(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178104
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20231207BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231207BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231207BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231207BHJP
H01M 10/0525 20100101ALN20231207BHJP
H01M 10/0587 20100101ALN20231207BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0566
H01M10/0525
H01M10/0587
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091172
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029EJ04
5H029EJ05
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ08
5H029HJ09
5H029HJ12
5H050AA08
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制するとともに、絶縁保護層が正極集電箔から剥離することを抑制ことにある。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とセパレータと、非水電解液を備える。正極板は、正極集電体31と、正極合材層と、正極合材層に隣接するように備えられた絶縁保護層を備える。ここで、絶縁保護層が(絶縁体粒子)/(絶縁体粒子+結着材)の値が75[wt%]以上、かつ85[wt%]以下であり、絶縁保護層の厚さT
Iが3.0[μm]以上、15[μm]以下である。絶縁保護層34の空隙率P
Iが42[%]以上、55[%]以下である。(絶縁保護層の片面厚さT
I)/(正極合材層の厚さT
P)の値が0.12以上、0.80以下とした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質粒子と導電体を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子と結着材とを含む絶縁保護層を備え、
前記絶縁保護層の質量の組成が、(絶縁体粒子)/(絶縁体粒子+結着材)の値が75[wt%]以上、かつ85[wt%]以下であり、
前記絶縁保護層の片面厚さTIが3.0[μm]以上、15[μm]以下であり、
かつ前記絶縁保護層の空隙率PIが42[%]以上、55[%]以下であり、
かつ(絶縁保護層の片面厚さTI)/(正極合材層の片面厚さTP)の値が0.12以上、0.80以下である
ことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記(絶縁保護層の片面厚さTI)/(正極合材層の片面厚さTP)の値が0.12以上、0.60以下であり、
正極合材層の密度DPが2.2[g/cm3]以上、3.0[g/cm3]以下であり、
正極合材層の空隙率PPが30[%]以上、50[%]以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記正極合材層の導電体は、アスペクト比30以上の導電材であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記導電体が、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバからなることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
絶縁保護層の密度DIを1.2[g/cm3]以上、1.6[g/cm3]以下とするとともに、剥離強度を10[N]以上とすることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記正極合材層と前記絶縁保護層とが隣接した境界部において、前記正極合材層が前記絶縁保護層の上に重なっていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記絶縁体粒子がベーマイト、若しくはアルミナからなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質粒子と導電体を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子と結着材とを含む絶縁保護層を備えた非水電解液二次電池の正極板の製造方法において、
絶縁体粒子と結着材と溶媒とを含む絶縁保護ペーストと、正極活物質粒子と導電体と結着材と溶媒とを含む正極合材ペーストとを前記正極集電体の表面に同時に塗工することで、前記正極合材層と、前記正極合材層に隣接する前記絶縁保護層と、前記正極合材層と前記絶縁保護層の重なった境界部とを形成する塗工工程と、
前記正極合材層をプレスする正極合材層プレス工程と、
前記絶縁保護層および前記境界部を同時にプレスする境界部及び絶縁保護層プレス工程とを備えたことを特徴とする非水電解液二次電池の正極板の製造方法。
【請求項9】
前記境界部は、前記正極集電体に前記絶縁保護層が形成され、その上に前記正極合材層が重ねて形成されることを特徴とする請求項8に記載の非水電解液二次電池の正極板の製造方法。
【請求項10】
前記境界部及び絶縁保護層プレス工程は、ローラプレスであって、前記絶縁保護層および前記境界部を押圧するとともに、前記正極合材層は押圧しない半径が異なる段差を有する段差ロールを用いることを特徴とする請求項8に記載の非水電解液二次電池の正極板の製造方法。
【請求項11】
前記境界部及び絶縁保護層プレス工程は、前記正極集電体に張力を付与することで、前記絶縁保護層および前記境界部を前記段差ロールに押し付けることを特徴とする請求項10に記載の非水電解液二次電池の正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法に係り、詳しくはハイレート劣化を抑制する、非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両搭載用の高出力電源等としても好ましく用いられている。このような非水電解液二次電池では、正極と負極とがセパレータ等で絶縁された構成の蓄電要素が、一つの電池ケース内に円柱状または楕円柱状に積層捲回された捲回電極体を備えている。一般的にこのような電極体の正極と負極は、負極合材層の幅方向の寸法が正極合材層の幅方向の寸法よりも広くなるように設計されている。そのため、負極合材層がセパレータを介して金属が露出した正極集電体と対向することになる。この場合、通常ではセパレータがあるため短絡を生じない。しかし、負極における金属の析出や、金属微粉などの侵入によりセパレータを貫通して短絡することで発熱することがある。
【0003】
このような短絡を防止する目的で、例えば特許文献1には、以下のような発明が開示されている。すなわち、正極は正極集電箔と、絶縁材を含む絶縁保護層と、正極活物質を含む正極合材層とを備える。正極板の正極集電箔の少なくとも一方の面において、正極合材層および絶縁保護層が形成された発明が開示されている。
【0004】
このような絶縁保護層を設けることで正極集電体を構成する金属板を絶縁体で被覆し、金属Liが析出したり金属微粉のような異物が侵入したりした場合でも、セパレータを貫通して負極合材層と短絡することを有効に防止することができた。
【0005】
また、特許文献1では、絶縁保護層の被重なり部は正極合材層の重なり部によって覆われているので、絶縁保護層が正極集電箔から剥離することが抑制される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水電解液二次電池では、ハイレートで充放電を行った場合電解質の移動が生じる。このときセル電池内で絶縁保護層に起因して非水電解液が十分に移動できないと非水電解液の濃度にムラが生じる。そして、これを起因とする電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じることがある。しかしながら特許文献1に記載された発明では、このような課題の認識は開示されていない。
【0008】
また、絶縁保護層が正極合材層との重なり部分で正極集電箔からの剥離が抑制されているものの、絶縁保護層自体の剥離を抑制する構成は開示されていない。
本発明の非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法が解決しようとする課題は、絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制するとともに、絶縁保護層が正極集電箔から剥離することを抑制ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池では、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質粒子と導電体を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子と結着材とを含む絶縁保護層を備え、前記絶縁保護層の質量の組成が、(絶縁体粒子)/(絶縁体粒子+結着材)の値が75[wt%]以上、かつ85[wt%]以下であり、前記絶縁保護層の片面厚さTIが3.0[μm]以上、15[μm]以下であり、かつ前記絶縁保護層の空隙率PIが42[%]以上、55[%]以下であり、かつ(絶縁保護層の片面厚さTI)/(正極合材層の片面厚さTP)の値が0.12以上、0.80以下であることを特徴とする。
【0010】
前記(絶縁保護層の片面厚さTI)/(正極合材層の片面厚さTP)の値が0.12以上、0.60以下であり、正極合材層の密度DPが2.2[g/cm3]以上、3.0[g/cm3]以下であり、正極合材層の空隙率PPが30[%]以上、50[%]以下としてもよい。
【0011】
前記正極合材層の導電体は、アスペクト比30以上の導電材であることが望ましく、前記導電体が、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバが好適に利用できる。
絶縁保護層の密度DIを1.2[g/cm3]以上、1.6[g/cm3]以下とするとともに、剥離強度を10[N]以上とすることができる。
【0012】
前記正極合材層と前記絶縁保護層とが隣接した境界部において、前記正極合材層が前記絶縁保護層の上に重なっていることも好ましい。
前記絶縁体粒子はベーマイト、若しくはアルミナを用いることができる。
【0013】
本発明の非水電解液二次電池の正極板の製造方法では、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に備えられ正極活物質粒子と導電体を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子と結着材とを含む絶縁保護層を備えた非水電解液二次電池の正極板の製造方法において、絶縁体粒子と結着材と溶媒とを含む絶縁保護ペーストと、正極活物質粒子と導電体と結着材と溶媒とを含む正極合材ペーストとを前記正極集電体の表面に同時に塗工することで、前記正極合材層と、前記正極合材層に隣接する前記絶縁保護層と、前記正極合材層と前記絶縁保護層の重なった境界部とを形成する塗工工程と、前記正極合材層をプレスする正極合材層プレス工程と、前記絶縁保護層および前記境界部を同時にプレスする境界部及び絶縁保護層プレス工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
前記境界部は、前記正極集電体に前記絶縁保護層が形成され、その上に前記正極合材層が重ねて形成されることが望ましい。
また、前記境界部及び絶縁保護層プレス工程は、ローラプレスであって、前記絶縁保護層および前記境界部を押圧するとともに、前記正極合材層は押圧しない半径が異なる段差を有する段差ロールを用いることができる。
【0015】
前記境界部及び絶縁保護層プレス工程は、前記正極集電体に張力を付与することで、前記絶縁保護層および前記境界部を前記段差ロールに押し付けることで実施してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法によれば、絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制するとともに、絶縁保護層が正極集電体から剥離することを抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図4】
図3において部分Aで示す部分を拡大した本実施形態の塗工工程における正極合材層と絶縁保護層の境界部Bを示す模式図である。
【
図5】本実施形態の正極板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】塗工機のC-C部分から見た断面を含む第1のノズルと第2のノズルを示す模式的な斜視図である。
【
図8】塗工工程(S3)完了後の電極体12の状態を示す模式図である。
【
図9】正極合材層プレス工程(S5)を示す模式図である。
【
図10】境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)を示す模式的な斜視図である。
【
図11】境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)の開始時を示す模式的な断面図である。
【
図12】境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)における作用を示す模式的な断面図である。
【
図16】空隙率P
Iが過大な絶縁保護層が、異物短絡を生じる状態を示す模式図である。
【
図17】本実施形態の空隙率P
Iが小さな絶縁保護層を示す模式図である。
【
図18】空隙率P
Iが過大か、厚さT
Iが薄すぎるため、脱落した絶縁保護層を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本実施形態の概略)
本発明の非水電解液二次電池及び正極板の製造方法を、リチウムイオン二次電池1及びその正極板の製造方法の一実施形態により
図1~18を参照して説明する。
【0019】
<従来の問題点>
図15は、従来技術の電極体12を示す模式図である。従来技術で述べたとおり、
図15に示すように、絶縁保護層34を正極合材層32の両端に隣接するように設けることで微小短絡を抑制することができた。
【0020】
しかしながら、リチウムイオン二次電池1では、ハイレートで充放電を行った場合電解質の移動が生じる。このとき、
図15に示すように従来の構成では絶縁保護層34の厚さT
Iが、正極合材層32の厚さT
Pと同じ厚さである。このような従来の構成では、セル電池内で絶縁保護層34により電解質の移動が妨げられ濃度にムラが生じる。これを起因として電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じるという問題があった。
【0021】
図14は、本実施形態の電極体12を示す模式図である。そこで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の電極体12では、絶縁保護層34の厚さT
Iを正極合材層32の厚さT
Pより薄くすることで、非水電解液13が移動しやすくなっている。
【0022】
<空隙率P[%]>
ここで空隙率P[%]とは、粒子間空隙などの空間を含む量を表す尺度である。空隙率P[%]は、一般に透水係数と比例する関係を有するため、本実施形態では、セル内の電解液13が正極合材層32に流通する効率を示す指標としている。
【0023】
一方、空隙率P[%]は、正極合材層32内の正極活物質粒子32b間の距離の指標ともなる。
空隙率P[%]は、例えば、多孔質試料をぬれ性のいい液体に浸漬し、空隙部を液体で飽和させる液浸法で測定する。また、試料断面の顕微鏡観察を通じ、物質面積および視認可能な空隙の面積を決定する光学法を用いてもよい。さらに、表面張力が強い水銀を微細な小孔に侵入させる外部から圧力の大きさに対する圧入量を測定することで小孔径の分布と空孔容積を求める水銀圧入法などで測定してもよい。
【0024】
<空隙率P[%]のプレス工程における変化>
正極合材層32においては、空隙率P[%]が低下することで、正極合材層32内の正極活物質粒子32b間の距離が小さくなり、導電パスが改善し、電池性能が高まる。
【0025】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では絶縁保護層34もプレスされて圧縮されるため、絶縁保護層34内の絶縁体粒子34b間の距離が小さくなる。そうすると空隙率P[%]が低下する。空隙率P[%]が低下すると、正極合材層32の電解液13の交換の効率が悪くなる。そのため、特にハイレート充放電時に電池内の電解液13の濃度にムラが生じて、これに起因する電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じやすくなるという問題があった。
【0026】
図16は、正極合材層32の厚さT
Pより薄い厚さT
Iに形成した絶縁保護層34としたときに、空隙率P
Iが過大な絶縁保護層34とした場合を示す。
空隙率P
Iが高いときにその強度が低下して異物短絡を生じる状態を示す模式図である。空隙率P
Iが高いほど、電解質の移動は容易になるが、空隙率P
Iが過大になると、例えば鋭利な形状の金属である銅Cuなどが混入した場合に、異物が絶縁保護層34を突き破って短絡を生じてしまうという問題があった。
【0027】
図17は、本実施形態の空隙率P
Iが小さな絶縁保護層34を示す模式図である。本実施形態では、空隙率P
Iが過大にならないようにして、絶縁保護層34の強度を上げている。絶縁保護層34の強度が高いため、たとえ鋭利な形状の金属である銅Cuなどが混入した場合であっても絶縁を保つことができる。
【0028】
さらに上記のように絶縁保護層34の厚さTIを薄くして、かつ空隙率PIの下限を定めた条件で非水電解液13の移動を良好にした。また絶縁保護層34の機械的な強度を高め絶縁性を担保しても、絶縁保護層34が剥離してしまうと問題が生じる。
【0029】
図18は、空隙率P
Iが過大か、絶縁保護層34の厚さT
Iが薄すぎるなどの原因で脱落した絶縁保護層34を示す模式図である。上記のような条件を満たしても、絶縁保護層34が正極集電体31から剥離してしまうと、絶縁保護層34の一部が逆に異物となってしまうという問題があった。そこで、本実施形態では、このような絶縁保護層34が剥離してしまうという問題を解決するため、その条件を定める必要があった。
【0030】
そこで、これらの複数の問題を同時に解決するため、本発明者らは条件を様々に変えて、これらの問題が同時に解決するような構成を多くの実験を通じて解析した。
<本実施形態における具体的な条件>
本発明者らは、実験により下記の数値範囲が、それぞれの目的に対して適切な値であることを見出した。
【0031】
<(絶縁保護層34の片面厚さTI)/(正極合材層32の片面厚さTP)>
ハイレート劣化を防止するため、本実施形態の絶縁保護層34では、絶縁保護層34の片面の厚さTIが15[μm]以下としている。かつ、DI/DPの値が0.12~0.80とすることで、非水電解液13の移動を妨げないように間隙を確保している。DI/DPの値は、0.1~0.6とすることがさらに好ましい。
【0032】
<絶縁保護層34の空隙率PI>
また、ハイレート劣化を防止するため、空隙率PIを55[%]以下として電解質の移動を妨げないようにしている。
【0033】
一方、絶縁保護層34の絶縁性を担保するため、空隙率PIを42[%]以上として、機械的な強度を確保している。
<絶縁保護層34の密度DI>
絶縁保護層34の片面厚さTIを薄くすると異物耐性が低下する。そこで絶縁保護層34の密度DIを1.2[g/cm3]以上としている。
【0034】
一方、電解質の移動を促進するため、絶縁保護層34の密度DIを1.6[g/cm3]以下とした。
<絶縁保護層34の片面厚さTI>
絶縁保護層34の絶縁性を担保することを目的に強度を確保するため、絶縁保護層34の片面厚さTIを3.0[μm]以上とした。
【0035】
<絶縁保護層34の組成>
絶縁保護層34が正極集電体31から剥離することを抑制するため、絶縁保護層34の絶縁保護層34の質量の組成において、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値を85[%]以下とした。このため、十分な結着材34cにより絶縁保護層34が正極集電体31から剥離することを抑制する。
【0036】
一方、絶縁性を担保するため、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値を75[%]以上、とした。このため、硬度が高い絶縁体粒子34bにより、金属製の異物であってもその進入を阻止し十分な絶縁性を担保する。
【0037】
<剥離強度>
絶縁保護層34は、空隙率PIを下げて、また密度DIを上げてそれ自身の強度を高めても、剥離した場合には、絶縁保護層34自体が異物となりうる。そこで、剥離強度を10[N]以上とすることがさらに好ましい。剥離強度をあげるためには、適切な結着材34cの選択や、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値を85[%]以下とすることで達成する。
【0038】
<正極合材層32の密度DP>
正極合材層32の密度DP[g/cm3]は、2.2[g/cm3]以上とすることで、正極活物質粒子32bの密度を高め電池性能を担保する。
【0039】
また、正極合材層32の密度DP[g/cm3]は、3.0[g/cm3]以下とすることで、電解質の移動しやすくしている。
<正極合材層32の空隙率PP>
正極合材層32の空隙率PPが50[%]以下にすることで、正極活物質粒子32bの密度を高め電池性能を担保する。
【0040】
正極合材層32の空隙率PPは、30[%]以上とすることで、電解質の移動しやすくしている。
<アスペクト比>
正極合材層32の空隙率PPの向上のために導電体32cのアスペクト比は30以上が好ましい。ここで「アスペクト比」とは、繊維状の長さと径の比率を合わさす。アスペクト比が30以上であれば、すくない質量でも効果的な導電ネットワークを形成することができるため、正極合材層32への添加量を減らして空隙率PPを高めることができる。このような特性を持った導電体32cとしては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)を用いるとよい。
【0041】
(本実施形態の構成)
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。次に本実施形態のリチウムイオン二次電池1についてその構成を説明する。
【0042】
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、
図1に示されるものに限定されない。
【0043】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0044】
正極板3は、基材となる正極集電体31上に正極合材層32が形成される。
図2に示すように、正極集電体31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極接続部23と反対側)に正極接続部33が設けられている。正極接続部33には、正極合材層32が形成されておらず正極集電体31の金属が露出したものとなっている。
【0045】
また、本実施形態では、正極合材層32の端部と隣接し、負極合材層22と対向した位置に絶縁保護層34を備える。絶縁保護層34は、露出した正極集電体31を被覆するように設けられている。
【0046】
<電極体12の積層構造>
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体12の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。
図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0047】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部33となっている。
【0048】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0049】
また、本実施形態では、正極合材層32の正極接続部33側に隣接して、正極集電体31上に、絶縁保護層34が設けられる。従来のように絶縁保護層34が無い場合は、正極合材層32の正極接続部33側の端部aから正極側は、正極集電体31が露出していた。この場合、端部aから負極合材層22の正極側の端部bまでは、正極集電体31と、負極合材層22とが、セパレータ4を介して対向している。このとき、金属微粉がこの位置に混入したり、負極合材層22で金属Liのデンドライトが成長したりすることがある。これらが、セパレータ4を貫通すると、負極合材層22と正極集電体31とで短絡を生じ、発熱したり、自己放電が生じてしまったりすることがある。そこで、本実施形態では、端部aから、端部bを超えた端部cまで、絶縁保護層34を設けている。この絶縁保護層34により、このような短絡を抑制することができる。
【0050】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSO
3CF
3等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0051】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0052】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0053】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0054】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着材(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32、絶縁保護層34とから構成される。
【0055】
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0056】
まず、正極集電体31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0057】
<正極合材層32>
図4は、本実施形態の塗工工程(S3)における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bを示す、
図3において部分Aで示す部分を拡大した模式図である。
図4を参照して正極合材層32を説明する。正極合材層32は、正極合材ペースト32aを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質粒子32bのほか、導電体32c、結着材32d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0058】
<正極合材ペースト32a>
正極合材ペースト32aは、正極活物質粒子32bのほか、導電体32c、結着材32d及び分散剤等の添加剤に、溶媒32eを添加してペースト状にしたものである。正極合材層32は、
図4に示す塗工工程(S3)で、正極合材ペースト32aが正極集電体31に塗工される。その後乾燥工程(S4)で、乾燥固着される。
図4に示す正極合材ペースト32aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の正極合材層32では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0059】
<正極活物質粒子32bの組成>
正極活物質粒子32bの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0060】
正極活物質粒子32bは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0061】
好ましい一態様において、正極活物質粒子32bは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO2…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示している。しかし、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0062】
<導電体32c>
導電体32cは、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の導電体を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。本実施形態の導電体32cとしては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などの炭素材料を用いることができる。また、アスペクト比は30以上のひも状のものを用いる。
【0063】
<結着材32d>
結着材32dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0064】
<絶縁保護層34の構成>
図2に示すように、正極板3は、正極集電体31上に正極合材層32が形成されるとともに、当該正極合材層32に隣接し、かつ前記正極集電体31上の負極合材層22の端部と対向する位置に絶縁保護層34が形成されている。絶縁保護層34は、絶縁体粒子34bが結着材(バインダ)32dにより分散された状態で固定されている。絶縁保護層34は、絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の表面に、正極合材層32の端部に沿って塗工、乾燥されることで形成される。
【0065】
<絶縁保護ペースト34a>
絶縁保護ペースト34aは、結着材34cに溶媒34dを添加して液状にし、絶縁体粒子34bを分散させたペーストである。また、絶縁体粒子34bがペースト内で均等に分散させるために分散剤を添加している。
【0066】
絶縁保護層34は、
図6に示す塗工工程(S3)で、絶縁保護ペースト34aが正極集電体31に塗工され、乾燥工程(S4)で乾燥固着される。
図5に示す絶縁保護ペースト34aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の絶縁保護層34では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0067】
<絶縁体粒子34b>
絶縁体粒子34bは、負極合材層22と正極集電体31との間に配置して電気的な絶縁を図るものである。高い絶縁性と、異物の進入を阻止する硬度を備えた、例えば金属酸化物を焼成したセラミックスなどが例示できる。具体的には、ベーマイトやアルミナなどの粒子が用いられる。本実施形態では、ベーマイトを用いている。
【0068】
<ベーマイト>
ベーマイトは、水酸化アルミニウム(γ-AlO(OH))鉱物であり、アルミニウム鉱石ボーキサイトの成分である。ガラス質から真珠のような光沢を示し、モース硬度3~3.5、比重3.00~3.07である。絶縁性、耐熱性、硬度が高く、工業的には、耐火性ポリマー用の安価な難燃性添加剤として使用することができる。
【0069】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl2O3・H2Oの化学組成で示され、一般的にアルミナ3水和物を空気中で加熱処理又は水熱処理することにより製造される化学的に安定なアルミナ1水和物である。ベーマイトは、脱水温度が450~530℃と高く、製造条件を調整することにより板状ベーマイト、針状ベーマイト、六角板状ベーマイトなど種々の形状に制御できる。また、製造条件を調整することにより、アスペクト比や粒径の制御ができる。
【0070】
従来より、ベーマイトの製造方法は種々提供されているが、一般的にはボーキサイト由来の原料の水酸化アルミニウムを水熱処理することにより行われている。この製造方法は、水酸化アルミニウムと反応促進剤(金属化合物)に水を加えたスラリーの撹拌混合工程を含む。また、圧力容器により水蒸気雰囲気下で加熱しながら湿式養生する水熱処理工程を含む。さらに、反応生成物の脱水工程、水洗工程、濾過工程、乾燥工程の各工程から成り立っている。
【0071】
<絶縁体粒子34bの粒径>
以上のように、平均粒子径[μm(D50)]が、大きすぎると分散性が悪くなる。一方、小さすぎると凝集を生じてしまう。特に本実施形態では、凝集を生じないように、平均粒子径[μm(D50)]を、1~3[μm]としている。
【0072】
<結着材34c>
結着材34cには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0073】
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極板3及び負極板2の間に非水電解液13を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
【0074】
<正極板3の製造方法>
図5は、本実施形態の正極板3の製造方法を示すフローチャートである。
図5を参照して本実施形態の正極板3の製造方法を説明する。
【0075】
<正極合材ペースト製造工程(S1)>
まず、正極合材ペースト32aを製造する。詳細は既に説明したとおりである。
<絶縁保護ペースト製造工程(S2)>
また、絶縁保護ペースト34aを製造する。これも詳細は既に説明したとおりである。
【0076】
<塗工工程(S3)>
次に、塗工工程(S3)について説明する。塗工工程(S3)は、正極合材ペースト製造工程(S1)で製造した正極合材ペースト32aと、絶縁保護ペースト製造工程(S2)で製造した絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の所定位置に同時塗工する工程である。
【0077】
<塗工機5の構成>
図6は、塗工工程を示す斜視図である。
図7は、塗工機5のC-C部分から見た断面を含む第1のノズル53と第2のノズル55を示す模式的な斜視図である。
図6及び
図7を参照して塗工機5を説明する。
【0078】
図6に示すように、塗工機5は、基台となるステージ57を備えている。ステージ57には、長尺帯状に形成されたAl箔からなる切断前の正極集電体31を搬送するための位置決めのガイド58を備える。正極集電体31は、図示を省略した供給リールから引き出され、搬送手段により、ステージ57上で搬送される。ステージ57の正極集電体31の搬送方向上流側の端部には、搬送方向と直交する向きで、正極集電体31を跨ぐような門型のダイノズル51が設けられる。ダイノズル51は、正極合材ペースト32aを貯留する第1のダイ52を備える。第1のダイ52は、正極合材層32が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第1のダイ52には、正極合材ペースト32aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。また、第2のダイ54は、絶縁保護層34が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第2のダイ54には、絶縁保護ペースト34aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。第1のダイ52と第2のダイ54は、隣接した形で、同一直線状に並べられる。
【0079】
第1のノズル53は、第1のダイ52の下部からステージ57上の正極集電体31の正極合材層32が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第1のダイ52の内圧が高められると、正極合材ペースト32aは、第1のノズル53から正極集電体31の正極合材層32が形成される位置に正極合材ペースト32aを所定量吐出する。
【0080】
第2のノズル55は、第2のダイ54の下部からステージ57上の正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第2のダイ54の内圧が高められると、絶縁保護ペースト34aは、第2のノズル55から正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置に絶縁保護ペースト34aを所定量吐出する。
【0081】
図7に示すように、第1のノズル53と第2のノズル55は、相互に隔離されている。そして、第1のノズル53から吐出された正極合材ペースト32aと、第2のノズル55から吐出された絶縁保護ペースト34aは、吐出直後に相互に密着するように接液する。そして、接液した状態で、正極合材ペースト32aは正極集電体31の正極合材層32が形成される位置で塗工される。また、接液した状態で、絶縁保護ペースト34aは正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置で塗工される。その後、ローラ56により、塗工されて形成された正極合材層32と絶縁保護層34は、それらの表面が整形される。なお、絶縁保護層34は、正極合材層32より薄いため、正極合材層32のみが整形される。
【0082】
<塗工工程(S3)後の電極体12>
図8は、塗工工程(S3)完了後の電極体12の状態を示す。
図8に示すように、正極集電体31の一部に絶縁保護層34が塗工される。そして、正極合材層32は、絶縁保護層34に隣接するように塗工される。このとき、正極合材層32は、その端部において絶縁保護層34の上に重なるように塗工される。この正極合材層32と絶縁保護層34が重なった部分を境界部Bという。ここで、正極合材層32が塗工された厚さを厚さT
Pという。また、絶縁保護層34が塗工された厚さを厚さT
Iという。これらの厚さT
P及び厚さT
Iは、製造工程により変化していく。この段階の正極合材層32の厚さを厚さT
P1とする。
【0083】
この境界部Bにおいては、正極合材層32と絶縁保護層34の境界で気泡が生じやすい。このような気泡は、この部分からの剥離を生じる原因となるため、除去することが望ましい。
【0084】
<乾燥工程(S4)>
上述のとおり塗工工程(S3)後における正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混じり合って混在層Mが生成された状態で乾燥工程(S4)を行う。乾燥工程(S4)により、正極合材層32の溶媒32eは揮発し、ペースト状だった正極合材層32は、固体となり絶縁保護層34と混じり合うことはない。また、絶縁保護層34の溶媒34dも揮発し、ペースト状だった絶縁保護層34は、固体となり、こちらも正極合材層32と混じり合うことはない。この状態で安定する。
【0085】
<正極合材層プレス工程(S5)>
図9は、正極合材層プレス工程(S5)を示す模式図である。乾燥工程(S4)が終了すると、
図8に示す正極合材層32と絶縁保護層34は、既に一定の硬さとなっている。
図8に示す状態から、正極合材層プレス工程(S5)により、図示しないプレス機で所定の厚さの平面に整形する。乾燥工程(S4)後も、絶縁保護層34の厚さT
Iは、正極合材層32の厚さT
Pより薄い。
図9に示すように、正極合材層プレス工程(S5)に用いるプレス機7のプレスロール71は、乾燥工程(S4)後の正極板3の全体をプレスする。このとき、
図8に示すように絶縁保護層34の厚さT
Iは、正極合材層32の厚さT
P1より薄いため、プレスロール71は、正極合材層32の全体に押し付けられてプレスする。このときプレスロール71のギャップは、正極合材層32の厚さT
P1より小さく、絶縁保護層34の厚さT
P2より大きく設定されている。このため、正極合材層プレス工程(S5)では、正極合材層32のみがプレスされる。その結果正極合材層32は、厚さT
P2に揃えられるように平面的に整形される。また、境界部Bにおける絶縁保護層34の一部も正極合材層32とともにプレスされる。
【0086】
一方、それ以外の絶縁保護層34には、プレスロール71からの荷重は掛からない。
<境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)>
図10は、境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)を示す模式的な斜視図である。境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)では、長尺の正極板は、収容されたリール(不図示)から、一定の張力を掛けられて、境界部及び絶縁保護層プレス用のプレス機8の段差ロール81に押し付けられる。
【0087】
図11は、境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)の開始時を示す模式的な断面図である。
図11に示すように、段差ロール81は、最も半径の大きな円柱形の第1面81aと、最も半径の小さな円柱形の第3面81cと、第1面81aと第3面81cを連続する円錐台形の第2面81bを備える。第1面81aは、主に絶縁保護層34に対向する位置にある。第2面は、主に境界部Bに対向する位置にある。第3面は、主に境界部Bを含まない正極合材層32に対向する位置にある。このうち、第3面81cは、正極合材層32とは当接しないように間隔が設けられている。なお、第2面81bと第3面81cの間には、回転軸と直交する面が設けられており、第3面81cが正極合材層32に接触しないように大きな間隙を形成している。
【0088】
つまり、段差ロール81に対して、長尺の正極板3の正極集電体31に張力が掛けられると、正極板3の境界部Bと絶縁保護層34は、張力を掛けられた正極集電体31と段差ロール81との間に挟まれて、境界部B及び絶縁保護層34は、プレスされる。
【0089】
図12は、境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)における作用を示す模式図である。
図12に示すように、正極集電体31に張力を掛けることで、段差ロール81に正極板3が正極集電体31により押し付けられる。そうすると、第1面81aは絶縁保護層34を正極集電体31に密着させる。同時に第2面81bは境界部Bを正極集電体31に密着させる。このため、絶縁保護層34は、第1面81aにより圧縮されて、絶縁保護層34の厚さT
I[μm]が所定の厚さに整えられる。これとともに、空隙率P
I[%]が低下するとともに、密度D
I[g/cm
3]が上昇する。また、境界部Bは、第2面81bにより圧縮されて、正極合材層32の厚さT
P[μm]及び絶縁保護層34の厚さT
I[μm]が所定の厚さに整えられる。これとともに、正極合材層32の空隙率P
P[%]が低下するとともに、密度D
P[g/cm
3]が上昇する。これと同時に、絶縁保護層34の空隙率P
I[%]が低下するとともに、密度D
I[g/cm
3]が上昇する。また、境界部Bの正極合材層32と絶縁保護層34の境界に発生していた気泡36(
図8参照)は、消滅する。
【0090】
この境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)では、図示しない収納用リールに巻き取られていた長尺の正極集電体31に、張力を付与して、段差ロール81に正極板3を押し付けている。
図9に示す正極合材層プレス工程(S6)のように、硬質でフラットなステージ57に載置した正極板3を硬質なプレスロール71を押し付けると、正極板3の表面に凹凸がある場合には、強力にプレスロール71の形状が転写される。一方、境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)では、正極集電体31に、張力を付与して、段差ロール81に正極板3を押し付ける。このとき正極集電体31は、AlやAl合金からなる薄い金属箔であるため、撓みやすくなっている。このため正極板3の表面の正極合材層32や絶縁保護層34の形状に沿って変形し、正極合材層32や絶縁保護層34の全体を均等に段差ロール81に押し付けることができる。
【0091】
以上のような境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)において、そのプレスの強弱を調整することにより、絶縁保護層34の厚さTI[μm]、空隙率PI[%]、密度DI[g/cm3]を調整することができる。また、正極合材層32の厚さTP[μm]、空隙率PP[%]、密度DP[g/cm3]を調整することができる。
【0092】
<切断工程(S7)>
境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)で、厚さ、空隙率、密度が所望の値に調整したら正極合材層32,絶縁保護層34の製造は完成したので、切断工程(S6)で、電極体12に合わせた長さに切断される。これで、正極板3の完成である。
【0093】
<車両用電池パックの製造方法>
このような正極板3の製造方法により正極板3が完成したら、セパレータ4を介して、負極板2と複数段積層し、捲回し電極体12を製造する。その後、電極体12は、電池ケース11の蓋体を介して正極外部端子14、負極外部端子15が装着される。そして、電極体12は、電池ケース11に収容され、蓋体がレーザ溶接などで気密に接合される。乾燥工程を経て、注液工程で、非水電解液13が充填され密封される。その後初充電などのコンディショニング、OCV検査、内部抵抗検査、エージングを経てセル電池が完成する。セル電池は、複数個スタックされて、組電池が構成される。さらに、複数の組電池が電池パックに収容され、充放電などを監視し、制御する制御装置などが装着されて、車載用のリチウムイオン二次電池として完成する。
【0094】
(本実施形態の作用)
<実験例>
図13は、実験例の結果を示す表である。本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、上述したような構成を備える。このように構成した実施例1~4と、比較のために上述したような本実施形態の構成を備えない比較例1~6とを実験して比較した。
【0095】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池1の条件>
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の発明の条件を「基準」として示す。
・絶縁保護層34の厚さTI[μm]は、3~20[μm]である。
【0096】
・絶縁保護層34の空隙率PI[%]は、42[%]以上、55[%]以下である。
・絶縁保護層34の質量の組成[wt%]が、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値が75[wt%]以上、かつ85[wt%]以下である。これは、結着材34cについていえば、(結着材34c)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値が15[wt%]以上、かつ25[wt%]以下である。
【0097】
・(絶縁保護層の片面厚さTI[μm])/(正極合材層の片面厚さTP[μm])の値が0.12以上、0.80以下である。
・抵抗増加率(内部抵抗DC-IR)の増加率1.15以下である。
【0098】
・絶縁保護層34の正極集電体31からの脱落が「無」である。
・異物による短絡が「無」である。
<実施例1>
実施例1は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が3[μm]、空隙率PI[%]が51[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ85[wt%]、15[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.15である。
【0099】
評価結果は、抵抗増加率が基準以下の1.15、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。
<実施例2>
実施例2は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が6[μm]、空隙率PI[%]が55[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ85[wt%]、15[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.2である。
【0100】
評価結果は、抵抗増加率が基準以下の1.10、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。
<実施例3>
実施例3は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が10[μm]、空隙率PI[%]が46[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.4である。
【0101】
評価結果は、抵抗増加率が基準以下の1.10、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。
<実施例4>
実施例4は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が15[μm]、空隙率PI[%]が49[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.8である。
【0102】
評価結果は、抵抗増加率が基準以下の1.13、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。
<比較例1>
比較例1は、絶縁保護層34がない比較例である。
【0103】
評価結果は、抵抗増加率が1.12で、異物短絡は「有」であった。つまり、異物短絡を生じた点に問題があった。
<比較例2>
比較例2は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が2[μm]、空隙率PI[%]が44[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.12である。
【0104】
この例では、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が2[μm]で、基準値の3に満たない。
評価結果は、抵抗増加率が1.10、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「有」であった。つまり、異物短絡を生じた点に問題があった。
【0105】
<比較例3>
比較例3は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が4[μm]、空隙率PI[%]が63[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.12である。
【0106】
この例では、空隙率PI[%]が63[%]で、基準値の60[%]を超えている。
評価結果は、抵抗増加率が1.13、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「有」であった。つまり、異物短絡を生じた点に問題があった。
【0107】
<比較例4>
比較例4は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が4[μm]、空隙率PI[%]が52[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ70[wt%]、30[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.2である。
【0108】
この例では、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ70[wt%]、30[wt%]で、絶縁体粒子34bが基準値の75[wt%]以上に満たなく、結着材34cが基準値の25[wt%]以下を超えている。
【0109】
評価結果は、抵抗増加率が1.13、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「有」であった。つまり、異物短絡を生じた点に問題があった。
<比較例5>
比較例5は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が25[μm]、空隙率PI[%]が42[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.9である。
【0110】
この例では、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が25[μm]で基準値の20[μm]を超えている。また、厚さTI/厚さTPが0.9で、基準値の0.8を超えている。
評価結果は、抵抗増加率が1.38、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。つまり、抵抗増加率が1.38で、基準値の1.15を超えていた点で問題があった。
【0111】
<比較例6>
比較例6は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が30[μm]、空隙率PI[%]が35[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ80[wt%]、20[wt%]、厚さTI/厚さTPが1.2である。
【0112】
この例では、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が30[μm]で基準値の20[μm]を超えている。また、厚さTI/厚さTPが1.2で、基準値の0.8を超えている。
評価結果は、抵抗増加率が1.52、絶縁保護層の脱落は「無」、異物短絡は「無」であった。つまり、抵抗増加率が1.52で、基準値の1.15を超えていた点で問題があった。
【0113】
<比較例7>
比較例7は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が15[μm]、空隙率PI[%]が63[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ85[wt%]、15[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.6である。
【0114】
この例では、空隙率PI[%]が63[%]で、基準値の60を超えている。
評価結果は、抵抗増加率が1.12、絶縁保護層の脱落は「有」、異物短絡は「有」であった。つまり、絶縁保護層の脱落を生じ、異物短絡を生じた点で問題があった。
【0115】
<比較例8>
比較例8は、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が15[μm]、空隙率PI[%]が49[%]、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ90[wt%]、10[wt%]、厚さTI/厚さTPが0.6である。
【0116】
この例では、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ90[wt%]、10[wt%]で、絶縁体粒子34bが基準値の85[wt%]を超えており、結着材34cが基準値の15[wt%]以下に満たない。
【0117】
評価結果は、抵抗増加率が1.12、絶縁保護層の脱落は「有」、異物短絡は「無」であった。つまり、絶縁保護層の脱落を生じた点で問題があった。
<実験例まとめ>
まず、比較例1~4、7から絶縁保護層34は異物短絡の抑制の効果があることがわかる。特に、絶縁保護層34の厚さTI[μm]が3[μm]以上、空隙率PI[%]が55[%]以下、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ85[wt%]以上、15[wt%]以下が条件であることが分かった。
【0118】
また、比較例5、比較例6から、正極合材層32の厚さTP[μm]に対する絶縁保護層34の厚さTI[μm]の比が、0.8以下であることが、抵抗増加率を1.15倍以下に抑制する条件であることが分かった。
【0119】
また、比較例7、比較例8から、絶縁保護層34の脱落を抑制するためには、絶縁保護層34の空隙率PI[%]が55[%]以下で、絶縁体粒子34bと結着材34cの比率が、それぞれ85[wt%]以下、15[wt%]以状が条件であることが分かった。
【0120】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1及び正極板3の製造方法によれば、絶縁保護層34によるハイレート劣化を抑制するとともに、絶縁保護層34が正極集電体31から剥離することを抑制することができるという効果がある。
【0121】
(2)絶縁保護層34の質量の組成が、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値が75[wt%]以上とした。このため、異物に対する絶縁性を担保することができるという効果がある。
【0122】
また、(絶縁体粒子34b)/(絶縁体粒子34b+結着材34c)の値を85[wt%]以下とした。このため、絶縁保護層34の正極集電体31からの剥離を抑制することができるという効果がある。
【0123】
(3)絶縁保護層34の片面厚さTIが3.0[μm]以上とした。このため、異物に対する絶縁性を担保することができるという効果がある。
また、絶縁保護層34の片面厚さTIを15[μm]以下とした。このため、電解質の移動が容易になるという効果がある。
【0124】
(4)絶縁保護層34の空隙率PIが42[%]以上であれば、電解質の移動が容易になるという効果がある。また、絶縁保護層34の空隙率PIが55[%]以下であれば機械的な強度があがり、絶縁保護層34の絶縁性を高め、剥離を抑制することができるという効果がある。
【0125】
(5)(絶縁保護層34の片面厚さTI)/(正極合材層32の片面厚さTP)の値が0.12以上であれば、絶縁保護層34の厚さTIを十分に確保することができるという効果がある。また、(絶縁保護層34の片面厚さTI)/(正極合材層32の片面厚さTP)の値が0.80以下、さらに0.60以下であれば、電解質の移動が容易になるという効果がある。
【0126】
(6)正極合材層の密度DPを2.2[g/cm3]以上とすれば、電池容量を向上させることができるという効果がある。一方、3.0[g/cm3]以下とすれば、電解質の移動を容易にすることができるという効果がある。
【0127】
(7)正極合材層の空隙率PPを30[%]以上とすれば、電解質の移動を容易にすることができるという効果がある。また、正極合材層の空隙率PPを50[%]以下とすれば、電池容量を向上させることができるという効果がある。
【0128】
(8)正極合材層32の導電体32cを、アスペクト比30以上の導電材とすれば、少ない質量で効果的に導電ネットワークを形成することができるという効果がある。
(9)導電体32cを、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバとすれば、高いアスペクト比の導電体32cを得ることができる。
【0129】
(10)絶縁保護層34の密度DIを1.2[g/cm3]以上とすれば、絶縁保護層34の機械強度が高くなり剥離を抑制することができる。また1.6[g/cm3]以下とすれば、電解質の移動を妨げにくい。
【0130】
(11)剥離強度を10[N]以上とすれば、絶縁保護層34が正極集電体31から剥離することを抑制することができる。
(12)正極合材層32と絶縁保護層34とが隣接した境界部Bにおいて、正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なっていれば、効果的に絶縁保護層34が正極集電体31から剥離することを抑制することができる。
【0131】
(13)絶縁体粒子34bをベーマイト、若しくはアルミナとすれば、高い絶縁性と高い機械的な強度を得ることができるという効果がある。
(14)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の製造方法では、塗工工程(S3)により、絶縁保護ペースト34aと、正極合材ペースト32aとを正極集電体31の表面に同時に塗工する。そのため、絶縁保護層34の上に正極合材層32が重なった境界部Bを形成することができる。このため、絶縁保護層34が剥離しにくくなるという効果がある。
【0132】
(15)正極合材層32をプレスする正極合材層プレス工程(S5)と、絶縁保護層34および境界部Bを同時にプレスする境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)とを備えた。そのため、正極合材層32と絶縁保護層34、さらに境界部Bをそれぞれ適正に形成することができる。
【0133】
(16)境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)は、ローラプレスであって、絶縁保護層34および境界部Bを押圧するとともに、正極合材層32は押圧しない半径が異なる段差を有する段差ロール81を用いる。そのため、絶縁保護層34、さらに境界部Bをそれぞれ適正に形成することができる。
【0134】
(17)境界部及び絶縁保護層プレス工程(S6)は、正極集電体31に張力を付与することで、絶縁保護層34および境界部Bを段差ロール81に押し付ける。このため、正極集電体31の可撓性により、絶縁保護層34および境界部Bの形状に合わせて柔軟にかつ適正にプレスを行うことができるという効果がある。
【0135】
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0136】
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0137】
○本実施形態では、正極集電体31の両面に正極合材層32及び絶縁保護層34が形成され、いずれの面でも本実施形態の発明が実施されている。しかしながら、正極集電体31のいずれか一方のみにおいて本実施形態の発明が実施されているような態様でもよい。さらに、正極集電体31の一方のみの面に正極合材層32及び絶縁保護層34が形成されており、その面において本実施形態の発明が実施されている態様でもよい。
【0138】
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず円筒形など他の形状、定置用など他の用途でも実施できる。また、電極体12も扁平の捲回型に限定されず、長方形の板状の電極を積層したものでもよい。また、正極外部端子14や負極外部端子15の形状なども限定されるものではない。
【0139】
○図面は、本実施形態の説明に用いるためのものであり、見やすくするために寸法バランスなどは誇張している場合があるため、これらに限定されるものではない。
○
図5に示すフローチャートは本発明の一例であり、その工程を付加し、削除し、順序を変更し、又は入れ替えて実施することができる。例えば、乾燥工程(S4)を、正極合材層プレス工程(S5)の後で行うような処理でもよい。
【0140】
○各種の数値、範囲は一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○正極合材ペースト32aや絶縁保護ペースト34aの組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
【0141】
○塗工工程(S3)における「同時塗工」とは、厳密に同時でなくても、本発明の課題を解決することができる限り、例えば、第1のノズル53と第2のノズル55が、搬送方向にずれているようなものでもよい。
【0142】
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0143】
W…幅方向(捲回軸方向)
W1…押圧範囲
W2…押圧範囲
A…部分
B…境界部
PI…(絶縁保護層)空隙率[%]
PP…(正極合材層)空隙率[%]
DI…(絶縁保護層)密度[g/cm3]
DP…(正極合材層)密度[g/cm3]
TI…(絶縁保護層)厚さ[μm]
TP…(正極合材層)厚さ[μm]
TP1…(正極合材層)厚さ[μm]
TP2…(正極合材層)厚さ[μm]
1…リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
32a…正極合材ペースト
32b…正極活物質粒子
32c…導電体
32d…結着材
32e…溶媒
33…正極接続部
34…絶縁保護層
34a…絶縁保護ペースト
34b…絶縁体粒子
34c…結着材
34d…溶媒
4…セパレータ
5…塗工機
51…ダイノズル
52…第1のダイ
53…第1のノズル
54…第2のダイ
55…第2のノズル
57…ステージ
58…ガイド
7…(正極合材層プレス工程用)プレス機
71…プレスロール
8…(境界部及び絶縁保護層プレス工程用)プレス機
81…段差ロール