(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177880
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】船速設定システム及び船速設定方法
(51)【国際特許分類】
B63B 79/40 20200101AFI20231207BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20231207BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20231207BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B63B79/40
B63H21/14
B63H21/22 A
F02D29/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090835
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(71)【出願人】
【識別番号】000175043
【氏名又は名称】三井E&Sシステム技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 一博
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 寛樹
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093AA19
3G093BA14
3G093CB15
3G093DA01
3G093DB29
3G093EA03
(57)【要約】
【課題】テレグラフ操縦ハンドルの操作に起因して、目的とする船速へ近似させる船速制御を可能とする船速設定システムを提供する。
【解決手段】船舶の主機関における回転速度や、プロペラの翼角の制御を行うテレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に対応した目標船速を定めた目標設定部14と、船舶の実船速を検出する船速検出部16と、目標船速と実船速との差分に基づいて回転速度や翼角の上昇または下降を指示する制御信号を出力する船速制御部18と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の主機関における回転速度や、プロペラの翼角の制御を行うテレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置に対応した目標船速を定めた目標設定部と、
前記船舶の実船速を検出する船速検出部と、
前記目標船速と前記実船速との差分に基づいて前記回転速度や前記翼角の上昇または下降を指示する制御信号を出力する船速制御部と、を有することを特徴とする船速設定システム。
【請求項2】
前記船速制御部から出力される制御信号に対する補正制御の有効/無効を切り替える切替制御部と、
前記切替制御部へ切替制御信号を出力するための切替手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の船速設定システム。
【請求項3】
前記目標船速は、前記テレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置ごとに、船舶の荷積み状態に応じた個別の目標船速が定められており、
前記切替手段には、船舶の荷積み状態を設定する選択部が付帯されていることを特徴とする請求項2に記載の船速設定システム。
【請求項4】
船舶の主機関における回転速度や、プロペラの翼角の制御を行うテレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置に対応した目標船速を定めた目標設定部と、前記船舶の実船速を検出する船速検出部と、前記目標船速と前記実船速との差分に基づいて前記回転速度や前記翼角の上昇または下降を指示する制御信号を出力する船速制御部と、前記船速制御部から出力される制御信号に対する補正制御の有効/無効を切り替える切替制御部と、前記切替制御部へ切替制御信号を出力するための切替手段を備える船速設定システムを用いた船速設定方法であって、
前記切替手段の操作により前記補正制御を有効にするステップと、
前記テレグラフ操縦ハンドルを任意の傾倒操作位置に操作するステップと、から成ることを特徴とする船速設定方法。
【請求項5】
前記目標船速は、前記テレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置ごとに、船舶の荷積み状態に応じた個別の目標船速が定められていると共に、前記切替手段には、船舶の荷積み状態を設定する選択部が付帯されており、
前記切替手段の操作では、前記補正制御の切替操作に加え、前記荷積み状態の選択を行うことを特徴とする請求項4に記載の船速設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航行速度を定める技術に係り、簡易な操作により船速を所定の値に定める事ができるようにするシステム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、テレグラフ操縦ハンドルの位置によって、目標となる主機関の回転速度あるいは可変ピッチプロペラの翼角あるいはその両方を設定しており、船速を一定に制御する所謂オートクルーズコントロール機能を追加したい場合、テレグラフ操縦ハンドルとは別に目標となる船速を設定する装置を準備している。例えば特許文献1に開示されている技術では、船速を制御するレバー操作部やパドル操作部とは別に、ステアリング操作部の基部にオートクルーズ操作ボタンを配置するように構成している。
【0003】
このように、船舶にオートクルーズ機能を設けようとする場合、船速を操作する要素とは別に、オートクルーズ機能を奏するための要素を設ける必要が生じることが一般的である。また、オートクルーズ機能による船速制御は、テレグラフ操縦ハンドル等のレバー操作とは別系統での制御となる。このため、レバーの操作位置等により設定される主機関の回転速度や可変ピッチプロペラの翼角と、オートクルーズ機能により設定される主機関の回転速度や可変ピッチプロペラの翼角との間に大きな乖離が生じる場合があり、オートクルーズ機能のON/OFF切り替え時には、実回転速度や実翼角と、設定される主機関の回転速度(設定回転速度)や可変ピッチプロペラの翼角(設定翼角)とのギャップに起因した変動が生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、テレグラフ操縦ハンドルの操作に起因して、目的とする船速へ近似させる船速制御を可能とする船速設定システム、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための船速設定システムは、船舶の主機関における回転速度や、プロペラの翼角の制御を行うテレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置に対応した目標船速を定めた目標設定部と、前記船舶の実船速を検出する船速検出部と、前記目標船速と前記実船速との差分に基づいて前記回転速度や前記翼角の上昇または下降を指示する制御信号を出力する船速制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、上記のような特徴を有する船速設定システムでは、前記船速制御部から出力される制御信号に対する補正制御の有効/無効を切り替える切替制御部と、前記切替制御部へ切替制御信号を出力するための切替手段を備えるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、目標船速を設定する度に速度設定制御を行うという煩わしさを解消することができる。
【0008】
さらに、上記のような特徴を有する船速設定システムにおいて前記目標船速は、前記テレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置ごとに、船舶の荷積み状態に応じた個別の目標船速が定められており、前記切替手段には、船舶の荷積み状態を設定する選択部が付帯されているようにすることができる。このような特徴を有する事によれば、船舶の荷積み状態に合った船速制御が可能となる。また、主機関の回転速度と目標船速との差が小さくなるため、補正制御の有効/無効を切り替えた際の変動を小さくすることができる。
【0009】
また、上記目的を達成するための船速設定方法は、船舶の主機関における回転速度や、プロペラの翼角の制御を行うテレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置に対応した目標船速を定めた目標設定部と、前記船舶の実船速を検出する船速検出部と、前記目標船速と前記実船速との差分に基づいて前記回転速度や前記翼角の上昇または下降を指示する制御信号を出力する船速制御部と、前記船速制御部から出力される制御信号に対する補正制御の有効/無効を切り替える切替制御部と、前記切替制御部へ切替制御信号を出力するための切替手段を備える船速設定システムを用いた船速設定方法であって、前記切替手段の操作により前記補正制御を有効にするステップと、前記テレグラフ操縦ハンドルを任意の傾倒操作位置に操作するステップと、から成ることを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有する船速設定方法では、前記目標船速は、前記テレグラフ操縦ハンドルの傾倒操作位置ごとに、船舶の荷積み状態に応じた個別の目標船速が定められていると共に、前記切替手段には、船舶の荷積み状態を設定する選択部が付帯されており、前記切替手段の操作では、前記補正制御の切替操作に加え、前記荷積み状態の選択を行うようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、船舶の荷積み状態に合った船速制御が可能となる。また、主機関の回転速度と目標船速との差が小さくなるため、補正制御の有効/無効を切り替えた際の変動を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のような特徴を有する船速設定システム、及び方法によれば、テレグラフ操縦ハンドルの操作に起因して、目的とする船速へ近似させる船速制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る船速設定システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の船速設定システム及び方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上で好適な形態の一例であり、発明の効果を奏する限りにおいて、構成の一部を変更したとしても、発明の一部とみなすことができる。
【0014】
[構成]
まず、
図1を参照して、実施形態に係る船速設定システム10の構成について説明する。本実施形態に係る船速設定システム10は、テレグラフ操縦ハンドル12と、目標設定部14、船速検出部16、船速制御部18、切替制御部20、及び表示装置22とを基本として構成し、主機関の回転速度やプロペラにおけるピッチ角度(翼角)の制御を行う。
【0015】
本実施形態に係るテレグラフ操縦ハンドル12は、レバーの操作(傾倒操作)により、エンジン(主機関とも言う)の回転速度とプロペラの翼角の制御を行うための要素である。実施形態に係るテレグラフ操縦ハンドルの場合、「D.Slow」、「Slow」、「Half」、「Full」、「NF1」、「NF2」といった6段階の傾倒操作による切り替え制御を可能としている。詳細を後述する目標設定部には、「D.Slow」から「NF2」まで、段階的に増加する回転速度の目標値(目標回転速度)と、各目標回転速度に対応した翼角(目標翼角)が定められ、記録されている。このような構成のテレグラフ操縦ハンドルでは、レバーの傾倒操作位置に応じて主機関の回転速度や翼角の制御が成されることとなる。なお、レバーの傾倒操作位置に対応して定められている目標回転速度や目標翼角は、「D.Slow」と設定されている時に船速が最も遅くなり、「NF2」と設定されている時に船速が最も速くなるように定められている(他の外的条件が等しい場合)。
【0016】
目標設定部14は上述したように、主にテレグラフ操縦ハンドル12のレバー操作位置に応じた主機関の回転速度(目標回転速度)や、目標回転速度に応じたプロペラの翼角(目標翼角)が定められ、記録されている。また、本実施形態では、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に応じた船速(目標船速)を定め、これを記録している。
【0017】
このため、目標設定部14では、テレグラフ操縦ハンドル12が操作された際、傾倒操作位置に応じて定められている目標回転速度や目標翼角、及び目標船速が、それぞれ指令値として出力される。
【0018】
船速検出部16は、船舶の実速度(実船速)を検出するための要素である。船速検出部16で実船速が検出されると、目標設定部14から出力された目標船速と実船速との差分が算出(減算)される。そして、算出された差分が船速制御部18へと入力される。
【0019】
船速制御部18は、目標船速と実船速との差分がゼロとなるように主機関の回転速度や翼角を制御する指令値(制御値)を定めるための要素である。このため、差分がプラスであれば船速を上げるための制御値(回転速度の上昇及び/または翼角の上昇)を出力し、差分がマイナスであれば船速を下げるための制御値(回転速度の下降及び/または翼角の下降)を出力する。
【0020】
切替制御部20は、目標船速による船速の制御を有効にするか否かを切り替えるための要素である。切替制御部20は、ON/OFF制御のための物理的なスイッチを設けるようにしても良いが、本実施形態では、詳細を後述する表示装置22と連動し、表示装置22に表示される「Ballast」、「Half Load」、「Full Load」といった荷積状態を指定する表示部(選択部)を選択することでON(有効)となり、「Engin Speed」といった主機関の回転速度を表す表示部を選択することでOFF(無効)となるように電子的な制御を行っている。切替制御部20が有効である場合、船速制御部18から出力された制御値(回転速度と翼角)はそれぞれ、目標設定部14から出力された目標回転速度の指令値と、目標翼角の指令値に対して加算される。そして、目標回転速度と目標翼角は、それぞれ制御値が加算された値を新たな指令値として、主機関の制御部(不図示)や、翼角の制御部(不図示)に入力される。
【0021】
表示装置22は、船舶の運転状態を表示するための要素である。本実施形態の場合、
図2に示すように、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置である「D.Slow」、「Slow」、「Half」、「Full」、「NF1」、「NF2」を「ORDER」の列に表示し、隣接する「REV(rpm)」の列に、各傾倒操作位置に対応した目標回転速度が表示されている。さらに、目標回転速度を示す列の隣には、3種類の積荷状態を示す、「Ballast(KNOT)」:“バラストのみの空荷”、「Half Load(KNOT)」:“積荷が最大積載の半分程度”、「Full Load(KNOT)」:“積荷が最大積載量、あるいはそれに近似している”といった列が設けられ、各列にはそれぞれ、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に応じた目標船速が表示されている。
【0022】
また、実施形態に係る表示装置22は、タッチパネル式とされており、表示装置22の一部に切替制御部20のON/OFF制御を行うための表示部が設けられている。表示部は、上述したように、「Engin Speed」と、「Ballast」、「Half Load」、及び「Full Load」といった4項目であり、「Engin Speed」以外の3つの項目が選択された場合には、切替制御部20がONとなる。ここで、「Ballast」は、「Ballast(KNOT)」、「Half Load」は、「Half Load(KNOT)」、「Full Load」は、「Full Load(KNOT)」の列で示す目標船速に対応しており、選択した表示部に対応した荷積み状態の船速が目標船速として設定されることとなる。一例として、「Ballast」を選択し、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置を「NF1」とした場合には、12(KNOT)が目標船速となる。
【0023】
なお、本実施形態では表示装置22に、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置毎の目標船速を設定するための速度設定部22aを付帯させている。速度設定部22aでは、「Ballast」、「Half Load」、「Full Load」といった積荷状態に対し、それぞれ目標船速を定めることができるようにしている。目標船速の設定は、設定目標船速表示部22a1の横に配置している△で示されたUP操作部と、▽で示されたDOWN操作部とを操作することで設定目標船速を定め、「Save」を選択することで成される。速度設定部22aで定められた目標船速は、目標設定部14に送られ、新たな目標船速として記録される。
【0024】
[作用]
このような構成の船速設定システム10では、表示装置22において、荷積み状態を示す表示部(「Ballast」、「Half Load」、「Full Load」)のいずれかを選択することで、切替制御部20がONとなり、目標船速に基づく船速制御が開始される。
【0025】
切替制御部20がONとなると、表示装置22で選択された積荷状態と、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に応じて、予め定められた船速が目標船速として設定され、目標設定部14から出力される。この時、目標設定部からは、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に応じて定められた主機関の目標回転速度と、プロペラの目標翼角も指令値として出力される。
【0026】
目標設定部14から目標船速が出力されると、船速検出部16により検出された実船速と比較され、その差分が算出される。算出された差分は、船速制御部18に入力され、主機関の回転速度とプロペラの翼角の制御値が出力される。船速制御部18から出力された回転速度の制御値と翼角の制御値は、それぞれ目標回転速度と目標翼角に加算され、新たな指令値として主機関の制御部や翼角の制御部に入力される。
【0027】
[効果]
このような構成の船速設定システム10によれば、テレグラフ操縦ハンドル12の操作(レバーの傾倒操作)に起因して、目的とする船速へ近似させる船速制御が可能となる。このため、船速制御やオートクルーズ制御をするために、逐次設定操作を行う必要が無くなる。また、テレグラフ操縦ハンドル12の傾倒操作位置に対応して定められた目標回転速度や目標翼角を基にして船速を設定し、実船速に基づいて差分の補正を行うようにしているため、切替制御部20のON/OFF切り替えがあったとしても、主機関の回転速度やプロペラの翼角に大きな変動をきたす事が無い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上記実施形態では、船速制御部18からの出力は、制御値として説明している。しかしながら、船速制御部からの出力は、単に回転速度や翼角の上昇、あるいは下降を指示する信号であっても良い。
【符号の説明】
【0029】
10………船速設定システム、12………テレグラフ操縦ハンドル、14………目標設定部、16………船速検出部、18………船速制御部、20………切替制御部、22………表示装置、22a………速度設定部、22a1………設定目標船速表示部。