(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177881
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231207BHJP
C08G 63/181 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/181
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090836
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
(72)【発明者】
【氏名】吉村 康明
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF041
4J002EG046
4J002FD046
4J002FD076
4J002FD206
4J002GG01
4J002GG02
4J029AA03
4J029AB07
4J029AC02
4J029AE01
4J029BA03
4J029CB05A
4J029CC06A
4J029CD05
4J029HA01
4J029HB03A
4J029JA091
4J029JB171
4J029JF321
4J029JF361
4J029KB05
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な酸素バリア性能を示し、酸素吸収後の色調が良好かつ強度・形状維持性に優れ、成形性も優れる樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリエステル化合物と、遷移金属触媒と、を含有する樹脂組成物であって、前記ポリエステル化合物が、前記ポリエステル化合物の全構成単位の合計100モル%に対して、2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとに由来する構成単位を30~55モル%、テトラリン-2,6-ジカルボン酸とエチレングリコールとに由来する構成単位を15~40モル%、及びイソフタル酸とエチレングリコールとに由来する構成単位を20~40モル%を含有する、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル化合物と、
遷移金属触媒と、
を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリエステル化合物が、前記ポリエステル化合物における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、
下記式(1)で表される構成単位を30~55モル%、
下記式(2)で表される構成単位を15~40モル%、
下記式(3)で表される構成単位を20~40モル%、
含有する、樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
【請求項2】
前記ポリエステル化合物が、前記ポリエステル化合物における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、
前記式(1)で表される構成単位を40~50モル%、
前記式(2)で表される構成単位を20~35モル%、
前記式(3)で表される構成単位を25~35モル%、
含有し、
前記ポリエステル化合物の全構成単位100モル%に対して、前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記遷移金属触媒が、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物の質量を基準として、遷移金属量として0.5~10ppm含まれる、請求項3に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、特に、所定の構造を有するポリエステル化合物と遷移金属触媒とを少なくとも含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品、化粧品に代表される、酸素の影響を受けて変質或いは劣化しやすい各種物品の酸素酸化を防止し、長期に保存する目的で、これらを収納した包装体内の酸素除去を行う酸素吸収剤が使用されている。
【0003】
酸素吸収剤としては、酸素吸収能力、取り扱い易さ、安全性の点から、鉄粉を反応主剤とする酸素吸収剤が一般的に用いられている。しかし、この鉄系酸素吸収剤は、金属探知機に感応するために、異物検査に金属探知機を使用することが困難であった。また、鉄系酸素吸収剤を同封した包装体は、発火の恐れがある為に電子レンジによる加熱ができない。さらに、鉄粉の酸化反応には水分が必須であるため、被保存物が高水分系であるものでしか、酸素吸収の効果を発現することができなかった。
【0004】
また、熱可塑性樹脂に鉄系酸素吸収剤を配合した酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層を配した多層材料で容器を構成することにより、容器のガスバリア性の向上を図るとともに容器自体に酸素吸収機能を付与した包装容器の開発が行われている(特許文献1参照)。しかし、これも同様に、金属探知機に感応するため当該用途で使用できない、電子レンジによる加熱ができない、被保存物が高水分系のものしか効果を発現しない、といった課題を有している。さらに、不透明性の問題により内部視認性が不足するといった課題を有している。
【0005】
上記のような事情から、有機系の物質を反応主剤とする酸素吸収剤が望まれている。有機系の物質を反応主剤とする酸素吸収剤としては、アスコルビン酸を主剤とする酸素吸収剤が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
他方、樹脂と遷移金属触媒からなり、酸素捕捉特性を有する酸素吸収性樹脂組成物が知られている。例えば、酸化性有機成分としてポリアミド、特にキシリレン基含有ポリアミドと遷移金属触媒からなる樹脂組成物が知られている(特許文献3参照)。さらに、この特許文献3には、この樹脂組成物を成形して得られる酸素吸収剤、包装材料、包装用多層積層フィルムも例示されている。
【0007】
また、酸素吸収に水分を必要としない酸素吸収性樹脂組成物として、炭素-炭素不飽和結合を有する樹脂と遷移金属触媒からなる酸素吸収性樹脂組成物が知られている(特許文献4参照)。
【0008】
さらに、酸素を捕集する組成物として、置換されたシクロヘキセン官能基を含むポリマーまたは該シクロヘキセン環が結合した低分子量物質と遷移金属とからなる組成物が知られている(特許文献5参照)。
【0009】
出願人はテトラリン環を有する酸素吸収性樹脂組成物を提案している(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09-234832号公報
【特許文献2】特開昭51-136845号公報
【特許文献3】特開2001-252560号公報
【特許文献4】特開平05-115776号公報
【特許文献5】特表2003-521552号公報
【特許文献6】特許第6124114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の酸素吸収剤は、そもそも酸素吸収性能が低く、また、被保存物が高水分系のものしか効果を発現しない、比較的に高価である、といった課題を有している。
【0012】
また、特許文献3の樹脂組成物は、遷移金属触媒を含有させキシリレン基含有ポリアミド樹脂を酸化させることで酸素吸収機能を発現させるものであるため、酸素吸収後に樹脂の酸化劣化による高分子鎖の切断が発生し、包装容器そのものの強度が低下するという問題を有している。さらに、この樹脂組成物は、未だ酸素吸収性能が不十分であり、被保存物が高水分系のものしか効果を発現しない、といった課題を有している。
【0013】
さらに、特許文献4の酸素吸収性樹脂組成物は、上記と同様に樹脂の酸化にともなう高分子鎖の切断により臭気成分となる低分子量の有機化合物が生成し、酸素吸収後に臭気が発生するという問題がある。
【0014】
一方、特許文献5の組成物は、シクロヘキセン官能基を含む特殊な材料を用いる必要があり、また、この材料は比較的に臭気が発生しやすい、という課題が依然として存在する。
【0015】
特許文献6のテトラリン環を有する酸素吸収性樹脂組成物は酸素吸収後の臭気発生が無く、低湿度から高湿度までの広範な湿度条件下で優れた酸素吸収性能を有するが、酸素吸収後に著しく黄色化し、包装材料として使用した際に外観が悪化するという課題がある。
【0016】
本発明は、良好な酸素バリア性能を示し、酸素吸収後の色調が良好かつ強度・形状維持性に優れ、成形性も優れる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、樹脂組成物について鋭意検討を進めた結果、所定の構造を有するポリエステル化合物と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物により、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
ポリエステル化合物と、
遷移金属触媒と、
を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリエステル化合物が、前記ポリエステル化合物における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、
下記式(1)で表される構成単位を30~55モル%、
下記式(2)で表される構成単位を15~40モル%、
下記式(3)で表される構成単位を20~40モル%、
含有する、樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
[2]
前記ポリエステル化合物が、前記ポリエステル化合物における下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、
前記式(1)で表される構成単位を40~50モル%、
前記式(2)で表される構成単位を20~35モル%、
前記式(3)で表される構成単位を25~35モル%、
含有し、
前記ポリエステル化合物の全構成単位100モル%に対して、前記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記遷移金属触媒が、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属を含む、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記遷移金属触媒が、前記ポリエステル化合物の質量を基準として、遷移金属量として0.5~10ppm含まれる、[3]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な酸素バリア性能を示し、酸素吸収後の色調が良好かつ強度・形状維持性に優れ、成形性も優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0021】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル化合物と遷移金属触媒とを少なくとも含有し、前記ポリエステル化合物は、下記式(1)、式(2)及び式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、下記式(1)で表される構成単位を30~55モル%、下記式(2)で表される構成単位を15~40モル%、下記式(3)で表される構成単位を20~40モル%、含有する。
【化4】
【化5】
【化6】
(上記式(1)~(3)中、nは繰り返し単位の量を表し、それぞれ、前記式(1)で表される構成単位、前記式(2)で表される構成単位及び前記式(3)で表される構成単位の組成比に対応する。)
【0022】
本実施形態に係る樹脂組成物は、良好な酸素バリア性能を示し、酸素吸収後の色調が良好かつ強度・形状維持性に優れ、成形性も優れる。
本実施形態に係る樹脂組成物は、好適には、低湿度から高湿度までの広範な湿度条件下で優れた酸素吸収性能を有し、被保存物の水分の有無によらず酸素を吸収することができ、しかも酸素吸収後の臭気発生や黄色化による外観悪化が無いので、例えば、食品、調理食品、飲料、医薬品、健康食品等、対象物を問わず幅広い用途で使用することができる。また、好適には、この樹脂組成物を用いることにより、酸素吸収後の強度低下が極めて小さく、強度の経時的劣化が抑制された酸素吸収性フィルム等を実現することができる。さらに、鉄粉等を含有しない本発明の好適態様によれば、金属探知機に感応しない酸素吸収性樹脂組成物を実現することもできる。
【0023】
<ポリエステル化合物>
本実施形態の樹脂組成物に含まれるポリエステル化合物は、上記式(1)~(3)で表される構成単位を含有するものである。ここで「構成単位を含有する」とは、化合物中に当該構成単位を1以上有することを意味する。上記構成単位は上記構成単位と他の構成単位のランダムコポリマー、上記構成単位のブロックコポリマーのいずれであっても構わない。
【0024】
ポリエステル化合物は、上記式(1)、上記式(2)及び上記式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、上記式(1)で表される構成単位を30~55モル%、上記式(2)で表される構成単位を15~40モル%、上記式(3)で表される構成単位を20~40モル%含有する。前記範囲とすることで優れた酸素バリア性能を有し、黄色化による外観悪化を抑制することができる。上記同様の観点から、上記式(1)、上記式(2)及び上記式(3)で表される構成単位の合計100モル%に対して、上記式(1)で表される構成単位が40~50モル%、上記式(2)で表される構成単位が20~35モル%、前記式(3)で表される構成単位が25~35モル%であることが好ましい。また、ポリエステル化合物の全構成単位100モル%に対して、上記式(1)~(3)で表される構成単位の合計が95モル%以上であることがより好ましい。式(1)~(3)で表される構成単位の含有量は、重クロロホルム中、1H-NMRによって測定することができる。
【0025】
上記式(1)の構成単位が30モル%未満であるとポリエステル化合物の酸素バリア性が低下する。また、上記式(1)の構成単位が55モル%を超えるとポリエステル化合物の酸素吸収性能が低下する。
【0026】
上記式(2)の構成単位が15モル%未満であるとポリエステル化合物の酸素吸収性能が低下する。また、上記式(2)の構成単位が40モル%を超えると黄色化による外観悪化が促進される。
【0027】
上記式(3)の構成単位が20モル%未満であるとポリエステル化合物の酸素バリア性が低下する。また、上記式(3)の構成単位が40モル%を超えると低分子成分が増加し、成形時のブリードやモールドデポ発生の原因となる。
【0028】
本実施形態における上記式(1)~(3)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物の製造方法は特に制限されず、従来公知のポリエステルの製造方法をいずれも適用することができる。ポリエステルの製造方法としては、例えば、エステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、または溶液重合法等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さの点から、エステル交換法、または直接エステル化法が好適であり、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはその誘導体(I)と、2,6-テトラリンジカルボン酸またはその誘導体(II)と、イソフタル酸またはその誘導体(III)と、エチレングリコールまたはその誘導体(IV)とを重縮合することによって得ることができる。
【0029】
ポリエステル化合物の製造時に用いるエステル交換触媒、エステル化触媒、重縮合触媒等の各種触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来公知のものをいずれも用いることができ、これらは反応速度やポリエステル化合物の色調、安全性、熱安定性、耐候性、自身の溶出性などに応じて適宜選択される。例えば上記各種触媒としては、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、スズ等の金属の化合物(例えば、脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、アルコキシド)や金属マグネシウムなどが挙げられ、これらは単独で用いることもできるし、複数のものを組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本実施形態のポリエステル化合物の極限粘度(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値)は特に限定されないが、ポリエステル化合物の成形性の面から、0.5~1.5dL/gが好ましく、0.8~1.2dL/gがより好ましい。
【0031】
本実施形態におけるポリエステル樹脂は、その性能に影響しない程度であれば、上記式(1)~(3)で表される構成単位以外の任意の構成単位を含んでいてもよい。そのような任意の構成単位の具体例としては、以下に限定されないが、前述した単位以外のジカルボン酸又はその誘導体及びジオール又はその誘導体に由来する単位が挙げられる。ポリエステル樹脂における任意の構成単位の含有量としては、特に限定されないが、前記ポリエステル樹脂の全構成単位100モル%に対して、5モル%未満であることが好ましい。
【0032】
任意の構成単位としてのジオール又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール等の脂環式ジオール類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。上記ジオール又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
任意の構成単位としてのジカルボン酸又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸類、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ジカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
<遷移金属触媒>
本実施形態の樹脂組成物において使用される遷移金属触媒としては、上記ポリエステル化合物の酸化反応の触媒として機能し得るものであれば、公知のものから適宜選択して用いることができる。ポリエステル化合物の酸化反応による酸素吸収を介して、酸素バリア性を向上させることができる。特に限定するものではないが、遷移金属触媒に含まれる遷移金属は、周期表の4及び8~11族の金属であることが好ましい。少量で効果を発揮するためには、周期表の8~11族の金属であることがより好ましい。
【0035】
かかる遷移金属触媒の具体例としては、例えば、遷移金属の有機酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩、亜燐酸塩、次亜燐酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。ここで、遷移金属触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、コバルト、ニッケル、銅が好ましい。また、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸が挙げられるが、これらに限定されない。遷移金属触媒は、これらの遷移金属と有機酸とを組み合わせたものが好ましく、遷移金属がコバルト、ニッケル又は銅であり、有機酸が酢酸、ステアリン酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸又はナフテン酸である組み合わせがより好ましい。なお、遷移金属触媒は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
遷移金属触媒の配合量は、使用する前記ポリエステル化合物や遷移金属触媒の種類及び所望の性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。樹脂組成物の酸素吸収量及び外観の観点から、遷移金属(好ましくは周期表の8~11族の金属、より好ましくはコバルト、ニッケル又は銅)の量(2種以上の遷移金属を使用する場合にはそれらの合計量)は、前記ポリエステル化合物の質量を基準として、0.5~10ppmであることが好ましく、さらに好ましくは1~5ppm、最も好ましくは1.5~3ppmである。なお、ポリエステル化合物の製造に遷移金属触媒を使用し、これが樹脂組成物に残存している場合には、残存触媒に含まれる遷移金属の量も前記数値範囲に包含される。遷移金属の量及び種類は、誘導結合プラズマ質量分析法によって測定することができる。
【0037】
遷移金属の量が0.5ppm以上であると、酸素吸収性能がより向上する傾向にある。遷移金属の量が10ppm以下であると、黄色化がより抑制される傾向にある。
【0038】
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒は、公知の方法で混合する事が出来るが、好ましくは押出機により混練することにより、分散性の良い樹脂組成物として使用することができる。また、樹脂組成物には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、乾燥剤、顔料、染料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加しても良いが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合することができる。
【0039】
なお、本実施形態の樹脂組成物は、酸素吸収反応を促進させるために、必要に応じて、さらにラジカル発生剤や光開始剤を含有していてもよい。ラジカル発生剤の具体例としては、各種のN-ヒドロキシイミド化合物が挙げられ、例えば、N-ヒドロキシコハクイミド、N-ヒドロキシマレイミド、N,N’-ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシテトラクロロフタルイミド、N-ヒドロキシテトラブロモフタルイミド、N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、3-スルホニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メトキシカルボニル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-メチル-N-ヒドロキシフタルイミド、3-ヒドロキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ニトロ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-クロロ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-メトキシ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-ジメチルアミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、4-カルボキシ-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、4-メチル-N-ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、N-ヒドロキシヘット酸イミド、N-ヒドロキシハイミック酸イミド、N-ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N-ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、光開始剤の具体例としては、ベンゾフェノンとその誘導体、チアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、これらのラジカル発生剤及び光開始剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
また、本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の目的を阻害しない範囲で他の熱可塑性樹脂と押出機で混練することも出来る。混練に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、あるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムまたはブロック共重合体等のポリオレフィン、無水マレイン酸グラフトポリエチレンや無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、α-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル等あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0041】
<使用態様>
本実施形態の樹脂組成物の使用形態は、粉体状、顆粒状、ペレット状、フィルム状またはその他の小片状に加工し、通気性包装材料に充填し、小袋状の酸素吸収剤包装体として使用することができる。また、フィルム状に成形して、ラベル、カード、パッキング等の形態の酸素吸収体として用いることができる。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、単層の形で包装材料および包装容器として使用できるのは勿論のこと、樹脂組成物から成る少なくとも一層と、他の樹脂からなる少なくとも一層の積層物の形で多層包装材料および多層包装容器として使用できる。一般に、本実施形態の樹脂組成物は、容器等の外表面に露出しないように容器等の外表面よりも内側に設けるのが好ましく、また内容物との直接的な接触を避ける目的で、容器等の内表面より外側に設けるのが好ましい。このように、多層の少なくとも1つの中間層として、樹脂組成物を用いることが好ましい。
【実施例0043】
以下に実施例と比較例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0044】
<樹脂組成物の評価方法>
(1)酸素バリア性
酸素バリア性は、後述の方法によって得られたバイアルの酸素透過率により評価した。酸素透過率はMOCON社製OX-TRAN2/21を用いて、23℃、65%RHの測定条件で測定した。酸素透過率が前記装置の検出下限である0.0005cc/package/dayを下回るものを酸素バリア性良好と判断した。
【0045】
(2)容器の色調変化(ΔYI)
容器の色調変化(ΔYI)は、後述の方法によって得られたバイアルに10ccの蒸留水を充填してゴム栓及びアルミシールにより密栓したサンプルを測定用試料とし、日本電色工業株式会社製色差濁度測定器COH-300Aを使用して測定した初期の黄色度(YI)と40℃20%RHの保管条件で3ヵ月保管した後の黄色度(YI)の差から算出した。ΔYIが2を超えないものを色調変化が小さいと判断した。
【0046】
(3)成形性
成形性は、後述の方法によって得られたバイアルを1000ショット成形した後の金型を目視により確認した。モールドデポの付着がないものを合格とした。
【0047】
(4)形状・強度維持性
東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wを使用して実施例及び比較例の樹脂組成物を押出成形して得た200μm厚のフィルムを試料として、40℃100%RHの保管条件で3ヵ月保管した後のフィルムの状態を目視で確認した。形状及びフィルムの強度を維持しているものを合格とした。
【0048】
<バイアルの製造>
下記の条件により、ISO8362-1に従った形状の内容積10cc、全高45mm、外径24mmφ、肉厚1mmの、外側から層B/層A/層Bの3層構成のバイアルを得た。
2機の射出シリンダーを備えた射出ブロー一体型成形機(日精エー・エス・ビー機械社製、型式「ASB12N―10T」)を使用し、層Bを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Aを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Bを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Bを構成する樹脂を必要量射出して射出金型内キャビティーを満たすことにより、B/A/Bの3層構成の射出成形体を得た。得られた射出成形体を所定の温度まで冷却し、ブロー金型へ移行した後にブロー成形を行うことでバイアル(ボトル部)を製造した。
なお、層Bにはシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、製品名:「ZEONEX(登録商標)690R」)、層Aには実施例及び比較例の樹脂組成物を使用した。
【0049】
[ポリエステル化合物の製造例]
(製造例1)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積30Lのポリエステル樹脂製造装置に、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル8668.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル4895.5g、イソフタル酸ジメチル4594.6g、エチレングリコール8811.8g、シュウ酸チタンカリウム二水和物0.559g、酢酸亜鉛1.519gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液1039.6g、リン酸エチレングリコール溶液154.6gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル化合物(1)を得た。なお、表1に示す式(1)~(3)で表される構成単位のモル%は、対応するモノマーの仕込み量から計算した値である。
【0050】
(製造例2)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル6730.6g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル6841.7g、イソフタル酸ジメチル4586.5g、エチレングリコール8796.2gとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(2)を得た。
【0051】
(製造例3)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル4025.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル6138.6g、イソフタル酸ジメチル8001.6g、エチレングリコール9207.7gとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(3)を得た。
【0052】
(製造例4)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル3835.9g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル9748.0g、イソフタル酸ジメチル4574.4g、エチレングリコール8773.0gとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(4)を得た。
【0053】
(製造例5)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル11589.2g、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル5622.9g、イソフタル酸ジメチル1465.9g、エチレングリコール8835.2gとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(5)を得た。
【0054】
(製造例6)
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチルを不使用、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル18147.3g、エチレングリコール8166.1gとした以外は製造例1と同様にしてポリエステル化合物(6)を得た。
【0055】
(実施例1)
ポリエステル化合物(1)に対して、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で2.5ppmとなるようブレンドし、得られた樹脂組成物を、直径20mmのスクリューを2本有する2軸押出機を用いて、押出温度280℃、スクリュー回転数50rpmの条件にてストランド状で押出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状の樹脂組成物(1)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(2)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(2)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で20ppmとなるようブレンドした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(3)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(3)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(4)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(4)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(5)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(5)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(6)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
ポリエステル化合物(1)に変えてポリエステル化合物(6)を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(7)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0062】
(比較例5)
ポリエステル化合物(1)に変えてナイロンMXD6(三菱ガス化学株式会社製、商品名:MXナイロンS7007)を使用し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量換算で20ppmとなるようブレンドした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(8)を得た。得られた樹脂組成物について前述の方法で酸素バリア性、容器の色調変化、成形性、形状・強度維持性の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
実施例1~3から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、良好な酸素バリア性能を示し、酸素吸収後の色調が良好かつ強度・形状維持性に優れ、成形性も優れることが確認された。