(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178081
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】合金及び構造物
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
C22C30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091144
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 友則
(57)【要約】
【課題】高温強度を向上させ、かつ熱膨張率を低減できる合金及び構造物の提供を提供する。
【解決手段】本開示の合金は、Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、炭素を1原子%以上10原子%以下含有する合金であって、上記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、上記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、上記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、上記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする。その他の解決手段は発明を実施するための形態において説明する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、炭素を1原子%以上10原子%以下含有する合金であって、
前記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、
前記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、
前記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、
前記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、
前記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、
前記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする合金。
【請求項2】
Al、Cr、Hf、Si、及びWのうちの少なくとも1種の元素を含む第2構成元素をさらに含有し、
前記合金が前記Alを含有する場合、前記Alの含有量が0原子%超15原子%以下であり、
前記合金が前記Crを含有する場合、前記Crの含有量が0原子%超10原子%以下であり、
前記合金が前記Hfを含有する場合、前記Hfの含有量が0原子%超15原子%以下であり、
前記合金が前記Siを含有する場合、前記Siの含有量が0原子%超10原子%以下であり、
前記合金が前記Wを含有する場合、前記Wの含有量が0原子%超10原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の合金。
【請求項3】
固溶体相を含むことを特徴とする請求項1に記載の合金。
【請求項4】
炭化物を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の合金。
【請求項5】
固溶体相及び炭化物を含み、前記炭化物が前記固溶体相に分散した第1断面組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の合金。
【請求項6】
固溶体相及び炭化物を含み、前記固溶体相と前記炭化物とが交互に層状に存在する第2断面組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の合金。
【請求項7】
前記炭化物として前記第1構成元素に含まれる少なくとも1種の元素の炭化物を含むことを特徴とする請求項4に記載の合金。
【請求項8】
炭窒化物、酸化物、酸窒化物、窒化物、及び金属間化合物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の合金。
【請求項9】
Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、炭素を1原子%以上10原子%以下含有する合金から構成される構造物であって、
前記合金中の前記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、
前記合金中の前記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、
前記合金中の前記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、
前記合金中の前記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、
前記合金中の前記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、
前記合金中の前記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率な水素製造方法として期待される固体酸化物型水蒸気電解装置(SOEC)や固体酸化物型燃料電池(SOFC)の高効率化には高温稼働が必要である。そのため、セラミクス製であるセルを電気的に接続する役割を担うインターコネクタ部材に対し低熱膨張かつ耐用温度向上が求められている。現在、インターコネクタ部材には、例えば、非特許文献1等に記載のフェライト合金が使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Przybylsk, K. et al. "Oxidation properties of the Crofer 22 APU steel coated with La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3 for IT-SOFC interconnect applications" Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, Volume 116, pp 825-834 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のフェライト合金では、高温強度(例えば、1000℃程度の高温時の強度)が不足するため高温稼働に耐えることができない。そこで、耐熱材料としてはNi基超合金が候補に挙がるが、Ni基超合金は主としてFCC結晶構造を有することからセラミクス製のセルと比較して熱膨張率が高いため、温度変動の際にセルを損傷させるという問題がある。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高温強度を向上させ、かつ熱膨張率を低減できる合金及び構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本開示の合金は、Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、炭素を1原子%以上10原子%以下含有する合金であって、上記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、上記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、上記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、上記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする。その他の解決手段は発明を実施するための形態において説明する。
【0007】
本開示の合金によれば、高温強度を向上させ、かつ熱膨張率を低減できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高温強度を向上させ、かつ熱膨張率を低減できる。
【0009】
以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、本開示の思想、他の利点及び特徴をより完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る合金における第1断面組織の模式図である。
【
図2】実施形態に係る合金における第2断面組織の模式図である。
【
図3】実施形態に係る合金の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】実施例1の合金の断面を示すSEM画像である。
【
図5】実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の1000℃での圧縮強度を示すグラフである。
【
図6】実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の室温から1000℃までの間の平均線熱膨張係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜、図面を参照しながら、本開示の合金及び構造物を実施するための形態(以下、「実施形態」と称することがある。)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0012】
実施形態に係る合金は、Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、炭素を1原子%以上10原子%以下含有する合金であって、上記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、上記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、上記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、上記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする。すなわち、実施形態に係る合金は、第1構成元素及びC(炭素)を必須成分とし、第1構成元素は、合金中において、80原子%以上の割合で含有される。さらに、実施形態に係る合金は、適宜他の添加元素を加えることが可能であり、特にAl、Cr、Hf、Si、及びWのうちの少なくとも1種の元素を含む第2構成元素を添加することが好ましい。
【0013】
実施形態に係る合金は、Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上の割合で含有し、好ましくは第1構成元素を90原子%以上の割合で含有する。合金中の各元素の含有量(濃度)は、例えば、原子吸光高度計等の任意の測定装置、任意の測定方法を使用することにより測定できる。
【0014】
第1構成元素は、上記6種の元素のうちの少なくとも上記4種の元素を含む。第1構成元素は、上記6種の元素のうちの上記4種の元素以外のMo及びVのうちの少なくとも1種の元素を含むものでもよいし、Mo及びVをどちらも含まないものでもよい。
【0015】
ここで、第1構成元素に少なくとも含まれる上記4種の元素について説明する。
Zr(ジルコニウム)は、融点が約1850℃と高いため、合金はZrを含有することで高温強度を向上できる。さらに、ZrはC(炭素)と結合し易いため、合金がZrをCと一緒に含有する場合には、炭化ジルコニウムを形成することで析出強化効果を発揮できるので、合金の硬さ及び強度を向上できる。また、Zrは、密度が6.51g/cm3と低いため、合金はZrを含有することで軽量化できる。
【0016】
Zrは、合金中において、20原子%以上40原子%以下の割合で含有される。Zrがこの範囲の割合で含有されることで、Zrによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。Zrの含有量は、好ましくは20原子%以上、より好ましくは30原子%以上である。また、Zrの含有量は、好ましくは40原子%以下、より好ましくは35原子%以下である。
【0017】
Ti(チタン)は、C(炭素)との間で炭化物を形成し易い。このため、合金がTiをCと一緒に含有する場合には、炭化チタンによる析出強化効果を発揮できるので、合金の硬さ及び強度を向上できる。また、Tiは、密度が4.54g/cm3と低いため、合金はTiを含有することで軽量化できる。
【0018】
Tiは、合金中において、20原子%以上40原子%以下の割合で含有される。Tiがこの範囲の割合で含有されることで、Tiによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。Tiの含有量は、好ましくは20原子%以上、より好ましくは30原子%以上である。また、Tiの含有量は、好ましくは40原子%以下、より好ましくは35原子%以下である。
【0019】
Nb(ニオブ)は、融点が約2500℃と高いため、合金はNbを含有することで高温強度を向上できる。また、Nbは、Tiに次いで炭化物を形成し易いため、合金がNbをC(炭素)と一緒に含有する場合には、炭化ニオブを形成でき、炭化ニオブによる析出強化によって、合金の硬さ及び靭性を向上できる。
【0020】
Nbは、合金中において、5原子%以上40原子%以下の割合で含有される。Nbがこの範囲の割合で含有されることで、Nbによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。Nbの含有量は、好ましくは10原子%以上、より好ましくは15原子%以上、特に好ましくは20%以上である。また、Nbの含有量は、好ましくは35原子%以下、より好ましくは30原子%以下、特に好ましくは25原子%以下である。
【0021】
Ta(タンタル)は、融点が約3000℃と高いため、合金はTaを含有することで高温強度を向上できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。さらに、融点の過度な上昇による製造性の低下を防げる。
【0022】
Taは、合金中において、5原子%以上20原子%以下の割合で含有される。Taがこの範囲の割合で含有されることで、Taによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。さらに、合金製造時の凝固偏析を抑制できる。Taの含有量は、好ましくは10原子%以上である。また、Taの含有量は、好ましくは15原子%以下である。
【0023】
続いて、第1構成元素に含まれてもよいMo及びVについて説明する。
Mo(モリブデン)は、融点が約2600℃と高いため、合金はMoを含有することで高温強度を向上できる。さらに、Moは高い剛性率を有するため、合金がMoを含有することで、合金の固溶強化の効果を大きくでき、その硬さ及び強度をさらに向上できる。
【0024】
Moは、合金中において、0原子%以上10原子%以下の割合で含有される。換言すると、合金がMoを含有しない場合(第1構成元素がMoを含まない場合)には、Moの含有量は、0原子%であり、合金がMoを含有する場合(第1構成元素がMoを含む場合)には、Moの含有量は、0原子%超10原子%以下である。Moがこの範囲の割合で含有されることで、Moによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。また、合金の靭性及び延性を向上できるとともに、合金製造時の凝固偏析を抑制できる。さらに、合金の密度の過度の増大を抑制できる。Moの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Moの含有量は、好ましくは7.5原子%以下である。
【0025】
V(バナジウム)は、融点が約1900℃と高いため、合金はVを含有することで高温強度を向上できる。さらに、Vは、見掛け上のBCC格子体積が他の構成元素と比較して小さいため、合金の固溶強化の効果が大きく、その硬さ及び強度を向上できる。また、Vは、密度が6.11g/cm3と低いため、合金はVを含有することで軽量化できる。
【0026】
Vは、合金中において、0原子%以上15原子%以下の割合で含有される。換言すると、合金がVを含有しない場合(第1構成元素がVを含まない場合)には、Vの含有量は、0原子%であり、合金がVを含有する場合(第1構成元素がVを含む場合)には、Vの含有量は、0原子%超15原子%以下である。Vがこの範囲の割合で含有されることで、Vによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。これにより、合金の固溶強化を図り、その硬さ及び強度を向上できる。Vの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Vの含有量は、好ましくは12.5原子%以下、より好ましくは10原子%以下である。
【0027】
実施形態に係る合金は、第1構成元素の他にC(炭素)を含有する。Cは、通常は炭化物を形成するために使用され、炭化物による粒界強化(析出強化)により、合金の硬さ及び強度を向上できる。
【0028】
Cは、合金中において、1原子%以上10原子%以下の割合で含有される。Cがこの範囲の割合で含有されることで、Cによる効果の発揮と他元素の構成分率の減少の抑制とを両立できる。また、炭化物の過度の析出を抑制して、合金の靭性及び延性を向上できる。Cの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Cの含有量は、好ましくは7.5原子%以下である。
【0029】
以上のように、実施形態に係る合金は、上記6種の元素(Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びV)のうちの少なくとも上記4種の元素(Zr、Ti、Nb、及びTa)を含む第1構成元素、並びにC(炭素)を含有する。しかしながら、以上に説明した合金中の各元素の含有量(濃度)の範囲の上限値を単に足し合わせると100原子%を超えるため、実施形態に係る合金は、第1構成元素の少なくとも4種の元素並びにCを各元素の含有量の範囲の上限値の割合で含有しようとすると、第1構成元素の少なくとも4種の元素並びにCの全てを含有できないことになる。そこで、実施形態に係る合金は、以上に説明した各元素の含有量の範囲において、第1構成元素の少なくとも4種の元素並びにCの全てを含有可能な各元素の含有量の割合で、第1構成元素の少なくとも4種の元素並びにCの全てを含有する。従って、例えば、合金中における第1構成元素の少なくとも4種の元素並びにCの全ての含有量(濃度)が、各元素の含有量の範囲の上限値であることは無く、合金中における第1構成元素の少なくとも1種の元素及びCのうちの少なくとも一方の含有量は、各元素の含有量の範囲の上限値より小さな割合となる。
【0030】
実施形態に係る合金は、Al、Cr、Hf、Si、及びWのうちの少なくとも1種の元素を含む第2構成元素をさらに含有するものが好ましい。
【0031】
ここで、第2構成元素に含まれてもよい元素について説明する。
Al(アルミニウム)は、固溶強化により合金の硬さ及び強度を向上させるものである。さらに、Alは、密度が2.7g/cm3と小さいため、合金はAlを含有することで軽量化できる。また、Alは、酸化被膜を形成することで、合金の耐酸化性を向上できる。
【0032】
合金がAlを含有する場合(合金が第2構成元素をさらに含有し、第2構成元素がAlを含む場合)、Alは、合金中において、0原子%超15原子%以下の割合で含有される。Alがこの範囲で含有されることで、合金の高温時の強度を高く維持できる。Alの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上、特に好ましくは7.5原子%以上である。また、Alの含有量は、好ましくは12.5原子%以下、より好ましくは10原子%以下、特に好ましくは7.5原子%以下である。
【0033】
Cr(クロム)は、融点が約1900℃と高いため、合金はCrを含有することで高温強度を向上できる。また、Crは、固溶強化により合金の硬さ及び強度を向上できる。また、Crは、酸化被膜を形成することで、合金の耐酸化性を向上できる。
【0034】
合金がCrを含有する場合(合金が第2構成元素をさらに含有し、第2構成元素がCrを含む場合)、Crは、合金中において、0原子%超10原子%以下の割合で含有される。Crがこの範囲で含有されることで、合金の靭性及び延性を向上できる。Crの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Crの含有量は、好ましくは7.5原子%以下である。
【0035】
Hf(ハフニウム)は、融点が約2200℃と高いため、合金はHfを含有することで高温強度を向上できる。また、Hfは、固溶強化により合金の硬さ及び強度を向上できる。
【0036】
合金がHfを含有する場合(合金が第2構成元素をさらに含有し、第2構成元素がHfを含む場合)、Hfは、合金中において、0原子%超15原子%以下の割合で含有される。Hfがこの範囲で含有されることで、合金の密度の過度の増大を抑制できる。Hfの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上、特に好ましくは7.5原子%以上である。また、Hfの含有量は、好ましくは12.5原子%以下、より好ましくは10原子%以下、特に好ましくは7.5原子%以下である。
【0037】
合金は、Si(シリコン)を含有する場合には、シリサイドを形成することで、析出強化により、合金の硬さ及び強度を向上できる。また、Siは、酸化被膜を形成することで、合金の耐酸化性を向上できる。
【0038】
合金がSiを含有する場合(合金が第2構成元素をさらに含有し、第2構成元素がSiを含む場合)、Siは、合金中において、0原子%超10原子%以下の割合で含有される。Siがこの範囲で含有されることで、合金製造時の凝固偏析を抑制できる。また、合金の密度の過度の増大を抑制できる。Siの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Siの含有量は、好ましくは7.5原子%以下である。
【0039】
W(タングステン)は、融点が約3400℃と高いため、合金はWを含有することで高温強度を向上できる。また、Wは、固溶強化により合金の硬さ及び強度を向上できる。
【0040】
合金がWを含有する場合(合金が第2構成元素をさらに含有し、第2構成元素がWを含む場合)、Wは、合金中において、0原子%超10原子%以下の割合で含有される。Wがこの範囲で含有されることで、合金製造時の凝固偏析を抑制できる。また、合金の密度の過度の増大を抑制できる。Wの含有量は、好ましくは2.5原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。また、Wの含有量は、好ましくは7.5原子%以下である。
【0041】
ここで、
図1は、実施形態に係る合金における第1断面組織の模式図であり、
図2は、実施形態に係る合金における第2断面組織の模式図である。実施形態に係る合金は、例えば、
図1及び
図2に示す第1断面組織及び第2断面組織等のように、固溶体相1及び炭化物2を含む二相以上の複合組織が現れる断面組織を有するものでもよい。合金の断面組織がいずれの組織になるかは、例えば、合金の各元素の含有量(濃度)、合金製造時の凝固工程での冷却過程等の製造条件などに基づいて決定される。
【0042】
実施形態に係る合金は、例えば、
図1及び
図2に示す第1断面組織及び第2断面組織等を有する合金のように、固溶体相を含むものが好ましい。合金は固溶体相を含むことで固溶強化を図ることができる。固溶体相としては、例えば、体心立方格子構造(BCC構造)を有するものが好ましい。固溶体相がBCC構造を有することで、合金のセラミックに近い熱膨張率を発現できる。固溶体相の存在の確認には、例えば、合金の断面組織をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察する方法等を使用できる。また、固溶体相の構造の同定には、合金の試験片をTEM(Transmission Electron Microscope)観察に供し、TEM観察で試験片の制限視野回折を行う方法、合金の試験片について、X線回折(XRD)測定を行い、X線回折パターンから同定する方法等を使用できる。
【0043】
実施形態に係る合金は、例えば、
図1及び
図2に示す第1断面組織及び第2断面組織等を有する合金のように、炭化物を含むものが好ましい。合金は、炭化物を含むことで、高温強度を向上できる。炭化物は、例えば、合金に含有されるC(炭素)に由来するものである。炭化物としては、例えば、第1構成元素に含まれる少なくとも1種の元素の炭化物が好ましい。このような炭化物は合金中で安定して存在できる。炭化物の存在の確認には、例えば、合金の断面組織をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察する方法等を使用できる。
【0044】
炭化物は、例えば、NaCl構造を有するものであって、例えば、MC(Mは、上記6種の元素(Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びV)のうちの少なくとも1種の元素)で表現される組成式により示されるものである。MCで表現される組成式により示される炭化物は、上記6種の元素のうちの少なくとも1種の元素とC(炭素)との結合により構成される。MCで表現される組成式により示される炭化物は、各元素がそれぞれの原子占有サイトに固溶した状態にある化合物である。NaCl構造の同定には、例えば、X線回折等の方法を使用できる。
【0045】
合金は、O(酸素)、N(窒素)、及びB(ホウ素)のうちの少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。これらの元素の添加により、合金の強度特性を向上できる。これらの元素は、第1構成元素に含まれる少なくとも1種の元素及び第2構成元素に含まれる少なくとも1種の元素の少なくとも一方との化合物の形態で合金に含有されるものが好ましい。合金は、炭窒化物、酸化物、酸窒化物、窒化物、及び金属間化合物のうちの少なくとも1種の化合物を含むものが好ましい。合金に含まれる化合物の種類を選択することで、合金に対して所望の物性を付与できる。これらの化合物は、第1構成元素に含まれる少なくとも1種の元素及び第2構成元素に含まれる少なくとも1種の元素の少なくとも一方を含有するものが好ましい。炭窒化物、酸化物、酸窒化物、窒化物、及び金属間化合物の存在の確認には、例えば、合金の断面組織をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察する方法等を使用できる。
【0046】
合金における各化合物の形態は、特に限定されるものでなく、合金における各化合物は、合金の内部に分散して存在してもよいし、合金の表面のみに存在してよいし、合金の内部及び表面の両方に存在してもよい。
【0047】
図1に示す第1断面組織は、炭化物2が固溶体相1に分散した組織である。第1断面組織では、炭化物2が、固溶体相1において、例えば、島状(散点的)に分散した粒子として存在し、それらの粒子は互いに分離している。そして、固溶体相1は炭化物2の周囲を満たし、固溶体相1は一体となって形成された連続相となっている。第1断面組織では、靭性及び延性に優れる固溶体相1が炭化物2によって分断されることなく連結しているため、構造物に第1断面組織を有する合金を使用することで、構造物に靭性及び延性を付与できる。
【0048】
図2に示す第2断面組織は、固溶体相1と炭化物2とが交互に層状に存在するラメラ状組織である。第2断面組織では、固溶体相1の層はある程度の厚みを有し、隣接する固溶体相1の層の間に炭化物2の層がある程度薄く筋状に形成されている。そして、固溶体相1及び炭化物2はそれぞれ連続的している。第2断面組織では硬さ及び強度に優れる炭化物2が連結しているので、合金が第2断面組織を有することで合金に硬さ及び強度を付与できる。すなわち、第2断面組織を有する合金は、硬さ及び強度に優れ、かつ靭性及び延性にも比較的優れている。第2断面組織を有する合金を使用した構造物では、特に合金への応力負荷の方向が固溶体相1及び炭化物2の積層方向と同方向(例えば、平行)である場合に特に優れた強度が発現する。
【0049】
なお、合金は、第1断面組織及び第2断面組織のいずれか一方のみを有するものでもよいし、第1断面組織及び第2断面組織の両方を有するものでもよい。第1断面組織及び第2断面組織は、それぞれ、その他の炭化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物、窒化物、金属間化合物等の化合物を含むものでもよい。また、第1断面組織及び第2断面組織は、それぞれ、BCC構造を有する固溶体相を含むものが好ましい。第1断面組織及び第2断面組織は、それぞれ、BCC構造を有する固溶体相に加えて、心立方格子構造を有する固溶体相及び六方最密充填構造を有する固溶体相の少なくとも一方をさらに含むものでもよい。
【0050】
ここで、
図3は、実施形態に係る合金の製造方法を概略的に示すフローチャートである。実施形態に係る合金の製造方法は、
図3に示すように、合金に含有される各元素を、上記の合金中の各元素の組成比(含有量)に応じて混合した原料を溶融する溶融工程S1と、溶融工程S1で得られた溶融材料を凝固する凝固工程S2とを備える。なお、実施形態に係る合金の製造方法は、凝固工程S2で得られた凝固物を融点未満で熱処理する熱処理工程をさらに備えるものでもよい。
【0051】
溶融工程S1、凝固工程S2、及び熱処理工程の各工程における具体的な条件は、特に限定されず、各工程を任意の条件で行うことができる。例えば、溶融工程S1における原料を溶融する溶融温度は、合金に含有される各元素に応じて異なるものの、通常は、合金に含有される全ての元素の融点以上の溶融温度で原料を加熱して溶融すればよい。また、凝固工程S2における溶融材料を凝固するために冷却する時の冷却条件(例えば、温度、速度等)は、例えば、所望する合金組織等に応じて決定すればよい。また、熱処理工程における凝固物を熱処理する時の熱処理条件(例えば、温度、速度等)は、例えば、均質化等を実行可能な条件とすればよい。
【0052】
実施形態に係る合金は、上記のように高温強度を向上できる。ここでいう「高温」とは、例えば、800℃~1200℃の範囲の温度等であるが、この範囲の温度に限定されない。また、ここでいう「強度」とは、例えば、圧縮強度等であるが、これに限定されない。実施形態に係る高温強度に優れる合金は、任意の用途に使用でき、例えば、実施形態に係る構造物に使用できる。
【0053】
実施形態に係る構造物は、Zr、Ti、Nb、Ta、Mo、及びVの6種の元素のうちの少なくともZr、Ti、Nb、及びTaの4種の元素を含む第1構成元素を合計で80原子%以上、C(炭素)を1原子%以上10原子%以下含有する合金から構成される構造物であって、上記合金中の上記Zrの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記合金中の上記Tiの含有量が20原子%以上40原子%以下であり、上記合金中の上記Nbの含有量が5原子%以上40原子%以下であり、上記合金中の上記Taの含有量が5原子%以上20原子%以下であり、上記合金中の上記Moの含有量が0原子%以上10原子%以下であり、上記合金中の上記Vの含有量が0原子%以上15原子%以下であることを特徴とする。
【0054】
実施形態に係る構造物は、特に限定されないが、例えば、実施形態に係る合金から構成される構造物である。詳細は後述するが、実施形態に係る合金は、密度が小さいため、実施形態に係る合金を構造物に使用することにより、高温強度に優れかつ軽量化可能な構造物を提供できる。実施形態に係る構造物の具体的な種類及び用途は任意である。実施形態に係る構造物は、例えば、水電解装置や燃料電池に使用される構造物、発電プラントに設置される構造物等である。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本開示の合金及び構造物をさらに具体的に説明する。
【0056】
<実験方法>
本開示の実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金を
図3のフローチャートに沿って製造し、製造した合金について、構造及び断面の観察並びに性能評価を行った。これらの各例の合金の製造においては、
図3に示すように、まず、合金に含有される各元素を、下記表1及び表2に示す合金中の各元素の組成比(含有量)[原子%]に応じて混合した原料をアーク溶解法により溶融した(溶融工程S1)。この際、原料としては、合金中の元素のうちのC(炭素)以外の各元素を純度99%以上の割合で含有する各元素素材、並びに合金中の元素のうちのCを含有する炭化物を、原料中の各元素の組成比が下記表1及び表2に示す合金中の各元素の組成比[原子%]となるように秤量して混合することで得られたものを用いた。次に、溶融工程S1で得られた溶融材料を凝固することでインゴットを作製した(凝固工程S2)。
【0057】
【0058】
【0059】
以上のように製造された各例の合金について、構造及び断面の観察並びに性能評価を行った。それらについて以下に説明する。
【0060】
<構造及び断面の観察>
図4は、実施例1の合金の断面を示すSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
図4に示すように、実施例1の合金の断面では、炭化物2が固溶体相1に分散して存在している。従って、実施例1の合金が、第1断面組織(
図1)を有することが確認された。さらに、実施例1及び2の合金の試験片について、X線回折(XRD)測定を行い、X線回折パターンを測定した。X線回折パターンから、実施例1及び2の合金の固溶体相の構造がBCC構造であると同定した。
【0061】
<性能評価>
実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の高温強度を評価するために、高温圧縮試験を行い、各例の合金の1000℃での圧縮強度を測定した。圧縮強度の測定には、ディーエスアイ社製グリーブル試験機を使用し、ひずみ速度を1.0×10
-2/secとした。
図5は、実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の1000℃での圧縮強度を示すグラフである。
【0062】
各例の合金の高温強度の評価に際しては、比較例1の合金の圧縮強度(1000℃での圧縮強度)を基準とし、比較例1の合金の圧縮強度の1.5倍以上の圧縮強度が得られる場合を「〇」と評価し、比較例1の合金の圧縮強度の1.5倍未満の圧縮強度が得られる場合を「×」と評価した。評価結果を下記表3に示す。
【0063】
また、実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の熱膨張率を評価するために、TMA法に基づいて、各例の合金の室温から1000℃までの間の平均線熱膨張係数の測定を行った。
図6は、実施例1及び2並びに比較例1及び2の合金の室温から1000℃までの間の平均線熱膨張係数を示すグラフである。各例の合金の熱膨張率の評価に際しては、比較例1の合金の平均線熱膨張係数を基準とし、比較例1の合金の平均線熱膨張係数より小さい平均線熱膨張係数が得られる場合を「〇」と評価した。評価結果を下記表3に示す。
【0064】
【0065】
上記表3に示すように、実施例1及び2並びに比較例2のいずれの合金においても、比較例1の従来のフェライト合金より平均線熱膨張係数が小さくなった。一方、実施例1及び2の合金は優れた高温強度を示したが、比較例2の合金は高温強度が不足した。
【0066】
図5及び
図6に示す通り、実施例1及び2の合金は、実用レベルの比較例1のフェライト合金より低い熱膨張率を有し、かつ高い高温強度を有していた。具体的には、例えば、実施例1の合金の圧縮強度(1000℃での圧縮強度)は、比較例1の合金の圧縮強度の4倍程度、実施例2の合金の圧縮強度は、比較例1の合金の圧縮強度の2倍程度であった。
【0067】
この結果から、実施例1及び2の合金では、合金中の各元素の組成比が上記表1に示す組成比であることにより、合金中の元素同士の相互作用により、例えば、析出強化等の効果を適切に発揮することで、合金の高温強度を向上できたと考えられる。
【0068】
実施例1及び2並びに比較例2の合金が、
図6に示す通り、比較例1の従来のフェライト合金より低い熱膨張率を有していたのは、実施例1及び2並びに比較例2の合金は、比較的低熱膨張率であるTa及びMo等の少なくとも一種を含有するためと考えられる。実施例1及び2の合金のように、本開示の範囲内で合金に含有される元素及び各元素の組成比を選択して使用することにより、従来の合金よりも低い熱膨張率を実現できると考えられる。
【0069】
以上のように、本開示の合金は、例えば、比較例1のフェライト合金のような、非特許文献1等に記載された従来のフェライト合金よりも高温強度に優れることが分かった。このため、高温強度が要求される用途に、本開示の合金を好ましく適用できる。さらに、本開示の合金は、低い熱膨張率を有していることが分かった。従って、高温強度が要求される用途において、さらに熱膨張率の低減を図ることができる。
【0070】
以上、図面等を用いて、実施形態について説明したが、本開示は、実施形態に限定されるものではなく、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含され、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本開示は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、一の実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、一の実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。