(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178103
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】室温高スピン偏極のホイスラー合金、並びにこれを用いた膜面垂直電流巨大磁気抵抗素子、トンネル磁気抵抗素子、及びこれらを用いた磁気デバイス、並びにこれを用いた半導体スピン注入素子及びこれを用いた発光素子
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20231207BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20231207BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20231207BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C22C19/07 C
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
H01F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091171
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】クルニアワン イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】三浦 良雄
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【テーマコード(参考)】
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
5E049AA04
5E049BA16
5F092AA08
5F092AC06
5F092AC12
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB23
5F092BB31
5F092BB32
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB43
(57)【要約】
【課題】室温における高いスピン偏極率が保持されている室温高スピン偏極ホイスラー合金を提供すること。
【解決手段】ホイスラー合金A
2BCのAサイトにCo、BサイトにMnまたはFe、CサイトにAsとAlまたはAsとGaを配置し、室温においてスピン偏極率が75%以上となるホイスラー合金。好ましくは、前記ホイスラー合金は、Co
2MnAl
yAs
1-y(y=0.10~0.70)、Co
2MnGa
yAs
1-y(y=0.10~0.70)、Co
2FeAl
ySn
1-y(y=0.20~0.99)、又はCo
2FeGa
yIn
1-y(y=0.00~0.99)の組成である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイスラー合金A2BCのAサイトにCo、BサイトにMn、CサイトにAs及びAlまたはAs及びGaを配置し、若しくはホイスラー合金A2BCのAサイトにCo、BサイトにFe、CサイトにAl及びSnまたはGa及びInを配置し、
室温においてスピン偏極率が75%以上となるホイスラー合金。
【請求項2】
前記ホイスラー合金は、Co2MnAlyAs1-y(y=0.10~0.70)、又はCo2MnGayAs1-y(y=0.10~0.70)である請求項1に記載のホイスラー合金。
【請求項3】
前記ホイスラー合金は、Co2FeAlySn1-y(y=0.20~0.99)、又はCo2FeGayIn1-y(y=0.00~0.99)の組成である請求項1に記載のホイスラー合金。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれる、膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれる、トンネル磁気抵抗(TMR)素子。
【請求項6】
請求項4に記載の膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子、又は請求項5に記載のトンネル磁気抵抗(TMR)素子を有する磁気デバイス。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれる、半導体スピン注入素子。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体スピン注入素子を有する発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温高スピン偏極のホイスラー合金に関する。
また、本発明は、室温高スピン偏極のホイスラー合金を用いた膜面垂直電流巨大磁気抵抗素子、トンネル磁気抵抗素子、及びこれらを用いた磁気デバイスに関する。
更に、本発明は、室温高スピン偏極のホイスラー合金を用いた半導体スピン注入素子、及びこれを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗素子は、高密度ハードディスクドライブの磁気ヘッド、高感度磁気センサー、およびスピントルク高周波発振器などの次世代高性能磁気デバイスを実現するために必要不可欠な技術である。膜面垂直電流型巨大磁気抵抗(CPP-GMR; Current Perpendicular-to-Plane Giant Magnetoresistance)素子は強磁性層/非磁性スペーサ層/強磁性層の積層構造及びトンネル磁気抵抗(TMR; Tunnel Magneto Resistance)素子は、強磁性層/非磁性絶縁体層/強磁性層の積層構造を有し、直径サブミクロン以下のサイズのピラー形状に加工することで作製されて、2つの強磁性層の相対的な磁化配置の変化(平行か反平行)に伴う磁気抵抗(MR; Magneto Resistance)の変化によって機能を発現する。
【0003】
特許文献1では、GMR効果またはTMR効果に基づいて、ハードディスク・ドライブ上で高い記録密度(最大8ギガビット/cm2)を達成することができる入手可能な材料として、半金属強磁性体であるホイスラー相を有する材料を提案している。「ホイスラー相」は、一般式X2YZを有する金属間化合物であり、結晶してBiF2タイプの構造になる。
特許文献2では、磁気デバイスにおいて使用可能な磁気接合を提案する。その磁気接合は、ピンド層と、非磁性スペーサ層と、自由層とを含む。自由層及びピンド層のうち少なくとも一方は少なくとも一つの半金属を含むものであり、半金属は非常に高いスピン偏極(100%近く)を有する強磁性体であり、一方のスピン配向において金属であり、他方のスピン配向において絶縁性である。スピン偏極(P)は、フェルミ準位における強磁性体のアップ(ダウン)スピンのパーセンテージからダウン(アップ)スピンのパーセンテージを引いたものとして定義可能である。
【0004】
従来技術においては、特にCPP-GMR素子やTMR素子の性能指標となるMR比(平行磁化の抵抗RPと反平行磁化の抵抗RAPの差の比、MR=(RAP-RP)/RP×100)を向上させるため、高いバルクのスピン偏極率(P)を有するホイスラー合金が強磁性層の材料として用いられてきた。例えば、非特許文献1、2では、ホイスラー合金の極低温(絶対零度)での電子構造を元に、その高スピン偏極率が実証されていた。そして、ホイスラー合金Co2MnSiと酸化マグネシウムMgOを用いたTMR素子では、低温(4K)で最高2600%のMRが得られている。
しかし、室温(300K)付近では400%と大きく下がってしまうことが問題となっている[非特許文献3参照]。CPP-GMR素子でも同様に低温と室温のMR比の減少が大きいことが報告されている[非非特許文献4参照]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4285632号
【特許文献2】特開2013-21328号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】I. Galanakis, et al, Phys. Rev. B 66, 174429 (2002).
【非特許文献2】X. Hu, et al., J. Phys. :Condens. Matter 32, 205901 (2020).
【非特許文献3】H. Liu, et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 48 (2015) 164001
【非特許文献4】Y. Sakuraba et al., Appl. Phys. Lett. 101, 252408 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気抵抗素子は室温付近で動作すべきデバイスであるため、MR比の温度依存性はできる限り抑制する必要がある。他方で、ホイスラー合金を用いたTMR素子やCPP-GMR素子では、低温(4K)では非常に大きなMR比(TMR素子で1000%、CPP-GMR素子で100%)が得られているがデバイスの動作環境温度である室温(300K)付近ではMR比が大きく減少してしまう(TMR素子で500%以下、CPP-GMR素子で100%以下になる)という課題がある。
この課題を解決するために、既存の高スピン偏極ホイスラー合金だけでなく、新たな材料系を探索する必要がある。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するもので、室温においてスピン偏極率が75%以上となるホイスラー合金A2BCを新たに提案する。特に、A2BCのAサイトにCo、BサイトにMnまたはFe、CサイトにAsとAlまたはAsとGaを配置することにより広い組成範囲で室温においてスピン偏極率が75%以上となる材料を提案した。
従来のホイスラー合金は、BサイトおよびCサイトに2種類以上の元素を混晶させる場合は、周期表の隣り合う元素間の混晶(Fe-Mn、Al-Si、Ga-Geなど)が主であった。今回の提案ではホイスラー合金のCサイトにおいて、As-Al、As-GaやSn-Al、In-Gaなど広い組成範囲にわたる室温高スピン偏極材料を提案する。具体的にはCo2MnAlyAs1-y(y=0.10~0.70)、Co2MnGayAs1-y(y=0.10~0.70)、およびCo2FeAlySn1-y(y=0.20~0.99)、Co2FeGa1-xIn1-y(y=0.00~0.99)の組成である。これらの材料をTMR素子やCPP-GMR素子、および半導体へのスピン注入源として用いることで、デバイスの動作環境温度で高いスピン分極特性を得ることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、有限温度でのスピン偏極率を機械学習と電子構造計算から予測すれば、室温付近で75%以上のsp状態のスピン偏極率を有する新たな材料候補の組成を探索できるのではないかと考えて、本発明を想到するに至った。具体的には、古典統計モデルの範囲内で有限温度におけるスピン揺らぎを平均場近似として取り入れた密度汎関数理論に基づく第一原理計算を実行し、室温付近でも高いスピン偏極率が維持される材料を計算により合理的に期待できる材料を探索して、本発明の室温高スピン偏極ホイスラー合金を想到するに至った。
【0010】
〔1〕本発明の室温高スピン偏極ホイスラー合金は、例えば
図5Aに示すように、ホイスラー合金A
2BCのAサイトにCo、BサイトにMn、CサイトにAsとAlまたはAsとGaを配置し、若しくはホイスラー合金A
2BCのAサイトにCo、BサイトにFe、CサイトにAl及びSnまたはGa及びInを配置し、室温においてスピン偏極率が75%以上となるホイスラー合金である。
〔2〕本発明の室温高スピン偏極ホイスラー合金〔1〕において、好ましくは、前記ホイスラー合金は、Co
2MnAl
yAs
1-y(y=0.10~0.70)、又はCo
2MnGa
yAs
1-y(y=0.10~0.70)であるとよい。
〔3〕本発明の室温高スピン偏極ホイスラー合金〔1〕において、好ましくは、前記ホイスラー合金は、Co
2FeAl
ySn
1-y(y=0.20~0.99)、又はCo
2FeGa
yIn
1-y(y=0.00~0.99)の組成であるとよい。Co
2FeGa
yIn
1-yについては、さらに好ましくは、(y=0.01~0.99)の組成であるとよく、最も好ましくは(y=0.10~0.90)の組成であるとよい。
【0011】
〔4〕本発明の膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子は、例えば
図6に示すように、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれるものである。
〔5〕本発明のトンネル磁気抵抗(TMR)素子は、例えば
図7に示すように、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれるものである。
〔6〕本発明の磁気デバイスは、〔4〕に記載の膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子、又は〔5〕に記載のトンネル磁気抵抗(TMR)素子を有するものである。
【0012】
〔7〕本発明の半導体スピン注入素子は、例えば
図8に示すように、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のホイスラー合金が強磁性金属層として含まれるものである。
〔8〕本発明の発光素子は、〔7〕に記載の半導体スピン注入素子を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の室温高スピン偏極ホイスラー合金によれば、室温における高いスピン偏極率が保持されているので、TMR素子やCPP-GMR素子において、高いMR比を室温付近で実現する強磁性電極材料となり得る。また、スピンフィルター素子としても応用できるため半導体へのスピン注入源としての応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例を示すCo
2MnAl
yAs
1-yにおける(A)各組成yにおけるsp状態のスピン偏極率P
spの温度依存性を示す図、(B)フェルミエネルギーE=0(eV)付近のsp状態の状態密度を示す図、(C)P
spのフェルミエネルギー付近でのエネルギー依存性を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例を示すCo
2MnGa
yAs
1-yにおける(A)各組成yにおけるsp状態のスピン偏極率P
spの温度依存性を示す図、(B)フェルミエネルギーE=0(eV)付近のsp状態の状態密度を示す図、(C)P
spのフェルミエネルギー付近でのエネルギー依存性を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施例を示すCo
2FeAl
ySn
1-yにおける(A)各組成yにおけるsp状態のスピン偏極率P
spの温度依存性を示す図、(B)フェルミエネルギーE=0(eV)付近のsp状態の状態密度を示す図、(C)P
spのフェルミエネルギー付近でのエネルギー依存性を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例を示すCo
2FeGa
yIn
1-yにおける(A)各組成yにおけるsp状態のスピン偏極率P
spの温度依存性を示す図、(B)フェルミエネルギーE=0(eV)付近のsp状態の状態密度を示す図、(C)P
spのFermi準位付近でのエネルギー依存性を示す図である。
【
図5A】本発明の一実施例において、ホイスラー合金の結晶構造と材料探索で考慮した元素の種類を説明する図である。
【
図5B】本発明の一実施例である、機械学習の1つであるベイズ最適化の手順を示す機能ブロック図である。
【
図5C】本発明の一実施例である、有限温度第一原理計算の模式図とスピン偏極率の定義を説明する図である。
【
図6】膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子10の三層積層構造の説明図である。
【
図7】トンネル磁気抵抗(TMR)素子20の三層積層構造の説明図である。
【
図8】半導体スピン注入素子の積層構造の説明図で、(A)は二層構造、(B)は三層構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
なお、範囲を示す『~』の上下限値に関しては、特に別段の表現を用いない限り、境界値を含むものとする。即ち、例えば『〇〇~△△』であれば、〇〇以上△△以下を表している。
実施例のシミュレーションは、密度汎関数理論における有効ポテンシャルによる電子の多重散乱の効果をグリーン関数によって取り入れた第一原理計算手法であるKKR(Koriga-Kohn-Rostker)法を用いて行った。KKR法に関しては、以下の文献に説明があり、本明細書の記載として援用する。
[1] J. Korringa, On the calculation of the energy of a Bloch wave in a metal, Physica 13 (1947) 392-400, doi: 10.1016/0031-8914(47)90013-X.
[2] W. Kohn, N. Rostoker, Solution of the schrodinger equation in periodic lattices with an application to metallic lithium, Phys. Rev. 94 (1954) 1111-1120, doi: 10. 1103/PhysRev.94.1111.
[3] M. Dane, M. Luders, A. Ernst, D. Kodderitzsch, W.M. Temmerman, Z. Szotek, W. Hergert, Self-interaction correction in multiple scattering theory: applica- tion to transition metal oxides, J. Phys. Condens. Matter. 21 (2009) 045604, doi: 10.1088/0953-8984/21/4/045604.
[4] 赤井久純, “ Korringa-Kohn-Rostoker Method”(2000年3月17日), http://kkr.issp.u-tokyo.ac.jp/document/kkrnote.pdf
【0016】
L21構造のフルホイスラー合金A2BCに対してAサイトにCo、BサイトにMnまたはFe、CサイトにAsとAl、AsとGa、SnとAlまたはInとGaを配置させて、その間の組成をCPA(Coherent-Potential-Approximation)法によって一様に混ぜることで電子状態計算を実行した。格子定数はCサイトで原子が混ざっていない組成での格子定数から線形補間によって中間組成での格子定数を決定した。CPA法に関しては、以下の文献に説明があり、本明細書の記載として援用する。
[5] P. Soven, Coherent-Potential Model of Substitutional Disordered Alloys, Phys. Rev. 156, (1967) 809, doi: 10.1103/PhysRev.156.809.
[6] Fumiko Yonezawa, Kazuo Morigaki, “Coherent Potential Approximation. Basic concepts and applications”, Progress of Theoretical Physics Supplement, Volume 53, January 1973, Pages 1-76, doi: 10.1143/PTPS.53.1
CPA法に関しては、東京大学物性研究所を中核機関として実施している「計算物質科学ソフトウェアの開発技術の振興」に関連する、ソフトウェアが以下のホームページに開示されている。
https://ma.issp.u-tokyo.ac.jp/app-category/algorithm11?apo=2&order=ASC
【0017】
また、交換相関項にはLSDA(Local spin density approximation)法を用いた。k点数は第一ブリュアンゾーン内に8000点を考慮した。LSDA法に関しては、以下の文献に説明があり、本明細書の記載として援用する。
[7] J. P. Perdew and Y. Wang, Accurate and simple analytic representation of the electron-gas correlation energy, Phys. Rev. B 45, (1992) 13244, doi: 10.1103/PhysRevB.45.13244.
【0018】
また、有限温度の計算は、DLM(Disordered Local Moment)法を用いて行った。DLM法では古典統計力学に基づいて、各温度で自由エネルギーを最小にする内部磁場をセルフコンシステントに決定し、内部磁場と温度を平均場近似で対応づけることで有限温度での電子構造を決定する。DLM法に関しては、以下の文献に説明があり、本明細書の記載として援用する。
[8] B.L. Gyorffy, A.J. Pindor, J. Staunton, G.M. Stocks, H. Winter, A first-principles theory of ferromagnetic phase transitions in metals, J. Phys. F Met. Phys. 15 (1985) 1337-1386, doi: 10.1088/0305-4608/15/6/018.
[9] M. Lezaic, Ph. Mavropoulos, J. Enkovaara, G. Bihlmayer, S. Blugel, Thermal col- lapse of spin polarization in half-metallic ferromagnets, Phys. Rev. Lett. 97 (2006) 026404, doi: 10.1103/PhysRevLett.97.026404.
[10] J.D. Aldous, C.W. Burrows, A.M. Sanchez, R. Beanland, I. Maskery, M.K. Bradley, M. dos Santos Dias, J.B. Staunton, G.R. Bell, Cubic MnSb, Epitaxial growth of a predicted room temperature half-metal, Phys. Rev. B. 85 (2012) 060403, doi: 10.1103/PhysRevB.85.060403.
【0019】
次に、
図5A~Cを用いて本発明の一実施例におけるシミュレーション手順を説明する。
図5Aは、本発明の一実施例において、ホイスラー合金の結晶構造と材料探索で考慮した元素の種類を説明する図である。
図5Aの結晶構造を持つホイスラー合金は、A
2(B
yB’
1-y)(C
xC'
1-x)(A=Fe、Co、Ru、Rh)、(B、B’=Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Y、Zr、Nb、Mo)、(C、C’=Al、Si、P、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb)である。
【0020】
図5Bは、本発明の一実施例である、機械学習の1つであるベイズ最適化の手順を示す機能ブロック図である。ランダムに選択した初期候補合金50、高スピン偏極材料モデル部52、スピン偏極率演算部54、予測候補合金56を備えている。
ランダムに選択した初期候補合金50としては、
図5Aの結晶構造を持つホイスラー合金A
2(B
yB’
1-y)(C
xC’
1-x)(A=Fe、Co、Ru、Rh)、(B、B’=Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Y、Zr、Nb、Mo)、(C、C’=Al、Si、P、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb)、(y=0.0~1.0、0.2刻み)、(x=0.0~1.0、0.2刻み)を対象としている。候補材料組成の総数は73440個である。
【0021】
高スピン偏極材料モデル部52は、スピン偏極率演算部54で演算対象となる合金組成を一時記憶すると共に、ベイズ最適化によって解析する機能を有する。
スピン偏極率演算部54は、有限温度第一原理計算を用いて、スピン偏極率P
spを演算するもので、例えば次の式を用いている。
【数1】
ここで、Dは状態密度で、↑は多数スピン状態、↓は少数スピン状態を意味する。hは温度Tと対応する内部磁場を示している。
予測候補合金56では、高スピン偏極材料モデル部52の合金組成に対して、スピン偏極率演算部54で予測された合金組成を一時記憶すると共に、高スピン偏極材料モデル部52の合金組成に対してベイズ最適化により、最終的な予測合金組成として記憶している。
【0022】
図5Cは、本発明の一実施例である、スピン偏極率の定義を説明する図で、ワイス場hを示している。
図5Cにおいて、T
cは強磁性転移温度(K)である。温度Tが絶対零度と等しい極低温状態では、各原子のスピンは揃っているので、ワイス場hは高い値を有している。他方、温度Tが強磁性転移温度(K)とほぼ等しい高温状態では、各原子のスピンは区々となっているので、ワイス場hは低い値を有している。温度Tが絶対零度と強磁性転移温度(K)の間の温度領域では、各原子のスピン方向は例えば10°~30°の範囲で大略揃っているものの、厳密には区々の方向となっているので、ワイス場hは中間の値を有している。
【0023】
このように構成された装置においては、高スピン偏極材料モデル部52では、ランダムに選択した初期候補合金50からスピン偏極率演算部54でスピン偏極率Pspを演算して、予測候補合金56に一旦格納する。そして、予測候補合金56を高スピン偏極材料モデル部52に帰還入力して、スピン偏極率演算部54でのスピン偏極率Pspを演算結果が収束するまで、予測候補合金56の合金組成の予測を繰り返す。
具体的なベイズ最適化の演算では、まず、ランダムに初期物質の組成を20個選び、それらの候補材料に対して有限温度第一原理計算を行う。得られた結果をベイズ最適化によって解析することにより、次の候補物質の組成を20個導出する。そして、それらの候補材料に対して同様に有限温度第一原理計算を行う。以上の手順を繰り返すことにより、室温付近でより高いスピン偏極率を有するホイスラー合金を探索する。
【0024】
次の実施例では、磁気抵抗効果を最も反映すると考えられている各原子軌道s軌道およびp軌道(sp)状態に対するフェルミエネルギーでのスピン偏極率Pspを計算し、高スピン偏極材料として有望な材料の判定を行っている。ここでフェルミエネルギーは電子の最高占有準位のエネルギーで、そのエネルギーでの電子構造が実際の電流に寄与する。
【実施例0025】
図1は、有望な材料候補のなかから、特にCo
2Mn
1Al
yAs
1-yのスピン偏極率の温度依存性と状態密度、およびスピン偏極率のエネルギー依存性を示している。組成範囲y=0.10~0.70に対して室温300K付近で75%以上の高いsp状態のスピン偏極率が得られている。