(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177882
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】耐火被覆構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
E04B1/94 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090837
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】山脇 慎平
(72)【発明者】
【氏名】床次 辰樹
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001GA29
2E001HA32
2E001KA01
2E001LA06
(57)【要約】
【課題】壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができる耐火被覆構造およびその施工方法を提供する。
【解決手段】壁体12に近接して対向配置される鉄骨部材14の外側表面のうち、壁体12に対向する側に設けられる耐火塗料26と、壁体12に対向しない側から耐火塗料26が設けられる領域にかけて設けられ、鉄骨部材14の端部に沿って曲げられた曲がり部28Aを有する巻付け式の耐火被覆材28と、耐火塗料26が設けられる領域側の耐火被覆材28の端部側を鉄骨部材14に固定するクリップ32とを備え、このクリップ32は、耐火被覆材28の曲がり部28Aを挟み込むとともに、耐火被覆材28を貫通する留付け具34で鉄骨部材14に固定されるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体に近接して対向配置される鉄骨部材の外側表面のうち、壁体に対向する側に設けられる耐火塗料と、壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて設けられ、鉄骨部材の端部に沿って曲げられた曲がり部を有する巻付け式の耐火被覆材と、耐火塗料が設けられる領域側の耐火被覆材の端部側を鉄骨部材に固定するクリップとを備え、このクリップは、耐火被覆材の曲がり部を挟み込むとともに、耐火被覆材を貫通する留付け具で鉄骨部材に固定されることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火被覆構造を施工する方法であって、
鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向する側にあらかじめ耐火塗料が設けられた鉄骨部材を施工現場に搬入するステップと、施工現場において、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて耐火被覆材を施工するステップと、耐火被覆材の端部側をクリップで挟んだ後、このクリップを留付け具で鉄骨部材に固定するステップとを有することを特徴とする耐火被覆構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火被覆構造およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造建築物の建設において、外周梁の耐火被覆工事は、通常、外壁が取り付けられてから行われるのが一般的である。
図5(1)に示すように、外壁1を鉄骨梁2の耐火被覆の一部とした合成耐火被覆工法もあるが、耐火構造の認定を国から取得していない場合は、合成耐火被覆工法を適用することができない。その場合、
図5(2)に示すように、鉄骨梁2を耐火被覆材3で覆わなければならない。なお、
図5中の符号4は床、符号5は層間塞ぎである。
【0003】
外壁1と鉄骨梁2の下フランジ2Aとの間の隙間Lが小さく人の手が入らないような状態では、外壁1と鉄骨梁2の間の耐火被覆を施工することができない。仮にこの狭隘な空間に対して耐火被覆材3を施工できたとしても、鉄骨梁2が完全に耐火被覆材3で覆われているか否かを確認することは難しい。耐火被覆材3の一部にでも隙間や穴があり、鉄骨梁2が露出していると、火災時に鉄骨梁2の温度が上がって鋼材の強度が低下し、当該部材あるいは架構が崩壊するおそれがある。
【0004】
このため、外周の鉄骨梁と外壁の間の空間が狭隘で鉄骨梁を耐火被覆材で覆えないような場合、あるいは国から耐火構造の認定を得ておらず合成耐火被覆工法が適用できないような場合などに、外周の鉄骨梁の外壁側の耐火被覆を確実に行うことができる工法が求められていた。
【0005】
そこで、上記の問題を解決するために、本特許出願人は既に特許文献1に示すような耐火被覆構造を提案している。この耐火被覆構造は、
図6に示すように、外壁1に近接して対向配置される鉄骨梁2の外側表面のうち、外壁1に対向する側に設けられる耐火塗料6と、外壁1に対向しない側から耐火塗料6が設けられる領域にかけて設けられる巻付け式の耐火被覆材3とを備えたものである。耐火被覆材3の端部は、留付けピン7を鉄骨梁2の上下フランジに溶接することで鉄骨梁2に留付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2021-095875号(現時点で未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示すような耐火被覆構造では、外壁1と鉄骨梁2との間が狭隘な空間となることから、この狭隘な空間において、耐火被覆材3の下端部を鉄骨梁2の下フランジに留付けピン7で固定することは難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができる耐火被覆構造およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐火被覆構造は、壁体に近接して対向配置される鉄骨部材の外側表面のうち、壁体に対向する側に設けられる耐火塗料と、壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて設けられ、鉄骨部材の端部に沿って曲げられた曲がり部を有する巻付け式の耐火被覆材と、耐火塗料が設けられる領域側の耐火被覆材の端部側を鉄骨部材に固定するクリップとを備え、このクリップは、耐火被覆材の曲がり部を挟み込むとともに、耐火被覆材を貫通する留付け具で鉄骨部材に固定されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る耐火被覆方法は、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向する側にあらかじめ耐火塗料が設けられた鉄骨部材を施工現場に搬入するステップと、施工現場において、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて耐火被覆材を施工するステップと、耐火被覆材の端部側をクリップで挟んだ後、このクリップを留付け具で鉄骨部材に固定するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る耐火被覆構造によれば、壁体に近接して対向配置される鉄骨部材の外側表面のうち、壁体に対向する側に設けられる耐火塗料と、壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて設けられ、鉄骨部材の端部に沿って曲げられた曲がり部を有する巻付け式の耐火被覆材と、耐火塗料が設けられる領域側の耐火被覆材の端部側を鉄骨部材に固定するクリップとを備え、このクリップは、耐火被覆材の曲がり部を挟み込むとともに、耐火被覆材を貫通する留付け具で鉄骨部材に固定されるので、壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る耐火被覆方法によれば、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向する側にあらかじめ耐火塗料が設けられた鉄骨部材を施工現場に搬入するステップと、施工現場において、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて耐火被覆材を施工するステップと、耐火被覆材の端部側をクリップで挟んだ後、このクリップを留付け具で鉄骨部材に固定するステップとを有するので、壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法の実施の形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る金属製クリップの斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法の実施の形態を示す部分斜視断面図である。
【
図4】
図4は、1時間耐火実験における温度測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、従来の耐火被覆構造の一例を示す断面図であり、(1)は合成耐火被覆工法によるもの、(2)は鉄骨梁単体被覆によるものである。
【
図6】
図6は、特許文献1の耐火被覆構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、外周の鉄骨部材と外壁の間の空間が狭隘で鉄骨部材を耐火被覆で覆えないような場合、あるいは国から耐火構造の認定を得ておらず合成耐火被覆工法が適用できないような場合に、外周の鉄骨部材の外壁側の耐火被覆を確実に行い耐火性能を確保するためのものである。
【0015】
以下に、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る耐火被覆構造10は、室内Aと室外Bを区画する外壁12(壁体)に近接して配置される鉄骨梁14(鉄骨部材)に適用される。外壁12は、例えばプレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート板(ALC板)、押出成形セメント板(ECP)などで構成することができる。鉄骨梁14は、ウェブ16と上下フランジ18、20を有するH形鋼からなる。鉄骨梁14の上フランジ18の上面には、コンクリートやALCなどの床22が設けられる。床22と外壁12との間には層間塞ぎ24(層間区画材)が設けられる。
【0017】
この耐火被覆構造10は、鉄骨梁14の外側表面のうち、外壁12に対向する側に設けられる耐火塗料26と、外壁12に対向しない側から耐火塗料26が設置される領域にかけて設けられる耐火被覆材28とを備える。具体的には、耐火塗料26は、上フランジ18の小口から上フランジ18の下面、ウェブ16の左側面、下フランジ20の上面の一部の領域にかけて連続的に設けられる。一方、耐火被覆材28は、床22の下面から上フランジ18の小口、下フランジ20の小口、下面、外壁12側の小口、上面の一部の領域にかけて連続的に設けられる。このように、耐火被覆材28は、下フランジ20の小口周辺に沿って側断面視でU字状に曲げられた曲がり部28Aを有する。耐火塗料26と耐火被覆材28の下端部は所定の重ね代(例えば、数十mm程度)で重ね合わせている。耐火被覆材28の上端部側は、上フランジ18に溶接した留付けピン30によって留付けられる。耐火被覆材28の下端部側は、曲がり部28Aに挟み込んだ金属製クリップ32(クリップ)と、留付けピン34(留付け具)によって留付けられる。
【0018】
耐火塗料26は、加熱により発泡して増厚する発泡性のものであり、例えば、ポリリン酸アンモニウムを主成分とする耐火塗料を用いることができる。このような耐火塗料では、火災時に熱を受けると250℃前後で発泡を開始して、20~30倍に発泡して断熱層を形成し、鋼材の温度上昇を抑制する。耐火塗料26は、例えば、数ミリから十数ミリ単位の厚さで鋼材表面にあらかじめプレファブリケータなどの工場でプレコート(先行塗装)しておくことが好ましい。
【0019】
耐火被覆材28は、耐火塗料26の先行塗装範囲外の残りの範囲に設けられるものであり、例えば、耐熱ロックウールなどの無機系の耐火被覆材を用いることができる。耐火被覆材28としては、施工性を向上するために、シート状に成形され、被覆対象物に巻付け可能な巻付け式の耐火被覆材(以下、巻付け耐火被覆材という。)を用いることが好ましく、施工現場で施工することが望ましい。このような巻付け耐火被覆材としては、例えば、酸化けい素酸化カルシウム系鉱物繊維板被覆材を素材としたマキベエ(登録商標)がある。
【0020】
金属製クリップ32は、耐火被覆材28の下端部側を鉄骨梁14に固定するためのものであり、例えば、溶融亜鉛メッキ鋼板などで構成することができる。この金属製クリップ32は、
図2および
図3に示すように、帯状の金属製薄板36を略U字状に折り曲げ加工して構成され、上側平板部32Aと、下側平板部32Bと、これらの基部同士を上下に接続する接続板部32Cとを備える。上側平板部32Aと下側平板部32Bは略平行に配置され、接続板部32Cは上側平板部32Aと下側平板部32Bに対して略直角方向に延びており、これらによって略U字状の開口部38が形成される。上側平板部32Aの基部から先端までの長さは、下側平板部32Bのそれよりも長い。下側平板部32Bの先端側には、留付けピン34を通すための貫通孔40が設けられている。上側平板部32Aの先端には、斜め上方に延びる傾斜片32Dが設けられる。傾斜片32Dは、上側平板部32Aの先端側を上側に曲げて形成され、長さや傾斜角度は、耐火被覆材28の曲がり部28Aに対する装着の容易性等を確保するために適宜設定可能である。
【0021】
金属製クリップ32は、鉄骨梁14の長手方向に所定の間隔で複数配置することが好ましい。金属製クリップ32の寸法は、適宜設定可能であるが、鉄骨梁14の断面がH-400×200×8×13mm、耐火被覆材28の厚さが15~20mm程度の場合には、金属製薄板36の帯幅15mm程度、上側平板部32Aの長さ70mm程度、下側平板部32Bの長さ50mm程度、接続板部32Cの長さ40mm程度、傾斜片32Dの長さ10mm程度、傾斜角度(上側平板部32Aの上面の法線方向に対する傾斜片32Dの傾斜面の傾斜角度)45°程度のものを想定している。また、貫通孔40は、下側平板部32Bの先端から10mm程度の位置に設けた直径4mm程度の孔を想定している。なお、金属製クリップ32の寸法は、上記に限らず、耐火被覆材28の曲がり部28Aおよび下フランジ20を一体に挟み込み可能で、かつ、下フランジ20の下面に対して溶接ピンやビスなどの留付け具で固定可能なものであればいかなるものでもよい。
【0022】
この金属製クリップ32で耐火被覆材28の曲がり部28Aを下フランジ20に固定する場合には、まず、下フランジ20の小口に沿って耐火被覆材28を配置し、曲がり部28Aを形成する。続いて、金属製クリップ32の上側平板部32Aを上側に、下側平板部32Bを下側にして、曲がり部28Aを上下から挟むように配置した後、傾斜片32Dを耐火被覆材28の表面に接触させながらウェブ16に向けて奥側に押し進める。こうすることで、金属製クリップ32の開口部38が耐火被覆材28の曲がり部28Aに嵌り込んで、曲がり部28Aおよび下フランジ20を一体に挟み込む。この状態で、金属製クリップ32の下側平板部32Bの貫通孔40にワッシャー42を配置し、ワッシャー42および貫通孔40に留付けピン34を通し、下フランジ20の下面に固定する。留付けピン34には、例えば溶接ピンやビスなどの留付け具を用いることができる。また、留付けピン34とワッシャー42が一体になっているタイプを用いてもよい。こうすることで、外壁12側の耐火被覆材28を下フランジ20に容易かつ強固に固定することができる。
【0023】
本実施の形態によれば、耐火被覆材28の曲がり部28Aを金属製クリップ32で挟み込んだ後、下側平板部32Bの貫通孔40に留付けピン34を差し込んで下フランジ20の下面に固定すればよいので、狭隘な空間の下側からの作業で実行することができる。このため、耐火被覆材28の下端部側の固定に要する作業性が向上し、耐火被覆材28を効率よく施工することができる。本実施の形態は、外壁12と鉄骨梁14の間の空間が狭隘な場合に特に有効である。
【0024】
上記の耐火被覆構造10を施工する場合には、まず、予めプレファブリケータなどの工場で、外壁12側となる鉄骨梁14の表面に耐火塗料26をプレコートしておく。その後、この鉄骨梁14を建物の施工現場に搬入し、外壁12の近傍の施工位置に取り付ける。次に、鉄骨梁14の表面の残りの部分に対して、耐火被覆材28を取り付ける。耐火被覆材28の曲がり部28Aの固定には、上記の金属製クリップ32を用いる。このようにすれば、プレコートした耐火塗料26によって鉄骨梁14の外壁12側の耐火被覆を確実に行うことができる。また、鉄骨梁14の外壁12との間が狭隘な空間となる場合でも、耐火被覆材28を鉄骨梁14に容易に固定することができる。
【0025】
本実施の形態によれば、外周の鉄骨梁14と外壁12との間の空間が狭隘であっても、外周の鉄骨梁14の外壁12側の耐火被覆を確実に行い耐火性能を確保することができる。また、国から耐火構造の認定を得ておらず合成耐火被覆工法が適用できないような場合であっても、外周の鉄骨梁14の外壁12側の耐火被覆を確実に行い耐火性能を確保することができる。さらに、工場で耐火塗料26を鉄骨梁14にあらかじめ塗装することによって、施工現場での耐火被覆工事を省力化することができる。
【0026】
なお、上記の実施の形態においては、鉄骨梁14がH形鋼である場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、鉄骨梁に用い得る鉄骨部材であればいかなるものでもよい。例えば他の断面形状の鋼材で構成されていてもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。また、上記の実施の形態においては、鉄骨部材が鉄骨梁14である場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、鉄骨柱であってもよい。鉄骨柱の断面形状は鉄骨柱に用い得る断面形状であればいかなるものでもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
(金属製クリップの有効性)
次に、金属製クリップの有効性を確認するために行った耐火実験について説明する。
耐火実験の試験体には、
図1~
図3に示すような形状の試験体を用いた。鉄骨梁14は、H-400×200×8×13mmの断面のものを用い、耐火被覆材28は厚さ20mmの酸化けい素酸化カルシウム系鉱物繊維板被覆材、耐火塗料26は厚さ1.5mmのポリリン酸アンモニウムを主成分とする耐火塗料を用いた。また、金属製クリップ32は、帯幅15mm、上側平板部32Aの長さ70mm、下側平板部32Bの長さ50mm、接続板部32Cの長さ40mm、傾斜片32Dの長さ10mm、傾斜角度45°のものを用い、貫通孔40は、下側平板部32Bの先端から10mmの位置に設けた直径4mm程度の孔とした。
【0028】
この耐火実験による鋼材温度の測定結果を
図4に示す。加熱時間は1時間としている。図中、C1は上フランジ下面(耐火塗料側)、C2は上フランジ下面(耐火被覆材側)、C3はウェブ(耐火塗料側)、C4はウェブ(耐火被覆材側)、C5は下フランジ下面(下側平板部32Bの直上)、C6は下フランジ下面(ウェブ直下)、C7は下フランジ下面(C6を挟んでC5とは反対側)の測定結果である。この図に示すように、鋼材温度の測定値は、許容温度として設定した550℃以下となり、試験体は1時間耐火の性能を満足することがわかる。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る耐火被覆構造によれば、壁体に近接して対向配置される鉄骨部材の外側表面のうち、壁体に対向する側に設けられる耐火塗料と、壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて設けられ、鉄骨部材の端部に沿って曲げられた曲がり部を有する巻付け式の耐火被覆材と、耐火塗料が設けられる領域側の耐火被覆材の端部側を鉄骨部材に固定するクリップとを備え、このクリップは、耐火被覆材の曲がり部を挟み込むとともに、耐火被覆材を貫通する留付け具で鉄骨部材に固定されるので、壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができる。
【0030】
また、本発明に係る耐火被覆方法によれば、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向する側にあらかじめ耐火塗料が設けられた鉄骨部材を施工現場に搬入するステップと、施工現場において、鉄骨部材の外側表面のうち壁体に対向しない側から耐火塗料が設けられる領域にかけて耐火被覆材を施工するステップと、耐火被覆材の端部側をクリップで挟んだ後、このクリップを留付け具で鉄骨部材に固定するステップとを有するので、壁体と鉄骨部材との間が狭隘な空間となる場合でも、巻付け式の耐火被覆材を鉄骨部材に容易に固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法は、外周の鉄骨梁と外壁の間の空間が狭隘で鉄骨梁を耐火被覆材で覆えないような場合、あるいは国から耐火構造の認定を得ておらず合成耐火被覆工法が適用できないような場合に有用であり、特に、耐火被覆材を鉄骨梁に容易に固定するのに適している。
【符号の説明】
【0032】
10 耐火被覆構造
12 外壁(壁体)
14 鉄骨梁(鉄骨部材)
16 ウェブ
18 上フランジ
20 下フランジ
22 床
24 層間塞ぎ
26 耐火塗料
28 耐火被覆材
30 留付けピン
32 金属製クリップ(クリップ)
32A 上側平板部
32B 下側平板部
32C 接続板部
32D 傾斜片
34 留付けピン(留付け具)
36 薄板
38 開口部
40 貫通孔
42 ワッシャー
A 室内
B 室外