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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177874
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/68 20060101AFI20231207BHJP
   F24C 7/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H05B6/68 320T
H05B6/68 310A
F24C7/02 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090826
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】内山 昌也
(72)【発明者】
【氏名】門前 和紗
(72)【発明者】
【氏名】滝本 和利
【テーマコード(参考)】
3K086
3L086
【Fターム(参考)】
3K086AA04
3K086CB01
3K086CC02
3K086CD01
3L086AA01
3L086DA30
(57)【要約】
【課題】内部で安定した通信が可能な加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱調理器10はマグネトロン12と、インバータ回路部20と、インバータ電源21と、インバータ制御部30と、加熱調理制御部40とを備える。マグネトロン12は、被加熱物を加熱調理するためのマイクロ波を発生させる。インバータ回路部20は、マグネトロン12を駆動する。インバータ電源21は、インバータ回路部20に交流のインバータ電源電圧を印加する。インバータ制御部30は、インバータ回路部20の動作の制御を行う。加熱調理制御部40は、インバータ制御部30と通信可能で、被加熱物の加熱調理に関する制御を行う。インバータ制御部30は、インバータ回路部20に印加されるインバータ電源電圧の正負が切り替わる時点から予め定められた規定通信時間の間に、加熱調理制御部40に対する通信を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を加熱調理するためのマイクロ波を発生させるマグネトロンと、
前記マグネトロンを駆動するインバータ回路部と、
前記インバータ回路部に交流のインバータ電源電圧を印加するインバータ電源と、
前記インバータ回路部の動作の制御を行うインバータ制御部と、
前記インバータ制御部と通信可能で、前記被加熱物の加熱調理に関する制御を行う加熱調理制御部とを備え、
前記インバータ制御部は、前記インバータ電源電圧の正負が切り替わる時点から予め定められた規定通信時間の間に、前記加熱調理制御部に対する通信を行う、
加熱調理器。
【請求項2】
前記インバータ制御部から前記加熱調理制御部に対する通信は、非同期片方向通信である、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記加熱調理制御部は、前記マグネトロンの出力をパルス幅変調制御方式によって制御するためのパルス幅変調信号を前記インバータ制御部に送信する、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記インバータ制御部は、前記インバータ電源電圧が前記インバータ回路部に印加されている間、前記加熱調理制御部に対する通信を繰り返す、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記インバータ制御部は、前記インバータ回路部で発生した不具合を示すエラー情報を記憶する送信エラー記憶部を備え、
前記インバータ制御部から前記加熱調理制御部に対する通信において、前記インバータ制御部は前記送信エラー記憶部に記憶された前記エラー情報を前記加熱調理制御部に送信し、
前記エラー情報は、前記不具合の発生後、前記エラー情報の種類に応じて予め定められたエラー通知時間が経過するまで、又は前記エラー情報の種類に応じて予め定められたエラー通知回数の送信が行われるまで、前記加熱調理制御部に繰り返し送信される、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記加熱調理制御部は、受信エラー記憶部を備え、
前記インバータ制御部から前記エラー情報が送信された場合には、前記エラー情報を前記受信エラー記憶部に記憶させる、
請求項5に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記インバータ制御部は、前記インバータ電源電圧の正負が切り替わる時点において、前記加熱調理制御部に対して1バイト単位でデータを送信する、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記インバータ制御部は、複数のバイトからなるパケットを前記加熱調理制御部に送信する、
請求項7に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記インバータ制御部は、1つのパケットの送信が終了した後、予め定められたパケット送信待機時間が経過してから、次のパケットを送信する、
請求項8に記載の加熱調理器。
【請求項10】
前記インバータ制御部は、予め定められた種類のデータである分割対象データを複数組のパケットに分割し、一組のパケットにつき前記分割対象データの一部を含ませて送信する、
請求項8に記載の加熱調理器。
【請求項11】
前記加熱調理制御部は、
前記インバータ回路部に対する前記インバータ電源電圧の印加を操作するインバータ電源電圧操作部を備え、
前記インバータ電源電圧操作部が前記インバータ電源電圧の印加を開始してから、予め定められた異常判定猶予時間が経過するまでの間に、前記インバータ制御部から前記加熱調理制御部への通信が行われなかった場合には、前記加熱調理制御部は、前記インバータ電源電圧操作部に前記インバータ電源電圧の印加を遮断させる、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項12】
前記加熱調理制御部は、前記インバータ電源電圧操作部に前記インバータ電源電圧の印加を遮断させた後、前記インバータ電源電圧操作部に前記インバータ電源電圧の印加を再開させて、前記インバータ回路部の再起動を行う、
請求項11に記載の加熱調理器。
【請求項13】
前記加熱調理制御部は、
前記インバータ回路部に対する前記インバータ電源電圧の印加を操作するインバータ電源電圧操作部を備え、
前記インバータ電源電圧操作部が前記インバータ電源電圧の印加を開始してから、予め定められた異常判定猶予時間が経過するまでの間に、前記インバータ制御部から前記加熱調理制御部への通信が行われなかった場合には、前記加熱調理制御部は、前記マグネトロンによるマイクロ波の発生を停止するように前記インバータ制御部へマグネトロン停止指令を送信し、その後マイクロ波の発生を再開するように前記インバータ制御部へマグネトロン再開指令を送信し、
前記インバータ電源電圧操作部が前記インバータ電源電圧の印加を開始してから、予め定められた異常判定回数以上の前記マグネトロン停止指令が送信された場合には、前記加熱調理制御部は、前記インバータ電源電圧操作部に前記インバータ電源電圧の印加を遮断させる、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項14】
前記加熱調理制御部と前記インバータ制御部との間の通信を中継する中継制御部が設けられている、
請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項15】
前記加熱調理制御部は、前記インバータ回路部に対する前記インバータ電源電圧の印加を操作するインバータ電源電圧操作部を備えており、
前記インバータ電源電圧操作部が前記インバータ電源電圧の印加を開始してから、予め定められた異常判定猶予時間が経過するまでの間に、前記インバータ制御部からの通信が行われなかった場合には、前記中継制御部は、前記加熱調理制御部に対して、前記インバータ回路部に異常が発生していることを示す信号を送信する、
請求項14に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された加熱調理器としての電子レンジは、電子レンジとは独立した位置に設けられたリモートコントローラを備えている。また特許文献1の電子レンジは、被加熱物である食品の調理状態をモニタするために、食品の調理状態を撮像するカメラを備えている。そして特許文献1においては、電子レンジのマグネトロンの駆動を休止させている時間帯に、電子レンジからリモートコントローラへ、カメラの撮像した画像が画像信号として送信される。マグネトロンの駆動を休止させている時間帯に画像信号が送信されることにより、無線通信で送信される画像信号は、マグネトロンの発する電磁波の影響を受けることなくリモートコントローラにて受信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-160166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、電子レンジ内部での通信については記載されていない。電子レンジ内部での通信においても、マグネトロンの発する電磁波の影響が発生する。電子レンジ内部において、マグネトロンの駆動を制御する回路部と、電子レンジ全体の動作を制御する回路部との間で通信が行われる場合に、マグネトロンから発生するマイクロ波の影響で通信が安定しないことがある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内部で安定した通信が可能な加熱調理器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加熱調理器は、マグネトロンと、インバータ回路部と、インバータ電源と、インバータ制御部と、加熱調理制御部とを備える。マグネトロンは、被加熱物を加熱調理するためのマイクロ波を発生させる。インバータ回路部は、マグネトロンを駆動する。インバータ電源は、インバータ回路部に交流のインバータ電源電圧を印加する。インバータ制御部は、インバータ回路部の動作の制御を行う。加熱調理制御部は、インバータ制御部と通信可能で、被加熱物の加熱調理に関する制御を行う。インバータ制御部は、インバータ電源電圧の正負が切り替わる時点から予め定められた規定通信時間の間に、加熱調理制御部に対する通信を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る加熱調理器によれば、加熱調理器内部で安定した通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態の一例に係る加熱調理器の構成を模式的に示す図である。
図2】インバータ通信部と加熱調理通信部との間の通信のために設けられた配線を示す図である。
図3】インバータ制御部から加熱調理制御部への通信タイミングを示す図である。
図4】1回分の通信でインバータ制御部から加熱調理制御部へ送信されるデータの一例を示す図である。
図5】インバータ制御部から加熱調理制御部へ送信されるパケットのデータ構造の一例を示す図である。
図6】中継制御部が設けられている場合の、加熱調理器の構成の概略を示す図である。
図7】加熱調理制御部、中継制御部、インバータ制御部の間で行われる通信の例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0010】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態の一例に係る加熱調理器10の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態の一例に係る加熱調理器の構成を模式的に示す図である。加熱調理器10は、例えば、電子レンジである。図1に示されているように、加熱調理器10は、マグネトロン12と、インバータ回路部20と、インバータ電源21と、インバータ制御部30と、加熱調理制御部40とを備える。図1の加熱調理器10はさらに、高圧整流器13と、トランス15と、ゼロクロス検出部35を備える。
【0011】
マグネトロン12は、加熱調理器10において、被加熱物を加熱調理するためのマイクロ波を発生させる。図1のマグネトロン12は、高圧整流器13(例えばダイオードとコンデンサからなる倍電圧整流器)と、トランス15に接続されている。またトランス15は、1次巻線16と、2次巻線17と、3次巻線18とを有する。
【0012】
インバータ回路部20は、マグネトロン12を駆動する。図1のインバータ回路部20は、インバータ整流器22と、チョークコイル23と、平滑コンデンサ24と、スイッチングトランジスタ25と、共振コンデンサ26と、トランス15の1次巻線16とを含む。またインバータ回路部20は、駆動パルス伝達ライン27と、消費電流検出ライン28と、入力電圧検出ライン29とを介してインバータ制御部30に接続されている。
【0013】
インバータ電源21は、インバータ回路部20に交流のインバータ電源電圧を印加する。図1のインバータ電源21は、インバータ整流器22に接続されている。インバータ電源21は交流電圧源であり、例えば、商用電源である。インバータ電源21の交流電圧はインバータ整流器22(例えばダイオードブリッジなど)によって単方向電圧に整流される。整流された単方向電圧は、チョークコイル23と平滑コンデンサ24によって構成される平滑回路にて直流電圧に平滑される。平滑された直流電圧は、スイッチングトランジスタ25を介して、共振コンデンサ26とトランス15の1次巻線16による共振回路へ印加される。
【0014】
スイッチングトランジスタ25は、駆動パルス伝達ライン27を介して、後述のインバータ制御部30によってオンオフ制御される。スイッチングトランジスタ25がオンオフ制御されることで、共振コンデンサ26とトランス15の1次巻線16による共振回路に高周波電力が励起される。1次巻線16を含む共振回路に高周波電力が励起されることで、トランス15を介して2次巻線17に高圧高周波電力が誘起される。
【0015】
2次巻線17に誘起された高圧高周波電力は、高圧整流器13によって整流されてマグネトロン12に供給される。また、トランス15の3次巻線18はマグネトロン12のカソードを加熱するヒータ電力を供給する。したがって、2次巻線17に高圧高周波電力が誘起されることで、マグネトロン12に高圧高周波電力が供給されると共に、マグネトロン12のカソードが加熱されて、マグネトロン12が駆動される。
【0016】
インバータ制御部30は、インバータ回路部20の動作の制御を行う。インバータ制御部30は、記憶装置と、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit)を備えた装置である。記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)のような半導体メモリーあるいはSSD(Solid State Drive)のようなストレージデバイスを含む。
【0017】
図1のインバータ制御部30は、インバータ通信部31と、送信エラー記憶部32を有する。またインバータ制御部30は、ゼロクロス検出部35に接続されている。インバータ通信部31はインバータ制御部30の外部との通信を行うユニットであり、例えばシリアル通信が可能なユニットである。送信エラー記憶部32はインバータ制御部30が備える記憶装置に設けられた記憶領域の一部である。インバータ制御部30は後述の加熱調理制御部40からの指令に応じて、駆動パルス伝達ライン27を介してスイッチングトランジスタ25をオンオフ制御する。
【0018】
またインバータ制御部30は、消費電流検出ライン28と、入力電圧検出ライン29とを介して、インバータ回路部20の動作を監視する。なお、消費電流検出ライン28はスイッチングトランジスタ25を通過する電流を検出するための配線である。入力電圧検出ライン29はインバータ整流器22とチョークコイル23の間の電圧を検出するための配線である。インバータ制御部30が消費電流検出ライン28及び入力電圧検出ライン29を介してインバータ回路部20の動作に不具合を発見した場合には、不具合の種類に応じたエラー情報が送信エラー記憶部32に記憶される。
【0019】
ゼロクロス検出部35は、インバータ電源21がインバータ回路部20に印加する交流のインバータ電源電圧の正負が切り替わる時点を検出する装置である。ゼロクロス検出部35はフォトカプラ又はディスクリートの検知回路、あるいは検知IC(Integrated Circuit)などで構成される。ゼロクロス検出部35は、インバータ電源電圧の正負の切り替わり(ゼロクロス)の発生をインバータ制御部30に通知する。
【0020】
加熱調理制御部40は、加熱調理器10による被加熱物の加熱調理に関する制御を行う。加熱調理制御部40は、インバータ制御部30と同様に、記憶装置と、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するプロセッサを備えた装置である。
【0021】
図1の加熱調理制御部40は、加熱調理通信部41と、受信エラー記憶部42と、インバータ電源電圧操作部48とを備える。
【0022】
加熱調理通信部41は加熱調理制御部40の外部との通信を行うユニットである。加熱調理通信部41は、例えば、マグネトロン12の出力を制御するためのスイッチングトランジスタ25のオンオフ制御指令をインバータ通信部31へ送信する。スイッチングトランジスタ25のオンオフ制御指令は例えば、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御方式で行われる。
【0023】
加熱調理通信部41から送信されるPWM信号のパターン、すなわちオンオフ周期及びオンオフ期間の割合に応じて、インバータ制御部30はスイッチングトランジスタ25のオンオフ周期及びオンオフ期間の割合を制御する。PWM信号のパターンは、必要となるマグネトロン12の出力(500ワット、1000ワットなど)に応じて決定される。
【0024】
受信エラー記憶部42は加熱調理制御部40が備える記憶装置に設けられた記憶領域の一部である。受信エラー記憶部42には、インバータ通信部31を通じてインバータ制御部30のから送信されたエラー情報が記憶される。
【0025】
インバータ電源電圧操作部48は、インバータ回路部20に対するインバータ電源電圧の印加を操作する装置である。インバータ電源電圧操作部48は、例えば、インバータ電源21とインバータ回路部20との間の配線の接続と遮断を切り替えることが可能なリレー回路によって構成される。
【0026】
加熱調理制御部40は、インバータ制御部30に異常が発生していると判断した場合には、インバータ電源電圧操作部48を用いてインバータ回路部20を停止させることができる。例えば、インバータ電源電圧操作部48がインバータ電源電圧の印加を開始した後、加熱調理制御部40は、インバータ制御部30からの通信を待機する。印加の開始から、予め定められた異常判定猶予時間(例えば10s)が経過するまでの間、インバータ制御部30から加熱調理制御部40への通信が行われなかった場合には、加熱調理制御部40はインバータ回路部20に異常が発生していると判断する。そして、インバータ回路部20に異常が発生していると判断したら、加熱調理制御部40は、インバータ電源電圧操作部48によって、インバータ電源電圧の印加を遮断させる。
【0027】
なお、インバータ電源電圧操作部48によって、インバータ電源電圧の印加が遮断された場合、加熱調理制御部40はその後、インバータ電源電圧操作部48にインバータ電源電圧の印加を再開させて、インバータ回路部20の再起動を行う。具体的には、インバータ電源電圧操作部48によって、インバータ電源電圧の印加が遮断された後、予め定められた再起動待機時間(例えば1000ms)の間、加熱調理制御部40は待機する。再起動待機時間が経過したら、加熱調理制御部40はインバータ電源電圧操作部48によってインバータ電源電圧の印加を再開させる。インバータ電源電圧の印加再開の後、異常判定猶予時間内にインバータ制御部30からの通信が行われれば、加熱調理制御部40は、異常が解消されたものとして、インバータ回路部20の動作を継続させる。加熱調理制御部40がインバータ電源電圧の印加をいったん遮断した後に、インバータ電源電圧の印加を再開させることで、外乱などによる一過性の異常は再開後には解消される。
【0028】
また、加熱調理制御部40は、インバータ制御部30に異常が発生していると判断した場合には、インバータ電源電圧の印加を遮断する代わりに、マグネトロン12による加熱を停止させることもできる。例えば、異常判定猶予時間内にインバータ制御部30からの通信が行われず、インバータ回路部20に異常が発生していると判断した場合に、加熱調理制御部40は、マグネトロン12によるマイクロ波の発生を停止するように、インバータ制御部30にマグネトロン停止指令を送信する。マグネトロン停止指令は例えば、常にオフ期間となるパターンを示すPWM信号である。常にオフ期間のPWM信号がインバータ制御部30に送信されると、インバータ制御部30はスイッチングトランジスタ25を常にオフにする。すると、1次巻線16に高周波電力が励起されなくなり、ひいてはマグネトロン12の駆動が行われなくなって、マグネトロン12によるマイクロ波の発生が停止される。
【0029】
マグネトロン停止指令の送信によって、マグネトロン12によるマイクロ波の発生が停止された場合、加熱調理制御部40はその後(例えば再起動待機時間1000msの経過後)、インバータ制御部30にマグネトロン再開指令を送信する。マグネトロン再開指令はマグネトロン12によるマイクロ波の発生を再開させるための指令である。例えばマグネトロン12を駆動するために送信される通常のPWM信号と同じ信号がマグネトロン再開指令として利用できる。マイクロ波の発生再開の後、異常判定猶予時間内にインバータ制御部30からの通信が行われれば、加熱調理制御部40は、異常が解消されたものとして、インバータ回路部20の動作を継続させる。ただし、インバータ電源電圧の印加が開始されてから、加熱中に予め定められた異常判定回数(例えば3回)以上のマグネトロン停止指令が送信された場合には、やはりインバータ回路部20に異常が発生しているものと判断する。すなわち、インバータ電源電圧の印加開始から印加遮断までの間を一回の加熱として、一回の加熱の間に異常判定回数以上のマグネトロン停止指令が送信された場合に、加熱調理制御部40はインバータ回路部20に異常が発生しているものと判断する。インバータ回路部20に異常が発生しているものと判断した加熱調理制御部40は、インバータ電源電圧操作部48によってインバータ電源電圧の印加を遮断させる。インバータ電源電圧の印加を遮断する際にはリレーの駆動音が発生するのに対し、マグネトロン12による加熱を停止する際には大きな音は発生しない。したがって、異常発生時にインバータ電源電圧の印加遮断の代わりにマグネトロン12による加熱停止を行うようにすると、加熱調理器10の静音性が高くなる。なお、異常による加熱停止が何度も発生するような場合には、加熱停止だけでは対処できない慢性的な不具合が発生しているものと判断され、インバータ電源電圧の印加遮断が行われる。
【0030】
次に、図2を参照して、インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間の通信のために設けられた配線について説明する。図2は、インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間の通信のために設けられた配線を示す図である。図2に示されているように、インバータ通信部31と加熱調理通信部41は、コネクタ36、受信フォトカプラ37、送信フォトカプラ38を介して接続されている。
【0031】
コネクタ36はインバータ通信部31と加熱調理通信部41との間の配線を中継するための器具であり、例えばソケットとプラグによって構成される。コネクタ36は、インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間で、受信ラインT40と、送信ラインT30と、基準電位ラインVssの接続を行う。受信ラインT40はインバータ通信部31から見て受信信号となる信号(加熱調理通信部41からインバータ通信部31へ送信される信号)が伝達される信号線である。送信ラインT30はインバータ通信部31から見て送信信号となる信号(インバータ通信部31から加熱調理通信部41へ送信される信号)が伝達される信号線である。基準電位ラインVssはインバータ通信部31と加熱調理通信部41との間での基準電位となる配線である。
【0032】
受信フォトカプラ37は受信ラインT40を伝わる信号を伝達し、送信フォトカプラ38は送信ラインT30を伝わる信号を伝達する。インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間は、受信フォトカプラ37及び送信フォトカプラ38によって電気的に絶縁されている。したがって、インバータ制御部30と加熱調理制御部40との間も電気的に絶縁されている。インバータ通信部31側の基準電位ラインGNDと加熱調理通信部41側の基準電位ラインVssは、電気的には繋がっていない。
【0033】
本実施形態においては、インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間の通信では、一方が他方へと一方的に信号を送信する片方向通信をそれぞれが行う。そのため、図2に示されているように、インバータ通信部31からの送信と、加熱調理通信部41からの送信のそれぞれについて信号線が1本ずつで十分となり、配線コストが低減される。
【0034】
また、加熱調理通信部41からインバータ通信部31へ送信される信号が、スイッチングトランジスタ25の駆動パターンを直接表すPWM信号とされていれば、インバータ通信部31側には受信したデータを解読するためのユニット(シリアル通信ユニットなど)が必要ない。そのため、インバータ制御部30のインバータ通信部31としては、シリアル通信などの符号化された通信を受信するための機能を持たないユニットが使用できて、インバータ通信部31が低コストとなる。また、インバータ通信部31が符号化された通信を受信するための機能を備えていない、従来の加熱調理器との互換性も保たれる。
【0035】
次に、図1及び図3を参照して、インバータ制御部30から加熱調理制御部40への通信タイミングについて説明する。図3は、インバータ制御部30から加熱調理制御部40への通信タイミングを示す図である。インバータ回路部20には、図3に示されているように、交流のインバータ電源電圧がインバータ電源21から印加されている。
【0036】
インバータ制御部30のインバータ通信部31は、インバータ電源電圧の正負が切り替わる時点(ゼロクロスのタイミング)から、予め定められた規定通信時間ts(例えば2ms)の間に、加熱調理制御部40の加熱調理通信部41に対する通信を行う。インバータ電源電圧のゼロクロスから規定通信時間ts(短時間)の間は、マグネトロン12の発振が開始されていない、又は、発振が開始していても発生する電磁波が微弱である。つまり、加熱調理制御部と前記インバータ制御部との間、すなわち加熱調理器内部での通信はインバータ電源電圧の正負が切り替わる時点から予め定められた規定通信時間の間に行われる。その結果、規定通信時間の間はマグネトロンの駆動が休止された時間帯となるため、加熱調理器内部での通信はマグネトロンから発生するマイクロ波の影響を受けない。したがって、インバータ通信部31は、ゼロクロスから規定通信時間tsの間に通信を行うことで、マグネトロン12の発生させる電磁波の影響を受けずに、安定した通信を行うことができる。
【0037】
具体的には、ゼロクロス検出部35がインバータ電源電圧のゼロクロスを検出した時点から、インバータ通信部31は加熱調理通信部41へのデータの送信を開始する。図3においては、ゼロクロスのタイミングのうち、インバータ電源電圧が負から正に切り替わる時点(立ち上がり)において、インバータ通信部31から加熱調理通信部41へ信号の送信が開始される。つまり、インバータ電源電圧の一周期ごとに通信が行われる。なお、インバータ電源電圧が正から負に切り替わる時点(立ち下がり)にも信号の送信が開始されてもよい。つまり、インバータ電源電圧の半周期ごとに通信が行われてもよい。
【0038】
本実施形態において、インバータ制御部30のインバータ通信部31から加熱調理制御部40の加熱調理通信部41に対する通信は、片方向通信によって行われる。すなわち、インバータ通信部31と加熱調理通信部41との間で同期は行われず、インバータ通信部31から加熱調理通信部41へと一方的に信号が送信される。具体例としては、UART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)方式によるシリアル通信が行われる。
【0039】
また、インバータ制御部30のインバータ通信部31は、インバータ電源電圧の正負が切り替わる時点において、加熱調理制御部40の加熱調理通信部41に対して1バイト単位でデータを送信する。つまり、インバータ通信部31は、ゼロクロスのタイミングで加熱調理通信部41へのデータの送信を開始し、数ビットからなる1バイト分のデータを送信した時点で、1回分の通信を終了する。インバータ通信部31が、1バイト単位でデータを送信することにより、1回分の通信で送信するべきデータが数ビットのみとなり、短時間の規定通信時間tsの間に1回分の通信を完了することが可能となる。
【0040】
インバータ通信部31が送信するべきデータが複数のバイトからなるデータである場合には、パケット方式で通信が行われる。すなわち、インバータ通信部31は、送信するべきデータを、複数のバイトからなるパケットに分割する。そして1回の通信では1バイト単位でデータを送信する。インバータ通信部31が通信を複数回繰り返して、複数のバイトからなるパケットが全て加熱調理通信部41へ送信されたら、送信するべきデータが全て加熱調理通信部41へ送信されたことになる。パケット方式で通信が行われることにより、一回分の通信で1バイト単位でのデータしか送信されない場合でも、複数のバイトからなるデータの送信が可能となる。
【0041】
図3においては、一例として、1つのパケット(一組のパケット)が8バイトからなる場合が示されている。1バイト単位の送信が8回繰り返されることで、1つのパケットが全て加熱調理通信部41へ送信される。なお図3においては、1つのパケットの送信が終了した後、予め定められたパケット送信待機時間tw(例えば100ms)が経過してから、次のパケットが送信される。パケット送信待機時間twが経過するまでの間は、インバータ電源電圧のゼロクロスが検出されてもインバータ通信部31による通信は行われない。
【0042】
パケット同士の間に間隔(パケット送信待機時間tw)が設けられていることにより、パケットを受信する加熱調理通信部41は、1つのパケットの送信が終了したことと、次のパケットの送信が開始されたことを判断し易くなる。すなわち、加熱調理通信部41は、インバータ通信部31からデータが送信されない期間が続けば1つのパケットの送信が終了したと判断できる。また、加熱調理通信部41は、データが送信されない期間が続いた後に、インバータ通信部31からデータの送信が行われたら、次のパケットの送信が開始されたと判断できる。
【0043】
次に図1及び図4を参照して、1回分の通信でインバータ制御部30のインバータ通信部31から加熱調理制御部40の加熱調理通信部41へ送信されるデータの一例について説明する。図4は、1回分の通信でインバータ制御部30から加熱調理制御部40へ送信されるデータの一例を示す図である。図4においては、1回分の通信で送信されるデータは、8ビットのデータ(データビット)の他に、スタートビット、パリティビット、及びストップビットを含む。
【0044】
スタートビットはUART方式の通信において通信の開始を通知する信号であり、例えば「0」を意味するビットである。インバータ通信部31からの通信を受ける加熱調理通信部41は、スタートビットに続く8つのビットを、データの本体(データビット)であると解釈する。
【0045】
パリティビットは、データビット内の「1」の個数に応じて、誤り訂正のためにデータビットの次に付加されるビットである。例えばデータビット内の「1」の個数が偶数であればパリティビットは「0」、データビット内の「1」の個数が奇数であればパリティビットは「1」となる。インバータ通信部31からの通信を受ける加熱調理通信部41は、パリティビットが直前の8つのデータビットの内容と整合しない場合は、データが正しく送信されていないと判断できる。
【0046】
ストップビットはUART方式の通信において通信の終了を通知する信号であり、例えば「1」を意味するビットである。UART方式の通信においては、通信が行われていない間はストップビットが送信され続ける。すなわち、インバータ通信部31からの通信を受ける加熱調理通信部41は、「1」が連続で送信され続けている間はインバータ通信部31からデータが送信されていないと解釈する。そして、加熱調理通信部41は、送信されるビットが「0」に変わったとき、すなわちスタートビットが送信されたときに、データの送信が開始されたと解釈する。
【0047】
図4において、1回分の通信で送信されるデータはスタートビット、データビット、パリティビット、ストップビットを合わせて11ビット分となる。例えば通信速度9600bps(1秒間あたり9600ビット転送)でUART方式によるシリアル通信が行われる場合、11ビットからなるデータは約1.15msで転送される。したがって、インバータ通信部31は、1バイト単位での通信を行うことにより、確実に規定通信時間ts(例えば2ms)内で1回分の通信を完了できる。
【0048】
次に図1及び図5を参照して、インバータ制御部30から加熱調理制御部40へ送信されるパケットのデータ構造50の一例を説明する。図5は、インバータ制御部30から加熱調理制御部40へ送信されるパケットのデータ構造50の一例を示す図である。なお、ここで説明するデータ構造50はあくまで一例であり、通信されるべきデータに応じて任意のデータ構造例が採用されてよい。図5は、一組のパケットに含まれる8バイトのデータについて、それぞれのバイトがどのようなデータを表しているかを示している。なおインバータ制御部30は、インバータ電源電圧がインバータ回路部20に印加されている間、加熱調理制御部40に対する通信を繰り返す。すなわち、インバータ制御部30は、送信するデータに変化がなくとも、下記のデータを加熱調理制御部40へと繰り返し送信する。加熱調理制御部40がデータの一部を受信できなかった場合でも、インバータ制御部30から最新情報が繰り返し送られてくるため、加熱調理制御部40は最新情報を受信することができる。
【0049】
データ構造50において、まず、最初の1バイト目はスタートバイトである。スタートバイトはパケットの通信が開始されることを通知するデータであり、予め定められた固定値(図5では16進数で0x5A)となっている。
【0050】
2バイト目はマグネトロン12の出力状態を示すデータである。マグネトロン12が停止中か出力中かに応じてそれぞれ値が予め定められている。図5では、マグネトロン12が停止中であれば出力状態は0xA1、マグネトロン12が出力中であれば出力状態は0xA2となる。
【0051】
3バイト目はエラー情報である。インバータ制御部30は、消費電流検出ライン28及び入力電圧検出ライン29などを介して、インバータ回路部20の状態を監視している。インバータ回路部20に不具合が発生すれば、不具合の種類に応じたエラー情報が送信エラー記憶部32に記憶される。インバータ通信部31による通信が行われる際に、送信エラー記憶部32に記憶されたエラー情報が読み出され、加熱調理制御部40へ送信される。
【0052】
図5においては、エラー情報として、インバータ回路部20に出力低下が発生したことを表す0x01、過電圧が発生したことを表す0x02、減電圧が発生したことを表す0x04、高温異状が発生したことを表す0x08、過電流異常が発生したことを表す0x10が定められている。これ以外にも、想定される不具合の種類に応じて、様々なエラー情報が定められてよい。
【0053】
なお、各エラー情報は、デジタルデータとしてそれぞれ別々のビットで表されることが好ましい。各エラー情報がそれぞれ別々のビットで表されていれば、複数の不具合が発生している場合には、不具合のそれぞれに対応したビットが立ったデータをエラー情報とすることで、インバータ制御部30は複数の不具合を1バイトのデータで表すことができる。すなわち、8ビットのデータが、最大8種類の不具合を同時に表すことができる。
【0054】
4バイト目は温度情報である。インバータ制御部30は、加熱調理器10において被加熱物が加熱される加熱庫内の温度を監視している。温度情報として、加熱庫内の温度が最低値を0x00、最大値を0xFFとするAD値(アナログ-デジタル変換値)で表される。つまり温度情報はアナログ値である温度をデジタル値で表したものである。加熱庫内の温度が取りうる数値範囲に応じて、温度測定値(アナログ値)と温度情報値(デジタル値)の対応関係が定められているとよい。
【0055】
5バイト目は電源電圧情報である。インバータ制御部30は、入力電圧検出ライン29を介して、インバータ回路部20に印加されるインバータ電源電圧を監視している。電源電圧情報として、入力電圧検出ライン29を介して測定されたインバータ電源電圧が最低値を0x00、最大値を0xFFとするAD値で表される。インバータ電源電圧が取りうる数値範囲に応じて、電源電圧測定値(アナログ値)と電源電圧情報値(デジタル値)の対応関係が定められているとよい。
【0056】
6バイト目は電流情報(最新読取値)である。インバータ制御部30は、消費電流検出ライン28を介して、スイッチングトランジスタ25を通過する電流、すなわちインバータ制御部30の消費電流を監視している。電流情報として、消費電流検出ライン28を介して最後に測定された消費電流(最新の読取値)が最低値を0x00、最大値を0xFFとするAD値で表される。消費電流が取りうる数値範囲に応じて、消費電流測定値(アナログ値)と電流情報値(デジタル値)の対応関係が定められているとよい。
【0057】
7バイト目はソフトIDである。インバータ制御部30の動作を制御するファームウェアには様々な種類及びバージョンがあり、ソフトIDはファームウェアの種類及びバージョンを表す数値である。
【0058】
インバータ制御部30のソフトIDがUART方式で加熱調理制御部40へと通知されるが、ソフトIDの数値はエラー情報などに比べると即時に伝えるべき重要性は低い(緊急性が低い)。またソフトIDの数値は1バイトでは表せない大きな数値となっていることがある。そこで、本実施形態においては、ソフトIDを分割対象データとし、複数組のパケットに分割して送信する。すなわち、一組のパケットに含まれるソフトIDの数値は分割対象データであるソフトIDの一部となる。具体的には図5に示されているように、ソフトIDが10進数で6桁の数値「355801」である場合、一組のパケットにつき、上位から2桁ずつ(1バイトずつ)送信が行われる。図5の場合には、ソフトIDが3つ(三組)のパケットによって送信されることになる。
【0059】
なお複数組のパケットに分割される分割対象データはソフトIDに限るものではない。1つ(一組)のパケットで送信しきれない長大なデータなど、分割対象データとして予め定められた種類のデータが、複数組のパケットに分割されて、一組のパケットにつき分割対象データの一部を含ませて送信されるようになっているとよい。長大なデータが複数組のパケットに分割されることにより、インバータ制御部30は、一組のパケットに含ませる情報量を最小限とすることができる。
【0060】
8バイト目はSUM(Summation:総和)である。SUMは一組のパケット全体の誤り訂正のために付加される情報である。7バイト目までのデータを全て加算した値(SUMを除く総和)の下位1バイトのデータが、SUMとしてパケットの8バイト目に付加される。SUMを受信した加熱調理通信部41は、SUMの値と7バイト目までの内容が整合しない場合には、パケットが正しく送信されていないと判断できる。
【0061】
以上においては、加熱調理制御部40とインバータ制御部30とが直接通信を行う場合について説明したが、図6に示されているように、加熱調理制御部40とインバータ制御部30との間の通信を中継する中継制御部60が設けられていてもよい。図6は、中継制御部60が設けられている場合の、加熱調理器10の構成の概略を示す図である。
【0062】
中継制御部60が設けられる場合、加熱調理制御部40と中継制御部60とは絶縁されていなくてもよい。例えば図6に示されているように、加熱調理制御部40と中継制御部60とが共に共通基板62上に実装されて、同一電源を共有してもよい。また、加熱調理制御部40と中継制御部60との間では双方向通信が行われることが好ましい。すなわち、加熱調理制御部40と中継制御部60は、データ送受信の際に正常受信が行われなければ再送指示を行うなど、通信が円滑に行われるように互いに通信し合う。
【0063】
一方、中継制御部60とインバータ制御部30との間は電気的に絶縁する必要があるため、互いに片方向通信が行われることが好ましい。例えば、インバータ制御部30から中継制御部60への通信においてはUART方式でデータが送信される。また、中継制御部60からインバータ制御部30への通信においてはPWM信号の送信によりマグネトロン12の出力制御が行われる。
【0064】
インバータ制御部30からの通信は片方向通信で行われるので、加熱調理制御部40とインバータ制御部30とが直接通信する場合には、互いの距離が遠い場合に通信線が長くなって通信精度が悪くなることがある。しかし、中継制御部60がインバータ制御部30の近くに設けられていれば、高い通信精度が確保される。すなわち、インバータ制御部30からの片方向通信を中継制御部60が短い通信線で受け、中継制御部60と加熱調理制御部40との間では双方向通信が行われることで、全体として加熱調理制御部40とインバータ制御部30との間で高い通信精度が確保される。
【0065】
また、パリティビット又はパケット内のSUMデータに基づいて、インバータ制御部30から送信されたデータに誤りが発見された場合には、中継制御部60はそのデータを加熱調理制御部40には送信せずに破棄するとよい。片方向通信で送信されるデータについて、データ不整合の判定及び破棄を中継制御部60が行うことにより、中継制御部60と加熱調理制御部40との間の通信量が少なくなり、総合的に通信精度が向上する。
【0066】
中継制御部60は、加熱調理制御部40の代わりに、インバータ制御部30の異常発生を判断することもできる。例えば、インバータ電源電圧操作部48がインバータ電源電圧の印加を開始した後、予め定められた異常判定猶予時間(例えば10s)が経過するまでの間、インバータ制御部30から中継制御部60への通信が行われなかった場合には、中継制御部60はインバータ回路部20に異常が発生していると判断する。そして、インバータ回路部20に異常が発生していると判断したら、中継制御部60は、加熱調理制御部40に対して、インバータ回路部20に異常が発生していることを示す信号を送信する。中継制御部60から、インバータ回路部20に異常が発生していることを示す信号を受信した加熱調理制御部40は、インバータ回路部20を停止させる。加熱調理制御部40は、例えばインバータ電源電圧操作部48によってインバータ電源電圧の印加を遮断する。また加熱調理制御部40は、中継制御部60を介してインバータ制御部30へマグネトロン停止指令を送信してもよい。
【0067】
次に、中継制御部60が設けられている場合の具体的な制御の流れの一例を、図1及び図7を用いて説明する。図7は、加熱調理制御部40、中継制御部60、インバータ制御部30の間で行われる通信の例を示すシーケンス図である。なお、中継制御部60が設けられていない場合であっても、加熱調理制御部40とインバータ制御部30とが直接通信を行うことにより、同様の制御が行われる。
【0068】
まず加熱調理制御部40は、加熱調理器10の電源がオンになると、インバータ電源電圧操作部48と中継制御部60を介して、インバータ電源21とインバータ回路部20との間の電源リレーをオンにして、インバータ電源電圧の印加を開始する。
【0069】
インバータ電源電圧の印加が開始される(インバータ回路部20の電源がオンになる)と、インバータ制御部30は通信を開始する。まずインバータ制御部30は、現在の温度情報、電源電圧情報、電流情報などを含む最初のパケットを、中継制御部60を介して加熱調理制御部40へ送信する。最初のパケットにおいては、マグネトロン12の出力状態は「停止中」である。
【0070】
加熱調理制御部40は、最初のパケットを正常に受信した後、インバータ制御部30への通信を開始する。すなわち、マグネトロン12の出力を制御するためのPWM信号を送信し、加熱調理器10による被加熱物の加熱を開始する。具体的には、加熱調理制御部40が中継制御部60へ、インバータ制御部30へ送信するべきPWM信号を指定するPWM信号送信指令を送信する。PWM信号送信指令を受信した中継制御部60は、インバータ制御部30へPWM信号を送信する。PWM信号は、加熱停止の指令が加熱調理制御部40から送信されるまで常にインバータ制御部30へ送信され続けてもよい。図7においては、加熱開始から加熱停止までの間PWM信号が送信され続ける様子が、中継制御部60からインバータ制御部30へと向かう、輪郭が2点鎖線の矢印として示されている。
【0071】
また加熱調理制御部40及び中継制御部60からのPWM信号は、マグネトロン12の電磁波の影響を避けるために、インバータ電源電圧のゼロクロスから規定通信時間tsの間だけ送信されてもよい。PWM信号が規定通信時間tsの間だけ送信される場合には、中継制御部60は、規定通信時間tsの間に送信されたPWM信号のパターン(信号波形)を繰り返す形でインバータ制御部30に送信する。また加熱調理制御部40はPWM信号送信指令を、インバータ電源電圧のゼロクロスから規定通信時間tsまでの間の期間に双方向通信で送信するようにしてもよい。ここで、PWM信号送信指令は、送信するべきPWM信号の、オン期間の長さを指定する信号とする。中継制御部60は受信したPWM信号送信指令をPWM信号パターン(指定されたオン期間の長さのパルス信号波形)に変換して、繰り返す形でインバータ制御部30へ送信する。
【0072】
インバータ制御部30はインバータ電源電圧がインバータ回路部20に印加されている間、送信するデータに変化がなくとも、中継制御部60を介して加熱調理制御部40に対する通信を繰り返す。通信異常が生じなければ、加熱調理制御部40もインバータ制御部30にPWM信号を送信し続け、通常動作が行われる。
【0073】
一方、通信異常が発生した場合には、被加熱物の加熱が停止される。通信異常としては例えば、インバータ回路部20の不具合によりインバータ制御部30がデータを送信できない場合がある。また、インバータ制御部30からデータは送信されたものの、パリティエラー、SUM不整合などにより中継制御部60がパケットを破棄した場合も通信異常となる。
【0074】
通信異常が続いて、予め定められた通信猶予期間te(例えば10s)の間、加熱調理制御部40がインバータ制御部30から送信されたデータを受信できなかった場合には、中継制御部60は、インバータ回路部20に異常が発生していると判断する。
【0075】
インバータ回路部20に異常が発生していると判断した中継制御部60は、通信異常が発生していることを示す信号を加熱調理制御部40に送信する。加熱調理制御部40は、インバータ制御部30へ送信しているPWM信号を停止するためのPWM信号停止指令を中継制御部60へ送信する。PWM信号停止指令を受信した中継制御部60は、常にオフ期間となるパターンのPWM信号(マグネトロン停止指令)をインバータ制御部30へ送信して、被加熱物の加熱を停止させる。
【0076】
加熱停止から再起動待機時間(例えば1000ms)待機した後、加熱調理制御部40は被加熱物の加熱を再開させる。すなわち、加熱調理制御部40はPWM信号送信指令を中継制御部60に送信して、再び被加熱物の加熱を開始する。
【0077】
その後、例えばインバータ回路部20にて出力低下エラーが発生したとする。インバータ制御部30から送信された出力低下エラーを中継制御部60経由で受信した加熱調理制御部40は、PWM信号停止指令を中継制御部60に送信して、被加熱物の加熱を停止させる。出力低下エラーによる加熱停止から再起動待機時間(例えば1000ms)待機した後、加熱調理制御部40はPWM信号送信指令を中継制御部60に送信して、被加熱物の加熱を再開させる。
【0078】
その後、インバータ制御部30から2回目の出力低下エラーが送信された場合には、加熱調理制御部40は、インバータ回路部20に不具合が発生したものと判断する。インバータ回路部20に不具合が発生したものと判断した加熱調理制御部40は、PWM信号停止指令によって被加熱物の加熱を停止させた後、インバータ基板の電源オフ指令を中継制御部60に送信する。インバータ基板の電源オフ指令は、インバータ回路部20へのインバータ電源電圧の印加を遮断させる指令である。インバータ基板の電源オフ指令を受信した中継制御部60は、例えばインバータ電源電圧操作部48によって電源リレーをオフして、インバータ回路部20へのインバータ電源電圧の印加を遮断させる。
【0079】
以上のように、加熱調理制御部40は、被加熱物の加熱を一回行う間に2回出力低下エラーが発生した場合には、インバータ回路部20に不具合が発生したと判断し、インバータ回路部20へのインバータ電源電圧の印加を遮断して以後の加熱を行わない。なお、1回目の出力低下エラー発生時点ではインバータ電源電圧の印加を遮断せず、2回目の発生で遮断を行うようにすることで、エラーの誤検知を防止することができる。
【0080】
一方、インバータ制御部30は、エラー情報の種類に応じて予め定められたエラー通知時間が経過するまで、又はエラー情報の種類に応じて予め定められたエラー通知回数の送信が行われるまで、加熱調理制御部40に対するエラー情報の送信を行う。これにより、過電圧エラーのように一瞬だけ発生してその後解消されるようなエラーであっても、送信エラー記憶部32に一度記憶されたエラー情報が確実に加熱調理制御部40へ送信される。
【0081】
このように、エラーが短期間に複数回発生した場合には、加熱調理制御部40はインバータ電源電圧の印加を遮断する。インバータ電源電圧の印加の遮断が行われるまでのエラー検出期間及びエラー発生の回数は、エラーの種類によって異なる。例えば、重大なエラーであれば少ない発生回数(例えば1回)で遮断を行う。
【0082】
また、インバータ制御部30から送信されたエラー情報は加熱調理制御部40の受信エラー記憶部42に記憶される。受信エラー記憶部42には、発生したエラー情報の種類だけではなく、エラーの発生回数も記憶される。インバータ電源電圧の印加が遮断された場合には、加熱調理器10のユーザーに対して、遮断の原因となったエラー情報が表示されることが好ましいが、重大性の低いエラーであればユーザーに対して表示されないこともある。また受信エラー記憶部42は不揮発性メモリーに設けられたものであることが好ましい。エラー情報の種類及びエラーの発生回数が不揮発性のメモリーに記憶されていれば、加熱調理器10の修理が行われる際に、修理作業者は受信エラー記憶部42の記憶内容を読み出すことで、故障箇所の推定を行うことが容易になる。
【0083】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質、形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の構成から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は加熱調理器を提供するものであり、本発明は産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0085】
10 加熱調理器
12 マグネトロン
13 高圧整流器
15 トランス
16 1次巻線
17 2次巻線
18 3次巻線
20 インバータ回路部
21 インバータ電源
22 インバータ整流器
23 チョークコイル
24 平滑コンデンサ
25 スイッチングトランジスタ
26 共振コンデンサ
27 駆動パルス伝達ライン
28 消費電流検出ライン
29 入力電圧検出ライン
30 インバータ制御部
31 インバータ通信部
32 送信エラー記憶部
35 ゼロクロス検出部
36 コネクタ
37 受信フォトカプラ
38 送信フォトカプラ
40 加熱調理制御部
41 加熱調理通信部
42 受信エラー記憶部
48 インバータ電源電圧操作部
50 データ構造
60 中継制御部
62 共通基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7