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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177878
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】アドレナリン含有薬液の保存方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20231207BHJP
   B65D 77/00 20060101ALI20231207BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
A61J1/05 311
B65D77/00 C
B65D81/26 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090833
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 喜子
【テーマコード(参考)】
3E067
4C047
【Fターム(参考)】
3E067AA03
3E067AB81
3E067AB83
3E067BA03A
3E067BB14A
3E067CA07
3E067CA16
3E067FC01
3E067GB13
4C047AA01
4C047AA02
4C047BB12
4C047BB19
4C047CC05
4C047GG01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アドレナリン含有薬液の保存に際して、アドレナリンの酸化を防止でき、かつ、容器からの溶出成分を少なくすることができ、かつ、保管後の容器の色調変化を小さくすることができる、アドレナリン含有薬液の保存方法を提供する。
【解決手段】アドレナリン含有薬液を容器に保存する方法であって、前記容器が、ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収層Aと、前記酸素吸収層Aの両側に配され、かつ、ポリオレフィン(b)を含有する樹脂層Bと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドレナリン含有薬液を容器に保存する方法であって、
前記容器が、
ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収層Aと、
前記酸素吸収層Aの両側に配され、かつ、ポリオレフィン(b)を含有する樹脂層Bと、
を含み、
前記ポリエステル化合物(a)が、前記ポリエステル化合物(a)における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、下記式(1)で表される構成単位30~55モル%と、下記式(2)で表される構成単位15~40モル%と、下記式(3)で表される構成単位20~40モル%と、を含有する、アドレナリン含有薬液の保存方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
【請求項2】
前記ポリエステル化合物(a)が、(i)前記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、前記式(1)で表される構成単位を40~50モル%、前記式(2)で表される構成単位を20~35モル%、前記式(3)で表される構成単位を25~35モル%含有し、かつ、(ii)前記ポリエステル化合物(a)の全構成単位100モル%に対して、前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上である、請求項1に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【請求項3】
前記遷移金属触媒がコバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む触媒である、請求項1に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【請求項4】
前記遷移金属触媒の含有量が、前記ポリエステル化合物(a)に対し、遷移金属量として0.5~10ppmである、請求項1に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン(b)が、シクロオレフィンコポリマー又はシクロオレフィンポリマーを含む、請求項1に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【請求項6】
前記容器が、プレフィル用シリンジである、請求項1~5のいずれか一項に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドレナリン含有薬液の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アドレナリン(「エピネフリン」としても知られる。)は、血圧上昇作用のあるホルモンで、神経伝達物質である。アドレナリンは交感神経の作用が高まると血中に放出され、血圧や血糖値の上昇、心拍数の増加、気管支拡張などを引き起こす。この作用を利用して、強心剤や血圧上昇剤として用いられるほか、血管収縮薬や、気管支喘息発作時の気管支拡張薬としても使用されている。
【0003】
アドレナリンは、注射による、吸入による、または局所使用による投与経路に適した種々の製剤において利用可能である。中でも、アナフィラキシーショック等の救急治療の緊急注射用として使用される場合、プレフィルドシリンジ製剤(「プレフィル用シリンジ」にアドレナリンが事前充填された製剤)が使用されている。また、アドレナリンは、空気に曝されると容易に酸化するため、プレフィルドシリンジ製剤として用いられる場合には、ガラス製のプレフィル用シリンジが使用されている。
【0004】
ガラス製容器は、ガスバリア性、耐熱性、透明性に非常に優れた容器であるが、薬液等が充填された状態での保管中に容器の内容液にナトリウムイオン等が溶出したり、フレークスという微細な物質を発生したり、着色した遮光性ガラス製容器を使用する場合に着色用の金属が内容物に混入したり、落下等の衝撃により破損しやすい等の問題がある。更には、比重が大きい為に医療用包装容器が重くなってしまうという問題点があり、代替材料の開発が期待されている。
【0005】
プラスチックは、ガラスに比べて軽量であり、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー等が、医療用包装容器に用いるガラス代替のプラスチックとして検討されているが、酸素バリア性、水蒸気バリア性、薬液吸着性が要求を満たせず、代替が進んでいないのが現状である。プラスチックは、ガラス製及び金属製容器と異なり、酸素を透過する性質があり、薬液の保存性に問題がある。このようなプラスチックからなる容器にガスバリア性を付与するために、ガスバリア層を中間層として有する多層容器が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1においてバレルの最内層と最外層がポリオレフィン系樹脂からなり、中間層に酸素バリア性に優れた樹脂を使用し、酸素バリア性を向上させたプレフィル用シリンジが提示されている。
【0007】
他にも、ガスバリア層としては他に、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド(以下「ナイロンMXD6」ともいう。)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、アルミ箔、カーボンコート、無機酸化物蒸着等のガスバリア層を構成材料として積層する方法が行われているが、成形体内の充填後の内容物の上部に存在するヘッドスペースの気体中の残存酸素を除去することは不可能である。
【0008】
近年、ナイロンMXD6に少量の遷移金属化合物を添加、混合して、酸素吸収機能を付与し、これを容器や包装材料を構成する酸素バリア材料として利用することで、外部から透過してくる酸素及び容器内部に残存する酸素を吸収することにより、従来の酸素バリア性熱可塑性樹脂を利用した容器以上に内容物の保存性を高める方法が実用化されつつある(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
一方、容器内の酸素を除去するため、酸素吸収剤や酸素吸収性樹脂を使用することは従来から知られている。例えば、樹脂と遷移金属触媒からなり、酸素捕捉特性を有する酸素吸収性樹脂組成物が知られている。例えば、酸化可能有機成分としてポリアミド、特にキシリレン基含有ポリアミドと遷移金属触媒からなる樹脂組成物が知られており、さらに酸素捕捉機能を有する樹脂組成物やその樹脂組成物を成形して得られる酸素吸収剤、包装材料、包装用多層積層フィルム、多層容器の例示もある(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0010】
また、キシリレン基含有ポリアミドと遷移金属触媒からなる樹脂組成物以外の酸素吸収樹脂組成物として、炭素-炭素不飽和結合を有する樹脂と遷移金属触媒からなる酸素吸収樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0011】
さらに、酸素を捕集する組成物として、置換されたシクロヘキセン官能基を含むポリマーまたは該シクロヘキセン環が結合した低分子量物質と遷移金属とからなる組成物が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0012】
さらにまた、例えば、特許文献7においては、テトラリン環を有する酸素吸収性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004-229750号公報
【特許文献2】特開平2-500846号公報
【特許文献3】特開2001-252560号公報
【特許文献4】特開2009-108153号公報
【特許文献5】特開平05-115776号公報
【特許文献6】特表2003-521552号公報
【特許文献7】特許第6124114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1のプレフィル用シリンジでは、酸素を完全に遮断するには酸素バリア性が不十分であり、また、容器の内容物の上部に存在するヘッドスペースの気体中の残存酸素を除去することは実質的に困難である。
【0015】
また、特許文献2や3の樹脂組成物は、遷移金属触媒を含有させキシリレン基含有ポリアミド樹脂を酸化させることで酸素吸収機能を発現させるものであるため、樹脂の酸化劣化による強度低下が発生し、包装容器そのものの強度が低下する、多層容器の場合は層間剥離を発生するという問題を有している。特許文献4では層間剥離の改善方法が記載されているが、効果は限定的である。さらに、特許文献4の樹脂組成物は、未だ酸素吸収性能が不十分であり、被保存物が高水分系のもの以外に対する効果が不十分である。
【0016】
さらに、特許文献5の酸素吸収樹脂組成物は、樹脂の酸化にともなう高分子鎖の切断により臭気成分となる低分子量化合物が生成し、酸素吸収後に前記低分子量化合物が容器内に溶出する可能性がある。
【0017】
特許文献6の組成物は、シクロヘキセン官能基を含む特殊な材料を用いる必要があり、また、この材料は比較容易に低分子量化合物を生成する。
【0018】
特許文献7のテトラリン環を有する酸素吸収性樹脂組成物は酸素吸収後の臭気発生が無く、低湿度から高湿度までの広範な湿度条件下で優れた酸素吸収性能を有するが、酸素吸収後に著しく黄色化し、包装材料として使用した際に外観が悪化するという課題がある。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アドレナリン含有薬液の保存に際して、アドレナリンの酸化を防止でき、かつ、容器からの溶出成分を少なくすることができ、かつ、保管後の容器の色調変化を小さくすることができる、アドレナリン含有薬液の保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、アドレナリン含有薬液の保存方法について鋭意検討を進めた結果、アドレナリン含有薬液を、所定の容器に保存することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
アドレナリン含有薬液を容器に保存する方法であって、
前記容器が、
ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収層Aと、
前記酸素吸収層Aの両側に配され、かつ、ポリオレフィン(b)を含有する樹脂層Bと、
を含み、
前記ポリエステル化合物(a)が、前記ポリエステル化合物(a)における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、下記式(1)で表される構成単位30~55モル%と、下記式(2)で表される構成単位15~40モル%と、下記式(3)で表される構成単位20~40モル%と、を含有する、アドレナリン含有薬液の保存方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
[2]
前記ポリエステル化合物(a)が、(i)前記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、前記式(1)で表される構成単位を40~50モル%、前記式(2)で表される構成単位を20~35モル%、前記式(3)で表される構成単位を25~35モル%含有し、かつ、(ii)前記ポリエステル化合物(a)の全構成単位100モル%に対して、前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上である、[1]に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
[3]
前記遷移金属触媒がコバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む触媒である、[1]又は[2]に記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
[4]
前記遷移金属触媒の含有量が、前記ポリエステル化合物(a)に対し、遷移金属量として0.5~10ppmである、[1]~[3]のいずれかに記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
[5]
前記ポリオレフィン(b)が、シクロオレフィンコポリマー又はシクロオレフィンポリマーを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
[6]
前記容器が、プレフィル用シリンジである、[1]~[5]のいずれかに記載のアドレナリン含有薬液の保存方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アドレナリン含有薬液の保存に際して、アドレナリンの酸化を防止でき、かつ、容器からの溶出成分を少なくすることができ、かつ、保管後の容器の色調変化を小さくすることができる、アドレナリン含有薬液の保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
【0024】
<アドレナリン含有薬液の保存方法>
本実施形態に係るアドレナリン含有薬液の保存方法は、アドレナリン含有薬液を容器に保存する方法であって、前記容器が、ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収層A(以下、「層A」ともいう。)と、前記酸素吸収層Aの両側に配され、かつ、ポリオレフィン(b)を含有する樹脂層B(以下、「層B」ともいう。)と、を含み、前記ポリエステル化合物(a)が、前記ポリエステル化合物(a)における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、下記式(1)で表される構成単位30~55モル%と、下記式(2)で表される構成単位15~40モル%と、下記式(3)で表される構成単位20~40モル%と、を含有する。
【化4】
【化5】
【化6】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
【0025】
本実施形態に係るアドレナリン含有薬液の保存方法は、上記のように構成されているため、アドレナリン含有薬液の保存に際して、アドレナリンの酸化を防止でき、かつ、容器からの溶出成分を少なくすることができ、かつ、保管後の容器の色調変化を小さくすることができる。
上記のとおり、本実施形態に係るアドレナリン含有薬液の保存方法により、アドレナリン含有薬液を低酸素濃度下で保存することができる。そのため、アドレナリンの変質や薬効の低下が抑制される。また、アドレナリン含有薬液の携帯時や使用時にガラスと比べ破損の恐れが小さく、軽量なので利便性も高いといえる。このように、アドレナリンの変質や薬効の低下を抑制すると同時に、安全性や利便性も向上する。また、保管後の容器の色調変化が小さいため、アドレナリンが酸化した場合の視認性も良好である。
【0026】
[容器]
本実施形態における容器は、層Aと、前記層Aの両側に配され、かつ、ポリオレフィン(b)を含有する層Bと、を含む。すなわち、本実施形態における容器は、少なくとも3層が積層された多層構造を有することができる。
【0027】
(層A)
層Aは、ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒を含有する。
【0028】
(ポリエステル化合物)
ポリエステル化合物(a)は、上記式(1)~(3)で表される構成単位を含有する。ここで「構成単位を含有する」とは、化合物中に当該構成単位を1以上有することを意味する。上記構成単位は上記構成単位と他の構成単位のランダムコポリマー、上記構成単位のブロックコポリマーのいずれであってもよい。
【0029】
ポリエステル化合物(a)は、前記ポリエステル化合物(a)における上記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、上記式(1)で表される構成単位30~55モル%と、上記式(2)で表される構成単位15~40モル%と、上記式(3)で表される構成単位20~40モル%と、を含有する。前記範囲とすることで容器に優れた酸素吸収性能を付与し、容器の黄色化による外観悪化を抑制することができる。とりわけ、上記式(1)の構成単位が30モル%未満であると、ポリエステル化合物(a)の酸素バリア性が低下する。また、上記式(1)の構成単位が55モル%を超えると、ポリエステル化合物の酸素吸収性能が低下する。また、上記式(2)の構成単位が15モル%未満であると、ポリエステル化合物(a)の酸素吸収性能が低下する。上記式(2)の構成単位が40モル%を超えると、黄色化による外観悪化が促進される。さらに、上記式(3)の構成単位が20モル%未満であると、ポリエステル化合物(a)の酸素バリア性が低下する。また、上記式(3)の構成単位が40モル%を超えると、低分子成分が増加し、成形時のブリードやモールドデポ発生の原因となる。
上記同様の観点から、ポリエステル化合物(a)は、(i)前記ポリエステル化合物(a)における上記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、上記式(1)で表される構成単位40~50モル%と、上記式(2)で表される構成単位20~35モル%と、前記式(3)で表される構成単位25~35モル%と、を含有し、かつ、(ii)前記ポリエステル化合物(a)の全構成単位100モル%に対して、前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上であることが好ましい。
式(1)~(3)で表される構成単位の含有量は、仕込み量から特定することもできるし、重クロロホルム中、H-NMRによって測定することもできる。
【0030】
ポリエステル化合物(a)の製造方法としては、式(1)~(3)で表される構成単位の各含有量が上述した範囲になるものであれば特に限定されず、従来公知のポリエステルの製造方法をいずれも適用することができる。そのような製造方法としては、例えば、エステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、または溶液重合法等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さの点から、エステル交換法、または直接エステル化法が好適であり、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはその誘導体(I)と、2,6-テトラリンジカルボン酸またはその誘導体(II)と、イソフタル酸またはその誘導体(III)と、エチレングリコールまたはその誘導体(IV)とを重縮合することによって得ることができる。
【0031】
ポリエステル化合物(a)の製造時に用いるエステル交換触媒、エステル化触媒、重縮合触媒等の各種触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来公知のものをいずれも用いることができ、これらは反応速度やポリエステル化合物の色調、安全性、熱安定性、耐候性、自身の溶出性などに応じて適宜選択される。例えば上記各種触媒としては、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、スズ等の金属の化合物(例えば、脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、アルコキシド)や金属マグネシウムなどが挙げられ、これらは単独で用いることもできるし、複数のものを組み合わせて用いることもできる。
【0032】
ポリエステル化合物(a)の極限粘度(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値)は特に限定されないが、ポリエステル化合物の成形性の面から、0.5~1.5dL/gが好ましく、0.8~1.2dL/gがより好ましい。
【0033】
ポリエステル化合物(a)は、上記式(1)~(3)で表される構成単位以外の任意の構成単位を含んでいてもよい。そのような任意の構成単位の具体例としては、以下に限定されないが、前述した単位以外のジカルボン酸又はその誘導体及びジオール又はその誘導体に由来する単位が挙げられる。ポリエステル化合物(a)における任意の構成単位の含有量としては、特に限定されないが、前記ポリエステル化合物(a)の全構成単位100モル%に対して、5モル%未満であることが好ましい。
【0034】
任意の構成単位としてのジオール又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール等の脂環式ジオール類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。上記ジオール又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
任意の構成単位としてのジカルボン酸又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸類、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ジカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
(遷移金属触媒)
層(A)に含まれる遷移金属触媒としては、ポリエステル化合物(a)の酸化反応の触媒として機能し得るものであれば、公知のものから適宜選択して用いることができ、特に限定されない。ポリエステル化合物(a)の酸化反応による酸素吸収を介して、酸素バリア性を向上させることができる。特に限定するものではないが、遷移金属触媒に含まれる遷移金属は、周期表の4及び8~11族の金属であることが好ましい。少量で効果を発揮するためには、周期表の8~11族の金属であることがより好ましい。
【0037】
かかる遷移金属触媒の具体例としては、例えば、遷移金属の有機酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩、亜燐酸塩、次亜燐酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。ここで、遷移金属触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、コバルト、ニッケル、銅が好ましい。また、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸が挙げられるが、これらに限定されない。遷移金属触媒は、これらの遷移金属と有機酸とを組み合わせたものが好ましく、遷移金属がコバルト、ニッケル又は銅であり、有機酸が酢酸、ステアリン酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸又はナフテン酸である組み合わせがより好ましい。なお、遷移金属触媒は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
遷移金属触媒の配合量は、使用する前記ポリエステル化合物や遷移金属触媒の種類及び所望の性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。酸素吸収層(A)の酸素吸収量及び外観の観点から、遷移金属触媒(好ましくは周期表の8~11族の金属、より好ましくはコバルト、ニッケル又は銅)の配合量(2種以上の遷移金属を使用する場合にはそれらの合計量)は前記ポリエステル化合物(a)の質量を基準とし、遷移金属量として0.5~10ppmであることが好ましい。上記配合量が0.5ppm以上であると、酸素吸収性能がより向上する傾向にある。上記配合量が10ppm以下であると、黄色化がより抑制される傾向にある。同様の観点から、より好ましくは1~5ppm、さらに好ましくは1.5~3ppmである。なお、ポリエステル化合物の製造に遷移金属触媒を使用し、これが樹脂組成物に残存している場合には、残存触媒に含まれる遷移金属の量も前記数値範囲に包含される。遷移金属の量及び種類は、誘導結合プラズマ質量分析法によって測定することができる。
【0039】
ポリエステル化合物(a)及び遷移金属触媒は、公知の方法で混合する事が出来るが、好ましくは押出機により混練することにより、分散性の良い樹脂組成物として層(A)の原料とすることができる。また、樹脂組成物には、種々公知の材料をさらに混合することができ、以下に限定されないが、例えば、乾燥剤、顔料、染料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加してもよい。
【0040】
層(A)は、酸素吸収反応を促進させるために、必要に応じて、さらにラジカル発生剤や光開始剤を含有していてもよい。ラジカル発生剤の具体例としては、各種のN-ヒドロキシイミド化合物が挙げられ、例えば、N-ヒドロキシコハクイミド、N-ヒドロキシマレイミド、N,N’-ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシテトラクロロフタルイミド、N-ヒドロキシテトラブロモフタルイミド、N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、3-スルホニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メトキシカルボニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メチル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-ヒドロキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ニトロ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-クロロ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-メトキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ジメチルアミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-カルボキシ-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、4-メチル-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、N-ヒドロキシヘット酸イミド、N-ヒドロキシハイミック酸イミド、N-ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N-ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、光開始剤の具体例としては、ベンゾフェノンとその誘導体、チアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、これらのラジカル発生剤及び光開始剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、層(A)は、ポリエステル化合物(a)以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。混練に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、あるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムまたはブロック共重合体等のポリオレフィン、無水マレイン酸グラフトポリエチレンや無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、α-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル等あるいはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも酸素吸収効果を効果的に発揮するためにはポリエステル、ポリアミド及びエチレン-ビニルアルコール共重合体のような高酸素バリア性の樹脂がより好ましい。なお、層(A)が、上述したポリオレフィンを含有する場合、後述する層(B)とは、ポリエステル化合物(a)を含むか否かにより区別することができる。
【0042】
層Aの厚みは特に限定されないが、10~1000μmが好ましく、50~700μmがより好ましく、100~500μmが特に好ましい。この範囲とすることで層Aの酸素吸収性能がより高まる傾向にあるとともに経済性が損なわれることを防止することが可能となる。
【0043】
(層B)
層Bは、ポリオレフィン(b)を含有する。層Bにおけるポリオレフィン(b)の含有率は特に限定されないが、層Bの総量に対するポリオレフィン(b)の含有率が、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。前記範囲とすることで層Bの透明性、成形性及び水蒸気バリア性が高まる傾向にある。
【0044】
本実施形態における容器は、層Bを複数有していてもよく、複数の層Bの構成は互いに同一であっても異なっていてもよい。層Bの厚みは、用途に応じて適宜決定することができ、容器に要求される落下耐性等の強度や柔軟性等の諸物性を確保するという観点からは、好ましくは30~1500μm、より好ましくは50~1000μm、更に好ましくは100~700μmである。
【0045】
(ポリオレフィン(b))
ポリオレフィン(b)の具体例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレンなどの、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1等のオレフィン単独重合体;エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン-ポリブテン-1共重合体、エチレン-環状オレフィン共重合体等のエチレンとα-オレフィンとの共重合体;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のエチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体等のエチレン-α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体のイオン架橋物、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のその他のエチレン共重合体;環状オレフィン類開環重合体及びその水素添加物;環状オレフィン類-エチレン共重合体;とこれらのポリオレフィンを無水マレイン酸等の酸無水物等でグラフト変性したグラフト変性ポリオレフィン等を挙げることができる。
【0046】
特に好ましいのは、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、およびテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)、また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)も好ましい。このようなCOCおよびCOPは、例えば、特開平5-300939号公報や特開平5-317411号公報に記載されている。
【0047】
COCは、例えば、三井化学株式会社製、アペル(登録商標)として市販されており、またCOPは、例えば、日本ゼオン株式会社製、ゼオネックス(登録商標)又はゼオノア(登録商標)や株式会社大協精工製、Daikyo Resin CZ(登録商標)として市販されている。
【0048】
COCおよびCOPは、耐熱性や耐光性などの化学的性質や耐薬品性はポリオレフィン樹脂としての特徴を示し、機械特性、溶融、流動特性、寸法精度などの物理的性質は非晶性樹脂としての特徴を示すことからとりわけ好ましい材料である。
【0049】
(任意の層)
本実施形態における容器は、層A及び層Bに加えて、所望する性能等に応じて任意の層を含んでいてもよい。そのような任意の層としては、例えば、接着層等が挙げられる。
【0050】
(接着層)
本実施形態における容器において、隣接する2つの層の間で実用的な層間接着強度が得られない場合には、当該2つの層の間に接着剤層(AD)を設けることが好ましい。接着層は、接着性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。接着性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。接着層としては、接着性の観点から、層Bに含まれるポリオレフィン(b)と同種の樹脂を変性したものを用いることが好ましい。接着層の厚みは、実用的な接着強度を発揮しつつ成形加工性を確保するという観点から、好ましくは2~100μm、より好ましくは5~90μm、更に好ましくは10~80μmである。
【0051】
(層構成)
本実施形態における容器の製造方法及び層構成については特に限定されず、通常の射出成形法により製造することができる。例えば、2台以上の射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、層Aを構成する材料及び層Bを構成する材料をそれぞれの射出シリンダーから金型ホットランナーを通して、キャビティー内に射出して、射出用金型の形状に対応した多層容器を製造することができる。また、先ず、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する材料と同時に射出し、次に層Bを構成する材料を必要量射出してキャビティーを満たすことにより3層構造B/A/Bを有する容器を製造することができる。
また、先ず、層Bを構成する材料を射出し、次いで層Aを構成する材料を単独で射出し、最後に層Bを構成する材料を必要量射出して金型キャビティーを満たすことにより、5層構造B/A/B/A/Bを有する容器を製造することができる。
また、先ず、層B1を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層B2を構成する材料を別の射出シリンダーから、層B1を構成する材料と同時に射出し、次に層Aを構成する材料を層B1、層B2を構成する材料と同時に射出し、次に層B1を構成する材料を必要量射出してキャビティーを満たすことにより5層構造B1/B2/A/B2/B1を有する容器を製造することができる。
得られた容器の口頸部に耐熱性を与えるため、この段階で口頸部を熱処理により結晶化させてもよい。結晶化度は好ましくは30~50%、より好ましくは35~45%である。なお、結晶化は後述する二次加工を施した後に実施してもよい。
【0052】
(容器の形状)
本実施形態における容器の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、バイアル、アンプル、プレフィル用シリンジが挙げられる。
【0053】
(バイアル)
本実施形態におけるバイアルの構成は、一般的なバイアルと同様とすることができ、例えば、ボトル、ゴム栓、キャップから構成される。アドレナリン含有薬液をボトルに充填後、ゴム栓をして、更にその上からキャップを巻締めることで密閉して用いられる。前記ボトル部分が、本実施形態における容器であって、当該容器の中間層の少なくとも一層を層Aとすることができ、最内層及び最外層を層Bとすることができる。
【0054】
本実施形態におけるバイアルのボトル部分の成形方法は、特に限定されず、例えば、射出ブロー成形、押出しブロー成形にて製造される。一例として射出ブロー成形方法を以下に示す。
例えば、2台以上の射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、層Aを構成する材料及び層Bを構成する材料をそれぞれの射出シリンダーから金型ホットランナーを通して、キャビティー内に射出して、射出用金型の形状に対応した多層成形体を製造することができる。また、先ず、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する材料と同時に射出し、次に層Bを構成する材料を必要量射出してキャビティーを満たすことにより3層構造B/A/Bを有する成形体を製造することができる。
また、先ず、層Bを構成する材料を射出し、次いで層Aを構成する材料を単独で射出し、最後に層Bを構成する材料を必要量射出して金型キャビティーを満たすことにより、5層構造B/A/B/A/Bを有する成形体を製造することができる。
また、先ず、層B1を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層B2を構成する材料を別の射出シリンダーから、層B1を構成する樹脂と同時に射出し、次に層Aを構成する樹脂を層B1、層B2を構成する樹脂と同時に射出し、次に層B1を構成する樹脂を必要量射出してキャビティーを満たすことにより5層構造B1/B2/A/B2/B1を有する成形体を製造することができる。
射出ブロー成形では上記方法により得られた成形体をある程度加熱された状態を保ったまま最終形状金型(ブロー金型)に嵌め、空気を吹込み、膨らませて金型に密着させ、冷却固化させることでボトル状に成形することができる。
【0055】
(アンプル)
本実施形態におけるアンプルの構成は、一般的なアンプルと同様とすることができ、例えば、頸部を細くした容器として構成される。アドレナリン含有薬液を充填後、頸部の先を熔封する事で密閉して用いられる。このアンプルが本実施形態における容器であって、例えば、当該容器の中間層の少なくとも一層を層Aとすることができ、最内層及び最外層を層Bとすることができる。本実施形態におけるアンプルの成形方法は、特に限定されず、例えば、射出ブロー成形、押出しブロー成形にて製造される。
【0056】
(プレフィル用シリンジ)
本実施形態におけるプレフィル用シリンジの構成は、一般的なプレフィル用シリンジと同様とすることができ、例えば、少なくともアドレナリン含有薬液を充填する為のバレル、バレルの一端に注射針を接合する為の接合部及び使用時にアドレナリン含有薬液を押出す為のプランジャーから構成される。前記バレルが本実施形態における容器であって、例えば、当該容器の中間層の少なくとも一層を層Aとすることができ、最内層及び最外層を層Bとすることができる。
【0057】
本実施形態におけるプレフィル用シリンジの成形方法は、特に限定されず、例えば、射出成形法にて製造される。多層成形体となるバレルは、先ず層Bを構成する材料をキャビティー内に一定量射出し、次いで層Aを構成する材料を一定量射出し、再び層Bを構成する材料を一定量射出することにより製造される。バレルと接合部は一体のものとして成形してもよいし、別々に成形した物を接合してもよい。接合部の先端は封をする必要があるが、その方法は接合部先端の樹脂を溶融状態に加熱、ペンチ等で挟み込んで融着させる等すればよい。
【0058】
本実施形態における容器の厚さは、使用目的や大きさによるが0.5~5mm程度のものであればよい。また、厚さは均一であっても、厚さを変えたものであってもいずれでもよい。また表面(処理されない)に長期保存安定の目的で、別のガスバリア膜や遮光膜が形成されていてもよい。かかる膜およびその形成方法としては、特開2004-323058号公報に記載された方法などを採用できる。
【0059】
また、アドレナリン含有薬液の充填前後に、適宜、容器やアドレナリン含有薬液の殺菌を施すことができる。アドレナリン含有薬液の殺菌方法としては、特に限定されないが、121℃以上の高温加熱処理が一般的に用いられ、容器の殺菌方法としても、特に限定されないが、100℃以下での熱水処理、100℃以上の加圧熱水処理、121℃以上の高温加熱処理等の加熱殺菌、紫外線、マイクロ波、ガンマ線等の電磁波殺菌、エチレンオキサイド等のガス処理、過酸化水素や次亜塩素酸等の薬剤殺菌等が挙げられる。
【0060】
(アドレナリン含有薬液)
本実施形態におけるアドレナリン含有薬液のアドレナリン濃度は特に限定されず、用途に応じて適宜決定することができ、好ましくは0.01~10mg/mLであり、より好ましくは0.02~9mg/mLであり、更に好ましくは0.05~8mg/mLである。また、アドレナリン含有薬液中に、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クロロブタノール、塩酸、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム等の添加剤を含んでいてもよい。
【0061】
(保存条件)
本実施形態におけるアドレナリン含有薬液の保存条件としては、特に限定されず、一般的なアドレナリン含有薬液の保存条件と同様であってもよい。例えば、本実施形態におけるアドレナリン含有薬液を、1~30℃、湿度75%RH以下で保存することが好ましい。
【実施例0062】
以下に実施例と比較例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0063】
<評価方法>
(1)アドレナリン含有薬液の保存試験
アドレナリン500mg、ピロ亜硫酸ナトリウム1670mgに精製水を加え、1000mLの無色透明のアドレナリン含有薬液を調製した。後述の方法によって得られたプレフィル用シリンジのシリンジバレルの先端部をトップキャップで封止し、当該プレフィル用シリンジに上記アドレナリン含有薬液を1mL充填した後、フランジ側をシリンジバレル内に空間が生じないようにストッパーで封止した。この状態で、30℃、相対湿度50%に6ヶ月間保存した後、薬液の色調を目視確認した。
なお、アドレナリン含有薬液の薬液調製直後の外観としては無色透明であるが、アドレナリンが酸化した場合、薬液が黄色に変色することから、目視によってアドレナリンの酸化の有無を判定した。
【0064】
(2)溶出試験
後述の方法によって得られたプレフィル用シリンジを40℃、相対湿度90%下にて1ヵ月保管した後、1ccの超純水を充填してトップキャップ及びストッパーにより密栓した容器を40℃、60%RH下に4ヵ月保管し、その後、超純水中のトータルカーボン量(以下、TOC)を測定した。
(TOC測定)
装置;株式会社島津製作所製 TOC-VCPH
燃焼炉温度;720℃
ガス・流量;高純度空気、TOC計部150ml/min
注入量;150μL
検出限界;1μg/mL
【0065】
(3)容器の色調変化
後述の方法によって得られたプレフィル用シリンジに1ccの蒸留水を充填してトップキャップ及びストッパーにより密栓したサンプルを測定用試料とし、日本電色工業株式会社製色差濁度測定器COH-300Aを使用して測定した初期の黄色度(YI)と40℃、相対湿度20%の保管条件で3ヵ月保管した後の黄色度の差(ΔYI)から算出した。ΔYIが1を超えないものを容器の色調変化が小さいと判断した。
【0066】
<プレフィル用シリンジの製造>
ISO11040-6に準拠し、次のとおり、外側から層B/層A/層Bの3層構成のプレフィル用シリンジ(内容量1mL(ロング))を得た。
2機の射出シリンダーを備えた射出成形機(Sodick株式会社製、型式:GL-150)を使用し、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出して射出金型内キャビティーを満たすことにより、層B/層A/層Bの3層構成のプレフィル用シリンジを得た。なお、層Bにはシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)5000」)を、層Aには実施例及び比較例の樹脂組成物を、それぞれ原料として使用した。
(射出及びブロー条件)
層(B)用の射出シリンダー温度:315℃
層(A)用の射出シリンダー温度:265℃
射出金型内層(B)樹脂流路温度:320℃
射出金型内層(A)樹脂流路温度:280℃
射出金型温度:30℃
【0067】
[ポリエステル化合物の製造例]
(製造例1)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積30Lのポリエステル樹脂製造装置に、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル8668.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル4895.5g、イソフタル酸ジメチル4594.6g及びエチレングリコール8811.8gを原料モノマーとして仕込み、さらに、シュウ酸チタンカリウム二水和物0.559g、酢酸亜鉛1.519gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液1039.6g、リン酸エチレングリコール溶液154.6gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル化合物(1)を得た。なお、表1に示す式(1)~(3)で表される構成単位のモル%は、対応するモノマーの仕込み量から計算した値である(以降も同様。)。
【0068】
(製造例2)
製造例1の原料モノマーに代えて、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル6730.6g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル6841.7g、イソフタル酸ジメチル4586.5g及びエチレングリコール8796.2gを原料モノマーとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(2)を得た。
【0069】
(製造例3)
製造例1の原料モノマーに代えて、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル4025.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル6138.6g、イソフタル酸ジメチル8001.6g及びエチレングリコール9207.7gを原料モノマーとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(3)を得た。
【0070】
(製造例4)
製造例1の原料モノマーに代えて、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル3835.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル9748.0g、イソフタル酸ジメチル4574.4g及びエチレングリコール8773.0gを原料モノマーとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(4)を得た。
【0071】
(製造例5)
製造例1の原料モノマーに代えて、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル11589.2g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル1963.4g、イソフタル酸ジメチル4606.8g及びエチレングリコール8835.2gを原料モノマーとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(5)を得た。
【0072】
(製造例6)
製造例1の原料モノマーに代えて、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチルを不使用、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル18147.3g及びエチレングリコール8166.1gを原料モノマーとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(6)を得た。
【0073】
(実施例1)
ポリエステル化合物(1)に対して、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で2.5ppmとなるようブレンドし、得られた酸素吸収性樹脂組成物を、直径20mmのスクリューを2本有する2軸押出機を用いて、押出温度280℃、スクリュー回転数50rpmの条件にてストランド状で押出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状の酸素吸収性樹脂組成物(1)を得た。得られた酸素吸収性樹脂組成物について前述の方法でプレフィル用シリンジを成形し、アドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
ポリエステル化合物(1)に代えてポリエステル化合物(2)を使用した以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0075】
(実施例3)
ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で20ppmとなるようブレンドした以外は実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物(3)を得た。得られた酸素吸収性樹脂組成物について前述の方法でプレフィル用シリンジを成形し、得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0076】
(比較例1)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(3)を使用した以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0077】
(比較例2)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(4)を使用した以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0078】
(比較例3)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(5)を使用した以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0079】
(比較例4)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(6)を使用した以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジついて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例5)
ポリエステル化合物(1)に変えてナイロンMXD6(三菱ガス化学株式会社製、商品名:MXナイロンS7007)を使用し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で20ppmとなるようブレンドした以外は実施例1と同様にして酸素吸収性樹脂組成物(6)を得た。得られた酸素吸収性樹脂組成物について層(A)用の射出シリンダー温度を260℃とした以外は実施例1と同様にしてプレフィル用シリンジを得た。得られたプレフィル用シリンジについて前述の方法でアドレナリン含有薬液の保存試験、溶出試験、容器の色調変化の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1~3から明らかなように、本実施形態に係るアドレナリン含有薬液の保存方法により保存されたアドレナリン含有薬液は黄色化が進行しておらず(すなわち、酸化が進行しておらず)、容器からの溶出が少なく、また、保管後の容器の色調変化が小さいため内容物視認性も良好であることが確認された。