(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177917
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090888
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 智志
(72)【発明者】
【氏名】古正 力亜
(72)【発明者】
【氏名】山田 康晴
(57)【要約】
【課題】金属電極を有する基板どうしを低い温度かつ低い圧力で、貼り合わせることが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決する半導体装置の製造方法は、複数の第1金属電極、および各前記第1金属電極を囲むように配置された第1絶縁部を有する第1基板、ならびに複数の第2金属電極、および各前記第2金属電極を囲むように配置された第2絶縁部を有する第2基板を準備する工程と、前記第1金属電極および/または前記第2金属電極上に、導電性インクをインクジェット法により塗布する工程と、前記第1基板および前記第2基板を、前記第1金属電極および前記第2金属電極が前記導電性インクまたはその固化物を介して対向するように重ねる工程と、加熱により、前記導電性インクまたはその固化物を焼成する工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1金属電極、および各前記第1金属電極を囲むように配置された第1絶縁部を有する第1基板、ならびに複数の第2金属電極、および各前記第2金属電極を囲むように配置された第2絶縁部を有する第2基板を準備する工程と、
前記第1金属電極および/または前記第2金属電極上に、導電性インクをインクジェット法により塗布する工程と、
前記第1基板および前記第2基板を、前記第1金属電極および前記第2金属電極が前記導電性インクまたはその固化物を介して対向するように重ねる工程と、
加熱により、前記導電性インクまたはその固化物を焼成する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記導電性インクまたはその固化物を焼成する工程における温度は、120℃以上300℃以下である、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属電極および/または前記第2金属電極は、銅を含む、
請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化、低消費電力化、大容量化、低コスト化等が求められており、回路基板の微細化や多層化、デバイスチップの高密度実装等が求められている。また特に、半導体装置の高性能化を目的として、異種デバイスチップを、回路基板上に狭い間隔(高密度)で実装することが求められている。
【0003】
従来、回路基板へのデバイスチップの実装は、はんだ接合等によって行われてきた。しかしながら、デバイスチップを高密度で実装しようとすると、隣接するデバイスチップのはんだ接合部どうしが接触してしまい、短絡が生じる等の課題があった。また、一般的に、はんだは熱伝導性が低いことから、はんだ接合部に熱が蓄積しやすく、デバイスが誤作動することもあった。さらに、はんだと電極との合金化が生じ、はんだ接合部が割れてしまうこと等もあった。
【0004】
そこで近年、2つの基板(例えば、回路基板およびデバイスチップ)の金属電極どうしを直接重ね合わせ、金属の拡散結合等によって金属電極どうしを接合する技術が検討されている(例えば特許文献1等)。当該技術では、接合部で発熱や割れ等が生じ難い。また、隣接する電極どうしが接触することも生じ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のように、金属電極どうしを拡散接合する方法(従来技術)について、
図1A~
図1Cを用いて説明する。当該方法では、まず、
図1Aに示すように、それぞれ金属電極111、121、およびその周囲に配置された絶縁部112、122を有する、2つの基板110、120を準備する。絶縁部112、122は、金属電極111、121を保護したり、2つの基板110、120の接合面における接合強度を高めたりするための部材である。
【0007】
そして、これらの基板110、120に対し、各金属電極111、121や各絶縁部112、112の表面を平滑化するため、例えば、化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)等の平坦化処理を行う。このとき、
図1Aや
図1Bに示すように、各金属電極111、121の高さと絶縁部112、122との高さの差が100nm以下になるように調整する必要がある。ただし、一般的に、絶縁部112、122の熱膨張率より、金属電極111、121の熱膨張率のほうが大きい。そのため、金属電極111、121の高さと絶縁部112、122の高さとを同一にしてしまうと、金属電極接合時の金属電極111、121の熱膨張によって、2つの絶縁部112、122の間に隙間が生じてしまう。一方、金属電極111、121の高さが、絶縁部112、122の高さに対して低すぎると、加熱してもこれらが十分に接触せず、2つの金属電極111、121を接合できない。したがって、金属電極111、121の高さをナノメートルオーダーで、調整する必要がある。
【0008】
そして、上記平滑化処理後、2つの基板110、120を、金属電極111、121どうしが対向するように重ね合わせて仮固定する(
図1B)。そして、2つの基板110、120どうしを押し付けながら加熱することで、2つの金属電極111、121間で金属拡散接合を生じさせる。これらの工程によって、2つの基板110、120の金属電極どうしが一体化した半導体装置が得られる(
図1C)。
【0009】
しかしながら、上記方法では、平滑化処理によって、金属電極111、121の厚みをナノメートルオーダーで調整することが非常に難しく、特に、基板が大きくなったり、接続するデバイスチップの数が多くなったりすると、厚み調整がさらに難しくなる、という課題があった。
【0010】
さらに、2つの金属電極111、121間で拡散接合を生じさせるためには、温度を400℃程度まで高めたり、基板110、120どうしを高い圧力で押し付けたりする必要がある。そのため、熱や圧力によって、基板(例えば、回路基板やデバイス)が劣化したり破損したりすることもある、という課題もあった。
【0011】
本発明は、金属電極を有する基板どうしを、低い温度かつ低い圧力で、貼り合わせることが可能な半導体装置の製造方法の提供、およびこれから得られる半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数の第1金属電極、および各前記第1金属電極を囲むように配置された第1絶縁部を有する第1基板、ならびに複数の第2金属電極、および各前記第2金属電極を囲むように配置された第2絶縁部を有する第2基板を準備する工程と、前記第1金属電極および/または前記第2金属電極上に、導電性インクをインクジェット法により塗布する工程と、前記第1基板および前記第2基板を、前記第1金属電極および前記第2金属電極が前記導電性インクまたはその固化物を介して対向するように重ねる工程と、加熱により、前記導電性インクまたはその固化物を焼成する工程と、を含む、半導体装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、金属電極を有する基板どうしを、低い温度かつ低い圧力で、貼り合わせることが可能である。また当該方法によれば、金属電極間の接合不良が生じ難く、高品質な半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1A~
図1Cは、従来の半導体装置の製造方法の工程を示す概略断面図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法に使用する基板の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の半導体の製造方法および半導体装置について、具体的な実施形態を例に説明する。ただし、本発明の半導体装置の製造方法および半導体装置は、当該実施形態に限定されない。
【0016】
1.半導体装置の製造方法
本発明の半導体装置の製造方法を、
図2A~
図2Cを参照して説明する。本発明の半導体装置の製造方法では、
図2Aに示すように、複数の第1金属電極11、および当該第1金属電極11を囲むように配置された第1絶縁部12を有する第1基板10、ならびに複数の第2金属電極21、および当該第2金属電極21を囲むように配置された第2絶縁部22を有する第2基板10を準備する(以下、「準備工程」とも称する)。続いて、
図2Bに示すように、第1金属電極11および第2金属電極21のうち、いずれか一方もしくは両方の上(
図2Bに示す態様では、第1金属電極11上のみ)にインクジェット法で導電性インク90を塗布する(以下、「導電性インク塗布工程」とも称する)。その後、
図2Cに示すように、第1基板10および第2に基板20を、第1金属電極11および第2金属電極21が導電性インク90(またはその固化物)を介して対向するように重ねる(以下、「積層工程」とも称する)。そして、加熱により導電性インク90(またはその固化物)を焼成する(以下、「焼成工程」とも称する)。
【0017】
上述のように、従来の金属拡散接合方法では、金属電極の高さを、ナノメートルオーダーで厳密に制御する必要があった。また、金属電極どうしを拡散接合させるためには、基板の温度を高め、基板に対して高い圧力をかける必要があった。これに対し、本発明の半導体装置の製造方法では、第1金属電極11および第2金属電極21の間に、インクジェット法により導電性インク90を塗布し、当該導電性インク90(またはその固化物)によって、第1金属電極11および第2金属電極21を接合する。したがって、第1金属電極11および第2金属電極21(以下、これらをまとめて「金属電極11、21」とも称する)の高さが、第1基板10および第2基板20(以下、これらをまとめて「基板10、20」とも称する)内でばらついていたとしても、導電性インク90の塗布量によって調整可能であり、確実に第1金属電極11および第2金属電極21を接合できる。つまり、金属電極11、21の高さを厳密に制御しなくてもよい、という大きな利点がある。
【0018】
またさらに、導電性インク90(またはその固化物)の焼成によって、第1金属電極11および第2金属電極21の接合を行う場合、基板10、20どうしを高い圧力で押圧する必要がない。さらに、焼成時の温度も比較的低い温度とすることが可能である。したがって、様々な種類のデバイスの接合に非常に有用である。また、従来の方法で複数の基板を積層する場合、一つの基板を積層するごとに、金属電極どうしを接合する必要があった。これに対し、本発明の半導体装置の製造方法によれば、複数の基板を、それぞれ導電性インクを介して積層し、その後、一括して導電性インクを焼成することも可能である。したがって、半導体装置の製造に要する時間が非常に短い、という利点もある。
【0019】
以下、本発明の半導体装置の製造方法の各工程について、詳しく説明する。
【0020】
(準備工程)
準備工程では、複数の第1電極11、およびこれを囲むように配置された第1絶縁部12を有する第1基板10と、複数の第2金属電極21、および各第2金属電極21を囲むように配置された第2絶縁部22を有する第2基板10と、をそれぞれ準備する。
【0021】
ここで、各基板10、20の構造は特に制限されないが、各基板10、20は通常、基板本体13、23(第1基板本体13、第2基板本体23)の一方の面、または両方の面にそれぞれ金属電極11、21、および絶縁部12、22が配置された構造を有する。また、2つの基板10、20の大きさ(面積)は特に制限されず、例えば
図2Aに示すように、2つの基板10、20の大きさが同一であってもよい。一方で、第1基板10がインターポーザー基板であり、第2基板20が各種デバイスチップである場合等のように、第1基板10および第2基板20の大きさが異なっていてもよい。また、
図3に示すように、いずれかの基板(ここでは第2基板20)が複数のデバイスチップから構成されていてもよい。
【0022】
また、基板本体13、23の構造は、基板10、20の種類に応じて適宜選択される。例えば、略直方体状の構造であってもよく、任意の凸部や凹部を有する構造であってもよい。さらに、
図3に示すように、基板本体13の一方の面から他方の面を繋ぐスルーホール(図示せず)等を有していてもよい。
【0023】
2つの基板本体13、23の構成材料は、それぞれの用途に応じて適宜選択され、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。基板本体13、23の構成材料の例には、Si、InP、GaN、GaAs、InGaAs、InGaAlAs、SiC等の半導体;ホウ素珪酸ガラス(パイレックス(登録商標))、石英ガラス(SiO2)、サファイア、ZrO2、Si3N4、AlN等の酸化物、炭化物、または窒化物;BaTiO3、LiNbO3,SrTiO3、ダイヤモンド等の圧電体または誘電体;Al、Ti、Fe、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、Ta、Nb等の金属;が含まれる。また、基板本体13、23の構成材料は樹脂であってもよく、その例には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリベンゾオキサゾール等が含まれる。また、基板本体13、23は、一層で構成されていてもよく、多層で構成されていてもよい。例えば上述の半導体の表面に、酸化ケイ素や、窒化ケイ素、SiCN(炭窒化ケイ素)等の無機物層;ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、エポキシ樹脂、シクロテン等を含む有機物層;または有機物と無機物との複合体層;等からなる層が形成されたものであってもよい。
【0024】
一方、第1金属電極11および第2電極21は、第1基板10および第2基板20を対向させたときに、それぞれ対向する位置に配置されていればよい。
図2Aに示すように、基板本体13、23の一方の面の表面のみに配置されていてもよく、基板本体13、23の両面に配置されていてもよい。さらに
図3の第1基板10のように、スルーホールを介して基板本体13の両側の金属電極11どうしが、接続されていてもよい。
【0025】
また、基板10、20の表面に露出している、個々の金属電極11、21の面積は特に制限されないが、平面視したときの径がサブミクロンから数百ミクロン程度であることが好ましく、20~80μmがより好ましい。金属電極11、21の径が上記範囲であると、後述の導電性インク塗布工程において、当該領域にインクジェット法で導電性インク90を塗布しやすくなる。さらに、導電性インク90の焼成物によって、確実に接続しやすくなる。
【0026】
ここで、2つの金属電極11、21の構成材料は、十分な導電性を有する材料であればよい。2つの金属電極11、21の構成材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。金属電極11、21の構成材料の例には、銅、錫、金、銀、アルミニウム、ニッケル等が含まれる。金属電極11、21は、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも特に、導電性や金属電極11、21の形成容易性の観点等から、銅が好ましい。
【0027】
絶縁部12、22は、第1基板10および第2基板20を対向させたときに、それぞれ対向する位置に、かつ各金属電極11、21の周囲を囲むように配置されていればよい。絶縁部12、22は、基板本体13、23上の、金属電極11、21が配置されている領域以外の全ての領域に配置されていてもよい。一方で、基板本体13、23の一部が露出するように、絶縁部12、22がパターン状に配置されていてもよい。
【0028】
また、絶縁部12、22の構成材料は、絶縁性を有していれば特に制限されない。2つの絶縁部12、22の構成材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。絶縁部12、22の構成材料の例には、SiO2等の無機材料や、絶縁性樹脂等が含まれる。また、絶縁部12、22は、1層のみで構成されていてもよく、2層以上で構成されていてもよい。
【0029】
本発明では、第1絶縁部12および第2絶縁部22のうちいずれか一方、または両方が、23℃における複合弾性率が10GPa以下である樹脂硬化物を含んでいることが特に好ましい。本発明で使用する基板10、20も、製造後、平坦化処理(例えば化学的機械研磨)されたものであることが好ましいが、平坦化処理を行うと、絶縁部12、22にスクラッチ傷等が生じることがある。そして、表面にスクラッチ傷が生じた絶縁部12、22を重ね合わせると、これらの間に空隙が生じる。当該状態で加熱(例えば後述の焼成工程)を行うと、2つの絶縁部12、22の界面で空気が膨張し、2つの基板10、20の貼り合わせに影響を及ぼすことがある。これに対し、少なくとも一方の絶縁部12、22が、上述の複合弾性率を有する樹脂硬化物を含むと、絶縁部12、22を対向させた際に、絶縁部12、22が適度に変形してスクラッチ傷を埋めることが可能である。したがって、2つの基板10、20の貼り合わせが阻害され難く、高品質な半導体装置が得られやすくなる。また、絶縁部12、22が樹脂硬化物を含むと、後述の導電性インク工程で導電性インク90を塗布した際に、その撥水性によって、導電性インク90が絶縁部12、22側に濡れ広がり難く、導電性インク90を金属電極11、21上にのみ塗布しやすくなる、という利点もある。
【0030】
ここで、上記樹脂硬化物の複合弾性率は、8GPa以下が好ましく、6GPa以下がより好ましい。一方、樹脂硬化物の複合弾性率は、0.1GPa以上が好ましく、1GPa以上がより好ましい。樹脂硬化物の複合弾性率が、0.1GPa以上であると、樹脂組成物(絶縁部)が過度に変形し難くなる。そのため、例えば複数の基板(多数のデバイスチップ)を高密度で実装しやすくなる。複合弾性率は、ナノインデンテーターを用い、試験深さ20nmの条件にて、23℃における除荷-変位曲線を測定し、参考文献(Handbook of Micro/nano Tribology (second Edition)、Bharat Bhushan編、CRCプレス社)の計算手法に従い、最大負荷及び最大変位から求められる値である。
【0031】
なお、本明細書において、「樹脂硬化物」とは、硬化性樹脂含む組成物を硬化させた組成物であって、硬化性樹脂が70%以上硬化反応している組成物、すなわち硬化率が70%以上である組成物をいう。未硬化の樹脂組成物を絶縁部12、22に使用することも可能であるが、樹脂硬化物を絶縁部12、22に使用すると、後述の積層工程で絶縁部12、22が過度に変形し難く、基板10、20の位置がずれたり、対向する金属電極11、21どうしの間に樹脂(絶縁部12、22)を噛みこんだり、基板10、20の外周側に絶縁部12、22がはみ出したりすることを抑制できる。また、一般的な樹脂硬化物は、表面が硬く、他の物質に密着し難いが、上述の複合弾性率を有する樹脂硬化物では、他の物質に密着可能である。したがって、第1絶縁部12および第2絶縁部22のうち、少なくとも一方が当該樹脂硬化物を含むと、積層工程において、第1の基板10および第2の基板20を重ね合わせるだけで、これらの位置を適切に固定することが可能である。
【0032】
当該樹脂硬化物は、架橋により、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、パリレン、ポリアリレンエーテル、テトラヒドロナフタレン、オクタヒドロアントラセン等の結合または構造が形成される硬化性樹脂;硬化によりポリベンゾオキサザール、ポリベンゾオキサジン等の窒素環含有構造が形成される硬化性樹脂;架橋によりSi-O等の結合又は構造が形成される硬化性樹脂;シロキサン変性化合物;の硬化物を含む。これらの中でも、架橋によりポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミド構造が形成される硬化性樹脂、および/またはシロキサン結合が形成される硬化性樹脂の硬化物を含むことが好ましく、特に両方の構造が形成される硬化性樹脂の硬化物を含むことが好ましい。すなわち、樹脂硬化物が、シロキサン結合と、アミド結合および/またはイミド結合と、を含むことが好ましい。このような樹脂硬化物を含む絶縁部を有する基板の形成方法については、後述する。
【0033】
ここで、上記基板10、20は、平坦化処理(例えば化学的機械研磨法)によって、絶縁部12、22および金属電極11、21の表面がそれぞれ平坦化されていることが好ましい。また、基板10、20の表面における金属電極11、21の高さは、絶縁部12、22の高さの高さと略同一であってもよいが、基板10、20の表面における、金属電極11、21の高さが、絶縁部12、22の高さより低く、その差が300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。基板10、20の表面において、絶縁部12、22の高さが金属電極11、21の高さより高いと、この段差を利用して、後述の導電性インク塗布工程において、所望の位置に導電性インク90を塗布しやすくなる。また、当該高低差があると、導電性インク90を所望の位置に留めやすくなる、という利点もある。なお、本発明では、金属電極11、21の高さが基板10、20内で多少ばらついていても、特に問題ない。
【0034】
(導電性インク塗布工程)
導電性インク塗布工程では、上述の第1金属電極11、および第2金属電極21のいずれか一方、もしくは両方の上に、インクジェット法で導電性インク90を塗布する。
【0035】
導電性インク90の塗布は、一般的なインクジェット装置によって行うことができる。導電性インク90の塗布装置(インクジェット装置)としては、インクタンクや、(インクジェット)記録ヘッド、記録ヘッドの駆動機構等を有する公知の装置とすることができる。また、記録ヘッドの方式は、インクジェット方式であれば特に制限されず、例えばピエゾ方式、バルブ方式、静電方式のいずれであってもよい。また、塗布時の条件は特に制限されず、所望の層の厚みやパターン等に合わせて適宜選択される。
【0036】
導電性インク90は、焼成後に十分な導電性を発現するインクであればよい。本明細書では、焼成後の膜の体積抵抗が、80マイクロΩ・cm以下であるインクを導電性インク90とする。焼成後の導電性インク90の体積抵抗は1.7~10マイクロΩ・cmが好ましく、8マイクロΩ・cm以下がより好ましい。焼成後の導電性インクの体積抵抗率は、ASTM D 991に記載の方法で測定することができる。
【0037】
ここで、導電性インク90は、例えば金属成分と、溶媒とを含む組成物とすることができる。金属成分は、金属単体であってもよいが、無機金属化合物や、有機金属化合物、錯体等であってもよい。ここで、導電性インク90が含む金属単体の例には、銅、銀、ニッケル、錫、金、白金、コバルト等が含まれる。また、無機化合物の例には、酸化銅、酸化銀等が含まれる。有機金属化合物の例には、オクチルアミン、シュウ酸等が含まれる。錯体の例には、アルカノールアミン-ギ酸銅等が含まれる
【0038】
一方、導電性インク90が含む溶媒の例には、アルコール、水等が含まれ、これらの中でもインクジェット装置から印刷を行いやすく、さらに半導体装置に影響を及ぼし難い等の観点でエチレングリコール類、イソプロピルアルコール(IPA)等が好ましい。
【0039】
さらに、導電性インク90は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、金属成分および溶媒以外の成分を含んでいてもよい。その例には、クエン酸、シュウ酸等が含まれる。
【0040】
導電性インク90における金属成分や溶媒等の量は、導電性インク90の粘度に応じて適宜選択される。例えば導電性インク90のE型粘度計によって25℃、20rpmで測定される粘度は、2~100mPa・sが好ましく、2~50mPa・sがより好ましく、2~40mPa・sがさらに好ましい。導電性インク90の粘度が当該範囲であると、上記インクジェット法で塗布しやすくなる。
【0041】
また、導電性インク90の表面張力は25~45mN/mが好ましく、27~42mN/mがより好ましく、30~40mN/mがさらに好ましい。表面張力は、25℃、Wilhelmy法により測定される値である。導電性インク90の表面張力が45mN/m以下であると、導電性インク90をインクジェット法で塗布した際に適度レベリングしやすく、金属電極11、21の表面をムラ無く被覆可能となる。一方で、導電性インク90の表面張力が25mN/m以上であると、インクジェット法で塗布した際に過度に濡れ広がり難く、金属電極11、21上にのみ塗布できる。
【0042】
上記導電性インク90の塗布後、導電性インク中の溶媒を除去しないで、後述の積層工程を行ってもよいが、必要に応じて、導電性インク中の溶媒を乾燥させてもよい。例えば、導電性インク90の塗布後、60~120℃に加熱を行ってもよい。導電性インク90の塗布後、加熱を行うことで、導電性インク90を金属電極11、21の表面に定着させやすくなる。
【0043】
(積層工程)
積層工程では、上述の第1基板10および第2基板20を、第1金属電極11および第2金属電極21が導電性インク90またはその固化物を介して対向するように重ねる。積層工程では、絶縁部12、22が未硬化または半硬化状態の樹脂組成物を含む場合等には、必要に応じて加熱を行い、第1基板10および第2基板20を固定してもよい。
【0044】
(焼成工程)
焼成工程では、上述の第1基板10および第2基板20を積層した状態で導電性インク90またはその固化物の焼成を行う。焼成時の温度は、100℃以上400℃以下が好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましい。焼成時の温度を120℃以上とすることで、導電性インク90中の金属成分が、第1電極11および第2電極21と一体化し、第1電極11および第2電極21を電気的に接合できる。さらに、焼成時の温度が200℃以下であれば、基板10、20に影響を及ぼし難い。
【0045】
焼成時間は、5~90分が好ましく、5~15分がより好ましい。当該範囲であると、導電性インク90中の溶媒を十分に除去できる。なお、上記絶縁部12、22が上述の樹脂硬化物を含む場合、導電性インク90から揮発した溶媒が絶縁部12、22(樹脂硬化物)に吸収されたり、絶縁部12、22を介して外部に放出したりしやすい。したがって、高品質な半導体装置が得られやすい。
【0046】
なお、焼成後に生じる、導電性インク90由来の層(本明細書では「接続層」とも称する)の厚みは、300nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。接続層の厚みが当該範囲であると、第1電極11および第2電極21の電気的導通に影響を及ぼし難く、高品質な半導体装置とすることができる。なお、接続層は、焼成工程による加熱によって拡散して消失することもある。
【0047】
(その他)
上述の半導体装置の製造方法では、第1基板および第2基板のみを接合する場合を説明したが、上述の方法によれば、さらに複数の基板を接合することも可能である。この場合、準備工程で、3つ以上の基板を準備し、導電性インク塗布工程および積層工程を繰り返して積層体を形成し、最後に一括して焼成工程を行えばよい。
【0048】
(好ましい基板の製造方法)
以下、上述の樹脂硬化物を含む絶縁部を有する基板の製造方法、および樹脂硬化物について説明する。当該基板の製造方法は、基板本体の所望の位置に金属電極および絶縁部を形成可能であれば、特に制限されない。例えば、基板本体の所望の位置に、金属電極を形成しておき、これを覆うように硬化性樹脂を含む組成物(以下、「絶縁材料」とも称する)を塗布して硬化させ、その後、化学的機械研磨によって、金属電極を露出させてもよい。また、基板本体の所望の位置に絶縁材料を塗布し、これを硬化させて絶縁部を形成した後、金属電極を形成してもよい。さらに、基板本体全面に絶縁材料を塗布し、これを硬化させた後、エッチング等によってパターニングを行い、基板本体が露出した領域に金属電極を形成してもよい。いずれの方法においても、化学的機械研磨を行い、金属電極および絶縁部の表面状態や高さ等を適宜調整することが好ましい。
【0049】
いずれの場合においても、金属電極は公知の方法で形成できる。金属電極の形成方法の例には、電解めっき、無電解めっき、スパッタリング、インクジェット法等が含まれる。
【0050】
一方、絶縁部は、後述の絶縁材料を用いて、各種方法で製造できる。以下、23℃における複合弾性率が10GPa以下である樹脂硬化物を含む絶縁部を形成するための具体的な絶縁材料や、絶縁部の形成方法、および絶縁部の物性について説明する。
【0051】
(1)絶縁材料
上述の23℃における複合弾性率が10GPa以下である樹脂硬化物を含む絶縁部を形成するための絶縁材料は、硬化性樹脂(A)と、架橋剤(B)と、必要に応じて添加剤(C)や極性溶媒(D)とを含む組成物であることが好ましい。以下、それぞれについて説明する。
【0052】
・硬化性樹脂(A)
硬化性樹脂(A)は、架橋により、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、パリレン、ポリアリレンエーテル、テトラヒドロナフタレン、オクタヒドロアントラセン等の結合または構造が形成される硬化性樹脂;硬化によりポリベンゾオキサザール、ポリベンゾオキサジン等の窒素環含有構造が形成される硬化性樹脂;架橋によりSi-O等の結合又は構造が形成される硬化性樹脂;シロキサン変性化合物;のいずれか一種、または二種以上であることが好ましい。
【0053】
これらの中でも、架橋によりポリイミド、ポリアミド、またはポリアミドイミド構造が形成される硬化性樹脂、および/またはシロキサン結合が形成される硬化性樹脂が好ましい。以下、このような硬化性樹脂を例に説明するが、硬化性樹脂はこれらに限定されない。
【0054】
好ましい硬化性樹脂(A)としては、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が90以上40万以下である硬化性樹脂が挙げられる。当該カチオン性官能基としては、正電荷を帯びることができ、かつ1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含む官能基であれば特に限定されない。当該硬化性樹脂(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子のほかに、3級窒素原子を含んでいてもよい。また、カチオン性官能基の他に、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等のアニオン性官能基や、ヒドロキシ基、カルボニル基、エーテル基(-O-)等のノニオン性官能基をさらに含んでいてもよい。
【0055】
本明細書において、「1級窒素原子」とは、窒素原子に水素原子以外の原子が1つ結合している窒素原子をいい、その例には、1級アミノ基の窒素原子等が含まれる。また。「2級窒素原子」とは、水素原子以外の原子が2つ結合している窒素原子をいう。「3級窒素原子」とは、水素原子以外の原子が3つ結合している窒素原子をいう。
【0056】
当該硬化性樹脂(A)が1級窒素原子を含む場合には、硬化性樹脂(A)中の全窒素原子中に占める1級窒素原子の割合が20モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
また、上記硬化性樹脂(A)が2級窒素原子を含む場合には、硬化性樹脂(A)中の全窒素原子中に占める2級窒素原子の割合が5モル%以上50モル%以下であることが好ましく、10モル%以上45モル%以下であることがより好ましい。
【0058】
上記硬化性樹脂(A)が3級窒素原子を含む場合には、硬化性樹脂(A)中の全窒素原子中に占める3級窒素原子の割合が20モル%以上50モル%以下であることが好ましく、25モル%以上45モル%以下であることがより好ましい。
【0059】
ここで、上記硬化性樹脂(A)の例には、脂肪族アミン化合物またはその誘導体(a1)、環構造を有するアミン化合物(a2)、シロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)等が含まれる。これらの中でも、上記硬化性樹脂(A)として、シロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)が特に好ましい。
【0060】
脂肪族アミン化合物またはその誘導体(a1)の具体例には、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミン、トリメチレンイミン、テトラメチレンイミン、ペンタメチレンイミン、ヘキサメチレンイミン、オクタメチレンイミン等のアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミンまたはその誘導体;ポリアリルアミン;ポリアクリルアミドが含まれる。
【0061】
上記ポリアルキレンイミンの誘導体の例には、ポリアルキレンイミンにアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基)やアリール基等を導入したポリエチレンイミン等の誘導体;ポリアルキレンイミンに水酸基等の架橋性基を導入した誘導体;ポリアルキレンイミンにカチオン性官能基含有モノマー(例えばアミノエチル基)を反応させて、ポリアルキレンイミンの分岐度を向上させて得られた高分岐型の誘導体が含まれる。
【0062】
上記硬化性樹脂(A)が脂肪族アミン化合物またはその誘導体(a1)である場合、その重量平均分子量は、1万以上20万以下が好ましい。当該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリエチレングリコール換算値である。具体的には、展開溶媒として硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用い、分析装置Shodex DET RI-101及び2種類の分析カラム(東ソー製 TSKgel G6000PWXL-CP及びTSKgel G3000PWXL-CP)を用いて流速1.0mL/minで屈折率を検出し、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイドを標準品として解析ソフト(Waters製 Empower3)にて算出される値である。
【0063】
一方、環構造を有するアミン化合物(a2)としては、分子内にSi-O結合を有さず、環構造を有する重量平均分子量90以上600以下のアミン化合物が好ましい。環構造を有するアミン化合物(a2)の例には、脂環式アミン化合物、芳香族アミン化合物、複素環(ヘテロ環)アミン化合物等が含まれ、中でもより安定であるとの観点で芳香族アミン化合物が好ましい。当該アミン化合物(a2)は、分子内に複数の環構造を有していてもよい。このとき、複数の環構造は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また特に、後述の架橋剤(B)とアミド、アミドイミド、またはイミド構造を形成して、樹脂の耐熱性が良好になりやすいとの観点で、当該アミン化合物(a2)は1級アミノ基を有することが好ましく、1級アミノ基を2つ以上有するジアミン化合物やトリアミン化合物がより好ましい。
【0064】
上記環構造を有するアミン化合物(a2)に相当する脂環式アミン化合物の例にはシクロヘキシルアミン、ジメチルアミノシクロヘキサン等が含まれる。
【0065】
上記環構造を有するアミン化合物(a2)に相当する芳香族アミン化合物の例には、ジアミノジフェニルエーテル、キシレンジアミン(好ましくはパラキシレンジアミン)、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、メチレンジアニリン、ジメチルジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノビフェニル、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジカルボキシジアミノジフェニルメタン、ジアミノレゾルシン、ジヒドロキシベンジジン、ジアミノベンジジン、1,3,5-トリアミノフェノキシベンゼン、2,2’-ジメチルベンジジン、トリス(4-アミノフェニル)アミン、2,7-ジアミノフルオレン、1,9-ジアミノフルオレン、ジベンジルアミン等が含まれる。
【0066】
上記環構造を有するアミン化合物(a2)に相当する複素環アミンの例には、メラミン、アンメリン、メラム、メレム、トリス(4-アミノフェニル)アミン等が含まれる。また、上記アミン化合物(a2)は、複素環と芳香環の両方を有するアミン化合物であってもよく、その例には、N2,N4,N6-トリス(4-アミノフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン等が含まれる。
【0067】
硬化性樹脂(A)が環構造を有するアミン化合物(a2)である場合、当該化合物の分子量は90以上600以下が好ましい。
【0068】
一方、シロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)の例には、シロキサンジアミン、およびシロキサン結合およびアミノ基を有するシランカップリング剤またはその重合体が含まれる。
【0069】
上記シロキサンジアミンの例には、下記化学式で表される化合物が含まれる。
【化1】
上記化学式において、Meはメチル基を表し、iは0~4の整数を表し、jは1~3の整数を表す。当該化学式で表される化合物の具体例には、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(上記化学式においてi=0、j=1)、1,3-ビス(2-アミノエチルアミノ)プロピルテトラメチルジシロキサン(上記化学式において、i=1、j=1)が含まれる。
【0070】
一方、シロキサン結合およびアミノ基を有するシランカップリング剤の例には、下記化学式で表される化合物が含まれる。
【化2】
上記化学式において、R
1は置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。R
2及びR
3は、それぞれ独立に、置換(骨格にカルボニル基、エーテル基等を含んでもよい)されていてもよい炭素数1~12のアルキレン基、エーテル基又はカルボニル基を表す。R
4及びR
5は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキレン基又は単結合を表す。Arは2価又は3価の芳香環を表す。X
1は水素又は置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。X
2は水素、シクロアルキル基、ヘテロ環基、アリール基又は置換(骨格にカルボニル基、エーテル基等を含んでもよい)されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、を表す。複数のR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、X
1は同じであっても異なっていてもよい。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、X
1、X
2におけるアルキル基及びアルキレン基の置換基としては、それぞれ独立に、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン等が挙げられる。p1は0~2の整数を表し、q1は1~3の整数を表す。このとき、p1+q1=3である。またn1は1~3の整数を表し、r1、s1、t1、u1、v1、およびw1はそれぞれ0または1を表す。
【0071】
上記式で表される、シロキサン結合およびアミノ基を有するシランカップリング剤の具体例には、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-11-アミノウンデシルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリエトキシシラン、メチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N-[2-[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、トリメトキシ[2-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル]シラン、ジアミノメチルメチルジエトキシシラン、メチルアミノメチルメチルジエトキシシラン、p-アミノフェニルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、(フェニルアミノメチル)メチルジエトキシシラン、アセトアミドプロピルトリメトキシシラン、およびこれらの加水分解物が含まれる。
【0072】
また、上記以外のシロキサン結合およびアミノ基を有するシランカップリング剤の例には、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス[(3-トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ピペラジニルプロピルメチルジメトキシシラン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、2,2-ジメトキシ-1,6-ジアザ―2-シラシクロオクタン、3,5-ジアミノ-N-(4-(メトキシジメチルシリル)フェニル)ベンズアミド、3,5-ジアミノ-N-(4-(トリエトキシシリル)フェニル)ベンズアミド、5-(エトキシジメチルシリル)ベンゼン-1,3-ジアミン、およびこれらの加水分解物が含まれる。
【0073】
なお、硬化性樹脂(A)として、上記シロキサン結合およびアミノ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有さない、メルカプト基を有するシランカップリング剤等とを組み合わせてもよい。
【0074】
また、上記シロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)は、上記シランカップリング剤の重合体であってもよい。上述のシランカップリング剤を加水分解重合させることで、シロキサン結合(Si-O-Si)を介してシランカップリング剤どうしが重合した重合体が得られる。当該重合体の構造は特に制限されず、重合体は、線形シロキサン構造、分岐状シロキサン構造、環状シロキサン構造、かご状シロキサン構造のいずれの構造を有していてもよい。
【0075】
上記硬化性樹脂(A)がシロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)である場合には、当該化合物(a3)中のケイ素原子の数に対する、1級窒素原子及び2級窒素原子の合計数の比(1級窒素原子及び2級窒素原子の合計数/ケイ素原子の数)は0.2以上5以下が好ましい。上記比が当該範囲であると、平滑な絶縁部が得られやすい。
【0076】
また、上記硬化性樹脂(A)がシロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)である場合、基板本体や対向する絶縁部との接着性等の観点で、当該化合物(a3)中のケイ素原子のモル数に対する、ケイ素原子に結合する非架橋性基(例えばメチル基)のモル数の比(非架橋性基のモル数/ケイ素原子のモル数)が2未満であることが好ましい。これにより、絶縁部中の架橋密度が高まり、さらに基板本体や対向する絶縁部との密着性が高まる。
【0077】
さらに、硬化性樹脂(A)がシロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)である場合、その重量平均分子量は130以上10000以下が好ましく、130以上5000以下がより好ましく、130以上2000以下がさらに好ましい。当該重量平均分子量は、上述の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリエチレングリコール換算値である。
【0078】
ここで、平滑な絶縁部が得られやすいとの観点で、硬化性樹脂(A)が脂肪族アミン化合物(a1)またはシロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)であることが好ましく、耐熱性の観点で、シロキサン結合およびアミノ基を有する化合物(a3)がより好ましい。
【0079】
絶縁材料の固形分中の硬化性樹脂(A)の量は特に制限されないが、1質量%以上82質量%以下が好ましく、5質量%以上82質量%以下がより好ましく、13質量%以上82質量%以下がさらに好ましい。
【0080】
・架橋剤(B)
上記硬化性樹脂(A)を架橋させるための架橋剤(B)としては、分子内に-C(=O)OX基(以下、「COOX基」とも称する。Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、そのうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基(以下、「COOH基」とも称する。)であり、重量平均分子量が200以上600以下である化合物が好ましい。
【0081】
架橋剤(B)中のCOOX基の数は、3以上であればよく、3以上6以下が好ましく、3または4がより好ましい。また、COOX基中のXは、水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基であればよく、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基が好ましい。なお、複数のCOOX基中のXは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0082】
また、架橋剤(B)中のCOOH基の数は、6以下であればよく、1以上4以下が好ましく、2以上4以下がより好ましく、2または3がさらに好ましい。
【0083】
架橋剤(B)の重量平均分子量は200以上600以下であればよく、200以上400以下がより好ましい。
【0084】
架橋剤(B)は、分子内に環構造を有することが好ましい。環構造は、脂環構造、芳香環構造のいずれであってもよい。また、架橋剤(B)は、分子内に複数の環構造を有していてもよく、このとき、複数の環構造は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0085】
脂環構造を構成する炭素数は3以上8以下が好ましく、4以上6以下がより好ましい。また、脂環構造は飽和であっても不飽和であってもよい。脂環構造の例には、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の飽和脂環構造;シクロプロペン環、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環等の不飽和脂環構造が含まれる。
【0086】
芳香環構造の例には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ペリレン環等のベンゼン系芳香環;ピリジン環、チオフェン環などの芳香族複素環、インデン環、アズレン環等の非ベンゼン系芳香環が含まれる。
【0087】
架橋剤(B)が分子内に有する環構造は、上記の中でも、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環、およびナフタレン環からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、絶縁部と基板本体や、対向する絶縁部との接着性を高める観点で、ベンゼン環およびナフタレン環が好ましい。なお、ベンゼン環を含む構造の例には、ビフェニル構造、ベンゾフェノン構造、ジフェニルエーテル構造等も含まれる。
【0088】
また、架橋剤(B)は、分子内にフッ素原子を有することも好ましい。架橋剤(B)中のフッ素原子の数は、1以上6以下が好ましく、3以上6以下がより好ましい。架橋剤(B)は、例えば、トリフルオロアルキル基や、ヘキサフルオロイソプロピル基等のアルキル基を有していてもよい。
【0089】
ここで、架橋剤(B)は、上述の複数のCOOX基の全てがCOOH基であるカルボン酸化合物であってもよく、上述の複数のCOOX基のうち、少なくとも1つのCOOX基のXが、炭素数1以上6以下のアルキル基(すなわち、エステル基を含む基)であるカルボン酸エステル化合物のいずれであってもよい。架橋剤(B)がカルボン酸化合物である場合、COOH基の数は4以下が好ましく、3または4がより好ましい。架橋剤(B)がカルボン酸エステル化合物である場合、COOH基の数およびエステル基の数はいずれも3以下が好ましく、COOH基およびエステル基の数はいずれも2以下がより好ましい。
【0090】
上記カルボン酸化合物の具体例には、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸等の脂環カルボン酸;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸等のベンゼンカルボン酸;1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸等のナフタレンカルボン酸;3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、4,4’-オキシジフタル酸、3,4’-オキシジフタル酸、1,3-ビス(フタル酸)テトラメチルジシロキサン、4,4’-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル酸(4,4'-(Ethyne-1,2-diyl)diphthalic acid)、4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-(1,4-phenylenebis(oxy))diphthalic acid)、4,4’-([1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-([1,1'-biphenyl]-4,4'-diylbis(oxy))diphthalic acid)、4,4’-((オキシビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-((oxybis(4,1-phenylene))bis(oxy))diphthalic acid)等のジフタル酸;ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸等のペリレンカルボン酸;アントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸等のアントラセンカルボン酸;4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、9,9-ビス(トリフルオロメチル)-9H-キサンテン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、1,4-ジトリフルオロメチルピロメリット酸等のフッ化芳香環カルボン酸が含まれる。
【0091】
一方、架橋剤(B)がカルボン酸エステル化合物である場合、エステル結合を構成するアルキル基、すなわちCOOX基におけるXは、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、絶縁部形成時の硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)との会合による凝集をより抑制する点から、エチル基またはプロピル基がより好ましい。
【0092】
カルボン酸エステル化合物の具体例には、上記カルボン酸化合物の少なくとも1つのカルボキシ基の水素基がアルキル基に置換された化合物(以下、「ハーフエステル」とも称する)が含まれる。好ましいハーフエステルの例には、下記一般式(B-1)~(B-6)で表される化合物が含まれる。
【化3】
一般式(B-1)~(B-6)におけるRは、それぞれ独立に炭素数1以上6以下のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、エチル基またはプロピル基がより好ましい。また、一般式(B-2)におけるYはO、C=O、またはC(CF
3)
2からなる群から選ばれる基を表す。当該ハーフエステルは、上述のカルボン酸化合物の無水物(カルボン酸無水物)を、アルコール溶媒に混合し、カルボン酸無水物を開環させて生成することが可能である。
【0093】
ここで、絶縁材料の固形分中の架橋剤(B)の量は、特に制限されず、例えば、硬化性樹脂(A)由来の窒素原子の総量に対する、架橋剤(B)由来のカルボニル基の総量の比(カルボニル基の総量/窒素原子の総量)が、0.1以上3.0以下となる量であることが好ましい。上記比は、0.3以上2.5以下がより好ましく、0.4以上2.2以下がさらに好ましい。なお、当該カルボニル基は、イミド架橋またはアミド架橋中、アルキルエステル中、またはカルボキシ基中のカルボニル基である。上記比が0.1以上3.0以下であると、絶縁部の耐熱性が良好になりやすい。
【0094】
・添加剤(C)
添加剤の例には、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(c-1)、窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の環構造を有しない塩基(c-2)が含まれる。なお、絶縁部形成時に、通常当該添加剤(C)は揮発するが、絶縁部中に、当該添加剤(C)や当該添加剤(C)由来の構造が一部残存していてもよい。
【0095】
添加剤(C)として、上記酸(c-1)を含むと、硬化性樹脂(A)および架橋剤(B)の会合による凝集が抑制されやすくなると考えられる。より詳細には、硬化性樹脂(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと酸(c-1)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用(例えば、静電相互作用)が、硬化性樹脂(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、上記凝集が抑制されると推測される。
【0096】
当該酸(c-1)の例には、モノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、オキシジカルボン酸化合物等が含まれ、具体例には、ギ酸、酢酸、マロン酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酪酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、フタル酸、テレフタル酸、ピコリン酸、サリチル酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸等が含まれる。
【0097】
絶縁材料中の酸(c-1)の量は、硬化性樹脂(A)中の全窒素原子の数に対する酸(c-1)中のカルボキシ基の数の比(COOH/N)が、0.01以上10以下となるように調整することが好ましい。当該比は、0.02以上6以下がより好ましく、0.5以上3以下がさらに好ましい。
【0098】
一方、添加剤(C)として、上記塩基(c-2)を含むと、上述の架橋剤(B)におけるカルボキシ基と塩基(c-2)におけるアミノ基とがイオン結合を形成することで、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)との会合による凝集が抑制されると推測される。より詳細には、架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンと塩基(c-2)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンとの相互作用が、硬化性樹脂(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、上記凝集が抑制されると推測される。
【0099】
上記塩基(c-2)の例には、モノアミン化合物、ジアミン化合物等が含まれ、具体例には、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N-アセチルエチレンジアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、N-(2-アミノエチル)グリシン等が含まれる。
【0100】
絶縁材料中の塩基(c-2)の量は、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対して、塩基(c-2)中の窒素原子の数の比(N/COOH)が、0.5以上5以下となるように調整することが好ましい。当該比は、0.9以上3以下がより好ましい。
【0101】
また、絶縁材料は、添加剤(C)として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリエトキシシリルメタン、ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサン、1,3,5,7-テトラメチル―1,3,5,7-テトラヒドロキシルシクロシロキサン、1,1,4,4-テトラメチル-1,4-ジエトキシジシルエチレン、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサンまたはこれら由来の構造を含んでいてもよい。これらを含むと、絶縁部の絶縁性が高まりやすい。
【0102】
絶縁材料は添加剤(C)として、後述の極性溶媒(D)以外の溶媒、例えばノルマルヘキサン等を含んでいてもよい。さらに、絶縁材料は、電気特性改善のために、フタル酸や安息香酸、またはこれらの誘導体をさらに含んでいてもよい。さらにベンゾトリアゾールまたはその誘導体を添加剤(C)として含んでいてもよい。絶縁材料がこれらを含むと、金属電極の腐食が抑制されやすい。
【0103】
なお、添加剤として酸(c-1)を用いる場合、絶縁材料を調製する際、酸(c-1)および硬化性樹脂(A)の混合物と、架橋剤(B)と、を混合することが好ましい。すなわち、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)とを混合する前に、硬化性樹脂(A)と酸(c-1)とを予め混合しておくことが好ましい。これにより、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)とを混合した際の、溶液の白濁及びゲル化を抑制することができる。また、添加剤として塩基(c-2)を用いる場合、塩基(c-2)および架橋剤(B)の混合物と、硬化性樹脂(A)と、を混合することが好ましい。すなわち、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)とを混合する前に、架橋剤(B)と塩基(c-2)とを予め混合しておくことが好ましい。これにより、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)とを混合した際の溶液の白濁及びゲル化を抑制できる。
【0104】
・極性溶媒(D)
絶縁材料は、極性溶媒(D)を含んでいてもよい。本明細書において、極性溶媒(D)とは、室温における比誘電率が5以上である溶媒をいう。極性溶媒(D)の例には、水、重水等のプロトン性無機化合物;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;フルフラール、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサン等のアルデヒド・ケトン類;無水酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアルデヒド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド等の酸誘導体;アセトニトリル、プロピロニトリル等のニトリル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物が含まれる。中でもプロトン性溶媒が好ましく、水を含むことがより好ましく、超純水を含むことがさらに好ましい。
【0105】
絶縁材料中の極性溶媒(D)の量は、特に限定されず、絶縁材料全体に対して1.0質量%以上99.99896質量%以下が好ましく、40質量%以上99.99896質量%以下がさらに好ましい。極性溶媒(D)の沸点は、絶縁部を形成する際に揮発させる観点から、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0106】
(2)絶縁部の形成方法
上記樹脂を含む絶縁部は、上述の絶縁材料を用いて、蒸着重合、CVD(化学蒸着)法、ALD(原子層堆積)法等の気相成膜法;ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法等の塗布法;により、基板本体上に堆積または塗布することによって、形成可能である。これらの中でも、塗布法が好ましい。塗布法の中でも、ミクロンサイズの膜厚を有する絶縁部を形成する場合、バーコート法が好ましく、ナノサイズ(数nm~数百nm)の膜厚を有する絶縁部を形成する場合、スピンコート法が好ましい。なお、上記絶縁材料の塗布量は、絶縁部の所望の厚みに応じて適宜調整すればよい。
【0107】
絶縁材料を塗布法によって塗布する場合、塗布後、硬化性樹脂(A)を硬化させて(硬化性樹脂(A)および架橋剤(B)を反応させて)絶縁部を形成する。このとき、塗膜を加熱し、塗膜中の極性溶媒(D)を除去したり、硬化性樹脂(A)と架橋剤(B)とを反応させたりすることが好ましい。加熱温度は、150℃~450℃が好ましく、180℃~400℃がより好ましい。当該温度は、塗膜表面の温度を指す。また、加熱時の圧力は特に制限はなく、絶対圧17Pa超大気圧以下が好ましい。絶対圧は、1000Pa以上大気圧以下がより好ましく、5000Pa以上大気圧以下がさらに好ましく、10000Pa以上大気圧以下が特に好ましい。当該加熱は、炉またはホットプレートを用いた通常の方法で行うことができる。また、加熱時の雰囲気は特に制限されず、大気雰囲気下でもよく、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)雰囲気下でもよい。さらに、加熱時間も特に制限されず、3時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。加熱時間を短縮するため、塗膜の表面に紫外線(UV)照射を行ってもよい。紫外線としては波長170nm~230nmの紫外光、波長222nmエキシマ光、波長172nmエキシマ光等が好ましい。なお、紫外線照射を行う場合には、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0108】
(3)絶縁部の物性
上記絶縁材料を硬化させて得られる(上述の積層工程前の)絶縁部の硬化率は、積層工程における基板どうしのずれを抑制する観点から、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、93%以上がより一層好ましい。また、絶縁部の硬化率は、100%であってもよく、99%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
【0109】
絶縁部が硬化しているか否かは、例えば、特定の結合及び構造のピーク強度をFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)で測定して確認することができる。特定の結合及び構造としては、架橋反応により発生する結合及び構造等が挙げられる。例えば、アミド結合、イミド結合、シロキサン結合、テトラヒドロナフタレン構造、オキサゾール環構造等が形成された場合に、絶縁材料が硬化していると判断でき、これらの結合、構造等に由来するピーク強度をFT-IRで測定して確認すればよい。アミド結合は、約1650cm-1及び約1520cm-1の振動ピークの存在で確認することができる。イミド結合は、約1770cm-1及び約1720cm-1の振動ピークの存在で確認することができる。シロキサン結合は、1000cm-1~1080cm-1の間の振動ピークの存在で確認することができる。テトラヒドロナフタレン構造は、1500cm-1の間の振動ピークの存在で確認することができる。オキサゾール環構造は、約1625cm-1及び約1460cm-1の振動ピークの存在で確認することができる。
【0110】
また、上記硬化率は、例えば、基板本体に塗布する前の絶縁材料中の特定の結合および構造のピーク強度(イミド、アミド等のように複数のピークを有する場合はそれらピーク強度の合計)をFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)で測定し、ピーク強度の増加率または減少率を求めて確認できる。なお、シロキサン結合等の様にピーク分離が困難な帯状のピークを有する場合、最大のピーク強度を採用すればよい。
【0111】
具体的には、硬化反応により特定の結合及び構造が発生する場合、ピーク強度の増加率を以下の式により算出し、その算出した値を絶縁部の硬化率とすることができる。
ピーク強度の増加率(絶縁部の硬化率)=[(絶縁材料の特定の結合及び構造のピーク強度)/(加熱後の特定の結合及び構造のピーク強度)]×100
【0112】
なお、バックグラウンド信号除去については通常の方法により行えばよい。また、必要に応じてFT-IR測定は透過法又は反射法により行うことができる。上記ピーク強度の増加率では、ピーク強度の増加する結合や構造が、複数存在する場合、ピーク強度を複数のピーク強度の合計強度と読み替えてもよい。
【0113】
また、絶縁部の表面におけるシリコン量は、20原子%以下であることが好ましく、15原子%以下であることがより好ましく、10原子%以下であることが更に好ましい絶縁部の表面におけるシリコン量はX線光電子分光装置(XPS)による原子比測定で評価できる。具体的には、XPS(例えばAXIS-NOVA(KRATOS社製))を用い、ワイドスペクトルにおいて検出された各元素の合計量を100%としたときの、ナロースペクトルのピーク強度から、原子比を測定することができる。
【0114】
絶縁部の23℃における複合弾性率は、上述のように、10GPa以下が好ましく、8GPa以下がより好ましく、6GPa以下がさらに好ましい。また、絶縁部の23℃における複合弾性率は、基板のアラインメントのずれを好適に抑制する点から、0.1GPa以上が好ましく、1GPa以上がより好ましい。
【0115】
また、絶縁部は、第1基板および第2基板の接合強度を高める点から、絶縁部の表面に化学的結合を形成し得る官能基を有していることが好ましい。このような官能基の例には、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、シラノール基(Si-OH基)等が含まれ、耐熱性の点から、シラノール基が好ましい。これらの官能基は、上述の方法によって絶縁部を形成した後にプラズマ処理や、薬品処理、UVオゾン処理等の表面処理により導入してもよく、シランカップリング剤処理等により導入してもよい。あるいは、これらの官能基を含む化合物を、絶縁材料中に混合してもよい。
【0116】
また、絶縁部は、表面にSi-OH基を有することが好ましい。絶縁部の表面がSi-OH基を有することにより、第1基板及び第2基板を接合する際に、仮固定を低温で行うことが可能となる。さらに、得られる半導体装置の第1基板および第2基板の界面での接合強度を大きくすることが可能となる。第1基板および第2基板の絶縁部の接合界面の表面エネルギーは2.5(J/m2)以上であることが好ましい。
【0117】
絶縁部の表面がSi-OH基を有するか否かは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による絶縁部の表面分析で評価できる。具体的には、TOF-SIMSであるPHI nanoTOFII(アルバック・ファイ株式会社)を用い、質量電荷比(m/Z)45のピークの有無から、絶縁部の表面がSi-OH基を有するか否かを評価できる。
【0118】
2.半導体装置
本発明の半導体装置について、説明する。本発明の半導体装置は、複数の第1金属電極、および各前記第1金属電極を囲むように配置された第1絶縁部を有する第1基板と、複数の第2金属電極、および各前記第2金属電極を囲むように配置された第2絶縁部を有する第2基板とが、前記第1金属電極および前記第2金属電極が対向するように積層された半導体装置であり、前記第1金属電極および前記第2金属電極が、金属を含む接続層を介して接続されている。なお、接続層の厚みは、300nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。
【0119】
ここで、当該半導体装置は、上述の半導体装置の製造方法によって製造可能であるが、当該製造法方法に限定されない。また、各部材は、上述の半導体装置の製造方法で説明した各部材と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。なお、本発明の半導体装置における接合層は、上述の導電性インクの塗布および焼成によって形成された層である。
【実施例0120】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0121】
(実施例)
・絶縁材料の調製
硬化性樹脂として、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン(3APDES;(3-Aminopropyl)diethoxymethylsilane)2gの加水分解物を準備し、架橋剤としてピロメリット酸ハーフエステル(下記一般式(B-1)におけるRがエチル基)1.6gを準備した。これらを水、エタノール及び1-プロパノールの混合溶液(水:エタノール:1-プロパノール=31.3:31.7:33.4、質量比)96.4gに加え、絶縁材料とした。
【化4】
【0122】
・第1基板および第2基板の準備
シリコン基板本体上に、円柱状の銅電極(直径22μm、高さ2.8μm、ピッチ40μm)を形成し、50mm×50mmの大きさに切断した。その後、銅電極が形成された面が鉛直上側になるようにスピンコーターの上にのせ、絶縁材料2.0mLを10秒間一定速度で滴下し、23秒間保持した後、2000rpmで1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。絶縁材料を塗布した基板本体を窒素雰囲気下、200℃で30分間加熱した。これにより、絶縁部(銅電極が形成されていない領域の厚さ2.8μm、23℃における複合弾性率5.8GPaである絶縁部を形成した。銅電極上にも絶縁部が形成された。同様に、基板本体、金属電極、および絶縁部を有する基板を準備した。なお、複合弾性率は、ナノインデンテーター(商品名TI-950 Tribo Indenter、Hysitron社製、Berkovich型圧子)を用い、試験深さ20nmの条件にて23℃における除荷-変位曲線を測定し、参考文献(Handbook of Micro/nano Tribology (second Edition)、Bharat Bhushan編、CRCプレス社)の計算手法に従い、最大負荷及び最大変位から、23℃における複合弾性率を計算により求めた。
【0123】
上記2つの基板を、CMP装置(ARW―8C1MS(エム・エー・ティ社製))を用いて、シリカ配合スラリ(COMPOL80(フジミインコーポレーテッド社製))で研磨し、銅電極上の絶縁材料を除去し、銅電極を露出させた。そして、CMP後の基板をCMP後洗浄液(CMP-B01(関東化学社製))で洗浄した。CMP後の銅電極が形成されていない領域の絶縁部の厚さは2.4μmであり、絶縁部の表面粗度(Ra、走査型プローブ顕微鏡で測定)は0.60nmであった。また、接触式表面段差計(Profilometer P16+(KLAテンコール社製))を用いて、絶縁部表面と、露出した銅電極との段差を測定したところ、銅電極が絶縁部の表面よりも60nm凸となっていた。
【0124】
続いて、過酸化水素及びシリカが配合されたスラリで、銅電極の研磨を行い、CMP後の基板をCMP後洗浄液(CMP-B01(関東化学社製))で洗浄した。CMP後の銅電極が形成されていない領域の絶縁部の厚さは2.3μmであった。また、接触式表面段差計を用いて、絶縁部と露出した銅電極の段差を測定したところ、絶縁部の表面よりも銅電極が100nm凹となっていた。これらを第1の基板および第2の基板とした。
【0125】
・導電性インクジェットインクの塗布
導電性インクとして、ギ酸銅錯体、または錯体と金属ナノ粒子を含むインク(三井化学社製)を準備した。当該導電性インクを、エプソン社製インクジェット装置のインクタンクに充填し、上記第1の基板の金属電極上に、単位面積当たりの塗布量が0.5μg/dotとなるように、塗布した。
【0126】
・第1基板および第2基板の積層
上述の第1基板および第2基板を、上記導電性インクを介して金属電極どうしが対向するように対向させた。
【0127】
・導電性インクの焼成
第1基板および第2基板を対向させた状態で、250℃で、15分加熱した。
【0128】
(比較例)
上記実施例と同様に、第1基板および第2基板を準備した。そして、これらを250℃で、圧力350Nで押し付けながら、15分加熱し、金属電極どうしを拡散接合させて、半導体装置を得た。
【0129】
(結果)
得られた半導体装置の金属電極どうしの接合状態を断面SEMイメージにより評価したところ、実施例では、金属間の接合が観察され、比較例では、未接合であった。
本発明の半導体装置の製造方法によれば、金属電極を有する2つの基板を、低い温度かつ低い圧力で貼り合わせることが可能であり、効率よく半導体装置を製造できる。したがって、各種半導体装置を製造する際に、非常に有用である。