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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177901
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】炭素鋼スクラップの再利用方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20231207BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20231207BHJP
   B22D 7/00 20060101ALI20231207BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231207BHJP
   C22C 38/46 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C22B7/00 F
C21C7/00 Z
C21C7/00 R
B22D7/00 Z
C22C38/00 301Z
C22C38/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090864
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】上土井 一道
(72)【発明者】
【氏名】中山 準平
【テーマコード(参考)】
4K001
4K013
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA23
4K001AA24
4K001AA27
4K001AA28
4K001AA29
4K001BA22
4K001DA05
4K001GA13
4K001GA17
4K013CD00
4K013FA02
(57)【要約】
【課題】原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの具体的な再利用方法を提供する。
【解決手段】原子力施設で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法であって、溶融装置を用いて前記炭素鋼スクラップを溶融すること、前記炭素鋼スクラップの溶融物からサンプルを採取すること、前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定すること、および前記炭素鋼スクラップの溶融物をインゴットに鋳造すること、を含み、測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には前記インゴットを低温強度に優れた特殊鋼に再利用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力施設で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法であって、
溶融装置を用いて前記炭素鋼スクラップを溶融すること、
前記炭素鋼スクラップの溶融物からサンプルを採取すること、
前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定すること、および
前記炭素鋼スクラップの溶融物をインゴットに鋳造すること、を含み、
測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には前記インゴットを低温強度に優れた特殊鋼に再利用する、炭素鋼スクラップの再利用方法。
【請求項2】
前記溶融装置が、前記原子力施設内に設けられている、請求項1に記載の炭素鋼スクラップの再利用方法。
【請求項3】
前記特殊鋼が放射性廃棄物保管容器用である、請求項1に記載の炭素鋼スクラップの再利用方法。
【請求項4】
前記インゴットを再利用する前に、測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には、前記インゴットを前記原子力施設内の所定の区域に保管し、それ以外の場合には前記原子力施設内の他の区域に保管する、請求項1に記載の炭素鋼スクラップの再利用方法。
【請求項5】
前記サンプルを2点以上採取し、前記サンプルのうち1点は銅含有量およびスズ含有量の測定に使用し、前記サンプルのうち他の1点は、銅およびスズ以外の元素の含有量の測定に使用する、請求項1に記載の炭素鋼スクラップの再利用方法。
【請求項6】
前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定時に、前記サンプルの放射能濃度も測定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素鋼スクラップの再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設内で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設内における原子力設備の廃止措置、例えば原子力発電所における原子炉の廃炉においては、設備の解体により大量の金属廃棄物すなわちスクラップが発生する。原子力施設内で発生したスクラップを放射性廃棄物として処分する場合、輸送や埋設に費用が必要となり、さらに環境への負荷も発生する。
【0003】
そのため、スクラップのうち、放射能濃度が国の定める基準値を超えるものについては放射性廃棄物として処分せざるを得ないものの、放射能濃度が国の定める基準値以下であるものについては、有価物である鋼材等の原料として再利用することが望ましい。
【0004】
原子力施設内で発生するスクラップの材質および化学成分は、原子力施設以外で発生する一般的なスクラップと同様である。そのため、原子力施設内で発生するスクラップのうち放射能濃度が国の定める基準値以下であるものは、切断または破砕によって取り扱いやすい大きさに分割した上で、化学成分によって分別し、金属加工工場において電気炉を用いて溶解、精錬し、さらに鋳造、加工することで、所定の規格を満たす鋼材等の製品、すなわち有価物に再利用することができる。
【0005】
原子力施設内で発生するスクラップの大部分を占めるのは、原子力施設の更新工事や廃止措置等で発生する一般構造用圧延鋼材のような炭素鋼である。このような炭素鋼のスクラップ(以下「炭素鋼スクラップ」ともいう。)は、一般的には同じ炭素鋼製品である一般構造用圧延鋼材、具体的には鉄筋または鉄骨の原料として再利用されることが多い。
【0006】
その理由は、炭素鋼の化学成分の規格では、銅(Cu)、スズ(Sn)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ヒ素(As)、タングステン(W)のような元素については規定されていないが、特殊鋼の規格ではこれらの元素は不純物元素として含有量の上限が規定されていることが多いからである。また、これらの元素は炭素鋼スクラップに含まれている可能性があり、溶解して精錬する際に除去することが困難であるため、炭素鋼スクラップを特殊鋼の原料に利用すると、これらの不純物元素の含有量が規定値を超える可能性があるからである。混入した不純物元素の含有量が特殊鋼の規定値を超えると、鋼全体が不適合品となり、多大な損失が発生する。
【0007】
しかし、原子力施設の立地によっては原子力施設の近傍に金属加工工場や鉄筋、鉄骨等の炭素鋼製品の需要家が存在しないことも多く、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの炭素鋼の原料としての需要は高くない。
【0008】
そのため、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを特殊鋼製品、特に原子力施設で使用される特殊鋼製品に利用することができれば、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの需要を高め、再利用を促進することができると考えられる。
【0009】
原子力施設で使用される特殊鋼製品の一例としては、放射性廃棄物保管容器がある。放射性廃棄物保管容器には保管時のみならず輸送時の健全性も求められ、厳しい要求として-20℃の低温領域における健全性等の性能が要求される。そのため、放射性廃棄物保管容器には、これらの性能を確保できる特殊鋼が用いられており、化学成分等の規定や品質について厳しい水準が要求されており、炭素鋼スクラップを再利用することが困難であった。
【0010】
そこで、例えば銅(Cu)やスズ(Sn)のようにこれまで不純物とされ、含有することが前提とされていなかった元素について含有を許容する、化学成分の規定が比較的緩やかな特殊鋼が開発されている。例えば特許文献1では、放射性物質の遮蔽体等として利用可能な溶接構造用大型鋳鋼品の化学成分について、Cu:0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn:0.03質量%以下と規定されている。
【0011】
また、近年、放射性廃棄物の保管容器に要求される性能として代表的な、-20℃の低温領域における健全性を確保することが可能な特殊合金の製造方法を規定した公的規格も制定されている(非特許文献1)。この規格では、特殊合金の化学成分について、銅:0.50%以下、スズ:0.03%以下と規定されている。
【0012】
特許文献1および非特許文献1に記載の化学成分を有する特殊鋼、特殊合金(以下「特殊鋼」と総称する。)は、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを利用して製造することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-178145号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】一般社団法人日本鋳鍛鋼会規格JCSS C-1「低温溶接構造用鋳鋼品」、2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、原子力施設で発生する炭素鋼スクラップを特殊鋼や原子力施設で使用される特殊鋼製品に再利用するための環境は整備されつつある。しかし、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを実際に再利用する具体的な手段については上記の特許文献1にも非特許文献1にも開示されていない。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの具体的な再利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0018】
本発明の一局面に係る炭素鋼スクラップの再利用方法は、原子力施設で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法であって、
溶融装置を用いて前記炭素鋼スクラップを溶融すること、
前記炭素鋼スクラップの溶融物からサンプルを採取すること、
前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定すること、および
前記炭素鋼スクラップの溶融物をインゴットに鋳造すること、を含み、
測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には前記インゴットを低温強度に優れた特殊鋼に再利用する方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの具体的な再利用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る炭素鋼スクラップの再利用方法について説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る炭素鋼スクラップの再利用方法は、原子力施設で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法であって、溶融装置を用いて炭素鋼スクラップを溶融すること、炭素鋼スクラップの溶融物からサンプルを採取すること、サンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定すること、および炭素鋼スクラップの溶融物をインゴットに鋳造すること、を含み、測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合にはインゴットを低温強度に優れた特殊鋼に再利用する方法である。この方法によれば、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを再利用することができ、有価物である特殊鋼を得ることができるため、産業上非常に有用である。
【0022】
〈炭素鋼スクラップ〉
本実施形態に係る炭素鋼スクラップは、原子力施設内において、原子力設備の廃止措置や改修によって生じたスクラップであって炭素鋼からなるものである。本実施形態に係る原子力施設は、例えば、ウラン、トリウム等の核燃料物質の製錬施設および加工施設、試験研究用または発電用の原子炉施設、使用済燃料再処理施設等である。また、本実施形態に係る炭素鋼スクラップは放射能濃度が国の定める基準値以下であって放射性廃棄物に該当しないものである。このような炭素鋼スクラップは、例えば原子力施設内において元々放射能濃度が低かったものや除染によって放射能濃度が低くなったものである。除染とは、炭素鋼スクラップの表面に付着した微量の放射性物質を除去することであり、砥粒や水を炭素鋼スクラップに吹き付けて実施することができる。
【0023】
本実施形態では、炭素鋼とは、炭素含有量が2.0質量%以下の鉄合金であって、合金元素の含有量が少なく、特殊鋼に該当しないものをいい、特殊鋼とは、炭素(C)以外の1種類以上の合金元素を所定量以上含有し、残部が鉄(Fe)および不可避的不純物である鉄合金をいう。合金元素は、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ニオブ(Nb)等が使用可能である。
【0024】
本実施形態では、炭素鋼スクラップは、銅(Cu)含有量およびスズ(Sn)含有量によって区分される。銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である炭素鋼スクラップは低温強度に優れた特殊鋼用の原料として再利用される。それ以外の炭素鋼スクラップは、例えば構造用炭素鋼用の原料として再利用することができる。
【0025】
低温強度に優れた特殊鋼は、例えば上述の一般社団法人日本鋳鍛鋼会規格JCSS C-1「低温溶接構造用鋳鋼品」によって規定される、-20℃の低温領域における健全性を確保できる特殊鋼である。この特殊鋼は、放射性廃棄物の保管容器、放射性物質の輸送容器、または放射線の遮へい体等として使用することが好ましい。特に必要数量の多さゆえに、放射性廃棄物の保管容器として使用することがより好ましい。-20℃の低温領域における健全性とは、降伏点または0.2%耐力、引張強さ、伸びおよびシャルピー吸収エネルギーが基準値を超えることをいう。
【0026】
具体的に、シャルピー吸収エネルギーについては、上述のJCSS C-1では「低温溶接構造用鋳鋼品」であるJCWL410、JCWL440、JCWL500のそれぞれについて、サンプル3個の平均シャルピー吸収エネルギーがそれぞれ18J以上、23J以上、27J以上、かつ個別のシャルピー吸収エネルギーがそれぞれ13J以上、16J以上、19J以上であり、かつ3個のサンプルのうち2個が前述の平均シャルピーエネルギーを超えることが規定されている。
【0027】
上述のJCSS C-1で規定される鋳鋼品の化学組成は、C:0.22質量%以下、Si:0.80質量%以下、Mn:1.50質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.015質量%以下、Cu:0.50質量%以下、Ni:2.50質量%以下、Cr:1.00質量%以下、Mo:0.30質量%以下、V:0.20質量%以下、Sn:0.03質量%以下、C炭素当量:0.50質量%以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物である。C炭素当量(Ceq(質量%))は、下記式(1)で算出される値である。式(1)中の[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量を示す。
Ceq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 …(1)
【0028】
構造用炭素鋼とは、例えば鉄筋、鉄骨等の建築、建設資材に用いられる炭素鋼をいい、より具体的には、JIS G3101:2020で規定される一般構造用圧延鋼材に用いられる炭素鋼である。
【0029】
〈炭素鋼スクラップの再利用方法〉
本実施形態に係るスクラップの再利用方法では、まず溶融装置を用いて原子力施設で発生した炭素鋼スクラップを溶融する。スクラップ毎に化学成分が異なっていても、それらを混合して溶融することで化学成分を均一にすることができる。後述するように溶融後のスクラップから採取したサンプルを用いることによって、均一となった炭素鋼スクラップの化学成分を測定することができる。溶融装置は、一般的な電気炉を使用することができ、高周波誘導炉等も使用することができる。電気炉等、溶融装置の大きさや容量は、溶融させる炭素鋼スクラップの量に応じて定めることができる。
【0030】
溶融装置は、炭素鋼スクラップが発生した原子力施設に設けたものを使用してもよく、また炭素鋼スクラップが発生した原子力施設が溶融装置を有しない場合には他の原子力施設に設けたものを使用してもよい。ただし、輸送の手間の簡略化や、輸送時における作業員の負荷等の人的負荷の低減のため、炭素鋼スクラップが発生した原子力施設に設けた溶融装置を使用することが好ましい。
【0031】
次に、溶融した炭素鋼スクラップ(以下「溶融スクラップ」ともいう。)からサンプルを採取し、採取したサンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定する。銅含有量およびスズ含有量の測定は、溶融装置を設けた原子力施設、他の原子力施設および原子力施設外のいずれにおいても行うことができる。しかし、炭素鋼スクラップを放射性廃棄物として原子力施設外へ輸送する手間を省き、かつ迅速に測定を行うため溶融装置を設けた原子力施設で行うことが好ましい。
【0032】
銅含有量およびスズ含有量の測定は、ICP発光分光分析法や原子吸光分析法等、一般的な元素分析方法により行うことができる。このとき、銅およびスズ以外の元素の含有量を測定してもよい。
【0033】
サンプルを採取した溶融スクラップは、インゴットに鋳造する。溶融スクラップの鋳造は、溶融装置を設けた原子力施設で行う。インゴットの大きさおよび形状は、インゴットの用途に応じて定めればよい。また、溶融スクラップの鋳造は、サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定と同時に行ってもよいし、サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定の前または後に行ってもよい。
【0034】
次に、鋳造されたインゴットを、当該インゴットに用いた溶融スクラップのサンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定結果に応じて用途を区分する。測定したサンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下であれば、当該インゴットは低温強度に優れた特殊鋼に再利用する。それ以外の場合には、当該インゴットは例えば構造用炭素鋼に再利用することができる。
【0035】
具体的には、測定したサンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下であれば、当該インゴットを低温強度に優れた特殊鋼の原料として使用する。製造された特殊鋼は、原子力施設で使用される特殊鋼製品用の素材、例えば放射性廃棄物の保管容器や、放射性物質の輸送容器、放射線の遮へい体に用いられる素材として利用することが好ましい。このインゴットを用いた特殊鋼の製造は、溶融装置を設けた原子力施設で行ってもよいが、専用の設備を有する原子力施設外の金属加工業者または特殊鋼製造業者で行うことが好ましい。
【0036】
また、それ以外の場合、すなわち測定したサンプルの銅含有量が0.50質量%を超えた場合、またはスズ含有量が0.03質量%を超えた場合には、当該インゴットを例えば構造用炭素鋼の原料として使用することができる。製造された構造用炭素鋼は、例えば鉄筋、鉄骨等の建築、建設資材に使用することができ、原子力施設で使用してもよく、原子力施設外で使用してもよい。このインゴットを用いた構造用炭素鋼の製造は、溶融装置を設けた原子力施設で行ってもよいが、専用の設備を有する原子力施設外の金属加工業者で行うことが好ましい。
【0037】
本実施形態においてサンプルは、2点以上採取してもよい。この場合、少なくとも1点は銅含有量およびスズ含有量の測定に用い、残りの少なくとも1点は、銅およびスズ以外の元素の含有量の測定に利用することができる。測定の対象とする銅およびスズ以外の元素は、例えばマンガン、リン、硫黄、ニオブ、クロム、モリブデン、バナジウム等が挙げられる。これらの元素の含有量の測定は、再利用時に添加する元素量を決定することを目的として行ってもよい。銅およびスズ以外の元素の含有量の測定は、溶融装置を設けた原子力施設で行ってもよく、原子力施設外の金属加工業者で行ってもよい。
【0038】
原子力施設外の金属加工業者では所定の化学成分を有する特殊鋼を製造するために、上述のインゴットの区分を目的とした銅含有量およびスズ含有量の測定に比べて、より詳細なインゴットの化学成分の測定を行うことができる。あらかじめ採取したサンプルをインゴットとともに当該業者に出荷し、当該業者における化学成分の測定に当該サンプルを使用することで、当該業者において改めてサンプルを採取する必要がなくなり、効率よく炭素鋼スクラップを再利用することができる。
【0039】
本実施形態において、インゴットを特殊鋼または構造用炭素鋼に再利用する前に、原子力施設内に保管してもよい。具体的には、測定したサンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には、当該インゴットは、原子力施設内の所定の区域に保管し、それ以外の場合には、原子力施設内の他の区域に保管する。インゴットを保管する区域は、原子力施設内の管理区域以外の区域とすることが好ましい。保管されたインゴットは、再利用の機会が生じた際に上述のように再利用される。
【0040】
保管する原子力施設は、炭素鋼スクラップが発生した原子力施設と溶融装置を設けた原子力施設とが同一である場合には当該原子力施設とする。炭素鋼スクラップが発生した原子力施設と溶融装置を設けた原子力施設とが異なる場合には、いずれの原子力施設でもよいが、輸送の手間の簡略化や、輸送時における作業員の負荷等の人的負荷の低減のため、溶融装置を設けた原子力施設が好ましい。
【0041】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る炭素鋼スクラップの再利用方法について説明する。第1の実施形態では、放射能濃度が国の定める基準値以下であって放射性廃棄物に該当しない炭素鋼スクラップを対象としていたのに対して、本実施形態では放射能濃度が国の定める基準値を超え、放射性廃棄物に該当するものも対象とする点で、本実施形態と第1の実施形態とは異なる。本実施形態は、炭素鋼スクラップの溶融、サンプルの採取、溶融物のインゴットへの鋳造、インゴットの鋳造、インゴットの保管については、第1の実施形態と同様であるため、以下では、本実施形態に係る炭素鋼スクラップの再利用方法のうち、第1の実施形態と異なる点について主に説明する。
【0042】
本実施形態では、放射性廃棄物に分類される炭素鋼スクラップも対象とするため、原子力施設内において生じた炭素鋼スクラップであればよく、放射能濃度や除染の有無によらず対象とされる。ただし、炭素鋼スクラップは、溶融する前に砥粒または水を吹き付けて除染することが好ましい。
【0043】
本実施形態でも、第1の実施形態と同様に炭素鋼スクラップを溶融する溶融装置は、炭素鋼スクラップが発生した原子力施設に設けたものを使用してもよく、他の原子力施設に設けたものを使用してもよい。ただし、本実施形態では、他の原子力施設に設けた溶融装置を使用する場合、炭素鋼スクラップを発生した原子力施設から他の原子力施設に輸送する際に、所定の容器に収容して輸送する。これは、溶融する前には炭素鋼スクラップの放射能濃度が不明であり、炭素鋼スクラップを原子力施設外に搬出する場合には放射性廃棄物として取り扱う必要があるためである。
【0044】
本実施形態では、溶融スクラップから採取したサンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定時に、当該サンプルの放射能濃度も測定する。「サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定時に、サンプルの放射能濃度も測定する」とは、サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定と同時に、サンプルの放射能濃度の測定を行うことをいう。サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定および放射能濃度の測定は、同一作業場において行われることが好ましく、同一作業者によって行われることがより好ましい。
【0045】
測定の対象とする放射性物質は、例えばCo-60、Mn-54、Sr-90、Cs-134、Cs-137、Eu-152、Eu-154、H-3等が挙げられる。これらのうち、Co―60、Mn―54またはCs-137のようにガンマ線の測定が容易な放射性物質の放射能濃度は、ゲルマニウム半導体検出器で測定できる。一方、ガンマ線の測定が困難な放射性物質の放射能濃度は、サンプルの一部を試薬に溶解して液体中のベータ線を液体シンチレーション検出器で測定すること、またはサンプルの一部を溶解した液体を乾固してアルファ線をシリコン表面障壁型半導体検出器で測定することができる。また、ガンマ線の測定が困難な放射性物質の放射能濃度は、上述のガンマ線の測定が容易な放射性物質のガンマ線の測定結果に基づき推定することもできる。
【0046】
このように測定等により評価されたサンプルの放射能濃度が国の定める基準を満たさない場合には、溶融スクラップを鋳造したインゴットは放射性廃棄物に区分され、所定の区域に所定の保管方法で保管される。
【0047】
国の定める基準とは、上述のように評価された各放射性物質の放射能濃度(D)の国の定める基準値(C)に対する比の値(D/C)の合計が1以下であることである。より具体的には、測定された放射性物質jの放射能濃度をDj、放射性物質jの国の定める放射能濃度の基準値をCjとした場合、下記(1)式を満たすことである。
Σ(Dj/Cj)≦1 …(1)
【0048】
測定等により評価されたサンプルの放射能濃度が上記(1)式を満たさない場合、上記インゴットは放射性廃棄物に区分される。国の定める放射能濃度の基準値Cは、例えばCo―60およびMn-54ではいずれも0.1Bq/gである。
【0049】
上述のように炭素鋼スクラップを除染した場合には、炭素鋼スクラップに付着した放射性物質を低減でき、放射性廃棄物に区分されるインゴットの物量を低減することができる。そのため、溶融装置で溶融する前に炭素鋼スクラップを除染することが好ましい。
【0050】
測定したサンプルの放射能濃度が国の定める基準値以下である場合には、第1の実施形態と同様に、測定したサンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下であれば、インゴットは低温強度に優れた特殊鋼の原料として再利用される。また、測定したサンプルの銅含有量およびスズ含有量がそれ以外の場合には、インゴットは例えば構造用炭素鋼の原料として再利用することができる。
【0051】
[開示した技術のまとめ]
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
【0052】
上述したように、本発明の一局面に係る炭素鋼スクラップの再利用方法は、原子力施設で発生した炭素鋼スクラップの再利用方法であって、溶融装置を用いて前記炭素鋼スクラップを溶融すること、前記炭素鋼スクラップの溶融物からサンプルを採取すること、前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量を測定すること、および前記炭素鋼スクラップの溶融物をインゴットに鋳造すること、を含み、測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には前記インゴットを低温強度に優れた特殊鋼に再利用する方法である。
【0053】
前述のように、炭素鋼では銅やスズのように特殊鋼の規格で不純物とされる元素の含有量が規定されていない。また、特殊鋼では化学成分等の規定や品質について厳しい水準が要求されており、従来炭素鋼スクラップを特殊鋼に再利用することは困難であった。しかし、この構成によれば、金属加工業者または特殊鋼製造業者に銅およびスズの含有量が明らかな炭素鋼スクラップを提供することができる。そのため、金属加工業者または特殊鋼製造業者が炭素鋼スクラップを特殊鋼の原料として利用することを考慮することが可能となり、炭素鋼スクラップの再利用が促進される。
【0054】
また、銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である炭素鋼スクラップであれば、当該業者において当該炭素鋼スクラップを原料として特殊鋼を製造する際に銅およびスズの過剰な混入を抑制することができ、所定の組成の特殊鋼を製造できるため、効率よく炭素鋼スクラップを再利用することができる。
【0055】
さらに、炭素鋼スクラップをインゴットとすることにより、回収された状態のままの炭素鋼スクラップに比べて容積を小さくすることができ、炭素鋼スクラップの輸送や管理が容易となる。そのため、上記構成によれば、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを再利用することができる。また、原子力施設内での炭素鋼スクラップの滞留も抑制することができる。
【0056】
上記構成の炭素鋼スクラップの再利用方法では、前記溶融装置が、前記原子力施設内に設けられていてもよい。
【0057】
この構成によれば、炭素鋼スクラップが発生した原子力施設で当該炭素鋼スクラップを溶融することができるため、炭素鋼スクラップの輸送の手間を簡略化することができる。また、炭素鋼スクラップの輸送時における作業員の負荷等の人的負荷を低減することができる。
【0058】
上記構成の炭素鋼スクラップの再利用方法では、前記特殊鋼が放射性廃棄物保管容器用であってもよい。
【0059】
この構成によれば、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップを原子力施設内で使用される特殊鋼製品とすることができるため、原子力施設内で発生する炭素鋼スクラップの再利用を促進することができる。
【0060】
上記構成の炭素鋼スクラップの再利用方法では、前記インゴットを再利用する前に、測定した前記サンプルの銅含有量が0.50質量%以下かつスズ含有量が0.03質量%以下である場合には、前記インゴットを前記原子力施設内の所定の区域に保管し、それ以外の場合には前記原子力施設内の他の区域に保管してもよい。
【0061】
この構成によれば、炭素鋼スクラップをインゴットとすることにより回収された状態のままの炭素鋼スクラップに比べて容積を減らすことができるため、回収された状態のままで保管する場合に比べて手狭な原子力施設のスペースを有効に利用することができる。
【0062】
上記構成の炭素鋼スクラップの再利用方法では、前記サンプルを2点以上採取し、前記サンプルのうち1点は銅含有量およびスズ含有量の測定に使用し、前記サンプルのうち他の1点は、銅およびスズ以外の元素の含有量の測定に使用してもよい。
【0063】
この構成によれば、炭素鋼スクラップを提供した金属加工業者または特殊鋼製造業者において、当該炭素鋼スクラップの化学成分を測定するために改めてサンプルを採取する必要がなくなり、効率よく炭素鋼スクラップを再利用することができる。
【0064】
上記構成の炭素鋼スクラップの再利用方法では、前記サンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定時に、前記サンプルの放射能濃度も測定してもよい。
【0065】
この構成によれば、従来原子力施設で行われていた炭素鋼スクラップの放射能濃度の測定を、溶融スクラップのサンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定と併せて行うことができるため、溶融スクラップのサンプルの銅含有量およびスズ含有量の測定という新たな業務の人的、金銭的負担を軽減することができる。