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特開2023-178038生分解性ポリマー、生分解性ポリマーを含む中空粒子及びその製造方法
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  • 特開-生分解性ポリマー、生分解性ポリマーを含む中空粒子及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178038
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】生分解性ポリマー、生分解性ポリマーを含む中空粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20231207BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08G63/91
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091081
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】北山 雄己哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】小川 萌香
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB04
4J029AB07
4J029AD01
4J029AE01
4J029AE11
4J029EA05
4J029EG02
4J029EG05
4J029EG07
4J029EG09
4J029EH01
4J029EH02
4J029GA92
4J029HB05
4J029JF181
4J029JF221
4J029JF371
4J029JF511
4J029KD02
4J029KE09
4J029KH01
4J029KH08
4J029KJ08
4J200AA03
4J200AA23
4J200BA12
4J200BA18
4J200DA22
(57)【要約】
【課題】簡便かつ安全な方法を用いて製造することができる、生分解性ポリマーを含む中空粒子を提供する。
【解決手段】一実施態様の中空粒子は、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーを含み、光二量化基の少なくとも一部が二量化している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーを含み、前記光二量化基の少なくとも一部が二量化している、中空粒子。
【請求項2】
前記光二量化基が、シンナモイル基、クマリニル基、チミン基、ウラシル基、キノン基、マレイミド基、及びカルコン基からなる群より選ばれる、請求項1に記載の中空粒子。
【請求項3】
前記光二量化基がトリアゾール環連結基を介して前記ポリエステル主鎖に結合している、請求項1又は2に記載の中空粒子。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーの全構造単位を基準として、前記光二量化基を有する構造単位の割合が20モル%~80モル%である、請求項1又は2に記載の中空粒子。
【請求項5】
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマー、及び有機溶媒を含む溶液を用意すること、
前記溶液、水、及び任意に乳化剤を含む混合物を乳化して、前記生分解性ポリマーの液滴を含む水中油滴型エマルションを調製すること、
前記エマルションから前記有機溶媒を揮発させて、前記生分解性ポリマーを含む粒子を形成すること、
前記粒子に紫外線を照射することにより前記光二量化基を反応させて、前記粒子の表面近傍に存在する前記生分解性ポリマーを架橋すること、及び
前記粒子の内部から未架橋の前記生分解性ポリマーを除去して、前記光二量化基の少なくとも一部が二量化している中空粒子を形成すること
を含む、生分解性ポリマーを含む中空粒子の製造方法。
【請求項6】
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーであって、前記光二量化基がトリアゾール環連結基を介して前記ポリエステル主鎖に結合している、生分解性ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生分解性ポリマー、生分解性ポリマーを含む中空粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー中空粒子は、高い光散乱性及び高い比表面積を有しており、粒子内部の空隙に物質の内包が可能であることから、有機白色顔料、断熱材、マイクロリアクター、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの用途に有用である。
【0003】
マイクロプラスチックの自然環境への流出及び蓄積、及びDDSなどの生体用途の観点から、ポリマー中空粒子は分解性、特に生分解性を有することが望ましい。
【0004】
非特許文献1(Macromol. Rapid Commun. 2006, 27, 1265-1270)は、シリカテンプレート粒子上にポリ(ε-カプロラクトン)を合成してシェル層を形成し、フッ化水素を用いてシリカテンプレート粒子を除去することにより、ポリ(ε-カプロラクトン)主鎖を有する中空粒子が得られることを記載している。
【0005】
非特許文献2(Pharmaceutics 2019, 11, 528)は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)モールドを用いてリング状のポリ(ε-カプロラクトン)を調製し、溶剤処理を行うことにより、表面に空孔を有する中空粒子が得られることを記載している。
【0006】
一方、光架橋性部位を有するポリマーの粒子を含む分散液に紫外線を照射して粒子と分散媒の界面近傍で粒子に含まれるポリマーを架橋させ(界面光架橋法)、粒子内部の未架橋のポリマーを除去することにより、中空粒子を形成することが知られている。
【0007】
非特許文献3(Langmuir 2016, 32, 9245-9253)は、メチルメタクリレートとシンナモイルオキシメタクリレートとの共重合体を含む粒子から中空粒子が形成されたことを記載している。
【0008】
非特許文献4(ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 34973-34983)は、界面光架橋法によりポリ(アクリレート)主鎖を有するpH応答性カプセルポリマー粒子が形成されたことを記載している。
【0009】
非特許文献5(ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 10359-10375)は、界面光架橋法によりポリ(アクリレート)主鎖を有し制御可能なpH応答性放出能力を有するカプセルポリマー粒子が形成されたことを記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Macromol. Rapid Commun. 2006, 27, 1265-1270
【非特許文献2】Pharmaceutics 2019, 11, 528
【非特許文献3】Langmuir 2016, 32, 9245-9253
【非特許文献4】ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 34973-34983
【非特許文献5】ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 10359-10375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1に記載の方法は犠牲テンプレート法であり、シリカテンプレート粒子の除去にフッ化水素を必要とする。非特許文献2に記載の方法で得られる中空粒子は、その製造方法に起因して表面に空孔を有することから、その用途は限定されている。非特許文献3~5では、中空粒子又はカプセルポリマー粒子の材料としてアクリル系共重合体が使用されているが、生分解性ポリマーに関する言及はない。
【0012】
本開示は、簡便かつ安全な方法を用いて製造することができる、生分解性ポリマーを含む中空粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、主鎖に生分解性を有するε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含み、側鎖にシンナモイル基などの光二量化基を有する光反応性ポリマーの粒子に光照射してその表面近傍にある光反応性ポリマーを架橋し、粒子内部の未反応の光反応性ポリマーを溶出させて除去することにより、生分解性中空粒子を形成できることを見出した。
【0014】
本発明は以下の態様を包含する。
【0015】
[態様1]
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーを含み、前記光二量化基の少なくとも一部が二量化している、中空粒子。
[態様2]
前記光二量化基が、シンナモイル基、クマリニル基、チミン基、ウラシル基、キノン基、マレイミド基、及びカルコン基からなる群より選ばれる、態様1に記載の中空粒子。
[態様3]
前記光二量化基がトリアゾール環連結基を介して前記ポリエステル主鎖に結合している、態様1又は2に記載の中空粒子。
[態様4]
前記生分解性ポリマーの全構造単位を基準として、前記光二量化基を有する構造単位の割合が20モル%~80モル%である、態様1~3のいずれか一態様に記載の中空粒子。
[態様5]
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマー、及び有機溶媒を含む溶液を用意すること、
前記溶液、水、及び任意に乳化剤を含む混合物を乳化して、前記生分解性ポリマーの液滴を含む水中油滴型エマルションを調製すること、
前記エマルションから前記有機溶媒を揮発させて、前記生分解性ポリマーを含む粒子を形成すること、
前記粒子に紫外線を照射することにより前記光二量化基を反応させて、前記粒子の表面近傍に存在する前記生分解性ポリマーを架橋すること、及び
前記粒子の内部から未架橋の前記生分解性ポリマーを除去して、前記光二量化基の少なくとも一部が二量化している中空粒子を形成すること
を含む、生分解性ポリマーを含む中空粒子の製造方法。
[態様6]
ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーであって、前記光二量化基がトリアゾール環連結基を介して前記ポリエステル主鎖に結合している、生分解性ポリマー。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便かつ安全な方法を用いて、生分解性ポリマーを含む中空粒子を提供することができる。
【0017】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】中空粒子の製造スキームを示す模式図である。
図2】α-クロロ-ε-カプロラクトン及び2-クロロシクロヘキサノンのH NMR(CDCl)スペクトルである。
図3】シンナモイル-アルキン、塩化シンナモイル、及び3-ブチン-1-オールのH NMR(CDCl)スペクトルである。
図4】P(ClεCL-co-εCL)、ε-カプロラクトン、及びα-クロロ-ε-カプロラクトンのH NMR(CDCl)スペクトルである。
図5】P(NεCL-co-εCL)及びP(ClεCL-co-εCL)のH NMR(CDCl)スペクトルである。
図6】P(シンナモイルεCL-co-εCL)及びP(NεCL-co-εCL)のH NMR(CDCl)スペクトルである。
図7】P(ClεCL-co-εCL)、P(NεCL-co-εCL)、及びP(シンナモイルεCL-co-εCL)のUV-visスペクトルである。
図8】照射時間を0分(未照射)、1分、3分、5分、10分、30分、60分、及び100分としたときのP(シンナモイルεCL-co-εCL)のUV-visスペクトルである。
図9】紫外線照射前の粒子(a)、紫外線照射後の粒子(b)、及び中空粒子(c)の光学顕微鏡画像である。
図10】シェルが一部破壊された中空粒子の走査型電子顕微鏡画像である。
図11】紫外線照射前の粒子及び紫外線照射後の粒子の加水分解性を示す、加水分解時間(秒)を横軸とし、波長500nmにおける透過率(%T)を縦軸とするグラフである。
図12】実施例2の中空粒子(a)及び実施例3の中空粒子(b)の光学顕微鏡画像である。
図13】実施例1の紫外線照射前の粒子、及び実施例1~実施例3の紫外線照射後の粒子をTHFで洗浄して得られた上澄みのUV-visスペクトルである。
図14】実施例1~実施例3の中空粒子のシェル厚さの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0020】
[中空粒子]
一実施態様の中空粒子は、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーを含み、光二量化基の少なくとも一部が二量化している。光二量化基の二量化により中空粒子のシェルに架橋構造が導入され、中空粒子の形状が保持される。
【0021】
〈生分解性ポリマー〉
生分解性ポリマーは、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖を有し、側鎖に光二量化基を有するものであれば、特に限定されない。
【0022】
生分解性ポリマーは、単重合体であってもよく、共重合体であってもよい。ポリエステル主鎖は、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造のみを含むものであってもよく、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造と、1種又は複数種の他の繰り返し構造とを含んでもよい。
【0023】
ポリエステル主鎖としては、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)が挙げられる。その他のポリエステル主鎖としては、ε-カプロラクトンと、乳酸、グリコール酸、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、及びδ-バレロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種との共重合体が挙げられる。そのような共重合体としては、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン-co-乳酸)、及びポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)が挙げられる。
【0024】
光二量化基は、シンナモイル基、クマリニル基、チミン基、ウラシル基、キノン基、マレイミド基、及びカルコン基からなる群より選ばれることが好ましい。一実施態様では、光二量化基はシンナモイル基である。光二量化基は、ポリエステル主鎖に直接結合していてもよく、連結基を介してポリエステル主鎖に結合していてもよい。
【0025】
一実施態様の生分解性ポリマーにおいて、光二量化基はトリアゾール環連結基を介してポリエステル主鎖に結合している。いかなる理論に拘束される訳ではないが、生分解性ポリマーにおいてε-カプロラクトンは脂肪族鎖を構成するため、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖を有する生分解性ポリマーは比較的柔軟である。トリアゾール環構造を生分解性ポリマーに導入することにより、生分解性ポリマーに剛直さが付与され、その結果、中空粒子の形状保持性を高めることができると考えられる。
【0026】
生分解性ポリマーは、光二量化基を有する構造単位と、光二量化基を有さない構造単位とを含む共重合体であってもよい。生分解性ポリマー中の光二量化基を有する構造単位の割合は、生分解性ポリマーの分子量を考慮して、中空粒子に必要な強度及びシェル厚さに応じて適宜決定することができる。例えば、生分解性ポリマーの全構造単位を基準としたモル比率で表したときに、光二量化基を有する構造単位の割合は、20モル%~80モル%とすることができ、25モル%~75モル%であることが好ましい。光二量化基を有する構造単位の割合を上記範囲とすることにより、所望の強度及びシェル厚さを有する中空粒子を形成することができる。
【0027】
生分解性ポリマーの数平均分子量は、好ましくは500~500,000、より好ましくは1,000~200,000、更に好ましくは2,000~100,000である。生分解性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは500~1,000,000、より好ましくは1,000~500,000、更に好ましくは2,000~100,000である。本開示において「数平均分子量」及び「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による標準ポリエチレングリコール(PEG)で換算した分子量を意味する。
【0028】
〈生分解性ポリマーの製造方法〉
生分解性ポリマーは、官能基を有するε-カプロラクトン誘導体と、必要に応じて他の開環重合性モノマーとを開環重合させ、得られた(共)重合体の官能基の少なくとも一部を光二量化基又は光二量化基を含む基に変換することにより得ることができる。
【0029】
ε-カプロラクトン誘導体としては、例えば、官能基としてクロロ基を有するα-クロロ-ε-カプロラクトンが挙げられる。α-クロロ-ε-カプロラクトンは、2-クロロシクロヘキサノンのBaeyer-Villiger酸化により合成することができる。Baeyer-Villiger酸化の酸化剤としては、例えば、m-クロロ過安息香酸を用いることができる。ε-カプロラクトン誘導体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
他の開環重合性モノマーとしては、例えば、ε-カプロラクトン、ジラクチド、グリコリド、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、及びδ-バレロラクトンが挙げられる。他の開環重合性モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
他の開環重合性モノマーを使用する実施態様において、ε-カプロラクトン誘導体と他の開環重合性モノマーとの合計を基準として、ε-カプロラクトン誘導体のモル比は、10モル%~99モル%とすることができ、20モル%~90モル%であることが好ましく、30~80モル%であることがより好ましい。
【0032】
開環重合の条件は特に限定されない。開環重合は、例えば、スズ化合物、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、モリブデン化合物などの有機金属開始剤を使用して、ベンジルアルコール、トルエンなどの溶媒中で行うことができる。有機金属開始剤及び溶媒はそれぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合温度は、例えば、20℃~200℃とすることができる。重合時間は、所望する分子量に応じて適宜決定することができ、例えば、10分~120時間とすることができる。
【0033】
光二量化基への変換は、特に限定されないが、例えば、(共)重合体のクロロ基をアジド基に変換し、ヒュスゲン環化付加反応により(共)重合体のアジド基にアルキニル基及び光二量化基を有する化合物を付加することにより行うことができる。これにより、ε-カプロラクトンに由来する繰り返し構造を含むポリエステル主鎖と、側鎖に光二量化基とを有する生分解性ポリマーを得ることができる。
【0034】
クロロ基のアジド基への変換は、アジ化ナトリウム(NaN)などのアジド化剤を用いて行うことができる。アジド化の条件は特に限定されない。アジド化は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中、アルゴンガス雰囲気下、反応温度10℃~50℃、反応時間10分~240時間の条件で行うことができる。
【0035】
アルキニル基及び光二量化基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、3-ブチン-1-イル シンナメート、3-ブチン-1-イル クマリン-3-アセテート、及び3-ブチン-1-イル クマリン-4-アセテートが挙げられる。例えば、3-ブチン-1-イル シンナメートは、塩化シンナモイルと3-ブチン-1-オールとを反応させることにより得ることができる。
【0036】
ヒュスゲン環化付加反応において触媒を使用してもよい。触媒としては、例えば、銅触媒、ルテニウム触媒、及び銀触媒が挙げられる。硫酸銅(II)(CuSO)を使用し、アスコルビン酸ナトリウムなどの還元剤を共存させることにより、反応系中で銅(I)触媒を生成させてもよい。
【0037】
ヒュスゲン環化付加反応の条件は特に限定されない。ヒュスゲン環化付加反応は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中、アルゴンガス雰囲気下、反応温度20℃~100℃、反応時間10分~48時間の条件で行うことができる。ヒュスゲン環化付加反応は、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミンなどのアミン化合物の共存下で行ってもよい。
【0038】
[中空粒子の製造方法]
生分解性ポリマーを含む中空粒子は、生分解性ポリマーを含む粒子を形成し;その粒子に紫外線を照射することにより光二量化基を反応させて、粒子の表面近傍に存在する生分解性ポリマーを架橋し;粒子の内部から未架橋の生分解性ポリマーを除去することにより形成することができる。図1に中空粒子の製造スキームを模式的に示す。
【0039】
生分解性ポリマーを含む粒子は、例えば、(1)生分解性ポリマー及び有機溶媒を含む溶液を用意し、(2)得られた溶液、水、及び任意に乳化剤を含む混合物を乳化して、生分解性ポリマーの液滴を含む水中油滴型エマルションを調製し、(3)エマルションから有機溶媒を揮発させることにより形成することができる。
【0040】
有機溶媒としては、生分解性ポリマーの良溶媒であれば特に限定されず、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;及び酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステルが挙げられる。有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶液中の生分解性ポリマーの濃度は、例えば、5質量%~50質量%とすることができる。
【0041】
次に、溶液に水を加えて得られた混合物を乳化する。乳化剤を用いて混合物を乳化してもよい。乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子分散安定剤;ドデシル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどのカチオン性界面活性剤;及びポリオキシエチレンオレイルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。生分解性ポリマーが自己乳化性である場合は、乳化剤を使用しなくてもよい。乳化条件は特に限定されない。乳化は、例えば、ホモジナイザーを用いて室温で行うことができる。
【0042】
エマルション中の生分解性ポリマーの液滴の平均径は、所望する中空粒子のサイズに応じて適宜決定することができ、例えば、0.1μm~2mmとすることができる。本開示において、生分解性ポリマーの液滴の平均径は、動的光散乱法(DLS)により決定される。
【0043】
エマルションからの有機溶媒の揮発は低温で徐々に行うことが好ましい。有機溶媒の揮発は、例えば、0℃~10℃で行うことができる。
【0044】
得られた粒子への紫外線の照射は、光二量化基が反応する波長域の紫外線を用いて行われる。例えば、光二量化基が270nm付近に吸収を有するシンナモイル基である場合、波長265nmの深紫外線LEDを用いて紫外線照射を行うことができる。紫外線の照射強度及び照射時間は、光二量化基の反応性、所望する中空粒子のサイズ及びシェル厚さなどに応じて適宜決定することができる。
【0045】
未架橋の生分解性ポリマーの除去は、有機溶媒中に未架橋の生分解性ポリマーを溶出させることにより行うことができる。これにより中空粒子を形成することができる。溶出に使用可能な有機溶媒としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;及びジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミドが挙げられる。有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
光二量化基は互いに近接していないと二量化による架橋を形成しない。本開示の生分解性ポリマーにおいて、光二量化基はポリエステル主鎖に側鎖としてペンダントしていることから、低分子量の別個の架橋剤を用いた架橋と比較して、光二量化基の移動は制限される。紫外線が最初に入射する粒子の表面近傍では紫外線強度が高いため、光二量化基の反応が効果的に進行して架橋が形成される。一方で、近接する他の光二量化基がないために粒子の表面近傍で未反応のままで残存する光二量化基は、紫外線を吸収するのみで架橋には寄与しない。この粒子表面近傍での架橋及び紫外線吸収により、粒子内部では急激に紫外線強度が低下するため、粒子内部での光二量化基による架橋は進行しにくい。そのため、紫外線照射後に粒子内部から未架橋の生分解性ポリマーを容易に除去することができ、その結果、テンプレート粒子を使用せずに最も単純な構造の粒子から中空粒子を直接作製することができる。
【0047】
〈中空粒子の物性〉
中空粒子の平均粒径は、用途に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。中空粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm~1mmとすることができる。本開示において、中空粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定を用いて決定される体積累積粒径D50である。
【0048】
中空粒子の空隙率は、用途に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。中空粒子の空隙率(粒子内部の空間体積割合)は、例えば、20%~85%とすることができる。
【0049】
中空粒子のシェル厚さは、用途に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。中空粒子のシェル厚さは、例えば、50nm~100μmとすることができる。
【0050】
〈中空粒子の用途〉
本開示の生分解性ポリマーを含む中空粒子は、有機白色顔料、断熱材、マイクロリアクター、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの用途に好適に使用することができる。
【実施例0051】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
本実施例では表1に示す以下の試薬を使用した。
【0053】
【表1】
【0054】
ε-カプロラクトン及びベンジルアルコールは、ガラスチューブオーブン GTO-2000型(柴田科学株式会社)で蒸留してから使用した。中空粒子の形成において、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)3500は、0.0067質量%のPVA水溶液の状態で使用した。
【0055】
実施例1
1.α-クロロ-ε-カプロラクトン(ClεCL)の合成
【化1】
【0056】
2-クロロシクロヘキサノン(19.9g、0.150mol)、m-クロロ過安息香酸(9.97g、0.0578mol)、及びジクロロメタン(DCM)(100mL)をナスフラスコに加えて室温で4日間撹拌した。その後-20℃で3時間冷却し、吸引ろ過を行った。ろ過により不純物である白色固体を取り除いた後、得られた液体を飽和NaSO水溶液で3回、飽和NaHCO水溶液で3回、飽和NaHSO水溶液で1回、及び飽和NaCl水溶液で1回分液した。分液後、有機層に硫酸マグネシウムを入れて水を除去した。その後、DCMを揮発させてオイル状の液体を得た。得られた液体をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:9、vol/vol)にかけ、真空乾燥して、生成物であるα-クロロ-ε-カプロラクトン(ClεCL)を含む液体を分取した(収量4.90g、収率43%)。
【0057】
図2に、α-クロロ-ε-カプロラクトン及び2-クロロシクロヘキサノンのH NMR(CDCl)スペクトルを示す。
【0058】
2.アルキン末端を有する光反応性分子(シンナモイル-アルキン)の合成
【化2】
【0059】
3-ブチン-1-オール(1.51mL、0.02mol)、トリエチルアミン(TEA)(3.35mL、0.024mol)、及びクロロホルム(20mL)をナスフラスコに入れ、氷浴で冷却した状態で撹拌を開始した。塩化シンナモイル(4.0g、0.024mol)をクロロホルム(10mL)に溶解させて得られた溶液を、撹拌中の溶液に少しずつ滴下した。滴下終了後、氷浴を取り除いて室温で3日間撹拌した。撹拌終了後、飽和NaCl水溶液で2回、飽和NaCO水溶液で3回、及び飽和NaCl水溶液で1回分液した。分液後、有機層に硫酸マグネシウムを入れて水を除去し、液相を真空乾燥した。真空乾燥により得られた液体をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:7、vol/vol)にかけ、生成物である3-ブチン-1-イル シンナメート(シンナモイル-アルキン)を含む液体を分取した(収量6.45g、収率67%)。
【0060】
図3に、シンナモイル-アルキン、塩化シンナモイル、及び3-ブチン-1-オールのH NMR(CDCl)スペクトルを示す。
【0061】
3.側鎖にシンナモイル基を有する生分解性ポリマー(P(シンナモイルεCL-co-εCL))の合成
【0062】
(1)α-クロロ-ε-カプロラクトン(ClεCL)とε-カプロラクトン(εCL)の共重合体(P(ClεCL-co-εCL))の合成
【化3】
【0063】
ε-カプロラクトン(0.285g、2.5mmol)、α-クロロ-ε-カプロラクトン(1.15g、7.5mmol)、ベンジルアルコール(0.0108g、0.10mmol)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(0.0114g、0.028mmol)、及びトルエン(超脱水、2mL)をアルゴン置換しながらシュレンク管に入れた。シュレンク管内を真空状態にし、シュレンク管を110℃のオイルバスに24時間浸けた。その後、シュレンク管から反応液を取り出し、ヘキサンを用いた再沈殿及びろ過により共重合体を採取し、真空乾燥した。これにより、α-クロロ-ε-カプロラクトン(ClεCL)とε-カプロラクトン(εCL)の共重合体(P(ClεCL-co-εCL))を得た(収量1.70g、収率85%)。
【0064】
図4に、P(ClεCL-co-εCL)、ε-カプロラクトン、及びα-クロロ-ε-カプロラクトンのH NMR(CDCl)スペクトルを示す。図4から、4.8ppm付近のα-クロロ-ε-カプロラクトンのクロロ基が結合した炭素原子上のプロトン(a”)が、開環共重合により2.0ppm付近にシフトしている(a)ことが分かる。2.0ppm付近のピーク(a)がα-クロロ-ε-カプロラクトン由来であり、2.4ppm付近のピーク(a’)がε-カプロラクトン由来であることから、これらの積分比から計算すると、共重合体のα-クロロ-ε-カプロラクトンに由来する構造単位の割合は、全構造単位を基準として約71モル%であった。
【0065】
(2)共重合体側鎖のクロロ基のアジド基への変換
【化4】
【0066】
P(ClεCL-co-εCL)(0.8g、5.8mmol)、アジ化ナトリウム(0.384g、5.9mmol)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(2.5mL)をアルゴン置換しながらナスフラスコに入れ、6日間撹拌した。撹拌後、50℃のウォーターバス内で加熱しながら反応物を3時間真空乾燥した。真空乾燥後に得られた共重合体を含む溶液にトルエンを加えて塩を析出させた後、溶液を遠心分離にかけ、上澄み液を回収して真空乾燥した。これにより、側鎖のクロロ基がアジド基に変換された共重合体(P(NεCL-co-εCL))を得た(収量0.80g、収率60%)。
【0067】
図5に、P(NεCL-co-εCL)及びP(ClεCL-co-εCL)のH NMR(CDCl)スペクトルを示す。図5から、2.0ppm付近のP(ClεCL-co-εCL)のクロロ基が結合した炭素原子上のプロトン(a’)が、アジド基に変換されることで3.8ppm付近にシフトしている(a)ことが分かる。3.8ppm付近のピーク(a)がP(NεCL-co-εCL)のアジド基が結合した炭素原子上のプロトン由来であり、2.4ppm付近のピーク(b)がε-カプロラクトン由来であることから、これらの積分比から計算すると、共重合体のアジド基を有する構造単位の割合は、全構造単位を基準として44モル%であった。
【0068】
(3)共重合体側鎖への光二量化基の導入
【化5】
【0069】
P(NεCL-co-εCL)(481mg、3.64mmol)、シンナモイル-アルキン(272mg、1.38mmol)、硫酸銅(II)(23.6mg、0.143mmol)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(41.5mg、0.24mmol)、及びDMF(4.8mL)をシュレンク管に入れた。その後窒素置換しながらシュレンク管にL-アスコルビン酸ナトリウム(49.3mg、0.247mmol)を加え、40℃のオイルバス内でシュレンク管を4時間加熱した。加熱後に得られた溶液を真空乾燥した後、共重合体をトルエンに溶解し、冷ヘキサンを用いた再沈殿及びろ過により共重合体を採取し、真空乾燥した。これにより、ポリ(ε-カプロラクトン)主鎖と、側鎖に光二量化基としてシンナモイル基とを有する生分解性ポリマー(P(シンナモイルεCL-co-εCL))を得た(収量0.68g、収率82%)。
【0070】
図6に、P(シンナモイルεCL-co-εCL)及びP(NεCL-co-εCL)のH NMR(CDCl)スペクトルを示す。図6から、3.8ppm付近のP(NεCL-co-εCL)のアジド基が結合した炭素原子上のプロトン(a’)が、トリアゾール基に変換されることで5.4ppm付近にシフトしている(a)ことが分かる。5.4ppm付近のピーク(a)がP(シンナモイルεCL-co-εCL)のトリアゾール基が結合した炭素原子上のプロトン由来であり、3.8ppm付近のピーク(a’)が未反応のアジド基が結合した炭素原子上のプロトン由来であることから、これらの積分比から計算すると、アジド基のトリアゾール基への変換効率は75%であった。共重合体のアジド基を有する構造単位の割合は、全構造単位を基準として44モル%であったことから、共重合体のシンナモイル基を有する構造単位の割合は、全構造単位を基準として33モル%(=44モル%×0.75)と算出された。
【0071】
4.物性評価
P(ClεCL-co-εCL)、P(NεCL-co-εCL)、及びP(シンナモイルεCL-co-εCL)について、GPC測定(標準ポリマー:PEG、溶媒:THF)及びUV-vis測定を行った。これらの共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)を表2に、UV-visスペクトルを図7に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
P(シンナモイルεCL-co-εCL)の合成過程で分子量に大きな変化が見られないことから、側鎖変換操作により共重合体主鎖の分解が生じていないことが示唆された。P(シンナモイルεCL-co-εCL)は、P(ClεCL-co-εCL)及びP(NεCL-co-εCL)にはない270nm付近のシンナモイル基由来の吸収を示した。
【0074】
5.光二量化反応性
P(シンナモイルεCL-co-εCL)のシンナモイル基の光二量化反応性をUV-vis測定により確認した。P(シンナモイルεCL-co-εCL)をクロロホルムに溶解した溶液をガラス基板上に塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより厚さ1μm程度のフィルムをガラス基板上に形成した。フィルムに波長265nmの紫外線を照射して、照射時間による吸光度の変化を測定した。図8に、照射時間を0分(未照射)、1分、3分、5分、10分、30分、60分、及び100分としたときのP(シンナモイルεCL-co-εCL)のUV-visスペクトルを示す。照射時間が長くなるにつれて270nm付近のシンナモイル基由来のUV吸収が減少したことから、以下の反応式の右矢印で示されるシンナモイル基の光二量化反応が進行したことが確認された。
【化6】
【0075】
6.中空粒子の作製
P(シンナモイルεCL-co-εCL)(30mg)をクロロホルム(600μL)に溶解し、0.0067質量%PVA水溶液(15mL)を加え、ホモジナイザー(10,000rpm)で混合物を2分間乳化した。得られたエマルションを4℃で冷却しながら撹拌することによりクロロホルムを揮発させて、P(シンナモイルεCL-co-εCL)の粒子を含む分散液を得た。得られた分散液に紫外線(265nm、4mW/cm)を4℃で2時間照射した。これにより、シンナモイル基を光二量化反応させて、粒子の表面近傍のP(シンナモイルεCL-co-εCL)を架橋した。紫外線照射後、THF及びDMSOで洗浄することにより、粒子内部から未架橋のP(シンナモイルεCL-co-εCL)を溶出させて除去し、液相を0.0067質量%PVA水溶液で置換した。これにより、PVA水溶液中に分散した中空粒子を得た。
【0076】
図9に、紫外線照射前の粒子(a)、紫外線照射後の粒子(b)、及び中空粒子(c)の光学顕微鏡画像を示す。図10に、シェルが一部破壊された中空粒子の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0077】
紫外線照射前の粒子及び紫外線照射後の粒子の加水分解性を評価した。紫外線照射前の粒子については、紫外線照射前の分散液(1.8mL)に、1MNaOH水溶液(0.2mL)を加え、70℃で加熱及び撹拌しながら透過率測定を行った。紫外線照射後の粒子については、紫外線照射前の分散液(1.8mL)に紫外線(265nm、4mW/cm)を4℃で2時間照射した後、得られた分散液に1MNaOH水溶液(0.2mL)を加え、70℃で加熱及び撹拌しながら透過率測定を行った。図11に、加水分解時間(秒)を横軸とし、波長500nmにおける透過率(%T)を縦軸とするグラフを示す。
【0078】
紫外線照射前の粒子及び紫外線照射後の粒子のいずれにおいても、加水分解時間が長くなるにつれて透過率が上昇した。分散液の透過率の上昇は、粒子に含まれるP(シンナモイルεCL-co-εCL)のポリエステル主鎖が加水分解された結果、粒子が分解されてPVA水溶液中に溶解したことに起因すると考えられる。したがって、この加水分解性の評価結果から、紫外線照射による粒子表面近傍の架橋は生分解性ポリマーの加水分解性に悪影響を及ぼしておらず、中空粒子においても加水分解性が保持されることが示唆される。
【0079】
実施例2及び実施例3
紫外線の照射時間を4時間(実施例2)又は6時間(実施例3)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で中空粒子を作製した。図12に、実施例2の中空粒子(a)及び実施例3の中空粒子(b)の光学顕微鏡画像を示す。
【0080】
図13に、実施例1の紫外線照射前の粒子、及び実施例1~実施例3の紫外線照射後の粒子をTHFで洗浄して得られた上澄みのUV-visスペクトルを示す。図13から、照射時間が長くなるにつれて270nm付近のシンナモイル基由来のUV吸収が減少したことから、シンナモイル基の光二量化反応が進行し、THFに溶出する未架橋のP(シンナモイルεCL-co-εCL)の量が減少したことが確認された。このことは、紫外線の照射量を変えることにより中空粒子のシェル厚さが制御可能であることを示唆する。
【0081】
実施例1~実施例3の中空粒子のシェル厚さを光学顕微鏡で撮影した画像を画像処理ソフトウェアImageJで解析することにより決定した。図14に測定結果をグラフで示す。照射時間が長くなるにつれて、中空粒子のシェル厚さが増加したことが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の生分解性ポリマーを含む中空粒子は、有機白色顔料、断熱材、マイクロリアクター、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの用途に好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14