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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178048
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20231207BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20231207BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B60C11/13 A
B60C11/00 B
B60C11/13 C
B60C11/03 C
B60C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091094
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】前田 陽平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA03
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB11
3D131BB19
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC15
3D131BC18
3D131BC33
3D131EA02U
3D131EA03U
3D131EB03U
3D131EB32Z
3D131EB39Z
3D131EB40Z
3D131EB46Z
3D131EB47Z
3D131EB52U
3D131EB52Z
3D131EB59U
3D131EB59Z
3D131EB60U
3D131EB60Z
3D131EB66U
3D131EB66Z
3D131EB67U
3D131EB67Z
3D131EB68U
3D131EB68Z
(57)【要約】
【課題】トレッド部の摩耗が進行しても、雪上性能を維持することができるタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部2を有するタイヤである。トレッド部2は、接地面2sと、第1溝10とを含む。トレッド部2を構成するトレッドゴム2Gは、第1ゴム層6と、第2ゴム層7とを含む。第2ゴム層7の複素弾性率E*2は、第1ゴム層6の複素弾性率E*1よりも小さい。第1溝10は、第1溝縁11と、溝底面12と、第1溝壁13とを含む。第1溝10の横断面において、第1溝壁13は、第1溝縁11と溝底面12との間に、第1溝縁11よりも第1溝10の溝幅方向の外側に位置する幅広頂部15を含む。幅広頂部15は、第2ゴム層7内に位置している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、接地面と、前記接地面で開口する少なくとも1本の第1溝とを含み、
前記トレッド部を構成するトレッドゴムは、前記接地面で露出しない第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向外側に接続された第2ゴム層とを含み、
前記第2ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さく、
前記第1溝は、前記接地面に現れた2つの溝縁の一方である第1溝縁と、前記第2ゴム層よりもタイヤ半径方向内側に位置する溝底面と、前記第1溝縁と前記溝底面との間の第1溝壁とを含み、
前記第1溝の横断面において、前記第1溝壁は、前記第1溝縁と前記溝底面との間に、前記第1溝縁よりも前記第1溝の溝幅方向の外側に位置する幅広頂部を含み、
前記幅広頂部は、前記第2ゴム層内に位置している、
タイヤ。
【請求項2】
前記第1溝の前記幅広頂部での溝幅は、前記第1溝の前記接地面での溝幅の100%~120%である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層に接続され、かつ、前記接地面を構成する第3ゴム層を含み、
前記第3ゴム層の複素弾性率E*3は、前記複素弾性率E*1よりも小さく、かつ、前記複素弾性率E*2よりも大きい、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記横断面において、前記第1溝縁から前記幅広頂部までの前記溝幅方向の距離は、前記第1溝の前記接地面における溝幅の10%以下である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第1溝縁から前記幅広頂部までの深さは、前記第1溝の最大の深さの45%~55%である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第1溝壁は、前記第1溝縁からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びる外側部と、前記幅広頂部からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びる内側部と、前記外側部と前記内側部との間に配され、かつ、前記外側部及び前記内側部とは逆向きに傾斜した中間部とを含む、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記内側部の前記第1溝の深さ方向に対する角度θ2は、前記外側部の前記深さ方向に対する角度θ1よりも大きい、請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記角度θ1及び前記角度θ2は、それぞれ、20°以下である、請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記トレッド部の平面視において、前記第1溝は、タイヤ周方向に対して15°以上の角度で傾斜している、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第1溝は、前記横断面において前記第1溝壁と対称形状を備えた第2溝壁を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層に接続され、かつ、前記接地面を構成する第3ゴム層を含み、
前記複素弾性率E*1、前記複素弾性率E*2、及び、前記第3ゴム層の複素弾性率E*3は、それぞれ、4~15MPaである、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記複素弾性率E*3は、前記複素弾性率E*2よりも大きく、かつ、前記複素弾性率E*2の2倍よりも小さい、請求項11に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記接地面から前記第3ゴム層と前記第2ゴム層との境界までの深さは、前記第1溝の最大の深さの45%~55%である、請求項11に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記接地面から前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との境界までの深さは、前記第1溝の最大の深さの85%~90%である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に複数の傾斜溝が設けられたタイヤが提案されている。このタイヤは、前記傾斜溝によって雪上性能の向上を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-193056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、タイヤのトレッド部の摩耗が進行すると、前記トレッド部に形成された溝の容積が減少し、雪上性能が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、トレッド部の摩耗が進行しても、雪上性能を維持することができるタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、接地面と、前記接地面で開口する少なくとも1本の第1溝とを含み、前記トレッド部を構成するトレッドゴムは、前記接地面で露出しない第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向外側に接続された第2ゴム層とを含み、前記第2ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さく、前記第1溝は、前記接地面に現れた2つの溝縁の一方である第1溝縁と、前記第2ゴム層よりもタイヤ半径方向内側に位置する溝底面と、前記第1溝縁と前記溝底面との間の第1溝壁とを含み、前記第1溝の横断面において、前記第1溝壁は、前記第1溝縁と前記溝底面との間に、前記第1溝縁よりも前記第1溝の溝幅方向の外側に位置する幅広頂部を含み、前記幅広頂部は、前記第2ゴム層内に位置している、タイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤは、上記の構成を採用したことによって、トレッド部の摩耗が進行しても、雪上性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1のトレッドゴム及び第1横溝の断面図である。
図3】本発明の他の実施形態のトレッドゴム及び第1溝の横断面図である。
図4】比較例1のトレッドゴム及び第1溝の横断面図である。
図5】比較例2のトレッドゴム及び第1溝の横断面図である。
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。図1は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の正規状態における展開図である。図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の冬用の空気入りタイヤとして好適に使用される。本発明の他の態様では、タイヤ1は、例えば、重荷重用の空気入りタイヤや、タイヤの内部に加圧された空気が充填されない非空気式タイヤ等として用いることができる。
【0010】
前記「正規状態」とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって車両に未装着かつ無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。
【0011】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0012】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0013】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、回転方向Rが指定された方向性パターンを具えている。回転方向Rは、例えば、サイドウォール部(図示省略)に、文字又は記号で表示される。
【0014】
トレッド部2は、接地面2sと、接地面で開口する少なくとも一本の第1溝10を含む。本実施形態のトレッド部2には、複数の第1溝10が設けられている。第1溝10は、例えば、タイヤ軸方向の両側のトレッド端Teからタイヤ赤道Cに向かって、前記回転方向Rの先着側に傾斜している。また、第1溝10は、タイヤ赤道Cの手前で途切れている。但し、本発明は、トレッド部2を平面視(以下、「トレッド平面視」という場合がある。)したときの第1溝10の形状については、特に限定されるものではない。
【0015】
図2には、トレッド部2を構成するトレッドゴム2G及び第1溝10の断面図が示されている。図2は、図1のA-A線断面図に相当し、第1溝10の長さ方向と直交する横断面を示している。図2に示されるように、トレッドゴム2Gは、接地面2sで露出しない第1ゴム層6と、第1ゴム層6のタイヤ半径方向外側に接続された第2ゴム層7とを含んでいる。また、第2ゴム層7の複素弾性率E*2は、第1ゴム層6の複素弾性率E*1よりも小さい。複素弾性率E*が小さいゴム層は、柔軟性に優れており、接地面に現れた場合には、ウェット路面や雪路において大きなグリップ力を提供することが知られている。
【0016】
前記複素弾性率E*は、JIS-K6394の規定に準じて、次に示される条件で、粘弾性スペクトロメータ(例えば、GABO社製の試験機である。)を用いて測定した値である。
初期歪み:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張り
測定温度:30℃
【0017】
第1溝10は、第1溝縁11と、溝底面12と、第1溝縁11と溝底面12との間の第1溝壁13とを含む。第1溝縁11は、接地面2sに現れた2つの溝縁の一方である。溝底面12は、第2ゴム層7よりもタイヤ半径方向内側に位置しており、本実施形態では第3ゴム層8内に位置している。
【0018】
第1溝10の溝縁は、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの接地面と溝開口部との境界に相当する。また、「正規荷重」は、各種の規格が定められたタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、「正規荷重」は、上述の規格に準じ、タイヤを使用する上で適用可能な最大の荷重を指す。
【0019】
第1溝10の横断面において、第1溝壁13は、第1溝縁11と溝底面12との間に、第1溝縁11よりも第1溝10の溝幅方向の外側に位置する幅広頂部15を含む。また、幅広頂部15は、第2ゴム層7内に位置している。本発明のタイヤ1は、このような構成を採用したことにより、トレッド部2の摩耗が進行しても、雪上性能を維持することができる。その理由は以下の通りである。
【0020】
本発明では、第1溝10の第1溝壁13が幅広頂部15を含むため、幅広頂部15が露出するような摩耗状態においても、第1溝10は、十分な溝幅を確保することができ、大きな雪柱せん断力を発揮できる。また、本発明では、幅広頂部15が第2ゴム層7内に位置しているため、前記摩耗状態では、複素弾性率が低い第2ゴム層7が接地面に現れ、雪上において大きなグリップ力を提供する。本発明では、上述の作用が相俟って、前記摩耗状態にいても、雪上性能を維持することができる。
【0021】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される各構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0022】
本実施形態のトレッドゴム2Gは、第2ゴム層7に接続され、かつ、接地面2sを構成する第3ゴム層8を含む。第3ゴム層8の複素弾性率E*3は、第1ゴム層6の複素弾性率E*1よりも小さく、かつ、第2ゴム層7の複素弾性率E*2よりも大きい。このような第3ゴム層8は、タイヤ新品時のドライ路面での操縦安定性(以下、単に「操縦安定性」と言う場合がある。)と雪上性能とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0023】
第1ゴム層6の複素弾性率E*1、第2ゴム層7の複素弾性率E*2、及び、第3ゴム層の複素弾性率E*3は、それぞれ、4~15MPaであるのが望ましい。これにより、雪上性能だけでなく、操縦安定性や耐摩耗性能をバランス良く向上させることができる。また、第3ゴム層8の複素弾性率E*3は、第2ゴム層7の複素弾性率E*2よりも大きく、かつ、第2ゴム層7の複素弾性率E*2の2倍よりも小さいのが望ましい。これにより、第2ゴム層7が露出したときの摩耗外観の悪化を抑制することができる。
【0024】
具体的には、第1ゴム層6の複素弾性率E*1は、例えば、6~15MPaである。第2ゴム層7の複素弾性率E*2は、例えば、4~10MPaである。第3ゴム層8の複素弾性率E*3は、例えば、5~12MPaである。但し、本発明は、このような数値範囲に限定されるものではない。
【0025】
接地面2sから第3ゴム層8と第2ゴム層7との境界9aまでの深さd2は、第1溝10の最大の深さd1の45%~55%であるのが望ましい。また、接地面2sから第1ゴム層6と第2ゴム層7との境界9bまでの深さd3は、第1溝10の最大の深さd1の85%~90%である。これにより、雪上性能と操縦安定性とがバランス良く向上する。なお、前記深さd2、d3は、第1溝10の溝壁での深さを意味する。望ましい態様では、前記深さd2、d3が接地面2sに沿って実質的に一定とされる。
【0026】
図1に示されるように、トレッド平面視において、第1溝10は、タイヤ周方向に対して15°以上の角度で傾斜しているのが望ましい。第1溝10のタイヤ周方向に対する角度θaは、例えば、30~80°である。このような第1溝10は、雪上走行時のトラクション性能及びブレーキ性能を高めるのに役立つ。
【0027】
本実施形態の第1溝10は、例えば、トレッド端Te側からタイヤ赤道Cに向かって溝幅が小さくなっている。このような第1溝10は、内部で雪を強く押し固めることができ、大きな雪柱せん断力を発揮できる。なお、本実施形態の第1溝10は、その略全体に亘って、図2で示される断面の構成を備えているのが望ましい。
【0028】
図2に示されるように、第1溝10の横断面において、第1溝縁11から幅広頂部15までの溝幅方向の距離L1は、例えば、第1溝10の接地面2sにおける溝幅W1の10%以下である。また、第1溝10の幅広頂部15での溝幅W2は、例えば、第1溝10の接地面2sでの溝幅W1の100%~120%である。これにより、操縦安定性及び耐摩耗性能を維持しつつ、上述の効果を得ることができる。本実施形態のように、2つの溝壁のそれぞれに幅広頂部15が構成されている場合、前記溝幅W2は、2つの幅広頂部15間の溝幅方向の距離に相当する。また、本発明の他の実施形態において、第1溝10の第1溝壁13のみに幅広頂部15が構成されている場合、前記溝幅W2は、第1溝壁13の幅広頂部15の深さにおける、2つの溝壁間の距離を意味する。
【0029】
幅広頂部15は、第2ゴム層7と第3ゴム層8との境界9aよりもタイヤ半径方向内側に位置している。また、第1溝縁11から幅広頂部15までの深さd4は、第1溝10の最大の深さd1の45%~55%であるのが望ましい。これにより、トレッド部2が適度に摩耗したときに幅広頂部15が接地面に露出するため、雪上性能をより確実に維持することができる。
【0030】
第1溝壁13は、外側部16、内側部17及び中間部18を含む。外側部16は、第1溝縁11からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びている。内側部17は、幅広頂部15からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びている。中間部18は、外側部16と内側部17との間に配され、かつ、外側部16及び内側部17とは逆向きに傾斜している。このような第1溝壁13は、内部に雪が入り込むときに、溝壁の傾斜によって雪を強く押し固めることができ、大きな雪柱せん断力を発揮できる。具体的には、タイヤ新品時においては、外側部16が雪を強く押し固めることができ、幅広頂部15が露出した状態では、内側部17が雪を強く押し固めることができる。
【0031】
内側部17の第1溝10の深さ方向に対する角度θ2は、外側部16の前記深さ方向に対する角度θ1よりも大きい。前記角度θ1及び前記角度θ2は、それぞれ、20°以下である。具体的には、前記角度θ1は、5~10°であり、前記角度θ2は、10~20°である。これにより、操縦安定性と雪上性能とがバランス良く向上する。
【0032】
中間部18の前記深さ方向に対する角度は、例えば、55~65°である。これにより、前記溝幅W2を大きく確保でき、雪上性能を効果的に維持することができる。
【0033】
本実施形態の第1溝10は、その横断面において第1溝壁13と対称形状を備えた第2溝壁23を含む。換言すれば、第2溝壁23は、第1溝10の横断面における溝中心線(図示省略)に対して、第1溝壁13と線対称となっている。これにより、第2溝壁23は、第1溝壁13と同じ構成を備えており、上述の第1溝壁13の構成を適用することができる。本実施形態では、このような第1溝壁13及び第2溝壁23が相俟って、雪上性能を効果的に維持することができる。
【0034】
図3には、本発明の他の実施形態の第1溝10の拡大断面図が示されている。図3で説明される他の実施形態において、上述の実施形態と共通する要素には、同一の符号が付され、上述の構成を適用することができる。図3に示されるように、この実施形態では、第2溝壁23が、溝縁から溝底面12まで、溝内部側に傾斜した従来の溝壁として構成されている。このような実施形態でも、上述の第1溝壁13を含んでいる以上、トレッド部2の摩耗が進行しても、雪上性能を維持することができる。
【0035】
また、この実施形態では、第2溝壁23側の陸部の剛性を維持できる。このため、図1で示されるように、第1溝10が傾斜している場合において、例えば、第2溝壁23が回転方向Rの先着側に配されると、ドライ路面でのブレーキ性能を有意に高めつつ、上述の効果(雪上性能の維持)を得ることができる。他方、第2溝壁23が回転方向Rの後着側に配されると、ドライ路面でのトラクション性能を有意に高めつつ、上述の効果(雪上性能の維持)を得ることができる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0037】
図1の基本トレッドパターンを有し、かつ、図2で示される第1溝を有するサイズ225/65R17の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、図1の基本トレッドパターンを有し、かつ、図4で示される従来の断面形状を有する第1溝aを備えたタイヤが試作された。なお、比較例1のトレッドゴムのベースゴム層bは、本実施形態の第1ゴム層と同じゴムで構成されており、キャップゴム層cは、本実施形態の第2ゴム層と同じゴムで構成されている。
【0038】
比較例2として、図1の基本トレッドパターンを有し、かつ、図5で示される従来の断面形状を有する第1溝aを有するタイヤが試作された。なお、この実施形態のトレッドゴムは、図2で示される本実施形態のトレッドゴムと同様のゴム層G1、G2、G3で構成されている。これら比較例1及び2のタイヤは、上記の事項を除き、実施例のタイヤと実質的に同じである。各テストタイヤの各摩耗状態における雪上性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
テスト車両:排気量2000cc、全輪駆動
テストタイヤ装着位置:全輪
リム:17×6.5J
タイヤ内圧:全輪230kPa
【0039】
<各摩耗状態における雪上性能>
各テストタイヤの新品時、50%摩耗時、80%摩耗時のそれぞれにおいて、上記テスト車両で雪路を走行したときの雪上性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1の新品時の雪上性能を100とする指数で示されており、数値が大きい程、前記摩擦力が大きいことを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示されるように、実施例のタイヤは、50%摩耗時の雪上性能が100ポイント、80%摩耗時の雪上性能が90ポイントとなっており、比較例1及び2に対して優れた結果が得られていることが理解できる。すなわち、実施例のタイヤは、トレッド部の摩耗が進行しても、雪上性能を維持できることが確認できた。
【0042】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0043】
[本発明1]
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、接地面と、前記接地面で開口する少なくとも1本の第1溝とを含み、
前記トレッド部を構成するトレッドゴムは、前記接地面で露出しない第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向外側に接続された第2ゴム層とを含み、
前記第2ゴム層の複素弾性率E*2は、前記第1ゴム層の複素弾性率E*1よりも小さく、
前記第1溝は、前記接地面に現れた2つの溝縁の一方である第1溝縁と、前記第2ゴム層よりもタイヤ半径方向内側に位置する溝底面と、前記第1溝縁と前記溝底面との間の第1溝壁とを含み、
前記第1溝の横断面において、前記第1溝壁は、前記第1溝縁と前記溝底面との間に、前記第1溝縁よりも前記第1溝の溝幅方向の外側に位置する幅広頂部を含み、
前記幅広頂部は、前記第2ゴム層内に位置している、
タイヤ。
[本発明2]
前記第1溝の前記幅広頂部での溝幅は、前記第1溝の前記接地面での溝幅の100%~120%である、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明3]
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層に接続され、かつ、前記接地面を構成する第3ゴム層を含み、
前記第3ゴム層の複素弾性率E*3は、前記複素弾性率E*1よりも小さく、かつ、前記複素弾性率E*2よりも大きい、本発明1又は2に記載のタイヤ。
[本発明4]
前記横断面において、前記第1溝縁から前記幅広頂部までの前記溝幅方向の距離は、前記第1溝の前記接地面における溝幅の10%以下である、本発明1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明5]
前記第1溝縁から前記幅広頂部までの深さは、前記第1溝の最大の深さの45%~55%である、本発明1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明6]
前記第1溝壁は、前記第1溝縁からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びる外側部と、前記幅広頂部からタイヤ半径方向内側に向かって溝内部側に傾斜して延びる内側部と、前記外側部と前記内側部との間に配され、かつ、前記外側部及び前記内側部とは逆向きに傾斜した中間部とを含む、本発明1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。本発明1又は2に記載のタイヤ。
[本発明7]
前記内側部の前記第1溝の深さ方向に対する角度θ2は、前記外側部の前記深さ方向に対する角度θ1よりも大きい、本発明6に記載のタイヤ。
[本発明8]
前記角度θ1及び前記角度θ2は、それぞれ、20°以下である、本発明7に記載のタイヤ。
[本発明9]
前記トレッド部の平面視において、前記第1溝は、タイヤ周方向に対して15°以上の角度で傾斜している、本発明1ないし8のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明10]
前記第1溝は、前記横断面において前記第1溝壁と対称形状を備えた第2溝壁を含む、本発明1ないし9のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明11]
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層に接続され、かつ、前記接地面を構成する第3ゴム層を含み、
前記複素弾性率E*1、前記複素弾性率E*2、及び、前記第3ゴム層の複素弾性率E*3は、それぞれ、4~15MPaである、本発明1ないし10のいずれか1項に記載のタイヤ。
[本発明12]
前記複素弾性率E*3は、前記複素弾性率E*2よりも大きく、かつ、前記複素弾性率E*2の2倍よりも小さい、本発明11に記載のタイヤ。
[本発明13]
前記接地面から前記第3ゴム層と前記第2ゴム層との境界までの深さは、前記第1溝の最大の深さの45%~55%である、本発明11に記載のタイヤ。
[本発明14]
前記接地面から前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との境界までの深さは、前記第1溝の最大の深さの85%~90%である、本発明1ないし13のいずれか1項に記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0044】
2 トレッド部
2s 接地面
2G トレッドゴム
6 第1ゴム層
7 第2ゴム層
10 第1溝
11 第1溝縁
12 溝底面
13 第1溝壁
15 幅広頂部
E*1 第1ゴム層の複素弾性率
E*2 第2ゴム層の複素弾性率
図1
図2
図3
図4
図5