IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177915
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
C08G59/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090886
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓起
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AB10
4J036AC21
4J036AJ09
4J036AJ21
4J036GA22
4J036KA07
(57)【要約】
【課題】シリコーンモールドへの充填性及び硬化性に優れ、シリコーンモールドの膨潤を抑制でき、さらに、柔軟性に優れた硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本開示の硬化性組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及び直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるグリシジルエーテル化合物(C)(ただし、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物及びポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物を除く)を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ化合物(A)、
オキセタン化合物(B)、及び
直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるグリシジルエーテル化合物(C)(ただし、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物及びポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物を除く)
を含有する硬化性組成物。
【請求項2】
グリシジルエーテル化合物(C)における、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格が、
直鎖状若しくは分岐鎖状の炭化水素基からなる骨格であるか、又は
アルキレン基の炭素数が4以上のポリアルキレンオキシド骨格である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
脂環式エポキシ化合物(A)が、下記式(a1)
【化1】
[式中、R1~R18は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。Xは単結合又は連結基(シロキサン結合を含む基を除く)を示す]
で表される化合物を含む請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
脂環式エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)の含有量の和が硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の70重量%以上である請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
脂環式エポキシ化合物(A)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の10~80重量%であり、
オキセタン化合物(B)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の3~60重量%であり、
グリシジルエーテル化合物(C)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の10~80重量%である請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、カチオン重合開始剤を含有する請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物からなる光学部品。
【請求項9】
リフロー実装用である請求項8に記載の光学部品。
【請求項10】
請求項8に記載の光学部品を備えた光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物を用いたキャスティング成型は、既存の射出成型等では作製できない複雑且つ特殊な形状を有する成型物を作製することが可能である点で注目されている。特にモールドを用いて硬化性組成物を成型する方法は、精度よく形状転写を行うことができると共に、モールドを繰り返し使用することによりコストを大幅に削減することができる点で優れている。この様なモールドとしては、形状転写性や離型性に優れ、且つ透明であることから光硬化性組成物にも使用することができるシリコーンモールドが汎用されている。また、キャスティング成型により得られた成型物は、高機能、高性能化の追求により複雑且つ特殊な形状が求められるレンズ等の光学部品として用いられている。
【0003】
この様な硬化性組成物としては、エポキシ系樹脂等を含む光硬化性組成物が知られている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1の硬化性組成物はシリコーンモールドに浸潤し易く、使用回数を重ねるにつれ、徐々にシリコーンモールドが膨潤して、高精度の硬化物が得られなくなるという問題や、シリコーンモールドを繰り返し使用できず、コストが嵩むという問題があった。また、フレキシブルデバイスやウェアラブルデバイスに用いられるレンズは柔軟性が求められるが、上記硬化性組成物の成形物は屈曲性が低く、上記デバイスへの適用が困難であった。
【0004】
成形物に柔軟性を付与する方法として、硬化性組成物にフェノキシ樹脂やブチラール樹脂を配合する方法が知られている(特許文献2)。また、硬化性組成物に特定のエポキシ当量を有する固形エポキシ樹脂と、特定の粘度を有する液状エポキシ樹脂とを配合する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-246647号公報
【特許文献2】特開2007-119585号公報
【特許文献3】特開2015-096571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の硬化性組成物は樹脂を配合する際に溶剤を用いる必要があるが、硬化のためには溶剤の乾燥・揮発を行わなければならず、また、溶剤は分子量が小さいことからシリコーンモールドの膨潤を引き起こすため、シリコーンモールドを用いた成型には適していなかった。また、特許文献3の固形エポキシ樹脂は分子量が非常に大きく、液状エポキシ樹脂も高粘度であるため、硬化性組成物のシリコーンモールドへの充填性が低いという問題があった。
【0007】
従って、本開示に係る発明の目的は、シリコーンモールドへの充填性及び硬化性に優れ、シリコーンモールドの膨潤を抑制でき、さらに、柔軟性に優れた硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供することにある。本開示に係る発明の他の目的は、上記硬化性組成物の硬化物、上記硬化物からなる光学部品、及び上記光学部品を備えた光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、脂環式エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及び特定のグリシジルエーテル化合物(C)を含有する硬化性組成物は、シリコーンモールドへの充填性及び硬化性に優れること、また、シリコーンモールドに浸潤しにくいため、シリコーンモールドの膨潤を抑制できること、さらに、その硬化物が柔軟性に優れることを見いだした。本開示に係る発明は、これらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本開示は、
脂環式エポキシ化合物(A)、
オキセタン化合物(B)、及び
直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるグリシジルエーテル化合物(C)(ただし、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物及びポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物を除く)
を含有する硬化性組成物を提供する。
【0010】
上記グリシジルエーテル化合物(C)における、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格は、
直鎖状若しくは分岐鎖状の炭化水素基からなる骨格であるか、又は
アルキレン基の炭素数が4以上のポリアルキレンオキシド骨格であることが好ましい。
【0011】
脂環式エポキシ化合物(A)は、下記式(a1)
【化1】
[式中、R1~R18は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。Xは単結合又は連結基(シロキサン結合を含む基を除く)を示す]
で表される化合物を含むことが好ましい。
【0012】
上記硬化性組成物では、脂環式エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)の含有量の和が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の70重量%以上であることが好ましい。
【0013】
上記硬化性組成物では、脂環式エポキシ化合物(A)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の10~80重量%であり、オキセタン化合物(B)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の3~60重量%であり、グリシジルエーテル化合物(C)の含有量が、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量の10~80重量%であることが好ましい。
【0014】
上記硬化性組成物は、さらに、カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。
【0015】
本開示では、また、上記硬化性組成物の硬化物を提供する。
【0016】
本開示では、また、上記硬化物からなる光学部品を提供する。
【0017】
上記光学部品は、リフロー実装用であることが好ましい。
【0018】
本開示では、また、上記光学部品を備えた光学装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示の硬化性組成物は上記構成を有するため、シリコーンモールドへの充填性及び硬化性に優れる。このため、成形に必要となる時間が短くなり、作業性に優れる。また、シリコーンモールドの膨潤を抑制できる。このため、シリコーンモールドの耐用回数が向上し、シリコーンモールドを繰り返し使用しても、高精度な形状を有する硬化物(光学部品)が得られ、経済性に優れる。さらに、柔軟性に優れた硬化物を形成することができる。さらにまた、上記硬化物は柔軟性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の硬化性組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及び直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるグリシジルエーテル化合物(C)(ただし、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物及びポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物を除く)を含有する。以下、脂環式エポキシ化合物(A)を「エポキシ化合物(A)」と称することがある。また、上記グリシジルエーテル化合物(C)を「グリシジルエーテル化合物(C)」と称することがある。
【0021】
[エポキシ化合物(A)]
脂環式エポキシ化合物(A)は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環式エポキシ基)を有する化合物である。エポキシ化合物(A)を用いることにより、上記硬化性組成物は硬化性及び硬化物の透明性に優れる。
【0022】
本開示の硬化性組成物は、透明性、硬化性の観点から、エポキシ化合物(A)として、シクロヘキセンオキシド基を有する化合物を含むことが好ましく、下記式(a)で表される化合物及び/又は脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物を含むことがより好ましい。
【化2】
【0023】
上記式(a)中、Yは単結合または連結基(1以上の原子を有する2価の基、シロキサン結合を含む基を除く)を示す。なお、式(a)におけるシクロヘキサン環(シクロヘキセンオキシド基)を構成する炭素原子の1以上には、アルキル基等の置換基が結合していてもよい。
【0024】
上記式(a)で表される化合物としては、下記式(a1)で表される化合物が好ましい。
【化3】
[式中、R1~R18は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。Xは単結合又は連結基(シロキサン結合を含む基を除く)を示す]
【0025】
1~R18におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0026】
1~R18における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの2以上が結合した基が挙げられる。
【0027】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、イソオクチル、デシル、ドデシル基等の炭素数1~20(=C1-20)アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、特に好ましくはC1-4アルキル基);ビニル、アリール、メタリル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、5-ヘキセニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、特に好ましくはC2-4アルケニル基);エチニル、プロピニル基等のC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、特に好ましくはC2-4アルキニル基)等が挙げられる。
【0028】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロドデシル基等のC3-12シクロアルキル基;シクロヘキセニル基等のC3-12シクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル、ビシクロヘプテニル基等のC4-15架橋環式炭化水素基等が挙げられる。
【0029】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等のC6-14アリール基(好ましくはC6-10アリール基)等が挙げられる。
【0030】
1~R18における酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基としては、上述の炭化水素基における少なくとも1つの水素原子が、酸素原子を有する基又はハロゲン原子を有する基で置換された基等が挙げられる。上記酸素原子を有する基としては、例えば、ヒドロキシル基;ヒドロパーオキシ基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ基等のC1-10アルコキシ基;アリルオキシ基等のC2-10アルケニルオキシ基;C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、ハロゲン原子、及びC1-10アルコキシ基から選択される置換基を有していてもよいC6-14アリールオキシ基(例えば、トリルオキシ、ナフチルオキシ基等);ベンジルオキシ、フェネチルオキシ基等のC7-18アラルキルオキシ基;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、(メタ)アクリロイルオキシ、ベンゾイルオキシ基等のC1-10アシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル基等のC1-10アルコキシカルボニル基;C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、ハロゲン原子、及びC1-10アルコキシ基から選択される置換基を有していてもよいC6-14アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル、トリルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基等);ベンジルオキシカルボニル基等のC7-18アラルキルオキシカルボニル基;グリシジルオキシ基等のエポキシ基含有基;エチルオキセタニルオキシ基等のオキセタニル基含有基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル基等のC1-10アシル基;イソシアナート基;スルホ基;カルバモイル基;オキソ基;及びこれらの2以上が単結合又はC1-10アルキレン基等を介して結合した基等が挙げられる。上記ハロゲン原子を有する基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0031】
1~R18におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ基等のC1-10アルコキシ基が挙げられる。
【0032】
上記アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-10アルコキシ基、C2-10アルケニルオキシ基、C6-14アリールオキシ基、C1-10アシルオキシ基、メルカプト基、C1-10アルキルチオ基、C2-10アルケニルチオ基、C6-14アリールチオ基、C7-18アラルキルチオ基、カルボキシル基、C1-10アルコキシカルボニル基、C6-14アリールオキシカルボニル基、C7-18アラルキルオキシカルボニル基、アミノ基、モノ又はジC1-10アルキルアミノ基、C1-10アシルアミノ基、エポキシ基含有基、オキセタニル基含有基、C1-10アシル基、オキソ基、及びこれらの2以上が単結合又はC1-10アルキレン基等を介して結合した基等が挙げられる。
【0033】
1~R18としては、なかでも水素原子が好ましい。
【0034】
上記式(a1)におけるXは、単結合又は連結基(1以上の原子を有する2価の基;シロキサン結合を含む基を除く)を示す。上記式(a)及び式(a1)における連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、アミド基、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0035】
上記2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基等の直鎖又は分岐鎖状のC1-18アルキレン基(好ましくは直鎖又は分岐鎖状のC1-3アルキレン基);1,2-シクロペンチレン、1,3-シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2-シクロヘキシレン、1,3-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキシレン、シクロヘキシリデン基等のC3-12シクロアルキレン基、及びC3-12シクロアルキリデン基(好ましくはC3-6シクロアルキレン基、及びC3-6シクロアルキリデン基)等が挙げられる。
【0036】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等のC2-8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたC2-4のアルケニレン基である。
【0037】
上記式(a1)で表される化合物は特に限定されないが、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン等が挙げられる。上記式(a1)で表される化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
上記式(a1)で表される化合物は、例えば、下記式(a1’)で表される化合物と過酸(例えば、過酢酸等)を反応させて式(a1’)中の二重結合部をエポキシ化することにより製造することができる。なお、下記式(a1’)中のR1~R18、Xは上記に同じ。
【化4】
【0039】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物は、分子内に1以上の脂環式エポキシ基を有し、さらに、シロキサン結合(Si-O-Si)により構成されたシロキサン骨格を有する化合物である。上記シロキサン骨格には、環状シロキサン骨格、直鎖状又は分岐鎖状のシリコーン(直鎖状又は分岐鎖状ポリシロキサン)、かご型やラダー型のポリシルセスキオキサン等が含まれる。その中でも、硬化性組成物の硬化性に優れる点で、環状シロキサン骨格を有する化合物が好ましい。すなわち、上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物としては、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサンが好ましい。
【0040】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物が、脂環式エポキシ基を有する環状シロキサン化合物である場合、シロキサン環を形成するSi-O単位の数(シロキサン環を形成するケイ素原子の数に等しい)は、硬化性組成物の硬化性の観点から、3以上であることが好ましく、3~12であることがより好ましく、3~6であることがさらに好ましく、3又は4であることが特に好ましい。
【0041】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物における分子内に有する脂環式エポキシ基の数は1個以上であれば特に限定されないが、硬化性組成物の硬化性の観点から、2~4個が好ましく、より好ましくは3又は4個である。
【0042】
上記式(a1)で表される化合物の代表的な例としては、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、下記式(a1-1)~(a1-10)で表される化合物等が挙げられる。なお、下記式(a1-5)、(a1-7)中のl、mは、それぞれ1~30の整数を表す。下記式(a1-5)中のR’は炭素数1~8のアルキレン基であり、中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。下記式(a1-9)、(a1-10)中のn1~n6は、それぞれ1~30の整数を示す。また、上記式(a1)で表される化合物としては、その他、例えば、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。
【化5】
【化6】
【0043】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物としては、例えば、下記式(a2)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0044】
式(a2)中、R21、R22は、同一又は異なって、水素原子、脂環式エポキシ基を含有する一価の基、又はアルキル基を示す。ただし、式(a2)で表される化合物におけるk個のR21及びk個のR22のうち、少なくとも1個は脂環式エポキシ基を含有する一価の基である。また、式(a2)中のkは、3以上の整数(好ましくは3~6の整数、より好ましくは3又は4)を示す。なお、式(a2)で表される化合物におけるk個のR21、及びk個のR22はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
21、R22における脂環式エポキシ基を含有する一価の基としては、例えば、(-A-R23)基[Aはアルキレン基を示し、R23は脂環式エポキシ基を示す]が挙げられる。Aにおけるアルキレン基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基等の炭素数が1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等が挙げられる。R23としては、例えば、置換基を有していてもよいシクロヘキセンオキシド基等が挙げられる。
【0046】
また、R21、R22におけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0047】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物としては、具体的には、例えば、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,2,4,6,6,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン、2,4-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6,8-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、4,8-ジ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,6-ジプロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,6,8-ペンタメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,8-トリ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-6-プロピル-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラ[2-(3-{オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル})エチル]-2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン、エポキシ基を有するシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0048】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物としては、より具体的には、下記式(a2-1)~(a2-7)で表される化合物等が挙げられる。
【化8】
【0049】
上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
エポキシ化合物(A)のSP値、及び本開示の硬化性組成物がエポキシ化合物(A)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上)の化合物のSP値は特に限定されないが、例えば、8.5~16であることが好ましく、より好ましくは8.8~15、さらに好ましくは8.9~14、特に好ましくは9.0~13である。上記範囲のSP値を有するエポキシ化合物(A)はシリコーンモールドに浸潤し難いため、上記範囲のSP値を有するエポキシ化合物(A)を含有する硬化性組成物を使用すると、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができ、シリコーンモールドの耐久性を向上して耐用回数を増加させることができる傾向がある。なお、本明細書におけるSP値の単位は(cal/cm31/2である。ここで、本明細書において、SP値は溶解度パラメーター(δ)と称され、Fedors法による25℃における値である。SP値はPolym. Eng. Sci., 14, 147(1974)に記載の方法に基づき算出されるものである。具体的には、下記式によって算出される。
δ=(Σei/Σvi)1/2
ei:原子又は原子団の蒸発エネルギー
vi:原子又は原子団のモル体積
【0051】
エポキシ化合物(A)の分子量、及び本開示の硬化性組成物がエポキシ化合物(A)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上)の化合物の分子量は、例えば、100以上(例えば、100~1200)であり、分子量の上限は、好ましくは1000、より好ましくは900である。分子量の下限は、好ましくは120、より好ましくは150である。分子量が上記範囲下限以上である化合物は、シリコーンモールドにより浸潤しにくいため、シリコーンモールドの膨潤をより抑制することができる。一方、分子量が上記範囲上限以下であると、シリコーンモールドへの充填性がより向上する傾向がある。
【0052】
エポキシ化合物(A)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は特に限定されないが、例えば、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)の10~80重量%であり、含有量の上限は60重量%が好ましく、より好ましくは50重量%、さらに好ましくは40重量%、特に好ましくは35重量%であり、含有量の下限は、15重量%が好ましく、より好ましくは20重量%である。エポキシ化合物(A)の含有量が上記範囲内であることにより、硬化性組成物の硬化性及び充填性が良好であり、硬化物の透明性に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0053】
エポキシ化合物(A)として上記式(a)で表される化合物を含む場合、該式(a)で表される化合物(特に、式(a1)で表される化合物)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は特に限定されないが、例えば、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)の3~80重量%であり、含有量の上限は60重量%が好ましく、より好ましくは40重量%、さらに好ましくは30重量%、特に好ましくは20重量%であり、含有量の下限は、5重量%が好ましく、より好ましくは10重量%である。上記式(a)で表される化合物の含有量が上記範囲内であることにより、硬化性組成物の硬化性及び充填性が良好であり、硬化物の透明性に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0054】
エポキシ化合物(A)として上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物を含む場合、該脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は特に限定されないが、例えば、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)の5~80重量%であり、含有量の上限は60重量%が好ましく、より好ましくは40重量%、さらに好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%であり、含有量の下限は、5重量%が好ましく、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは15重量%である。上記脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物の含有量が上記範囲内であることにより、硬化性組成物の硬化性及び充填性が良好であり、硬化物の透明性に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0055】
[オキセタン化合物(B)]
本開示の硬化性組成物はオキセタン化合物(B)を含む。オキセタン化合物(B)を用いることにより、硬化性組成物の硬化性に優れ、そして硬化性組成物を低粘度とすることができ、塗布性及び取り扱い性に優れ、硬化性組成物の充填性に優れる。上記オキセタン化合物(B)は特に限定されないが、硬化性組成物の粘度を低減する観点からは、下記式(b)で表される化合物であることが好ましい。
【化9】
[式中、Raは水素原子又はエチル基を示し、Rbは1価の有機基を示す。tは0以上の整数を示す]
【0056】
上記Rbにおける1価の有機基には1価の炭化水素基、1価の複素環式基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基等)、置換カルバモイル基(N-アルキルカルバモイル基、N-アリールカルバモイル基等)、アシル基(アセチル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基等)、及びこれらの2以上が単結合又は連結基を介して結合した1価の基が含まれる。
【0057】
上記1価の炭化水素基としては、上記式(a1)中のR1~R18と同様の例が挙げられる。具体的には、1価の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0058】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、イソオクチル、デシル、ドデシル基等の炭素数1~20(=C1-20)アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、特に好ましくはC1-4アルキル基);ビニル、アリール、メタリル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、5-ヘキセニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、特に好ましくはC2-4アルケニル基);エチニル、プロピニル基等のC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、特に好ましくはC2-4アルキニル基)等が挙げられる。
【0059】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロドデシル基等のC3-12シクロアルキル基;シクロヘキセニル基等のC3-12シクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル、ビシクロヘプテニル基等のC4-15架橋環式炭化水素基等が挙げられる。
【0060】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等のC6-14アリール基(好ましくはC6-10アリール基)等が挙げられる。
【0061】
上記1価の炭化水素基は、種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基等]を有していてもよい。上記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0062】
上記複素環式基を構成する複素環には芳香族性複素環と非芳香族性複素環が含まれ、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の架橋環)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。1価の複素環式基としては、上記複素環の構造式から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0063】
上記複素環式基は、上記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等のC1-4アルキル基等)、C3-12シクロアルキル基、C6-14アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)等の置換基を有していてもよい。
【0064】
上記連結基としては、例えば、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-CONH-)、カーボネート結合(-OCOO-)、シリル結合(-Si-)、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0065】
上記tは、0以上の整数を示し、例えば、0~12、好ましくは1~6である。
【0066】
オキセタン化合物(B)としては、分子内に1以上のオキセタン環を有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、3,3-ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1-エチル(3-オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4'-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、1,4-ビス{〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3-エチル-3-{〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕メチル)}オキセタン、キシリレンビスオキセタン、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0067】
上記式(b)で表される化合物としては、例えば、下記式(b-1)~(b-5)で表される化合物等が挙げられる。
【化10】
【0068】
オキセタン化合物(B)のSP値、及び上記硬化性組成物がオキセタン化合物(B)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上)の化合物のSP値は、例えば、8.5以上であることが好ましく、より好ましくは8.7~15、さらに好ましくは9.0~15である。上記範囲のSP値を有するオキセタン化合物(B)はシリコーンモールドに浸潤し難いため、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができ、シリコーンモールドの耐久性を向上して耐用回数を増加させることができる。
【0069】
オキセタン化合物(B)の分子量、及び本開示の硬化性組成物がオキセタン化合物(B)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上)の化合物の分子量は特に限定されないが、例えば、100以上(例えば、100~800)であり、分子量の下限は、好ましくは120、より好ましくは150である。分子量の上限は、より好ましくは700、さらに好ましくは500、特に好ましくは300である。
【0070】
本開示の硬化性組成物におけるオキセタン化合物(B)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は特に限定されないが、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に対して、例えば、3~60重量%であり、含有量の上限は、好ましくは45重量%、より好ましくは30重量%、さらに好ましくは25重量%、特に好ましくは20重量%であり、含有量の下限は、好ましくは5重量%、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは15重量%である。オキセタン化合物(B)の含有量が上記範囲内であることにより、硬化性組成物の粘度が低下し、シリコーンモールドへの充填性が向上する傾向がある。
【0071】
[グリシジルエーテル化合物(C)]
グリシジルエーテル化合物(C)は、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq以上であるグリシジルエーテル化合物であって、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物及びポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物を除くものである。グリシジルエーテル化合物(C)を用いることにより、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制でき、そして硬化物の柔軟性を向上させることができる。なお、本明細書において、グリシジルエーテル化合物とは、置換基として1又は2以上のグリシジルエーテル基を有する化合物を意味する。
【0072】
上記直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格(以下、「(C)骨格」と称することがある)とは、例えば、直鎖状の炭化水素基からなる骨格、分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格、並びに直鎖状及び/又は分岐鎖状の炭化水素基が、酸素原子及び/又は窒素原子を含む連結基(例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド基等)を介して連結した基からなる骨格が挙げられる。ただし、上記(C)骨格からは、ポリエチレンオキシド骨格及びポリプロピレンオキシド骨格は除かれる。
【0073】
上記(C)骨格において、炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、例えば、1~18であることが好ましく、より好ましくは2~12、さらに好ましくは3~8、より好ましくは4~6である。なお、(C)骨格が連結基を介して2以上の炭化水素基を含む骨格である場合、上記の「炭化水素基の炭素数」とは、それぞれの炭化水素基の炭素数を意味し、(C)骨格中に存在する炭化水素基の炭素数の総数を意味するものではない。
【0074】
上記(C)骨格は、得られる硬化物の柔軟性と硬化性の向上の観点からは、(1)直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる骨格、すなわち、直鎖状の炭化水素基又は分岐鎖状の炭化水素基のみからなる骨格であって、連結基を有しない骨格であるか、又は(2)アルキレン基の炭素数が4以上のポリアルキレンオキシド骨格であることが好ましい。つまり、ポリアルキレンオキシド骨格であって、当該骨格におけるアルキレン基の炭素数が4以上であるものであることが好ましい。上記アルキレン基の炭素数が4以上のポリアルキレンオキシド骨格としては、ポリブチレンオキシド骨格が特に好ましい。
【0075】
グリシジルエーテル化合物(C)としては、例えば、q価(q:自然数)のアルコール(ポリエーテルポリオールを除く)のグリシジルエーテル;p価(p:自然数)のポリアルキレンオキシドのグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;及びエポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。
【0076】
上記q価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール(1,2-エタンジオール)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等;p価(p:自然数)のポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリブタジエンオキシド等が挙げられる。
【0077】
グリシジルエーテル化合物(C)のエポキシ当量は250g/eq以上であれば特に限定されないが、例えば、250~3000であることが好ましく、より好ましくは300~2000、さらに好ましくは350~1000、特に好ましくは400~600である。エポキシ当量が上記範囲内にあることにより、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができ、硬化性組成物の硬化物の柔軟性及び耐クラック性が向上する傾向がある。
【0078】
グリシジルエーテル化合物(C)のSP値、及び本開示の硬化性組成物がグリシジルエーテル化合物(C)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上)の化合物のSP値は、9.0以上であることが好ましく、例えば9.0~15であり、より好ましくは9.0~14、特に好ましくは9.0~13、最も好ましくは9.1~13である。上記範囲のSP値を有するグリシジルエーテル化合物(C)はシリコーンモールドに浸潤し難いため、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができ、シリコーンモールドの耐久性を向上して耐用回数を増加させることができる。
【0079】
グリシジルエーテル化合物(C)の分子量、及び上記硬化性組成物がグリシジルエーテル化合物(C)として2種以上の化合物を含有する場合は、その90重量%以上(好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上)の化合物の分子量は、例えば、250以上(例えば、250~1500)であり、分子量の下限は、好ましくは300、より好ましくは350である。分子量の上限は、好ましくは1300、より好ましくは1000である。分子量が上記範囲内であることにより、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができる傾向がある。
【0080】
グリシジルエーテル化合物(C)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に対して、例えば、10~80重量%であり、含有量の上限は、好ましくは70重量%、より好ましくは65重量%、さらに好ましくは60重量%であり、含有量の下限は、好ましくは20重量%、より好ましくは25重量%、さらに好ましくは25重量%である。グリシジルエーテル化合物(C)を上記範囲で含有すると、硬化性組成物の硬化性を向上し、得られる硬化物の柔軟性を向上することができる。
【0081】
[その他の硬化性化合物]
本開示の硬化性組成物は、その発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記エポキシ化合物(A)、オキセタン化合物(B)、及びグリシジルエーテル化合物(C)以外の硬化性化合物(以後、「その他の硬化性化合物」と称する場合がある)を含有していてもよい。その他の硬化性化合物としては、例えば、エポキシ化合物(A)及びグリシジルエーテル化合物(C)以外のエポキシ化合物(例えば、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格を有し、エポキシ当量が250g/eq未満のグリシジルエーテル化合物、ポリエチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物、ポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物、脂環式グリシジルエーテル化合物、及び芳香族グリシジルエーテル化合物等)、ビニルエーテル化合物、アクリル化合物、シリコーン化合物等が挙げられる。
【0082】
上記直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を含む骨格としては、例えば、上記[グリシジルエーテル化合物(C)]の項で説明した(C)骨格が挙げられる。
【0083】
上記脂環式グリシジルエーテル化合物としては、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン等のビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン等のビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物を水素化した化合物等を挙げることができる。その中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物)であることが、硬化性の向上の観点から好ましい。
【0084】
上記芳香族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等を挙げることができる。
【0085】
上記その他の硬化性化合物の含有量は特に限定されないが、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量%)に対して、例えば、50重量%以下であり、含有量の上限は、好ましくは40重量%、より好ましくは30重量%、さらに好ましくは25重量%であり、含有量の下限は、好ましくは3重量%、より好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%である。その他の硬化性化合物の含有量が上記範囲であることにより、硬化性組成物の硬化性が良好である傾向がある。
【0086】
[カチオン重合開始剤]
本開示の硬化性組成物は、カチオン重合開始剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。上記カチオン重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤及び熱カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0087】
光カチオン重合開始剤は、光の照射によって酸を発生して、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物の硬化反応を開始させる化合物であり、光を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。光カチオン重合開始剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩系化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、セレニウム塩系化合物、オキソニウム塩系化合物、アンモニウム塩系化合物、臭素塩系化合物等が挙げられる。
【0089】
上記硬化性組成物においては、なかでも、スルホニウム塩系化合物を含むことが、硬化性に優れた硬化物を形成することができる点で好ましい。スルホニウム塩系化合物のカチオン部としては、例えば、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオン、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムイオン、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムイオン、トリ-p-トリルスルホニウムイオン等のアリールスルホニウムイオン(特に、トリアリールスルホニウムイオン)が挙げられる。
【0090】
光カチオン重合開始剤のアニオン部としては、例えば、[(Y)sB(Phf)4-s-(式中、Yはフェニル基又はビフェニリル基を示す。Phfは水素原子の少なくとも1つが、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、及びハロゲン原子から選択される少なくとも1種で置換されたフェニル基を示す。sは0~3の整数である)、BF4 -、[(Rf)kPF6-k-(Rf:水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基、k:0~5の整数)、AsF6 -、SbF6 -、SbF5OH-等が挙げられる。
【0091】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、(4-ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4-(2-チオキサントニルチオ)フェニル]フェニル-2-チオキサントニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、商品名「サイラキュアUVI-6970」、「サイラキュアUVI-6974」、「サイラキュアUVI-6990」、「サイラキュアUVI-950」(以上、米国ユニオンカーバイド社製)、「Irgacure250」、「Irgacure261」、「Irgacure264」(以上、BASF社製)、「CG-24-61」(チバガイギー社製)、「オプトマーSP-150」、「オプトマーSP-151」、「オプトマーSP-170」、「オプトマーSP-171」(以上、(株)ADEKA製)、「DAICAT II」((株)ダイセル製)、「UVAC1590」、「UVAC1591」(以上、ダイセル・サイテック(株)製)、「CI-2064」、「CI-2639」、「CI-2624」、「CI-2481」、「CI-2734」、「CI-2855」、「CI-2823」、「CI-2758」、「CIT-1682」(以上、日本曹達(株)製)、「PI-2074」(ローディア社製、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート トルイルクミルヨードニウム塩)、「FFC509」(3M社製)、「BBI-102」、「BBI-101」、「BBI-103」、「MPI-103」、「TPS-103」、「MDS-103」、「DTS-103」、「NAT-103」、「NDS-103」(以上、ミドリ化学(株)製)、「CD-1010」、「CD-1011」、「CD-1012」(以上、米国、Sartomer社製)、「CPI-100P」、「CPI-101A」(以上、サンアプロ(株)製)等が使用できる。
【0092】
熱カチオン重合開始剤は、加熱処理を施すことによって酸を発生して、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物の硬化反応を開始させる化合物であり、熱を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。熱カチオン重合開始剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0093】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物等が挙げられる。
【0094】
熱カチオン重合開始剤のカチオン部としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル-メチル-ベンジルスルホニウムイオン、4-ヒドロキシフェニル-メチル-(2-メチルベンジル)スルホニウムイオン、4-ヒドロキシフェニル-メチル-1-ナフチルメチルスルホニウムイオン、p-メトキシカルボニルオキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウムイオン等が挙げられる。
【0095】
熱カチオン重合開始剤のアニオン部としては、上記光カチオン重合開始剤のアニオン部と同様の例が挙げられる。
【0096】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、4-ヒドロキシフェニル-メチル-ベンジルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-ヒドロキシフェニル-メチル-(2-メチルベンジル)スルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-ヒドロキシフェニル-メチル-1-ナフチルメチルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、p-メトキシカルボニルオキシフェニル-ベンジル-メチルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0097】
カチオン重合開始剤の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は特に限定されないが、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量部)に対して、例えば、0.01~10.0重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~5.0重量部、さらに好ましくは0.1~3.0重量部、特に好ましくは0.2~1.0重量部である。カチオン重合開始剤の含有量が上記範囲下限値以上であると、硬化性が向上する傾向がある。一方、カチオン重合開始剤の含有量が上記範囲上限値以下であると、硬化物の着色を抑制し透明性がより向上する傾向がある。
【0098】
[その他の成分]
本開示の硬化性組成物は、硬化性化合物及びカチオン重合開始剤以外にも、その効果を損なわない範囲でその他の成分を1種又は2種以上含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、溶剤(硬化性化合物以外の有機溶剤等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面改質剤、フィラー、光増感剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、界面活性剤、難燃剤、消色剤、密着性付与剤、着色剤等が挙げられる。なお、本開示の硬化性組成物中の有機溶剤の含有量は、硬化性組成物の全量100重量%に対して、10重量%以下が好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下であり、含まないことが最も好ましい。本開示の硬化性組成物は、有機溶剤を含まなくても充填性に優れる。
【0099】
上記硬化性組成物は、なかでも、表面改質剤を含有することが、シリコーンモールドへの濡れ性を向上させることができ、シリコーンモールドに充填する際の硬化性組成物の濡れ広がり速度を促進して、充填速度を上昇させることができる点で好ましい。表面改質剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、又はフッ素系の界面活性剤が挙げられる。上記硬化性組成物においては、特に、シリコーン系界面活性剤が、充填速度を上昇させる効果に特に優れる点で好ましい。
【0100】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0101】
表面改質剤の含有量(2種以上含有する場合はその総量)としては、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物全量(100重量部)に対して、例えば、0.01~3重量部、好ましくは0.03~2重量部、特に好ましくは0.1~1重量部である。
【0102】
上記硬化性組成物の粘度(25℃、せん断速度20(1/s)における)は特に限定されないが、例えば、1000mPa・s以下であり、粘度の上限は、好ましくは500mPa・s、より好ましくは400mPa・s、さらに好ましくは300mPa・sである。特に、有機溶剤を含む場合は有機溶剤を除く硬化性組成物の粘度が上記範囲内にあることが好ましい。粘度が上記範囲内にあることにより、硬化性組成物のシリコーンモールドへの充填性が優れ、泡かみが生じるのを抑制して、形状転写性に優れる傾向がある。なお、本明細書における粘度は、レオメーター(商品名「PHYSICA UDS200」、Anton Paar社製)を用い、温度25℃、せん断速度20(1/s)の条件下で測定することができる。
【0103】
本開示の硬化性組成物は、シリコーンモールドに浸潤し難く、シリコーンモールドの耐久性を向上させることができると共に、シリコーンモールドへの充填性に優れ、泡かみが生じるのを抑制して、形状転写性に優れ、良好な柔軟性を有する、高精度の光学部品を製造することができる。
【0104】
[硬化物]
本開示の硬化物は、上記硬化性組成物を硬化して得られる。硬化は、例えば、硬化性組成物に光照射及び/又は加熱処理を施すことにより行われる。
【0105】
上記光照射は、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線源、レーザー光源、LED光源等を使用し、積算照射量が例えば、500~5000mJ/cm2となる範囲で照射することが好ましい。光源としては、なかでも、UV-LED(波長:350~450nm)が好ましい。
【0106】
上記加熱処理は、例えば、100~200℃程度(好ましくは120~160℃)の温度で短時間(例えば、1~10分間程度、好ましくは1~3分)加熱することが好ましい。
【0107】
また、光照射及び/又は加熱処理終了後は、さらにアニール処理を施して内部歪みを除去することが好ましく、例えば、100~200℃の温度で30分~1時間程度加熱することが好ましい。
【0108】
上記硬化物の貯蔵弾性率は特に限定されないが、例えば、300MPa以上が好ましく、より好ましくは500MPa以上、特に好ましくは800MPa以上、最も好ましくは1000MPa以上である。なお、本明細書における貯蔵弾性率は、固体粘弾性測定装置(「RSAIII」、TA INSTRUMENTS社製)を用い、雰囲気:窒素、温度範囲:20~300℃、昇温温度:5℃/分、変形モード:引っ張りモードの条件下で測定することができる。
【0109】
[光学部品]
本開示の光学部品は上記硬化物からなる。本開示の光学部品には、携帯型電子機器(スマートホン、タブレット端末等)、車載用電子機器、各種センサ(赤外線センサ等)等の光学装置に使用される光学部品[フラッシュレンズ、光拡散レンズ、撮像レンズ、又はセンサー用レンズ等のレンズ(特にフレネルレンズ)、プリズム等]等が含まれる。なお、上記硬化物は柔軟性(耐屈曲性)に優れるため、フレキシブルデバイスやウェアラブルデバイス用途に好適に使用することができる。
【0110】
本開示の光学部品のサイズは、平面視における最大幅(真上から見た平面図における最大幅)が、例えば、1.0~10mm程度、好ましくは1.0~8.0mm、特に好ましくは1.0~6.0mmである。最薄部厚みは、例えば、0.05~0.5mm程度、好ましくは0.05~0.3mm、特に好ましくは0.1~0.3mmである。最厚部厚みは、例えば、0.1~3.0mm程度、好ましくは0.1~2.0mm、特に好ましくは0.2~2.0mmである。
【0111】
[光学部品の製造方法]
本開示の光学部品の製造方法は、下記工程を含む。
工程1:底部と蓋部からなるモールドの底部に上記硬化性組成物を充填する
工程2:硬化性組成物が充填されたモールドの底部にモールドの蓋部を合体させる
工程3:光照射及び/又は加熱処理を施して硬化性組成物を硬化させて、硬化物を得る
工程4:硬化物を離型する
【0112】
工程1においてモールドとして、フレネルレンズ成型用モールドを使用した場合は、硬化物としてフレネルレンズが得られる。
【0113】
また、上記底部と蓋部における硬化性組成物と接触する面に凹凸形状を有するモールドを使用した場合は、表面に凹凸形状を有する硬化物が得られる。例えば、硬化物がフレネルレンズである場合、表面に凹凸形状を有するフレネルレンズは、品質が悪い半導体光源を使用した場合であっても、中心照度を低下させることなく、むらのない高品質な光に変えて拡散する効果が得られる点で好ましい。
【0114】
モールド(底部と蓋部)の材質としては、例えば、金属、ガラス、プラスチック、シリコーン等が挙げられる。モールドの底部の材質としては、なかでも、透明性を有するため、光硬化性組成物の成型に使用することができ、形状転写性、及び離型性に優れる点でシリコーンモールド(例えば、ポリジメチルシロキサンを原料とするシリコーンモールド)が好ましい。また、本開示では上記硬化性組成物を使用するため、硬化性組成物によるシリコーンモールドの膨潤を抑制することができるので、シリコーンモールドを繰り返し使用することができ、低コストで光学部品を製造することができる。シリコーンモールドは、例えば、所望する光学部品の形状を有する金型にシリコーン樹脂を流し込んで硬化させることにより作製することができる。
【0115】
さらにまた、底部と蓋部からなるモールドは、底部及び蓋部がそれぞれ透明支持体に固定されていることが、精度の良い光学部品を安定的に製造することができる点で好ましい。上記透明支持体の素材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ガラス等が挙げられる。
【0116】
工程1の硬化性組成物をモールドの底部に充填する方法としては、ディスペンス装置を使用する方法、スクリーン印刷法、カーテンコート法、スプレー法等が挙げられる。
【0117】
工程1において硬化性組成物を充填した後は、充填された硬化性組成物の脱泡を行うことが、充填時に泡かみが生じた場合にも気泡を除去することができ、光学特性に優れた光学部品が得られる点で好ましい。脱泡は、例えば、減圧処理に付すことにより行うことができる。
【0118】
工程3における光照射、加熱処理は、上記[硬化物]の項に記載の光照射、加熱処理と同様の方法で行うことができる。
【0119】
また、光照射後にさらにアニール処理を施してもよい。アニール処理も上記[硬化物]の項に記載のアニール処理と同様の方法で行うことができる。アニール処理は、硬化物を離型する前に実施してもよく、離型した後で実施してもよい。
【0120】
工程1において光学部品の型を2個以上有するモールドを使用すると(同時成型法)、工程4において離型することにより2個以上の光学部品が連接した硬化物が得られる。その場合は、離型後に硬化物を連接部において切断し個片化することが好ましい。個片化は、例えば、ダイシング等により行われる。同時成型法によれば、光学部品を量産することができる。
【0121】
また、工程4における離型は、まず、硬化物からモールドの底部又は蓋部のうち一方を外して硬化物の一部を露出させ、その後、硬化物の露出部を支持体(例えば、粘着フィルム等)に固定し、その後、もう一方のモールドを外す方法を採用することが、例えば、非常に薄膜化した硬化物であっても、破損することなく離型することができ、非常に小さい硬化物であっても簡便且つ速やかに離型することができる点で好ましい。
【0122】
[光学装置]
本開示の光学装置は、上記光学部品を備えた装置である。光学装置としては、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットPC等の携帯型電子機器や、赤外センサ、近赤外センサ、ミリ波レーダー、LEDスポット照明装置、近赤外LED照明装置、ミラーモニター、メーターパネル、ヘッドマウントディスプレイ(投影型)用コンバイナ、ヘッドアップディスプレイ用コンバイナ等の車載用電子機器等が挙げられる。
【0123】
本開示の光学装置は上記光学部品を備えるため、光学特性に優れる。また、上記光学部品は柔軟性(耐屈曲性)に優れるため、フレキシブルデバイスやウェアラブルデバイス用途に好適に使用することができる。
【0124】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0125】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0126】
[調製例1:(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル(a-1)の合成]
95重量%硫酸70g(0.68モル)と1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)55g(0.36モル)を撹拌混合して脱水触媒を調製した。
撹拌機、温度計、および脱水剤が充填され且つ保温された留出配管を具備した3Lのフラスコに、水添ビフェノール(4,4’-ジヒドロキシビシクロヘキシル)1000g(5.05モル)、上記で調製した脱水触媒125g(硫酸として0.68モル)、プソイドクメン1500gを入れ、フラスコを加熱した。内温が115℃を超えたあたりから水の生成が確認された。さらに昇温を続けてプソイドクメンの沸点まで温度を上げ(内温162~170℃)、常圧で脱水反応を行った。副生した水は留出させ、脱水管により系外に排出した。脱水触媒は反応条件下において液体であり反応液中に微分散していた。3時間経過後、ほぼ理論量の水(180g)が留出したため反応終了とした。
反応終了液を10段のオールダーショウ型の蒸留塔を用い、プソイドクメンを留去した後、内部圧力10Torr(1.33kPa)、内温137~140℃にて蒸留し、731gのビシクロヘキシル-3,3’-ジエンを得た。
【0127】
得られたビシクロヘキシル-3,3’-ジエン243g、酢酸エチル730gを反応器に仕込み、窒素を気相部に吹き込みながら、かつ、反応系内の温度を37.5℃になるようにコントロールしながら約3時間かけて30重量%過酢酸の酢酸エチル溶液(水分率:0.41重量%)274gを滴下した。
滴下終了後、40℃で1時間熟成し反応を終了した。さらに30℃で反応終了時の粗液を水洗し、70℃/20mmHgで低沸点化合物の除去を行い、反応生成物270gを得た。反応生成物のオキシラン酸素濃度は15.0重量%であった。
また1H-NMRの測定では、δ4.5~5ppm付近の内部二重結合に由来するピークが消失し、δ3.1ppm付近にエポキシ基に由来するプロトンのピークの生成が確認されたため、反応生成物は(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシルであることが確認された。
【0128】
実施例1及び2、比較例1~5
下記表1に示す処方(単位:重量部)に従って各成分を混合して硬化性組成物を得た。
【0129】
[粘度]
得られた硬化性組成物について、レオメーター(商品名「PHYSICA UDS200」、Anton Paar社製)を用い、温度25℃、せん断速度20(1/s)の条件下で粘度(mPa・s)を測定した。
【0130】
[UV硬化性]
シリコーン系樹脂(商品名「KE-1606」、信越化学工業(株)製)を硬化剤(商品名「CAT-RG」、信越化学工業(株)製)と混合した後、60℃で24時間、150℃で1時間保持して硬化させ、シリコーンモールドを作製した。得られた硬化性組成物をシリコーンモールド(底部)にディスペンシングし、厚みが0.2mmになるようにスペーサーをはさみこみ、シリコーンモールド(蓋部)を上から押し当てて型閉じを行った。その後、UV-LED(365nm)を用いて光照射(3000mJ/cm2)を行い、硬化物を得た。下記基準で硬化物の表面のUV硬化性を評価した。
<評価基準>
〇:タック性なし
×:タック性あり
【0131】
[屈曲試験]
JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠して、屈曲試験機(商品名「マンドレル屈曲試験機」、(株)東洋精機製作所製)を使用して、[UV硬化性]で得られた硬化物(厚みは0.2mm)を直径5mmのマンドレルに巻き付け、下記基準で可とう性(柔軟性)を評価した。
<評価基準>
○:硬化物の破断及びクラックが発生しなかった
×:硬化物の破断及びクラックが発生した
【0132】
[シリコーンモールドの膨潤性]
得られた硬化性組成物について、シリコーンモールドの膨潤性を下記方法で測定した。
シリコーン系樹脂(商品名「KE-1606」、ポリジメチルシロキサン、信越化学工業(株)製)を硬化剤(商品名「CAT-RG」、信越化学工業(株)製)と混合した後、60℃で24時間、150℃で1時間保持して硬化させ、シリコーンモールド(20mm×20mm×0.5mm)を作製した。
得られたシリコーンモールドの重量(浸漬前モールド重量)を測定した後、実施例及び比較例で得られた硬化性組成物に完全に浸漬させ、その状態で、25℃で24時間静置した。その後、シリコーンモールドを取り出し、表面に付着した硬化性組成物を払拭した後、重量を測定した(浸漬後モールド重量)。
シリコーンモールドの膨潤率は下記式から算出した。
シリコーンモールドの膨潤率(%)={(浸漬後モールド重量-浸漬前モールド重量)/浸漬前モールド重量}×100
<評価基準>
○:膨潤度5%未満
×:膨潤度5%以上
【0133】
以上の結果を表1にまとめる。
【0134】
【表1】
【0135】
上記表1における略称は、以下の通りである。
・硬化性化合物
(a-1):調製例1で得られた化合物:(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、SP値:9.69、分子量:194
KR-470:脂環式エポキシ基含有環状シロキサン4官能オリゴマー、商品名「KR-470」、SP値:9.1、分子量:740、信越化学工業(株)製
OXT221:ビス[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、SP値:、分子量:214.3、商品名「アロンオキセタンOXT-221」、東亞合成(株)製
YX7400N:ポリブチレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル化合物、エポキシ当量:450g/eq、重量平均分子量:900、商品名「YX7400N」、三菱ケミカル(株)製
YX8000:水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、エポキシ当量:205g/eq、SP値:9.19、分子量:353、商品名「YX8000」、三菱ケミカル(株)製
ED-506:ポリプロピレンオキシド骨格を有するグリシジルエーテル、エポキシ当量:300g/eq、商品名「ED-506」、(株)ADEKA製
ED-503G:脂肪族グリシジルエーテル、エポキシ当量:135g/eq、商品名「ED-503G」、(株)ADEKA製
・カチオン重合開始剤
CPI-101A:ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウム] ヘキサフルオロアンチモネート、商品名「CPI-101A」、サンアプロ(株)製
<酸化防止剤>
Irganox1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、商品名「Irganox 1010」、BASF製
HP-10:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、商品名「アデカスタブ HP-10」、ADEKA(株)製