(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178016
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/22 20060101AFI20231207BHJP
H01P 11/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01P1/22
H01P11/00 100
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091036
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 友彦
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で製造時のインピーダンスミスマッチ調整を効率的かつ容易に実現でき、コストを低減し高周波特性を向上することが可能な可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法を提供する。
【解決手段】信号解析装置1に搭載する可変減衰器2は、ベース基板20の伝送路非形成面側から伝送路用溝23の底部まで貫通する複数の調整用孔50、51、52、53と、伝送路非形成面側から取り付け可能で、調整用孔50、51、52、53内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒70、71、72、73と、を有し、上記軸方向の位置調整に際し、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23内まで突出することにより凸部90と、先端部分が底面まで到達しないことにより生じる凹部91の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整する構成を有している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)を形成するベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、
前記伝送路用溝は、減衰素子(31)を装着し、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を前記減衰素子により減衰する減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられるとともに、中央部を中心導体(33b、33b1、33b2)が貫通する複数の誘電体ブロック(33)を装着し、
前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択した全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能な可変減衰器(2)であって、
前記ベース基板の前記伝送路形成面の反対側の伝送路非形成面側から前記伝送路用溝の底部まで貫通し、前記伝送路用溝に沿って設けられる複数の調整用孔(50、51、52、53)と、
前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、前記調整用孔内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒(70、71、72、73)と、を有し、
前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整することを特徴とする可変減衰器。
【請求項2】
前記調整用孔は、前記誘電体ブロックから延設する前記中心導体の下方位置に前記中心導体に沿って配列することを特徴とする請求項1に記載の可変減衰器。
【請求項3】
前記調整用孔は、前記誘電体ブロックの直下に設けられることを特徴とする請求項1に記載の可変減衰器。
【請求項4】
前記調整用孔は、前記スルー経路、前記減衰経路、前記スルー経路と前記減衰経路とをつなぐ経路(24)が交差する位置の直下に設けられることを特徴とする請求項1に記載の可変減衰器。
【請求項5】
前記調整用孔は、ねじ孔(50a、51a、52a、53a)で構成し、
前記調整棒は、前記ねじ孔に嵌め合わせて回転可能な金属ねじ(70a、71a、72a、73a)で構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可変減衰器。
【請求項6】
前記金属ねじは、先端部(77)に樹脂製の別部材(80b、81b、82b)がさらに設けられることを特徴とする請求項5に記載の可変減衰器。
【請求項7】
前記調整用孔は、ねじ孔(50c、51c、52c、53c)で構成し、
前記調整棒は、前記ねじ孔に嵌め合わせて回転可能な樹脂ねじ(70c、71c、72c、73c)で構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可変減衰器。
【請求項8】
前記調整用孔は、内周が平滑な長孔からなる圧入孔(50d、51d、52d、53d)で構成し、
前記調整棒は、前記圧入孔に圧入する樹脂製の平行ピン部材(70d、71d、72d、73d)で構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可変減衰器。
【請求項9】
前記高周波信号は、5G NR規格の信号であり、
前記伝送路用溝は、前記信号入力端子と前記信号出力端子間のインピーダンスが、全ての前記誘電体ブロックを前記伝送路用溝に配置した状態で所定の値となるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可変減衰器。
【請求項10】
減衰レベルを可変設定可能であり、被試験対象(100)から出力された高周波信号を、設定した減衰レベルで減衰する可変減衰器(2)と、
減衰された前記高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部(3)と、
前記中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部(5)と、を備え、
前記可変減衰器は、
信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に前記高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)を形成するベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、
前記伝送路用溝は、減衰素子(31)を装着し、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を前記減衰素子により減衰する減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられるとともに、それぞれの中央部を中心導体(33b1、33b、33b2)が貫通する複数の誘電体ブロック(33)を装着し、
前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた信号減衰レベルを設定可能であって、
前記ベース基板の前記伝送路形成面の反対側の伝送路非形成面側から前記伝送路用溝の底部まで貫通して設けられ、前記伝送路用溝に沿って配列する複数の調整用孔(50、51、52、53)と、
前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、前記調整用孔内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒(70、71、72、73)と、をさらに有し、
前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整することを特徴とする信号解析装置。
【請求項11】
請求項10に記載の信号解析装置における前記可変衰器の前記伝送路用溝を構成する前記伝送路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整方法であって、
前記伝送路用溝と、前記伝送路用溝に沿って配列する前記複数の調整用孔と、を有する前記ベース基板を用意し、前記伝送路用溝内に前記誘電体ブロックを装着して固定したうえで、前記ベース基板の前記伝送路形成面の面全体を前記アース板で覆い、可変減衰器として組み立てる組み立てステップ(S1、S2)と、
組み立てられた前記可変減衰器の前記ベース基板の前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側から前記調整棒を取り付けて当該調整棒の前記調整用孔の軸方向の位置を調整し、前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整するインピーダンス調整ステップ(S3)と、
前記インピーダンスを調整した後の前記可変減衰器の信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間のインピーダンスを測定する測定ステップ(S4)と、
を含み、前記インピーダンスの測定結果に基づき、必要に応じて前記インピーダンス調整ステップを繰り返し実施することを特徴とする可変減衰器のインピーダンス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルアッテネータで構成される可変減衰器、可変減衰器を備える信号解析装置、及び可変減衰器の製造時におけるインピーダンス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、新規に開発された携帯端末等の移動体通信端末(以下、移動端末)を被試験対象(Device Under Test:DUT)とし、該DUTから出力される無線信号を被測定信号として受信して解析処理を行うシグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置が知られている。
【0003】
近年、信号解析装置においても、例えば、5G NR規格に則り通信を行う、いわゆる、5G端末の開発の進展に合わせて、より高周波帯(例えば、26.5GHz以上)の信号を被測定信号として受信し、解析する能力が求められている。
【0004】
この種の信号解析装置では、過入力による測定結果への悪影響を回避するために、減衰量を可変設定し、DUTからの入力信号(変調信号)のレベルを設定されたレベルで減衰して出力する可変減衰器を備えたものがある。可変減衰器の一例として、伝送路を選択的に切り替えて減衰量を可変設定する、いわゆるメカニカルアッテネータ(メカニカルATT)が知られている。
【0005】
高周波信号の伝送路の構造については、例えば、アース筐体の外導体溝の側端部に傾斜面を有する皿状ねじを取り付け、該皿状ねじ(以下、皿状ねじを皿ねじという)の傾斜面により、アース筐体内で上支持体の段部と下支持体の段部との間で中心導体を挟持する方向に押圧し、接点バネまたは共通接点を確実に外導体溝内に支持することを可能とする同軸伝送路の中心導体支持構造が従来から知られている(特許文献1等。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、5G NR規格の高周波信号(例えば、26.5GHz以上)の解析処理を想定した場合、特許文献1に記載された知見に基づき実現し得る従来のメカニカルATTの構造では測定精度を維持したままでの当該解析処理への対応は困難であった。
【0008】
その要因としては、以下に述べるように、高周波信号の入力部と後段の周波数変換部の間におけるインピーダンス調整の困難性、複雑な構造及びコスト増などが挙げられる。
【0009】
メカニカルATTは、例えば、
図18に示すように、金属製のベース基板200の限られたスペース内に導波路201(後述の伝送路用溝23参照)を形成し、該導波路201内に複数の誘電体ブロック202、減衰素子(図示せず)を装着した構造を基本としている。さらにメカニカルATTは、上述したスペース内に誘電体ブロック202を貫く中心導体203a、203、203b(同、中心導体33b1、33b、33b2参照)を保持する構造、減衰素子を通さないスルー経路と減衰素子を通すことにより減衰する減衰経路を切り替えるリレー駆動での高周波スイッチ204(同、経路切替機構40参照)等を設ける必要があり、均一のインピーダンスを実現することは困難であった。高周波スイッチ204は、駆動部204a、または駆動部204bによってスルー経路側の中心導体203a、または減衰経路側の中心導体203bを押し上げて中心導体203に接触させることでスルー経路と減衰経路を切り替えるものであり、構造が複雑であり、配置スペースも広くならざるを得ない。しかも、メカニカルATTは単純な構造で作る必要があるため、例えば、製造時、入出力端子間のインピーダンスが設計値と不一致な状態(ミスマッチ状態)から当該インピーダンスが設計値に一致する状態(マッチ状態)となるように調整する、いわゆるインピーダンスミスマッチ調整を行うことが極めて困難であった。
【0010】
以上のように、従来のメカニカルATTは、製造時のインピーダンスミスマッチ調整が困難であることがネックとなって、例えば、5G NR規格の周波数帯(例えば26.5GHz以上の周波数帯)の信号等、より高周波帯の信号を対象とする信号解析への対応が困難であった。従来、高周波特性を向上する方法としてアース板に複雑なエンボス加工を施す方法もあったが、この方法では加工数が増大し、コスト高騰を招来するという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、簡単な構造で製造時のインピーダンスミスマッチ調整を効率的かつ容易に実現でき、コストを低減し高周波特性を向上することが可能な可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)を形成するベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、前記伝送路用溝は、減衰素子(31)を装着し、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を前記減衰素子により減衰する減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられるとともに、中央部を中心導体(33b、33b1、33b2)が貫通する複数の誘電体ブロック(33)を装着し、前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択した全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた減衰レベルを設定可能な可変減衰器(2)であって、前記ベース基板の前記伝送路形成面の反対側の伝送路非形成面側から前記伝送路用溝の底部まで貫通し、前記伝送路用溝に沿って設けられる複数の調整用孔(50、51、52、53)と、前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、前記調整用孔内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒(70、71、72、73)と、を有し、前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整することを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、伝送路用溝(導波路)内にインピーダンス調整要素としての調整用孔及び調整棒を細かく配置することで、調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により、導波路内に突出部、もしくは陥没部を設けることができ、簡単な構造と、突出部の突出具合、陥没部の陥没具合を適宜調整する簡単な操作とによってより細かなインピーダンス調整が可能となる。細かなインピーダンス調整が可能となることで、導波路を構成する部材の機械精度のばらつきによるインピーダンスミスマッチを製造時に設計値と一致になるよう調整し易いという利点を有する。
【0014】
具体的に、上記構成においてはアース板のエンボス加工が不要となり、インピーダンスを設計値と一致させ易く、メカニカルアッテネータとしての高周波特性を向上することができるうえ、加工の削減及びコスト低減が可能となる。コスト許容範囲内で従来のエンボス加工を施し、本発明における調整棒の軸方向の位置調整機構を併用するようにすれば、より細かなインピーダンスミスマッチ調整も実現できる。
【0015】
また、エンボス加工を主体としていた従来装置の構成では、主に26.5GHz以下で用いるメカニカルアッテネータとしての性能維持が限界であったが、調整棒の軸方向の位置を変更して細かなインピーダンス調整を可能とする本発明の構成によれば、ミリ波のようなさらに高い周波数での性能向上に有用である。
【0016】
本発明の請求項2に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、前記誘電体ブロックから延設する前記中心導体の下方位置に前記中心導体に沿って配列する構成としてもよい。
【0017】
この構成により、本発明の請求項2に係る可変減衰器は、中心導体の下方位置に設けた調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0018】
本発明の請求項3に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、前記誘電体ブロックの直下に設けられる構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明の請求項3に係る可変減衰器は、誘電体ブロックの直下に設けた調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0020】
本発明の請求項4に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、前記スルー経路、前記減衰経路、前記スルー経路と前記減衰経路とをつなぐ経路(24)が交差する位置の直下に設けられる構成としてもよい。
【0021】
この構成により、本発明の請求項4に係る可変減衰器は、スルー経路、減衰経路、スルー経路と減衰経路をつなぐ経路が交差する位置の直下に設けた調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0022】
本発明の請求項5に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、ねじ孔(50a、51a、52a、53a)で構成し、前記調整棒は、前記ねじ孔に嵌め合わせて回転可能な金属ねじ(70a、71a、72a、73a)で構成してもよい。
【0023】
この構成により、本発明の請求項5に係る可変減衰器は、ねじ孔に対する突出部、陥没部の形状を意識した金属ねじの回転操作により、容易にインピーダンス調整を行うことが可能になる。
【0024】
本発明の請求項6に係る可変減衰器において、前記金属ねじは、先端部(77)に樹脂製の別部材(80b、81b、82b)がさらに設けられる構成であってもよい。
【0025】
この構成により、本発明の請求項6に係る可変減衰器は、金属ねじについての樹脂製の別部材の先端部分が伝送線路(中心導体等)に直接触れるような軸方向の位置調整が可能であり、より細やかなインピーダンス調整を行うことができるようになる。
【0026】
本発明の請求項7に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、ねじ孔(50c、51c、52c、53c)で構成し、前記調整棒は、前記ねじ孔に嵌め合わせて回転可能な樹脂ねじ(70c、71c、72c、73c)で構成してもよい。
【0027】
この構成により、本発明の請求項7に係る可変減衰器は、樹脂成型により安価に樹脂ねじを生成することができるとともに、ねじ孔に対する突出部、陥没部の形状を意識した樹脂ねじの回転操作により、容易にインピーダンス調整を行うことが可能となる。
【0028】
本発明の請求項8に係る可変減衰器において、前記調整用孔は、内周が平滑な長孔からなる圧入孔(50d、51d、52d、53d)で構成し、前記調整棒は、前記圧入孔に圧入する樹脂製の平行ピン部材(70d、71d、72d、73d)で構成してもよい。
【0029】
この構成により、本発明の請求項8に係る可変減衰器は、圧入孔に対する平行ピン部材の圧入位置に応じて容易にインピーダンス調整を行うことができる。また、ねじ加工が不要のため安価な構成とすることができる。
【0030】
本発明の請求項9に係る可変減衰器において、前記高周波信号は、5G NR規格の信号であり、前記伝送路用溝は、前記信号入力端子と前記信号出力端子間のインピーダンスが、全ての前記誘電体ブロックを前記伝送路用溝に配置した状態で所定の値となるようにした構成を有していてもよい。
【0031】
この構成により、本発明の請求項9に係る可変減衰器は、簡単な構造及び操作によって、5G NR規格の移動端末の試験にも適用し得る高周波特性を発揮できる。
【0032】
上記課題を解決するために、本発明の請求項10に係る信号解析装置は、減衰レベルを可変設定可能であり、被試験対象(100)から出力された高周波信号を、設定した減衰レベルで減衰する可変減衰器(2)と、減衰された前記高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部(3)と、前記中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部(5)と、を備え、前記可変減衰器は、信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間に前記高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝(23)を形成するベース基板(20)と、前記ベース基板の前記伝送路用溝を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板(20a)と、を有し、前記伝送路用溝は、減衰素子(31)を装着し、前記信号入力端子から入力される前記高周波信号を前記減衰素子により減衰する減衰経路(25)と、前記減衰素子を通さないスルー経路(26)と、が複数組設けられるとともに、それぞれの中央部を中心導体(33b1、33b、33b2)が貫通する複数の誘電体ブロック(33)を装着し、前記組ごとに前記減衰経路または前記スルー経路を選択し、選択された全ての前記減衰経路内の前記減衰素子に応じた信号減衰レベルを設定可能であって、前記ベース基板の前記伝送路形成面の反対側の伝送路非形成面側から前記伝送路用溝の底部まで貫通して設けられ、前記伝送路用溝に沿って配列する複数の調整用孔(50、51、52、53)と、前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、前記調整用孔内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒(70、71、72、73)と、をさらに有し、前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整することを特徴とする。
【0033】
この構成により、本発明の請求項10に係る信号解析装置では、可変減衰器において、伝送路用溝(導波路)内にインピーダンス調整要素としての調整用孔及び調整棒を細かく配置することで、調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により、導波路内に突出部、もしくは陥没部を設けることができ、簡単な構造と、突出部の突出具合、陥没部の陥没具合を適宜調整する簡単な操作とによってより細かなインピーダンス調整が可能となる。細かなインピーダンス調整が可能となることで、導波路を構成する部材の機械精度のばらつきによるインピーダンスミスマッチを製造時に設計値と一致になるよう調整し易いという利点を有する。
【0034】
具体的に、上記構成においてはアース板のエンボス加工が不要となり、インピーダンスを設計値と一致させ易く、メカニカルアッテネータとしての高周波特性を向上することができるうえ、加工の削減及びコスト低減が可能となる。コスト許容範囲内で従来のエンボス加工を施し、本発明における調整棒の軸方向の位置調整機構を併用するようにすれば、より細かなインピーダンスミスマッチ調整も実現できる。また、エンボス加工を主体としていた従来装置の構成では、主に26.5GHz以下で用いるメカニカルアッテネータとしての性能維持が限界であったが、調整棒の軸方向の位置を変更して細かなインピーダンス調整を可能とする本発明の構成によれば、ミリ波のようなさらに高い周波数での性能向上に有用である。
【0035】
上記課題を解決するために、本発明の請求項11に係るインピーダンス調整方法は、請求項10に記載の信号解析装置における前記可変衰器の前記伝送路用溝を構成する前記伝送路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整方法であって、前記伝送路用溝と、前記伝送路用溝に沿って配列する前記複数の調整用孔と、を有する前記ベース基板を用意し、前記伝送路用溝内に前記誘電体ブロックを装着して固定したうえで、前記ベース基板の前記伝送路形成面の面全体を前記アース板で覆い、可変減衰器として組み立てる組み立てステップ(S1、S2)と、組み立てられた前記可変減衰器の前記ベース基板の前記複数の調整用孔に対して前記伝送路非形成面側から前記調整棒を取り付けて当該調整棒の前記調整用孔の軸方向の位置を調整し、前記軸方向の位置調整に際し、前記調整棒の先端部分が前記伝送路用溝の底面を超えて前記伝送路用溝内に突出することにより生じる突出部(90)と、前記調整棒の先端部分が前記底面まで到達しないことにより生じる陥没部(91)の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整するインピーダンス調整ステップ(S3)と、前記インピーダンスを調整した後の前記可変減衰器の信号入力端子(21)と信号出力端子(22)間のインピーダンスを測定する測定ステップ(S4)と、を含み、前記インピーダンスの測定結果に基づき、必要に応じて前記インピーダンス調整ステップを繰り返し実施することを特徴とする。
【0036】
この構成により、本発明の請求項11に係るインピーダンス調整方法は、請求項10に係る信号解析装置における可変減衰器において、伝送路用溝(導波路)内にインピーダンス調整要素としての調整用孔及び調整棒を細かく配置することで、調整用孔内での調整棒の軸方向の位置調整により、導波路内に突出部、もしくは陥没部を設けることができ、簡単な構造と、突出部の突出具合、陥没部の陥没具合を適宜調整する簡単な操作とによってより細かなインピーダンス調整が可能となる。細かなインピーダンス調整が可能となることで、導波路を構成する部材の機械精度のばらつきによるインピーダンスミスマッチを製造時に設計値と一致になるよう調整し易いという利点を有する。
【0037】
具体的に、上記構成においてはアース板のエンボス加工が不要となり、インピーダンスを設計値と一致させ易く、メカニカルアッテネータとしての高周波特性を向上することができるうえ、加工の削減及びコスト低減が可能となる。コスト許容範囲内で従来のエンボス加工を施し、本発明における調整棒の軸方向の位置調整機構を併用するようにすれば、より細かなインピーダンスミスマッチ調整も実現できる。また、エンボス加工を主体としていた従来装置の構成では、主に26.5GHz以下で用いるメカニカルアッテネータとしての性能維持が限界であったが、調整棒の軸方向の位置を変更して細かなインピーダンス調整を可能とする本発明の構成によれば、ミリ波のようなさらに高い周波数での性能向上に有用である。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、簡単な構造で製造時のインピーダンスミスマッチ調整を効率的かつ容易に実現でき、コストを低減し高周波特性を向上することが可能な可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の外観構造を示す図であり、(a)は上面図を示し、(b)は側面図を示している。
【
図3】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の内部構造を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の
図3に示す内部構造から減衰素子及び皿ねじを取り去った状態の内部構造を示す斜視図である。
【
図5】
図4に示す可変減衰器におけるA-A線による断面構造を示す図であり、(a)は調整棒を取り付けていないときの断面形状を示し、(b)は調整棒を取り付けているときの断面形状を示している。
【
図6】本発明の一実施形態に係る信号解析装置の可変減衰器の
図3に示す内部構造からさらに誘電体ブロックを取り去った状態のベース基板の内部構造を示す平面図である。
【
図7】
図6に示したベース基板の内部構造を示す斜視図である。
【
図8】
図6及び
図7に示した内部構造を有するベース基板の伝送路非形成面側から見た外観構造を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器における
図4のA-A線による断面構造を示す断面図である。
【
図10】
図9に示した断面構造の要部を示す要部断面斜視図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器におけるインピーダンス調整処理動作を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る可変減衰器における
図4のA-A線による断面構造を示す断面図である。
【
図13】
図12に示した断面構造の要部を示す要部断面斜視図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態に係る可変減衰器における
図4のA-A線による断面構造を示す断面図である。
【
図15】
図14に示した断面構造の要部を示す要部断面斜視図である。
【
図16】本発明の第4の実施形態に係る可変減衰器における
図4のA-A線による断面構造を示す断面図である。
【
図17】
図16に示した断面構造の要部を示す要部断面斜視図である。
【
図18】従来の信号解析装置の可変減衰器における伝送路用溝に沿った要部断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法について図面を用いて説明する。
【0041】
本発明の一実施形態においては、本発明の信号解析装置を、DUTから出力される無線信号を被測定信号として受信し、当該被測定信号に対して解析処理を行うシグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置に適用した例を挙げて説明する。まず、本発明の一実施形態における信号解析装置の構成について説明する。
【0042】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1は、可変減衰器(可変ATT)2と、周波数変換部3と、A/D変換器(ADC)4と、信号解析部5と、操作部6と、表示部7と、制御部8と、を備え、DUT100から出力された変調信号Smの解析処理を行うものである。
【0043】
DUT100と信号解析装置1とは同軸ケーブルで接続していてもよく、あるいは、無線通信で接続していてもよい。
【0044】
DUT100は、例えば無線通信アンテナとRF回路を有する無線端末機器や基地局などである。DUT100の通信規格としては、5G NR、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びディジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100から出力する変調信号Smの変調方式としては、例えばBPSK、QPSK、QAM、OFDM等が挙げられる。
【0045】
可変ATT2は、内部に抵抗(後述する減衰素子31に相当)を有し、DUT100から出力された高周波の変調信号Smを信号解析部5において処理可能な信号レベルに減衰するためのもので、インピーダンスを設計値に極力近くなるように調整する機構を有している。本発明の一実施形態において、可変ATT2は、メカニカルATTによって実現するものである。可変ATT2の構成については、後で詳述する。
【0046】
周波数変換部3は、可変ATT2により減衰された変調信号Smを中間周波数信号に変換するものであり、局部発振器3aと、周波数混合器3bと、IFフィルタ3cと、IF増幅器3dと、を有する。
【0047】
局部発振器3aは、ローカル信号として、元の変調信号Smの周波数の値よりも変換先の周波数の値の分だけ高い周波数あるいは低い周波数の正弦波を発生するものである。局部発振器3aが発振するローカル信号の周波数は、所望の解析帯域に応じて制御部8により設定される。
【0048】
周波数混合器3bは、可変ATT2で減衰された周波数fSの変調信号Smと、局部発振器3aが出力した周波数fLのローカル信号とを混合し、2つの信号の和及び差の周波数成分を含む出力信号を生成するものである。
【0049】
IFフィルタ3cは、アナログのバンドパス・フィルタなどで構成し、周波数混合器3bからの出力信号をフィルタリングするようになっている。IFフィルタ3cは、周波数混合器3bによって変調信号Smとローカル信号とを混合した中間周波数|fL-fS|又はfL+fSが所定の周波数範囲内にあるときに、当該中間周波数の中間周波数信号を出力する。
【0050】
IF増幅器3dは、IFフィルタ3cが出力する中間周波数信号を増幅する固定利得の増幅器である。
【0051】
ADC4は、IF増幅器3dにより増幅した中間周波数信号を所定のサンプリングレートでサンプリングして、ディジタルデータに変換する。ADC4は、このディジタルデータを信号解析部5に出力するようになっている。
【0052】
信号解析部5は、ADC4から出力したディジタルデータに対して解析処理を実行するようになっている。
【0053】
操作部6は、ユーザによる操作入力を行うためのものであり、例えば表示部7の表示画面の表面に設けられたタッチパネルで構成する。あるいは、操作部6は、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成してもよい。
【0054】
表示部7は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、制御部8から出力される制御信号に応じて、信号解析部5による解析結果などを表示するようになっている。
【0055】
制御部8は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成し、信号解析装置1を構成する上記各部の動作を制御する。
【0056】
なお、制御部8は、例えば、ROMに記憶した所定のプログラムを実行することにより、経路切替制御部8aをソフトウェア的に実現することが可能である。経路切替制御部8aは、後述する経路切替機構40(
図5参照)を構成する駆動部40a、駆動部40bを駆動制御することにより、可変ATT2における減衰経路またはスルー経路の切り替えに関する制御を行う。
【0057】
次に、可変ATT2の構成について
図2~
図8を参照して説明する。
図2に示すように、可変ATT2は、上面両端部にコネクタ12、13が設けられ、該コネクタ12、13間に渡る部分を覆うように金属製のカバー筐体11を取り付けたベース基板20と、カバー筐体11の反対側から当該ベース基板20の一面全体を覆う、例えば、金属板からなるアース板20aとの積層構造によって構成している。
【0058】
ベース基板20の構成を
図3に示している。ベース基板20は、例えば、アルミニウム製の板状部材に、銅下地及び金メッキを施して形成したものである。
図3に示すように、ベース基板20は矩形の平面形状を有し、一端にはコネクタ12に連結する信号入力端子21が設けられ、他端にはコネクタ13に連結する信号出力端子22が設けられている。ベース基板20は、信号入力端子21と信号出力端子22間に渡り、所定の深さを有する断面形状が例えば矩形の伝送路用溝23が設けられている。
【0059】
伝送路用溝23は、一本の溝24から2本の溝25、26に分岐し再び一本の溝24として合流する分岐合流型溝を一組として、複数組の分岐合流型溝が直列に連結する構造を有している。各組の分岐合流型溝は、分岐した2本の溝25、26のうちの一方の溝、例えば溝25が所定のレベルの信号減衰機能を有する減衰素子31を配置して、そこを通る高周波信号を減衰する減衰経路を形成している。また、分岐した2本の溝25、26のうちの他方の溝、例えば溝26は信号減衰器機能を有しない(減衰素子31を通さない)スルー経路を形成している。溝24は本発明の「スルー経路と減衰経路をつなぐ経路」を構成している。
【0060】
また、伝送路用溝23内には、信号入力端子21と信号出力端子22間の複数の所要の位置ごとにそれぞれ誘電体ブロック33を配置している。誘電体ブロック33は、スルー経路側、中央、減衰経路側に配置し、それらの各々が、例えば、ポリフェニレンオキシド(PPO)を素材とする立体形状部材からなり、中心を、例えば、帯状導体箔が中心導体33b1、33b、33b2として貫いた構造(
図3参照)を有している。中心導体33b1、33b2として誘電体ブロック33を貫いた帯状導体箔は、それぞれ、誘電体ブロック33の両端側から伝送路用溝23をその長さ方向に沿って延設している。
【0061】
誘電体ブロック33、中心導体33b1、33b、33b2の構造及び機能について、
図4、
図5を参照してさらに詳しく説明する。
図4は、
図3に示す状態から減衰素子31及び皿ねじ35を取り去った状態の可変ATT2の内部構造を示している。また、
図5は、
図4のA-A線による要部断面図であり、(a)は調整棒70、71、72、73を取り付けていないときの断面構造を示し、(b)は調整棒70、71、72、73を取り付けているときの断面構造を示している。
【0062】
より詳しくは、
図5(a)、
図5(b)は、伝送路用溝23を構成する溝24、25、26のうち、特に、溝26側から溝25にかけての要部断面図をそれぞれ示している。
図5(a)、
図5(b)に示すように、伝送路用溝23を構成する溝26内に配置する誘電体ブロック33(「スルー経路側」の誘電体ブロック33)からはその中心部を貫いて中心導体33b1が導出している。この中心導体33b1は、溝24内に配置する誘電体ブロック33(「中央」の誘電体ブロック33)から導出する中心導体33bの真下まで延びている。
【0063】
図5(a)、
図5(b)の要部断面図においては、溝25内に配置する誘電体ブロック33(「減衰経路側」の誘電体ブロック33)を貫いて延びる中心導体33b2(
図5の右端にその一部を示す)もまた中央の誘電体ブロック33から導出する中心導体33bの真下まで延びている。さらに上述した中心導体33b1、33b2の下方には、例えば電磁石によりこれら中心導体33b1、33b2を、個別に、上方の所定位置(
図5において中心導体33bに当接する位置)と下方の所定位置(
図5に示す位置(中心導体33bから離れた位置)間を選択的に移動することが可能な駆動部40a、駆動部40bがそれぞれ設けられている。駆動部40a、駆動部40bは、例えば、上記電磁石によって上下動可能な棒状の部材で構成し、ベース基板20に形成する2つの駆動部配置用孔61内にそれぞれ配置している。ここで中心導体33b、33b1、33b2と、上記駆動部40a、40bは経路切替機構40を構成している。かかる構造を有する経路切替機構40は、溝24、25、26が三叉路として交わる箇所(分岐合流型溝)ごとに設けられている。
【0064】
上述した経路切替機構40において、例えば、駆動部40aにより中心導体33b1を中心導体33bに当接するまで上方に押し上げるように駆動した状態で、駆動部40bにより中心導体33b2を中心導体33bから離れるように駆動する(
図5参照)ことにより、溝26内に配置する誘電体ブロック33を通るスルー経路を選択することができる。これに対し、駆動部40aにより中心導体33b1を中心導体33bから離れるように駆動した状態で、駆動部40bにより中心導体33b2を中心導体33bに当接するまで上方に押し上げるように駆動する(
図5とは逆の切り替え状態)ことにより、溝25内に配置する減衰素子31を通る減衰経路を選択することができる。制御部8に設けられる経路切替制御部8aは、上述した経路切替機構40における経路切り替えに係る駆動部40a、40b(例えば、電磁石)の駆動制御を実行するものである。
【0065】
このように、中央の誘電体ブロック33、減衰経路側の誘電体ブロック33、スルー経路側の誘電体ブロック33とそれらから導出する中心導体33b、33b2、33b1は、伝送路用溝23により構成する伝送路のインピーダンス調整のための機能に加え、経路切替機構40としての機能も担っている。
【0066】
上述した内部構造を有する可変ATT2は、ベース基板20の一面、すなわち、伝送路用溝23が形成する側の面全体を覆うようにアース板20aを積層状態で取り付ける(
図2(b)参照)ことにより、ベース基板20の伝送路用溝23に沿った高周波信号の同軸型伝送路を実現するようになっている。同軸型伝送路は、例えば、ストリップライン(Stripline)構造により実現可能である。なお、以下の説明において、ベース基板20の伝送路用溝23を形成する側の面を伝送路形成面、その反対側の面(裏面)を伝送路非形成面ということもある。
【0067】
上述した同軸型伝送路を有する可変ATT2では、ベース基板20の一面(伝送路形成面)にアース板20aを積層した積層状態において、コネクタ12から信号入力端子21に入力する高周波信号が、同軸型伝送路である伝送路用溝23内を、各組の分岐合流型溝ごとに減衰経路またはスルー経路のいずれかの経路を経て信号出力端子22まで伝搬し、コネクタ13から出力するようになっている。
【0068】
可変ATT2に入力する高周波信号は、例えば、5G NR規格の信号である。また、可変ATT2において、伝送路用溝23は、信号入力端子21と信号出力端子22間のインピーダンスが、全ての誘電体ブロック33を伝送路用溝23内に配置した状態で所定の値、例えば、50オーム(Ω)となるように設計している。
【0069】
メカニカルATTで実現する可変ATT2では、例えば、製造に際し、伝送路用溝23内に配置した全ての誘電体ブロック33を、皿ねじ35を用いて当該伝送路用溝23内に固定するようになっている(
図3参照)。その際、各誘電体ブロック33にそれぞれ対応する皿ねじ35は、その頭部の傾斜面が当該各誘電体ブロック33の上端部にかかる位置まで締められるようになっている。皿ねじ35は、その締め具合によって誘電体ブロック33の上端部にかかる力を加減することができ、インピーダンス調整用要素としても機能するようになっている。
【0070】
本発明の一実施形態に係る信号解析装置1に備わる可変ATT2においては、さらなるインピーダンス調整用要素として、例えば、
図5(a)に示すように、ベース基板20の伝送路非形成面から伝送路形成面の伝送路用溝23の底部まで貫通する複数の調整用孔50、51、52、53と、調整用孔50、51、52、53にそれぞれ取り付け可能な調整棒70、71、72、73とが設けられている。この可変ATT2では、ベース基板20の伝送路形成面をアース板20a(
図5には図示していない)で覆った状態で、例えば
図5(b)に示すように、調整棒70、71、72、73を、それぞれ、調整用孔50、51、52、53内の軸方向の所望の位置(ストローク位置)となるように調整し、その作業が終了したときに例えば調整棒70、71、72、73の伝送路用溝23の底部からの突出によってできる凸部90、あるいは調整用孔53内での調整棒73の先端部分までの落ち込み(陥没)によってできる凹部91等の形態に応じて、伝送路用溝23によって形成する伝送路のインピーダンスを調整できるようになっている。凸部90、凹部91は、それぞれ、本発明の突出部、陥没部に相当する。
【0071】
より詳しくは、調整棒70、71、72、73の調整用孔50、51、52、53の軸方向の位置(ストローク)調整によって生じる上述した凸部90、凹部91は伝送路内における磁場の変動(歪み)を発生する。磁場の歪みは、例えば、凸部90の高さ、形状(特に先端部の形状)、材質(金属や樹脂等)、あるいは凹部91の深さや形状等によって異なる。例えば、a)凸部90は高さが高いほど、あるいは材質が樹脂に比べて金属の方が磁場の歪みが大きい、b)凹部91の形状(すなわち、空気の厚み)は、金属の凸部90に比べると磁場の歪みに与える影響は小さい、c)樹脂製の凸部90がもたらす磁場の歪みは、金属の凸部90によるレベルと凹部91によるレベルの中間のレベルとなる等が推察できる。これらを勘案し、本発明では、調整棒70、71、72、73の調整用孔50、51、52、53の軸方向の位置調整によって凸部90、凹部91の高さ、深さを可変とすることで磁場の歪みを生じせしめ、その磁場の歪みによってインピーダンスを調整可能にしている。加えて、本発明では、凸部90、凹部91を生じさせるための調整棒70、71、72、73の材質に関しては、後述の第1ないし第4の各実施形態で開示する金属ねじ、金属ねじの先端部に設けた樹脂製の別部材、樹脂ねじ、金属性の平行ピン部材等、異なる材質を用いる構造を想定している。また、凸部90の先端部の形状については、フラットの形状を想定している。凸部90の先端部の形状については、他の形状でもよく、例えば、半円形状や円錐形等の形状としてもよい。
【0072】
ベース基板20に設けた調整用孔50、51、52、53は、該調整用孔50、51、52、53内でその軸方向の位置調整を可能とする調整棒70、71、72、73とともにインピーダンス調整用要素として機能するものである。
【0073】
以下、可変ATT2のインピーダンス調整機構の構成について、
図6~
図8を参照して説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1の可変ATT2の
図3に示す状態から皿ねじ35、減衰素子31、誘電体ブロック33及び中心導体33b、33b1、33b2を取り去った状態のベース基板20の内部構造を示す平面図である。
図7は、
図6に示したベース基板20の内部構造の斜視図であり、
図8は可変ATT2のベース基板20の伝送路非形成面側から見た外観構造を示す斜視図である。
【0074】
図6、
図7に示すように、可変ATT2は、ベース基板20におけるスルー経路側の誘電体ブロック33及びその中心導体33b1で覆われていた伝送路用溝23の底部に、上記スルー経路ごとに、例えば、1つの調整用孔50と、3つ連なる調整用孔51、52、53とが、調整用孔50と調整用孔51間に位置する駆動部配置用孔61を挟んで伝送路用溝23に沿って一列に並べて設けられている。ここで調整用孔50、51、52、53は、スルー経路ごとに設けられ、全部で14組備わっている。
図6において、枠線fr1は14組(14個)の調整用孔50を形成した領域を示し、枠線fr2は14組の調整用孔51、52、53を形成した領域を示している。調整用孔50、51、52、53は、インピーダンス調整要素としてベース基板20に設けられるものである。枠線fr1と枠線fr2の間の領域は、駆動部配置用孔61を形成した領域である。駆動部配置用孔61は、駆動部40a、40bを配置するための孔であり(
図5参照)、インピーダンス調整要素として機能は有していない。
【0075】
一方、可変ATT2のベース基板20の伝送路非形成面側は、
図8に示すように、
図6に示した枠線fr1内に設けられる調整用孔50、及び
図6に示した枠線fr2内に設けられる調整用孔51、52、53のそれぞれに対して、調整棒70と、調整棒71、72、73とを伝送路非形成面側から伝送路形成面側に向けて取り付け可能な構成を有している。
【0076】
上述したインピーダンス調整用要素としての調整用孔50、51、52、53が
図6~
図8に示す配置態様で設けられた可変ATT2によれば、ベース基板20の伝送路用溝23内に誘電体ブロック33及び中心導体33b、33b1、33b2を装着することにより、例えば、
図4に示す内部構造を有するものとなる。このときの可変ATT2の
図4のA-A線による断面構造は、調整用孔50、51、52、53に対してそれぞれ調整棒70、71、72、73を取り付けていない状態にあっては、前述した通り、
図5(a)に示すような構造となり、調整用孔50、51、52、53に対してそれぞれ調整棒70、71、72、73を取り付けている状態にあっては、
図5(b)に示すような構造となる。
【0077】
本発明の一実施形態に係る信号解析装置1において、可変ATT2の調整用孔50、51、52、53、及び調整棒70、71、72、73により構成するインピーダンス調整機構については種々の実施形態が挙げられる。例えば、調整用孔50、51、52、53はねじ孔で構成し、調整棒70、71、72、73は、ねじ孔に嵌め合わせて(螺合させて)、回転(一方向、及びその逆方向)操作を行うことによりねじ軸方向に移動可能な金属ねじで構成する実施形態(下記「第1の実施形態」)がある。また、上記金属ねじの先端部に樹脂製の別部材を設ける(取り付ける)形態がある(下記「第2の実施形態」。また、調整棒70、71、72、73は、上述した金属ねじに代えて、樹脂ねじで構成する実施形態も考えられる(下記「第3の実施形態」)。さらには、調整用孔50、51、52、53は内周が平滑な(ねじが設けられていない)円筒形状の長孔(圧入孔)で構成し、調整棒70、71、72、73は、圧入孔に圧入する平行ピンで構成する形態(下記「第4の実施形態」)も考えられる。以下、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1に搭載する可変ATT2のインピーダンス調整用要素に関する種々の実施形態について説明する。
【0078】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る可変ATT2Aのインピーダンス調整機構の構成について、
図9、
図10を参照して説明する。
図9は、第1の実施形態に係る可変ATT2Aの
図4のA-A線による要部断面図(
図5(a)と同等)を示し、
図10は同じく可変ATT2Aの
図4のA-A線による要部断面斜視図を示している。
【0079】
図9、
図10に示すように、この実施形態に係る可変ATT2Aのインピーダンス調整機構は、前述した調整用孔50、51、52、53に相当するねじ孔50a、51a、52a、53aと、前述した調整棒70、71、72、73に相当する金属ねじ70a、71a、72a、73aと、を有している。
【0080】
図9、
図10に示すように、ねじ孔50aは、例えば、伝送路用溝23内に装着している中央の誘電体ブロック33から導出する中心導体33bの下方位置(上述した三叉路として交わる箇所)に設けられ、ねじ孔51a、52aは、例えば、スルー経路側の誘電体ブロック33を貫通して延設する中心導体33b1の下方位置に延設方向に沿って設けられている。また、ねじ孔53aは、伝送路用溝23内に装着されているスルー経路側の誘電体ブロック33の直下の位置に設けられている。
【0081】
金属ねじ70a、71a、72a、73aは、例えば、ベース基板20と同様、アルミニウム等の金属により構成する。金属ねじ70a、71a、72a、73aは、頭部75に工具穴75aを形成し、この工具穴75aに先端部を嵌め込んだ工具(例えば、スクリュードライバ)を一方向へ回転することでねじ孔50a、51a、52a、53aに対して締める(ねじ軸方向に進める)ことができ、逆方向へ回転することによりねじ孔50a、51a、52a、53aに対して緩める(ねじ軸方向に後退させる)ことができるようになっている。
【0082】
金属ねじ70a、71a、72a、73aは、ねじ部76の長さがそれぞれ異なる複数種類を用意している。例えば、本実施形態においては、金属ねじ70aと金属ねじ72aは同程度の長さを有する。金属ねじ70aのねじ部76は、ねじ孔50aに対して一方向(締める方向)に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23の底部から少しだけ突設した位置に達する長さを有している。同様に、金属ねじ72aのねじ部76も、ねじ孔52aに対して一方向に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23の底部から金属ねじ70aのねじ部76の先端部分と同程度の高さまで突設した位置に達する長さを有している。
【0083】
金属ねじ71aのねじ部76は、金属ねじ70a、72aのねじ部76よりも長く、ねじ孔51aに対して一方向に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23内を延設している中心導体33b1の下面に近接する位置まで伝送路用溝23内に突出する長さを有している。このように、金属ねじ70a、71a、72aは、ねじ孔50a、51a、52aに対してそれぞれ取り付けたときに、それらの先端部分が伝送路用溝23の底面から突出して凸部90を形成する。
【0084】
金属ねじ73aのねじ部76は、金属ねじ70a、72aのねじ部76よりも短く、ねじ孔53aに対して一方向に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23の底部まで達しない位置に留まる長さを有している。このとき、伝送路用溝23の底部には、ねじ孔53aの金属ねじ73aの先端部分までの長さに相当する深さを有する凹部91を形成する。
【0085】
本実施形態に係る可変ATT2Aにおける伝送路のインピーダンス調整処理動作について
図11に示すフローチャートを参照して説明する。
【0086】
可変ATT2Aの製造に際し、インピーダンス調整を行うには、インピーダンス調整用要素としての複数の調整用孔(第1の実施形態においては、ねじ孔50a、51a、52a、53a)を形成したベース基板20を用意し、該ベース基板20の減衰経路、及びスルー経路の所要の個所に誘電体ブロック33を装着し、かつ、各誘電体ブロック33を皿ねじ35により固定する(ステップS1)。このとき、可変ATT2Aは
図3に示すような内部構造となる。
【0087】
次いで、可変ATT2Aのベース基板20の伝送路形成面側(
図3に示している面)をアース板20aで覆って積層状態(
図2(b)参照)とする(ステップS2)。
【0088】
引き続き、積層状態としたベース基板20の伝送路非形成面(
図8参照)側から、ねじ孔50a、51a、52a、53a(
図6、
図7参照)ごとに、インピーダンス調整用要素としての調整棒70、71、72、73(第1の実施形態においては、金属ねじ70a、71a、72a、73a)の先端を押し付けた後、当該金属ねじ70a、71a、72a、73aをそれぞれ回転操作して金属ねじ70a、71a、72a、73aごとにねじ孔50a、51a、52a、53a内でのねじ軸方向の位置(ストローク)を調整することにより、インピーダンスの調整を行う(ステップS3)。
【0089】
ここでユーザは、例えば、
図9、
図10に示すように、金属ねじ70a、72aについてはそれぞれの先端部分が伝送路用溝23内にわずかに突出する位置まで一方向に回転する操作を行う。金属ねじ71aについてはその先端部分が中心導体33b1の下面に近接する位置まで突出する位置まで一方向に回転する操作を行う。金属ねじ73aについても、回転が止まるまで一方向に回転する操作を行う。
【0090】
上記ステップS3でねじ孔50a、51a、52a、53aにそれぞれ取り付けた金属ねじ70a、71a、72a、73aの回転操作によってストローク調整を行った後、さらに、コネクタ12、13を介して信号入力端子21とコネクタ13間のインピーダンスを測定する(ステップS4)。
【0091】
インピーダンスの測定が終わると、次いで、その測定結果に基づいてインピーダンスの再調整が必要であるかどうかを判断する(ステップS5)。この判断は、例えば、ユーザがステップS4でのインピーダンス測定結果と予め認識している設計値(例えば、50Ω)とを比較し、インピーダンス測定結果が設計値と一致しているか不一致かによって判断する。
【0092】
ここでインピーダンス測定結果と設計値とが一致せず、インピーダンスの再調整が必要であると判断した場合(ステップS5でYES)、ステップS3に移行し、再び、金属ねじ70a、71a、72a、73aを一方向あるいはその逆方向に回転操作することによってストローク調整を行う。
【0093】
その後は、ステップS4でのインピーダンス測定を実施し、さらにそのインピーダンス測定結果と設計値の比較結果に基づいて再調整が必要であると判定した場合(ステップS5でYES)には、ステップS3からステップS5の処理を繰り返し続行する。そして、この間、インピーダンス測定結果と設計値が一致し、再調整が必要でないと判定した場合(ステップS5でNO)には、上記一連のインピーダンス調整動作を終了する。
【0094】
次に、作用について
図9、
図10を参照して説明する。上記ステップS3において、金属ねじ70a、71a、72a、73aを、それぞれ、上述した態様でねじ孔50a、51a、52a、53aに対して一方向、あるいは逆方向に適宜に回す作業によって、金属ねじ70a、72aをその先端部分が伝送路用溝23内にわずかに突出するストローク位置にすることができ、金属ねじ71aをその先端部分が中心導体33b1の下面の近接位置まで突出するストローク位置とすることができる。同様の作業により、金属ねじ73aをねじ孔53a内に留まるストローク位置にすることができる。なお、ストローク位置が決まった後は、例えば、金属ねじ70a、71a、72a、73aを接着材で接着するなどの方法によりその位置に固定したうえで、可変ATT2Aを完成するようになっている。
【0095】
このとき、金属ねじ70a、71a、72aの先端部分が伝送路用溝23の底部から突出することで生じる凸部90、金属ねじ73aの先端部分とねじ孔53aとにより伝送路用溝23の底部に生ずる凹部91の形状に応じて磁場の変動(歪み)を来し、当該磁場の変動によって当該箇所の伝送路におけるインピーダンスが変化する。このようにして、本実施形態に係る可変ATT2Aによれば、金属ねじ70a、71a、72a、73aを、工具を用い、ベース基板20のねじ孔50a、51a、52a、53aに対してねじ軸方向に移動(ストローク調整)するように回転操作する簡単な作業で伝送路におけるインピーダンスを調整することが可能となる。
【0096】
図9、
図10においては、金属ねじ70a、71a、72a、73aがそれぞれ異なる流さである構成を例示している(
図9、
図10参照)。ここで金属ねじ70a、71a、72a、73aの長さを目標とする凸部90の高さ、凹部91の深さに対応させて事前に設定しておけば、金属ねじ70a、71a、72a、73aを最後まで締めるだけで所望のストロークを簡単に実現できるようになる。但し、金属ねじ70a、71a、72a、73aは、目標とする凸部90の高さ、凹部91の深さに対応した長さを有するものに限らず、例えば、任意の長さとし、ユーザの回転操作によって、適宜な凸部90の高さ、凹部91の深さを実現するようなものであってもよい。この点は、以下に述べる第2の実施形態に係る金属ねじ70b、71b、72bについても同様である。
【0097】
以上説明したように、本実施形態に係る可変ATT2Aは、信号入力端子21と信号出力端子22間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝23を形成するベース基板20と、ベース基板20の伝送路用溝23を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板20aと、を有し、伝送路用溝23は、減衰素子31を装着し、信号入力端子21から入力される高周波信号を減衰素子31により減衰する減衰経路(溝25)と、減衰素子31を通さないスルー経路(溝26)と、が複数組設けられるとともに、中央部を中心導体33b、33b1、33b2がそれぞれ貫通する複数の誘電体ブロック33を装着し、組ごとに減衰経路またはスルー経路を選択し、選択した全ての減衰経路内の減衰素子31に応じた減衰レベルを設定可能であって、ベース基板20の伝送路非形成面側から伝送路用溝23の底部まで貫通し、伝送路用溝23に沿って設けられる複数の調整用孔50、51、52、53と、複数の調整用孔50、51、52、53に対して伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、調整用孔50、51、52、53内での軸方向の位置を調整可能な複数のインピーダンス調整用の調整棒70、71、72、73と、を有し、上記軸方向の位置調整に際し、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面を超えて伝送路用溝23内に突出することにより底面に生じる凸部90と、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面まで到達しないことにより当該底面に生じる凹部91の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整する構成を有している。
【0098】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、伝送路用溝(導波路)23内にインピーダンス調整要素としての調整用孔50、51、52、53及び調整棒70、71、72、73を細かく配置することで、調整用孔50、51、52、53内での調整棒70、71、72、73の軸方向の位置(ストローク)調整により、導波路内に凸部90、もしくは凹部91を設けることができ、簡単な構造と、凸部90の突出具合、凹部91の陥没具合を適宜調整する簡単な操作とによってより細かなインピーダンス調整が可能となる。細かなインピーダンス調整が可能となることで、導波路を構成する部材の機械精度のばらつきによるインピーダンスミスマッチを製造時に設計値と一致になるよう調整し易いという利点を有する。
【0099】
具体的に、上記構成においてはアース板20aのエンボス加工が不要となり、インピーダンスを設計値と一致させ易く、メカニカルアッテネータとしての高周波特性を向上することができるうえ、加工の削減及びコスト低減が可能となる。コスト許容範囲内で従来のエンボス加工を施し、本実施形態における調整棒70、71、72、73のストローク調整機構を併用するようにすれば、より細かなインピーダンスミスマッチ調整も実現できる。
【0100】
また、エンボス加工を主体としていた従来装置の構成では、主に26.5GHz以下で用いるメカニカルアッテネータとしての性能維持が限界であったが、調整棒70、71、72、73のストロークを変更して細かなインピーダンス調整を可能とする本実施形態の構成によれば、ミリ波のようなさらに高い周波数での性能向上に有用である。
【0101】
また、本実施形態に係る可変ATT2Aにおいて、調整用孔51、52は、誘電体ブロック33から延設する中心導体33b1の下方位置に中心導体33b1に沿って配列している構成を有している。
【0102】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、中心導体33b1の下方位置に設けた調整用孔51、52内での調整棒71、72のストローク調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0103】
また、本実施形態に係る可変ATT2Aにおいて、調整用孔53は、誘電体ブロック33の直下に設けられる構成である。
【0104】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、誘電体ブロック33の直下に設けた調整用孔53内での調整棒73のストローク調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0105】
また、本実施形態に係る可変ATT2Aにおいて、調整用孔50は、スルー経路(溝26)、減衰経路(溝25)、スルー経路と減衰経路とをつなぐ経路(溝24)が交差する位置の直下に設けられる構成である。
【0106】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、スルー経路、減衰経路、スルー経路と減衰経路をつなぐ経路が交差する位置の直下に設けた調整用孔50内での調整棒70のストローク調整により磁場の歪みを効果的に発生せしめて効率の良いインピーダンス調整を実現できる。
【0107】
また、本実施形態に係る可変ATT2Aにおいて、調整用孔50、51、52、53は、ねじ孔50a、51a、52a、53aで構成し、調整棒70、71、72、73は、ねじ孔50a、51a、52a、53aに嵌め合わせて(螺合させて)回転可能な金属ねじ70a、71a、72a、73aで構成している。
【0108】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、ねじ孔50a、51a、52a、53aに対する凸部90、凹部91の形状を意識した金属ねじ70a、71a、72a、73aの回転操作により、容易にインピーダンス調整を行うことが可能になる。
【0109】
また、本実施形態に係る可変ATT2Aにおいて、高周波信号は、5G NR規格の信号であり、伝送路用溝23は、信号入力端子21と信号出力端子22間のインピーダンスが、全ての誘電体ブロック33を伝送路用溝23に配置した状態で所定の値となるよう設計している構成を有している。
【0110】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Aは、簡単な構造及び操作によって、5G NR規格の移動端末(DUT100)の試験にも適用し得る高周波特性を獲得することができる。
【0111】
また、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1は、減衰レベルを可変設定可能であり、DUT100から出力された高周波信号を、設定した減衰レベルで減衰する可変ATT2(2A)と、減衰された高周波信号を中間周波数信号に変換する周波数変換部3と、中間周波数信号をサンプリングして得られるディジタルデータに対して解析処理を行う信号解析部5と、を備え、可変ATT2(2A)は、信号入力端子21と信号出力端子22間に高周波信号の伝送路を構成するための伝送路用溝23を形成するベース基板20と、ベース基板20の伝送路用溝23を形成する伝送路形成面側の面全体を覆うアース板20aと、を有し、伝送路用溝23は、減衰素子31を装着し、信号入力端子21から入力される高周波信号を減衰素子31により減衰する減衰経路(溝25)と、減衰素子31を通さないスルー経路(溝26)と、が複数組設けられるとともに、それぞれの中央部を中心導体33b、33b1、33b2がそれぞれ貫通する複数の誘電体ブロック33を装着し、組ごとに減衰経路またはスルー経路を選択し、選択された全ての減衰経路内の減衰素子31に応じた信号減衰レベルを設定可能であって、ベース基板20の伝送路非形成面側から伝送路用溝23の底部まで貫通して設けられ、伝送路用溝23に沿って配列する複数の調整用孔50、51、52、53と、複数の調整用孔50、51、52、53に対して伝送路非形成面側からそれぞれ取り付け可能であり、調整用孔50、51、52、53内での軸方向の位置を調整可能な複数の調整棒70、71、72、73と、をさらに有し、上記軸方向の位置調整に際し、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面を超えて伝送路用溝23内に突出することにより底面に生じる凸部90と、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面まで到達しないことにより当該底面に生じる凹部の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整する構成を有する。
【0112】
この構成により、本発明の一実施形態に係る信号解析装置1によれば、搭載する可変ATT2(2A)の構成について前述した作用効果と同等の作用効果を奏する。
【0113】
また、本実施形態に係る可変ATT2(2A)のインピーダンス調整方法は、上述した構成を有する信号解析装置1における可変ATT2(2A)の伝送路用溝23を構成する伝送路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整方法であって、伝送路用溝23と、伝送路用溝23に沿って配列する複数の調整用孔50、51、52、53と、を有するベース基板20を用意し、伝送路用溝23内に誘電体ブロック33を装着して固定したうえで、ベース基板20の伝送路形成面の面全体をアース板20aで覆い、可変ATT2(2A)として組み立てる組み立てステップ(S1、S2)と、組み立てられた可変ATT2(2A)のベース基板20の複数の調整用孔50、51、52、53に対して伝送路非形成面側から調整棒70、71、72、73を取り付けて当該調整棒70、71、72、73の調整用孔50、51、52、53の軸方向の位置を調整し、上記軸方向の位置調整に際し、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面を超えて伝送路用溝23内に突出することにより該底面に生じる凸部90と、調整棒70、71、72、73の先端部分が伝送路用溝23の底面まで到達しないことにより当該底面に生じる凹部91の各形状に基づく磁場の変動に応じてインピーダンスを調整するインピーダンス調整ステップ(S3)と、インピーダンスを調整した後の可変ATT2(2A)の信号入力端子21と信号出力端子22間のインピーダンスを測定する測定ステップ(S4)と、を含み、インピーダンスの測定結果に基づき、必要に応じてインピーダンス調整ステップを繰り返し実施する構成を有している。
【0114】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2(2A)のインピーダンス調整方法によれば、当該可変ATT2(2A)の製造時のインピーダンス調整に際して、可変ATT2(2A)の構成について前述した作用効果と同等の作用効果を奏する。
【0115】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る可変ATT2Bのインピーダンス調整機構の構成について、
図12、
図13を参照して説明する。
図12は、第2の実施形態に係る可変ATT2Bの
図4のA-A線による要部断面図(
図5(a)と同等)を示し、
図13は同じく可変ATT2Bの
図4のA-A線による要部断面斜視図を示している。
【0116】
図12、
図13に示すように、この実施形態に係る可変ATT2Bでのインピーダンス調整機構は、第1の実施形態に係るねじ孔50a、51a、52a、53aとそれぞれ同等のねじ孔50b、51b、52b、53bと、第1の実施形態と同等の駆動部配置用孔61をベース基板20に形成するとともに、第1の実施形態に係る金属ねじ70a、71a、72aの先端部77に樹脂製の別部材80b、81b、82bをそれぞれ取り付けた金属ねじ70b、71b、72bをねじ孔50b、51b、52bに取り付け可能な構成を有している。
【0117】
別部材80b、81b、82bは、例えば、POM(ポリアセタール・ポリオキシメチレン)、RENY(ポリアミド樹脂系成形材料)、PEEK(Poly Ether Ether Ketone:ポリエーテルエーテルケトン)などの樹脂素材を例えば円筒形状(金属ねじ70a、71a、72aよりも小径)に成形して構成する。別部材80b、81b、82b、例えば、接着剤を用いて金属ねじ70b、71b、72bの先端部77に取り付けることができる。
【0118】
本実施形態に係る可変ATT2Bにおいても、第1の実施形態に係る可変ATT2Aと同様、
図11に示すインピーダンス調整処理動作によってインピーダンスの調整が行えるようになっている。
【0119】
具体的に、本実施形態においては、
図11のステップS1で、ねじ孔50b、51b、52b、53bを形成したベース基板20と、金属ねじ70b、71b、72bとを用意する。その後、
図11のステップS3では、
図12、
図13に示すように、積層状態としたベース基板20の伝送路非形成面側から、ねじ孔50b、51b、52bごとに、金属ねじ70b、71b、72bの先端を押し付けた後、当該金属ねじ70b、71b、72bをそれぞれ回転操作して金属ねじ70b、71b、72bごとにストローク(ねじ孔50b、51b、52b内でのねじ軸方向の位置)調整を行う。ここで、金属ねじ70b、72bについてはそれぞれの別部材80b、82bの先端部分が伝送路用溝23内に突出する位置まで一方向に回転する操作を行う。また、金属ねじ71bについては、別部材81bの先端部分が、スルー経路側の誘電体ブロック33から導出した中心導体33b1の下面に当接する状態に突出する位置まで一方向に回転する操作を行う。金属ねじ71bについては、先端部分は樹脂製の別部材81bであるため、中心導体33b1に当接したとしても、動作上、支障をきたすことはない。他の金属ねじ70b、72bについても同様である。
図12、
図13に示すストローク調整が終了したとき、金属ねじ70bについては別部材82bの先端部分が伝送路用溝23内にわずかに突出する状態に調整している。このとき、金属ねじ70bの頭部75はベース基板20の伝送路非形成面から飛び出した(ねじ部76が一部露出した)状態となる。このように、金属ねじ70b(他の金属ねじ71b、72bについても同じ)は、頭部75がベース基板20の伝送路非形成面に接触した状態に限らず、所望とする任意のストローク位置に停止するように回転操作可能な構成となっている。
【0120】
次に作用について
図12、
図13を参照して説明する。上記ステップS3において、金属ねじ70b、72bを、それぞれ、上述した態様でねじ孔50b、52bに対して一方向、あるいは逆方向に適宜に回す作業によって、金属ねじ70b、72bをそれぞれの別部材80b、81bの先端部分が伝送路用溝23内に突出したストローク位置とすることができる。同様の作業により、金属ねじ71bは、別部材81bの先端部分が中心導体33b1の下面に当接するまで突出したストローク位置とすることができる。一方、ねじ孔53bは解放したままの状態に保たれる。このとき、金属ねじ70b、72b、71bのそれぞれの別部材80b、82b、81bの先端部分が伝送路用溝23の底部から突出することで生じる凸部90、及びねじ孔53bの形状(開放状態)や位置等に応じて磁場が変動し、当該箇所の伝送路におけるインピーダンスが変化する。
【0121】
このように、本実施形態に係る可変ATT2Bによれば、先端部77に別部材80b、81b、82bを有する金属ねじ70b、71b、72bを、工具を用い、ベース基板20のねじ孔50b、51b、52bに対してねじ軸方向に移動(ストローク調整)するように回転操作する簡単な作業で伝送路におけるインピーダンスを調整することができる。
【0122】
上述したように、本実施形態に係る可変ATT2Bにおいて、金属ねじ70b、71b、72bは、先端部77に樹脂製の別部材80b、81b、82bがさらに設けられる構成である。
【0123】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Bは、樹脂製の別部材80b、81b、82bの先端部分が伝送線路(中心導体33b1等)に直接触れるようなストローク調整が可能であり、より細やかなインピーダンス調整を行うことができるようになる。また、第2の実施形態に係る可変ATT2Bを搭載した場合の信号解析装置1、及び第2の実施形態に係る可変ATT2Bのインピーダンス調整方法に関する作用効果についても第1の実施形態に係る可変ATT2Aを搭載した場合と同様である。
【0124】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る可変ATT2Cのインピーダンス調整機構の構成について、
図14、
図15を参照して説明する。
図14は、第3の実施形態に係る可変ATT2Cの
図4のA-A線による要部断面図(
図5(a)と同等)を示し、
図15は同じく可変ATT2Cの
図4のA-A線による要部断面斜視図を示している。
【0125】
図14、
図15に示すように、この実施形態に係る可変ATT2Cでのインピーダンス調整機構は、前述した調整用孔50、51、52、53に相当するねじ孔50c、51c、52c、53cと、前述した調整棒70、71、72、73に相当する樹脂ねじ70c、71c、72c、73cと、高さ調整用部材20bと、を有している。
【0126】
ねじ孔50cは、例えば、伝送路用溝23内に装着している中央の誘電体ブロック33から導出する中心導体33bの下方位置(上述した三叉路として交わる箇所)に設けられ、ねじ孔51c、52cは、例えば、スルー経路側の誘電体ブロック33を貫通して延設する中心導体33b1の下方位置に延設方向に沿って設けられている。また、ねじ孔53cは、伝送路用溝23内に装着しているスルー経路側の誘電体ブロック33の直下の位置に設けられている。
【0127】
樹脂ねじ70c、71c、72c、73cは、例えば、第2の実施形態に係る金属ねじ70b、71b、72bの先端部77に取り付けた別部材80b、81b、82bと同様、POM、RENY、PEEK等の樹脂素材から構成する。樹脂ねじ70c、71c、72c、73cは、頭部75に工具穴75aを形成し、この工具穴75aに先端部を嵌め込んだ工具(例えば、スクリュードライバ)を一方向へ回転することでねじ孔50c、51c、52c、53cに対して締める(ねじ軸方向に進める)ことができ、逆方向へ回転することによりねじ孔50c、51c、52c、53cに対して緩める(ねじ軸方向に後退させる)ことができるようになっている。高さ調整用部材20bは、ねじ孔50c、51c、52c、53cに対応する位置に樹脂ねじ70c、71c、72c、73cを通すことができる孔を形成した、例えば、金属製の板部材で構成している。高さ調整用部材20bは所定の厚さを有し、ベース基板20に取り付けた(積層状態とした)うえで樹脂ねじ70c、71c、72c、73cをねじ孔50c、51c、52c、53cに対して締めることによって樹脂ねじ70c、71c、72c、73cの先端部の高さを調整できるようになっている。
【0128】
樹脂ねじ70c、71c、72c、73cは、ねじ部76の長さがそれぞれ異なる複数種類のものを用意する。例えば、本実施形態においては、樹脂ねじ70cと樹脂ねじ72cのねじ部76は同程度の長さを有する。樹脂ねじ70c、72cのねじ部76は、高さ調整用部材20bを介在した(上記積層状態とした)うえでねじ孔50c、52cに対して一方向に最後まで回したときに、それぞれ、先端部分が、伝送路用溝23の底部に対して平坦となる位置に達する長さを有している。
【0129】
樹脂ねじ71cのねじ部76は、樹脂ねじ70c、72cのねじ部76よりも長く、高さ調整用部材20bを介在したうえでねじ孔51cに対して一方向に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23内を延設している中心導体33b1の下面に当接する位置まで伝送路用溝23内に突出する長さを有している。すなわち、樹脂ねじ71aは、ねじ孔51aに対して高さ調整用部材20bを介して取り付けたときに、それらの先端部分が伝送路用溝23の底面から突出して凸部90を形成する。
【0130】
樹脂ねじ73cのねじ部76は、樹脂ねじ70c、72cのねじ部76よりも短く、高さ調整用部材20bを介在したうえでねじ孔53cに対して一方向に最後まで回したときに、その先端部分が、伝送路用溝23の底部まで達しない(ねじ孔53c内に留まる)長さを有している。このとき、伝送路用溝23の底部には、ねじ孔53cの樹脂ねじ73cの先端部分までの長さに相当する凹部91を形成する。
【0131】
本実施形態に係る可変ATT2Cにおいても、
図11に示すインピーダンス調整処理動作によってインピーダンスの調整が行えるようになっている。
【0132】
具体的に、本実施形態においては、
図11のステップS1で、ねじ孔50c、51c、52c、53cを形成したベース基板20と、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cと、高さ調整用部材20bと、を用意する。その後、
図11のステップS3では、
図14、
図15に示すように、積層状態としたベース基板20の伝送路非形成面側に高さ調整用部材20bを取り付け、その状態で高さ調整用部材20bのうえから、ねじ孔50c、51c、52c、53cごとに、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cの先端を押し付けた後、当該樹脂ねじ70c、71c、72c、73cをそれぞれ回転操作して樹脂ねじ70c、71c、72c、73cごとにストローク調整を行う。ここで、樹脂ねじ70c、72cについてはそれぞれの先端部分が伝送路用溝23の底部と平坦になる位置まで一方向に回転する操作を行う。また、樹脂ねじ71cについては、その先端部分が、スルー経路側の誘電体ブロック33から導出した中心導体33b1の下面に当接する状態に突出する位置まで一方向に回転する操作を行う。樹脂ねじ71cは樹脂製であるため(他の樹脂ねじ70c、72c、73cについても同様)、中心導体33b1に当接したとしても、動作上、支障をきたすことはない。樹脂ねじ73cについても、回転が止まるまで一方向に回転する操作を行う。
【0133】
次に、作用について
図14、
図15を参照して説明する。上記ステップS3において、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cを、それぞれ、上述した態様でねじ孔50c、51c、52c、53cに対して一方向、あるいは逆方向に適宜に回す作業により、樹脂ねじ70c、72cをそれぞれの先端部分が伝送路用溝23の底部に対して平坦となるストローク位置にすることができる。同様の作業によって、樹脂ねじ71cは、先端部分が中心導体33b1の下面に当接するように突出するストローク位置にすることができる。また、樹脂ねじ73cは、先端部分がねじ孔53c内に留まるように取り付けることができる。このとき、樹脂ねじ70c、72cの先端部分が伝送路用溝23の底部に一致することで生じる平坦部、樹脂ねじ71cの先端部分が伝送路用溝23の底部から突出することで生じる凸部90、樹脂ねじ73cの先端部分とねじ孔53cとにより伝送路用溝23の底部に生ずる凹部91の形状等に応じて磁場が変動し、当該箇所の伝送路におけるインピーダンスが変化する。なお、
図13、
図14においては、高さ調整用部材20bを介在することで高さ調整を行う構成を例示しているが、高さ調整用部材20bは必ずしも用いる必要がなく、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cの回転操作だけで高さ調整を行う(
図12、
図13に示す金属ねじ70b参照)ようにしてもよい。
【0134】
このように、本実施形態に係る可変ATT2Cによれば、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cを、工具を用い、ベース基板20のねじ孔50c、51c、52c、53cに対してねじ軸方向に移動(ストローク調整)するように回転操作する簡単な作業で伝送路におけるインピーダンスを調整することが可能となる。
【0135】
本実施形態においても、樹脂ねじ70c、71c、72c、73cはそれぞれ異なる長さ(
図14、
図15参照)を有するものに限らず、例えば、同じ長さとし、ユーザの回転操作によって凸部90の高さ、凹部91の深さを適宜に調整するものであってもよい。また、本実施形態に係る樹脂ねじ70c、71c、72c、73cも、第1の実施形態のように、その先端部に樹脂製の別部材を取り付けた構成を有するものであってもよい。
【0136】
上述したように、本実施形態に係る可変ATT2Cにおいて、調整用孔50、51、52、53は、ねじ孔50c、51c、52c、53cで構成し、調整棒70、71、72、73は、ねじ孔50c、51c、52c、53cに嵌め合わせて(螺合させて)回転可能な樹脂ねじ70c、71c、72c、73cで構成している。
【0137】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Cは、樹脂成型により安価に樹脂ねじ70c、71c、72c、73cを生成することができるとともに、ねじ孔50c、51c、52c、53cに対する凸部90、凹部91の形状を意識した樹脂ねじ70c、71c、72c、73cの回転操作により、容易にインピーダンス調整を行うことが可能となる。また、第3の実施形態に係る可変ATT2Cを搭載した場合の信号解析装置1、及び第3の実施形態に係る可変ATT2Cのインピーダンス調整方法に関する作用効果についても第1の実施形態に係る可変ATT2Aを搭載した場合と同様である。
【0138】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る可変ATT2Dのインピーダンス調整機構の構成について、
図16、
図17を参照して説明する。
図16は、第4の実施形態に係る可変ATT2Dの
図4のA-A線による要部断面図(
図5(a)と同等)を示し、
図17は同じく可変ATT2Dの
図4のA-A線による要部断面斜視図を示している。
【0139】
図16、
図17に示すように、この実施形態に係る可変ATT2Dでのインピーダンス調整機構は、前述した調整用孔50、51、52、53に相当する圧入孔50d、51d、52d、53dと、前述した調整棒70、71、72、73に相当する平行ピン70d、71d、72d、73dと、を有している。平行ピン70d、71d、72d、73dは、本発明の平行ピン部材を構成している。
【0140】
圧入孔50dは、例えば、伝送路用溝23内に装着している中央の誘電体ブロック33から導出する中心導体33bの下方位置(上述した三叉路として交わる箇所)に設けられ、圧入孔51d、52dは、例えば、スルー経路側の誘電体ブロック33を貫通して延設する中心導体33b1の下方位置に延設方向に沿って設けられている。また、圧入孔53dは、伝送路用溝23内に装着しているスルー経路側の誘電体ブロック33の直下の位置に設けられている。圧入孔50d、51d、52d、53dは、例えば、内面が平滑な円筒形の貫通孔で構成している。
【0141】
平行ピン70d、71d、72d、73dは、例えば、第1の実施形態に係る金属ねじ70b、71b、72b、73bと同等の金属素材で構成した。平行ピン70d、71d、72d、73dは、例えば、円筒形の棒状部材からなり、同じ円筒形状の孔である圧入孔50d、51d、52d、53dに対して圧入可能な構成を有している。平行ピン70d、71d、72d、73dの圧入孔50d、51d、52d、53dの圧入は、専用の治具を用いて行うことができる。治具は、圧入孔50d、51d、52d、53d内で平行ピン70d、71d、72d、73dを軸方向に進めたり後退したりしながら所望のストローク位置にすることができるものである。
【0142】
平行ピン70d、71d、72d、73dは、例えば、ベース基板20の厚み相当の同程度の長さを有する複数種類を用意している。同程度の長さを有する平行ピン70d、71d、72d、73dは、伝送路用溝23の底部から突出する長さ、陥没する深さを予め考慮して圧入孔50d、51d、52d、53d内に圧入するようになっている。
【0143】
具体的に、
図16、
図17に示す例において、平行ピン70d、72dは、それらの先端部分が伝送路用溝23内に少し突出する位置まで達するように圧入孔50d、52dに圧入している。また、平行ピン71dは、その先端部分が、伝送路用溝23内に装着している誘電体ブロック33から導出する中心導体33b1の下面に近接する位置まで達する状態に圧入孔51dに圧入している。平行ピン70d、71d、72dは、圧入孔50d、51d、52dに対してそれぞれ取り付けたときに、それらの先端部分が伝送路用溝23の底面から突出して凸部90を形成する。
【0144】
さらに平行ピン73dは、その先端部分が、伝送路用溝23の底部まで達しない位置となるように圧入孔53dに圧入している。このとき、伝送路用溝23の底部には、圧入孔53dの平行ピン73dの先端部分までの長さに相当する深さを有する凹部91を形成している。
【0145】
図16、
図17に示す圧入状態において、平行ピン70dと平行ピン72dは、それぞれ、同じ長さ分が圧入孔50dと圧入孔52dとに圧入しており、その結果、平行ピン70dと平行ピン72dのベース基板20の伝送路非形成面側からの突出長さはおおよそ一致している。また、平行ピン71dと平行ピン73dのベース基板20の伝送路非形成面側からの突出長さは、平行ピン71dについては上記平行ピン70d、72dよりも短く、平行ピン73dについては上記平行ピン70d、72dよりも長くなっている。なお、平行ピン70d、71d、72d、73dの長さは、必ずしも、同じ長さである必要はなく、上述した凸部90、凹部の大きさを考慮して最初から適宜な長さで形成していてもよい。
【0146】
本実施形態に係る可変ATT2Dにおいても、
図11に示すインピーダンス調整処理動作によってインピーダンスの調整が行えるようになっている。
【0147】
具体的に、本実施形態においては、
図11のステップS1で、圧入孔50d、51d、52d、53dを形成したベース基板20と、平行ピン70d、71d、72d、73dとを用意する。その後、
図11のステップS3では、
図16、
図17に示すように、積層状態としたベース基板20の伝送路非形成面側から、圧入孔50d、51d、52d、53dごとに、平行ピン70d、71d、72d、73dを圧入する。ここで、平行ピン70d、72dについてはそれぞれの先端部分が伝送路用溝23の底部からわずかに突出する位置まで圧入孔50d、52dに圧入する。また、平行ピン71dについては、その先端部分が、スルー経路側の誘電体ブロック33から導出した中心導体33b1の下面に近接する位置まで突出するように圧入する。また、平行ピン71dについては、その先端部分が伝送路用溝23内に突出することなく圧入孔53d内に留まるように圧入する。
【0148】
次に、作用について
図16、
図17を参照して説明する。上記ステップS3において、平行ピン70d、71d、72d、73dを、それぞれ、上述した態様で圧入孔50d、51d、52d、53dに対して圧入する作業によって、平行ピン70d、72dについてはその先端部分が伝送路用溝23内にわずかに突出する位置となるように圧入することができ、平行ピン71dについてはその先端部分が中心導体33b1の下面に近接する位置まで突出位置となるように圧入することができる。このとき、平行ピン70d、71d、72dの先端部分が伝送路用溝23の底部から突出することで生じる凸部90、平行ピン73dの先端部分と圧入孔53dとにより伝送路用溝23の底部に生ずる凹部91等に応じて磁場が変動し、当該箇所の伝送路におけるインピーダンスが変化する。このようにして、本実施形態に係る可変ATT2Dによれば、平行ピン70d、71d、72d、73dを、工具を用い、ベース基板20の圧入孔50d、51d、52d、53dに対して適宜な位置になるように圧入する簡単な作業(ストローク調整)で伝送路におけるインピーダンスを調整することが可能となる。
【0149】
本実施形態においては、平行ピン70d、71d、72d、73dが同一の長さを有する構成を例示しているが、本発明はこれに限るものではなく、平行ピン70d、71d、72d、73dをそれぞれ異なる長さを有する構成(第1~第3の実施形態参照)としてもよい。但し、平行ピン70d、71d、72d、73dが同一の長さを有する構成とした場合には、これら平行ピン70d、71d、72d、73dの圧入孔50d、51d、52d、53d内での軸方向の位置を目標とする凸部90の高さ、凹部91の深さに合わせて自在に調整することができる。この場合、例えば、平行ピン70d、71d、72d、73dの長さをそれぞれ異なる長さとし、ベース基板20の伝送路非形成面に対してフラットになるように圧入することで所望のストロークを実現するような運用に比べてストローク調整に関する自由度が向上する。
【0150】
なお、平行ピン70d、71d、72d、73dは樹脂製のものであってもよい。この場合、例えば、
図16、
図17において中心導体33b1に当接する状態としたとしても、動作上、支障をきたすことはない。
【0151】
このように、本実施形態に係る可変ATT2Dにおいて、調整用孔50、51、52、53は、内周が平滑な長孔からなる圧入孔50d、51d、52d、53dで構成し、調整棒70、71、72、73は、圧入孔50d、51d、52d、53dに圧入される樹脂製の平行ピン70d、71d、72d、73dで構成している。
【0152】
この構成により、本実施形態に係る可変ATT2Dは、圧入孔50d、51d、52d、53dに対する平行ピン70d、71d、72d、73dの圧入位置に応じて容易にインピーダンス調整を行うことができる。また、ねじ加工が不要のため安価な構成とすることができる。
【0153】
第4の実施形態に係る可変ATT2Dを搭載した場合の信号解析装置1、及び第4の実施形態に係る可変ATT2Dのインピーダンス調整方法に関する作用効果についても第1の実施形態に係る可変ATT2Aを搭載した場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0154】
以上のように、本発明に係る可変減衰器、信号解析装置、及びインピーダンス調整方法は、簡単な構造で製造時のインピーダンスミスマッチ調整を効率的かつ容易に実現でき、コストを低減し高周波特性を向上することが可能であるという効果を奏し、シグナルアナライザやスペクトラムアナライザなどの信号解析装置、これに用いる可変減衰器、並びにインピーダンス調整方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0155】
1 信号解析装置
2 可変ATT(可変減衰器)
20 ベース基板
20a アース板
21 信号入力端子
22 信号出力端子
23 伝送路用溝
24 溝(スルー経路と減衰経路をつなぐ経路)
25 溝(減衰経路)
26 溝(スルー経路)
31 減衰素子
33 誘電体ブロック
33b、33b1、33b2 中心導体
50、51、52、53 調整用孔
50a、50b、50c、51a、51b、51c、52a、52b、52c、53a、53b、53c ねじ孔
50d、51d、52d、53d 圧入孔
61 駆動部配置用孔
70、71、72、73 調整棒
70a、70b、71a、71b、72a、72b、73a 金属ねじ
70c、71c、72c、73c 樹脂ねじ
70d、71d、72d、73d 平行ピン(平行ピン部材)
76 ねじ部
77 先端部
80b、81b、82b 別部材
90 凸部(突出部)
91 凹部(陥没部)
100 DUT(被試験対象)
200 ベース基板
201 導波路(伝送路用溝)
202 誘電体ブロック
203a、203、203b 中心導体
204 高周波スイッチ
204a、204b 駆動部