(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178152
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】椅子の背もたれ
(51)【国際特許分類】
A47C 7/40 20060101AFI20231207BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
A47C7/40
B60N2/64
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022099216
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】591110285
【氏名又は名称】田中 永一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 永一郎
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084EA00
3B087DE01
(57)【要約】
【課題】脊柱2を真っすぐに支持することによって腰痛や疲労を軽減した椅子の背もたれを提供する。
【解決手段】両肩甲骨3・3と両腸骨4・4の影響を避けて脊柱2を真っすぐに支持するために、両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面の剛体で支持し、且つ肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で前記支持平面の横幅を左右に広げてなる椅子の背もたれ1
において、図2に示す身長170cm前後の人に適応させた形状を示す寸法を基準とし、その適応範囲をこえる身長においてはその身長差に応じて前記寸法基準を相似的に変更し背中の大きさに適応させた椅子の背もたれ1。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両肩甲骨3・3と両腸骨4・4の影響を避けて脊柱2を真っすぐに支持するために、両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面の剛体で支持し、且つ肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で前記支持平面の横幅を左右に広げてなる椅子の背もたれ1。
【請求項2】
請求項1記載の椅子の背もたれ1を柔軟性のある弾性素材で形成した場合において、その背後に平面の剛体基盤を配置することによって背もたれ1の平面を維持できるようにした請求項1記載の椅子の背もたれ1。
【請求項3】
請求項1および請求項2記載の椅子の背もたれ1を水平方向に回転軸を有する結合部材9で椅子に結合する際に、背もたれ1にかかる寄りかかり力の作用点と、その支持点となる回転軸の位置を一致させ、寄りかかり力により背もたれ1にモーメントが生じないようにした請求項1および請求項2記載の椅子の背もたれ1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は椅子の背もたれに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から着座姿勢における腰痛や疲労の軽減を課題として椅子の背もたれの改善が試みられている。本発明は脊柱を真っすぐに支持することによって前記課題を改善しているが、過去に脊柱を真っすぐに支持すれば前記課題が改善できると言う具体的な提案や示唆的な提案もない。一方で古来より平面に構成された背もたれは数多あるが、それに寄りかかっても脊柱は真っすぐにはならず、また永年にわたるその使用感においても未だに前記課題の改善の余地は残されたままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が改善しようとする課題は着座姿勢における腰痛や疲労の軽減である。その腰痛や疲労の主な要因は着座による骨盤の後傾とそれに誘発される腰椎部分のC字状の曲りにある。更にその腰椎部分の曲りには上体の重さがかかるため座屈が発生し腰椎部分の曲りをより増加させ腰痛を助長する要因にもなっている。また腰椎部分の座屈は腰椎部分をより後方に変位させるように作用するが、一方で背もたれに押さえられるために腰椎部分の支持圧力は増加する。加えて腰椎部分の曲りによる接触面積の減少にもより単位面積当たりの支持圧力は増加し血行不良の要因にもなっている。
【0004】
以上のように脊柱のどこかに曲りが生じると上体の重さによる座屈が発生しそれが腰痛や疲労の要因になる。従って脊柱を真っすぐになるように支持すれば脊柱の座屈は防止できる。しかし脊柱にかかる上体の重さは脊柱のみでなく骨盤を通して臀部で受け止められることになるので、その受け止め経路全体において座屈が発生しないようにする必要がある。従って脊柱との関係において骨盤が後傾しないようにする支持位置も課題になる。
【0005】
従来から背もたれを平面で構成した椅子は数多あるが脊柱は真っすぐには支持されない。その理由は人の背中は平面ではないからである。
図3において説明すると、両肩甲骨3・3部、両腸骨稜4a・4a部および仙骨5の下部は、脊柱起立筋6・6(
図4に示す脊柱2を真っすぐ支持するための部位)よりも後方に出っ張っておりその位置も影響も異なる。そのため単に背中全体を覆う平面な背もたれでは背中を押し当てても脊柱2は真っすぐにはならない。また上体の重さによる骨盤の後傾も防ぐ必要があり、それには仙骨5と腰椎の接続部近辺における腰椎支持が重要になる。その部位は両腸骨4・4間に位置し両腸骨4・4よりもやや凹んだ位置にあるため両腸骨4・4にまたがる平面な背もたれでは隙間が生じ支持されない。それ故にその隙間を埋めるように前記腰椎部分は後方に変位し骨盤の後傾と腰椎の曲りを誘発する。従ってそれを防ぐためには両腸骨4・4間の位置を支持することが必須になる。以上のように脊柱2を真っすぐに支持するためには、脊柱のみでなく骨盤の後傾を防ぐ支持位置も重要になる。
【0006】
また両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面で支えたのみでは脊柱2は真っすぐにはならない。その理由は上体の重心は脊柱2よりも前側にあり且つ腹部には肋骨がなくなるので、腹部近辺の脊柱2には前側に曲がる力が作用していてその部位の支持圧力は他の部位よりも高まる。その結果前記部位の脊柱起立筋6・6は他の部位よりも潰れが多くなり脊柱2は真っすぐには支持されなくなる。従って脊柱起立筋6・6全体にわたってその潰れを均一にする必要があり、それには前記部位に相当する肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で支持面積を左右に広げ潰れを均一にする補整が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段は、脊柱2の両側を縦走する脊柱起立筋6・6よりも背後に突出する部位となる両肩甲骨3・3と両腸骨稜4a・4aを避け、両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面の剛体で支持し、且つ肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で前記支持平面の横幅を左右に広げてなる椅子の背もたれ1が解決手段になる。
【0008】
上記課題を解決するための手段の中で「平面の剛体で支持し」とあるが、その平面の反りによる着座感覚への影響度合を下記に示す。(反りのない平面上に背もたれを置いてその中央部の隙間で計測、背もたれの上下間の寸法は33cmのものを使用)
【0009】
実験によれば凸側の反り(腰椎が前弯する方向)で1mm、反対の凹側の反りで0.5mmまでは反りのない平面と同一の着座感覚である。感覚的に相違が感じられ始めるのが凸側の反りで2mm、凹側の反りで1mmからである。着座感覚は反りの増加と共に連続的に悪化するので妥協点をどこにするかによって改善の程度は変わる。その妥協点は凸側の反りで3mm程度、凹側の反りで1.5mm程度ではないかと考えられる。
【0010】
上記反りの計測は背もたれ1を剛体で製作したもので行ったが、柔軟性のある弾性素材で製作した場合でも脊柱2を真っすぐに支持することは可能である。本発明によれば背もたれ1全面にわたって支持圧力が均一に分布するため、柔軟性のある弾性素材であっても全面が均一に変形し平面が維持されるからである。しかし柔軟性のある弾性素材を使用する場合には背もたれ1全体の反りを防止する目的で背後に平面の剛体基盤を配置する必要がある。
【発明の効果】
【0011】
脊柱2を真っすぐに支持した時の上体に働く重力は、脊柱2方向(脊柱2に沿う方向)にかかる分力と、それとは直角方向で背もたれ1面に垂直にかかる分力に分けて考えることができる。前者の脊柱2方向にかかる分力は脊柱2に座屈を起こすことなく骨盤を通して臀部で受け止められる。その過程で骨盤の後傾は両腸骨4・4間を支持することにより防止できる。一方後者の背もたれ1面に垂直にかかる分力は、背もたれ1全面にわたって均一に分布するので(座屈が生じないことと背もたれ1の面積補整による)脊柱起立筋6・6の潰れを均一化することが可能になった。
【0012】
腰椎部分に無理がかからない自然な形態は骨盤の傾斜に関係している。起立姿勢では骨盤はやや前傾し、腰椎部分は前弯した状態が自然な形態になっている。一方着座する過程では骨盤は大殿筋やハムストリング等によって引っ張られ後傾するために、腰椎部分は骨盤の後傾に応じて前記前弯状態から真っすぐの状態を経て前かがみになるC字状の曲りへと変形する。その骨盤の後傾度合いに応じて形成される姿勢が自然な形態であり、それを変えようとすると筋力や外力を加えなければならない。以上のことから着座姿勢では起立姿勢の時のような前弯した腰椎の状態は自然な形態にはなりえない。従って本発明は前記自然な形態の中で腰椎の曲りが少ない真っすぐな状態での支持を可能にしたことで腰痛と疲労を軽減できるようになった。
【0013】
請求項3の効果は、着座位置が前後に多少ずれても請求項1および請求項2の効果が失われないようにしたものである。着座位置に応じて背もたれ1の角度が変わり背中に密着することにより請求項1および請求項2の効果を維持することができる。一方着座位置を変えることにより背もたれ1の角度も選択することができる。また背もたれ1に寄りかかった時にモーメントが発生しないので、姿勢を変えようとする抗力が発生せず筋力を使わない自然な姿勢を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】 本発明の背もたれを椅子に適用した斜視図である。
【
図2】 本発明の背もたれの形状を示す寸法図である。
【
図3】 本発明の背もたれと背中との位置関係を示す図である。
【
図5】 背中全体を覆う背板のある椅子に本発明の背もたれを適用した斜視図である。
【
図6】 自動車のシートバックに本発明の背もたれを適用した斜視図である。
【
図7】 請求項3の適用例を示す椅子の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の背もたれを椅子に適用した斜視図である。背もたれ1の形状を示す寸法は
図2に示してある。背もたれ1は平面の剛体で形成し横幅を広げた部分は両側で椅子の支柱に固定されている。該横幅を広げた平面部分の機能的役割(支持圧力の補整)は24cm程度までで、それより両外側は椅子の支柱に固定する役割となる。座面と背もたれ1下端との隙間は10cmに設定(170cm前後の身長に適応)してあるが、背もたれ1に上下調節機構を付けて適応範囲を拡げることもできる。本実施例では座面は水平に設定してあり、該座面と背もたれ1の角度は113度に設定してある。材質は木材やプラスチックなど椅子に汎用される素材が適用される。
【0016】
図2は本発明の背もたれの形状を示す寸法図である。身長170cm前後の人に適応させた場合の寸法を下記に示す。
W=30cm
W1=8cm
W2=10cm
W3=13cm
W4=8cm
H=33cm
H1=6cm
H2=13cm
R=4cm
【0017】
図3は本発明の背もたれと背中との位置関係を示す図である。背もたれ1の上部は両肩甲骨3・3の出っ張りの影響を受けない範囲で脊柱起立筋6・6を支持し、下部は両腸骨4・4の影響を受けない範囲で両腸骨4・4間の脊柱起立筋6・6を支持している。肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲は横幅を左右に広げ支持面積を大きくしてある。背もたれ1と両腸骨稜4a・4aとの間にはスペースSを設けてある。
【0018】
図5は背中全体を覆う背板のある椅子に本発明の背もたれを適用した斜視図である。背板1aおよび座部は成形合板(剛体)により一体に形成されている。背板1aは平面に形成されていてその表面に被覆されたウレタンフォームの背もたれ1が形成してある。背もたれ1は背板1aによる肩甲骨3の影響を避けるために20mm程度突出させて形成してある。寄りかかりによりウレタンフォームは潰れるが15mm程度の突出量が残ることが望ましい。
【0019】
図6は自動車のシートバックに本発明の背もたれを適用した斜視図である。シートバック1bと背もたれ1との突出量に関する関係は
図5に示す実施例と同じである。背もたれ1表面の被覆材の背後には厚さ10mm程度のウレタンフォームを配置し、更にその背後を平面の剛体で支持し背もたれ1の平面を維持すると共に、シートバック1bと背もたれ1は同期して前後に弾性的に動くようにバネにより支持されている。
【0020】
図7は請求項3の適用例を示す椅子の中央縦断面図である。背もたれ1は水平方向に回転軸を有する結合部材9によって椅子の支柱7に結合されシーソーのような動きをする。該回転軸の位置は背もたれ1における寄り掛かり力の作用点と一致させてある。なお背もたれ1における作用点の位置は上下間幅の中央近くにある。本実施例では回転軸を背もたれ1の背面に設けてあるが、回転軸を背もたれ1の両側面に設けることもできる。それによって背もたれ1の表面と回転軸の距離を小さくできるので、背もたれ1の振れ角による表面移動量を少なくすることができる。規制板8は背もたれ1の振れ角を規制すると共に両支柱7間の結合強度の補強を兼ねている。背もたれ1の振れ角の範囲は(座面を水平に設定した場合)座面との角度で112度から124度の範囲が感覚的に適当と思われる。
【符号の説明】
【0021】
1 背もたれ
1a 背板
1b シートバック
2 脊柱
3 肩甲骨
4 腸骨
4a 腸骨稜
5 仙骨
S スペース
6 脊柱起立筋
7 支柱
8 規制板
9 結合部材
【手続補正書】
【提出日】2023-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
請求項1記載の椅子の背もたれ1を柔軟性のある弾性素材で形成した場合において、その背後に平面の剛体基盤を配置することによって背もたれ1の平面を維持できるようにした椅子の背もたれ1。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
実験によれば凸側の反り(腰椎が前弯する方向)で1mm、反対の凹側の反りで0.5mmまでは反りのない平面と同一の着座感覚である。感覚的に相違が感じられ始めるのが凸側の反りで2mm、凹側の反りで1mmからである。着座感覚は反りの増加と共に連続的に悪化するので妥協点をどこにするかによって改善の程度は変わる。その妥協点は凸側の反りで3mm程度、凹側の反りで2mm程度ではないかと考えられる。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両肩甲骨3・3と両腸骨4・4の影響を避けて脊柱2を真っすぐに支持するために、両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面の剛体で支持し、且つ肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で前記支持平面の横幅を左右に広げてなる椅子の背もたれ1
において、図2に示す身長170cm前後の人に適応させた形状を示す寸法を基準とし、その適応範囲をこえる身長においてはその身長差に応じて前記寸法基準を相似的に変更し背中の大きさに適応させた椅子の背もたれ1。
【請求項2】
請求項1記載の椅子の背もたれ1を柔軟性のある弾性素材で形成した場合において、少なくとも該背もたれ1の背後全面を覆う範囲に平面の剛体基盤を配置することによって背もたれ1の平面を維持できるようにした椅子の背もたれ1。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は椅子の背もたれに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から着座姿勢における腰痛や疲労の軽減を課題として椅子の背もたれの改善が試みられている。本発明は脊柱を真っすぐに支持することによって前記課題を改善しているが、過去に脊柱を真っすぐに支持すれば前記課題が改善できると言う具体的な提案や示唆的な提案もない。一方で古来より平面に構成された背もたれは数多あるが、それに寄りかかっても脊柱は真っすぐにはならず、また永年にわたるその使用感においても未だに前記課題の改善の余地は残されたままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が改善しようとする課題は着座姿勢における腰痛や疲労の軽減である。その腰痛や疲労の主な要因は着座による骨盤の後傾とそれに誘発される腰椎部分のC字状の曲りにある。更にその腰椎部分の曲りには上体の重さがかかるため座屈が発生し腰椎部分の曲りをより増加させ腰痛を助長する要因にもなっている。また腰椎部分の座屈は腰椎部分をより後方に変位させるように作用するが、一方で背もたれに押さえられるために腰椎部分の支持圧力は増加する。加えて腰椎部分の曲りによる接触面積の減少にもより単位面積当たりの支持圧力は増加し血行不良の要因にもなっている。
【0004】
以上のように脊柱のどこかに曲りが生じると上体の重さによる座屈が発生しそれが腰痛や疲労の要因になる。従って脊柱を真っすぐになるように支持すれば脊柱の座屈は防止できる。しかし脊柱にかかる上体の重さは脊柱のみでなく骨盤を通して臀部で受け止められることになるので、その受け止め経路全体において座屈が発生しないようにする必要がある。従って脊柱との関係において骨盤が後傾しないようにする支持位置も課題になる。
【0005】
従来から背もたれを平面で構成した椅子は数多あるが脊柱は真っすぐには支持されない。その理由は人の背中は平面ではないからである。
図3において説明すると、両肩甲骨3・3部、両腸骨稜4a・4a部および仙骨5の下部は、脊柱起立筋6・6(
図4に示す脊柱2を真っすぐ支持するための部位)よりも後方に出っ張っておりその位置も影響も異なる。そのため単に背中全体を覆う平面な背もたれでは背中を押し当てても脊柱2は真っすぐにはならない。また上体の重さによる骨盤の後傾も防ぐ必要があり、それには仙骨5と腰椎の接続部近辺における腰椎支持が重要になる。その部位は両腸骨4・4間に位置し両腸骨4・4よりもやや凹んだ位置にあるため両腸骨4・4にまたがる平面な背もたれでは隙間が生じ支持されない。それ故にその隙間を埋めるように前記腰椎部分は後方に変位し骨盤の後傾と腰椎の曲りを誘発する。従ってそれを防ぐためには両腸骨4・4間の位置を支持することが必須になる。以上のように脊柱2を真っすぐに支持するためには、脊柱のみでなく骨盤の後傾を防ぐ支持位置も重要になる。
【0006】
また両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面で支えたのみでは脊柱2は真っすぐにはならない。その理由は上体の重心は脊柱2よりも前側にあり且つ腹部には肋骨がなくなるので、腹部近辺の脊柱2には前側に曲がる力が作用していてその部位の支持圧力は他の部位よりも高まる。その結果前記部位の脊柱起立筋6・6は他の部位よりも潰れが多くなり脊柱2は真っすぐには支持されなくなる。従って脊柱起立筋6・6全体にわたってその潰れを均一にする必要があり、それには前記部位に相当する肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で支持面積を左右に広げ潰れを均一にする補整が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段は、脊柱2の両側を縦走する脊柱起立筋6・6よりも背後に突出する部位となる両肩甲骨3・3と両腸骨稜4a・4aを避け、両肩甲骨3・3間から両腸骨4・4間に至る範囲の脊柱起立筋6・6の背後を平面の剛体で支持し、且つ肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲で前記支持平面の横幅を左右に広げてなる椅子の背もたれ1
において、図2に示す身長170cm前後の人に適応させた形状を示す寸法を基準とし、その適応範囲をこえる身長においてはその身長差に応じて前記寸法基準を相似的に変更し背中の大きさに適応させた椅子の背もたれ1が解決手段になる。
【0008】
上記課題を解決するための手段の中で「平面の剛体で支持し」とあるが、その平面の反りによる着座感覚への影響度合を下記に示す。(反りのない平面上に背もたれを置いてその中央部の隙間で計測、背もたれの上下間の寸法は33cmのものを使用)
【0009】
実験によれば凸側の反り(腰椎が前弯する方向)で1mm、反対の凹側の反りで0.5mmまでは反りのない平面と同一の着座感覚である。感覚的に相違が感じられ始めるのが凸側の反りで2mm、凹側の反りで1mmからである。着座感覚は反りの増加と共に連続的に悪化するので妥協点をどこにするかによって改善の程度は変わる。その妥協点は凸側の反りで3mm程度、凹側の反りで1.5mm程度ではないかと考えられる。
【0010】
上記反りの計測は背もたれ1を剛体で製作したもので行ったが、柔軟性のある弾性素材で製作した場合でも脊柱2を真っすぐに支持することは可能である。本発明によれば背もたれ1全面にわたって支持圧力が均一に分布するため、柔軟性のある弾性素材であっても全面が均一に変形し平面が維持されるからである。しかし柔軟性のある弾性素材を使用する場合には背もたれ1全体の反りを防止する目的で背後に平面の剛体基盤を配置する必要がある。
【発明の効果】
【0011】
脊柱2を真っすぐに支持した時の上体に働く重力は、脊柱2方向(脊柱2に沿う方向)にかかる分力と、それとは直角方向で背もたれ1面に垂直にかかる分力に分けて考えることができる。前者の脊柱2方向にかかる分力は脊柱2に座屈を起こすことなく骨盤を通して臀部で受け止められる。その過程で骨盤の後傾は両腸骨4・4間を支持することにより防止できる。一方後者の背もたれ1面に垂直にかかる分力は、背もたれ1全面にわたって均一に分布するので(座屈が生じないことと背もたれ1の面積補整による)脊柱起立筋6・6の潰れを均一化することが可能になった。
【0012】
腰椎部分に無理がかからない自然な形態は骨盤の傾斜に関係している。起立姿勢では骨盤はやや前傾し、腰椎部分は前弯した状態が自然な形態になっている。一方着座する過程では骨盤は大殿筋やハムストリング等によって引っ張られ後傾するために、腰椎部分は骨盤の後傾に応じて前記前弯状態から真っすぐの状態を経て前かがみになるC字状の曲りへと変形する。その骨盤の後傾度合いに応じて形成される姿勢が自然な形態であり、それを変えようとすると筋力や外力を加えなければならない。以上のことから着座姿勢では起立姿勢の時のような前弯した腰椎の状態は自然な形態にはなりえない。従って本発明は前記自然な形態の中で腰椎の曲りが少ない真っすぐな状態での支持を可能にしたことで腰痛と疲労を軽減できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の背もたれを椅子に適用した斜視図である。
【
図2】本発明の背もたれの形状を示す寸法図である。
【
図3】本発明の背もたれと背中との位置関係を示す図である。
【
図5】背中全体を覆う背板のある椅子に本発明の背もたれを適用した斜視図である。
【
図6】自動車のシートバックに本発明の背もたれを適用した斜視図である。
【
図7】
本発明の背もたれにシーソー機能を付加した椅子の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の背もたれを椅子に適用した斜視図である。背もたれ1の形状を示す寸法は
図2に示してある。背もたれ1は平面の剛体で形成し横幅を広げた部分は両側で椅子の支柱に固定されている。該横幅を広げた平面部分の機能的役割(支持圧力の補整)は24cm程度までで、それより両外側は椅子の支柱に固定する役割となる。座面と背もたれ1下端との隙間は10cmに設定(170cm前後の身長に適応)してあるが、背もたれ1に上下調節機構を付けて適応範囲を拡げることもできる。本実施例では座面は水平に設定してあり、該座面と背もたれ1の角度は113度に設定してある。材質は木材やプラスチックなど椅子に汎用される素材が適用される。
【0015】
図2は本発明の背もたれの形状を示す寸法図である。身長170cm前後の人に適応させた場合の寸法を下記に示す。
W=30cm
W1=8cm
W2=10cm
W3=13cm
W4=8cm
H=33cm
H1=6cm
H2=13cm
R=4cm
【0016】
図3は本発明の背もたれと背中との位置関係を示す図である。背もたれ1の上部は両肩甲骨3・3の出っ張りの影響を受けない範囲で脊柱起立筋6・6を支持し、下部は両腸骨4・4の影響を受けない範囲で両腸骨4・4間の脊柱起立筋6・6を支持している。肋骨の下部周辺から両腸骨稜4a・4aに触れない範囲は横幅を左右に広げ支持面積を大きくしてある。背もたれ1と両腸骨稜4a・4aとの間にはスペースSを設けてある。
【0017】
図5は背中全体を覆う背板のある椅子に本発明の背もたれを適用した斜視図である。背板1aおよび座部は成形合板(剛体)により一体に形成されている。背板1aは平面に形成されていてその表面に被覆されたウレタンフォームの背もたれ1が形成してある。背もたれ1は背板1aによる肩甲骨3の影響を避けるために20mm程度突出させて形成してある。寄りかかりによりウレタンフォームは潰れるが15mm程度の突出量が残ることが望ましい。
【0018】
図6は自動車のシートバックに本発明の背もたれを適用した斜視図である。シートバック1bと背もたれ1との突出量に関する関係は
図5に示す実施例と同じである。背もたれ1表面の被覆材の背後には厚さ10mm程度のウレタンフォームを配置し、更にその背後を平面の剛体で支持し背もたれ1の平面を維持すると共に、シートバック1bと背もたれ1は同期して前後に弾性的に動くようにバネにより支持されている。
【0019】
図7は本発明の背もたれ1にシーソー機能を付加した椅子の中央縦断面図である。背もたれ1は水平方向に回転軸を有する結合部材9によって椅子の支柱7に結合されシーソーのような動きをする。
背もたれ1は着座位置に応じて角度が変わるので常に背中を背もたれに密着させることができる。規制板8は背もたれ1の振れ角を規制すると共に両支柱7間の結合強度の補強を兼ねている。
【符号の説明】
【0020】
1 背もたれ
1a 背板
1b シートバック
2 脊柱
3 肩甲骨
4 腸骨
4a 腸骨稜
5 仙骨
S スペース
6 脊柱起立筋
7 支柱
8 規制板
9 結合部材