(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177926
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】金属セラミックス複合基板の表面傷検出方法、及び、その装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20231207BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231207BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20231207BHJP
【FI】
G01N21/956 B
G06T7/00 350C
G06V10/82
G06T7/00 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090899
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】鄒 敏
(72)【発明者】
【氏名】景山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
(72)【発明者】
【氏名】菅原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐司
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA65
2G051AB01
2G051AB02
2G051BB03
2G051CA04
2G051EA11
2G051EB05
2G051ED21
5L096BA03
5L096CA17
5L096EA43
5L096HA11
5L096JA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】画像処理と機械学習の手法を用いて、金属セラミックス複合基板の機械による傷の判別をする技術において精度を向上させる。
【解決手段】金属セラミックス複合基板の傷検出において、金属セラミックス複合基板を撮像し、撮像により得られた画像から線形フィルタを用いて傷候補領域を抽出し、傷候補領域に対して畳み込みニューラルネットワークにより傷候補領域に傷が含まれるか否かを判別する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属セラミックス複合基板の傷を検出する方法であって、
前記金属セラミックス複合基板を撮像し、
前記撮像により得られた画像から線形フィルタを用いて傷候補領域を抽出し、
前記傷候補領域に対して畳み込みニューラルネットワークにより前記傷候補領域に傷が含まれるか否かを判別する、
金属セラミックス複合基板の表面傷検出方法。
【請求項2】
金属セラミックス複合基板の傷を検出する装置であって、
撮像装置と、
前記撮像装置で得られた画像を処理する傷判別装置と、を備え、
前記傷判別装置は、前記画像を線形フィルタにより画像処理して傷候補領域を抽出し、前記傷候補領域に対して畳み込みニューラルネットワークにより傷候補領域に傷が含まれるか否かを判別する演算を行う、
金属セラミックス複合基板の傷検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属セラミックス複合基板に生じる表面傷を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や電気鉄道のモーター駆動制御、及び、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーに関する分野において、電力の変換と制御を高効率で行うパワーモジュールが普及している。パワーモジュールは基板及び該基板に固定された半導体チップを備えている。パワーモジュールでは大電流を取り出すために、基板に高い電気的絶縁性が求められる。また、大電流を制御するために、実動時の半導体チップは発熱により温度が上昇するので、基板には高い放熱性も要求される。その他にも、基板にはパワーモジュールの小型化や高出力化のため、信頼性(ヒートサイクル耐量)、抗折強度(曲げ強度)、組立性(半田濡れ性、ワイヤーボンディング性)が求められている。そのために、基板としてセラミックス基材に金属層が積層された金属セラミックス複合基板が広く用いられている。
【0003】
金属セラミックス複合基板(以下、単に「基板」と記載することがある。)は多数の微細な結晶粒から構成された多結晶体である。そして隣り合う結晶粒の界面を形成する結晶粒界は結晶内部とは原子配列が異なるために様々な異なる性質を示すことがあり、基板全体の機械的・電気的・熱的といった多くの材料特性に影響を与える。
【0004】
一方、基板の製造工程では、基板に傷、クラック、しみ、及び、外周欠けなどの傷が発生する場合がある。そのため、基板の外観から傷の有無を判別する必要があり、判別は人手による判別と機械による判別に大別される。人手による判別では基板を様々な角度から目視することで傷を検出する。これに対して機械による判別では、基板を撮影し、2値化を基本とした画像処理を行うことで傷を検出している。
【0005】
例えば特許文献1には傷を検出する技術が開示されている。具体的には、光を透過させる基板と当該基板に対して取り付けられた電極とを含む画像を取得し、この画像から検出対象を抽出して複雑度が判定基準以上である検出対象を傷として検出する。
また、特許文献2には、画像検査装置が開示されている。この画像検査装置は、新たに取得された検査対象画像に対し通常検査処理を適用し、良品判定又は不良品判定が可能な特徴量を有する検査対象画像に対しては良品判定又は不良品判定を確定させ、良品判定又は不良品判定が確定できない特徴量を有する検査対象画像に対しては深層学習処理を適用して良品又は不良品の判定を実行可能な検査実行手段を備えていることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-138783号公報
【特許文献2】特開2020-187656号公報
【特許文献3】特開平9-318334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、機械的な外観検査手法としては2次元画像に対して微分等のエッジ検出処理を行なった画像において、輝度レベルの高い領域のみを抽出するために所定のしきい値で2値化を行なう場合、エッジ検出処理画像に発生するノイズに関する物理量に基づいて所定の演算を行なってしきい値を算出していた(例えば特許文献3)。しかしながら、実際の金属やセラミックスの材料は原子配列の異なる領域が多数集まった構造を有しており、金属やセラミックスの結晶が複数連なって界面(結晶粒界)を形成している。
図12に結晶粒界の例を示す。従来の外観検査法で外観検査を行う際、この結晶粒界を傷として誤判定される場合が多い。
【0008】
そこで本発明では、画像処理と機械学習の手法を用いて、金属セラミックス複合基板の機械による傷検出をする技術において精度を向上させることができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は、金属セラミックス複合基板の傷を検出する方法であって、金属セラミックス複合基板を撮像し、撮像により得られた画像から線形フィルタを用いて傷候補領域を抽出し、傷候補領域に対して畳み込みニューラルネットワークにより傷候補領域に傷が含まれるか否かを判別する、金属セラミックス複合基板の表面傷検出方法を開示する。
【0010】
また、本願は、金属セラミックス複合基板の傷を検出する装置であって、撮像装置と、撮像装置で得られた画像を処理する傷判別装置と、を備え、傷判別装置は、画像を線形フィルタにより画像処理して傷候補領域を抽出し、傷候補領域に対して畳み込みニューラルネットワークにより傷候補領域に傷が含まれるか否かを判別する演算を行う、金属セラミックス複合基板の傷検出装置を開示する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画像処理及び機械学習の手法を用いて、金属セラミックス複合基板の機械による傷検出の技術において傷判別の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は検査装置1の構成を概念的に示した図である。
【
図2】
図2は検査対象の画像の例を示した図である。
【
図3】
図3は傷判別装置20の構成例を説明する図である。
【
図4】
図4は傷判別方法S1の流れを示す図である。
【
図5】
図5は傷候補領域の抽出の過程S10の流れを示す図である。
【
図6】
図6はグレースケール変換処理の過程S11を説明する図である。
【
図7】
図7は二値化処理の過程S12を説明する図である。
【
図8】
図8は傷候補領域の抽出の過程S13におけるフィルタを説明する図である。
【
図9】
図9は原画像の位置確定の過程S14を説明する図である。
【
図10】
図10は畳み込みニューラルネットワークを概念的に表す図である。
【
図11】
図11は傷領域画像の例(a)及び非傷領域画像(b)の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.傷検出装置
図面を参照しつつ1つの例にかかる傷検出装置1について説明する。
図1は傷検出装置1の構成を概念的に表した図である。傷検出装置1はパワーモジュールに用いられる金属セラミックス複合基板の傷を検出する装置であり、例えば金属セラミックス複合基板の製造ラインに配置されている。
【0014】
傷検出装置1は、検査対象である基板の像を撮る撮像装置10、及び、撮像装置10で得られた画像(デジタル画像データ)から傷を判別する傷判別装置20を備える。
【0015】
1.1.撮像装置
撮像装置10では、検査対象である基板に対して照明光を照射し、デジタルカメラで撮影することで検査のための基板のデジタル画像データを生成する。
図2は疑似同軸落射照明で撮影した画像例である。疑似同軸落射照明方式は公知であり本開示でも利用できる照明方法である。疑似同軸落射照明方式は対象物に直接照明を当てる照明方式であって、光学レンズを通さずにハーフミラーやビームスプリッターで照明光路をレンズの光軸と同じにし、対象物に対して垂直に照明する。
【0016】
1.2.傷判別装置
傷判別装置20は、撮像装置10で得たデジタル画像に対して画像処理を行い、傷を判別する。
図3に概念的に示したように傷判別装置20は、プロセッサーであり画像処理の演算を行うCPU(Central Processing Unit、中央演算ユニット)21、作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)22、記録媒体として機能するROM(Read-Only Memory)23、有線、無線を問わず情報を傷判別装置20に受け入れるインターフェイスである受信部24、及び、有線、無線を問わず情報を傷判別装置20から外部に送るインターフェイスである送信部25を備える。
従って傷判別装置20は受信部24、送信部25を介して撮像装置10や他の機器と接続されており信号の送信、受信ができるように構成されている。
【0017】
傷判別装置20には、画像処理をして傷を判別するプログラムが保存されている。傷検出装置1では、ハードウェア資源としてのCPU21、RAM22、及びROM23と、プログラムとが協働する。具体的には、CPU21が、ROM23に記録されたコンピュータプログラムを、作業領域として機能するRAM22で実行することによって、傷判別を始めとする様々な機能を実現する。CPU21が取得または生成した情報は、RAM22に格納される。その他、傷判別装置20の内部や外部に設けられた記録媒体が具備されて、ここにプログラムや各種データが記録されてもよい。
【0018】
本形態では傷判別装置20は、撮像装置10から受信部24を介して検査対象である基板のデジタル画像を取得する。そして傷判別装置20は得られたデジタル画像のデータに基づいて、ROM23や他の記録媒体に記録されたデータベースを用いる等しつつ、ROM23や他の記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを実行して画像処理を行い傷の判別を行ってRAM22や記録媒体に記録する。傷判別のための具体的な内容は後で説明する。傷判別の結果は送信部25からモニタ27等に必要な情報が出力される。
【0019】
このような傷判別装置20は典型的にはコンピュータにより構成できる。従って傷判別装置20には傷判別装置20を操作するための入力手段(キーボードやマウス等)26が受信部24に接続されている。
【0020】
2.傷検出
次に傷検出の手順について説明する。
本形態で傷検出は上記したように撮像装置10で得たデジタル画像データを傷判別装置20で処理することで行われる。そこでここでは、傷検出の方法について説明する。この方法の具体的な実行は、当該方法の各過程に対応した各ステップを有するコンピュータプログラムが作成され、傷判別装置20のROM23や記録媒体に保存され、実行することで傷検出を行うことができる。以下、1つの例にかかる傷検出方法を説明するが、上記のようにこれに基づいたコンピュータプログラムは、傷判別装置20のROM23や記録媒体に記録されていることで傷検出装置1の1つの構成要素として機能する。
【0021】
図4に1つの形態にかかる傷検出方法S1の流れを示した。
図4からわかるように本開示の傷検出方法S1は、傷候補領域の抽出の過程S10及び傷判別の過程S20を有している。以下、各過程について説明する。
【0022】
2.1.傷候補領域の抽出の過程
傷候補領域の抽出の過程S10ではフィルタを適用して傷候補領域を抽出する。
図5に傷候補領域の抽出の過程S10の流れを示した。
図5からわかるように、傷候補領域の抽出の過程S10は、グレースケール変換処理の過程S11、二値化処理の過程S12、傷候補領域の抽出の過程S13、原画像の位置確定の過程S14を有している。
【0023】
2.1.1.グレースケール変換処理の過程
グレースケール変換処理の過程S11(「過程S11」と記載することがある。)では、撮像装置10で得た原画像(デジタル画像、例えば
図2)をグレースケールに変換する。グレースケールへの変換は公知の通りである。
図6には
図2の画像をグレースケールに変換した画像を示した。本形態では画像の画素ごとにR成分、G成分、B成分について下記式のように重み付き和を計算することによって、RGB値をグレースケール値に変換した。
グレースケール値=0.2989・R+0.5870・G+0.1140・B
【0024】
2.1.2.二値化処理の過程
二値化処理の過程S12(「過程S12」と記載することがある。)では、過程S11で得たグレースケールデータを二値化する。二値化の方法は公知の通りであるが例えば大津の二値化法(判別分析法)を挙げることができる。
図7には
図6を二値化した結果の画像を示す。
【0025】
2.1.3.傷候補領域の抽出
傷候補領域の抽出の過程S13(「過程S13」と記載することがある。)では、過程S12で得られた二値化画像から特徴を抽出し、傷の候補となる領域を挙げる。本開示では特徴を抽出するために線形フィルタを用いて傷候補領域を得た。より具体的には、本形態では
図8に示したように縦((a))、横((b))、右斜め((c))、及び左斜め((d))の4種類の線形フィルタを用いた。本形態で線形フィルタは直線的なフィルタであるためフィルタの大きさ(本形態ではフィルタの長さ)は2k+1で表される。具体的なkの値は試験を経て傷検出に効果的な値が適用される。
【0026】
この用いた4種類の線形フィルタと、過程S12で得た二値化画像とを排他的理論和で畳み込み演算を行う。下に畳み込み演算による特徴抽出計算式(1)~(4)を示す。式(1)は縦の線形フィルタ(
図8(a))、式(2)は横(
図8(b))、式(3)は右斜め(
図8(c))、及び、式(4)は左斜め(
図8(d))のための式である。これらの式でxはx座標、yはy座標、N(N
1~N
4)は抽出した特徴量、f(f
1~f
4)は線形フィルタ、Pは当該座標における二値化した画像の値(0又は1、すなわち黒又は白)である。
【0027】
【0028】
式(1)~式(4)の右辺からわかるように、線形フィルタ(f)と二値化画像(P)との排他的理論和の解としてNが得られる。すなわち、線形フィルタ(f)と二値化画像(P)との比較により、傷候補の特徴を抽出する。f=0(黒)かつP=1(白)の場合、及び、f=1(白)かつP=0(黒)の場合に傷候補として判定し、f=P=0(白)の場合、及び、f=P=1(黒)の場合には傷候補でないと判定する。
【0029】
なお、傷候補領域は、得られた複数の傷候補領域のいずれかに傷が含まれている可能性が高いことを意味するものであり、本過程の段階で複数の傷候補領域の全てが傷であることを意味するものではない。この複数の傷候補領域から後述する傷判別の過程S20により傷を判別する。
【0030】
2.1.4.原画像における位置確定
原画像における位置確定の過程S14(「過程S14」と記載することがある。)は、過程S13で得た傷候補領域を原画像(生成したデジタル画像データ、
図2)に当てはめて傷候補領域となった金属セラミックス複合基板における領域の位置を確定する。
図9に傷候補領域を表した画像を示した。
図9の□の部分が傷候補領域である。
なお、
図9に示した例では、原画像の元となった金属セラミックス複合基板について傷の位置を予め調べておいた結果、
図9に示した傷候補領域のうち2か所が傷であることがわかった。また、傷候補領域として挙がらなかった部位に傷はなかった。
【0031】
2.2.傷判別の過程
2.2.1.傷の判別
傷判別の過程S20では、検査対象である金属セラミックス複合基板について、過程S14で得た各傷候補領域に対して、傷であるか否かを判別する。
本開示では、深層ニューラルネットワーク、その中でも畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、「CNN」と記載することがある。)を用いて判別を行う。
図10にCNNの概要を示した。CNNは公知の通りであるが、入力層、複数の隠れ層、及び出力層を備えており、その少なくとも一部に畳み込み層及びプーリング層を備えて構成されている。
入力層に傷候補領域の抽出の過程S10で抽出した傷候補領域の画像が入力されると、複数の隠れ層で順次演算され、最終的に出力層にこの傷候補領域に傷が含まれるか否かの結果が出力される。これにより検査対象である金属セラミックス複合基板の傷が検出できる。
【0032】
2.2.2.学習
傷判別に用いられるCNNを決定するためには隠れ層における重みやバイアスを具体的に決める必要があり、これらは学習によって行われる。本形態では次のように学習を行ない、その結果の検証も行った。
【0033】
[正解ラベル付け]
傷候補領域の抽出の過程S10と同様の手法で得られた傷候補領域と、当該傷候補領域検出の対象となった金属セラミックス複合基板の実際の傷と、を対比して傷候補領域ごとに、実際に傷がある傷候補領域を「傷領域画像」とし、傷がない傷候補領域を「非傷領域画像」として正解ラベル付けを行う。
図11に傷領域画像の例(a)及び非傷領域画像(b)の例をそれぞれ示した。
このとき、条件として、本形態では傷の一部を含む傷候補領域は「傷領域画像」として扱い、傷であっても結晶粒界と見分けがつかないような小さな傷は「非傷領域画像」として扱う。
【0034】
[データ数]
上記のように正解ラベル付けを行った「傷領域画像」及び「非傷領域画像」を複数準備して学習用データ(教師データ)及びテスト用データとした。具体的には次の通りである。
データ群Aのセットでは「傷領域画像」を242枚、「非傷領域画像」を1100枚、合計1342枚とし、そのうちの80%を学習用データ、20%をテスト用データとした。
データ群Bのセットでは、データ群Aを拡張して「傷領域画像」を1649枚、「非傷領域画像」を1649枚、合計3388枚とし、そのうちの80%を学習用データ、20%をテスト用データとした。
ここでデータ群Bにおける拡張は、「傷領域画像」については、データ群Aの「傷領域画像」である242枚のそれぞれについて、これを左に5画素移動させた画像、右に5画素移動させた画像、上に5画像移動させた画像、下に5画素移動させた画像、上下反転させた画像、及び、左右反転させた画像をそれぞれ「傷領域画像」に追加(242×7=1694枚)し、「非傷領域画像」については無作為に1100枚から1694枚に追加した。
【0035】
[学習の態様]
本例では以下に示す4つの学習方法(学習例1~学習例4)で学習を行い傷判別のためのCNNを決定した。
学習例1ではデータ群Bを用いて、事前学習なしの条件で学習させることで傷判別に用いるCNNを決定した。
学習例2ではデータ群Aを用いて、事前学習済であるAlexNetを再学習させることで傷判別に用いるCNNを決定した。
学習例3ではデータ群Bを用いて、事前学習済であるAlexNetを再学習させることで傷判別に用いるCNNを決定した。
学習例4ではデータ群Bを用いて、事前学習済であるGoogLeNetを再学習させることで傷判別に用いるCNNを決定した。
それぞれの学習例で決定したCNNによる傷検出精度を算出した。表1に結果を示した。ここで、傷検出精度は、傷判別に供した全ての画像に対して傷か傷でないかを正しく判別できた比率を百分率で示した。
【0036】
【0037】
以上からわかるように、本開示による傷検出によれば、いずれも90%以上の高い精度で傷を結晶粒界等の他の要素と区別して判別することができた。
その中でも事前学習ツールを用いて学習させたCNNを適用するとさらに精度を高めることが可能であった。
また、学習例2と学習例3とを比べるとデータ拡張により精度が向上していることもわかる。
【0038】
例として、学習例1(事前学習なし)に関し、構築したCNNの識別器を用いて1つの学習に利用していない金属セラミックス複合基板について上記過程S1の手順により傷検出を行ったところ、過程S10で62か所の傷候補領域が抽出され、過程S20でそれぞれの傷候補領域に対して傷であるか傷でないかの判別を行ったところ、62か所の判別のうち55か所で傷か傷でないかの正しい検出ができた。
また、抽出された傷候補領域以外の位置には実際の金属セラミックス複合基板にも傷がないという観点からも正しい傷検出ができた。
【0039】
また、他の例として、学習例4により構築したCNNを用いて1つの例の金属セラミックス複合基板について上記過程S1の手順により傷検出を行ったところ、過程S10で49か所の傷候補領域が抽出され、過程S20でそれぞれの傷候補領域に対して傷であるか傷でないかの判別を行ったところ、49か所の判別のうち47か所で傷か傷でないかの正しい検出ができた。
また、抽出された傷候補領域以外の位置には実際の金属セラミックス複合基板にも傷がないという観点からも正しい傷検出ができた。
【符号の説明】
【0040】
1 傷検出装置
10 撮像装置
20 傷判別装置