(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177877
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】エンジンの診断方法及びエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
F02D45/00 366
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090830
(22)【出願日】2022-06-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月28日 欧州においてマツダ車を取り扱う販売店にて販売を開始
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 毅
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 茂美
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 壮太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡部 龍之介
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384DA42
3G384ED01
3G384ED07
3G384FA01Z
3G384FA08Z
3G384FA28Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】低負荷での車両走行中においても吸気バルブとバルブシート間のデポジットの噛み込みを検出する。
【解決手段】車両走行中常にエアフローセンサからの検出値afから最小値af_min(S32)と平均値af_mav(S33)とを算出し、算出された最小値af_minと平均値af_mavに基づいて判定指標ind_diagを算出(S34)する。当該判定指標ind_diagとエンジンの運転状態から算出(S35)される判定閾値ind_failとを比較(S36)し、判定指標ind_diagが判定閾値ind_failを下回った場合、デポジットが噛み込んでいると診断する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、該シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダに連通する吸気通路と、往復動することにより前記シリンダと前記吸気通路との連通を開閉する吸気バルブとを備えたエンジンの診断方法であって、
前記吸気通路を通る空気流量を検出する吸気流量検出工程、及び
該吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値又は吸気流量に関連する値が所定値未満であることを条件として、前記吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定するバルブ動作判定工程、
を有するエンジンの診断方法。
【請求項2】
前記吸気流量検出工程は、前記吸気通路に設けられたエアフローセンサを用いて実行されることを特徴とする、
請求項1に記載のエンジンの診断方法。
【請求項3】
前記バルブ動作判定工程は、
前記吸気流量検出工程において検出した吸気流量検出値の所定期間の平均値を算出する平均値算出副工程、
該平均値算出副工程で算出した平均値と前記吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値とから、前記吸気流量に関連する値を算出する関連値算出副工程、及び
該関連値算出副工程で算出した吸気流量に関連する値を閾値と比較する比較副工程、
からなる請求項1又は請求項2に記載のエンジンの診断方法。
【請求項4】
前記関連値算出副工程は、
前記吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値の前記平均値算出副工程で算出した平均値による除算により前記吸気流量に関連する値が算出される、請求項3に記載のエンジンの診断方法。
【請求項5】
シリンダと、該シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダに連通する吸気通路と、往復動することにより前記シリンダと前記吸気通路との連通を開閉する吸気バルブとを持つエンジン、
前記吸気通路を通り前記吸気バルブ開弁時に前記シリンダに流入する吸気流量を検出する吸気流量検出部及び、
該吸気流量検出部に電気的に接続され、該吸気流量検出部から受信した検出値又はそれに関連する値が所定値未満であることを条件として、前記吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定するように構成された制御器、
を有するエンジンシステム。
【請求項6】
前記吸気流量検出部が、前記吸気通路の上流部に配置されたエアフローセンサを含む、
請求項5に記載のエンジンシステム。
【請求項7】
前記制御器は、さらに
前記吸気流量検出部から受信した検出値の所定期間の平均値を算出し、
算出した平均値と該吸気流量検出部から受信した検出値とから、検出値に関連する値を算出し、そして
算出した検出値に関連する値を閾値と比較するように構成された、
請求項5又は請求項6に記載のエンジンシステム。
【請求項8】
前記制御器は、さらに
前記吸気流量検出部から受信した検出値の算出した平均値による除算により検出値に関連する値を算出するように構成された、
請求項7に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにおける吸気バルブの動作異常を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおいては、吸気通路に付着したデポジットが剥がれ、燃焼室方向に流れ、吸気バルブとバルブシートとの間にデポジットが噛み込むことがある。吸気バルブとバルブシートとの間にデポジットが噛み込んだ場合には、吸気バルブの閉鎖不良が生じ、圧縮漏れを引き起こす。圧縮漏れを起こすと、圧縮行程において筒内温度が充分に上がらずディーゼルエンジンにおいては着火不良につながることがある。このため、デポジットの噛み込みによる吸気バルブの閉鎖不良を検知する必要がある。
【0003】
特許文献1には、クランク角センサからのクランク角速度情報に基づいてデポジットの噛み込みによる吸気バルブの閉鎖不良を検知する手法が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示の技術は、車両の減速燃料カット中にクランク各センサからのクランク角速度情報に基づいて、デポジットの噛み込みによる吸気バルブの閉鎖不良を検知するものである。クランク角速度情報は、圧縮上死点を中心とする30°CAの区間の通過時間T5とその後の膨張行程における30°CAの区間の通過時間T7とから算出された各通過時間の比率(T5/T7)を閾値と比較することによってデポジットの噛み込みによる吸気バルブの閉鎖不良を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の手法は減速燃料カット中における検出である。しかしながら、吸気通路内に流れが発生する状況下であればデポジットの噛み込みによる吸気バルブの閉鎖不良は生じるため、車両走行中のいかなる状況においても吸気バルブの閉鎖不良を検知する必要がある。そこで、特許文献1に記載の手法を燃焼中にも用いることが考えられる。
【0007】
特許文献1に記載の技術を用いた燃焼中における検出方法は、各気筒の同サイクル内の通過時間の比率(T5/T7)を全気筒平均と比較することにより、平均を大きく下回った時に吸気バルブの閉鎖不良を検知する手法となることが考えられる。ここで、燃焼中での検出は燃料噴射弁の個体差による気筒間の燃料噴射量の微量な差異が生じることが問題となる。燃料噴射量の微量な差異はエンジンの発生トルクの差異を生じさせる。それに伴って膨張行程でのクランク角速度の差異を引き起こすため、燃焼中の検出では気筒間の燃料噴射量の差異を考慮しなければならない。
【0008】
中負荷以上においては、1回の燃料噴射弁からの燃料噴射総量に対する各気筒間の燃料噴射量の差異の比率が小さい。そのため、クランク角速度の差異が小さく吸気バルブの閉鎖不良の検出に影響を及ぼさない。一方で低負荷においては、1回の燃料噴射弁からの燃料噴射総量に対する各気筒間の燃料噴射量の差異の比率が大きくなるため、吸気バルブが正常に閉鎖していてもクランク角速度の差異が大きくなり、吸気バルブの閉鎖不良を検知することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者は、上記課題の解決に向け、まず吸気バルブの閉鎖不良を起こした車両から異常発生前所定期間の各センサの出力データを収集した。そのデータを解析した結果、吸気バルブの閉鎖不良発生時にエアフローセンサが出力する吸気流量値が著しく低下するという現象を発見した。当該現象について以下のように考察をした。本来、吸気バルブが正常に閉鎖している場合、エアフローセンサの出力するデータは吸気行程にある気筒が吸引する空気量のみを示す。しかしながら、吸気バルブの閉鎖不良を起こした気筒が圧縮行程にある際、吸気バルブの閉鎖不良を起こした気筒は吸気通路への筒内の空気の吹き返しを発生させる。そのため、吸気バルブの閉鎖不良を起こした気筒からの圧縮行程で吹き返される空気の量と、その時に吸気行程にある別の気筒へ吸引される空気の量とがほぼ等しくなりエアフローセンサが検出する吸気流量が著しく低下する。この考察から、吸気バルブの閉鎖不良と吸気流量の著しい低下とに強い相関があることが分かった。
【0010】
この知見に基づく第1の発明は、シリンダと、当該シリンダ内を往復動するピストンと、シリンダに連通する吸気通路と、往復動することによりシリンダと吸気通路との連通を開閉する吸気バルブとを備えたエンジンの診断方法である。この方法は、吸気通路を通る吸気流量を検出する吸気流量検出工程、当該吸気流量検出工程で検出した前記吸気流量又はそれに関連する値が所定値未満であることを条件として、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定するバルブ動作判定工程、を有する。
【0011】
このように構成された本発明によれば、バルブ動作判定工程では吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値またはそれに関する値が所定未満であることを条件として、吸気バルブの閉鎖不良の診断を行う。これにより、吸気バルブの閉鎖不良を起こした気筒からの圧縮行程で吹き返される空気の量と、その時に吸気行程にある別の気筒へ吸引される空気の量とがほぼ等しくなることに基づき、吸気バルブの閉鎖不良を診断することができる。従って、従来のクランク角速度情報による吸気バルブの閉鎖不良の検知手法と比較して、本発明の診断方法は空気の流量情報のみで診断を行うことができ、低負荷での車両走行中でも正確に吸気バルブの閉鎖不良を検知することが可能である。
【0012】
第1の発明は、吸気流量検出工程は吸気通路に設けられたエアフローセンサを用いて実行される態様であってもよい。
【0013】
この態様によれば、吸気流量検出部としてエアフローセンサを用いることで、直接の検出によって吸気流量を精度よく検出することができる。
【0014】
第1の発明は、バルブ動作判定工程は、吸気流量検出工程において検出した吸気流量検出値の所定期間の平均値を算出する平均値算出副工程、当該平均値算出副工程で算出した平均値と吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値とから、前記吸気流量に関連する値を算出する関連値算出副工程、及び当該関連値算出副工程で算出した前記吸気流量に関連する値を閾値と比較する比較副工程、を有する態様としてもよい。
【0015】
この態様によれば、前記吸気流量に関する値は吸気流量検出値の所定期間の平均値から算出される。従って、吸気流量検出値が大きくなる場合、あるいは小さくなる場合においても平均値に基づいて算出されるため、より正確に吸気流量値の著しい低下を検出することができる。
【0016】
上記態様において、関連値算出副工程は、吸気流量検出工程で検出した吸気流量検出値の平均値算出副工程で算出された平均値による除算により前記吸気流量に関連する値を算出するものであってもよい。
【0017】
この態様によれば、吸気流量検出値から平均値算出副工程で算出された平均値を除算することにより、吸気流量が著しく低下した場合の平均値からの偏差をより高い精度で検出することができる。このことから、吸気バルブの閉鎖不良をより正確に判定することができる。
【0018】
吸気バルブの閉鎖不良と吸気流量の著しい低下とに強い相関があるという知見に基づく第2の発明は、シリンダと、当該シリンダ内を往復動するピストンと、シリンダに連通する吸気通路と、往復動することによりシリンダと吸気通路との連通を開閉する吸気バルブと吸気流量検出部に電気的に接続された制御器を持つエンジンのエンジンシステムである。この制御器は吸気流量検出部から受信した検出値又はそれに関連する値が所定値未満であることを条件として、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定するように構成されている。
【0019】
第2の発明によれば、制御器は吸気流量検出部から受信した検出値又はそれに関連する値が所定値未満であることを条件として、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定を行う。これにより、吸気バルブの閉鎖不良を起こした気筒からの圧縮行程で吹き返される空気の量と、その時に吸気行程にある別の気筒へ吸引される空気の量とがほぼ等しくなることに基づき、吸気バルブの閉鎖不良を判定することができる。従って、従来のクランク角速度情報による吸気バルブの閉鎖不良の判定システムと比較して、本発明のエンジンシステムは空気の流量情報のみで判定を行うことができ、低負荷での車両走行中でも正確に吸気バルブの閉鎖不良を判定することが可能である。
【0020】
第2の発明において、吸気流量検出部に吸気通路の上流部に配置されたエアフローセンサが含まれるものであってよい。
【0021】
この態様によれば、吸気流量検出部としてエアフローセンサを用いることにより、直接の検出によって吸気流量を精度よく検出する。
【0022】
第2の発明において、制御器は、さらに吸気流量検出部から受信した検出値の所定期間の平均値を算出し、算出した平均値と吸気流量検出部から受信した検出値とから、検出値に関連する値を算出し、そして算出した検出値又はそれに関連する値を閾値と比較するように構成されていてもよい。
【0023】
この態様によれば、制御器は吸気流量検出値の所定期間の平均値を算出し、算出した平均値と吸気流量検出部から受信した検出値とから、検出値又はそれに関連する値を算出し、そして算出した検出値に関連する値を閾値と比較する。これにより、エアフローセンサが出力する吸気流量値の著しい低下をより正確に検出することができる。
【0024】
第2の発明において、制御器は、さらに吸気流量検出部から受信した検出値から抽出したデータによる除算により検出値に関連する値を算出するよう構成されていてもよい。
【0025】
この態様によれば、制御器は、吸気流量検出部から受信した吸気流量検出値から、抽出したデータを除算することによって検出値に関連する値を算出する。これにより、エアフローセンサが示す値の著しい低下をより正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、低負荷での車両走行中においても、吸気バルブの閉鎖不良を正確に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたエンジンの全体構成を示すシステム図である。
【
図2】吸排気弁及びその動弁機構の詳細を示す断面図である。
【
図3】エンジンと車輪との間の動力伝達系の構造を概略的に示す平面図である。
【
図4】エンジン及び自動変速機の制御系統を示す機能ブロック図である。
【
図5】(a)は吸気流量検出値af、(b)は(a)の一部を拡大したタイムチャートである。
【
図6】PMCが実行する吸気バルブ閉鎖不良診断の各制御方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS3の制御の詳細を示すフローチャートである。
【
図8】(a)は最小値af_min、(b)は平均値af_mav、(c)は判定指標 ind_diag及び判定閾値ind_failを示すタイムチャートである。
【
図9】
図7のステップS31のマスクフラグにおけるエンジン回転数マスクの詳細を示すフローチャートである。
【
図10】
図7のステップS31のマスクフラグにおける吸気スロットル開度マスクの詳細を示すフローチャートである。
【
図11】
図7のステップS31のマスクフラグにおける始動時マスクの詳細を示すフローチャートである。
【
図12】
図7のステップS31のマスクフラグにおけるEGRバルブ開度マスクの詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたエンジンの全体構成を示すシステム図である。本図に示されるエンジン1は、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体2から排出された排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流するEGR装置50と、吸気通路30を流通する吸気を過給する過給装置60とを備える。
【0029】
エンジン本体2は、例えば
図1の紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2aを有する多気筒型のものである(後述する
図3も参照)。エンジン本体2は、シリンダブロック3と、シリンダヘッド4と、複数のピストン5とを備える。気筒2aは、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4によって形成される。すなわち、複数の気筒2aに対応する複数の円筒空間がシリンダブロック3の内部に形成されるとともに、当該円筒空間を上から閉塞するようにシリンダヘッド4がシリンダブロック3の上面に取り付けられている。ピストン5は、各気筒2aにそれぞれ往復摺動可能に収容されている。なお、本実施形態では、シリンダブロック3からシリンダヘッド4に向かう側を上、その逆を下として扱うが、これは説明の便宜のためであって、エンジン本体2の据付姿勢を限定する趣旨ではない。
【0030】
各気筒2aのピストン5の上方には、それぞれ燃焼室Cが形成されている。各燃焼室Cは、シリンダヘッド4の下面と、気筒2aの側周面(シリンダライナ)と、ピストン5の上面(冠面)とによって画成された空間である。燃焼室Cは、後述する燃料噴射弁9から噴射される燃料の供給を受ける。ピストン5は、燃焼室Cに供給された燃料の燃焼エネルギーを受けて上下方向に往復運動する。なお、本実施形態のエンジン1はディーゼルエンジンであるから、燃焼室Cへの供給燃料としては、軽油を含有する燃料が用いられる。
【0031】
シリンダブロック3の下部(ピストン5の下方)には、エンジン本体2の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、各気筒2aのピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転する。
【0032】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度であるクランク角と、クランク軸7の回転数であるエンジン回転数とを検出するセンサである。水温センサSN2は、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度つまりエンジン水温を検出するセンサである。
【0033】
シリンダヘッド4には、燃料噴射弁9及びグロープラグ10が取り付けられている。燃料噴射弁9は、各気筒2aの燃焼室Cに燃料を噴射する噴射弁である。グロープラグ10は、各気筒2aの燃焼室Cを加熱するプラグである。燃料噴射弁9及びグロープラグ10は、各気筒2aに対しそれぞれ1つずつ用意されている。
【0034】
燃料噴射弁9は、その先端部が燃焼室Cに露出するようにシリンダヘッド4に取り付けられている。この燃料噴射弁9の先端部には、燃料の出口となる複数の噴孔(図示省略)が形成されている。各噴孔から噴射された燃料は、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化した燃焼室C内で自着火により燃焼する。
【0035】
グロープラグ10は、その先端部が燃焼室Cに露出するようにシリンダヘッド4に取り付けられている。このグロープラグ10の先端部には、通電により発熱する発熱素子(図示省略)が備わっている。発熱素子は、通電により短時間で高温化し、燃焼室Cを加熱する。
【0036】
グロープラグ10は、エンジン1の冷間時に作動して燃焼室Cを加熱する。具体的に、グロープラグ10は、始動時のエンジン水温、つまりエンジン1の始動時に水温センサSN2が検出した温度が予め定められた第1温度以下である場合に作動する。また、エンジン1の始動完了後は、第1温度よりも高い第2温度にエンジン水温が達するまで、グロープラグ10の作動(燃焼室Cの加熱)が継続される。
【0037】
シリンダヘッド4には、吸気ポート11及び排気ポート12が形成されている。吸気ポート11は、各気筒2aの燃焼室Cと吸気通路30とを連通するポートである。排気ポート12は、各気筒2aの燃焼室Cと排気通路40とを連通するポートである。各気筒2aの吸気ポート11にはそれぞれ吸気弁13が設けられ、各気筒2aの排気ポート12にはそれぞれ排気弁14が設けられている。
【0038】
シリンダヘッド4には、吸気動弁機構15及び排気動弁機構16が装備されている。吸気動弁機構15は、クランク軸7の回転に連動して各気筒2aの吸気弁13を開閉駆動する機構である。排気動弁機構16は、クランク軸7の回転に連動して各気筒2aの排気弁14を開閉駆動する機構である。吸気弁13は、吸気動弁機構15の駆動に応じて、吸気ポート11の燃焼室C側の開口を周期的に開閉する。排気弁14は、排気動弁機構16の駆動に応じて、排気ポート12の燃焼室C側の開口を周期的に開閉する。
【0039】
クランク軸7には、ベルト等の伝達部材を介してオルタネータ18が連結されている。オルタネータ18は、クランク軸7から駆動力を得て発電を行う発電機であり、エンジン1の補機の一種である。オルタネータ18には、発電量を調整するためのレギュレータ回路(図示省略)が内蔵されている。レギュレータ回路は、車両の電気負荷やバッテリ残量等の条件に応じて発電量を調整することが可能である。
【0040】
吸気通路30は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気を導入するための管状部材である。吸気通路30は、エンジン本体2に近い下流側の部分に、吸気マニホールド30a及びサージタンク30bを有する。サージタンク30bは、各気筒2aへの吸気導入量を均等化するための拡大空間を提供するタンクである。吸気マニホールド30aは、サージタンク30bと各気筒2aの吸気ポート11とを接続する複数の分岐管を含む。なお、吸気通路30におけるサージタンク30bよりも上流側の部分は、単管状に形成されている。
【0041】
吸気通路30におけるサージタンク30bよりも上流側の部分には、エアクリーナ31、インタークーラ32、及び吸気シャッター弁33が設けられている。エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去するフィルターである。インタークーラ32は、過給装置60により圧縮された吸気を冷却する熱交換器である。吸気シャッター弁33は、吸気の流量を絞るために吸気通路30に開閉可能に設けられた電動式のバタフライ弁である。エアクリーナ31、インタークーラ32、及び吸気シャッター弁33は、エンジン本体2から遠い上流側からこの順に配置されている。
【0042】
吸気通路30には、エアフローセンサSN3及び吸気圧センサSN4が取り付けられている。エアフローセンサSN3は、エンジン本体2に導入される吸気の流量を検出するセンサであり、吸気通路30におけるエアクリーナ31よりも下流側の部分に配置されている。吸気圧センサSN4は、エンジン本体2に導入される吸気の圧力を検出するセンサであり、サージタンク30bに配置されている。
【0043】
排気通路40は、各気筒2aの燃焼室Cから排出された排気ガスを外部に排出するための管状部材である。排気通路40は、エンジン本体2に近い上流側の部分に、排気マニホールド40aを有する。詳細な図示は省略するが、排気マニホールド40aは、各気筒2aの排気ポート12と連通する複数の分岐管と、当該分岐管が集合する排気集合部とを含む。なお、排気通路40における排気マニホールド40a(排気集合部)よりも下流側の部分は、単管状に形成されている。
【0044】
排気通路40における排気マニホールド40aよりも下流側の部分には、触媒装置41が設けられている。触媒装置41は、排気ガス中のCO及びHCを酸化して無害化する酸化触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)41bとを内蔵している。
【0045】
過給装置60は、いわゆる2ステージ型の過給装置であり、直列に配置された第1過給機61及び第2過給機62を備える。
【0046】
第1過給機61は、吸気通路30に配置された第1コンプレッサ61aと、第1コンプレッサ61aと同軸に連結されかつ排気通路40に配置された第1タービン61bとを含むターボ過給機である。第1コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ32との間の部分に配置されている。第1タービン61bは、排気通路40における触媒装置41よりも上流側の部分に配置されている。
【0047】
同様に、第2過給機62は、吸気通路30に配置された第2コンプレッサ62aと、第2コンプレッサ62aと同軸に連結されかつ排気通路40に配置された第2タービン62bとを含むターボ過給機である。第2コンプレッサ62aは、吸気通路30における第1コンプレッサ61aよりも下流側の部分、つまり第1コンプレッサ61aとインタークーラ32との間の部分に配置されている。第2タービン62bは、排気通路40における第1タービン61bよりも上流側の部分に配置されている。
【0048】
第1過給機61は、第2過給機62よりも大型のターボ過給機である。すなわち、第1コンプレッサ61a及び第1タービン61bは、第2コンプレッサ62a及び第2タービン62bよりも大きいサイズに形成されている。
【0049】
吸気通路30には、吸気バイパス通路63が接続されている。吸気バイパス通路63は、第2コンプレッサ62aをバイパスするための通路である。吸気バイパス通路63には、電動式のバイパス弁63aが開閉可能に設けられている。
【0050】
排気通路40には、第1排気バイパス通路64及び第2排気バイパス通路65が接続されている。第1排気バイパス通路64は、第1タービン61bをバイパスするための通路であり、第2排気バイパス通路65は、第2タービン62bをバイパスするための通路である。第1排気バイパス通路64には、電動式のウェストゲート弁64aが開閉可能に設けられている。第2排気バイパス通路65には、電動式のレギュレート弁65aが開閉可能に設けられている。
【0051】
第1過給機61による過給が行われるとき、ウェストゲート弁64aは閉弁される。これにより、エンジン本体2から排出された排気ガスが第1タービン61bに導入され、第1タービン61bが排気ガスによって回転駆動される。第1コンプレッサ61aは、第1タービン61bと連動して回転することにより、吸気を下流側に圧送する。つまり、吸気通路30内の吸気を圧縮しつつエンジン本体2に送り出す過給が、第1過給機61により実現される。
【0052】
第2過給機62による過給が行われるとき、レギュレート弁65a及びバイパス弁63aは閉弁される。これにより、エンジン本体2から排出された排気ガスが第2タービン62bに導入され、第2タービン62bが排気ガスによって回転駆動される。第2コンプレッサ62aは、第2タービン62bと連動して回転することにより、吸気を下流側に圧送する。つまり、吸気通路30内の吸気を圧縮しつつエンジン本体2に送り出す過給が、第2過給機62により実現される。
【0053】
EGR装置50は、EGR通路51と、EGRクーラ52と、EGR弁53とを備える。EGR通路51は、排気通路40から吸気通路30に排気ガスを還流するための通路であり、排気通路40と吸気通路30とを互いに接続している。具体的に、EGR通路51は、排気通路40における第2タービン62bよりも上流側の部分と、吸気通路30における吸気シャッター弁33とサージタンク30bとの間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて吸気通路30に還流される排気ガスつまりEGRガスを冷却する熱交換器である。EGR弁53は、排気ガスの還流量つまりEGR量を調整するためにEGR通路51に設けられた電動式のバルブである。EGR弁53は、EGR通路51におけるEGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)に配置されている。
【0054】
図2は、エンジン本体2の吸排気弁13,14及びその動弁機構15,16の詳細を示す断面図である。本図に示すように、吸気弁13は、ステム部13aと傘部13bとを有する。ステム部13aは、上下方向に長尺な円柱状の部材であり、軸方向(上下方向)に摺動可能なようにシリンダヘッド4に支持されている。傘部13bは、吸気ポート11の燃焼室C側の開口を塞ぐことが可能な円盤状の部材であり、ステム部13aの下端から拡径するように形成されている。
【0055】
同様に、排気弁14は、ステム部14aと傘部14bを有する。ステム部14a、上下方向に長尺な円柱状の部材であり、軸方向(上下方向)に摺動可能なようにシリンダヘッド4に支持されている。傘部14b、排気ポート12の燃焼室Cの開口を塞ぐことが可能な円盤状の部材であり、ステム部14a下端から拡径するように形成されている。
【0056】
シリンダヘッド4には、バルブシート11a,12aが取り付けられている。バルブシート11aは、吸気ポート11の燃焼室C側の開口に取り付けられたリング状の部材であり、吸気弁13の閉弁時にその傘部13bの周縁と密着する。バルブシート12aは、排気ポート12の燃焼室C側の開口に取り付けられたリング状の部材であり、排気弁14の閉弁時にその傘部14bの周縁と密着する。
【0057】
吸気動弁機構15は、カムシャフト21と、スイングアーム23と、バルブスプリング25とを備える。カムシャフト21は、タイミングチェーン等からなる伝達部材を介してクランク軸7と連係された回転可能なシャフトである。具体的に、カムシャフト21は、気筒2aの並び方向(
図2の紙面に直交する方向)に延びる軸部21aと、軸部21aにおける各気筒2aの吸気弁13に対応する位置に設けられた複数のカム部21bとを含む。スイングアーム23は、各気筒2aのカム部21bの下方において揺動可能に支持されている。バルブスプリング25は、吸気弁13を閉方向(上方)に付勢する状態でシリンダヘッド4に取り付けられている。吸気弁13は、カムシャフト21の回転に伴いカム部21bからスイングアーム23を介して伝達される下向きの押圧力を受けて周期的に開弁する。一方、当該押圧力の非作用時、吸気弁13は、バルブスプリング25による上方への付勢力により、傘部13bがバルブシート11aに密着する閉弁状態に維持される。
【0058】
同様に、排気動弁機構16は、カムシャフト22と、スイングアーム24と、バルブスプリング26とを備える。カムシャフト22は、前記伝達部材を介してクランク軸7と連係された回転可能なシャフトである。具体的に、カムシャフト22は、気筒2aの並び方向(
図2の紙面に直交する方向)に延びる軸部22aと、軸部22aにおける各気筒2aの排気弁14に対応する位置に設けられた複数のカム部22bとを含む。スイングアーム24は、各気筒2aのカム部22bの下方において揺動可能に支持されている。バルブスプリング26は、排気弁14を閉方向(上方)に付勢する状態でシリンダヘッド4に取り付けられている。排気弁14は、カムシャフト22の回転に伴いカム部22bからスイングアーム24を介して伝達される下向きの押圧力を受けて周期的に開弁する。一方、当該押圧力の非作用時、排気弁14は、バルブスプリング26による上方への付勢力により、傘部14bがバルブシート12aに密着する閉弁状態に維持される。
【0059】
ここで、吸気弁13のバルブシート部にデポジット(異物)が付着することがある。例えば、吸気通路30の内壁に付着しているデポジットが、何らかの拍子にはがれて下流側へと流出し、吸気弁13の傘部13bとバルブシート11aとの間に噛み込むことが起こりうる。このようなバルブシート部へのデポジットの付着(噛み込み)は、吸気弁13の閉鎖不良を引き起こし、圧縮行程中に燃焼室Cから吸気ポート11又を通じて圧縮空気が漏れる現象である圧縮漏れにつながる。圧縮漏れが起きると、燃焼室Cに噴射された燃料と空気との混合気が適切に燃焼しない(もしくは失火する)着火不良が生じ易くなる。
【0060】
図3は、上述したエンジン1の出力を車両の車輪W1に伝達する動力伝達系の構造を概略的に示す平面図である。車両は、ここではフロントエンジン・リヤドライブ式(FR式)の車両である。このため、
図3において、車輪W1は後輪であり、エンジン本体2は車両前部のエンジンルームに配置されている。なお、
図3には、列状に並ぶ4つの気筒2aを備えた直列4気筒型のエンジン本体2が例示されるが、気筒2aの数や配置は適宜変更し得る。
【0061】
図3に示すように、本実施形態における車両の動力伝達系は、エンジン本体2に接続された自動変速機101と、自動変速機101から後方に延びるプロペラシャフト102と、プロペラシャフト102の後端に接続された差動装置103と、差動装置103から左右に延びる一対のドライブシャフト104とを備える。各ドライブシャフト104の車幅方向の端部にはそれぞれ車輪W1が取り付けられている。エンジン本体2の出力回転は、自動変速機101で変速された後に、プロペラシャフト102を介して差動装置103に入力される。差動装置103に入力された回転は、左右のドライブシャフト104を介して各車輪W1に伝達される。
【0062】
自動変速機101は、トルクコンバータ110及び変速機本体120を含む。トルクコンバータ110は、エンジン本体2の出力回転つまりクランク軸7の回転を作動流体(ATF)を介して変速機本体120に伝達する流体クラッチである。変速機本体120は、トルクコンバータ110から入力された回転を変速しつつ車輪W1に伝達する装置である。
【0063】
トルクコンバータ110は、エンジン本体2のクランク軸7と一体に回転するポンプインペラ111と、ポンプインペラ111と対向配置されたタービンランナ112と、ポンプインペラ111及びタービンランナ112の間に配置されたステータ113とを内蔵する。ポンプインペラ111の回転は、トルクコンバータ110内の作動流体を介してタービンランナ112に伝達される。タービンランナ112の回転は、タービン軸114を介して変速機本体120に入力される。
【0064】
トルクコンバータ110の内部には、ロックアップクラッチ115が設けられている。ロックアップクラッチ115は、エンジン本体2のクランク軸7とタービンランナ112とを断接するクラッチである。ロックアップクラッチ115の締結によりクランク軸7とタービンランナ112とが連結されると、クランク軸7とタービン軸114(変速機本体120の入力軸)とが流体を介することなく機械的に連結された状態が得られ、クランク軸7の回転が車輪W1に直接伝達されるようになる。言い換えると、ロックアップクラッチ115は、エンジン1の出力軸(クランク軸7)と車輪W1とを直結するクラッチである。
【0065】
ロックアップクラッチ115の締結は、動力伝達効率の向上につながる。ただし、エンジン回転数又は車速が低いときにロックアップクラッチ115を締結すると、エンジン1の振動が車両に伝わり易くなる。このため、ロックアップクラッチ115は、エンジン回転数又は車速が低いときを除く所定の条件下で締結され、エンジン回転数又は車速が低いときは解放(締結解除)される。
【0066】
変速機本体120は、減速比の異なる複数のギヤ段を達成可能な多段式の変速機構121を内蔵する。変速機構121は、複数のプラネタリギヤセットが組み合わされたギヤ機構122と、当該ギヤ機構122による動力伝達経路を切り替えるために締結又は解放されるクラッチやブレーキを含む複数の摩擦締結要素(図示省略)と、各摩擦締結要素に供給される油圧を制御してその締結/解放を切り替えるソレノイドバルブ等からなる油圧制御弁123(
図4)とを含む。油圧制御弁123が適宜の摩擦締結要素を締結/解放することにより、車両の速度等に応じた所望のギヤ段が変速機構121において達成される。トルクコンバータ110の出力回転つまりタービン軸114の回転は、変速機構121のギヤ段に対応する減速比で変速された後にプロペラシャフト102(ひいては車輪W1)に伝達される。
【0067】
図4は、上述したエンジン1及び自動変速機101の制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示されるPCM70は、エンジン1及び自動変速機101を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。PCM70は、本発明における「コントローラ」に相当する。
【0068】
PCM70には、各種センサによる検出情報が入力される。例えば、PCM70は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、及び吸気圧センサSN4と電気的に接続されている。PCM70には、当該各センサにより検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、エンジン水温、吸気流量、及び吸気圧等の情報)が逐次入力される。
【0069】
また、車両には、アクセルセンサSN5及び車速センサSN6が設けられている。アクセルセンサSN5は、車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度つまりアクセル開度を検出するセンサである。車速センサSN6は、車両の走行速度つまり車速を検出するセンサである。これらアクセルセンサSN5及び車速センサSN6による検出情報も、逐次PCM70に入力される。
【0070】
PCM70は、前記各センサSN1~SN6からの入力情報に基づいてエンジン1及び自動変速機101の各部を制御する。すなわち、PCM70は、上述した燃料噴射弁9、グロープラグ10、オルタネータ18、吸気シャッター弁33、EGR弁53、バイパス弁63a、ウェストゲート弁64a、及びレギュレート弁65aと電気的に接続されるとともに、自動変速機101のロックアップクラッチ115及び油圧制御弁123と電気的に接続されている。PCM70は、これらの機器に対し、前記各センサSN1~SN6からの入力情報に基づき生成した制御信号を出力する。
【0071】
これより、吸気バルブの閉鎖不良をエアフローセンサSN3によって検出するメカニズムについて説明する。
図5(a)は、4気筒エンジンにおける吸気流量の変化を示している。具体的には、エアフローセンサSN3から読み込まれる吸気流量検出値afの時間変化を示している。また、
図5(b)は、
図5(a)のT1からT2の期間を拡大して示している。
時期T11の前後においては、4気筒のうち吸気行程にある気筒C1の吸気バルブのみが開弁している。時期T11における吸気流量検出値af_11は、時期T1と時期T12との間の気筒C1の吸気行程中における最大値である。これは、時期T11が気筒C1のピストン5の下降速度が最大となり、吸気ポートにおける吸気流量が最大となる90 CA(Crank Angle)ATDC(After Top Dead Center)に対応するからである。このように、吸気行程中のピストンの速度の変化に対応して吸気流量検出値afは変化する。
【0072】
時期T11を過ぎると吸気流量検出値afは低下し、時期T12で最小となり、その後上昇に転ずる。ピストンの運動の観点からみると、まず、時期T12で気筒C1が吸気下死点に達し、ピストンが停止し、次の吸気行程に入る気筒C2は吸気上死点にあり、同じくピストンが停止している。そして、時期T12を過ぎると気筒C2のピストンの下降が始まる。時期T12でピストンは静止しているので、気筒C1への吸気流量はほぼゼロとなるが、エアフローセンサSN3が配置される吸気通路上流側では慣性力によって吸気流量が維持され、ある程度の吸気流量検出値af_12が検出されている。
【0073】
時期T12で吸気行程となる気筒C2は時期T13においてピストン下降速度が最大となる90 CA ATDCに達する。そして、時期T13から時期T14まで吸気流量検出値afは低下し、時期T14において気筒C2のピストンは吸気下死点に到達する。時期T14では、気筒C2のピストンは静止しているので、気筒C2への吸気流量はほぼゼロとなるが、エアフローセンサSN3が配置される吸気通路上流側では慣性力によって吸気流量が維持され、ある程度の吸気流量検出値af_14が検出されている。このように、吸気バルブの閉鎖不良が生じる時期T22より前の正常な状態において、吸気流量検出値afの最小値は著しく低下しない。
【0074】
次に、気筒C1に吸気バルブの閉鎖不良が発生する時期T22前後の吸気流量検出値afについて説明する。時期T21の前後においては、4気筒のうち吸気行程にある気筒C1の吸気バルブのみが開弁している。気筒C1は時期T11から1サイクル後の時期T21において、ピストン下降速度が最大となる90 CA ATDCに対応している。時期T21を含む気筒C1の吸気行程中において、気筒C1の吸気バルブとバルブシートとの間にデポジットが入り込む。しかしながら、吸気バルブは開いているため、時期T21での吸気流量検出値af_21と、1サイクル前の気筒C1の時期T11での吸気流量検出値af_11とを比較しても大きな差は生じない。次の時期T22は、時期T12から1サイクル後の気筒C1のピストンの吸気下死点に対応している。時期T22を迎えるときつまり、気筒C1のピストンが吸気下死点に到達するとき、気筒C1の吸気バルブが閉鎖する方向へ動くことで、吸気行程中に吸気バルブとバルブシートとの間に入り込んだデポジットが噛み込む。しかしながら、この時点では吸入作用に影響はないため時期T22での吸気流量検出値af_22と1サイクル前の時期T12での吸気流量検出値af_12とを比較しても大きな差は生じない。
【0075】
次の時期T23は、時期T13から1サイクル後の気筒C2のピストンの90 CA ATDCに対応している。気筒C2が時期T23を含む吸気行程にあるとき、時期T22で吸気バルブの閉鎖不良が生じた気筒C1は圧縮行程にある。気筒C1の圧縮行程において、シリンダ内で圧縮された空気は吸気バルブの閉鎖不良によって吸気通路30へ吹き返される。この吹き返しにより、吸気流量が低下する。そのため、時期T23における吸気流量検出値af_23は、気筒C1の吸気バルブが正常である時期T13における吸気流量検出値af_13と比較すると小さくなっている。
【0076】
次の時期T24は、時期T14から1サイクル後の気筒C2のピストンの吸気下死点に対応している。時期T24では吸気通路上流側のエアフローセンサSN3では慣性力による吸気流量検出値afが検出されている。しかしながら、時期T23を含む気筒C2の吸気行程中においては、気筒C1からの吸気通路30へ吹き返しにより空気の慣性力が低下する。そのため、吸気流量検出値af_24は1サイクル前の吸気流量検出値af_14と比較すると著しく低下する。吸気流量検出値af_24のような吸気流量検出値afの著しい低下をエアフローセンサSN3を用いて検出することにより、吸気バルブの閉鎖不良が生じているかの判定を行う。
【0077】
次に、
図4に示されるPCM70が実行するエンジン2に係わる制御について説明する。
図6に示されるように、PCM70によって繰り返し実行されるエンジン2の全体の制御は、センサ情報を読み込むステップS1と、通常のエンジン制御を行うステップS2と、吸気バルブの閉鎖不良の診断を行うステップS3と、異常フラグf_failがセットされているかの判定を行うステップS4と、吸気バルブの閉鎖不良に対応するエンジン制御を行うステップS5とからなる。ステップS1において読み込まれる信号には、クランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気圧センサSN4、アクセルセンサSN5、車速センサSN6等が含まれる。本実施形態におけるステップS2の通常のエンジン制御においては、特筆すべき点はないため詳細な説明を省略する。次のステップS3の吸気バルブの閉鎖不良診断については
図7~
図12に基づいて後述する。次のステップS4では、異常フラグf_failがセットされているか否かが判定される。異常フラグf_failがセットされていない(ステップS4でNOである)場合、再びステップS1からの処理が繰り返し実行される。異常フラグf_failがセットされている(ステップS4でYESである)場合、ステップS5へと処理が進む。
【0078】
ステップS5では、グロープラグ10が非作動か否かを判定する。グロープラグ10が作動している(ステップS5でNOである)場合、ステップS7へと処理が進む。グロープラグ10が作動していない(ステップS5でYESである)場合、ステップS6へと処理が進む。次のステップS6では、グロープラグ10を作動させ、ステップS7へと処理が進む。すなわち、PCM70は、グロープラグ10の発熱素子に通電して当該発熱素子の温度を高める。これにより、燃焼室Cが加熱され、混合気の着火性が改善される。なお、当該ステップS6において作動させるべきグロープラグ10は、少なくとも、前記ステップS3の判定でデポジットの付着が確認された気筒2aのグロープラグ10である。ただし、エンジンによっては、制御構成上、気筒2aごとのグロープラグ10のオン/オフ切り替えができないことがある。このような場合、PCM70は、ステップS6において、全ての気筒2aのグロープラグ10を作動させる。
【0079】
次のステップS7では、オルタネータ18が作動中であるか否かを判定する。すなわち、PCM70は、オルタネータ18による発電状態を確認し、所定量以上の発電が行われている場合にオルタネータ18が作動中であると判定する。オルタネータ18が作動中でない(ステップS7でNOである)場合、ステップS1からの処理が繰り返される。オルタネータ18が作動中である(ステップS7でYESである)場合、ステップS8へと処理が進む。次のステップS8では、オルタネータ18の作動を停止する。すなわち、PCM70は、オルタネータ18による発電が停止する(発電量が実質ゼロになる)ようにオルタネータ18内のレギュレータ回路を制御する。これにより、オルタネータ18からクランク軸7に作用する逆トルクが低下し、クランク軸7の回転抵抗(外部負荷)が軽減される。
【0080】
これより、
図7の吸気バルブの閉鎖不良診断S3について説明する。まず、
図7のステップS31においては、詳細を後述するマスクフラグf_mask_1~f_mask_9のいずれかのマスクフラグf_mask_nがセットされているか否かが判定される。いずれかのマスクフラグがセットされている(ステップS31でYESである)場合、ステップS32~S43に基づき後述する吸気バルブの閉鎖不良診断S3は行われず、ステップS31が繰り返し実行される。いずれのマスクフラグもセットされていない(ステップS31でNOである)場合、ステップS32へと処理が進む。次のステップS32では、ステップS1で取得されたエアフローセンサSN3の吸気流量検出値afの108 CA BTDC(Before Top Dead Center)から次の気筒の108 CA BTDCまでの180 CA毎の最小値af_minが算出される。
図8(a)は、吸気流量検出値afに基づいて、算出された最小値af_minのグラフである。この最小値af_minは、ステップS1でエアフローセンサSN3から読み込まれた
図5(a)の吸気流量検出値afに基づいて、算出されている。
【0081】
処理はステップS33へと進み、吸気流量検出値afの16 msec毎の平均値af_mavが算出される。なお、平均値af_mavは吸気流量検出値afをローパスフィルタ処理することによって算出される。
図8(b)は、吸気流量検出値afに基づいて、算出された平均値af_mavのグラフである。この平均値af_mavは、ステップS1でエアフローセンサSN3から読み込まれた
図5(a)の吸気流量検出値afに基づいて、算出されている。
【0082】
処理はステップS34へと進み、ステップS32で算出された最小値af_minをステップS33で算出された平均値af_mavで除算することにより判定指標 ind_diagが算出される。次のステップS35では、エンジンの運転状態、例えばエンジン負荷やエンジン回転数に基づいて、判定閾値 ind_failが算出される。なお、判定閾値ind_failは、エンジン運転状態に関わらず一定値としてもよい。
図8(c)は、判定閾値 ind_fail及び、最小値af_minと平均値af_mavに基づいて算出された判定指標 ind_diagのグラフである。この判定指標 ind_diagは、ステップS32で算出された
図8(a)の最小値af_minと、
図8(b)の平均値af_mavとに基づいて算出される。
【0083】
処理はステップS36に進み、ステップS34で算出された判定指標 ind_diagとステップS35で算出された判定閾値 ind_failが比較される。その結果、判定指標 ind_diagが判定閾値 ind_failより小さい(ステップS36でYESである)場合、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定され、ステップS37へと処理が進む。次のステップS37では、異常フラグf_failがセットされているか否かが判定される。異常フラグf_failがセットされていない(ステップS37でNOである)場合、ステップS38へと処理が進む。そうでない(ステップS37でYESである)場合、ステップS31からの
図6の吸気バルブの閉鎖不良診断S3が再び繰り返し実行される。次のステップS38では、異常フラグf_failがセットされ、再びステップS31からの
図6の吸気バルブの閉鎖不良診断S3が繰り返し実行される。ステップS36において判定指標 ind_diagが判定閾値 ind_fail以上である(ステップS36でNOである)場合、吸気バルブの閉鎖不良が生じていないと判定され、ステップS39へと処理が進む。
【0084】
次のステップS39では、異常フラグf_failがセットされているか否かが判定される。異常フラグがセットされていない(ステップS39でNOである)場合、再びステップS31からの
図6の吸気バルブの閉鎖不良診断S3が繰り返し実行される。そうでない(ステップS39でYESである)場合、ステップS40へと処理が進む。次のステップS40では、カウント値count_0が閾値C0よりも高いか否かを判定する。カウント値count_0が閾値C0よりも低い(ステップS40でNOである)場合、ステップS41へと処理が進む。次のステップS41では、カウント値count_0のカウント数を1足す。カウント値count_0が閾値C0よりも高い(ステップS40でYES)場合は、ステップS42へと処理が進む。次のステップS42では、カウント値count_0のカウント数を0に戻す。そして、処理はステップS43に進み、異常フラグf_failがリセットされる。
【0085】
以下に
図7のステップS31のマスクフラグf_mask_1~f_mask9について順に説明する。まずは、
図9を用いてエンジン回転数マスクについて説明をする。ステップS51では、ステップS1で取得されたクランク角センサSN1からのエンジン回転NEの回転数が700回転以上且つ2000回転以下であるか否かが判定される。なお、エンジン回転数NEが700回転未満の状態では、吸気バルブの閉鎖不良が生じていない場合においても吸気行程中の上死点及び下死点における吸気流量検出値afつまり、最小値af_minの値は小さくなる。これにより、
図7のステップS34で最小値af_minを平均値af_mavで除算することにより算出される判定指標 ind_diagの値は小さくなる。したがって、正常時でもステップS36において判定指標 ind_diagが判定閾値 ind_failを下回る可能性が高くなり、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。一方、エンジン回転数NEが2000回転より高い場合、ピストン5の運動速度が高くなる。そのため、吸気バルブの閉鎖不良が生じていた場合、圧縮行程で筒内から吸気バルブとバルブシートとの間の隙間を通って吸気通路30へ逆流する空気の流速が高まり、隙間の絞り作用が大きくなり流量が制限される。そのため、吸気流量検出値afの著しい低下が生じにくくなり、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。
【0086】
エンジン回転NEの回転数が700回転未満または、2000回転より高い(ステップS51でNOである)場合、ステップS52へと処理が進む。次のステップS52では、マスクフラグf_mask_1がセットされる。エンジン回転NEの回転数が700回転以上且つ2000回転以下である(ステップS51でYESである)場合、ステップS53へと処理が進む。次のステップS53では、マスクフラグf_mask_1がセットされているか否かが判定される。マスクフラグf_mask_1がセットされている(ステップS53がYESである)場合、ステップS54へと処理が進む。そうでない(ステップS53がNOである)場合、ステップS56へと処理が進む。
【0087】
ステップS54では、カウント値count_1が閾値C1よりも高いか否かを判定する。エンジン回転数NEが700回転以上且つ2000回転以下の範囲内で連続してエンジンが動作している状態での吸気流量検出値afを得るために所定期間(カウント値count_1が閾値C1よりも高くなるまで)の間、計測を遅らせる必要がある。
【0088】
カウント値count_1が閾値C1よりも低い(ステップS54がNOである)場合、ステップS55へと処理が進む。次のステップS55では、カウント値count_1のカウント数を1足す。カウント値count_1が閾値C1よりも高い(ステップS54がYESである)場合、ステップS56へと処理が進む。次のステップS56では、カウント値count_1を0に戻す。そして、処理はステップS57に進み、マスクフラグf_mask_1がリセットされる。
【0089】
次に、
図10においては、吸気スロットル開度マスクについて示している。ステップS61においては、ステップS1で読み込んだ情報から、吸気スロットル開度TVOが閾値TVO_1よりも小さいか否かが判定される。吸気スロットル開度TVOが閾値TVO_1よりも小さい(ステップS61でYESである)場合、ステップS62へと処理が進む。次のステップS62では、マスクフラグf_mask_2がセットされる。吸気スロットル開度TVOが小さくなればなるほど流速が高くなる。流速は一定値以上には達しないため、吸気スロットル開度TVOが所定値より小さくなると空気の流量は少なくなる。そのため、吸気通路の下流側に位置する吸気バルブの閉鎖不良が生じていた場合でも、吸気通路の上流側でのエアフローセンサSN3付近の影響は少なくなり、吸気流量検出値afの変動が少なくなる。そのため、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。
【0090】
一方、吸気スロットル開度TVOが閾値TVO_1よりも大きい(ステップS61でNOである)場合、ステップS63へと処理が進む。次のステップS63では、マスクフラグf_mask_2が立っているか否かが判定される。マスクフラグf_mask_2が立っている(ステップS63でYESである)場合、ステップS64へと処理が進む。そうでない(ステップS63がNOである)場合、ステップS66へと処理が進む。
【0091】
ステップS64においては、カウント値count_2が閾値C2よりも高いかどうかを判定される。カウント値count_2が閾値C2よりも低い(ステップS64がNOである)場合、ステップS65へと処理が進む。次のステップS65では、カウント値count_2のカウント数が1足される。カウント値count_2が閾値C2よりも高い(ステップS64でYESである)場合、ステップS66へと処理が進む。次のステップS66では、カウント値count_2のカウント数が0にされる。そして、処理はステップS67に進み、マスクフラグf_mask_2のフラグがリセットされる。
【0092】
次に、
図11においては、始動時マスクについて示している。ステップS71においては、ステップS1で取得されたクランク角センサSN1からのエンジン回転NEの回転数が700回転より小さいか否かが判定される。エンジン始動時はエンジンの回転数が大きく変化するため、吸気流量検出値afが大きく変動する。そのため、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。
【0093】
エンジン回転NEの回転数が700回転より小さい(ステップS71でYESである)場合、ステップS72へと処理が進む。次のステップS72では、マスクフラグf_mask_3がセットされる。エンジン回転NEの回転数が700回転以上である(ステップS71がNOである)場合、ステップS73へと処理が進む。次のステップS73では、マスクフラグf_mask_3が立っているか否かが判定される。マスクフラグf_mask_3が立っている(ステップS71でYESである)場合、ステップS74へと処理が進む。マスクフラグf_mask_3が立っていない(ステップS71がNOである)場合、ステップS76へと処理が進む。
【0094】
ステップS74においては、カウント値count_3が閾値C3よりも高いかどうかを判定される。カウント値count_3が閾値C3よりも低い(ステップS74がNOである)場合、ステップS75へと処理が進む。次のステップS75では、カウント値count_3のカウント数が1足される。カウント値count_3が閾値C3よりも高い(ステップS74でYESである)場合、ステップS76へと処理が進む。次のステップS76では、カウント値count_3のカウント数が0にされる。そして、処理はステップS77に進み、マスクフラグf_mask_3のフラグがリセットされる。
【0095】
次に、
図12においては、EGRバルブ開度マスクについて示している。ステップS81においては、ステップS1で取得された燃料噴射量ΔQに基づき、閾値R3が設定される。閾値R3は、燃料噴射量ΔQが大きければ大きいほど小さくなる。そして、処理はステップS82に進み、EGRバルブ開度OP_EGR_AがステップS81で求められた閾値R3より小さいか否かが判定される。EGRバルブ開度OP_EGR_Aが大きくなると、吸気通路上流側(エアフローセンサSN3付近)の流量と吸気通路下流側(吸気バルブ付近)の流量が一致しなくなる。そのため、吸気バルブの閉鎖不良を検知することが困難となる。EGRバルブ開度OP_EGR_Aが閾値R3より大きい(ステップS82がNOである)場合、ステップS83へと処理が進む。次のステップS83では、マスクフラグf_mask_4がセットされる。EGRバルブ開度OP_EGR_Aが閾値R3より小さい(ステップS82でYESである)、ステップS84へと処理が進む。次のステップS84では、マスクフラグf_mask_4がリセットされる。
【0096】
次にセンサ異常時マスクについて説明する。センサ異常時マスクは、エアフローセンサSN3の異常が検出されているときにマスクフラグf_mask_5がセットされる。
【0097】
次に、再生中マスクについて説明する。再生モード中は、スロットルバルブ33の開度が急変し、吸気流量検出値afが大きく変動する可能性がある。また、ポスト噴射による燃料が筒内で燃焼してトルクが発生することで回転数が変動し、吸気流量検出値afが大きく変動する可能性があり、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。そのため、再生モード中であれば、マスクフラグf_mask_6がセットされる。
【0098】
次に、クラッチ開度マスクについて説明する。クラッチペダルが踏み込まれ、クラッチ開度が所定値以上開いた場合、回転数が急変することで吸気流量検出値afの変動が大きくなり、吸気バルブの閉鎖不良を検出することが困難となる。そのため、クラッチ開度が所定値以上開いた場合、マスクフラグf_mask_7がセットされる。
【0099】
次に、酸素濃度偏差マスクについて説明する。筒内の実酸素濃度と目標酸素濃度が合わない場合、燃焼が安定しなくなる。それにより、トルクが変動することで、エンジン回転数が変化して吸気流量検出値afの変動が大きくなる可能性がある。そのため、マスクフラグf_mask_8がセットされる。
【0100】
次に、EGRバルブ急変時マスクについて説明する。EGRバルブ開度OP_EGR_Aが急変した際、開度の実値と目標値に所定値以上の偏差がある場合、吸気通路上流側(エアフローセンサSN3付近)の流量と吸気通路下流側(吸気バルブ付近)の流量が一致しなくなる。そのため、吸気バルブの閉鎖不良を検知することが困難となる。そのため、EGRバルブ開度OP_EGR_A の実値と目標値に所定値以上の偏差がある場合、マスクフラグf_mask_9がセットされる。
【0101】
以上説明したとおり、本実施形態では、エアフローセンサSN3の吸気流量検出値afの最小値af_minと平均値af_mavから求められた判定指標ind_diag及び判定閾値ind_failに基づいて、吸気バルブの閉鎖不良が生じているかが判定され、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定された場合、グロープラグ10を作動させて燃焼室Cを加熱する制御(S6)を実行され、オルタネータ18による発電を停止する制御(S8)が実行される。
【0102】
本実施形態では、マスクフラグf_mask_nがセットされていない状態、つまり安定した吸気流量検出値afを読み込むことができる運転状態にのみ、
図7の吸気バルブの閉鎖不良診断(S3)を行う。また、吸気バルブ閉鎖不良診断(S3)は、通常のエンジン制御(S2)が行われている際に常に実行されており、
図4のエアフローセンサSN3からのPCM70によって読み込まれる吸気流量検出値afにより吸気バルブの閉鎖不良の判定が実行される。これにより、低負荷での車両走行中においても、吸気バルブの閉鎖不良を診断することができる。
【0103】
具体的には
図7のステップS36において、
図8(c)に示される判定指標ind_diagと判定閾値ind_failとに基づいて吸気バルブの閉鎖不良診断が実行される。前述の通り判定指標ind_diagは、
図5に示されるエアフローセンサSN3による吸気流量検出値af(
図5)の最小値af_min(
図8(a))を平均値af_mav(
図8(b))で除算することにより求められる。
【0104】
図5(b)に示されるT23より前においては、エアフローセンサSN3からの吸気流量検出値afから最小値af_minと、平均値af_mavとが算出され、算出された最小値af_minと平均値af_mavとに基づき、判定指標ind_diagが算出される。T23より前においては判定指標ind_diagが判定閾値ind_failを上回っているため、吸気バルブの閉鎖不良が生じていない正常な状態であると判定され、異常フラグf_failはセットされない。
【0105】
図5(b)に示されるT23以降においても、エアフローセンサSN3からの吸気流量検出値afから最小値af_minと平均値af_mavとが算出され、算出された最小値af_minと平均値af_mavとに基づき、判定指標ind_diagが算出されている。T24において、判定指標ind_diagは判定閾値ind_failを下回っているため、吸気バルブの閉鎖不良が生じていると判定され、異常フラグf_failがセットされる。
【0106】
異常フラグf_failがセットされると
図6のステップS5~S8に示されるグロープラグ10の作動などの閉鎖不良対応エンジン制御が実行される。
【符号の説明】
【0107】
1 :エンジン
C :燃焼室
7 :クランク軸(出力軸)
9 :燃料噴射弁
10 :グロープラグ
11 :吸気ポート
12 :排気ポート
13 :吸気弁
14 :排気弁
18 :オルタネータ(発電機;補機)
30 :吸気通路
40 :排気通路
50 :EGR通路
53 :EGR弁
70 :PCM(コントローラ、圧縮漏れ検出部)
SN3 :エアフローセンサ(吸気流量検出部、圧縮漏れ検出部)
101 :自動変速機
115 :ロックアップクラッチ