(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178098
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】バッテリー収納構造体
(51)【国際特許分類】
H01M 50/207 20210101AFI20231207BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20231207BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20231207BHJP
H01M 50/271 20210101ALI20231207BHJP
H01M 50/242 20210101ALI20231207BHJP
H01M 50/227 20210101ALI20231207BHJP
【FI】
H01M50/207
B60K1/04 Z
H01M50/249
H01M50/271 B
H01M50/242
H01M50/271 S
H01M50/227
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091165
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷上 香織
(72)【発明者】
【氏名】新井 司
【テーマコード(参考)】
3D235
5H040
【Fターム(参考)】
3D235BB07
3D235BB18
3D235CC15
3D235EE63
3D235HH21
3D235HH44
3D235HH51
5H040AA02
5H040AA32
5H040AA37
5H040AS07
5H040AT06
5H040AY05
(57)【要約】
【課題】バッテリーの収納部の気密性、収納空間を維持したまま、バッテリーの側面を保護できるバッテリー収納構造体を提供する。
【解決手段】車両に駆動用バッテリーを搭載するためのバッテリー収納構造体は、一体成形された底壁および側壁を有し、上部に開口を有し、内部にバッテリー収容部を有する樹脂製の箱と、前記側壁の外側に配置される保護壁と、を備え、前記保護壁には前記側壁の外側に向かってリブが立設され、前記リブは、前記保護壁の端部まで延びている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に駆動用バッテリーを搭載するためのバッテリー収納構造体であって、
一体成形された底壁および側壁を有し、上部に開口を有し、内部にバッテリー収容部を有する樹脂製の箱と、
前記側壁の外側に配置される保護壁と、
を備え、
前記保護壁には前記側壁の外側に向かってリブが立設され、
前記リブは、前記保護壁の端部まで延びている、
バッテリー収納構造体。
【請求項2】
前記保護壁は、前記箱の側壁の外側に配置されるサイドプレート又はエンドプレートであって、
前記サイドプレートは前記箱の両側に配置される一対のサイドプレートであり、
前記エンドプレートは前記箱の両端に配置される一対のエンドプレートである、
請求項1に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項3】
前記サイドプレートには前記バッテリー収納構造体の外側に向かって第1のリブが立設され、
前記エンドプレートには前記バッテリー収納構造体の外側に向かって第2のリブが立設され、
前記第1のリブおよび前記第2のリブは、前記箱の側壁の稜に向かって延びており、
前記第1のリブと前記第2のリブとが前記稜を挟んで隣接している、
請求項2に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項4】
前記樹脂製の箱は射出成形品又は圧縮成形品であって、
前記底壁と前記側壁とのなす内角が、90度以上120度以下である、
請求項1又は2に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項5】
前記リブは水平方向に延在している、請求項1又は2に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項6】
前記リブは鉛直方向に延在している、請求項5に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項7】
前記リブは閉断面形状を有する、請求項6に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項8】
前記閉断面形状は格子形状である、請求項7に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項9】
前記バッテリー収納構造体は前記開口を閉じるバッテリーカバーをさらに備え、
前記バッテリーカバーよりも前記箱の側壁の外側まで前記リブは立設している、請求項1に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項10】
前記バッテリーカバーはフランジを備え、
前記フランジと前記リブとを接合して前記バッテリー収容部を閉じる、請求項9に記載のバッテリー収納構造体。
【請求項11】
前記バッテリーカバーは第1のフランジを備え、
前記樹脂製の箱は第2のフランジを備え、
前記第1のフランジと、前記第2のフランジを接合して前記バッテリー収容部を閉じる、請求項1又は2に記載のバッテリー収納構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体成形された樹脂製の箱と、箱の側壁外側に配置される保護壁と、を備え、車両に駆動用バッテリーを搭載するためのバッテリー収納構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度などの電気的特性を有する二次電池は、携帯用器機のみならず電気的駆動源によって駆動する電気自動車(Electric Vehicle,EV)またはハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle,HEV)などに普遍的に応用されている。このような二次電池は、化石燃料の使用を画期的に減少させることができるという一次的な長所だけでなく、エネルギーの使用に伴う副産物が一切発生しないという点で環境に優しく、エネルギー効率性の向上のための新しいエネルギー源として注目されている。
【0003】
特許文献1では、バッテリーモジュールを収容するための収容空間が設けられた、リブ付きのバッテリーパックが記載されている。
【0004】
特許文献2では、バッテリーセルを保護するため、4つのサイドプレートで囲い込んだバッテリーモジュールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/052189
【特許文献2】国際公開第2013/163138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のバッテリーパックを樹脂の射出成形または圧縮成形により製造するためには、リブを成形型から抜き出す際にアンダーカットとならないよう、底壁と側壁との角度を90度超で作成する必要がある。ここで、「アンダーカット」とは、成形体を成形型から取り出すとき、そのままの状態では離型できないような凸形状や凹形状のことをいう。成形体アンダーカットがあると、成形型を分解するか、成形型の開き向きを変えるなどの工程が増加してしまう。
しかし、底壁と側壁との角度を90度超で作成する場合、収納空間が狭くなり、搭載できるバッテリー量が減少してしまう。搭載できるバッテリー量を増やすために、収納空間を広げようとすると、無駄な空間が大きくなってしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載の4つのサイドプレートを組み合わせて使用すると、気密性が低下してしまい、格納されたバッテリーの安全性を損なう。
【0008】
そこで本発明は従来技術の有する問題点を鑑み、バッテリーの収納部の気密性、収納空間を維持したまま、バッテリーの側面を保護できるバッテリー収納構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1]
車両に駆動用バッテリーを搭載するためのバッテリー収納構造体であって、
一体成形された底壁および側壁を有し、上部に開口を有し、内部にバッテリー収容部を有する樹脂製の箱と、
前記側壁の外側に配置される保護壁と、
を備え、
前記保護壁には前記側壁の外側に向かってリブが立設され、
前記リブは、前記保護壁の端部まで延びている、
バッテリー収納構造体。
[2]
前記保護壁は、前記箱の側壁の外側に配置されるサイドプレート又はエンドプレートであって、
前記サイドプレートは前記箱の両側に配置される一対のサイドプレートであり、
前記エンドプレートは前記箱の両端に配置される一対のエンドプレートである、
[1]に記載のバッテリー収納構造体。
[3]
前記サイドプレートには前記バッテリー収納構造体の外側に向かって第1のリブが立設され、
前記エンドプレートには前記バッテリー収納構造体の外側に向かって第2のリブが立設され、
前記第1のリブおよび前記第2のリブは、前記箱の側壁の稜に向かって延びており、
前記第1のリブと前記第2のリブとが前記稜を挟んで隣接している、
[2]に記載のバッテリー収納構造体。
[4]
前記樹脂製の箱は射出成形品又は圧縮成形品であって、
前記底壁と前記側壁とのなす内角が、90度以上120度以下である、
[1]又は[2]に記載のバッテリー収納構造体。
[5]
前記リブは水平方向に延在している、[1]又は[2]に記載のバッテリー収納構造体。
[6]
前記リブは鉛直方向に延在している、[5]に記載のバッテリー収納構造体。
[7]
前記リブは閉断面形状を有する、[6]に記載のバッテリー収納構造体。
[8]
前記閉断面形状は格子形状である、[7]に記載のバッテリー収納構造体。
[9]
前記バッテリー収納構造体は前記開口を閉じるバッテリーカバーをさらに備え、
前記バッテリーカバーよりも前記箱の側壁の外側まで前記リブは立設している、[1]に記載のバッテリー収納構造体。
[10]
前記バッテリーカバーはフランジを備え、
前記フランジと前記リブとを接合して前記バッテリー収容部を閉じる、[9]に記載のバッテリー収納構造体。
[11]
前記バッテリーカバーは第1のフランジを備え、
前記樹脂製の箱は第2のフランジを備え、
前記第1のフランジと、前記第2のフランジを接合して前記バッテリー収容部を閉じる、[1]又は[2]に記載のバッテリー収納構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバッテリー収納構造体は、一体成形された樹脂製の箱によって気密性を担保出来ると共に、箱の側壁の外側に配置されるリブを備えた保護壁によって、外部からの衝撃を吸収でき、搭載できるバッテリー量を増加できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態のバッテリー収納構造体を示す斜視図である。
【
図5】第2の実施形態のバッテリー収納構造体1Bの斜視図である。
【
図7】第3の実施形態のバッテリー収納構造体1Cの垂直断面図である。
【
図8】ポール衝突テストの解析モデルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態のバッテリー収納構造体1Aは、一体成形され上部に開口を有する樹脂製の箱100と、箱100の側壁102~105の外側に配置される保護壁202~205と、を備えた車両に駆動用バッテリーを搭載するためのバッテリー収納構造体である。保護壁202~205にはバッテリー収納構造体の外側に向かってリブ206、207が立設される。リブ206、207は、箱100の側壁102~105の稜に向かって、保護壁の端部まで延びていることが好ましい。
【0016】
[全体構成]
バッテリー収納構造体1Aの一例を
図1に示す。バッテリー収納構造体1は、電気自動車、ハイブリッド自動車、マイルドハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車などの燃料源として用い得る自動車に採用できる。また、これらの自動車の外にも、二次電池としてバッテリーセルを用いる電力貯蔵装置(Energy Storage System)など、その他の装置や器具及び設備などにも具備可能である。
【0017】
バッテリー収納構造体1Aは、樹脂製の箱100と、保護壁202~205とを備える。なお、以下の説明では、保護壁202~205のそれぞれを「保護壁200」と説明することがある。また、バッテリー収納構造体1Aは、後述するバッテリーカバー300を備えてもよい。
さらに、バッテリー収納構造体1Aは、箱100の内部に収容されるバッテリーモジュール10を含んでいてもよい。
図1に破線で示すバッテリーモジュール10は、バッテリーセルを含み得る。
【0018】
[一体成形された樹脂製の箱]
図2はバッテリー収納構造体1Aの分解斜視図である。樹脂製の箱100は、底壁101と、側壁102~105とを備える。
【0019】
1.底壁と側壁が形成する内角
樹脂製の箱100において、底壁101と側壁102~105とのなす内角は90度以上120度未満であることが好ましい。より好ましくは、90度以上110度未満であり、更に好ましくは90度以上100度未満である。ここで、「底壁と側壁とのなす角」とは、底壁および側壁に垂直な平面と底壁との交線と、底壁および側壁に垂直な平面と側壁との交線とのなす角である。
図3は
図2のIII-III矢視断面図であり、底壁101および側壁102と垂直な面における、底壁101と側壁102との交差部分の断面図である。
図3に示す底壁101と側壁102とのなす角は、90度以上120度未満であることが好ましく、90度以上110度未満であることがより好ましく、90度以上100度未満であることが更に好ましい。底壁101と側壁103~105とのなす角も同様である。
【0020】
内角が90度以上あると、成形完了後に樹脂製の箱を成形型から外しやすくなる。反対に、120度未満であると、樹脂製の箱の側壁が、バッテリーモジュールの形状に沿いやすくなり、バッテリー収納構造体を自動車に搭載した際、バッテリー収納構造体の周辺の空間自由度が増す。
【0021】
2.一体成形
一体成形とは、箱100の底壁101と側壁102~105とが継ぎ目を有さずに連続的に成形されていることをいう。別体の部材同士を接合して箱の形状に成形したものは一体成形とは言わない。このような一体成形では、一度の成形で箱100の成形品を作成できる。箱100が一体成形によって作成されるため、箱100の底壁101および側壁102~105を1つの部材から加工することができ、部品単価を引き下げることが可能となる。また、組付け工程数が減少するし、部品数減少により在庫に係る費用の削減も可能である。
【0022】
3.製造方法
樹脂製の箱100は射出成形によって製造された射出成形品又は圧縮成形によって製造された圧縮成形品であることが好ましい。
【0023】
4.樹脂製の箱の側壁
箱100の側壁102~105の外側には保護壁200を設けるため、樹脂製の箱100の側壁102~105の外側面はフラット面であることが好ましい。保護壁200の設け方の例を以下に示す。
【0024】
(例1)保護壁202~205を留めるための留め部110またはスナップ機構を樹脂製の箱100の側壁102~105の外側面に設け、留め部110またはスナップ機構に保護壁202~205を嵌合させる。
(例2)保護壁202~205と樹脂製の箱100を接合しても良く、接着剤を用いて保護壁202~205と樹脂製の箱100を接着してもよい。
(例3)予め準備した保護壁202~205の少なくとも1枚を成形型内に嵌め込んだのち、保護壁200の上から射出成形又は圧縮成形することで、樹脂製の箱100の側壁102~105と保護壁202~205の少なくとも1枚とが一体に成形されたバッテリー収納構造体1をインサート成形してもよい。保護壁202~205の1枚のみ(1面のみ)を成形型内に予め嵌め込んでインサート成形してもよく、残りの側壁の面に設ける保護壁を射出成形や圧縮成形によって形成した後に、樹脂製の箱100に嵌合させまたは接着してもよい。
【0025】
[保護壁]
樹脂製の箱100の側壁102~105の外側には、保護壁202~205が配置される。保護壁202~205にはバッテリー収納構造体1Aの外側に向かってリブ206、207が立設され、リブ206、207は、箱100の側壁102~105の稜106に向かって、保護壁202~205の端部まで延びている。
【0026】
保護壁202~205は、樹脂製の箱100の側壁102~105を取り囲んでいることが好ましい。保護壁202~205は箱100の側壁102~105の外側に配置されるサイドプレート又はエンドプレートであることが好ましい。ここで、サイドプレート202、203は箱100が車両に搭載されたときに車両の左方向を向く面および車両の右方向を向く面と平行なプレートである。エンドプレート204、205は箱100が車両に搭載されたときに車両の前方向を向く面および車両の後方向を向く面と平行なプレートである。サイドプレート202、203及びエンドプレート204、205は、それぞれ繊維強化プラスチックであることが好ましい。
【0027】
[保護壁:リブ]
保護壁202~205には、それぞれバッテリー収納構造体1の外側に向かってリブ206、207が立設される。リブ206、207は、箱の側壁102~105同士の稜に向かって、保護壁202~205の端部まで延びている。
【0028】
稜とは、多面体の隣り合う二つの面が交わってできる線分である。箱の側壁102~105の外側面の稜とは、例えば
図2の符号106で示される線分である。稜106は箱100の辺であるともいえる。
【0029】
保護壁202~205がサイドプレート202、203又はエンドプレート204、205である場合、サイドプレート202、203及びエンドプレート204、205にはバッテリー収納構造体1の外側に向かってそれぞれリブ206、207が立設され、サイドプレート202、203とエンドプレート204、205との稜において、サイドプレート202、203のリブ206とエンドプレート204、205のリブ207とが稜106を挟んで隣接していることが好ましい。ここでいう「隣接」とは、サイドプレート202、203のリブ206とエンドプレート204、205のリブ207とが隣にあって接していることを意味し、サイドプレート202、203のリブ206とエンドプレート204、205のリブ207との間に何も存在しないことばかりでなく、サイドプレート202、203のリブ206とエンドプレート204、205のリブ207とが近隣関係にあることをも意味する。ここで、リブ206、207が近隣関係にあるとは、
図1のZ軸方向のリブ206の高さ位置とリブ207との高さ位置との差が、リブの板厚以下であることをいう。例えばリブ206、207の板厚が2mmである場合、リブ206、207が近隣関係にあるとは、Z軸方向のリブ206の高さ位置とリブ207との高さ位置との差が2mm以下であることをいう。
【0030】
「サイドプレート202、203及びエンドプレート204、205のリブ206、207が稜106を挟んで隣接している」状態には、リブ206、207の底壁101からの高さ位置が一致している」状態が含まれる。
【0031】
リブ206、207の方向に特に限定はない。保護壁202~205を壁面に対して垂直な方向から見たときのリブ206、207の平面形状は、波状、屈曲状、弧状であってもよい。リブ206、207は閉断面形状を有することが好ましい。保護壁202~205の壁面に対して垂直な外方向から観察したとき、リブ206、207の閉断面形状は、円状、三角や四角などの各種の多角形状であることが好ましく、格子形状であることがより好ましい。
図1および
図2には、四角形の閉断面形状を有する格子形状のリブ206、207が示されている。
【0032】
また、リブ206、207は水平方向に延在していることが好ましく、リブ206、207は水平方向及び鉛直方向に延在していることがより好ましい。
図1および
図2には、水平方向及び鉛直方向に延在する格子形状のリブ206、207が示されている。
このようにリブ206、207を配置することで、バッテリー収納構造体1へのポール衝突試験時に、より大きな力を吸収することができる。
【0033】
リブ206、207の高さH1は10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることが更に好ましく、25mm以上であることがより一層好ましい。リブ206、207の高さH1が10mm以上であれば、後述する実施形態に示すように、樹脂製の箱100のフランジ部111やバッテリーカバー300と、リブ206、207とを接合しやすくなる。例えば、
図3に示す樹脂製の箱のフランジ部111やバッテリーカバー300と締結するための締結穴(約8mm)を、リブ206、207に設けやすくなる。なお、樹脂製の箱100のフランジ部111やバッテリーカバー300と、リブ206、207とを接合する場合、リブ206、207は樹脂製の箱100の上淵に沿って延在していることが好ましい。
図4は
図2のIV-IV矢視断面図であり、リブ206の延在方向と垂直な断面図である。
図4に示すように、リブ206の高さH1とは、保護壁203のリブ206を除く外側面からの、外側面に垂直かつ外方向の高さである。リブ207の高さも同様である。
リブ206、207の根本側の幅W1は、3mm以上であることが好ましく、先端に向かって先細りのテーパー形状であっても良い。ここで、リブ206、207の幅とは箱の側壁の外側面と平行かつリブ101の延びる方向と垂直な方向の幅である。なお、リブ206、207の根本側の幅W1と先端側の幅W2とが異なっていてもよい。ここで「根本」とは、リブ206、207の樹脂製の箱100側の端部であり、「先端」とは、箱100に対して外側の端部である。また、リブ206の幅とリブ207の幅が異なっていてもよい。
【0034】
[樹脂製の箱と保護壁:大きさ]
一般的に、樹脂製の箱100は製造直後に収縮し、底壁101と垂直な方向から見てひし形になりやすい。樹脂製の箱100の大きさが小さいと、反りなどの問題が生じにくいため、保護壁202~205が樹脂製の箱100の側壁102~105を正確に覆うためには、樹脂製の箱100は小さいほうが好ましい。
【0035】
[樹脂製の箱と保護壁:材料としての繊維強化プラスチック]
一体成形された樹脂製の箱100及び/又は保護壁202~205は強化繊維およびマトリクス樹脂を含んだ繊維強化プラスチックであることが好ましい。
【0036】
1.強化繊維
繊維強化プラスチックに含まれる強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。強化繊維はガラス繊維であることがより好ましい。強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が大きいと樹脂の繊維への含浸性が容易となり、上限以下であれば成形性や加工性が良好となる。
【0037】
2.不連続繊維
強化繊維は不連続繊維を含むことが好ましい。不連続繊維を用いた場合、連続繊維のみを用いた繊維強化プラスチックに比べて賦形性が向上し、複雑な成形体を作成することが容易となる。
【0038】
3.強化繊維の重量平均繊維長
本発明においては繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる不連続強化繊維は、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0039】
3.1 圧縮成形の場合
一体成形された樹脂製の箱100、保護壁202~205およびバッテリーカバー300はそれぞれ圧縮成形された繊維強化プラスチックであってもよい。樹脂製の箱100、及びバッテリーカバー300は、とりわけ圧縮成形された繊維強化プラスチックであることが好ましい。
【0040】
圧縮成形された繊維強化プラスチックにおける、強化繊維の重量平均繊維長は、1mm以上100mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は1mm~70mmがより好ましく、1mm~50mmがさらに好ましい。
【0041】
近年、車載用のバッテリーは大型化し、バッテリーボックスの縦横の寸法が1m×1mや、1.5m×1.5mのようなサイズになっている。重量平均繊維長が1mm以上であれば、このような大きなバッテリーボックスを作成する場合であっても、大きなバッテリーを格納するための機械物性を担保しやすい。反対に、強化繊維の重量平均繊維長を100mm以下とすれば、繊維強化プラスチックの流動性に優れるため好ましい。
【0042】
3.2 射出成形の場合
一体成形された樹脂製の箱100及び/又は保護壁202~205は射出成形によって成形された繊維強化プラスチックであることが好ましい。射出成形された繊維強化プラスチックの場合、強化繊維の重量平均繊維長は、0.01mm以上3mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は0.1mm以上1.5mm以下がより好ましく、0.1mm以上1mm以下がさらに好ましく、0.1mm以上0.3mm以下がより一層好ましい。
【0043】
圧縮成形された樹脂製の箱よりも射出成形された樹脂製の箱のほうが、成形した後に、成形型から抜きやすい。すなわち、射出成形を用いれば樹脂製の箱の立壁の角度を90度に近づけることができる。また、保護壁202~205のリブ206、207の内部に繊維が入り込みやすい観点からも、保護壁202~205は射出成形によって作成することが好ましい。
【0044】
4.繊維体積割合
強化繊維の繊維体積割合Vfに特に限定は無いが、20~70%が好ましく、25~60%がより好ましく、30~55%が更に好ましい。
なお、繊維体積割合(Vf 単位:体積%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた繊維強化プラスチックの全体の体積に対する強化繊維の体積の割合である。
【0045】
5.マトリクス樹脂
本発明においてマトリクス樹脂の種類に特に限定は無く、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。マトリクス樹脂に熱硬化性樹脂を用いる場合、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系の樹脂であることが好ましい。
マトリクス樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
6.その他の剤
本発明で用いる繊維強化プラスチック中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、無機充填剤、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、増粘剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤などを含有してもよい。
添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
7.シートモールディングコンパウンド
繊維強化プラスチックは、強化繊維を用いたシートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を成形したものであると好ましい。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、複雑形状であっても、容易に成形することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。シートモールディングコンパウンド(SMC)を用いた繊維強化プラスチックとしては、Teijin Automotive Technologies社製(TATと略する場合がある)のシートモールディングコンパウンドを利用することができる。シートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を用いて一体成形し、繊維強化プラスチックを作成してもよい。
【0049】
[ハイブリッド車]
本発明のバッテリー収納構造体は、エンジンとモーターが動力原であるハイブリッド車や、エンジン車に搭載されている発電機を補助モーターとして利用するマイルドハイブリッド車に搭載できる。
【0050】
[樹脂製の箱:境界領域における不連続繊維の分散]
樹脂製の箱100において、底壁101と側壁102~105との境界領域において、不連続繊維が連続的に分散していることが好ましい。
樹脂製の箱100は一体成形された繊維強化プラスチックで形成されるため、境界領域において容易に不連続繊維を連続的に分散させることができる。
【0051】
「不連続繊維が連続的に分散している」とは、複数の不連続繊維が繊維強化プラスチックの厚さ方向から見て交差している状態、あるいは複数の不連続繊維が重量平均繊維長よりも短い距離で長さ方向と垂直な方向に隣接している状態が連続していることをいう。
「不連続繊維が境界領域において連続的に分散している」とは、少なくとも境界領域の一部において連続的に分散していれば良く、境界領域全体において連続的に分散している必要はない。
境界領域において、強化繊維が面内方向に連続して分散していると、従来に比べて境界領域の機械物性が向上する。
【0052】
(第2実施形態)
[樹脂製の箱のフランジ]
図5は第2の実施形態にかかるバッテリー収納構造体1Bの斜視図であり、
図6は
図5のVI-VI矢視断面図である。なお、第1実施形態と同様の構成については、同符号を付して説明を割愛する。
本実施形態では、樹脂製の箱100Bの上端部にフランジ111(第2のフランジ)が設けられている。フランジ111は、箱100Bの側面の上端部から箱100Bの外方向に延びている。樹脂製の箱100Bにフランジ111を設けた場合、フランジ111の外周端よりもリブ206Bの先端のほうが箱100Bの水平方向外側に位置するように、フランジ111の幅W3を設定することが好ましい。すなわち、
図6に示すように、保護壁200Bのリブ206B以外の部分の板厚をT1としたとき、板厚Tとリブ206Bの高さH1との和が、フランジ111の幅W3よりも大きい(T1+H1>W3である)ことが好ましい。ここで、
図6に示すように、フランジ111の幅W3とは、箱100Bの外側面からフランジ111の外周端までの距離である。フランジ111の幅W3よりもリブ206Bが外側まで立設していることで、後述するポール衝突試験時に、リブ206Bが先に衝突することとなり、樹脂製の箱の内部に格納されたバッテリーに悪影響を与えにくい。
【0053】
[バッテリーカバー]
樹脂製の箱100Bの上部開口はバッテリーカバー300によって閉じられる。バッテリーカバー300よりも外側までリブ206、207が立設していることが好ましい。バッテリーカバー300よりもリブ206、207が外側まで立設していることで、ポール衝突試験時に、リブ206、207がバッテリーカバー300よりも先にポールに衝突することとなり、樹脂製の箱100の内部に格納されたバッテリーに悪影響を与えにくい。
【0054】
バッテリーカバー300は、樹脂製の箱100Bのフランジ111と接合していることが好ましい。すなわち、樹脂製の箱100Bはフランジ111Bを備え、当該フランジ111とバッテリーカバー300とを接合してバッテリー収容部を閉じてもよい。更には、当該フランジ111とバッテリーカバー300とを共に接合してもよく、フランジ111、バッテリーカバー300の2つを共締めしていることがより好ましい。共締めすることで、樹脂製の箱やバッテリーカバーを衝撃吸収部材として利用できる。
【0055】
バッテリーカバー300にフランジ301を設けても良く、バッテリーカバー300のフランジ301(第1のフランジ)と樹脂製の箱100のフランジ111(第2のフランジ)を接合してもよい。バッテリーカバー300にフランジ301を設けた場合、バッテリーカバー300のフランジ301の外周端よりもリブ206Bの先端のほうが箱100Bの水平方向外側に位置するように、フランジ301の幅を設定することが好ましい。
【0056】
(第3実施形態)
図7は第3の実施形態にかかるバッテリー収納構造体1Cの垂直断面図である。なお、第2実施形態と同様の構成については、同符号を付して説明を割愛する。
【0057】
本実施形態においては、保護壁200Cの上端部にリブ208Cが設けられている。
本実施形態のバッテリーカバー300Cは、樹脂製の箱100Cのフランジ111C及び/又は保護壁200Cのリブ208Cと接合していることが好ましい。すなわち、樹脂製の箱100Cはフランジ111Cを備え、当該フランジ111Cとバッテリーカバー300とを接合してバッテリー収容部を閉じてもよい。更には、当該フランジ111Cとバッテリーカバー300と、リブ208Cの3つを共に接合してもよく、フランジ111C、バッテリーカバー300およびリブ208Cの3つを共締めしていることがより好ましい。共締めすることで、樹脂製の箱100Cやバッテリーカバー300Cを衝撃吸収部材として利用できる。
【0058】
バッテリーカバー300Cにフランジ301Cを設けても良く、バッテリーカバー300Cのフランジ301C(第1のフランジ)と樹脂製の箱100Cのフランジ111C(第2のフランジ)を接合しても良い。バッテリーカバー300Cにフランジ301Cを設けた場合、バッテリーカバー300Cのフランジ301Cの外周端よりもリブ208Cの先端のほうが箱100Cの水平方向外側に位置するように、フランジ301Cの幅W4を設定することが好ましい。すなわち、
図7に示すように、保護壁200Cのリブ206C、208C以外の部分の板厚をT2としたとき、板厚T2とリブ208Cの高さH2との和が、フランジ301Cの幅W4よりも大きい(T2+H2>W4である)ことが好ましい。
【0059】
[実施例]
[ポール衝突試験]
図5に示すようなバッテリーカバー300によって閉じられたバッテリー収納構造体1Bを、リブ200Bの高さを変えて準備し、
図8に示す解析モデルのポール衝突試験を行った。樹脂製の箱100Bの大きさは底面35cm×35cm、高さ12cm、厚み0.5cmとし、保護壁200Bは樹脂製の箱100Bの側面を覆うように設計した。リブ206Bを除く保護壁200Bの厚みT1を0.3cmとした。また、リブは根本の幅(
図4のW1)を3mm、先端の幅(
図4のW2)を2mmとした。フランジ301の幅(
図7のW4)は23mmとした。リブ206Bの高さ(
図4のH1)は表1に示すように実施例1、2、3で異なるように設計した。
【0060】
【0061】
図8の解析モデルでは、YZ平面と平行な壁400と接触するようにバッテリー収納構造体1Bを配置した状態で、Z軸方向に延びるポール401と壁400との間にバッテリー収納構造体1Bを配置する。その後、
図8の矢印402に示すように、ポール401に対して壁400へ向かう方向(-X方向)へ強制変位を加える。ポール401がフランジ301またはリブ206Bに当たり、反力が生じ始める点を“ポール侵入量0”として、ポール401に作用する反力を計測する。X軸方向に移動する直径6インチ(15cm)の剛性柱(ポール401)による準静的荷重(quasi-static loading)を使用する。
【0062】
結果を
図9に示す。ポール401が受ける反力をプロットしたのが
図9である。
図9の縦軸は反力(N)であり、横軸はポール侵入量(mm)である。樹脂製の箱の側壁や底壁にヒビや割れが生じ、破壊が生じたと判断する。
【0063】
実施例1では、反力が130kN、ポール侵入量が38mm(
図9の501)まで計測したが、最後まで樹脂製の箱に破壊が生じなかった。なお、ポール侵入量がリブの高さを超えているのは、樹脂製の箱が撓んでから破壊されるためである。ポール侵入量がリブの高さを超えている場合、ポールがリブの付け根よりも侵入し、樹脂製の箱の側壁が撓んだ後に(側壁がしなった後に)側壁や底壁にヒビや割れが生じる。
【0064】
実施例2ではポール侵入量が18mm(
図9の502)で樹脂製の箱に破壊が生じた。
実施例3ではリブ206Bの高さよりもフランジ301の幅が大きいため、ポール401がフランジ301に当たり、反力が生じ始める点を“ポール侵入量0”とした。実施例3では、フランジ301に先に破壊が生じ、フランジ301によって衝撃が吸収されたが、フランジ301が破壊された時点では樹脂製の箱の側壁や底壁に破壊が生じていなかった。ポール侵入量が26mm(
図9の503)となった時点で樹脂製の箱に破壊が生じた。
【符号の説明】
【0065】
1A、1B、1C:バッテリー収納構造体
10:バッテリーモジュール
100、100B、100C:樹脂製の箱
101:底壁
102、103:側壁(サイドプレート)
104、105:側壁(エンドプレート)
106:稜
110:留め部
111、111C:樹脂製の箱のフランジ(第2のフランジ)
200、202~205、200B:保護壁
206、207、206B、206C、208C:リブ
300:バッテリーカバー
301:バッテリーカバーのフランジ(第1のフランジ)
400:壁(剛体、完全固定)
401:ポール(剛性柱)
402:強制変位
501:グラフが途切れた箇所であり、破壊が生じたことを意味する。