(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178029
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】決定方法、露光方法、情報処理装置、プログラム、露光装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091070
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 良昭
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁
(72)【発明者】
【氏名】北岡 風太
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲矢
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA05
2H197CD48
2H197DA02
2H197DA03
2H197DB10
2H197DB11
2H197EA03
2H197EA04
2H197HA03
2H197HA05
(57)【要約】
【課題】投影光学系の結像特性の変動を高い精度で補正するために有利な技術を提供する。
【解決手段】投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する決定方法は、結像特性の計測を行う工程と、計測により得られた計測値と、モデル式を用いて得られる結像特性の予測値とに基づいて、係数を決定する工程とを有し、モデル式は、基板の露光を行っている間の結像特性の変動を表す露光モデル式と、計測を行っている間の結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、露光を行っている間の結像特性の予測値は露光モデル式を用いて求められ、計測を行っている間の結像特性の予測値は計測モデル式を用いて求められる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置において前記投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、前記投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する決定方法であって、
複数の基板に対して順次に前記露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、前記投影光学系を通過した計測光に基づいて前記結像特性の計測を行う工程と、
前記計測により得られた計測値と、前記モデル式を用いて得られる前記結像特性の予測値とに基づいて、前記係数を決定する工程と、
を有し、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値は前記露光モデル式を用いて求められ、前記計測を行っている間の前記結像特性の予測値は前記計測モデル式を用いて求められる、
ことを特徴とする決定方法。
【請求項2】
前記計測は、前記露光動作期間における所定の時間間隔ごとの複数のタイミングで、基板の露光の前に実施される、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項3】
前記所定の時間間隔は、前記投影光学系の予め想定された結像特性の飽和特性に基づいて、前記露光動作期間における第1区間では短く、前記第1区間より後の第2区間では長くなるように設定されている、ことを特徴とする請求項2に記載の決定方法。
【請求項4】
前記複数の基板の最初の基板に対する前記露光動作が開始される前に、前記結像特性の初期計測を行う工程を更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項5】
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項6】
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光方法であって、
前記投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、前記投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する工程と、
前記係数が決定された前記モデル式から得られる前記投影光学系の結像特性の変動に基づいて前記基板の位置の調整または前記投影光学系の結像特性の調整を行い、その後、前記基板を露光する工程と、
を有し、
前記係数を決定する工程は、
複数の基板に対して順次に前記露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、前記投影光学系を通過した計測光に基づいて前記結像特性の計測を行う工程と、
前記計測により得られた計測値と、前記モデル式を用いて得られる前記結像特性の予測値とに基づいて、前記係数を決定する工程と、
を含み、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値は前記露光モデル式を用いて求められ、前記計測を行っている間の前記結像特性の予測値は前記計測モデル式を用いて求められる、
ことを特徴とする露光方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の決定方法を実行することを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の決定方法を情報処理装置に実行させるためのプログラム。
【請求項9】
投影光学系を介して基板を露光する露光装置であって、
前記投影光学系を通過した計測光を受光し、該受光した計測光に基づいて前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、
前記投影光学系が光エネルギーを吸収することによって生じる結像特性の変動をモデル式を用いて予測し、該予測の結果に基づいて、前記基板の位置の調整または前記投影光学系の結像特性の調整を行い、その後、前記基板を露光する制御部と、
を有し、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測部による計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記制御部は、前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値を前記露光モデル式を用いて求め、前記計測部による計測を行っている間の前記結像特性の予測値を前記計測モデル式を用いて求める、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項10】
請求項6に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、決定方法、露光方法、情報処理装置、プログラム、露光装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、半導体デバイスや液晶表示装置等の製造工程において、マスク(レチクル)のパターンを、投影光学系を介して感光性の基板(プレート)に転写する装置である。例えば、液晶表示装置の製造に使用される露光装置は、露光光を反射させて、基板に対して照射するための複数のレンズやミラー等の光学素子を備えた投影光学系を有する。
【0003】
露光処理が長時間に及ぶと、投影光学系を構成する光学素子が露光光の一部を吸収し、吸収された光のエネルギーが熱に変換され、該光学素子、その保持部材、及びそれらを取り巻く気体の温度が次第に上昇する。このとき、光学経路上の気体の温度が上昇すると、その空間の屈折率が変化するため、光学特性が変化する。このため、投影光学系への露光エネルギー照射状態による結像特性の変動を、露光量、露光時間、及び非露光時間等を変数とする補正係数を含むモデル式で演算し、その演算結果に基づいて結像特性の変動を補正している。
【0004】
露光終了から次の露光開始までの間の投影光学系に光が入射しない時間帯には投影光学系の温度が低下し結像特性が変動する。特許文献1には、投影光学系への光照射時間に基づいて、投影光学系の温度の上昇および低下を考慮して結像特性の変動量を求めることが開示されている。特許文献2には、複数の露光条件を交互に切り換えながら露光する場合に、結像特性の変動を抑えて所望の結像状態を維持する方法が開示されている。また、特許文献2には、1枚の基板に対してマスクのパターンを交換しながら多重露光を行う場合に、投影光学系での照明光のエネルギーの吸収による結像特性の変動を補正する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平04-047807号公報
【特許文献2】特開平11-150053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし近年では、高エネルギー(高線量、かつ高透過率のマスク)で露光が行われることから、結像特性の単位時間あたりの変動量が大きいため、変動を捉えるため光学特性の計測間隔を短くして補正係数を算出している。しかし、そのようにして求めた補正係数を用いて算出した予測値は、実際の計測値からずれることが判明した。この原因は、計測時におけるエネルギー量が露光時に比べ非常に小さく、露光中のエネルギー量が高いほど、計測中は、露光中とは逆方向に大きく結像特性が変動するためである。この変動は、補正係数の算出に無視できないものとなっている。
【0007】
本発明は、投影光学系の結像特性の変動を高い精度で補正するために有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置において前記投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、前記投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する決定方法であって、複数の基板に対して順次に前記露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、前記投影光学系を通過した計測光に基づいて前記結像特性の計測を行う工程と、前記計測により得られた計測値と、前記モデル式を用いて得られる前記結像特性の予測値とに基づいて、前記係数を決定する工程と、を有し、前記モデル式は、前記基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、前記基板の露光を行っている間の前記結像特性の予測値は前記露光モデル式を用いて求められ、前記計測を行っている間の前記結像特性の予測値は前記計測モデル式を用いて求められる、ことを特徴とする決定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、投影光学系の結像特性の変動を高い精度で補正するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】投影光学系の結像特性の経時変化の一例を示す図。
【
図3】フォーカスの計測値とその補正の例を示す図。
【
図4】計測間隔の違いによる結像特性の変動量の計測結果の例を示す図。
【
図6】第1実施形態における露光処理を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態における露光処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、実施形態における露光装置100の構成例を示す図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。後述のプレートステージ30は、プレート36の表面が水平面(XY平面)と平行になるように、プレートステージ30(プレートチャック35)の保持面上でプレート36を保持する。よって以下では、プレートステージ30の保持面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸まわりの回転方向、Y軸まわりの回転方向、Z軸まわりの回転方向をそれぞれθX方向、θY方向、θZ方向という。
【0013】
以下では、露光装置100は、液晶パネルを製造するための走査型露光装置として構成されているものとする。
図1において、投影光学系10の光軸11はZ方向に延び、走査露光時のマスク(レチクル)及びプレート(基板)の走査方向はY方向である。
【0014】
露光装置100は、投影光学系10を挟んでZ方向の上方にマスクステージ20、下側にプレートステージ30を備える。マスクステージ20及びプレートステージ30は、それぞれ個別に、一定方向に移動可能である。マスクステージ20は、マスク21を保持して走査し、プレートステージ30は、プレート36を保持して走査する。マスクステージ20及びプレートステージ30の走査位置は、レーザ干渉測長器50により計測されうる。
【0015】
マスクステージ20は、投影されるべきパターンを有するマスク21を搭載する。また、露光装置100は、マスクステージ20の上方に、マスク21とプレート36に形成されたパターンを、投影光学系10を介して観察できる観察光学系40と、照明光学系41とを備える。
【0016】
プレートステージ30は、本体ベース31上に配置したYステージ32及びXステージ33を有し、更に、Yステージ32およびXステージ33の上に配置されたθZステージ34を有する。また、θZステージ34上には、プレートチャック35が配置され、被処理基板であるプレート36は、プレートチャック35により保持される。Yステージ32はY方向に移動するステージ、Xステージ33はX方向に移動するステージ、θZステージ34はZ方向およびθZ方向に移動するステージである。θZステージ34は、Z方向に移動するZステージとθZ方向に移動する回転ステージとに別体で構成されていてもよい。
【0017】
Zセンサ37、38(プレート高さ計測センサ)は、プレート36またはプレートチャック35表面からのZ方向の位置の計測を行う。その計測値はθZステージ34の制御に用いられる。
【0018】
主制御部60は、光学特性計測部61、光学特性補正部62、光学特性計算部63、及びデータ保持部64を含みうる。主制御部60は、フォーカス計測、フォーカス変動の予測および補正、マスクステージ20及びプレートステージ30の制御を行う。主制御部60は、CPUやメモリなどを含むコンピュータ(情報処理装置)で構成されうる。
【0019】
以下、露光装置100におけるフォーカス計測の一例について説明する。
【0020】
マスク21とプレートチャック35の表面には、不図示のフォーカス計測用のマークが形成されており、それぞれのマークはX方向とY方向の位置情報を持っている。一例において、これらフォーカス計測用のマークは光電センサとなっており、該センサに入った光量が最大となったZ位置がベストフォーカス位置となる。
【0021】
プレート36とプレートチャック35上の計測マークとの間にはZ方向の位置差があるため、主制御部60(光学特性計測部61)は、予めZセンサ37、38を使用してその位置差を計測する。計測された位置差の計測値を「計測値A」とする。次に、光学特性計測部61は、フォーカス計測のため、マスクステージ20とプレートチャック35をフォーカス計測位置に駆動する。駆動終了後、光学特性計測部61は、Zセンサ37、38を用いて高さ計測を行う。その後、光学特性計測部61は、照明光学系41からフォーカス計測用マークに向けて計測光を照射する。光学特性計測部61は、投影光学系10を通過した計測光をフォーカス計測用マークにおいて受光し、該受光した計測光に基づいて光量を計測する。そして、以下のように投影光学系10の結像特性としてのフォーカスが計測される。
【0022】
計測終了後、光学特性計測部61は、θZステージ34を微動させながら、高さ計測と光量計測を光量のピーク(最大値)が求まるまで繰り返し計測し、その後、光量が最大値となったときの高さ位置を求める。ここで求められた高さ位置を「計測値B」とする。計測値Bは、プレートチャック35上でのベストフォーカス値を示しているため、計測値Bと計測値Aとの差分を、プレート36上のベストフォーカス値として求めることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る露光エネルギー照射による投影光学系10の結像特性の変動のモデル式と、モデル式を定量化するために用いる露光条件毎の結像特性の変動を補償するための補正係数について説明する。
【0024】
図2には、投影光学系10の結像特性の経時変化の一例が示されている。
図2において、横軸は時間tを示し、縦軸は投影光学系10の結像特性の変動量Fを示している。また、投影光学系10の初期(すなわち、露光前)の結像特性の変動量をF0とする。
【0025】
図2において、「露光時」は、露光動作が実施される露光動作期間を示し、「非露光時」は、露光動作期間の後の、露光動作が実施されない非露光動作期間を示す。「露光動作期間」とは、複数のプレートのうちの最初のプレートに対する露光動作の開始から最後のプレートに対する露光動作の終了までの期間をいうものとする。実際には露光が行われないショットとショットの間の期間やプレート交換期間も、「露光動作期間」に含まれるものとする。
【0026】
図2において、露光が時刻t0から開始されると、時間の経過に伴って結像特性が変動し、時刻t1で、一定の変動量F1に収束する(飽和特性)。時刻t1以降は、露光光が投影光学系10に入射しても、投影光学系10に吸収される熱エネルギーと投影光学系10から放出される熱エネルギーとが平衡状態に達しているため、結像特性の変動量はF1から変化しない。以下では、F1を最大変動量とも呼ぶ。そして、露光が時刻t2で停止されると、時間の経過に伴って結像特性の変動量は初期状態に戻り、時刻t3で初期の結像特性の変動量F0になる。
【0027】
図2の時定数TS1とTS2は、投影光学系10の熱伝達特性上の時定数と等価である。これらの時定数は投影光学系10に固有の値である。
【0028】
次に、
図2に示される結像特性の最大変動量F1の算出方法を説明する。単位露光エネルギー当たりの結像特性の変動量をK、実露光エネルギーを決定する露光条件(露光時間、露光量、走査速度、露光領域情報等)のパラメータをQとすると、結像特性の最大変動量F1は、次式で表される。
【0029】
F1=K×Q ・・・(1)
【0030】
ここで、ある時刻kにおける結像特性の変動量をF(k)とすると、時刻kから時間Δt露光した後の結像特性の変動量F(k+1)は、最大変動量F1と時定数TS1、TS2を用いて、次式により近似される。
【0031】
F(k+1)=F(k)+F1×(1-e(-Δt/TS1)) ・・・(2)
【0032】
時刻kから時間Δt露光しなかった場合は、結像特性の変動量F(k+1)は、次式により近似される。
【0033】
F(k+1)=F(k)×e(-Δt/TS2) ・・・(3)
【0034】
図2で示した投影光学系10の結像特性の変動特性を示す曲線を、式(1)、式(2)、式(3)の関数でモデル化することにより、露光熱によって変動する投影光学系10の結像特性の変動を予測することができる。ただし、式(1)、式(2)、式(3)の形は一例にすぎず、他の式を使用してモデル化してもよい。また、モデル数は複数としてもよい。
【0035】
式(1)のパラメータQは、例えば露光時間、露光量、走査速度のいずれかを含みうる。単位光量当たり(単位光エネルギー当たり)の結像特性の変動量を表すKを、補正係数という。パラメータQと補正係数Kとを組み合わせることで、式(1)の最大変動量F1を算出することができる。
【0036】
補正係数Kは、露光条件毎に算出しなくてはならない。なぜなら、露光条件を変化させると、投影光学系10に入射する光のエネルギー密度分布が変化し、その結果、投影光学系10の結像特性の変動量が変化するためである。
【0037】
投影光学系10の結像特性としてフォーカスを例にして説明する。光学特性計算部63は、データ保持部64に保存されたパラメータに基づいてフォーカスの変動量の予測値を計算する。光学特性計算部63による計算は、プレート毎に順次繰り返し行われる。光学特性補正部62は、この計算より得られるフォーカス変動量と一致するようにプレートステージ30(θZステージ34)を光軸11と平行な方向(Z方向)に駆動して補正する。
【0038】
光学特性計測部61はフォーカスを計測する。これにより、
図3に示されるような計測値が得られる。その後、光学特性計算部63は、データ保持部64に保存されたパラメータに基づいてフォーカスの変動量の予測値を計算し、光学特性補正部62は、該計算された予測値に基づいてプレートステージ30の補正を行う。
【0039】
露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、投影光学系10を通過した計測光に基づいて結像特性の計測が行われる。計測は、露光動作期間における所定の時間間隔(計測間隔)ごとの複数のタイミングで、プレートの露光の前に実施される。
図4には、計測間隔の違いによる結像特性の変動量の計測結果の例が示されている。
図4において、横軸は時間tを示し、縦軸は投影光学系10の計測された結像特性の変動量Fを示している。投影光学系10の結像特性は、
図2で示したような飽和特性が想定されている。近年では、高エネルギー(高線量、かつ高透過率のマスク)で露光が行われることから、結像特性の単位時間あたりの変動量が大きい。そのような変動を捉えるため、露光動作期間における第1区間では、計測間隔を短くし、第1区間より後の第2区間では計測間隔を長く設定して、補正係数を算出している。この場合の結像特性が「計測間隔1」として示されている。「計測間隔2」として示されている結像特性は、従来のように計測間隔を一定にしたものである。
【0040】
「計測間隔1」で得られた結像特性から補正係数を算出し、「計測間隔2」で得られた結像特性から予測値を算出すると、予測値と計測値との間の誤差が大きくなることがわかった。その原因は、計測時におけるエネルギー量が露光時に比べ非常に小さく、露光中のエネルギー量が高いほど、計測中は、露光中とは逆方向に大きく結像特性が変動するためである。本実施形態では、以下に説明するように計測中の結像特性の変動を加味することにより高精度に補正係数を算出する。
【0041】
図5は、本実施形態における補正係数の決定方法を示すフローチャートである。S501で、主制御部60は、補正係数を求める際の露光条件を設定する。露光条件とは、例えば、マスク、露光領域などである。その後、S502で、主制御部60(光学特性計測部61)は、最初のプレートに対する露光動作が開始される前の結像特性の初期計測(初期フォーカス計測)を行う。
【0042】
S503で、主制御部60は、設定された露光条件で露光を実施する。S504で、主制御部60は、露光条件に設定された所定の計測間隔が経過したかを判定する。計測間隔が経過していなければ、処理はS503に戻り、露光を継続する。計測間隔が経過した場合、処理はS505へ進み、主制御部60(光学特性計測部61)は、次のプレートの露光の前に、計測(フォーカス計測)を行う。得られた計測値は、S503での露光時間およびS505での計測時間と関連付けて、データ保持部64に記憶される。S506で、主制御部60は、S503の露光開始からユーザにより予め設定された指定時間が経過したかを判定する。指定時間が経過していなければ、処理はS503へ戻り露光を継続する。指定時間が経過した場合、処理はS507へ進み、主制御部60は、S505での計測回数がユーザにより予め設定された指定回数に達したかを判定する。指定回数に達していなければ、処理はS503へ戻り露光を継続する。指定回数に達した場合、処理はS508へ進む。
【0043】
S508では、主制御部60(光学特性計算部63)は、補正係数の算出(決定)を行う。光学特性計算部63は、データ保持部64に保持されている計測値と、それに関連付けられた露光時間および計測時間を用いて、以下に示す式(4)、(5)、(6)、(7)のモデル式を用いて得られる、結像特性の予測値とに基づいて、補正係数を決定する。例えば、補正係数は、計測値と予測値との残差が最小になるように決定される。決定された補正係数は、データ保持部64に記憶される。
【0044】
A1=K1×Q1 ・・・(4)
A2=K2×Q2 ・・・(5)
F1(k)=F(k)+A1×(1-e-Δt1/TS1) ・・・(6)
F(k+1)=F1(k)+A2×(1-e-Δt2/TS2) ・・・(7)
ここで、A1は露光時における結像特性の最大変動量、
TS1は時定数、
K1は単位露光エネルギー当たりの結像特性の変動量、
Q1は実露光エネルギーを決定する露光条件のパラメータ、
A2は計測時における結像特性の最大変動量、
TS2は時定数、
K2は単位計測エネルギー当たりの結像特性の変動量、
Q2は実計測エネルギーを決定するパラメータ、
F(k)は時刻kにおける結像特性の変動量、
F1(k)はF(k)から時間Δt1露光した後の結像特性の変動量、
F(k+1)はF1(k)から時間Δt2計測した後の結像特性の変動量、である。
パラメータQ1、Q2は、例えば露光時間、露光量、走査速度のいずれかを含みうる。単位光量当たり(単位光エネルギー当たり)の結像特性の変動量を表すK1、K2を、補正係数という。
【0045】
上記した投影光学系10の結像特性のモデル式は、露光モデル式と、計測モデル式とを含む。露光モデル式は、基板の露光を行っている間、すなわち、投影光学系10への露光光の照射中、における結像特性の変動を表すモデル式である。計測モデル式は、計測を行っている間における結像特性の変動を表すモデル式である。露光モデル式は式(6)で表され、計測モデル式は式(7)で表される。基板の露光を行っている間の結像特性の予測値は露光モデル式を用いて求められ、計測を行っている間の結像特性の予測値は計測モデル式を用いて求められる。
【0046】
図6には、本実施形態における露光処理のフローチャートが示されている。S601で、主制御部60は、露光条件にあった補正係数をデータ保持部64より読み出して設定する。S602で、主制御部60(光学特性計算部63)は、設定された補正係数に基づいて予測補正量を計算する。S603、主制御部60(光学特性補正部62)は、計算された予測補正量で、プレートステージ30を補正駆動(プレートの位置を調整)する。その後、S604で、主制御部60は、露光処理を行う。
【0047】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態では、予め補正係数を算出しておき(
図5)、算出済みの補正係数を用いて予測補正量を計算し、補正駆動を行う(
図6)手順を示した。それに対して第2実施形態では、補正係数を求めながら予測補正量を計算し、補正駆動を行う手順を説明する。この方法では、予め補正係数を求めておく必要がなく、生産を行いながら補正係数を算出することが可能である。
【0048】
図7には、本実施形態における露光処理のフローチャートが示されている。S701で、主制御部60は、補正係数を求める際の露光条件を設定する。S702で、主制御部60(光学特性計測部61)は、初期計測を行う。
【0049】
S703で、主制御部60(光学特性計算部63)は、予測補正量を算出可能か否かを判定する。この判定は例えば、補正係数の算出回数が所定回数を超えているかで判定する。予測補正量を算出可能な場合、S704で、光学特性計算部63は、予測補正量を算出する。S705で、光学特性補正部62は、算出された予測補正量で、プレートステージ30を補正駆動する。その後、S706で、主制御部60は、露光処理を行う。S703で予測補正量は算出不可と判定された場合、処理はS705に移行する。S705では、光学特性補正部62は、光学特性計測部61により計測された最終計測値を補正量として、プレートステージ30を補正駆動する。その後、S706で、主制御部60は、露光処理を行う。
【0050】
次に、S707で、主制御部60は、露光条件に設定された所定の計測間隔が経過したかを判定する。計測間隔が経過していなければ、処理はS710に進む。S710では、主制御部60は、露光が終了したか否か、すなわち、露光する基板が未だあるか否か、を判定する。露光が終了していなければ、処理はS703に戻り、露光が終了した場合、処理は終了する。
【0051】
S707で、計測間隔が経過した場合、処理はS708へ進み、主制御部60(光学特性計測部61)は、次のプレートの露光の前に、計測(フォーカス計測)を行う。得られた計測値は、S706での露光時間およびS708での計測時間と関連付けて、データ保持部64に記憶される。S709で、主制御部60(光学特性計算部63)は、第1実施形態で例示した式(4)、(5)、(6)、(7)に従い補正係数を算出する。算出された補正係数はデータ保持部64に記憶される。その後、処理はS710へ進む。
【0052】
なお、S707で判定される計測間隔の長さは、時定数ごとに設定されてもよい。予測補正量と計測値との差分に応じて計測間隔が決定されるようにしてもよい。これらの計測間隔の決定方法は例示であって、その他の方法によって決定されてもよい。このように計測間隔を可変とすることで、結像特性の補正精度が維持されるように補正係数を求めることが可能になる。
【0053】
上述の実施形態においては、投影光学系の結像特性の具体例としてフォーカスについて説明した。しかし、結像特性は、フォーカスのみならず、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくともいずれか1つを含みうる。上述の例のように結像特性がフォーカスである場合、主制御部60は、モデル式を用いた予測の結果に基づいて、プレート(基板)の位置の調整(プレートステージ30の駆動)を行う。結像特性が倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、あるいはコマ収差である場合、主制御部60は、モデル式を用いた予測の結果に基づいて、投影光学系10の結像特性の調整を行う。そのような調整は、投影光学系10を構成する光学素子の駆動、マスクステージ20の駆動のうちの少なくとも1つによって行われうる。
【0054】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0055】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0056】
本明細書の開示は、少なくとも以下の決定方法、露光方法、情報処理装置、プログラム、露光装置、および物品製造方法を含む。
(項目1)
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置において前記投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、前記投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する決定方法であって、
複数の基板に対して順次に前記露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、前記投影光学系を通過した計測光に基づいて前記結像特性の計測を行う工程と、
前記計測により得られた計測値と、前記モデル式を用いて得られる前記結像特性の予測値とに基づいて、前記係数を決定する工程と、
を有し、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値は前記露光モデル式を用いて求められ、前記計測を行っている間の前記結像特性の予測値は前記計測モデル式を用いて求められる、
ことを特徴とする決定方法。
(項目2)
前記計測は、前記露光動作期間における所定の時間間隔ごとの複数のタイミングで、基板の露光の前に実施される、ことを特徴とする項目1に記載の決定方法。
(項目3)
前記所定の時間間隔は、前記投影光学系の予め想定された結像特性の飽和特性に基づいて、前記露光動作期間における第1区間では短く、前記第1区間より後の第2区間では長くなるように設定されている、ことを特徴とする項目2に記載の決定方法。
(項目4)
前記複数の基板の最初の基板に対する前記露光動作が開始される前に、前記結像特性の初期計測を行う工程を更に有する、ことを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の決定方法。
(項目5)
前記結像特性は、フォーカス、倍率、像面湾曲、歪曲収差、非点収差、球面収差、コマ収差のうちの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載の決定方法。
(項目6)
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光方法であって、
前記投影光学系の結像特性の変動を表すモデル式に用いられる、前記投影光学系に与えられる単位光エネルギー当たりの結像特性の変動量を表す係数を決定する工程と、
前記係数が決定された前記モデル式から得られる前記投影光学系の結像特性の変動に基づいて前記基板の位置の調整または前記投影光学系の結像特性の調整を行い、その後、前記基板を露光する工程と、
を有し、
前記係数を決定する工程は、
複数の基板に対して順次に前記露光動作が実施される露光動作期間における所定のタイミングで、前記投影光学系を通過した計測光に基づいて前記結像特性の計測を行う工程と、
前記計測により得られた計測値と、前記モデル式を用いて得られる前記結像特性の予測値とに基づいて、前記係数を決定する工程と、
を含み、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値は前記露光モデル式を用いて求められ、前記計測を行っている間の前記結像特性の予測値は前記計測モデル式を用いて求められる、
ことを特徴とする露光方法。
(項目7)
項目1から5のいずれか1項に記載の決定方法を実行することを特徴とする情報処理装置。
(項目8)
項目1から5のいずれか1項に記載の決定方法を情報処理装置に実行させるためのプログラム。
(項目9)
投影光学系を介して基板を露光する露光装置であって、
前記投影光学系を通過した計測光を受光し、該受光した計測光に基づいて前記投影光学系の結像特性を計測する計測部と、
前記投影光学系が光エネルギーを吸収することによって生じる結像特性の変動をモデル式を用いて予測し、該予測の結果に基づいて、前記基板の位置の調整または前記投影光学系の結像特性の調整を行い、その後、前記基板を露光する制御部と、
を有し、
前記モデル式は、基板の露光を行っている間の前記結像特性の変動を表す露光モデル式と、前記計測部による計測を行っている間の前記結像特性の変動を表す計測モデル式とを含み、
前記制御部は、前記露光を行っている間の前記結像特性の予測値を前記露光モデル式を用いて求め、前記計測部による計測を行っている間の前記結像特性の予測値を前記計測モデル式を用いて求める、
ことを特徴とする露光装置。
(項目10)
項目6に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【0057】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0058】
10:投影光学系、20:マスクステージ、21:マスク、30:プレートステージ、36:プレート、60:主制御部、100:露光装置