と同じ条件の高分子ポリエチレン織物である。比較例3は生地Aが実施例5と同じ条件のアラミド繊維織物である。比較例4は生地Aが実施例7と同じ条件のポリアリレート繊維織物である。
生地Aのみの場合の実験の結果は下記のとおりである。
【0032】
【表3】
【0033】
生地Aが、高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡糸織物の場合は、わずかに効果があり、包丁は止められるが、アイスピックは止まらなかった。
生地Aが高分子ポリエチレン織物、アラミド繊維織物、またはポリアリレート繊維織物の場合は、包丁も、アイスピックも止まらない。
すなわち、実施例と比較すると、生地Aが耐切創糸生地であっても、単体では効果がない。生地Aが耐切創糸生地であり、生地Bが割繊糸生地である組み合わせの時に、効果があることがわかる。
【0034】
(比較例5-15)
下記の各積層体は、耐切創糸生地Aと割繊糸生地以外の生地とを組み合わせたものである。
生地Aが、実施例1と同じ条件の耐切創糸生地(高分子ポリエチレン・ガラス繊維・ポリエステル繊維混紡織物)であって、生地Bが割繊糸生地でない場合の実験の結果は下記のとおりである。
【0035】
【表4】
【0036】
上記の比較例において、生地Aが、実施例1~2と同じ生地であっても、生地Bが割繊糸生地でない場合は、柳刃包丁は止めることができたが、アイスピックが貫通して、防刃効果はあるが、防突き刺し効果がないという結果や、ある程度積層すると効果があっても重量が増えすぎて実用レベルに達していないという結果であった。
【0037】
比較例6及び8において、結果は良好でないながらも生地Bが「ポリエステル短繊維織物」「綿織物」の場合、一定の効果はあるように見え、割繊糸生地との共通点は構成する糸が多い点で、同じ容積により多くの糸が細かく入っていることが、刃物等の進入速度を遅らせる効果があると推測される。
【0038】
なお、上記実施例より、貫通試験の結果が良好であるには、上記生地の中における耐切創糸と割繊糸のそれぞれの比率は、上記生地Aは、耐切創糸の比率が45~100質量%で好ましく、上記生地Bは、割繊糸の比率が50~100質量%が好ましい。
【0039】
また上記積層体において、上記生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)の合計が1000g/m2以上であり、かつ上記生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が260g/m2以上であることが好ましい。
【0040】
また、上記の積層体において、さらにAとB以外である生地Cが積層されている場合、貫通試験の結果が良好であるには、上記生地Aは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(耐切創糸の比率)の合計が500g/m2以上であり、かつ上記生地Bは複数枚の生地であり、その各生地の目付×(割繊糸の比率)の合計が100g/m2以上であり、かつ上記生地Cは複数枚の生地であり、その各生地の目付の合計が600g/m2以上であり、上記生地Cより表面側に、上記生地Aおよび上記生地Bが積層されていることが好ましい。また生地Cは、高密度織物であるのが最も好ましい。
【0041】
本願において、割繊糸に防突き刺し効果がある理由は、下記のように推測される。
割繊糸は一本一本の糸が非常に細かい為、滑り止め機能が働きアイスピックや刃物の表面に密着して一緒に中に入ろうとする。その際、下にある生地が耐切創糸で作った生地の場合、切れにくい上、引っ張り強度も強く、アイスピックや刃物に割繊維が表面に密着した状態で入ろうとしても下方向のベクトルに対し横方向の摩擦が発生する為、刃物の速度が落ち、このブレーキのしくみを繰り返す事で割繊糸を使った生地を使わない場合と比べ、耐切創糸の生地を格段に少ない枚数で貫通防止効果が可能となる。
【0042】
また「割繊糸」は、比較例6及び8における「綿織物」「ポリエステル短繊維織物」よりフィラメント数が多いため、さらに効果があると思われる。
【0043】
耐切創糸を使った生地は、一般的な生地と比べ5倍~10倍あるいはそれ以上の価格になる為、実際にかなり重ねて防御できるものができたとしても、重量だけでなく価格面でも実用的でなくなる。
【0044】
シリコンシートなどもブレーキ機能があり、一定の効果はあると見られるが、特性上伸びたり千切れたりするなど横方向のベクトルを維持できないことと、重量が重く使いにくいという欠点がある。アルミ板のように固いものを使うと、鋭利な刃物との固さ勝負になり、包丁やアイスピックで先端の非常に小さい面積にかかる力に負けてしまい、穴が開き、貫通防止効果がない。
【0045】
以上から、本発明者は、割繊糸を使った生地と耐切創糸を使った生地の組み合わせが最も「防突き刺し性能」「軽量化」「価格の低減」の効果があるものと見出した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る防刃および防突き刺し積層体は、例えば、防刃チョッキ等の防刃具に有用である。また、防災用に靴の中底に「くぎ踏み抜き防止インソール」として、耐貫通装備品としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の一実施形態の防刃および防突き刺し積層体の模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態の防刃および防突き刺し積層体の模式的断面図である。
図3】上方向から割繊糸生地をアイスピックで突いた場合の写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 1a-1b 割繊糸生地
2 2a-2b 耐切創糸生地
3 3a-3b その他の生地
図1
図2
図3