(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177947
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】切削インサート、及び切削インサートを備える切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20231207BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090922
(22)【出願日】2022-06-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022HH01
3C022HH05
3C022HH13
3C022LL01
(57)【要約】
【課題】計4つの切れ刃を切り換えて使用可能としながらも、厚さを抑制することのできる切削インサート、及び当該インサートを備える切削工具を提供する。
【解決手段】切削インサート30は、ボディ20の回転方向において互いに対向する一対の第1拘束面310と、ボディ20の回転中心軸AX1に向かう方向において互いに対向する一対の第2拘束面320と、第1拘束面310を区画する辺のうち、互いに対向する位置にある一対の辺、のそれぞれに沿って設けられた切れ刃331、332と、それぞれの切れ刃と回転方向において隣り合う位置に設けられた逃げ面351、353と、を備える。この切削インサート30では、切れ刃331を間に挟んで互いに隣り合う第1拘束面310と逃げ面351と、の間のなす角度が90度よりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具のボディに取り付けられる切削インサートであって、
前記ボディの回転方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第1拘束面と、
前記ボディの回転中心軸に向かう方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第2拘束面と、
前記第1拘束面を区画する辺のうち、一方の前記第2拘束面から他方の前記第2拘束面に向かって伸びており互いに対向する位置にある一対の辺、のそれぞれに沿って設けられた切れ刃と、
それぞれの前記切れ刃と前記回転方向において隣り合う位置に設けられた逃げ面と、を備え、
前記切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う前記第1拘束面と前記逃げ面と、の間のなす角度が90度よりも大きい、切削インサート。
【請求項2】
前記切れ刃と前記第1拘束面との間にはブレーカが設けられており、
前記切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う前記ブレーカの内面と前記逃げ面と、の間のなす角度が90度以下である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記第1拘束面を区画する辺のうち、前記第2拘束面側にある辺を第1辺とし、前記切れ刃側にある辺を第2辺としたときに、
前記第1辺と前記第2辺との間のなす角度は、90度とは異なる角度である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項4】
2つある前記第1拘束面のそれぞれの形状は互いに同じであり、
2つある前記第2拘束面のそれぞれの形状は互いに同じである、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項5】
所定の対称軸の周りにおいて180度回転させたときの形状が、回転させる前の形状と重なる、請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
加工時において穴の内側面に当接する部分であるマージンが、前記第2拘束面のうち前記第1拘束面側の辺に沿って直線状に形成されている、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記マージンは、
前記ボディに取り付けられた際において、当該ボディの回転中心軸と平行となるように形成されている、請求項6に記載の切削インサート。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の切削インサートを備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート、及び切削インサートを備える切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパイプ等の内面を切削するための切削工具として、回転するボディの外周側に、周方向に並ぶよう複数の切削インサートを備えた構成のものが知られている。それぞれの切削インサートは、ボディから取り外して交換することができる。例えば下記特許文献1に記載されているように、1つの切削インサートにおいて複数の切れ刃を設けておき、ボディに対する当該切削インサートの取り付け状態を変更することで、加工に用いられる切れ刃を切り換えることができるようなものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ボディの回転中心軸に対し垂直な軸の周りに、切削インサートを180度回転させることにより、加工に用いられる切れ刃を変更し得る構成においては、対角の位置にある2つの切れ刃を切り換えて使用することができる。
【0005】
更に、切削インサートを裏返して取り付けることも可能な構成とすれば、計4つの切れ刃を切り換えて使用することも可能となる。しかしながら、そのような構成においては、切削インサートが厚くなり過ぎて、小径の加工を行うことが難しくなってしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、計4つの切れ刃を切り換えて使用可能としながらも、厚さを抑制することのできる切削インサート、及び当該インサートを備える切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る切削インサートは、切削工具のボディに取り付けられる切削インサートであって、ボディの回転方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方がボディにより拘束される第1拘束面と、ボディの回転中心軸に向かう方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方がボディにより拘束される第2拘束面と、第1拘束面を区画する辺のうち、一方の第2拘束面から他方の第2拘束面に向かって伸びており互いに対向する位置にある一対の辺、のそれぞれに沿って設けられた切れ刃と、それぞれの切れ刃と回転方向において隣り合う位置に設けられた逃げ面と、を備える。この切削インサートでは、切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う第1拘束面と逃げ面と、の間のなす角度が90度よりも大きい。
【0008】
このような構成の切削インサートでは、一方の第1拘束面の2つの辺に沿って2つの切れ刃が設けられており、他方の第1拘束面の2つの辺に沿って更に2つの切れ刃が設けられている。これにより、切削インサートをボディに取り付ける際の向き等を変更することで、計4つの切れ刃を切り換えて使用することが可能となっている。
【0009】
上記構成の切削インサートでは、切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う二つの面(第1拘束面及び逃げ面)のなす角度が90度よりも大きい。これにより、それぞれの第1拘束面の形状を平行四辺形とし、切削インサートの厚さを抑制しながらも、一方の第1拘束面と他方の第1拘束面との間を平坦な逃げ面で繋ぐようなことが可能となる。
【0010】
更に好ましい態様として、切れ刃と第1拘束面との間にはブレーカが設けられており、切れ刃を間に挟んで互いに隣り合うブレーカの内面と逃げ面と、の間のなす角度が90度以下であってもよい。
【0011】
更に好ましい態様として、第1拘束面を区画する辺のうち、第2拘束面側にある辺を第1辺とし、切れ刃側にある辺を第2辺としたときに、第1辺と第2辺との間のなす角度は、90度とは異なる角度であってもよい。
【0012】
更に好ましい態様として、2つある第1拘束面のそれぞれの形状は互いに等しく、2つある第2拘束面のそれぞれの形状は互いに等しくてもよい。
【0013】
更に好ましい態様として、所定の対称軸の周りにおいて180度回転させたときの形状が、回転させる前の形状と重なってもよい。
【0014】
更に好ましい態様として、加工時において穴の内側面に当接する部分であるマージンが、第2拘束面のうち第1拘束面側の辺に沿って直線状に形成されていてもよい。
【0015】
更に好ましい態様として、マージンは、ボディに取り付けられた際において、当該ボディの回転中心軸と平行となるように形成されていてもよい。
【0016】
切削工具は、上記いずれかの態様の切削インサートを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、計4つの切れ刃を切り換えて使用可能としながらも、厚さを抑制することのできる切削インサート、及び当該インサートを備える切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図であり、
図4とは反対側から見て描いた図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図9】
図9は、比較例に係る切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、他の比較例に係る切削インサートの構成を示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具の構成を示す図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る切削インサートの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0020】
第1実施形態について説明する。本実施形態に係る切削工具10は、回転しながらパイプ等の内面を切削するための転削工具であって、「プルカウンターボーリング工具」とも称されるものである。尚、以下に説明する切削工具10の構成は、他の転削工具に対しても適用可能である。
【0021】
図1は、切削工具10の外観を示す斜視図である。
図2は、
図1の切削工具10を、回転中心軸AX1に沿って先端側から見て描いた図である。
図1及び
図2に示されるように、切削工具10は複数の切削インサート30を備えており、これらがボディ20に取り付けられた構成を有している。
【0022】
ボディ20は、切削工具10の本体部分であって、例えばアーバ等の保持具に装着された状態で、当該保持具ごと、不図示の工作機械によって把持される。ボディ20は略円筒形状を有しており、その中心軸は回転中心軸AX1と一致している。加工中においては、工作機械の駆動力により、ボディ20が回転中心軸AX1の周りにおいて回転する。
図1及び
図2においては、その回転方向が矢印により示されている。
【0023】
切削インサート30は、被削材を切削するための切れ刃331等が設けられた部材である。切削インサート30は上記のように複数設けられており、ボディ20の外周側において、周方向に等間隔で並ぶように配置されている。それぞれの切削インサート30は、ボディ20に対して螺子40により締結固定されている。それぞれの切削インサート30の形状は互いに同一である。
【0024】
図3等を参照しながら、切削インサート30の構成について説明する。
図3に示されるように、切削インサート30は、第1拘束面310と、第2拘束面320と、を有している。
【0025】
第1拘束面310は、ボディ20の回転方向において互いに対向する一対の面である。つまり、切削インサート30は2つの第1拘束面310を備えている。
図1のようにボディ20に取り付けられた状態において、回転方向において前方側にある第1拘束面310のことを、以下では「第1拘束面310A」とも称する。また、回転方向において後方側にある第1拘束面310のことを、以下では「第1拘束面310B」とも称する。
図1の状態においては、第1拘束面310Bがボディ20に当接しており、これにより、回転方向における切削インサート30の位置が拘束されている。
【0026】
後に説明するように、切削インサート30は回転対称な形状を有しており、ボディ20に対し
図1とは異なる向きに取り付けることができる。例えば、第1拘束面310Aの方をボディ20に当接させた状態で取り付けることもできる。いずれの場合でも、一対の第1拘束面310A、310Bは、ボディ20の回転方向において互いに対向することとなる。このように、第1拘束面310A、310Bは、ボディ20の回転方向において互いに対向しており、いずれか一方がボディ20により拘束される面となっている。
【0027】
第2拘束面320は、ボディ20の回転中心軸AXに向かう方向において互いに対向する一対の面である。つまり、切削インサート30は2つの第2拘束面320を備えている。
図1のようにボディ20に取り付けられた状態において、ボディ20とは反対側(つまり外側)にある第2拘束面320のことを、以下では「第2拘束面320A」とも称する。また、ボディ20側(つまり内側)にある第2拘束面320のことを、以下では「第2拘束面320B」とも称する。
図1の状態においては、第2拘束面320Bがボディ20に当接しており、これにより、径方向における切削インサート30の位置が拘束されている。第2拘束面320A、320Bの形状は、互いに合同な略長方形となっている。
【0028】
先に述べたように、切削インサート30は、ボディ20に対し
図1とは異なる向きに取り付けることができる。例えば、第2拘束面320Aの方をボディ20に当接させた状態で取り付けることもできる。いずれの場合でも、一対の第2拘束面320A、320Bは、ボディ20の回転中心軸AXに向かう方向において互いに対向することとなる。このように、第2拘束面320A、320Bは、ボディ20の回転中心軸AXに向かう方向において互いに対向しており、いずれか一方がボディ20により拘束される面となっている。
【0029】
ボディ20には、第2拘束面320Aから第2拘束面320Bまで貫通する貫通穴380が形成されている。貫通穴380は、
図1の螺子40を挿通し締結固定するための円形の穴である。貫通穴380は、螺子40のうち頭部の径より小さく、螺子40のうちねじ部(軸部)の径より大きいので、螺子40の頭部で締結できる。貫通穴380は更に、螺子40頭部の形状に対応した拡径部分を有している。
【0030】
図4や
図5に示されるように、第1拘束面310A、310Bは互いに平行であり、第2拘束面320A、320Bも互いに平行である。第1拘束面310と第2拘束面320とは互いに垂直である。貫通穴380の中心軸AX2は、第2拘束面320A、320Bのそれぞれに対して垂直な軸であり、それぞれの面の中心を通っている。
【0031】
図3等に示されるように、切削インサート30では、切れ刃331、332、ブレーカ341、342が、全体が略平行四辺形となるように配置されており、その結果として、これらの内側に形成された第1拘束面310の形状が略平行四辺形(ただし長方形ではない)となっている。また、第1拘束面310A、310Bの形状は、互いに合同な形状(略平行四辺形)となっている。このため、中心軸AX2の周りにおいて切削インサート30を180度回転させた場合には、第1拘束面310Aは、回転前における第1拘束面310Bと完全に重なることとなり、第1拘束面310Bは、回転前における第1拘束面310Aと完全に重なることとなる。上記のような構成としたことにより、切削インサート30の全体の厚さ(つまり、第1拘束面310Aから第1拘束面310Bまでの距離)が抑制されている。
【0032】
第1拘束面310A、310Bは上記のように互いに合同であるから、ここでは、第1拘束面310A及びその近傍の構成についてのみ説明し、第1拘束面310B及びその近傍の構成については適宜説明を省略することとする。
【0033】
図3に示されるように、第1拘束面310Aは、4つの辺311、312、313、314によって区画されている。辺311、312はいずれも、一方の第2拘束面320Aから他方の第2拘束面320Bに向かって伸びている。辺311、312は、互いに対向する位置にある一対の辺となっている。
【0034】
辺313、314はいずれも、第2拘束面320に沿って伸びている。辺313、314も、上記の辺311、312と同様に、互いに対向する位置にある一対の辺となっている。
【0035】
先に述べたように、第1拘束面310Aの形状は、略平行四辺形である。このため、上記4つの辺のうち、第2拘束面320B側にある辺314を「第1辺」とし、切れ刃331側にある辺311を「第2辺」としたときには、第1辺と第2辺との間のなす角度は、90度よりも小さな角度となっている。また、第2拘束面320B側にある辺314を「第1辺」とし、切れ刃332側にある辺312を「第2辺」としたときには、第1辺と第2辺との間のなす角度は、90度よりも大きな角度となっている。いずれの場合でも、第1辺と第2辺との間のなす角度は、90度とは異なる角度となっている。辺313を「第1辺」とし、辺311又は辺312を「第2辺」とした場合でも同様である。
【0036】
図1の取り付け状態において切削に供される切れ刃331は、辺311に沿って伸びている。ただし、辺311と切れ刃331との間は離間しており、両者の間にはブレーカ341が形成されている。ブレーカ341は、切れ刃331を間に挟んで隣り合う2面(ブレーカ341の内面と後述の逃げ面351)の間の角度を調整し、従来と同様のすくい角を確保することを目的として設けられた凹状の溝である。ブレーカ341に、加工中において生じる切り屑を分断する機能をも併せ持たせた構成としてもよい。
【0037】
図6に示されるように、辺312の外側にも、切れ刃331と同様の切れ刃332が形成されている。切れ刃332は、辺312に沿って伸びており、辺312と切れ刃332との間にはブレーカ342が形成されている。ただし、
図1の取り付け状態においては、切れ刃332は切削には供されない。切れ刃332は、切削インサート30が
図1とは異なる向きでボディ20に取り付けられときにおいて、切削に供されるものである。
【0038】
図示は省略するが、第1拘束面310Bの周囲にも、辺311に沿って伸びる切れ刃331や、辺312に沿って伸びる切れ刃332、及びブレーカ341、342が、上記と同様に設けられている。つまり、1つの切削インサート30には、計4つの切れ刃が設けられており、これらのうちの1つが切削に供される。切削に供される切れ刃は、切削インサート30の向き等によって切り換えられる。
【0039】
回転方向において切れ刃331と隣り合う位置には、逃げ面351が形成されている。
図3に示されるように、逃げ面351は、切れ刃331から、第1拘束面310Bのうち第2拘束面320A側のコーナー部分に向かって伸びるように、略三角形の面として形成されている。
図4に示されるように、逃げ面351よりも第2拘束面320B側には、逃げ面352が形成されている。逃げ面352は、第1拘束面310Bの辺312に沿って設けられた切れ刃332から、第1拘束面310Aのうち第2拘束面320B側のコーナー部分に向かって伸びるように形成された、略三角形の面である。
【0040】
図3及び
図4に示されるように、切削インサート30のうち逃げ面351と逃げ面352との間には、第3拘束面361が設けられている。第3拘束面361は、第2拘束面320に対して垂直な面である。逃げ面351及び逃げ面352は、第3拘束面361を間に挟んで互いに対称な形状を有している。
【0041】
図5及び
図6に示されるように、逃げ面351や逃げ面352とは反対側の部分には、逃げ面353、354が形成されている。逃げ面353は、第1拘束面310Bの辺311に沿って設けられた切れ刃331から、第1拘束面310Aのうち第2拘束面320A側のコーナー部分に向かって伸びるように、略三角形の面として形成されている。逃げ面354は、第1拘束面310Aの辺312に沿って設けられた切れ刃332から、第1拘束面310Bのうち第2拘束面320B側のコーナー部分に向かって伸びるように、略三角形の面として形成されている。逃げ面353と逃げ面354との間には、第3拘束面362が設けられている。第3拘束面362は、第2拘束面320に対して垂直な面である。逃げ面353及び逃げ面354は、第3拘束面362を間に挟んで互いに対称な形状を有している。
【0042】
逃げ面353の形状は、逃げ面351の形状と同じ(合同)である。また、逃げ面354の形状は、逃げ面352の形状と同じ(合同)であり、第3拘束面362の形状は、第3拘束面361の形状と同じ(合同)である。このため、中心軸AX2の周りにおいて切削インサート30を180度回転させた場合には、逃げ面353は、回転前における逃げ面351と完全に重なることとなり、逃げ面354は、回転前における逃げ面352と完全に重なることとなり、第3拘束面362は、回転前における第3拘束面361と完全に重なることとなる。
【0043】
図1の状態においては、第3拘束面362がボディ20に当接しており、これにより、回転中心軸AX1に沿った方向の切削インサート30の位置が拘束されている。中心軸AX2の周りにおいて180度反転させた状態で切削インサート30が取り付けられた場合には、第3拘束面361がボディ20に当接し拘束される。このように、第3拘束面361、362は、いずれか一方がボディ20に当接し拘束される面となっている。
【0044】
以上のような構成としたことで、所定の対称軸(この場合は中心軸AX2)の周りにおいて180度回転させた場合における切削インサート30の形状は、回転させる前における切削インサート30形状と完全に重なることとなる。また、切削インサート30の中心を通り且つ中心軸AX2に対して垂直な軸であって、回転方向を向いているような軸(
図3の軸AX3)のことを「対称軸」とした場合にも、当該対称軸の周りにおいて180度回転させた場合における切削インサート30の形状は、回転させる前における切削インサート30形状と完全に重なることとなる。
【0045】
切削インサート30のその他の構成について説明する。切削インサート30のうち、
図1の状態において最外周となる部分には、
図3に示されるようにマージン371が設けられている。マージン371は、
図1の状態で加工が行われる際において、被削材の穴の内側面に当接する部分である。マージン371が内側面に当接することで、切削工具10の直進性が確保される。マージン371は、第2拘束面320Aのうち第1拘束面310A側の辺に沿って直線状に伸びている。マージン371と第1拘束面310Aとの間には、調整面343が設けられている。
【0046】
尚、切削インサート30は上記のように対称な形状を有しているので、第2拘束面320Bのうち第1拘束面310A側の辺に沿って、マージン371と同形状のマージン372が設けられている。また、マージン372と第1拘束面310Aとの間には、調整面343と同形状の調整面344が設けられている。また、図示は省略するが、切削インサート30のうち第1拘束面310B側の部分にも、上記と同形状のマージン371、372や調整面343、344が設けられている。
【0047】
図7には、第1拘束面310Aの法線方向に沿って見た場合における、切削インサート30の形状が示されている。このような方向から見た場合において、切削インサート30の全体の外形は略長方形となっており、逃げ面351や逃げ面354は、切れ刃331や切れ刃332から外側に向けて広がっている。つまり、切れ刃331を間に挟んで互いに隣り合う第1拘束面310Aと逃げ面351と、の間のなす角度は、90度よりも大きくなっている。同様に、切れ刃332を間に挟んで互いに隣り合う第1拘束面310Aと逃げ面354と、の間のなす角度も、90度よりも大きくなっている。第1拘束面310Bと逃げ面352との間のなす角度や、第1拘束面310Bと逃げ面353との間のなす角度についても同様である。
【0048】
上記それぞれの角度を90度よりも大きくすることで、第1拘束面310Aや、第1拘束面310Bのそれぞれが略平行四辺形となるように切れ刃331等を配置しながらも、両者の間を平坦な逃げ面351等で繋ぐことが可能となっている。
【0049】
ところで、切れ刃331等を間に挟んだ2面のなす角度を上記のように鈍角とした場合には、加工中における所謂「すくい角」を、従来通り確保することが難しくなってしまうことが懸念される。
【0050】
そこで、本実施形態に係る切削インサート30では、切れ刃331等の近傍にブレーカ341等を設けておくことで、上記のような問題を解決している。
【0051】
ブレーカ341は、切れ刃331に隣接して設けられている。このため、
図8に示されるように、切れ刃331を間に挟んで互いに隣り合うブレーカ341の内面と逃げ面351と、の間のなす角度は、90度以下となっている。換言すれば、当該角度が90度以下となるようにブレーカ341が形成されている。これにより、切れ刃331の近傍における形状は従来と同様の形状となるので、加工中における「すくい角」は、従来通りに確保することができる。
【0052】
図9には、比較例に係る切削工具10Aの構成が示されている。
図9において符号「31」が付されているのは、切削工具10Aに設けられた切削インサート31である。切削工具10Aは、主に切削インサート31の形状において本実施形態と異なっている。
図9に示されるように、この比較例では、切削インサート31は台形の断面を有する形状となっており、対角上の2か所のそれぞれに切れ刃331が設けられている。
【0053】
この比較例のような構成においては、切削インサート31を螺子40の周りに180度回転させて取り付けることで、切削に供される切れ刃331を切り換えることができる。ただし、本実施形態とは異なり、切削インサート31を裏返して取り付けることはできない。この比較例では、1つの切削インサート31に設けられた切れ刃の数は「2」である。
【0054】
本実施形態と同様に、1つの切削インサート31に4つの切れ刃を設けるための構成としては、例えば、
図10に示されるように、2つの切削インサート31を重ね合わせて1つにしたものを、切削インサートとして用いることが考えられる。しかしながら、このような構成においては、切削インサートが厚くなり過ぎるため、小径の加工を行うことが難しくなってしまう可能性がある。
【0055】
これに対し、本実施形態では、第1拘束面310A等を略平行四辺形とすることで、計4つの切れ刃を切り換えて使用可能としながらも、切削インサート30の厚さを抑制している。このような構成は、第1拘束面310Aと逃げ面351と、の間のなす角度等を、先に述べたように90度よりも大きくすることで実現されている。
【0056】
第2実施形態について、
図11を参照しながら説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
【0057】
本実施形態の切削インサート30には、締結固定のための貫通穴380が形成されていない。本実施形態の切削インサート30は、この点を除き、第1実施形態の切削インサート30と同じである。
【0058】
図11に示されるように、切削インサート30は、固定部材50によってボディ20に取り付けられている。固定部材50は、ボディ20に対して螺子60により締結固定されている部材である。固定部材50は、螺子60を締め付けるほど切削インサート30側に変位し、切削インサート30の第1拘束面310に対して力を加えるものである。このような固定部材50は「楔」とも称され得るものである。本実施形態の切削インサート30は、ボディ20と固定部材50との間に挟み込まれることで、ボディ20に対して固定されている。このような方法で切削インサート30が固定されていても、第1実施形態で説明したものと同様の効果を奏する。
【0059】
第3実施形態について、
図12を参照しながら説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、切削インサート30のうち、マージン371に沿って設けられた調整面の態様において第1実施形態と異なっている。
図12に示されるように、本実施形態では、
図3に示される調整面343に換えて、調整面391、392が設けられている。調整面392は、逃げ面351側から逃げ面353側に行くに従って、次第に幅が広くなるように形成されている。その結果として、本実施形態では、直線状のマージン371が伸びている方向において第1実施形態と異なっている。
【0061】
本実施形態のマージン371は、ボディ20に取り付けられた際において、ボディ20の回転中心軸AX1と平行となるように形成されている。換言すれば、マージン371がこのような方向に伸びるように、調整面391、392が形成されている。
【0062】
マージン371が回転中心軸AX1と平行になっているので、本実施形態では、加工中においてボディ20が回転しても、マージン371の各部から穴の内側面までの距離が、全体において均等に保たれる。このため、マージン371の長手方向の全体において、マージン371の機能を十分に発揮させることができる。
【0063】
尚、
図12に示される例は、第2実施形態(
図11)と同様に、切削インサート30に貫通穴380が形成されていない例となっている。このような態様に換えて、第1実施形態のように貫通穴380が形成された切削インサート30に、本実施形態の構成を適用してもよい。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0065】
10:切削工具、20:ボディ、30:切削インサート、310:第1拘束面、320:第2拘束面、331、332:切れ刃。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具のボディに取り付けられる切削インサートであって、
前記ボディの回転方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第1拘束面と、
前記ボディの回転中心軸に向かう方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第2拘束面と、
前記第1拘束面を区画する辺のうち、一方の前記第2拘束面から他方の前記第2拘束面に向かって伸びており互いに対向する位置にある一対の辺、のそれぞれに沿って設けられた切れ刃と、
それぞれの前記切れ刃と前記回転方向において隣り合う位置に設けられた逃げ面と、を備え、
前記切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う前記第1拘束面と前記逃げ面と、の間のなす角度が90度よりも大きく、
前記切れ刃と前記第1拘束面との間にはブレーカが設けられており、
前記切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う前記ブレーカの内面と前記逃げ面と、の間のなす角度が90度以下である、切削インサート。
【請求項2】
前記第1拘束面を区画する辺のうち、前記第2拘束面側にある辺を第1辺とし、前記切れ刃側にある辺を第2辺としたときに、
前記第1辺と前記第2辺との間のなす角度は、90度とは異なる角度である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
2つある前記第1拘束面のそれぞれの形状は互いに同じであり、
2つある前記第2拘束面のそれぞれの形状は互いに同じである、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項4】
所定の対称軸の周りにおいて180度回転させたときの形状が、回転させる前の形状と重なる、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
切削工具のボディに取り付けられる切削インサートであって、
前記ボディの回転方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第1拘束面と、
前記ボディの回転中心軸に向かう方向において互いに対向する一対の面であって、いずれか一方が前記ボディにより拘束される第2拘束面と、
前記第1拘束面を区画する辺のうち、一方の前記第2拘束面から他方の前記第2拘束面に向かって伸びており互いに対向する位置にある一対の辺、のそれぞれに沿って設けられた切れ刃と、
それぞれの前記切れ刃と前記回転方向において隣り合う位置に設けられた逃げ面と、を備え、
前記切れ刃を間に挟んで互いに隣り合う前記第1拘束面と前記逃げ面と、の間のなす角度が90度よりも大きく、
加工時において穴の内側面に当接する部分であるマージンが、前記第2拘束面のうち前記第1拘束面側の辺に沿って直線状に形成されている、切削インサート。
【請求項6】
前記マージンは、
前記ボディに取り付けられた際において、当該ボディの回転中心軸と平行となるように形成されている、請求項5に記載の切削インサート。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の切削インサートを備えた切削工具。