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特開2023-178074フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法
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  • 特開-フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法 図1
  • 特開-フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178074
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/06 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B29C55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091126
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】増田 友昭
【テーマコード(参考)】
4F210
【Fターム(参考)】
4F210AC03
4F210AG01
4F210AJ08
4F210AK04
4F210AM26
4F210AM30
4F210AR06
4F210AR07
4F210AR12
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD31
4F210QD36
4F210QD50
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM11
4F210QM20
(57)【要約】
【課題】フィルムの酸化現象を抑制しつつ、設備コストの低減を実現するフィルム延伸装置を提供する。
【解決手段】フィルム延伸装置(100)は、一対のガイドローラ(R1,R2)と、ヒータ(4)と、前記ヒータと、前記一対のガイドローラ間のフィルムにおける前記ヒータにより加熱される加熱領域とを少なくとも覆う、イナートガスが充満されるイナートボックス(5)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、
前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第1加熱部と、
前記第1加熱部と、前記一対のガイドローラ間のフィルムにおける前記第1加熱部により加熱される加熱領域とを少なくとも覆う、イナートガスが充満されるイナートボックスと、を備える、フィルム延伸装置。
【請求項2】
前記一対のガイドローラのうちの上流側の第1ガイドローラは、前記一対のガイドローラ間のフィルムの主面を延長した第1仮想平面に対して前記第1加熱部とは反対側から搬送される前記フィルムをガイドし、
前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラは、搬送される前記フィルムを、前記第1仮想平面に対して前記第1加熱部とは反対側にガイドするように、
前記一対のガイドローラが、それぞれ前記フィルムの裏面に当接する、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記第1ガイドローラに対して上流側に離間して配置され、前記フィルムの幅方向に延在する第3ガイドローラと、
前記第2ガイドローラに対して下流側に離間して配置され、前記フィルムの幅方向に延在する第4ガイドローラと、
前記第3ガイドローラと前記第1ガイドローラとの間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第2加熱部と、
前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第3加熱部と、をさらに備え、
前記第3ガイドローラは、前記第1ガイドローラと前記第3ガイドローラとの間のフィルムの主面を延長した第2仮想平面に対して前記第2ガイドローラとは反対側から搬送される前記フィルムをガイドし、
前記第4ガイドローラは、搬送される前記フィルムを、前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムの主面を延長した第3仮想平面に対して前記第2ガイドローラとは反対側にガイドするように、
前記第3ガイドローラおよび前記第4ガイドローラが、それぞれ前記フィルムの表面に当接する、請求項2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
前記イナートボックスは、前記第2加熱部、前記第3加熱部、前記第3ガイドローラと前記第1ガイドローラとの間のフィルムにおける前記第2加熱部により加熱される加熱領域、および前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムにおける前記第3加熱部により加熱される加熱領域をさらに覆う、請求項3に記載のフィルム延伸装置。
【請求項5】
前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラによる前記フィルムの抱き角は、90°±10°である、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項6】
前記一対のガイドローラ間のフィルムと前記第1加熱部の放射面との距離は、20~100mmであり、
前記一対のガイドローラ間のフィルムの主面に垂直な方向からの平面視において、前記第1加熱部の放射面の下流側端部は、前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラの回転軸から上流方向に20mm離れた第1位置よりも下流方向に位置する、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項7】
前記フィルムは、前記加熱領域において搬送方向に印加される張力により延伸する、請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項8】
搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラによりフィルムに張力を加える工程と、
前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第1加熱部により前記フィルムを加熱する工程と、を含み、
前記フィルムを加熱する工程において、前記第1加熱部と、前記一対のガイドローラ間のフィルムにおける前記第1加熱部により加熱される加熱領域と、を少なくとも覆う、イナートガスが充満されるイナートボックスの内部において、前記フィルムは加熱される、フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルムのガラス転移温度は、200~350℃である、請求項8に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置、およびフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~6は、フィルムの搬送方向に印加される張力と、熱風オーブンあるいは赤外線ヒータ等の加熱部によるフィルムの加熱とにより、フィルムを搬送方向に延伸するフィルム延伸装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-177766号公報
【特許文献2】特開2012-254544号公報
【特許文献3】特開2009-233918号公報
【特許文献4】特開2011-162588号公報
【特許文献5】特開2019-177766号公報
【特許文献6】特開2014-083703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱風オーブンによりフィルムを加熱する場合、フィルムを延伸可能な温度まで加熱するのに長時間を要する。そのため、熱風オーブンがフィルムの搬送方向に沿って非常に長くする必要があり、設備コストが肥大化してしまうといった問題がある。また、フィルムが高温環境に晒される時間が長くなり、フィルムの酸化現象が進んでしまうといった問題もある。
【0005】
また、赤外線ヒータによりフィルムを加熱する場合、フィルムを短時間で延伸可能な温度まで加熱することができる。そのため、熱風オーブンによりフィルムを加熱する場合と比較し、フィルムの酸化現象を抑制することが可能である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、このようなフィルム延伸装置においても、フィルムの酸化現象をさらに抑制する余地があることを見出した。
【0006】
本発明の一態様は、フィルムの酸化現象を抑制しつつ、設備コストの低減を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルム延伸装置は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラと、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第1加熱部と、前記第1加熱部と、前記一対のガイドローラ間のフィルムにおける前記第1加熱部により加熱される加熱領域とを少なくとも覆う、イナートガスが充満されるイナートボックスと、を備える。
【0008】
また、前記一対のガイドローラのうちの上流側の第1ガイドローラは、前記一対のガイドローラ間のフィルムの主面を延長した第1仮想平面に対して前記第1加熱部とは反対側から搬送される前記フィルムをガイドし、前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラは、搬送される前記フィルムを、前記第1仮想平面に対して前記第1加熱部とは反対側にガイドするように、前記一対のガイドローラが、それぞれ前記フィルムの裏面に当接してもよい。
【0009】
また、前記フィルム延伸装置は、前記第1ガイドローラに対して上流側に離間して配置され、前記フィルムの幅方向に延在する第3ガイドローラと、前記第2ガイドローラに対して下流側に離間して配置され、前記フィルムの幅方向に延在する第4ガイドローラと、前記第3ガイドローラと前記第1ガイドローラとの間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第2加熱部と、前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第3加熱部と、をさらに備え、前記第3ガイドローラは、前記第1ガイドローラと前記第3ガイドローラとの間のフィルムの主面を延長した第2仮想平面に対して前記第2ガイドローラとは反対側から搬送される前記フィルムをガイドし、前記第4ガイドローラは、搬送される前記フィルムを、前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムの主面を延長した第3仮想平面に対して前記第2ガイドローラとは反対側にガイドするように、前記第3ガイドローラおよび前記第4ガイドローラが、それぞれ前記フィルムの表面に当接してもよい。
【0010】
また、前記イナートボックスは、前記第2加熱部、前記第3加熱部、前記第3ガイドローラと前記第1ガイドローラとの間のフィルムにおける前記第2加熱部により加熱される加熱領域、および前記第2ガイドローラと前記第4ガイドローラとの間のフィルムにおける前記第3加熱部により加熱される加熱領域をさらに覆ってもよい。
【0011】
また、前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラによる前記フィルムの抱き角は、90°±10°であってもよい。
【0012】
また、前記一対のガイドローラ間のフィルムと前記第1加熱部の放射面との距離は、20~100mmであり、前記一対のガイドローラ間のフィルムの主面に垂直な方向からの平面視において、前記第1加熱部の放射面の下流側端部は、前記一対のガイドローラのうちの下流側の第2ガイドローラの回転軸から上流方向に20mm離れた第1位置よりも下流方向に位置してもよい。
【0013】
また、前記フィルムは、前記加熱領域において搬送方向に印加される張力により延伸してもよい。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフィルムの製造方法は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムの前記搬送方向に離間して配置され、それぞれ前記フィルムの幅方向に延在する一対のガイドローラによりフィルムに張力を加える工程と、前記一対のガイドローラ間のフィルムの表面を熱放射により加熱する第1加熱部により前記フィルムを加熱する工程と、を含み、前記フィルムを加熱する工程において、前記第1加熱部と、前記一対のガイドローラ間のフィルムにおける前記第1加熱部により加熱される加熱領域と、を少なくとも覆う、イナートガスが充満されるイナートボックスの内部において、前記フィルムは加熱される。
【0015】
また、前記フィルムのガラス転移温度は、200~350℃であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、フィルムの酸化現象を抑制しつつ、設備コストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図2】上記フィルム延伸装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
図3】上記フィルム延伸装置におけるヒータとガイドローラとの位置関係を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略構成のさらに他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
(フィルム延伸装置の概略構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す模式図である。図2は、当該フィルム延伸装置100の概略構成の一例を示す斜視図である。図1は、フィルムFの長さ方向に平行かつ、フィルムFの幅方向に直交する面に直交する方向から見た図である。図1および図2において、搬送方向はフィルムFの長さ方向である。
【0019】
図1および図2に示すように、フィルム延伸装置100は、第1ガイドローラR1、第2ガイドローラR2、およびヒータ4(第1加熱部)を備える。なお、図2において、ヒータ4の図示を省略している。フィルム延伸装置100は、さらに第1ガイドローラR1の上流側および第2ガイドローラR2の下流側にそれぞれ駆動ローラ(不図示)を備える。フィルム延伸装置100は、このような離間された駆動ローラの周速差によりフィルムFを搬送方向に延伸する装置である。
【0020】
フィルムFは、例えば熱可塑性フィルムである。本実施形態において、フィルムFは、比較的高いガラス転移温度(例えば、200~350℃)を有していてもよい。フィルムFは、例えばPI(ポリイミド)フィルムである。
【0021】
第1ガイドローラR1および第2ガイドローラR2は、搬送方向に張力を加えられて搬送されるフィルムFの搬送方向に(例えば、約300mmだけ)離間して配置され、それぞれフィルムFの幅方向に延在する一対のガイドローラR1,R2である。フィルムFに加えられる張力は例えば100~400N/mである。
【0022】
第1ガイドローラR1は、一対のガイドローラのうち上流側のガイドローラである。第2ガイドローラR2は、一対のガイドローラのうち下流側のガイドローラである。
【0023】
ヒータ4は、一対のガイドローラR1,R2間のフィルムF(以下、ローラ間フィルムF12と称する)の表面を熱放射により加熱する。ヒータ4は、フィルムFの表面温度をガラス転移温度より高い温度(例えば約255~275℃)まで加熱する。これにより、フィルムFを張力により搬送方向に延伸可能とする。以下、搬送されるフィルムFにおいてヒータ4の熱放射により表面温度がガラス転移温度より高い温度まで加熱される(延伸可能な)領域を加熱領域H1と称する。ローラ間フィルムF12の主面に垂直な方向からの平面視(以下、「上記平面視」と称する)において、加熱領域H1の搬送方向の端部は、ヒータ4の放射面4Sの搬送方向の端部と略一致する。
【0024】
ヒータ4は、少なくとも1つの遠赤外線ヒータを備えてもよい。遠赤外線ヒータそれぞれの放射面は、略矩形形状である。ヒータ4は、フィルムFの幅方向に沿って並設された複数の遠赤外線ヒータを備えてもよい。例えば、フィルムFの表面を幅方向に沿って均一に加熱するように、それぞれ約120mm×120mmの寸法を有する5つの遠赤外線ヒータが幅方向に設置間隔を約5mm空けて設けられる。このような構成により、ヒータ4の放射領域をフィルムFの幅よりも広くし、ヒータ4により加熱されるフィルムFの表面温度をフィルムFの幅方向にわたって均一に保つことができる。なお、ヒータ4の構成としては上述の構成に限定されるものではない。例えば、フィルムFの幅の長さに合わせて幅方向に設けられる遠赤外線ヒータの個数が選択されてもよい。また、ヒータ4は、フィルムFの搬送方向に沿って並設された複数の遠赤外線ヒータを備えてもよい。以下、上述の1つ以上の遠赤外線ヒータの放射面が連結された面のことを、ヒータ4の放射面4Sと称する。
【0025】
また、反射板(不図示)がフィルムFに対してヒータ4の反対側に設けられてもよい。反射板は、ヒータ4から放射された熱または熱線をフィルムFに向かって反射する。
【0026】
第1ガイドローラR1は、ローラ間フィルムF12を延長した第1仮想平面S1に対してヒータ4とは反対側から搬送されるフィルムFをガイドする。第1ガイドローラR1は、フィルムFの裏面に当接する。第2ガイドローラR2は、搬送されるフィルムFを、第1仮想平面S1に対してヒータ4とは反対側にガイドする。第2ガイドローラR2は、フィルムFの裏面に当接する。すなわち、図1および図2に示すように、一対のガイドローラR1,R2は、フィルムFの表面がヒータ4側に向かうように、フィルムFの搬送経路を凸状に規定する。
【0027】
上述の構成により、フィルム延伸装置100は、ガイドローラR1,R2による張力とヒータ4の加熱とにより、フィルムFを搬送方向に延伸することができる。また、加熱されたフィルムFをガイドローラR1,R2の表面に接触させることにより、フィルムFをガラス転移温度以下に冷却しつつ、フィルムFの冷却による幅方向の収縮をガイドローラR1,R2のグリップ力により抑制することができる。
【0028】
また、ヒータ4の熱放射によりフィルムFの表面を加熱している。これにより、フィルムFの表面に熱風を吹き付けることによりフィルムFを加熱する場合と比較し、フィルムFを短時間で延伸可能な温度まで加熱することができる。特に、比較的高いガラス転移温度(例えば、200~350℃)を有するフィルムFについても、短時間で延伸可能な温度まで加熱することができる。そのため、フィルムFの酸化現象を抑制することができる。
【0029】
また、フィルムFの酸化現象の進行度合いは、フィルムFのYI値(黄色度)に寄与する。フィルムFの酸化現象が進行するほど、フィルムFのYI値は大きくなる。ヒータ4の熱放射によりフィルムFを加熱した場合、フィルムFの表面に熱風を吹き付けることによりフィルムFを加熱する場合と比較し、フィルムFのYI値を低減することができる。すなわち、透明なフィルムFを得ることができる。
【0030】
図1および図2に示すように、フィルム延伸装置100は、さらにイナートガスが充満されるイナートボックス5を備える。イナートガスは、例えば窒素ガス、ヘリウムガス等である。イナートボックス5は、少なくともヒータ4と、ローラ間フィルムF12におけるヒータ4により加熱される加熱領域H1とを少なくとも覆う、箱型形状の部材である。この場合、イナートボックス5の搬送方向における長さL0は100~650mmとなる。なお、フィルムFは、該加熱領域H1において搬送方向に印加される張力により延伸する。
【0031】
第1ガイドローラR1にガイドされたフィルムFは、イナートボックス5の一方の側面に設けられた孔部51を通って、イナートボックス5の内部に入る。次に、フィルムFは、イナートボックス5の内部においてヒータ4により加熱される。次に、フィルムFは、イナートボックス5の他方の側面に設けられた孔部52を通って、イナートボックス5の外部に出る。
【0032】
また、イナートボックス5は、イナートガスが供給される吸気口(不図示)およびイナートガスが排出される排気口(不図示)を備える。当該吸気口からイナートガスを適宜供給することで、イナートボックス5の内部を常時イナートガスで充満させることができる。
【0033】
上述の構成により、イナートガスの雰囲気下においてフィルムFを加熱することができる。これにより、フィルムFの酸化現象の更なる抑制を図ることができる。また、フィルムFを短時間で延伸可能な温度まで加熱することができるため、(フィルムの表面に熱風を吹き付けることによりフィルムを加熱する場合と比較し、)フィルムFの加熱領域H1をコンパクトにすることができる。そのため、上述のように(酸化現象の抑制のために)フィルムFの加熱領域H1を覆うように設置されるイナートボックス5のコンパクト化が可能である。したがって、設備コストの低減およびイナートガスの消費量の低減を実現することができる。また、イナートボックス5はヒータ4も覆うことにより、効率よくフィルムFの表面を加熱すると同時に、イナートボックス5内をイナートガスで充満させることで、高温処理時におけるフィルムFの酸化現象を抑制することができる。
【0034】
なお、イナートボックス5の構成はこれに限定されない。例えば、イナートボックス5は、さらに図1に示すガイドローラR1,R2を覆ってもよい。これにより、加熱領域H1の搬送方向における端部が、上記平面視において、ガイドローラR1,R2の回転軸の近傍にある場合についても、イナートボックス5は加熱領域H1を覆うことができる。
【0035】
ここで、フィルム延伸装置100において、ヒータ4の熱放射によるコンパクトな加熱領域H1において、フィルムFを延伸している。そのため、延伸後のフィルムFは急激に冷却され、変形してしまう可能性がある。以下、このような加熱後のフィルムFの変形を抑制するための構成を示す。すなわち、以下の構成により、コンパクトな加熱領域H1において、フィルムFを延伸する場合においても、延伸後のフィルムFの変形を抑制することができる。
【0036】
(フィルムの抱き角)
フィルム延伸装置100において、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角は、90°±10°の範囲であってもよい。図1に示す一例では、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角は、90°である。これにより、第2ガイドローラR2とフィルムFとの接触面積を適度に広くし、フィルムFを適切にグリップしながら搬送することができる。ここで、抱き角は、ローラから次のローラへ向かうフィルムの角度をいう。
【0037】
仮に、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角が80°よりも小さければ、第2ガイドローラR2とフィルムFとの接触面積が大きくなるので、第2ガイドローラR2によるフィルムFへのグリップ力が高くなる。このため、フィルムFに傷が付きやすくなる。また、仮に、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角が100°よりも大きければ、第2ガイドローラR2とフィルムFとの接触面積が小さくなるので、第2ガイドローラR2によるフィルムFへのグリップ力が低くなる。このため、フィルムFが搬送中に第2ガイドローラR2に対して幅方向に動くようになるため、フィルムFの幅方向の両端部側にシワが発生し易くなる。
【0038】
一方、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角が90°±10°の範囲にある場合、第2ガイドローラR2とフィルムFとの接触面積を適度に広くし、フィルムFを適切にグリップしながら搬送することができる。したがって、フィルム延伸装置100において、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角を90°±10°とすることで、シワの発生および傷の発生が低減されたフィルムFを得ることができる。なお、第1ガイドローラR1によるフィルムFの抱き角も90°±10°の範囲にあればよい。
【0039】
(ヒータとガイドローラとの位置関係)
図3は、フィルム延伸装置100におけるヒータ4とガイドローラR1,R2との位置関係を示す模式図である。図3を参照し、ヒータ4とガイドローラR1,R2との位置関係について以下に詳細に説明する。
【0040】
ローラ間フィルムF12とヒータ4の放射面4Sとの距離L1(照射距離L1)は、20~100mmである。ローラ間フィルムF12とヒータ4の放射面4Sとの距離L1を近くすることで、フィルムFの表面を効率よく加熱することができる。なお、ヒータ4の照射距離L1は、ヒータ4の出力に応じて設定される。例えば、ヒータ4の出力が140Vである場合、ヒータ4の照射距離L1は40mm程度に設定されることが好ましい。
【0041】
また、図3に示すように、上記平面視において、ヒータ4の放射面4Sの下流側端部は、第1位置A1よりも下流方向(図3における右方)に位置する。ここで、第1位置A1は、上記平面視において、第2ガイドローラR2の回転軸から上流方向(図3における左方)に距離L2(20mm)離れた位置である。これにより、第2ガイドローラR2のグリップ力がフィルムFに働き始める位置までの、フィルムFがヒータ4により加熱されない領域を短くすることができる。したがって、フィルムFの幅収縮を抑制することができる。図3に示すように、ヒータ4の下流側端部は、上記平面視において、第2ガイドローラR2の回転軸より上流方向にある。しかしながら、ヒータ4の下流側端部は、上記平面視において、第2ガイドローラR2の回転軸より下流方向にあってもよい。
【0042】
さらに、図3に示すように、上記平面視において、ヒータ4の放射面4Sの下流側端部は、第1位置A1と第2位置A2との間に位置してもよい。ここで、第2位置A2は、上記平面視において、第2ガイドローラR2の回転軸から下流方向に距離L3(20mm)離れた位置である。これにより、ヒータ4の加熱領域H1の下流側端部と第2ガイドローラR2のグリップ力がフィルムFに働き始める位置とをなるべく近付けることにより、フィルムFの幅収縮を抑制しつつフィルムFの表面を効率よく加熱することができる。
【0043】
さらに、図3に示すように、上記平面視において、ヒータ4の放射面4Sの上流側端部は、第3位置A3よりも上流方向に位置してもよい。ここで、第3位置A3は、上記平面視において、第1ガイドローラR1の回転軸から下流方向に距離L4(20mm)離れた位置である。これにより、ヒータ4の加熱領域H1をローラ間フィルムF12のほぼ全体とすることにより、フィルムの幅収縮を抑制しつつフィルムを効率よく加熱することができる。
【0044】
同様に、図1に示すように、上記平面視において、ヒータ4の放射面4Sの上流側端部は、第3位置A3と第4位置A4との間に位置してもよい。ここで、第4位置A4は、上記平面視において、第1ガイドローラR1の回転軸から上流方向に距離L5(20mm)離れた位置である。
【0045】
このような、搬送方向におけるローラ間フィルムF12の両端部とヒータ4の放射面4Sの両端部とをできるだけ揃える上述の構成により、フィルムFがヒータ4により加熱されない領域を短くし、フィルムFの幅収縮を抑制することができる。
【0046】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0047】
図4は、本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置100の概略構成のさらに他の例を示す模式図である。図4は、フィルムFの長さ方向に平行かつ、フィルムFの幅方向に直交する面に直交する方向から見た図である。図4において、搬送方向はフィルムFの長さ方向である。
【0048】
図4に示すように、フィルム延伸装置100は、第3ガイドローラR3、第4ガイドローラR4、ヒータ4A(第2加熱部)およびヒータ4B(第3加熱部)をさらに備える。第3ガイドローラR3は、第1ガイドローラR1に対して上流側に離間して配置され、フィルムFの幅方向に延在する。第4ガイドローラR4は、第2ガイドローラR2に対して下流側に離間して配置され、フィルムFの幅方向に延在する。ヒータ4Aは、第3ガイドローラR3と第1ガイドローラR1との間のフィルムF(以下、ローラ間フィルムF31と称する)の表面を熱放射により加熱する。ヒータ4Bは、第2ガイドローラR2と第4ガイドローラR4との間のフィルムF(以下、ローラ間フィルムF24と称する)の表面を熱放射により加熱する。
【0049】
また、第3ガイドローラR3は、ローラ間フィルムF31の主面を延長した第2仮想平面S2に対して第1ガイドローラR1とは反対側から搬送されるフィルムFをガイドする。第4ガイドローラR4は、搬送されるフィルムFを、ローラ間フィルムF24の主面を延長した第3仮想平面S3に対して第2ガイドローラR2とは反対側にガイドする。第3ガイドローラR3および第4ガイドローラR4は、フィルムFの表面に当接する。すなわち、図4に示すように、4つのガイドローラR1~R4は、フィルムFの搬送経路を、それぞれ一対のガイドローラに挟まれた(短スパンの)3つの経路に分割する。当該3つの経路において、それぞれローラ間フィルムは、一対のガイドローラの張力とヒータの加熱とにより搬送方向に延伸される。
【0050】
これにより、フィルムFの搬送経路を一対のガイドローラに挟まれた(長スパンの)1つの経路に規定する場合と比較し、フィルムの幅収縮を抑制することができる。
【0051】
図4に示すように、フィルム延伸装置100は、イナートボックス5をさらに備える。イナートボックス5は、ヒータ4および加熱領域H1に加え、ヒータ4A、ヒータ4Bおよび加熱領域H2,H3をさらに覆う。ここで、加熱領域H2は、ローラ間フィルムF31におけるヒータ4Aにより加熱される領域である。また、加熱領域H3は、ローラ間フィルムF24におけるヒータ4Bにより加熱される領域である。この場合、イナートボックス5の搬送方向における長さL0は約1100mmとなる。このような構成によれば、3つのヒータ4,4A,4BによるフィルムFのイナートガスの雰囲気下の加熱を1つのイナートボックス5により実現できる。なお、図4では、第3ガイドローラR3および第4ガイドローラR4をイナートボックス5の中に入れた図を示したが、第3ガイドローラR3および第4ガイドローラR4をイナートボックス5の外に出してもよい。これにより、イナートボックス5をコンパクトにすることができる。また、フィルム延伸装置100は、ヒータ4および加熱領域H1と、ヒータ4Aおよび加熱領域H2と、ヒータ4Bおよび加熱領域H3と、をそれぞれ覆う3つのイナートボックス5を備えてもよい。
【0052】
また、第3ガイドローラR3および第4ガイドローラR4によるフィルムFの抱き角は、第2ガイドローラR2によるフィルムFの抱き角と同様に、90°±10°の範囲にあればよい。これにより、シワの発生および傷の発生が低減されたフィルムFを得ることができる。
【0053】
また、ヒータ4Aと一対のガイドローラR1,R3との位置関係は、図3で示したヒータ4と一対のガイドローラR1,R2との位置関係と同様に規定されてもよい。また、ヒータ4Bと一対のガイドローラR2,R4との位置関係は、図3で示したヒータ4と一対のガイドローラR1,R2との位置関係と同様に規定されてもよい。これにより、フィルムFがヒータ4,4A,4Bにより加熱されない領域を短くし、フィルムFの幅収縮を抑制することができる。
【0054】
また、ヒータ4の温度は、ヒータ4Aの温度よりも10~20℃高く設定されてもよい。同様に、ヒータ4の温度は、ヒータ4Bの温度よりも10~20℃高く設定されてもよい。これにより、フィルム延伸装置100は、フィルムFに対して上流から順に余熱、延伸、緩和プロセスを実施することができる。フィルムFに対して余熱プロセスを実施することで、延伸ムラによるフィルムFの変形およびカールなどを低減することができる。また、フィルムFに対して緩和プロセスを実施することで、フィルムFの温度が下がった時点におけるフィルムFの残留応力を低減することができる。
【0055】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
4 ヒータ(第1加熱部)
4A ヒータ(第2加熱部)
4B ヒータ(第3加熱部)
5 イナートボックス
100 フィルム延伸装置
A1 第1位置
H1、H2、H3 加熱領域
R1 第1ガイドローラ
R2 第2ガイドローラ
R3 第3ガイドローラ
R4 第4ガイドローラ
S1 第1仮想平面
S2 第2仮想平面
S3 第3仮想平面
図1
図2
図3
図4